誉れ高き角は欠け
誉れ高き角は欠け


●折れた角
 鬼とは古来より人と共に在った古妖である。
 鬼は時には恐ろしい悪として語られた。人を襲って食らう化け物だと。
 また時には畏怖すべき神として語られた。時に試練を、時に罰を、時に救済を与える力ある者だと。
 諸説ある鬼の話のどれが本物で、どれが偽者かは今も分からないものが多い。
 ただ分かっているのは、人智を超える力を持ち、今も陰ながら人と共に生きているということだ。

「不覚」
 そんな鬼が額を押さえながら山の中を歩いていた。
「次こそは」
 額にあるべき2本の角、その片方を失った鬼は憤怒の表情を浮かべ山の頂へと足を向けた。

●夢見のビジョン
 これは、未来に起こる未確定の現実――

 鬼が住むと噂されている山があった。
 古来より人の手が入らず、その山の自然を荒らそうとする者は祟りに遭うのだという。
 しかし、逆に山の掟を守っていれば恵みを与えてくれるありがたい存在ともされていた。
「おかしいな。全然見つからない」
 その山の中、木の根元辺りを見渡している男――吉田が首を傾げた。
 吉田が探しているのはきのこだ。夏も終わり秋へと季節が移り変わったこの時期、山のあちこちに生えているはずのきのこが見つからない。
 吉田は毎年この山できのこ狩りをしているが、こんなことは初めてである。不作の年もあったが、1本も見つからないなんてことは無かった。
 と、その時である。
『オオオォォォッ!!』
 突然、山の中で大きな音が響き渡った。それはまるで獣の雄叫びのようで、吉田は驚き周囲を見渡す。
「助けてくれぇっ!!」
「この声、岡部さんか? 何処だー、岡部さんっ!」
 更にそれに続くようにして人の悲鳴まで聞こえてきた。吉田はそれが村の知り合いの声だと気づき、慌てて声のした方へと向かう。
 時間にして数分だろうか。吉田が木を避け藪を掻き分けて行くとそこには1人の男が倒れていた。
「やっぱり、岡部さん! しっかりしろっ」
 岡部と呼ばれた男は、右肩から胸元まで大きな傷を負っていた。吉田は慌ててタオルを取り出し、それを傷口に当てて止血する。
「何てこった。もしかして熊か?」
 そうだとしたら急いで村に戻り知らせないといけない。だが、そこで岡部は掠れた声で何かを言葉にする。
「逃げ、ろ。きのこが……」
「きのこ? いったい何を――」
 その時、何かが近くの茂みを揺らした。吉田が慌てて振り返ると、そこには白い体に茶色に赤の斑模様をした傘を持つ化け物の群れが迫っていた。

●F.i.V.E.ブリーフィングルーム
「今回の依頼はある事件を未然に防ぐことなんだ」
 久方 相馬(nCL2000004)は会議室を見渡してまずそう口にした。
 場所は東北地方にあるとある村の傍に聳える山だ。
 そこで今日、妖の襲撃によって死人が出る。しかし、それがどの山なのかまでは特定できたが、山中の何処で人が襲われるのかという正確な場所までは分からなかった。
 そこでFiVEが更に調査を行ったところ、過去の資料からあの山には古妖の鬼が住んでいるということが分かった。
 鬼は強い。1匹で覚者10人分の力を秘めていると言われている。
「その鬼はどうやら数百年前からあの山に住んでいるらしいんだ」
 そしてこの鬼はとても理性的で、山の掟というものを守っている限り人も自然と同様に守る善き鬼だったそうだ。
 その鬼が自分の縄張りに人に仇なす妖が現れたのなら見逃すはずはないだろう。
 しかし、それでも今回の事件が予知されたのだ。もしかするとその鬼が負けるくらいに妖は強いのかもしれない。
「とにかく、鬼を見つけて話を聞いてみて欲しいんだ。きっと力になってくれるはずだから」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:そう
■成功条件
1.古妖の鬼を見つけ、話を聞く
2.妖きのこを退治する
3.なし
●依頼内容
 事件を未然に防ぐ

