潮干狩り
【零の岬】潮干狩り



 眩(クララ)・エングホルム(nCL2000164)は受話器を耳に宛てながら口を尖らせた。電話の相手は中である。
「わかったわ。何を言ってもダメなんでしょ? ランク1がたった一体残っているだけなのに……はいはい、行きません」
 がちゃん、と音をたてて受話器を戻す。
 妖討伐が無事に完了していれば、岬付近の浜辺は安全になっていただろう。外出許可も下りて、みんなと一緒に潮干狩りが楽しめたはず……。

 増援として二名の覚者を送りだした後、眩は新たに予知夢を得た。
 見えたのは、海の妖母の赤殻の一片を咥えこんだシジミ貝の妖が、あたりに妖気をまき散らしてごく普通のシジミ貝を凶暴にし、ともに浜を上がって街へ進撃していく姿だ。
(「赤殻のおかげで貝が固くなっているだけで……口を開けさせることができれば夢見のわたしでも簡単に倒せるんじゃないかしら?」)
 つくづく、外出許可を出さない中を恨めしく思う。
「愚痴をいっててもしょうがないわね。今夜の宿の手配と……あら、どうやって彼らと連絡を取ればいいのかしら? 困ったわ」


 一夜明けて。
 空はすっきりと晴れ、海は穏やかだった。やつらがやって来るまでは。
 貝を薄く開け、ベロの伸ばして砂の上をシジミの大群が這い進む。
 好奇心から近づいた野良ネコが、次々とシジミに噛みつかれて悲鳴を上げた。ぶるり、と身を震わせて毛に噛みつくシジミたちを落とすと、一目散に逃げて浜を後にする。

 中にひとつだけ、マンホールサイズまで大きくなったシジミ貝の妖がいた。
 舌の上に海の妖母の赤殻の欠片を乗せ、誰にもとられぬようにしっかりと蓋をとじている。
 移動は下に敷いたシジミたち任せ。
 いまはランク1で、シジミに与える影響も弱いが放置しておくととんでもないことになるだろう。



■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:簡単
担当ST:そうすけ
■成功条件
1.シジミ貝の妖を倒す
2.赤殻の欠片の回収
3.大量発生したシジミ貝を処分する

 朝、晴れ。波は穏やか。
 浜一面に妖気に宛てられて凶暴化したシジミ貝がひしめいています。

●敵1 凶暴化したシジミ貝……たくさん。
 妖化はしていません。
 ただ、進路を阻み、動くものはなんであれ噛みつます(貝で身を挟む)。
 噛みつかれると痛いことは痛いですが、覚者はまったくダメージを受けません。
 発現していない人は皮膚が切れたりして血が出るかも。
 
 ※ごく普通に食べられます。
 ※米や味噌、鍋にコンロなどなど……ファイヴの依頼を受けた近くの商店が配達してくれますよ。


●敵2 シジミ貝の妖/ランク1
 海の妖母の赤殻の欠片を飲み込んで、防御力が格段にアップしています。
 なお、物理攻撃は通るもよう。
 攻撃力は弱く、物近単の単純攻撃しかできません。
 マンホール大なので、すぐにシジミの群れの中から見つけることができますが、シジミが邪魔で近づけません。
 カタツムリが這うスピードで海から街を目指して移動してます。
 
 ※一夜過ごすとランクが2にアップします。日暮れまでに倒してね。
 ※こやつは覚者、一般人ともに食べられません。


●NPC……一般人
 遠山 海咲(とおやま みさき)、女性、16歳。
 なぜか眩が手配した宿に覚者たちと一泊し、一緒に浜辺までついて来ています。


●STコメント
 『易』依頼です。
 眩の代わりに潮干狩り?を楽しんでください。
 水着になって海に入ってもいいですが、まだ海水は冷たいです。
 あそんでもいいけど、やることはきっちりやるのですよ。

 シリーズに参加されていた方は、近くの民宿で一泊したのち浜辺へ来たことにしください。
 新しく依頼に加わった方は、夜遅くに現地組みと宿で合流、または始発の新幹線で現地着、どちらても好きに設定してください。

 それではみなさんのご参加をお待ちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(4モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年07月05日

■メイン参加者 8人■

『五麟マラソン優勝者』
奥州 一悟(CL2000076)
『ゆるゆるふああ』
鼎 飛鳥(CL2000093)
『マジシャンガール』
茨田・凜(CL2000438)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『スーパーコスプレ戦士』
立花 ユネル(CL2001606)


