■ブレスト■アンケート 受けて政府と話し合う
■ブレスト■アンケート 受けて政府と話し合う



賛成 25%
反対 70%
その他 5%

 アンケートとは意見の混合である。
 多数決と一線を画すのは、黒白ではなく黒の理由と白の理由が存在することだ。端的に言えば『何故』その意見なのかが見えることである。なので反対多数のこの結果をそのまま受けるのは、愚行と言えよう。
『政府の要請を受けて公的な組織になるか否か』……このアンケートに対しての皆の意見は『政府が信用できない』『受けた場合、どういう形になるかわからない』と言う事である。端的に言えば政府側の説明不足だ。
 大妖一夜の衝撃は重く、兎にも角にもAAAに代わる覚者組織が必要なのだ。その為時間の都合と説明を省いたのは確かに怠慢と言えよう。信用とは話し合いから始まるのだ。
 

「初めまして。まさかこういう形でFiVEに会えるとは思いもしなかったよ」
 松葉杖を突いた一人の男が軽く手をあげる。FiVEの誰もその顔を知らないのだが、元AAAだったメンバーは見覚えがあった。
 元AAA二等。防人裕次郎。分かりやすく言えば中恭介の上司であり、彼をFiVEに派遣した者である。FiVEの活動を後押ししていた影の功労者だ。詳細はプロローグ参照。
 先の大妖一夜でAAA京都支部内で指揮を執り、その結果大怪我を負ってしまった。覚者ではないため傷の治りも遅く、痛々しい姿での邂逅となる。
「資料は読ませてもらったよ。政府が信用できないようだね。まぁ環境が変わって行く事への不安はあるだろう。あとは……今の担当が信用ならないとか。
 であれば一度話し合ってみてはどうだろう。今度は私が個人的に信頼している別の官僚を呼ぼう。その上で信用できないのならそれは致し方ない」
 ――と言うのが三日前の話。そのままあれよあれよと話が進み、
「初めまして。防衛省の犬塚洋です。FiVEの皆様には日頃から妖事件を解決してもらい、まことに感謝しています」
 やってきたのはAAAの母体である防衛省の男。刻んだ皺が五十に手が届くだろう年齢であることを示していた。
「色々ご質問などあるでしょう。ご不明な点などあればどんどん質問してきてください。
 正直、皆様には急な話で負担をかけてしまった事は非常に心苦しいとは思っています。可能な限り皆様の要望には応えるようにしていくつもりですので、どんどん意見を言ってください」
 そして配られる資料には、防衛省側からの提案が示されていた。具体的には『ファイブにはこういう形で政府公認組織になってほしい』と言う提案だ。
 勿論、そのまま受けてもいい。こうしてほしいという意見も(現実的ならば)受け入れる。
 当たり前だが、ここで決議をする必要はない。今は政府との意見をすり合わせる時だ。この話し合いの後に、再度覚者達に意見を募っての決議となる。
 犬塚の隣にはまだ傷の癒えていない防人が座っている。こちらはFiVEの現状を語る役割のようだ。政府公認組織を断った時の相談役、と言った所か。
「宜しくお願いします」
 一礼する犬塚と防人。
 FiVEの覚者は彼らにどのような質問をするのだろうか?


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:どくどく
■成功条件
1.会議に参加する
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 この依頼はブレインストーミングスペース#1『酒々井 数多(CL2000149) 2017年05月23日(火) 18:35:11』『酒々井 数多(CL2000149) 2017年05月23日(火) 18:48:46』『
新田・成(CL2000538) 2017年05月29日(月) 23:22:29』を元に作られました。

●説明!
 大妖一夜により崩壊したAAA。
 そのAAAの代わりに国を守るための公的組織となってほしい、と政府からFiVEに打診がありました。それを持ち帰り、FiVEの覚者に意見を募った結果反対多数となります。
 ただ内容を見る限りでは『政府の説明不足』『話し合いが必要』という意見もあり、FiVEの影の功労者である防人が防衛省(AAAを管轄していた省)の官僚に伝手を取って、話し合いを行おうということになりました。

