<冷酷島>真相究明、獣浄土と禍弓弦!
●約束されなかった島・第三章
『冷酷島』正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立式人工島である。
本土外に島を作れば妖が現われないという誤った判断によって作られたこの島は、充分な防衛力をもたないために妖によって壊滅してしまった。
この島を人類の手に取り返すためのカギは三つだ。
壱、島外進出をもくろむ妖のコミュニティを全て撃滅すること。
弐、妖の統率をとっているR4個体を見つけ出し撃破すること。
参、島に眠る謎を解明し解決すること。
そして今回は――
●弓使いの妖
「さーてと、慣れない調査だけど気合い入れていくわね!」
腕をぐるぐるとやって博物館の中を探索する三島 椿(CL2000061) 。
仲間たちはそれぞれ調べ物をしているが、椿はそーゆーのはしない主義である。というか全員が同じ視点で同じところを調査していたらすごく馬鹿っぽいので、自分なりに自分の気づいたことをするのがよいのだ。
「ねえ、これはなに? すごく大きい弓だけど」
「これはひご弓といって、西洋の弓よりも大きいんです。中国の攻城弓を覗けば、携帯する弓のなかで和弓は世界最大といっていいでしょう。特に日本各藩が競い合って技術を向上させていた頃ですから、現代でも太刀打ちできないような技術も含まれているんですよ。那須与一とか、有名ですよね」
『教授』新⽥・成(CL2000538) が丁寧に解説してくれたので、椿は『ほー』と言って弓を眺めた。
彼女の使う和弓と似た部分が多いが、軽く八百年くらいたっているだけあって風格が違った。
「他にもいろんな弓があるのね。たけゆみ、うちゆみ……あら? ひとつだけないわね」
一方。
探偵⾒習い』⼯藤・奏空(CL2000955) が一生懸命地面をまさぐっていた。
「落とし物かい? コンタクトとか?」
そーっと近づいてくる『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156) 。
奏空は頭を上げて困った顔を見せた。
「妖の痕跡がないか探してたんだけど……ねえ緒形さん、妖ってどんな痕跡残すのかな。フンとか足跡とかそういうのあると思う?」
「……さあ?」
普段はおっさんとかおじさんとか呼ぶのに、切羽詰まってるのかなと思う逝である。
逝も逝で妖化しそうな物品を回収して回る……つもりだったが、『妖化しそう』の基準が自分でもよくわかんないせいであれもこれも妖化しそうだった。極論、そのへんの空気ですら妖化する可能性があるのだ。
「そういえばおっさんたち、その辺の知識まったくないなあ。妖って、どうやってできて、どういう風に生活してるんだか」
判明したら世界が変わりそうな話である。
逆に言えば、ちょっと探ったくらいで分かるものでもなかろう。
知っている人も、いなかろう。
「『獣の洞』……ですか」
成は博物館の展示品の前に立っていた。
どうやらこの人工島、元はごく小さな島だったらしい。そこには土地神をまつるお社があり、地元には狩りや自然現象で死んだ動物を弔って海に灯籠を流す風習があったことがわかった。
歴史と共に風習は喪われ、島も埋め立てられ巨大な人工島になったが……。
「当時のご神体は残っていた、と。しかし木の洞がご神体とは変わっていますね。おや?」
ウォン、と獣のような泣き声がした。
次の瞬間。
近くで壁をまさぐっていた奏空の懐がぎらぎらと輝いた。
「それは?」
懐に手を突っ込んで、八面体のキューブを取り出す奏空。
「ご、ごりらきゅーぶ!」
●獣浄土
「なるほど。それは『獣浄土』ですね」
歴史資料を調べていた事務方 執事(nCL2000195)がそう語った。
ここは島で新たに作られた前衛拠点。対妖シェルター中の会議室である。
「舌切り雀やおむすびころりんといった童話に登場する、解脱した獣の霊が古妖となって末永く暮らす隠れ里と言われています。立ち入る手段は限られているそうですが、どなたか獣浄土に行って歓迎された経験がおありのようですね」
「あれ、そういうトコだったんだ……」
ぽかーんとしている奏空。
「その石を使うことで限られた回数だけ行き来することができるはずです。
ですが……ひとつ悪い知らせがあります。先日予知夢を見たのですが」
執事はある弓を画に描いて見せた。
「博物館に展示された弓が妖化して、なにかのはずみで獣浄土へ進入してしまったようです」
マガツユヅル。
R2物質系妖。弓とそれを携えた土人形でできた妖。
弓による攻撃のみを行なうが、その弓術は超常的であるという。
「獣浄土がどのようになっているかは分かりません。妖も人間相手でなければ攻撃しないでしょうが、古妖と仲良くするような存在とも思えません。
石を使って追いかけ、妖を退治して下さい」
『冷酷島』正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立式人工島である。
本土外に島を作れば妖が現われないという誤った判断によって作られたこの島は、充分な防衛力をもたないために妖によって壊滅してしまった。
この島を人類の手に取り返すためのカギは三つだ。
壱、島外進出をもくろむ妖のコミュニティを全て撃滅すること。
弐、妖の統率をとっているR4個体を見つけ出し撃破すること。
参、島に眠る謎を解明し解決すること。
そして今回は――
●弓使いの妖
「さーてと、慣れない調査だけど気合い入れていくわね!」
腕をぐるぐるとやって博物館の中を探索する三島 椿(CL2000061) 。
