FIVEのレコンキスタ
●
そこはいわゆるゴーストタウンとなっていた。かつて開発が行われる予定だった地だが、計画が破棄されてから人が立ち入っていない。
あちこちに工業機械が散乱し、作りかけの土台も雨風の中で朽ちるのを待つばかりだ。看板に書かれた工期予定もすでに過ぎており、虚しさを感じさせる。
しかし、それでも動くものがないわけではない。
「BURURURURURURURU!!」
「SYUUUUUUUUUUUUUU!!」
住み着いた野生動物、ではない。
人類の天敵として現れた怪異、妖だ。
突如として現れた彼らによって、計画は撤退を強いられることとなった。それゆえに、この場所は妖の領域となって久しい。
人と妖の歴史は相容れぬ、戦いの歴史だ。
そして、覚者(あなた)が踏み入れた時、再びこの地の運命は動き出す。
●
「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
集まった覚者達に元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。そして、全員そろったことを確認すると、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「うん、危険な妖のことが分かったの。みんなの力を貸して!」
麦の渡してきた資料には、ロードローラーが変化したと思しき妖や、水が凝って巨人の姿を取ったものの姿が描かれていた。いずれも妖と思って間違いないだろう。
「倒してもらいたいのは物質系と自然系の妖、ランクは2だよ。結構数もいるんだけど……ちょっと詳しく説明するね」
妖達がいるのは、山間部の廃棄された開発地帯ということだ。以前計画が立てられていたのだが、妖の攻撃やそれに伴う予算などの理由により停止していた。現在では妖が占拠する形になっており、彼らの巣とでも言うべき状態になっている。
様々な事情で討伐は先送りになり、長い間放置が続いていた。それが電波問題の解決もあって再始動することになり、FIVEに妖退治のお鉢が回って来たということだ。
これも先日の決議の影響だろう。
「数はそれぞれ6体ずついるから、結構手ごわい感じだよね。でも、バラバラにいるみたいだから戦い方で十分どうにかできると思うよ」
当然、戦いが始まれば他の妖もやってくるだろう。だが、逆にうまく状況を作れば敵の接近を遅らせることも出来るはずだ。
覚者達の能力が問われる依頼であると言えるし、これからFIVEが背負う立場を考えれば負けられない戦いだ。
もちろん、妖の手から人々の領域を取り戻すというのは意味も大きい。
説明を終えると、麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」
そこはいわゆるゴーストタウンとなっていた。かつて開発が行われる予定だった地だが、計画が破棄されてから人が立ち入っていない。
あちこちに工業機械が散乱し、作りかけの土台も雨風の中で朽ちるのを待つばかりだ。看板に書かれた工期予定もすでに過ぎており、虚しさを感じさせる。
しかし、それでも動くものがないわけではない。
「BURURURURURURURU!!」
「SYUUUUUUUUUUUUUU!!」
住み着いた野生動物、ではない。
人類の天敵として現れた怪異、妖だ。
突如として現れた彼らによって、計画は撤退を強いられることとなった。それゆえに、この場所は妖の領域となって久しい。
人と妖の歴史は相容れぬ、戦いの歴史だ。
そして、覚者(あなた)が踏み入れた時、再びこの地の運命は動き出す。
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「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
集まった覚者達に元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。そして、全員そろったことを確認すると、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「うん、危険な妖のことが分かったの。みんなの力を貸して!」
