<地下闘技場>アリーナタイマンバトル
●アリーナバトル
背景を説明しよう。かつて非道に運営されていた覚者バトル用の地下闘技場はファイヴとAAAの合同潜入作戦によって運営グループが検挙され、今では自ら望んでバトルを楽しむ者たちのための闘技場として機能している。
ギャンブルを伴った観客たちの出資により運営資金を得ているこの地下闘技場には今日も様々な覚者たちが集まってくる。
自らの技量を高める者。
まだ見ぬ戦いに渇望する者。
戦いの中に幸福を見いだす者。
そして今日、ファイヴのメンバーにもその出場チケットが寄せられたのだった。
背景を説明しよう。かつて非道に運営されていた覚者バトル用の地下闘技場はファイヴとAAAの合同潜入作戦によって運営グループが検挙され、今では自ら望んでバトルを楽しむ者たちのための闘技場として機能している。
ギャンブルを伴った観客たちの出資により運営資金を得ているこの地下闘技場には今日も様々な覚者たちが集まってくる。
自らの技量を高める者。
まだ見ぬ戦いに渇望する者。
戦いの中に幸福を見いだす者。
そして今日、ファイヴのメンバーにもその出場チケットが寄せられたのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.一対一のバトルを行なう
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
参加者どうしで対戦カードを組み、戦闘を行なってください。
ルールは以下の通りです。
・参加者は1対1の対戦カードを組む(定員マックス場合3組できあがることになる)
・覚醒状態で戦闘すること。武器、術式、体術、未開スキル、オリジナルスキルの使用が可能。(技能スキルはよほど戦闘と関係ないものでないかぎり使用可能)
・参加できるのは1人1試合まで
・命数復活禁止(使用コールは無視される)。相手を戦闘不能にするか、降参させれば勝ちとなる。
・極度な残虐行為は判定負けとなる。ただし相手が特に望んだ場合やお互いの承認がある場合を除く。
・PCが定員に達しなかった場合はNPCが席を埋める。
ステージは頑丈な半球型の金網で覆われた円形のステージです。
周囲からは観客が見ているので、見栄えがよいと人気が出たりするでしょう。
このシナリオはシリーズシナリオ『地下闘技』のアフターシリーズです。
シナリオが軌道に乗ればまた別の展開も用意できますので、ふるってご参加ください。
また『こういうバトルにも興味があります』といったご意見も募集しているのでEXプレイングあたりをご利用ください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年04月07日
2017年04月07日
■メイン参加者 6人■

●『悪意に打ち勝ちし者』魂行 輪廻(CL2000534) VS 『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)
意識がもうろうとする。
太陽よりもまぶしいライトが身体を焼き、視界を汗と光がくらませ、見下ろした手と胸には自分の血がべっとりとついていた。
「や、べえ……」
視界がゆらぎ、直斗は意識を失った。
時間を遡ろう。それはアリーナバトルの試合開始前。
清潔に保たれた金網と真新しい映画館のように心地よさそうな観客席が並ぶすり鉢状のステージで、直斗は自分の手を見下ろしていた。
緊張でやや汗をかいてはいるが刀を掴むに充分な握力。ライトがややまぶしく、好き好きに叫ぶ観客たちがやかましいが、戦う感覚自体は変わらない。
「……」
頭の中で声がしたが、刀の柄で叩いて黙らせた。
「黙ってろジャバウォック。これは俺のステージだ」
「あらぁ、ん」
冷たい蜂蜜がテーブルを流れていくような。
下腹部から喉までをゆっくりと舌で舐められるような。
否応にも反らしがたい、輪廻の声色。
「緊張してるの? 大丈夫、ちゃんとサービスしてあげるから、期待しててねん」
紫の花模様をした和服を派手に着崩して、直斗に肩を晒した。
「既に露出が多すぎだ。そんなんで動き回って大丈夫かよ」
刀を握り、試合開始を待つ。