●依頼区域情報
 東北地方にあるとある山。高さは800mほど。
 なだらかな山で緑が生い茂り、自然の獣も多く生息している。
 登山道といったものはなく、村の住人が使う幾つかの獣道のようなものがあるだけ。
 覚者達が到着するのは昼過ぎ。既に死を予知された村人は山に入ってしまっており連絡は着かない状態。
 予知された妖による襲撃場所も山の中ということ以外は不明。

●妖情報
 妖きのこ 4匹
  ランク1、生物系のきのこが変異した妖。
  全長1mほどで、両手には鋭い鍵爪が生えている。
  白い体に、傘の部分は茶色に赤の斑点とどくどくしい見た目をしている。
  近接攻撃以外に特に目立った攻撃手段は持っていない様子。

 巨大妖きのこ 1匹
  ランク2、妖きのこがさらに巨大がした妖。
  全長3mほどまで巨大化しており、常に怪しげな胞子を周囲に撒き散らしている。
  胞子は毒性を含んでおり、これを吸い込むと『毒』『痺れ』『混乱』の中からランダムでバッドステータスを受ける。

●古妖情報
 鬼
  古くから伝えられている鬼と考えて相違ない。
  十数年前に確認された時のデータによると、
  体長は2mほどで赤い肌に立派な二本角を持つ鬼だったらしい。
  着流しのような和服を羽織り、武器は特に持っていなかった。

●山の掟
 村に伝わる山の掟は以下の通り。
 1つ、山の自然を敬うべし。みだりに汚すべからず。
 1つ、山に入る時は鈴を持つべし。さすれば鬼の加護がある。
 1つ、山の頂には登るべからず。そこは鬼の住処なり。

●STより
 皆さんこんにちわ、そうと申します。
 今回の事件は妖に加えて、古妖の鬼が関係しているようです。
 何とか鬼を見つけて有益な情報を引き出し、事件を未然に防いでください。
 では、宜しければ皆様のご参加をお待ちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年09月29日

■メイン参加者 8人■


●山の頂へ
 秋の色へと染まりきる前の山を前に覚者達が乗る車が停まった。
「ここが鬼が住んでるっていう山か。とりあえず……お邪魔します。今日も綺麗だぜ」
 その車から一番に降りてきた四月一日 四月二日(CL2000588)は山を軽く見上げてから丁寧に挨拶の言葉を口にする。
「なに独り言を言ってるんだ、おっさん?」
 そんな四月二日の様子に鋭い目つきをした少年、葦原 赤貴(CL2001019)が怪訝そうな表情をして訪ねる。
「知らないのか? 山には神様が住んでるんだ。だから山に入る前にはしっかり挨拶しないといけないんだ」
 四月二日の説明に赤貴はふぅんとだけ返して、改めて口を開く。
「でも、住んでるのって鬼って話じゃなかったか?」
「まあ、それはそれ。ほら山の神様は女ってよく言うし……気分だよ気分」
「何だ、結局おっさんの願望かよ」
 鋭い瞳を更に細めた赤貴に、四月二日は肩を竦めて見せた。
「さて、全員無事到着したようだし。山登りを始めるとするか」
 坂上 懐良(CL2000523)の言葉を受けて覚者達は山を登り始める。
 山道は案内板もなければ舗装されている道もなく、辛うじて見つけた生き物に踏み均されて草木の生えていない獣道を辿るようにして山の頂上へと向かう。
「おっと、この先は急斜面になってるな。ちょいと迂回していこうぜ」
 そこで活躍したのは土の因子を持つ椎野 天(CL2000864)だった。彼は視覚に頼らず、この山の地形を知ることによって最適の道を皆に教えながらすいすいと山道を登っていく。
「おー、ひげのおじさんはやーい」
「ははっ、俺は健康優良アダルトバッドボーイだからな。鍛え方が違うぜ」
 羊の巻き角を頭に生やした八百万 円(CL2000681)の言葉に気をよくした天は更にペースを上げて山を登っていく。
「もう少しで頂上付近だね。けど、まさか昔話でもよく聞く鬼と会えるなんて流石は……うん、様々だよね」
 嬉しさからか思わず組織の名前を出しそうになったのを飲み込んで、九段 笹雪(CL2000517)は期待する心をそのまま表情に出して頬を緩ませる。
「おにさん早く会いたーい。まだ角2つあるかなー?」
 円も気持ちは同じようでまだ見ぬ鬼の角に興味津々のようだ。
 そんな無邪気とも言える2人の様子を険しい表情でみる少女がいた。
 その少女――酒々井 数多(CL2000149)の表情には普段浮べている爛漫な笑顔はなく、何か難しいことを考えているかのように眉を顰めていた。
「数多ちゃん、どうかしたのか?」
 そんな数多の様子に気付いたフルフェイスメットの被ったスーツの男、緒形 逝(CL2000156)が彼女に声をかけた。
「ん……別に何でもないわ」
「そうかい? 敵が近いってわけじゃないならまあいいのだけれどね」
 数多のどこか素っ気のない返事に逝もそこまで追求するつもりはなかったのかあっさりと引き下がった。
 それから数メートル進んだところで、数多はぽつりと呟く。
「ただ……」
「ん?」
「私には妖も古妖も同じものにしか思えない」
 それが数多の本心なのは逝にも伝わった。ただ、彼女の心の迷いも同時に感じ取れた。
 それは強い敵意と理解不能という困惑。その鬩ぎ合いが彼女の心の中で起こっていることを逝の力が感じ取る。
「ならば確かめてみるといいと思うぞ。折角ご本人に会えるのだからな」
「……ええ、そのつもりよ」
 それが逝から言える精一杯のアドバイスだった。そして数多も始めからそのつもりだったのか、改めて決意したように頷く。
 各々の心を胸に秘めながら覚者達は山を登る。
 ちりんと、身につけた鈴を鳴らしながら。

