孤独なるグルメさんぽ
●ひとりでメシをくう。その贅沢と、孤高。
三歩あるくと財布をなくす文鳥 つらら(nCL2000051)も、時として普通のご飯にありつける時がある。
手には千円札。目の前には五麟の町並み。
腹が減った。
空腹だ。
さあ、何を食べよう。なにがある?
たどり着いたのはよくあるカフェだった。
美味しいコーヒーを出しますよとばかりに整ったお店には、焼きたてパン、お好み焼き、ピザ、陶芸教室といったカオスきわまりないノボリが立っている。
なんという面構え。無節操でやんちゃ。
いいじゃあないか。こういうのだよ。
うきうき気分で中に入ってみる。
小さな店内。家族で経営しているかんじのつつましやかな内装。
端のほうではオバチャンたちがコーヒーとケーキをおともに雑談に興じている。
メニューは……うん、無節操だ。ピザに焼きそばにお好み焼きにチーズケーキ。店の奥からただよう、カフェとは思えぬソースと青のりの香り。
お勧めを聞いてみれば、お好み焼きがウマいという。
カフェなのに?
と思って店の扉を見ると『お好み焼きカフェ』とあった。
なるほど看板に偽りなしか。
よしきたとばかりにお好み焼きを注文。うきうき気分で待ってみる。
暫くしてやってきたのはオーソドックスなお好み焼き。
つやめくソース、香る青のり、踊る鰹節。
食べてみるとガッツリした記事だ。ふかふかもっちり時代に逆行する硬派な食感。そしてしっかりとついた肉の味。
うまうましていると、やがてコーヒーがやってきた。
サービスだそうだ。これはもうけた。エビでタイを釣るがごとく、お好み焼きでコーヒーがつれた。
と、横を見るとチーズパン。ブロックチーズを挟み込んだフランスパンが添えられている。これもサービスだという。大漁じゃあないか。
がつがつ食べて、コーヒーにまったりして、店を出る頃には身も心も癒やされていた。
無節操な店構え。けど暖かいもてなし。いい店を見つけた。
●そしてあなたは……?
ある日あるときのグルメさんぽ。
ひとりで歩くあなたが立ち寄る初めてのお店。
どんなものが食べたい? どこへ行きたい?
その先にどんな出会いが待っている?
これは孤独で自由なグルメさんぽ。
あなただけの、時間。
三歩あるくと財布をなくす文鳥 つらら(nCL2000051)も、時として普通のご飯にありつける時がある。
手には千円札。目の前には五麟の町並み。
腹が減った。
空腹だ。
さあ、何を食べよう。なにがある?
たどり着いたのはよくあるカフェだった。
美味しいコーヒーを出しますよとばかりに整ったお店には、焼きたてパン、お好み焼き、ピザ、陶芸教室といったカオスきわまりないノボリが立っている。
なんという面構え。無節操でやんちゃ。
いいじゃあないか。こういうのだよ。
うきうき気分で中に入ってみる。
小さな店内。家族で経営しているかんじのつつましやかな内装。
端のほうではオバチャンたちがコーヒーとケーキをおともに雑談に興じている。
メニューは……うん、無節操だ。ピザに焼きそばにお好み焼きにチーズケーキ。店の奥からただよう、カフェとは思えぬソースと青のりの香り。
お勧めを聞いてみれば、お好み焼きがウマいという。
カフェなのに?
と思って店の扉を見ると『お好み焼きカフェ』とあった。
なるほど看板に偽りなしか。
よしきたとばかりにお好み焼きを注文。うきうき気分で待ってみる。
暫くしてやってきたのはオーソドックスなお好み焼き。
つやめくソース、香る青のり、踊る鰹節。
食べてみるとガッツリした記事だ。ふかふかもっちり時代に逆行する硬派な食感。そしてしっかりとついた肉の味。
うまうましていると、やがてコーヒーがやってきた。
サービスだそうだ。これはもうけた。エビでタイを釣るがごとく、お好み焼きでコーヒーがつれた。
と、横を見るとチーズパン。ブロックチーズを挟み込んだフランスパンが添えられている。これもサービスだという。大漁じゃあないか。
がつがつ食べて、コーヒーにまったりして、店を出る頃には身も心も癒やされていた。
無節操な店構え。けど暖かいもてなし。いい店を見つけた。
●そしてあなたは……?
ある日あるときのグルメさんぽ。
ひとりで歩くあなたが立ち寄る初めてのお店。
どんなものが食べたい? どこへ行きたい?
その先にどんな出会いが待っている?
これは孤独で自由なグルメさんぽ。
あなただけの、時間。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ひとりでご飯を食べに行こう
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
キャラクターが普段過ごす日常の風景を、あるテーマにそって切り取って描写するものであります。
今回のテーマは『ひとりグルメ』。
出先で。学校帰りで。たまの旅行で。
偶然ひとりで外食することになったあなたの風景を描きます。
あなたはどんな都合でその場所にいるのでしょうか。
そしてお腹がすいている時、何が欲しくなるでしょう。
ふらふら歩けば、きっとピッタリのお店が見つかるかも知れません。はたまたピッタリじゃなくても満足のいくお店と出会うかも。
これは誰にも縛られない自由で孤高なグルメさんぽ。
あなただけの時間です。
※このシナリオは戦闘もなければご一緒もしません。なので相談することがまるでありません。なにか喋りたいなあと思ったら最近食べて美味しかったお店を紹介しあってみましょう。それはそれで有意義な時間になるかも?
