妖退治の日常譚
妖退治の日常譚


●ごはんのためならえんやこら
 文鳥 つらら(nCL2000051)は運命的な貧乏である。
 自宅は燃えるし財布は落とすしソフトクリームはなめる前から消し飛ぶ超絶不幸少女である。
 けれどなんでか毎日幸せそうな超絶ポジティブ少女でもあった。
 自宅が洞窟でも所持金10ガバスでもソフトクリームの紙しか持ってなくても毎日楽しく暮らしていた。
 が、お腹がすくものは、すく!
「まってくださーい! しんでくださーい!」
 翼をぱったぱったやりながら、氷の柱みたいな杖をぶんぶん振り回すつらら。
 突然何言い出すのかと思ってみれば、彼女のさきにはカラスが巨大化したような妖が飛んでいた。
「あなたを倒したらお金貰えるんですー! ごひゃくえんなんですー!」
 妖退治の報酬にしてはクッソ安いが、どうやらつららには死活問題であるらしい。
 ふりゃーと言いながら空中に杖を振り込むと、先端から溶けた霧が魔方陣を描き、逆に氷結してできた小さな氷のナイフがカラス妖へとホーミングしながら殺到した。
 ふぎゃーといって八つ裂きにされ、消し飛ぶカラス妖。
 退治を完了すると、しっかり後片付けをしてからふうと息をついた。
「これで……こんばんはお肉がたべられまふ……」
 口の端から、涎がたおれた。



 これは、妖退治を日常とするファイヴ覚者たちの、日常のなかの日常。
 彼らが普段チーム依頼で見せる姿とはまた別の、知られざる物語。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.なんかしらの妖と戦闘をする
2.なし
3.なし
 こちらはキャラクターの日常を掘り下げ、より深く深く心にしみこませるための日常シナリオです。
 キャラクターの日常風景を想像し、触れ、そして垣間見てみましょう。

●妖と戦う日常風景
 一般的な人々と違って、ファイヴ覚者は妖と戦うことを常としています。
 もちろん戦士じゃなく研究者として入った人もいますし、もっとべつの人助けを想像して入ったひともいるのですが、大体は妖と戦っております。
 そんな彼らが、日常、ひとりで妖と戦っている場面を描くのがこのシナリオとなっております。

 普段から町をパトロールしている人もいるでしょう。
 自治会からお金を貰っているひともいれば、近所のゴミ拾いくらいの感覚でやっている人もいるはずです。
 ファイヴからシングルで依頼を受けたひともいるでしょう。その場合はファイヴからご氏名で依頼を受けたことにしてもかまいません。
 キャラクターの日常的な妖退治のシチュエーションを、想像してみましょう。

●シチュエーション
・このシナリオはシチュエーションを描くものですので、通常行なうような戦闘判定や命数復活処理といったものを行ないません。
 ですので、いつも書くような戦闘プレイングは全く必要ありません。
 どころか出てくる敵の内容ですとか、戦闘の流れですとか、最後にどんな風に決着がつくのかまで指定して頂いてかまいませんし、むしろしてください。
 華麗に戦い、完璧に勝った! といったプレイングをぜひぜひ書いちゃってください!

・先程も申しましたが、戦う妖の設定も自由に考えて頂いて構いません。
 世界観にあわないこともあるかもしれませんが、こちらでちゃんと世界観にあったアレンジをしますのでご安心くださいませ。
 強いて注意することがあるとすれば、強さはランク1までにしておいて頂きたい、ということでしょうか。あまり強すぎる敵ですと、色々不具合がでてしまうことがございますので。
 またどうしても描けない状況を指定された場合は(ないとは思いますが大妖を一人でやっつけるといった内容など)、全面的に内容を差し替えることもあるかもしれません。そう滅多にあることじゃありませんが、一応念のためご注意くださいませ。

・お友達と一緒に戦う日常風景を見たい! という方もいらっしゃると思います。
 このシナリオはそういった状況を想定してはおりませんが、一応可能ですので、その場合は一度お友達と打ち合わせして頂いて、プレイング内で○○と一緒に戦う風景ですといったような、それとわかるような注意書きをご記載くださいませ。
 またすれ違い事故ぼうしのため、一方が二人プレイを希望していてもう一方が希望していない場合は、それぞれシングルとして扱いますのでご注意ください。

 それでは、よい覚者ライフを!
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年07月26日

■メイン参加者 8人■

『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『ストレートダッシュ』
斎 義弘(CL2001487)
『ちみっこ』
皐月 奈南(CL2001483)
『花屋の装甲擲弾兵』
田場 義高(CL2001151)
『F.i.V.E.の抹殺者』
春野 桜(CL2000257)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)

