【儚語】夢見る少女は誰の手に?
●夢見の少女ハヅキ
普段は静かな野生の中。
荒々しい声が、ヤマビコのように轟く。
「どこに行った!」
「探せ、探せ!」
人の寄り付かぬ、深い深い山奥にて。相反する二つの勢力が入り込んでいた。
彼らは世間一般的にこう呼ばれている――隔者達と憤怒者達。
「赤川! 七星剣の犬が、こんなところで何をしている!?」
「あら。目的はお互い同じじゃないかしら、XIの白石さん」
隔者組織・七星剣に協力する、隔者達。
憤怒者組織・XIに与する、憤怒者達。
それぞれの集団のリーダーである赤川と白石は、顔を突き合わせて殺気立つ。
「ちっ! 貴様等の目的も、この山に隠れ住む夢見か!?」
「ご名答。まあ、私達と貴方達では、夢見を求める理由は正反対だろうけどね」
隔者の赤川達は、夢見を組織へ引き入れるために。
憤怒者の白石達は、夢見を抹殺するために。
それぞれ、儚の因子を持つ覚者の情報を嗅ぎつけて来たのだった。
「夢見は渡さないわよ。七星剣に献上すれば、大手柄だし」
「邪魔をするなっ。特殊な力を持つ覚者など、我々の手で抹殺するのみ!」
隔者達と憤怒者達は、武器を構えて激突する。
自然豊かな山中に、争いの騒音が響き渡り――そんな様子を人知れず物陰で見やる、小さな少女がいた。
「……夢で見た通り。お近づきになりたくない人達が、来てしまいましたね」
彼女の名は、夢咲ハヅキ。
静かに隠れ住む夢見だった。
「上手く逃げ切れれば良いのですが。見つからないよう道案内を頼みますね、すねこすりさん」
「きゅ!」
夢見の少女は、山中で仲良くなった古妖の頭を無表情に撫でた。
「新しい夢見に関する事件が起こるよー!」
久方 万里(nCL2000005)が集まった覚者達に説明を始める。
「山奥に隠れ住んでいた夢見、夢咲ハヅキちゃんを隔者と憤怒者が確保しようとしているの。このままじゃ、夢見の子が危ないんだよー!」
隔者達と憤怒者達。
どちらの手に夢見が渡ったとしても、危険なことには変わりない。その前にハヅキと接触し説得した上で、救出を行って欲しいというのが今回の依頼だった。
「ハヅキちゃんを救出する前でも後でも。隔者達や憤怒者達に遭遇すれば、もちろん争いになるだろうし。大変な任務には変わりないけど、お願いね!」
同じ夢見という立場からか、万里は熱心に頼み込む。
現場は他の人間は寄り付かないような山奥。
隔者達の戦力は10人。
憤怒者達の戦力は25人。
ハヅキは土地勘があるので、注意して逃げようとしているが。いつ誰に発見されるか分からない。
「もし、上手く説得して救出することができれば、ハヅキちゃんもFiVEに協力してくれるかもしれないもんねっ。皆の活躍を期待してるね!」
普段は静かな野生の中。
荒々しい声が、ヤマビコのように轟く。
「どこに行った!」
「探せ、探せ!」
人の寄り付かぬ、深い深い山奥にて。相反する二つの勢力が入り込んでいた。
彼らは世間一般的にこう呼ばれている――隔者達と憤怒者達。
「赤川! 七星剣の犬が、こんなところで何をしている!?」
「あら。目的はお互い同じじゃないかしら、XIの白石さん」
隔者組織・七星剣に協力する、隔者達。
憤怒者組織・XIに与する、憤怒者達。
それぞれの集団のリーダーである赤川と白石は、顔を突き合わせて殺気立つ。
「ちっ! 貴様等の目的も、この山に隠れ住む夢見か!?」
「ご名答。まあ、私達と貴方達では、夢見を求める理由は正反対だろうけどね」
隔者の赤川達は、夢見を組織へ引き入れるために。
憤怒者の白石達は、夢見を抹殺するために。
それぞれ、儚の因子を持つ覚者の情報を嗅ぎつけて来たのだった。
「夢見は渡さないわよ。七星剣に献上すれば、大手柄だし」
「邪魔をするなっ。特殊な力を持つ覚者など、我々の手で抹殺するのみ!」
隔者達と憤怒者達は、武器を構えて激突する。
自然豊かな山中に、争いの騒音が響き渡り――そんな様子を人知れず物陰で見やる、小さな少女がいた。
「……夢で見た通り。お近づきになりたくない人達が、来てしまいましたね」
彼女の名は、夢咲ハヅキ。
静かに隠れ住む夢見だった。
「上手く逃げ切れれば良いのですが。見つからないよう道案内を頼みますね、すねこすりさん」
「きゅ!」
夢見の少女は、山中で仲良くなった古妖の頭を無表情に撫でた。
「新しい夢見に関する事件が起こるよー!」
久方 万里(nCL2000005)が集まった覚者達に説明を始める。
「山奥に隠れ住んでいた夢見、夢咲ハヅキちゃんを隔者と憤怒者が確保しようとしているの。このままじゃ、夢見の子が危ないんだよー!」
隔者達と憤怒者達。
どちらの手に夢見が渡ったとしても、危険なことには変わりない。その前にハヅキと接触し説得した上で、救出を行って欲しいというのが今回の依頼だった。
「ハヅキちゃんを救出する前でも後でも。隔者達や憤怒者達に遭遇すれば、もちろん争いになるだろうし。大変な任務には変わりないけど、お願いね!」
同じ夢見という立場からか、万里は熱心に頼み込む。
現場は他の人間は寄り付かないような山奥。
隔者達の戦力は10人。
憤怒者達の戦力は25人。
