三つ巴! 火拳と地狼と覚者達
三つ巴! 火拳と地狼と覚者達



 地剣に触れてはならぬ。
 地道を通ってはならぬ。
 地縄を超えてはならぬ
 禁忌を侵せば地獣が吼える。
 禁忌に触れれば破滅を招く。
 祈りを捧げよ。
 供物を捧げよ。
 さすれば平穏が訪れる。


 山の麓に広がる森の静寂を打ち崩しながら進む一団がいた。
 真っ赤なコートに身を包んだ男達が近隣の住民と思しき老人を一人引きずりながら歩いていく。最後尾を歩く同じ外套に身を包んだ隻眼の男が少女を俵担ぎで運んでいる。
 やがて一団がしめ縄で封じられた洞窟の入り口までやってくると、男達は老人を無造作に放る。
「き、貴様ら! ここを侵せば何が起きるか……」
「だぁからなんだってぇんだよ!」
 老人は必死に男達に立ち入らないように説得を試みるがそんなことを聞くような連中ではない。暴力でもって彼の口を塞いでしまう。
 隻眼の男がそんな男衆に声をかけ担いでいた娘を預けると、老人へと歩み寄りその胸ぐらを掴みあげる。
「村長さんよ。俺たちゃ開けてくれって言ってんだよ。アンタが言うとおりにしてくれりゃあ、いいんだ。ただ、言えねぇってんならアンタの大事な孫娘ちゃんに聞くしかねぇよなぁ……」
 そう言った隻眼の男が指を鳴らす。待っていましたとばかりに娘を預けられた者がナイフを取り出し、野卑な笑みを浮かべながら少女の柔肌に刃を当てる。
「く、ぅっ……卑怯者どもめ……。や、約束せい……。孫には手を出さんと……」
「あぁ、勿論だ」
 それまで暴力にも屈せず、抵抗を続けていた老人もついに諦める。唇を噛みながらも、しめ縄へと歩を進める。
 老人はブツブツと何かを呟き、その手を先代から教えられた所作の通りに動かしていく。全ての動作を終えた瞬間、周囲に大きな破裂音が響いたと同時に大きな地鳴りが鳴る。
 へなへなと老人はそのまま崩れるようにへたり込んでしまう。昔からの禁忌とされていたことをやってしまったことに対する恐怖が自ずと心の底から湧き出してくる。
「これでいいじゃろ……」
 老人がわなわなとふる言える声でそう言いながら振り返ろうとしたところで後頭部に衝撃が走る。そのまま意識を失い地に伏せる彼を隻眼の男が担ぎ上げる。
「ご苦労様……。だがFiVEの連中も来るだろうからな。てめぇにはもう一働きしてもらうさ。いくぞ野郎ども!」
 隻眼の男の声に控えていた男衆も威勢のいい返事で返す。少女と老人を担いだ集団が洞窟の奥へと歩んでいく。


 洞窟の奥はさして広くなく、すぐにドーム状に広がる直径四十メートルほどの空間に出る。そこには小さな祠と、それを守るように一対の力士像あるだけだった。
 男達が空間に足を踏み入れると同時にそこに満ちた神聖な雰囲気に圧倒される。侵し難い何かがそこにあるのは彼らの様な不心得者たちにも感じ取れた。しかし、それは同時にその場所に強力な神具が安置されていることの証でもあった。
「ほぉ、ここが祠か。そして、あれが“地剣”か……」
 隻眼の男は意に介した様子もなく、祠へと歩み寄り、そこに安置された古びた剣へと手を伸ばそうとする。
『封印を解いたのは貴様らか! よかろう、褒美に食ってやろうぞ!』
 剣から光が放たれると、体長をゆうに二メートルを超す銀色の毛並みをした狼が剣から飛び出してくる。
 咄嗟に飛びのいた隻眼の男は配下の男達に合図を送り戦闘態勢に入る。それまで担がれていた老人と少女は意識の無いまま戦場に無遠慮に放られる。
「コイツを倒せばお宝にありつける。気合入れろよ!」
 隻眼の男がその体に火炎を纏い、その両拳が白熱化していく。部下たちも同じく炎を扱う者たちらしく、各々の武器や体に炎を纏わせていく。古妖と隔者の戦いが始まった。


