<冷酷島>フレイムテイル
●序論・冷酷島とは
『冷酷島』
正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立地に作られた複合都市でした。
日本の多くが妖によって被害を受ける中、日本国土の外側に居住地を建設すれば安全になるのだという主張から建設されたその人工島は、政治家と市民たちが夢見たフロンティアだったのです。
学校、病院、警察署や消防署、スタジアムや自然公園、高層マンションや一戸建ての住宅街。最新の技術で整えられたその人工島は、安息の地になるはずでした。
しかし、ならなかったのです。
●『発見とは空から降ってくるものではない。積み上げて作るものだ』
新田・成(CL2000538) は仲間たちの集めてきた資料を基に、独自の推論を組み立てていた。
それは、妖への学び。『妖学(あやかしがく)』ともいうべきものの一歩である。
「妖は自然発生的に生まれますが、必ず人のいる場所へ移動します。人口密度や人種に関わらずね。これを人を憎むような動きから『憎(ぞう)』と呼ぶとします。
次に、妖を倒さず密集地を放置した場合、高ランクの妖が培養されやすくなります。これを発酵現象に似ることから『腐(ふ)』と呼ぶとします。
冷酷島には、この憎と腐のバランスによって非常に高度かつ複雑な妖のコミュニティ化、そして人間並みの知能をもったランク4以上の妖の出現が見込まれているのです」
妖の集中的な急増によって橋を落とされた人工島、冷酷島。
ここでの妖の発生原因を考えていた彼らは、それが奇跡的なものではなく『なるようにしてなったもの』であったことに、早くも気づき始めていた。
仲間の一人が垂れ目顔で『なにもしてないのに壊れたっていうパソコンみたいだね』と言ったが、成もそれに深く頷いた。
「現在、冷酷島には二つの目標が存在しています。
ひとつは『冷酷島の浄化』。ランク4妖の討伐によってコミュニティを解体し、島の居住環境を取り戻すことです。
もうひとつは『島外の保安』。島の外にいる人間を求めて動く妖を撃退し、島周辺の地域を保護することです」
しかしあいにく、島のコミュニティを今すぐに解体した場合、島で確認されている計測不明な量の妖の群れをあちこちへ散らすことになり、島外の安全を確保できなくなってしまう。それ以前に、島の中心へ行くまでに命がもたないだろう。
「ですから、島の外側から『島外へ出ようとする妖のコミュニティ』を中心に破壊し、内部へ徐々に勢力をねじ込んでいく長期作戦を提案します。
まずは、このコミュニティからです」
●冷酷島・憎第一種:フレイムテイル
『フレイムテイル』は宙に浮かぶ巨大な炎の球体のようなR3自然系妖です。
周囲にはR1~2の妖を無数に従えており、島外への進出を企んでいるとみられています。(※プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942) の行動観察による成果)
多少のR1~2の集団なら湾を囲む防衛部隊だけでも対応できますが、この規模を止めることはできません。
放置すれば防衛線を突破され、周辺住民とその家々に大きな被害が及ぶでしょう。
「目的は『フレイムテイル』コミュニティの決定的な削減です。
島外へ出るだけの規模でなくなれば、最悪の事態を防ぐことができますからね」
フレイムテイルとその眷属は炎に特化した様々な妖で構成されている。
戦闘方法は様々だが、火傷系の異常状態にさえ気をつければ充分に対抗できるだろう。
作戦にあたっては装甲船や装甲ヘリといったダメージに耐えうる輸送機械をいくつも使用できる。
島と島外防衛線を行き来し、『フレイムテイル』コミュニティへの攻撃をしかけよう。
『冷酷島』
正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立地に作られた複合都市でした。
日本の多くが妖によって被害を受ける中、日本国土の外側に居住地を建設すれば安全になるのだという主張から建設されたその人工島は、政治家と市民たちが夢見たフロンティアだったのです。
学校、病院、警察署や消防署、スタジアムや自然公園、高層マンションや一戸建ての住宅街。最新の技術で整えられたその人工島は、安息の地になるはずでした。
しかし、ならなかったのです。
●『発見とは空から降ってくるものではない。積み上げて作るものだ』
新田・成(CL2000538) は仲間たちの集めてきた資料を基に、独自の推論を組み立てていた。
それは、妖への学び。『妖学(あやかしがく)』ともいうべきものの一歩である。
「妖は自然発生的に生まれますが、必ず人のいる場所へ移動します。人口密度や人種に関わらずね。これを人を憎むような動きから『憎(ぞう)』と呼ぶとします。
次に、妖を倒さず密集地を放置した場合、高ランクの妖が培養されやすくなります。これを発酵現象に似ることから『腐(ふ)』と呼ぶとします。
冷酷島には、この憎と腐のバランスによって非常に高度かつ複雑な妖のコミュニティ化、そして人間並みの知能をもったランク4以上の妖の出現が見込まれているのです」