ハヅキは土地勘があるので、注意して逃げようとしているが。いつ誰に発見されるか分からない。
「もし、上手く説得して救出することができれば、ハヅキちゃんもFiVEに協力してくれるかもしれないもんねっ。皆の活躍を期待してるね!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.夢見の少女ハヅキの救出
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回は夢見の少女に関連する全体シナリオとなります。
●夢見の少女ハヅキ
山奥に隠れ住む夢見の少女。山で仲良くなった、すねこすりの案内で逃げようとしています。隔者と憤怒者に良い感情は、抱いていないようですが、FiVEをすぐに信用してくれるとも限りません。ハヅキは人を良く見ており、説得の方法は色々あります。彼女を連れて山から無事に救出すれば、今回の任務は成功となります。
●隔者側の戦力
リーダーは赤川という女。人数は10人。
個体としての力は、覚者と同程度。
五行全タイプが揃っており、覚者と同じ戦闘方法を行ってきます。
●憤怒者側の戦力
リーダーは白石という男。人数は25人。
一人一人の力は覚者には及びませんが、武装しており油断はできません。
戦斧 :物近単
火炎放射 :特遠貫
ライフル :物遠単
などが主な戦闘方法です。
●山中(現場について)
樹木が生い茂る険しい山。周囲には、他に一般人などはいません。隔者と憤怒者が、ある程度ばらけて山狩りを行っています。開けた場所もあれば、狭い場所もあり。起伏もかなり激しいです。ハヅキの住んでいた小屋が山頂付近にありますが、今はもぬけの殻です。山への備えなど、神具庫に無いもので必要なものがある場合は、装備品以外にも持ち込み可能です。ただし、使用されるかどうかは情況により、あくまで補助的役割となります。必ず使用できるわけではありません。
それでは、よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
10/10
サポート人数
3/4
3/4
公開日
2015年10月06日
2015年10月06日
■メイン参加者 10人■
■サポート参加者 3人■

●初動
「七なんとかに憤怒者。どっちに渡ってもハヅキちゃんの悲惨な未来しか見えないのは千晶ちゃんの気のせい……じゃないよね。F.i.V.E.に来るかどうかはともかく、彼女を助けなきゃね」
京極 千晶(CL2001131)は黒いキャップをかぶる。
「あんまり救助は得意じゃないんだがなあ……仕方あるまい、久々にスイッチ入れよう」
目を閉じて、余計な音は意識の外に追いやって。深呼吸を一つ。
緒形 逝(CL2000156)は、再び目を開けた。
「……では、人民の為の行動を開始しよう。速やかに人民を回収し下山を行う、すねこすりの回収も推奨だ」
「それじゃあ、参りましょうか」
覚者達は、件の山へと入っていた。
今回の作戦は、全員が大別して二つの役割に分かれている。
敵と接敵した場合の足止め班。
夢見の救出を主とする捜索班。
「私はハヅキさんを助ける班です」
賀茂 たまき(CL2000994)は最初に土の心で地形把握を行ってみる。
(ハヅキさんは、何処かでジッとしているのか。それとも山を降りているのでしょうか?)
山に入って捜索する際も土の心をフル活用させて。超視力で僅かな動きも見逃さないように。また、移動はしのびあしを連続使用する。
(太郎丸……少し疲れるかも知れないけどお願いしますね)
覚者達は、お互いのスキルを幾重にもかけ合わせて捜索網を敷いていた。
樹木が生い茂る斜面は急角度な部分も多々あり。地を行く者達はロープを使って移動していく。『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)は、すっぽりと顔も含めた身体全体を包み隠すような毛布に身を包んで動いていた。身長を偽装するように低姿勢で動き、極力、草木の影に隠れる。
(遠目に偽装できりゃいい。効果なくても、それはそれでいいわな)
打てる手は可能な限り打っておく。
打てる手を打たずに、子供――ハヅキを救えない状況なんてのが一番最悪だ。
そのためには体も張るし、命もかける。
足音をできるだけ殺し鋭聴力で戦闘音を避けて動いているのは『笑顔の約束』六道 瑠璃(CL2000092)だ。かぎわけるも併用して、匂いが2つのもの――ハヅキとすねこすりの居場所を判別することを常に意識する。
ひとかたまりになった匂いじゃない。
木々の匂いとも違う、2つの匂い。
隔者達と憤怒者達は、武器を構えて激突しているようで、争う物音がそこかしこから響いている。つまり、情報を組み合わせれば相手の位置が凡そでつかめるということ。
(なるべく近くまで近づいて動く方向とかにあたりがつけられるといいんだけど)
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)は、守護使役のカンタを木々の葉に紛らせるように飛ばして周囲の状況を偵察しながら進む。
(相手にも覚者がいるから、守護使役やスキルなどを使ってくる可能性は低くないし、十分警戒しつつだね)
