≪結界王暗躍≫山の守りを隔者は砕く
●
夜の山中に爆発音が響き渡る。
隔者の攻撃によるものだ。
その爆発音のあった場所では、子鬼のような姿をした古妖が武装した連中に追い詰められていた。
「数をそろえてきやがって……おめぇら、一体何なんじゃ」
「今までうちの部下が世話になったらしいなぁ、小豆洗いさんよ。まぁ、俺たちが来たのが運の尽きだ」
「すぐに殺すんじゃないよ、武道。しっかり戦って、『結界王』に装備のレポート出さなきゃいけないんだからさ」
「へいへい、分かってますよ、鈴。いつもいつも、『結界王』はうっせぇからな。それに助けられているから偉そうなことも言えねぇけどよ。そんなわけだから、もちっとしっかり抵抗してくれや」
そう言って、武道と呼ばれた男は古妖――小豆洗いの足に向かって斧を振り下ろす。
小豆洗いは身をかわそうとするが、男の斧は尋常ならざる速度で襲い掛かって来る。
島原武道(しまばら・ぶどう)と九重鈴(ここのえ・すず)は『七星剣』に所属する隔者だ。この度は部下にやらせていた山林の開発が滞っていたので、増援としてやって来た。開発事業と言えば聞こえはいいが、要するに地上げである。部下に命じて付近の住人を脅しつけ、近くある施設の建設予定がある土地を安く買いたたこうとしていたのだ。
だが、それは頑として進まなかった。小豆洗いが陰ながら地域住民を守るべく邪魔していたからだ。武装はあるが現地で動いていたのは非覚者。古妖が力を出せば、十分妨害は出来る。
業を煮やして、隔者達は直接介入を行いに来た。
もっとも、目的はそれだけではない。隔者達は『結界王』と呼ばれる人物から、神具を渡されていた。普段使用しているものに比べると強力なものだ。これらについてのテストも仕事の1つである。
それからしばらく、武道による攻撃は続いた。もっとも、一方的な攻撃だ。ほとんどリンチと言ってもいいだろう。
小豆洗いもいくばくかの抵抗を試みるが、それは武道の装甲の前にあえなく弾かれてしまう。そして、地面に倒れ伏し、憎々しげに隔者達を睨みつける。
「く、くそ。てめぇらみたいな奴らにこの山は渡さねぇぞ!」
「そんなに強くない古妖みたいだし、こんなものね。『結界王』への報告としては十分でしょう。武道、そろそろそいつに用はいないわ」
「おう! それじゃあな。あばよ!」
これ以上の戦闘は必要ないと判断した鈴が武道に指示を飛ばす。
それを受けて、武道はとどめを刺すべく、斧を高々と振り上げた。
●
「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
集まった覚者達に元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。そして、全員そろったことを確認すると、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「うん、隔者の人が事件を起こす夢を見たの。みんなの力を貸して!」
麦の渡してきた資料には、某山間部の村で行われている地上げ事件について記されていた。そして、それを止めるべく動いていた古妖、小豆洗いが隔者に襲われてしまうのだという。
「襲っているのは『七星剣』。知っていると思うけど、国内最大の隔者組織だね」
やって来ているのは2人組の隔者で、島原武道と九重鈴という男女だ。コンビで活動しており、それぞれフォワードとバックスとして動いている。関係は仕事仲間と言った所で、『七星剣』の中ではそこそこの実力者のようだ。若干強めの装備をしているので油断は出来ない。
他にも非覚者の戦闘員も引き連れている。武装は充実しているので、こちらも十分な脅威と言える。
基本的には傷ついた古妖の保護と隔者の撃退だ。この場所で起きている地上げの件に関しては、その2つがなされれば自然と解決する話である。
「ちょっと気になるのは、この2人が口にしている『結界王』って名前かな。話しぶりからすると偉い人だと思うんだけど」
残念ながら、麦の予知ではそこまで掴めなかったらしい。必ずしも必要ではないが、上手くすれば情報を得ることも出来るだろう。
説明を終えると、麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」
●
FIVE、やはり侮れない相手のようですね。
このまま放っておけば、八神様の覇道を汚すことは必定。
『濃霧』や『猟犬』も動いているようですが、そろそろ彼らだけに任せておく道理もありません。
この『結界王』も動かせていただきましょうか。
あろうことなら、全てが隠されたまま。
世に波を立たせぬまま、FIVEには退場していただきましょう。
夜の山中に爆発音が響き渡る。
隔者の攻撃によるものだ。
その爆発音のあった場所では、子鬼のような姿をした古妖が武装した連中に追い詰められていた。
「数をそろえてきやがって……おめぇら、一体何なんじゃ」
「今までうちの部下が世話になったらしいなぁ、小豆洗いさんよ。まぁ、俺たちが来たのが運の尽きだ」
「すぐに殺すんじゃないよ、武道。しっかり戦って、『結界王』に装備のレポート出さなきゃいけないんだからさ」
