カラテ・オブ・ゴッド 心あるものは前を見よ
●世に空手より勝る術なし
突いた拳が風を切り、空を割いて雲を穿つ。
天空にあいた雲の穴を見て、金髪の少女はニッと笑った。
「シショー! 『空穿』、できるようになったヨ! もうメンキョ・カイデン?」
「まだじゃキャノピー」
横で同じように突きを繰り返す老人。
長い白髭とふっさりとした眉。それに隠れた両目ゆえ、感情はおろか表情すら分からない。しかし……。
約一万フィートの深さをもつオーウェンズバレー。その切り立った針山の先端で型練習をしているところから、常人ではありえなかった。
技術、体力、そして度胸と覚悟がその壮絶な光景を実現しているのだ。
むろん隣で全く同じ練習を繰り返す少女キャノピーもまた、同じ資質を備えているのだが……。
型練習を終え、深呼吸をする老人。
「おぬしは充分に鍛えた。心技体は極めたといってよい。しかし……魂だけが足りて折らぬ」
「タマーシ?」
「然様」
髭をつまむように撫で、老人は言った。
「ジャパンへゆけ。おぬしの魂が見つかるじゃろう」
――それから5年。2017年東京でのこと。
「ヘイ! ヤンキーマン、ショーブショーブ!」
二本指をくいくいとやって挑発するポニーテイルの金髪空手少女、キャノピー。
相手は折りたたみナイフを展開すると、罵声を浴びせながら斬りかかった。
「フミコミが甘いヨ!」
が、突きを繰り出すテンポに合わせて胴回し蹴り。相手のナイフだけを撥ね飛ばし……たつもりが手首をポッキリやっていた。
「ひい! ばけもんだ!」
手首をおさえて逃げ出す若い不良たち。
キャノピーは足を振り上げたまま不満げに鼻息を吐いた。
これまで日本でやってきたショーブの数は100戦を超える。だというのに、シショーに言われたタマーシの意味が全く理解出来なかった。
「ワザも沢山覚えたよ? ハツゲンもできたし、ジュツシキも覚えたのに……何が足りないんだろ?」
「見つけたぜクソガキ」
背後から聞こえる、殺意ある声。直後に飛んできた鉄の鎖が彼女の首に巻き付いた。あまりに強固に、そしてほどけないほど強引に。
黒いコートに金髪、サングラス。夏場だというのに怪しい格好をした男は、苦しげに呻くキャノピーを引っ張ると顔を寄せた。
「師匠がテメーによこしたモンがあるだろ。よこせ」
「し、しらないヨ――がハッ!」
背骨を折らんばかりに蹴りつけられる。
「俺を破門しくさったクソ師匠だけどよ、最終奥義だけは欲しいんだわ。そのヒントをテメーが持ってるんだろ? メモでも本でもなんでもいいけどよ、さっさと出せや」
「しらないったら、しらないヨ。だってタマーシがないと、オーギはつかえないって――ぐウッ!」
抵抗しようとするキャノピー。しかし鎖に流された強烈な電流に悲鳴をあげることしかできない。
「クソな御託はどーでもいいんだよ。技さえよこせば命はとらねえからよ、さっさとよこせ、オラ!」
「ソンナ……」
空手少女キャノピー。
シショーの教えを守りタマーシのありかを探し求める彼女の旅はここで潰えてしまうのか。
終わってしまうのか。
否――。
●魂とは何か
「俺たちが終わらせねえ!」
久方 相馬(nCL2000004)は拳を握って、そう説明を区切った。
彼の予知夢によれば、日本に空手修行に来ている少女が悪党の魔の手に落ちようとしているというのだ。
悪党というのは『ブラックハンド』というカラーギャング。そのリーダーである。
彼はあるひ東京に現われ、たちまち周囲のカラーギャングを倒し自らの参加に入れてしまった、伝説的な男といわれている。
「キャノピーは裏路地で襲われている。それを止めるなら、リーダーとその部下にあたるカラーギャングたちを敵にまわすことになるだろう。選りすぐりの精鋭たちで、皆発現者だ。気をつけて戦ってくれ!」
突いた拳が風を切り、空を割いて雲を穿つ。
天空にあいた雲の穴を見て、金髪の少女はニッと笑った。
「シショー! 『空穿』、できるようになったヨ! もうメンキョ・カイデン?」
「まだじゃキャノピー」
横で同じように突きを繰り返す老人。
長い白髭とふっさりとした眉。それに隠れた両目ゆえ、感情はおろか表情すら分からない。しかし……。
約一万フィートの深さをもつオーウェンズバレー。その切り立った針山の先端で型練習をしているところから、常人ではありえなかった。
技術、体力、そして度胸と覚悟がその壮絶な光景を実現しているのだ。
むろん隣で全く同じ練習を繰り返す少女キャノピーもまた、同じ資質を備えているのだが……。
型練習を終え、深呼吸をする老人。
「おぬしは充分に鍛えた。心技体は極めたといってよい。しかし……魂だけが足りて折らぬ」
