吾輩が孤軍奮闘いたします
吾輩が孤軍奮闘いたします


●昨今の覚者活動(夢見のいない組織の場合)
 電波障害解決後、妖退治の手法は大きく変化した。
 情報ネットワーク拡大により、まとまった覚者集団達による応援要請が増えたのだ。未来予知ができる夢見にこそ劣るが、鮮度の高い情報を即座に伝達できるというのは戦術としても有用である。覚醒状態による小規模な電波発生と言う壁もあるが、送受信などの技能によりそれをカバーして、覚者達と非覚者達は連携を取って妖の防衛に努めていた。
 そんな中『偉人列伝』と呼ばれる覚者集団も、とある人からの連絡を受けて現地に急いでいた。夜中の緊急故に少数しか集まることが出来なかったが、車を飛ばして急ぎ連絡を受けた浜辺に向かう。
「おお。長谷部殿、御無事であったか!?」
「ああ、山田さん……この……刀を……」
 山田、と呼ばれた男は長谷部と呼んだ男の元に走る。体中に切り刻まれたような傷跡があり、動くことも難しい状態だ。手には一本の刀を持っている。
「ふ。吾輩は『発明王の生まれ変わり』です。間違えぬように。それはそれとしてこの刀が、どうかしたのか?」
 山田は二つ名を主張した後で、長谷部が手にした刀を取って抜く。それを月光に当てて鑑定するように目利きした。
「ほほう、これは見事な細直刃。長谷部殿の作品かな?」
 山田は日本刀の刃文を見ながらその出来を褒める。長谷部は刀匠の資格を持っている。おそらく彼の作品なのだろう。しかし普通の刀にしか見えない。神具ですらないこの刀がどうしたというのだろうか?
「この刀を……抜いて月光に晒してはいけません。刀を狩る妖達が感づいてしまいます」
 …………え?
 そんな沈黙がおちた。
「はっはっは。何を言うか長谷部殿。妖は知性なき獣。人を襲うならともかく、刀を求めて狩りをするなどそのような知性はありませぬ。
 この『発明王の生まれ変わり』がそれは何かの間違いだと断言しよう!」
「『発明王』、後ろ後ろー!」
「もげっ、きぁ!」
 舌の根の乾かぬ内に後ろから大挙してきた妖に飲み込まれる山田であった。

●FiVE
「――という事が起きるので、行って助けてきてあげてね」
 久方 万里(nCL2000005)は呆れるようにため息をついて、覚者達にそう告げた。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.妖の全討伐
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 山田の生死は成功条件に含みません。

●敵情報
・妖(×10)
 動物系妖。ランクは1と2。体の部位に日本刀のような武器がついた妖です。
 刃物を持つ者を優先的に狙う習性があります。

・犬型(ランク1 8匹)
 攻撃方法
 噛み付き 物近単 牙で噛み付いてきます。
 切り裂き 物近単 額の刃物で切り裂いてきます。〔出血〕

・隼型(ランク2 2匹)
 攻撃方法
 烈風 特近列  鋭い風を起こし、切り裂きます。〔出血〕
 疾風 物近貫2 真っ直ぐに飛び、刃物のような嘴で貫きます。(100%、50%)
 心刺 物遠単  心臓を穿つ必殺の一撃。〔必殺〕
 飛行   P  常に〔飛行〕状態。

●NPC
・『偉人列伝』
 全員が前世持ちの覚者集団。自分の前世を有名人だと信じて疑わない困った連中です。
 山田以外は一般人の長谷部を安全な場所に逃がすために行動しています。
 参加者が六名に満たなかった場合、偉人列伝の覚者から六名になるまで戦闘に参加します。その際、相談卓内で指示があればそれに従います(プレイングでの指示は不要です)。