仲間たちはそれぞれ調べ物をしているが、椿はそーゆーのはしない主義である。というか全員が同じ視点で同じところを調査していたらすごく馬鹿っぽいので、自分なりに自分の気づいたことをするのがよいのだ。
「ねえ、これはなに? すごく大きい弓だけど」
「これはひご弓といって、西洋の弓よりも大きいんです。中国の攻城弓を覗けば、携帯する弓のなかで和弓は世界最大といっていいでしょう。特に日本各藩が競い合って技術を向上させていた頃ですから、現代でも太刀打ちできないような技術も含まれているんですよ。那須与一とか、有名ですよね」
『教授』新⽥・成(CL2000538) が丁寧に解説してくれたので、椿は『ほー』と言って弓を眺めた。
彼女の使う和弓と似た部分が多いが、軽く八百年くらいたっているだけあって風格が違った。
「他にもいろんな弓があるのね。たけゆみ、うちゆみ……あら? ひとつだけないわね」
一方。
探偵⾒習い』⼯藤・奏空(CL2000955) が一生懸命地面をまさぐっていた。
「落とし物かい? コンタクトとか?」
そーっと近づいてくる『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156) 。
奏空は頭を上げて困った顔を見せた。
「妖の痕跡がないか探してたんだけど……ねえ緒形さん、妖ってどんな痕跡残すのかな。フンとか足跡とかそういうのあると思う?」
「……さあ?」
普段はおっさんとかおじさんとか呼ぶのに、切羽詰まってるのかなと思う逝である。
逝も逝で妖化しそうな物品を回収して回る……つもりだったが、『妖化しそう』の基準が自分でもよくわかんないせいであれもこれも妖化しそうだった。極論、そのへんの空気ですら妖化する可能性があるのだ。
「そういえばおっさんたち、その辺の知識まったくないなあ。妖って、どうやってできて、どういう風に生活してるんだか」
判明したら世界が変わりそうな話である。
逆に言えば、ちょっと探ったくらいで分かるものでもなかろう。
知っている人も、いなかろう。
「『獣の洞』……ですか」
成は博物館の展示品の前に立っていた。
どうやらこの人工島、元はごく小さな島だったらしい。そこには土地神をまつるお社があり、地元には狩りや自然現象で死んだ動物を弔って海に灯籠を流す風習があったことがわかった。
歴史と共に風習は喪われ、島も埋め立てられ巨大な人工島になったが……。
「当時のご神体は残っていた、と。しかし木の洞がご神体とは変わっていますね。おや?」
ウォン、と獣のような泣き声がした。
次の瞬間。
近くで壁をまさぐっていた奏空の懐がぎらぎらと輝いた。
「それは?」
懐に手を突っ込んで、八面体のキューブを取り出す奏空。
「ご、ごりらきゅーぶ!」
●獣浄土
「なるほど。それは『獣浄土』ですね」
歴史資料を調べていた事務方 執事(nCL2000195)がそう語った。
ここは島で新たに作られた前衛拠点。対妖シェルター中の会議室である。
「舌切り雀やおむすびころりんといった童話に登場する、解脱した獣の霊が古妖となって末永く暮らす隠れ里と言われています。立ち入る手段は限られているそうですが、どなたか獣浄土に行って歓迎された経験がおありのようですね」
「あれ、そういうトコだったんだ……」
ぽかーんとしている奏空。
「その石を使うことで限られた回数だけ行き来することができるはずです。
ですが……ひとつ悪い知らせがあります。先日予知夢を見たのですが」
執事はある弓を画に描いて見せた。
「博物館に展示された弓が妖化して、なにかのはずみで獣浄土へ進入してしまったようです」
マガツユヅル。
R2物質系妖。弓とそれを携えた土人形でできた妖。
弓による攻撃のみを行なうが、その弓術は超常的であるという。
「獣浄土がどのようになっているかは分かりません。妖も人間相手でなければ攻撃しないでしょうが、古妖と仲良くするような存在とも思えません。
石を使って追いかけ、妖を退治して下さい」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.マガツユヅルの退治
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
色々な形に分岐し、場合によってはルートが増える構成となっております。
そんなわけで、飛び入り参加をいつでも歓迎しております。
●シナリオの流れ
このシナリオは『妖が異空間に侵入した』という情報だけを頼りに異空間を探索する内容となっております。
ですので、ここからの内容はPCが事前に知らない内容です。
戦闘中にエネスキャを使ったり自力で見抜いたりして『こういう能力があるのか!』と察するプレイングをおかけになると、よりカッコよいかと思います。
それはこの後の探索パートでも同じですので、ぜひぜひこのチャンスを利用してみてください。
●戦闘パート
『獣の洞』を『獣の石』を持った状態で通ると、一定期間の間だけ『獣浄土』へ行くことが出来ます。
獣の石を持っている参加者がいなくても、ファイヴにいる六人の所有者の誰かから借りたものとして判定します。
出た先では妖『マガツユヅル』がここどこだって感じでさまよっています。
こちらを見つければ人間キタコレつって(言いませんが)襲いかかってくるでしょう。
主に弓を使ったアクロバティックな攻撃(物遠単)、瘴気の弓を拡散する攻撃(特遠単【呪い】)、土の弓と腕を無数に増やす技(強化:物特攻、速、命中アップ)を使います。みぬこう!
また遠距離系のくせに足が素早く、土人形が自在に変形して地形を選ばないバトルが可能です。みぬける!