妖の集中的な急増によって橋を落とされた人工島、冷酷島。
ここでの妖の発生原因を考えていた彼らは、それが奇跡的なものではなく『なるようにしてなったもの』であったことに、早くも気づき始めていた。
仲間の一人が垂れ目顔で『なにもしてないのに壊れたっていうパソコンみたいだね』と言ったが、成もそれに深く頷いた。
「現在、冷酷島には二つの目標が存在しています。
ひとつは『冷酷島の浄化』。ランク4妖の討伐によってコミュニティを解体し、島の居住環境を取り戻すことです。
もうひとつは『島外の保安』。島の外にいる人間を求めて動く妖を撃退し、島周辺の地域を保護することです」
しかしあいにく、島のコミュニティを今すぐに解体した場合、島で確認されている計測不明な量の妖の群れをあちこちへ散らすことになり、島外の安全を確保できなくなってしまう。それ以前に、島の中心へ行くまでに命がもたないだろう。
「ですから、島の外側から『島外へ出ようとする妖のコミュニティ』を中心に破壊し、内部へ徐々に勢力をねじ込んでいく長期作戦を提案します。
まずは、このコミュニティからです」
●冷酷島・憎第一種:フレイムテイル
『フレイムテイル』は宙に浮かぶ巨大な炎の球体のようなR3自然系妖です。
周囲にはR1~2の妖を無数に従えており、島外への進出を企んでいるとみられています。(※プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942) の行動観察による成果)
多少のR1~2の集団なら湾を囲む防衛部隊だけでも対応できますが、この規模を止めることはできません。
放置すれば防衛線を突破され、周辺住民とその家々に大きな被害が及ぶでしょう。
「目的は『フレイムテイル』コミュニティの決定的な削減です。
島外へ出るだけの規模でなくなれば、最悪の事態を防ぐことができますからね」
フレイムテイルとその眷属は炎に特化した様々な妖で構成されている。
戦闘方法は様々だが、火傷系の異常状態にさえ気をつければ充分に対抗できるだろう。
作戦にあたっては装甲船や装甲ヘリといったダメージに耐えうる輸送機械をいくつも使用できる。
島と島外防衛線を行き来し、『フレイムテイル』コミュニティへの攻撃をしかけよう。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.フレイムテイルの眷属を一定ポイント数以上撃破する(※1)
2.戦闘不能者が3人を超える前に作戦を終了する
3.作戦開始から2時間以内に終了させる
2.戦闘不能者が3人を超える前に作戦を終了する
3.作戦開始から2時間以内に終了させる
色々な形に分岐し、場合によってはルートが増える構成となっております。
そんなわけで、飛び入り参加をいつでも歓迎しております。
【作戦目的】
・主目標:フレイムテイルコミュニティの削減
→撃破ポイント『50以上』を達成すること(※1)
・副目標:フレイムテイルコミュニティの状況把握
・発展目標:フレイムテイルコミュニティの破壊
※1:今作戦においては、妖のランクごとに撃破ポイントが設定されています。
R1=1ポイント、R2=5ポイント、フレイムテイル=100ポイント
【エネミーデータ】
●フレイムテイルコミュニティ
・ボスはR3自然系妖『フレイムテイル』
・宙に浮いた巨大な炎の球体。触れるだけで敵対者を破壊できるほどの凶悪な存在。
・R1~2の眷属を無数に従えている。
島外から計測できただけでも100体以上。確実にそれ以上存在している。
島北西にある約1500平方メートルの空き地をナワバリとし、外縁部に多く分布しています。
●フレイムテイル
・コミュニティのボス
・パッシブで『強カウンター』『強反射』をもつ
・自身が攻撃されない限り、自分からは攻撃を行なわないと思われる。
→調査員が目視可能な範囲まで近づいても反応を示さなかったため。確定情報ではないので過信は禁物。
・攻撃方法その他は不明
●眷属(R1~R2)
・スペックはバラバラな妖の群れ。自然系妖、物質系妖で構成されている。
・全体的にスペックは低め。
→R2も「R2にしては弱い方」。
・全個体が攻撃で【火傷系】の異常状態を付与する。
【シチュエーションデータ】
●島への移動
・島の北西にある航空管制塔から監視しつつ、船やヘリによる乗り付けを行なう。
島と島外の陸間距離は約500メートル。
・強襲用装甲船を使用可能
6~10人乗りのボート。揺れは激しいが敵からの攻撃にそこそこ耐える。
複数用意してあるので何台か沈んでもリトライ可能。
・降下作戦用装甲ヘリ
6~10人乗りのヘリコプター。1ターン使って安全に着地できるインスタント降下装置を使って上空から降下、襲撃できる。
・今回に限り船やヘリが近づいた場合機体も妖から攻撃を受ける。長時間攻撃に晒されると沈むおそれがある。
・撤退手段を残さないまま現地に残ると重軽傷のおそれがある。
→最悪の場合は防衛線の兵士が命がけで突入してPCを救助します。(兵士が沢山死にます)
・戦闘不能になったらリトライ不能