待ったつもりだったが、観客から野次を飛ばされてはじめて『既に始まっていた』ことに気づいた。
意識が遅滞化させられた。
そう自覚した頃には、輪廻の唇が左耳の一センチ先にあった。
「――」
なんて言われたのかわからない。分かる以前に飛び退き、刀を繰り出したからだ。
毒を塗りつけた刀は殺意そのものとなって輪廻を襲う。
まるでよけもしない輪廻を切りつけ、踵から膝までをバネにかえて連続で切りつけていく。
直斗の繰り出した剣の全てがヒットし。
すべてが相手を切断し。
はらりと着物の『すべて』が分解されて落ちていった。
舞い散った衣服の破片が、光の屈折が、不思議と要所要所を隠していく。
まるでその全てを把握して自分と周囲を操作しているような、魔女めいた光景だった。
「おまえ……女ならもっと慎みを……!」
はらり。
と、輪廻が帯を手にしたように見えた。
正確にはきわめて薄く鍛えられたリボン状の刀である。
リボンの先端が床についたのを目撃した……が、音がしない。
しないと思ったら、後ろから足音がした。
振り返り、直斗は全身のいたる場所に衝撃を受けた。
吹き出た鼻血が胸と咄嗟に押さえた手をぬらす。
意識がもうろうとする。
太陽よりもまぶしいライトが身体を焼き、視界を汗と光がくらませ、見下ろした手と胸には自分の血がべっとりとついていた。
「や、べえ……」
視界がゆらぎ、直斗は意識を失った。
――ところから、一秒後。
仰向けに倒れかかった直斗は、両足をしっかり地面につけたまま大きくのけぞり、両目をカッと見開いた。
「――」
今度こそ、なんと言ったか分からない。
上体を戻すと同時に飛びかかり、輪廻の心臓めがけて刀を投擲した。
直撃――とみせかけて、片手でキャッチする輪廻。
一気に距離をつめて柄を蹴り込む直斗。
突き刺さる刀。
輪廻は吹き出た血を舌で舐めとると。
「それじゃあ、ここからは、本気よん」
追撃に輪廻の顔面を掴む直斗――の手首を握って自らの肉体を七回転。
直斗の右手首から肩にかけての関節という関節をねじ切っていく。
勢い余って回転する直斗を引き寄せると、まるで踊るようにステージ中を駆け回った。
……というのは、あくまで輪廻からの感覚である。観客からすれば直斗が突然巨大なジュースミキサーにかけられたように見えただろう。
勝敗は、いわずもがな。
しかし直斗は、きわめて得がたい『達人の戦い方』を身体で学ぶことになった。
●『新緑の剣士』御影・きせき(CL2001110) VS 緒形 逝(CL2000156)
衝撃的な試合の後に衝撃的な試合をぶっ込むのがアリーナ流である。
「今日は全力でいくよ!」
虹色の輝きと光の粉を纏ってステージへと舞い降りたきせきは、天空(にいた守護使役)から回転しながら降ってきた刀を勢いよくキャッチして見せた。
一方で。
「殺しはしないが、喰いちぎるくらいは許しておくれよ」
ステージの下から物体を透過して現われた逝が、こきりこきりと首を慣らした。
そして、大胆すぎるほどに前傾の姿勢をとる。
「おいで」
先制をとったのは逝のほうだった。ヘルメットを撫でるような不動姿勢のまま地面を次々に隆起させ、きせきの退路を塞ぐかのように責め立てていく。
対するきせきは右へ左へ飛んでかわし、直撃コースを刀でガード。
……と見せかけて隆起した地面をたどって伸ばした植物のツタを逝の足に巻き付けた。
今だ。と言ったかどうかは分からないが、風よりも早く走って距離をつめたきせきは逝へ斬撃を叩き込――んだつもりがぐねんと身体をねじ曲げた逝によって回避された。
どころか振り込んだ腕を掴まれ、大胆に放り投げられる。
金網に激突し、転がるように落ちるきせき。
逝はといえば身体をぐねんとのけぞらせるようにしてきせきを見ている。足を拘束されたから動けませんなんてことはなかろう。ハンデのつもりもないはずだ。
不気味に、しかし強固にその場を動かない。
「きせきちゃん。なぜおっさんがこの場を動かないのか、わかるかい」
「…………」
鼻血を袖でぐしぐしとぬぐい、刀を掴んで立ち上がる。
「おいで」
逝のペースだ。
立ち向かっては投げ飛ばされ、やがて心を折るつもりだろう。
四つん這いで噛みついてくるよりずっとマシだが……。
「ゲームのときとは違うんだからね」
「うん? げーむ?」
「いくよ!」