 古妖たちを乗せた絨毯の影が夜空の彼方に消えた後も、覚者たちはぼんやりと月を見上げていた。
「おーい、みんなー! 新しい依頼だよー!」
 明るく元気な声に続いて、林の中を駆けてくる足音。
「へ? 新しい……依頼って」
「それより誰、なのよ?」
 首を回すのがやっとの『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076) の横で、鼻をすすっていた『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093) が立ち上がって林の出口を見る。
 やって来たのは、『スーパーコスプレ戦士』立花 ユネル(CL2001606)だった。
「みんな、お疲れさまだったのねん。今夜は近くの民宿に泊まって、朝からシジミの妖退治と『赤殻の破片』の回収をお願いなのねん。もちろん、ゆるねんも張り切ってお手伝いするよ」
 『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は、ユネルの前に進み出て労いの言葉をかけた。
「伝令、ご苦労様です。それで、その……いまのお話しはファイヴの……正式な依頼なのでしょうか?」
「もちろんなのねん」
 それは願ったりかなったり、と『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156) が肩を回す。
「おっさんは責任があるから一人でも残るけど、都合の悪い子は遠慮なくお帰り。ええっと――」
ヘルメット頭を回してユネルを見た。
「歌って、踊れて、戦える、『スーパーコスプレ戦士』! 立花 ユネルなのねん。ゆねるん、って呼んでください」
 ユネルはさくっと名乗りのキメポーズを取った。
「……帰宅者のための『足』は確保されているかね?」
 ユネルはふふん、と胸を反らすと、ポケットから新幹線の座席指定券を取り出した。数えてみたところ八枚、とりあえず先発隊分のチケットはあるようだ。
「ちょっと傷つきますね。エングホルムさんは僕たちが全員、依頼を蹴って帰ると思ったのでしょうか?」
 勒・一二三(CL2001559)は海咲を横に連れて、気を失ったままの『マジシャンガール』茨田・凜(CL2000438)を抱きかかえた。多少ふらつきながらも、なんとか立ち上がる。
「勒ちゃん、そういうことじゃないわよ。ただ単に、人数分チケットを揃えてゆるねんちゃんに持たせただけの話さね」
 意識のない凛には明日の朝いちばんに依頼受託の確認をとることにして、渚だけが明日の授業はどうしても欠席できない、と帰宅することになった。
 桂木・日那乃(CL2000941)が最寄りのローカル駅までの付き添いを申し出る。
「暗いし、独りは危ない……かも? 送る、ね」
「あ、でしたら私も一緒に行きます」
 ラーラは、「オレもいくぜ」という一悟をやんわりと押しとどめた。
「奥州さんはみなさんと一緒に先に宿へ。明日の為に早めに休んでください。では、桂木さん、行きましょう」
「その前……に、立花さん?」
「ゆねるん、とお呼びくださいなのねん」
「……宿、どこか教えて」
 ユネルから宿の名前と場所を聞いて、三人は一足先に岬を後にした。


「どうでした?」
 凛は一二三の声に驚いた。振り返ると、一二三とその後ろに海咲が立っていた。胸に手を当て、怒られちゃった、と苦笑いしながら受話器を戻す。
「無茶なことはしないでください、ですか?」
「うん、まあ、そんな感じ。『あとに残されるお子さんのことを考えてください』って。考えてなかったわけじゃないんよ。ただ、あの時は――」
 凛は海咲の視線に気づいて言葉を切った。母親に産み捨てにされたという海咲は、自分のことをさぞ酷い母親だと思っているに違いない。
 昨夜は危うく死にかけた。もしも、あのまま死んでいたら? 最愛の娘に一言も残さず逝った母を、年頃になった佳奈はやはり恨んだだろうか。
「佳奈のことは誰よりも大切に思っているんよ。だけど、やらなくていけない事がある、あったんよ、夕べは」
 一二三がそろりと頭を下げた。絹のような髪がさらりと肩から流れ落ちる。
「昨夜はありがとうございました。凜さんのおかげで助かりました」
「勒さん、やめて。あれは……凜がもっとしっかりしていれば、そもそも防げたかもしれないことなんよ」
「たられば、はやめましょう。こうして生きていられることがなにより大切。ね、そう思いませんか、海咲さん?」
 笑顔を向ける一二三に対し、海咲はうつむいてしまった。スズメの鳴き声が聞こえるガラス窓の外とは対照的に、顔を欝々とした暗い影が覆う。
「あ、勒さん。そういえば、凛に何か用?」
 凜の助け船に乗って、一二三はぽんと手を打った。
「そうでした。みんなもう浜へ出ています。僕たちも早く潮干狩りついでの妖退治に参りましょう」