カンタも先行させるというより頭上からの警戒に使う。
(もちろん、足止め役のこちらがハヅキさんと出会う可能性があるし。そういう意味での周囲観察もしないと。すれ違っちゃ意味がないからね)
空からも探査は行われている。
「ここにきて突然の、夢見が関わる事件の続発、か。何かの前兆とかじゃ無いといいんだけどねぇ。
ま、とりあえずは目の前の子を助け出そうか」
全員で纏まって、ハヅキの住んでいた小屋方面に。
指崎 まこと(CL2000087)が、木々に隠れる程度の高度を取って双眼鏡で周辺確認をする。『瑞光の使徒”エル・モ・ラーラ”』新田・茂良(CL2000146)も、木の上に飛び出さない程度の高度で飛行しつつ周囲を探索した。
「森の濃さや騒音も問題がなさそうね」
『浄火』七十里・夏南(CL2000006)は常に低空飛行。
仲間から指定された方向を、透視を使用して木々を透かし。視界を確保して捜索しながら進む。同じく、透視で視界の邪魔を無くし視界を広くとって捜索の補助。捜索方針や範囲は仲間達に従いながら。『堕ちた正義』アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)は登山靴にロープ、滑落防止のピッケルを使って山を登っていく。その心中は、少々複雑だった。
(夢見の確保ですか。保護と銘打ってはいますが、結局この後、私達に協力願う事を考えると我々も我欲で彼女を求める事は変わらない、か。観たくもない物を見せられ、故に狙われる、夢見という存在も難儀なものです)
草むらや木々に隠れる鳴海 蕾花(CL2001006)も、思うところがあった。
「憤怒者と隔者が群れを成して一人の少女を追い回す。これが今の日本の縮図なんだろうな。隔者と憤怒者の争い……所詮分かり合えないものな、無理ないや」
双眼鏡を覗いた先には二つの勢力。
火炎放射器がうなり。森が焼かれていく様に、過去の記憶が呼び起こされる。
(あたしは火を見るのが嫌いだ。あの日のことを思い出すから。16年過ごしてきた家と家族が燃えていく様を今でも鮮明に覚えている。一時も忘れることが出来なかった。それでまた、その火で全てを焼き払うってのか)
●捜索と襲撃
小屋に対して直線に進む。
山の中腹辺り迄は山に沿って縦に登った。
「夢見はどこだ!」
「探せ、探せ!」
ハヅキの住んでいた小屋に近付くにつれて、敵の気配は多くなっていく。
「ここにも仕掛けを作っておこうか。皆は引っ掛からないように注意してね」
御菓子は、足の引っかかるくらいの高さの木々の間にロープを張る。仲間が誤って足を取られないように注意を促す。
「ま、別に戦わなきゃというわけでないからぶつからずに済むならそれに越したことはないけどね」
中腹に到達後は小屋に向かって螺旋状に捜索を行う。横に展開しながらの行動だ。
(害意・苛立ち・欲望・警戒……憤怒者も隔者も、そんなものばかりさね)
交戦は極力避けにいく方針だ。
予想通り山中の敵性人員数は多い。
逝が感情探査で敵を感知して、大まかな位置を仲間に送心で警告。進行方向は、出来るだけ感情が空白……無人の部分を選ぶ事を心掛ける。まこと達による、上空からの見張りもあり。敵に見つからずに進むことが出来ていた。
「翼人は飛行して探せ!」
「守護使役の偵察を飛ばす。ここは、俺が担当しよう」
隔者達の姿を遠目に認めて、蕾花は皆に物陰に隠れるように示唆する。茂良を始めとして、飛行組も高度を下げた。
(夢見を襲うって何を考えているのかしらね。殺すつもりではないのでしょうけど)
『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は錬覇法を使って待ち受ける。そのうち、守護使役を使って上空から様子を見ている者が一人となった。
「残念ながら、ここ以外に道はないようです」
「どうやら、この周辺の警戒役として残ったみたいだね。動く気配はないかな」
地形を把握しているたまきが首を振り。超直観により千晶は、相手が去る気配がないことを見抜く。ここは一本道で遮蔽物が少ない。避けて通れそうにない。
「憤怒者と隔者の潰し合いを狙って関わらないつもりでしたが、不可避の場合は応じるしかないですね」
アーレスの言葉に、皆が頷く。覚者達は素早く敵の背後から一気に奇襲をかける。
「即座に打倒させてもらう」
「っ!」
一番に肉薄した懐良の飛燕の連撃が飛ぶ。
不意を突かれた相手は、まともに直撃を喰らって悶絶した。
「なっ、お前達は……」
「正義の名の元、あなた達を殺しに来た者かしら?」
夏南も続いて、敵を攻撃する。
(正義狂が殺しに来たとでも思わせれば良いだろう)
夢見を探していることを察知されてないようにとの台詞だったが
邪魔する者を殺すことに、夏南は一切躊躇するつもりはない。夢見に気を許してもらえないかもだが。殺されるよりは、ずっといい。
アーレスは炎系の技や銃を使わず消音を重視。鋭刃脚を見舞う。
離宮院・さよ(CL2000870)は術符で遠距離攻撃。気力はまだ温存しておく。中衛からはエメレンツィアも援護。後衛の茂良はエアブリットを放った。