麦の渡してきた資料には、ロードローラーが変化したと思しき妖や、水が凝って巨人の姿を取ったものの姿が描かれていた。いずれも妖と思って間違いないだろう。
「倒してもらいたいのは物質系と自然系の妖、ランクは2だよ。結構数もいるんだけど……ちょっと詳しく説明するね」
妖達がいるのは、山間部の廃棄された開発地帯ということだ。以前計画が立てられていたのだが、妖の攻撃やそれに伴う予算などの理由により停止していた。現在では妖が占拠する形になっており、彼らの巣とでも言うべき状態になっている。
様々な事情で討伐は先送りになり、長い間放置が続いていた。それが電波問題の解決もあって再始動することになり、FIVEに妖退治のお鉢が回って来たということだ。
これも先日の決議の影響だろう。
「数はそれぞれ6体ずついるから、結構手ごわい感じだよね。でも、バラバラにいるみたいだから戦い方で十分どうにかできると思うよ」
当然、戦いが始まれば他の妖もやってくるだろう。だが、逆にうまく状況を作れば敵の接近を遅らせることも出来るはずだ。
覚者達の能力が問われる依頼であると言えるし、これからFIVEが背負う立場を考えれば負けられない戦いだ。
もちろん、妖の手から人々の領域を取り戻すというのは意味も大きい。
説明を終えると、麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の討伐
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
ラインダンスを踊る、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は妖と戦っていただきます。
●戦場
とある廃棄された開発地帯になります。使われなくなった機材も多いので、身を隠す場所はそれなりにあります。
時刻は昼です。
明かりや足場などに問題はありません。
●妖
・暴走ロードローラー
物質系の妖でランクは2。炎を纏って暴れるロードローラーの姿をした妖です。術式の攻撃に対して防御力が高く、タフです。前列に立とうとする傾向があります。6体います。
能力は下記。
1.轢殺 物近単 致命、高威力
2.火炎噴射 特遠単 火傷
・水妖
自然系の妖でランクは2。3メートル大の人の形を取った水の塊です。物理攻撃に対して防御力が高めです。中列に立とうとする傾向があります。6体います。
能力は下記。
1.叩きつける波 特遠列 負荷
2.水撃 特遠単 減速
●特殊ルール
妖は最初散開しているので、最初に戦闘を仕掛ける相手を選んでください。
以降、残っている妖がいなくなるまで次ターンの頭、それぞれの妖が1体ずつ敵後列に配置されます。
プレイングによっては、敵を1か所に誘導して、まとめて戦うことも可能です。その作戦が有効かどうかは、プレイング次第でしょう。
隠密を行うなどの良いプレイングがあると、増援が始まるタイミングを遅らせたり、不意を打つことが出来ます。
逆に無謀なプレイングだった場合、囲まれてしまう可能性があります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
7/8
公開日
2017年07月15日
2017年07月15日
■メイン参加者 7人■

●
誰もいなくなった開発地帯。
いまや、誰も来る者はいないはずだった。そこへ、3羽の鳥の影が落ちる。
こんな所にやって来るのだ。ただの鳥ではない。覚者と共にあり、覚者の戦いを支えるもの、守護使役(アテンド)だ。
上月・里桜(CL2001274)の朧、『癒しの矜持』香月・凜音(CL2000495)の更紗、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)のライライさん。いずれも、覚者と共に歩んできた頼もしい存在である。
「廃墟ツアーだの、廃墟写真集だの……。こう言う場所って一定数のファンがいるよな。錆びた鉄骨やら何やら。朽ちたものの良さってやつか」