『発明王の生まれ変わり』山田・勝家
 過去に何度か(割としょーもない経緯で)FiVEと抗戦した覚者です。前世持ちの木行。自分の前世を『発明王』と言い切るイタイ覚者。100%予測が外れます。
 拙作『前世知る識者が集いて、タコ殴り』『有名になれば誰かが名を騙る』などに出てきますが、読まずとも問題ありません。
 妖達は彼の持つ日本刀を手に入れようと殺到しています。『ここは吾輩に任せて早く行け!』と死亡フラグを立てて、日本刀をもって偉人列伝メンバーと反対方向に移動しています。『大丈夫。吾輩の智謀があればこの程度切り抜けられると断言しよう!』とさらにあかんフラグまで立てています。
 色々あって体力気力半分の状態です。回復欲しいのジェスチャーをしています。まだ余裕はありそうです。
『錬覇法』『葉纏』『仇華浸香』『大樹の息吹』『覚醒爆光』『韋駄天足』等を活性化しています。

『斧の王』清水・透
 土の前世持ち。三十五歳男性。参加者が六名に満たない時の援軍その一。
 エイブラハム・リンカーンの生まれ変わりを自称しています。神具は半月斧。髭を生やしたりと形から入るタイプです。でも英語は喋れません。
『錬覇法』『土纏』『琴富士』『蔵王・戒』『波動弾』『特攻強化・弐』『覚醒爆光』『威風』等を活性化しています。

『砂漠の女王』楠木・詩織
 水の前世持ち。十歳女性。参加者が六名に満たない時の援軍その二。
 クレオパトラ7世フィロパトルの生まれ変わりを自称しています。エジプトっぽい杖を手に回復に回ります。
『錬覇法』『水纏』『潤しの滴』『潤しの雨』『氷巖華』『アイドルオーラ』『マイナスイオン』等を活性化しています。

●場所情報
 海岸。時刻は夜。足場と広さは戦闘に支障ありません。
 戦闘開始時、敵前衛に『山田』『犬型(×6)』、中衛に『犬型(×2)』『隼型(×2)』がいます。覚者と敵前衛との距離は10メートルとします。
 急……ぐ理由はないような気もするので(精々山田がひどい目にあう程度なので)、一度だけ事前付与可能です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年03月23日

■メイン参加者 8人■

『偽弱者(はすらー)』
橡・槐(CL2000732)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『静かに見つめる眼』
東雲 梛(CL2001410)


「ふ。やはり来てくれたかFiVEの有志よ! この『発明王の生まれ変わり』の戦いっぷりを見よ! あ、でも回復とか飛ばしてくれると助かるのだがプリーズ!」
 勝手に刀を抜いて妖を呼び寄せ、多数の妖に囲まれ孤立奮闘している燕尾服の覚者。その名前を山田勝家と言う。偉そうにポーズを決めて指を立てるが、早く助けてとセリフの端から聞こえてくる。
 それを見たFiVEの覚者の反応は様々だった。
「なに、この人?」
『静かに見つめる眼』東雲 梛(CL2001410)は至極冷静にそう言い放った。然もありなん。夢見から話を聞いて変な人と思ったが、それ以上に変な人だった。ともあれ妖は倒さねばならない。神具を構えて歩を進めた。
「…………なんて言ったらいいんだろう」
 夢見がいない覚者組織。それでも妖退治に頑張るのだから大変なんだなぁ、と思ってきてみればこれである。宮神 羽琉(CL2001381)は極力目を合わせないように努めていた。目があうといろいろ絡まれそうな気がする。
「山田さん……今回は騙されて悪いことしてるわけじゃないんですね。ちょっと安心しました。……それどころじゃないですけど!」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は久しぶりに見た覚者を見て、騙されていないと安堵する。最も状況は騙されているよりも悪いのだが。ともあれ早く助けないとと慌てて神具を構えた。
「全く……悪い人じゃないんでしょうけど、流石にちょっと、ね」
 頭に手を当ててため息を吐きながら『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が沈痛な表情を浮かべた。山田に対し言いたいことは多々あるが、今は後回しだ。先ずは妖を倒さなくては、
「山田の人は相変わらず凄い逆神ぶりなのです。いっそ『逆神の生まれ変わり』を名乗ってはどうなのです?」
 いいアイデアだ、と言わんばかりに『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)は腕を組んで頷いた。逆神。立てた予想がことごとく外れる人を指すスラングである。山田本人は自信満々に否定するだろうが。
「もう……何を言っても、聞いてくれなさそう……」
 一般人を巻き込むとか何事か、と思いつつも『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は諦めた様にそう呟いた。山田と何度か関わり、何度か刃とか言葉とかかわした結果の結論である。
「まあ山田さんですから。曰くお約束なのでしょう」
 至極冷静に望月・夢(CL2001307)が首を縦に振った。何度かひどい目にあったり騙されたりする山田だが、それでも懲りずに活動するバイタリティがある。山田を救う意味も含めて、妖を倒さなくてはいけないのは確かだ。
「なあに? 今更、刀狩りかね妖共」
 おっさんの商売あがったりさね、と緒形 逝(CL2000156)が肩をすくめる。刀を狙う妖。奇妙な習性だがその習性ゆえに囮になりやすい状況でもある。『直刀・悪食』を抜き放ち、妖の数を目視する。十体。ご飯にはちょうどいい量だ。
 妖達もFiVEの覚者の存在を認めたのか、その視線をこちらに向ける。鋭い殺気が肌を刺し、戦場の空気が満ちてくる。
 刀を狙う奇妙な妖。覚者達はその存在に挑む。