「この、イレブンや他の連中に負けるわけには……」
「そして七星剣もお出ましってわけか」
蕾花は胸中で言葉を付け加える。
(あんたらは目的のためなら手段は選ばないから。人を道具にしか見いだせない連中にあの子を渡すつもりなんて毛頭ないね)
醒の炎によって、強化された疾風斬りが敵を討ち捨てる。
隔者の身体が後ろへと下がり。倒れる――直前に取り出したのは照明弾だった。
「せ、せめて……」
最後の力を振り絞るように、止める間もなく空へと光と音が打ち上がった。
それは、人を招き寄せる格好の餌だった。
●足止め
「赤川さん、憤怒者共がまた!」
「もっと増援を呼びなさい」
憤怒者と隔者、そして覚者。
一発の照明弾を皮切りに、全ての勢力が入り混じる。
銃弾が四方八方から入り乱れ。隔者側リーダーの指揮の元、波動弾が乱舞する。派手な乱戦は次々と人を巻き込み。今や、誰が誰の相手をしているのか、俄かに判断できぬ状況だった。
「あなた達のリーダーはどこへ行ったのかしら?」
「誰が教えるか! 隔者が!」
敵味方入り乱れるなか、懐良は真っ先に足止め役として動く。
「隔者も憤怒者も間違ってるなんていわねえよ」
――ただ、オレは、オレの望むまま、思うがままでありたいだけだ。
出来るだけ多くの敵を引き付けるように。
陽動に徹する。
「オレは兵法者であり、武人だ。武人の価値は、その武をどう使うか、だ」
閂通しの一撃が、相手を貫通し。
後ろの相手をも吹き飛ばす。研ぎ澄まされた武に、息を呑まぬ敵はなし。
「ここは任せろ。捜索班は捜索の続行を頼んだ」
懐良だけではない。
足止め班の面々が、身体を張って捜索班を先に行かせる。
「参ります」
千晶の空色の刺青が輝く。
強化された肉体で刀を振るい。相手の動きを確認してはブロックして迎撃。醒の炎の効果が切れたら、かけ直してを繰り返す。
「森の中で炎は使えませんしね!」
「ぐっ!」
一閃した剣が、迫る翼人の隔者を斬る――が。倒れた相手には、まだ息がある。
人は基本殺さない。
不殺主義の現れだった。
「凶器準備集合罪って知ってる? 群れているだけで迷惑だから、殺す」
一方、全く手加減するつもりもない者もいる。
醒の炎を使用してからの、夏南の地烈による連撃が数人にまとめて打撃を与える。不動の前衛として敵のブロックを続けた。
その命を軽んじた殺気に、確かに敵は気圧される。
結果的には、それが時間を稼ぐことに繋がった。
「目的は倒すではなく、足止めです。皆さんの回復役としてサポートに徹します」
「三つ巴ね。敵同士をけしかけて、後退かしら」
サポート役の者達も戦線を支える。
さよは癒しの滴と霧を使い分けて、味方を随時回復。状況が変わればすぐ離脱、逃走できるように心構え。エメレンツィアは攻撃に回復、そして憤怒者を隔者に向かうように仕向ける。
(一人じゃないからムリしない、味方がいるからムチャしない)
御菓子は移動しながら引っ張りまわす。
敵が合流しようとするなら、わざとB.O.T.を威嚇するように撃って、注意を引き付ける。
「赤川さん、これは!」
「ブービートラップね、まったく忌々しい」
こちらに来たら、また移動して味方のいる場所から引き離す。
誘導された者達は、予め作っておいた罠に足を取られる。
(大事なのは敵を倒すことでなく、ハヅキさんを救出して脱出する時間を稼ぐこと。だからつかず離れずの距離を保って引っ張りまわす方が自分にとっても安全かつ有益だね)
覚者達の半数は、戦場を離脱して夢見の救出へと動く。
「これで、見た限りはもう飛行可能な者はいないかな?」
これは後のための布石だ。
混戦の中、飛行できる敵を優先的に狙っていたまことは戦場から距離をとる。
(妖に隔者と憤怒者がどうして一斉に夢見を狙ったんだろう。もしかしてF.i.V.E.のこと嗅ぎつけられたんじゃない? )
ハイバランサーで飛び回って、憤怒者の相手を主にしていた蕾花も。ふと疑問に思いながらも、救出組に合流した。そんな中、逝があることに気付く。
「……あちらから、感情が漏れているな。確認を頼む」
促された瑠璃が、鋭聴力で耳を澄ます。
結論は、すぐに出た。
「間違いない。夢見と……憤怒者のリーダーが一緒にいる」
●説得
「ようやく、追い詰めたぞ。夢見!」
「……お久しぶりですね、白石さん」
瑠璃が感じる音と匂いを頼りにし。まことが飛行して場所を最短で確認し。覚者達が、急行した先――開けた空地で、少女は憤怒者数人に囲まれていた。
「隔者の事件で、傷を負った奥さんは……まだ意識不明ですか?」
「黙れ! 未来を見通す化け物が!」
男が少女に、火炎放射器を向け。
覚者達は間一髪、その間に割り込む。
「過去を奪われて掴みとった火の心ならお前らのチャチな武器なんかが効くもんか」
「な!」
蕾花が滑り込むように、ハヅキを庇い。
敵を一喝し炎撃を放つ。
「すねこすりと少女……君が、ハヅキさんで良いのかな?」
まことは鋭い一撃で速攻をしかけて、敵を払うと。
武器をしまい、笑顔を浮かべて少女に対する。
無理に距離を詰めて怯えさせないよう注意しながら、マイナスイオンを利用し声をかけた。
「……お兄さん達は?」
