【金剛無双】隔者連合の蠢動
●
「ファイヴか……」
「まさか七星剣の幹部が破れることになるとは」
「他の大きな事件でも、この頃よく名前を聞くな」
暗がりの会議室。
集まっていたのは、錚々たる面子だった。いずれも各地で権勢を振るう隔者組織のトップ達。蛇の道は蛇……非合法活動をする者達の間にも繋がりはある。情報の交換や、組織間の交渉など。裏の世界では、裏の世界の案件が持ち上がる。
そして、現在、議題にあがっているのはとある注目株の覚者組織に関してであった。
「この前は、ウチのシマも荒らされたものだ」
「俺のところも仕事がしにくくなってきたよ」
「このままでは、次にどこが標的になるか分からんな」
会合は熱を帯びていた。
全員が全員、荒波を越えて生き抜いてきた百戦錬磨である。なればこそ、リスク管理の意識や時代の潮目には非常に敏感だ。
それだけに、彼らにとって七星剣の一角が墜ちるというニュースは衝撃をもたらし。
この後に喉元に切っ先を突き付けられるのは自分達ではないかという想像に駆られ。
ファイヴに対しての危機意識の上昇と対策を練る必要性に迫られていた。
「奴らが隔者の廃絶を基本姿勢としている以上、我々にとっては明確な敵だ」
「まともにぶつかったとしても、易々とくだされるとは思わんが」
「用心に越したことはない……とりあえず、ここに居る面々で連合を組んではどうか?」
「だな」
「致しかたないか」
「背に腹はかえられん」
そこかしこから協力態勢を敷くことに賛成の意があがった。
普段は足並みがそろわぬ者達が、共通の敵を前にして一致団結する。それはある種美しい光景であったのかもしれない。手段と目的を抜きにすれば、と言う話ではあるが。
「……どうせなら、七星剣にも後ろ盾になってもらうというのはどうですか?」
そう発言したのは仮面を身に着けた風変わりな男だった。
結城征十郎。自身は非覚者でありながら全国に隔者組織を展開する、大企業の会長である。
「実は七星剣の『金剛』勢力とコンタクトが取れそうでしてね。助力を願えるなら、これ以上心強い味方もいないでしょう」
七星剣の金剛。
その名の効力は絶大だった。名だたる隔者組織のボス達は、俄かにざわめきだす。
「金剛!?」
「あの七星剣最強の一角か!!」
「奴の一派に潰された勢力は数知れんぞっ」
「少々危険過ぎはしないかっ?」
自然、注目を浴びる結城会長は絶妙な間を取って。
語る。
「ご心配はごもっとも。だが、七星剣は幹部を失ったことにより戦力を補充したいはず。この絶好のタイミングならば、話の持って行き方次第で可能性はあると考えます」
――図らずともこれはファイヴが作ってくれた好機ですよ。
結城会長の最後の言葉は、魔法のように参加者達の胸のうちに沁み込み蝕んでいった。
●
「緊急事態だ。複数の隔者組織に動きがあった」
中 恭介(nCL2000002)が覚者達に状況を説明する。
十を超える隔者組織が、連合を組みファイヴの動きに対抗する兆しがあるのだという。しかも、その隔者連合は七星剣に与する流れに傾いているらしい。
「どれもこれも、一つ一つが各地で大きな力を持つ隔者組織。これらが力を結集させれば、大いなる脅威になるだろう。それだけでも頭が痛いことだが、彼らは七星剣の『金剛』という人物の派閥の庇護を求めようとしている」
金剛。
どうやら、七星剣の幹部であるらしいが。
その正体や詳細は分かっていない。
一つだけ……この一派によって幾つもの人命と組織が血祭りにあげられているのは、確かなようだ。
「大変危険な相手であることは間違いない。七星剣と隔者連合との接触は、断固阻止しなければ」
幸い、夢見からもたらされた情報もある。
金剛一派との交渉日当日に隔者連合の代表者達が、どこを通るかは分かっている。七星剣と接触する前にこれを叩き、隔者連合の企みを潰すのが今回の作戦だ。
「交渉場所に向かう隔者連合の中心人物は3人。これを手練れの隔者達ががっちりと守っている」
全てを主導する結城征十郎。
ほかに横矢、福永という何れも隔者組織のトップたち。金剛勢力との交渉を成立させないためには、この3人をまずは捕縛する必要がある。
「スピード勝負になる。もし、一人でも取り逃せば恐らくは全て水の泡だ」
取り押さえるのに時間がかかると、事態が悪化するという予知もでている。
腕利きの隔者達相手に、厳しい戦いになることは間違いない。
「ただ、考えようによってはこれはチャンスだ。隔者連合の連中を捕縛することがかなえば、七星剣の金剛一派の情報をも得ることが出来るかもしれない。それにAAAも協力を約束してくれている」
七星剣の幹部を、ようやく一人打倒したかと思えば。
それに連動するように、また状況が動く。困難な戦いは、まだまだ続きそうだ。
「君達の武運を祈る。無理はするな、と言える条件ではないが。充分注意してくれ。よろしく頼む」
「ファイヴか……」
「まさか七星剣の幹部が破れることになるとは」
「他の大きな事件でも、この頃よく名前を聞くな」
暗がりの会議室。
集まっていたのは、錚々たる面子だった。いずれも各地で権勢を振るう隔者組織のトップ達。蛇の道は蛇……非合法活動をする者達の間にも繋がりはある。情報の交換や、組織間の交渉など。裏の世界では、裏の世界の案件が持ち上がる。
そして、現在、議題にあがっているのはとある注目株の覚者組織に関してであった。
「この前は、ウチのシマも荒らされたものだ」
「俺のところも仕事がしにくくなってきたよ」
