一期一会の味覚の争奪! 笹猪の脳筋仕立て
●幻惑の森 -Burn out the Neuron-
鬱蒼とした森を、裸足の美女が歩いている。
眉は八の字。目はぼんやりとして、視線は定まらない。
古今東西の言語で、佳人の容姿を評するに用いられた形容詞を並べるならば、それは辟易すべき量になる。
その辟易すべき量から、一つずつ特徴を述べるならば――髪は金糸に銀糸を束ねたような明るい金色である。長さは腰までのストレートである。前髪はそろえている。
瞳は青く、肌の色も西洋人に近い。顔のつくりも彫りが深いものの、純粋な西洋人にくらべれば少し浅い。東洋人――日本《ヒノモト》人のような愛嬌もみえる。
着衣は黒のタイトドレスだ。裾は地面を引きずるほどに長いが、裾は斜めに破れている。
そんな容姿の女が、森を歩いていた。
森は、空の天幕がおりたように暗い。しかし時刻は昼時分。
昼であるのに、陽光は一向にさしこまないほど、森は深い。虫も飛び交い、妖しげな鳥類がキキっと声をだしている。
近くで小川のせせらぎが聴こえてくる。
女はせせらぎに構わず奥に進む。
裸足でぺきりと地面の枝を割って進むこと、ほどなく。開けた場所にでる。
場には、昼であるのに蛍の光が舞っている。とても幻想的な空間だ。
空間の中央には、剛毛が生えた毛むくじゃらの球体が鎮座していた。大きさは象に近い。
球体は上下左右に膨らみ、縮む挙動を繰り返す。つまりは生物である。それ以上、動く気配はない。
女は、フッと毛むくじゃらの生物に近寄った。
白魚のような右手を、その剛毛に触れるか、あるいは触れざるかの位置へとかざし――。
「見つけた」
刹那。
女は奥歯が砕けんほどに、歯を食いしばる!
左足を軸、右足を大きく引き、その毛むくじゃらの生物を、渾身、右脚にて蹴り上げた。
「――っるあ! てめえ! ふざけんなよぉお!!! 私の腹に納まれああああァ!」
『ヴァアア!』
「ヴァーじゃねえええ! 死ねぇぇァァーッ!」
怪奇!
毛むくじゃらの生物は、巨大な猪!
並の猪と異なる点は、大きさだけに非ず。頭部から背にかけて、笹が蓑のごとく茂っている猪の王!
笹猪だ!
獣の咆吼、地を揺らす。獣視線、惰眠を破った女のほうへと素早く向く。
笹猪の牙は丸太のごとく太い――ふり向くその動作そのものが攻撃だ。
横薙ぎの攻撃が女の腹部を打つ。
「じあッルあああ!」
女、口角についた血反吐をそのままに、牙をつかむ。鉄棒のようにして、笹猪の鼻の上に着席す!
「家畜にも劣る妖《クソ》に、神はいねえんだよおお! ただ食われるのみだああああ! 目ん玉もらったぁぁぁ!」
『ヴァー! ブボオオアAAAAA!』
女の貫手、笹猪の右の眼球を穿つ。
そのまま奥深くに貫いていき、腕を曲げ、眼窩の裏側に引っかかる。
笹猪、痛みにより頭を左右に振る。女は麻布のごとく宙を舞い、木々に叩きつけられる。
「どいつもこいつも! 権力だっ! 覇権だ! そんなもんより、美味いもんのほうが大事だろうがあああァ! ああ! イラつくぜぇ! ヨルナキのはらわた飯を食わせろよおぉ!」
女は狸のごとく、ふごふごと剛毛に齧りつくが、妖、怯む様子なし! おそるべき耐久力! タフ過ぎて損はなし!
笹猪、木々をなぎ倒しながら直進す!
さすがに女のほうも、この攻撃はたまらない。
笹猪の突進と木々に挟まれし衝撃に、血反吐を吐く。吐きながらも、振るう拳休むことなし。
●かくも惨酷か妖しき事件 -Brains are made of muscle-
「大変だ。怪獣が二匹――じゃない、隔者と大型の『妖』が戦っていて、『妖』が人里につっこむ!」
久方 相馬(nCL2000004)が緊急案件をもってきた。
大型『妖』が人里につっこむ――まさに緊急事態である。
「見た目通り、名前は『笹猪』にする。経路は山の中腹あたりから木をなぎ倒して、一直線」
ディスプレイに地形が表示される。
山の麓は田畑である。
この時期であれば、農作業をしている老人や若手が幾人かいるだろう。
田に水が引き込まれて、地形はよくないと推測される。
「短い猶予のなかで、どれだけ避難活動できるか――それから十分加速した突進が強烈なんだ。軽減できる手段があるといいかもしれない」
「で、何だこの、……隔者?」
「考えるな。どうせ何も考えていない!」
相馬、言い切る。
覚者の一人から挙手があがる。
「この人、『妖』と戦っているなら、共闘できないか?」
「この隔者も襲ってくる」
何故!?
「野生生物に割り込みは御法度って何かで見たぜ。それだと思う」
最初に相馬が言いかけた『怪獣が二匹』そのものではないか。
「隔者のほうは、詳しいデータを入手できていない。けど食欲と闘争心に満ち満ちている感じだ」
「それは、既に破綻者なのではないか?」
相馬、腕を組んで考える。うーんと、うなり。
「身だしなみを気にする位の知性はあるんじゃないか?」
知性と言った。
鬱蒼とした森を、裸足の美女が歩いている。
眉は八の字。目はぼんやりとして、視線は定まらない。
古今東西の言語で、佳人の容姿を評するに用いられた形容詞を並べるならば、それは辟易すべき量になる。
その辟易すべき量から、一つずつ特徴を述べるならば――髪は金糸に銀糸を束ねたような明るい金色である。長さは腰までのストレートである。前髪はそろえている。
瞳は青く、肌の色も西洋人に近い。顔のつくりも彫りが深いものの、純粋な西洋人にくらべれば少し浅い。東洋人――日本《ヒノモト》人のような愛嬌もみえる。
着衣は黒のタイトドレスだ。裾は地面を引きずるほどに長いが、裾は斜めに破れている。
そんな容姿の女が、森を歩いていた。
森は、空の天幕がおりたように暗い。しかし時刻は昼時分。
昼であるのに、陽光は一向にさしこまないほど、森は深い。虫も飛び交い、妖しげな鳥類がキキっと声をだしている。
近くで小川のせせらぎが聴こえてくる。
女はせせらぎに構わず奥に進む。
裸足でぺきりと地面の枝を割って進むこと、ほどなく。開けた場所にでる。
場には、昼であるのに蛍の光が舞っている。とても幻想的な空間だ。
空間の中央には、剛毛が生えた毛むくじゃらの球体が鎮座していた。大きさは象に近い。
球体は上下左右に膨らみ、縮む挙動を繰り返す。つまりは生物である。それ以上、動く気配はない。
女は、フッと毛むくじゃらの生物に近寄った。
白魚のような右手を、その剛毛に触れるか、あるいは触れざるかの位置へとかざし――。
「見つけた」
刹那。
女は奥歯が砕けんほどに、歯を食いしばる!