●古き妖、鬼
 山の頂へとやってきた覚者達。そこにはこれまで通ってきた山道と変わらずただ沢山の木々が生えているだけだ。
 少なくとも分かり易い洞窟や掘っ立て小屋のような鬼が住んでいそうな住処は見当たらない。
「この山に住む鬼の方、いらっしゃいますか?」
 笹雪は周囲に向かって声を掛ける。静かな森の中に少女の声が響くが、ソレに対する返事はない。
「……まさか、この期に及んで留守なのか?」
 全くの無反応に赤貴は周囲を見渡しながらそう愚痴る。
 もしかすれば鬼は既にここにはいないのかもしれない。訪問の予約を入れたわけでもないのだ。妖きのこの存在を察知したのならそちらへ向かってしまったのかもしれない。
「さて、どうしようか。探すにしても、この広い山をどう探したものか……」
 四月二日が頬をかく。
 高さは800mほどとそんなに高くない山だが、その広さはここにいる覚者達が手分けして探しても丸一日は掛かるだろう。
 勿論、捜索にそんなに時間をかけている暇はない。日が沈む前に事件は起こってしまうのだ。
 ここで鬼を待つか。それとも諦めて探索に出るべきか。覚者達は判断に迷う。
 その時、口を噤んでいた数多が一歩前に出ると大きく息を吸い込んだ。
「じれったいわね。もういい。どうせどこかでこっちを見てるんでしょう? ならそのまま黙ってききなさい!」
 数多は大声で姿なき鬼へと語りかける。
「この山で悪いことが起きるわ。私達はそれをなんとかしに来たの!」
 驚いた鳥達が遠くで飛び立つ音が聞こえた。それでも構わず数多は続ける。
「聞こえているなら出てきて頂戴!」
 数多が叫び終わると山の中にはまた静寂が訪れる。
 だが、数秒もしないうちに変化が起きたことをまず逝が気付いた。彼がそちらへと視線をやれば、いつの間にか大きな切り株に腰掛ける大柄なナニかがそこにいた。
 背丈こそ逝と同じほどだが、その体の幅は彼の倍以上ある。どこか古風な使い込まれた着流しに、その下の肌は人ではありえない赤褐色の肌をしている。
 そしてまごう事なき人外の証、2本の角がその額には生えていた。ただ、その片方は半ばからその先を失っていた。
「威勢のいい女子だな。今の世には珍しい」
 野太く響くような声で鬼は人の言葉を話した。聞くものを畏怖させかねない力の篭った言葉に、覚者達は思わず丹田に力を入れる。
「この山の主と音に聞く鬼殿と見受ける」
「無駄な挨拶も不要だ。それで、人間が何の用だ?」
 懐良の畏まった挨拶に鬼は首を一度横に振る。そして赤い瞳に覚者達の姿を映しながらそう問う。
「私共はこの山に現れた人を襲う妖キノコを退治に参った者です。つきましてはこの山の主である貴殿に、この山で戦闘行為をする許可を頂きたく参上しました」
 懐良に続き、天も努めて冷静に礼儀正しくこちらの用件を告げる。
 鬼は僅かに眉を動かすと一度ここに集まっている覚者達を眺める。
「お前達が今の世の人間の戦士か。少し前にも会うたが、大分変わっているな」
 それは覚者達の見た目のことか、武器や防具のことか、それとも覚者の力である源素のことを言っているのか。