「このままでは、次にどこが標的になるか分からんな」
会合は熱を帯びていた。
全員が全員、荒波を越えて生き抜いてきた百戦錬磨である。なればこそ、リスク管理の意識や時代の潮目には非常に敏感だ。
それだけに、彼らにとって七星剣の一角が墜ちるというニュースは衝撃をもたらし。
この後に喉元に切っ先を突き付けられるのは自分達ではないかという想像に駆られ。
ファイヴに対しての危機意識の上昇と対策を練る必要性に迫られていた。
「奴らが隔者の廃絶を基本姿勢としている以上、我々にとっては明確な敵だ」
「まともにぶつかったとしても、易々とくだされるとは思わんが」
「用心に越したことはない……とりあえず、ここに居る面々で連合を組んではどうか?」
「だな」
「致しかたないか」
「背に腹はかえられん」
そこかしこから協力態勢を敷くことに賛成の意があがった。
普段は足並みがそろわぬ者達が、共通の敵を前にして一致団結する。それはある種美しい光景であったのかもしれない。手段と目的を抜きにすれば、と言う話ではあるが。
「……どうせなら、七星剣にも後ろ盾になってもらうというのはどうですか?」
そう発言したのは仮面を身に着けた風変わりな男だった。
結城征十郎。自身は非覚者でありながら全国に隔者組織を展開する、大企業の会長である。
「実は七星剣の『金剛』勢力とコンタクトが取れそうでしてね。助力を願えるなら、これ以上心強い味方もいないでしょう」
七星剣の金剛。
その名の効力は絶大だった。名だたる隔者組織のボス達は、俄かにざわめきだす。
「金剛!?」
「あの七星剣最強の一角か!!」
「奴の一派に潰された勢力は数知れんぞっ」
「少々危険過ぎはしないかっ?」
自然、注目を浴びる結城会長は絶妙な間を取って。
語る。
「ご心配はごもっとも。だが、七星剣は幹部を失ったことにより戦力を補充したいはず。この絶好のタイミングならば、話の持って行き方次第で可能性はあると考えます」
――図らずともこれはファイヴが作ってくれた好機ですよ。
結城会長の最後の言葉は、魔法のように参加者達の胸のうちに沁み込み蝕んでいった。
●
「緊急事態だ。複数の隔者組織に動きがあった」
中 恭介(nCL2000002)が覚者達に状況を説明する。
十を超える隔者組織が、連合を組みファイヴの動きに対抗する兆しがあるのだという。しかも、その隔者連合は七星剣に与する流れに傾いているらしい。
「どれもこれも、一つ一つが各地で大きな力を持つ隔者組織。これらが力を結集させれば、大いなる脅威になるだろう。それだけでも頭が痛いことだが、彼らは七星剣の『金剛』という人物の派閥の庇護を求めようとしている」
金剛。
どうやら、七星剣の幹部であるらしいが。
その正体や詳細は分かっていない。
一つだけ……この一派によって幾つもの人命と組織が血祭りにあげられているのは、確かなようだ。
「大変危険な相手であることは間違いない。七星剣と隔者連合との接触は、断固阻止しなければ」
幸い、夢見からもたらされた情報もある。
金剛一派との交渉日当日に隔者連合の代表者達が、どこを通るかは分かっている。七星剣と接触する前にこれを叩き、隔者連合の企みを潰すのが今回の作戦だ。
「交渉場所に向かう隔者連合の中心人物は3人。これを手練れの隔者達ががっちりと守っている」
全てを主導する結城征十郎。
ほかに横矢、福永という何れも隔者組織のトップたち。金剛勢力との交渉を成立させないためには、この3人をまずは捕縛する必要がある。
「スピード勝負になる。もし、一人でも取り逃せば恐らくは全て水の泡だ」
取り押さえるのに時間がかかると、事態が悪化するという予知もでている。
腕利きの隔者達相手に、厳しい戦いになることは間違いない。
「ただ、考えようによってはこれはチャンスだ。隔者連合の連中を捕縛することがかなえば、七星剣の金剛一派の情報をも得ることが出来るかもしれない。それにAAAも協力を約束してくれている」
七星剣の幹部を、ようやく一人打倒したかと思えば。
それに連動するように、また状況が動く。困難な戦いは、まだまだ続きそうだ。
「君達の武運を祈る。無理はするな、と言える条件ではないが。充分注意してくれ。よろしく頼む」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.横矢、福永を10ターン以内に捕縛
2.結城征十郎を15ターン以内に捕縛
3.敵の制圧
2.結城征十郎を15ターン以内に捕縛
3.敵の制圧
●隔者連合
七星剣幹部を打倒したファイヴを警戒して、有力な隔者組織が手を組みました。
更に、七星剣『金剛』一派と接触して助力を得ようとしています。
結城征十郎、横矢、福永が交渉場所に向かうメンバーのなかでは有力者になります。
●敵情報
・結城征十郎
非覚者。全国に隔者組織を展開し、七星剣との接触を主導する。金剛一派との交渉における重要人物であり、交渉場所に向かうことを第一とします。なので、彼を捕えることが重要になります。
一際多くの隔者達に守られています。
・横矢
有力な隔者組織のトップの一人。
前世持ち:火行の使い手。大規模な隔者組織のトップに相応しい、力量の持ち主であり。こちらが返り討ちにあいかねない強敵です。
・福永
有力な隔者組織のトップの一人。
獣憑:天行の使い手。大規模な隔者組織のトップに相応しい、力量の持ち主であり。こちらが返り討ちにあいかねない強敵です。
・隔者達×20人