 官僚の犬塚の出した意見は、概ねこんな感じです。
「基本的にはAAAと同じようにFiVEをバックアップします。
 FiVEへの資金援助。隔者や憤怒者戦闘後の後処理(捕縛、収容など)。戦闘面での補助は状況次第(メタな事を言うとST次第)。
 基本的に政府がFiVEに命令することはありません。お願いをすることはあるかもしれませんが(再度メタな事を言うとそういう依頼をSTが出すかもしれません)、受けるか否かは自由意志です。FiVEは民間組織であり同時に神秘解明組織です。簡潔に何を求めているかと言うと、『国民が頼る旗となってほしい』と言う事です」

 防人がこの選択肢について、付け加えることとして以下のことが挙げられます。
「この要請を受けるメリットは、実のところない。AAAがバックアップしていた時と全く同じ状況になるからだ。強いて言えば、AAAの代わりに政府がつく、と言う認識でいい。要するに、君達がやることは今までと変わらない。公務員になれ、と言うわけじゃないんだ。あくまで『国が認める組織』という旗がつくぐらいだよ。
 デメリットは、その旗の重さかな。頼られるということは相応の重さがある。後は悪いことをすればそれなりに悪目立ちするだろうね。電波障害がなくなって情報伝達速度が早くなったからなぁ」

「この要請を受けなかった場合……現実的に資金面ではかなり厳しくなるね。
 今まで君達が関わった人たちにお金を出させると言う選択肢もあるけど、逆に言うとそういった『護衛料』『寄付金』を貰って行かないと立ちゆき行かなくなる。中三等……ああ、等級はもう意味がないか。ともあれ彼も必死で各方面にロビー活動をしているけど、それでトントンかな。それで近畿圏内に覚者を派遣できる程度の資金は得られるだろう。
 メリットは自由性が高まることだね。責任を負うことなく気軽に活動が行えることだ。それこそ戦闘そのものを放棄してもいい。
 今まで通りにやりたいのなら、それこそ『非合法な』依頼を受けざるを得なくなる。どのような、とは言わないよ。七星剣があそこまで大きくなったのは、なりふり構わない結果だ。そこまでしないとそういった組織に抗えないと思うよ。
 戦闘方面の規模を縮小して神秘追及のみに絞るという選択肢もあるけど……まあ、アイツは納得しないだろうね。誰だって? 研究所に籠ってる眼鏡の所長さんだよ」

アズマコウジについて(from防人)
「うん? 彼が信用できない?
 話を聞いて改めて調査はしたが、東小路財前との繋がりは『ない』と言うのが結論だ。
 まあ皆の心証を考えて、今回は席を外してもらっている」

●場所情報
 FiVE内会議室。ちょっと大きめな会議室です。そこで犬塚と防人に質問していく形です。
 
 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
50LP
参加人数
24/∞
公開日
2017年06月19日

■メイン参加者 24人■

『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『戦場を舞う猫』
鳴海 蕾花(CL2001006)
『花屋の装甲擲弾兵』
田場 義高(CL2001151)
『ハルモニアの幻想旗衛』
守衛野 鈴鳴(CL2000222)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)
『ボーパルホワイトバニー』
飛騨・直斗(CL2001570)
『アイティオトミア』
氷門・有為(CL2000042)


