<黒い霧>動き出す暗殺部隊
●黒霧による暗殺任務
そこは、何処かの建物内。
暗い室内で、沢山の黒装束の者達が跪く。
椅子に座った青年は机の上に高く積まれた書類の中から、一枚の書類を手に取った
「では、依頼をこなすとしようか」
その紙に貼られていた顔写真は、スーツ姿で厳つい顔をした初老の男性。名前は、大瀧・恵三と書かれてあった。
「財界の重鎮らしいが……、相手が誰であろうとこれも依頼だ」
そうだなと呟いた青年は、跪く人影の中から1人を書類で指し示す。
そこで、表を上げた1人の女性はまだ若いが、椅子に座る青年よりは年上だろうか。
「君は黒霧に忠義が篤い。……だから、任務を持ってそれを示して欲しい」
「はっ」
涼しい顔をして青年が告げると、女性は小さく返事をして立ち上がる。彼女は数人の構成員を連れ、その場を去っていく。
「さあ、仕事が溜まっている。君達にも働いてもらうよ」
椅子に座った男……霧山・譲は、そうして、構成員達へと任務を与えていくのだった。
会議室へと集められた覚者達。
そこに現われたのは、中 恭介(nCL2000002)だった。
「財界の要人が暗殺される事件が夢見によって予見された」
そこで、久方真由美(nCL2000003)が進み出て、資料を覚者達の手元へと渡す。
「狙われているのは、大瀧・恵三という、財界の大物です」
かなりやり手の男であり、様々な手を使ってのし上がってきた男だ。
その手段には汚い手段もあり、多くの人を蹴落として路頭に迷わせていると言われる。
それだけに、敵も多い男だ。だからこそ、こうして暗殺依頼が出ていてもおかしくはないと、本人も割り切ってすらいるらしい。
夢見で彼の殺害が予見された為、これを防ぐのはもちろんなのだが、わざわざ恭介が出てきたことには理由がある。
「どうやら、その暗殺を行うのが黒霧構成員だという話だ」
『黒霧』……それは、七星剣幹部、『濃霧』霧山・貰心が立ち上げた部隊。
だが、霧山・貰心は何らかの形ですでに没しており、現在はその息子、譲が二つ名と親の基盤を受け継いで実効支配を行うと共に、親が行っていた活動を再開させている。
「元々、情報収集、諜報、潜伏支配などといった活動は先代の死後も行われていましたが、ここに来て、暗殺任務も表立って再開させたようですね」
支配基盤を固めた霧山・譲が本気を出したということか。ならば、F.i.V.E.としても全力で阻止せねばならない。
「で、依頼内容だが……」
恭介が言うには、大瀧は寝る間もなく、四六時中車での移動、財界関係者との密談や、企業のイベント参加と寝る間を惜しんで働いているそうだ。
それには全てボディガードが付き添っているが、今回はそれを覚者達に依頼することになる。
「私が見た夢見の状況では、とある企業イベントの控え室にいるところを狙われてしまうようです」
現場はとあるビルの高層階。控え室といっても、ホテルのスイートルーム並みの待遇を受ける男だ。
襲撃がないタイミングでは、大瀧は室内に他人を入れることを拒むらしい。この為、その入り口と窓で、大瀧の命を奪う侵入者がいないか警備を行うこととなる。
「とはいえ、一度の護衛は4人が限界だろう。状況に応じてメンバーをチェンジするといい」
護衛以外のメンバーは情報収集、遊撃に当たるなどして役割分担すると、スムーズに敵を迎撃できるかもしれない。
状況としては以上だが、恭介はさらに覚者達へと告げる。
「おそらく、ここで暗殺を阻止しても、黒霧がさらに大瀧氏狙ってくることが予想される。その場合はまた依頼を出すことになるが、よろしく頼む」
狙われた男を護るのはもちろんだが、黒霧の活動を阻むことも主目的の一つ。手堅く、一つずつその活動を阻止していきたい。
「以上です。検討を祈ります」
真由美はそうして頭を下げ、ブリーフィングは終了となったのだった。
そこは、何処かの建物内。
暗い室内で、沢山の黒装束の者達が跪く。
椅子に座った青年は机の上に高く積まれた書類の中から、一枚の書類を手に取った
「では、依頼をこなすとしようか」
その紙に貼られていた顔写真は、スーツ姿で厳つい顔をした初老の男性。名前は、大瀧・恵三と書かれてあった。
「財界の重鎮らしいが……、相手が誰であろうとこれも依頼だ」
そうだなと呟いた青年は、跪く人影の中から1人を書類で指し示す。
そこで、表を上げた1人の女性はまだ若いが、椅子に座る青年よりは年上だろうか。
「君は黒霧に忠義が篤い。……だから、任務を持ってそれを示して欲しい」
「はっ」
涼しい顔をして青年が告げると、女性は小さく返事をして立ち上がる。彼女は数人の構成員を連れ、その場を去っていく。
「さあ、仕事が溜まっている。君達にも働いてもらうよ」
椅子に座った男……霧山・譲は、そうして、構成員達へと任務を与えていくのだった。
会議室へと集められた覚者達。
そこに現われたのは、中 恭介(nCL2000002)だった。
「財界の要人が暗殺される事件が夢見によって予見された」
そこで、久方真由美(nCL2000003)が進み出て、資料を覚者達の手元へと渡す。
「狙われているのは、大瀧・恵三という、財界の大物です」
かなりやり手の男であり、様々な手を使ってのし上がってきた男だ。
その手段には汚い手段もあり、多くの人を蹴落として路頭に迷わせていると言われる。
それだけに、敵も多い男だ。だからこそ、こうして暗殺依頼が出ていてもおかしくはないと、本人も割り切ってすらいるらしい。