負荷効果による体術封じや、隆神槍による痺れの付与や妖刀による呪い……は、あくまで逝のオマケにすぎない。
本当の恐ろしさはこの不気味さと柔軟さにあった。
ゆえに、相手が防ぎきれない勢いで押し切るしか勝ち目は無い。
でないと、きせきの心が先にやられる。
「えいっ!」
駆け込む直前に刀を投擲。
逝の眼前――で停止させる。柄に絡みついたツタの延長上を掴んだままスライディングで相手の脇を抜け、対応しようと身体を捻る寸前で引き寄せた刀と蹴りをそれぞれ同時に叩き付ける。
そこから刀を掴んで連続で切りつけていった。
対する逝も二度ほど打撃をくらいはしたが、取り出した妖刀でもってきせきの刀をはねのけていく。
実力はほぼ互角。
ダメージやバッドステータスへの対策手段をもつのはきせきも逝も同じ。
攻撃性能も派手な差はなく、互いにひたすら刀をぶつけあう時間がしばらく、しばらくの間続いた。
決着が見え始めたのは。
「はあ、はあ……」
気力がつき、武器性能オンリーで戦う事態に発展した頃である。
「きせきちゃん」
防御力や体力で僅かに上回る逝が削りあいで勝利するかに見えた、が。
「その妖刀、上手に使うようになったなあ。おっさん、うれしいぞう」
刀が腹に突き刺さったまま、逝が笑ったように見えた。
追加ダメージ加えてしびれによる行動阻害効果が、逝との間にあった耐久力の差を埋めた。
「あ、ありがとうございました!」
きせきは逝と観客に頭を下げたあと、ばったりと仰向けに倒れた。
勝者が倒れ、敗者が立ったまま降参のシグナルを出すという、それはそれは不思議な試合であった。
●『紅戀』酒々井 数多(CL2000149) VS 『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)
強烈な試合の後に強烈な試合が来て、更に強烈な試合がぶち込まれてしまうのがアリーナ流である。つまりは箸休めなしのサーロインステーキが連続でやってくる場なのだ。
まるで人間離れした、覚者が覚者としての技術を研いで研いで研ぎ澄ましたものを、正面きってぶつけ合う。
人類がずっと昔から求めている、真剣勝負がそこにあった。
「…………」
深く息を吸って、深く吐く。
祈るように、『いただきます』の姿勢で遥は瞑目していた。
「かっこ悪いとこ、見せられないわよね?」
一方で、二回りほどサイズの大きいジャージのファスナーを開いて水着姿をさらす数多。
水着以外にはジャージの上しか着ていない。どころか、その上着すら脱ぎ捨てた。
「先輩。いや酒々井数多。俺の思ってること、ショージキ言います!」
目を見開き、一礼し、遥は構えをとった。
空手の試合を始めるような、あたりまえの構えである。
「酒々井数多は優しい!」
弾むように歩いて距離をつめ、突きを放つ。
「酒々井数多は可愛い!」
半歩距離をとって胴へ蹴りを入れる。
「酒々井数多は、エロい!」
身体をぐるんと反転させて今度は踵から蹴りを入れる。
……この三つの動作を、数多目線で現実に即して描こう。
大気を丸ごとえぐって叩き込まれたストレートパンチ。素早く翳した刀の『刃部分』で拳をとらえた。切り裂かれた衝撃が数多の髪を大きく靡かせ、背後の金網をいっぺんに拉げさせていく。
直後に繰り出された蹴り。腕でガードしようとしたら普通にへし折れた。
腕が、ではない。腕と胴体の骨と肉体に関わるあらゆる部位がへし折れて身体がねじ曲がったのだ。
と思ったのもつかの間反対側から踵が打ち込まれた。
打ち込まれたというよりは、ミサイルか何かが直撃した衝撃に近い。なにしろ接触部分で物理エネルギーが暴れて皮膚面で爆発を起こしたからだ。
よって、数多は急に惨殺死体みたいになって血煙を散らしながら吹き飛び、派手な回転と共に金網の高いところにめり込んだ。
……が。
「な、なによ、照れるじゃないのよ。美少女アイドル的には当たり前? だけど?」
カフェテラスでパフェを挟んで会話するようなテンションで、数多はウィンクした。
して、金網を蹴りつけた。
弾丸のごとく放たれた数多は途中で螺旋回転。ガード姿勢をとった遥の腕から胴体からその後ろの地面に至るまでをえぐり取った。
えぐり取ったのである。
誇張表現ではなく、その棒状空間をすぽんと消し去ったように細切れにした。