「タマーシ?」
「然様」
髭をつまむように撫で、老人は言った。
「ジャパンへゆけ。おぬしの魂が見つかるじゃろう」
――それから5年。2017年東京でのこと。
「ヘイ! ヤンキーマン、ショーブショーブ!」
二本指をくいくいとやって挑発するポニーテイルの金髪空手少女、キャノピー。
相手は折りたたみナイフを展開すると、罵声を浴びせながら斬りかかった。
「フミコミが甘いヨ!」
が、突きを繰り出すテンポに合わせて胴回し蹴り。相手のナイフだけを撥ね飛ばし……たつもりが手首をポッキリやっていた。
「ひい! ばけもんだ!」
手首をおさえて逃げ出す若い不良たち。
キャノピーは足を振り上げたまま不満げに鼻息を吐いた。
これまで日本でやってきたショーブの数は100戦を超える。だというのに、シショーに言われたタマーシの意味が全く理解出来なかった。
「ワザも沢山覚えたよ? ハツゲンもできたし、ジュツシキも覚えたのに……何が足りないんだろ?」
「見つけたぜクソガキ」
背後から聞こえる、殺意ある声。直後に飛んできた鉄の鎖が彼女の首に巻き付いた。あまりに強固に、そしてほどけないほど強引に。
黒いコートに金髪、サングラス。夏場だというのに怪しい格好をした男は、苦しげに呻くキャノピーを引っ張ると顔を寄せた。
「師匠がテメーによこしたモンがあるだろ。よこせ」
「し、しらないヨ――がハッ!」
背骨を折らんばかりに蹴りつけられる。
「俺を破門しくさったクソ師匠だけどよ、最終奥義だけは欲しいんだわ。そのヒントをテメーが持ってるんだろ? メモでも本でもなんでもいいけどよ、さっさと出せや」
「しらないったら、しらないヨ。だってタマーシがないと、オーギはつかえないって――ぐウッ!」
抵抗しようとするキャノピー。しかし鎖に流された強烈な電流に悲鳴をあげることしかできない。
「クソな御託はどーでもいいんだよ。技さえよこせば命はとらねえからよ、さっさとよこせ、オラ!」
「ソンナ……」
空手少女キャノピー。
シショーの教えを守りタマーシのありかを探し求める彼女の旅はここで潰えてしまうのか。
終わってしまうのか。
否――。
●魂とは何か
「俺たちが終わらせねえ!」
久方 相馬(nCL2000004)は拳を握って、そう説明を区切った。
彼の予知夢によれば、日本に空手修行に来ている少女が悪党の魔の手に落ちようとしているというのだ。
悪党というのは『ブラックハンド』というカラーギャング。そのリーダーである。
彼はあるひ東京に現われ、たちまち周囲のカラーギャングを倒し自らの参加に入れてしまった、伝説的な男といわれている。
「キャノピーは裏路地で襲われている。それを止めるなら、リーダーとその部下にあたるカラーギャングたちを敵にまわすことになるだろう。選りすぐりの精鋭たちで、皆発現者だ。気をつけて戦ってくれ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.キャノピーの無事
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●シチュエーション
空手少女がカラーギャングに襲われています。
どうやらリーダーとは顔見知りで、かつての同門であったようです。
このままでは少女が無残なめにあってしまうでしょう。
●エネミーデータ
敵戦力ブラックハンドのリーダーとその幹部チーム、合計11名です。
リーダーは天行彩。
幹部は因子バラバラですがそれぞれ
攻撃力の高い火行が2名、防御力の高い土行が2名、自然治癒アップとBS攻撃が豊富な木行が2名、回復が得意な水行が2名、サポートタイプの天行が2名です。
●補足データ
・キャノピー
アメリカのカルフォルニア州からやってきた空手少女です。
ジェット突き(正鍛拳)やハリケーンキック(地烈)など絶対それ空手じゃないなっていう技ばかり使いますが、どうも根本にはちゃんとした空手の一流派が根付いているようです。
余談ではありますが、かつて地下闘技場のアリーナ化に際して協力してくれた少女ファイターでもあります。この件は別に知らなくても問題ありません。
・ブラックハンド
『黒塗りの七日間』と呼ばれる伝説の抗争劇を経ていくつかのカラーギャングを配下に納めたカラーギャングです。最初はリーダーひとりから始まったとされ、その求心力もリーダーに集中しています。
一握りの発現者と多くの一般人で構成され、今回戦うのは発現者ばかりです。
とはいっても、経験豊富なファイヴの覚者と比べてかなり見劣りする戦闘力です。
・ブラックハンドのリーダー
今のところ名前も分かりませんが、天行彩であることは確かっぽいです。
