<冷酷島>その夢見、超現場主義につき
●約束されなかった島・第三章
『冷酷島』正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立式人工島である。
本土外に島を作れば妖が現われないという謝った判断によって作られたこの島は、当然妖への充分な防衛力もなくみるみる妖に占拠されてしまった。
この島を人類の手に取り返すためのカギは三つ。
壱、島外進出をもくろむ妖のコミュニティを全て撃滅すること。
弐、妖の統率をとっているR4個体を見つけ出し撃破すること。
参、島に眠る謎を解明し解決すること。
そして今回は――
●ジムカタ・シツジという男
「ジムカタさんが夢見かもしれない?」
当初、不審人物を探していた⼯藤・奏空(CL2000955) 。彼の調査は手段で絞りすぎていたために早々に行き詰まっていたのだが、思わぬ方向から情報が入った。
というのも、新⽥・成(CL2000538)と⼤辻・想良(CL2001476) が島の内部に新たな前線拠点を作るべく行動していたからである。
成はこう語る。
「以前助けた少年の父親、覚えていますか? 彼に話を聞いたのですが、ジムカタさんという方はまるで未来が分かるかのように行動していたそうです」
例えば大雨や台風をずっと前から予見して建設計画を立てたり、大口案件が舞い込むことを予見して人員を確保したり……。元々先々を見越して行動するマメな性格だったせいで多くの人は不思議に思わなかったが、島の建設が始まる前になって奇妙な行動を起こしていたという。
「これ、見てください」
想良が取り出したのは地下シェルターの計画書だ。
人口島の一部にシェルターを作り、災害時の避難場所とする計画である。
だが津波や地震といったものではなく、爆撃や大火災といった……どこか妖の大規模攻撃を想定した作りになっていた。
「誰もが『妖なんて出ない』と信じていたのに、この人だけは襲撃を予見していたんだ」
この話は、人命救助をメインに動いていたチームの間でも交わされていた。
「島の北東部に、大きな地下シェルターある……みたいなの。GM建設の、ジムカタさんって人が、作ったらしいんだけど……」
そう語るのは明石 ミュエル(CL2000172)。
同じく追加調査を行なっていた七海 灯(CL200579)、向日葵 御菓子(CL2000429)も同様の情報を持っていた。
「ジムカタさんという方は酷いショートスリーパーで、一日中仕事をしている方なんだそうです。けど先々を見越したことを言うのは決まって仮眠をとった後だということで……」
「もしその人が夢見だったら、島での活動がすごく有利になるよね。予知した場所がどこか、きっと詳しくわかるはずだもの」
●シェルター開放計画
中 恭介(nCL2000002)は会議室に皆を集め、今回の依頼の説明をしていた。
「皆、いつも冷酷島の調査を行なってくれてありがとう。おかげで大きな進展が見込めそうだ。
この島の建設を実質的に統率していた人物、ジムカタという男の消息が分かった。
彼はどうやら夢見らしく、妖の大襲撃が起こる直前に一部の民間人と共にシェルター内に避難していたようだ」
しかしシェルターの上にはR3妖が居座っており、これを倒さなければ民間人を解放できないという。
「だからまずは、R3妖の撃破だ。皆にはこれをお願いしたい」
居座っているのはR3物質系妖『スクラップアンドスクラップ』。
大量のスクラップが寄り集まった巨人のような妖だ。
物攻と物防がきわめて強く、ダメージ量の高い範囲攻撃を得意としている。
「この任務に成功すれば、島内に前線基地を作れるだけでなく調査が格段にスムーズになる。皆、気合いを入れてくれ!」
『冷酷島』正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立式人工島である。
本土外に島を作れば妖が現われないという謝った判断によって作られたこの島は、当然妖への充分な防衛力もなくみるみる妖に占拠されてしまった。
この島を人類の手に取り返すためのカギは三つ。
壱、島外進出をもくろむ妖のコミュニティを全て撃滅すること。
弐、妖の統率をとっているR4個体を見つけ出し撃破すること。
参、島に眠る謎を解明し解決すること。
そして今回は――
●ジムカタ・シツジという男
「ジムカタさんが夢見かもしれない?」
当初、不審人物を探していた⼯藤・奏空(CL2000955) 。彼の調査は手段で絞りすぎていたために早々に行き詰まっていたのだが、思わぬ方向から情報が入った。
というのも、新⽥・成(CL2000538)と⼤辻・想良(CL2001476) が島の内部に新たな前線拠点を作るべく行動していたからである。
成はこう語る。
「以前助けた少年の父親、覚えていますか? 彼に話を聞いたのですが、ジムカタさんという方はまるで未来が分かるかのように行動していたそうです」
例えば大雨や台風をずっと前から予見して建設計画を立てたり、大口案件が舞い込むことを予見して人員を確保したり……。元々先々を見越して行動するマメな性格だったせいで多くの人は不思議に思わなかったが、島の建設が始まる前になって奇妙な行動を起こしていたという。
「これ、見てください」
想良が取り出したのは地下シェルターの計画書だ。
人口島の一部にシェルターを作り、災害時の避難場所とする計画である。
だが津波や地震といったものではなく、爆撃や大火災といった……どこか妖の大規模攻撃を想定した作りになっていた。
