アウトサイドエネミーと東京大殺界
●あるブログ記事からの抜粋
ようこそ! イルミナティショーへ!
日本各地には『特異点』と呼ばれるエリアが存在することは、このサイトに訪れる皆さんは既にご存じですよね。
力の強い神社。神聖な洞窟。竜が宿るという湖などなど日本逢魔化以前から存在する純神秘のパワースポット! ……なんて言ったら安っぽくなっちゃうでしょうか。
では、そんな特異点が身近な所にも存在するという都市伝説がアングラサイトで囁かれているのは知っていますか?
東京渋谷。
神宮札の辻交差点にかかった陸橋に、『それ』はありました。
何者かの片目を中心に不思議な文字が八方を囲むという謎のステッカー。
最初はイルミナティに関わるものかとワクワクしたのですが、三角形でもないですし、どうにも違いますよね。
というわけで、当ブログが徹底調査に乗り出しました!
この場所に一ヶ月通ってみて、周囲の変化を確かめてみます!
皆さん、こうご期待!
(※三十日前の記事より)
特になんの変化もありません。
町も平和そのものですし、おもしろいものは見つかっていませんね。
(※二十五日前の記事より)
ここへ通うのがつまらなくなってきました。
気になることと言えば、あの大きな目の写真? イラスト? みたいなものがずっとこっちを見ているような気がするってだけで。
何も見つかりませんし、ここへ来るのはやめることにします。
(※二十日前の記事より)
今日もここへ来てしまいました。
僕を待っているような気がしたんです。
(※十五日前の記事より)
僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見て僕を見ている僕を見て僕を見ている僕を見てください僕を見ている僕を見ている僕を見るな
(※十日前の記事より)
約束の日が来る。備えてください。裏側の世界が開きます。
あれは僕たちに教えてくれたんです。
(※三日前の記事より)
非映像再構築技術は1987年ロシアで発表された映像パルス解析の論文をもとに作られた技術である。
通常人間は目から得た光情報をパルス信号に変換し脳へと伝えているが、その信号変換パターンを解析することで脳へ直接的に特定の映像を見せることが可能であり、その処理過程をも解析することで人間の感覚および感情を制御できることが判明した。
それは見ている風景やそこから感じる印象のみならず時間感覚や全ての認識に至るまで制御が可能であり、多くの集団に同一の認識因子を形成することで集合的無意識の意図的な生成が可能となる。非実在のものを実在させることが理論的に可能なのだ。
我々の見ている世界が本物か?
となりにいる人物は実在しているか?
昨日の記憶は現実か?
これは長い長い夢ではないのか? 誰かが作った夢の中に、我々はいるのではないか?
全てを疑え。この世界には裏がある。
(※二日前の記事より)
裏世界への入り口を見つけました。今からあちら側へ行ってきます。
(※一日前の記事より)
●アウトサイドエネミー
「あのブログが気になったの? ……そう、ならこの仕事を任せられると思うわ。後で会議室に来て」
資料をめくっていた蒼紫 四五九番(nCL2000137)が、あなたにそう言った。
「このブログの記者が、今日変死体で発見されたわ。渋谷区のラブホテルで自殺しているところよ。写真を見る? ……そう。端的に言うと、ステンレス製のスプーンを使って自らを殺傷し続けたそうよ。痛みを感じながら三時間かけてね。当初はあまりの凄惨さに他殺が疑われていたけど、司法解剖の結果自殺と確認されたわ。
そこまでの話ならあなたに頼むことはないんだけれど……死亡時刻をさかいに渋谷区の札の辻交差点陸橋に、人に危害を加える古妖の発生が確認されたの。
数は4体……だったのだけど、殺害した一般人を自分と同じ古妖にする性質を持つせいで、今では27体にまで増えているわ。封鎖処理をしたけれど、これ以上拡大する前に全て駆除してちょうだい。いいわね?
対象の写真も手に入れたわ。これよ」
人型。
皮膚を裏返しにしたようなピンク色の肌。
顔が中心に向かって螺旋状にねじれたような容姿。
「見覚えは、あるかしら? アウトサイドエネミーと、当時は呼んでいたのだけれど」
ようこそ! イルミナティショーへ!