要するに敵を弱らせて複数を一気に叩く戦法が得意ってことですね。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年07月31日
2017年07月31日
■メイン参加者 8人■

●人類という獣
カラテ。
その源流には諸説あるが、19世紀中頃にて沖縄に伝わる『手(ティー)』という武術が武術でなかった頃の手法から始まったという説が有力である。
それがひとつの武術として認識され、明治時代に『唐手(トゥーディー)』として本土へ流入。カラテと名を変えた。
しかし古来より存在する様々な武術に埋もれ、明治大正と失伝の危機を幾度も迎えたが、八人の達人たちによってその危機を逃れ……やがては中国武術や古武術を複合させ一つの永久武道として完成したものが空手道。昭倭初期の伝説である。
●キャノピーとブラックハンド
「キャノピー? 闘技場ンときのあいつか!」
プロテクターを拳や足に巻き付けながら、『エビルハンド』鹿ノ島・遥(CL2000227)はぎらりと目を光らせた。
「確か、直接戦ったのはきせきだったよな」
「うん! すごく楽しそうに戦う子だったよ!」
かつての、ちょっとかわった思い出を回想しながら瞑目する『新緑の剣士』御影・きせき(CL2001110)。
「なるほど、知ってる人がピンチなのか。なら助けない手はないね!」
刀を鞘にがちんと納める『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。
「キャノピーさんの想いも行ないも……」
丸めた大護符をリュックサックに差し込む賀茂 たまき(CL2000994)。
「それはそれとて、いたいけな少女を我欲のために虐げるなんて、ブラックハンドの連中は男の風上にもおけません! ぶん殴ってやりますわ!」
『獅子心王女<ライオンハート>』獅子神・伊織(CL2001603)がばしんと自らの拳をキャッチした。
「うっすお疲れっすクソ上司。なんすかゴミ拾いっすか」
「いいからさっさと働いて」
「ハッハー、砂漠でラクダに逃げられてー」
「ハッハッハー」
二人してかたかたと笑うヘルメットの二人組。緒形 逝(CL2000156)に緒形 譟(CL2001610)。
……と、まるで七人立ち止まっているかのように描いているが。
「はあ、はあ……皆さん走るの速すぎます……」
まるでブレることなく全力疾走する人たちの後ろを、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)がぜえぜえ言いながら追いかけていた。
「私がおかしいんですか? みんなこれが普通? だ、だとしたら頑張らないと……!」
ラーラは走りながら無理矢理息を整え、遥たちの全力ダッシュに追いついた。
時は流れ所は変わり。
「グぅ……」
鎖に首を絞められ、苦しげに呻く金髪の空手少女キャノピー。
ブラックハンドのメンバーたちがニヤニヤと笑いながら彼女を取り囲んでいく。
リーダーの男は舌打ちすると、鋭く拳を翳した。
「喋らねえならイイわ。喋りたくなるまで吊るしてやるよ」
顔面へ迫る拳。
その瞬間、激しい雷鳴と光が辺りを暴れ回った。
びくりと動きを止め、振り返るリーダー。
「……邪魔が入りやがった」
彼の呟きから全てを察した部下たちが、間を塞ぐように並んだ。
対するは……。
「そこまで、『両者離れて仕切り直し』だ! でなきゃぶん殴る!」
強固な構えで拳を突き出す遥。
有無を言わさずバタフライナイフを使って斬りかかる部下――の突きを紙一重でかわすと、身体を反転。肘を相手の顔面に叩き込んだ。
鼻から血を吹きのけぞる部下。その上を、別の部下が翼を生やした飛翔で飛び越えてくる。
「たまきちゃん!」
「大丈夫ですっ」
見上げて叫ぶ奏空に応じて、たまきは手のひらよりも大きな護符を地面にべしんと叩き付けた。
大地と即座に融合する護符。隆起するように陰陽陣が浮き出ると、発光と共に土の竜が飛び出した。
飛び上がった部下に突き刺さり、すぐさま墜落させた。
「なんだテメェ、余計なお世話なんだよ。関係ねーやつはすっこんでろよ!」
「関係はない。けど、すっこまない!」
刀を抜き、目をぎらりと光らせる奏空。
「余計なお世話は、俺の趣味だ!」
「いや、おっさんは別にそういうんじゃあないよ?」
スタンロッドで奏空に殴りかかろうとする部下を、逝が即座に割り込んで転倒させた。
刀を突き立て、こきりと首を慣らす。
「んー……よろしくない」
「クソ上司ー、そいつらゴミ箱に叩き込むんで畳みやがれください」
「しかたないなあ。可愛い部下のために畳んでやるかね」
