<玉串の巫女・撃>神楽、つら鳴り 鈴、連らなり
●『髄液啜り』の足跡
これまでのあらすじを語ろう。
神社本庁所属対妖覚者機関『玉串の巫女』。その本拠地である神社が妖の軍団に襲撃され壊滅した。
多くの死者を出したものの、半数以上の戦闘員(巫女)が逃げ延び、ファイヴ覚者と共同で組んだ反撃部隊により拠点の一つである『豊四季神社』の奪還に成功した。
救出した巫女を加えさらなる奪還作戦を企てるのだが、そのおり妖大襲撃の裏にあった大妖『髄液啜り』の情報を掴むのだった。
●奪還、六実神社
中 恭介(nCL2000002)は集まった覚者たちを見て頷いた。
「みんな、前回の作戦ではよくやってくれた。玉串の巫女とファイヴによる共同戦線は、これから暫く続くことになるだろう。
前回救助した戦力をいれて再編成した巫女たちは、現在各地の拠点から妖があふれないように牽制しているようだ。その間に、未だ勢力下にある神社の奪還にむけて我々も動こうと思う。
同時期に計画されている三咲神社奪還作戦の裏で、こちらは六実神社の奪還作戦を計画している。概要を聞いてくれ」
このメンバーが担当するのは六実神社(※実在する同名の神社とは別のものである)の奪還作戦だ。
六実神社は神楽鈴の職人が集う場で、厳密には神社とは異なる施設である。
そのため防衛力も弱く、妖の軍団によって瞬く間に制圧されてしまった。
制圧の際に先陣を切っていた大妖『髄液啜り』は現場に配下だけを残して別の拠点へ移っているようだ。
「今回の状況は奪還が難しくない。ボスとして配置されているR3妖の1体を倒すことが出来れば、残りの妖が統率を失ってバラバラになり、簡単に掃討できるからだ。施設の防衛も手薄で、あまり複雑な作戦を用いなくても突破が可能となるだろう」
六実神社は田舎に作られた『ロの字型』の施設だ。
外周部分にはR1妖の混成部隊が巡回し、どこかで戦闘が起きれば全てのR1妖がそこへ集中するようになるだろう。
一方でボスのR3妖は中央の庭に居座り、襲撃してくる敵をそのまま迎撃するつもりのようだ。
奪還にあたるメンバーはこの依頼に参加している六名のファイヴ覚者と、玉串の巫女候補生に当たる『黒子衆』という巫女覚者たちである。
「皆には1人につき1チームの戦闘部隊をつけ、奪還作戦に当たって貰う。詳しいことは付属の資料を見てくれ。では、よろしく頼む!」
これまでのあらすじを語ろう。
神社本庁所属対妖覚者機関『玉串の巫女』。その本拠地である神社が妖の軍団に襲撃され壊滅した。
多くの死者を出したものの、半数以上の戦闘員(巫女)が逃げ延び、ファイヴ覚者と共同で組んだ反撃部隊により拠点の一つである『豊四季神社』の奪還に成功した。
救出した巫女を加えさらなる奪還作戦を企てるのだが、そのおり妖大襲撃の裏にあった大妖『髄液啜り』の情報を掴むのだった。
●奪還、六実神社
中 恭介(nCL2000002)は集まった覚者たちを見て頷いた。
「みんな、前回の作戦ではよくやってくれた。玉串の巫女とファイヴによる共同戦線は、これから暫く続くことになるだろう。
前回救助した戦力をいれて再編成した巫女たちは、現在各地の拠点から妖があふれないように牽制しているようだ。その間に、未だ勢力下にある神社の奪還にむけて我々も動こうと思う。
同時期に計画されている三咲神社奪還作戦の裏で、こちらは六実神社の奪還作戦を計画している。概要を聞いてくれ」
このメンバーが担当するのは六実神社(※実在する同名の神社とは別のものである)の奪還作戦だ。
六実神社は神楽鈴の職人が集う場で、厳密には神社とは異なる施設である。
そのため防衛力も弱く、妖の軍団によって瞬く間に制圧されてしまった。
制圧の際に先陣を切っていた大妖『髄液啜り』は現場に配下だけを残して別の拠点へ移っているようだ。
「今回の状況は奪還が難しくない。ボスとして配置されているR3妖の1体を倒すことが出来れば、残りの妖が統率を失ってバラバラになり、簡単に掃討できるからだ。施設の防衛も手薄で、あまり複雑な作戦を用いなくても突破が可能となるだろう」
六実神社は田舎に作られた『ロの字型』の施設だ。
外周部分にはR1妖の混成部隊が巡回し、どこかで戦闘が起きれば全てのR1妖がそこへ集中するようになるだろう。
一方でボスのR3妖は中央の庭に居座り、襲撃してくる敵をそのまま迎撃するつもりのようだ。
奪還にあたるメンバーはこの依頼に参加している六名のファイヴ覚者と、玉串の巫女候補生に当たる『黒子衆』という巫女覚者たちである。
「皆には1人につき1チームの戦闘部隊をつけ、奪還作戦に当たって貰う。詳しいことは付属の資料を見てくれ。では、よろしく頼む!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.R3妖の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
こちらはシナリオタグ<玉串の巫女>の系列シナリオです。
玉串の巫女のことわからないという人は最後のあたりの説明を読んでください。それでも分からないことがあったら知っている人に聞くとよいでしょう。
