街守る 偉人そろって泥まみれ
街守る 偉人そろって泥まみれ


●偉人列伝
 一夜にして壊滅したAAA。
 その衝撃は大きい。第三次妖討伐抗争で疲弊していたとはいえ、自分達を守ってくれた組織が消え去ったのだ。妖から身を護る盾がなくなり、人々は不安におびえることになる。
 妖に対抗するために、人々は躍起になる。法を犯すこともいとわず銃器の類を集め、刀剣類を買いあさる。だが鍛えてもいない人間が武装を固めても妖に対抗する力にはならず、そして鍛えるには時間がない。
 そういった理由もあり、即戦力として求められるのは覚者であった。因子発現して得た源素の力はたとえ子供でも侮れず、同時に神具を扱えることもあって即戦力となった。
 だが問題は二つほどあった。
 まず第一に数の不足。因子発現が如何にして起きるかが不明の為、覚者を人為的に増やすことが出来ないのだ。偶発的に源素の力に目覚めるのを待つしかなく、明日妖が発生するかもしれない現状では現実的ではなかった。
 となれば今発現している覚者を雇うしかないのだが、ここで第二の問題が発生する。覚者の質だ。これは純粋な強さと言う意味もあるが、性格といった部分も含まれる。善性悪性。真面目不真面目。人道的非人道的……人に様々な性格があるのは当然だ。
 そういう意味では、この地域で活動している覚者組織は『当たり』の範疇だった。
「うむ、我々『偉人列伝』に任せておくがいい。吾輩を始め、様々な偉人の生まれ変わりがこの街を守ってくれよう! アルゴー船に乗った気分でいてくれ給え。
 あ、吾輩は『発明王の生まれ変わり』であって、山田と言う名前ではありませんので」
 しかし惜しいかな。彼らは『残念』であった。
「よろしくお願いします。ところで覚者は今いるだけで全員ですか? 三十人ほどいるとお聞きになったのですが」
 雇い主の町長は『偉人列伝』の集合場所であるカフェを見回し、問いかける。片手の指で数えられる人数しかいないため、不安の色が僅かに出ていた。
「いま遺跡探索の為に出かけていましてな。明後日には戻ってこよう。
 今妖が発生したら些か苦しいが、なに妖の発生はそうそうあるものではない。数体程度ならどうにかなるが、群れで発生するなどまずありえないで――」
 扉が開き、覚者の一人が息を切らせながら大声で叫んだ。
「大変だ、『発明王』! 妖がこの街に向かっている!」
「――まさか、この『発明王』の采配が裏目に出るとは!」

●FiVE
「郊外の工事現場で大量の妖が発生しました。泥の自然系妖です」
 久方 真由美(nCL2000003)は集まった覚者を前に、説明を開始する。
「妖は真っ直ぐに街に向かっています。知性らしいものはなく連携を取るわけではありませんが、数が多いです。次々と増援がやってくるでしょう」
 工事現場周辺の地図が渡される。赤線で妖の進行ルートを示してあり、その途中でバツ印がつけられている。
「先行した街の覚者がそこで戦っています。ですが戦力不足のため、すぐに突破されるでしょう」
 数の差は圧倒的と言った所である。
 合流して戦ってもよし。ある程度彼らが数を減らしてから参戦するもよし。突破されたところを不意打ちするもよし。その辺りは覚者達に任せるという。
 地図を受け取り、覚者達は会議室を出た。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.妖の全討伐
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 ドロドロワラワラ。持久戦となっております。

●敵情報
・泥人形(×30)
 自然系妖。ランク1。人間型の泥人形です。
 知性はなく、近くに生物があれば殴り掛かります。生き物が近くにいる限り、逃亡することはありません。
 二ターン毎に三体の泥人形が敵後衛に現れます。
 相応の作戦と技能を用いれば不意打ちも可能です。作戦にもよりますが、最低でも一ターンは時間がかかります。
 
 攻撃方法
泥の腕 物近単 泥の腕で殴ってきます。
泥の塊 物近単 泥の身体をちぎって、投げつけてきます。
嫌悪感 特遠単 四肢を奇怪に折り曲げて踊り、嫌悪感を与えてきます。【Mアタック50】