段ボールでもゴミに出すかのような気軽さで襲いかかる逝。
一方で譟はスコップ片手に逝にちょくちょく指示を出していた。
「ンだてめえら、くらえや!」
部下の一人がグレネードを投擲してきた。逝の眼前で破裂し、毒性のガスが広がる。
「部下ー、中和剤」
「オレは中和剤じゃないっすクソ上司ー」
懐から農薬でも入っていそうな茶色い小瓶を取り出すと、伸びたワイヤーに火をつけて投げた。空中で破裂し、毒ガスの成分を素早く中和していく。
「なんだこいつら、ただのガキじゃねえのか?」
「弱そうな奴からコロせばいいんだよ」
鉄パイプを持った部下と木刀をもった部下がそれぞれ伊織に襲いかかってきた。
「おら、泣けよ!」
顔面を狙って繰り出された鉄パイプ――を、伊織は避けなかった。
どころか額で打撃を受けている。
だというのに、鉄パイプのほうがぐにゃりと拉げていた。
「アイドルは顔が命。その顔を傷付けること、何人たりともかないませんわ!」
突き上げるように繰り出した蹴りが相手の顎を正確にとらえ、上空三メートルの高さまで垂直発射させた。
「て、てめぇ」
乱暴に振り込まれた木刀も、もはや伊織の脅威ではない。繰り出した手刀によってぽっきりと途中でへし折れた。
「力を求める姿勢は否定しませんわ。ですがあなたがたには信念が足りない。我欲だけで強くなろうなど、笑止千万!」
呆然と立ち尽くす相手に、伊織はどこからともなく取り出したエレキギターをフルスイング。相手はピンボールのように飛び、壁を跳ね返って地面を転がった。
「我が剛毅の信念により、あなたがたをぶん殴りますわ!」
「こんな裏路地で女の子を取り囲むなんて恥ずかしくないんですか!」
戦力差におびえた部下たちを前に、ラーラはすかさず魔方陣を展開。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
頭上に生まれた八角形の魔方陣に無数の対角線が走り、生まれたグリッド全てから火炎弾が発射された。
ラーラの猛攻から逃れるべく、キャノピーを手放して飛び退くリーダー。
きせきは急いでキャノピーのそばへ駆け寄ると、咳き込む彼女を抱え上げた。
「大丈夫? キャノピーちゃん!」
「あ、あなたは……シルベチ、カ?」
きせきの格好を上から下まで見てから。
「なんで男の子の格好してるの? シュミ?」
「こっちが本当の僕だよ! あの時は事情があって正体を隠してたんだ。ほら、あの人がエビルハンドだよ」
「ドゲドウのエビルハンド?」
「ダイレクトに傷つく!」
拳を振り切った姿勢のまま、遥がぎゅっと目を瞑った。
「まーつもる話は後回しだ。こいつ知り合いか? 一緒にぶっ飛ばそうぜ!」
「……オーケー!」
キャノピーはぴょんと飛び起きると、奇妙な構えをとった。
「シキリナオシだよクロヌエ! カモン、レッツエンジョイ!」
「てめえら。俺をキレさせたな」
ブラックハンドのリーダー、クロヌエ。
クロヌエは舌打ちすると、鎖をぐるぐると回し始めた。
「全員這いつくばらせてやるよ!」
●クロヌエ キバ
遥や伊織より格下とはいえ覚者をトップに据えたカラーギャングたちを力だけでまとめるだけのことはある。
企業買収のようなもので、非道外道も強い力さえあればごり押しで支配することができるのだ。
だがそれは……。
「それは、『想い』なき力です。想いの力が人の心を打って、多くの人々が動きます。私は、それを知っています」
たまきがリュックサックから取り出したのは白い封筒に入った無数の護符だった。ある集団に所属する九つの神社からそれぞれ頂いた札が扇状に開き、それぞれが意志をもったかのように空へ飛び上がった。
「純粋であればあるだけ想いは力を増して、心に響きます。そしてこれが、私の想いです……!」
護符が生み出したエネルギーが巨人の幻影となり、たまきの動きとリンクした。
拳を握って、突きだしてみせるたまき。
リンクした巨人が拳を繰り出し、恐れおののく部下たちを一斉に蹴散らしていった。
「キャノピーさん、あなたの想いは?」
「ワタシの、オモイ……」
自らの手のひらを見下ろすキャノピー。
その一方で、たまきの幻影をはねのけてクロヌエが突っ込んできた。
「ガタガタうるせえんだよ! てめえは黙って奥義をよこしやがれ!」
クロヌエの放った鎖がウミヘビのようにうねり、たまきの首へ迫る――が。
間に割り込んだ奏空の剣が鎖を受け止めぐるぐると巻き付けていく。
「たまきちゃんには指一本触れさせない。俺の想いだ! くらえっ!」
剣に強烈な電流を流し込み、鎖から伝達した衝撃がクロヌエへと走った。
「いまだ、行けきせき!」
「綱渡りだね! たのしそうっ!」