3人のボスを守るようにして、交渉場所へと向かっています。
五行揃った実力者たちであり、全員が以下の武装をしています。
ナイフ 物近単 〔出血〕〔毒〕〔痺れ〕
機関銃 物遠列
●注意点
制圧に時間がかかると、事態が悪化するという予知がでています。
具体的にどうなるかはわかりません。
大変危険度の高いシナリオとなります。
●『金剛』
七星剣幹部。
詳細な情報は不明。
秘密の交渉場所で、金剛一派が隔者連合を待っているらしい。
●場所
とある廃墟。
人目をしのぶように、隔者連合の隔者達が通過しようとします。そこを待ち伏せして、叩く形になります。他に人気はありません。壊れた家屋などが多く存在し、隠れる場所には不自由しません。
●AAA
今回の戦いのサポートをしてくれます。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
10/10
公開日
2017年04月29日
2017年04月29日
■メイン参加者 10人■

●
(さて、今回の戦いは、七星剣の一角、「金剛」と手を組みたがっている奴等を倒すのが目的だ。
数は多いし、手練れ揃い。オマケに奴等の目的は金剛との交渉の席に着く事だ)
斎 義弘(CL2001487)は、襲撃地点をくまなくチェックして。
準備を整えながら思う。こちらとマトモにやり合わない可能性があると。
(……特に、覚者ではない結城は戦闘に参加せず、隙があれば同盟など無視して金剛との交渉に向かうかもしれない。後ろ楯さえつけば、他の組織など恐れないだろうし、交渉を進める事で優位に立てるだろうからな)
見渡す限り、打ち捨てられた家屋だらけ。
ゴーストタウンともいえるこの場所で、自分達は戦うことになる。
「……どうにせよ、突破されれば俺達の負け。いつも以上に気を引き締めて戦いに臨もう」
息を吐く義弘。
そのすぐ近くでは『狗吠』時任・千陽(CL2000014)も、土の心を利用し周辺地理の把握と有利な待ち伏せ地点の選択を済ませていた。
「隠れるのはここにしましょうか……環嬢無理はなさらぬように」
「ありがとう、千陽さん。バックアップは任せて頂戴」
仲間の言葉に頷き、気取られぬように、『月々紅花』環 大和(CL2000477)は注意深く移動する。『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)もしのびあしを使っておく。他の者も廃屋の一つへと続いた。
「ちょっと狭いですが、柔軟性には自信あります」
シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)が指示に従って、大人しく手狭な室内で伏せた。『待宵』天音 華夜(CL2001588)、『不屈のヒーロー』成瀬 翔(CL2000063)、上月・里桜(CL2001274)らも位置につく。
(征十郎さん、七星剣の幹部と繋がりを持とうとするなんて、この先どうしていきたいのでしょう。クリスマスの時に「これからも汚し続ける」と言っていたのは、この事に関係しているのでしょうか……他にも二名、繋がりを持とうとしてる方々もいますけど。どういう事情であれ、止めないと……!)
薄暗い室内を暗視して、相手を待つのは『ほむほむ』阿久津 ほのか(CL2001276)だ。
彼女を含め数人は、この件で要となる結城会長と面識があるのだった。
(いつ奇襲など受けるかわからねぇし……何より噂の「金剛」さん来るかもだし)
『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)は、第六感と超直観で警戒と観察を怠ららず。まだ見ぬ七星剣の幹部の姿を思い描き備えておく。
この一戦には、これからの情勢すら関わってくる。
覚者達は刺すような緊張感に包まれ、その時を待った。
●
「来たぜ」
壁を透視していた翔が、送受心・改で連絡する。
向こう側には、黒服に身を包んだ隔者達が用心深く列をなしていた。
「……だいたい、1対1対2程度の割合で分かれて、あちらを目指していますね」
里桜は感情探査で得た情報を、皆に伝えた。
急速にプレッシャーが急上昇し、各々戦闘態勢に突入する。
「!」
全員が息を合わせ。
一気に飛び出す。
翔と大和が艶舞・寂夜で奇襲した。
「眠った敵はAAAのメンバーで捕縛しといてくれ!」
「眠らせたとは言え気を付けて。よろしくお願いするわ」
バタバタと倒れる黒服達。
同時にAAAが、展開していく。
「AAAに……ファイヴか!」
「やらせるな! 眠った奴をすぐ起こせ!」
腕利きの選りすぐりだけあって、隔者達の反応が早い。
横矢と福永は部下に的確に指示を出し対応する。結城会長は、呑気そうに小首を傾げた。
「ふむ、待ち伏せか。半分は予想通り、半分は予想外……幾つか見た顔もありと。さて、どう転ぶことやら」
「結城会長! 後ろに下がってください!!」
「我々が盾になります」
泰然自若とする結城会長を、黒服達は半ば強引に引っ張る。
やはりこの交渉の最重要人物である彼の守りは、人一倍固いのは明らかだった。
「緊迫した状況なのは、理解しました」
そう言って。
華夜は覚醒を果たし。
「お任せください! ご主人様。必ずや、依頼の条件を達成させましょう!」
集中力を高め。
魂を消費する。
「誠心誠意、全ての力をここに込めましょう。ご主人様方の敵は、華夜の敵」
主人――仲間のために。
何故魂を使うのか?