夢見で彼の殺害が予見された為、これを防ぐのはもちろんなのだが、わざわざ恭介が出てきたことには理由がある。
「どうやら、その暗殺を行うのが黒霧構成員だという話だ」
『黒霧』……それは、七星剣幹部、『濃霧』霧山・貰心が立ち上げた部隊。
だが、霧山・貰心は何らかの形ですでに没しており、現在はその息子、譲が二つ名と親の基盤を受け継いで実効支配を行うと共に、親が行っていた活動を再開させている。
「元々、情報収集、諜報、潜伏支配などといった活動は先代の死後も行われていましたが、ここに来て、暗殺任務も表立って再開させたようですね」
支配基盤を固めた霧山・譲が本気を出したということか。ならば、F.i.V.E.としても全力で阻止せねばならない。
「で、依頼内容だが……」
恭介が言うには、大瀧は寝る間もなく、四六時中車での移動、財界関係者との密談や、企業のイベント参加と寝る間を惜しんで働いているそうだ。
それには全てボディガードが付き添っているが、今回はそれを覚者達に依頼することになる。
「私が見た夢見の状況では、とある企業イベントの控え室にいるところを狙われてしまうようです」
現場はとあるビルの高層階。控え室といっても、ホテルのスイートルーム並みの待遇を受ける男だ。
襲撃がないタイミングでは、大瀧は室内に他人を入れることを拒むらしい。この為、その入り口と窓で、大瀧の命を奪う侵入者がいないか警備を行うこととなる。
「とはいえ、一度の護衛は4人が限界だろう。状況に応じてメンバーをチェンジするといい」
護衛以外のメンバーは情報収集、遊撃に当たるなどして役割分担すると、スムーズに敵を迎撃できるかもしれない。
状況としては以上だが、恭介はさらに覚者達へと告げる。
「おそらく、ここで暗殺を阻止しても、黒霧がさらに大瀧氏狙ってくることが予想される。その場合はまた依頼を出すことになるが、よろしく頼む」
狙われた男を護るのはもちろんだが、黒霧の活動を阻むことも主目的の一つ。手堅く、一つずつその活動を阻止していきたい。
「以上です。検討を祈ります」
真由美はそうして頭を下げ、ブリーフィングは終了となったのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.保護対象の護衛
2.黒霧の撃退
3.なし
2.黒霧の撃退
3.なし
黒霧が大きく動きを見せております。
今回は導入シナリオとなりますが、
各地で暗躍する暗躍する彼らの活動を、止めていただきたく思います。
●敵
○黒霧構成員×4
黒装束で全身を纏う隔者達です。
・小隊リーダー……藤本・円(ふじもと・まどか)。
27歳女性。翼×水。刀を武器としております。
力量は覚者の皆さんより、やや上。
上からの任務を愚直に守る、やや寡黙な女性です。
・小隊員×3
覚者の皆さんよりもやや力は劣ります。
暦×火、怪×天、獣(猫)×木。いずれも苦無を武器としております。
黒霧は以下のスキルを持っています。
・隠密……気配を全く感じさせず、移動することが出来ます。
覚者であっても、発見は容易ではありません。
・離脱……戦闘が終われば、
例え戦闘不能になっても戦場から跡形もなく消え失せます。
●NPC
○大瀧・恵三(おおたき・けいぞう)、67歳。
財界の大物。企業グループを纏め上げ、
経済団体でも幅を利かせられるほどにのし上がった男です。
それだけに敵も多く、
誰が黒霧に暗殺依頼をしたのかもわからぬ状況です。
●状況
高層ビルの15階。
控え室ではありますが、
ホテルのスイートルームのようになっており、
100㎡もの広さがあります。
部屋にはトイレ、風呂もついており、
居間とベッドルームがあります。
出入り口は廊下からの入り口と部屋内の通路の避難口、
部屋にいくつかある通気口。
居間やベッドルームには窓があります。
大瀧は待ち時間に居間でソファーに腰掛けつつ、
ノートパソコンのチェックを行い、
僅かな間の仮眠を取っているようです。
普段はボディガードを2人雇っていますが、
予見では殺害されてしまうようで、暇を出しております。
それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年08月08日
2017年08月08日
■メイン参加者 8人■

●黒霧という組織
とあるビルへとやってきたF.i.V.E.の覚者達。
ここで、直に暗殺が行われるという情報を元に、一行は暗殺対象となる男性の護衛に当たる。
「大瀧様ですか」
財閥会長の孫娘である『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は、その名に聞き覚えがあったらしい。あまり評判が良くない方という印象を受けていたようだ。
「だからと言って、殺されて良い訳はありませんわね」
他のメンバー達がいのりの主張に頷く。
「最近、暗殺の動きが七星剣で見られる」
やや小柄な少年の『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が耳にしている範囲内でも、その活動はかなり目立つ。
外堀から埋めていこうという手口なのだろうが、それだけ彼らがF.i.V.E.を脅威に思っている証拠だと、奏空は考えていた。
だが、逆に捉えると、七星剣に対して少しずつ揺さぶりをかけ、外壁を剥がしていくことにも繋がる。
「俺達、F.i.V.E.にね」
そして今回、その暗殺に動いているのは……。
「霧山……動きだしたのか」