宙返りで鎖に飛び乗ったきせきは、剣を水平に構えたままクロヌエめがけて高速移動。
嵐のように回転しながらすり抜けていった。
剣を振り抜いたままターンアンドブレーキ。背を向けたクロヌエは全身のあちこちから血を吹き上げた。
「おやあ? あんたの魂とやらは食いでがありそうだ」
ぐねんと身体を傾け、逝がクロヌエに狙いを定めた。
「部下ーアレー」
「オレはアレじゃねえっす。裸で氷山のぼってー」
逝が腰の後ろで開いた手をくいくいとやると、譟がポケットから不安な色の小瓶を取り出してぶん投げた。
逝の後頭部(というかヘルメット)にぶつかってかち割れる瓶。
どうやらそれで充分だったようで、逝の刀からもくもくと恐ろしい呪力がわき上がった。
「クソ上司、まわりの子らなんかイイコト言ってますよ。あんたもなんか言わねーんすか」
「え、なにが」
身体を奇妙にぐねんと捻って振り返る逝。
黙って虚空を見上げることでやり過ごす譟。
逝はその反応で満足したのかスルーしたのか、クロヌエめがけて真正面から突っ込んだ。
もう一本の短い鎖を取り出し、投擲してくるクロヌエ。首に巻き付いてぎゅうぎゅうに締め付けたが、逝はマシーンの如くそのまま突っ込んで強引に切りつけた。
「クソが。関係ねーのにつっかかってきやがって、殺すぞ……!」
血を吐きながらも悪態を崩さないクロヌエ。
ラーラは眉間に皺を寄せた。
「私は専門外なのでよくわかりませんが、最終奥義というのはうわべだけの技術ではないと思います。だから、こんな風に奪いとるのは意味が無いんじゃありませんか」
「うるせえな! 奥義なんてのはテクだろうが! パクられたくねえから隠してんだろ? 俺様にビビってんだ! テメェらだってそうだろうが。つえー技があったらパクりてーんだろ!?」
「それが間違いだって言うんです!」
ラーラは魔導書に鍵を差し込み封印を解除。自らの周囲に魔方陣を大量に生み出すと、熱による暴風で髪を大きく靡かせた。
「これは確かに技術です。けれど心ある技術なんです。『わたし』が受け継いだ、『あのひと』の――!」
「盛り上がって来ましたわね」
ギターを野球のバットのように構え、強引にクロヌエへ飛びかかる伊織。
「アイドルの奥義を教えてあげますわ。スーパーキュートでファビュラスな!」
ラーラの放つ炎が伊織のギターに巻き付き、螺旋状に巡った伊織自身のエネルギーが巨大な剣を形成させた。
防御姿勢をとったクロヌエを、防御の上からへし折らんばかりにたたきつぶす。
「腕が――っ」
ぶらんとなった腕を諦め、鎖を右腕に巻き付ける。
「人から見聞きしたくらいで奥義が手に入るわけねーだろ。空手学んだくせにまだわかんねーのかよ」
遥が奏空ときせきを踏み台にして大きく跳躍した。
天を渦巻く炎に目を細め、自らを激しい雷が包んでいく。
「魂だ奥義だって、オレだってわかんねえ。一万回突いて一万回蹴ってるだけで、毎日毎日勉強だ。けどこれだけは知ってるぜ……!」
同じく跳躍したキャノピーが暴風を自らに纏っていく。
電撃によって生まれた雷太鼓がクロヌエとの間に等間隔に並び、遥とキャノピーは流星の如きキックを繰り出した。
無数の電撃を貫き、そのたびに身体に纏い、ラーラの炎を後押しにして強烈な竜の一撃となった。
爆発とも思えるような轟音。
コンクリートの地面を激しくえぐりながら数メートルを過ぎた遥は、大地に、そして相手に呟いた。
「『型は力にあらず。心にあり』……あんたは力を求めすぎて、心を忘れたんだ」
●タマーシ
「ワタシ、忘れてたよ。最初にシショーに出会ったとき。心が躍ったんだ」
手をぎゅっと握り、目を瞑るキャノピー。
「楽しいものがあると思った。自分が変わっていくのが楽しくて、自分を試せるのが楽しかった。楽しくて、楽しくて、それだけだったのに」
振り返ると、八人がそれぞれ並んでいる。
ファイヴという組織に依頼されたからというばかりではない。自らの意志と想いでここにいた。
「えっオレはクソ上司にワン切りで呼び出されて」
「空気読もうか部下」
「あんたが言うか!?」
掴みかかる譟。
遥や奏空がからからと笑い、きせきやラーラも楽しげに笑った。
握手を求めて手を出す伊織。
「キャノピーさん。あなたの『魂』が見つかるように、応援しますわ。なにせ、アイドルですもの」
「アリガト!」
がしりと握手を交わすキャノピー。
たまきにちらりと見られ、きせきが頷いた。
「キャノピーちゃん。前に戦ったとき、すごく楽しそうだったよね。魂って、もしかしたらそういうことなのかもしれないよ」
きせきや奏空たち覚者は魂(こん)という凄まじいエネルギー爆発を秘めているが、きっとキャノピーがいう『タマーシ』はそのたぐいではないだろう。