「急ぎの案件です。一刻を争う事態になりました」
 今日の久方 真由美(nCL2000003)からは普段のおっとりした感じは一切感じられない。一瞬でも惜しいという感じで、早口で用件を伝えていく。
「七星剣のメンバーが動いたようです。主犯は“パイロアームズ”桂東呉という者です。名の通り、炎を操る男です」
 真由美は東呉らのデータを覚者達に渡しながら話を続けていく。
「どうやら彼らは神具捜索を行っていたようです。そして神具を確保するため守り人の一族を無理やり使って手に入れようとしているみたいです」
 資料を全員に配り終えた真由美は一度息をつき、自分を落ち着けるように深呼吸をする。
「ここからが大変なのですが、その神具に封じられていたのは暴れ者の古妖のようです。大きさは、二メートル位の狼です。大地の力を操るようです。皆さんにはこれから現場に急行してもらって、七星剣の打倒をお願いします。古妖への対処は……皆さんにお任せします」
 早口で発言したことの要点を纏めながらホワイトボードに書き終えた真由美は覚者達へと向き直る。
「人質にされた方々の救出、七星剣の打倒、古妖への対処。怪我がなく……というのは難しいと思いますけど、気をつけてください」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:鹿之助
■成功条件
1.七星剣メンバーの打倒
2.一般人の救出
3.古妖を鎮める
こんにちは。鹿之助です。
今回は三つ巴の戦い。
乱暴者の七星剣メンバーと、暴れる古妖を相手に戦ってもらいます。
さらに戦地に一般人が意識ない状態で倒れています。
やることいっぱい大変な戦いですが、がんばっていきましょう!

【状況】
・直径40メートルの空間で古妖と桂東呉率いる七星剣が闘っているところに皆さんが割り込みます。
ちょうど三角形を描くように各陣営が分かれた状況から戦闘が始まります。
・一般人は七星剣陣営の中列に配置されています。範囲攻撃などが行われる場合、巻き込まれる可能性があります。
・祠は古妖側の中列に位置しており、そこには封印として使われていた神具があります。
・今回は乱戦ですので、敵陣営前列を突破する際にブロックは発生しません。
・気絶した一般人を起こす場合、BSリカバー効果のある技で起こすことができます。

【エネミーデータ】
地狼(古妖)
神具に封じられていた古妖。銀の毛並みは美しいが荒々しい気性の大狼である。
現世に再び顕現することができ、ひと暴れするつもり。
その力を鎮めきった時、封印されるのか、それとも消えるのか……?
前列に配置されています。
隆起する大地:A:特遠列 【流血】
爪牙連打:A:物近単 【三連】
土纏突進:A:物近列貫2 [100% 50%]
落岩:A:特遠敵全

“パイロマスタ―”桂東呉
真っ黒な眼帯をつけ赤いコートを身に着けた凶顔の大男。30代半ばに見える。
非道な手段で知られる彩の因子を持つ火拳使い。
戦いは荒々しく、統率力はないが彼個人の力量が高いため、危険視されている。
前列に配置されています。
五織の彩:A:物近単
灼熱化:A:自
炎柱:A:特近列 【火傷】
四方投げ:A:物近単

七星剣構成員
桂東呉配下のメンバー。それぞれ彩の因子を持ち炎を操る。
一人一人は大したことはないが、数がそろえば十分脅威。4人登場。
前列に一人、中列に一人、後列に二人配置されています。
五織の彩:A:物近単
火炎弾:A:特遠単 【火傷】
炎撃:A:特近単 《格闘》【火傷】