「参りましょう。先ずは強化を」
 神具を手に、夢が味方を見る。後衛に立つ夢は全員の背中を視界内にとらえることが出来る。八人の覚者。だが妖はこちらよりも数が多い。後衛に居るとはいえ、安全とは言えないのだ。ゆえに速攻で相手を倒す必要がある。
『神祝ノ光』が紫の光を放つ。それにより動きを増した夢は、誰よりも早く動き味方を強化する。祝詞を捧げ、味方の動きを加速させていく。直接相手を殴る火力ではなく、味方を強化する支援。それこそが夢の戦法。
「皆さん、頑張ってください」
「へいへい。それじゃあおっさんもがんばるとしますか」
 フルフェイスのヘルメットの中から気だるげな声を返す逝。表情は見えないが、声に反して戦意は高い。ゆっくりと神具を構えながら、土の術式で身体を強化する。まるで散歩をするように妖の群れに近づいていく。
 逝の構えは剣術を学んだものから見れば素人同然に見える。隙も多く、何処か危なっかしい。だが重心は安定しており、何かしらの戦闘経験があるのは間違いない。横一線に振るわれる『直刀・悪食』。魂を喰らう妖刀は、妖を深く傷つけていた。
「ああ、そこの面白そうなヒト。悪食は好き嫌いしないから避けないと死ぬぞう?」
「ふ。察するに吾輩に言っているのだろうが、吾輩は天才であって面白い人ではないぞ」
「うん……どちらかと言うと、残念、だよね……」
 小さく頷き補足するように告げるミュエル。悪い人ではないのだが、一緒に戦いたくない類の人間である。活発的な覚者ではあるのだが、頭脳と行動の結果があまりにも残念すぎる。どうしてこんな人と知り合ったのだろうかと、縁の悪さを少し呪った。
 気持ちを切り替えて、戦いに集中するミュエル。薬効のある植物のエキスを霧状にして放ち、山田と味方の治癒力を活性化させる。その後に植物毒を神具に乗せて、一気に解き放った。
「おお。吾輩治癒力アップ! 感謝するぞ!」
「ここで見殺しにしたら、FiVEの評判に関わるかもって、ただそれだけ、だからね……」
「ふ、これが業界用語でいう所のツンデ――すみません冗談ですなので支援止めないで」
「まとめて薙ぎ払った方が楽になるかもね」
 いらんことを言う山田を見ながらエメレンツィアが呟く。可愛そうと思って最初に山田の体力を回復したのだが、やらなくてもよかった気がしてくる。縁を断ち切る意味も含めてここでばっさりとやった方がいいのかもしれない。
 流石にそういうわけにもいかず、妖に意識を集中させるエメレンツィア。手のひらに生まれるこぶし大ほどの水。そこからうまれた水の蛇が螺旋を描くように天に昇っていく。天から強襲するように水の蛇は妖に迫り、山田を避けるようにして妖を穿っていく。
「全く……世話が焼けるわね!」
「流石FiVEの覚者達。見事の一言に尽きる。しかし吾輩が本気出せばこの程度は――」
「そういうこと言うとまた裏目に出るですよ」