 犬塚と防人の説明後、FiVEと政府の連携を好意的に受け止める覚者の意見が増えた。
「多少窮屈になったとしても全国の困った人や古妖を助けられるのであれば、政府からの申し入れは受けてもいいと思うわ」
 大和(CL2000477)も好意的に受け止める一人だ。
「なぜなら何をするにも資金が必要。特に遠くへ出向くならね。交通費だけでも馬鹿にならないわ」
「確かに」
 大和の意見に防人は頷く。生々しい意見だが、遠方の助けを夢見が知った時、助けに行けない可能性があるのは悔しいからだ。
「公的に『政府から寄付を受けている』とオープンされているのは大きいわ。変なやっかみはあるかもしれないけど、後ろめたい事がないものね」
 後顧の憂いなく人助けができる。この利点を大和はよく理解していた。
「私は……まだまだ、無知な子供です。だから、どうか聞かせて下さい」
 鈴鳴(CL2000222)はそう前置きして防人に質問をぶつけた。
「もし公認を受けなかった場合、この国でどんなことが起こり得ますか?」
「推測混じりで良ければ」
 ため息交じりの前置きの後、防人は言葉を続ける。
「近畿圏内は先ず安全だろう。FiVEという組織の名声は広く知れ渡っている。覚者のネットワークを上手く形成すれば、多少の妖事件には対応できるはずだ」
「近畿以外は、どうなります?」
「他の組織が妖退治の代行を行う流れになるだろう。政府が頼れないとなれば七星剣や、イレブン辺りが第一候補か。政府としては避けたい流れだ」
 国内最大の隔者組織、七星剣。そして憤怒者最大組織イレブン。妖に対抗する戦闘力を有する組織が台頭するのは、当然の流れだ。
「そうなれば、真っ当な覚者組織は活動を縮小するだろう。彼らに目をつけられれば、どうしようもないからね。
 あと最悪は、そういった助けもなく妖に蹂躙されるか、だ」
 鈴鳴はその答えを受け止め、胸に刻む。推測とはいえ、あり得るだろうと納得できる部分があった。
「二人の話を聞いて大体納得は出来たかな? 気になるところがあるとすれば『悪い事をする』という部分だね」
 柔らかな笑みを浮かべて、恭司(CL2001015)は肩をすくめた。説明自体は何ら問題はない。質問すべき事項もほとんどないが、気になる部分はあった。
「今までの依頼の中には、発生してる事件を食い止めるだけでなく、FiVEから先手を打って襲撃を行う事もあった。
 それが見るからに悪い組織なら問題無いけれど、表向きはそうじゃ無い場合がある」
 悪事とは、世間にバレないように行われる。その手段として『隠れ蓑』的に表の顔を作ることもある。何も知らない人からすれば『FiVEは(裏はともかく)善良な人を襲った』となりかねないのだ。
「事前に相手組織の問題点を世間に公表する、もしくは依頼の成否に関わらず作戦後にはすぐに情報を公開するという体制を整えて欲しいかな?」
「事前は難しいね。夢見の予知は法的には物的証拠がない状態だからだ。ただ作戦後に関しては証拠を押さえてくれれば問題ないだろう」
「よかった。子供達が、後々辛い目に合わないようにしたいね」
「そうですね。情報面に関しては私からも懸念事項があります」
 挙手をして有為(CL2000042)が意見を述べる。
「フェイクニュースやネガティブキャンペーン等による世論操作及び情報戦攻撃で、多分五麟学園の予算に始まって政府との癒着を糾弾する事が考えられますが」
「その辺りは情報を公開することで乗り切るつもりです。後ろめたいお金の動きがない以上、隠して得することはありませんので」
 不安は情報の非公開から始まる。端的に言えば『分からない』から不安なのだ。幽霊の正体然り。枯れ尾花と分かってしまえば、不安ではなくなる。全てを公開する必要はないが、なまじ隠してしまうことで不安をあおり、扇動の理由を与えることになる。
「AAA壊滅時のように全国的に展開を起こされると厳しいのですが、AAAの各支部は機能するのでしょうか?」
「ある程度は。情報収集や宿舎などは問題ないよ。人員は万全に、とはいかないところが辛いけどね」
 AAAのダメージは大きい。だがそれでも手助けはできる程度にFiVEのサポートはできそうだ。
「その人員は一旦こちらで保護させてもらいたいのだがどうだろう?」
 ゲイル(CL2000415)は大妖一夜で大ダメージを受けたAAA職員を気遣って、そんな提案をあげた。
「事実上壊滅してしまっている以上、隔者組織に今までの恨みとばかりに襲撃されるかもしれないし……」
「ありがたい話だ。だがまあ、その地方を開けるわけにもいかなくてね」
 壊滅しているとはいえ、今残っているAAA隊員はそれでもその地域を守ろうと少ない人員で頑張っている。それさえなくなれば、それこそ隔者の思うつぼだ。
「危険ではないのか?」
「全くだ。最悪の時はお願いするよ」
 選択肢の一つとして受け止めておくよ、と防人はゲイルに笑みを返した。
「あくまでも私たちは公認の民間団体ってことでいいわけよね?
 基本的には夢見が見た事件を解決優先。たまに政府からのお仕事を受ける。そんなかんじでいいの?」
 数多(CL2000149) の言葉に防人と犬塚は同時に頷いた。FiVEの現状のスタンスを崩すことはない。依頼の窓口が少し増えただけだ。
「ぶっちゃけ私は今回の提案については賛成スタンスではあるのよね。
 とはいえこの問題が反対になった場合も、結局は政府は大きな妖事件が起こって私たちにお仕事を回すしかないなら、連携はきっちりしてほしいわ」
「望むところです」
 犬塚は頷いて答える。政府の目的は国民を守る事である。そしてFiVEは仮にこの要請を断ったとしても、手の届く範囲で人を守るだろう。そういう意味で、足並みをそろえることは不可能ではない。
「あ、あと例のアズマコウジの動向を教えてもらうのは可能かしら?」
「うーん……。現状としては彼を疑う理由がないので」
 数多の要望に犬塚が額に眉を寄せて言葉を返す。犬塚からすればアズマコウジは『なぜかFiVEに拒否されている政府の人間』でしかない。今の情報だけで疑いをかけるには無理があるようだ。
「その『アズマコウジ』さんだけど、あの人のフルネームを漢字で教えてくれ」
『アズマコウジ』の話になり、 翔(CL2000063) は割り込むように手を挙げた。
 基本的には数多と同じである程度は納得している。上から目線で見られるようなことはなさそうだし、対等な立場というのなら問題はない。だが、どうしても確認しなくてはいけないことがあった。
「あと、どこ所属のどんな経歴の人で、何であの人がFiVEの担当になったのかもな」
「ひたすら疑われてるんですね、彼」
「ちゃんと名乗らねーわ、脅しとも取れるような言葉吐くわ。財前のおっさんと関係なかったとしても不信感持たれて当然じゃね?」
 憤る翔。その辺りの事情を伝聞でしか聞いていない犬塚はそれ以上の意見を差し控えた。
「東小路誠一郎。同じ防衛庁で担当になった理由は……私が知りうる限りでは本人の希望だったはずです。残念ですが、経歴に関してはプライバシーもあるので」
 べらべらと他人の経歴を喋るほど、犬塚は無神経ではない。不十分な情報だが、翔は不承不承頷いた。