周囲の景色を観察して、凜音は肩をすくめる。この場の問題は、朽ちた原因が妖であることだ。
「お、更紗。見てきてくれたか」
戻ってきた更紗を撫でる凜音。
今のタイミングなら、比較的妖は散開しているようだ。戦闘を始めてもすぐさま取り囲まれるようなことは無いだろう。さすがにランク2の妖をまとめて12体も相手にするわけにはいかない。
「……廃棄された開発地帯の妖退治。どちらにしても、妖を放っておく訳にはいかないでしょうから」
放置していてもいずれは人と争いを起こす存在だ。だからこそAAAも対応を予定していたわけだし、FIVEに依頼が回ってきた。いつかは戦わなくてはいけない以上、それを迷う意味は無い。
標的と決めた妖に向かって歩み始めると、里桜の髪がうっすらと桜色に色づいていく。銀色の瞳もまた、発現した証だ。
同じく守護使役であるペスカの力を借りて、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は自身の気配を殺して、場所を移動する。
「隠密行動に各個撃破、何だか忍者になったみたいです」
相手は手ごわいが、それでもこのように余裕を保てるのは、今まで培った経験のおかげだろう。少なくともペスカがいる以上、そう簡単に見つかるつもりはない。
「ランク2が揃った厄介な戦いですが、上手くいくといいです」
ラーラの言葉に応えるように、ペスカが顔を覗き込んできた。その表情は「きっとうまくいく」と言ってくれているようだった。
覚者達が廃棄区画に乗り込むと、ほどなくして妖は見つかった。
ランク2の妖は決して弱い相手ではない。初期のFIVEでは8人がかりで1体の妖と戦っていたのだ。それが10体以上いるのだから、今日の依頼が手ごわいものであることは間違いない。
にも関わらず、覚者達に決して恐怖の色は見えない。
「さて、ちゃっちゃとお仕事しますかね。妖には悪いが、ここの場所は素直に返してもらうでな」
『聖女の救済者』切裂・ジャック(CL2001403)の表情は気楽そのものだ。妖が相手であるのなら、相手に厄介な事情は無い。そういう意味では、人間の方がよっぽど恐ろしい。
慎重を期して、ジャックは守護使役の輪廻の力を借りて、己の気配を消す。
「今日は何もむつかしいことを考えずに戦えるな。妖には悪いが、普段のストレスを発散して帰ろう………ハッ!」
その時、ジャックは何かを悟ったような顔になって、凜音と『悪意に打ち勝ちし者』魂行・輪廻(CL2000534)の顔を見比べる。
「輪廻に凜音がいる! みんなリンネだな! どうやって呼び分けようか! 男のリンネと、おっぱいの方のリンネかな! あは」
いくらなんでも気楽すぎる気もするが、ジャックはそういう少年だ。
幸い、言われた輪廻も別に起こっている様子はない。
「ランク2の妖が12体……随分放置してたのねぇん。まともに正面から戦えば数で劣るこちらはかなり苦しいから、輪廻さん、今回一肌脱いで頑張っちゃおうかしらねん♪」
輪廻が手近な壁に手をやると、彼女の身体はスッと中に吸い込まれるように消えていく。
本人は衰えてきているというが、覚者としての力は決して低くない。
そして、完全に姿が消えたかと思うと、また顔を出して艶っぽく微笑む。
「あ、それともおっぱいの方の輪廻としては、本当に脱いだ方が良いのかしらん?」
(輪廻さん、それには及びません)
壁の向こう側に行った輪廻に、奏空が念話で苦笑交じりに応える。
ちと彼女の姿は、純情な青少年にとって少々刺激的過ぎるのだ。
(この子、直接おっぱいに……!)
ふざけて返す輪廻の言葉に、赤面しながらも周囲の状況に注意を向ける。
ライライさんから伝えられる景色も、周囲の物音からも、近くにいる妖が1体だけと伝わってきた。一方、妖達は覚者達の存在に気付いている気配はない。
今がチャンスだ。
「ランク2の妖が全部12体……数は多いけど皆で上手く立ち回って各個撃破していけばなんとかなるよね!」
そして、気合一閃。
英霊の力を宿した奏空は、妖に対して切りかかる。
それを皮切りに、覚者達の一斉攻撃が始まった。ランク2の妖は確かに強敵だが、FIVEの覚者達はそれ以上に精強だ。