「僕らはそうだね、一応AAAの関係者ってトコ。先日のすねこすりの騒動ってわかるかな、その時に動いてたのが僕らだよ」
「……」
「僕らは君にもその子にも危害を加えるつもりはないし、君を守りたいと思ってる。まあ、急に信じろっていうのは難しいと思うからさ。その子に免じて、って事でここはひとつお願いできないかな」
「きゅ!」
唐突にすねこすりが、たまきへと飛びつく。
古妖は、覚者にじゃれているようだ。
「……悪い人達ではないようですね。良ければ撫でてあげて下さい」
「あ……申し遅れました。私は、賀茂たまきと申します。仲良くして頂けたら嬉しいです」
たまきが、代わりにぬいぐるみを渡すとハヅキはぺこりとお辞儀をした。
(すねこすりさんが逃げるお手伝いをしているという事は、ハヅキさんが動物好きで優しい方だと判っているからなのかも知れませんね)
その間にも戦いは続いている。
「人民、正しいと思った方を取れ。答が何であれ、自分のやる事は変わらないからだ……逃げるのならば、それも良い。ここ以外は害意に溢れているがね」
逝は蔵王で耐久性を上げて、臨戦態勢の構えだ。
戦斧で斬りかかってくる敵を、小手返しで捌く。捌く際には、仲間から遠ざけるように地面に叩き付ける。
「観たくもない物を見せられる夢見の苦痛は多少は存じております。貴女が静かに暮らしたいなら我々は尊重したく思います、ただ貴女を守る為にこの場だけはご協力下さい」
アーレスは、鞭で相手の首を絞め落とし。B.O.T.で敵との距離をとった。ブロックと全力ガードで味方をカバーする。
「くっ、待て! この!」
憤怒者達の呪詛を背にして、覚者達はハヅキと共にその場を離れた。
「ご機嫌ようお姉さん。その子可愛いですよね!」
「……そのぬいぐるみも可愛いですね」
笑顔で安心させるように、保護対象を抱えて飛んでいるのは茂良だ。
「随分落ち着いてるようだけど怖くはないの?」
「……お姉さんこそ、戦いが怖くないんですか?」
「ただ、こんな不条理が気に入らなかったからあたしは戦ってるだけさ。別にあたしはあんたに協力してもらおうなんて考えちゃいない。これからどうするかそれはあんたが決めることだ」
蕾花は正直に、本心を話す。
何とか一旦落ち着くと、改めて瑠璃達は自己紹介をして事情を説明した。
「オレ個人としては、別に協力なんてしてくれなくていいと思ってる」
「……」
「だが、オレ達は何度も人を救ってきた。今回もそれと同じだとオレは思ってる。見知らぬ誰かを救う為に手を貸してほしい。オレがいつか救ってもらったみたいに」
「……」
「夢見の力を隔者には渡したくはない。憤怒者たちに手にかけられるのは人道的に好ましくない。オレ達に欲目があるのは確かだ。それは認める」
説得するにしたって綺麗事じゃダメだ。
感情のナマの部分を見せなくては、信用はされない。
「オレが人を救うのは、正義感や義務感じゃない。それはオレのエゴだ。家族を失ったあの時、オレは誰も救えなかった。だから、誰かを救う人間になりたいんだ」
「……」
ハヅキは瑠璃の目を真っ直ぐに見て。
そして、覚者達一人一人と目を合わせてから――すねこすりを撫でた。
「お別れですね、すねこすりさん」
「きゅ?」
「憤怒者でも隔者でもない。私は夢見として、覚者の言葉を今は信じてみようかと思います」
覚者達は安堵の息をつく。
そうとなれば、早速まことが翼を広げた。
「失礼、ちょっと抱えさせてもらうね」
敵に飛行可能な者は残っていない。
安全確認の後、空中から夢見を連れて一足先に避難する。
「結構大規模に動いちゃってるし、いい加減どちらにも僕らの存在は知れ渡っちゃいそうだよねぇ。面倒な事になりそうだ……あ、何か困ったことがあったらここに連絡してね」
空を行く夢見達の姿は、足止め役の者達にもはっきりと見えていた。
「殿でも勤めて撤収だな」
「ある程度時間を稼いで別方向に逃走、後は敵の動向の注意。殺すのは次の機会ね」
覚者達は、それぞれ無事に撤退していく。
千晶は、心から顔をほころばせた。
「ハヅキちゃん、スネコスリがいっぱいいる森とか知っているかな? 時間ができたら一緒に行きたいな!」
「七なんとかに憤怒者。どっちに渡ってもハヅキちゃんの悲惨な未来しか見えないのは千晶ちゃんの気のせい……じゃないよね。F.i.V.E.に来るかどうかはともかく、彼女を助けなきゃね」
京極 千晶(CL2001131)は黒いキャップをかぶる。
「あんまり救助は得意じゃないんだがなあ……仕方あるまい、久々にスイッチ入れよう」
目を閉じて、余計な音は意識の外に追いやって。深呼吸を一つ。
緒形 逝(CL2000156)は、再び目を開けた。
「……では、人民の為の行動を開始しよう。速やかに人民を回収し下山を行う、すねこすりの回収も推奨だ」
「それじゃあ、参りましょうか」
覚者達は、件の山へと入っていた。
今回の作戦は、全員が大別して二つの役割に分かれている。
敵と接敵した場合の足止め班。
夢見の救出を主とする捜索班。
「私はハヅキさんを助ける班です」
賀茂 たまき(CL2000994)は最初に土の心で地形把握を行ってみる。
(ハヅキさんは、何処かでジッとしているのか。それとも山を降りているのでしょうか?)