日本各地には『特異点』と呼ばれるエリアが存在することは、このサイトに訪れる皆さんは既にご存じですよね。
力の強い神社。神聖な洞窟。竜が宿るという湖などなど日本逢魔化以前から存在する純神秘のパワースポット! ……なんて言ったら安っぽくなっちゃうでしょうか。
では、そんな特異点が身近な所にも存在するという都市伝説がアングラサイトで囁かれているのは知っていますか?
東京渋谷。
神宮札の辻交差点にかかった陸橋に、『それ』はありました。
何者かの片目を中心に不思議な文字が八方を囲むという謎のステッカー。
最初はイルミナティに関わるものかとワクワクしたのですが、三角形でもないですし、どうにも違いますよね。
というわけで、当ブログが徹底調査に乗り出しました!
この場所に一ヶ月通ってみて、周囲の変化を確かめてみます!
皆さん、こうご期待!
(※三十日前の記事より)
特になんの変化もありません。
町も平和そのものですし、おもしろいものは見つかっていませんね。
(※二十五日前の記事より)
ここへ通うのがつまらなくなってきました。
気になることと言えば、あの大きな目の写真? イラスト? みたいなものがずっとこっちを見ているような気がするってだけで。
何も見つかりませんし、ここへ来るのはやめることにします。
(※二十日前の記事より)
今日もここへ来てしまいました。
僕を待っているような気がしたんです。
(※十五日前の記事より)
僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見ている僕を見て僕を見ている僕を見て僕を見ている僕を見てください僕を見ている僕を見ている僕を見るな
(※十日前の記事より)
約束の日が来る。備えてください。裏側の世界が開きます。
あれは僕たちに教えてくれたんです。
(※三日前の記事より)
非映像再構築技術は1987年ロシアで発表された映像パルス解析の論文をもとに作られた技術である。
通常人間は目から得た光情報をパルス信号に変換し脳へと伝えているが、その信号変換パターンを解析することで脳へ直接的に特定の映像を見せることが可能であり、その処理過程をも解析することで人間の感覚および感情を制御できることが判明した。
それは見ている風景やそこから感じる印象のみならず時間感覚や全ての認識に至るまで制御が可能であり、多くの集団に同一の認識因子を形成することで集合的無意識の意図的な生成が可能となる。非実在のものを実在させることが理論的に可能なのだ。
我々の見ている世界が本物か?
となりにいる人物は実在しているか?
昨日の記憶は現実か?
これは長い長い夢ではないのか? 誰かが作った夢の中に、我々はいるのではないか?
全てを疑え。この世界には裏がある。
(※二日前の記事より)
裏世界への入り口を見つけました。今からあちら側へ行ってきます。
(※一日前の記事より)
●アウトサイドエネミー
「あのブログが気になったの? ……そう、ならこの仕事を任せられると思うわ。後で会議室に来て」
資料をめくっていた蒼紫 四五九番(nCL2000137)が、あなたにそう言った。
「このブログの記者が、今日変死体で発見されたわ。渋谷区のラブホテルで自殺しているところよ。写真を見る? ……そう。端的に言うと、ステンレス製のスプーンを使って自らを殺傷し続けたそうよ。痛みを感じながら三時間かけてね。当初はあまりの凄惨さに他殺が疑われていたけど、司法解剖の結果自殺と確認されたわ。
そこまでの話ならあなたに頼むことはないんだけれど……死亡時刻をさかいに渋谷区の札の辻交差点陸橋に、人に危害を加える古妖の発生が確認されたの。
数は4体……だったのだけど、殺害した一般人を自分と同じ古妖にする性質を持つせいで、今では27体にまで増えているわ。封鎖処理をしたけれど、これ以上拡大する前に全て駆除してちょうだい。いいわね?