やんちゃな少年といった印象の『霧を切り裂くと誓う者』切裂 ジャック(CL2001403)の呟きに、朱のドレスを纏う『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が頷く。
「ようやく後を継ぐ気になったのかしら、ユズル? けれど、貴方の企みは私たちが止めてみせるわ」
「黒霧……アイツの手下か。むざむざ好きにさせてやる道理はないな」
相手の思い通りにさせるわけにはいかない。釣り目、三白眼の容貌の『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)もまた、同意する。あちらも似たことを思っているのだろうが、気にする意味もない。
「伸ばした手足の先から、切り落としてやるさ」
しかしながら、暗躍する黒霧は厄介な相手ではある。
「敵は『隠密』っていう、すごいスキル使うみたい」
「離脱の技能ですか……」
今時の女の子といった見た目の『マジシャンガール』茨田・凜(CL2000438)の言葉に、魔女っ子スタイルの『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が唸りこむ。
これまで、ラーラが交戦した黒霧の構成員も、戦いの後に姿を消す不可解なケースが何度かあった。
「組織に対する情報を手に入れる上では、かなり厄介なスキルと言わざるを得ませんが」
その対策を練りたいところではあるが、目下のところは今の状態でやるしかない。
「奴らの濃霧は、この俺が切り裂いてみせようか」
ジャックが黒霧討伐に意欲を見せると、再びメンバー達が頷き合う。
「護衛対象は絶対守るよ! 七星剣の思い通りにはさせない!」
「力の及ぶ限り、しっかり護衛させて頂きますわ」
奏空、いのりは意気込みを見せながら、ビルの正面入り口から入っていくのである。
●保護対象の警護
このビルにやってくる途中、メンバー達は夢見の情報を元にどうやって黒霧から大瀧を護るか、話を詰めていた。
送受心を発動させた奏空がメインの通信役、司令塔として動く。彼はこのビルの間取り図を仲間達へと配り、護衛任務に役立てる。
「ふむ、構成が割れてるのは良いねえ」
一方で、フルフェイス、黒スーツの緒形 逝(CL2000156)は黒霧構成員小隊の能力と合わせ、奇襲方法を想定する。
「翼人による奇襲か、或いは翼人に意識を向けさせてからのバックスタブが想定されるな」
なれば、翼人が手練、残りはそれ以下の能力ということだろうか。
さらに、天井裏などの通気口が通れるらしい。確実性を重視し、隊員がそこを通ってくる可能性は十分。
また、従業員に化けての侵入、照明を落としての強襲。逝はあらゆる状況を想定していた。
程なく、メンバー達はビル15階に到着する。
イベント待ちの為に控え室に詰めていた財界の大物、大瀧・恵三と、一行は面会した。
「話は聞いている。抜かりなく頼む」
見るからに、威圧感のある風貌の大瀧。多くの人を蹴落としてきたこの男に思うことはあれど、いのり、奏空は簡単に挨拶を交わし、早速警備に当たることとなる。
警備班は4人。控え室とはいえ、ホテルのスイートルーム並みの待遇を受ける大瀧のこと。その部屋はかなり広い。
廊下からの出入り口には、エメレンツィアと逝が当たる。
本格的な警備の前に、エメレンツィアは大瀧のいる上のフロア、16階の様子を確認していた。
「大体おなじような構造のようね」
エメレンツィアは見回りながらも、15、6階のみ包むように細やかな調整をしつつ、彼女は人払いを進める。別班の情報収集と若干かち合う部分はあるが、いらぬ被害を及ぼさぬ為に仕方ない処置と言えよう。
その上で、彼女は全部屋へと熱感知を行い、ドアをノックして、それぞれの部屋にいた人へと状況を説明していく。
「申し訳ないのだけど、この階から少し離れていてもらえるかしら。警備上の理由で」
それもあって、人々はしぶしぶその階から移動していたようだ。
逝もまた警備に付く前に、大瀧のいる控え室上階と、左右の部屋を空けるよう、イベント側に頼む。
「一応、大瀧のプライベートの為よ」
逝は自身の名声も合わせて頼むと、イベント主催も他の参加者に控え室の移動を依頼し始めていたようだ。
部屋の逆側、いのりは避難口側を警戒する。そこは非常階段となった場所だったが、彼女はそこで、自分達と大瀧以外の何物かの臭いをかぎわけようとしていた。
奏空は大瀧に事情を話し、内側から窓などの施錠を行う。
どうやら、この部屋にベランダの類はない。
だが、相手が翼人となれば、窓からの侵入もありうると奏空が指摘する。窓の外に人を配置することができぬ以上、やむを得ず大瀧は窓の警備を1人だけ許可すると折れていたようだ。
『何かあったら、念で話せます、ので』
その奏空は慣れぬ丁寧語で大瀧に念を使って説明し、彼の仕事や休息の邪魔にならぬよう立ち振る舞う。
もっとも、物質透過する人間には、大瀧もさすがに集中力を削がれてしまう様だったが。
さらに、奏空は送受心で皆へと、定期確認を行う。
『遊撃班は通気口の警備もよろしくね、あと、情報収集も』
すでに班分けは終えており、奏空は別班、遊撃班となるメンバー4人、ラーラ、ジャック、凜、赤貴へと依頼する。
通気口に潜伏していたのは、ラーラ、赤貴だ。
さほど広くない場所だったが、ラーラは守護使役の力を借りてしのびあしでの移動を行い、隠密行動を意識する。彼女は敵の動きを把握できるよう、超視力も忘れず働かせていた。