「誰もが『妖なんて出ない』と信じていたのに、この人だけは襲撃を予見していたんだ」
この話は、人命救助をメインに動いていたチームの間でも交わされていた。
「島の北東部に、大きな地下シェルターある……みたいなの。GM建設の、ジムカタさんって人が、作ったらしいんだけど……」
そう語るのは明石 ミュエル(CL2000172)。
同じく追加調査を行なっていた七海 灯(CL200579)、向日葵 御菓子(CL2000429)も同様の情報を持っていた。
「ジムカタさんという方は酷いショートスリーパーで、一日中仕事をしている方なんだそうです。けど先々を見越したことを言うのは決まって仮眠をとった後だということで……」
「もしその人が夢見だったら、島での活動がすごく有利になるよね。予知した場所がどこか、きっと詳しくわかるはずだもの」
●シェルター開放計画
中 恭介(nCL2000002)は会議室に皆を集め、今回の依頼の説明をしていた。
「皆、いつも冷酷島の調査を行なってくれてありがとう。おかげで大きな進展が見込めそうだ。
この島の建設を実質的に統率していた人物、ジムカタという男の消息が分かった。
彼はどうやら夢見らしく、妖の大襲撃が起こる直前に一部の民間人と共にシェルター内に避難していたようだ」
しかしシェルターの上にはR3妖が居座っており、これを倒さなければ民間人を解放できないという。
「だからまずは、R3妖の撃破だ。皆にはこれをお願いしたい」
居座っているのはR3物質系妖『スクラップアンドスクラップ』。
大量のスクラップが寄り集まった巨人のような妖だ。
物攻と物防がきわめて強く、ダメージ量の高い範囲攻撃を得意としている。
「この任務に成功すれば、島内に前線基地を作れるだけでなく調査が格段にスムーズになる。皆、気合いを入れてくれ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.スクラップアンドスクラップの撃破
2.30ターン以内に撃破する
3.なし
2.30ターン以内に撃破する
3.なし
色々な形に分岐し、場合によってはルートが増える構成となっております。
そんなわけで、飛び入り参加をいつでも歓迎しております。
(【事後調査】の注意書きがちょっと変更されています。何度か参加している方もぜひお読みください)
【シチュエーションデータ】
地下シェルター前での戦闘となります。
接近した時点でR3妖が行動を開始し、周囲をめちゃくちゃに破壊しながら戦うためあたりはほとんど平地もしくはスクラップだらけになると思われます。
障害物もあってないようなものです。
ただし、今回は現場に直接降下し、追加投入される戦闘部隊にって周囲の妖の邪魔を受けないためR3との戦闘に集中できます。
降下と戦闘部隊についての詳細は【補足情報】をお読みください。
【エネミーデータ】
R3物質系妖『スクラップアンドスクラップ』。
プレで略したい場合は『S&S』でも構いません。
スクラップが合わさった巨人のような妖です。直接殴りつけたり、スクラップをミサイルやガトリングのようにして無限に発射するといった攻撃方法をとります。
追加効果やBSはなく、ただただ純粋に攻撃力が高い妖です。なんとなあく実写的な巨大ロボを想像していただけるとよいかとおもいます。
効きやすい攻撃タイプは特攻。
体力は高いですが、囲んで殴りまくればそのうち倒せる範囲です。
後述する理由で体力問題もカバーされています。
倒すのにかかる推定必要ターンは20~30ターン。勿論工夫次第で短縮できます。
【補足情報】
・降下方法
輸送ヘリから一人ずつ投下し、直接戦闘を仕掛けます。
相手はまさかはるか上空から降ってくると思っていないので、最初のターンだけ行動不能となります。(言い換えるとこちらが2ターン分行動できます)
特殊な降下装置を使い、安全に着地が行なえます。ご希望の際には途中で切り離して自力で飛行することもできます。
・戦闘部隊
ファイブの二次団体にあたる覚者と古妖の部隊です。
一緒に降下し、コミュニティのリーダーであるR3妖を守ろうと集まってくる妖に牽制攻撃を仕掛けます。
約30ターンは維持できますが、それ以上は危険なので皆で撤退します。
また、ついでにR3妖にも砲撃支援をしてくれるので戦闘は有利にはたらきます。
【事後調査】
(※こちらは、PLが好むタイプのシナリオへシフトしやすくするための試験運用機能です)
島内は非常に危険なため、依頼完了後は一般人や調査・戦闘部隊はみな島外に退避します。
しかし高い生存能力をもつPCたちは依頼終了後に島内の調査を行なうことができます。
以下の三つのうちから好きな行動を選んでEXプレイングに記入して下さい。
※EX外に書いたプレイングは判定されません
・『A:追跡調査』今回の妖や事件の痕跡を更に追うことで同様の事件を見つけやすくなり、同様の依頼が発生しやすくなります。
・『B:特定調査』特定の事件を調査します。「島内で○○な事件が起きているかも」「○○な敵と戦いたい」といった形でプレイングをかけることで、ピンポイントな依頼が発生しやすくなります。
逆に「○○に聞き込みをする」「○○の資料を調べる」といった手段を限定したプレイングは正しく期待に応えられない可能性があるため、避けて頂けるとお互いハッピーになれます。
・『C:島外警備』調査や探索はせず、島外の警備を手伝います。依頼発生には影響しなさそうですが、島外に妖が出ないように守ることも大事です。