「これぞまさに釣り野伏の計ですわ! これを繰り返していけば勝てるに決まってますわ!」
アイドルオーラ全開で『獅子心王女<ライオンハート>』獅子神・伊織(CL2001603)が口にした言葉がこの場にそぐっているかはさておいて。
作戦が上手く進んでいることはまちがいない。
伊織は見ての通り、隠密に向かないタイプだ。その華々しい姿は個性派揃いの覚者の中でも際立っており、不意打ちの精度を上げる役には立っていた。
「さあ、始めましょう! 私たちの依頼(ライブ)を!」
伊織のシャウトに合わせるようにして、盛大に炎が立ち上った。
●
伊織の声を合図に始まった初戦は、覚者達の圧勝に終わる。たしかにランク2の妖は強敵だが、さすがに多数で不意を打てば、負ける方が難しいと言えよう。
本番はここからだ。
妖を倒し一息つく覚者達の視界に、物音を聞きつけた妖が映る。覚者達の作戦は功を奏し、最初の妖を屠る位の時間は稼げたが、ここからはそうもいかないようだ。
だが、すでに戦いの準備を終えている分、普段の戦いよりも有利な点は多い。
「ペスカ!」
ラーラの声に応じて、守護使役のペスカが跳ねる。
ラーラが右手に魔導書を持ち、詠唱を行うと左手に火球が膨れ上がる。英霊の力を宿した少女は煌炎の書を使いこなし、炎にさらなる力を与える。
魔女ベファーナの名は伊達ではない。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
火球は一撃二撃と妖に叩きつけられ、その体を蒸発させていく。
火球の爆発で出来た死角を利用して、そこへ輪廻は追撃を仕掛けた。
「ひたすら暴れてかき乱してあげようじゃない♪」
壁からすっと姿を現すと、機械の巨体の前に姿を見せる。蹴りと拳を巧みに混ぜて、同時に5つの部位を狙い砕く。
常人には不可能な、人の果てに至りし技だ。それを精霊顕現で強化された足腰と、胎内に宿る炎で向上した身体能力で可能とする。
「もうちょっといけたわねん♪」
一瞬見せた自分の技に対して不満げな表情は、輪廻のもう1つの顔。戦士としての顔である。
そして、最後にトドメとばかりに敵の中心部に蹴りを叩き込むと、たまらず妖の巨躯は吹き飛んだ。
盛大な音を上げて、ただのスクラップに戻る妖。それでも、まだこの場にいる妖が全て倒れたわけではない。すでに、別の妖がにじり寄る姿が見えている。
「妖が占拠していた地の奪還……何とも重要なミッションですわね」
目立つ戦いをしている手前、伊織の体に少なからぬ生傷が見える。将来のことを考えるのなら、後でちゃんと治さなくてはと頭によぎる。
自分の実力が不足していることなど百も承知だ。
だが、アイドルたるもの堂々と啖呵を切って自信満々で居るものである。
「勝利の女神であるこの私、獅子神伊織が居ればもう安心ですわ! 大船に乗ったつもりで良くてよ!」
伊織が王の名を冠したエレキギターを一振りすると、そこから放たれた気の弾丸が妖達の身体を穿っていく。
そして、その一方で妖達はゆっくりと数を増やしていく。
だが、覚者達にとって増援は織り込み済みの事実だ。凜音は恵み雨を降らせて、仲間の傷を癒す。
数に劣る覚者達ではあるが、その差を埋めるのは何も作戦だけではない。凜音とジャックは巧みに攻守を入れ替え、仲間たちを守り、敵を討つ。友人同士ならではの連携だ。
カッ、カッ、カツン
ジャックから踵を打ち鳴らしたような音がすると、血で作られた大鎌が現れ妖を切り裂く。ドロシーの靴と違ってこの音が導く先は、自分の家ではない。この音は敵をあの世へと送り届ける道しるべだ。
「戦風初めて使うからなー、こう、祝詞言い間違えないか心配やったけど、どうにかなるもんやな!!」
ジャックの表情に明るいものが浮かんでいるのは、当初語った通り、戦いの中に身を置けているからだろう。
一方の凜音の顔には、わずかに躊躇いのようなものがあった。妖が奪い取ったものとは言え、そこへ攻撃を仕掛けることへの迷いだ。
「……こいつらの住処を荒らしているような気がして多少気がひける所はある。けどもな」
古妖と違って、妖との共存はいまだに実例と言えるものがない。人間が妖を駆逐するか、妖が人間を蹂躙するかのどちらかしかないのだ。