●探索パート
先にネタバレしますが、獣浄土は童話に語られるようなところです。
スズメ獣人やネズミ獣人、トラ獣人やネコ獣人が江戸時代の長屋みたいなところに暮らしています。
みな人間には好意的で、食べ物を振る舞ったり宴会を開いたりしてくれます。
これがマヨイガだと食べ物を食べたらアウトなんですが、獣浄土は童話同様OKです。おみやげに好きなものを選んでいいと言われますが、欲張らないのがコツです。これも童話が教えてくれています。
いろいろ質問してもOKですが、先に申し上げ起きますと彼らはこの島とそれを囲む湾の土地神だった古妖たちで、今はその力を失っています。
もっというと島の妖大災害のことは見てないので知りませんし、原因もわかりません。その辺の聞き込みは効果がありません。
ただ土地神というだけあって、妖を全部倒した後のケアには大変頼りになる存在です。
あと、特に正解とか罠とかないのでアタリを狙って動かなくて大丈夫です。
※※※ ご注意! ※※※
事後調査の『B:特定調査』がちょっぴり察しづらいものになっていることがあります。
「○○を使って○○を調べる」「○○に聞き込みする」「○○があったら回収する」といった調査プレイングもとってもよいのですが、もっと最終的な目的に絞って「島に霊を弔う習慣があるかも」「妖が異空間に逃げ込んでいるかも」「真の妖刀が覚醒するか」といった感じでかけていただけると、よりお好みの雰囲気に寄せやすいかと思います。
精一杯察するように頑張りますが、手段で絞られますと結局何をお求めになっているのかを間違えてしまうこともよくありますので、ぜひ目的型プレを試してみてくださいませ。
【事後調査】
(※こちらは、PLが好むタイプのシナリオへシフトしやすくするための試験運用機能です)
島内は非常に危険なため、依頼完了後は一般人や調査・戦闘部隊はみな島外に退避します。
しかし高い生存能力をもつPCたちは依頼終了後に島内の調査を行なうことができます。
以下の三つのうちから好きな行動を選んでEXプレイングに記入して下さい。
※EX外に書いたプレイングは判定されません
・『A:追跡調査』今回の妖や事件の痕跡を更に追うことで同様の事件を見つけやすくなり、同様の依頼が発生しやすくなります。
・『B:特定調査』特定の事件を調査します。「島内で○○な事件が起きているかも」「○○な敵と戦いたい」といった形でプレイングをかけることで、ピンポイントな依頼が発生しやすくなります。
・『C:島外警備』調査や探索はせず、島外の警備を手伝います。依頼発生には影響しなさそうですが、島外に妖が出ないように守ることも大事です。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年07月27日
2017年07月27日
■メイン参加者 8人■

●いざゆかん獣浄土
「それじゃあみんな、いくよ!」
木のうろを前にして、『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)はかくかくしたキューブを高く掲げた。
青白い光が漏れ、やがて虹色に変わり、周囲の人々を包み込んでいく。
すると、うろの向こうに虹色の道が生まれた。
「へー、こんな風に出るんだ。カクレザト!? カクレザトなの!?」
ナルトゥ!? とか言いながらテンションをあげる『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)。
「ゴリラさんたちに感謝だね」
「あの人たちも土地神さまだったのかな」
奏空の言葉に、『ゴリラカレー職人』栗落花 渚(CL2001360)もこくこくと頷いた。
昔の人ってのはなんでもかんでも奉ったので、胡麻にも豆腐にも空の雲にも神がいてそれぞれ小さく土地を守っているという考え方をしていたそうな。ゴリラなんつったらキリンと同じで妖怪(この世界で言うと古妖)の一種と思われていてもおかしくはなかった。そのまま奉られたパターンだろうか。
「わーっ、道がキラキラしてる! すっごいねー!」
両手を広げ、背面スキップで進んでいく『新緑の剣士』御影・きせき(CL2001110)。
「この先にはどんなひとたちがいるのかな。おむすびころりんみたいな所なんでしょ?」
「大変興味深い事実ですな……民俗学や歴史学にとって革命的ですらある」
きせきほどあからさまでは無いが、『教授』新田・成(CL2000538)もどこか興奮している様子だ。
彼らが向かっているのは言ってみれば神の間である。ギリシャ神話のオリンポスや北欧神話のヴァルハラのようにご大層ではないが、迷い込んだ人々の資質を問うて現世に返すという、割と大事な局面に出てくる場所である。
「なんだか、お伽噺の世界みたいでわくわくするよね」
『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)は振り返り、『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)は頷いた。
「聞けば、埋め立て地になるまえに小さな島があったと聞きますし……」
燐花は島を埋め立てたことで何か悪いことがおきてしまっているのではと考えてみたが、それは確かめてみないとわからないことだ。さしあたってジムカタ辺りに聞いてみれば、どういう風に埋め立てたのか分かるはずだ。
その辺りを察したのか、恭司がカメラをいじりながら言った。
「神社の上にビルを建てる時、屋上に神社を移転したりするよね。もし島に祠か何かがあったなら、それを移転する筈なんだ。博物館に『獣の洞』があるようにね」
獣浄土へのゲートというかなり重要なアイテムを博物館に展示しちゃうあたり、その辺りを分からずにやっているフシはあるが……。
「博物館っていえば、木弓が欠けていたわよね。えっと、人類最古の兵器としての弓……だったかしら?」
博物館のプレートから読み取った知識をそのまま言っているのでふんわりしているが、椿の脳裏に浮かんでいるのは原始人が半月状の弓を構えているさまである。正確なところを言うと、弥生時代に日本人類が集落とか堀とか神殿とか作るようになった頃のシロモノで、現代の弓よりもやたら幅が広いことと木材のしなりを利用することが特徴。イメージとしては、シュワちゃんがプレデター殺す時の奴が近い。つまり矢も研いだ木である。