●『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の妖退治
 蝉の声を聞くと思い出す、一昨年の夏の出来事。
 当時発現して間もない奏空は鍛錬と慈善事業(近所のゴミ拾い的感覚)をかねて墓地の妖退治に励んでいた。
 妖といっても低級妖ばかりで、殺虫剤を撒くような気持ちで駆除していくばかりだ。
 それでも先代からなかば強引に任された寺である。掃除を欠かすわけにはいかない。
「おじさん、俺に寺を任せてどこいってんだろ。あれ?」
 ふと見ると、倉の扉が壊れていた。それまで開けたことの無かった倉だったので、つい……。
「開いちゃったなら、不可抗力だよねえ……」
 そっと中に入ってみ――ようとした途端、扉をぶち破って幽霊が飛び出してきた。
 幽霊? 否……。
「心霊系の妖!」
 衝撃で吹き飛ばされた奏空は身体をひねってうまく着地。
 相手の状態を観察する。
 四つ足の獣のようだが、どんな動物とも似つかない。古い日本人が想像して画に描いたという『とら』や『ぬえ』を思わせた。
「こいつ……!」
 奏空は咄嗟に術式を君で雷を放ったが、妖はジグザグな動きでそれらを回避。まるで当たる気がしない。向かってくる妖を切りつけたが、刀が途中でぼきりと折れてしまった。
「雑魚とは全然違う! この刀じゃだめだ……!」
 思うもつかの間、奏空は再び突き飛ばされた。
 今度は倉の中へと転がり込む。壁に激突したひょうしに、棚からふたふりの刀が落ちてきた。
 考える暇は無い。刀を抜き、突っ込んでくる妖に斬りかかる。
 何が起きたのか、当時の奏空には認識できなかった。
 気づけば妖は消滅し、ぺたんと座り込んだ奏空だけがあった。
 いや、手元に二本の小太刀が残っていた。
「おじさん、あんた何者だったんだ……?」

●『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)の妖退治
「はいはい! カノシマでーす! 出前ですか? あざーっす!」
 鹿ノ島遥のアルバイト。それはピザの配達でもラーメンの出前でもなく、単独の妖退治である。
 今やファイヴの大事な戦力となった遥は、そのファイブから時々シングルの討伐依頼を受けることがあった。
 なんといっても国のお墨付き。夢見の予知以外にも民間人から通報を受けたり企業から駆除を依頼されたりと妖討伐の仕事は絶えない。そのたびに『行きたい人ー』とかいって募集をかけていたら集まるもんも集まらないという話である。
 その点、遥は依頼されれば即飛んでいき、なんも考えずに敵をボコボコにして帰ってくるという素直さが売りだった。
「さーてお仕事お仕事、頑張るぞっと!」

 かくしてやってきたのは秩父山中。
「あれ? そういやどんな奴が出てくるか聞いてなかったな」
 空を見上げて呟く遥。茂みから光る眼光。牙を剥いて飛びかかる狼の妖――を手刀で瞬殺し、空を見上げたままぼーっとしていた。
「まあいっか。出てきたらわかるだろ。どんなやつかな」
 地面が急激に隆起し、土がバケモノとなって襲いかか――てくる前に踏みつぶしてあくびをした。
「もしかして宇宙人みたいなやつかも!」
 空を円盤型の飛行物体が飛び、光と共にリトルグレイ的心霊物体が降下す――る直前にデコピン波動で消し飛ばし、頭をぽりぽりとかいた。
「なんでもいいや。どんな奴にも通じる新しい武術を作って、オレ流派を打ち立ててやる! なーんつってな」
 気づけば山頂にたどり着いていた。
 周囲の霜が巨人となって遥の背後に現われ彼を叩き潰――す前に後ろ回し蹴りで跡形も無く消滅させ、うーんと背伸びをした。
「暴力坂のおっさんが見せたあの強さをオレは知ってる。人はあんだけ強くなれるんだ。いつかオレもたどり着いてみせる……!」
 と、そこで。
「あれ? そんで、駆除して欲しい妖ってどれだ?」
 いつのまにか依頼を完遂し、遥はご当地グルメを喰ってぱーっと帰ったという。

●『ストレートダッシュ』斎 義弘(CL2001487)の妖退治 
「ランク1妖、薄暗い廃屋で足場も悪い……か。了解した。その仕事、引き受けよう」
 ファイヴに所属する多くの覚者の中で、義弘は堅実な男として知られている。
 シングルの依頼を真面目に引き受けてくれるというのも勿論あるが、主な理由は彼の戦いへのスタンスにあった。
「俺の足が役に立つはずだ」