少年少女は頷き合い、そして明日へ向かった。
カラテ。
その源流には諸説あるが、19世紀中頃にて沖縄に伝わる『手(ティー)』という武術が武術でなかった頃の手法から始まったという説が有力である。
それがひとつの武術として認識され、明治時代に『唐手(トゥーディー)』として本土へ流入。カラテと名を変えた。
しかし古来より存在する様々な武術に埋もれ、明治大正と失伝の危機を幾度も迎えたが、八人の達人たちによってその危機を逃れ……やがては中国武術や古武術を複合させ一つの永久武道として完成したものが空手道。昭倭初期の伝説である。
●キャノピーとブラックハンド
「キャノピー? 闘技場ンときのあいつか!」
プロテクターを拳や足に巻き付けながら、『エビルハンド』鹿ノ島・遥(CL2000227)はぎらりと目を光らせた。
「確か、直接戦ったのはきせきだったよな」
「うん! すごく楽しそうに戦う子だったよ!」
かつての、ちょっとかわった思い出を回想しながら瞑目する『新緑の剣士』御影・きせき(CL2001110)。
「なるほど、知ってる人がピンチなのか。なら助けない手はないね!」
刀を鞘にがちんと納める『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。
「キャノピーさんの想いも行ないも……」
丸めた大護符をリュックサックに差し込む賀茂 たまき(CL2000994)。
「それはそれとて、いたいけな少女を我欲のために虐げるなんて、ブラックハンドの連中は男の風上にもおけません! ぶん殴ってやりますわ!」
『獅子心王女<ライオンハート>』獅子神・伊織(CL2001603)がばしんと自らの拳をキャッチした。
「うっすお疲れっすクソ上司。なんすかゴミ拾いっすか」
「いいからさっさと働いて」
「ハッハー、砂漠でラクダに逃げられてー」
「ハッハッハー」
二人してかたかたと笑うヘルメットの二人組。緒形 逝(CL2000156)に緒形 譟(CL2001610)。
……と、まるで七人立ち止まっているかのように描いているが。
「はあ、はあ……皆さん走るの速すぎます……」
まるでブレることなく全力疾走する人たちの後ろを、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)がぜえぜえ言いながら追いかけていた。
「私がおかしいんですか? みんなこれが普通? だ、だとしたら頑張らないと……!」
ラーラは走りながら無理矢理息を整え、遥たちの全力ダッシュに追いついた。
時は流れ所は変わり。
「グぅ……」
鎖に首を絞められ、苦しげに呻く金髪の空手少女キャノピー。
ブラックハンドのメンバーたちがニヤニヤと笑いながら彼女を取り囲んでいく。
リーダーの男は舌打ちすると、鋭く拳を翳した。
「喋らねえならイイわ。喋りたくなるまで吊るしてやるよ」
顔面へ迫る拳。
その瞬間、激しい雷鳴と光が辺りを暴れ回った。
びくりと動きを止め、振り返るリーダー。
「……邪魔が入りやがった」
彼の呟きから全てを察した部下たちが、間を塞ぐように並んだ。
対するは……。
「そこまで、『両者離れて仕切り直し』だ! でなきゃぶん殴る!」
強固な構えで拳を突き出す遥。
有無を言わさずバタフライナイフを使って斬りかかる部下――の突きを紙一重でかわすと、身体を反転。肘を相手の顔面に叩き込んだ。
鼻から血を吹きのけぞる部下。その上を、別の部下が翼を生やした飛翔で飛び越えてくる。
「たまきちゃん!」
「大丈夫ですっ」
見上げて叫ぶ奏空に応じて、たまきは手のひらよりも大きな護符を地面にべしんと叩き付けた。
大地と即座に融合する護符。隆起するように陰陽陣が浮き出ると、発光と共に土の竜が飛び出した。
飛び上がった部下に突き刺さり、すぐさま墜落させた。
「なんだテメェ、余計なお世話なんだよ。関係ねーやつはすっこんでろよ!」
「関係はない。けど、すっこまない!」
刀を抜き、目をぎらりと光らせる奏空。
「余計なお世話は、俺の趣味だ!」
「いや、おっさんは別にそういうんじゃあないよ?」
スタンロッドで奏空に殴りかかろうとする部下を、逝が即座に割り込んで転倒させた。
刀を突き立て、こきりと首を慣らす。
「んー……よろしくない」
「クソ上司ー、そいつらゴミ箱に叩き込むんで畳みやがれください」
「しかたないなあ。可愛い部下のために畳んでやるかね」
段ボールでもゴミに出すかのような気軽さで襲いかかる逝。
一方で譟はスコップ片手に逝にちょくちょく指示を出していた。
「ンだてめえら、くらえや!」