凜音は互いの関係に関しては中立のつもりである。から、この場では目の前の戦いに集中する。
「人の生活を脅かすのは勘弁して貰いたいから……許してくれな」
そんな奮戦もあって、増援もあった妖も次第に数を減らしていく。
奏空の生み出した霧は、妖を惑わしてその力を抑えた。
輪廻の二連廻し蹴りは、変幻自在の動きで妖を蹴り砕く。時折、裾の中が見えそうになるのはうっかりなのか、狙っているのか。
戦場を俯瞰しながら、ラーラは魔法陣を描く。魔法陣から現れた炎は、津波のような勢いで妖達を飲み込んでいく。
伊織は自身の反応速度を高め、炎をまとったギターを妖に叩き込む。その姿は「かわいいアイドル」と言うよりは一言、「ROCK」に尽きる。
里桜の命に従うようにして、大地は隆起し槍となり、砕けた岩は雨のように妖へと降り注ぐ。
ジャックも、ときには回復に回る。癒しの霧を生み出し、仲間たちに戦いを続ける力を与えた。
そういう時に攻撃に回るのは凜音だ。支援専門を名乗っているが、彼が操る水の礫は決して侮れない威力を秘めている。
気が付けば、ロードローラー型の妖を2体残すのみとなっていた。
「水妖6体、ロードローラー4体撃破。彼らを倒せば、戦いは終わりです」
「とは言え、さすがに何度も轢かれたら死にますわよ、あれ!」
敵をカウントしていた里桜の言葉に伊織は悲鳴で返す。囮を買って出た都合、彼女の傷も浅くはない。命数を燃やしてやっと立っている状況だ。だが、あと一息の所まで来たのだ。ここで逃げ出す手はない。
「……でも、きっとうまくいきます」
里桜は術符を構える。
自然系の妖と違って、物質系の妖にはこちらの方が有効だ。前世の力と組み合わせれば、その威力も決して侮れないものとなる。
それは、彼女の攻撃を受けてまた1体、敵が動きを止めたことからも明らかだ。
残った妖に対して、奏空は腰を落として下段に刃を構えると、猫足立ちになる。
(レコンキスタって……再征服って意味だっけ? 妖に奪われた土地を取り返すって事なのかもしれないけど、それは人間側の都合だけだよね)
妖が現れてそろそろ30年にもなるが、いまだに人と妖の間ではっきりしたすみわけは出来ていない。妖と争う以外にまともな関係は築けていないのが実情だ。
そこまで考えたところで、奏空は強く大地を踏みしめ、勢いよく妖との距離を詰めた。
走った勢いをそのまま力に変え跳ね上がると、両手の刃を交差させるようにして切り上げる。その威力に妖は耐え切れず、体はばらばらに切り裂かれた。
(土地開発は本当に必要だったのか、自然破壊になってなかったのか。何が原因で妖化が起こったのかは分からないし、放っておくのは危険だから対処する)
奏空が目をやると、足元には先ほどまで猛威を振るっていた妖がすでに、哀れな残骸となって転がっていた。
「だけど、ちょっと考えさせられるよね……」
●
「いやあ、終わったなあ。これでなんか開発が進むんかね。人間の住処でも増えるんやろうか」
どこか他人事のようにジャックは呟く。
彼のスタンスは、人間よりも古妖の立場を意識したものだ。それゆえ、今回の依頼に関しては、むしろ何も感じることができない。あえて言うなら、暴れることができて満足、位だ。
「なんかおなかすいたな。なぁなぁ、凜音の家にでもよっていい?」
先ほどまでの凄惨な戦いぶりが嘘のように、へらへら笑って凜音の肩を叩く。
そんな時、ふと耳に優しい歌声が聞こえてきた。歌っているのは伊織だ。
かつてこの場で妖に殺された被害者たちに、そしてこの場に生きていた妖達に向けてアイドルは歌を紡ぐ。
(妖とはいえこの地に確かに生きていたモノですから……せめて歌を捧げましょう)
死にゆくものに安らかな眠りを授ける子守歌。
歌う伊織の姿から、先ほどまでの勇ましい姿を想像するものはいないだろう。いや、死者の魂を導く戦乙女としては、体の生傷すらもふさわしいのかもしれない。
(貴方達に良き安寧の眠りを)
次第に赤く染まっていく空の下、歌声はどこまでも響いていった。
誰もいなくなった開発地帯。
いまや、誰も来る者はいないはずだった。そこへ、3羽の鳥の影が落ちる。