島内で戦闘不能になっても撤退行動だけはとれるものとします。
・島との行き来は『何度行なってもOK』。
ただしコミュニティを刺激しすぎないように、開始から2時間以内に作戦を終了させること。
→最悪の場合は防衛線の兵士が命がけで突入して囮になります。(兵士が沢山死にます)
【事後調査】
(※こちらは、PLが好むタイプのシナリオへシフトしやすくするための試験運用機能です)
島内は非常に危険なため、依頼完了後は一般人や調査・戦闘部隊はみな島外に退避します。
しかし高い生存能力をもつPCたちは依頼終了後に島内の調査を行なうことができます。
以下の三つのうちから好きな行動を選んでEXプレイングに記入して下さい。
※EX外に書いたプレイングは判定されません
・『A:追跡調査』今回の妖や事件の痕跡を更に追うことで同様の事件を見つけやすくなり、同様の依頼が発生しやすくなります。
・『B:特定調査』特定の事件を調査します。「島内で○○な事件が起きているかも」「○○な敵と戦いたい」といった形でプレイングをかけることで、ピンポイントな依頼が発生しやすくなります。
・『C:島外警備』調査や探索はせず、島外の警備を手伝います。依頼発生には影響しなさそうですが、島外に妖が出ないように守ることも大事です。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年04月28日
2017年04月28日
■メイン参加者 6人■

●炎の丘へ船を出せ
管制塔から南に五百メートル。
ランク3妖フレイムテイルとそのコミュニティがナワバリとしている空き地へとボートを進めていた。
揺れの激しいボートの上で、舌を噛まないようにか黙りこくった『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。
ひどく深刻そうなことを考えている顔だったが、『教授』新田・成(CL2000538)はいつも通りの顔で肩を叩いた。
「知っていますか。風邪をひいたときは風邪薬を飲むと治るのです」
「え……えっと、誰でも知ってると、思いますけど……」
「そうです。だから急に風邪で人が苦しんだからといって神罰や魔女の呪いを疑いはしない」
黙って顔を見る奏空に、成は小さく二度頷いた。
「未知は根拠の無い恐怖を生みますが、知りさえすればいい。恐怖を感じるのは、その後でも遅くはありませんよ」
「それって……」
自分の考えを読んだのですか? そう質問しようとしたところで、『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が成の肩をつかんでがっくんがっくんし始めた。
「ぷろふぇっさー! すごいとこ連れてってくれるっていうからゲイシャハウスだと思ったのに、ゲイシャいないじゃん! ハウスですらないじゃん!」
ゲイシャアソビしたかった。したかったよ。とか言って一人でしおしお崩れていくプリンス。
成は『こういう心構えが大事なのです』と言ってプリンスをいい例みたいに紹介した。とりあえず恐怖心は飛んでいった奏空である。
一方こちらは二代目のボート。
「みんなの笑顔を約束したニュータウン計画がこんな悲劇をうむなんて、かなしすぎます! この状況を打破して、みんなの笑顔を取り戻しましょう!」
『田中と書いてシャイニングと読む』ゆかり・シャイニング(CL2001288)が明日を指さすポーズ(もしくはボーイズビーアンビシャスのポーズ)で船から立ち上がり、かるく舌を噛んだ。ふごーとかいって悶絶するゆかりをよそに、じっと妖を見やる大辻・想良(CL2001476)。
フレイムテイル。
遠くから見ればただの光る玉である。
どんな力を持っているか想良には予測が付かなかったが、それでも……。
「妖は、倒します」
自らに言い聞かせるように呟く想良。
彼女の後ろで、『導きの鳥』麻弓 紡(CL2000623)が強くキャンディを噛み砕いた。
島に近づくにあたって、一瞬だけ表情を険しくしたが、すぐに洗い流すように肩の力を抜いていく。
「今回も一緒になったね。がんばろー」
おー、と言って拳を突き上げてみせる紡に、ゆかりが続いて拳を上げた。
陸地が近づいてくる。
●ファースト・トライ
目視による確認、といえどばかにはできない。
例えば奏空の超直観や紡の鷹の目、そして彼らのアテンドスキル『ていさつ』といった補強によって島外縁部に集まる妖をある程度目測することができる。
飛行や水上歩行を含む有効な海上戦闘手段を持つ妖の存在もまた、接近前に推し量ることが出来た。
ゆえに。
「先行します」
ボートから飛び上がった想良はそのまま翼を広げて飛行状態にシフト。海風にのって滑空するように妖へと先んじて激突した。
攻撃方法もきわめてシンプル。脣星落霜を贅沢にばらまきながら敵陣へと切り込むのだ。
地上戦闘では直撃しにくい技でも、飛行戦闘となるとお互いに直撃リスクが高まる。飛行してボートを襲おうとした妖たちを想良の放った光が次々ととらえては墜落させていく。
こうして先に島へと降り立った想良を、無数の妖たちが取り囲んだ。