 廃屋の前に来て覚醒状態にチェンジ。着ていた服はそのままに、はいていた靴を消してスパイクフットを露出させた。
 彼の因子特徴部位であり、ある意味強みのようなものだ。
 何度かざくざくと地面を踏んでみて、義弘は頷いた。
 ハイバランサーのような足場安定化スキルと、きっと相性がいいはずだ。
「これなら足場も悪くならないだろう」
 メイスを手に、廃屋へと踏み込んでいく。

 義弘が戦士になったキッカケは、『誰かに守られたこと』にあった。
 ある日の町中。妖に襲われた義弘を、見知らぬ誰かが身を挺して守ってくれたのを覚えている。
 命の助かった義弘は、そんな風になりたいと思うようになり、そして今尚かつての光景をまぶたの裏に見ている。
「おっと」
 物陰から飛び出してきた犬の妖を、メイスでもって打ち払う。
 悲鳴をあげてはねとび、再び物陰に隠れる妖。
 どこから出てきてもいいように暗視をはたらかせて周囲を伺うが、そんな時あるものを発見した。
 子供である。
 廃屋に忍び込んだ子供か。しかし犬妖の存在に気づいてその場に縮こまっているようだ。
 だが妖は子供の気配を察し、先に殺そうと走り出した。
「いかん……!」
 義弘は素早く間に割り込み、自らの腕でもって犬の牙を受け止めた。
 食い込む牙とその痛みに耐えながら、メイスを力一杯叩き込む……!

 静かになった廃屋から、義弘と子供が出てきた。
 子供は泣くし義弘の顔はいかついしでどうにも困ったが、ふと腹の虫がないた。
「どうだ……甘い物でも、食べに行くか」
 子供がふと泣き止んだ。

●『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)の妖退治
「いってきまーす!」
 家族がいるっていいことだ。
 奈南は学校へゆく道すがら、いつもそんな風に思う。
 通勤する父親と一緒に道を歩く時の、数分間の特別を、奈南はいつも大事にした。
 開けた外の、それも何かの途中ではあるのだけれど、奈南と父親だけの時間と空間が、そこにはあった。
 そんな時のことである。
 ひゃあ、という悲鳴が聞こえてきた。
 よく道で出会うおばあさんだ。散歩が趣味なのか、いつも決まった時間にすれ違う。しかし今日は道から外れたところで縮こまり、空を飛ぶ黒い影におびえていた。
「むむ……!」
 空を見上げ、肉眼でズーム。常人では不可能なほどの遠視で、上空の物体をとらえた。
 黒い鳥。カラスだ。
 すぐ近くを飛んでいる……わけではない。巨大さゆえに遠近感がおかしくなっているのだ。そんな巨大な物体がそうそういるはずがない。
 妖がいる。
 おばあさんがいる。
 お父さんがいる。
 それだけで、奈南が戦う理由は百パーセント以上揃っていた。
「妖ちゃん! お父さん、隠れててねぇ!」
 奈南は父親に手を振ると、不可視状態になっていた守護使役ワワンを呼び出した。
「いっくよぉ……かくせいっ!」
 おばあさんのいる方へ向かって走りながらジャンプ。
 ワワンがワッと口を開くと不自然なスポットライトが奈南を包み、制服がそっくりな神具防具へチェンジされ、手元にはホッケースティックが出現する。
 奈南はそれをがしりと掴んで着地、アンドダッシュ。
 縮こまるおばあさんの前でブレーキアンドターン。
 スティックを、野球のバッターのように構えて立った。
 奈南を最重要目標だと本能的に察したのか、妖が急降下による攻撃をしかけてくる。
 迎え撃つようにスティックを振り込み、波動のディスクを発射。
「カッキーン!」
 ディスクは妖を貫き、一瞬にして倒してしまった。
「これにていっけんらくちゃく! もう安心だよぉ! またねぇ!」
 おばあさんに挨拶をして、奈南は再び走り出した。
 父親と一緒の通学路は奈南にとって大事な……。
「あっ、野良猫ちゃんだぁ!」
 ブロック塀の上に見つけたネコを見て、奈南はぴょんぴょん跳ねた。
 奈南の寄り道は、つづく。