●目標
・全体目標:神社の奪還
・メイン目標:R3妖の撃破
・サブ目標:すべての妖の撃退
※妖は逃走しないものとする。
【エネミーデータ】
・R1妖混成部隊
鈴、畳、スズメ、霊魂、炎といった様々な妖の混成部隊です。
物質系妖、生物系妖、心霊系妖、自然系妖が大体同じくらいの割合で混成されています。集団自体の統率力は低く、敵が現われたらとにかくそっちにわーっと移動するように設定されています。
・R3妖『六実だったもの』
物質系妖。
拠点襲撃時に単身乗り込んだ六実は死亡し、死体がいじくり回されました。人間らしい部位はほとんど残されていません。
肉体が色々な物体に置き換えられ、不気味なカラクリ楽器のような物体になっています。
踊るように、しかし人体ではまずありえない動作を用いた攻撃を仕掛けます。
攻撃方法は以下の通り
→禍ツ神楽舞い:特近列【呪縛】
→人体太鼓:特遠単【負荷】・大ダメージ
→忌々しい鈴の音A:毎ターン全体に【不運】
→忌々しい鈴の音B:毎ターン自身にBS回復100%
●補足事項
この拠点に一般人は残っていません。
妖襲撃時に多少の死傷者は出たものの、玉串の巫女『六実』の特攻によって一般人の避難に成功したためです。
【部隊戦闘ルール】
全員が1チームの部隊をもって戦います。
自分のチームはリーダー(自分)1名+部下5名で形成されます。
部下はプレイングで指示した内容に従って戦います。何も指示を出さなかった場合自分で考えてそこそこに行動します。
(注意:スキル単位で細かく指示しているとプレイングリソースた足りなくなります。簡略化に努めましょう)
戦闘するにあたって『率先して戦う』『指揮に集中する』『戦いながら指揮する』のいずれかを選択して下さい。
率先して戦う場合は自らのフルパワーを使いつつ、チームの援護を受けられます。
指揮に集中すると自分のパワーがあまり出せない代わりにチームのダイス目に大きな補正を加えられます。
両立させるとその中間の効果になります。
●チームの練度やメンバーについて
連れて行くのは『黒子衆』と呼ばれる玉串の巫女候補生で、レベル10~15のそこそこな覚者たちです。命数は少ない。
連れて行くチームは自分で『(チーム名):○○なチーム』とオーダーすることでそれらしいチームが新規に組まれますが、もし自分に深く面識のあるチームがいる場合はチーム単位で指定することが出来ます。
その場合『面識補正』がかかり、ダイス目に影響します。
チームにはチーム名にちなんだ漢字一文字を服に刺繍しています。
既存のチーム:兎、亀、抜、王、死、花、櫻、癒
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年04月25日
2017年04月25日
■メイン参加者 6人■

●『クソみたいな人でも、生きてるんですよねえ。生きてるんですよ』
高所より双眼鏡による観測。
ロの字につくられた社屋を囲むように、有象無象の妖が群れを成している。
あの場所にとらわれた生存者はいないとはいえ、唯一の犠牲者がいじくり回された挙げ句妖に帰られていた。
「髄液啜り……好き放題やってくれる」
『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)の口から恨み言が漏れたが、漏れたのは言葉だけだった。所作は冷静そのものである。
「教官……」
無感情なトーンで呼びかけられ、赤貴は振り返った。今回部下になる死番隊の巫女たちが戦闘準備を終えたという知らせだった。頷く赤貴。
「目的は奪還だが、手段は選ばなければならない。先代の六実も、皆を生かすために死んだのだろうしな」
「心得ています、教官」
「感情は理由にはなっても、目的にはなりません」
「あなたから学んだことです、教官」
その一方で、『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)も戦闘準備を終えていた。
「とはいっても、命を賭して妖から守った人が妖として改造されるなんて、きっとやりきてないよ」
「同感です、旦那様」
癒組の巫女たちが深々と頭を下げた。
「天王寺、美章園、鶴ヶ丘、我孫子、百舌鳥……癒組総員準備整いましてございます」
「うん。六実さんの尊厳をかけて、妖を倒そう」
秋人は豊四季から譲り受けた弓をぎゅっとつよく握りしめた。
事前観測班との合流を待って、こちらも戦闘準備を終えていた。
「抜塞のみんな、無事だったんだな! おお、強くなったなあ! 見違えたぜ!」
「「押忍!」」
ぐっと胸を張る『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)。
チーム抜塞の巫女たちは気合いの仕草で整列していた。
「指導したかいがあるってもんだ。な!」
「いえ、主様ほどでは」
「団長から教わった型、毎日やってます!」
「瓦十枚指でいけます、提督!」
「また組み手してください、マスター!」
「呼び方定まってねーな!」