対象の写真も手に入れたわ。これよ」
人型。
皮膚を裏返しにしたようなピンク色の肌。
顔が中心に向かって螺旋状にねじれたような容姿。
「見覚えは、あるかしら? アウトサイドエネミーと、当時は呼んでいたのだけれど」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.アウトサイドエネミー全27体を倒すこと(生死不問)
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
現在出てきているキーワードは『アウトサイドエネミー(OSE)』『非映像再構築技術』『裏世界』『東京大殺界』です。別のこのワードにピンとこない方でもしっかりと渦中に巻き込まれるようになっております。
●アウトサイドエネミー×27
古妖です。妖ではないのでご注意ください。
殺害された人間がアウトサイドエネミーになるという現象が起きています。
これは『初めてのこと』ですが、アウトサイドエネミーが元人間であったことは過去の報告書から判明しています。
ただしこれが元に戻ったという報告は全くないので生死は問われておりません。
警察やその他公的組織からもいわゆるゾンビハザードと同列の現象として扱われています。
戦闘能力はそこらの憤怒者と同程度。
一般的な渋谷民が形態している程度の武器(ナイフや伸縮棍棒もしくは素手)を装備しており、人間を発見すると襲いかかってきます。
これを27体全て倒すことが今回の任務となります。
生死は問われておりません。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年07月20日
2017年07月20日
■メイン参加者 6人■

●「ここはどこだ? 私は死んだのか? 現状を座視するわけにはいかぬ」
東京渋谷。
神宮札の辻交差点にかかる道路は既に封鎖されている。
こう言った手回しが聞くのも、ファイヴが国公認の組織になったがゆえだろうか。干渉を拒むが顔は利くとは、なかなか一方的な立場である。
さておき。
「……OSEの数は、『27体』で間違いないんですよね?」
納屋 タヱ子(CL2000019)の問いかけに、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は頷いて応えた。
「はい。最初から全体数が分かっていれば、撃破した数をカウントすることで完全な撃破が望めますよね」
「いえ、いや、そうなんですが、そうじゃないといいますか……」
「?」
タヱ子の(珍しく)煮え切らない表現に、ラーラは首を傾げた。
いつも異常なまでに堂々としているタヱ子だが、今日はどこか変だ。
『何か悪いものでも食べたのでしょうか』と思う一方、『タヱ子さんもオバケが恐かったりするんでしょうか。女の子ですもんね』とほっこりもした。
ラーラが聞いたのは断片的な情報だけだが、なんでもOSEとかいうオバケが渋谷に現われたそうだ。
「けど一般人が強制的に変化させられ、元に戻すすべが無いとなれば一刻を争いますね。グロテスクなのはちょっと苦手ですが、頑張りましょう!」
「……はい。そうですね。よろしくおねがいします」
タヱ子はラーラの目を見ていった。
目と顔つきと体型と全体的な特徴を隅々まで観察して、言った。
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は16歳の少年である。
大人からすれば小さなことも、この年齢の少年にとっては大きなことで、人生がどうにかなってしまう錯覚を常日頃から感じているような年齢である。
だがそれを差し引いても、今日の奏空は様子がおかしかった。
「あれはもう終わったんじゃなかったのかだってあの時あの依頼でたしかにあの人は殺されてもうでないって言われたじゃないか雛代博士だって逃げてああだめだあの人も殺されたんだでもけどだってじゃあ今出てるのはなんなんだあれも人間でなにがきっかけでこんなことになってるっていうんだまだ終わりじゃ無いのか終わってないのかだったら終わらせなきゃ殺さなきゃだめだこんなの残していたらだめだ殺さなきゃいっぴきのこらず殺さなきゃ……!」