尾から炎を引く鳥や、もえるたてがみをもった馬や、全身から火を噴き続けるスクーターや、小さな火の玉の集合体や、あれやこれやだ。
攻撃射程圏内にいるだけでも実に20体。
想良は自分で自分に語りかけるようになにごとか唱えると、空に向けて手を翳した。
光が飛び上がり、分散し、ホーミングしてあちこちへと降り注いでいく。
そうした光の雨をくぐり抜けて炎の馬が想良へと接近。
ヒヅメをもって蹴りつけようとしたその時だ。
「大辻さん、ふせて!」
空間を横薙ぎにするような青白い閃光が走った。
奏空が逆手持ちした刀から放たれた電撃だと気づいた時には、炎の馬はまとめて上下真っ二つに裂けていた。
陸に乗り上げたボートから飛び出し、砂利を踏んで崩れた斜面を駆け上がっていく奏空。
跳躍。
一瞬の滞空。
そのうちに眼球が複雑に動き、視界内のあらゆる敵を脳内でロックオンした。
「くらえっ!」
雷撃がミサイルの群れとなり、妖たちへと襲いかかる。
一足遅れる形で、プリンスと成もまた陸地へとやってきた。
「さて、妖学のフィールドワークとまいりましょう」
現われざま、高熱を発する石の集合体(ゆかりがノリで『イシヤキゴーレム』と名付けた)をハンマーアンドスラッシュで粉砕した。
「プロフェッサー、この状況どう?」
「先手をとり続ければ体力を維持したまま戦えるでしょう。戦力的には一度で目標値を達成できるかもしれません。問題は『そのあと』ですがね」
色々な問題で、2~3チームで交代しながら体力を温存しつつ戦うこともできた本作戦にておいて、『とりま全員でぶっ込んでヤバくなったら即逃げる』の作戦は各個の戦闘レベルにモノを言わせた圧倒的資本ラッシュであった。
奏空と想良(名前の音とイメージカラーが近いのでチョット親近感のある二人)が術式攻撃を仕掛け、想良は全体攻撃で数の多く耐久力の低いR1を、奏空は列攻撃で数が少なく耐久力の高いR2をゆだんなく潰していく。
術式耐性(正確には高い特防値)をもつ妖はプリンスが列攻撃で仕留めていく。
さらには盾になろうとする妖たちの行動を成がBOTの貫通攻撃でフォローするという徹底ぶりである。
フレイムテイルコミュニティに対する攻撃面のパズルはほぼ完成したと言ってもいいだろう。
そうなると気になるのはチームの耐久力や燃費だが……。
「先ファイヤー!」
光のホーミングミサイルをかいくぐった火の玉めがけてごま油の瓶をぶん投げるゆかり。
「追いファイヤー!」
倒れてなお動き出そうとする炎の牛にオリーブオイルをボトルでぶっかけるゆかり。
「しめファイヤー!」
スピンして地面を滑ってきた爆炎バイクに一斗缶で灯油をぶっかけるゆかり。
とかやっていたところに、巨大な炎の鳥が上空に現われ、炎の矢を大量に放ってきた。
イシヤキゴーレムも自らの身体から小石を大量にばらまいて、かるくメテオスウォーム的な攻撃を仕掛けてくる。
「やばい! なんか熱そうなの来ます来ますって! 回復おねがいしまーす!」
「はいよー」
追いすがるファイヤーマネキン(これもゆかりネーミング)をステッキで殴り倒していた紡が、空に向けて大粒のキャンディをスリングショットで発射した。
空ではじけたキャンディが治癒の雨になって降り注ぐ。
カウンター属性よる反撃や反応速度の高い敵による攻撃でうけたダメージを、回復力の高い紡がみるみる回復していく。
連発すると燃費が心配になるが、奏空と紡の大填気、プリンスと想良の填気を数ターンに一回挟むことで気力ゲージ的なものをほぼ満タンに保つことが出来た。
むしろ攻撃範囲内の敵を倒しきってしまった場合なんかは手が余るので、紡は演舞・清爽や戦巫女之祝詞をちょこちょこ挟んで攻撃サイクルを更に強化させるほどである。
想定外に強すぎる敵が急に沢山現われたり、悪い意味で奇跡的にファンブルが続いたりでもしない限りは負けない鉄壁のサイクルが、ここに完成していた。
更に贅沢なことに。
「50ポイント達成キました! 一旦撤収しましょう!」
仲間の送受心ごしに集めていたキルカウントを頭ンなかで暗算していたゆかりがポケットからハンドランチャー(トリガープルによる花火発射装置。武器ではないものを指す)を天に向け、信号弾を発射した。
●フレイムテイル
一度ボートで対岸まで撤収した六人は、スポーツドリンクをちゅるちゅるしながら顔をつきあわせていた。
海上で作戦会議をしなかったのはボートがくっそ揺れるからである。まるで休憩にならない。
「これで依頼目的は達成ですよね」
タオルで汗をぬぐうゆかりに、成は深々と頷いた。
「はい。これだけ戦力を削れば、フレイムテイルの島外進出を現状の戦力で阻めるでしょう」
「周りの民がアッチッチする心配もないってことだね」
ひとりだけエナジードリンクがぶがぶしていたプリンスが、炭酸のきつさにえづいていた。
ドリンクボトルをぎゅっと握る想良。
「でも、『現状の戦力で阻める』ということは……防衛線の兵士さんたちは、危険にさらされるということですよね」
「そのリスクをぬぐい去るには、やっぱりコミュニティが島外に出ようとすること自体を止めないといけないってことか……」