(探索能力そのものが低くても、警戒のしようはある)
赤貴もまた探索を行うが、生憎と暗視以外のスキルは探索に不向き。それでも、彼は状況を隈なく確認する事で、スキル不足を補おうとする。
例えば通気口なら、どれだけ気配を消そうと、移動で埃がふき取られる。埃を瞬時に積もらせるなど、発現者であろうとできるはずもない。
凜もまた通気口を気に掛けつつ感情探査を行い、周囲の警戒を行う。
その間、お菓子や水を撒き、例え黒霧の姿が見えずともわかるようにと、凜は対策を練っていた。
また、凜はタブレットを使い、大瀧のノートパソコンへとWEBカメラのハッキングを試みる。うまく成功したようで、彼女はそれで控え室内の状況確認も行う。
ジャックも感情探査を使い、このビルで働く従業員、イベント関係者などに探りを入れつつ、直接の聞き込みなどに当たる。
(汚い手段でのし上がったとしても、それを正義の味方みたいに粛清する動きを七星がするとは考えにくい)
財界の重鎮で、F.i.V.E.を支援するというなら、七星剣が大瀧を叩く理由にはなるが……。どうやら、大瀧本人はF.i.V.E.について、そういう組織があるという認識しかないようだった。
ならば、七星剣に不利益を与えた可能性。あるいは、大瀧に恨みを持つ者が黒霧を雇った。彼の手がけた事業、それによって没落した誰か。多額の金の動き……。
(元の根から絶たないと、今回大瀧を護ってもまた狙われたら意味がない)
ジャックはイベント関係者や大瀧の周囲にいる企業グループ関係者の経歴を洗って詰問することで、少しでも動揺がないかと見る。
黒霧は潜伏を得意とする。これで敵が見つかれば話は早い。
ただ、ジャックにとって最大の障害は、洗う為の情報量が多すぎたことだろうか。それを洗うだけでも彼は手いっぱいだったようだ。
さて、警備に当たるメンバー達。
エメレンツィア、逝は部屋の出入り口に戻り、警備を続ける。
逝は大瀧の感情も見る。現状は穏やかなもの。こうして暗殺があると宣言されていたなお、動揺する素振りはほとんど見られない。
死角となりそうな場所から、物質透過される可能性を否定せず、エメレンツィアは警戒を強める。
彼女は大瀧へと面会しに出向いてきた者、ルームサービスも全て追い払っていた……が。
「ん……?」
そこで、逝が気づく。そのルームサービスを運んできた、ビルのスタッフらしき男が発する感情に。
「感情は抑えても管理しても、引っかかるモノだ」
敵の明確な使命感、殺意、組織への忠誠といったものを、逝は感じ取っていたのだ。
それと同時に、窓の外から控え室内へと飛び込んできた翼人。さらに、通気口と非常口から別々に敵が襲い来る。
『敵襲だよ!』
『敵襲よ』
『敵だ』
メンバー達が一斉に、敵の襲来を仲間達へと伝達することとなる。
ともあれ、あからさまに危険なのは、窓を破壊して飛び込んできた黒ずくめの翼人。
『翼人の黒霧が来るよ!』
奏空が仲間達へと伝えると、皆、部屋の中に入り、大瀧の護りに動く。
「……ぬ」
ぴくりと眉を動かす大瀧。出入り口と非常口、通気口にいた敵……黒霧構成員もまた部屋の中へと飛び込んでくる。
それぞれの警備に当たっていたメンバー達も部屋に入りつつ、そいつらの牽制を行う。
赤貴は覚醒せず、素早く大瀧の前に飛び込む。
それぞれの場所の敵を部屋に迎え入れる形となりながらも、護衛班も大瀧のいる居間へと駆け込んでいく。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
叫ぶラーラは覚醒して髪を銀に染め、焔を周囲に舞わせて黒霧へと応戦を始めたのだった。
●黒霧襲撃
「ぬ……」
ゆっくり立ち上がる大瀧。
外からやってきた翼人の女性が刀を手に大瀧へと襲い掛かろうとするが、覚醒することで髪を金に輝かせた奏空が物質透過で駆けつけ、敵の刃を受け止めた。
両腕を戦闘機の主翼のように変化させた逝、右肩の刺青を空色に輝かせた凜も壁を抜け、素早く駆けつける。
続き、部屋に降り立った赤貴が髪を銀に変色させ、この場にやってきた黒霧構成員達に津波の如き形状の炎を浴びせかけた。
覚醒して17歳の姿となり、ボンデージ衣装に身を包むいのりが続いて駆けつけて大瀧の前に立ち塞がる。連れていた人魂を吸収し、第三の目を開眼させたジャックも並んだ。
出入り口から入ってきたエメレンツィアも髪を赤く染め、遊撃しながら応戦を開始する。
一方、全身黒ずくめの相手……黒霧構成員の小隊は4人。
敵も照明を落とす余裕まではなかったのか、灯りが付いたままで大瀧の護衛となるF.i.V.E.メンバーの排除に乗り出す。
「霧山の手の者ですわね。思い通りにはさせませんわ!」
いのりは現われた黒霧へと高密度の霧を発し、敵の能力弱体化をはかった。
霧に霧。それでも、一定の効果はあったようだ。
「霧山は元気?」
ジャックは敵を捕らえようと、その腕を掴もうとする。
「…………」
だが、敵が苦無を投げ飛ばしてきたことで、ジャックも開眼した目から怪光線を発して敵を射抜く。
「…………」
隣の敵もまた何も言葉を発することなく、苦無を直接振るってくる。
「さて、守宮に花装、本来の使い方をしてあげよう……」
逝は両手に妖刀、『鎧塚守宮』と『花装鋼生』の二振りを構える。
「……守るんだ。何処の誰であろうとね。この襲撃を凌ぎきるぞう!」
じっと後衛に布陣し、逝は大瀧のガードに徹した。
エメレンツィアもまた力を高め、水の滴を相手へと飛ばし、黒霧を牽制する。