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年06月17日
2017年06月17日
■メイン参加者 6人■

●『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)のグルメさんぽ
暖かくどこか澄んだ風が、空港から出たばかりの奏空を出迎えた。
「沖縄かあ、何度来ても新天地感あるなあ……」
キッカケは趣味で助けた時である。
『趣味で』と言ったのは、別に誰に頼まれたからでも誰にお金を貰ったからでもないからだ。ぶっちゃけ今のご時世(ファイヴ内の報酬だけで考えても)妖退治はいい金になったりするのだが、奏空はこれを夏休みの昆虫採集的な感覚でやっていた。
善意というのもなんか違う。正義というとかなり違う。
強いて言うなら憧れへの自己実現。事実だけを言うなら、趣味である。
話を戻そう。
奏空が助けたのは沖縄から旅行してきた料理人だった。沖縄に遊びに来たときは是非寄ってくださいなと言われていたので、旅行のついでにやってきたのだが……。
「一人で沖縄旅行って、ちょっと冒険しすぎたかな」
世界平和のために戦おうが、奏空はあくまで十五歳の少年であった。
「この辺りのはず、だよな……」
奏空がやってきたのは個人経営の居酒屋みてーな店だった。
観光客を呼び込もうという気持ちは全くなく、近所のおっさんのために開いているような店構えである。
招待されたんでもなければ見つけることすらなかっただろう。
「まずは入ってみるか」
ごめんください、と言って入ってみれば、奏空は早速歓迎された。
招待した人や店員の人柄に関しては置いておくとして、奏空はさっそく迷った。
何に迷ったかと言えば、メニューにである。
ここぞとばかりに現地の言葉で書かれた料理名に、全くピンと来ないのだ。
「うーん……じゃあ、ら、らふてー? あとこう、いい感じにお願いします」
奏空のリクエストに応えて沖縄料理がテーブルにずらりと並んだ。
ラフテーという角煮、豚の耳皮をいためたミミガー。その他あんかニャンバラーキャンベラーみてーな不思議なちゅらさ系呪文を唱えながら並べられる料理。
名前も味わいも見た目までも不思議な料理をひとしきり楽しみ、最後にサーターアンダギーやちんすこうのネーミングにひとしきりはしゃいだ後、満腹気分で店を出た。
「ふう、たまにはこういう日もアリかな……」
けど不思議な呪文ばかり聞いていて、ちょっと都会の言葉が恋しくなってきた。
奏空は空港のカフェに入ると、なんだかやったら長い飲み物を注文して自主的に癒やされてみるのだった。
「ショートアイスチョコレートオランジュモカノンモカエクストラホ
イップエクストラソースくださーい!」
●楠瀬 ことこ(CL2000498)のグルメさんぽ
何度だって言うが、ことこちゃんはスーパーアイドルである。
スカイタワーツリーの式典で覚者アイドルを名乗って以来仕事がめきめきと増えたが、それは別として元気に活動する学生アイドルなのだ。逆に言うと、それだけの下地がなくては覚者だからって仕事は来ない。
「おつかれさまでしたー!」
今日も今日とてファッション雑誌のモデルとして撮影を終えたことこはスタジオを出てケータイでこの先の予定を確認していた。
「このあとはー……んー、ひま、かな?」
まっすぐ帰って宿題をやらなきゃならないのでヒマじゃあないのだが、最近スケジュールがキツキツなことこにとっては一時間の余裕があるだけでもかなりのもんである。
「どっかで座って休みたいなー。座って祈ると出る気がするよねー、レアが」
今日もサバだか傭兵だかカードだかをお迎えする雅な遊びに興じることこお嬢様である。しかしレア云々は抜きにしても、歩きスマホはよろしくない。
どっか座れるようなお店はー、と普段通らない道にあえて入ってみた。
こういうときに既知のものでテキトーに済ませないのがことこちゃんのことこちゃんたるゆえんである。
「あっ、なんかいい香りする」
ひなたぼっこするネコを横切って、いい香りのする方向へと歩いて行く。
すると、どこか古びた雰囲気のカフェが見つかった。
ザ・個人経営といった具合のカフェだ。割と前々からある小さな写真屋さんらしく、店の半分が写真屋さんでできている。そのもう半分がカフェである。
おいしいコーヒー。
焼きたてパン。
手作りピザ。
お好み焼きあります。
陶芸教室。
カレーが自慢。
……といったカオスな張り紙がバシバシ貼られていて、ちょっと入るのを躊躇した、が。
折角だから入ってみることにした。
正直にいうといまさっき引いた十連ガチャが死んでいて、ことこはそれ以上歩くのがイヤになったのである。
店に入ると、家庭的なテーブルと椅子がお出迎え。
エプロンをしたおばちゃんらしき人に、ことこはメニュー用にある『フルーツたっぷりのパンケーキ』を注文してみた。
やがてやってくるパンケーキ……が埋まったフルーツの群れ。
「ふ、フルーツたっぷりだ……」
リンゴやイチゴやバナナやパイナップルやらあれやこれやが集まった、いわゆるフルーツの盛り合わせである。
その土台として、パンケーキとホイップクリームが存在していた。
なんだこのバブリーな食い物は、と思ったが肝心なのは味である。
ことこはおそるおそるフォークを入れ、パンケーキ部分をはむっとやってみる。