左足を軸、右足を大きく引き、その毛むくじゃらの生物を、渾身、右脚にて蹴り上げた。
「――っるあ! てめえ! ふざけんなよぉお!!! 私の腹に納まれああああァ!」
『ヴァアア!』
「ヴァーじゃねえええ! 死ねぇぇァァーッ!」
怪奇!
毛むくじゃらの生物は、巨大な猪!
並の猪と異なる点は、大きさだけに非ず。頭部から背にかけて、笹が蓑のごとく茂っている猪の王!
笹猪だ!
獣の咆吼、地を揺らす。獣視線、惰眠を破った女のほうへと素早く向く。
笹猪の牙は丸太のごとく太い――ふり向くその動作そのものが攻撃だ。
横薙ぎの攻撃が女の腹部を打つ。
「じあッルあああ!」
女、口角についた血反吐をそのままに、牙をつかむ。鉄棒のようにして、笹猪の鼻の上に着席す!
「家畜にも劣る妖《クソ》に、神はいねえんだよおお! ただ食われるのみだああああ! 目ん玉もらったぁぁぁ!」
『ヴァー! ブボオオアAAAAA!』
女の貫手、笹猪の右の眼球を穿つ。
そのまま奥深くに貫いていき、腕を曲げ、眼窩の裏側に引っかかる。
笹猪、痛みにより頭を左右に振る。女は麻布のごとく宙を舞い、木々に叩きつけられる。
「どいつもこいつも! 権力だっ! 覇権だ! そんなもんより、美味いもんのほうが大事だろうがあああァ! ああ! イラつくぜぇ! ヨルナキのはらわた飯を食わせろよおぉ!」
女は狸のごとく、ふごふごと剛毛に齧りつくが、妖、怯む様子なし! おそるべき耐久力! タフ過ぎて損はなし!
笹猪、木々をなぎ倒しながら直進す!
さすがに女のほうも、この攻撃はたまらない。
笹猪の突進と木々に挟まれし衝撃に、血反吐を吐く。吐きながらも、振るう拳休むことなし。
●かくも惨酷か妖しき事件 -Brains are made of muscle-
「大変だ。怪獣が二匹――じゃない、隔者と大型の『妖』が戦っていて、『妖』が人里につっこむ!」
久方 相馬(nCL2000004)が緊急案件をもってきた。
大型『妖』が人里につっこむ――まさに緊急事態である。
「見た目通り、名前は『笹猪』にする。経路は山の中腹あたりから木をなぎ倒して、一直線」
ディスプレイに地形が表示される。
山の麓は田畑である。
この時期であれば、農作業をしている老人や若手が幾人かいるだろう。
田に水が引き込まれて、地形はよくないと推測される。
「短い猶予のなかで、どれだけ避難活動できるか――それから十分加速した突進が強烈なんだ。軽減できる手段があるといいかもしれない」
「で、何だこの、……隔者?」
「考えるな。どうせ何も考えていない!」
相馬、言い切る。
覚者の一人から挙手があがる。
「この人、『妖』と戦っているなら、共闘できないか?」
「この隔者も襲ってくる」
何故!?
「野生生物に割り込みは御法度って何かで見たぜ。それだと思う」
最初に相馬が言いかけた『怪獣が二匹』そのものではないか。
「隔者のほうは、詳しいデータを入手できていない。けど食欲と闘争心に満ち満ちている感じだ」
「それは、既に破綻者なのではないか?」
相馬、腕を組んで考える。うーんと、うなり。
「身だしなみを気にする位の知性はあるんじゃないか?」
知性と言った。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『笹猪』の撃破
2.隔者の鎮圧。生死問わず
3.人的被害の影響を可能な限りおさえる
2.隔者の鎮圧。生死問わず
3.人的被害の影響を可能な限りおさえる
当方の『難』依頼は、概ね「押さえるべきところを最低限押さえても失敗する」傾向です。
ですが、今回は難しい要素を、ほぼエネミーの筋肉パワーに割り当てていますので地力や気合いなどです。
以下詳細。
●ロケーション
・迎撃戦。
・昼。晴天
・田植えや畑仕事をしている人がいます
・迎え撃つ地点は、田畑です。田は水が入っているので、ぬかるみになっています。畑は野菜が転がって障害物扱いです。どちらかに対応できれば、影響無しとします
●エネミー・妖
『笹猪』《ささいのしし》 生物系。ランク3。
象ほどもある巨大な猪です。
でかい! つよい! 小細工抜きのマッシヴな野郎です。
隔者との闘いで右目がつぶれていますが、疲弊するどころか怒り狂っています。
撃破後も、数日は妖化している状態です。
この状態で調理して食べると、獣臭さはありますが非常に美味です。F.i.V.E.のアジトに持って帰るとジビエ大会ができるかもしれませんが、倒したあとの扱いはお任せです。
注意:
出現時に『隔者』を連れたままつっこんできます。
この最初の直撃は後述『爆砕強進』の2倍で計算します。
迎撃地点より、後ろに通してしまうと人的被害のリスクが増大します。
A:
・猪突猛進
近物ノックB貫通2。BS虚脱 BS失速
気合があればノックバックしないかもしれません。ダメージも軽減されるかもしれません。
・大暴れ
近物ノックB列。その場で大暴れして、中衛までの列を吹っ飛ばします。 BS失速
気合があればノックバックしないかもしれません。ダメージも軽減されるかもしれません。
・爆砕強進
遠物ノックB貫通3 純粋な大ダメージ系の大技。特殊能力として、自分も移動します。
気合があればノックバックしないかもしれません。ダメージも軽減されるかもしれません。
P:
・タフすぎて損はない
バッドステータスが効きづらいです。
5種類以上、蓄積させないと効果を発揮しません。
例:弱体、鈍化、炎、怒り ←4つまで一切効きません。
例:弱体、鈍化、炎、怒り、不運 ←5つ以上になると、弱体、鈍化、炎、怒りも全て効果を発揮します。
●エネミー・隔者
女
名前不明。金髪青瞳の女性隔者です。見た目は20半ばかちょっと下。
術式は土ですが、主にぶん殴るのが得意な拳士です。
自然界の不文律、割り込み御法度の論理。
手負いですが、能力はOP通りです。野生の獣のごとく襲いかかってきます。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年06月17日
2017年06月17日
■メイン参加者 6人■

●訪れた静謐 -funnier and funnier-
ぼかんという轟音が響き、砕けた木々が頭上を飛んでいった。
象ほどの体躯をほこる笹猪が、その質量を全力でぶつけるがごとく、山地を駆けおりてくる! 突進してくる!