●NPC
・『偉人列伝』
 全員が前世持ちの覚者集団。自分の前世を有名人だと信じて疑わない困った連中です。
『参加者とNPCの合計が十名になるように』紹介の上から順に偉人列伝の覚者が戦闘に参加します。その際、相談卓内で指示があればそれに従います(プレイングでの指示は不要です)。
 一度命数復活した状態です。気力体力は残三割。何もしなければ、2ターン後に戦線離脱します。

『発明王の生まれ変わり』山田・勝家
 過去に何度か(割としょーもない経緯で)FiVEと抗戦した覚者です。前世持ちの木行。自分の前世を『発明王』と言い切るイタイ覚者。100%予測が外れます。
 拙作『前世知る識者が集いて、タコ殴り』『有名になれば誰かが名を騙る』などに出てきますが、読まずとも問題ありません。
『錬覇法』『葉纏』『仇華浸香』『大樹の息吹』『覚醒爆光』『韋駄天足』等を活性化しています。

『鬼の剣士』中塚・琴音
 火の前世持ち。一七歳女子。
 島津豊久の生まれ変わりを自称しています。神具は日本刀。戦闘大好き。
『錬覇法』『灼熱化』『斬・二の構え』『十六夜』『毘沙門力』『覚醒爆光』中を活性化しています。

『メランコリアの魔法陣』大谷・和
 水の前世持ち。五十四歳男性。
 アルブレヒト・デューラーの生まれ変わりを自称しています。本職は数学教諭。パーティの回復役です。
『錬覇法』『癒しの滴』『癒しの雨』『海衣』『覚醒爆光』等を活性化しています。

『落葉』飯田・吾妻
 天の前世持ち。十五歳男性。
 菱田春草の生まれ変わりを自称しています。美術部所属。攻撃が苦手な性格の為、支援に走ります。
『錬覇法』『演舞・舞音』『大填気』『迷霧』『アイドルオーラ』等を活性化しています。

『老年悪漢王』郷田・勅久
 水の前世持ち。八十歳男性。
 ビリー・ザ・キッドの生まれ変わりを自称しています。ハンドガンを手にして戦います。
『錬覇法』『水龍牙』『波動弾』『寿老力』『覚醒爆光』等を活性化しています。

『黒の王』葛城・徹
 土の前世持ち。三十五歳男性。
 ナレースワンの生まれ変わりを自称しています。全身日焼けしたマッチョ体質。肉体には自信あり。
『錬覇法』『無頼漢』『蔵王・戒』『大黒力』『覚醒爆光』等を活性化しています。

●場所情報
 街郊外の道路。時刻は昼。足場や広さは戦闘に支障なし。街からの警報もあり、人が来る可能性は皆無。
 戦闘開始時、『泥人形(×9)』が戦場に居ます。残り21体ははるか後方から歩いてきます。『偉人列伝』は一塊になって前衛で戦っています。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年06月05日

■メイン参加者 8人■

『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『偽弱者(はすらー)』
橡・槐(CL2000732)