まあいっかと笑って、遥はグローブを嵌めた。
「そんじゃあ張り切って、妖ぶっ飛ばしに行きますか!」
「「押忍!」」
……と、気合いを入れている一方で。
「みんなお願いね、アカフクあげるから、半分あげるから」
「きょーかーん! みんなが合コンから私をハブるんですー!」
「テメェが全員喰うからだろうがゴルァ!」
「ぼさっとしてるからだろうがオォン!?」
「お願いだから力あわせて!? せきしーの写真あげるから!」
「あっそこは教官の昔の写真でもいいですよ」
「マジトーンでいうのやめて!」
といいつつ、『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は毎回ガチモメする王子マジラブ組(略して王組)にニヤリとした。
「さすがはサークルクラッシュに特化したチーム。合コン一回で六角関係を作るとは……そこらのヤクザなら一発崩壊だね!」
プリンスのサムズアップをよそに、王組はとっくみあいの喧嘩に発展していた。
さて、こちらは玉串の巫女との連携が初めてに当たる『希望を照らす灯』七海 灯(CL2000579)と緒形 逝(CL2000156)。
既存のチームを借り受けることで色々なコストを省略することにしたようで……。
「悠久の盟約に従い、漆黒の堕天使たちのロ――」
「カメさんちーむでっす☆」
「よろしくおねがいしまーす☆」
謎のポーズとオーラをまき散らす人を蹴倒して、シンメトリーな横ピースで巫女たちが乗り出してきた。その二人にダブルアイアンクローをかましつつ頭を下げる巫女。
「この子らは気にしないでください。半蔵門、九段下、神保町、大手町、三越前……亀組総員、ご用命にあずかり参上しました」
「教官のご同輩とご一緒できて光栄です」
「いえ、こちらこそ……」
濃い人たちだな、と思いつつも灯は作戦提案をしてみた。
「この辺りに敵の数を限定できるフィールドはありませんか? 倉や倉庫のような閉鎖空間がいいのですが」
「あるにはありますが、確かR1すべてを引きつけて戦うのでしたよね。建物ごとなぎ倒される危険がありますので、すぐそばの雑木林はいかがでしょう。射線と動線を限定できます。都合のよい斜面もありますし」
「そうですね。ではそれで行きましょう」
「作戦は決まったかな? じゃあ、おっさんはあっちに戻るぞう」
灯たちのチームと送受心のリンクを繋ぐために顔を見せていた逝が、くるりときびすを返した。借りてきた櫻組がぺこりと頭を下げる。
「……」
無言ではいるが、思うところは色々とあるようだ。
『六実だったもの』という妖。人の身体で遊んでいるというより、妖として使いやすくする改造を施しているように思えたのだ。
もしそうだとしたら、敵戦力を再利用しつつ手駒を温存できるきわめて有効な戦術を使っていることになる。
しかも人体に限らず自然現象や霊魂や周辺の雑貨、野生動物に至るまで利用できるとなれば……。
「考えるゾンビ、ってとこかねえ」
うかうかしていると、日本が無くなってしまうぞ。
●陽動と本丸強襲作戦
彼らの立てた作戦を短く述べると、灯率いるチームがR1妖を全て引き受け、その間にR3妖を残る総勢で叩く作戦である。
「決して花形ではありませんが、皆さんにしかできない大切な役目です。しっかりとつとめましょう。総員防御陣形のまま前進。相手を撫でるように煽ったら全速後退!」
「「了解!」」
亀組は防御と回復を備えた歩く塹壕のようなチームである。灯は彼女たちの間に入ると、妖の群れへと進み始めた。
こちらに気づいた妖が、『人間がいたぞ!』とばかりに一斉に駆け寄ってくる。
みるからに有象無象。対策らしい対策はない、というか立てようが無いが……。
「攻撃に耐えながら林へ後退、引っ張り出しますよ!」
飛来する無数の矢と石の群れ。
盾を翳した巫女たちの中で、灯は全身から淡い炎を燃え上がらせた。
不自然なほど単純すぎるというべきか、六実神社を囲っていた妖の群れは一斉に灯のチームを追いかけて林へ入っていった。
「敵の移動を確認した。突入するぞ」
赤貴は死組を率いて正面門を開放。神社内部へと駆け込んだ。
ロの字に囲まれた中庭は広い芝生になっていて、その中央に『六実だったもの』がぼうっと立っていた。
「厳密には神社と異なると聞いてはいたが……なるほど、ここは野外ステージというわけか」
ぐりん、と六実の首が180度回転して振り返る。
ピンクのお団子髪を残して、その他全てに顔の部位など残っていなかった。
「チャッチャと六実さんの身体を取り戻して、ちゃんとお墓に入れてあげなきゃな! 抜塞、つづけ!」
遥は背中を向けたままの六実に向かってダッシュ。
歩幅を大きく、勢いを限界までつけて拳を固めた。
――りん、と鈴の音がした。
頭を揺らされるような。遠い昔へ意識を飛ばされるような、遠い未来へ肉体を持ち去られるような、ちぐはぐな気持ちになっていく。
「こん、のっ!」
歯を食いしばり、身体に叩き込んだ癖だけで突きを叩き込んだ。
背骨に直撃コース。六実はべきんと身体を直角に折り曲げてた。
やべえ背骨おっちまった、と思ったのもつかの間。