「うああ!? バケモノだ! ひぃ!?」
F.i.V.E.の覚者たちは、避難活動の最中であった。
一般人の爺さんがいる。水田のぬかるみに腰を抜かしている。そこは笹猪の進路上!
「巌心流と獅子王の名に懸けて後ろには行かせないぜ。はったりでも目標でもねーよ」
『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は、身体ごと盾とする。
刹那の一瞬間!
笹猪の長大な牙を、鋼色の表道具でさばき、笹猪の頭部――加速を伴った頭突きをその身に受ける。
受けた瞬間、尋常ではないほどの圧力が全身を駆けぬけた。
自らの骨が悲鳴をあげる。両足がいかれそうになる。何たる力か!
「確かにでっけー猪だな……だが!」
太刀と脇差しの二刀を改めて構え。足踏んばる。
『太刀は祖父、脇差しは父と心得るべし』、祖父の言で自らを鼓舞する! 眼前に、血走った獣の目。想いを乗せる!
「オレもやってやるぜ!」
『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が、腕を交差させた全力防御にて加わる。
飛馬と遥の視線が交差。やるぞ、の決意の目。
「野生動物とのバトルは空手家にとって一つの目標! つまり、一粒で二度おいしい! 二重の意味で! な!」
遥、左拳にて笹猪の鼻の上へ一撃。
即、握った拳をひらく。右腕は笹猪の牙を抱えこむ。この姿勢で踏んばる。
二人加わったがまだ押し込まれている。田のぬかるみで減速を狙う計画は功を奏している! あと一歩か!
「行くぜ猪野郎! こっから先は、絶対に抜かせねぇ!」
追加の声、ここに加わる!
中衛 『弦操りの強者』黒崎 ヤマト(CL2001083)! 両腕で、笹猪の巨大な牙を抱えこむ!
背後には後衛――作戦上、守護せねばならない者。
そして、腰を抜かした老人も、まとめて守る強き意志。
ここに三者の気魄、裂帛す!
「後ろに行かせない! 決定事項だ! うおおぉぉ!!」
「止まれぇぇぇ! 猪!!」
「絶対に! こっから先は! 行かせねぇ!」
ここで頭上から雨がさあさあと降り注いだ。
『癒しの矜持』香月 凜音(CL2000495)が顕現させた恵み雨だった。
「一度回復しておこうか。――気合とかそういうの、俺あんま持ち合わせてねーんだけどさ」
三者、活力得る! 気合の極点、炸裂す。足場のぬかるみが爆ぜる! 水柱をあげる!
笹猪の爆砕強進、静止す!
希臘の彫刻がごとく、今動くのか、いつ動くかと苦しむ数秒。
そして空白はすぐに破られる。三者の頭上を飛び越える黒い影。隔者の女。
「横取りかぁぁぁぁ!? どこのクソだぁぁぁ!? 七星剣のボンクラかアアァァ!?」
狙いは、後衛! 回復を用いた凜音。凜音と女隔者の視線が交差する。
「違う! 七星剣じゃないぞおおぉぉぉ!」
そこへ否定の声 『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)だ。
「――っ!?」
この声に反応するように、女、空中で横回転す。
回転を伴った浴びせ蹴りは、ジャックへ!
刹那。
『継承者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)の太刀が横から割って入った。
回転蹴りを受け止める。
素足の蹴り、対する抜き身の太刀――なのに、金属同士がぶつかり合うような音が響く。
「この猪、もはやマンモスと見まごうばかり……ですが、この方も面白そうなので文句なしです」
シャーロットはしっとりと言葉を紡ぎながら、太刀を刎ねあげる。
女隔者は宙返りをして、刎ねあげを回避。獣のごとき姿勢で着地する。
着地地点を予測した、ジャックの火炎の術。
「ファイヴだ!! おい隔者、俺は切裂ジャック!」
隔者の衣類を狙ってひっぺがさんとしながらも。斜に構え、真剣なまなじりで、格好良く言いはなつ。
「お前の名前は!? あとメルアド下さい!!」
「F.i.V.E.――?」
はあはあ、そうかそうか。なるほど。と女が言う。
「室長が言ってたやつらかぁ! 大妖に立ち向かったやつらかぁぁ。七星剣《ボンクラ》より面白いやつらかぁぁぁ! ――だが死ねぇえええ!」
女の咆吼! 続く笹猪の『ぶおおおお』なる轟咆吼!
視線、一斉に笹猪へ向く。
隙ありとばかりに猛襲する隔者の格闘。
『ヴァアアアア!』
笹猪の牙の横一文字も襲来す!
●頭脳の戦い -...oops,no sense of respect, right?-
『ヴオオオオオオオオohhhhoooooOOOOOo』
巨大な蹄! ぬかるみに飛沫をあげる!
巨大な牙! ぬかるみごと人間をなぎ払う!
巨大な咆吼! ぬかるみはペースト状であるのに水紋を生む!
体躯は見上げる山のごとく眉へと迫り、目は血走っている。
鼻先から出る呼吸は熱く、野生の臭いが混じる。極限の興奮状態だ。
「これだけデカいと、どんだけ食べられるのか。牡丹鍋ってやつか。前に食わしてもらったけど、すげー美味かった」
巨獣の牙を受け止める飛馬。
おそらく6人では食べきれないだろう。
「そんなに美味かったか! 水田で少しは突進威力、弱ってるか!? いけるぞ!」
遥の期待、上昇す。食ったことない。狙いも成功した。倒して肉にするのみだ!
そして中衛。
ヤマトが掌より火球を発生させ、次にそれは爆ぜて巨体に注ぐ。
「よし、まずは火傷、入った!」
戦いながら調理するかのごとし。遥が肉を叩いて軟らかくだ!