また、受諾と同時に政府に提案を出す者もいる。
「これは要望なんだけど」
 ジャック(CL2001403)は防人と犬塚の目を見て、はっきりと告げた。
「破綻者または妖の収容所が欲しい。また、拘束・収容できる技術を研究したい」
「ふむ?」
 防人と犬塚はジャックの言葉に面食らったかのような顔をする。
「俺は破綻者や妖を元の存在に戻したい。でも今までは、そうできなかった。
 もし、これから彼らを治せる技術を研究できれば、彼らも治せるかもしれない」
「残念だが、現状では政府からはその研究に関して援助はできないよ。せめてそれが可能な事を示してもらわないと」
「分かってる。でもひとつでも命を助けられるのなら、そういった研究や施設があったっていいって思うんだ。
 今は無理でも、その兆しが見えたらその時はお願いしたい」
 研究施設として、そういった未来があるのなら研究したい。ジャックは真摯な瞳で未来を見ていた。
「色々な意見が出ている現状からもわかってもらえると思いますが、個々の個性が強い組織なので、その部分も理解してもらえると嬉しいです」
 様々な意見が飛び交う中、椿(CL2000061)はフォローするようにそういった。その後で、
「捕えた隔者や憤怒者の戦闘後の後処理についてなんですが、彼らへの教育、または更生について政府にもお願いしたいです」
「ふむ。教育か」
 防人はその部分に頷いた。
 犯罪者の更生というのは時間がかかるものだ。だが再犯防止の意味を含めれば、それだけの時間をかける価値はある。
「そしてその部分に対してFiVEでも希望者が……公正の力になれるようにしてもらえたらと」
 依頼で接した人達は、それぞれの理由で隔者や憤怒者になった者達もいる。そういった人たちと実際に触れあった自分達が係わることで、何かが変わるかもしれない。
「被害が去って終わりではなく、被害者の方々にもその後の人生があるのですから」
 椿と同じく灯(CL2000579)もそういった人たちのケアを求めていた。妖事件や隔者事件。そういった人たちへの援助をしてほしい、と。
「既にやっていることかもしれませんが、そういった補填をすることで隔者や憤怒者を出さないようにしてほしいんです」
 妖はいつどこで発生するかわからない。突発的な天災とも言えよう。そういった事件で家財を失ったものが犯罪に走ることは、ないとは言えない。そういった制度が浸透すれば悪の道に走るものも少なくなるのではないだろうか。
「確かにそれは防衛庁からの補助金扱いになるでしょう。検討はしておきます」
 犬塚が頷き、メモを取る。少なくない予算だが、価値はある。
「このたびはこういう場を設けてくれて、ありがとうございます!」
 元気よく一礼する遥(CL2000227)。空手をやっていることもあり、腹から声を出したいい挨拶だった。
「とりあえず、オレとしてはあんま聞きたいこととかは無いかな! 不安だった部分ももう解消できてるし!
 んで、一応オレからも提案というかお願い!」
 手を真っ直ぐに上げて遥は意見を出した。
「『覚者は戦いの道具ではなく、あくまで自分の意思で妖や隔者と戦っている』というイメージの徹底をしてほしいんだ」
「ほう。それは……うん、そう思わない人もいるのは事実だね」
「覚者を使い捨ての道具みたいに扱ってるのもいるらしくてさ。そういう考えが広まってほしくないんだ」
 遥は今までそういった事件にも触れてきた。今後、そういったことがないようにイメージを徹底してほしい。新たな悲劇を防ぐために。
「懸念や要望、質問等は他の皆が挙げてくれたのとだいたい一緒だから、ここでは俺はあえて日本に住む国民目線で今回の件を考えてみたよ」
 と前置きして話す奏空(CL2000955)。
「正しい知識がないからこそ起こる偏見、差別。だけど国が覚者組織を認めたとなれば一石を投じる事になる」
 多くの覚者事件を経験していた奏空だが、やはりそういった事件に接することもあった。覚者が如何に人を超えた力を有するとはいえ、人間であることには違いないのだ。
「国は認めた限り、国民に覚者がどういったものか広く正しく伝える義務が生じると思う。
 だから俺としてはそうなった場合は、覚者すなわち神秘の情報及び教育を整えて行く事が可能か。これを聞きたい」
「教育の練度によります。そもそも『覚者とは何か』という資料が不足しているのは否めません」
 苦渋の答えを出す犬塚。覚者の事を『正しく』伝える為には一定量の正しい情報がいる。単に偏見をなくすだけならともかく、神秘の情報は四半世紀程度の研究では不十分と言わざるを得ない。
 ――その最先端であるFiVE。その研究が進めば、正しい覚者の知識が得られるかもしれない。