「へいへい、分かってますよ、鈴。いつもいつも、『結界王』はうっせぇからな。それに助けられているから偉そうなことも言えねぇけどよ。そんなわけだから、もちっとしっかり抵抗してくれや」
そう言って、武道と呼ばれた男は古妖――小豆洗いの足に向かって斧を振り下ろす。
小豆洗いは身をかわそうとするが、男の斧は尋常ならざる速度で襲い掛かって来る。
島原武道(しまばら・ぶどう)と九重鈴(ここのえ・すず)は『七星剣』に所属する隔者だ。この度は部下にやらせていた山林の開発が滞っていたので、増援としてやって来た。開発事業と言えば聞こえはいいが、要するに地上げである。部下に命じて付近の住人を脅しつけ、近くある施設の建設予定がある土地を安く買いたたこうとしていたのだ。
だが、それは頑として進まなかった。小豆洗いが陰ながら地域住民を守るべく邪魔していたからだ。武装はあるが現地で動いていたのは非覚者。古妖が力を出せば、十分妨害は出来る。
業を煮やして、隔者達は直接介入を行いに来た。
もっとも、目的はそれだけではない。隔者達は『結界王』と呼ばれる人物から、神具を渡されていた。普段使用しているものに比べると強力なものだ。これらについてのテストも仕事の1つである。
それからしばらく、武道による攻撃は続いた。もっとも、一方的な攻撃だ。ほとんどリンチと言ってもいいだろう。
小豆洗いもいくばくかの抵抗を試みるが、それは武道の装甲の前にあえなく弾かれてしまう。そして、地面に倒れ伏し、憎々しげに隔者達を睨みつける。
「く、くそ。てめぇらみたいな奴らにこの山は渡さねぇぞ!」
「そんなに強くない古妖みたいだし、こんなものね。『結界王』への報告としては十分でしょう。武道、そろそろそいつに用はいないわ」
「おう! それじゃあな。あばよ!」
これ以上の戦闘は必要ないと判断した鈴が武道に指示を飛ばす。
それを受けて、武道はとどめを刺すべく、斧を高々と振り上げた。
●
「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
集まった覚者達に元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。そして、全員そろったことを確認すると、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「うん、隔者の人が事件を起こす夢を見たの。みんなの力を貸して!」
麦の渡してきた資料には、某山間部の村で行われている地上げ事件について記されていた。そして、それを止めるべく動いていた古妖、小豆洗いが隔者に襲われてしまうのだという。
「襲っているのは『七星剣』。知っていると思うけど、国内最大の隔者組織だね」
やって来ているのは2人組の隔者で、島原武道と九重鈴という男女だ。コンビで活動しており、それぞれフォワードとバックスとして動いている。関係は仕事仲間と言った所で、『七星剣』の中ではそこそこの実力者のようだ。若干強めの装備をしているので油断は出来ない。
他にも非覚者の戦闘員も引き連れている。武装は充実しているので、こちらも十分な脅威と言える。
基本的には傷ついた古妖の保護と隔者の撃退だ。この場所で起きている地上げの件に関しては、その2つがなされれば自然と解決する話である。
「ちょっと気になるのは、この2人が口にしている『結界王』って名前かな。話しぶりからすると偉い人だと思うんだけど」
残念ながら、麦の予知ではそこまで掴めなかったらしい。必ずしも必要ではないが、上手くすれば情報を得ることも出来るだろう。
説明を終えると、麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」
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FIVE、やはり侮れない相手のようですね。
このまま放っておけば、八神様の覇道を汚すことは必定。
『濃霧』や『猟犬』も動いているようですが、そろそろ彼らだけに任せておく道理もありません。
この『結界王』も動かせていただきましょうか。
あろうことなら、全てが隠されたまま。
世に波を立たせぬまま、FIVEには退場していただきましょう。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.小豆洗いの保護
2.隔者達の撃退
3.なし
2.隔者達の撃退
3.なし
昭和な悪党、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は隔者と戦っていただきたいと思います。
なにかが動き始めました。
●戦場
とある山中。
場所は分かっていますが、向かうには多少複雑な場所です。
戦いの場へ向かうにあたって、現場を探るのに有効なプレイングがあれば事前に付与スキルを使用することが出来ます。
時刻は夜ですが、相手方も明かりを持っているので不自由はありません。
足場に問題はありません。
●隔者
『七星剣』に所属する隔者達です。コンビで活動することが多く、隔者としての実力は高いです。互いに信頼できるビジネスパートナーで、可能な範囲で相手を守ろうとします。