(それは、華夜の力が至らないからです。ご主人様の申しつけができないメイドなど不要な存在)
ここで一つ、華夜はいつでも全力でオーダー遂行するというのを示したい……ただの、自己満足かもしれないけれども。あらん限りまで増幅された召炎波が、炎の津波となりて。敵を巻き込めるだけ巻き込んでいった。
「多勢に無勢……ですが、ここはとっておきの術で切り抜けます。行きますよ」
続けてラーラも火の術を発動。
炎が炎を呼び、戦場に上がる火の手。隔者達は次々と分断され、道が開かれる。
「ギャハハハ! 邪魔だ、雑魚共! 首狩られたくなきゃどきな!」
直斗が仇華浸香で邪魔者を弱体化させ、地烈で蹴散らしていく。
首を狙われた隔者達にとって、その姿はさぞ脅威にうつったことだろう。
「あら、結城征十郎さんは隔者組織のトップでもあったのですか? ……確かお兄さんはイレブン寄りだったと聞いたような気がしますけれど。弟さんは違うのですね」
里桜の迷霧が粘りつくような濃い霧を形作る。
守護使役にはていさつしてもらって、全体の様子を見るようにした。
「国が変わっても……ですね」
「さあ、気合を入れていくぞ。侠気を見せてやるさ」
前に出たシャーロットは地烈を繰り返して広く派手に連撃を打つ。
そこで出来た隙を縫い、天駆を使った義弘が駆ける。超直観と暗視で周囲を確認しつつ、攻撃と隔離を行った。とにかく序盤が肝心と強く強く押す。
「ほう……これは」
結城征十郎は、最も後方で興味深げに戦況を見つめている。
此度の最重要ターゲット――それに出来る限り肉薄せんと千陽は仲間に合図しアクションを合わせる。
(実際FiVEの戦果は内部にいる自分としても目覚ましいものだと思っている。だからこそ出る杭が打たれるというのは自明の理だろう。そのための手段としての同盟というのはこれもまた合理的だが邪魔をさせてもらいます)
大地に力を流し込み局地的に足場を揺らす。
敵が大震の効果で浮き足だち。ガードを外すようにし射線を通したところで、ほのかと翔が動く。
「狙うのは――」
「結城のおっさんだ!」
鉄甲掌・還が繰り出され。
B.O.T.が舞い散り。
隔者達はすぐに人の盾となって、結城会長の前を固めるが――間一髪間に合わない。守りきれず、僅かながらの貫通を許す。
「っ」
「結城会長!」
結城征十郎は脇腹から血を流し。
騒然と化す周囲をよそに、肩を竦める。
「やれやれ、どうやら私はこの場で一番の人気者のようだ」
●
「ちっ。おい、俺はいい。結城会長の守備に入れ」
「はっ!」
横矢は状況をすぐに察知し、己が取り巻きを動かす。
その分、自分の周りが手薄になるということに繋がるが。流石にその辺りの判断の的確さは、歴戦の隔者組織のボスといったところか。
「さあ、来な! ファイヴ!! 俺のところに来た不幸な奴は誰だ!?」
「同じ火行の使い手で敵の方が上手だろうが、気概だけは負けないつもりだ」
人一倍体格の良い横矢が吼える。
圧撃・改で進んでいた義弘、そしてシャーロットが一気に距離を詰めた。
(持つ武器が変わっただけ……わかりやすい、と思うべきでしょうか。裏に色々あってもワタシには理解できませんしね)
踏み込んだ先での激鱗。
速度を力に変換して、圧倒的なスピードで敵を斬り裂く流血の一撃。最初に大技を決めて、気勢を削げればとのシャーロットの目論みは――
「いてーな! 面白い技持ってんじゃねーか!!」
半分外れ、半分当たる。
隔者には確かに大きなダメージを与えた。が、それはより高い戦意高揚を引き起こす。
「お返しだ! 俺の炎を喰らいなっ!!」
「派手さは求めない。確実に、想いを貫き通す」
至近距離から加えられる紅蓮の炎。
それを義弘は盾を使い、受け、流し、確実に一撃を加えんとする。
「はん、テメーもやるじゃねえか!!」
(シャーロットさんの攻撃力は魅力だ。彼女の攻撃が当たるようにフォローしていこう)
盾で受ける味方の影から、シャーロットが飛び出す。
飛燕の二連打が浴びせられたかと思えば。そこに義弘は爆裂天掌を重ねた。
「安定して繰り出せる基本の技こそが、確実な成果への道なのです」
「よォ、獣憑の先輩さんよ。隔者と言っても所詮飼い犬の様な負け犬根性丸出しなんだな? 七星剣に尻尾振って恥ずかしくない?」
直斗が福永を挑発する。
インテリなヤクザと言った風貌の隔者は、眼鏡のブリッジを押し上げた。
「振れる尻尾があるうちは、まだ幸せな方さ……ファイヴ」
「さて隔者共が結託して七星剣に参入とかメンドくせー状況は元隔者な俺もちょっと容認できねーわ。まあ、俺が居た所は弱小だったがそれでも俺の同類……いや、もっと狂人の巣窟だったんだぜ? 世の中にそんなの蔓延ばらせちゃ駄目だろ? という訳で首狩らせてもらうぜ?」
苛烈に笑い。
呪いの武具――妖刀を振るえば、相手も剣を抜いた。
斬り結び、斬撃と剣劇が鳴り響き、火花が無数に散る。それはまさに刃の結界。
「お強いですね、福永さん……なら、痺れてもらいます」
里桜は隆神槍を発動。
隆起した岩槍が、斬り合う二人の間に飛び出た。そのまま隔者の足元を襲い、敵の機動力を奪い取る。
「む」
「疾く、壊すのです、敵を」
薙刀を振るって、華夜が追撃する。
足が鈍った福永は、それをぎりぎりなところで受け太刀して致命傷を避けた。
「俺の抜刀術はまさに脱兎のごとし……ってな!」
そこに直斗が猛の一撃を一閃。
決まれば勝負を一気に決めかねない。目にも止まらぬ居合いが煌めき、敵を両断せんとして――
「舐めるな!」
意志を込めた瞳を輝かせ。
何とか福永は、全力で防御してのけた。
「……ふう。まだ早かったか」
相手の眼が未だ死んでいないのを見て取り。
直斗は仇華浸香で弱体化を図り、そして妖刀ノ楔で攻め立て続けた。更に呪い続け、また隔者が余計な小技を挟む余地がないよう邪魔するために。
「福永様!」
「今、援護をっ」
奮戦する福永の元へと、黒服達が集まってくる。
このままでは、前衛に人の壁ができてしまう。そうはさせじと里桜が対応した。
「下がってください」
「ぐっ!」
大震による揺れが敵勢を押し戻す。
それを見やった福永は、部下達を呼び戻す愚は犯さなかった。
「こちらは構わない。結城会長の元へ行け」
(七星剣の金剛、か。そんな奴と対等な条件で話ができるもんかよ。普通に考えたら捨て駒として使われるのがオチじゃね。子供のオレでも、んな事考えるくらいヤバイ奴だろ、あれ。そんなのと交渉するとか、結城のおっさん、何企んでやがるんだ)
敵味方。
隔者、ファイヴ、AAAが入り乱れるなか。翔はある疑問を抱えていた。
(企むとしたら、他の組織吸収するとか、七星剣乗っ取り?)