「おやまあ。またお宅らかね……お疲れさまな事だ」
 肩をすくめて『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)が妖の真正面に立つ。ボロボロの『偉人列伝』の覚者達をフルフェイスの奥から見る。一人は見知った顔だが、もう一人は初めてか? 労いの言葉もそこそこに戦闘に意識を移行させる。
「山田も、偉人列伝の皆さんも……調子に乗ったり予想を外さなければ、充分強いのに……」
 深くため息をついて『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)が神具を構える。純粋なスペックで言えばそれなりに強いのだが、如何せん性格と立ち回りに難ありである。もう嫌と言うほどミュエルはその様子を見てきた。
「基本善人なんですよね……これで残念でさえなければねえ」
『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)が首を振って頭を押さえる。アクティブで世界をよくしようと活動する覚者。ただその九割が空回り。本当に残念でなければ、それなりに名を残せるんだろうけどなぁ。
「山田の人達が『当たり』の範疇に入るというのは、現状が如何に重篤な状態であるかということをこの上なく実感させる事態なのです」
 うんうんと『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)は現状を嘆くように頷いた。大妖一夜と呼ばれる事件以降、覚者の需要は高まった。だからと言ってこの人達が『当たり』と言うのはなぁ。彼らを知る槐からすれば、そんな時代になったことが恐ろしかった。
「……あれ? 吾輩、微妙にディスられてない? ほら、妖から街を守ろうとする覚者ですよ!」
「ええ、見直したわ。今回は」
 意見を求める『発明王』にやれやれと肩をすくめながら『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が答える。普段の『発明王』と違い、いいところが前面に出ている。少なくとも『天才的』な発想で周りに迷惑をかけていないのは進歩なのだろう。
「今回の山田さんは比較的真っ当な状態でお仕事されているようですね」
 望月・夢(CL2001307)は頷いて戦いの準備を始める。誰かに騙されたり、ものすごい理論で行動したり、まあいろいろ大変な覚者だ。そう考えると今回の『発明王』は比較的まともであろう。
「これに懲りたら山田さんにはもう少し考えてから行動して欲しいものです……それすら裏目に出そうですが」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)の意見に『発明王』を知る者は皆同意した。何かあっては裏目に出るのがこの覚者だ。そういう星の元に生まれてきたのではないだろうか。魔女の力をもってしても、覆せそうにない。
「皆さんからお話を伺っていると、山田さんはいつも大変な事に巻き込まれてしまう人の様ですね」
『発明王』と面識のない賀茂 たまき(CL2000994)は、その会話からそう推測する。前情報が何もなければ『街を守ろうと奮闘する覚者』だ。同じ前世持ちとしては、些か妄想じみた発言があるなぁぐらいの感覚だ。ともあれ街を守るため、共に頑張ろう。
「ふ、この『発明王の生まれ変わり』一人で大丈夫なのだが、FiVEに花を持たせようではないかよろしくお願いします具体的に回復とか」
 格好をつけてからノータイムで頭を下げる『発明王』。こういう所がなければなぁ、とは思うが今はそれを言っている余裕はない。妖は少しずつこちらに迫ってきているのだ。
 街を守るため、覚者達は妖に立ち向かう。