頭をかかえてぶつぶつと呟く奏空。
「ねえ、奏空くん」
『新緑の剣士』御影・きせき(CL2001110)から声をかけられて、はっと我に返った。
返って。
「アウトサイドエネミーがまた出たなら、全部■そうね」
と、言われた。
「えっと、ごめん。今、なんていったの?」
「だから■■■は■■ないと■■■が■■■になっちゃうでしょ? だから■■■を■そうって」
「あ、うん……」
奏空は、自分が疲れているんだと思った。
きせきが言葉の端々で、OSEの奇声にも似た声を出していたように聞こえたなんて。そんなのありえない。
深呼吸をする。
深呼吸をせねばならない。
『淡雪の歌姫』鈴駆・ありす(CL2001269)はいつか見た夢の続きを、少しずつ思い出していた。
『能亜研究所』『特別顧問』。そんな単語を、自分と同じ名前を名乗る狂人から聞いたあの日から、夢の続きを思い出すのだ。
気になって、あの時自分を名乗った人間と面会させてくれるように頼んだことがある。精神病棟に隔離された女性(ありすとは年齢も見た目も違う)は自分をサメジマアツシという六十台男性だと名乗り、貿易業を営んでいると話した。彼女の自己紹介は毎日変わり、時には数時間で切り替わるという。最近はその頻度が上がってきていて、全く手がつけられないとも。
「大丈夫。今は忘れましょう。今は、『ネジレ』とは関係が無いんだから」
ネジレ。
ネジレ。
ネジレ。
過去、全ての依頼のデータベースにおいて、一切出てきたことの無いこの単語を、なぜありすが当然のように知っていたのかについて、今は誰も疑問に思わなかった。
「…………」
緒形 逝(CL2000156)が顎を上げて黙っている。
「どうかした?」
「いや、別に。目の周りに八つのマークが囲むステッカー、だったな。全て回収すべきだ。あれも」
郵便ポストを指さす逝。
「あれ、って? 見えるところにはそんなものないけど」
「……」
逝は一秒半ほど黙ってから、『そうだな』と言った。
「ああ、ないな。見つけたら回収すべきだと言ったんだ」
「そう……」
ありすは一瞬だけ、逝には自分には見えていないものが見えているのではないかと思って、その感覚を振り払った。余計なことを考えている場合ではない。少なくとも今は。
●「いやだ死にたくないいやだ死にたくないネジレなんかになりたくないなりたくない」
ラーラは菓子工房にいた。甘い香りにのってラジオから流れてくるニュースでは、日本で起きているネジレ災害について喋っている。
国民の七十パーセントがネジレと呼ばれる怪物に変化してしまう奇病、通称ネジレ病は原因不明の病であるとして日本は封鎖されているそうだ。
留学の予定があっただけに残念だと家族は話すが、そんな危険なところに行かなくてよかったとラーラは思った。
平和な日々が続いていく。平和なだけの日々が。
――という夢を、ラーラは昨晩見た。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
魔方陣を描き、炎を呼び出すラーラ。
古き言い伝えにある魔女の姿を借りて、伝えられた魔導書から魔術を呼び出すそのさまは、まさに魔女そのものである。
彼女の呼び出した炎はあたり一面を焼き、逃げ惑うOSEをも焼いていく。
中には鉄パイプを持って襲いかかってくるOSEもいたが、逝がヌッと前に出て鉄パイプをキャッチ。相手の手首を掴むと捻るようにしてその場に放り投げた。
「弱いな」
鉄パイプを強引に奪うと、振り向きざまに投擲。矢のように飛んだ鉄パイプがOSEの腹を貫き、OSEはその場にどさりと倒れた。
う、と口元を押さえて顔を背けるラーラ。
「どうかしたか?」
「いえ……こういうのは本当に苦手で」
苦手ではあるが真面目でもあるので、ラーラが戦いの手を抜くことは無い。
しかしなんだろう。
逝のこの手際のよさは、好き嫌い以前の何かを感じざるを得なかった。
「ただ斬って、倒すだけだよ。こいつらはもう人間じゃ無いんだ!」
刀を抜き、炎の軌跡を引きながら走るきせき。