散った血肉とあれやこれやが桃色の花弁のように散っていった。
「酒々井数多は――強い!」
この時点で軽く死んでいておかしくないのだが。
基礎体力、もしくは基礎肉体耐久力の時点で常人の数倍はある彼らである。
「『紅戀』酒々井数多に真剣勝負を申し込む!」
「『雷切』鹿ノ島遥君、その勝負、受けて立つわ!」
血まみれで、ほとんど死体みたいな有様で、数多と遥は二人だけの世界に旅立った。
もはや性行為や、それを超える何かのような、互いをぶつけ互いをまき散らし、互いを混ぜ合わせてぐちゃぐちゃにしていく、それは……異形の神が見せるいとなみのようだった。
まさに新しい神が生まれるような錯覚を、観客は息を呑んで見つめた。
「負けたら罰ゲーム! アイドルステージだからね!」
「マジで!? やべええ!」
げらげらと笑いながら。
笑い声すら喉と肺ごとぐちゃぐちゃにしながら。
二人は互いを破壊しあい。
最後は。
仰向けに倒れた数多の顔面をステージの地面ごとパンチでぶっ壊し、決着した。勝利は遥のものだったが、その試合そのものが大きな勝利と言えた。
●そして新しい時代
『なんだかんだで合法』というこの覚者専用アリーナはこよい大盛況のうちに幕を閉じ、人々は人類に新しい形が生まれたことをうっすらと理解し始めていた。
そしてそれらは、人間社会にまるで当たり前のように混じり込み、このめちゃくちゃな戦闘風景さえもスポーツの一種にまで昇華させてしまうであろうことを、理解しはじめていた。
意識がもうろうとする。
太陽よりもまぶしいライトが身体を焼き、視界を汗と光がくらませ、見下ろした手と胸には自分の血がべっとりとついていた。
「や、べえ……」
視界がゆらぎ、直斗は意識を失った。
時間を遡ろう。それはアリーナバトルの試合開始前。
清潔に保たれた金網と真新しい映画館のように心地よさそうな観客席が並ぶすり鉢状のステージで、直斗は自分の手を見下ろしていた。
緊張でやや汗をかいてはいるが刀を掴むに充分な握力。ライトがややまぶしく、好き好きに叫ぶ観客たちがやかましいが、戦う感覚自体は変わらない。
「……」
頭の中で声がしたが、刀の柄で叩いて黙らせた。
「黙ってろジャバウォック。これは俺のステージだ」
「あらぁ、ん」
冷たい蜂蜜がテーブルを流れていくような。
下腹部から喉までをゆっくりと舌で舐められるような。
否応にも反らしがたい、輪廻の声色。
「緊張してるの? 大丈夫、ちゃんとサービスしてあげるから、期待しててねん」
紫の花模様をした和服を派手に着崩して、直斗に肩を晒した。
「既に露出が多すぎだ。そんなんで動き回って大丈夫かよ」
刀を握り、試合開始を待つ。
待ったつもりだったが、観客から野次を飛ばされてはじめて『既に始まっていた』ことに気づいた。
意識が遅滞化させられた。
そう自覚した頃には、輪廻の唇が左耳の一センチ先にあった。
「――」
なんて言われたのかわからない。分かる以前に飛び退き、刀を繰り出したからだ。
毒を塗りつけた刀は殺意そのものとなって輪廻を襲う。
まるでよけもしない輪廻を切りつけ、踵から膝までをバネにかえて連続で切りつけていく。
直斗の繰り出した剣の全てがヒットし。
すべてが相手を切断し。
はらりと着物の『すべて』が分解されて落ちていった。
舞い散った衣服の破片が、光の屈折が、不思議と要所要所を隠していく。
まるでその全てを把握して自分と周囲を操作しているような、魔女めいた光景だった。
「おまえ……女ならもっと慎みを……!」
はらり。
と、輪廻が帯を手にしたように見えた。
正確にはきわめて薄く鍛えられたリボン状の刀である。
リボンの先端が床についたのを目撃した……が、音がしない。
しないと思ったら、後ろから足音がした。
振り返り、直斗は全身のいたる場所に衝撃を受けた。
吹き出た鼻血が胸と咄嗟に押さえた手をぬらす。
意識がもうろうとする。
太陽よりもまぶしいライトが身体を焼き、視界を汗と光がくらませ、見下ろした手と胸には自分の血がべっとりとついていた。
「や、べえ……」
視界がゆらぎ、直斗は意識を失った。
――ところから、一秒後。
仰向けに倒れかかった直斗は、両足をしっかり地面につけたまま大きくのけぞり、両目をカッと見開いた。
「――」