山に入って捜索する際も土の心をフル活用させて。超視力で僅かな動きも見逃さないように。また、移動はしのびあしを連続使用する。
(太郎丸……少し疲れるかも知れないけどお願いしますね)
覚者達は、お互いのスキルを幾重にもかけ合わせて捜索網を敷いていた。
樹木が生い茂る斜面は急角度な部分も多々あり。地を行く者達はロープを使って移動していく。『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)は、すっぽりと顔も含めた身体全体を包み隠すような毛布に身を包んで動いていた。身長を偽装するように低姿勢で動き、極力、草木の影に隠れる。
(遠目に偽装できりゃいい。効果なくても、それはそれでいいわな)
打てる手は可能な限り打っておく。
打てる手を打たずに、子供――ハヅキを救えない状況なんてのが一番最悪だ。
そのためには体も張るし、命もかける。
足音をできるだけ殺し鋭聴力で戦闘音を避けて動いているのは『笑顔の約束』六道 瑠璃(CL2000092)だ。かぎわけるも併用して、匂いが2つのもの――ハヅキとすねこすりの居場所を判別することを常に意識する。
ひとかたまりになった匂いじゃない。
木々の匂いとも違う、2つの匂い。
隔者達と憤怒者達は、武器を構えて激突しているようで、争う物音がそこかしこから響いている。つまり、情報を組み合わせれば相手の位置が凡そでつかめるということ。
(なるべく近くまで近づいて動く方向とかにあたりがつけられるといいんだけど)
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)は、守護使役のカンタを木々の葉に紛らせるように飛ばして周囲の状況を偵察しながら進む。
(相手にも覚者がいるから、守護使役やスキルなどを使ってくる可能性は低くないし、十分警戒しつつだね)
カンタも先行させるというより頭上からの警戒に使う。
(もちろん、足止め役のこちらがハヅキさんと出会う可能性があるし。そういう意味での周囲観察もしないと。すれ違っちゃ意味がないからね)
空からも探査は行われている。
「ここにきて突然の、夢見が関わる事件の続発、か。何かの前兆とかじゃ無いといいんだけどねぇ。
ま、とりあえずは目の前の子を助け出そうか」
全員で纏まって、ハヅキの住んでいた小屋方面に。
指崎 まこと(CL2000087)が、木々に隠れる程度の高度を取って双眼鏡で周辺確認をする。『瑞光の使徒”エル・モ・ラーラ”』新田・茂良(CL2000146)も、木の上に飛び出さない程度の高度で飛行しつつ周囲を探索した。
「森の濃さや騒音も問題がなさそうね」
『浄火』七十里・夏南(CL2000006)は常に低空飛行。
仲間から指定された方向を、透視を使用して木々を透かし。視界を確保して捜索しながら進む。同じく、透視で視界の邪魔を無くし視界を広くとって捜索の補助。捜索方針や範囲は仲間達に従いながら。『堕ちた正義』アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)は登山靴にロープ、滑落防止のピッケルを使って山を登っていく。その心中は、少々複雑だった。
(夢見の確保ですか。保護と銘打ってはいますが、結局この後、私達に協力願う事を考えると我々も我欲で彼女を求める事は変わらない、か。観たくもない物を見せられ、故に狙われる、夢見という存在も難儀なものです)
草むらや木々に隠れる鳴海 蕾花(CL2001006)も、思うところがあった。
「憤怒者と隔者が群れを成して一人の少女を追い回す。これが今の日本の縮図なんだろうな。隔者と憤怒者の争い……所詮分かり合えないものな、無理ないや」
双眼鏡を覗いた先には二つの勢力。
火炎放射器がうなり。森が焼かれていく様に、過去の記憶が呼び起こされる。
(あたしは火を見るのが嫌いだ。あの日のことを思い出すから。16年過ごしてきた家と家族が燃えていく様を今でも鮮明に覚えている。一時も忘れることが出来なかった。それでまた、その火で全てを焼き払うってのか)
●捜索と襲撃
小屋に対して直線に進む。
山の中腹辺り迄は山に沿って縦に登った。
「夢見はどこだ!」
「探せ、探せ!」
ハヅキの住んでいた小屋に近付くにつれて、敵の気配は多くなっていく。
「ここにも仕掛けを作っておこうか。皆は引っ掛からないように注意してね」
御菓子は、足の引っかかるくらいの高さの木々の間にロープを張る。仲間が誤って足を取られないように注意を促す。
「ま、別に戦わなきゃというわけでないからぶつからずに済むならそれに越したことはないけどね」
中腹に到達後は小屋に向かって螺旋状に捜索を行う。横に展開しながらの行動だ。
(害意・苛立ち・欲望・警戒……憤怒者も隔者も、そんなものばかりさね)
交戦は極力避けにいく方針だ。
予想通り山中の敵性人員数は多い。
逝が感情探査で敵を感知して、大まかな位置を仲間に送心で警告。進行方向は、出来るだけ感情が空白……無人の部分を選ぶ事を心掛ける。まこと達による、上空からの見張りもあり。敵に見つからずに進むことが出来ていた。
「翼人は飛行して探せ!」
「守護使役の偵察を飛ばす。ここは、俺が担当しよう」
隔者達の姿を遠目に認めて、蕾花は皆に物陰に隠れるように示唆する。茂良を始めとして、飛行組も高度を下げた。
(夢見を襲うって何を考えているのかしらね。殺すつもりではないのでしょうけど)