中華料理店の中に逃げ込んだネジレが頭を抱えてテーブルの奥へと逃げ込む。
きせきは飛びかかり、テーブルをまるごと切断した。
「逃がさないよ! 友達をおまえみたいにするつもりなんでしょ!? そんなこと、ぜったいにさせないからね!」
感情探査を走らせる。
一応解説を加えておくが、特に強い感情がある場合その種類と概ねの位置を感知できる能力である。
OSEからは押しつぶされそうな恐怖と、そして強い混乱が感じられた。
「そんなふうに振る舞ったって、ダメなんだから!」
きせきは椅子とテーブルをまとめて破壊すると、カウンターの裏に逃げ込んだOSEを刺し殺した。
奥から包丁を持ったOSEが飛び出してくる。
が。
「包丁、ですか」
刃の部分を直に握って、そのまま固定するタヱ子。
手のひらは術式で過剰に硬化し、さらにはグローブのように小さな石が敷き詰められている。OSEは引き抜こうとして暴れ、タヱ子の顔を殴りつけた。
本来ならぷにぷにと柔らかい頬も、殴られれば血が出るであろう鼻も、綺麗にそろったまつげすらも、OSEの拳で傷つきはしなかった。
タヱ子はただ包丁の刃を掴んで、立ち、相手を見るばかりである。
「過剰な防衛力、でしたか」
OSEにいがぐりのようなものが放り込まれ、腕の所で破裂する。
緑色の血を吹き出し、慌てて包丁を手放すOSEばたばたと逃げていくそのさまを、きせきはゆっくりと追いかけた。
血の跡とにおいをたどって、厨房の奥へゆき。
そして。
「おまえたちはみんな倒すんだ! みんなをぼくがまもるんだ!」
頭を刀で貫いた。
オフィスビルの中へ逃げ込んだOSEを、奏空が慎重に追いかけていく。
奇襲を警戒してか、耳をすませてゆっくりと進む。
その後ろをありすがついていく形だ。
「こんな所に逃げ込むなんて。俺たちが数を把握してなかったら見逃してたかも」
「どのみち、感情探査と同族把握を走らせてるから取りこぼしはないわよ。この先、扉の向こうね」
階段を上がり、通路をゆく。
右側に扉。
ドアノブをひねった途端に向こう側から突き飛ばすようなタックル。
身体の軽い奏空は通路の壁に叩き付けられたが、そこは百戦錬磨の彼である。すぐさま雷獣の術式を発動させ、掴みかかってきたOSEを焼き殺した。
崩れ落ちるOSEを踏み越え、室内に突入。
するとOSEがオフィスチェアを投げて反撃してきた。
「こんなもので……!」
刀で切断。
直後、ありすが炎を放ってOSEをまるごと焼いた。
丸焦げになって倒れるOSE。しかし反応は無くなっていない。
強烈な恐怖と、古妖の反応。
ありすはハンドサインを出しながら、スチールデスクの裏へ回った。
すると。
まるで両耳を覆うように手で頭を押さえ、うずくまって丸くなるOSEがいた。
震えているようだ。
奏空はごくりとつばを飲み込んだ。
そして、送受心を試し――。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
「しっかりして、しっかり――しなさいってのよ!」
ありすに平手打ちされ、奏空は叫ぶことをやめた。
やめて、目を開いたまま気絶した。
「いくら古妖だからって、こんなのにコンタクトをとったら何が流れてくるかわかったもんじゃないのに……もうこんなことするんじゃないわよ」
ありすは奏空を抱えた。しかしOSEはどうするか。確か一体ほど捕獲して研究に回すとか言っていたような気がする。
研究ってなんだろう。電流でも流して実験するんだろうか。奏空は善意で言ったつもりだと思うが、確実に非道な人体実験に発展するだろう。まして人間をOSE化する技術が見つかり、それが漏れ出もしたら、たぶん奏空は自分の責任だと思い込んでふさぎ込むかもしれない。
「……気が重いわね」
「なら殺せばいい」
ざくり、と刀がOSEに刺さった。
ふと見上げると、そこには逝がいた。
逝は無感情なほどスムーズにOSEを刺し殺していた。
「なんで殺したの? 彼(奏空)の話を聞いてからでも……」
「…………」
ありすの問いかけに、逝は何も応えなかった。
●東京大殺界
これは後日談ではない。
結果であり、行動に連続した現象である。