 政府や防人に対し質問する者もいる。
「民間組織であり同時に神秘解明組織であるという、今までのスタンスと変えなくてよいのなら、NGOやNPOの扱いでいのではないか?」
 義高(CL2001151)は公的組織になってほしいという政府の案件に、そんな問いを返した。
「FiVEの形式は問いません。ただ今の自由性を尊重しての形です」
 NGOやNPO等を立ち上げるには、一定の規律がある。所属することで今の生活に不具合が出る者もいれば、そもそも団体活動不可能な未成年(厳密には法定代理人の許可が必要)もFiVEにはいるのだ。
「それもそうか。だが不干渉の部分と干渉する部分の明確な線引きをだすべきだろう」
「繰り返しますが、FiVEの活動に干渉はしません。こちらからFiVEに権限を使って命令することはありません」
 ふむ、と義高は犬塚の目を見ながら唸った。言葉に嘘は感じられない。
「そうですね。わたしの場合音楽教諭が本業になるわけですから、副業扱いになる組織形態は面倒なことになりますからね」
 頷くように御菓子(CL2000429)が言葉を継ぐ。今のFiVEの形式は覚者が『協力』している形である。いわば休日のゴミ拾い的な扱いだ。政府もその辺りをいじってどうこうする気はないらしい。
「これは別件ですが、いまだに覚者を人外とみなす方が少なくありませんし、面と向かって言われたこともあります。
 それに対し、そうした見方を払拭する動きが少ないように思います」
「お恥ずかしい限りです」
「こちらに働きかけるのには、まずそうしたことに誠意を見せることが第一ではないでしょうか? ……いえ、状況がそれを許さないのは理解しているつもりですが」
 差別といった問題は一朝一夕では消え去らない。それは御菓子も理解できなくはない。ましてや現状は差別よりも妖に晒された命を守ることが第一義なのだ。
「幾つか質問させてもらうよ」
 声に疑念を載せ、政府の人達を見定めるように蕾花(CL2001006) が口を開く。
「敵組織の居場所とかおかしな動きが分かったら連絡してくれるか?」
「それはもちろん。調査など必要とあらば行おう」
 二つ返事で防人は言葉を返す。とはいえ大妖により崩壊したAAAだ。捜査能力は大きく減じている。
「次。戦闘のサポート、犯人の捕縛、収容をしてくれるそうだけど、依頼に同行してくれると?」
「必ずとは言えない。大妖による疲弊が激しいからね。だが可能な限り同行しよう」
「はっ。味方らしいAAAは何もしてくれなかったよ。足並みがそろわなかったんだ」
 肩をすくめて蕾花が防人の答えに応える。過去、AAAに助けてもらった覚えなどない。確かにFiVEで捕まえた隔者などの法的手続きを行っていたのはAAAだろう。幾つかAAAからの増援があった事件もある。だが、それは数字で見ればその数は少ない。
「危険な場面を押し付ける形になって、申し訳ない」
「反省するってなら――」
「そこまでです。それは会議とは関係のない非難ですよ」
 激昂する声を止めるように成(CL2000538)が声を挟む。場が静まったことを確認し、咳払いをして口を開く。
「確認としてお聞きしますが、依頼における殺人について、正当防衛・緊急避難の法理が適用されるということで問題ありませんね?」
「はい。事、破綻者のようなケースでは治療方法が確立していません。また隔者であっても他者の命を奪おうとする限りは緊急避難の適応は認められます」
「この辺りは一般人と同じという扱いですね。ありがとうございます」
 前置きと確認は終わった、とばかりに目を開く成。本題はここからだ。
「この件に関して『契約』という形をとるのはどうでしょうか?」
「ふむ?」
「政府側がこちらの要請や活動を何処まで保証できるのか。それを契約という形で保証する、という事です。
 法令などでこちらの活動を保証するという案は、実の所意味がありません。法案は決するのに時間がかかるうえに、こちらが係われない活動で改正されます」
 その分『契約』なら、双方の合意が必要になる。履行義務を政府側に追わせることが可能だ。