……ということろまで、成は考えて黙った。
なぜなら、光の道が終わろうとしているからだ。
●マガツユヅル
道を抜けた先には見慣れた青空があった。
紅葉が真っ赤に染まり、桜の花が散り、冬椿が咲き乱れ大玉となっていた。
季節感がどうかしている。実際ほんのり暖かく、そして爽やかに涼しい気候をしていた。
「うん……どうやら常識そのものが歪んでるみたいだね」
手持ちのカメラで撮影してみた恭司は、画像が真っ暗闇になっていることを確認した。そして妖の気配を察し、もう一つのカメラに持ち替えてシャッターを切る。
GM建設の作業員が拾ったという神具カメラだ。飛来した矢が空中で燃え尽き、力なく恭司のそばにからからと落ちる。
「感覚を研ぎ澄ませて置いて正解だったねぇ。早速、出てきたみたいだよ」
物陰から現われた妖を見て、燐花と奏空が前へ出た。
「風よ、力よ……!」
奏空の強い祈りが力になり、燐花へと被さっていく。燐花もまた自らを加速させ、妖に飛びかかる。
見たところ木弓を装備した人間のようだ。革だか板だかよくわからない装束を纏っていて、顔はよく見えない。
燐花の繰り出した斬撃が妖の腕を即座に切り落とす。
が、落とされた腕は消滅し、切断面から新たな腕が生えてきた。
どこからともなく矢をとると、秒間数十発の速度で矢を乱射してきた。
そんなの普通は無理だと思うところだが、人間とて身体のつくりが変わるくらい鍛錬を積めばマシンガン並の連射が可能だという。それこそ伝説の話だが。
「不気味な感じだねぇ。自己再生ができるのかな?」
恭司は連写モードで味方のうける矢のダメージを消去していく。
どちらかと言えば、相手の与えるダメージ量の方が多い具合だ。
「負けてられないわね……!」
椿は和弓を構えると、背中の矢筒から次々と矢を抜いて放った。
それも秒間2~3発。円周軌道で走りながらである。相手ほど狂ってはいないが、かなり熟達した腕前である。
椿の放った矢は鏃に空圧を宿し、相手の身体にざくざくと刺さっていった。
が、刺さるのはごく一部。奇妙なサイドステップで矢をかわしていく。
「かなり素早いタイプみたいだ。よく狙って!」
奏空の助言を受けて、成ときせきが挟み込むように接近。
一方で渚が背後に大きく回り込み、メタルケースから大量に取り出した金属注射器を構えた。
「二段構えで行きましょう」
「ざんざんずばんって感じだね、いいよ!」
成は妖の退路を阻むように交差斬撃を繰り出し、一方できせきは自らの身体ごと回転させながら強引に斬りかかりにいった。
退路を失った妖がめちゃくちゃに切り裂かれる。
が、すぐにボディを再生させて飛び退き、矢の連射を浴びせてきた。
「させないよ……!」
注射器を大量投擲してカウンターヒールをしかける渚。
一部の矢が成の肩に刺さったが、うろたえる様子はない。
「分かりましたね?」
「うん!」
成ときせきは頷き合い、そして仲間たちに呼びかけた。
「本体は弓です。あのボディはそれを打つための人形にすぎません」
「切りつけようとしたら弓を庇ったもん。だからあそこを狙えばいいんだよ!」
「ほんとに? シキガミじゃん! ナルトゥ!」
今日は妙にテンションの高いプリンスである。
さておき。
「ここは獣浄土っていってね、ブッソーなものは持ち込み禁止だよ!」
着地直後の妖を狙って飛び込むプリンス。
空中で縦回転をかけると、ハンマーもろとも妖に突っ込んだ。
防御したボディもろとも弓を叩き付け、地面に押し込む。
が、次の瞬間巨大なあばら骨のようなものが弓を守って展開した。
プリンスの強烈なハンマーアタックが阻まれる。
「おっと? シンゲキ? 今度はシンゲキのやつ!?」
今日のプリンスは漫画ファンのテンションでいくらしい。
再びさておき。
ボール状のボディから二十本ほど腕を生やすと、ぎゅっと固定した弓に矢をつがえはじめた。マシンガン波の射撃や腕や指を増やしたせいだったようだ。
「土のない所に押し込んでみたらどうでしょうか」
「いいね、それ。採用だ」
燐花の呟きをひろって、恭司が妖めがけて連写。火花が次々にはじけ、妖は何度もよろめいた。土で作ったあばら骨で防御しているが、それをピント調節ですり抜けて弓だけ撮影しているようだ。
「押し込めばいいんだね、まかせて!」
きせきは沢山のひまわりの種をポケットから取り出すと、妖めがけて手を翳して見せた。
手の中で育った大量のひまわりが物理的な波となって妖を突き飛ばす。
大きく吹き飛んだ妖は障子戸を破って長屋らしき建物の中へ突っ込んでいく。
畳の上で起き上がり、ばたばたと虫のように暴れる妖。
「効果覿面って感じね。おっと、逃がさないわよ!」
椿がここぞとばかりに弓を狙い撃ちにした。
使った矢は通常弾とは違って補足鋭く、刺さった衝撃で鏃が傘のように開くという特別製である。ホローポイントアローとか呼んでいる。
畳に固定された土人形。
あっそうだ開けばいいじゃんと気づいたのか骨格標本のようにすけすけになった妖が矢の拘束から逃れ――た直後にプリンスのハンマーがすっ飛んできた。
胴体を粉砕され、あたりにつちくれとなって飛び散る。
「オジャマシマス! あっタタミじゃ靴脱がなきゃ」
丁寧に靴を脱いであがったプリンスは、漆喰の壁に突き刺さったハンマーを抜いて今度は弓を直接ゴルフスイング。
吹き飛んだ弓が、せめてもの抵抗として大量の矢を辺り構わずまき散らす。
が、それにも構わず奏空ときせきが同時に切り込んだ。
大量の小さな腕が切断される。
更に飛び込む燐花と成。
彼らの斬撃が弓を三分割し、ばらばらになった弓はその場に散った。
「みんな、大丈夫っ?」
駆け寄った渚が救急箱を開き、きせきに刺さった大量の木の矢を抜いていく。
勿論握ってガッと抜くのでなく、刺さった表皮に特殊なゲル状の薬品を塗って捻るように抜いていく。
矢の先端がスマートな針状になっていたことを考えて、逆に捻った方が肉体を傷付けないこと、そして出血を薬品が抑えひいては圧力の影響で傷口を薬品が埋めることを考えての処置である。
一方で、地面に散った弓は消滅し妖化前の状態へと戻った。
木弓だったが、どうやら弦が切れて壊れてしまっているようだ。
「このままじゃ博物館に返すこともできないわね」
「直す手段があればいいんですが……」
椿は残念そうにため息をついて、燐花はとりあえずという風に弓を回収した。
●獣浄土
