<汝人狼也?>きみと見つけた赤ずきん
<汝人狼也?>きみと見つけた赤ずきん



 ファイヴには、人狼の少年が一匹いる。
 彼は何か凶兆を知らせているのだが、これはその番外編の話。


 ぶぉん……。
 ぶぉんぶぉん。
 ぶぉんぶぉんぶぉーんと尻尾を振る人狼、大神シロ。
 今日は覚者に散歩をしてもらいたいと、自ら首輪をつけてからリードを咥えて来た。
 一応山の神様なのに色々と大丈夫かというツッコミは置いておき、ついでに山の古妖が騒がしいとの事で、シロと覚者たちは散歩に出たのであった――。

 ――からの。
 赤ずきんは、狼と出会った。

 山の中で低級の古妖を追い掛け回していたシロは、それから人間の子供と出会った。
 家族とキャンプに来ていた子だが、この山の古妖の悪戯(いたずら)で山の結界に迷い込み、半分神隠しのような状態で抜け出せなくなっていた。
 恐らくこの山の古妖は子供を喰う気なのだろう。
 それはシロとしては、いや、人間を守護する神様として奉られる人狼としては、見逃せない。
 なお、結界の中と外では時間の流れが違うようで、子供は迷い込んで数時間であるが、外は既に数日経っている。恐らく親は捜索願いを出しているだろう。
 早く連れて帰ろうとしたシロだが、すると、結界を作った山の古妖たちが子供を食おうと、じりじりと迫っていたでは無いか。
 シロは古妖たちに、牙と爪を剥き出しにして吼えた。
『此の森の妖怪共、人間の肉など喰ってどうする? 手を引け、無用な結界も解くがいい!』
『ニンゲン、山、削った。ニンゲン、オデタチの住処失くす。結界、護る。結界入ったニンゲン、喰う。子供のニク、美味』
『……黙れ!
 人間との間に悪い波紋を起こすことは、赦さない。手を出すのならば、このボクが相手になる』
『人間に尻尾を振る妖怪の面汚し人狼が。それにまだ子狼に、何ができるか』
『ボクを侮辱するか! 今すぐその喉、掻き切ってや――――ぁ』

 がさがさ。

 草の影から覚者たちが現れた。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:工藤狂斎
■成功条件
1.子供の救出
2.山の結界破壊
3.なし
 工藤です

●状況(覚者視点)
 ファイヴで預かっている人狼『大神シロ』が、山が騒がしいというので来てみた
 山は確かに普通とは違う空気が漂っている
 そしてちょっと目を離した隙に消えたシロ。探していたら割と緊迫した状態になっていた

●敵
・山に住む古妖。人間を食い始めたようです

 魑魅魍魎:数は30体。彼らはあまりにも小さすぎてブロック不可能です。爪や牙でBS出血系攻撃をしてきます

 小鬼:数は10体。小型の刃物を持っています

 前鬼:結界展開中。巨大な鉈を持った赤鬼。物理攻撃特化
 後鬼:結界展開中。巨大な鉈を持った青鬼。物理防御特化

●大神シロ
 狼形態で戦います。彼は何があっても、どんな理由でも人間の味方をします

●場所:山
 時刻は昼時ですが、結界内は夕方
 子供が一人、空腹になって動けなくなっております(なお、PCは子供がこのあたりの山で行方不明なっていることを知っていても問題ないです。ニュースやってたと思います)

 それでは宜しくお願いします
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年06月18日

■メイン参加者 6人■

『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『鬼灯の鎌鼬』
椿屋 ツバメ(CL2001351)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『静かに見つめる眼』
東雲 梛(CL2001410)


 現実の……あまねく空は、果てしなく晴天ではありましたが。
 どうやら結界の中は、永遠の紅空がたった一点の隙間もなく広がっているのでした。
 鴉ならさっさと帰るこの時刻。
 おうちに帰れぬ哀れな子供は、血眼に憎悪を携えて憤る異形の存在にただ身体を震わすばかり。
 その真ん中で、ぽかんと口をあけておろおろするシロ。