今度こそ、なんと言ったか分からない。
上体を戻すと同時に飛びかかり、輪廻の心臓めがけて刀を投擲した。
直撃――とみせかけて、片手でキャッチする輪廻。
一気に距離をつめて柄を蹴り込む直斗。
突き刺さる刀。
輪廻は吹き出た血を舌で舐めとると。
「それじゃあ、ここからは、本気よん」
追撃に輪廻の顔面を掴む直斗――の手首を握って自らの肉体を七回転。
直斗の右手首から肩にかけての関節という関節をねじ切っていく。
勢い余って回転する直斗を引き寄せると、まるで踊るようにステージ中を駆け回った。
……というのは、あくまで輪廻からの感覚である。観客からすれば直斗が突然巨大なジュースミキサーにかけられたように見えただろう。
勝敗は、いわずもがな。
しかし直斗は、きわめて得がたい『達人の戦い方』を身体で学ぶことになった。
●『新緑の剣士』御影・きせき(CL2001110) VS 緒形 逝(CL2000156)
衝撃的な試合の後に衝撃的な試合をぶっ込むのがアリーナ流である。
「今日は全力でいくよ!」
虹色の輝きと光の粉を纏ってステージへと舞い降りたきせきは、天空(にいた守護使役)から回転しながら降ってきた刀を勢いよくキャッチして見せた。
一方で。
「殺しはしないが、喰いちぎるくらいは許しておくれよ」
ステージの下から物体を透過して現われた逝が、こきりこきりと首を慣らした。
そして、大胆すぎるほどに前傾の姿勢をとる。
「おいで」
先制をとったのは逝のほうだった。ヘルメットを撫でるような不動姿勢のまま地面を次々に隆起させ、きせきの退路を塞ぐかのように責め立てていく。
対するきせきは右へ左へ飛んでかわし、直撃コースを刀でガード。
……と見せかけて隆起した地面をたどって伸ばした植物のツタを逝の足に巻き付けた。
今だ。と言ったかどうかは分からないが、風よりも早く走って距離をつめたきせきは逝へ斬撃を叩き込――んだつもりがぐねんと身体をねじ曲げた逝によって回避された。
どころか振り込んだ腕を掴まれ、大胆に放り投げられる。
金網に激突し、転がるように落ちるきせき。
逝はといえば身体をぐねんとのけぞらせるようにしてきせきを見ている。足を拘束されたから動けませんなんてことはなかろう。ハンデのつもりもないはずだ。
不気味に、しかし強固にその場を動かない。
「きせきちゃん。なぜおっさんがこの場を動かないのか、わかるかい」
「…………」
鼻血を袖でぐしぐしとぬぐい、刀を掴んで立ち上がる。
「おいで」
逝のペースだ。
立ち向かっては投げ飛ばされ、やがて心を折るつもりだろう。
四つん這いで噛みついてくるよりずっとマシだが……。
「ゲームのときとは違うんだからね」
「うん? げーむ?」
「いくよ!」
負荷効果による体術封じや、隆神槍による痺れの付与や妖刀による呪い……は、あくまで逝のオマケにすぎない。
本当の恐ろしさはこの不気味さと柔軟さにあった。
ゆえに、相手が防ぎきれない勢いで押し切るしか勝ち目は無い。
でないと、きせきの心が先にやられる。
「えいっ!」
駆け込む直前に刀を投擲。
逝の眼前――で停止させる。柄に絡みついたツタの延長上を掴んだままスライディングで相手の脇を抜け、対応しようと身体を捻る寸前で引き寄せた刀と蹴りをそれぞれ同時に叩き付ける。
そこから刀を掴んで連続で切りつけていった。
対する逝も二度ほど打撃をくらいはしたが、取り出した妖刀でもってきせきの刀をはねのけていく。
実力はほぼ互角。
ダメージやバッドステータスへの対策手段をもつのはきせきも逝も同じ。
攻撃性能も派手な差はなく、互いにひたすら刀をぶつけあう時間がしばらく、しばらくの間続いた。
決着が見え始めたのは。
「はあ、はあ……」
気力がつき、武器性能オンリーで戦う事態に発展した頃である。
「きせきちゃん」
防御力や体力で僅かに上回る逝が削りあいで勝利するかに見えた、が。
「その妖刀、上手に使うようになったなあ。おっさん、うれしいぞう」
刀が腹に突き刺さったまま、逝が笑ったように見えた。
追加ダメージ加えてしびれによる行動阻害効果が、逝との間にあった耐久力の差を埋めた。
「あ、ありがとうございました!」
きせきは逝と観客に頭を下げたあと、ばったりと仰向けに倒れた。