そこまで考えてから。
頭を振り、目の前のことに集中する。ただでさえ、結城会長を守護する人数は多い。付け加え、横矢と福永が適宜自分の周りにいた部下をこちらに割り振ってくるせいでその密度は重厚極まる状態だった。そこを少しでも削るために、雷獣と雷龍の舞を戦場に轟かし続ける。
「早く、征十郎さんまで追いつかないと」
ほのかが無頼漢で敵列に負荷をかける。
怒涛の攻勢で出来得る限り迅速に隔者を討ちにいき、倒れた相手はすぐに捕縛する。AAAもツ―マンセルでそれに倣った。
(この状況で我々が勝つのであれば金剛は我々に興味を示すだろうな)
千陽はことあるごとに、鉄甲掌・還で結城会長を狙う。
だが、その度に隔者達に遮られ。敵の凶刃や機関銃をかいくぐり、烈空波で薙ぎ払う。それだけでも常人だったら、既に力尽きているであろう作業量だ。
「七星剣幹部の暗躍が随所で確認されてるみたいですが……こんなところで勢力の拡大を許すわけには行きません」
ラーラはもう既に何発火行の技を放ったのか、自分でも分からない。
幾度も填気で燃料を補充して、砲台のごとく激しい炎を射ち放つ。連射を繰り返し続けたせいで、息も上がりつつあった。
「名のある隔者組織が七派と手を組むことになると今後とても厄介だわ。何としてでも阻止したいわね」
大和は回復を中心に行動していた。
潤しの雨で味方全員の体力を回復させ、演舞・舞音で毒や出血などをリカバー。
「わたしが全力で支えるわ。だから安心して前にでて頂戴」
回復手が少ないなか戦線を支える。
せっかくのチャンス。可能な限り依頼を続行させたかった。
「はい、前に出ます!」
「残り時間も少ないですしね」
「御覚悟!」
味方の援護に押され。
ほのかや千陽らの特攻が、敵群を食い破る。一枚、また一枚と壁を文字通りぶち砕き。ついに、結城会長の姿をとらえた所へ、近場まで密かに辿り着いていた華夜がB.O.T.を撃つ。
「結城、目を覚ましなさい。七星剣が、新たな戦力を欲しているのはそうかもですが。金剛は己が力がほぼ頂点であるのに今更、他者の力など借りる女とは思えません。交渉の相手、間違えております。貴方は玩具にされるに過ぎない。無為な行動をする前に、目を覚ますのです」
覚者の言葉に。
運に身を任せるように。無防備に身じろぎもしない結城会長の返答は、こうだった。
「私が目を覚ますとき、というのは……多分私が最期を迎えるときなのだろうね、勇敢なる覚者諸君。そして残念ながら、どうやらまだここは私の終焉の地ではないようだ」
彼の視線の先――そこには。
●
直斗の超直観は、見落とさなかった。
大和の超視力は、戦場の異変を察知した。
ほのかの第六感は、不意打ちを警戒していた。
義弘の暗視は、この暗がりでもはっきりとらえていた。
だからこそ、大崩れすることはなかった。心構えはあった。備えもあった。
だが――
「ファイヴにAAA……どういうことだい? 結城の坊や」
現れたのは道着姿の集団。
そして、それらを率いる小柄な老婆。
「これはこれは『金剛』氏。お出迎え痛み入ります。はは、いやなに、ちょっとしたサプライズですよ」
結城会長は恭しく一礼する。
七星剣最強の一角、金剛の一派へと。
「……まあ良い。話は後で聞かせてもらおうか」
蹂躙が。
始まる。
「七星剣『金剛』、参る!!」
金剛が。
金剛の兵が、進軍する。
拳を振るうたびに。ただ、それだけで。人が紙屑のように千切れて飛んでいく。覚者達が必死に押し進めて、敵大将に肉薄するまでに至っていた戦線のラインを……金剛一派の兵共が一気に押し戻す。
「退け! 退け!!」
「金剛軍とまともにぶつかるな!」
「このままでは全滅するぞ!」
初めに最も被害を受けたのはAAAの隊員達。
そして……何とそれに捕まっていた隔者達だった。
覚者、隔者、関係なく。金剛兵は全てを血祭りにあげる。
「な、待て! あいつらは俺の部下だぞ!!」
「それが、何か問題かの?」
噛み付いたのは、奮戦していた横矢である。
だが、金剛は意に介さない。
「敵の手に落ちる弱卒に生きる資格なし。我らが拳で介錯するのが、せめてもの情けよ」
血も涙もない。
あるのは、ただ圧倒的な力のみ。
「シャーロットさん、危ないっ」
「!」
義弘が前に出て、盾で味方を庇う。
結果、金剛の攻撃を相殺しきれずにシャーロットと共に大きく吹き飛ばされた。二人とも直撃は免れたが、それでも深すぎる手傷を負う。
「どけ、邪魔じゃ」
「ぐは!」
福永の身体を、強敵であった隔者組織のボスを。
金剛の拳がいとも容易く貫く。進軍の邪魔。ただ、それだけの理由で虫のように払いのけられ。その打突は貫通して、覚者達にまで及んだ。
「味方ごと……かよ」
易々と地を抉る拳風。
咄嗟に直斗は身体を反応させたが、それでも躱しきることはできず。甚大なダメージを受ける。巨大な何かを叩きつけられた気分だった。
「こちらも撤退、かしら?」
「……悪い予感が当たってしまいましたね」
癒しの霧や深想水で、里桜とほのかは回復を行うが。
とても追いつきそうにない。自身も味方の損傷も、雪ダルマ式に増えていき。とどまることを知らない。
「まずいわね。超視力でも、金剛の動きは追い切れない」
「エネミースキャンを試みましたが、それでも底が知れないとは」
傷だらけとなった大和と千陽が息を呑む。
こちらの常識では測りきれない相手が、今まさに自分達の目の前にいた。
「過剰なご主人様の怪我は見逃せません。機会を移しましょう」
魂を絞って何とか身体をもたせ、華夜は皆に進言する。
ラーラは取り出した金の鍵で魔導書の封印を解いた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子に石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