「そういう形なら納得できますか? 葦原君?」
「……ふん」
 質問を先に言われた、と言いたげに赤貴(CL2001019)が鼻を鳴らした。納得したかどうかはともかく、聞くべき質問がなくなったのは事実だ。
「オレは四半世紀をかけてこの社会を作り、それを改めない世代を信じない」
 変わりになぜそういった『保障』を求めるかを口にした。
「個人の意思や事情はどうあれ、オレの人生の倍以上の歳月があって、この現状だ。そこで更に子供を担ぎ上げようというんだ」
「言葉もない。この社会を作り出したのは、確かに我々だ。そしてその処理を君達に頼もうとしている」
 赤貴の言葉を防人は肯定する。
 AAAの歴史は、妖に対抗する歴史だ。妖から人を生かそうとした歴史だ。
 そういった人達が二十五年間行った事は、ただ人の命を繋いだだけだった。妖の殲滅も覚者の社会的立場も二の次にして、ただ国民を殺させない為だけに粉骨砕身していた。
 彼らが行わなかった事。それが子供達を苦しめているのなら、その誹りからは目を逸らすことはできない。
「それは過去の話です。それを悔いるのはやめましょう」
 タヱ子(CL2000019)は頭を下げる防人にそう告げる。
「人を守りたい意思に違いはありません。御旗の後ろ盾を得られる。それ自体はとても良い事だと思います。ですが、FiVEには荷が重い話だとも思います」
 切り出しはそんな一言。タヱ子はかねてから思っていたことを犬塚にぶつけた。
「FiVEの皆は命数や魂を削ってここまできています。中には亡くなった方もいます。組織の性質上、学生が多いにも関わらずです」
 犬塚からの言葉はない。かけるべき言葉が思いつかないというよりは、タヱ子の言葉を最後まで聞く為に今は黙っている。
「これ以上の働きを期待されても、長くは持たないでしょう。AAAの後継組織……正式な国防組織を結成される予定はあるのでしょうか?」
 タヱ子自身、FiVEの闘いでかなりの力を削っている。永く戦えることはないだろう。そう見越しての問いかけである。
「そうですね。それは私も聞きたい」
 挙手をして 憂(CL2001569) が質問を継いだ。
「AAAの後釜となる組織を編成する予定があるか。それと、編成の予定がある場合期間はどの程度かかる試算でしょうか」
「予定はあります。ですが最低でも五年。……実際はもう少しかかるでしょう」
 犬塚は重い息を吐くようにそう告げた。国防の組織を作り出すとなれば、予算も人員も必要になる。それを集める試算はできているが、それとて机上の空論だ。
「公認を一時的な処置とし政府の体制が整った後解消することは可能か?」
「無論だ。君達がそれを望むのなら」
 質問を続けながら憂は犬塚がどこまでFiVEに拘っているかを見定めようとしていた。覚者組織はFiVE以外にもあり、善悪を問わなければ、七星剣と裏でつながるという案もある。それをしたくないからこその、FiVEなのだろう。
「FiVEがこれまで通りなら……やはり、AAAの再建も必要でしょう。語弊を承知で言うのなら、矛を振るうには盾が必要と思うのです」
「そのAAAの件でですが」
 ラーラ(CL2001080)は手をあげて、質問を開始する。連携に関しては受託してもいいと思っているので、今は別の事を問いかけてみた。
「お聞きしたい部分としては、戦力面のことがあります。
 例えばAAAや元AAAには私達のかなり上位に位置する覚者が居たと記憶しています。その戦力を引き継ぐとなれば、私達にもより上位の境地が見えるのでしょうか?」
「残念だが、腕のいい隊員は先の大妖戦でかなり亡くなってしまってね」
 重い息を吐く防人。あの戦いは、戦力を温存できる状況ではなかった。それは確かにラーラも記憶している。
「お悔やみを申し上げます……」
「いや、それは制服に袖を通した時から覚悟していることだ。
 ただ情報に関してはそちらに手渡そう。一般には公開されない情報や装備などだ」
「ありがとうございます!」
「そりゃいいね。ここまで来たら隠し事なしでいこうぜ」