そしてその後の己の役割――果たしてこの巨体相手にできるか? やる。やるのだ。
シャーロットもヤマトと同じく中衛であるが、少し隔てた地点にいる。
「つまり。ワタシの獲物は、アナタなのです」
対面は隔者だ。
「人肉なんぞ大して美味くねぇのを知らんのかァァアア!?」
この攻防、続く中を、さあさあと恵みの雨が降る。
「(回復が苦しい)」
後衛、凜音は静かに戦況を見やる。笹猪の攻撃3回――たったの3回で、恵みの雨を使うと決めた被害の水準に達する。
飛馬はもう少し耐えてくれるだろう、だが――と隔者をみて、次に視線を背後へと移す。
「はやく。避難を」
腰を抜かした老人、息子夫婦らしき者に引っ張られ後退す。
ジャックもこの雨に加勢する。
「ツッコミ所多すぎてこれだけは言いたい!!」
ジャック、なかなか攻撃に転じることができないもどかしさを覚えながらも、魂を奮わせて。
「馬鹿なのか!? あの隔者の女性は、馬鹿なのか!!!??」
対する隔者の怒号。
「ああ!?」
「名前を言えください! ゴリラって呼んでいいのか!? 妖を焼きながら、ゴリラさんの着ている服もぜんぶ焼いちゃうぞ!」
ここで笹猪。再び咆吼。
『ヴオオオオオOhhhhhhhhhhHHH!!』
怒りの横薙ぎが前衛に襲来す。
「気をつけろよ、まともに受けると『足に来る』」
飛馬、なぎ払いに対して、身体を低くする。
太刀の刃を牙にあてて、滑らせるように流す。直撃は不味い。どの攻撃も強力だが、足をやられると命取りだ。
「すっげえな! こいつ!」
遥は無理に堪えようとせず、接触の刹那に長い牙を掴まえ、衝撃を空中に逃す。
ヤマトは火炎の召還。
「さぁ、まだまだ、来いよ! オレたちはまだ立ってるぜ!」
また召還した火球、笹猪に降り注ぐ。
先も喰らわせたのに、燃え広がらない剛毛。状態異常に対する耐性がそれだ。
轟く咆吼、いやさ悲鳴か。純粋にダメージを重ねている事は確実だった。
シャーロット対隔者。振りかざされた拳を捌きながら問う。
「ワタシは、シャーロット・クィン・ブラッドバーン。お名前を頂戴できませんか? 隔者の方――などと意識内ですら繰り返すのは手間なのです」
「淑女気取りかぁぁ! 毎秒10000000000000000000発の連撃を喰らって地獄におちろぉぉ!」
三連撃がシャーロットを襲う。
蹴りが脇腹へ刺さる。顎を拳で跳ねあげられる。両頬が隔者の手に、むにゅっと挟まれ――上から強烈な頭突き!
シャーロット 、この衝撃に膝をつく。
「良くきけ、英国産メス肉。私はAlicebelle Astarossa! 『ヨルナキの腹かっさばいてえのころ飯食いたい友の会』だ!」
「ヨルナキ……を何すると仰いました? しかし、そうですか。アリスベル・アスタロッサ」
得物の太刀を強く握る。膝に力を込めて跳ねあげる鋼色の一閃は、女隔者の顎を捉える。
袈裟がけにもう一閃。続く連撃、最後の一撃は顔面。
まるで鉛の塊を殴りつけるごとき手応え。だが女隔者、鼻から流血。効いている!
「あの猪を倒したら……生で食べるのですか? アリスベル」
頭突きで顔面を狙われたのだから、おあいこだ。
再び凜音が呟く。
「……まいったね」
前衛の死闘。横でも死闘。
気力の消耗が激しい。せめて隔者側の消耗を抑えたい。
「あー。俺達は農作物への被害を減らしたいだけなんだが」
と呼びかけてみる。
「ここで戦って田畑を荒らすと、美味いものも食えなくなる。お前さんの取り分もちゃんと分けるから、手伝ってくれね?」
女隔者、鼻血をぬぐう。
「稲苗や野菜くらい、いくらでも弁償してやるああ!! そして猪は私のものだあああ!」
「んー。野生の獣肉は適切に調理しねーと腹壊すんじゃねーかな」
エネミースキャンで見る。
技は白夜、地烈といった体術中心。そして――何か切り札がありそうだ。
と、凜音はふと横に目をそらす。隔者に対してゆっくり後退す。
シャーロットも、ふわりと距離をとる。
「いるんだよぉぉ! 『室長《大体何でも斬れるおっさん》』とぉぉ! 『爆裂咖喱《スパイシーサイコパス野郎》がなぁぁ!』
たちまち隔者は獣の如く飛びかかって来た。
「そして! 私も! 菓子職人《パティシエール》だ!」
獣の如く飛びかかって――来たのだが、ここで笹猪が横から突っ込んだ。
「大丈夫か!? 遥! 飛馬!」
「ああ!」
「巌心流は守りの剣技! 受け止めてみせる!」
ヤマト、遥、飛馬をともなって、笹猪、爆砕強進!
「ぐはー☆」「アリスベルっていうのか! アリスベルさんのしなやかな身体を俺のこの目に焼き付け――うわあああ!」
ジャックも巻き込まれている。
「わりぃけど、ぼたん鍋はオレたちが頂く!」
ヤマトは、後ろに吹っ飛んでいく隔者に向かって声を張り上げた。
●美しき精神 -Never mind the details!-
強靱! 強大! 強力! 笹猪!
回復に攻めの手をやや取られている戦況か。
この状態で、笹猪の押し込みが度々発生す。
幸い、手厚い治癒によって脱落者はいない。いないが、戦線が村付近の畑まで後退した。
はるか後方から、村民がざわついている声がする。
隔者動く。
「『虚ロ仇花』《こいつ》で血味噌になるんだよおぉおおお!」
奇な。
隔者の技、それは飛翔する武技。
手刀、蹴り、都度生じる気の刃が駆けぬける。
線上にいるのはシャーロット、笹猪!
シャーロット、血を流しながら膝をつく。つくも命を燃やす。
「To be, or not to be. that is ――《生きるか死ぬか、それは』》 」
気合一閃。
「――not the question《問題ではない》」
「Hamlet気取りめ! グローブ座で悲劇でも、嘆いてろよぉおおお! Never Never Never!」
「King Lear気取りですか?」
金髪青瞳、切り結ぶ!