また、島外進出をはかる妖に気づきやすくなり、大きな被害が出る前に依頼を立ち上げることができるかもしれません。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年07月09日
2017年07月09日
■メイン参加者 8人■

●破壊と創造と破壊
輸送ヘリの静粛なプロペラ音が振動として伝わってくる。
一般的にへりこぷたーと呼ばれるものとは随分違うが、敵拠点の上空へこっそり近づいて内部に格納した強力な覚者や破綻者を投下爆撃するために旧ヒノマル陸軍が開発したメカであったらしい。降下装置もそのひとつだ。
純粋な力というものは善きことに使える。今がまさにその時であった。
「生存者の救出、夢見の確保、コミュニティ核となる妖の撃破、島中枢攻略への拠点……難敵との戦いではありますが、得られるものは多いですな」
『教授』新田・成(CL2000538)の言葉に、大辻・想良(CL2001476)が視線だけを向けた。
「島に詳しい人がいると、助かりますよね。妖は、倒します、けど……」
想良は追って投入されるらしい戦闘部隊のことを想った。どういう風に投入されるのか詳しくは聞いていないが、なんでもこちらの奇襲の直後に周囲の妖を牽制するべく突っ込んでくるらしい。
「……わたしたちは、ボスに集中するほうが、いいんですよね」
守護使役の天をそっと撫でて、想良は呟いた。
「全て片付いたら……慰霊碑のようなものを、建ててさしあげたいですね」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)の呟きを受けて、『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)はどう反応したものか困ってしまった。きっと理屈で話しているわけではないので、建設費用や被災者の調査に関する話はしていないはずだ。むしろ、もっと、こう……。
「そう、だね。傷ついた人たちのためにも、頑張らないとね」
恭司は大人の顔をして言った。
なぜこうも反応がブレたのかというと、ついさっきまでR3妖のことを深く考えていたからだった。
「あの妖だけどさ、スクラップを組み合わせた巨人だって話しだよね」
「物理攻撃を浴びせ合うのかと思いましたけど、今回はスペック的に私たちの出番のようですね」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が身を乗り出した。既に覚醒状態で、魔法使いのようなとがり帽子のつばをつまんだ。
「それに、相手が大きいのは悪いことばかりじゃありません。的が大きいわけですから」
やがてアナウンスが流れる。
『ハッチを開きます。降下装置の確認を行なってください。では、ご武運を』
暴風とはるか遠い地面。
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)は暴れる髪をおさえ、目を細めた。
「今回の件はシェルター内に避難した人々を救出するための戦いでもあります。助けが来るか分からない状況は人々を混乱させますし、最悪の事態を早めてしまうかも知れません。だから、今回でキッチリ倒しきろうね」
「うん、先生!」
「任せとけ!」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)と『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)がそれぞれグッと拳を握った。
「今も助けを待ってるはずだ。食料だっていつもつかわからないし、なにより不安だし……行こう!」
「よっし、なんだかわかんないけどあれぶっ壊せばいいんだよな! オレらが力を合わせりゃ壊せないもんなんかねーって! そんじゃ……!」
おねがいします! と叫んで遥は足下に開いたハッチから飛び降りた。
●制空権は世界の権利
人類が空を飛ぶまで、人は上から振ってくるものに対して無力だった。
ゆえに山なりに撃つ大弓は重宝され、城壁は高くなり落石や湯を武器とできた。現代戦において空はむしろ撃墜のリスクを伴う危険地帯になってしまったが、こと妖戦闘においてはまだ効果を発揮する。
人ならざる、そして獣ならざる妖は、多大なコストをかけはるか頭上からいつのまにか接近する物体に、多くの場合気づけない。
「今なら無防備なトコをやれそうだ!」
降下装置を使って落下速度を抑えつつ術式の準備を整える奏空。
その一方で燐花は減速しないどころかまっすぐな姿勢をとって更に加速。アイコンタクトをとった遥の腕ガードを足場にして更に倍まで加速すると、音よりも早く目標へと突っ込んだ。
大気を爆発させたような轟音が響き、R3物質系妖スクラップアンドスクラップの肩へと燐花そのものが直撃した。
攻撃によって自身が襲撃されたことにスクラップアンドスクラップ以下数十体の妖たちは気づいたが、先制攻撃というものはやはり最初に殴った分のアドバンテージがあるものである。
「さすがに速いな。有効射程内、ミスト散布!」
奏空はエネミースキャンを発動させつつ、迷霧を散布し始めた。
すっごい余談中の余談になるのだが、エネミースキャンを自身でどんな風に認識しているのかを想像するとより美味しく楽しめるそうだ。(Q&Aで公開された情報に限って述べるが)具体的な数値化はできないがどういう風に見ているのかは結構自由に決められるそうだ。ということでお試しに……。