 ――という状況に、覚者たちは出くわしたわけであるが。

「ちょっとごめん、通ります」
 荒い息を出入りさせる鼻を鳴らす鬼の肩をどけて、殺意の円陣の中へと割って入った『癒しの矜持』香月 凜音(CL2000495)。まるで満員電車の中を通るような感覚だ。
 鬼たちの円陣の中央で三回廻ってから、ワンと鳴いたシロに彼は、
「シロ、あまり無茶すんなよ……けど、良く子供を見つけたな。偉いぞ」
 白銀の毛並みを確かめるように頭に触れた。
「妖……、いや、古妖……?」
 大辻・想良(CL2001476)は瞳を細めて情況を確かめた。ふむ、緊迫している情況ではあるのだが、覚者という登場人物に些か鬼たちは困惑をしているようにも見える。
 しかしピリリと肌に感じる有象無象の負の感情は絶えず。想良は、両者がぶつかるのも時間の問題であると脳内で結論を出した。
 故に、想良は一層困惑している救出対象の腕を引く。
「逃げます……一緒に」
 子供は「?」という顔をしていたが、鬼たちと比較して、より人間という形に近い覚者たちは子供の中では味方だろうと無意識に思ってくれてはいるようだ。
「いやはや、大神ちゃんの殺気に首を突っ込んでみれば。子供に鬼とは。此処はいつからどこぞのとおりゃんせか」
 アハハ! と肩を揺らす『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)。
 大きな木の上、枝の根本に足を置き傍観していた逝の手には悪食が握られる。フルフェイスマスクの下で、逝の瞳は品定めを開始していた。
「ま、どれも餌ってことには変わりはないさね」
 この男、いつにも増してブレない。常に狂気的にも悪食の餌やりを使命や習慣の気軽さで行っている。きっと週8で命食べてる。
 騒ぎを聞きつけ、自由におっきく育った草木をかき分けて顔を出した『静かに見つめる眼』東雲 梛(CL2001410)は、「シロ?」と呟いた。そして状況把握。
「山が騒がしいと思ったら……」
 怪の因子である梛は生い立ちが古妖のそれに近いのか。山が穏やかでは無い情報を逐一感じ取っている。今日は特に、森が荒々しい。
 これがその原因ということか。
「なぁ、別にこの子が山削った訳やないやろ? 穏便に帰したってくれんかな?」
 情況に割って入って、シロの傍に立った『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。何事もまずは対話から入るのが穏やかな方法だ。
 しかし時間が進むにつれて抑えが利かなくなってきたか、鬼たちよりの返事は言葉という方法では無く武力でかえってきた。
 先制。
 前鬼の巨体が月に吼える狼のように背をそらし咆哮ひとつ。その瞬間一斉に小鬼たちは小さな武器を振りあげていく。
 天空から影。
 鬼の陣の中央に風と共に舞い降りた『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)。
「最早止めるには手段を選ぶ余裕はないようだ――行くぞ、白狼! 敵を薙ぎ払う!」