折角来たのだから探索しない手はない。
皆は別に一塊になる必要もないので、適当に散って獣浄土の観光を始めた。
獣浄土と分かって来るのと知らずに迷い込むのとではワケが違う。
「どうもお騒がせしました。これはほんの土産です」
そう言って成が取り出したのは熊本の地酒であった。
「ほほう……」
亀の甲羅を纏った老人というべきか、老いた亀に髭が生えた者というべきか、とにかく亀獣人が成の酒を興味深そうに眺めた。
「酒を持ってくるとは分かっておるのう」
「杯を交わすことは、同朋となる証。学生諸君も覚えて置いて損は無いでしょう」
「えっと……飲んでもいいの? だめだよね」
成に杯を向けられて、奏空はおそるおそる手に取った。
「未成年の飲酒喫煙は法律で禁じられていますが、たとえば祭事などで杯の表面を舐める程度は飲酒にカウントされません。要するにアルコールの摂取量が――」
話が長くなりそうだったので、奏空は打ち切るつもりでいただきますした。
そらからしばく。
成と奏空は亀獣人や鼠獣人たちと共に宴を楽しんだ。
出てくるお餅やどら焼きを楽しみつつ、お酒やお茶を飲むのだ。
「所で、皆さんはどのように土地神となったのですか?」
「おぼえてなーい」
「とちがみってなーに?」
「すごいの?」
鼠獣人たちはそんな様子だ。自覚してなったものではない、らしい。
成は、人間が生まれたときの記憶を持たないのと同じだと考えた。
「質問を変えましょう。なぜ、あの島を去ったのです?」
「さった?」
「どこにもいってないよ」
「ずっとここにいたよー」
「ふむ……」
成は考え込んだ。
獣浄土の獣人たちは、何も変化はしていないつもりのようだ。
むしろ変わったのは人間側のほう。
「そういえば、最近は灯籠が流れてこんくなったのう。十年前じゃったか、二十年まえじゃったか、百年前じゃったか……」
「どんなスケールで生きてるんだろうこの人」
亀獣人は記憶のスケールがでかすぎて覚えていないらしく、鼠獣人に至っては『ぼくきのううまれたー』『ぼくはいっしゅうかんもいきた!』とか言ってるのでアテにならない。
奏空は質問を加えてみることにした。
「古妖の成り立ちをしりたいな。古妖ってなんでできたの?」
「ほぬ?」
「こよう?」
「こようってなーに?」
「すごいの?」
これは聞き方が悪かった。というか、古妖という概念自体人間が勝手に作った『人間でも動物でも妖でもないなんか』というカテゴリーなので、なりたちを聞く時点で色々間違えていた。
ともかく。
獣浄土が元々担っていたなにかの役目が、冷酷島側の何らかの干渉によって閉ざされたと考えるべきだろう。
一方こちらは椿と渚組。
「土地神じゃなくなったというより、道が閉ざされたって感じね」
「国が外交をやめた結果、大使じゃなくなった……みたいな感じ?」
「じゃあ、大使館みたいなものがあったわけよね」
こちらも同じような結論に行き着いたらしい。
それで実際なにをやってんのかといえば、狸獣人や狐獣人に囲まれお饅頭をもぐもぐしていた。
「祠を建ててあげればいいのかな。でも……」
その辺の石を適当に突き刺して『はい祠!』とはいかなそうである。いや、要は気持ちの問題なんだろうけど、何かそれじゃあ肝心なものが足りないような気がしたのだ。
「これは仮説なんだけど、実際その役割があったものを……妖かなにかが破壊しちゃったんじゃないかしら」
「妖が祠を破壊? そんな知能ないと思うけどなあ」
そこまで言って、渚は嫌な汗をかいた。
もしそこまでの知能があったら。
それはもう、ランク3どころの騒ぎじゃない。
ランク4かそれ以上の最重要案件である。
「へえ、それじゃあ……灯籠が流れてこなくなった頃から、獣人が増えなくなったんだね?」
恭司はキャッキャしている雀獣人のギャルたちに囲まれて、そんなことを話していた。
「アタシたち何度も生まれ変わるし記憶とか無いからマジなこと知らないんだけどー」
「灯籠が流れてくると増えるらしーんだよねー」
「おじさん次撮って、自撮りってやつやってみたーい!」
「うでくもー!」
モテモテだった。
というのも、通常のカメラでは撮影できない獣浄土の光景が、恭司の持ってきたLTNA(レトナ)でなら撮影できたからである。別に手元に残るわけじゃあるまいに。
結果、恭司は雀獣人たちにモテていた。
あと。
「………………」
燐花がなんかほんとによくわかんない表情で一連の様子を眺めていた。
恭司にも分からないし、もしかしたら燐花本人も分かってないんじゃないかという具合である。
「えっと」
気を取り直して、という風に鞄から桜餅を取り出す燐花。
「お菓子を作ってきたのですが、いかがでしょうか」
「「かーわーいーいー!」」
燐花ももれなくモテた。
さてこちらはプリンスときせき組。
「カサハリローニンだー! サメラだー!」
「…………」
時代劇でよくみる傘張りの光景を見つけて、プリンスが死ぬほどテンションを上げていた。
それもちょんまげを結った猫獣人が、ちょっとくたびれた和服姿でやっていたのでテンションはマックスだった。
「…………」
黙ってこちらをにらむ猫獣人。
おこなの? と思ったけど。
「……」
黙っておはぎの入った笹の包みを出してきた。
開いてプリンスときせきの前に置くと、顎を一度しゃくってからかさはり作業に戻った。
食えというらしい。
で、食べてみたらなまら美味しいおはぎであった。
「おいしー! はかせに持って帰ってもいいかな!」
きせきがキラキラした顔で言うと、猫獣人はもう一つ笹の包みを持ってきてきせきに手渡した。
「わーい!」
そらから暫く、きせきは彼らのことについて聞いたりした。猫獣人は無口だったが歓迎はしているらしく、頷いたり唸ったりして応えてくれた。
どうも、物心ついたときからこの長屋で暮らしていて、ずっと同じことをして過ごしているらしい。
「カサハリ楽しい? 乳首トーンはるくらい楽しい?」
プリンスの質問には。
「…………」
黙ってアナログ同人原稿を差し出すことで応えた。
「うわすごい。ナルトとサスケが結婚してる! まじなの!?」
「…………」
猫獣人がちょっと恥ずかしそうにしながら、今度は酒瓶を取り出した。
この後、プリンスは猫獣人と共にべろんべろんになるまで酔って、虹色のリバースをした。
かくして一行は獣浄土の探索をいちど切り上げ、拠点へと帰ることにした。
それぞれのおみやげを手にして。