「ひとまず下がって傷を治しましょう。まだ、倒れてなんていられないのでしょう?」
『偉人列伝』の覚者に声をかけながら結鹿が神具を鞘から抜く。蒼く鞘走る刃が陽光を浴びて白い光を返す。『偉人列伝』の疲弊具合は見てわかる。このままだと瓦解することを理解しながら、それでも街を守るために奮闘したのだ。その気持ちは酌むつもりだ。
 鞘を握り、泥人形に近づく結鹿。人間の形をした泥。その動きは人に似ているようで人ではないモノ。その動きを先読みして刃を振るう。蒼閃は三度煌めいた。泥人形の中心を捕らえた攻撃は、泥人形に大きな傷を刻んでいた。
「土は土に、泥人形は泥に……ですね」
「ええ。援軍が来る前に数を減らしましょう」
 後衛に陣取った夢が静かに告げる。歩いてくる泥人形。個体としての能力は大したことはないが、とにかく数が多い。とにかく数を減らすこと。これを頭において行動しなければ、数のままに押されてしまうだろう。
 神具の短刀を手にして、円を描くようなステップを踏む。一歩一歩に源素の力を込め、踏み出した足から波紋の様に力が広がっていく。それは舞。源素の力を放出する舞は、覚者達の動きを鋭くしていく。
「強化支援はお任せ下さい。皆様は全力で敵を撃破してくださいませ」
「あいよ。発掘現場で似たようなのが一晩中湧いてたけど、こっちは規模が小さくて助かるね」
 逝は以前の事件を思いだし、安堵するように肩をすくめた。とはいえ、油断をするつもりはない。規模こそ小さいが妖なのだ。神具を抜き、最前線に出る。銘は『直刀・悪食』。御神刀だった刀は禍を食らい過ぎて妖刀となった。そして今なお、妖を食らおうとする。
 特に構えもなくゆらりと立つ逝。神具の柄を握りしめ、そこから何かを感じるままに振るう。まるで妖は刃の軌跡に吸い込まれるように移動し、そのまま切り刻まれる。隙だらけ、故に隙が無い。斬ったのは逝か、それとも悪食か。
「おかわり出来るのは嬉しいねえ、悪食や。……喰べられるヒトなら、もっと良いんだがね」
「その飢えは隔者戦まで取っておきなさい。今は妖を!」
 言ってエメレンツィアは『国事詔書』の表紙を指でなぞる。十六世紀、時のローマ皇帝より発布された詔書のコピー。統一秩序を目的とした家法。それはエメレンツィアの導そのもの。如何なる状況においても定められた法に従う。その意思がそこにあった。
 エメレンツィアは水の源素を展開し、癒しの雨を降らせる。FiVEの覚者のみならず、『偉人列伝』の覚者達にも。どちらかと言うと諍う方が多かった『偉人列伝』だが、今は力無き民を守るために戦う味方だ。癒すことに躊躇はなかった。
「大丈夫? アナタたち、よく頑張ったわね」
「おお、相対している時は厄介だった癒しが、味方になるとこうも心強いとは」
「猫の手も惜しい状況ですので仕方なしなのですよ」
 ポーズを決めて喜びを表現する『発明王』に対し、冷え切った声で答える槐。とはいえその言葉に嘘はない。迫ってくる泥人形の数は多い。少しでも人では多いに越したことはないのだ。……たとえそれが山田であったとしても。
 源素の力を神具に込める槐。稲妻のように尖らせるのではなく、霧のように薄く不透明に広げるように。放たれた源素は妖を包み込み、その本能を揺さぶる。近くに居る者に恐怖させ、同士討ちを促す。足を止め、味方を有利にするために動くのが槐の戦術。
「まさしく『ガンジーが助走をつけて殴るレベル』などというような本来なら比喩としての表現が現実に起きているかの如きなのですよ」
「あのおやっさん結構過激だぞ。非暴力だけど!」
「何、それ……?」
『発明王』の言葉に首をかしげるミュエル。非暴力なのに過激とかよくわからない。まあ『偉人列伝』の人達だし、とそれ以上は深く考えないことにした。正直、余計なことに時間を割いている余裕はない。
 神具を手にミュエルは泥人形に立ち向かう。三色スミレの造花達。それは源素を増幅する香りを放っていた。放たれた香りは泥人形に纏わりつき、その動きを止める。この戦いは持久戦。相手が気力を奪う攻撃がある以上、気力を節約して戦う必要があった。
「回復が押されそうになったら、手伝って、ね」
「あい分かった。この『発明王』の麗しい回復の演舞を見せてくれよう!」
「あ、普通でいいですから」
 慣れた感じでラーラが『発明王』に応え、戦場に目を戻す。次々とやってくる泥人形。だが相手が自然系妖なら、術式による攻撃は有効だ。魔女として、覚者として、そしてこの国に縁を持つ者として、ラーラは惜しみなく力を解き放つ。
 わずかに目を細め、俯瞰するように戦場を見る。湖のような静かな心のままに、烈火の如き炎熱を手のひらに集めた。炎はラーラの意志に従い鋭い矢となって、泥人形に向かって飛来した。爆ぜるような音と共に、泥人形が瓦解していく。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!
「さあ、頑張りますね!」
 たまきは符を指で挟み、戦場に立つ。妖が街に入れば、罪なき人が犠牲になる。それを看過するわけにはいかなかった。先祖との繋がりを強く意識して、符術に関する知識を増幅さる。自分のものではない知識が、確かに脳裏に展開されていた。
 呼吸を整え、たまきは足元に意識を集中させる。踏みしめた大地。それを強く意識して力を注ぎ込んだ。力は足元から大地を伝わり、泥人形の足元に届く。たまきが指さすと同時に大地が隆起し、槍となって泥人形を貫いた。
「皆さん、できるだけ怪我をなさらないように。長い戦いになります!」
 たまきの言葉に、頷く一同。後からやってくる泥人形。妖が途絶えることはない。
 無論、休んでいる余裕はない。継続的に妖を倒さなければ、戦場は泥人形であふれかえってしまうだろう。
 急ぎすぎず、そして焦らず。そのラインを維持しながら、覚者達は戦い続ける。