『結界王』という人物と多少つながりがあるようです。
・島原武道
『七星剣』に属する土行の前世持ちです。
筋肉質の大柄な男で、斧による攻撃を行います。暴力的な性格をしており、いわゆる脳筋。真っ向からの戦闘を好むタイプです。年齢は30代前半と言った所。
体術を中心的に使い、疾風双斬を得意とします。
・九重鈴
『七星剣』に属する水行の翼人です。
サディスティックな印象を与える女性で鞭を手にしています。狡猾な性格をしており、コンビの頭脳担当。直接戦うよりは、からめ手を好みます。年齢は20代後半と言った所。
術式による攻撃を行うほか、潤しの雨を得意とします。
●戦闘員
『七星剣』に所属する非隔者の戦闘員です。『七星剣』に従っているというより、武道と鈴に従っているといった方がいいでしょう。普段の仕事はチンピラです。8人いて、それぞれ前衛と中衛に4人ずついます。
・戦闘員
1.ナイフ 物近単 出血、毒
2.機関銃 物遠列
●古妖
・小豆洗い
山中に現れて小豆を洗う妖怪です。中には敵対的なものもいますが、彼は人間に対して好意的です。
山を大事にしてくれた地元の人間たちに恩義を感じています。
そのため、暴力に訴えられている地元の人間たちを助けるべくひそかに戦っていました。しかし、隔者の前に倒されます。
戦闘力そのものはありますが、覚者達には劣ります。また、現在怪我をしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年03月19日
2017年03月19日
■メイン参加者 8人■

●
夜の山中は暗いものだ。そのまま、闇の中に引き込まれてしまいそうになる。
そんな中、木の上に音も立てず1つの影が現れた。
『紅戀』酒々井・数多(CL2000149)だ。
「あっちね」
「あぁ、道は間違っていないみたいだね。切裂もそう言ってるし、気配も近づいてくる。そろそろだよ」
わずかな光と、守護使役の感じたにおいを頼りに道を確かめる数多。
怪の因子が持つ古妖を感知する力で道を確かめるのは『静かに見つめる眼』東雲・梛(CL2001410)だ。
夢見から話は聞いていたものの、「現場について事件快活!」と言うわけにはいかないらしい。『希望を照らす灯』七海・灯(CL2000579)の作った光で照らされる道を、覚者達はひた走る。
「それにしても結界王? 聞きなれない名前ね」
「ふたつ名って事は幹部かな? そいつと繋がりあるやつらか。結構強そう、油断しないでやらなきゃ」
走る覚者達の頭によぎるのは、事前に『結界王』という名前だ。現状、『七星剣』の人間と言うことしか判然としないが、先日決戦の末に倒した暴力坂や他の幹部の件もある。
『七星剣』の幹部という推理は十分成り立つし、現場の相手がそれに連なるものであるのなら、決して油断は出来ないところだ。
だから、覚者達は少しでも早く古妖を救うためにひた走る。
そしてその甲斐あって、そうかからない内に戦闘音が聞こえてきた。そこで、矢も楯もたまらず『黒い太陽』切裂・ジャック(CL2001403)は飛び出す。
「そこの『七星剣』!! ちょっと待ったァー!! いくらなんでもやりすぎ! 古妖を傷つけるのは俺が許さんかて!!」
ざっと音を立てて派手に着陸するジャック。
いきなり入ってきた闖入者の存在に古妖は混乱する。しかし、そこへ灯は念話を送ってとりなすようにする。
(安心してください。私たちは味方です)
一方、突如現れた覚者の姿に、『七星剣』の覚者達は身構える。
その前へ音もたてずに、華神・刹那(CL2001250)は降り立った。
「見たところ、FIVEの連中って所か? よくもまぁ、お節介に来るもんだ」
「いや、助けだ何だと驕るつもりはない。正直、己らのような地上げチンピラには別段興味も湧かん。ただ……この山の古妖はなかなかに男前である」
すっと刀を抜くと、刹那はその切っ先を隔者達へと向ける。
「笑って酒を飲めそうな者との縁は、悪くなかろうさ」
刹那自身には、目の前の隔者達のことも、ましてや『結界王』のことも興味がない。別に義憤にかられたわけでもないし、FIVEからの報酬が目当てなわけでもない。
ただ、美味い一杯が呑めればそれでいい。
それだけのため、戦場に来た。
そんな常人の感性から逸脱した発言を正確に理解できた隔者はいない。だが、刹那の発する狂気に対して身震いした。
互いに相手を測るようなわずかの瞬間。生まれた隙をついて、ジャックは古妖を助けに入る。
「小豆洗いさん。お疲れ様。此処から先は私たちにまかせて」
「お前、頑張ったな!! あとは、俺らに任せておいてくれ!!」
癒しの力が込められた滴を与えて古妖の傷を治療するジャック。手当を受けた古妖は目を白黒させてびっくりしている。味方と言われたとは言え、直前まで人間たちに囲まれてやられかけていたのだから、無理なからぬことだろう。
「小豆洗い、あいつらは悪い人間だが恨まないでくれ。恨みの連鎖は産みたくない」
真面目な表情でジャックは古妖に願う。
「奴等は人間で、人間である俺らが止めるから。人間を嫌いにならないでくれや」
それはヒトと古妖の狭間に生きる少年なればこその真剣な願いだった。