両腕を広げる。副腕を広げる。副副腕を広げる。更に副副副、副副副副
――。
やがて計十二本の腕を広げ、その先端についた神楽鈴を『じゃららごん』とならした。
まずい。
遥の本能が先に告げ、喉から同じ言葉が漏れ、巫女たちが一斉に防御姿勢――爆風。
目に見えない衝撃が遥と巫女たちをとらえ、地面と水平に飛ばしていく。
周囲を囲む建物の壁や屋根に次々とめり込み、瓦や建材を散らしていく。
「みんな、回復をっ!」
秋人は空に向けて水塊の矢を発射。空で雲となり雨となり降り注ぎ、続いて巫女たちが雨に交えて呪いを解くための水を作り始める。
降り注いだ複合的な治癒液が遥や巫女たちにしみこみ、衝撃でへし折れた骨やえぐれた肉、呪縛によって固められた神経系がたちまちのうちに回復していった。
が、それを見逃さないのがランク3の知能、そして妖へと改造された六実である。
今度は身体ごと振り向き、あばら骨のように並べられた大量の楽器類を一斉に鳴らし始めた。
余りにまがまがしい音が見えない刃となって秋人たちへと襲いかかる。
前衛火力として鍛えられた抜塞組ですら吹き飛ばされたのだ。ヒーラーの癒組などひとたまりもない。
……ということを、勿論彼らは知っている。
「みんなー、わかってるよね!」
「「トーゼン!!」」
秋人の前に割り込んでハンマーをフルスイングするプリンス。
『はふり』といって、神道におけるスイングは祝福に通じる動作とされている。
神楽舞いに対する、プリンスなりのダンスであった。
同じく癒組の巫女の前に陣取って見栄をきる巫女たち。
「ダチに手ぇ出してんじゃねえぞ妖ゴルァ!」
「彼氏寝取るぞ!」
「一家離散さんぞ!」
「やめてっ、妖相手に中指立てるのやめて! ジャパニーズミコでしょ!? でもグジョブ!」
六実の首がぐるぐると無限回転しながらいびつな音をまき散らしていく。
プリンスは次の攻撃を予測して、ハンマーを振りかざした。
「そんな顔しても、今は加減できないよ」
回転によるねじりがそのままエネルギーになって、十二本の腕がいっぺんに叩き込まれる。
対抗してハンマーを叩き込むプリンス。
そして。
「あっそびーましょ」
刀を握り込んだ逝が、巫女の補助を受けて六実へと飛びかかった。
咄嗟に飛び退く六実。大地に突き刺さった逝の刀は、周囲に禍々しい気をまき散らすように土をえぐり取っていく。
「逃がさんよ」
すぐさま距離をつめて連続突き。
六実は逝の剣を十二本の腕でそれぞれ弾きつつ、逝の肉体に自らの突きを叩き込んでいく。
対して逝も剣の鍔だけで相手の突きを弾いていった。
「機能性重視も伊達じゃあないさね、けどこれならそのうち……ん?」
一度飛び退いて距離を取り、逝はふと顎を上げた。
六実の背後をとって追撃しようとしていた死組もまた、一斉に振り返る。
「教官っ」
声に出しただけで、情報は既に送受心ごしに赤貴へ渡っている。
赤貴は部下の察知した情報から、小さく舌打ちをした。
「皆、陽動で引きはがしていた妖の群れが、一部こっちに流れてきている。統率力が低いのも考え物だな」
「らしいね、どうするかな。おっさんが行こうか?」
逝の申し出に、赤貴はかぶりをふって応えた。
「こっちはオレたちに任せて貰おう。死番隊――雑魚どもを神社に入れるな」
「「承知」」
先行して二人が韋駄天足で敵の群れへと移動。追って残りのメンバーが加わっていく。
その中に混じり、赤貴は剣から炎を吹き出させた。
「邪魔はさせん」
横一文字薙ぎ払い。
草薙の剣の伝説の逆写しが如く、妖の群れを一瞬で火の海へと変えた。
灯は神社周辺の妖たちを全て引き連れたつもりだったが、飛行タイプの妖が赤貴たちの突入を目撃し、加えて六実の戦闘音を聞きつけた妖たちも加わり『あっちにも人間がいるぞ!』とばかりに群れの一部が神社側へと戻っていったのだ。
だがそちらには赤貴がいる。戻った分は彼らに任せればいい。
問題は、『大多数』を相手にしなければならない灯たちである。
「私たちは敵の引きつけを続行します」
「了解……と言いたいですが」
全ての妖を引き受けるのは、いかに防御に特化したチームといえど難しい。
「タナトスの声が聞こえる……」
「リーダー、半蔵門がしんどいって言ってます。正直私もです」
「もう暫く持ちこたえてください。王将さえ落とせば作戦は成功します。けど――」
灯は青い残像を残しながら林の中をジグザグに跳ね回り、妖たちを鎖でぐるぐるに縛り付けてやった。
「『命がけ』はなしですよ」
「ご心配なく。我々のスローガンは……」
「『物理防御を上げれば死なない』です!」
「耐えましょうとも。なんならこの世の終わりまで」
着地。片膝と拳とスニーカーで地面をとらえ、遥はニカッと顔を上げた。
「全員生きてるな!? 突っ込むぞ!」
じゃらごん、じゃらごん。鈴の連なる音がする。
聞いたことも無い、世界ごと歪めていくような音の雨を右へ左へかわしながら、遥は小指から順番に拳を握り固めた。
「マスター、防御は!?」
「ナカマに任せる! 突撃姿勢だ、ハジョー攻撃!」
総員、それぞれの攻撃エネルギーを拳や足に集め始めた。
一方で――。
「みんな。やるよ」