腕組みして、奏空は仲間の顔色を順繰りにうかがった。
言わんとしていることを察して、力こぶをぽんぽんと叩いてみせる紡。
「まだまだいけるよ。フルパワー出せちゃう」
汗のピッタリ止まった成が、杖をついて立ち上がる。
「ここからは私たちの自由行動です。選択肢は二つ。『コミュニティの眷属を更に削っていく』か、または『フレイムテイル本体を攻撃する』か」
眷属たちを攻撃する分には、これまでの安定したサイクルを続ければよいだけだ。
フレイムテイル以外を丸裸にして放置というセンだってある。
だがランク3の妖がそこまで愚かにぼーっとしていてくれるとも思えない。
それになにより、彼らの意見はすでに一致していた。
「よろしい、フレイムテイルを叩きましょう」
作戦はフレイムテイル上からのヘリによる降下攻撃。
「撤退条件は半数の戦闘不能、あるいは回復手段の欠如です。時間的猶予は充分ありますから、じっくり落ち着いて挑みましょう。準備は良いですか?」
成はそう述べると、ヘリから仰向けに飛び降りた。
暫く自由落下を続けてから、素早く反転。
接近する彼を迎撃すべく放たれた妖の射撃を刀によって切り払うと、着地と同時に地面を殴りつけた。
激しい振動が地面を突き上げ、槍となってフレイムテイルに突き刺さる。
ぐにゃり、とフレイムテイルの表面が波打ったように見えた。
直後、ズドンという低い音と共に鼓膜が殺された。
大気中の粒子が激しく振動し、摩擦熱となって身体を焼いたのだ。
フレイムテイルからの攻撃だということは体感でわかる。あまりの衝撃に軽く一回は死にかけたからだ。
攻撃を受けたのは成だけではない。
追撃をはかろうとしていた全員が大気の熱に包まれた。
「余、知ってるよ。これって大気圏突入の時に出るやつだよね。なんだい余が紫外線に弱い王家だと知っての狼藉かい? 真っ黒になっちゃう!」
「麻弓さん、大辻さん、手伝って!」
奏空たちは即座に対応した。
降下しながら両手を広げ、迷霧を展開して低ランク妖の追撃リスクを回避。
と同時に紡はキャンディを大量にスリングショットにかけて発射。拡散したキャンディドロップが熱攻撃への対抗癒力の膜となった。
膜を突き抜けながら舞いを起こす想良。
仲間たちにまとわりつく激しい炎を散らせていく。
続けざまに着地する三人。
――をカバーするようにスーパーヒーロー着地するゆかり。
「お小遣いで買った楽器の、見せ所です!」
しゃきーんと引き抜いたアルトリコーダーを、ゆかりはそっとくわえた。
ドの構え(ゆかりの手の大きさ的にけっこうギリギリ)をして、アマリリス的ななんかちょっと近いやつをビミョーにはずしながら演奏し始める。
なんでか知らないけど周囲でぼかすか爆発がおこり、群がってきた妖たちが吹き飛んでいく。
一方で、フレイムテイルは表面の炎を螺旋状に波立たせていった。
「なにをしようとしている……?」
目を細める成。
「とりあえず、打ってみないと!」
ぶん、とハンマーを振りかざし、フレイムテイルに飛びかかる。
間に無数の妖が割り込もうとするが、プリンスは構わずぶち抜くように打ち込んだ。
衝撃がフレイムテイルに直撃した。
したが……。
「あれ? なんか全然手応え無いね。プロフェッサー、なんかわかる?」
「殿下のおっしゃるとおり、ほぼダメージになっていないようです。先程の螺旋状の波が影響しているのでしょうか……」
螺旋状の波がどんどんねじれていき、ついにはサボテンのトゲのように波が突き出ていく。
最初の全体攻撃からこっち、2ターンほど攻撃が来ていない。……という所から考えて自己を強化ないしは補助するスキルを使用していると思われる。
そしてこういうとき、『良い意味で悲観的』な奏空のカンが活きてくるのだ。
「みんな気をつけて、なにかヤバそうだ!」
周囲の妖たちはこぞってフレイムテイルを庇おうと、ないしは奏空たちを引きはがそうと襲いかかってくる。
イシヤキゴーレムが爆発する拳によって奏空を殴りつけ、強烈にノックバックさせてきた時にその意図を察した。
「速度では俺が勝ってるはず。直前に回復をぶつければ、耐えられるかも……!」
そうこうしているうちにフレイムテイルは透明な円盤めいたエネルギー体を発生させた。
盾、というよりスピーカーの外部振動膜に似た、くぼんだ形状をしている。
「雑魚を減らそうか。また手伝ってくれる?」
「はい……」
紡と想良はそれぞれの術を会わせ、光のホーミングミサイルと凰の攻撃でもって周囲の妖たちを蹴散らしていく。
そして、フレイムテイルが急激にぐにょんと潰れた。ゴムボールの半分だけをへこませたように、急激かつ極端に、そして球形から複雑な幾何学立体へと変形。中央からきわめてまばゆい光を放った。
光は幕を通じて拡大し、プリンスを、成を、奏空を、ゆかりを、想良を、紡を包み込んだ巨大なレーザービームとなった。
この状態を正しく表現することは難しい。なぜなら『巨大な最初に電子レンジにかけられたことはあるだろうか?』と質問せねばならないからだ。そしてイエスと応えられる人間の多くが生きているはずがないからだ。
一番近いイメージは、うっかり殻つき生卵を電子レンジにかけてしまった状態だろうか。