●『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)の妖退治
 あるカフェで、義高はこんな風に語った。
「世界平和なんていうのはよ、よほど暇なやつか、よほどの物好きか、自己中が行き過ぎたやつの語ることだと思うぜ。特に、世界平和を守るために戦う、なんてことを個人のレベルでいうなんてよ」
 覚者はスーパーマンじゃない。
 どこかの誰かが皮肉交じりに言ったことだ。確かに空も飛ぶし目からビームも出す。乗用車を素手で持ち上げて投げる奴だっているだろう。しかしどこまでいっても個人を超えることはなく、人類世界というのは七億ぐらいの個人でできている。
「所詮はてめぇの正義、ってことなのさ」
 義高には家庭があった。
 妻がいて、子供がいた。
 義高が仕事でイヤなことがあっても笑顔(?)で働けるのも、健康保険料がかさんだからと国に文句を言わないのも、近所付き合いを大事にするのも、みな家族を守るためである。
 世の全ての父親、ないしは男、ひいては人類すべてに共通する戦い。
 家族を守るための戦い。
 それが、義高の戦う意味であり、宿命だった。

「っつーわけで、お前にゃくたばってもらうぜ」
 鼻頭を親指でぬぐって、義高は武器を握りなおした。
 両手で担ぐようなウォーアックス。
 金属板や獣革を重ねて作られた鎧を着て、義高は巨大なネズミの妖と対峙していた。
「お前のせいでご近所さんが脅かされてるってんでな。勿論うちの奥さんと娘もだ。ってことは、俺が出てくるのは当然だよな」
 妖が突撃をしかけてくる。
 まずは術式を使って鎧を強化。黄金の石が彼を包み、鼠の突撃をこらえた。
「おら……っ!」
 斧を振り上げ、気合いを入れる。義高オリジナルの戦闘術、もとい『斧を叩き込むコツ』である。
 欠点は強化術であるために術式その他と同居できないことだが、スタイルチェンジと考えればいい。
 妖が逃げる前に気合いを練り上げ、そして斧を全力で叩き込んだ。
 相手を粉砕し、地面をも砕く斧。
 義高の相棒こと、ギュスターブ。
「分かってるぜギュスターブ。お前に恥じるような戦いはしねえよ」
 義高は斧を肩に担ぎ直し、深く息をついた。
 明日もまた、家族のために戦う。

●『F.i.V.E.の抹殺者』春野 桜(CL2000257)の妖退治
 歪んだものは元には戻らない。
 周囲がどんなに幸せを提供しても、きっと世界が平和になったとしても、妖が根絶されたとしても、桜の歪みが正されることはないだろう。
 なぜなら彼女の歪みは、『それ以前』のものなのだから。

「ころしましょう」
 どこか遠くの空をぼんやりと眺めて、桜はそう言った。
 川沿いの土手を歩き、買い物用のエコバッグを手にして、家事の途中であるかのようにエプロンを腰に巻いたまま、まさに近所のスーパーマーケットへ夕飯の買い出しにいく道すがら、桜はそんな風に言った。
 道行くひとやすれ違う人々が口にする、妖の噂を小耳に挟んだからである。
 勿論それだけではない。SNSの発達し、日本にも満を持して携帯電話用電波が普及した昨今である。スマートホンを開けば妖の目撃情報などいくらでも手に入った。勿論ガセも多いが、慣れてくれば見分けもつく。
 本当らしい目撃情報に目星をつけて、桜ははっきりと述べた。
「その妖を、殺さないと」
 エコバッグから、出刃包丁を取り出した。

 子供が怪我をしたらしいから殺す。
 主婦がおびえているらしいから殺す。
 くさい臭いがするらしいから殺す。
 息をしたから殺す。
 存在したから殺す。
 妖だから殺す。
 殺す。
 きっと放って置いたら、桜の大事なものを傷付けるかもしれない。
 きっと屠ったら、大事なひとが帰ってくるかもしれない。
 だから殺す。
 殺す。
 殺す。
 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。
 気づけば、草むらは血だらけになっていた。
 野良猫だか野良犬だか、とにかく野生動物が妖化したものが群れていた場所である。今あるのは動物の死体ばかりだ。
 本能的に逃げ出した妖が土管の中で縮こまっていたが、桜はその足を掴んで引きずりだした。
「あっはは、よかった。まだいたのね。こんなところに隠れて。ねえ」
 死ね。
 桜は出刃包丁を逆手に握って、ウサギだった妖を刺し殺した。
 妖だったウサギの死体を刺し壊した。
 ウサギの死体だった肉塊を刺し乱した。
 肉塊だった泥を刺し混ぜた。
 ぐちゃりと泥に包丁を突き立て、桜は動きを止めた。
「あら? もう終わったのね」
 なんだか晴れやかな気分だった。
 そして放り投げられたエコバッグを見て、微笑む。
「買い物の途中だったわね。行かないと、食材を買って帰って、美味しいご飯を作らないと。そうすればきっと……」
 泥だらけのエプロンを投げ捨て、服や頬に血がついたまま、スーパーマーケットへ向かう。
「彼も喜んでくれるわ」