 水着の上にパーカーを羽織っただけの姿の一悟は、防波堤の上に立ち、額に手をかざして、右から左へ首を振った。
「見渡す限りシジミ、シジミ、シジミだな」
 岬の張りだした浜の端から河口まで、波打ち際から二メートルほどの幅に黒く光る小石のようなシジミがひしめいていた。
 だいたいが百円玉程度の大きさだ。
 ラーラは踵を上げてサンダルに入った小さな砂を落とすと、素早く妖シジミの位置を特定すると、ざっと普通のシジミを片付ける時間をはじき出した。
 岬側よりも河口付近のほうがシジミの数が多いようだ。これは淡水、または塩分濃度の低い海水に住まうシジミの特性と合致する。ただ、黒光りするシジミ帯に幅はなく、どちらかというと岬側のほうが幅広い。これは岬から海に落ち、一晩で浜のほぼ中央まで移動してきた妖シジミと関係があるのだろう。
「これから満ち潮になることも考慮に入れて、波打ち際からそう離れていませんから海に戻す手間はそうがかからないでしょう。みんなでかかれば、元凶である妖の退治も含めて、ざっと三十分ほどでしょうか。妖を倒した後に、シジミの凶暴化が解けていればの話ですが」
「さっさと片付けて、食事を楽しむとしようかね。悪食や、お前は先に海の幸を頂くといい」
 逝は素早く覚醒すると、防波堤を飛び降りて砂浜に降りたった。そのまま砂を踏みしめて、波打ち際へまっすぐ向かっていく。
 敵の出現に気づいた前線のシジミたちが一斉に貝を開いた。威嚇のつもりが、貝を激しく開け閉めして、カチカチと音を鳴らす。が、それだけ。
 逝はゴルフスイングの要領で悪食を振り回した。
「ナイスショット!!」
 一悟が口に手を当ててヤジを飛ばす。
「シジミ……どのぐらい獲れば、いい?」
 日那乃は麦わら帽子が作る青い影の下から、悪食を振るう逝を眺めつつ、熊手を入れた赤いバケツを持ち上げた。足元に、一応人数分の熊手とバケツが並べて置かれている。
「これ、に、いっぱいに獲ると多い……よね?」
「大丈夫。集まった地元の皆さんにも食べていただきましょう」
「地元の、人?」
 突然、ラーラの隣で一悟が奇声をあげた。
 つられて日那乃が横を向くと浜辺に小さなステージが作られていた。
「おー、なかなか本格的じゃねえか。てか、どっから持ってきたんだよ。巨大スピーカーとか」
「……それより、あの機材をセッティングしている人たち、もしかして?」
 眉をひそめたラーラの顎の下で日那乃がこくりと頭を下げた。
「白波さんと、渦潮さん……みたい、ね」
 中年の夫婦がステージの設置を手伝てっていた。守護使役を連れていないので人でないことはすぐにわかる。浅黒い肌をした筋肉質の男は首に白い包帯を巻き、長い白髪を首の後ろで束ねた女は時代を感じさせるモンペ姿だ。いくら何でもファッションセンスが古すぎると思うが、ふたりが最後に人と親しく交流していた時代の衣装がそうだったのか。
「いつ、来たの、かな?」
「いつでしょうね。でも、渦潮さん……よかった」
「ああ、マジ無事でよかったぜ」
 一悟は妖退治のあと、海に消えた古妖たちを探しに行くつもりだった。
 助けられたことは助けたが、互いにわだかまりを残したままの別れになったことを悔いていたのだ。
「あとで飯を食いながらふたりと話をするか」
 キーン、となんとも例えようの無いノイズが、大音量で浜辺に響き渡った。続いて飛鳥ののんびりとした声が聞こえてくる。
 マイクチェックの音に、何事か、と地元の人たちがちらほら集まってきた。
「まずいな、誰も結界持ってねえぞ。こうしちゃいられねえ。オレ、シジミぶっ飛ばしながらガードマンもやるぜ」
 お先、と一悟はバケツを二つ手に取って防波堤から飛び降りると、浜辺のステージに向かって走り出した。
 ステージを見ると、凛と一二三、海咲も脇にいる。一二三は胸にカメラを提げ、海咲に白い板を持たせていた。どうやらステージカメラマンをやるつもりのようだ。
 凜は折りたたみのテーブルを広げていた。
 誰もここから河口方面のシジミたちのことは気にしていないように見える。
 こんなときにラーラのような真面目さんはちょっぴり損だ。
「……しょうがないですね。私はここから河口までのシジミを駆除して戻ってきます。桂木さんはどうしますか?」
「シジミ。範囲攻撃でないと、倒すのたいへん、かも……。わたしは、スキルは、単体攻撃、だから。緒形さんと一緒に、妖シジミ、エアブリットか薄氷で攻撃しとく、ね」
 ここから岬側のほうで展開しているシジミたちが後回しになりそうだが、まあ、とくに問題はないだろう。あとで集中して片付ければいい。
「妖シジミ戦には私も参加します。では、また後で」
 ラーラが自分の分のバケツを手に取って防波堤を歩き出すと、背の後でわっ、と歓声が上がった。