 鬼は今度は瞳を閉じて、ゆっくりとした口調で語りだす。
「お前達の用件は分かった。あの痴れ者達を討伐するというのなら構わん」
「おお、そいつはありがたい。ああ、それでついでって訳じゃないんだが――」
「――しかし」
 鬼からの許しを得たところで四月二日がさらに協力を頼もうとしたところで、それを鬼の声がぴしゃりと遮る。
 鬼は閉じていた目を開けると、その視線を数多へと向けた。
「女子、その胸に憤怒の炎を抱いているな。その心、覚えがある。我を討つか?」
 どうやってか心を見透かしたのか、鬼は数多へとそう問いかけた。
 数多はそれに僅かに驚くが、それを表には出さずに鬼の瞳を睨み返す。
「それに答える前に教えて。古妖にとって、25年前から現れだした妖と、私達因子を得た覚者はどういう存在なの?」
 ずっと前から心の中でわだかまっていた疑問を、今ここで晴らしたい。数多は意を決してその問いを鬼へとぶつけた。
 鬼は僅かに考える素振りをすると、すぐにそれに答えた。
「何も変わらない。昔から何一つ変わってなどいない」
「変わってないって……どういう意味?」
 何かの謎かけのような台詞回しに数多は眉を顰める。
「我は鬼だ。人の世の栄枯盛衰をこの目で見てきた。その上で言おう。特別に言葉で語るほどお前達に変わってなどいない」
 それが数百年生きたと言われる古妖の答えなのか。少なくともこの鬼はこの25年の間に変化など感じてはいないようだった。
「何よそれ……なら、何で妖が人を襲うのかを聞いても無駄よね」
「我は知らん。欲を満たす為か、何らかの使命の為か、それとも定められた本能か。もしかすると、意志など介在していないのかもしれん」
 視線を下げた数多に鬼は思ったままに言葉を返した。
「して、答えは?」
「……貴方と戦う気なんて最初からないわ」
 数多は鬼と顔を合わせることなく、そのまま背を向けて吐き捨てるようにしてそう言った。
「あっ、むずかしいお話終わったかな? ねえねえ、鬼さん。みてみて仲間ー?」
 どうにもなんとも言えない空気が場を支配する中で、思わず力が抜けてしまうようなゆるい声で円が鬼に近づいて自分の角をアピールし始める。
「……なあ、そろそろ急がないと村人が襲われる前に助けられなくなるぞ?」
 そして赤貴が当初の目的を果たすべきだと口にする。
「赤貴の言う通りだな。鬼殿、可能ならばご助力を。されば我らは、この一時、鬼殿の手足となりて無法を討ちましょうぞ」
「人間の力を借りるつもりはなかったが、これも一興か。いいだろう」
 懐良の言葉に鬼は腰掛けていた切り株から立ち上がると、僅かに視線を彷徨わせる。そしてすぐさま1つの方向を睨むように見つめた。
「そこか……着いてこいよ、人間」
 鬼はそれだけ言うと、その見てくれからは考えられない速度で走り始めた。
「あー、ボクまだじこしょーかいしてないのに。待ってよー」
 取り出した名札を揺らしながら円は鬼の背中を追いかける。
「即断即決。気が早いのも鬼のイメージ通りだね」
「まだ聞きたいことがあったんだけどね。まあ、それは後でもいいさね」
 笹雪と逝も見失わないうちに鬼の後を追いかけはじめた。