『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は錬覇法を使って待ち受ける。そのうち、守護使役を使って上空から様子を見ている者が一人となった。
「残念ながら、ここ以外に道はないようです」
「どうやら、この周辺の警戒役として残ったみたいだね。動く気配はないかな」
地形を把握しているたまきが首を振り。超直観により千晶は、相手が去る気配がないことを見抜く。ここは一本道で遮蔽物が少ない。避けて通れそうにない。
「憤怒者と隔者の潰し合いを狙って関わらないつもりでしたが、不可避の場合は応じるしかないですね」
アーレスの言葉に、皆が頷く。覚者達は素早く敵の背後から一気に奇襲をかける。
「即座に打倒させてもらう」
「っ!」
一番に肉薄した懐良の飛燕の連撃が飛ぶ。
不意を突かれた相手は、まともに直撃を喰らって悶絶した。
「なっ、お前達は……」
「正義の名の元、あなた達を殺しに来た者かしら?」
夏南も続いて、敵を攻撃する。
(正義狂が殺しに来たとでも思わせれば良いだろう)
夢見を探していることを察知されてないようにとの台詞だったが
邪魔する者を殺すことに、夏南は一切躊躇するつもりはない。夢見に気を許してもらえないかもだが。殺されるよりは、ずっといい。
アーレスは炎系の技や銃を使わず消音を重視。鋭刃脚を見舞う。
離宮院・さよ(CL2000870)は術符で遠距離攻撃。気力はまだ温存しておく。中衛からはエメレンツィアも援護。後衛の茂良はエアブリットを放った。
「この、イレブンや他の連中に負けるわけには……」
「そして七星剣もお出ましってわけか」
蕾花は胸中で言葉を付け加える。
(あんたらは目的のためなら手段は選ばないから。人を道具にしか見いだせない連中にあの子を渡すつもりなんて毛頭ないね)
醒の炎によって、強化された疾風斬りが敵を討ち捨てる。
隔者の身体が後ろへと下がり。倒れる――直前に取り出したのは照明弾だった。
「せ、せめて……」
最後の力を振り絞るように、止める間もなく空へと光と音が打ち上がった。
それは、人を招き寄せる格好の餌だった。
●足止め
「赤川さん、憤怒者共がまた!」
「もっと増援を呼びなさい」
憤怒者と隔者、そして覚者。
一発の照明弾を皮切りに、全ての勢力が入り混じる。
銃弾が四方八方から入り乱れ。隔者側リーダーの指揮の元、波動弾が乱舞する。派手な乱戦は次々と人を巻き込み。今や、誰が誰の相手をしているのか、俄かに判断できぬ状況だった。
「あなた達のリーダーはどこへ行ったのかしら?」
「誰が教えるか! 隔者が!」
敵味方入り乱れるなか、懐良は真っ先に足止め役として動く。
「隔者も憤怒者も間違ってるなんていわねえよ」
――ただ、オレは、オレの望むまま、思うがままでありたいだけだ。
出来るだけ多くの敵を引き付けるように。
陽動に徹する。
「オレは兵法者であり、武人だ。武人の価値は、その武をどう使うか、だ」
閂通しの一撃が、相手を貫通し。
後ろの相手をも吹き飛ばす。研ぎ澄まされた武に、息を呑まぬ敵はなし。
「ここは任せろ。捜索班は捜索の続行を頼んだ」
懐良だけではない。
足止め班の面々が、身体を張って捜索班を先に行かせる。
「参ります」
千晶の空色の刺青が輝く。
強化された肉体で刀を振るい。相手の動きを確認してはブロックして迎撃。醒の炎の効果が切れたら、かけ直してを繰り返す。
「森の中で炎は使えませんしね!」
「ぐっ!」
一閃した剣が、迫る翼人の隔者を斬る――が。倒れた相手には、まだ息がある。
人は基本殺さない。
不殺主義の現れだった。
「凶器準備集合罪って知ってる? 群れているだけで迷惑だから、殺す」
一方、全く手加減するつもりもない者もいる。
醒の炎を使用してからの、夏南の地烈による連撃が数人にまとめて打撃を与える。不動の前衛として敵のブロックを続けた。
その命を軽んじた殺気に、確かに敵は気圧される。
結果的には、それが時間を稼ぐことに繋がった。
「目的は倒すではなく、足止めです。皆さんの回復役としてサポートに徹します」
「三つ巴ね。敵同士をけしかけて、後退かしら」
サポート役の者達も戦線を支える。
さよは癒しの滴と霧を使い分けて、味方を随時回復。状況が変わればすぐ離脱、逃走できるように心構え。エメレンツィアは攻撃に回復、そして憤怒者を隔者に向かうように仕向ける。
(一人じゃないからムリしない、味方がいるからムチャしない)
御菓子は移動しながら引っ張りまわす。
敵が合流しようとするなら、わざとB.O.T.を威嚇するように撃って、注意を引き付ける。
「赤川さん、これは!」
「ブービートラップね、まったく忌々しい」
こちらに来たら、また移動して味方のいる場所から引き離す。
誘導された者達は、予め作っておいた罠に足を取られる。
(大事なのは敵を倒すことでなく、ハヅキさんを救出して脱出する時間を稼ぐこと。だからつかず離れずの距離を保って引っ張りまわす方が自分にとっても安全かつ有益だね)
覚者達の半数は、戦場を離脱して夢見の救出へと動く。
「これで、見た限りはもう飛行可能な者はいないかな?」
これは後のための布石だ。
混戦の中、飛行できる敵を優先的に狙っていたまことは戦場から距離をとる。
(妖に隔者と憤怒者がどうして一斉に夢見を狙ったんだろう。もしかしてF.i.V.E.のこと嗅ぎつけられたんじゃない? )
ハイバランサーで飛び回って、憤怒者の相手を主にしていた蕾花も。ふと疑問に思いながらも、救出組に合流した。そんな中、逝があることに気付く。