すぐさま広がるフルーツのがつんとした刺激。一瞬遅れてやってくるクリームの甘み。思い出したように噛んでみれば舌だけで千切れそうな柔らかいパンケーキを感じることが出来た。
「ふわふわあ……おいしーい」
ふわふわとおいしいしか言わないのはアイドル(芸能人)としてどうなのか、と思ったことは思ったが、ここで余計なものを盛りつけないのもまたことこちゃんである。
それからもおいしいおいしい言いながらパンケーキとフルーツをぺろりとたいらげた。
「次は時雨ぴょんも誘ってこよっかなあ、と」
ぺちんとタップした画面で、確定レア演出が始まった。
わあお。これはアガる。
●『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)のグルメさんぽ
友人の演奏会の帰り、御菓子はお勧めされていたカフェに行くことにした。
が、しかし。
思い切り迷った。
道を何度も行ったり来たりしているが、まるでカフェらしい建物が見えてこない。
和食チェーン店とかファミレスとかピザ屋ならあるけど、カフェは一件も無い。間違えただろうか。いやしかし住所も道もここのはず……と思って立ち止まると。
「ウィークエンド……カフェ?」
不動産屋と空き店舗しかない建物のそばに、そんな看板がぽつーんとたっていた。高さ50センチほどの小さいヤツである。
しかも手書きで『二階』とあった。
建物の……二階?
どう探しても、二階のアパートスペースへほっそい階段しか見当たらない。
おそるおそる登ってみると、なにやらジャズミュージックが聞こえてきた。昼間っから外に音楽を垂れ流している人がいるのかなあと思ったがそうではない。半開きになったアパートのドアにつっかえがしてあって、そこに『カフェはこちら』と書いてあったのだ。音楽も、そこから流れてくるものである。
「ど、どうしよう。どう見ても人の家だけど……」
まあ、ここまで看板を出して置いて今更怒られはするまい。最悪ひとんちだったとしても謝って帰ればよいだけのこと。
そう思って扉を潜ると。
「……どうも」
スキンヘッドにサングラスの巨漢が、薄暗いワンルームの真ん中に仁王立ちしていた。
あっだめだこれ謝っても許されないやつだ死ぬやつだ。と思ったがそうではない。
「……好きなところ、座ってください」
御菓子は言われるがまま、カウンターから遠い席へと座った。
店に席は三つしかない。
カウンター席。ソファ席、端っこの椅子の席。
御菓子が座ったのはソファ席である。店主は黙ってそばによってくると、黙ってメニューとチョコレートを差し出した。
チロルサイズの一口チョコだが、日本のものでは無いらしい。
どうやらベルギーのものであることだけは分かったが、御菓子はとりまそれを口にした。
ほどよく甘く、そして深い味わい。
とろけるような味に酔っていると、店主が『暖かいのと冷たいの、どちらにしますか』と聞いてきた。なにその二択と思ったがここはひとまず『暖かいの』をチョイス。
すると店主はコーヒー用のお湯を沸かし、豆をひきはじめる。
そして暫くすると、店のカウンター脇に設置されたレコードプレイヤー(レコードに針をおとすアレ)のそばに行き、壁に飾ったレコードのひとつを手に取ると、ゆっくりと二つのプレイヤーを操作して手動で音楽をゆっくりと混ぜるように切り替え始めた。
「……なるほど」
今時、店内BGMを手動で切り替えるカフェも珍しい。自力のカンで丁度いいリズムで切り替えていくのだ。
やがてやってきたコーヒーに口をつけ、ちょっぴり情熱的な黒人女性のジャズに耳を傾けて過ごす時間。
お勧めされるのも、なんだか分かる気がした。
今度誰かに勧めてみよう。分かる人は、きっと分かるはずだから。
●『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)のひとりグルメ
ファイヴのインスタやってそうな女子ランキングできっと上位に食い込む女、ミュエル。
むろんきっちりやっているわけだが、道ばたの花やネコや変な形の雲を撮影するだけのプレイではない。(それはそれで感性が花開いてとってもステキな日々が送れるのだが)
「かわいいキッシュと自然派スイーツの隠れ家カフェ……えへへ、きちゃった」
カバーによって一回りデカくなってるスマホを手に、顔を上げる。
そしてオシャレな扉にかかったプレートに、ミュエルは目を細めた。
「本日……定休日……」
沈黙すること三秒。
スマホを翳し、シャメっておいた。
この写真はインスタにはあげぬ。
近くに別のカフェはない。どころかコンビニくらいしかない。
けれどお腹はすいているので頑張って暫く歩いてみると……。
「お嬢ちゃん。ご飯?」
と、急に声をかけられた。
定食屋? である。
軒先に手作りの棚が置かれ、恐らく自分で作ったであろう野菜がごろっと並んで大雑把な値札がつけられている。
その脇に、半袖短パンの60近いおっさん(老けているわりにテンションがおじーちゃんじゃない人)が腰掛けていた。
「食べてかない? 500円」
「えっと……」
新手のナンパ、ではない。
「サバ焼くよ。釣ったから」
「つった……」
鯖といえば海魚だが、このおっさんは自分で釣って持ってきたとでもいうのだろうか。
そしてミュエルが食べなければ鯖はそのままびちびちと腐っていくとでも?