秋人は腰下げ式の矢筒から三本いっぺんに矢をぬくと、アタッチメントをつけた弓につがえた。
「願いをこめて……」
引き、しぼり、満を持して。
秋人の放つ矢に応じて、巫女たちも一緒になって矢を放った。
因子戦闘でいうところの回復弾幕。ヒールカウンター。リカバリーウォール。呼び方はなんでもよいが、六実から放たれた不可視の剣を次々と矢でとらえ、打ち落としていく。
「今だよ、行って」
「サンキュー! 行け、抜塞!」
巫女が六実に次々と突撃。
炎の正拳突き、回し蹴り、稲妻チョップ、硬化掌底――人間ジャンプ台を経て大きく跳躍した遥が、光を纏った拳を六実の顔面に叩き込んだ。
直撃。
きりもみ回転しながら吹き飛ぶ六実。
腕を地面に突き立てて強制ブレーキをかけるが、巫女の強化を受けた逝がすぐさま彼女をとらえた。
逝が、ヘルメットの奥で笑った……ように思えた。
「便利そうな腕だが、切り取らせてもらうぞう」
禍々しい気を纏った刀を振り込む。
防御のために打ち込んだ六実の腕が浸食され、切り離される。
「神域は苦手だと思ってたがなあ、これはなかなか」
ぐりんとねじれた腕が螺旋状に絡まり、連なった神楽鈴が逝のボディに直撃する。
が、逝も辺り際に瘴気を打ち込んでダメージを軽減。
空中を軽やかにひねってストンと着地した。
「次は譲るさね」
「ありがとね」
プリンスは。
ハンマーを片手で握り、ぽいっと上空へ投げた。
ごきりごきりと拳を鳴らし、わずか一瞬だけ表情を険しくした。
「悪いけど、余の法がちょっとだけ高級品さ」
回転するハンマーが高く飛び上がり。
六実が無数の腕を足のように使って突撃してくる。
頂上をへて落ちてくるハンマー。
プリンスを中心に左右にずらりと並んだ巫女が、一斉に親指を下に向けた。
「教官、ヤツの構造バッチリです」
「ネットなら自宅特定してる頃です」
「それじゃ行こうか」
落ちてきたハンマーをキャッチすると、ねじれた腕のスイングに対抗するようにハンマーを叩き込んだ。
「王家に伝わる最新機構・ビルドインスタビライザー!」
衝突。
ひびわれていく腕と身体。
やがて木っ端みじんに砕け散った木材と金具と瓦と鈴。
赤い組紐が風にながれ、ばらばらにちった人骨がその場に残った。
「……気配が消えた、か」
血にまみれた顔を腕でぬぐい、赤貴は振り返った。
辺り一面焼け野原。
石の針山、毒の血の池。妖という妖は朽ちて散り、同じく血まみれの巫女たちは唇の血を舐めて振り返った。
「状況終了。情報を収集して次へ備えろ。連中が次に狙う場所を特定したい」
「教官。そのことですが……」
●髄液啜り
「武器と楽器が一つだった時代、剣と鈴は同じものだった。やがて分かれた剣と鈴は別々の派閥に受け継がれ、鈴は六実。剣は……」
赤貴は自らの握った剣、『沙門叢雲』を見下ろした。
「七栄神社が狙われそう、ってこと? もしそうなら、今回は奪還じゃなくて迎撃ができそうだね」
プリンスはうんうんと頷いた。
後ろで巫女の品川が赤貴にとびつこうとして、死番隊の巫女たちに締め上げられていた。無視した。
「私も、できることがあればご協力します」
かなりボロボロな灯も、汗をぬぐって頷いた。
次の戦いは、そう遠くはなさそうだ。
回収された六実の骨は、神社へ丁重に納められた。
手を合わせる遥。逝はぽりぽりと頭(というかヘルメット)をかいている。
「しっかし……今回の敵って、明らかに妖に対抗する人間を狙ってきてるよな。AAAとかファイヴとか、やばいんじゃね?」
「AAAなんて明日にも狙われそうだねえ」
本当になったら大変なことだなあと、若干他人事みたいに空を見て言う逝。
秋人は。
「俺は、日本の信仰心にもダメージを与えてると思う。すがるものが無くなると、人は邪教傾倒や悪魔崇拝をしはじめるから……」
世界の歴史が証明してきた事実である。
もしそれらを熟知したうえで日本を攻撃しているのなら。
「ただ現われた妖を倒すだけじゃ、人間は負けてしまうかもしれない」
高所より双眼鏡による観測。
ロの字につくられた社屋を囲むように、有象無象の妖が群れを成している。
あの場所にとらわれた生存者はいないとはいえ、唯一の犠牲者がいじくり回された挙げ句妖に帰られていた。
「髄液啜り……好き放題やってくれる」
『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)の口から恨み言が漏れたが、漏れたのは言葉だけだった。所作は冷静そのものである。
「教官……」
無感情なトーンで呼びかけられ、赤貴は振り返った。今回部下になる死番隊の巫女たちが戦闘準備を終えたという知らせだった。頷く赤貴。
「目的は奪還だが、手段は選ばなければならない。先代の六実も、皆を生かすために死んだのだろうしな」
「心得ています、教官」
「感情は理由にはなっても、目的にはなりません」
「あなたから学んだことです、教官」
その一方で、『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)も戦闘準備を終えていた。