 ニヤリと微笑む直斗(CL2001570)。情報が直接FiVEを豊潤にしてくれるわけではないが、あるとないとでは天と地だ。それらを吟味してうまく活用すれば、更なる情報が手に入る。
「たださぁ……俺が心配なのは政府は本当に一枚岩なのかって事さ」
 直斗が懸念していることはそれだ。三人いれば派閥が生まれる。ましてや国営は優秀な人間が集まる伏魔殿だ。己の利益を求め、他者を蹴落とす人間がいないはずがない。
「例えばどっかの憤怒者組織……イレブンの息が掛った部署とかさ。あるんじゃない?」
「ノーと言えないのは悲しい話ですね」
 犬塚は直斗の言葉を否定できない。今仮にそういった人間がいなくとも、今後現れないとは限らないのだ。建前上は『ノー』というべきだが、腹を割って話せばいないと断言はできないのだ。
「いや。それは仕方ねぇ。そういう所から妨害があった時、あんた等は俺等を庇ってくれんの?」
「それはもちろん。FiVEが活動しやすくするために、私達も動きます」
「それはよかった。政治の世界に巻き込まれるのは御免です」
 慣れない敬語を使いながら凜音(CL2000495) が頷く。服装もラフなものではなくきっちりとしたものだった。相手はきちんとした社会人で、防衛庁という組織の看板を背負っている人だ。相応の態度で示さないと。
「自分にとっての最優先は、神秘の解明です。困っている人の手助けを厭うつもりはありませんが、それをこちらに頼むなら、神秘解明の援助を頂きたい」
「当然です。むしろ神秘の解明こそがこの国の混乱を収縮させる土台となります」
 今の日本を混迷化させているのは妖の存在もあるが、覚者という存在が『よくわかっていない』事も挙げられる。そして人間は『よくわからない』ことを受け入れられない。古くは伝染病患者が排他された。現代でも似た例はいくらでもあげられる。
「私からの質問は三つです」
 奈那美(CL2001411) は指折りしながら、質問を口にした。
「AAAの設備、人員、その他必要なものの譲渡は可能か」
「勿論だとも」
 二つ返事で応える防人。ここに至って出し惜しみする意味はないとばかりである。
「各拠点の設置ないし再建に掛かる費用の保証は可能か」
「ああ。可能な限り予算は絞ることになるけどね」
 衣食住に関しては問題ないレベルは保証する、と付け加えた。防衛庁も無限に金があるわけではない。
「先の質問と重なりますが、正当防衛・緊急避難の適応範囲内であるという確約が貰えるか。それを一般に周知して貰えるか」
「当然だ。君達に非がない限り、法律は君達を擁護する」
 覚者の闘いは判断を誤れば命が失われる。そういった状況で自分の命を優先するのは当然のことだ。これまでもこれからも、法はそれを守っていた。FiVEに限らず、全ての国民に適応されることだ。
「ありがとうございます。正直に申し上げて今のFiVEに日本を守る力はありません」
「それは謙遜だよ。君達は人々を守るだけの力がある」
 奈那美の言葉をきっぱりと否定する防人。
「ですが、FiVEの戦力は七星剣やイレブンに比べれば――」
「勘違いをしないで欲しい。FiVEは武力で人を守るんじゃない。そも、力で言えば人間は妖に圧倒的に負けている」
 純粋な肉体能力では人間は妖に勝てない。経験を積んだ覚者でようやくランク1と対等。それ以上のランクが相手なら、数を揃えなければならない。
「だが人間は負けない。それは力では無く知恵と、そして理不尽に対抗する精神があるからだ。不屈に耐え、機知を絞り、そして鍛えられた力を持つ。それはFiVEだけなんだ」
 それでも妖に滅ぼされなかったのは、それに抗う人間がいるからだ。
 七星剣は確かに力がある。知恵もあるだろう。しかし人を守ろうとはしない。それではいつか妖に滅ぼされる。
 イレブンは確かに覚者以外の人を守ろうとする。組織力も資金も知恵もあるだろう。だが他者を排斥する精神は、いずれ内部崩壊を起こす。
「君達にはそれらがある。違うかい?」
 投げかけられた防人の質問。
 その答えは、それぞれの胸の中で。