敵の人数が揃っている事を確認し、仲間達が駆けつけたことを見て、奏空も攻撃に打って出た。彼は雷雲を発生させ、手前の敵へと雷を叩き落としていく。
しばし、控え室内で繰り広げられる戦い。
敵の翼人女性、藤本・円はかなりの手練。黒霧小隊は執拗に大瀧を狙うが、覚者達に阻まれることとなる。
眠りへと敵を誘う空気に包み込むいのり。敵小隊の1人がぐらりと眠気を覚えて倒れこむ。
凜は仲間達を援護しつつ、飛んで来る苦無などに気をつける。
(子ども残して入院するのは、嫌なんよ)
こう見えて、1児の母である凜。子供の為にも深手を負うことだけは避けようと、彼女は戦場を立ち回る。
前線に立つ赤貴は、猛然と敵に攻め立てていた。
(警戒や探索で貢献がしづらい以上、こいつらを蹴倒してやらねば役立たずだからな)
赤貴は敵に逃げ場を与えぬようにと、ラーラに合わせる形で攻撃していた。
「何度来たとしても、暗殺なんて物騒なことはさせませんよ」
英霊の力を引き出したラーラは、敵が前衛として3人いることを確認し、描いた魔法陣から真紅の火猫を呼び出す。
火猫は部屋の中を疾走し、黒ずくめの者達に炎の衝撃で痺れを与えていく。
それに合わせ、赤貴は地を這う連撃を敵陣に浴びせかける。
相手は『霧山の手下』。彼はシンプルに敵を認識し、構成員の1人を床へと沈めた。そいつはすぐに煙のように消えていく。
超視力を働かせたラーラは一度それに視線を落とした後、すぐさま残る敵の挙動を注視し続けていた。
出揃う形で黒霧と対面した後は、覚者達がやや優勢に戦いを進める。
いのりは大瀧狙いの攻撃を防ぎつつ、敵に光の粒を降らして敵を倒す。そいつはジャックが腕を掴んだ相手であったが、煙に包まれて姿を消していた。
眠りから目覚めた隊員には、ラーラが拳大の炎を連続して浴びせかける。そいつはよろめいて崩れ落ち、やはりかき消えるようにいなくなる。
残るは翼人の小隊長、藤本。沙門叢雲を振るう赤貴は、敵の強さを感じながらも、ただダメージを与えるべくその刃を叩き込む。
一時は戦況が膠着したこともあり、敵は覚者達の疲弊を待っていたようだったが、エメレンツィアが前衛メンバーへと癒しの滴を振り撒いていて。
「持久戦ならば、こちらに分があるわよ?」
うまく敵を出迎える形を取れた覚者達。それだけに、多少藤本が強い相手だろうが、数で攻めきることができる。
また、どのように黒霧が攻めてこようと、逝がガッチリと大瀧をガードしていた。
(この暗殺者を追い返せば、依頼元が何らかのボロを出すでしょ)
少しでも傷つかぬようにと、彼は大瀧のガードを攻撃よりも最優先にして庇う。
覚者を攻めあぐねる藤本に、凜は少し憐れみすら覚えて。
(あの譲のことだから、使えるだけ使って、後はポイするのに決まってるんよ)
夢見の情報では、彼女は霧山に忠義が篤い女性だという。
早く、霧山の本性に気づいて改心してほしいけれど。凜は目の前の相手にそんな願望を抱くが、霧山から直接切り捨てられなければ、無理なのかなと思案していた。
そんな思考の間にも、奏空が両手の忍者刀、「KURENAI」と「KUROGANE」で藤本を切り伏せる。
「………………!」
敵も圧縮した空気で応戦してくるが、それもまた逝に遮られてしまう。
――カッ、カッ、カツン!
ジャックは三度踵を鳴らし、死の刻限を敵に聞かせる。すると、膨大な血でできた大鎌が藤本を襲う。
「勝手に来て勝手に帰らないで、もっとゆっくりしてかない? F.i.V.E.でさ」
ジャックはそのまま、今度こそ離さないと力強く藤本の腕を掴もうとしたが、一足遅く。その身体は他の構成員同様に霧隠れしてしまう。
「F.i.V.E.を潰したければ、自分で動け。……そう親分に伝えておけ」
消え行く相手へ、赤貴が告げたが。その言葉は彼女に届いただろうか。
「隠密集団がどうだこうだなぞ、知ったことか」
届かぬことを理解した上で、赤貴は最後にそう言い捨てたのだった。
●霧が晴れて……
黒霧全員がこの場から消え去り、メンバーは控え室やその周辺で事後処理に当たる。
お菓子や水で汚した部分を凜が掃除するそばで、黒霧を捕らえようとしていたジャックが悔しがる。直接的な方法では、捕らえられないのだろうか。
「捕らえられないのは残念だわ。聞きたい事はいっぱいあるのに」
しかしながら、それはそれで、ユズルに遭遇したとその時を楽しみにとエメレンツィアは笑う。
「むう……」
F.i.V.E.の手並みに感嘆する大瀧へ、敵の引き際に苦笑したいのりが告げる。
「これで終わりでは無い筈です。今後も注意して下さいませ」
「うむ」
命を狙われることは珍しくもない大瀧。されど、黒霧の不気味さ多少不気味さを覚えた彼は、いのりの言葉に小さく頷いていた。
とあるビルへとやってきたF.i.V.E.の覚者達。
ここで、直に暗殺が行われるという情報を元に、一行は暗殺対象となる男性の護衛に当たる。
「大瀧様ですか」
財閥会長の孫娘である『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は、その名に聞き覚えがあったらしい。あまり評判が良くない方という印象を受けていたようだ。
「だからと言って、殺されて良い訳はありませんわね」
他のメンバー達がいのりの主張に頷く。
「最近、暗殺の動きが七星剣で見られる」
やや小柄な少年の『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が耳にしている範囲内でも、その活動はかなり目立つ。