こんな所にやって来るのだ。ただの鳥ではない。覚者と共にあり、覚者の戦いを支えるもの、守護使役(アテンド)だ。
上月・里桜(CL2001274)の朧、『癒しの矜持』香月・凜音(CL2000495)の更紗、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)のライライさん。いずれも、覚者と共に歩んできた頼もしい存在である。
「廃墟ツアーだの、廃墟写真集だの……。こう言う場所って一定数のファンがいるよな。錆びた鉄骨やら何やら。朽ちたものの良さってやつか」
周囲の景色を観察して、凜音は肩をすくめる。この場の問題は、朽ちた原因が妖であることだ。
「お、更紗。見てきてくれたか」
戻ってきた更紗を撫でる凜音。
今のタイミングなら、比較的妖は散開しているようだ。戦闘を始めてもすぐさま取り囲まれるようなことは無いだろう。さすがにランク2の妖をまとめて12体も相手にするわけにはいかない。
「……廃棄された開発地帯の妖退治。どちらにしても、妖を放っておく訳にはいかないでしょうから」
放置していてもいずれは人と争いを起こす存在だ。だからこそAAAも対応を予定していたわけだし、FIVEに依頼が回ってきた。いつかは戦わなくてはいけない以上、それを迷う意味は無い。
標的と決めた妖に向かって歩み始めると、里桜の髪がうっすらと桜色に色づいていく。銀色の瞳もまた、発現した証だ。
同じく守護使役であるペスカの力を借りて、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は自身の気配を殺して、場所を移動する。
「隠密行動に各個撃破、何だか忍者になったみたいです」
相手は手ごわいが、それでもこのように余裕を保てるのは、今まで培った経験のおかげだろう。少なくともペスカがいる以上、そう簡単に見つかるつもりはない。
「ランク2が揃った厄介な戦いですが、上手くいくといいです」
ラーラの言葉に応えるように、ペスカが顔を覗き込んできた。その表情は「きっとうまくいく」と言ってくれているようだった。
覚者達が廃棄区画に乗り込むと、ほどなくして妖は見つかった。
ランク2の妖は決して弱い相手ではない。初期のFIVEでは8人がかりで1体の妖と戦っていたのだ。それが10体以上いるのだから、今日の依頼が手ごわいものであることは間違いない。
にも関わらず、覚者達に決して恐怖の色は見えない。
「さて、ちゃっちゃとお仕事しますかね。妖には悪いが、ここの場所は素直に返してもらうでな」
『聖女の救済者』切裂・ジャック(CL2001403)の表情は気楽そのものだ。妖が相手であるのなら、相手に厄介な事情は無い。そういう意味では、人間の方がよっぽど恐ろしい。
慎重を期して、ジャックは守護使役の輪廻の力を借りて、己の気配を消す。
「今日は何もむつかしいことを考えずに戦えるな。妖には悪いが、普段のストレスを発散して帰ろう………ハッ!」
その時、ジャックは何かを悟ったような顔になって、凜音と『悪意に打ち勝ちし者』魂行・輪廻(CL2000534)の顔を見比べる。
「輪廻に凜音がいる! みんなリンネだな! どうやって呼び分けようか! 男のリンネと、おっぱいの方のリンネかな! あは」
いくらなんでも気楽すぎる気もするが、ジャックはそういう少年だ。
幸い、言われた輪廻も別に起こっている様子はない。
「ランク2の妖が12体……随分放置してたのねぇん。まともに正面から戦えば数で劣るこちらはかなり苦しいから、輪廻さん、今回一肌脱いで頑張っちゃおうかしらねん♪」
輪廻が手近な壁に手をやると、彼女の身体はスッと中に吸い込まれるように消えていく。
本人は衰えてきているというが、覚者としての力は決して低くない。
そして、完全に姿が消えたかと思うと、また顔を出して艶っぽく微笑む。
「あ、それともおっぱいの方の輪廻としては、本当に脱いだ方が良いのかしらん?」
(輪廻さん、それには及びません)
壁の向こう側に行った輪廻に、奏空が念話で苦笑交じりに応える。
ちと彼女の姿は、純情な青少年にとって少々刺激的過ぎるのだ。
(この子、直接おっぱいに……!)