 日本語としては聞き取れぬ鳴き声の合唱が夕方の森を揺らした。
 ツバメの一閃が戦闘を本格的にしていく。
 かの一閃だけで薙ぎ飛ばされていく魑魅魍魎がぽんと弾けて、淡い紫の煙に変わり消えていった。ツバメの瞳の端で、シロがちらついた。あのシロの為にと、振るう剣戟は冴えている。
 敵が弱いというのは本当の事であろう。しかしツバメをすり抜けていった魍魎が、爪長い手を伸ばすのは子供へ、だ。
 目線で支援を指示したツバメの、その後方。待っていたと言わんばかりに、逝の、夜闇のような黒ずんだオーラを出す悪食が涎を垂らす獣として今か今かとその時を待っている。
 投げ出されたボールを打ち返すバッドのように。逝は横に振るその悪食に魍魎をバリバリと音を立てて削り取っていく。
 生々しい音に、ひ! と子供が怯えた。
「大丈夫、手を握って。さあ」
 想良の瞳に移る子供は、助けてと訴えかけていた。今にも泣きそうな、叫びそうな、表情。しかし思考はしっかりとしているようで、子供は手を伸ばす。
 想良の手に触れたとき、想良はそれを掴み返して強く握る。そして引き寄せ、御姫様抱っこの容量で抱き上げて翼を広げた。
「行きます!」
 舞い上がろうとする直前。小鬼が跳躍。その翼を引きちぎろうと、紅の空に敵のナイフがぎらりと輝いた。
「させへんで!」
 凛の炎を震わす刃が小鬼を真っ二つに切る。
 その瞬間、想良は翼で中空を切る。ふわりと浮かんだ二人分の体重に、子供は、わあ、と声をあげながら想良の身体にしがみついていた。
「あんたら前鬼、後鬼か。こんな事して役行者が見たら泣くで」
 遠くへ向かう翼の音を背中で聞きながら、凛は今一度、武器の先を鬼へとあてる。
 間合いを詰めて攻めて来る鬼に、今は何を言っても無駄か。彼らは狂乱している、ひとつの目的にそう為に、呪いのように自我を放り投げている。
 それも……わからない話ではなかった。
「人間が自分たちの生活の為に自然を切り開いて、そこにいたものの住処を奪った……てのは、まぁ事実だな」
 凜音が回復の印を繋げながら、ぽそりと呟く。
 そう、彼らも何も理由無く行動に出ているわけでは無いのだ。そこには確かに、どうもしがたい理由がある。
 解決はしがたい内容かもしれない。しかし、子供の命を狙うのは、それとこれとでは話が別だ。
 後鬼の咆哮が響く。
 即時、後鬼の早くて重い右ストレートが吹き飛ぶ。対象は後鬼を抑えている梛だ。
 梛は両腕を顔の前でクロスさせてその拳を受け止めた。がしかし、骨が軋み、衝撃に強張らせた筋肉もぶちぶちという生々しい音がする。
 梛の横から出てきたシロが後鬼へ噛みつく。まるで桃太郎のワンシーンのよう。
 腕から拳が離れた梛は即座に花の香を強めた。ポケットかそれとも別の場所か、梛の身体に隠し持った花が敵前衛たちの意識を混濁させていく。
 仲間にしてみれば、香りのいい場になったくらいの認識だ。その香りを纏い、逝は疾走した。
 同じくツバメも白狼と呼ばれた大鎌を横に振り上げた。
 逝とツバメの剣戟がクロスするとき、全ての魍魎が紫の煙に包まれて消えていく。
 ギ……と、鳴いたのは小鬼が一体。
「はいはい、俺の出番かな」
 妖艶に動く凜音の五指の。その人差し指の先が小鬼へと照準を定めた時、打ち出された高圧の水弾丸が小鬼を吹き飛ばした。凜音のそばで控えていたシロが、彼の隣で唸り声をあげ、そして、犬歯をむき出しにしている。それを片手で制している凜音は言う。
「これで、あと。前鬼後鬼だけだな」


 想良が空高く舞、地上を見つめている。

 腐っても呪っても憤ってもやはり鬼は鬼である。ということか。
 特に前鬼の金棒一振りで、大地が揺れ、地面が裂ける。その衝撃を全身で感じつつも、凜音の祝詞は仲間を護る回復のベールを生み出していく。
「シロ!」
 凜音の言葉には一層忠実に動くシロが、隙を見て前鬼の腕へと噛みついた。
 シロの攻撃に一瞬だけ動きを止めた前鬼へ、逝は猛攻を振るう。――がその前に、後鬼のタックルが逝の身体を吹き飛ばした。木の枝に着地した逝は言う。
「ああ、そういうことさね」
 つまり前鬼後鬼はツーマンセル。二人でひとつ。にこいち。
 防御の硬い後鬼は前鬼を庇うスタイルなのである。
「それなら後鬼から倒すしかないな」
 凜音の言葉に、仲間たちは頷いた。
 梛の手の平のなかで急成長を遂げた茨の鞭が後鬼を拘束する。好機を作った梛の背面で、一斉に仲間は動き始めた。
 ツバメが跳躍し、空中で横に一回転。そこから生まれた勢いと威力を保ったまま、後鬼へと大鎌を突き刺す。其の時前鬼も金棒を振り上げ、ツバメを叩き潰そうとしているため、即時大鎌を抜いて後退。
 前鬼の攻撃は見事に空振り、しかし地面へと落ちた金棒が大地を揺らし衝撃波が一帯へと流れた。
 それに怯むことは無く、凛が開いた直線を駆ける。
「おんぎゃくぎゃくえんのうばそくあらんきゃそわか」
 朱焔は刃の根本から切っ先まで赤く染まりつつ、凛から吸収した熱を帯びた。それを一気に大上段より振り落とす。
 顔をあげた後鬼。だがその時にはもう、凛の攻撃が後鬼の肩から下までを一気に切り開いていた。慟哭のような叫び声と共に、ぽん、と消える後鬼。
 残された前鬼がしかし、未だ戦意喪失の兆しを見せぬまま。金棒を凛へと叩き落とした。
「あと一体」
 想良の、子供を抱く手に汗がにじむ。
 即座に凜音はより、回復に力を込めた。凛はこと切れる寸前だ。それほどまでに前鬼の威力とは計り知れないものか。
 しかし凛が命数というものを飛ばすことは無い。次の前鬼の攻撃が飛んでくる前に、仲間のフォローと凜音の処置が適格に行われているのだ。
「もう、終わりにしようか」
 後鬼を幾ばくかの間、拘束をしていた梛の植物が再び急成長を始める。
 何度か見た彼の攻撃に、前鬼はその巨体を俊敏に動かして、梛の麻痺の追跡をこれでもかと逃げ始める。
 しかし梛の意地もあった。ぴぃと口笛を吹けば、それを合図にシロが前鬼の進行方向を遮り、突進。立ち止まり、衝撃を逃がす動作の前鬼に茨は絡んでいく。
「捕まえた」
 そこから先は語るに及ばずという形ではあるが。
 逝の悪食が、凜音の水弾の射撃が、ツバメの大鎌が、凛の朱焔が、相容れ交わり化学反応のような爆発を起こして、前鬼を完全に吹き飛ばした――。