ジャックが加勢す。
咆吼は心の底からの願いそのものだ。炎、覚者の着衣を焼灼す!
「勿体なく引きずっているその衣服をぉぉぉぉ! 焼くんだよぉぉおおお! 恥じらえ! さぁ、恥じらええええ! あとその変な技、俺にもください!」
「変態オス肉がァッ! パイ生地みたいに折りたたんでやるぅううう!」
布、もはやギリギリである。もう少し! もう少し!
飛馬の眼前、爆砕強進の姿勢。
「あの金髪ねーちゃんも大概だな――世の中、まだまだ強いやつだらけ」
負けねーけどな。
「止める!」
村が背にある。今こそ、気合を発揮するとき。
「それが俺の特技で、こだわりで、存在意義だ」
はるか後方から、村民か。少年の大声「がんばれーーー!」と声援来る。
祖父厳馬の教えを胸裏に反芻し、あの日みた祖父の背中のごとく在れ。
全身の骨が、筋が悲鳴をあげる。
「今だぁぁぁ!! ヤマト!!」
気合爆発。笹猪、微動にせず!
ヤマト、笹猪の突き出た二本の牙を両脇に挟みこむ。
「うぉぉおおおおおおおおお!!」
口角から血を垂らし、気合をいれる。たちまち、笹猪の巨体がふわりと浮く。
遥は、右手を大きく引いた姿勢で待つ。
「行けヤマト! 思いっきりブン投げろ!」
「――――ッ!」
ヤマトの空気投げ、笹猪、転倒す!
横たわる笹猪、ここへ遥が左足で踏み込み――
「遥! 決めてやれ!」
「こいつ《致命》も持ってけ!」
この上なく真っ直ぐ突き出された拳は、笹猪の眉間を打つ。
火傷、弱体、鈍化、負荷――致命!
「回復は打ち止めだ。水礫を撃つ余力しかないが、撃つからな」
遥、ヤマト、飛馬、後方から聞こえてきた声にその場に伏せる。身を反らせる。あるいは飛びのく。
凜音の水弾。
一直線に飛んで、笹猪の眉間に突き刺さる。
突き刺さりし瞬間、笹猪の潰れた右目から、ブシッと脂質混じりのピンクの汁が噴出。
これが決め手か。
ヤマトの空気投げによって横たわった姿勢のまま、状態異常の発現。
巨獣は生命活動を停止した。死んだのだ。
残るは隔者。
笹猪との戦いで前衛は疲労困憊。シャーロットもそろそろ限界。凜音も回復は打ち止め。
前衛3人、駆けつける。
即座、遥が猛る。
「人と獣との違いは何だ? そう、『料理』だ!
火で焼く! あふれる肉汁! ただよう香り! 塩か、タレか、ニンニクもいいぞ!」
ここからが本番。
「鍋! 味噌ベースの出汁! 白菜! しらたき! ネギ! 豆腐! えのき! すべての旨味が溶け出し、鍋の中で一つになる! シメにご飯を投入! おじやだぁぁ!!」
人の心を取りもどしてくれ! という遥の心からの願いであった。
だがこれは、この言葉は! 女隔者にとって。
「や、やめろ……飯テロ《Food Porn》は」
胃を殺す! 心を折る精神攻撃そのもの! ぐぅ~と6人にも聞こえる腹の音。腹の虫が音をあげているのだ。
「食べられるものなら、皆で食べる流れであって欲しいと思っていますが」
シャーロット、太刀を上段に構える。
「独り占めに決ま、決ま、きま」
「隙あり、といったところです」
シャーロット、デッドオアアライブを伴った一閃。隔者の額を打つ。
たちまち、女隔者、口から人魂のごときものを発し、糸の切れた人形のようにその場に崩れた。
ジャックがパーンッと猫だましする。
「――!?」
「ぱーん、つー、まる、みえ! だぜ!」
ジャックは表情をぱぁぁっとキラキラさせる。実際ぱんつみえてる。
女隔者、再び覚醒し、ジャックに無言の頭突き、これが最後――両者、突っ伏す。
●試食 -Nohkin-
女隔者、笹猪を解体す。
「七星剣《ボンクラ》ども、幹部もヨルナキに日和りやがってぇぇぇ!
ヨルナキの腹かっさばいて食っちまえば、全国平服超ビビる! 圧倒的暴力による支配が手っ取り早いだろうがぁぁ! 追い返すだけでも上等すぎるだろうがああ! 何が『勝手にAAA潰してくれるなら静観』だあぁぁぁ! 規模だけはデカい小悪党がっ! くそが! クソが!」
臓物《わた》抜き。関節の解体。皮剥ぎ。肉を切り分ける。
ジャック、凜音、シャーロットはこの様子を見張る。
「しがらみがあるみたいだけど! あと綺麗ですね! 脳筋! 落ち着け! 身体綺麗ですね! メルアドください!」
「めるあど? そんなハイカラなもん持ってねえよ」
凜音は『パティシエ?』と首を捻りながら。
「好きな部位を持っていって良い。猪にも攻撃していたみたいだしな」
「まだだ! 塩水に浸けて血抜きだ! 塩水が赤くなる! 何度も塩水を交換する! 野生の猪は虫がいるから、良く火を通――」
隔者、再び空腹にて斃れる。ジャックは自らの上着をそっとかける。
「塩抜きのあと、料理ができましたら起こしましょう」
シャーロットは微笑を浮かべながら、続き――血抜きにとりかかった。
処理された牡丹肉! ピンクに煌めく!
ヤマトが、鍋の蓋をひらく。
もわっと湯気がたつ。
野菜、白滝、牡丹肉が、鍋のなかでぐつぐつと声をだす。美味い汁に溶けでて和らいだ野趣あふれる香り。
横で飛馬が焼き肉をこしらえる。口中に唾がたまる。良き塩梅。
覚者一同「いただきます」を唱和して箸を伸ばす。
丁寧に血抜きされた牡丹肉は、野生肉にしては臭みがなく、独特な歯ごたえの脂身は、しかしとろけるよう。豚とはまるで違う。
遥、くぅ~と語彙を失う。
白飯も美味い。まさに舌鼓。
戦いのあとの美味は、とても胃に染みわたるようだ。
なお、ロースだけでも数百kgはある!
ぼかんという轟音が響き、砕けた木々が頭上を飛んでいった。
象ほどの体躯をほこる笹猪が、その質量を全力でぶつけるがごとく、山地を駆けおりてくる! 突進してくる!