可哀想な未来を想像して、ミュエルは思わず頷いてしまった。
「い、いただきます」
もうお気づきとは思うが、さっきのおっさんが店主兼板前兼露天番兼マスコットである。
ミュエルを『うちくる?』みたいなテンションで店にまね生きれると、カウンターの裏に回ってさくさく魚をさばき始めた。
促されるままテーブルにつくミュエル。
店のどこを見てもメニューらしいメニューはない。でかでかと『昼定食500円』とだけ書かれていた。どうやらその日の気分とありもので作るらしい。それは定食と呼んで良いのだろうか。
しかし……。
網で焼かれる魚。
思えば焼き魚をちゃんと食べるのはかなり久々だった。
一人暮らしにとって焼き魚はメンドーなメニューなので、よくて冷凍食品の一口鮭がお弁当に入るかどうかの縁である。
暫くぼうっと待っていると、ご飯と焼き鯖とワカメの味噌汁。刻みキャベツのサラダ(白だし)。ついでにたくあんと冷や奴が出てきた。あとなぜかバナナがついていた。皮のまんま。
「…………」
なかなかへんてこなメニューだが、思えば理にかなったメニューでもある。
ミュエルは手を合わせて、いただきますをした。
オシャレなものを自慢しあって、最近なにがオシャレかいまいち分かんなくなっていた自分がいた……ような気がしたが。
このヘンな定食やおかしな店構えを見ていると、別に形にとらわれなくてもよいのでは……という気分にさせてくれる。
ミュエルは店内にバナナを翳して写真をとると、オーガニックなポエムと共にインスタってみた。
●『教授』新田・成(CL2000538)のひとりグルメ
富山駅を下り、大きなロータリーを抜けて歩く。
おニューな路面電車が通り過ぎ、あたりも町の顔にかわってる。
「新幹線が通ったあとも、ここはあまり変わりませんねえ」
先鋭的になったのはどうやら駅とその隣接ビルだけのようで、すこし歩けば午後五時開店の飲み屋だらけになっていた。
「さて、ホテルのチェックインを済ませたら晩酌といきましょうか」
こういう所にも大手の安い居酒屋チェーンは進出していて、でかくて派手な看板を出しているものである。
しかし成はそんな店を思い切り素通りし、ピンク色のクラブやスナックのある辺りへといきなり入っていった。
客引きの視線を無視し、更に歩く。
すると。
「よい店というのは、こういう所にあるものですね」
ひっそりと奥まった、控えめに言って地味な店が目にとまった。
無数のビルの中にちんまり挟まった店構え。
狭い引き戸の左右には、店の看板と黒板に書かれた『今日の魚』の文字。
浜焼きと御酒。磯に炙と、大胆な二文字が書き付けられている
成の嗅覚が、この場所こそが今宵の晩餐に相応しいと告げていた。
扉を開ければ、耳に入ってくる派手な三味線音楽。和食の店と言う割には若々しい。
二階席はあるようだが、一階はカウンター席だけのこじんまりとしたスペースだ。
奥には酒瓶が並び、そのどれもが富山の地酒であった。
成の目に狂いはないようだ。
客層は様々だ。バイト上がりの大学生男子たち。ネイルアートばりばりの若い女子二人組。親子ほど年の離れた人々。初老の夫婦。赤いスーツ着た変な人。
カウンターには一~二人用の網焼きコンロが置かれている。
メニューはといえば、白エビやのどくろといった富山湾の特産が並んでい――るとみせかけて、『白エビのコロッケ』や『ホタルイカアヒージョ』といった攻めたメニューが並んでいた。
「これは……」
刺身とあわせて、白エビのコロッケを注文してみる。しない手はなかった。
なぜなら。
「この店のお醤油、ただものではなさそうです」
醤油。
豆を発酵させた日本古来の調味料。
ゆえにその歴史と技術は深く、日本酒を深く研究する成にとってもなじみある分野である。
そんな彼をして、この店の醤油はただ事ではなかった。
豆の深みは当然のこと、まるで卵黄をそのまま頬張ったかのようなコクが口いっぱいに広がるのだ。
塩もハンパではない。これだけで酒のつまみにできるほどギンギンに整った味わいで、成は料理が来る前から既にいっぱい飲み終えていた。
この店のコンセプトは富山のうまいものをとにかく美味く喰わせること。富山弁バリバリの店主が『今のホタルイカは冷凍だから刺身じゃないほうがいい。4月に来るといい』とか言い出すくらいにはガチである。