一週間後、渋屋にて。
OSE化する人間が続出した。
数日かけて徐々に肉体が変化していったケースが殆どであり、彼らは鏡を見せても他人に説明されても自分がOSEになっていることを一切認識せず、それどころかいつも通りの日常を送ろうとしていた。
見た目以外は何も変わっていないように。
まるで日常が歪みきってしまったかのように、渋屋の町には無害なOSEがあふれた。
都庁や渋谷自治体はこれに対して『ネジレ病は治る病気です。差別のない社会を作りましょう』などと宣伝して回った。
主に16歳前後の高校生に多かったことから、高校を装った収容施設をたて、OSE化した人々を抱え込んだ。
彼らは自分がOSEになっていることを一切認識しないまま、普通の高校生活を永遠に送っているつもりでいるという。
こうして、渋屋に平和が戻った。
表向きには。
東京渋谷。
神宮札の辻交差点にかかる道路は既に封鎖されている。
こう言った手回しが聞くのも、ファイヴが国公認の組織になったがゆえだろうか。干渉を拒むが顔は利くとは、なかなか一方的な立場である。
さておき。
「……OSEの数は、『27体』で間違いないんですよね?」
納屋 タヱ子(CL2000019)の問いかけに、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は頷いて応えた。
「はい。最初から全体数が分かっていれば、撃破した数をカウントすることで完全な撃破が望めますよね」
「いえ、いや、そうなんですが、そうじゃないといいますか……」
「?」
タヱ子の(珍しく)煮え切らない表現に、ラーラは首を傾げた。
いつも異常なまでに堂々としているタヱ子だが、今日はどこか変だ。
『何か悪いものでも食べたのでしょうか』と思う一方、『タヱ子さんもオバケが恐かったりするんでしょうか。女の子ですもんね』とほっこりもした。
ラーラが聞いたのは断片的な情報だけだが、なんでもOSEとかいうオバケが渋谷に現われたそうだ。
「けど一般人が強制的に変化させられ、元に戻すすべが無いとなれば一刻を争いますね。グロテスクなのはちょっと苦手ですが、頑張りましょう!」
「……はい。そうですね。よろしくおねがいします」
タヱ子はラーラの目を見ていった。
目と顔つきと体型と全体的な特徴を隅々まで観察して、言った。
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は16歳の少年である。
大人からすれば小さなことも、この年齢の少年にとっては大きなことで、人生がどうにかなってしまう錯覚を常日頃から感じているような年齢である。
だがそれを差し引いても、今日の奏空は様子がおかしかった。
「あれはもう終わったんじゃなかったのかだってあの時あの依頼でたしかにあの人は殺されてもうでないって言われたじゃないか雛代博士だって逃げてああだめだあの人も殺されたんだでもけどだってじゃあ今出てるのはなんなんだあれも人間でなにがきっかけでこんなことになってるっていうんだまだ終わりじゃ無いのか終わってないのかだったら終わらせなきゃ殺さなきゃだめだこんなの残していたらだめだ殺さなきゃいっぴきのこらず殺さなきゃ……!」
頭をかかえてぶつぶつと呟く奏空。
「ねえ、奏空くん」
『新緑の剣士』御影・きせき(CL2001110)から声をかけられて、はっと我に返った。
返って。
「アウトサイドエネミーがまた出たなら、全部■そうね」
と、言われた。
「えっと、ごめん。今、なんていったの?」
「だから■■■は■■ないと■■■が■■■になっちゃうでしょ? だから■■■を■そうって」
「あ、うん……」
奏空は、自分が疲れているんだと思った。
きせきが言葉の端々で、OSEの奇声にも似た声を出していたように聞こえたなんて。そんなのありえない。
深呼吸をする。
深呼吸をせねばならない。
『淡雪の歌姫』鈴駆・ありす(CL2001269)はいつか見た夢の続きを、少しずつ思い出していた。
『能亜研究所』『特別顧問』。そんな単語を、自分と同じ名前を名乗る狂人から聞いたあの日から、夢の続きを思い出すのだ。