「うああ!? バケモノだ! ひぃ!?」
F.i.V.E.の覚者たちは、避難活動の最中であった。
一般人の爺さんがいる。水田のぬかるみに腰を抜かしている。そこは笹猪の進路上!
「巌心流と獅子王の名に懸けて後ろには行かせないぜ。はったりでも目標でもねーよ」
『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は、身体ごと盾とする。
刹那の一瞬間!
笹猪の長大な牙を、鋼色の表道具でさばき、笹猪の頭部――加速を伴った頭突きをその身に受ける。
受けた瞬間、尋常ではないほどの圧力が全身を駆けぬけた。
自らの骨が悲鳴をあげる。両足がいかれそうになる。何たる力か!
「確かにでっけー猪だな……だが!」
太刀と脇差しの二刀を改めて構え。足踏んばる。
『太刀は祖父、脇差しは父と心得るべし』、祖父の言で自らを鼓舞する! 眼前に、血走った獣の目。想いを乗せる!
「オレもやってやるぜ!」
『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が、腕を交差させた全力防御にて加わる。
飛馬と遥の視線が交差。やるぞ、の決意の目。
「野生動物とのバトルは空手家にとって一つの目標! つまり、一粒で二度おいしい! 二重の意味で! な!」
遥、左拳にて笹猪の鼻の上へ一撃。
即、握った拳をひらく。右腕は笹猪の牙を抱えこむ。この姿勢で踏んばる。
二人加わったがまだ押し込まれている。田のぬかるみで減速を狙う計画は功を奏している! あと一歩か!
「行くぜ猪野郎! こっから先は、絶対に抜かせねぇ!」
追加の声、ここに加わる!
中衛 『弦操りの強者』黒崎 ヤマト(CL2001083)! 両腕で、笹猪の巨大な牙を抱えこむ!
背後には後衛――作戦上、守護せねばならない者。
そして、腰を抜かした老人も、まとめて守る強き意志。
ここに三者の気魄、裂帛す!
「後ろに行かせない! 決定事項だ! うおおぉぉ!!」
「止まれぇぇぇ! 猪!!」
「絶対に! こっから先は! 行かせねぇ!」
ここで頭上から雨がさあさあと降り注いだ。
『癒しの矜持』香月 凜音(CL2000495)が顕現させた恵み雨だった。
「一度回復しておこうか。――気合とかそういうの、俺あんま持ち合わせてねーんだけどさ」
三者、活力得る! 気合の極点、炸裂す。足場のぬかるみが爆ぜる! 水柱をあげる!
笹猪の爆砕強進、静止す!
希臘の彫刻がごとく、今動くのか、いつ動くかと苦しむ数秒。
そして空白はすぐに破られる。三者の頭上を飛び越える黒い影。隔者の女。
「横取りかぁぁぁぁ!? どこのクソだぁぁぁ!? 七星剣のボンクラかアアァァ!?」
狙いは、後衛! 回復を用いた凜音。凜音と女隔者の視線が交差する。
「違う! 七星剣じゃないぞおおぉぉぉ!」
そこへ否定の声 『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)だ。
「――っ!?」
この声に反応するように、女、空中で横回転す。
回転を伴った浴びせ蹴りは、ジャックへ!
刹那。
『継承者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)の太刀が横から割って入った。
回転蹴りを受け止める。
素足の蹴り、対する抜き身の太刀――なのに、金属同士がぶつかり合うような音が響く。
「この猪、もはやマンモスと見まごうばかり……ですが、この方も面白そうなので文句なしです」
シャーロットはしっとりと言葉を紡ぎながら、太刀を刎ねあげる。
女隔者は宙返りをして、刎ねあげを回避。獣のごとき姿勢で着地する。
着地地点を予測した、ジャックの火炎の術。
「ファイヴだ!! おい隔者、俺は切裂ジャック!」
隔者の衣類を狙ってひっぺがさんとしながらも。斜に構え、真剣なまなじりで、格好良く言いはなつ。
「お前の名前は!? あとメルアド下さい!!」
「F.i.V.E.――?」
はあはあ、そうかそうか。なるほど。と女が言う。
「室長が言ってたやつらかぁ! 大妖に立ち向かったやつらかぁぁ。七星剣《ボンクラ》より面白いやつらかぁぁぁ! ――だが死ねぇえええ!」
女の咆吼! 続く笹猪の『ぶおおおお』なる轟咆吼!
視線、一斉に笹猪へ向く。
隙ありとばかりに猛襲する隔者の格闘。
『ヴァアアアア!』
笹猪の牙の横一文字も襲来す!
●頭脳の戦い -...oops,no sense of respect, right?-
『ヴオオオオオオオオohhhhoooooOOOOOo』
巨大な蹄! ぬかるみに飛沫をあげる!
巨大な牙! ぬかるみごと人間をなぎ払う!
巨大な咆吼! ぬかるみはペースト状であるのに水紋を生む!
体躯は見上げる山のごとく眉へと迫り、目は血走っている。
鼻先から出る呼吸は熱く、野生の臭いが混じる。極限の興奮状態だ。
「これだけデカいと、どんだけ食べられるのか。牡丹鍋ってやつか。前に食わしてもらったけど、すげー美味かった」
巨獣の牙を受け止める飛馬。
おそらく6人では食べきれないだろう。
「そんなに美味かったか! 水田で少しは突進威力、弱ってるか!? いけるぞ!」
遥の期待、上昇す。食ったことない。狙いも成功した。倒して肉にするのみだ!
そして中衛。
ヤマトが掌より火球を発生させ、次にそれは爆ぜて巨体に注ぐ。
「よし、まずは火傷、入った!」
戦いながら調理するかのごとし。遥が肉を叩いて軟らかくだ!