ちなみに成がチョイスしたお酒は銀嶺立山。水のおいしさが半端ない富山が無自覚に繰り出す良酒。飲み安すぎて危ない酒である。
そこから千代鶴、満寿泉とせめつつ……やってきた白エビのコロッケを言われたまま醤油をつけて囓る。
口いっぱいに広がる、白エビの香り。
「……うん、うん」
今日の酒は、進みそうだ。
●『幸福の黒猫』椿 那由多(CL2001442)のグルメさんぽ
番傘をたたく雨粒の音が、那由多のからんころんという足音によく合った。
こんな日はいつもと違う道を通って、いつもと違う風景を見たくなる。
違う音。
違う景色。
違うにおい。
世界はまだとっても広くて、なんだかわからないけど『だいじょうぶ』って気持ちになれる。
どこかふわふわとしたフシギな気持ちに包まれて歩く。
からんころん。
ぽつぽつり。
ふと足を止めて、那由多は首を傾げた。
目に入ったのは少し古いお茶屋さんだ。カフェとも言えぬ、和風の佇まいだ。
立ち止まったのは、お腹がすいたからというばかりじゃない。
なぜか。
なぜだか。
「うち、ここへ来るの初めてのはずやけど……」
懐かしい香りが、したような気がした。
テーブルにぼた餅が置かれている。
甘くてもっちりしていて、ひたすらに幸せになれる食べ物。ぼた餅。
メニューにその名を見た時点で、那由多は即決で注文をしていた。
深い味わいのお茶と一緒にいただいて、ほっと息をつく。
空腹を訴えていたおなかも、今はずいぶんおとなしくなった。
そのかわりに、ぼた餅の味が那由多の心に呼びかけてきた。
優しい味わいの餡子に、黒砂糖の風味が身体にしみいるきな粉のぼた餅。
ふと、古い記憶が呼び覚まされた。
セピア色の店内に、幼い那由多が座っている。
向かいに座っている綺麗な女性に、那由多は語りかけた。
『ねえおばあ、どうしてうちには、お耳としっぽがあるん?』
『それはねえ』
優しい目尻の皺。
甘やかすような、鈴を転がしたような声。
『神さんが、那由多がええこにしとるで、つけてくれたんやで』
気づけば、頬がすこしばかり冷たくなっていた。
指でそっとぬぐい、再びお茶に口をつける。
暖かいお茶が、ふるえた胸にしみいるように広がった。
なんだかわからないけど、『だいじょうぶ』って、気持ちになれた。
暖かくどこか澄んだ風が、空港から出たばかりの奏空を出迎えた。
「沖縄かあ、何度来ても新天地感あるなあ……」
キッカケは趣味で助けた時である。
『趣味で』と言ったのは、別に誰に頼まれたからでも誰にお金を貰ったからでもないからだ。ぶっちゃけ今のご時世(ファイヴ内の報酬だけで考えても)妖退治はいい金になったりするのだが、奏空はこれを夏休みの昆虫採集的な感覚でやっていた。
善意というのもなんか違う。正義というとかなり違う。
強いて言うなら憧れへの自己実現。事実だけを言うなら、趣味である。
話を戻そう。
奏空が助けたのは沖縄から旅行してきた料理人だった。沖縄に遊びに来たときは是非寄ってくださいなと言われていたので、旅行のついでにやってきたのだが……。
「一人で沖縄旅行って、ちょっと冒険しすぎたかな」
世界平和のために戦おうが、奏空はあくまで十五歳の少年であった。
「この辺りのはず、だよな……」
奏空がやってきたのは個人経営の居酒屋みてーな店だった。
観光客を呼び込もうという気持ちは全くなく、近所のおっさんのために開いているような店構えである。
招待されたんでもなければ見つけることすらなかっただろう。
「まずは入ってみるか」
ごめんください、と言って入ってみれば、奏空は早速歓迎された。
招待した人や店員の人柄に関しては置いておくとして、奏空はさっそく迷った。
何に迷ったかと言えば、メニューにである。
ここぞとばかりに現地の言葉で書かれた料理名に、全くピンと来ないのだ。
「うーん……じゃあ、ら、らふてー? あとこう、いい感じにお願いします」
奏空のリクエストに応えて沖縄料理がテーブルにずらりと並んだ。
ラフテーという角煮、豚の耳皮をいためたミミガー。その他あんかニャンバラーキャンベラーみてーな不思議なちゅらさ系呪文を唱えながら並べられる料理。
名前も味わいも見た目までも不思議な料理をひとしきり楽しみ、最後にサーターアンダギーやちんすこうのネーミングにひとしきりはしゃいだ後、満腹気分で店を出た。
「ふう、たまにはこういう日もアリかな……」