「それじゃあみんな、いくよ!」
木のうろを前にして、『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)はかくかくしたキューブを高く掲げた。
青白い光が漏れ、やがて虹色に変わり、周囲の人々を包み込んでいく。
すると、うろの向こうに虹色の道が生まれた。
「へー、こんな風に出るんだ。カクレザト!? カクレザトなの!?」
ナルトゥ!? とか言いながらテンションをあげる『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)。
「ゴリラさんたちに感謝だね」
「あの人たちも土地神さまだったのかな」
奏空の言葉に、『ゴリラカレー職人』栗落花 渚(CL2001360)もこくこくと頷いた。
昔の人ってのはなんでもかんでも奉ったので、胡麻にも豆腐にも空の雲にも神がいてそれぞれ小さく土地を守っているという考え方をしていたそうな。ゴリラなんつったらキリンと同じで妖怪(この世界で言うと古妖)の一種と思われていてもおかしくはなかった。そのまま奉られたパターンだろうか。
「わーっ、道がキラキラしてる! すっごいねー!」
両手を広げ、背面スキップで進んでいく『新緑の剣士』御影・きせき(CL2001110)。
「この先にはどんなひとたちがいるのかな。おむすびころりんみたいな所なんでしょ?」
「大変興味深い事実ですな……民俗学や歴史学にとって革命的ですらある」
きせきほどあからさまでは無いが、『教授』新田・成(CL2000538)もどこか興奮している様子だ。
彼らが向かっているのは言ってみれば神の間である。ギリシャ神話のオリンポスや北欧神話のヴァルハラのようにご大層ではないが、迷い込んだ人々の資質を問うて現世に返すという、割と大事な局面に出てくる場所である。
「なんだか、お伽噺の世界みたいでわくわくするよね」
『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)は振り返り、『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)は頷いた。
「聞けば、埋め立て地になるまえに小さな島があったと聞きますし……」
燐花は島を埋め立てたことで何か悪いことがおきてしまっているのではと考えてみたが、それは確かめてみないとわからないことだ。さしあたってジムカタ辺りに聞いてみれば、どういう風に埋め立てたのか分かるはずだ。
その辺りを察したのか、恭司がカメラをいじりながら言った。
「神社の上にビルを建てる時、屋上に神社を移転したりするよね。もし島に祠か何かがあったなら、それを移転する筈なんだ。博物館に『獣の洞』があるようにね」
獣浄土へのゲートというかなり重要なアイテムを博物館に展示しちゃうあたり、その辺りを分からずにやっているフシはあるが……。
「博物館っていえば、木弓が欠けていたわよね。えっと、人類最古の兵器としての弓……だったかしら?」
博物館のプレートから読み取った知識をそのまま言っているのでふんわりしているが、椿の脳裏に浮かんでいるのは原始人が半月状の弓を構えているさまである。正確なところを言うと、弥生時代に日本人類が集落とか堀とか神殿とか作るようになった頃のシロモノで、現代の弓よりもやたら幅が広いことと木材のしなりを利用することが特徴。イメージとしては、シュワちゃんがプレデター殺す時の奴が近い。つまり矢も研いだ木である。
……ということろまで、成は考えて黙った。
なぜなら、光の道が終わろうとしているからだ。
●マガツユヅル
道を抜けた先には見慣れた青空があった。
紅葉が真っ赤に染まり、桜の花が散り、冬椿が咲き乱れ大玉となっていた。
季節感がどうかしている。実際ほんのり暖かく、そして爽やかに涼しい気候をしていた。
「うん……どうやら常識そのものが歪んでるみたいだね」
手持ちのカメラで撮影してみた恭司は、画像が真っ暗闇になっていることを確認した。そして妖の気配を察し、もう一つのカメラに持ち替えてシャッターを切る。
GM建設の作業員が拾ったという神具カメラだ。飛来した矢が空中で燃え尽き、力なく恭司のそばにからからと落ちる。
「感覚を研ぎ澄ませて置いて正解だったねぇ。早速、出てきたみたいだよ」
物陰から現われた妖を見て、燐花と奏空が前へ出た。
「風よ、力よ……!」
奏空の強い祈りが力になり、燐花へと被さっていく。燐花もまた自らを加速させ、妖に飛びかかる。
見たところ木弓を装備した人間のようだ。革だか板だかよくわからない装束を纏っていて、顔はよく見えない。
燐花の繰り出した斬撃が妖の腕を即座に切り落とす。
が、落とされた腕は消滅し、切断面から新たな腕が生えてきた。
どこからともなく矢をとると、秒間数十発の速度で矢を乱射してきた。
そんなの普通は無理だと思うところだが、人間とて身体のつくりが変わるくらい鍛錬を積めばマシンガン並の連射が可能だという。それこそ伝説の話だが。
「不気味な感じだねぇ。自己再生ができるのかな?」
恭司は連写モードで味方のうける矢のダメージを消去していく。
どちらかと言えば、相手の与えるダメージ量の方が多い具合だ。
「負けてられないわね……!」
椿は和弓を構えると、背中の矢筒から次々と矢を抜いて放った。
それも秒間2~3発。円周軌道で走りながらである。相手ほど狂ってはいないが、かなり熟達した腕前である。
椿の放った矢は鏃に空圧を宿し、相手の身体にざくざくと刺さっていった。
が、刺さるのはごく一部。奇妙なサイドステップで矢をかわしていく。
「かなり素早いタイプみたいだ。よく狙って!」
奏空の助言を受けて、成ときせきが挟み込むように接近。
一方で渚が背後に大きく回り込み、メタルケースから大量に取り出した金属注射器を構えた。
「二段構えで行きましょう」
「ざんざんずばんって感じだね、いいよ!」
成は妖の退路を阻むように交差斬撃を繰り出し、一方できせきは自らの身体ごと回転させながら強引に斬りかかりにいった。
退路を失った妖がめちゃくちゃに切り裂かれる。
が、すぐにボディを再生させて飛び退き、矢の連射を浴びせてきた。
「させないよ……!」
注射器を大量投擲してカウンターヒールをしかける渚。
一部の矢が成の肩に刺さったが、うろたえる様子はない。
「分かりましたね?」