「お疲れさま。アタリマンは……ここにはいなかったか。ロビー活動中?」
 会議終了後、プリンス(CL2000942)はコーヒーを淹れて犬塚と防人に差し出す。外国の王族が日本の政治にかかわるのはリスクがあるため、会議中は何も言わずに黙っていたのである。
 全てが終わってから、誰にも聞かれないタイミングを見計らって口を開いたのだ。
「民のみんなの不安はわかったかい? 情報とか法律とか色々言われたろうけど、余は少し違うと思う。
 多数決で民主主義やったつもりでも、最初の前提が抜けてるよ」
 一旦言葉を止め、周りを意識してプリンスは言葉を続けた。
「FiVEって組織がFiVEの民を守らない事さ。
 何度かの判断で組織に生まれたリスクを、今は全部個人が被る形になってる」
「これでも君達には迷惑が掛からないように、努力はしていたんだけどね」
「ワオ。見えない苦労お疲れ様。でも対処しきれてないから。
 みんな若人なんだから、駆け引きの前に正面から向き合ってあげてね」
 言いながらも、全員に報いることは無理だろうとプリンスもわかっていた。王家が民にする事は、民の生活を守ること。だが、王の能力にも限度がある。あらゆる困難に対応できる賢王など世界に数える程度だ。
 だが向き合うことはできる。例え力及ばずとも、責任を取る人間が話を聞いてくれるだけで心が救われることがあるだろう。

 犬塚は録音した会議の記録を防衛庁に持ち帰る。FiVEからの意見を伝えるために。
 防人は怪我の治療の為に病院に戻ることになった。残った元AAA隊員達に情報を伝える役割も担っている。
 政府とFiVEの連携。それがどうなるかはこの時点ではわからない。政府にどういった印象を抱いたのか。それは個人の胸の中だ。
 ――決議は、また行われることになる。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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