小豆洗いにジャックの背景にあるものを知る由はない。だが、その真剣な思いが伝わったのか、彼は首を縦に振った。
返ってきた答えにジャックはにかっと笑い、自身の拳を鳴らして隔者達に立ち向かう。
「てことだ、武道! 九重! この場所から手を引いてくれん?」
「そうはいかないわね。FIVEとの戦闘なら、ボーナスももらえそうだもの」
「ふむ、そちらは仕事か。ならばこちらも仕事」
短く言うと八重霞・頼蔵(CL2000693)は得物を構える。
短い挙動であったが、その間に全身の細胞を活性化させて、反応速度を上昇させる。
「どうにも山というのは、歩き難いし、服も汚れる。目的も無しに誰が好き好んでこんな場所に来るものか。早いところ終わらせるとしよう」
頼蔵の言葉が合図となって、双方ともに動き出す。
頼蔵は無造作な動きから、素早く刃を振り抜き、一気に囲むようにいた戦闘員たちを薙ぎ払う。
「君たちが単なる金銭目当て……でなければよいがな。其の方が後々面白い事になりそうだからね」
そう言って、頼蔵は口元に利己的な笑みを浮かべた。
数に勝る『七星剣』の側であるが、質の話をするのなら覚者達の側が勝っている。相手が多いのなら、それに合わせた戦い方をするまでだ。
「傷つき迷う人々に希望の灯を……」
祈りの言葉と共に、先ほどまで灯から放たれていた光の様子が変わる。今までは淡く蒼い光だったのが、ほんのりと朱を帯びるようになった。
その静かで強い光は、灯独りを守るためのものではない。傷つけられ、迷う者たちを守り導くための光だ。
「これ以上はやらせません」
鎖鎌を手に攻撃を始める灯。
対して『七星剣』も本格的に覚者達を敵と見定めて攻撃を開始してくる。
「武器の試験も兼ねているんだろうけれど……弱い者いじめは感心しないよねぇ」
「試験は必要なことかもしれませんが……そういう事は誰かに迷惑をかけずに行って
頂きたいものですね」
「周りに迷惑を掛けないように……そうだねぇ」
機関銃の雨から身を躱しながら、『ベストピクチャー』蘇我島恭司(CL2001015)はぼやくように言う。庇うように弾丸をはじき、『スピードスター』柳・燐花(CL2000695)は生真面目に答えた。
燐花の返事を聞いて、恭司は自分のずるさを感じてしまう。この状況を『弱い者いじめ』なんて言葉でごまかしてしまうのは、良いことなのか悪いことなのか。一方的に強者が弱者を痛めつける光景を、まだ若い子らに見てもらいたくないのは本心ではあるが。
「なんにせよ、この状況はなんとかしないとねぇ」
「えぇ、小豆洗いさんは無事にお助けしたいですね」
燐花の言葉に頷き、恭司は術符を展開させる。するとそこから現れた光の粒が宙に浮かび上がり、流れ星となって敵を打ち据える。
燐花も疾蒼と電燐構え直し、集中力を高めると再び剣と弾丸が飛び交う戦場へと戻っていく。
その速度は、『スピードスター』の名にふさわしく、彼女もまた一筋の流星と姿を変える。
「私の攻撃、見えますか?」
●
当初の想定通り、『七星剣』の攻撃力は極めて厄介だった。純粋な物量はそれだけで覚者にとっても厄介だ。加えて、隔者の戦闘力も決して低くはない。攻撃と防御のコンビネーションは中々の難敵である。
その中で、戦線を支えたのは梛の支援だ。それはすぐさまそうと分かるようなものではない。だが、相手の数が多ければ、その分効果は大きくなる。
銀製の棍を操りながら、梛はふと気になったことを隔者に問う。
「ねぇ、結界王って『七星剣』の幹部?」
「その通りだけど、知らないのかしら? 名前くらいは聞いてるかと思ったけど」
「知らない。『七星剣』ってあまり興味なくて、情報には疎いんだ。そんなにすごい人なの?」
「そんなに知りたければ、あんたが倒れてからゆっくり教えてあげるわ」
そっか、とちょっと残念がる梛。もとより、返事を期待したわけではないが。
代わりに目を光らせて、ジャックと共に敵の神具を探る。なるほど、取り立てて特別強力なものではないが、一般的に出回っているものよりも性能は勝っている。精度・威力共に高いもののようだ。
もっとも、そういうことに興味を持たないのは刹那だ。
切って死体になれば皆同じとばかりの戦いぶりである。
「ま、剣で捻じ込んでいける限りはやってみるとしよう」
すっと納刀して構えを正す。
そこから一気に抜刀、なぎ払い。
からの返す刀でもう一丁。
刹那の納刀からの動きは、爆発的に戦闘力を上げることが可能なもの。欠点は効果が大きいゆえに、持続時間が短いという欠点を持っている。
だが、そんなことはどうでもいい。
むしろ刹那という名前にはふさわしいというものだ。
止まるまで斬って斬って斬って、たまに突くだけのこと。
「これで、届くかね」
「はい、ありがとうございます」
「構わん。こちらの傷はどうでもいい。この手の連中の鼻を明かせは、そこそこ笑えもしよう」
「何を言って……!?」
飛び出すようにして鎖分銅を一直線に打ち出したのは灯だ。
先ほど、純粋な物量は厄介だと評したが、それは逆もまた然り。
敵の数が多ければ効果が大きくなることに変わりはない。