部下の一人がグレネードを投擲してきた。逝の眼前で破裂し、毒性のガスが広がる。
「部下ー、中和剤」
「オレは中和剤じゃないっすクソ上司ー」
懐から農薬でも入っていそうな茶色い小瓶を取り出すと、伸びたワイヤーに火をつけて投げた。空中で破裂し、毒ガスの成分を素早く中和していく。
「なんだこいつら、ただのガキじゃねえのか?」
「弱そうな奴からコロせばいいんだよ」
鉄パイプを持った部下と木刀をもった部下がそれぞれ伊織に襲いかかってきた。
「おら、泣けよ!」
顔面を狙って繰り出された鉄パイプ――を、伊織は避けなかった。
どころか額で打撃を受けている。
だというのに、鉄パイプのほうがぐにゃりと拉げていた。
「アイドルは顔が命。その顔を傷付けること、何人たりともかないませんわ!」
突き上げるように繰り出した蹴りが相手の顎を正確にとらえ、上空三メートルの高さまで垂直発射させた。
「て、てめぇ」
乱暴に振り込まれた木刀も、もはや伊織の脅威ではない。繰り出した手刀によってぽっきりと途中でへし折れた。
「力を求める姿勢は否定しませんわ。ですがあなたがたには信念が足りない。我欲だけで強くなろうなど、笑止千万!」
呆然と立ち尽くす相手に、伊織はどこからともなく取り出したエレキギターをフルスイング。相手はピンボールのように飛び、壁を跳ね返って地面を転がった。
「我が剛毅の信念により、あなたがたをぶん殴りますわ!」
「こんな裏路地で女の子を取り囲むなんて恥ずかしくないんですか!」
戦力差におびえた部下たちを前に、ラーラはすかさず魔方陣を展開。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
頭上に生まれた八角形の魔方陣に無数の対角線が走り、生まれたグリッド全てから火炎弾が発射された。
ラーラの猛攻から逃れるべく、キャノピーを手放して飛び退くリーダー。
きせきは急いでキャノピーのそばへ駆け寄ると、咳き込む彼女を抱え上げた。
「大丈夫? キャノピーちゃん!」
「あ、あなたは……シルベチ、カ?」
きせきの格好を上から下まで見てから。
「なんで男の子の格好してるの? シュミ?」
「こっちが本当の僕だよ! あの時は事情があって正体を隠してたんだ。ほら、あの人がエビルハンドだよ」
「ドゲドウのエビルハンド?」
「ダイレクトに傷つく!」
拳を振り切った姿勢のまま、遥がぎゅっと目を瞑った。
「まーつもる話は後回しだ。こいつ知り合いか? 一緒にぶっ飛ばそうぜ!」
「……オーケー!」
キャノピーはぴょんと飛び起きると、奇妙な構えをとった。
「シキリナオシだよクロヌエ! カモン、レッツエンジョイ!」
「てめえら。俺をキレさせたな」
ブラックハンドのリーダー、クロヌエ。
クロヌエは舌打ちすると、鎖をぐるぐると回し始めた。
「全員這いつくばらせてやるよ!」
●クロヌエ キバ
遥や伊織より格下とはいえ覚者をトップに据えたカラーギャングたちを力だけでまとめるだけのことはある。
企業買収のようなもので、非道外道も強い力さえあればごり押しで支配することができるのだ。
だがそれは……。
「それは、『想い』なき力です。想いの力が人の心を打って、多くの人々が動きます。私は、それを知っています」
たまきがリュックサックから取り出したのは白い封筒に入った無数の護符だった。ある集団に所属する九つの神社からそれぞれ頂いた札が扇状に開き、それぞれが意志をもったかのように空へ飛び上がった。
「純粋であればあるだけ想いは力を増して、心に響きます。そしてこれが、私の想いです……!」
護符が生み出したエネルギーが巨人の幻影となり、たまきの動きとリンクした。
拳を握って、突きだしてみせるたまき。
リンクした巨人が拳を繰り出し、恐れおののく部下たちを一斉に蹴散らしていった。
「キャノピーさん、あなたの想いは?」
「ワタシの、オモイ……」
自らの手のひらを見下ろすキャノピー。
その一方で、たまきの幻影をはねのけてクロヌエが突っ込んできた。
「ガタガタうるせえんだよ! てめえは黙って奥義をよこしやがれ!」
クロヌエの放った鎖がウミヘビのようにうねり、たまきの首へ迫る――が。
間に割り込んだ奏空の剣が鎖を受け止めぐるぐると巻き付けていく。
「たまきちゃんには指一本触れさせない。俺の想いだ! くらえっ!」
剣に強烈な電流を流し込み、鎖から伝達した衝撃がクロヌエへと走った。
「いまだ、行けきせき!」
「綱渡りだね! たのしそうっ!」
宙返りで鎖に飛び乗ったきせきは、剣を水平に構えたままクロヌエめがけて高速移動。
嵐のように回転しながらすり抜けていった。
剣を振り抜いたままターンアンドブレーキ。背を向けたクロヌエは全身のあちこちから血を吹き上げた。