 調子に乗る山田にぴしゃりと釘をさす槐。彼にやる気を出させると、マイナスになるからだ。それなりに強いのは確かだが、今までの経験上調子に乗せない方がいい。囮になっている分、今回は役に立っている方だ。
 妖の攻撃を受け流しながら、天の源素を回転させる槐。攻撃用に尖らせるように練るのではなく、相手を困惑させるように細かく源素を散布する。風邪に乗って飛ぶ幻惑成分が妖の鼻腔から侵入し、その視界を狂わせる。それにより同士討ちする妖が発生した。
「それじゃあ皆頑張るですよ。私は応援してるんで」
「了解。それじゃあ行きますか」
 頭を掻きながら梛が神具を構える。守護使役の『まもり』に戦場を照らしてもらいながら、ゆっくりと敵陣を確認した。敵の数は十体。気を抜けば戦況は一気にひっくり返されるだろう数。だからこそ気を張りすぎずにと心で呟く。
 とんとん、と『銀雪棍』で地面を叩いて妖に迫る。長柄の武器は持つ場所を変えれば間合が変化する。長く短く変化する間合。自分の体を軸に棍を回転させながら、妖の群れに身を躍らせる梛。竜巻のような乱打に迫る妖が巻き込まれていく。
「刀を持っている人から狙われるのなら、俺は狙われにくいかな」
「うん。でも油断は禁物かな。巻き込んで攻撃してくることもあるし」
 妖の習性を見ながら羽琉が頷く。確かに傾向として刃物を持っている逝と槐と夢と山田を中心に狙っているが、あくまで彼らを中心に攻めているだけだ。範囲攻撃で刃物を持っていない覚者を巻き込んで攻撃するなど他の覚者も無傷ではなかった。
 錬丹書を手にして源素を書に集中させる。ページがひとりでに開き、中にある文字が言葉なく呪文となって世界を変化させていく。天に輝く光の矢。それは重力で加速する流星の如く。降り注いだ光の一撃が、妖達に叩きつけられていく。
「流石にランク2は避けるか。仕方ないかな」
「結構素早いですね、あの隼」
 妖の動きを見ながらラーラが真剣な目になる。元となった動物の習性か、ランク2の妖の動きは速い。けして捕らえられない速度ではないのだが、しっかり狙わないと当てにくいのも確かだ。
『惑える魔女の衣』が戦場の風に吹かれて靡く。揺らいだ衣が収まるよりも早くラーラの足元に広がる魔法陣。そこから生まれた真紅の子猫が妖に向かって走る。それを追うように炎が生まれ、火柱となって妖を焼いていく。
「山田さん、その妖達はあなたが持ってる日本刀を狙ってるみたいなんです! 今すぐ手放してこちらへ合流してください!」
「いや。これは長谷部殿の作品。預かった手前そう易々と手放すわけには――」
「じゃあおっさんが預かるぞい。妖に狙われたくないだろう」
「あ。宜しくお願いします」
 山田は刀を逝に渡し、FiVEの覚者と合流する。妖の刃で傷と出血だらけだが、まだ戦えそうだ。
 刀を求める妖との戦いは、すこしずつ終焉に向かっていく。