極力多くの敵を巻き込むように戦えば、回復が間に合わなくなるのは、『七星剣』の方が先だ。だからこそ、刹那は命を燃やして斬撃を続けた。そして、隔者の守りが薄くなった隙を灯は突いた。
「あなたが回復と頭脳担当らしいですからね、妨害できればやりやすくなるでしょう?」
幸い本人の防御は予想ほど高くはないようだ。梛によると、防具の性能は良いようだが。
灯は鎖で女隔者を拘束し、締め付ける。闇刈と影鎖、相手の動きを封じることを得意とする、そして彼女が頼みとする武器だ。
そこへ頼蔵が追撃を掛ける。卑怯、と言う者はおるまい。そもそも、『七星剣』の方が多勢だったのだからして。
加えて言うのなら、頼蔵は温和な笑みと丁寧な口調で人当たりの良い風を装ってはいるが、極めて合理的に動く人間だ。動けない敵を狙うのは、ただの判断の結果でしかない。
だが、あえて言うのならそこにはもう1つの狙いがあった。
「この野郎っ!」
「あぁ、そうだ。見捨てるか、或いは如何するか。一瞬でもそういう選択肢を迫れればよい、一手稼げる」
迫ってきた隔者に対して、密かに掌の中に熱圧縮させた空気の塊をぶつける頼蔵。
そのまま、隔者は盛大に吹っ飛ばされる。
「どする? 改めて聞くけど、この場所から手を引いてくれん? お前たちが欲しいのは、古妖のデータなんかじゃなくて『結界王』との信頼ちゃうん?」
緊迫した空気の漂う中でジャックが切り出す。優勢を取り戻したタイミングに、とも言うがこのタイミングならではの判断だ。
「ならこれよりFIVE覚者のデータのがええんちゃう?」
少なくとも小豆洗いがこれ以上戦いに巻き込まれるよりは、自分が犠牲になった方がよほど良い。まぁ、FIVE自体を巻き込む提案である以上、かなり無茶苦茶なことを言っているわけだが。
「関係あるか! 全部総取りするだけの話だ!」
しかし、残念ながらジャックの考えよりも隔者は貪欲だった。態勢を立て直して、隔者は攻撃を再開してくる。
そうなると、ジャックは自分の中で一番守りたいものを選ぶだけだ。
「だったら、小豆洗いの護りたい意思。俺らがきちんと守らなきゃな!」
そう言って神秘の力を解き放つと、周囲に癒しの力を持つ雨が降り注ぐ。
さらに、雨の中を切り裂くように、光の粒が『七星剣』を打ち倒す。
「何時の世も、怖いのは人間だ……なんてね」
倒れていく戦闘員を眺めながら呟く恭司の顔に浮かぶ表情は、皮肉か諦観か。
夢見が気づいたから対応できたが、この手の事件は決して珍しいものではない。こうなる前にAAAやFIVEに連絡が来ればよいのだろうが、まだまだ難しいのが現状だ。
そもそも隔者達は小豆洗いをすぐに殺さず、時間を掛けて武器の性能検証をしていた。そのおかげで、今回は小豆洗いを救出できるというのだって皮肉な話だ。
大人のはしくれとしてはちょっと情けなく思う。
だからこそ、せめて今後の被害を減らすために頑張りたいところ。
そして、隔者以外の敵が倒れたところで、数多は刃の切っ先を隔者に向けて名乗りを上げる。
「そう言えば、お互い名乗る暇もなかったわね。櫻火真陰流。酒々井数多よ。覚えていってね。貴方の名前は?」
「島原武道、流派なんてもんはねぇ。こいつで全部ぶっ壊す!」
重量級の武器を軽々と振って、隔者の斬撃が飛んでくる。乙女の柔肌を傷つけられるのは業腹だが、肉まで切らせるのは許容範囲。
辺りに焔が桜のように舞い散る。
数多の体に宿る炎が燃え盛り、身体能力を極限まで引き出す。
そうして放たれる刃は、激しく美しく、隔者の骨を断つ。
「いいわね! あなたみたいな強い人と戦えば、私はもっと強くなれる!」
「ほざけ! 真っ向勝負で簡単に勝てると思うな!」
「真っ向勝負なら望むところです」
血で滑りそうな刃を握り直し、燐花は跳躍する。
その背に月が輝いた。
(相手を守りあう。信頼できるビジネスパートナー。もっと別の所でそれを活かせたらいいのに)
ふと、刹那が女隔者を切り伏せる姿が目に入った。
利害の一致と言う所であろうが、隔者たちも互いのことは助けようとしていたらしい。その様を見て、ちょっとだけ自分の隠している想いと重ねてしまう。
だから、後ろは振り向かず、刃に力を込めた。
どこまでも速度を高め、その速度を力に変える。瞬時に刃が幾度となく閃く。その度に赤い華が夜の戦場に舞う。
そして、息を荒げて動きを終えた燐花の後ろで、隔者はどうと倒れるのだった。
●
隔者達を捕らえ、ようやく覚者達は一息つく。そこで、梛と燐花は古妖に例の言葉を述べる。
落ち着いて、と言うかわたわたしながらジャックは古妖の治療に当たっている。
事後処理については最終的に専門機関へ渡すことになるのだろうが、その前に『七星剣』の者達には聞いておくことがあった。
「……さて、『結界王』か」
「で、その『結界王』ってのは何者なわけ? 今の戦いでデータはとれたんでしょ? 少しくらいご褒美くれてもいいでしょ」
「察しの通り、『七星剣』の幹部よ。わたし達の上司……うぅん、関係の深い幹部っていう方が正しいわね」
『七星剣』は基本的に横に広い組織で、決して統制のとれた組織ではない。その中で『結界王』は、ほぼトップに位置する隔者の1人らしい。位としては暴力坂とは同格に当たる。隠密を得意とする隔者で、この2人も直接会ったことはないらしい。