【NPC】
森戸浦蔵
60代ほどの男性。髪なども抜け落ちているがまだまだ元気なご老人。
封印を司っていた隠れ里の長であり、封印に関する知識を有している唯一の存在。
ただし、本人に特別な能力があるわけではなく、施術の方法、解呪の方法を知るのみ。

森戸園子
小学生程の少女。短い髪でボーイッシュな服装から活動的であることが窺えるが今回は気絶中。
本人は何も知らないし、能力もない。ただ人質として連れてこられただけである。

以上です。
それでは、皆さんよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年04月03日

■メイン参加者 8人■



 洞窟内は燃え盛る火炎の熱で異様な温度にまで上昇していた。東呉率いる七星剣の面々は皆一様に炎を操る集団。彼らがそろって炎を扱う影響で、洞窟内は今が真夏であるかと錯覚するほどにまでなっていた。
「そんなもんかぁ! ヌルいぜバケモノさんよォ!!」
 咆哮を上げ古妖の懐に入り込んだ東呉はそのまま白熱化した両腕で地狼の頭部を掴み、投げ飛ばす。地面に叩きつけられた地狼が立て直す前に部下たちが集中的に焔の弾丸を狼に浴びせていく。
『グルルル……小賢しいぞわっぱ共!』
 爆炎の中から地狼は憎悪に燃えた瞳を滾らせながら現れる。吼え声を上げると突如大地が鋭い槍のように隆起し、東呉に襲い掛かる。鋭利な岩石に貫かれ、東呉の右頬が弾ける。
 しかし、当の東呉はまるで傷を意に介した風もなく、頬から溢れる血を舐めると口角を上げる。
「そうだ……。そうこなくちゃあなぁ。簡単に手に入りましたじゃ面白くねェよなァ!」
「その戦い、待ちやがれ!」
 『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)の叫び声が洞窟内に反響し、戦闘は一時停止する。その場の全ての視線が覚者達へと向かう。怒涛の如く突き進む覚者達が乱戦に割って入っていく。
「あれが地狼かいな。よくも厄介なモン起こしよったな」
「その胸糞悪ぃやり口、許せねぇぜ!」
 『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)と『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)が東呉を抑え込まんと突き進む。
「FiVE、もう来やがったのか! 全員気張れ! 全部まとめて相手にすっぞ!」
 そう声をあげるものの、東呉本人は凛と義高の攻撃に真っ向から向かっていく。
 そんな彼らに地狼は好機とばかりに襲いかかろうとする。しかしその口に堅い鉄板のようなものが差し込まれ、その場に無理やり抑え込まれる。鉄板の先には人体。よくよく見れば刺し込まれたのは鉄板ではなく緒形 逝(CL2000156)の変形した腕。
「おいで地狼とやら。おっさんと遊ぼうか」
『次から次へと……。貴様は硬そうだが、よかろう。喰ろうてやろうぞ!』
 地狼を抑える逝と背中合わせにいる凛と義高は七星剣を相手に戦いを繰り広げ、さらに戦闘は大乱戦の様相を呈していく。