 以外と思われるかもしれないが、単純なスペックで言えば山田の戦闘力は低くはない。自己の付与で火力を増し、前衛でバッドステータスを振りまきながら単体だけど回復も行える。何処に配置しても相応に役に立つ構成だ。
「この『発明王の生まれ変わり』が味方する幸運を感謝するのだな、FiVEの諸君!」
 ――まあ、このすぐ調子に乗るという性格がなければという前提があるが。
「妖が、襲ってきた原因は……刀を抜いたから……だよね?」
「人の話を最後まで聞かないからこうなるのよ」
 そんなわけでFiVEの覚者達からは仲間と言うよりは『敵じゃない存在』程度に扱われていた。何度もかかわったミュエルやエメレンツィアは、そんな山田に冷たくため息をつく。
「僕は気が紛れて嬉しいかな。ああいう人」
 好意的な意見を出しているのは羽琉だ。妖の戦闘と言う恐怖から気がまぎれるのは、正直助かる。少なくとも真似ができるとは思えない。しようとも思わないが。
 ともあれ九人と数を増した覚者勢。ランク1とはいえ数で押されていた覚者は、手数の上でも追いついて勢いを盛り返す。
「それにしてもあれですね。刀なら何でも狙ってくるって感じですか」
 神具で妖の攻撃を弾きながら槐が推測する。妖の狙いは日本刀を持つ逝やナイフを持つ槐自身に向けられている。こちらのブロックを乗り越えて後衛に向かうという事もない。本当に奇妙な習性だ、と首をひねる。
「元々刃物や光物に目がない子達だったんでしょうか……それとも、刀に対する誰かの強い執着がこの子達の妖化に影響を与えたんでしょうか?」
 ラーラは妖の行動を推測しながら炎を放つ。鳥が光物を集めるという話はあるが、隼がその習性をもっていると言う話は聞いたことがない。そうなると後者か。この妖達の背後に、誰かがいるのではないだろうか?
「可能性はある。この妖達、刀を植え付けられたような痕があるし」
 妖をスキャンした梛が隼や犬が持つ刃の付け根の接合部分を指差す。一目ではわからないが、その接合部には不自然な傷痕があった――もっとも、妖の成り立ちや構造に『自然的』を求めるのは間違ってはいるのだが。
「刀を取り込む……それで力を増すのかしら」
 エメレンツィアは仲間を水の術式で癒しながら口を開く。妖達の攻撃は鋭い。血飛沫が舞う戦場を見ながら、この推測は間違っていないかもと頷く。覚者が神具を持つように、妖も武具を持つのなら? 単純だが効率的な戦力上昇だろう。
「妖が力を増す……ですか」
 羽琉はその言葉を聞いて恐怖に震える。今のままでさえ妖は脅威だ。それがさらに力を増して人を襲う。街は血にまみれ、切り刻まれた人達があたりに倒れている。そんな光景を想像するだけで、ぞわりと悪寒が走った。
「しかし刀を持つだけでそこまで強くなるかねぃ? これ、普通の刀だぞう」
 受け取った刀を見て首をひねる逝。確かに武器を持つことは強くなることだ。だが刀術は、一朝一夕では身につかない。事実、目の前の妖も『刀を身体に付けている』だけだ。妖の身体能力からすれば、たいした戦力増加ではない。少し痛くなった程度だ。
「――逆かもしれません。妖が神具や妖刀を取り込んだら、この妖以上になる」
 刀による出血を癒しながら夢が頷く。ただの刀を取り込んだ妖がこうなるのなら、妖刀と言われるものや神具を取り込めば? 刀を奪う妖が求めているのは、もしかしたら『刀状の神具』なのでは?
「でも……妖がそんなこと、考える……?」
 ミュエルの疑問はもっともだった。人が武器を持つように、妖が武器を持つとは思えない。知性なく暴れまわるのが妖だ。それが『武装』という知恵を持って襲い掛かってくる。そんな知恵ある妖など……いないとは言い切れない。
「――ランク4」
 四体しかない大妖を除けば、妖の中でも最も高位と言われている存在。
「はっはっは。突飛なことを。ランク4など都市伝説。そのような存在がこのような盗難事件に関わっているなどありえない。
 この『発明王の生まれ変わり』が、それはないと断言しよう」
「……うわー、逆神が断言したですよ」
 意見を一蹴する山田。うんざりとした声で額に手をやる槐。
 この推測が正しいか否かはともあれ、今は妖を倒して場を納めなければならない。
「あらよっと。悪食、たんとくらいな」
 逝の『直刀・悪食』が瘴気を振りまきながら縦横無尽に舞う。刃の軌跡にあった犬の妖達は切り刻まれ、声を上げた後に動かなくなった。
 クゥエエエエエエエエ!
 雄たけびを上げて飛ぶ隼の妖。その鋭い一撃が囮となっている逝と槐の命数を削り取るが、猛威はそこまで。
「消えなさい、妖。これが女帝の鉄槌よ」
 水の龍を作り出し、隼の妖に向かて飛ばすエメレンツィア。女帝の命により空を駆ける妖を追う龍。急上昇して逃げようとする妖だが、その目の前には竜の顎。妖の動きを呼んでいたエメレンツィアが水龍をそこに誘導していたのだ。
 水龍と共に地面に叩きつけられる隼の妖。翼は地に堕ち、妖は二度と空に舞うことはなかった。