力ある言葉を引き金に、一際大きな爆炎があがる。
塞がれる視界に乗じ、ボロボロの覚者達は一斉に撤退を開始した。
「結城のおっさん、七星剣と手を組むとか正気か? 一体何やらかす気だった。これ以上凛を悲しませるんじゃねーよ!」
翔の叫びが木霊する。
骸と血でまみれた戦場から、一刻も早く離脱しつつ――結城会長の邪悪な微笑が応えたような気がした。
(さて、今回の戦いは、七星剣の一角、「金剛」と手を組みたがっている奴等を倒すのが目的だ。
数は多いし、手練れ揃い。オマケに奴等の目的は金剛との交渉の席に着く事だ)
斎 義弘(CL2001487)は、襲撃地点をくまなくチェックして。
準備を整えながら思う。こちらとマトモにやり合わない可能性があると。
(……特に、覚者ではない結城は戦闘に参加せず、隙があれば同盟など無視して金剛との交渉に向かうかもしれない。後ろ楯さえつけば、他の組織など恐れないだろうし、交渉を進める事で優位に立てるだろうからな)
見渡す限り、打ち捨てられた家屋だらけ。
ゴーストタウンともいえるこの場所で、自分達は戦うことになる。
「……どうにせよ、突破されれば俺達の負け。いつも以上に気を引き締めて戦いに臨もう」
息を吐く義弘。
そのすぐ近くでは『狗吠』時任・千陽(CL2000014)も、土の心を利用し周辺地理の把握と有利な待ち伏せ地点の選択を済ませていた。
「隠れるのはここにしましょうか……環嬢無理はなさらぬように」
「ありがとう、千陽さん。バックアップは任せて頂戴」
仲間の言葉に頷き、気取られぬように、『月々紅花』環 大和(CL2000477)は注意深く移動する。『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)もしのびあしを使っておく。他の者も廃屋の一つへと続いた。
「ちょっと狭いですが、柔軟性には自信あります」
シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)が指示に従って、大人しく手狭な室内で伏せた。『待宵』天音 華夜(CL2001588)、『不屈のヒーロー』成瀬 翔(CL2000063)、上月・里桜(CL2001274)らも位置につく。
(征十郎さん、七星剣の幹部と繋がりを持とうとするなんて、この先どうしていきたいのでしょう。クリスマスの時に「これからも汚し続ける」と言っていたのは、この事に関係しているのでしょうか……他にも二名、繋がりを持とうとしてる方々もいますけど。どういう事情であれ、止めないと……!)
薄暗い室内を暗視して、相手を待つのは『ほむほむ』阿久津 ほのか(CL2001276)だ。
彼女を含め数人は、この件で要となる結城会長と面識があるのだった。
(いつ奇襲など受けるかわからねぇし……何より噂の「金剛」さん来るかもだし)
『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)は、第六感と超直観で警戒と観察を怠ららず。まだ見ぬ七星剣の幹部の姿を思い描き備えておく。
この一戦には、これからの情勢すら関わってくる。
覚者達は刺すような緊張感に包まれ、その時を待った。
●
「来たぜ」
壁を透視していた翔が、送受心・改で連絡する。
向こう側には、黒服に身を包んだ隔者達が用心深く列をなしていた。
「……だいたい、1対1対2程度の割合で分かれて、あちらを目指していますね」
里桜は感情探査で得た情報を、皆に伝えた。
急速にプレッシャーが急上昇し、各々戦闘態勢に突入する。
「!」
全員が息を合わせ。
一気に飛び出す。
翔と大和が艶舞・寂夜で奇襲した。
「眠った敵はAAAのメンバーで捕縛しといてくれ!」
「眠らせたとは言え気を付けて。よろしくお願いするわ」
バタバタと倒れる黒服達。
同時にAAAが、展開していく。
「AAAに……ファイヴか!」
「やらせるな! 眠った奴をすぐ起こせ!」
腕利きの選りすぐりだけあって、隔者達の反応が早い。
横矢と福永は部下に的確に指示を出し対応する。結城会長は、呑気そうに小首を傾げた。
「ふむ、待ち伏せか。半分は予想通り、半分は予想外……幾つか見た顔もありと。さて、どう転ぶことやら」
「結城会長! 後ろに下がってください!!」
「我々が盾になります」
泰然自若とする結城会長を、黒服達は半ば強引に引っ張る。
やはりこの交渉の最重要人物である彼の守りは、人一倍固いのは明らかだった。
「緊迫した状況なのは、理解しました」
そう言って。
華夜は覚醒を果たし。
「お任せください! ご主人様。必ずや、依頼の条件を達成させましょう!」
集中力を高め。
魂を消費する。
「誠心誠意、全ての力をここに込めましょう。ご主人様方の敵は、華夜の敵」
主人――仲間のために。
何故魂を使うのか?
(それは、華夜の力が至らないからです。ご主人様の申しつけができないメイドなど不要な存在)
ここで一つ、華夜はいつでも全力でオーダー遂行するというのを示したい……ただの、自己満足かもしれないけれども。あらん限りまで増幅された召炎波が、炎の津波となりて。敵を巻き込めるだけ巻き込んでいった。
「多勢に無勢……ですが、ここはとっておきの術で切り抜けます。行きますよ」
続けてラーラも火の術を発動。
炎が炎を呼び、戦場に上がる火の手。隔者達は次々と分断され、道が開かれる。
「ギャハハハ! 邪魔だ、雑魚共! 首狩られたくなきゃどきな!」
直斗が仇華浸香で邪魔者を弱体化させ、地烈で蹴散らしていく。
首を狙われた隔者達にとって、その姿はさぞ脅威にうつったことだろう。