けど不思議な呪文ばかり聞いていて、ちょっと都会の言葉が恋しくなってきた。
奏空は空港のカフェに入ると、なんだかやったら長い飲み物を注文して自主的に癒やされてみるのだった。
「ショートアイスチョコレートオランジュモカノンモカエクストラホ
イップエクストラソースくださーい!」
●楠瀬 ことこ(CL2000498)のグルメさんぽ
何度だって言うが、ことこちゃんはスーパーアイドルである。
スカイタワーツリーの式典で覚者アイドルを名乗って以来仕事がめきめきと増えたが、それは別として元気に活動する学生アイドルなのだ。逆に言うと、それだけの下地がなくては覚者だからって仕事は来ない。
「おつかれさまでしたー!」
今日も今日とてファッション雑誌のモデルとして撮影を終えたことこはスタジオを出てケータイでこの先の予定を確認していた。
「このあとはー……んー、ひま、かな?」
まっすぐ帰って宿題をやらなきゃならないのでヒマじゃあないのだが、最近スケジュールがキツキツなことこにとっては一時間の余裕があるだけでもかなりのもんである。
「どっかで座って休みたいなー。座って祈ると出る気がするよねー、レアが」
今日もサバだか傭兵だかカードだかをお迎えする雅な遊びに興じることこお嬢様である。しかしレア云々は抜きにしても、歩きスマホはよろしくない。
どっか座れるようなお店はー、と普段通らない道にあえて入ってみた。
こういうときに既知のものでテキトーに済ませないのがことこちゃんのことこちゃんたるゆえんである。
「あっ、なんかいい香りする」
ひなたぼっこするネコを横切って、いい香りのする方向へと歩いて行く。
すると、どこか古びた雰囲気のカフェが見つかった。
ザ・個人経営といった具合のカフェだ。割と前々からある小さな写真屋さんらしく、店の半分が写真屋さんでできている。そのもう半分がカフェである。
おいしいコーヒー。
焼きたてパン。
手作りピザ。
お好み焼きあります。
陶芸教室。
カレーが自慢。
……といったカオスな張り紙がバシバシ貼られていて、ちょっと入るのを躊躇した、が。
折角だから入ってみることにした。
正直にいうといまさっき引いた十連ガチャが死んでいて、ことこはそれ以上歩くのがイヤになったのである。
店に入ると、家庭的なテーブルと椅子がお出迎え。
エプロンをしたおばちゃんらしき人に、ことこはメニュー用にある『フルーツたっぷりのパンケーキ』を注文してみた。
やがてやってくるパンケーキ……が埋まったフルーツの群れ。
「ふ、フルーツたっぷりだ……」
リンゴやイチゴやバナナやパイナップルやらあれやこれやが集まった、いわゆるフルーツの盛り合わせである。
その土台として、パンケーキとホイップクリームが存在していた。
なんだこのバブリーな食い物は、と思ったが肝心なのは味である。
ことこはおそるおそるフォークを入れ、パンケーキ部分をはむっとやってみる。
すぐさま広がるフルーツのがつんとした刺激。一瞬遅れてやってくるクリームの甘み。思い出したように噛んでみれば舌だけで千切れそうな柔らかいパンケーキを感じることが出来た。
「ふわふわあ……おいしーい」
ふわふわとおいしいしか言わないのはアイドル(芸能人)としてどうなのか、と思ったことは思ったが、ここで余計なものを盛りつけないのもまたことこちゃんである。
それからもおいしいおいしい言いながらパンケーキとフルーツをぺろりとたいらげた。
「次は時雨ぴょんも誘ってこよっかなあ、と」
ぺちんとタップした画面で、確定レア演出が始まった。
わあお。これはアガる。
●『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)のグルメさんぽ
友人の演奏会の帰り、御菓子はお勧めされていたカフェに行くことにした。
が、しかし。
思い切り迷った。
道を何度も行ったり来たりしているが、まるでカフェらしい建物が見えてこない。
和食チェーン店とかファミレスとかピザ屋ならあるけど、カフェは一件も無い。間違えただろうか。いやしかし住所も道もここのはず……と思って立ち止まると。
「ウィークエンド……カフェ?」
不動産屋と空き店舗しかない建物のそばに、そんな看板がぽつーんとたっていた。高さ50センチほどの小さいヤツである。
しかも手書きで『二階』とあった。
建物の……二階?