そしてその後の己の役割――果たしてこの巨体相手にできるか? やる。やるのだ。
シャーロットもヤマトと同じく中衛であるが、少し隔てた地点にいる。
「つまり。ワタシの獲物は、アナタなのです」
対面は隔者だ。
「人肉なんぞ大して美味くねぇのを知らんのかァァアア!?」
この攻防、続く中を、さあさあと恵みの雨が降る。
「(回復が苦しい)」
後衛、凜音は静かに戦況を見やる。笹猪の攻撃3回――たったの3回で、恵みの雨を使うと決めた被害の水準に達する。
飛馬はもう少し耐えてくれるだろう、だが――と隔者をみて、次に視線を背後へと移す。
「はやく。避難を」
腰を抜かした老人、息子夫婦らしき者に引っ張られ後退す。
ジャックもこの雨に加勢する。
「ツッコミ所多すぎてこれだけは言いたい!!」
ジャック、なかなか攻撃に転じることができないもどかしさを覚えながらも、魂を奮わせて。
「馬鹿なのか!? あの隔者の女性は、馬鹿なのか!!!??」
対する隔者の怒号。
「ああ!?」
「名前を言えください! ゴリラって呼んでいいのか!? 妖を焼きながら、ゴリラさんの着ている服もぜんぶ焼いちゃうぞ!」
ここで笹猪。再び咆吼。
『ヴオオオオオOhhhhhhhhhhHHH!!』
怒りの横薙ぎが前衛に襲来す。
「気をつけろよ、まともに受けると『足に来る』」
飛馬、なぎ払いに対して、身体を低くする。
太刀の刃を牙にあてて、滑らせるように流す。直撃は不味い。どの攻撃も強力だが、足をやられると命取りだ。
「すっげえな! こいつ!」
遥は無理に堪えようとせず、接触の刹那に長い牙を掴まえ、衝撃を空中に逃す。
ヤマトは火炎の召還。
「さぁ、まだまだ、来いよ! オレたちはまだ立ってるぜ!」
また召還した火球、笹猪に降り注ぐ。
先も喰らわせたのに、燃え広がらない剛毛。状態異常に対する耐性がそれだ。
轟く咆吼、いやさ悲鳴か。純粋にダメージを重ねている事は確実だった。
シャーロット対隔者。振りかざされた拳を捌きながら問う。
「ワタシは、シャーロット・クィン・ブラッドバーン。お名前を頂戴できませんか? 隔者の方――などと意識内ですら繰り返すのは手間なのです」
「淑女気取りかぁぁ! 毎秒10000000000000000000発の連撃を喰らって地獄におちろぉぉ!」
三連撃がシャーロットを襲う。
蹴りが脇腹へ刺さる。顎を拳で跳ねあげられる。両頬が隔者の手に、むにゅっと挟まれ――上から強烈な頭突き!
シャーロット 、この衝撃に膝をつく。
「良くきけ、英国産メス肉。私はAlicebelle Astarossa! 『ヨルナキの腹かっさばいてえのころ飯食いたい友の会』だ!」
「ヨルナキ……を何すると仰いました? しかし、そうですか。アリスベル・アスタロッサ」
得物の太刀を強く握る。膝に力を込めて跳ねあげる鋼色の一閃は、女隔者の顎を捉える。
袈裟がけにもう一閃。続く連撃、最後の一撃は顔面。
まるで鉛の塊を殴りつけるごとき手応え。だが女隔者、鼻から流血。効いている!
「あの猪を倒したら……生で食べるのですか? アリスベル」
頭突きで顔面を狙われたのだから、おあいこだ。
再び凜音が呟く。
「……まいったね」
前衛の死闘。横でも死闘。
気力の消耗が激しい。せめて隔者側の消耗を抑えたい。
「あー。俺達は農作物への被害を減らしたいだけなんだが」
と呼びかけてみる。
「ここで戦って田畑を荒らすと、美味いものも食えなくなる。お前さんの取り分もちゃんと分けるから、手伝ってくれね?」
女隔者、鼻血をぬぐう。
「稲苗や野菜くらい、いくらでも弁償してやるああ!! そして猪は私のものだあああ!」
「んー。野生の獣肉は適切に調理しねーと腹壊すんじゃねーかな」
エネミースキャンで見る。
技は白夜、地烈といった体術中心。そして――何か切り札がありそうだ。
と、凜音はふと横に目をそらす。隔者に対してゆっくり後退す。
シャーロットも、ふわりと距離をとる。
「いるんだよぉぉ! 『室長《大体何でも斬れるおっさん》』とぉぉ! 『爆裂咖喱《スパイシーサイコパス野郎》がなぁぁ!』
たちまち隔者は獣の如く飛びかかって来た。
「そして! 私も! 菓子職人《パティシエール》だ!」
獣の如く飛びかかって――来たのだが、ここで笹猪が横から突っ込んだ。
「大丈夫か!? 遥! 飛馬!」
「ああ!」
「巌心流は守りの剣技! 受け止めてみせる!」
ヤマト、遥、飛馬をともなって、笹猪、爆砕強進!
「ぐはー☆」「アリスベルっていうのか! アリスベルさんのしなやかな身体を俺のこの目に焼き付け――うわあああ!」
ジャックも巻き込まれている。
「わりぃけど、ぼたん鍋はオレたちが頂く!」
ヤマトは、後ろに吹っ飛んでいく隔者に向かって声を張り上げた。
●美しき精神 -Never mind the details!-
強靱! 強大! 強力! 笹猪!
回復に攻めの手をやや取られている戦況か。
この状態で、笹猪の押し込みが度々発生す。
幸い、手厚い治癒によって脱落者はいない。いないが、戦線が村付近の畑まで後退した。
はるか後方から、村民がざわついている声がする。
隔者動く。
「『虚ロ仇花』《こいつ》で血味噌になるんだよおぉおおお!」
奇な。
隔者の技、それは飛翔する武技。
手刀、蹴り、都度生じる気の刃が駆けぬける。
線上にいるのはシャーロット、笹猪!
シャーロット、血を流しながら膝をつく。つくも命を燃やす。
「To be, or not to be. that is ――《生きるか死ぬか、それは』》 」
気合一閃。
「――not the question《問題ではない》」
「Hamlet気取りめ! グローブ座で悲劇でも、嘆いてろよぉおおお! Never Never Never!」
「King Lear気取りですか?」
金髪青瞳、切り結ぶ!
ジャックが加勢す。
咆吼は心の底からの願いそのものだ。炎、覚者の着衣を焼灼す!
「勿体なく引きずっているその衣服をぉぉぉぉ! 焼くんだよぉぉおおお! 恥じらえ! さぁ、恥じらええええ! あとその変な技、俺にもください!」
「変態オス肉がァッ! パイ生地みたいに折りたたんでやるぅううう!」
布、もはやギリギリである。もう少し! もう少し!
飛馬の眼前、爆砕強進の姿勢。
「あの金髪ねーちゃんも大概だな――世の中、まだまだ強いやつだらけ」
負けねーけどな。
「止める!」
村が背にある。今こそ、気合を発揮するとき。
「それが俺の特技で、こだわりで、存在意義だ」
はるか後方から、村民か。少年の大声「がんばれーーー!」と声援来る。
祖父厳馬の教えを胸裏に反芻し、あの日みた祖父の背中のごとく在れ。
全身の骨が、筋が悲鳴をあげる。
「今だぁぁぁ!! ヤマト!!」
気合爆発。笹猪、微動にせず!