「あら、結城征十郎さんは隔者組織のトップでもあったのですか? ……確かお兄さんはイレブン寄りだったと聞いたような気がしますけれど。弟さんは違うのですね」
里桜の迷霧が粘りつくような濃い霧を形作る。
守護使役にはていさつしてもらって、全体の様子を見るようにした。
「国が変わっても……ですね」
「さあ、気合を入れていくぞ。侠気を見せてやるさ」
前に出たシャーロットは地烈を繰り返して広く派手に連撃を打つ。
そこで出来た隙を縫い、天駆を使った義弘が駆ける。超直観と暗視で周囲を確認しつつ、攻撃と隔離を行った。とにかく序盤が肝心と強く強く押す。
「ほう……これは」
結城征十郎は、最も後方で興味深げに戦況を見つめている。
此度の最重要ターゲット――それに出来る限り肉薄せんと千陽は仲間に合図しアクションを合わせる。
(実際FiVEの戦果は内部にいる自分としても目覚ましいものだと思っている。だからこそ出る杭が打たれるというのは自明の理だろう。そのための手段としての同盟というのはこれもまた合理的だが邪魔をさせてもらいます)
大地に力を流し込み局地的に足場を揺らす。
敵が大震の効果で浮き足だち。ガードを外すようにし射線を通したところで、ほのかと翔が動く。
「狙うのは――」
「結城のおっさんだ!」
鉄甲掌・還が繰り出され。
B.O.T.が舞い散り。
隔者達はすぐに人の盾となって、結城会長の前を固めるが――間一髪間に合わない。守りきれず、僅かながらの貫通を許す。
「っ」
「結城会長!」
結城征十郎は脇腹から血を流し。
騒然と化す周囲をよそに、肩を竦める。
「やれやれ、どうやら私はこの場で一番の人気者のようだ」
●
「ちっ。おい、俺はいい。結城会長の守備に入れ」
「はっ!」
横矢は状況をすぐに察知し、己が取り巻きを動かす。
その分、自分の周りが手薄になるということに繋がるが。流石にその辺りの判断の的確さは、歴戦の隔者組織のボスといったところか。
「さあ、来な! ファイヴ!! 俺のところに来た不幸な奴は誰だ!?」
「同じ火行の使い手で敵の方が上手だろうが、気概だけは負けないつもりだ」
人一倍体格の良い横矢が吼える。
圧撃・改で進んでいた義弘、そしてシャーロットが一気に距離を詰めた。
(持つ武器が変わっただけ……わかりやすい、と思うべきでしょうか。裏に色々あってもワタシには理解できませんしね)
踏み込んだ先での激鱗。
速度を力に変換して、圧倒的なスピードで敵を斬り裂く流血の一撃。最初に大技を決めて、気勢を削げればとのシャーロットの目論みは――
「いてーな! 面白い技持ってんじゃねーか!!」
半分外れ、半分当たる。
隔者には確かに大きなダメージを与えた。が、それはより高い戦意高揚を引き起こす。
「お返しだ! 俺の炎を喰らいなっ!!」
「派手さは求めない。確実に、想いを貫き通す」
至近距離から加えられる紅蓮の炎。
それを義弘は盾を使い、受け、流し、確実に一撃を加えんとする。
「はん、テメーもやるじゃねえか!!」
(シャーロットさんの攻撃力は魅力だ。彼女の攻撃が当たるようにフォローしていこう)
盾で受ける味方の影から、シャーロットが飛び出す。
飛燕の二連打が浴びせられたかと思えば。そこに義弘は爆裂天掌を重ねた。
「安定して繰り出せる基本の技こそが、確実な成果への道なのです」
「よォ、獣憑の先輩さんよ。隔者と言っても所詮飼い犬の様な負け犬根性丸出しなんだな? 七星剣に尻尾振って恥ずかしくない?」
直斗が福永を挑発する。
インテリなヤクザと言った風貌の隔者は、眼鏡のブリッジを押し上げた。
「振れる尻尾があるうちは、まだ幸せな方さ……ファイヴ」
「さて隔者共が結託して七星剣に参入とかメンドくせー状況は元隔者な俺もちょっと容認できねーわ。まあ、俺が居た所は弱小だったがそれでも俺の同類……いや、もっと狂人の巣窟だったんだぜ? 世の中にそんなの蔓延ばらせちゃ駄目だろ? という訳で首狩らせてもらうぜ?」
苛烈に笑い。
呪いの武具――妖刀を振るえば、相手も剣を抜いた。
斬り結び、斬撃と剣劇が鳴り響き、火花が無数に散る。それはまさに刃の結界。
「お強いですね、福永さん……なら、痺れてもらいます」
里桜は隆神槍を発動。
隆起した岩槍が、斬り合う二人の間に飛び出た。そのまま隔者の足元を襲い、敵の機動力を奪い取る。
「む」
「疾く、壊すのです、敵を」
薙刀を振るって、華夜が追撃する。
足が鈍った福永は、それをぎりぎりなところで受け太刀して致命傷を避けた。
「俺の抜刀術はまさに脱兎のごとし……ってな!」
そこに直斗が猛の一撃を一閃。
決まれば勝負を一気に決めかねない。目にも止まらぬ居合いが煌めき、敵を両断せんとして――
「舐めるな!」
意志を込めた瞳を輝かせ。
何とか福永は、全力で防御してのけた。
「……ふう。まだ早かったか」
相手の眼が未だ死んでいないのを見て取り。
直斗は仇華浸香で弱体化を図り、そして妖刀ノ楔で攻め立て続けた。更に呪い続け、また隔者が余計な小技を挟む余地がないよう邪魔するために。
「福永様!」
「今、援護をっ」
奮戦する福永の元へと、黒服達が集まってくる。
このままでは、前衛に人の壁ができてしまう。そうはさせじと里桜が対応した。
「下がってください」
「ぐっ!」
大震による揺れが敵勢を押し戻す。
それを見やった福永は、部下達を呼び戻す愚は犯さなかった。
「こちらは構わない。結城会長の元へ行け」
(七星剣の金剛、か。そんな奴と対等な条件で話ができるもんかよ。普通に考えたら捨て駒として使われるのがオチじゃね。子供のオレでも、んな事考えるくらいヤバイ奴だろ、あれ。そんなのと交渉するとか、結城のおっさん、何企んでやがるんだ)
敵味方。
隔者、ファイヴ、AAAが入り乱れるなか。翔はある疑問を抱えていた。
(企むとしたら、他の組織吸収するとか、七星剣乗っ取り?)