 すとん、と想良は久しぶりの地面に足を下した。
 子供はそのままぴょんと跳ねて、立つ。見た目より幾ばくかも元気な様子だが、すぐにへたり込んでしまった。
「大丈夫? これ食べておき!」
 食べやすいゼリー状の食べ物を子供へと手渡す凛。子供はそれを一生懸命食べ始めた。他にも覚者は各々持ち寄ったご飯やお菓子を分け、軽いお菓子パーティーのように子供の周囲を埋めている。
「さて、子供は親元に返してやらんとね」
 逝は夢中になって食べ物を飲み込む子供を、肩車しながら言った。子供は未だに状況が分かっていないようだが無理もない。外はもう日にちが何度も入れ替わっていたが、子供にとってたった数時間の出来事だ。
「しっかし。人間を喰うことを覚えた古妖か……。
 餌がなくなった以上、これからも似たような事は起きるんだよな、この場所。今回は偶然子供を発見して結界も破れたが、この先何か手を打たないといけない気がする。
 ……ん?」
 覚者たち全員が見ていた風景が揺らぎ、マーブリングのように風景が崩れてから、再び元に戻った。
 おそらく結界が途切れたのであろう。真っ二つにしたり腕吹き飛ばしたり木っ端にした古妖たちは皆、不思議と五体満足のままだが目を廻しつつ山積みのように積み重なって気絶していた。シロが驚いてまた犬歯をむき出しにしつつ唸ったが、敵は戦意喪失しているのだろう、ツバメがシロの胴に手を回す感じで止めつつ、なだめていく。
 目を廻す前鬼の額に、想良は手をあてた。
「……古妖が、人間が山を削ったって言っているのは、子供が家族とキャンプに来ていた場所のことですか?」
 唸り声のような返事が聞こえる。
「住処は、山では無いとだめですか……?」
『御山の力を直に吸っているオデタチ』
「つまり山で無いといけないんですね……」
「そこらへんは。中さんに聞いてみるしかねーか」
 凜音はそういいながら、後頭部を掻いた。
「シロ、お疲れ様」
 梛はシロの頭を撫でつつ、シロは長い舌で梛の頬を舐めた。
「ほかにもざわめいた場所があったら教えてくれると良いかも」
『がんばります』
 凛はシロに問う。
「古妖達が言うように人間にも悪い事する奴はおる。それでもあんたは人間の味方してくれるんか?」
 シロはそれに間髪入れずに答えた。
『します、この先何があろうと。人狼は人間と共にある』
「ならあたしはあんたの味方をする。何があってもな」
 想良は言う。
「でも……、シロさん、何があっても、どんな理由でも人間の味方をするって、ちょっと、不安です。
 いい人ばっかりじゃ、ないですから……」
 シロはそれには思うところがあるようだが。
 それはまた、別の物語になるであろう。今は―――。

 クスクスクスクス。

 と聞こえる天からの声が。
 日に日に狂暴と化している。
 それは。
 シロにとって。悲しい別れの前兆のようにも聞こえたのであった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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