外堀から埋めていこうという手口なのだろうが、それだけ彼らがF.i.V.E.を脅威に思っている証拠だと、奏空は考えていた。
だが、逆に捉えると、七星剣に対して少しずつ揺さぶりをかけ、外壁を剥がしていくことにも繋がる。
「俺達、F.i.V.E.にね」
そして今回、その暗殺に動いているのは……。
「霧山……動きだしたのか」
やんちゃな少年といった印象の『霧を切り裂くと誓う者』切裂 ジャック(CL2001403)の呟きに、朱のドレスを纏う『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が頷く。
「ようやく後を継ぐ気になったのかしら、ユズル? けれど、貴方の企みは私たちが止めてみせるわ」
「黒霧……アイツの手下か。むざむざ好きにさせてやる道理はないな」
相手の思い通りにさせるわけにはいかない。釣り目、三白眼の容貌の『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)もまた、同意する。あちらも似たことを思っているのだろうが、気にする意味もない。
「伸ばした手足の先から、切り落としてやるさ」
しかしながら、暗躍する黒霧は厄介な相手ではある。
「敵は『隠密』っていう、すごいスキル使うみたい」
「離脱の技能ですか……」
今時の女の子といった見た目の『マジシャンガール』茨田・凜(CL2000438)の言葉に、魔女っ子スタイルの『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が唸りこむ。
これまで、ラーラが交戦した黒霧の構成員も、戦いの後に姿を消す不可解なケースが何度かあった。
「組織に対する情報を手に入れる上では、かなり厄介なスキルと言わざるを得ませんが」
その対策を練りたいところではあるが、目下のところは今の状態でやるしかない。
「奴らの濃霧は、この俺が切り裂いてみせようか」
ジャックが黒霧討伐に意欲を見せると、再びメンバー達が頷き合う。
「護衛対象は絶対守るよ! 七星剣の思い通りにはさせない!」
「力の及ぶ限り、しっかり護衛させて頂きますわ」
奏空、いのりは意気込みを見せながら、ビルの正面入り口から入っていくのである。
●保護対象の警護
このビルにやってくる途中、メンバー達は夢見の情報を元にどうやって黒霧から大瀧を護るか、話を詰めていた。
送受心を発動させた奏空がメインの通信役、司令塔として動く。彼はこのビルの間取り図を仲間達へと配り、護衛任務に役立てる。
「ふむ、構成が割れてるのは良いねえ」
一方で、フルフェイス、黒スーツの緒形 逝(CL2000156)は黒霧構成員小隊の能力と合わせ、奇襲方法を想定する。
「翼人による奇襲か、或いは翼人に意識を向けさせてからのバックスタブが想定されるな」
なれば、翼人が手練、残りはそれ以下の能力ということだろうか。
さらに、天井裏などの通気口が通れるらしい。確実性を重視し、隊員がそこを通ってくる可能性は十分。
また、従業員に化けての侵入、照明を落としての強襲。逝はあらゆる状況を想定していた。
程なく、メンバー達はビル15階に到着する。
イベント待ちの為に控え室に詰めていた財界の大物、大瀧・恵三と、一行は面会した。
「話は聞いている。抜かりなく頼む」
見るからに、威圧感のある風貌の大瀧。多くの人を蹴落としてきたこの男に思うことはあれど、いのり、奏空は簡単に挨拶を交わし、早速警備に当たることとなる。
警備班は4人。控え室とはいえ、ホテルのスイートルーム並みの待遇を受ける大瀧のこと。その部屋はかなり広い。
廊下からの出入り口には、エメレンツィアと逝が当たる。
本格的な警備の前に、エメレンツィアは大瀧のいる上のフロア、16階の様子を確認していた。
「大体おなじような構造のようね」
エメレンツィアは見回りながらも、15、6階のみ包むように細やかな調整をしつつ、彼女は人払いを進める。別班の情報収集と若干かち合う部分はあるが、いらぬ被害を及ぼさぬ為に仕方ない処置と言えよう。
その上で、彼女は全部屋へと熱感知を行い、ドアをノックして、それぞれの部屋にいた人へと状況を説明していく。
「申し訳ないのだけど、この階から少し離れていてもらえるかしら。警備上の理由で」
それもあって、人々はしぶしぶその階から移動していたようだ。
逝もまた警備に付く前に、大瀧のいる控え室上階と、左右の部屋を空けるよう、イベント側に頼む。
「一応、大瀧のプライベートの為よ」
逝は自身の名声も合わせて頼むと、イベント主催も他の参加者に控え室の移動を依頼し始めていたようだ。
部屋の逆側、いのりは避難口側を警戒する。そこは非常階段となった場所だったが、彼女はそこで、自分達と大瀧以外の何物かの臭いをかぎわけようとしていた。
奏空は大瀧に事情を話し、内側から窓などの施錠を行う。
どうやら、この部屋にベランダの類はない。
だが、相手が翼人となれば、窓からの侵入もありうると奏空が指摘する。窓の外に人を配置することができぬ以上、やむを得ず大瀧は窓の警備を1人だけ許可すると折れていたようだ。
『何かあったら、念で話せます、ので』
その奏空は慣れぬ丁寧語で大瀧に念を使って説明し、彼の仕事や休息の邪魔にならぬよう立ち振る舞う。
もっとも、物質透過する人間には、大瀧もさすがに集中力を削がれてしまう様だったが。
さらに、奏空は送受心で皆へと、定期確認を行う。