「とはいっても、命を賭して妖から守った人が妖として改造されるなんて、きっとやりきてないよ」
「同感です、旦那様」
癒組の巫女たちが深々と頭を下げた。
「天王寺、美章園、鶴ヶ丘、我孫子、百舌鳥……癒組総員準備整いましてございます」
「うん。六実さんの尊厳をかけて、妖を倒そう」
秋人は豊四季から譲り受けた弓をぎゅっとつよく握りしめた。
事前観測班との合流を待って、こちらも戦闘準備を終えていた。
「抜塞のみんな、無事だったんだな! おお、強くなったなあ! 見違えたぜ!」
「「押忍!」」
ぐっと胸を張る『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)。
チーム抜塞の巫女たちは気合いの仕草で整列していた。
「指導したかいがあるってもんだ。な!」
「いえ、主様ほどでは」
「団長から教わった型、毎日やってます!」
「瓦十枚指でいけます、提督!」
「また組み手してください、マスター!」
「呼び方定まってねーな!」
まあいっかと笑って、遥はグローブを嵌めた。
「そんじゃあ張り切って、妖ぶっ飛ばしに行きますか!」
「「押忍!」」
……と、気合いを入れている一方で。
「みんなお願いね、アカフクあげるから、半分あげるから」
「きょーかーん! みんなが合コンから私をハブるんですー!」
「テメェが全員喰うからだろうがゴルァ!」
「ぼさっとしてるからだろうがオォン!?」
「お願いだから力あわせて!? せきしーの写真あげるから!」
「あっそこは教官の昔の写真でもいいですよ」
「マジトーンでいうのやめて!」
といいつつ、『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は毎回ガチモメする王子マジラブ組(略して王組)にニヤリとした。
「さすがはサークルクラッシュに特化したチーム。合コン一回で六角関係を作るとは……そこらのヤクザなら一発崩壊だね!」
プリンスのサムズアップをよそに、王組はとっくみあいの喧嘩に発展していた。
さて、こちらは玉串の巫女との連携が初めてに当たる『希望を照らす灯』七海 灯(CL2000579)と緒形 逝(CL2000156)。
既存のチームを借り受けることで色々なコストを省略することにしたようで……。
「悠久の盟約に従い、漆黒の堕天使たちのロ――」
「カメさんちーむでっす☆」
「よろしくおねがいしまーす☆」
謎のポーズとオーラをまき散らす人を蹴倒して、シンメトリーな横ピースで巫女たちが乗り出してきた。その二人にダブルアイアンクローをかましつつ頭を下げる巫女。
「この子らは気にしないでください。半蔵門、九段下、神保町、大手町、三越前……亀組総員、ご用命にあずかり参上しました」
「教官のご同輩とご一緒できて光栄です」
「いえ、こちらこそ……」
濃い人たちだな、と思いつつも灯は作戦提案をしてみた。
「この辺りに敵の数を限定できるフィールドはありませんか? 倉や倉庫のような閉鎖空間がいいのですが」
「あるにはありますが、確かR1すべてを引きつけて戦うのでしたよね。建物ごとなぎ倒される危険がありますので、すぐそばの雑木林はいかがでしょう。射線と動線を限定できます。都合のよい斜面もありますし」
「そうですね。ではそれで行きましょう」
「作戦は決まったかな? じゃあ、おっさんはあっちに戻るぞう」
灯たちのチームと送受心のリンクを繋ぐために顔を見せていた逝が、くるりときびすを返した。借りてきた櫻組がぺこりと頭を下げる。
「……」
無言ではいるが、思うところは色々とあるようだ。
『六実だったもの』という妖。人の身体で遊んでいるというより、妖として使いやすくする改造を施しているように思えたのだ。
もしそうだとしたら、敵戦力を再利用しつつ手駒を温存できるきわめて有効な戦術を使っていることになる。
しかも人体に限らず自然現象や霊魂や周辺の雑貨、野生動物に至るまで利用できるとなれば……。
「考えるゾンビ、ってとこかねえ」
うかうかしていると、日本が無くなってしまうぞ。
●陽動と本丸強襲作戦
彼らの立てた作戦を短く述べると、灯率いるチームがR1妖を全て引き受け、その間にR3妖を残る総勢で叩く作戦である。
「決して花形ではありませんが、皆さんにしかできない大切な役目です。しっかりとつとめましょう。総員防御陣形のまま前進。相手を撫でるように煽ったら全速後退!」
「「了解!」」
亀組は防御と回復を備えた歩く塹壕のようなチームである。灯は彼女たちの間に入ると、妖の群れへと進み始めた。
こちらに気づいた妖が、『人間がいたぞ!』とばかりに一斉に駆け寄ってくる。
みるからに有象無象。対策らしい対策はない、というか立てようが無いが……。
「攻撃に耐えながら林へ後退、引っ張り出しますよ!」
飛来する無数の矢と石の群れ。
盾を翳した巫女たちの中で、灯は全身から淡い炎を燃え上がらせた。
不自然なほど単純すぎるというべきか、六実神社を囲っていた妖の群れは一斉に灯のチームを追いかけて林へ入っていった。
「敵の移動を確認した。突入するぞ」
赤貴は死組を率いて正面門を開放。神社内部へと駆け込んだ。