「スキャン開始!」
奏空は髪を黄金色に染め覚醒状態となると、右目の網膜に青白いターゲットマークを作り出した。彼にしか見えないほど小さく、スクラップアンドスクラップの各部位の状態を見て分かる限りにリストアップしていく。
「行こう、天」
想良が守護使役から術書を引っ張り出すと、風にページを暴れさせながら演舞・清爽の術を発動。
周囲の風が舞い始め、奏空や恭司たちに力が宿る。
「ありがたく使わせてもらうよ。想良ちゃんの力も、降下装置もね」
「それなら、派手にやってみましょう!」
奏空の呼びかけに、恭司と想良は同時に構えた。
想良は本からばちばちと青白いスパークを、恭司は素早く一眼レフカメラのフラッシュを、そして奏空は逆手に握った刀から雷神を一斉に放つ。
三つに合わさった電撃がスクラップアンドスクラップとその周囲の妖たちに浴びせかけられ、数々のスパークと共に集まりかけていたコミュニティの妖たちを吹き飛ばしていく。
が、いつまでもこうして牽制するわけにはいかない。
追加の戦闘部隊はどうやってくるつもりだろう……と思った矢先、こちらに向かってなんか飛んでくるものがあった。
なんかというふんわりした表現にしたのは、何か分からなかったからである。
とりあえず後尾からのジェット噴射で推進し、灰色の煙をひきながら落下地点へやまなりに飛んでくる鉄の塊である。
それは空中で四つに分裂し、スクラップアンドスクラップの周囲へそれぞれ着弾。直後に周囲のカバーをパージし、内部から無数の覚者が飛び出してきた。
「えっなに、あのひとたちミサイルで突っ込んでくるの」
「派手ですねえ。負けてられません!」
腕まくりをして、ラーラは御菓子にアイコンタクトをとった。
「一緒に!」
「合奏しよう!」
ラーラは指で二重円環を描いて半自動で幾何学魔方陣を生み出していく。
一方で御菓子はゆるやかに回転しながらラッパを吹き鳴らし、生まれた音階が霧の五線譜と化した。
それぞれが炎を、霧を、身体に纏って服に鮮やかな模様を描き出す。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
次いで、御菓子の生み出した五線譜が川のようにスクラップアンドスクラップへとかかり、その上を炎の竜が豪速で走っていく。
激しい爆発にさらされるスクラップアンドスクラップ。
それらの攻撃の様子を確認した成は、目を細めてスクラップアンドスクラップのダメージ具合を観察した。
ぱっと見るだけなら誰にでもできるが、要所を確認して知識と照らし合わせることは相応の知識と経験をもたねばできない。その二つを最大活用できることが、成が覚醒しても若返らない理由である。すげー余談だがこれが彼流のエネミースキャンである。
「装甲には高硬度セラミックから始まる複合装甲が使われているようですね。セラミックは粉砕されても弾を止める力をもち爆発にも強い耐性を持ちます。一方で熱や電流を通しやすい。物理攻撃に強く特殊攻撃が推奨された理由はこれでしょう。チョパムアーマー、わかりますか?」
「がんだむの?」
「米戦車のです」
「わからん! とにかく殴ればへこむんだろ!?」
遥は拳を引き、瓦割りの構えをとった。
一方で成は素早く刀を抜いて、その衝撃をスクラップアンドスクラップへ放った。
術式性の衝撃は純粋な振動となってスクラップアンドスクラップの装甲を貫通し、内部を破壊しながら反対側へ抜けていく。
「見えた、そこだ!」
そうして僅かに生まれたヒビを見つけると、遥は『ただのパンチ』を繰り出した。
ただのパンチは対戦車装甲ミサイルを弾くような装甲を無理矢理ぶちこわし、ライフル弾を止める装甲を無理矢理突き破った。
「よっし、次行こう!」
●スクラップアンドスクラップ、スクラップアンドビルド
戦闘開始から三分。
ジェット噴射で飛んできた戦闘部隊は的確に展開し、それ自体が巨大なひとつの生物であるかのように連携して周囲の妖を押している。
平均的な戦闘力は低いものの、連携力と統一性においてはファイヴの優秀な覚者たちにもまねできないものがあった。規格された兵力というものはえてしてそういうものである。
「あー、あいつらどっかで見たことあると思ったら元ヒノマルの連中か。根性あるなー」
地面ごとぶっ壊すようなジャイアントパンチで吹き飛ばされ上下逆さになった遥はそんな風に余裕を見せていた。
まともな覚者たちからすると遥たちはふつうにオバケなので、戦闘に加わるより離れて雑魚を足止めしてるくらいが丁度よくスムーズなのだ。
さておき。
「あの方たちも保って五分。それまでに決着をつけなければなりませんね」
そう言いながら、ラーラはスクラップアンドスクラップの外周をまわるように走っていた。先端が焼けた鉄の棒を地面につけ、大きな大きな円を描く。
描ききった所で棒きれを捨て、手のナックル部分に魔方陣を分割で刻んだグローブで円内をスタンプした。拡大して刻まれた魔方陣から大量の炎があがる。
「とはいっても、長期戦を仕掛けるのでもないかぎり心配はなさそうですけれど……!」
「油断はなさらないように。そろそろ『次』が来ますよ」
成が地面を踵で踏み、振動が急速に増幅され地面が大きく隆起。槍となった地面がスクラップアンドスクラップに突き刺さるが、一方で全身のあらゆる箇所から筒状の金属を露出。それが全方位ミサイルランチャーであることは経験から分かっていた。
途端に空を埋めるミサイルの群れ。