●痴れ者なきのこ達
 山の頂から走り出して十数分。笹雪の耳が生き物の足跡を拾った。
「何か聞こえた。1つだけみたいだから、きっと村人さんだね」
「おっさんのセンサーにも反応あったぞう。お気楽極楽みたいだし、まだ襲われてはないみたいだな」
 逝の力の効果範囲でもその人物を捕らえ、どうやらただの村人であることはほぼ確定した。
「見えたぞ。奴等だ」
 その時、鬼が覚者達に向けてそう言った。
 森の枝葉を縫っていった100m近く先に、確かに動く何かがいるのが分かる。
「まさに襲われる直前ってことか。ギリギリセーフみたいだな」
 天はその手足を装甲を纏う機械仕掛けのそれに変えながら小さく口笛を吹いた。
「あたしはまずあの村人さんを逃がしてきます」
「了解。それじゃあ俺達は早いところあのお化けきのこを退治するとしようか」
 笹雪が村人を確保し避難させに向かったところで、四月二日は眼鏡を掛けてその瞳を空色へと変化させた。

「天の名を持ち地を駆けるキノコ狩りの男! テンさん現る!」
 真っ先に敵に肉薄した天が装甲を纏った拳を最前列にいた妖きのこの体に叩きつけた。
 素体がきのこであるためかその体はかなり柔らかく、その所為か正直あまり手応えらしい手応えがなかった。
「打撃が駄目なら切り裂くまでよ!」
 天に続いた数多は刀の赤い柄を強く握ると、正面に立つ2体の妖きのこの間をすり抜け様に刃を走らせた。
 斬られた妖きのこの体にはざっくりと傷跡が出来るが、出血などはなくただ白い中身が顕になっただけで怯む様子もない。
「全然堪えてる様子がない。動けなくなるまで細切れにしろってことか?」
「それならそれで望むところだ。いくぞ、合わせろ!」
 懐良は刀を腰溜めに構えると、体のバネを利用して最速の突きを放つ。その一突きは妖きのこの体を貫通し、その背後にいる巨大妖きのこを襲った。
 さらにそこに合わせるようにして赤貴が身の丈近くある大剣を横に振るうと、練りこまれた気の力が衝撃波となり巨大妖きのこの周囲を吹き飛ばす。
「あらぁ、まだ一匹も減らないのか。タフだなぁ」
 覚者達からの奇襲に近い攻撃を受けても、巨大妖きのこは勿論妖きのこ達は1匹たりとも倒れていなかった。
 そして妖きのこ達は襲撃者である覚者達に明確な敵意を持って襲い掛かってくる。
「この腕、機械化してるけど攻撃受けたら普通に痛いんだぞう!」
 戦闘機の主翼のように変化した腕で逝は妖きのこの爪を受けとめる。予想以上に鋭い鍵爪にその腕はあっという間に引っかき傷だらけになっていく。
「きのこのくせに生意気だー」
 逝へと群がる妖きのこに、円は両手に持つ大小2本の刀を跳ね上げるようにして振るう。
 1匹は片方の腕を切り落とされるが、それでも意にも介さず残った腕で円に向かって襲いかかってくる。
「ヘイ! お前さんの相手はこのテンさんだぜ!」
 だがその爪が円に届く前に、飛び上がった天の延髄斬りが妖きのこの後頭部に直撃した。
 妖きのこはもんどり打って倒れるが、それでもまだしぶとく立ち上がろうとする。
「まだ倒れないか。まるでゾンビだな」
「それなら頭を潰せば死ぬのかしらっ」
 数多の刀が目の前にいた妖きのこの顔らしき部分に突き刺さる。しかし、それでも堪えないのか妖きのこは腕を振るって数多の体を弾き飛ばした。
 さらに、そこで巨大妖きのこの体が震えたかと思うと、その傘の部分から大量の胞子が撒き散らされ始めた。赤、青、緑と明らかに有害そうな胞子が周囲に漂い始める。
「うわわっ、ぺっぺ。苦いっ!」
 円は思わず口に入った胞子を吐き出す。だがその時、急に体に痺れを感じたかと思うと迫ってくる妖きのこの攻撃に反応できず鍵爪で肩を切り裂かれる。
「マスクは多少は効果有り、か?」
 赤貴は周囲に舞う胞子を気にしながらも問題なく動く体で妖きのこに斬りかかる。だが、どうにも息が上がってきているのを感じていた。胞子にやられたのではなく、純粋に体が思った以上に疲れている気がする。
 それもそのはずである。マスクをして過度の運動をすれば酸素不足になるのは当然なのだ。そこを計算に入れてなかった分、スタミナの消耗が予想していたよりかなり早い。
「ふんっ!」
 そんな中で、鬼が1匹の妖きのこを掴むとそのまま力任せにその体を縦に引き裂いた。
 流石の妖きのこも真っ二つにされては生きていられないのか、地面に投げ捨てられてからはぴくりとも動かなくなった。
 さらに、1枚の紙切れ。いや、人形代が妖きのこ達の頭上へと飛んだかと思うと、その人形代は黒い煙を吐き出し、瞬く間に広がった雷雲から稲光と共に雷撃がその頭上へと落ちる。
「遅れちゃったね。加勢するよ」
 黄金色の瞳をした笹雪が片手に簪、片手に人形代を手に、その両方を口元に寄せるとふぅっと息を吐く。
 飛ばされた人形代はまた妖きのこ達の頭上へと飛び、雷を降り注がせた。
「ここまで来たら押しきるしかないわね」
 体中に炎の力を巡らせた数多は服の上からでも分かるほどに胸元の刺青から光を溢れさせ、手にした刃で妖きのこを横一文字に両断した。