どう探しても、二階のアパートスペースへほっそい階段しか見当たらない。
おそるおそる登ってみると、なにやらジャズミュージックが聞こえてきた。昼間っから外に音楽を垂れ流している人がいるのかなあと思ったがそうではない。半開きになったアパートのドアにつっかえがしてあって、そこに『カフェはこちら』と書いてあったのだ。音楽も、そこから流れてくるものである。
「ど、どうしよう。どう見ても人の家だけど……」
まあ、ここまで看板を出して置いて今更怒られはするまい。最悪ひとんちだったとしても謝って帰ればよいだけのこと。
そう思って扉を潜ると。
「……どうも」
スキンヘッドにサングラスの巨漢が、薄暗いワンルームの真ん中に仁王立ちしていた。
あっだめだこれ謝っても許されないやつだ死ぬやつだ。と思ったがそうではない。
「……好きなところ、座ってください」
御菓子は言われるがまま、カウンターから遠い席へと座った。
店に席は三つしかない。
カウンター席。ソファ席、端っこの椅子の席。
御菓子が座ったのはソファ席である。店主は黙ってそばによってくると、黙ってメニューとチョコレートを差し出した。
チロルサイズの一口チョコだが、日本のものでは無いらしい。
どうやらベルギーのものであることだけは分かったが、御菓子はとりまそれを口にした。
ほどよく甘く、そして深い味わい。
とろけるような味に酔っていると、店主が『暖かいのと冷たいの、どちらにしますか』と聞いてきた。なにその二択と思ったがここはひとまず『暖かいの』をチョイス。
すると店主はコーヒー用のお湯を沸かし、豆をひきはじめる。
そして暫くすると、店のカウンター脇に設置されたレコードプレイヤー(レコードに針をおとすアレ)のそばに行き、壁に飾ったレコードのひとつを手に取ると、ゆっくりと二つのプレイヤーを操作して手動で音楽をゆっくりと混ぜるように切り替え始めた。
「……なるほど」
今時、店内BGMを手動で切り替えるカフェも珍しい。自力のカンで丁度いいリズムで切り替えていくのだ。
やがてやってきたコーヒーに口をつけ、ちょっぴり情熱的な黒人女性のジャズに耳を傾けて過ごす時間。
お勧めされるのも、なんだか分かる気がした。
今度誰かに勧めてみよう。分かる人は、きっと分かるはずだから。
●『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)のひとりグルメ
ファイヴのインスタやってそうな女子ランキングできっと上位に食い込む女、ミュエル。
むろんきっちりやっているわけだが、道ばたの花やネコや変な形の雲を撮影するだけのプレイではない。(それはそれで感性が花開いてとってもステキな日々が送れるのだが)
「かわいいキッシュと自然派スイーツの隠れ家カフェ……えへへ、きちゃった」
カバーによって一回りデカくなってるスマホを手に、顔を上げる。
そしてオシャレな扉にかかったプレートに、ミュエルは目を細めた。
「本日……定休日……」
沈黙すること三秒。
スマホを翳し、シャメっておいた。
この写真はインスタにはあげぬ。
近くに別のカフェはない。どころかコンビニくらいしかない。
けれどお腹はすいているので頑張って暫く歩いてみると……。
「お嬢ちゃん。ご飯?」
と、急に声をかけられた。
定食屋? である。
軒先に手作りの棚が置かれ、恐らく自分で作ったであろう野菜がごろっと並んで大雑把な値札がつけられている。
その脇に、半袖短パンの60近いおっさん(老けているわりにテンションがおじーちゃんじゃない人)が腰掛けていた。
「食べてかない? 500円」
「えっと……」
新手のナンパ、ではない。
「サバ焼くよ。釣ったから」
「つった……」
鯖といえば海魚だが、このおっさんは自分で釣って持ってきたとでもいうのだろうか。
そしてミュエルが食べなければ鯖はそのままびちびちと腐っていくとでも?
可哀想な未来を想像して、ミュエルは思わず頷いてしまった。
「い、いただきます」
もうお気づきとは思うが、さっきのおっさんが店主兼板前兼露天番兼マスコットである。
ミュエルを『うちくる?』みたいなテンションで店にまね生きれると、カウンターの裏に回ってさくさく魚をさばき始めた。
促されるままテーブルにつくミュエル。
店のどこを見てもメニューらしいメニューはない。でかでかと『昼定食500円』とだけ書かれていた。どうやらその日の気分とありもので作るらしい。それは定食と呼んで良いのだろうか。
しかし……。
網で焼かれる魚。
思えば焼き魚をちゃんと食べるのはかなり久々だった。
一人暮らしにとって焼き魚はメンドーなメニューなので、よくて冷凍食品の一口鮭がお弁当に入るかどうかの縁である。
暫くぼうっと待っていると、ご飯と焼き鯖とワカメの味噌汁。刻みキャベツのサラダ(白だし)。ついでにたくあんと冷や奴が出てきた。あとなぜかバナナがついていた。皮のまんま。
「…………」
なかなかへんてこなメニューだが、思えば理にかなったメニューでもある。
ミュエルは手を合わせて、いただきますをした。
オシャレなものを自慢しあって、最近なにがオシャレかいまいち分かんなくなっていた自分がいた……ような気がしたが。
このヘンな定食やおかしな店構えを見ていると、別に形にとらわれなくてもよいのでは……という気分にさせてくれる。