ふざけて返す輪廻の言葉に、赤面しながらも周囲の状況に注意を向ける。
ライライさんから伝えられる景色も、周囲の物音からも、近くにいる妖が1体だけと伝わってきた。一方、妖達は覚者達の存在に気付いている気配はない。
今がチャンスだ。
「ランク2の妖が全部12体……数は多いけど皆で上手く立ち回って各個撃破していけばなんとかなるよね!」
そして、気合一閃。
英霊の力を宿した奏空は、妖に対して切りかかる。
それを皮切りに、覚者達の一斉攻撃が始まった。ランク2の妖は確かに強敵だが、FIVEの覚者達はそれ以上に精強だ。
「これぞまさに釣り野伏の計ですわ! これを繰り返していけば勝てるに決まってますわ!」
アイドルオーラ全開で『獅子心王女<ライオンハート>』獅子神・伊織(CL2001603)が口にした言葉がこの場にそぐっているかはさておいて。
作戦が上手く進んでいることはまちがいない。
伊織は見ての通り、隠密に向かないタイプだ。その華々しい姿は個性派揃いの覚者の中でも際立っており、不意打ちの精度を上げる役には立っていた。
「さあ、始めましょう! 私たちの依頼(ライブ)を!」
伊織のシャウトに合わせるようにして、盛大に炎が立ち上った。
●
伊織の声を合図に始まった初戦は、覚者達の圧勝に終わる。たしかにランク2の妖は強敵だが、さすがに多数で不意を打てば、負ける方が難しいと言えよう。
本番はここからだ。
妖を倒し一息つく覚者達の視界に、物音を聞きつけた妖が映る。覚者達の作戦は功を奏し、最初の妖を屠る位の時間は稼げたが、ここからはそうもいかないようだ。
だが、すでに戦いの準備を終えている分、普段の戦いよりも有利な点は多い。
「ペスカ!」
ラーラの声に応じて、守護使役のペスカが跳ねる。
ラーラが右手に魔導書を持ち、詠唱を行うと左手に火球が膨れ上がる。英霊の力を宿した少女は煌炎の書を使いこなし、炎にさらなる力を与える。
魔女ベファーナの名は伊達ではない。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
火球は一撃二撃と妖に叩きつけられ、その体を蒸発させていく。
火球の爆発で出来た死角を利用して、そこへ輪廻は追撃を仕掛けた。
「ひたすら暴れてかき乱してあげようじゃない♪」
壁からすっと姿を現すと、機械の巨体の前に姿を見せる。蹴りと拳を巧みに混ぜて、同時に5つの部位を狙い砕く。
常人には不可能な、人の果てに至りし技だ。それを精霊顕現で強化された足腰と、胎内に宿る炎で向上した身体能力で可能とする。
「もうちょっといけたわねん♪」
一瞬見せた自分の技に対して不満げな表情は、輪廻のもう1つの顔。戦士としての顔である。
そして、最後にトドメとばかりに敵の中心部に蹴りを叩き込むと、たまらず妖の巨躯は吹き飛んだ。
盛大な音を上げて、ただのスクラップに戻る妖。それでも、まだこの場にいる妖が全て倒れたわけではない。すでに、別の妖がにじり寄る姿が見えている。
「妖が占拠していた地の奪還……何とも重要なミッションですわね」
目立つ戦いをしている手前、伊織の体に少なからぬ生傷が見える。将来のことを考えるのなら、後でちゃんと治さなくてはと頭によぎる。
自分の実力が不足していることなど百も承知だ。
だが、アイドルたるもの堂々と啖呵を切って自信満々で居るものである。
「勝利の女神であるこの私、獅子神伊織が居ればもう安心ですわ! 大船に乗ったつもりで良くてよ!」
伊織が王の名を冠したエレキギターを一振りすると、そこから放たれた気の弾丸が妖達の身体を穿っていく。
そして、その一方で妖達はゆっくりと数を増やしていく。
だが、覚者達にとって増援は織り込み済みの事実だ。凜音は恵み雨を降らせて、仲間の傷を癒す。
数に劣る覚者達ではあるが、その差を埋めるのは何も作戦だけではない。凜音とジャックは巧みに攻守を入れ替え、仲間たちを守り、敵を討つ。友人同士ならではの連携だ。
カッ、カッ、カツン
ジャックから踵を打ち鳴らしたような音がすると、血で作られた大鎌が現れ妖を切り裂く。ドロシーの靴と違ってこの音が導く先は、自分の家ではない。この音は敵をあの世へと送り届ける道しるべだ。
「戦風初めて使うからなー、こう、祝詞言い間違えないか心配やったけど、どうにかなるもんやな!!」
ジャックの表情に明るいものが浮かんでいるのは、当初語った通り、戦いの中に身を置けているからだろう。