「ぅおー!」
「ホッケースティック!? 戦場でそんなもん、バカにしやがって!」
 『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)が得物を振り回し突っ込んでくる様に呆れと共に油断した七星剣構成員の一人が迎え撃とうと構える。
しかし彼は想定していなかった。その武器が、少女が軽々と振り回せる質量などではないということを。
 中衛に配置されていた構成員はどてっぱらにスティックの一撃をモロに入れられる。鈍い音が響いたかと思えば、彼はその場に倒れ伏す。
「ナナンと改造くんのちからはどうだぁ! さっ、今のうちだよぉ!」
 奈南の一声で『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)と離宮院・さよ(CL2000870)が気絶している浦蔵と園子へと駆け寄る。
 気温の著しい上昇や戦闘の渦中にいたが、彼らには打撲痕こそあれど、命に別状はない。
「だ、大丈夫です?」
 仰向けに倒れる園子へとさよが駆けより、その体を揺らす。
「チィッ! テメェら、そいつらを引きはがせ!」
「てめぇの相手は」
「あたしらやで!」
 部下に指示を飛ばし、東呉も渚とさよへと向かおうとするも、義高と凛に阻まれる。七星剣としてはFiVE用の切り札として残しておいたものだけにとられることを非常に嫌っているようだ。
 さよへと飛来する火炎の矢が彼女の目の前で巨大な札によって弾き返され、小さな破裂音と共に周囲に火花が散る。賀茂 たまき(CL2000994)の護符だ。
「攻撃は、私が、受け止める」
 さらに数度の炎弾が飛来するも、全て護符により防がれ、破裂音を鳴らす楽器と化す。
 その音で目が覚めたのか、園子が目を醒ます。
「あれ……ここは……ひゃぁぅ!」
 さらにさよ目掛けて飛んできた弾丸はそれまで同様に空中で四散するも、一般人を怖がらせるには十分だ。
「お二人を助けに来たのです。立てますか?」
 さよの言葉にうなずきで返しながらもその子は火炎弾が弾けるごとに目をぎゅっと瞑る。
「さよちゃん、手伝って! 浦蔵さんは後頭部を打ったみたい。こういう時は、無闇に頭を動かしちゃダメってお姉さんが言ってたの!」
 渚は専門知識こそないが、断片的にある知識で判断をする。渚とさよ、そして園子が浦蔵をもちあげ、運び始める。
 そこに突っ込んでくる七星剣のメンバーをジャックが体で抑える。ジャックを守る水の膜が赤熱した刃を受け止め、蒸気をあげる。
「こっから先へは行かせんよ!」


『貴様の腕はまるで旨くない』
「おっさんは喰う側だからね!」
 逝の腕には地狼につけられた噛み傷が無数につけられていた。しかし、軽口混じりに悪食を振るい応戦する。
 逝は視界の端で浦蔵を運ぶ少女たちの姿を確認する。逝の目の端に映るということは、地狼もまた見えている。
『やはり、食うには生娘に限るか』
 そう言う地狼は飛び上がったかと思うと、体に土の鎧を身に纏い浦蔵を運ぶ渚ら三人へと突っ込んでいく。
「ッまずい! 切裂ちゃん、カバー頼んだ!」
 悪食を叩きつけ、出鼻をくじこうとするも、土鎧の前に弾き返され突破されてしまう。渚たちへと銀色の獅子が猛スピードで迫る。
「任された! さや達は進んでくれ、俺が受け止める!」
「ナナンもやるのだぁ!」
「……っ、止めます!」
 突っ込んでくる地狼の口に奈南がスティックを噛ませ、両脇をジャックとたまきが抑え込む。その衝撃凄まじく、ぶつかった地狼と覚者達は吹き飛ばされる。
 体の軽さもあり、たまきは大きくはじき出され、東呉の目の前に転がり込んでしまう。
「ハッ! コレで一匹トドメだ!」
 東呉の腕は二つの名の通り紅蓮の炎に包まれ、たまきへと振り下ろされる。
 その腕を愛斧ギュスターブで振り払い、二人の間に割って入る義高。
「そうやって老人や女子供ばっかり攻撃して、誇りってもんはねぇのかてめぇはよ!」
 義高の言葉に対して東呉は口角を上げたかと思えば義高へと殴りかかる。
「そんなもんあるわけねぇだろがよ。ココは戦場だぜ!」
「ホンマ見下げた奴やで! 東呉!」
 義高に続いて割って入った凛が焔陰流の奥義を繰り出し、たまきとの距離を放していく。
 その隙にたまきは起き上がると再び浦蔵を護送している者たちへと護符を飛ばし、彼女たちを狙う炎の弾丸を叩き落としていく。
 同時に起き上がった地狼に逝が飛びかかり、悪食がその体に廻らされた土の鎧を粉砕していく。
『しつこい奴よ。……おかげで逃がしたか』
「おっさんがいくらでも相手になるさね。でも、もう鬼ごっこはなしだ」
 戦場から離脱していく渚たちを見ると、今度こそ本当に標的を逝に絞る。
『そこまで言うのならいいだろう。貴様も腸まで硬いということもあるまい。臓腑の全てを貰うぞ!』