そこまで考えてから。
頭を振り、目の前のことに集中する。ただでさえ、結城会長を守護する人数は多い。付け加え、横矢と福永が適宜自分の周りにいた部下をこちらに割り振ってくるせいでその密度は重厚極まる状態だった。そこを少しでも削るために、雷獣と雷龍の舞を戦場に轟かし続ける。
「早く、征十郎さんまで追いつかないと」
ほのかが無頼漢で敵列に負荷をかける。
怒涛の攻勢で出来得る限り迅速に隔者を討ちにいき、倒れた相手はすぐに捕縛する。AAAもツ―マンセルでそれに倣った。
(この状況で我々が勝つのであれば金剛は我々に興味を示すだろうな)
千陽はことあるごとに、鉄甲掌・還で結城会長を狙う。
だが、その度に隔者達に遮られ。敵の凶刃や機関銃をかいくぐり、烈空波で薙ぎ払う。それだけでも常人だったら、既に力尽きているであろう作業量だ。
「七星剣幹部の暗躍が随所で確認されてるみたいですが……こんなところで勢力の拡大を許すわけには行きません」
ラーラはもう既に何発火行の技を放ったのか、自分でも分からない。
幾度も填気で燃料を補充して、砲台のごとく激しい炎を射ち放つ。連射を繰り返し続けたせいで、息も上がりつつあった。
「名のある隔者組織が七派と手を組むことになると今後とても厄介だわ。何としてでも阻止したいわね」
大和は回復を中心に行動していた。
潤しの雨で味方全員の体力を回復させ、演舞・舞音で毒や出血などをリカバー。
「わたしが全力で支えるわ。だから安心して前にでて頂戴」
回復手が少ないなか戦線を支える。
せっかくのチャンス。可能な限り依頼を続行させたかった。
「はい、前に出ます!」
「残り時間も少ないですしね」
「御覚悟!」
味方の援護に押され。
ほのかや千陽らの特攻が、敵群を食い破る。一枚、また一枚と壁を文字通りぶち砕き。ついに、結城会長の姿をとらえた所へ、近場まで密かに辿り着いていた華夜がB.O.T.を撃つ。
「結城、目を覚ましなさい。七星剣が、新たな戦力を欲しているのはそうかもですが。金剛は己が力がほぼ頂点であるのに今更、他者の力など借りる女とは思えません。交渉の相手、間違えております。貴方は玩具にされるに過ぎない。無為な行動をする前に、目を覚ますのです」
覚者の言葉に。
運に身を任せるように。無防備に身じろぎもしない結城会長の返答は、こうだった。
「私が目を覚ますとき、というのは……多分私が最期を迎えるときなのだろうね、勇敢なる覚者諸君。そして残念ながら、どうやらまだここは私の終焉の地ではないようだ」
彼の視線の先――そこには。
●
直斗の超直観は、見落とさなかった。
大和の超視力は、戦場の異変を察知した。
ほのかの第六感は、不意打ちを警戒していた。
義弘の暗視は、この暗がりでもはっきりとらえていた。
だからこそ、大崩れすることはなかった。心構えはあった。備えもあった。
だが――
「ファイヴにAAA……どういうことだい? 結城の坊や」
現れたのは道着姿の集団。
そして、それらを率いる小柄な老婆。
「これはこれは『金剛』氏。お出迎え痛み入ります。はは、いやなに、ちょっとしたサプライズですよ」
結城会長は恭しく一礼する。
七星剣最強の一角、金剛の一派へと。
「……まあ良い。話は後で聞かせてもらおうか」
蹂躙が。
始まる。
「七星剣『金剛』、参る!!」
金剛が。
金剛の兵が、進軍する。
拳を振るうたびに。ただ、それだけで。人が紙屑のように千切れて飛んでいく。覚者達が必死に押し進めて、敵大将に肉薄するまでに至っていた戦線のラインを……金剛一派の兵共が一気に押し戻す。
「退け! 退け!!」
「金剛軍とまともにぶつかるな!」
「このままでは全滅するぞ!」
初めに最も被害を受けたのはAAAの隊員達。
そして……何とそれに捕まっていた隔者達だった。
覚者、隔者、関係なく。金剛兵は全てを血祭りにあげる。
「な、待て! あいつらは俺の部下だぞ!!」
「それが、何か問題かの?」
噛み付いたのは、奮戦していた横矢である。
だが、金剛は意に介さない。
「敵の手に落ちる弱卒に生きる資格なし。我らが拳で介錯するのが、せめてもの情けよ」
血も涙もない。
あるのは、ただ圧倒的な力のみ。
「シャーロットさん、危ないっ」
「!」
義弘が前に出て、盾で味方を庇う。
結果、金剛の攻撃を相殺しきれずにシャーロットと共に大きく吹き飛ばされた。二人とも直撃は免れたが、それでも深すぎる手傷を負う。
「どけ、邪魔じゃ」
「ぐは!」
福永の身体を、強敵であった隔者組織のボスを。
金剛の拳がいとも容易く貫く。進軍の邪魔。ただ、それだけの理由で虫のように払いのけられ。その打突は貫通して、覚者達にまで及んだ。
「味方ごと……かよ」
易々と地を抉る拳風。
咄嗟に直斗は身体を反応させたが、それでも躱しきることはできず。甚大なダメージを受ける。巨大な何かを叩きつけられた気分だった。
「こちらも撤退、かしら?」
「……悪い予感が当たってしまいましたね」
癒しの霧や深想水で、里桜とほのかは回復を行うが。
とても追いつきそうにない。自身も味方の損傷も、雪ダルマ式に増えていき。とどまることを知らない。
「まずいわね。超視力でも、金剛の動きは追い切れない」
「エネミースキャンを試みましたが、それでも底が知れないとは」
傷だらけとなった大和と千陽が息を呑む。
こちらの常識では測りきれない相手が、今まさに自分達の目の前にいた。
「過剰なご主人様の怪我は見逃せません。機会を移しましょう」
魂を絞って何とか身体をもたせ、華夜は皆に進言する。
ラーラは取り出した金の鍵で魔導書の封印を解いた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子に石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
力ある言葉を引き金に、一際大きな爆炎があがる。
塞がれる視界に乗じ、ボロボロの覚者達は一斉に撤退を開始した。
「結城のおっさん、七星剣と手を組むとか正気か? 一体何やらかす気だった。これ以上凛を悲しませるんじゃねーよ!」
翔の叫びが木霊する。
骸と血でまみれた戦場から、一刻も早く離脱しつつ――結城会長の邪悪な微笑が応えたような気がした。
■シナリオ結果■
失敗
■詳細■
MVP
なし
重傷
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