ジグザグに走って着弾をかわす燐花だが、彼女を追尾した一本が急接近――した所で急にへし折れて爆発。
振り返ると、恭司がカメラを構えていた。
「回復が間に合ったみたいだね」
呪願センサによって焼き付いた画像には、ミサイルの爆発にさらされる燐花が映っていたが、すぐに直前の暴発で難を逃れた画像に塗り変わった。
「こんな時だけど、燐ちゃんを撮ってあげられたのはよかったかな」
「蘇我島さん……」
「って、それどころじゃないですってば!」
御菓子が滑り込んでタラサを構えた。
スクラップアンドスクラップが腹から巨大なガトリング眼らしきものを出してこっちを向いている。
「横薙ぎにされるから! 備えて!」
銃撃への一般的な備え方。
地面に伏せて両手で頭を庇い、破片が脳を損傷するのを防ぐ。
ないしは口を開けつつ息を止めて内蔵への衝撃を防ぐ。
その他諸々そのへんの教科書かなにかに書いてあるが、御菓子の場合は違う。
「『ソング アンド ダンス』!」
楽器を構える。
堂々と立ってみせる。
何が起ころうと演奏を絶対にやめない。
この三つである。
右から左へ豪雨のごとく走った弾丸が一瞬だけ人を血煙に変えたが、演奏を決して辞めないという強い意志に世界は怪我をなくさざるをえなくなった。
決して途切れることの無い演奏に押されるように、燐花はクラウチングスタートの姿勢をとった。
演奏のテンポが速まり、豪華な曲調へと変わっていく。
それにあわせてスタートダッシュ――から既に音を置き去りにし、ソニックブームと共に回転。大気をねじ曲げ強引に摩擦したことで激しく発光し、接触がそのまま超高熱のエネルギー爆発へと変わった。
足が崩壊し、膝を突くスクラップアンドスクラップ。
右目を強く光らせる奏空。
「みんな、相手の体力はもうじき尽きるよ! 畳みかけて!」
「だ、そうだけど……やれるかな、天?」
想良はちらりと守護使役を見てから、雷獣の暗雲を生み出した。
ばちばちと暴れる電流がスクラップアンドスクラップを覆っていく。
無理にでも立ち上がろうとした巨体を、まるで巨大な手で押さえつけるが如く沈めていく。
「来い、雷帝・帝釈天!」
「来い、八雷神!」
刀に激しい電流を纏わせる奏空。
その一方で遥は防御を捨てた一撃必殺の構えをとった。
彼の両手両足、額や胸や腹や腰に仕込まれた石が光を放ち、八つの雷太鼓の幻影が生まれた。
「これがオレの最大出力――!」
「ほんとのスクラップにしてやる!」
二人のパワーがひとつとなり、巨大な電撃の剣(拳)がスクラップアンドスクラップのボディを貫き巨大な穴をあける。
腕を大きく振り上げる……が、その腕はぼろぼろと崩れ落ち、巨人はついにスクラップへとかえっていった。
●ハイブリット事務員、事務方 執事
事務員というとよくお役所のカウンター先に座っていそうな、なんかワイシャツの腕にへんな覆いをしてるひょろい男を想像するが、こと建設会社における事務員は違う。
ヤのつく人たちを相手に金勘定で渡り合い、ヤのつく人たちを下請けに使い、コンビニどころかバス停すらないような過酷な環境で何ヶ月も活動する体力を併せ持つソルジャーである。
ジムカタ シツジはそんな男だった。
なんでかコスプレみたいな執事服を着ていたことを覗いては。
「シェルターは無事だったんですね。あれだけの戦いがあったのに……」
硬い扉を開いてシェルター内へ入った想良は、そんなふうに言って内部の様子を見た。
災害時の避難場所、というよりはちょっとした居住区である。スペースの多くは地下に広がり、ぱっと見そのへんの学生寮くらいの広さがあった。
「もしこのシェルターが前線拠点にできれば、かなり効率的な探索ができますね」
そう、乗り物で突っ込んで戦える戦闘はともかく、探索は一人で行って帰ってなので島の中心などの危険なエリアに行きづらかったのだ。
だがここがあれば……。
「それはともかく、皆が無事でよかったよ」
カメラを手に手を翳す恭司に、執事服を着た男が名刺を出して頭を下げた。
「救出感謝します。お見受けするところ民間団体のようですが……」
「これでも国のお墨付きなんだ。知ってるかな」
「『ファイヴ』ですか。ラジオニュースで聞いております。なるほど、皆さんが……おや?」
カメラに興味を示したようだが、それは今することではないと察したようで咳払いにかえた。
「事務方さん、とおっしゃるんですね。ここに逃げ込んだ方の状況を聞かせて頂いてもよろしいですか?」
「あと、島のこと色々教えてほしいんですけど……」
寄ってきた燐花と奏空に、事務方は再び頭を下げた。
「畏まりました。書類がありますので、まずはブリーフィングルームへご案内します」
一同は事務方と色々な情報を交換した。
その詳細はまた今度触れるとして……。
「ここに逃げ込めたのは、妖災害が起きた時近くに居た人々だけでした。当時はまだ携帯電話を携帯する方が少なかったですから……兄もここへは……」
ふむふむと腕組みする遥。
「ってことは、災害が起きたときのことを把握してるんだな? 始まりの場所とか、そういうの分かるかな」
「それも追々お話ししましょう。それより……」
「はい。事務方さんは夢見の力をお持ちのようです。この島を解放するために、ご協力いただけないでしょうか」
ラーラの問いかけに、握手で応える事務方。
「願ってもないことです。誤った希望にすがって移住した人々に甚大な被害を与えた責任は、私どもにもあります。是非協力させてください。さしあたっては……」
「うん。逃げ遅れた住民の救助をしたいの。心当たりは無い?」