 息を切らしながら戦場を抜けた渚たちは、すぐさま浦蔵の治療に当たる。後頭部に受けた一撃も、渚の術でほどなく収まっていく。
 真夏程の暑さになっている洞窟内だが、この治療場だけはさよの水術で快適な気温にコントロールされる。
 やがて治療の甲斐もあり浦蔵は目を醒ます。
「おじいちゃあん」
 それまで不安そうにしていた園子は大粒の涙を流しながら祖父に泣きつく。年相応に大泣きをしてわんわん泣く彼女を浦蔵は優しく抱きしめる。
「渚さん、やったですね!」
「うん。でも、ここからもうひと踏ん張りだよっ」
 浦蔵が感謝の言葉を告げた後さや達が状況の説明を行うと、浦蔵は驚きの声を上げる。自分の孫と同じくらいの年齢の子たちが、あの戦場の中自分を助けたのが信じられないといった様子だ。
 自分の知識の中の存在と覚者達を照らし合わせ、何度か頷く浦蔵。そこで初めて得心がいったという風だ。
「私達、地狼をどうにかするために来たんです。どうすればいいですか?」
 老人の手を取り、渚が返す。渚の決意を秘めた力強い瞳にかつて封印をした者と同じものを感じ、浦蔵は信頼込めて話を始める。
「奴は荒ぶる神のようなもので、かつてこの辺りを荒らしておったそうだ。それをその時の陰陽師が霊剣に封じ込め、この地に土の力を転化させ豊穣をもたらしたという話なのじゃ。その時、地剣という名を貰ったその剣の封印は代々わしらの家系が引き継いできたのじゃ」
「もう一度、封印するにはどうすれば?」
「奴の力をある程度消耗させた状態で、地剣と特別な術が必要じゃわい。剣はあの祠にある物を。術は……あの符を扱う少女。陰陽術が基じゃ。彼女ならわしよりも上手く扱えるじゃろて」
 そこまで聞いてさよが全体に今聞いたことを念話で伝えていく。
(祠の封印用の剣と、陰陽術で封印ができるです。たまきさんは浦蔵さんに封印術を教えてもらってください! 剣は……)
(俺が!)
 さよが言い終わる前にジャックが駆けだす。
「さやちゃん。術の伝授が終わるまで、浦蔵さんと園子さんの護衛お願いできる? 私はあっちに戻るね」
 そう言う渚はメタルケースから注射器を一本取りだす。
「ま、ままま任せてくださいです! 絶対に守り抜きますです!」
 口調こそ頼りなさげだが、その眼には有言実行の意思が宿る。それに、水行の術者でもなければ、この常人には耐えがたい暑さを抑える術はない。
 この場をさやに託し、渚は戦場へと一気に駆け出していく。