勝者が倒れ、敗者が立ったまま降参のシグナルを出すという、それはそれは不思議な試合であった。
●『紅戀』酒々井 数多(CL2000149) VS 『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)
強烈な試合の後に強烈な試合が来て、更に強烈な試合がぶち込まれてしまうのがアリーナ流である。つまりは箸休めなしのサーロインステーキが連続でやってくる場なのだ。
まるで人間離れした、覚者が覚者としての技術を研いで研いで研ぎ澄ましたものを、正面きってぶつけ合う。
人類がずっと昔から求めている、真剣勝負がそこにあった。
「…………」
深く息を吸って、深く吐く。
祈るように、『いただきます』の姿勢で遥は瞑目していた。
「かっこ悪いとこ、見せられないわよね?」
一方で、二回りほどサイズの大きいジャージのファスナーを開いて水着姿をさらす数多。
水着以外にはジャージの上しか着ていない。どころか、その上着すら脱ぎ捨てた。
「先輩。いや酒々井数多。俺の思ってること、ショージキ言います!」
目を見開き、一礼し、遥は構えをとった。
空手の試合を始めるような、あたりまえの構えである。
「酒々井数多は優しい!」
弾むように歩いて距離をつめ、突きを放つ。
「酒々井数多は可愛い!」
半歩距離をとって胴へ蹴りを入れる。
「酒々井数多は、エロい!」
身体をぐるんと反転させて今度は踵から蹴りを入れる。
……この三つの動作を、数多目線で現実に即して描こう。
大気を丸ごとえぐって叩き込まれたストレートパンチ。素早く翳した刀の『刃部分』で拳をとらえた。切り裂かれた衝撃が数多の髪を大きく靡かせ、背後の金網をいっぺんに拉げさせていく。
直後に繰り出された蹴り。腕でガードしようとしたら普通にへし折れた。
腕が、ではない。腕と胴体の骨と肉体に関わるあらゆる部位がへし折れて身体がねじ曲がったのだ。
と思ったのもつかの間反対側から踵が打ち込まれた。
打ち込まれたというよりは、ミサイルか何かが直撃した衝撃に近い。なにしろ接触部分で物理エネルギーが暴れて皮膚面で爆発を起こしたからだ。
よって、数多は急に惨殺死体みたいになって血煙を散らしながら吹き飛び、派手な回転と共に金網の高いところにめり込んだ。
……が。
「な、なによ、照れるじゃないのよ。美少女アイドル的には当たり前? だけど?」
カフェテラスでパフェを挟んで会話するようなテンションで、数多はウィンクした。
して、金網を蹴りつけた。
弾丸のごとく放たれた数多は途中で螺旋回転。ガード姿勢をとった遥の腕から胴体からその後ろの地面に至るまでをえぐり取った。
えぐり取ったのである。
誇張表現ではなく、その棒状空間をすぽんと消し去ったように細切れにした。
散った血肉とあれやこれやが桃色の花弁のように散っていった。
「酒々井数多は――強い!」
この時点で軽く死んでいておかしくないのだが。
基礎体力、もしくは基礎肉体耐久力の時点で常人の数倍はある彼らである。
「『紅戀』酒々井数多に真剣勝負を申し込む!」
「『雷切』鹿ノ島遥君、その勝負、受けて立つわ!」
血まみれで、ほとんど死体みたいな有様で、数多と遥は二人だけの世界に旅立った。
もはや性行為や、それを超える何かのような、互いをぶつけ互いをまき散らし、互いを混ぜ合わせてぐちゃぐちゃにしていく、それは……異形の神が見せるいとなみのようだった。
まさに新しい神が生まれるような錯覚を、観客は息を呑んで見つめた。
「負けたら罰ゲーム! アイドルステージだからね!」
「マジで!? やべええ!」
げらげらと笑いながら。
笑い声すら喉と肺ごとぐちゃぐちゃにしながら。
二人は互いを破壊しあい。
最後は。
仰向けに倒れた数多の顔面をステージの地面ごとパンチでぶっ壊し、決着した。勝利は遥のものだったが、その試合そのものが大きな勝利と言えた。
●そして新しい時代
『なんだかんだで合法』というこの覚者専用アリーナはこよい大盛況のうちに幕を閉じ、人々は人類に新しい形が生まれたことをうっすらと理解し始めていた。
そしてそれらは、人間社会にまるで当たり前のように混じり込み、このめちゃくちゃな戦闘風景さえもスポーツの一種にまで昇華させてしまうであろうことを、理解しはじめていた。