一方の凜音の顔には、わずかに躊躇いのようなものがあった。妖が奪い取ったものとは言え、そこへ攻撃を仕掛けることへの迷いだ。
「……こいつらの住処を荒らしているような気がして多少気がひける所はある。けどもな」
古妖と違って、妖との共存はいまだに実例と言えるものがない。人間が妖を駆逐するか、妖が人間を蹂躙するかのどちらかしかないのだ。
凜音は互いの関係に関しては中立のつもりである。から、この場では目の前の戦いに集中する。
「人の生活を脅かすのは勘弁して貰いたいから……許してくれな」
そんな奮戦もあって、増援もあった妖も次第に数を減らしていく。
奏空の生み出した霧は、妖を惑わしてその力を抑えた。
輪廻の二連廻し蹴りは、変幻自在の動きで妖を蹴り砕く。時折、裾の中が見えそうになるのはうっかりなのか、狙っているのか。
戦場を俯瞰しながら、ラーラは魔法陣を描く。魔法陣から現れた炎は、津波のような勢いで妖達を飲み込んでいく。
伊織は自身の反応速度を高め、炎をまとったギターを妖に叩き込む。その姿は「かわいいアイドル」と言うよりは一言、「ROCK」に尽きる。
里桜の命に従うようにして、大地は隆起し槍となり、砕けた岩は雨のように妖へと降り注ぐ。
ジャックも、ときには回復に回る。癒しの霧を生み出し、仲間たちに戦いを続ける力を与えた。
そういう時に攻撃に回るのは凜音だ。支援専門を名乗っているが、彼が操る水の礫は決して侮れない威力を秘めている。
気が付けば、ロードローラー型の妖を2体残すのみとなっていた。
「水妖6体、ロードローラー4体撃破。彼らを倒せば、戦いは終わりです」
「とは言え、さすがに何度も轢かれたら死にますわよ、あれ!」
敵をカウントしていた里桜の言葉に伊織は悲鳴で返す。囮を買って出た都合、彼女の傷も浅くはない。命数を燃やしてやっと立っている状況だ。だが、あと一息の所まで来たのだ。ここで逃げ出す手はない。
「……でも、きっとうまくいきます」
里桜は術符を構える。
自然系の妖と違って、物質系の妖にはこちらの方が有効だ。前世の力と組み合わせれば、その威力も決して侮れないものとなる。
それは、彼女の攻撃を受けてまた1体、敵が動きを止めたことからも明らかだ。
残った妖に対して、奏空は腰を落として下段に刃を構えると、猫足立ちになる。
(レコンキスタって……再征服って意味だっけ? 妖に奪われた土地を取り返すって事なのかもしれないけど、それは人間側の都合だけだよね)
妖が現れてそろそろ30年にもなるが、いまだに人と妖の間ではっきりしたすみわけは出来ていない。妖と争う以外にまともな関係は築けていないのが実情だ。
そこまで考えたところで、奏空は強く大地を踏みしめ、勢いよく妖との距離を詰めた。
走った勢いをそのまま力に変え跳ね上がると、両手の刃を交差させるようにして切り上げる。その威力に妖は耐え切れず、体はばらばらに切り裂かれた。
(土地開発は本当に必要だったのか、自然破壊になってなかったのか。何が原因で妖化が起こったのかは分からないし、放っておくのは危険だから対処する)
奏空が目をやると、足元には先ほどまで猛威を振るっていた妖がすでに、哀れな残骸となって転がっていた。
「だけど、ちょっと考えさせられるよね……」
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「いやあ、終わったなあ。これでなんか開発が進むんかね。人間の住処でも増えるんやろうか」
どこか他人事のようにジャックは呟く。
彼のスタンスは、人間よりも古妖の立場を意識したものだ。それゆえ、今回の依頼に関しては、むしろ何も感じることができない。あえて言うなら、暴れることができて満足、位だ。
「なんかおなかすいたな。なぁなぁ、凜音の家にでもよっていい?」
先ほどまでの凄惨な戦いぶりが嘘のように、へらへら笑って凜音の肩を叩く。
そんな時、ふと耳に優しい歌声が聞こえてきた。歌っているのは伊織だ。
かつてこの場で妖に殺された被害者たちに、そしてこの場に生きていた妖達に向けてアイドルは歌を紡ぐ。
(妖とはいえこの地に確かに生きていたモノですから……せめて歌を捧げましょう)
死にゆくものに安らかな眠りを授ける子守歌。
歌う伊織の姿から、先ほどまでの勇ましい姿を想像するものはいないだろう。いや、死者の魂を導く戦乙女としては、体の生傷すらもふさわしいのかもしれない。
(貴方達に良き安寧の眠りを)
次第に赤く染まっていく空の下、歌声はどこまでも響いていった。