せめてなにかあれば、という気持ちで聞いてみる御菓子。
事務方は眼鏡を中指で直して言った。
「野外防犯カメラの集積棟があります。そこへ行きましょう」
輸送ヘリの静粛なプロペラ音が振動として伝わってくる。
一般的にへりこぷたーと呼ばれるものとは随分違うが、敵拠点の上空へこっそり近づいて内部に格納した強力な覚者や破綻者を投下爆撃するために旧ヒノマル陸軍が開発したメカであったらしい。降下装置もそのひとつだ。
純粋な力というものは善きことに使える。今がまさにその時であった。
「生存者の救出、夢見の確保、コミュニティ核となる妖の撃破、島中枢攻略への拠点……難敵との戦いではありますが、得られるものは多いですな」
『教授』新田・成(CL2000538)の言葉に、大辻・想良(CL2001476)が視線だけを向けた。
「島に詳しい人がいると、助かりますよね。妖は、倒します、けど……」
想良は追って投入されるらしい戦闘部隊のことを想った。どういう風に投入されるのか詳しくは聞いていないが、なんでもこちらの奇襲の直後に周囲の妖を牽制するべく突っ込んでくるらしい。
「……わたしたちは、ボスに集中するほうが、いいんですよね」
守護使役の天をそっと撫でて、想良は呟いた。
「全て片付いたら……慰霊碑のようなものを、建ててさしあげたいですね」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)の呟きを受けて、『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)はどう反応したものか困ってしまった。きっと理屈で話しているわけではないので、建設費用や被災者の調査に関する話はしていないはずだ。むしろ、もっと、こう……。
「そう、だね。傷ついた人たちのためにも、頑張らないとね」
恭司は大人の顔をして言った。
なぜこうも反応がブレたのかというと、ついさっきまでR3妖のことを深く考えていたからだった。
「あの妖だけどさ、スクラップを組み合わせた巨人だって話しだよね」
「物理攻撃を浴びせ合うのかと思いましたけど、今回はスペック的に私たちの出番のようですね」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が身を乗り出した。既に覚醒状態で、魔法使いのようなとがり帽子のつばをつまんだ。
「それに、相手が大きいのは悪いことばかりじゃありません。的が大きいわけですから」
やがてアナウンスが流れる。
『ハッチを開きます。降下装置の確認を行なってください。では、ご武運を』
暴風とはるか遠い地面。
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)は暴れる髪をおさえ、目を細めた。
「今回の件はシェルター内に避難した人々を救出するための戦いでもあります。助けが来るか分からない状況は人々を混乱させますし、最悪の事態を早めてしまうかも知れません。だから、今回でキッチリ倒しきろうね」
「うん、先生!」
「任せとけ!」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)と『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)がそれぞれグッと拳を握った。
「今も助けを待ってるはずだ。食料だっていつもつかわからないし、なにより不安だし……行こう!」
「よっし、なんだかわかんないけどあれぶっ壊せばいいんだよな! オレらが力を合わせりゃ壊せないもんなんかねーって! そんじゃ……!」
おねがいします! と叫んで遥は足下に開いたハッチから飛び降りた。
●制空権は世界の権利
人類が空を飛ぶまで、人は上から振ってくるものに対して無力だった。
ゆえに山なりに撃つ大弓は重宝され、城壁は高くなり落石や湯を武器とできた。現代戦において空はむしろ撃墜のリスクを伴う危険地帯になってしまったが、こと妖戦闘においてはまだ効果を発揮する。
人ならざる、そして獣ならざる妖は、多大なコストをかけはるか頭上からいつのまにか接近する物体に、多くの場合気づけない。
「今なら無防備なトコをやれそうだ!」
降下装置を使って落下速度を抑えつつ術式の準備を整える奏空。
その一方で燐花は減速しないどころかまっすぐな姿勢をとって更に加速。アイコンタクトをとった遥の腕ガードを足場にして更に倍まで加速すると、音よりも早く目標へと突っ込んだ。
大気を爆発させたような轟音が響き、R3物質系妖スクラップアンドスクラップの肩へと燐花そのものが直撃した。
攻撃によって自身が襲撃されたことにスクラップアンドスクラップ以下数十体の妖たちは気づいたが、先制攻撃というものはやはり最初に殴った分のアドバンテージがあるものである。
「さすがに速いな。有効射程内、ミスト散布!」
奏空はエネミースキャンを発動させつつ、迷霧を散布し始めた。
すっごい余談中の余談になるのだが、エネミースキャンを自身でどんな風に認識しているのかを想像するとより美味しく楽しめるそうだ。(Q&Aで公開された情報に限って述べるが)具体的な数値化はできないがどういう風に見ているのかは結構自由に決められるそうだ。ということでお試しに……。
「スキャン開始!」
奏空は髪を黄金色に染め覚醒状態となると、右目の網膜に青白いターゲットマークを作り出した。彼にしか見えないほど小さく、スクラップアンドスクラップの各部位の状態を見て分かる限りにリストアップしていく。