「うん!」
成ときせきは頷き合い、そして仲間たちに呼びかけた。
「本体は弓です。あのボディはそれを打つための人形にすぎません」
「切りつけようとしたら弓を庇ったもん。だからあそこを狙えばいいんだよ!」
「ほんとに? シキガミじゃん! ナルトゥ!」
今日は妙にテンションの高いプリンスである。
さておき。
「ここは獣浄土っていってね、ブッソーなものは持ち込み禁止だよ!」
着地直後の妖を狙って飛び込むプリンス。
空中で縦回転をかけると、ハンマーもろとも妖に突っ込んだ。
防御したボディもろとも弓を叩き付け、地面に押し込む。
が、次の瞬間巨大なあばら骨のようなものが弓を守って展開した。
プリンスの強烈なハンマーアタックが阻まれる。
「おっと? シンゲキ? 今度はシンゲキのやつ!?」
今日のプリンスは漫画ファンのテンションでいくらしい。
再びさておき。
ボール状のボディから二十本ほど腕を生やすと、ぎゅっと固定した弓に矢をつがえはじめた。マシンガン波の射撃や腕や指を増やしたせいだったようだ。
「土のない所に押し込んでみたらどうでしょうか」
「いいね、それ。採用だ」
燐花の呟きをひろって、恭司が妖めがけて連写。火花が次々にはじけ、妖は何度もよろめいた。土で作ったあばら骨で防御しているが、それをピント調節ですり抜けて弓だけ撮影しているようだ。
「押し込めばいいんだね、まかせて!」
きせきは沢山のひまわりの種をポケットから取り出すと、妖めがけて手を翳して見せた。
手の中で育った大量のひまわりが物理的な波となって妖を突き飛ばす。
大きく吹き飛んだ妖は障子戸を破って長屋らしき建物の中へ突っ込んでいく。
畳の上で起き上がり、ばたばたと虫のように暴れる妖。
「効果覿面って感じね。おっと、逃がさないわよ!」
椿がここぞとばかりに弓を狙い撃ちにした。
使った矢は通常弾とは違って補足鋭く、刺さった衝撃で鏃が傘のように開くという特別製である。ホローポイントアローとか呼んでいる。
畳に固定された土人形。
あっそうだ開けばいいじゃんと気づいたのか骨格標本のようにすけすけになった妖が矢の拘束から逃れ――た直後にプリンスのハンマーがすっ飛んできた。
胴体を粉砕され、あたりにつちくれとなって飛び散る。
「オジャマシマス! あっタタミじゃ靴脱がなきゃ」
丁寧に靴を脱いであがったプリンスは、漆喰の壁に突き刺さったハンマーを抜いて今度は弓を直接ゴルフスイング。
吹き飛んだ弓が、せめてもの抵抗として大量の矢を辺り構わずまき散らす。
が、それにも構わず奏空ときせきが同時に切り込んだ。
大量の小さな腕が切断される。
更に飛び込む燐花と成。
彼らの斬撃が弓を三分割し、ばらばらになった弓はその場に散った。
「みんな、大丈夫っ?」
駆け寄った渚が救急箱を開き、きせきに刺さった大量の木の矢を抜いていく。
勿論握ってガッと抜くのでなく、刺さった表皮に特殊なゲル状の薬品を塗って捻るように抜いていく。
矢の先端がスマートな針状になっていたことを考えて、逆に捻った方が肉体を傷付けないこと、そして出血を薬品が抑えひいては圧力の影響で傷口を薬品が埋めることを考えての処置である。
一方で、地面に散った弓は消滅し妖化前の状態へと戻った。
木弓だったが、どうやら弦が切れて壊れてしまっているようだ。
「このままじゃ博物館に返すこともできないわね」
「直す手段があればいいんですが……」
椿は残念そうにため息をついて、燐花はとりあえずという風に弓を回収した。
●獣浄土
折角来たのだから探索しない手はない。
皆は別に一塊になる必要もないので、適当に散って獣浄土の観光を始めた。
獣浄土と分かって来るのと知らずに迷い込むのとではワケが違う。
「どうもお騒がせしました。これはほんの土産です」
そう言って成が取り出したのは熊本の地酒であった。
「ほほう……」
亀の甲羅を纏った老人というべきか、老いた亀に髭が生えた者というべきか、とにかく亀獣人が成の酒を興味深そうに眺めた。
「酒を持ってくるとは分かっておるのう」
「杯を交わすことは、同朋となる証。学生諸君も覚えて置いて損は無いでしょう」
「えっと……飲んでもいいの? だめだよね」
成に杯を向けられて、奏空はおそるおそる手に取った。
「未成年の飲酒喫煙は法律で禁じられていますが、たとえば祭事などで杯の表面を舐める程度は飲酒にカウントされません。要するにアルコールの摂取量が――」
話が長くなりそうだったので、奏空は打ち切るつもりでいただきますした。
そらからしばく。
成と奏空は亀獣人や鼠獣人たちと共に宴を楽しんだ。
出てくるお餅やどら焼きを楽しみつつ、お酒やお茶を飲むのだ。
「所で、皆さんはどのように土地神となったのですか?」
「おぼえてなーい」
「とちがみってなーに?」
「すごいの?」
鼠獣人たちはそんな様子だ。自覚してなったものではない、らしい。
成は、人間が生まれたときの記憶を持たないのと同じだと考えた。
「質問を変えましょう。なぜ、あの島を去ったのです?」
「さった?」
「どこにもいってないよ」
「ずっとここにいたよー」
「ふむ……」
成は考え込んだ。
獣浄土の獣人たちは、何も変化はしていないつもりのようだ。
むしろ変わったのは人間側のほう。
「そういえば、最近は灯籠が流れてこんくなったのう。十年前じゃったか、二十年まえじゃったか、百年前じゃったか……」
「どんなスケールで生きてるんだろうこの人」
亀獣人は記憶のスケールがでかすぎて覚えていないらしく、鼠獣人に至っては『ぼくきのううまれたー』『ぼくはいっしゅうかんもいきた!』とか言ってるのでアテにならない。
奏空は質問を加えてみることにした。
「古妖の成り立ちをしりたいな。古妖ってなんでできたの?」
「ほぬ?」
「こよう?」
「こようってなーに?」
「すごいの?」
これは聞き方が悪かった。というか、古妖という概念自体人間が勝手に作った『人間でも動物でも妖でもないなんか』というカテゴリーなので、なりたちを聞く時点で色々間違えていた。
ともかく。
獣浄土が元々担っていたなにかの役目が、冷酷島側の何らかの干渉によって閉ざされたと考えるべきだろう。
一方こちらは椿と渚組。
「土地神じゃなくなったというより、道が閉ざされたって感じね」
「国が外交をやめた結果、大使じゃなくなった……みたいな感じ?」
「じゃあ、大使館みたいなものがあったわけよね」