 個体としての妖の強さは、それほど大したことではない。殲滅速度を考慮すれば、攻撃に特化すれば援軍が来る前に処理は可能だ。
 だが攻撃だけを行うわけにはいかない。体力や気力の回復を行って戦線を維持する事も必要だ。三十と言う妖の波を乗り切るのならば、そのバランスを考えながら戦わねばどこかで大きな痛手を負ってしまう。
「ん。それでは頑張るのですよ」
「ふう……タフな戦いになりそうね。気は抜けられないわ。みんなも大丈夫?」
 その状況を支えているのは、槐とエメレンツィアである。術式を放つための気力を回復させ、全員の継戦能力を高めていた。
「ではお見せしよう! この『発明王の生まれ変わり』の優雅なポーズ付の錬覇法を!」
「あ、これ貸しなんで。後で返してほしいですよ」
「マジデ!?」
 そんな一幕もありましたが。
「私達の手の届かないところではこうしてFiVE以外の覚者組織も頑張っていたりもするんですね」
 ラーラは必至に街を守る『偉人列伝』を見ながら、そんなことを思う。『偉人列伝』だけではない。AAAが崩壊した状況では、それぞれの街が必死になって平和を支えているのだ。この状況はいつまで続くのだろうか。いつ打開されるのだろうか。
「代わりに、前に出るよ……山田、下がって」
 疲弊した『偉人列伝』の代わりにミュエルが壁となるべく前に出る。持久戦である以上、ダメージの一点集中は避けたい。ましてや『偉人列伝』達はFiVEより前に戦っているのだ。不慮の事故で落ちる可能性は高い。泥人形の攻撃を神具で受け止め、痛みをこらえるミュエル。
「最近守る戦いが多くて大変だわ、ホントに」
 言いながらまんざらでもない笑みを浮かべるエメレンツィア。先の大妖一夜でもそうだが、守るべき対象がいるからこそ戦えることもある。命を守り、次に繋げる。それも一つの闘いなのだ。女帝として民を護るが如く、水の術を解き放つ。
「ところでこの子たちは、なんで街に向かってるんでしょうか?」
 疑問符を浮かべ、首をかしげる結鹿。人間のいる方向がなんとなくわかるだろうか。まさか遠足とかそういうわけでもないだろうに。剣の先に冷気を集め、細く鋭く研ぎ澄まして氷柱を形成する。氷の槍は一直線に迫る泥人形を貫き、土に返す。
「ゼロサム理論なのにセルフで増えるのです」
 自分の気力を回復させながら呟く槐。自分がやる気を下げて相手のやる気を促す『ゼロサム理論』。それで自分の気力が増えるとはこれ如何に。ともあれ気力の余裕は生まれた。泥人形の奇怪な動きがなければもう少し余裕があるですが、と不満のため息を吐く。
「今来る泥人形は私が捕縛します。あと、強化が切れた方は後でかけ直します」
 新たに戦場に到着した泥人形に、夢は稲妻の鎖を絡み付かせる。微弱な電気が泥人形の動きを鈍らせる。敵の弱体化と、味方の強化。その両方が夢の戦い方。直接相手を傷つけることはないが、長期戦において被害を押さえる重要な一翼を担っていた。
「さあ、たんと喰らいな悪食。同じモノばかりじゃ飽きるだろうが、そこは勘弁してくれ」
 まるで刀に語りかけるように逝は言葉を放つ。否、事実話しかけているのだろう。禍を食らう刀。かつてはお祓いの為にあった神刀は喰らい喰らって妖刀となる。それでもなお貪欲に禍を飲み込み、その後どうなるのだろうか? 答えはない。悪食は言葉なく、妖を食らう。
「冬を耐え開く蕾は淡い紅。開く花弁は五式の盾。春風と共に我が友を守り給え。桜華鏡符!」
 大きな符を指で挟み、もう片方の指で印を切るたまき。因と果を律する陰陽の妙。その妙技が仲間の覚者を守る盾となる。暖かい春風と香しい香が仲間を包み、物理と術式に対する盾となった。妖と言う脅威から仲間を守るために生み出された術。たまきの性格を示すが如く、暖かい技。
 数で圧す妖の戦術は、勢いを減じない覚者の戦い方により押し留められていた。
 援軍が来る前に今いる妖を半壊させ、同時に態勢を整える。妖の攻撃も次の援軍が来る前にほぼ立て直しているのだ。
「っ!? ……問題ありません」
 夢が飛来した泥の弾丸で命数を削られたが、覚者の被害はそれだけ。
「トドメはおっさんか。それじゃ、おいしいところ頂くよ」
 逝の刀が翻る。その一戦が最後の泥人形の首に迫り、その首を刎ねた。泥人形の頭は宙を舞い、地面に落ちるころにはただの泥として地面で潰れる。同時に体の部分も自重で潰れるように崩れ去っていた。
「もう一杯ぐらいはいけるかもな。試してみるか、悪食」
 まだ斬り足りない。そう言いたげな口調で、逝は肩をすくめた。1