「……あちらから、感情が漏れているな。確認を頼む」
促された瑠璃が、鋭聴力で耳を澄ます。
結論は、すぐに出た。
「間違いない。夢見と……憤怒者のリーダーが一緒にいる」
●説得
「ようやく、追い詰めたぞ。夢見!」
「……お久しぶりですね、白石さん」
瑠璃が感じる音と匂いを頼りにし。まことが飛行して場所を最短で確認し。覚者達が、急行した先――開けた空地で、少女は憤怒者数人に囲まれていた。
「隔者の事件で、傷を負った奥さんは……まだ意識不明ですか?」
「黙れ! 未来を見通す化け物が!」
男が少女に、火炎放射器を向け。
覚者達は間一髪、その間に割り込む。
「過去を奪われて掴みとった火の心ならお前らのチャチな武器なんかが効くもんか」
「な!」
蕾花が滑り込むように、ハヅキを庇い。
敵を一喝し炎撃を放つ。
「すねこすりと少女……君が、ハヅキさんで良いのかな?」
まことは鋭い一撃で速攻をしかけて、敵を払うと。
武器をしまい、笑顔を浮かべて少女に対する。
無理に距離を詰めて怯えさせないよう注意しながら、マイナスイオンを利用し声をかけた。
「……お兄さん達は?」
「僕らはそうだね、一応AAAの関係者ってトコ。先日のすねこすりの騒動ってわかるかな、その時に動いてたのが僕らだよ」
「……」
「僕らは君にもその子にも危害を加えるつもりはないし、君を守りたいと思ってる。まあ、急に信じろっていうのは難しいと思うからさ。その子に免じて、って事でここはひとつお願いできないかな」
「きゅ!」
唐突にすねこすりが、たまきへと飛びつく。
古妖は、覚者にじゃれているようだ。
「……悪い人達ではないようですね。良ければ撫でてあげて下さい」
「あ……申し遅れました。私は、賀茂たまきと申します。仲良くして頂けたら嬉しいです」
たまきが、代わりにぬいぐるみを渡すとハヅキはぺこりとお辞儀をした。
(すねこすりさんが逃げるお手伝いをしているという事は、ハヅキさんが動物好きで優しい方だと判っているからなのかも知れませんね)
その間にも戦いは続いている。
「人民、正しいと思った方を取れ。答が何であれ、自分のやる事は変わらないからだ……逃げるのならば、それも良い。ここ以外は害意に溢れているがね」
逝は蔵王で耐久性を上げて、臨戦態勢の構えだ。
戦斧で斬りかかってくる敵を、小手返しで捌く。捌く際には、仲間から遠ざけるように地面に叩き付ける。
「観たくもない物を見せられる夢見の苦痛は多少は存じております。貴女が静かに暮らしたいなら我々は尊重したく思います、ただ貴女を守る為にこの場だけはご協力下さい」
アーレスは、鞭で相手の首を絞め落とし。B.O.T.で敵との距離をとった。ブロックと全力ガードで味方をカバーする。
「くっ、待て! この!」
憤怒者達の呪詛を背にして、覚者達はハヅキと共にその場を離れた。
「ご機嫌ようお姉さん。その子可愛いですよね!」
「……そのぬいぐるみも可愛いですね」
笑顔で安心させるように、保護対象を抱えて飛んでいるのは茂良だ。
「随分落ち着いてるようだけど怖くはないの?」
「……お姉さんこそ、戦いが怖くないんですか?」
「ただ、こんな不条理が気に入らなかったからあたしは戦ってるだけさ。別にあたしはあんたに協力してもらおうなんて考えちゃいない。これからどうするかそれはあんたが決めることだ」
蕾花は正直に、本心を話す。
何とか一旦落ち着くと、改めて瑠璃達は自己紹介をして事情を説明した。
「オレ個人としては、別に協力なんてしてくれなくていいと思ってる」
「……」
「だが、オレ達は何度も人を救ってきた。今回もそれと同じだとオレは思ってる。見知らぬ誰かを救う為に手を貸してほしい。オレがいつか救ってもらったみたいに」
「……」
「夢見の力を隔者には渡したくはない。憤怒者たちに手にかけられるのは人道的に好ましくない。オレ達に欲目があるのは確かだ。それは認める」
説得するにしたって綺麗事じゃダメだ。
感情のナマの部分を見せなくては、信用はされない。
「オレが人を救うのは、正義感や義務感じゃない。それはオレのエゴだ。家族を失ったあの時、オレは誰も救えなかった。だから、誰かを救う人間になりたいんだ」
「……」
ハヅキは瑠璃の目を真っ直ぐに見て。
そして、覚者達一人一人と目を合わせてから――すねこすりを撫でた。
「お別れですね、すねこすりさん」
「きゅ?」
「憤怒者でも隔者でもない。私は夢見として、覚者の言葉を今は信じてみようかと思います」
覚者達は安堵の息をつく。
そうとなれば、早速まことが翼を広げた。
「失礼、ちょっと抱えさせてもらうね」
敵に飛行可能な者は残っていない。
安全確認の後、空中から夢見を連れて一足先に避難する。
「結構大規模に動いちゃってるし、いい加減どちらにも僕らの存在は知れ渡っちゃいそうだよねぇ。面倒な事になりそうだ……あ、何か困ったことがあったらここに連絡してね」
空を行く夢見達の姿は、足止め役の者達にもはっきりと見えていた。
「殿でも勤めて撤収だな」
「ある程度時間を稼いで別方向に逃走、後は敵の動向の注意。殺すのは次の機会ね」
覚者達は、それぞれ無事に撤退していく。
千晶は、心から顔をほころばせた。
「ハヅキちゃん、スネコスリがいっぱいいる森とか知っているかな? 時間ができたら一緒に行きたいな!」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