●人と鬼と
「はぁー……しんど」
 倒れ伏した巨大妖きのこを見下ろしながら、四月二日は小さく溜息をついた。
 体力も気力もギリギリになりながら、ほぼ泥試合に近い殴り合いの末に覚者達は勝利を掴んだ。
「んー、このキノコってつかえないのかな?」
「円ちゃん、流石に腹壊すと思うからやめときな」
 そしてこんがり焼け焦げた妖きのこを見つめながら円が呟くが、傍で聴いていた天がそれをすかさず止めにかかった。
「襲われるはずだった村人も無事みたいだし、一件落着か」
「そうだな。苦戦はしたが当初の目的は果たせたし、問題ないだろう」
 特に力を使いすぎて今は地面に座り込んでいる赤貴と懐良も安堵の息を零した。
「それで鬼さんよ。結局そっちの角って失くしちまったのかい?」
「これか? いや、ちゃんとある。今はここだ」
 逝の言葉に鬼は自分の腹をぽんと叩いた。それはつまり、食べたということなのだろう。
「その角を折ったのってあのキノコなのよね。どれだけ油断してたのよ」
「ああ、不覚だった。言い訳はしない」
 数多の少し棘のある言葉にも鬼は動じず、ただ淡々と事実としてそれを受け止めているようだった。
「そうだ。ねえ、聞きたいことがあるんだ」
 そこで笹雪が思い出したかのように手をぽんと叩いて鬼の傍へと寄っていく。
 鬼に見下げられながら、笹雪はほんわりと微笑んでみせた。
「人と古妖共存のコツってあるのかな?」
 その問いに、鬼は簡潔に一言だけ答えた。
「人間と我等は既に共存している。それに気付いていないのは人間だけだ」
 暮れ行く秋の山の中で、鬼は今も人の陰で生き続けている。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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