気になって、あの時自分を名乗った人間と面会させてくれるように頼んだことがある。精神病棟に隔離された女性(ありすとは年齢も見た目も違う)は自分をサメジマアツシという六十台男性だと名乗り、貿易業を営んでいると話した。彼女の自己紹介は毎日変わり、時には数時間で切り替わるという。最近はその頻度が上がってきていて、全く手がつけられないとも。
「大丈夫。今は忘れましょう。今は、『ネジレ』とは関係が無いんだから」
ネジレ。
ネジレ。
ネジレ。
過去、全ての依頼のデータベースにおいて、一切出てきたことの無いこの単語を、なぜありすが当然のように知っていたのかについて、今は誰も疑問に思わなかった。
「…………」
緒形 逝(CL2000156)が顎を上げて黙っている。
「どうかした?」
「いや、別に。目の周りに八つのマークが囲むステッカー、だったな。全て回収すべきだ。あれも」
郵便ポストを指さす逝。
「あれ、って? 見えるところにはそんなものないけど」
「……」
逝は一秒半ほど黙ってから、『そうだな』と言った。
「ああ、ないな。見つけたら回収すべきだと言ったんだ」
「そう……」
ありすは一瞬だけ、逝には自分には見えていないものが見えているのではないかと思って、その感覚を振り払った。余計なことを考えている場合ではない。少なくとも今は。
●「いやだ死にたくないいやだ死にたくないネジレなんかになりたくないなりたくない」
ラーラは菓子工房にいた。甘い香りにのってラジオから流れてくるニュースでは、日本で起きているネジレ災害について喋っている。
国民の七十パーセントがネジレと呼ばれる怪物に変化してしまう奇病、通称ネジレ病は原因不明の病であるとして日本は封鎖されているそうだ。
留学の予定があっただけに残念だと家族は話すが、そんな危険なところに行かなくてよかったとラーラは思った。
平和な日々が続いていく。平和なだけの日々が。
――という夢を、ラーラは昨晩見た。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
魔方陣を描き、炎を呼び出すラーラ。
古き言い伝えにある魔女の姿を借りて、伝えられた魔導書から魔術を呼び出すそのさまは、まさに魔女そのものである。
彼女の呼び出した炎はあたり一面を焼き、逃げ惑うOSEをも焼いていく。
中には鉄パイプを持って襲いかかってくるOSEもいたが、逝がヌッと前に出て鉄パイプをキャッチ。相手の手首を掴むと捻るようにしてその場に放り投げた。
「弱いな」
鉄パイプを強引に奪うと、振り向きざまに投擲。矢のように飛んだ鉄パイプがOSEの腹を貫き、OSEはその場にどさりと倒れた。
う、と口元を押さえて顔を背けるラーラ。
「どうかしたか?」
「いえ……こういうのは本当に苦手で」
苦手ではあるが真面目でもあるので、ラーラが戦いの手を抜くことは無い。
しかしなんだろう。
逝のこの手際のよさは、好き嫌い以前の何かを感じざるを得なかった。
「ただ斬って、倒すだけだよ。こいつらはもう人間じゃ無いんだ!」
刀を抜き、炎の軌跡を引きながら走るきせき。
中華料理店の中に逃げ込んだネジレが頭を抱えてテーブルの奥へと逃げ込む。
きせきは飛びかかり、テーブルをまるごと切断した。
「逃がさないよ! 友達をおまえみたいにするつもりなんでしょ!? そんなこと、ぜったいにさせないからね!」
感情探査を走らせる。
一応解説を加えておくが、特に強い感情がある場合その種類と概ねの位置を感知できる能力である。
OSEからは押しつぶされそうな恐怖と、そして強い混乱が感じられた。
「そんなふうに振る舞ったって、ダメなんだから!」
きせきは椅子とテーブルをまとめて破壊すると、カウンターの裏に逃げ込んだOSEを刺し殺した。
奥から包丁を持ったOSEが飛び出してくる。
が。
「包丁、ですか」
刃の部分を直に握って、そのまま固定するタヱ子。
手のひらは術式で過剰に硬化し、さらにはグローブのように小さな石が敷き詰められている。OSEは引き抜こうとして暴れ、タヱ子の顔を殴りつけた。