「小僧を行かせるなぁ!」
 隻眼のリーダーの叫び声に七星剣の構成員が地剣を取りに駆け出したジャックを止めんとする。しかし、その腹部にホッケースティックが抉りこむ。
「いっけー、ジャックちゃん!」
 あえなく構成員はその場に倒れ伏し苦しみもだえる。当たり所が相当悪かったようだ。
 前線を維持していたもう一人の構成員もまた止めにかかろうとするも、今度はリンによって斬り伏せられる。
「焔陰流奥義、煌焔の味はどや……って、聞いても無駄やな」
 仲間たちの支援もあり、戦場を兎の如く駆け抜けていくジャック。最後にその行く手を阻もうとする東呉を義高がタックルからの組みつきで押しとどめる。
「いけっ、これでもうお前に障害はねぇ!」
「サンキュー義高!」
 東呉と両手で組み合った義高の脇をジャックが駆け抜ける。
「キサマぁ!」
 東呉は怒りを露わにしその腕を燃え上がらせる。その熱で義高の手は焼けるが、その手を放すことはない。
「ハッ。放してやるもんかよ。オラァ!」
 ダメ押しとばかりにヘッドバットを叩きこむ義高。東呉の額に亀裂が走り、血がこぼれる。大きく頭部を振り、東呉は義高の腹部に蹴りをいれ吹き飛ばす。
 吹き飛ばされた義高を凛が受け止め、戦場に駆け付けた渚がその傷を癒していく。
「義孝さん、流石やで。ナイスな時間稼ぎや」
「ひどい火傷……すぐに治しますね!」
 そうして仲間に支えられ体勢を立て直す義高とは対照的に東呉はただ一人膝を肩で息をしている。
 祠に目をやるとそこには剣を手にしたジャックの姿があった。
「桂! 俺達は命までとる気はない。やから、もう退け!」
「クッ……! チィッ……」
 まだ向かおうと立ち上がるも自分たちの惨状を見る。戦闘不能が三名、負傷一名。自分も手負いだ。勝ち目は万に一つも無いように見えた。
「この場は預けておく……テメェ、名前は?」
 ポケットから何やら黒い球状の物体を取り出しながら義高に尋ねる東呉。
「田場、田場義高だ」
「覚えておくぜ、その面。次にあった時、必ず始末してやらぁッ」
 そう言い残すと東呉は自分の腕を燃え上がらせ、球に着火。爆発音と共に周囲に煙幕が張られ、それが晴れたころには七星剣の面々は姿を消していた。
「何度でも来やがれってんだ! てめえらには絶対に負けはしねぇ!!」
 虚空に向かって義高が叫んだ。


 七星剣が居なくなったことで、戦場は一気に形成が変わっていく。自分以外が敵となった状態でも地狼の攻撃は凄まじく、消耗戦になりつつあった。
 お互いがかなり疲弊したところでたまきが術を護符に込めて戻ってくる。
「準備、できましたよ!」
「さて、地狼くんや。こっちは封印の用意もそろった。これ以上続けるかい?」
 逝の言葉に片耳だけをピクリと反応を返す地狼。
『その物言い。貴様らが封印をこなせると言うておるようなもの。封印を施した者はとうの昔に死んでおろう』
「確かに、かつての術者は亡くなっています……。ですが、私も同じ陰陽師。やり方さえ知っていれば、できます……!」
 そういってたまきは今しがた術を込めた護符を手に構え直す。同じく、ジャックの手にもまた封印用の剣が握られている。
「なぁ、このままじゃ俺達はお前を封印する。乱暴なままならそうするしかない。でもお前も狭い場所は嫌いやろ?」
 言葉こそ交渉を持ちかけるものであったが、しかしジャックの顔にはもう戦いをやめてほしいという祈りにも近しい思いが現れていた。
 しかし、そんな彼とは距離を取る地狼。ジャックというよりも、ジャックの封印剣を警戒して距離をとろうとするように見える。
『貴様を獲れば術は完成せぬのだろう!』
 剣持ちに飛びかかるのを得策とはせずたまきへと最後の力で飛びかかる地狼。
 しかし、その動きは逝と奈南が押し返し、そのまま地面に叩きつけると義高、凛も加わり四人で抑え込む。
 ギラリと地狼の瞳が輝くと四人の足元の地面が隆起しその体を貫こうとする。四人は距離を放す。
 いまだ戦闘態勢といった古妖の様子に歩み出るさや。
「さよはまだ子供で、難しいことは分らないです。でも、その憎しみが戦いを、苦しみを広げてしまうってわかりますです」
 僅かに足を震えさせながらもそう言い切るさや。