 ステージの端から水着にパレオを巻いたユネルと飛鳥が飛び出して来た。
「おまたせしましたのねん! ゆるねんアンドあすかの『2017☆キラキラ渚のスペシャルミニライブ』、始まるのねん♪」
 まばらではあるが、陸側から集まった地元の人たちが熱と期待がこもった拍手をする。海側からはシジミたちが、カチカチと貝合わせの音を出した。
 テトラポットと防波堤の上からは下りないように、と一悟が大声を上げる横で、一二三が熱心にシャッターを切る。
 凜は調理道具をセットしたテーブルを作り終えると、ライム色のサマードレスの裾をひるがえしながら、シジミ採りの道具を取りに日那乃の元へ走った。ついでに水龍牙を放っていき道のシジミを海へ押し返していく。
 殻のバケツを受け取って、日那乃と一緒に潮干狩りを始めた。
「桂木さんは一緒に歌わないん?」
「わたしは、いい。クリスマスに、歌ったから」
 逝は手を休めると、マイクパフォーマンスで湧くステージ周りにフルフェイスを向けた。
 白波と渦潮が、一悟を手伝って観客の整理をしていた。
「凛ちゃんや、渦潮ちゃんたちとはどこで?」
 聞けば、一二三たちと宿を出て浜へ向かって歩いていると、いつの間にか荷車を引いた夫婦が後ろにつけていたのだという。
「クララちゃんが色々と手配したという店が実は……と言うわけではなさそうね。ま、細かいことはどうでもよい。エビのかわりにおっさん特製のシジミのクラムチャウダーを食べてもらおうかね」
「お昼、作りに行く?」
 ユネルの話では、妖は口を開きたくないばかりに自力で動くことができない。移動は下にしたシジミ任せで、カタツムリが這うほどの速さだ。調理中、放置していても問題はないだろう。
「念のため……ステージの前、持って、いくね」
 日那乃はマンホール大の妖シジミにすたすた近寄ると、ひょいと持ち上げた。
 驚いた妖が貝を薄く開いたが、慌てた様子ですぐに閉じた。
 近くまで戻ってきていたラーラはそれを見て、あきれた。それなら罪のないシジミたちを焼かなくてもよかったのに、とがっくり肩を落とす。
「放っておくと妖母のようになってしまうのでしょうか? 赤殻の影響でどのぐらい固くなったのか知りませんが、なんというか……馬鹿ですね、この妖」
 日那乃の隣に立ち、ちょっぴり怒りを込めてこつこつと妖の貝を叩く。
「所詮はランク1さね。それに、シジミたちは凶暴化していたから、どのみちそのままにはしておけなかったわよ。や、ラーラちゃん、お疲れさん。さあ、はりきってお昼を作るぞぅ」
 妖シジミはステージの前に置かれた。ラーラたちに一二三と海咲が合流し、ステージ横で調理を始める。
 ご当地いいとこ教えてトークでユネルと飛鳥が人の観客たちを盛り上げた後、渦潮がふたりの前にスタンドマイクを置いた。白波がラジカセの再生ボタンに指を置く。
「それでは聞いてくださいなのよ」
「『真夏のあげ↑あげ↑マーメード』なのねん」
 ノリノリ、アゲアゲのダンスナンバーが、ステージ端に据え置かれた大型スピーカーから流れだした。