ミュエルは店内にバナナを翳して写真をとると、オーガニックなポエムと共にインスタってみた。
●『教授』新田・成(CL2000538)のひとりグルメ
富山駅を下り、大きなロータリーを抜けて歩く。
おニューな路面電車が通り過ぎ、あたりも町の顔にかわってる。
「新幹線が通ったあとも、ここはあまり変わりませんねえ」
先鋭的になったのはどうやら駅とその隣接ビルだけのようで、すこし歩けば午後五時開店の飲み屋だらけになっていた。
「さて、ホテルのチェックインを済ませたら晩酌といきましょうか」
こういう所にも大手の安い居酒屋チェーンは進出していて、でかくて派手な看板を出しているものである。
しかし成はそんな店を思い切り素通りし、ピンク色のクラブやスナックのある辺りへといきなり入っていった。
客引きの視線を無視し、更に歩く。
すると。
「よい店というのは、こういう所にあるものですね」
ひっそりと奥まった、控えめに言って地味な店が目にとまった。
無数のビルの中にちんまり挟まった店構え。
狭い引き戸の左右には、店の看板と黒板に書かれた『今日の魚』の文字。
浜焼きと御酒。磯に炙と、大胆な二文字が書き付けられている
成の嗅覚が、この場所こそが今宵の晩餐に相応しいと告げていた。
扉を開ければ、耳に入ってくる派手な三味線音楽。和食の店と言う割には若々しい。
二階席はあるようだが、一階はカウンター席だけのこじんまりとしたスペースだ。
奥には酒瓶が並び、そのどれもが富山の地酒であった。
成の目に狂いはないようだ。
客層は様々だ。バイト上がりの大学生男子たち。ネイルアートばりばりの若い女子二人組。親子ほど年の離れた人々。初老の夫婦。赤いスーツ着た変な人。
カウンターには一~二人用の網焼きコンロが置かれている。
メニューはといえば、白エビやのどくろといった富山湾の特産が並んでい――るとみせかけて、『白エビのコロッケ』や『ホタルイカアヒージョ』といった攻めたメニューが並んでいた。
「これは……」
刺身とあわせて、白エビのコロッケを注文してみる。しない手はなかった。
なぜなら。
「この店のお醤油、ただものではなさそうです」
醤油。
豆を発酵させた日本古来の調味料。
ゆえにその歴史と技術は深く、日本酒を深く研究する成にとってもなじみある分野である。
そんな彼をして、この店の醤油はただ事ではなかった。
豆の深みは当然のこと、まるで卵黄をそのまま頬張ったかのようなコクが口いっぱいに広がるのだ。
塩もハンパではない。これだけで酒のつまみにできるほどギンギンに整った味わいで、成は料理が来る前から既にいっぱい飲み終えていた。
この店のコンセプトは富山のうまいものをとにかく美味く喰わせること。富山弁バリバリの店主が『今のホタルイカは冷凍だから刺身じゃないほうがいい。4月に来るといい』とか言い出すくらいにはガチである。
ちなみに成がチョイスしたお酒は銀嶺立山。水のおいしさが半端ない富山が無自覚に繰り出す良酒。飲み安すぎて危ない酒である。
そこから千代鶴、満寿泉とせめつつ……やってきた白エビのコロッケを言われたまま醤油をつけて囓る。
口いっぱいに広がる、白エビの香り。
「……うん、うん」
今日の酒は、進みそうだ。
●『幸福の黒猫』椿 那由多(CL2001442)のグルメさんぽ
番傘をたたく雨粒の音が、那由多のからんころんという足音によく合った。
こんな日はいつもと違う道を通って、いつもと違う風景を見たくなる。
違う音。
違う景色。
違うにおい。
世界はまだとっても広くて、なんだかわからないけど『だいじょうぶ』って気持ちになれる。
どこかふわふわとしたフシギな気持ちに包まれて歩く。
からんころん。
ぽつぽつり。
ふと足を止めて、那由多は首を傾げた。
目に入ったのは少し古いお茶屋さんだ。カフェとも言えぬ、和風の佇まいだ。
立ち止まったのは、お腹がすいたからというばかりじゃない。
なぜか。
なぜだか。
「うち、ここへ来るの初めてのはずやけど……」
懐かしい香りが、したような気がした。
テーブルにぼた餅が置かれている。
甘くてもっちりしていて、ひたすらに幸せになれる食べ物。ぼた餅。
メニューにその名を見た時点で、那由多は即決で注文をしていた。
深い味わいのお茶と一緒にいただいて、ほっと息をつく。
空腹を訴えていたおなかも、今はずいぶんおとなしくなった。
そのかわりに、ぼた餅の味が那由多の心に呼びかけてきた。
優しい味わいの餡子に、黒砂糖の風味が身体にしみいるきな粉のぼた餅。
ふと、古い記憶が呼び覚まされた。
セピア色の店内に、幼い那由多が座っている。
向かいに座っている綺麗な女性に、那由多は語りかけた。
『ねえおばあ、どうしてうちには、お耳としっぽがあるん?』
『それはねえ』
優しい目尻の皺。
甘やかすような、鈴を転がしたような声。
『神さんが、那由多がええこにしとるで、つけてくれたんやで』
気づけば、頬がすこしばかり冷たくなっていた。
指でそっとぬぐい、再びお茶に口をつける。
暖かいお茶が、ふるえた胸にしみいるように広がった。
なんだかわからないけど、『だいじょうぶ』って、気持ちになれた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