命を沢山もっているとされるファイヴ覚者の彼らとて、一度死ぬほどのダメージは免れなかった。
「お……俺よりも早く撃ってくるなんて、どういう……」
「恐らく速度補正です。撤退しましょう。次にくらったら終わりです!」
表情を険しくした成が戦闘行動を放り出して撤退を開始。
想良と紡はそれぞれ飛行し、追いすがる妖たちを迎撃しながら海辺へと飛び始めた。
しかし、次なる攻撃がくることは無かった。再びフレイムテイルは沈黙し、表面の波形を変化させはじめている。
その様子から殆どのことを察した成は眼鏡を押し上げた。
島から遠ざかるボートの上で、完全に沈黙するフレイムテイルとその眷属たちをみやる。
次なる作戦の計画を、頭の中で練りながら。
管制塔から南に五百メートル。
ランク3妖フレイムテイルとそのコミュニティがナワバリとしている空き地へとボートを進めていた。
揺れの激しいボートの上で、舌を噛まないようにか黙りこくった『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。
ひどく深刻そうなことを考えている顔だったが、『教授』新田・成(CL2000538)はいつも通りの顔で肩を叩いた。
「知っていますか。風邪をひいたときは風邪薬を飲むと治るのです」
「え……えっと、誰でも知ってると、思いますけど……」
「そうです。だから急に風邪で人が苦しんだからといって神罰や魔女の呪いを疑いはしない」
黙って顔を見る奏空に、成は小さく二度頷いた。
「未知は根拠の無い恐怖を生みますが、知りさえすればいい。恐怖を感じるのは、その後でも遅くはありませんよ」
「それって……」
自分の考えを読んだのですか? そう質問しようとしたところで、『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が成の肩をつかんでがっくんがっくんし始めた。
「ぷろふぇっさー! すごいとこ連れてってくれるっていうからゲイシャハウスだと思ったのに、ゲイシャいないじゃん! ハウスですらないじゃん!」
ゲイシャアソビしたかった。したかったよ。とか言って一人でしおしお崩れていくプリンス。
成は『こういう心構えが大事なのです』と言ってプリンスをいい例みたいに紹介した。とりあえず恐怖心は飛んでいった奏空である。
一方こちらは二代目のボート。
「みんなの笑顔を約束したニュータウン計画がこんな悲劇をうむなんて、かなしすぎます! この状況を打破して、みんなの笑顔を取り戻しましょう!」
『田中と書いてシャイニングと読む』ゆかり・シャイニング(CL2001288)が明日を指さすポーズ(もしくはボーイズビーアンビシャスのポーズ)で船から立ち上がり、かるく舌を噛んだ。ふごーとかいって悶絶するゆかりをよそに、じっと妖を見やる大辻・想良(CL2001476)。
フレイムテイル。
遠くから見ればただの光る玉である。
どんな力を持っているか想良には予測が付かなかったが、それでも……。
「妖は、倒します」
自らに言い聞かせるように呟く想良。
彼女の後ろで、『導きの鳥』麻弓 紡(CL2000623)が強くキャンディを噛み砕いた。
島に近づくにあたって、一瞬だけ表情を険しくしたが、すぐに洗い流すように肩の力を抜いていく。
「今回も一緒になったね。がんばろー」
おー、と言って拳を突き上げてみせる紡に、ゆかりが続いて拳を上げた。
陸地が近づいてくる。
●ファースト・トライ
目視による確認、といえどばかにはできない。
例えば奏空の超直観や紡の鷹の目、そして彼らのアテンドスキル『ていさつ』といった補強によって島外縁部に集まる妖をある程度目測することができる。
飛行や水上歩行を含む有効な海上戦闘手段を持つ妖の存在もまた、接近前に推し量ることが出来た。
ゆえに。
「先行します」
ボートから飛び上がった想良はそのまま翼を広げて飛行状態にシフト。海風にのって滑空するように妖へと先んじて激突した。
攻撃方法もきわめてシンプル。脣星落霜を贅沢にばらまきながら敵陣へと切り込むのだ。
地上戦闘では直撃しにくい技でも、飛行戦闘となるとお互いに直撃リスクが高まる。飛行してボートを襲おうとした妖たちを想良の放った光が次々ととらえては墜落させていく。
こうして先に島へと降り立った想良を、無数の妖たちが取り囲んだ。
尾から炎を引く鳥や、もえるたてがみをもった馬や、全身から火を噴き続けるスクーターや、小さな火の玉の集合体や、あれやこれやだ。
攻撃射程圏内にいるだけでも実に20体。
想良は自分で自分に語りかけるようになにごとか唱えると、空に向けて手を翳した。
光が飛び上がり、分散し、ホーミングしてあちこちへと降り注いでいく。
そうした光の雨をくぐり抜けて炎の馬が想良へと接近。
ヒヅメをもって蹴りつけようとしたその時だ。
「大辻さん、ふせて!」
空間を横薙ぎにするような青白い閃光が走った。
奏空が逆手持ちした刀から放たれた電撃だと気づいた時には、炎の馬はまとめて上下真っ二つに裂けていた。
陸に乗り上げたボートから飛び出し、砂利を踏んで崩れた斜面を駆け上がっていく奏空。