ヤマト、笹猪の突き出た二本の牙を両脇に挟みこむ。
「うぉぉおおおおおおおおお!!」
口角から血を垂らし、気合をいれる。たちまち、笹猪の巨体がふわりと浮く。
遥は、右手を大きく引いた姿勢で待つ。
「行けヤマト! 思いっきりブン投げろ!」
「――――ッ!」
ヤマトの空気投げ、笹猪、転倒す!
横たわる笹猪、ここへ遥が左足で踏み込み――
「遥! 決めてやれ!」
「こいつ《致命》も持ってけ!」
この上なく真っ直ぐ突き出された拳は、笹猪の眉間を打つ。
火傷、弱体、鈍化、負荷――致命!
「回復は打ち止めだ。水礫を撃つ余力しかないが、撃つからな」
遥、ヤマト、飛馬、後方から聞こえてきた声にその場に伏せる。身を反らせる。あるいは飛びのく。
凜音の水弾。
一直線に飛んで、笹猪の眉間に突き刺さる。
突き刺さりし瞬間、笹猪の潰れた右目から、ブシッと脂質混じりのピンクの汁が噴出。
これが決め手か。
ヤマトの空気投げによって横たわった姿勢のまま、状態異常の発現。
巨獣は生命活動を停止した。死んだのだ。
残るは隔者。
笹猪との戦いで前衛は疲労困憊。シャーロットもそろそろ限界。凜音も回復は打ち止め。
前衛3人、駆けつける。
即座、遥が猛る。
「人と獣との違いは何だ? そう、『料理』だ!
火で焼く! あふれる肉汁! ただよう香り! 塩か、タレか、ニンニクもいいぞ!」
ここからが本番。
「鍋! 味噌ベースの出汁! 白菜! しらたき! ネギ! 豆腐! えのき! すべての旨味が溶け出し、鍋の中で一つになる! シメにご飯を投入! おじやだぁぁ!!」
人の心を取りもどしてくれ! という遥の心からの願いであった。
だがこれは、この言葉は! 女隔者にとって。
「や、やめろ……飯テロ《Food Porn》は」
胃を殺す! 心を折る精神攻撃そのもの! ぐぅ~と6人にも聞こえる腹の音。腹の虫が音をあげているのだ。
「食べられるものなら、皆で食べる流れであって欲しいと思っていますが」
シャーロット、太刀を上段に構える。
「独り占めに決ま、決ま、きま」
「隙あり、といったところです」
シャーロット、デッドオアアライブを伴った一閃。隔者の額を打つ。
たちまち、女隔者、口から人魂のごときものを発し、糸の切れた人形のようにその場に崩れた。
ジャックがパーンッと猫だましする。
「――!?」
「ぱーん、つー、まる、みえ! だぜ!」
ジャックは表情をぱぁぁっとキラキラさせる。実際ぱんつみえてる。
女隔者、再び覚醒し、ジャックに無言の頭突き、これが最後――両者、突っ伏す。
●試食 -Nohkin-
女隔者、笹猪を解体す。
「七星剣《ボンクラ》ども、幹部もヨルナキに日和りやがってぇぇぇ!
ヨルナキの腹かっさばいて食っちまえば、全国平服超ビビる! 圧倒的暴力による支配が手っ取り早いだろうがぁぁ! 追い返すだけでも上等すぎるだろうがああ! 何が『勝手にAAA潰してくれるなら静観』だあぁぁぁ! 規模だけはデカい小悪党がっ! くそが! クソが!」
臓物《わた》抜き。関節の解体。皮剥ぎ。肉を切り分ける。
ジャック、凜音、シャーロットはこの様子を見張る。
「しがらみがあるみたいだけど! あと綺麗ですね! 脳筋! 落ち着け! 身体綺麗ですね! メルアドください!」
「めるあど? そんなハイカラなもん持ってねえよ」
凜音は『パティシエ?』と首を捻りながら。
「好きな部位を持っていって良い。猪にも攻撃していたみたいだしな」
「まだだ! 塩水に浸けて血抜きだ! 塩水が赤くなる! 何度も塩水を交換する! 野生の猪は虫がいるから、良く火を通――」
隔者、再び空腹にて斃れる。ジャックは自らの上着をそっとかける。
「塩抜きのあと、料理ができましたら起こしましょう」
シャーロットは微笑を浮かべながら、続き――血抜きにとりかかった。
処理された牡丹肉! ピンクに煌めく!
ヤマトが、鍋の蓋をひらく。
もわっと湯気がたつ。
野菜、白滝、牡丹肉が、鍋のなかでぐつぐつと声をだす。美味い汁に溶けでて和らいだ野趣あふれる香り。
横で飛馬が焼き肉をこしらえる。口中に唾がたまる。良き塩梅。
覚者一同「いただきます」を唱和して箸を伸ばす。
丁寧に血抜きされた牡丹肉は、野生肉にしては臭みがなく、独特な歯ごたえの脂身は、しかしとろけるよう。豚とはまるで違う。
遥、くぅ~と語彙を失う。
白飯も美味い。まさに舌鼓。
戦いのあとの美味は、とても胃に染みわたるようだ。
なお、ロースだけでも数百kgはある!
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『猪笹王を投げ飛ばす者』
取得者:黒崎 ヤマト(CL2001083)
『猪笹王を止める者』
取得者:獅子王 飛馬(CL2001466)
『猪笹王を喰らう者』
取得者:鹿ノ島・遥(CL2000227)
『変態オス肉』
取得者:切裂 ジャック(CL2001403)
『猪笹王を斃す者』
取得者:香月 凜音(CL2000495)
『美獣を狩る者』
取得者:シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)
取得者:黒崎 ヤマト(CL2001083)
『猪笹王を止める者』
取得者:獅子王 飛馬(CL2001466)
『猪笹王を喰らう者』
取得者:鹿ノ島・遥(CL2000227)
『変態オス肉』
取得者:切裂 ジャック(CL2001403)
『猪笹王を斃す者』
取得者:香月 凜音(CL2000495)
『美獣を狩る者』
取得者:シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)
特殊成果
なし

■あとがき■
当方、食事描写に重点を置いたクエスト/リプレイを良く出しておりますが、『飯テロプレイング』は初めてのような気がします。
ご参加ありがとうございました。
ご参加ありがとうございました。