この2人はその『結界王』からの依頼で、新しい神具のテストを行った。ちょうど、彼ら自身の仕事である地上げに古妖が関わっていたので、ちょうどよかったとのことだ。
今回の地上げは『結界王』自体が行っていた仕事ではないので、仕切っていた隔者達が動けなくなった以上、この土地の無事は約束されることだろう。ただ、灯が効きだしたところ、今までも『結界王』からの依頼はあった。それを追っていけば、何か明らかになることがあるかもしれない。
「『結界王』ですか。また面倒な事が起きるのでしょうか……? 『七星剣』という組織とFIVEという組織。両方がある以上どうにもならないのでしょうか」
「少なくとも、『結界王』はそのつもりだぜ。前々からFIVEには警戒していたみたいだからな」
「『結界王』、また『七星剣』。まだまだあれそうかな」
「たはは! また面倒事だ。ま、いいか。世界を守るって決めたさね」
燐花に対する隔者の答えが確かなら、『結界王』はFIVEと戦うための準備を進めているということになる。そのために武装の強化を図っているわけだ。もちろん、梛が懸念する通りそれだけで終わるはずもない。
「なるほど、少し気になったな」
頼蔵は剣呑な笑みを浮かべる。
山の中を走り回る羽目になり、難儀な仕事だった。だが、これなら十分に来た甲斐はあるというものだ。
そんな中、刹那は酒瓶片手に怪我の癒えた古妖へと話しかける。
「あずきあらい、難儀であったことよの」
「なんか、難しそうな話してるけどいいのけ?」
「知らぬ」
おずおず杯を受け取る古妖に、刹那はぴしゃりと言う。
ゴロツキとその親玉風情が格好つけたところで、刹那にとってはどうでもいいこと。
「When you lose interest in anything you also lose the memory for it……であるよ」
「?」
腑に落ちない顔の古妖に対して、刹那の興味はすでにの杯の中身にあった。
何かが暗躍していようが関係ない。邪魔するのなら切って捨てるまでの話。
今はこの一杯と平穏に勝るものは、ない。
夜の山中は暗いものだ。そのまま、闇の中に引き込まれてしまいそうになる。
そんな中、木の上に音も立てず1つの影が現れた。
『紅戀』酒々井・数多(CL2000149)だ。
「あっちね」
「あぁ、道は間違っていないみたいだね。切裂もそう言ってるし、気配も近づいてくる。そろそろだよ」
わずかな光と、守護使役の感じたにおいを頼りに道を確かめる数多。
怪の因子が持つ古妖を感知する力で道を確かめるのは『静かに見つめる眼』東雲・梛(CL2001410)だ。
夢見から話は聞いていたものの、「現場について事件快活!」と言うわけにはいかないらしい。『希望を照らす灯』七海・灯(CL2000579)の作った光で照らされる道を、覚者達はひた走る。
「それにしても結界王? 聞きなれない名前ね」
「ふたつ名って事は幹部かな? そいつと繋がりあるやつらか。結構強そう、油断しないでやらなきゃ」
走る覚者達の頭によぎるのは、事前に『結界王』という名前だ。現状、『七星剣』の人間と言うことしか判然としないが、先日決戦の末に倒した暴力坂や他の幹部の件もある。
『七星剣』の幹部という推理は十分成り立つし、現場の相手がそれに連なるものであるのなら、決して油断は出来ないところだ。
だから、覚者達は少しでも早く古妖を救うためにひた走る。
そしてその甲斐あって、そうかからない内に戦闘音が聞こえてきた。そこで、矢も楯もたまらず『黒い太陽』切裂・ジャック(CL2001403)は飛び出す。
「そこの『七星剣』!! ちょっと待ったァー!! いくらなんでもやりすぎ! 古妖を傷つけるのは俺が許さんかて!!」
ざっと音を立てて派手に着陸するジャック。
いきなり入ってきた闖入者の存在に古妖は混乱する。しかし、そこへ灯は念話を送ってとりなすようにする。
(安心してください。私たちは味方です)
一方、突如現れた覚者の姿に、『七星剣』の覚者達は身構える。
その前へ音もたてずに、華神・刹那(CL2001250)は降り立った。
「見たところ、FIVEの連中って所か? よくもまぁ、お節介に来るもんだ」
「いや、助けだ何だと驕るつもりはない。正直、己らのような地上げチンピラには別段興味も湧かん。ただ……この山の古妖はなかなかに男前である」
すっと刀を抜くと、刹那はその切っ先を隔者達へと向ける。
「笑って酒を飲めそうな者との縁は、悪くなかろうさ」
刹那自身には、目の前の隔者達のことも、ましてや『結界王』のことも興味がない。別に義憤にかられたわけでもないし、FIVEからの報酬が目当てなわけでもない。
ただ、美味い一杯が呑めればそれでいい。
それだけのため、戦場に来た。
そんな常人の感性から逸脱した発言を正確に理解できた隔者はいない。だが、刹那の発する狂気に対して身震いした。
互いに相手を測るようなわずかの瞬間。生まれた隙をついて、ジャックは古妖を助けに入る。
「小豆洗いさん。お疲れ様。此処から先は私たちにまかせて」
「お前、頑張ったな!! あとは、俺らに任せておいてくれ!!」