ロの字に囲まれた中庭は広い芝生になっていて、その中央に『六実だったもの』がぼうっと立っていた。
「厳密には神社と異なると聞いてはいたが……なるほど、ここは野外ステージというわけか」
ぐりん、と六実の首が180度回転して振り返る。
ピンクのお団子髪を残して、その他全てに顔の部位など残っていなかった。
「チャッチャと六実さんの身体を取り戻して、ちゃんとお墓に入れてあげなきゃな! 抜塞、つづけ!」
遥は背中を向けたままの六実に向かってダッシュ。
歩幅を大きく、勢いを限界までつけて拳を固めた。
――りん、と鈴の音がした。
頭を揺らされるような。遠い昔へ意識を飛ばされるような、遠い未来へ肉体を持ち去られるような、ちぐはぐな気持ちになっていく。
「こん、のっ!」
歯を食いしばり、身体に叩き込んだ癖だけで突きを叩き込んだ。
背骨に直撃コース。六実はべきんと身体を直角に折り曲げてた。
やべえ背骨おっちまった、と思ったのもつかの間。
両腕を広げる。副腕を広げる。副副腕を広げる。更に副副副、副副副副
――。
やがて計十二本の腕を広げ、その先端についた神楽鈴を『じゃららごん』とならした。
まずい。
遥の本能が先に告げ、喉から同じ言葉が漏れ、巫女たちが一斉に防御姿勢――爆風。
目に見えない衝撃が遥と巫女たちをとらえ、地面と水平に飛ばしていく。
周囲を囲む建物の壁や屋根に次々とめり込み、瓦や建材を散らしていく。
「みんな、回復をっ!」
秋人は空に向けて水塊の矢を発射。空で雲となり雨となり降り注ぎ、続いて巫女たちが雨に交えて呪いを解くための水を作り始める。
降り注いだ複合的な治癒液が遥や巫女たちにしみこみ、衝撃でへし折れた骨やえぐれた肉、呪縛によって固められた神経系がたちまちのうちに回復していった。
が、それを見逃さないのがランク3の知能、そして妖へと改造された六実である。
今度は身体ごと振り向き、あばら骨のように並べられた大量の楽器類を一斉に鳴らし始めた。
余りにまがまがしい音が見えない刃となって秋人たちへと襲いかかる。
前衛火力として鍛えられた抜塞組ですら吹き飛ばされたのだ。ヒーラーの癒組などひとたまりもない。
……ということを、勿論彼らは知っている。
「みんなー、わかってるよね!」
「「トーゼン!!」」
秋人の前に割り込んでハンマーをフルスイングするプリンス。
『はふり』といって、神道におけるスイングは祝福に通じる動作とされている。
神楽舞いに対する、プリンスなりのダンスであった。
同じく癒組の巫女の前に陣取って見栄をきる巫女たち。
「ダチに手ぇ出してんじゃねえぞ妖ゴルァ!」
「彼氏寝取るぞ!」
「一家離散さんぞ!」
「やめてっ、妖相手に中指立てるのやめて! ジャパニーズミコでしょ!? でもグジョブ!」
六実の首がぐるぐると無限回転しながらいびつな音をまき散らしていく。
プリンスは次の攻撃を予測して、ハンマーを振りかざした。
「そんな顔しても、今は加減できないよ」
回転によるねじりがそのままエネルギーになって、十二本の腕がいっぺんに叩き込まれる。
対抗してハンマーを叩き込むプリンス。
そして。
「あっそびーましょ」
刀を握り込んだ逝が、巫女の補助を受けて六実へと飛びかかった。
咄嗟に飛び退く六実。大地に突き刺さった逝の刀は、周囲に禍々しい気をまき散らすように土をえぐり取っていく。
「逃がさんよ」
すぐさま距離をつめて連続突き。
六実は逝の剣を十二本の腕でそれぞれ弾きつつ、逝の肉体に自らの突きを叩き込んでいく。
対して逝も剣の鍔だけで相手の突きを弾いていった。
「機能性重視も伊達じゃあないさね、けどこれならそのうち……ん?」
一度飛び退いて距離を取り、逝はふと顎を上げた。
六実の背後をとって追撃しようとしていた死組もまた、一斉に振り返る。
「教官っ」
声に出しただけで、情報は既に送受心ごしに赤貴へ渡っている。
赤貴は部下の察知した情報から、小さく舌打ちをした。
「皆、陽動で引きはがしていた妖の群れが、一部こっちに流れてきている。統率力が低いのも考え物だな」
「らしいね、どうするかな。おっさんが行こうか?」
逝の申し出に、赤貴はかぶりをふって応えた。
「こっちはオレたちに任せて貰おう。死番隊――雑魚どもを神社に入れるな」
「「承知」」
先行して二人が韋駄天足で敵の群れへと移動。追って残りのメンバーが加わっていく。
その中に混じり、赤貴は剣から炎を吹き出させた。
「邪魔はさせん」
横一文字薙ぎ払い。
草薙の剣の伝説の逆写しが如く、妖の群れを一瞬で火の海へと変えた。
灯は神社周辺の妖たちを全て引き連れたつもりだったが、飛行タイプの妖が赤貴たちの突入を目撃し、加えて六実の戦闘音を聞きつけた妖たちも加わり『あっちにも人間がいるぞ!』とばかりに群れの一部が神社側へと戻っていったのだ。
だがそちらには赤貴がいる。戻った分は彼らに任せればいい。
問題は、『大多数』を相手にしなければならない灯たちである。
「私たちは敵の引きつけを続行します」
「了解……と言いたいですが」
全ての妖を引き受けるのは、いかに防御に特化したチームといえど難しい。