『遊撃班は通気口の警備もよろしくね、あと、情報収集も』
すでに班分けは終えており、奏空は別班、遊撃班となるメンバー4人、ラーラ、ジャック、凜、赤貴へと依頼する。
通気口に潜伏していたのは、ラーラ、赤貴だ。
さほど広くない場所だったが、ラーラは守護使役の力を借りてしのびあしでの移動を行い、隠密行動を意識する。彼女は敵の動きを把握できるよう、超視力も忘れず働かせていた。
(探索能力そのものが低くても、警戒のしようはある)
赤貴もまた探索を行うが、生憎と暗視以外のスキルは探索に不向き。それでも、彼は状況を隈なく確認する事で、スキル不足を補おうとする。
例えば通気口なら、どれだけ気配を消そうと、移動で埃がふき取られる。埃を瞬時に積もらせるなど、発現者であろうとできるはずもない。
凜もまた通気口を気に掛けつつ感情探査を行い、周囲の警戒を行う。
その間、お菓子や水を撒き、例え黒霧の姿が見えずともわかるようにと、凜は対策を練っていた。
また、凜はタブレットを使い、大瀧のノートパソコンへとWEBカメラのハッキングを試みる。うまく成功したようで、彼女はそれで控え室内の状況確認も行う。
ジャックも感情探査を使い、このビルで働く従業員、イベント関係者などに探りを入れつつ、直接の聞き込みなどに当たる。
(汚い手段でのし上がったとしても、それを正義の味方みたいに粛清する動きを七星がするとは考えにくい)
財界の重鎮で、F.i.V.E.を支援するというなら、七星剣が大瀧を叩く理由にはなるが……。どうやら、大瀧本人はF.i.V.E.について、そういう組織があるという認識しかないようだった。
ならば、七星剣に不利益を与えた可能性。あるいは、大瀧に恨みを持つ者が黒霧を雇った。彼の手がけた事業、それによって没落した誰か。多額の金の動き……。
(元の根から絶たないと、今回大瀧を護ってもまた狙われたら意味がない)
ジャックはイベント関係者や大瀧の周囲にいる企業グループ関係者の経歴を洗って詰問することで、少しでも動揺がないかと見る。
黒霧は潜伏を得意とする。これで敵が見つかれば話は早い。
ただ、ジャックにとって最大の障害は、洗う為の情報量が多すぎたことだろうか。それを洗うだけでも彼は手いっぱいだったようだ。
さて、警備に当たるメンバー達。
エメレンツィア、逝は部屋の出入り口に戻り、警備を続ける。
逝は大瀧の感情も見る。現状は穏やかなもの。こうして暗殺があると宣言されていたなお、動揺する素振りはほとんど見られない。
死角となりそうな場所から、物質透過される可能性を否定せず、エメレンツィアは警戒を強める。
彼女は大瀧へと面会しに出向いてきた者、ルームサービスも全て追い払っていた……が。
「ん……?」
そこで、逝が気づく。そのルームサービスを運んできた、ビルのスタッフらしき男が発する感情に。
「感情は抑えても管理しても、引っかかるモノだ」
敵の明確な使命感、殺意、組織への忠誠といったものを、逝は感じ取っていたのだ。
それと同時に、窓の外から控え室内へと飛び込んできた翼人。さらに、通気口と非常口から別々に敵が襲い来る。
『敵襲だよ!』
『敵襲よ』
『敵だ』
メンバー達が一斉に、敵の襲来を仲間達へと伝達することとなる。
ともあれ、あからさまに危険なのは、窓を破壊して飛び込んできた黒ずくめの翼人。
『翼人の黒霧が来るよ!』
奏空が仲間達へと伝えると、皆、部屋の中に入り、大瀧の護りに動く。
「……ぬ」
ぴくりと眉を動かす大瀧。出入り口と非常口、通気口にいた敵……黒霧構成員もまた部屋の中へと飛び込んでくる。
それぞれの警備に当たっていたメンバー達も部屋に入りつつ、そいつらの牽制を行う。
赤貴は覚醒せず、素早く大瀧の前に飛び込む。
それぞれの場所の敵を部屋に迎え入れる形となりながらも、護衛班も大瀧のいる居間へと駆け込んでいく。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
叫ぶラーラは覚醒して髪を銀に染め、焔を周囲に舞わせて黒霧へと応戦を始めたのだった。
●黒霧襲撃
「ぬ……」
ゆっくり立ち上がる大瀧。
外からやってきた翼人の女性が刀を手に大瀧へと襲い掛かろうとするが、覚醒することで髪を金に輝かせた奏空が物質透過で駆けつけ、敵の刃を受け止めた。
両腕を戦闘機の主翼のように変化させた逝、右肩の刺青を空色に輝かせた凜も壁を抜け、素早く駆けつける。
続き、部屋に降り立った赤貴が髪を銀に変色させ、この場にやってきた黒霧構成員達に津波の如き形状の炎を浴びせかけた。
覚醒して17歳の姿となり、ボンデージ衣装に身を包むいのりが続いて駆けつけて大瀧の前に立ち塞がる。連れていた人魂を吸収し、第三の目を開眼させたジャックも並んだ。
出入り口から入ってきたエメレンツィアも髪を赤く染め、遊撃しながら応戦を開始する。
一方、全身黒ずくめの相手……黒霧構成員の小隊は4人。
敵も照明を落とす余裕まではなかったのか、灯りが付いたままで大瀧の護衛となるF.i.V.E.メンバーの排除に乗り出す。
「霧山の手の者ですわね。思い通りにはさせませんわ!」
いのりは現われた黒霧へと高密度の霧を発し、敵の能力弱体化をはかった。
霧に霧。それでも、一定の効果はあったようだ。
「霧山は元気?」
ジャックは敵を捕らえようと、その腕を掴もうとする。
「…………」
だが、敵が苦無を投げ飛ばしてきたことで、ジャックも開眼した目から怪光線を発して敵を射抜く。