跳躍。
一瞬の滞空。
そのうちに眼球が複雑に動き、視界内のあらゆる敵を脳内でロックオンした。
「くらえっ!」
雷撃がミサイルの群れとなり、妖たちへと襲いかかる。
一足遅れる形で、プリンスと成もまた陸地へとやってきた。
「さて、妖学のフィールドワークとまいりましょう」
現われざま、高熱を発する石の集合体(ゆかりがノリで『イシヤキゴーレム』と名付けた)をハンマーアンドスラッシュで粉砕した。
「プロフェッサー、この状況どう?」
「先手をとり続ければ体力を維持したまま戦えるでしょう。戦力的には一度で目標値を達成できるかもしれません。問題は『そのあと』ですがね」
色々な問題で、2~3チームで交代しながら体力を温存しつつ戦うこともできた本作戦にておいて、『とりま全員でぶっ込んでヤバくなったら即逃げる』の作戦は各個の戦闘レベルにモノを言わせた圧倒的資本ラッシュであった。
奏空と想良(名前の音とイメージカラーが近いのでチョット親近感のある二人)が術式攻撃を仕掛け、想良は全体攻撃で数の多く耐久力の低いR1を、奏空は列攻撃で数が少なく耐久力の高いR2をゆだんなく潰していく。
術式耐性(正確には高い特防値)をもつ妖はプリンスが列攻撃で仕留めていく。
さらには盾になろうとする妖たちの行動を成がBOTの貫通攻撃でフォローするという徹底ぶりである。
フレイムテイルコミュニティに対する攻撃面のパズルはほぼ完成したと言ってもいいだろう。
そうなると気になるのはチームの耐久力や燃費だが……。
「先ファイヤー!」
光のホーミングミサイルをかいくぐった火の玉めがけてごま油の瓶をぶん投げるゆかり。
「追いファイヤー!」
倒れてなお動き出そうとする炎の牛にオリーブオイルをボトルでぶっかけるゆかり。
「しめファイヤー!」
スピンして地面を滑ってきた爆炎バイクに一斗缶で灯油をぶっかけるゆかり。
とかやっていたところに、巨大な炎の鳥が上空に現われ、炎の矢を大量に放ってきた。
イシヤキゴーレムも自らの身体から小石を大量にばらまいて、かるくメテオスウォーム的な攻撃を仕掛けてくる。
「やばい! なんか熱そうなの来ます来ますって! 回復おねがいしまーす!」
「はいよー」
追いすがるファイヤーマネキン(これもゆかりネーミング)をステッキで殴り倒していた紡が、空に向けて大粒のキャンディをスリングショットで発射した。
空ではじけたキャンディが治癒の雨になって降り注ぐ。
カウンター属性よる反撃や反応速度の高い敵による攻撃でうけたダメージを、回復力の高い紡がみるみる回復していく。
連発すると燃費が心配になるが、奏空と紡の大填気、プリンスと想良の填気を数ターンに一回挟むことで気力ゲージ的なものをほぼ満タンに保つことが出来た。
むしろ攻撃範囲内の敵を倒しきってしまった場合なんかは手が余るので、紡は演舞・清爽や戦巫女之祝詞をちょこちょこ挟んで攻撃サイクルを更に強化させるほどである。
想定外に強すぎる敵が急に沢山現われたり、悪い意味で奇跡的にファンブルが続いたりでもしない限りは負けない鉄壁のサイクルが、ここに完成していた。
更に贅沢なことに。
「50ポイント達成キました! 一旦撤収しましょう!」
仲間の送受心ごしに集めていたキルカウントを頭ンなかで暗算していたゆかりがポケットからハンドランチャー(トリガープルによる花火発射装置。武器ではないものを指す)を天に向け、信号弾を発射した。
●フレイムテイル
一度ボートで対岸まで撤収した六人は、スポーツドリンクをちゅるちゅるしながら顔をつきあわせていた。
海上で作戦会議をしなかったのはボートがくっそ揺れるからである。まるで休憩にならない。
「これで依頼目的は達成ですよね」
タオルで汗をぬぐうゆかりに、成は深々と頷いた。
「はい。これだけ戦力を削れば、フレイムテイルの島外進出を現状の戦力で阻めるでしょう」
「周りの民がアッチッチする心配もないってことだね」
ひとりだけエナジードリンクがぶがぶしていたプリンスが、炭酸のきつさにえづいていた。
ドリンクボトルをぎゅっと握る想良。
「でも、『現状の戦力で阻める』ということは……防衛線の兵士さんたちは、危険にさらされるということですよね」
「そのリスクをぬぐい去るには、やっぱりコミュニティが島外に出ようとすること自体を止めないといけないってことか……」
腕組みして、奏空は仲間の顔色を順繰りにうかがった。
言わんとしていることを察して、力こぶをぽんぽんと叩いてみせる紡。
「まだまだいけるよ。フルパワー出せちゃう」
汗のピッタリ止まった成が、杖をついて立ち上がる。
「ここからは私たちの自由行動です。選択肢は二つ。『コミュニティの眷属を更に削っていく』か、または『フレイムテイル本体を攻撃する』か」
眷属たちを攻撃する分には、これまでの安定したサイクルを続ければよいだけだ。
フレイムテイル以外を丸裸にして放置というセンだってある。
だがランク3の妖がそこまで愚かにぼーっとしていてくれるとも思えない。
それになにより、彼らの意見はすでに一致していた。
「よろしい、フレイムテイルを叩きましょう」