「おやあ? あんたの魂とやらは食いでがありそうだ」
ぐねんと身体を傾け、逝がクロヌエに狙いを定めた。
「部下ーアレー」
「オレはアレじゃねえっす。裸で氷山のぼってー」
逝が腰の後ろで開いた手をくいくいとやると、譟がポケットから不安な色の小瓶を取り出してぶん投げた。
逝の後頭部(というかヘルメット)にぶつかってかち割れる瓶。
どうやらそれで充分だったようで、逝の刀からもくもくと恐ろしい呪力がわき上がった。
「クソ上司、まわりの子らなんかイイコト言ってますよ。あんたもなんか言わねーんすか」
「え、なにが」
身体を奇妙にぐねんと捻って振り返る逝。
黙って虚空を見上げることでやり過ごす譟。
逝はその反応で満足したのかスルーしたのか、クロヌエめがけて真正面から突っ込んだ。
もう一本の短い鎖を取り出し、投擲してくるクロヌエ。首に巻き付いてぎゅうぎゅうに締め付けたが、逝はマシーンの如くそのまま突っ込んで強引に切りつけた。
「クソが。関係ねーのにつっかかってきやがって、殺すぞ……!」
血を吐きながらも悪態を崩さないクロヌエ。
ラーラは眉間に皺を寄せた。
「私は専門外なのでよくわかりませんが、最終奥義というのはうわべだけの技術ではないと思います。だから、こんな風に奪いとるのは意味が無いんじゃありませんか」
「うるせえな! 奥義なんてのはテクだろうが! パクられたくねえから隠してんだろ? 俺様にビビってんだ! テメェらだってそうだろうが。つえー技があったらパクりてーんだろ!?」
「それが間違いだって言うんです!」
ラーラは魔導書に鍵を差し込み封印を解除。自らの周囲に魔方陣を大量に生み出すと、熱による暴風で髪を大きく靡かせた。
「これは確かに技術です。けれど心ある技術なんです。『わたし』が受け継いだ、『あのひと』の――!」
「盛り上がって来ましたわね」
ギターを野球のバットのように構え、強引にクロヌエへ飛びかかる伊織。
「アイドルの奥義を教えてあげますわ。スーパーキュートでファビュラスな!」
ラーラの放つ炎が伊織のギターに巻き付き、螺旋状に巡った伊織自身のエネルギーが巨大な剣を形成させた。
防御姿勢をとったクロヌエを、防御の上からへし折らんばかりにたたきつぶす。
「腕が――っ」
ぶらんとなった腕を諦め、鎖を右腕に巻き付ける。
「人から見聞きしたくらいで奥義が手に入るわけねーだろ。空手学んだくせにまだわかんねーのかよ」
遥が奏空ときせきを踏み台にして大きく跳躍した。
天を渦巻く炎に目を細め、自らを激しい雷が包んでいく。
「魂だ奥義だって、オレだってわかんねえ。一万回突いて一万回蹴ってるだけで、毎日毎日勉強だ。けどこれだけは知ってるぜ……!」
同じく跳躍したキャノピーが暴風を自らに纏っていく。
電撃によって生まれた雷太鼓がクロヌエとの間に等間隔に並び、遥とキャノピーは流星の如きキックを繰り出した。
無数の電撃を貫き、そのたびに身体に纏い、ラーラの炎を後押しにして強烈な竜の一撃となった。
爆発とも思えるような轟音。
コンクリートの地面を激しくえぐりながら数メートルを過ぎた遥は、大地に、そして相手に呟いた。
「『型は力にあらず。心にあり』……あんたは力を求めすぎて、心を忘れたんだ」
●タマーシ
「ワタシ、忘れてたよ。最初にシショーに出会ったとき。心が躍ったんだ」
手をぎゅっと握り、目を瞑るキャノピー。
「楽しいものがあると思った。自分が変わっていくのが楽しくて、自分を試せるのが楽しかった。楽しくて、楽しくて、それだけだったのに」
振り返ると、八人がそれぞれ並んでいる。
ファイヴという組織に依頼されたからというばかりではない。自らの意志と想いでここにいた。
「えっオレはクソ上司にワン切りで呼び出されて」
「空気読もうか部下」
「あんたが言うか!?」
掴みかかる譟。
遥や奏空がからからと笑い、きせきやラーラも楽しげに笑った。
握手を求めて手を出す伊織。
「キャノピーさん。あなたの『魂』が見つかるように、応援しますわ。なにせ、アイドルですもの」
「アリガト!」
がしりと握手を交わすキャノピー。
たまきにちらりと見られ、きせきが頷いた。
「キャノピーちゃん。前に戦ったとき、すごく楽しそうだったよね。魂って、もしかしたらそういうことなのかもしれないよ」
きせきや奏空たち覚者は魂(こん)という凄まじいエネルギー爆発を秘めているが、きっとキャノピーがいう『タマーシ』はそのたぐいではないだろう。
少年少女は頷き合い、そして明日へ向かった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