『……貴様らの言う封印とは、我の力を大地に流し、この地を繁栄させるというものだ』
 ポツリと古妖がそう漏らす。
『人柱で、それ以外の者へ安寧を与えるというものだ。封印によって生じる苦痛は貴様らの想像を絶するものよ。それを与えた人間を許せと言うか!』
 しばらくの間、全員は押し黙る。間違いなくこの古妖は人を食べてきたのだろう。戦闘時の発言や、伝承からもそれはうかがい知れることだ。だが、目の前の古妖から発せられた言葉も嘘のようには思えなかった。
 どちらが悪いかの判断は誰にもつけられない。
「ナナン達の事も倒したい?」
 奈南は小首を傾げながらそう尋ねる。
「今はね、ナナン達みたいな古妖さん達のこと知ってる人もいっぱい増えたし、地狼さんがしばりつけられなきゃいけない世界でもないと思うの」
「そうだぜ! 俺だって、人と古妖の間に生まれたんだ。そういうことだって起きてるし、人と協力して生きてる古妖も居る! それがこの証だ!」
 奈南の言葉に続くようにジャックが友人帳を見せる。そこに連なる名前を見せていく。
 それをみてしばらく押し黙る地狼。
「地狼さん。今ね、貴方を、封印しようと思えば、私達いくらでも、チャンス、あったと思います。でも、私達はそうせず、貴方との、対話を、望んでいる。これは、人と、古妖が、共に歩める。世界の、証左とは、なりませんか?」
 護符を構えていたたまきはその構えを解き、進みだす。逝と義高には少しの緊張が走る。
『……貴様らの話はどうにも腑に落ちぬ。信用ならん』
 そう言いはするも後ろ足を折り、座る体勢になったかと思えば、自分の顔をかきはじめる地狼。
『……だが、手を出さないというのはよく分かった。ならば、貴様ら言うことの証として世界を旅することにしよう』
「旅だと?」
 地狼の発言に首をかしげる義高。
『この世界を見て回る。それ次第で貴様らの話を信用しよう。もし、今の流れが貴様らと我々の共存に向かっているのなら、しないというわけにもいくまい。それだけの同胞の名を借りているのだからな』
 古妖は立ち上がり、外へと歩み出しながらちらりとジャックの友人帳へと目を向ける。その言葉にジャックの顔はみるみるほころんでいく。それを見て古妖はしかめっ面で続ける。
『しかし! 敵対意識の方が多いようなら、我は変わらず人を喰うことにする。…………、もし本当なら、我も名を貸そう』
「……っ! ありがとう!」
 走り出した地狼へとジャックは歓喜の声を上げた。


「地剣は、もうわしらには必要ありませんな……」
「じゃ、FiVEで保管するさね。七星剣の連中もこれを狙ってきたみたいだしね」
「どうか、よろしく頼みます」
 事後処理の話し合いの最中、七星剣に場所が割れてしまっていることや封印の力もないことを鑑みて地剣はFiVEが保管する運びとなった。逝はしげしげとその剣を眺めつづけている。地剣の見た目は古い中国剣であり、あの古妖を長年封じ込めてきたこともあり、土の力を常に纏ったものとなっている。
「園子ちゃん、腹減ったやろ。これでも食べや」
「わぁ、ありがとうお姉さん!」
 事態が収拾し、やっと園子も年相応の笑顔を見せながら凛におもちワッフルを貰っている。
「でも逃がしちゃってよかったの? 襲ってこない?」
 不安そうにそう尋ねる園子へ渚とさやが答える。
「大丈夫。私達、今までもいろんな古妖さんと理解しあえて来たんだもの」
「さよたちは信じてるです。地狼さんもきっととわかってくれるです」
 彼女たちがそういうのならきっとそうなのだろう。と、自分を救ってくれものの言葉を無条件に信じる園子。園子の齧ったおもちワッフルの甘さは安心感を与えてくれた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

難しい戦場での戦いお疲れ様でした。
やることは多くあり、忙しく、目まぐるしく戦場は切り替わっていきました。
そんな中で役割分担がはっきりしていてすごくよかったです。
今回出てきたボス二名はまた登場する機会があるかもしれません。
もし会えそうなら、またお会いしていただければ幸いです。
それでは、皆さんとまた会える日を楽しみにしています。
ご参加ありがとうございました。




 
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