「うむ、何とかなったようだな。この『発明王の生まれ変わり』の手にかかればこの程度の妖、物の数ではないという事だな」
「そういうセリフはせめて立ってから言いなさい」
 尻餅をつきながら偉そうに言う『発明王』にエメレンツィアは冷たく答える。とはいえ、
「ま、今回ばかりは褒めてあげましょう。お疲れさま、山田」
『偉人列伝』達にねぎらいの言葉をかけるエメレンツィア。功名心こそあったのだろうが、街の事を思って尽力したのは確かだ。その行動は褒められるベきだろう。
「お疲れ様なのですよ。猫の手要員として使うんで連絡先よこしやがれですよ」
「この『発明王』のすばらしさにようやく気付いたようだな。いいだろう。そこまで言うのならいつでも力になってやろう!」
 何かあった時の為に『発明王』に連絡先を尋ねる槐。とても嬉しそうに『発明王』は連絡先を教えた。正直うざったいが何かあった時の保険である。敵に回しても大したことないが、味方に回すと裏目ってひどい目にあう。……あれ? 猫の手にもならないんじゃね?
「どんな困難にも、めげない姿勢は、見習いたいと、思いますが……ご自身の力を、過信しすぎる所は、少しだけ、考えものですね」
 そんな『発明王』の様子を見ながらたまきがため息をついた。どんな状況であれ希望を捨てずアクティブに行動する精神は素晴らしい。だが何事もほどほどが一番なのだ。『発明王』の対応を見る限り、すごく納得できる。
「所で本当に三〇人もいるんですか、『偉人列伝』さん」
「うむ。正確には三十二人だ」
 ラーラはなんとなく気になったことを尋ねてみた。そうか、山田さんみたいな人が三〇人近くいるのか。その事実に何とも言えない笑顔を浮かべた。悪い人ではないのだけど、なかなか大変そうな組織だ。事実、何度かどうでもいいことで交戦したし。
「お疲れさまでした。皆さんもまずはしっかり休養取ってくださいね。
 あと前のように偉人の名を汚すようなことしちゃだめですよ」
「はっはっは。吾輩が名を汚すようなことなどするわけがないだろうが」
 結鹿の言葉に迷うことなく言葉を返す『発明王』。堂々と悪びれなく言い返すその態度に、呆れてため息を吐く結鹿。悪意はないのだろう。さしあたっての問題はこの性格か。なまじ行動力がある覚者だからなお厄介だ。
「まあいいんじゃない? それもヒトのサガってやつさね」
 そんな様子を見て逝が肩をすくめる。生きている以上、人は必ずリソースを消費する。それはお金だったり他人に迷惑をかけたり様々だ。悪意がない迷惑がいいとは言わないが、タチの悪い隔者よりはマシだろう。
「山田たち、政府を騙る悪人に騙されて悪事を働いたり、ひどい目に遭わされたりしないといいんだけど……」
 ミュエルは昨今のFiVEを取り巻く事情からも含め、そんな心配をしていた。愛情や友情とはいわないが、腐れ縁と言ってもいい間柄。ミュエルと『発明王』はそんな仲だ。そういった心配をしてしまうのも致し方ない。

「何を言うかミュエル殿。この『発明王の生まれ変わり』である吾輩が、そんな三流詐欺師に騙されるなどあるはずがないではないか」
 うわー。断言したよ、この人。
『発明王』を知るFiVEの覚者はそろって額に手を当て、ため息をつくのであった。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 押すなよ、と言われたので押してみました(スケジュール調整ぐーりぐり)。




 
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