こちらも同じような結論に行き着いたらしい。
それで実際なにをやってんのかといえば、狸獣人や狐獣人に囲まれお饅頭をもぐもぐしていた。
「祠を建ててあげればいいのかな。でも……」
その辺の石を適当に突き刺して『はい祠!』とはいかなそうである。いや、要は気持ちの問題なんだろうけど、何かそれじゃあ肝心なものが足りないような気がしたのだ。
「これは仮説なんだけど、実際その役割があったものを……妖かなにかが破壊しちゃったんじゃないかしら」
「妖が祠を破壊? そんな知能ないと思うけどなあ」
そこまで言って、渚は嫌な汗をかいた。
もしそこまでの知能があったら。
それはもう、ランク3どころの騒ぎじゃない。
ランク4かそれ以上の最重要案件である。
「へえ、それじゃあ……灯籠が流れてこなくなった頃から、獣人が増えなくなったんだね?」
恭司はキャッキャしている雀獣人のギャルたちに囲まれて、そんなことを話していた。
「アタシたち何度も生まれ変わるし記憶とか無いからマジなこと知らないんだけどー」
「灯籠が流れてくると増えるらしーんだよねー」
「おじさん次撮って、自撮りってやつやってみたーい!」
「うでくもー!」
モテモテだった。
というのも、通常のカメラでは撮影できない獣浄土の光景が、恭司の持ってきたLTNA(レトナ)でなら撮影できたからである。別に手元に残るわけじゃあるまいに。
結果、恭司は雀獣人たちにモテていた。
あと。
「………………」
燐花がなんかほんとによくわかんない表情で一連の様子を眺めていた。
恭司にも分からないし、もしかしたら燐花本人も分かってないんじゃないかという具合である。
「えっと」
気を取り直して、という風に鞄から桜餅を取り出す燐花。
「お菓子を作ってきたのですが、いかがでしょうか」
「「かーわーいーいー!」」
燐花ももれなくモテた。
さてこちらはプリンスときせき組。
「カサハリローニンだー! サメラだー!」
「…………」
時代劇でよくみる傘張りの光景を見つけて、プリンスが死ぬほどテンションを上げていた。
それもちょんまげを結った猫獣人が、ちょっとくたびれた和服姿でやっていたのでテンションはマックスだった。
「…………」
黙ってこちらをにらむ猫獣人。
おこなの? と思ったけど。
「……」
黙っておはぎの入った笹の包みを出してきた。
開いてプリンスときせきの前に置くと、顎を一度しゃくってからかさはり作業に戻った。
食えというらしい。
で、食べてみたらなまら美味しいおはぎであった。
「おいしー! はかせに持って帰ってもいいかな!」
きせきがキラキラした顔で言うと、猫獣人はもう一つ笹の包みを持ってきてきせきに手渡した。
「わーい!」
そらから暫く、きせきは彼らのことについて聞いたりした。猫獣人は無口だったが歓迎はしているらしく、頷いたり唸ったりして応えてくれた。
どうも、物心ついたときからこの長屋で暮らしていて、ずっと同じことをして過ごしているらしい。
「カサハリ楽しい? 乳首トーンはるくらい楽しい?」
プリンスの質問には。
「…………」
黙ってアナログ同人原稿を差し出すことで応えた。
「うわすごい。ナルトとサスケが結婚してる! まじなの!?」
「…………」
猫獣人がちょっと恥ずかしそうにしながら、今度は酒瓶を取り出した。
この後、プリンスは猫獣人と共にべろんべろんになるまで酔って、虹色のリバースをした。
かくして一行は獣浄土の探索をいちど切り上げ、拠点へと帰ることにした。
それぞれのおみやげを手にして。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『小さな葛籠』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:蘇我島 恭司(CL2001015)
『小さな葛籠』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:柳 燐花(CL2000695)
『狐の花』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:三島 椿(CL2000061)
『ねずみのこだち』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
『猫酒』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)
『亀の甲』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:新田・成(CL2000538)
『ねこおはぎ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:御影・きせき(CL2001110)
『狸饅頭』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:栗落花 渚(CL2001360)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:蘇我島 恭司(CL2001015)
『小さな葛籠』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:柳 燐花(CL2000695)
『狐の花』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:三島 椿(CL2000061)
『ねずみのこだち』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
『猫酒』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)
『亀の甲』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:新田・成(CL2000538)
『ねこおはぎ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:御影・きせき(CL2001110)
『狸饅頭』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:栗落花 渚(CL2001360)