「…………」
隣の敵もまた何も言葉を発することなく、苦無を直接振るってくる。
「さて、守宮に花装、本来の使い方をしてあげよう……」
逝は両手に妖刀、『鎧塚守宮』と『花装鋼生』の二振りを構える。
「……守るんだ。何処の誰であろうとね。この襲撃を凌ぎきるぞう!」
じっと後衛に布陣し、逝は大瀧のガードに徹した。
エメレンツィアもまた力を高め、水の滴を相手へと飛ばし、黒霧を牽制する。
敵の人数が揃っている事を確認し、仲間達が駆けつけたことを見て、奏空も攻撃に打って出た。彼は雷雲を発生させ、手前の敵へと雷を叩き落としていく。
しばし、控え室内で繰り広げられる戦い。
敵の翼人女性、藤本・円はかなりの手練。黒霧小隊は執拗に大瀧を狙うが、覚者達に阻まれることとなる。
眠りへと敵を誘う空気に包み込むいのり。敵小隊の1人がぐらりと眠気を覚えて倒れこむ。
凜は仲間達を援護しつつ、飛んで来る苦無などに気をつける。
(子ども残して入院するのは、嫌なんよ)
こう見えて、1児の母である凜。子供の為にも深手を負うことだけは避けようと、彼女は戦場を立ち回る。
前線に立つ赤貴は、猛然と敵に攻め立てていた。
(警戒や探索で貢献がしづらい以上、こいつらを蹴倒してやらねば役立たずだからな)
赤貴は敵に逃げ場を与えぬようにと、ラーラに合わせる形で攻撃していた。
「何度来たとしても、暗殺なんて物騒なことはさせませんよ」
英霊の力を引き出したラーラは、敵が前衛として3人いることを確認し、描いた魔法陣から真紅の火猫を呼び出す。
火猫は部屋の中を疾走し、黒ずくめの者達に炎の衝撃で痺れを与えていく。
それに合わせ、赤貴は地を這う連撃を敵陣に浴びせかける。
相手は『霧山の手下』。彼はシンプルに敵を認識し、構成員の1人を床へと沈めた。そいつはすぐに煙のように消えていく。
超視力を働かせたラーラは一度それに視線を落とした後、すぐさま残る敵の挙動を注視し続けていた。
出揃う形で黒霧と対面した後は、覚者達がやや優勢に戦いを進める。
いのりは大瀧狙いの攻撃を防ぎつつ、敵に光の粒を降らして敵を倒す。そいつはジャックが腕を掴んだ相手であったが、煙に包まれて姿を消していた。
眠りから目覚めた隊員には、ラーラが拳大の炎を連続して浴びせかける。そいつはよろめいて崩れ落ち、やはりかき消えるようにいなくなる。
残るは翼人の小隊長、藤本。沙門叢雲を振るう赤貴は、敵の強さを感じながらも、ただダメージを与えるべくその刃を叩き込む。
一時は戦況が膠着したこともあり、敵は覚者達の疲弊を待っていたようだったが、エメレンツィアが前衛メンバーへと癒しの滴を振り撒いていて。
「持久戦ならば、こちらに分があるわよ?」
うまく敵を出迎える形を取れた覚者達。それだけに、多少藤本が強い相手だろうが、数で攻めきることができる。
また、どのように黒霧が攻めてこようと、逝がガッチリと大瀧をガードしていた。
(この暗殺者を追い返せば、依頼元が何らかのボロを出すでしょ)
少しでも傷つかぬようにと、彼は大瀧のガードを攻撃よりも最優先にして庇う。
覚者を攻めあぐねる藤本に、凜は少し憐れみすら覚えて。
(あの譲のことだから、使えるだけ使って、後はポイするのに決まってるんよ)
夢見の情報では、彼女は霧山に忠義が篤い女性だという。
早く、霧山の本性に気づいて改心してほしいけれど。凜は目の前の相手にそんな願望を抱くが、霧山から直接切り捨てられなければ、無理なのかなと思案していた。
そんな思考の間にも、奏空が両手の忍者刀、「KURENAI」と「KUROGANE」で藤本を切り伏せる。
「………………!」
敵も圧縮した空気で応戦してくるが、それもまた逝に遮られてしまう。
――カッ、カッ、カツン!
ジャックは三度踵を鳴らし、死の刻限を敵に聞かせる。すると、膨大な血でできた大鎌が藤本を襲う。
「勝手に来て勝手に帰らないで、もっとゆっくりしてかない? F.i.V.E.でさ」
ジャックはそのまま、今度こそ離さないと力強く藤本の腕を掴もうとしたが、一足遅く。その身体は他の構成員同様に霧隠れしてしまう。
「F.i.V.E.を潰したければ、自分で動け。……そう親分に伝えておけ」
消え行く相手へ、赤貴が告げたが。その言葉は彼女に届いただろうか。
「隠密集団がどうだこうだなぞ、知ったことか」
届かぬことを理解した上で、赤貴は最後にそう言い捨てたのだった。
●霧が晴れて……
黒霧全員がこの場から消え去り、メンバーは控え室やその周辺で事後処理に当たる。
お菓子や水で汚した部分を凜が掃除するそばで、黒霧を捕らえようとしていたジャックが悔しがる。直接的な方法では、捕らえられないのだろうか。
「捕らえられないのは残念だわ。聞きたい事はいっぱいあるのに」
しかしながら、それはそれで、ユズルに遭遇したとその時を楽しみにとエメレンツィアは笑う。
「むう……」
F.i.V.E.の手並みに感嘆する大瀧へ、敵の引き際に苦笑したいのりが告げる。
「これで終わりでは無い筈です。今後も注意して下さいませ」
「うむ」
命を狙われることは珍しくもない大瀧。されど、黒霧の不気味さ多少不気味さを覚えた彼は、いのりの言葉に小さく頷いていた。

■あとがき■
まだ気は抜けない状況が続きますが、
ひとまずお疲れ様でした。
ゆっくりお休みくださいませ。
今回は参加していただき、
ありがとうございました。
ひとまずお疲れ様でした。
ゆっくりお休みくださいませ。
今回は参加していただき、
ありがとうございました。