「タナトスの声が聞こえる……」
「リーダー、半蔵門がしんどいって言ってます。正直私もです」
「もう暫く持ちこたえてください。王将さえ落とせば作戦は成功します。けど――」
灯は青い残像を残しながら林の中をジグザグに跳ね回り、妖たちを鎖でぐるぐるに縛り付けてやった。
「『命がけ』はなしですよ」
「ご心配なく。我々のスローガンは……」
「『物理防御を上げれば死なない』です!」
「耐えましょうとも。なんならこの世の終わりまで」
着地。片膝と拳とスニーカーで地面をとらえ、遥はニカッと顔を上げた。
「全員生きてるな!? 突っ込むぞ!」
じゃらごん、じゃらごん。鈴の連なる音がする。
聞いたことも無い、世界ごと歪めていくような音の雨を右へ左へかわしながら、遥は小指から順番に拳を握り固めた。
「マスター、防御は!?」
「ナカマに任せる! 突撃姿勢だ、ハジョー攻撃!」
総員、それぞれの攻撃エネルギーを拳や足に集め始めた。
一方で――。
「みんな。やるよ」
秋人は腰下げ式の矢筒から三本いっぺんに矢をぬくと、アタッチメントをつけた弓につがえた。
「願いをこめて……」
引き、しぼり、満を持して。
秋人の放つ矢に応じて、巫女たちも一緒になって矢を放った。
因子戦闘でいうところの回復弾幕。ヒールカウンター。リカバリーウォール。呼び方はなんでもよいが、六実から放たれた不可視の剣を次々と矢でとらえ、打ち落としていく。
「今だよ、行って」
「サンキュー! 行け、抜塞!」
巫女が六実に次々と突撃。
炎の正拳突き、回し蹴り、稲妻チョップ、硬化掌底――人間ジャンプ台を経て大きく跳躍した遥が、光を纏った拳を六実の顔面に叩き込んだ。
直撃。
きりもみ回転しながら吹き飛ぶ六実。
腕を地面に突き立てて強制ブレーキをかけるが、巫女の強化を受けた逝がすぐさま彼女をとらえた。
逝が、ヘルメットの奥で笑った……ように思えた。
「便利そうな腕だが、切り取らせてもらうぞう」
禍々しい気を纏った刀を振り込む。
防御のために打ち込んだ六実の腕が浸食され、切り離される。
「神域は苦手だと思ってたがなあ、これはなかなか」
ぐりんとねじれた腕が螺旋状に絡まり、連なった神楽鈴が逝のボディに直撃する。
が、逝も辺り際に瘴気を打ち込んでダメージを軽減。
空中を軽やかにひねってストンと着地した。
「次は譲るさね」
「ありがとね」
プリンスは。
ハンマーを片手で握り、ぽいっと上空へ投げた。
ごきりごきりと拳を鳴らし、わずか一瞬だけ表情を険しくした。
「悪いけど、余の法がちょっとだけ高級品さ」
回転するハンマーが高く飛び上がり。
六実が無数の腕を足のように使って突撃してくる。
頂上をへて落ちてくるハンマー。
プリンスを中心に左右にずらりと並んだ巫女が、一斉に親指を下に向けた。
「教官、ヤツの構造バッチリです」
「ネットなら自宅特定してる頃です」
「それじゃ行こうか」
落ちてきたハンマーをキャッチすると、ねじれた腕のスイングに対抗するようにハンマーを叩き込んだ。
「王家に伝わる最新機構・ビルドインスタビライザー!」
衝突。
ひびわれていく腕と身体。
やがて木っ端みじんに砕け散った木材と金具と瓦と鈴。
赤い組紐が風にながれ、ばらばらにちった人骨がその場に残った。
「……気配が消えた、か」
血にまみれた顔を腕でぬぐい、赤貴は振り返った。
辺り一面焼け野原。
石の針山、毒の血の池。妖という妖は朽ちて散り、同じく血まみれの巫女たちは唇の血を舐めて振り返った。
「状況終了。情報を収集して次へ備えろ。連中が次に狙う場所を特定したい」
「教官。そのことですが……」
●髄液啜り
「武器と楽器が一つだった時代、剣と鈴は同じものだった。やがて分かれた剣と鈴は別々の派閥に受け継がれ、鈴は六実。剣は……」
赤貴は自らの握った剣、『沙門叢雲』を見下ろした。
「七栄神社が狙われそう、ってこと? もしそうなら、今回は奪還じゃなくて迎撃ができそうだね」
プリンスはうんうんと頷いた。
後ろで巫女の品川が赤貴にとびつこうとして、死番隊の巫女たちに締め上げられていた。無視した。
「私も、できることがあればご協力します」
かなりボロボロな灯も、汗をぬぐって頷いた。
次の戦いは、そう遠くはなさそうだ。
回収された六実の骨は、神社へ丁重に納められた。
手を合わせる遥。逝はぽりぽりと頭(というかヘルメット)をかいている。
「しっかし……今回の敵って、明らかに妖に対抗する人間を狙ってきてるよな。AAAとかファイヴとか、やばいんじゃね?」
「AAAなんて明日にも狙われそうだねえ」
本当になったら大変なことだなあと、若干他人事みたいに空を見て言う逝。
秋人は。
「俺は、日本の信仰心にもダメージを与えてると思う。すがるものが無くなると、人は邪教傾倒や悪魔崇拝をしはじめるから……」
世界の歴史が証明してきた事実である。
もしそれらを熟知したうえで日本を攻撃しているのなら。
「ただ現われた妖を倒すだけじゃ、人間は負けてしまうかもしれない」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