作戦はフレイムテイル上からのヘリによる降下攻撃。
「撤退条件は半数の戦闘不能、あるいは回復手段の欠如です。時間的猶予は充分ありますから、じっくり落ち着いて挑みましょう。準備は良いですか?」
成はそう述べると、ヘリから仰向けに飛び降りた。
暫く自由落下を続けてから、素早く反転。
接近する彼を迎撃すべく放たれた妖の射撃を刀によって切り払うと、着地と同時に地面を殴りつけた。
激しい振動が地面を突き上げ、槍となってフレイムテイルに突き刺さる。
ぐにゃり、とフレイムテイルの表面が波打ったように見えた。
直後、ズドンという低い音と共に鼓膜が殺された。
大気中の粒子が激しく振動し、摩擦熱となって身体を焼いたのだ。
フレイムテイルからの攻撃だということは体感でわかる。あまりの衝撃に軽く一回は死にかけたからだ。
攻撃を受けたのは成だけではない。
追撃をはかろうとしていた全員が大気の熱に包まれた。
「余、知ってるよ。これって大気圏突入の時に出るやつだよね。なんだい余が紫外線に弱い王家だと知っての狼藉かい? 真っ黒になっちゃう!」
「麻弓さん、大辻さん、手伝って!」
奏空たちは即座に対応した。
降下しながら両手を広げ、迷霧を展開して低ランク妖の追撃リスクを回避。
と同時に紡はキャンディを大量にスリングショットにかけて発射。拡散したキャンディドロップが熱攻撃への対抗癒力の膜となった。
膜を突き抜けながら舞いを起こす想良。
仲間たちにまとわりつく激しい炎を散らせていく。
続けざまに着地する三人。
――をカバーするようにスーパーヒーロー着地するゆかり。
「お小遣いで買った楽器の、見せ所です!」
しゃきーんと引き抜いたアルトリコーダーを、ゆかりはそっとくわえた。
ドの構え(ゆかりの手の大きさ的にけっこうギリギリ)をして、アマリリス的ななんかちょっと近いやつをビミョーにはずしながら演奏し始める。
なんでか知らないけど周囲でぼかすか爆発がおこり、群がってきた妖たちが吹き飛んでいく。
一方で、フレイムテイルは表面の炎を螺旋状に波立たせていった。
「なにをしようとしている……?」
目を細める成。
「とりあえず、打ってみないと!」
ぶん、とハンマーを振りかざし、フレイムテイルに飛びかかる。
間に無数の妖が割り込もうとするが、プリンスは構わずぶち抜くように打ち込んだ。
衝撃がフレイムテイルに直撃した。
したが……。
「あれ? なんか全然手応え無いね。プロフェッサー、なんかわかる?」
「殿下のおっしゃるとおり、ほぼダメージになっていないようです。先程の螺旋状の波が影響しているのでしょうか……」
螺旋状の波がどんどんねじれていき、ついにはサボテンのトゲのように波が突き出ていく。
最初の全体攻撃からこっち、2ターンほど攻撃が来ていない。……という所から考えて自己を強化ないしは補助するスキルを使用していると思われる。
そしてこういうとき、『良い意味で悲観的』な奏空のカンが活きてくるのだ。
「みんな気をつけて、なにかヤバそうだ!」
周囲の妖たちはこぞってフレイムテイルを庇おうと、ないしは奏空たちを引きはがそうと襲いかかってくる。
イシヤキゴーレムが爆発する拳によって奏空を殴りつけ、強烈にノックバックさせてきた時にその意図を察した。
「速度では俺が勝ってるはず。直前に回復をぶつければ、耐えられるかも……!」
そうこうしているうちにフレイムテイルは透明な円盤めいたエネルギー体を発生させた。
盾、というよりスピーカーの外部振動膜に似た、くぼんだ形状をしている。
「雑魚を減らそうか。また手伝ってくれる?」
「はい……」
紡と想良はそれぞれの術を会わせ、光のホーミングミサイルと凰の攻撃でもって周囲の妖たちを蹴散らしていく。
そして、フレイムテイルが急激にぐにょんと潰れた。ゴムボールの半分だけをへこませたように、急激かつ極端に、そして球形から複雑な幾何学立体へと変形。中央からきわめてまばゆい光を放った。
光は幕を通じて拡大し、プリンスを、成を、奏空を、ゆかりを、想良を、紡を包み込んだ巨大なレーザービームとなった。
この状態を正しく表現することは難しい。なぜなら『巨大な最初に電子レンジにかけられたことはあるだろうか?』と質問せねばならないからだ。そしてイエスと応えられる人間の多くが生きているはずがないからだ。
一番近いイメージは、うっかり殻つき生卵を電子レンジにかけてしまった状態だろうか。
命を沢山もっているとされるファイヴ覚者の彼らとて、一度死ぬほどのダメージは免れなかった。
「お……俺よりも早く撃ってくるなんて、どういう……」
「恐らく速度補正です。撤退しましょう。次にくらったら終わりです!」
表情を険しくした成が戦闘行動を放り出して撤退を開始。
想良と紡はそれぞれ飛行し、追いすがる妖たちを迎撃しながら海辺へと飛び始めた。
しかし、次なる攻撃がくることは無かった。再びフレイムテイルは沈黙し、表面の波形を変化させはじめている。
その様子から殆どのことを察した成は眼鏡を押し上げた。
島から遠ざかるボートの上で、完全に沈黙するフレイムテイルとその眷属たちをみやる。
次なる作戦の計画を、頭の中で練りながら。