癒しの力が込められた滴を与えて古妖の傷を治療するジャック。手当を受けた古妖は目を白黒させてびっくりしている。味方と言われたとは言え、直前まで人間たちに囲まれてやられかけていたのだから、無理なからぬことだろう。
「小豆洗い、あいつらは悪い人間だが恨まないでくれ。恨みの連鎖は産みたくない」
真面目な表情でジャックは古妖に願う。
「奴等は人間で、人間である俺らが止めるから。人間を嫌いにならないでくれや」
それはヒトと古妖の狭間に生きる少年なればこその真剣な願いだった。
小豆洗いにジャックの背景にあるものを知る由はない。だが、その真剣な思いが伝わったのか、彼は首を縦に振った。
返ってきた答えにジャックはにかっと笑い、自身の拳を鳴らして隔者達に立ち向かう。
「てことだ、武道! 九重! この場所から手を引いてくれん?」
「そうはいかないわね。FIVEとの戦闘なら、ボーナスももらえそうだもの」
「ふむ、そちらは仕事か。ならばこちらも仕事」
短く言うと八重霞・頼蔵(CL2000693)は得物を構える。
短い挙動であったが、その間に全身の細胞を活性化させて、反応速度を上昇させる。
「どうにも山というのは、歩き難いし、服も汚れる。目的も無しに誰が好き好んでこんな場所に来るものか。早いところ終わらせるとしよう」
頼蔵の言葉が合図となって、双方ともに動き出す。
頼蔵は無造作な動きから、素早く刃を振り抜き、一気に囲むようにいた戦闘員たちを薙ぎ払う。
「君たちが単なる金銭目当て……でなければよいがな。其の方が後々面白い事になりそうだからね」
そう言って、頼蔵は口元に利己的な笑みを浮かべた。
数に勝る『七星剣』の側であるが、質の話をするのなら覚者達の側が勝っている。相手が多いのなら、それに合わせた戦い方をするまでだ。
「傷つき迷う人々に希望の灯を……」
祈りの言葉と共に、先ほどまで灯から放たれていた光の様子が変わる。今までは淡く蒼い光だったのが、ほんのりと朱を帯びるようになった。
その静かで強い光は、灯独りを守るためのものではない。傷つけられ、迷う者たちを守り導くための光だ。
「これ以上はやらせません」
鎖鎌を手に攻撃を始める灯。
対して『七星剣』も本格的に覚者達を敵と見定めて攻撃を開始してくる。
「武器の試験も兼ねているんだろうけれど……弱い者いじめは感心しないよねぇ」
「試験は必要なことかもしれませんが……そういう事は誰かに迷惑をかけずに行って
頂きたいものですね」
「周りに迷惑を掛けないように……そうだねぇ」
機関銃の雨から身を躱しながら、『ベストピクチャー』蘇我島恭司(CL2001015)はぼやくように言う。庇うように弾丸をはじき、『スピードスター』柳・燐花(CL2000695)は生真面目に答えた。
燐花の返事を聞いて、恭司は自分のずるさを感じてしまう。この状況を『弱い者いじめ』なんて言葉でごまかしてしまうのは、良いことなのか悪いことなのか。一方的に強者が弱者を痛めつける光景を、まだ若い子らに見てもらいたくないのは本心ではあるが。
「なんにせよ、この状況はなんとかしないとねぇ」
「えぇ、小豆洗いさんは無事にお助けしたいですね」
燐花の言葉に頷き、恭司は術符を展開させる。するとそこから現れた光の粒が宙に浮かび上がり、流れ星となって敵を打ち据える。
燐花も疾蒼と電燐構え直し、集中力を高めると再び剣と弾丸が飛び交う戦場へと戻っていく。
その速度は、『スピードスター』の名にふさわしく、彼女もまた一筋の流星と姿を変える。
「私の攻撃、見えますか?」
●
当初の想定通り、『七星剣』の攻撃力は極めて厄介だった。純粋な物量はそれだけで覚者にとっても厄介だ。加えて、隔者の戦闘力も決して低くはない。攻撃と防御のコンビネーションは中々の難敵である。
その中で、戦線を支えたのは梛の支援だ。それはすぐさまそうと分かるようなものではない。だが、相手の数が多ければ、その分効果は大きくなる。
銀製の棍を操りながら、梛はふと気になったことを隔者に問う。
「ねぇ、結界王って『七星剣』の幹部?」
「その通りだけど、知らないのかしら? 名前くらいは聞いてるかと思ったけど」
「知らない。『七星剣』ってあまり興味なくて、情報には疎いんだ。そんなにすごい人なの?」
「そんなに知りたければ、あんたが倒れてからゆっくり教えてあげるわ」
そっか、とちょっと残念がる梛。もとより、返事を期待したわけではないが。
代わりに目を光らせて、ジャックと共に敵の神具を探る。なるほど、取り立てて特別強力なものではないが、一般的に出回っているものよりも性能は勝っている。精度・威力共に高いもののようだ。
もっとも、そういうことに興味を持たないのは刹那だ。
切って死体になれば皆同じとばかりの戦いぶりである。
「ま、剣で捻じ込んでいける限りはやってみるとしよう」
すっと納刀して構えを正す。
そこから一気に抜刀、なぎ払い。
からの返す刀でもう一丁。
刹那の納刀からの動きは、爆発的に戦闘力を上げることが可能なもの。欠点は効果が大きいゆえに、持続時間が短いという欠点を持っている。
だが、そんなことはどうでもいい。
むしろ刹那という名前にはふさわしいというものだ。
止まるまで斬って斬って斬って、たまに突くだけのこと。
「これで、届くかね」