本来ならぷにぷにと柔らかい頬も、殴られれば血が出るであろう鼻も、綺麗にそろったまつげすらも、OSEの拳で傷つきはしなかった。
タヱ子はただ包丁の刃を掴んで、立ち、相手を見るばかりである。
「過剰な防衛力、でしたか」
OSEにいがぐりのようなものが放り込まれ、腕の所で破裂する。
緑色の血を吹き出し、慌てて包丁を手放すOSEばたばたと逃げていくそのさまを、きせきはゆっくりと追いかけた。
血の跡とにおいをたどって、厨房の奥へゆき。
そして。
「おまえたちはみんな倒すんだ! みんなをぼくがまもるんだ!」
頭を刀で貫いた。
オフィスビルの中へ逃げ込んだOSEを、奏空が慎重に追いかけていく。
奇襲を警戒してか、耳をすませてゆっくりと進む。
その後ろをありすがついていく形だ。
「こんな所に逃げ込むなんて。俺たちが数を把握してなかったら見逃してたかも」
「どのみち、感情探査と同族把握を走らせてるから取りこぼしはないわよ。この先、扉の向こうね」
階段を上がり、通路をゆく。
右側に扉。
ドアノブをひねった途端に向こう側から突き飛ばすようなタックル。
身体の軽い奏空は通路の壁に叩き付けられたが、そこは百戦錬磨の彼である。すぐさま雷獣の術式を発動させ、掴みかかってきたOSEを焼き殺した。
崩れ落ちるOSEを踏み越え、室内に突入。
するとOSEがオフィスチェアを投げて反撃してきた。
「こんなもので……!」
刀で切断。
直後、ありすが炎を放ってOSEをまるごと焼いた。
丸焦げになって倒れるOSE。しかし反応は無くなっていない。
強烈な恐怖と、古妖の反応。
ありすはハンドサインを出しながら、スチールデスクの裏へ回った。
すると。
まるで両耳を覆うように手で頭を押さえ、うずくまって丸くなるOSEがいた。
震えているようだ。
奏空はごくりとつばを飲み込んだ。
そして、送受心を試し――。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
「しっかりして、しっかり――しなさいってのよ!」
ありすに平手打ちされ、奏空は叫ぶことをやめた。
やめて、目を開いたまま気絶した。
「いくら古妖だからって、こんなのにコンタクトをとったら何が流れてくるかわかったもんじゃないのに……もうこんなことするんじゃないわよ」
ありすは奏空を抱えた。しかしOSEはどうするか。確か一体ほど捕獲して研究に回すとか言っていたような気がする。
研究ってなんだろう。電流でも流して実験するんだろうか。奏空は善意で言ったつもりだと思うが、確実に非道な人体実験に発展するだろう。まして人間をOSE化する技術が見つかり、それが漏れ出もしたら、たぶん奏空は自分の責任だと思い込んでふさぎ込むかもしれない。
「……気が重いわね」
「なら殺せばいい」
ざくり、と刀がOSEに刺さった。
ふと見上げると、そこには逝がいた。
逝は無感情なほどスムーズにOSEを刺し殺していた。
「なんで殺したの? 彼(奏空)の話を聞いてからでも……」
「…………」
ありすの問いかけに、逝は何も応えなかった。
●東京大殺界
これは後日談ではない。
結果であり、行動に連続した現象である。
一週間後、渋屋にて。
OSE化する人間が続出した。
数日かけて徐々に肉体が変化していったケースが殆どであり、彼らは鏡を見せても他人に説明されても自分がOSEになっていることを一切認識せず、それどころかいつも通りの日常を送ろうとしていた。
見た目以外は何も変わっていないように。
まるで日常が歪みきってしまったかのように、渋屋の町には無害なOSEがあふれた。
都庁や渋谷自治体はこれに対して『ネジレ病は治る病気です。差別のない社会を作りましょう』などと宣伝して回った。
主に16歳前後の高校生に多かったことから、高校を装った収容施設をたて、OSE化した人々を抱え込んだ。
彼らは自分がOSEになっていることを一切認識しないまま、普通の高校生活を永遠に送っているつもりでいるという。
こうして、渋屋に平和が戻った。
表向きには。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