 ♪白い砂 けとばして 波打ち際で 踊れ♪ はしゃげ♪ 真夏のマーメード~

「Billow! Billow!」で、飛鳥がくるくる振り回したスティクから、ステージ前のシジミたちに向けて巨波を放つ。
「心躍らせ Shake now!」で、ユネルがシジミたちの下から砂の槍を隆起させる。
 突き上げられて空を飛んだ黒い貝に日差しが反射して、キラキラ光った。
 一悟が落ちるシジミたちを火柱で焼く。
「Jump! Jump!」で、再び飛鳥が水龍牙を放ってのこりのシジミを押し流し、「弾ける Heart Beat!」でユネルが横にしたVサインの間から、破眼光を発射して妖シジミを撃つ。
 ユネルと飛鳥は同時に腰に巻いたパティオを解くと、手にもってブンブン振り回した。右に左に、ノリノリのビートに乗ってステージを駆けまわる。
「みんなー、一緒に歌って、踊って、はじけましょう♪なのねん」
 盛り上がるライブ。
「カモン! ラーラお姉さん」
 料理を下ごしらえを手伝っていたラーラは、飛鳥からの突然指名されて驚いた。が、すぐにエプロンを外して、守護使役のぺスカとともにステージへ飛び込んだ。
「マーメードも燃える夏だよ♪」で、ユネルがラーラにウィンクを飛ばす。
 飛鳥の「燃える夏だね♪」という掛け合いと同時に、ラーラは踊る炎大猫を召喚してシジミたちの間に放った。
 日那乃は翼をはためかせた。風の刃は炎大猫が残した炎と戯れながら砂の上を飛び、妖シジミを打つ。
 カキーン、と刃が貝に弾かれる甲高い音に続けて、一悟が炎を纏った拳で妖を叩く。黒い貝がドラム変わりだ。
 サビの繰り返しで全員が歌声を合わせて踊る。
 最後に料理の仕込みを終えた逝が大上段から悪食を妖シジミに打ち下ろし、曲の終わりとともに、焼けた砂と真っ二つに割れた貝をシジミたちに取りついていた妖気ごと高く空へ吹き飛ばした。
 

 袈裟の端をつまんで持ち上げると、一二三は空から落ちてきた赤殻をキャッチした。
「食事の用意ができましたよ。みんなで仲良く頂きましょう」
 凜が紙おしぼりを配る横で、海咲が一二三の作ったシジミの炊き込みご飯をおにぎりにして渡す。 一二三も隣で一緒におにぎりを配った。
「海咲さん……縁あって知り合い、こうして一緒に美味しいごはんを食べ……とてもいい思い出ができました。この思い出の一部である大切な貴方に死なれてしまっては、僕はとても悲しい。ですから、またお会いしましょう。是非、五麟市に遊びに来てください。いつでもみんなで歓迎いたします」
 一二三の横で、涙ぐんだ海咲がゆっくりとうなずいた。
 ステージを片付けて帰ろうとしていた渦潮と白波の二人を、ラーラと一悟が呼び止めた。
「慌てて帰らなくてもいいだろう。飛鳥が作るシジミの味噌汁も食べてやってくれよ、な?」
「そうですよ、ゆっくり楽しんでいってください。いま、立花さんがおばあさんから教わったという『シジミのしぐれ煮』を作っています。おみやげにどうぞ」
 ラーラと一悟は、どうしようかと顔を見合わせた古妖たちの腕を取って、引っ張った。
「日那乃ー、おにぎりと味噌汁二人前頼むぜ!」
「こっち、座って待ってて。すぐ、持ってくる」
 二人と二体でテーブルにつく。
「その、オレたちはあれが一番いい方法だと――ごめん」
 渦潮は潮焼けした顔の横で手を振った。裂かれた喉がまだ塞がり切れていないのか、声が出せないようだ。
 白波が渦潮の代弁をする。
「わたしたちも、ごめんなさい。自分たちのことだけしか考えられなくなっていて……」
「まあまあ、もう終わったことさね。ふたりとも顔を上げておくれ」
 逝がテーブルにクラムチャウダーの鍋を運んできた。蓋を取ると、ふぁっと白い湯気が立ちあがる。
「渦潮ちゃん、シジミのクラムチャウダーをおあがりよ。『エビ』はいつでも食べられるだろう。しかし、おっさんが腕によりをかけて作った特製のクラムチャウダーが食べられるのは今日だけさね。おーい、みんなも椅子を持ってこっちへおいで。一緒に食べよう」
 渦潮は逝が差し出したクラムチャウダー入りの椀とさじを受け取った。何かいいたそうに、ちらっと、隣の白波を見る。
「どうしました?」とラーラ。
 味噌汁とおにぎりを盆にのせ、一二三と凛、海咲を連れて日那乃が戻って来た。ユネルと、飛鳥も椅子をもって来てテーブルにつく。
 一同が集ったテーブルに、こほん、と上から可愛い咳払いが一つ落とされた。
 日那乃だ。
「……わたし、代わりにいって、あげる。エビはエビでも、あれ、『ロブスター』の妖。高級食材……だったの」
 顔を赤くして渦潮が頷いた。

 どうやって日本まできて、どうして妖化してしまったのかは定かではないが、渦潮にとって海の妖母は縄張りを荒らす新参者であり、同時にとてもとても珍しい、食い意地を刺激する『食べ物』だったのだ。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『シジミのしぐれ煮』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員




 
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