「行こう、天」
想良が守護使役から術書を引っ張り出すと、風にページを暴れさせながら演舞・清爽の術を発動。
周囲の風が舞い始め、奏空や恭司たちに力が宿る。
「ありがたく使わせてもらうよ。想良ちゃんの力も、降下装置もね」
「それなら、派手にやってみましょう!」
奏空の呼びかけに、恭司と想良は同時に構えた。
想良は本からばちばちと青白いスパークを、恭司は素早く一眼レフカメラのフラッシュを、そして奏空は逆手に握った刀から雷神を一斉に放つ。
三つに合わさった電撃がスクラップアンドスクラップとその周囲の妖たちに浴びせかけられ、数々のスパークと共に集まりかけていたコミュニティの妖たちを吹き飛ばしていく。
が、いつまでもこうして牽制するわけにはいかない。
追加の戦闘部隊はどうやってくるつもりだろう……と思った矢先、こちらに向かってなんか飛んでくるものがあった。
なんかというふんわりした表現にしたのは、何か分からなかったからである。
とりあえず後尾からのジェット噴射で推進し、灰色の煙をひきながら落下地点へやまなりに飛んでくる鉄の塊である。
それは空中で四つに分裂し、スクラップアンドスクラップの周囲へそれぞれ着弾。直後に周囲のカバーをパージし、内部から無数の覚者が飛び出してきた。
「えっなに、あのひとたちミサイルで突っ込んでくるの」
「派手ですねえ。負けてられません!」
腕まくりをして、ラーラは御菓子にアイコンタクトをとった。
「一緒に!」
「合奏しよう!」
ラーラは指で二重円環を描いて半自動で幾何学魔方陣を生み出していく。
一方で御菓子はゆるやかに回転しながらラッパを吹き鳴らし、生まれた音階が霧の五線譜と化した。
それぞれが炎を、霧を、身体に纏って服に鮮やかな模様を描き出す。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
次いで、御菓子の生み出した五線譜が川のようにスクラップアンドスクラップへとかかり、その上を炎の竜が豪速で走っていく。
激しい爆発にさらされるスクラップアンドスクラップ。
それらの攻撃の様子を確認した成は、目を細めてスクラップアンドスクラップのダメージ具合を観察した。
ぱっと見るだけなら誰にでもできるが、要所を確認して知識と照らし合わせることは相応の知識と経験をもたねばできない。その二つを最大活用できることが、成が覚醒しても若返らない理由である。すげー余談だがこれが彼流のエネミースキャンである。
「装甲には高硬度セラミックから始まる複合装甲が使われているようですね。セラミックは粉砕されても弾を止める力をもち爆発にも強い耐性を持ちます。一方で熱や電流を通しやすい。物理攻撃に強く特殊攻撃が推奨された理由はこれでしょう。チョパムアーマー、わかりますか?」
「がんだむの?」
「米戦車のです」
「わからん! とにかく殴ればへこむんだろ!?」
遥は拳を引き、瓦割りの構えをとった。
一方で成は素早く刀を抜いて、その衝撃をスクラップアンドスクラップへ放った。
術式性の衝撃は純粋な振動となってスクラップアンドスクラップの装甲を貫通し、内部を破壊しながら反対側へ抜けていく。
「見えた、そこだ!」
そうして僅かに生まれたヒビを見つけると、遥は『ただのパンチ』を繰り出した。
ただのパンチは対戦車装甲ミサイルを弾くような装甲を無理矢理ぶちこわし、ライフル弾を止める装甲を無理矢理突き破った。
「よっし、次行こう!」
●スクラップアンドスクラップ、スクラップアンドビルド
戦闘開始から三分。
ジェット噴射で飛んできた戦闘部隊は的確に展開し、それ自体が巨大なひとつの生物であるかのように連携して周囲の妖を押している。
平均的な戦闘力は低いものの、連携力と統一性においてはファイヴの優秀な覚者たちにもまねできないものがあった。規格された兵力というものはえてしてそういうものである。
「あー、あいつらどっかで見たことあると思ったら元ヒノマルの連中か。根性あるなー」
地面ごとぶっ壊すようなジャイアントパンチで吹き飛ばされ上下逆さになった遥はそんな風に余裕を見せていた。
まともな覚者たちからすると遥たちはふつうにオバケなので、戦闘に加わるより離れて雑魚を足止めしてるくらいが丁度よくスムーズなのだ。
さておき。
「あの方たちも保って五分。それまでに決着をつけなければなりませんね」
そう言いながら、ラーラはスクラップアンドスクラップの外周をまわるように走っていた。先端が焼けた鉄の棒を地面につけ、大きな大きな円を描く。
描ききった所で棒きれを捨て、手のナックル部分に魔方陣を分割で刻んだグローブで円内をスタンプした。拡大して刻まれた魔方陣から大量の炎があがる。
「とはいっても、長期戦を仕掛けるのでもないかぎり心配はなさそうですけれど……!」
「油断はなさらないように。そろそろ『次』が来ますよ」
成が地面を踵で踏み、振動が急速に増幅され地面が大きく隆起。槍となった地面がスクラップアンドスクラップに突き刺さるが、一方で全身のあらゆる箇所から筒状の金属を露出。それが全方位ミサイルランチャーであることは経験から分かっていた。
途端に空を埋めるミサイルの群れ。
ジグザグに走って着弾をかわす燐花だが、彼女を追尾した一本が急接近――した所で急にへし折れて爆発。
振り返ると、恭司がカメラを構えていた。
「回復が間に合ったみたいだね」