「そう言えば以前にも見たな。低ランクの動物系妖が元に戻る現象は」
 戦闘終了後、犬型の妖が息を吹き返素のを確認する覚者達。山田はその姿を見て腕を組んで頷いていた。
「良かったですわ。この子達が元に戻れて」
 ラーラは犬の傷に応急処置を施しながら、安堵のため息をつく。ランク2の隼はどうしようもなかったが、消える命は少ないに越したことはない。
「いやめでたしめでたし。では吾輩はこれで――」
「待ちなさい、ヤマダ」
 イイハナシダナー、としめようとした山田の肩を掴んで止めるエメレンツィア。
「また失敗したわね。人の話を聞かないからよ。話を聞かず、失敗を受け入れず。どこが発明王よ」
「多分……何を言っても、無駄だと思う……」
 ミュエルはその隣で諦めのため息をついていた。手間のかかる兄ってこんな感じなのかなぁ。夢見の久方相馬と万里の関係を思い出し、少し陰鬱になった。ミュエルの優しい性格がこんな形で弊害を生もうとは。
「どうでもいいけど、もう少し戦闘の計画を立ててから行動した方が良いと思うよ」
「偉人列伝は前世持ちばかりの覚者集団ゆえに夢見なしの事前情報なし。よって計画立てる時間も当然なし!」
 梛の言葉にポーズをつけて言葉を返す山田。妖がいるかもしれない状況で、作戦を立てている余裕は実はない。一秒の行動の遅れで命を失う可能性があるからだ。それもそうか、と納得する梛。でもポーズは意味ないよね、と思い直す。
「なんというか、くじけない人ですね」
 山田の反応を言葉を選びながら評する羽琉。気弱な羽琉からすれば、夢見の事前情報なしで活動をする豪胆さは羨ましくはある。でも失敗するのは情報がないからだけじゃないよね、と冷静に分析もしていた。
「ふむ。特に何かの伝承があるわけでもないのか」
「はい。材料も二級Bの玉鋼です。特に変わった物では……」
 逝は刀について長谷部から話を聞く。嘘を言っているようには見えず、自分の知識と照らし合わせても間違いはないとわかる。
「現状は『刀を狙っている妖がいる』以上の確定情報はなさそうですね」
 面倒くさそうにため息をつく槐。推測できることはあるが、あくまで推測だ。それが何者で、どういう目的を持っているのかが分からない。そもそも『目的』を持つ妖自体がレアケースだ。
「帰りましょう。嵐が来る前に」
 夢が静かに告げる。妖をすべて倒し、情報もこれ以上ないのならここに留まる理由はない。FiVEに報告をし、迫り来るであろう嵐に備えるのだ。――明確な目的を持つ知性ある妖が起こすであろう、暴虐の嵐に。
 覚者達に異論はなかった。

「そこまで心配するのなら、これも恩返し。偉人列伝でも調査をしておこう」
 そう言って山田をはじめとした偉人列伝は去っていく。今までの経緯からあまり期待はしていない覚者達もいるが、それはそれ。
 夢見ではない覚者達に、未来は見えない。
 だが見えない部分で何かが動いている。その核心は、確かにあった――

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

『発明王の生まれ変わり』……それは必ず外れる占いの球。
 今回山田が出てきた意味は、それだけです。




 
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