●『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)の妖退治
 ラーラ・ビスコッティを構成する三つの要素について述べよう。
 少女。
 魔法使い。
 そして、甘いお菓子である。
 今日も甘いお菓子を求めて和菓子店を訪れたラーラは、『クリーム抹茶わらび餅』とかいう神めいたお菓子を求めて行列に並んでいた。
 ほとんど液体のようなとろんとしたわらび餅には抹茶と砂糖と薄いきなこがまぶされ、中には黒蜜と生クリームが三層サンド構造になって詰まっている。
 冷蔵庫で冷やされたそれは手に取るとひんやりと冷たく、傾ければ水滴のように転がり、口に頬張った時の爽快感と抹茶の香りにときめく間もなく黒蜜と生クリームによる深くて強い甘みが全身を支配する、という食べ物である。なんだよ日本人神かよ、と思うくらい和スイーツというやつは半端ねえ。あと発泡スチロール製の和柄皿と菊のオブジェが妙にインスタ映えすることも人気の秘訣である。
 余談が長すぎた。
 とにかく、そうこうしていると妖が現われた。
 唐突で申し訳ない。

「和菓子と、それを楽しみに待つお客さんは私が守ります!」
 燃え上がる炎に包まれて、ラーラは炎の魔女へと覚醒した。
 相手は心霊系妖の妖。鋭くとがったフォークを握って、長い黒髪を垂らして猫背で歩くというジャパニーズホラー感バリバリのやつである。
 ラーラはこういうの、すごく苦手だった。ゾンビやクリーチャー系もダメっちゃダメだが、問答無用で呪い殺される系のやつはもうどうしょもないから苦手だ。
「もうっ、こういうのは苦手なのに……!」
 となれば最初からフルスロットルである。夏休みの宿題は初日からかたづける派、ラーラ。苦手な敵には全力投球なのだ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」

 さて、戦うために行列から外れたラーラではあったが、店を守るために戦った彼女の功績は褒め称えて余りあるとして、行列に並んだ女子たちの拍手を浴びながら限定スイーツとその他諸々詰め合わせを頂戴した次第でありました。
 めでたしめでたし。

●緒形 逝(CL2000156)の妖退治
 妖刀回収業。
 ちり紙交換や廃品回収車と並んでなにやってんだかイマイチ不明な職業である。というか、職業なのかどうか怪しい。
 逝はその道の専門家として名声値くらいには(つまり結構な規模で)有名で、時折手に余った妖刀を回収して欲しいという依頼が舞い込むことがあった。
 まあなんだ。
 鍵屋に『どうしても開けて欲しい鍵がある』と連絡が来るようなもので、基本的には開けちゃダメなフタを持ち主の代わりに開けるのが仕事である。
 特に今回は至急の用であるらしい。だって受話器の向こうで悲鳴と破壊音がすごいんだもの。

「はー……」
 やってきたるは人の倉。戦前に建てられたと思しきたいそうな倉の中で、熊でも暴れているのかというような騒音がしていた。
 逝はヘルメットの側面を指で撫でながら、とりま依頼主に料金を説明した。
 この辺は逝の大雑把な所というか、怪しい所なのだが、料金をめちゃくちゃいい加減に設定している。気分で決めていると言ってもいいくらいだ。
 だが今回に関しては、ゼロが六つくらいはついた。
 理由は簡単。
 倉を開けてみれば、両腕を巨大な鉄板のようにした巨大な獣が暴れていたからである。斬馬刀から切れ味をとったような、それはもう分厚い鉄板そのものというような刀がふたふり(ていうか二枚)まとめて妖化しているようだ。
「はいよ、おいでおいで」
 逝はおどけた調子で妖に歩み寄ると、掴みかかってきた所を直前で回避。相手を掴んで背負い投げを食らわせた。

「ふーむ……こりゃ、神具化された妖刀さね」
 逝は落ちたふたふりを掴み上げて、そんな風に言った。
 依頼主に『これをくれるなら報酬はロハでいい』とつげ、願ったり叶ったりだと言われた所で即回収。守護使役にぱくんと喰わせ、吸い込ませた。
「いいひろいもんしたかな」
 妖刀回収業。本日の仕事はこれにて終了。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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