呪願センサによって焼き付いた画像には、ミサイルの爆発にさらされる燐花が映っていたが、すぐに直前の暴発で難を逃れた画像に塗り変わった。
「こんな時だけど、燐ちゃんを撮ってあげられたのはよかったかな」
「蘇我島さん……」
「って、それどころじゃないですってば!」
御菓子が滑り込んでタラサを構えた。
スクラップアンドスクラップが腹から巨大なガトリング眼らしきものを出してこっちを向いている。
「横薙ぎにされるから! 備えて!」
銃撃への一般的な備え方。
地面に伏せて両手で頭を庇い、破片が脳を損傷するのを防ぐ。
ないしは口を開けつつ息を止めて内蔵への衝撃を防ぐ。
その他諸々そのへんの教科書かなにかに書いてあるが、御菓子の場合は違う。
「『ソング アンド ダンス』!」
楽器を構える。
堂々と立ってみせる。
何が起ころうと演奏を絶対にやめない。
この三つである。
右から左へ豪雨のごとく走った弾丸が一瞬だけ人を血煙に変えたが、演奏を決して辞めないという強い意志に世界は怪我をなくさざるをえなくなった。
決して途切れることの無い演奏に押されるように、燐花はクラウチングスタートの姿勢をとった。
演奏のテンポが速まり、豪華な曲調へと変わっていく。
それにあわせてスタートダッシュ――から既に音を置き去りにし、ソニックブームと共に回転。大気をねじ曲げ強引に摩擦したことで激しく発光し、接触がそのまま超高熱のエネルギー爆発へと変わった。
足が崩壊し、膝を突くスクラップアンドスクラップ。
右目を強く光らせる奏空。
「みんな、相手の体力はもうじき尽きるよ! 畳みかけて!」
「だ、そうだけど……やれるかな、天?」
想良はちらりと守護使役を見てから、雷獣の暗雲を生み出した。
ばちばちと暴れる電流がスクラップアンドスクラップを覆っていく。
無理にでも立ち上がろうとした巨体を、まるで巨大な手で押さえつけるが如く沈めていく。
「来い、雷帝・帝釈天!」
「来い、八雷神!」
刀に激しい電流を纏わせる奏空。
その一方で遥は防御を捨てた一撃必殺の構えをとった。
彼の両手両足、額や胸や腹や腰に仕込まれた石が光を放ち、八つの雷太鼓の幻影が生まれた。
「これがオレの最大出力――!」
「ほんとのスクラップにしてやる!」
二人のパワーがひとつとなり、巨大な電撃の剣(拳)がスクラップアンドスクラップのボディを貫き巨大な穴をあける。
腕を大きく振り上げる……が、その腕はぼろぼろと崩れ落ち、巨人はついにスクラップへとかえっていった。
●ハイブリット事務員、事務方 執事
事務員というとよくお役所のカウンター先に座っていそうな、なんかワイシャツの腕にへんな覆いをしてるひょろい男を想像するが、こと建設会社における事務員は違う。
ヤのつく人たちを相手に金勘定で渡り合い、ヤのつく人たちを下請けに使い、コンビニどころかバス停すらないような過酷な環境で何ヶ月も活動する体力を併せ持つソルジャーである。
ジムカタ シツジはそんな男だった。
なんでかコスプレみたいな執事服を着ていたことを覗いては。
「シェルターは無事だったんですね。あれだけの戦いがあったのに……」
硬い扉を開いてシェルター内へ入った想良は、そんなふうに言って内部の様子を見た。
災害時の避難場所、というよりはちょっとした居住区である。スペースの多くは地下に広がり、ぱっと見そのへんの学生寮くらいの広さがあった。
「もしこのシェルターが前線拠点にできれば、かなり効率的な探索ができますね」
そう、乗り物で突っ込んで戦える戦闘はともかく、探索は一人で行って帰ってなので島の中心などの危険なエリアに行きづらかったのだ。
だがここがあれば……。
「それはともかく、皆が無事でよかったよ」
カメラを手に手を翳す恭司に、執事服を着た男が名刺を出して頭を下げた。
「救出感謝します。お見受けするところ民間団体のようですが……」
「これでも国のお墨付きなんだ。知ってるかな」
「『ファイヴ』ですか。ラジオニュースで聞いております。なるほど、皆さんが……おや?」
カメラに興味を示したようだが、それは今することではないと察したようで咳払いにかえた。
「事務方さん、とおっしゃるんですね。ここに逃げ込んだ方の状況を聞かせて頂いてもよろしいですか?」
「あと、島のこと色々教えてほしいんですけど……」
寄ってきた燐花と奏空に、事務方は再び頭を下げた。
「畏まりました。書類がありますので、まずはブリーフィングルームへご案内します」
一同は事務方と色々な情報を交換した。
その詳細はまた今度触れるとして……。
「ここに逃げ込めたのは、妖災害が起きた時近くに居た人々だけでした。当時はまだ携帯電話を携帯する方が少なかったですから……兄もここへは……」
ふむふむと腕組みする遥。
「ってことは、災害が起きたときのことを把握してるんだな? 始まりの場所とか、そういうの分かるかな」
「それも追々お話ししましょう。それより……」
「はい。事務方さんは夢見の力をお持ちのようです。この島を解放するために、ご協力いただけないでしょうか」
ラーラの問いかけに、握手で応える事務方。
「願ってもないことです。誤った希望にすがって移住した人々に甚大な被害を与えた責任は、私どもにもあります。是非協力させてください。さしあたっては……」
「うん。逃げ遅れた住民の救助をしたいの。心当たりは無い?」
せめてなにかあれば、という気持ちで聞いてみる御菓子。
事務方は眼鏡を中指で直して言った。
「野外防犯カメラの集積棟があります。そこへ行きましょう」