「はい、ありがとうございます」
「構わん。こちらの傷はどうでもいい。この手の連中の鼻を明かせは、そこそこ笑えもしよう」
「何を言って……!?」
飛び出すようにして鎖分銅を一直線に打ち出したのは灯だ。
先ほど、純粋な物量は厄介だと評したが、それは逆もまた然り。
敵の数が多ければ効果が大きくなることに変わりはない。
極力多くの敵を巻き込むように戦えば、回復が間に合わなくなるのは、『七星剣』の方が先だ。だからこそ、刹那は命を燃やして斬撃を続けた。そして、隔者の守りが薄くなった隙を灯は突いた。
「あなたが回復と頭脳担当らしいですからね、妨害できればやりやすくなるでしょう?」
幸い本人の防御は予想ほど高くはないようだ。梛によると、防具の性能は良いようだが。
灯は鎖で女隔者を拘束し、締め付ける。闇刈と影鎖、相手の動きを封じることを得意とする、そして彼女が頼みとする武器だ。
そこへ頼蔵が追撃を掛ける。卑怯、と言う者はおるまい。そもそも、『七星剣』の方が多勢だったのだからして。
加えて言うのなら、頼蔵は温和な笑みと丁寧な口調で人当たりの良い風を装ってはいるが、極めて合理的に動く人間だ。動けない敵を狙うのは、ただの判断の結果でしかない。
だが、あえて言うのならそこにはもう1つの狙いがあった。
「この野郎っ!」
「あぁ、そうだ。見捨てるか、或いは如何するか。一瞬でもそういう選択肢を迫れればよい、一手稼げる」
迫ってきた隔者に対して、密かに掌の中に熱圧縮させた空気の塊をぶつける頼蔵。
そのまま、隔者は盛大に吹っ飛ばされる。
「どする? 改めて聞くけど、この場所から手を引いてくれん? お前たちが欲しいのは、古妖のデータなんかじゃなくて『結界王』との信頼ちゃうん?」
緊迫した空気の漂う中でジャックが切り出す。優勢を取り戻したタイミングに、とも言うがこのタイミングならではの判断だ。
「ならこれよりFIVE覚者のデータのがええんちゃう?」
少なくとも小豆洗いがこれ以上戦いに巻き込まれるよりは、自分が犠牲になった方がよほど良い。まぁ、FIVE自体を巻き込む提案である以上、かなり無茶苦茶なことを言っているわけだが。
「関係あるか! 全部総取りするだけの話だ!」
しかし、残念ながらジャックの考えよりも隔者は貪欲だった。態勢を立て直して、隔者は攻撃を再開してくる。
そうなると、ジャックは自分の中で一番守りたいものを選ぶだけだ。
「だったら、小豆洗いの護りたい意思。俺らがきちんと守らなきゃな!」
そう言って神秘の力を解き放つと、周囲に癒しの力を持つ雨が降り注ぐ。
さらに、雨の中を切り裂くように、光の粒が『七星剣』を打ち倒す。
「何時の世も、怖いのは人間だ……なんてね」
倒れていく戦闘員を眺めながら呟く恭司の顔に浮かぶ表情は、皮肉か諦観か。
夢見が気づいたから対応できたが、この手の事件は決して珍しいものではない。こうなる前にAAAやFIVEに連絡が来ればよいのだろうが、まだまだ難しいのが現状だ。
そもそも隔者達は小豆洗いをすぐに殺さず、時間を掛けて武器の性能検証をしていた。そのおかげで、今回は小豆洗いを救出できるというのだって皮肉な話だ。
大人のはしくれとしてはちょっと情けなく思う。
だからこそ、せめて今後の被害を減らすために頑張りたいところ。
そして、隔者以外の敵が倒れたところで、数多は刃の切っ先を隔者に向けて名乗りを上げる。
「そう言えば、お互い名乗る暇もなかったわね。櫻火真陰流。酒々井数多よ。覚えていってね。貴方の名前は?」
「島原武道、流派なんてもんはねぇ。こいつで全部ぶっ壊す!」
重量級の武器を軽々と振って、隔者の斬撃が飛んでくる。乙女の柔肌を傷つけられるのは業腹だが、肉まで切らせるのは許容範囲。
辺りに焔が桜のように舞い散る。
数多の体に宿る炎が燃え盛り、身体能力を極限まで引き出す。
そうして放たれる刃は、激しく美しく、隔者の骨を断つ。
「いいわね! あなたみたいな強い人と戦えば、私はもっと強くなれる!」
「ほざけ! 真っ向勝負で簡単に勝てると思うな!」
「真っ向勝負なら望むところです」
血で滑りそうな刃を握り直し、燐花は跳躍する。
その背に月が輝いた。
(相手を守りあう。信頼できるビジネスパートナー。もっと別の所でそれを活かせたらいいのに)
ふと、刹那が女隔者を切り伏せる姿が目に入った。
利害の一致と言う所であろうが、隔者たちも互いのことは助けようとしていたらしい。その様を見て、ちょっとだけ自分の隠している想いと重ねてしまう。
だから、後ろは振り向かず、刃に力を込めた。
どこまでも速度を高め、その速度を力に変える。瞬時に刃が幾度となく閃く。その度に赤い華が夜の戦場に舞う。
そして、息を荒げて動きを終えた燐花の後ろで、隔者はどうと倒れるのだった。
●
隔者達を捕らえ、ようやく覚者達は一息つく。そこで、梛と燐花は古妖に例の言葉を述べる。
落ち着いて、と言うかわたわたしながらジャックは古妖の治療に当たっている。
事後処理については最終的に専門機関へ渡すことになるのだろうが、その前に『七星剣』の者達には聞いておくことがあった。
「……さて、『結界王』か」
「で、その『結界王』ってのは何者なわけ? 今の戦いでデータはとれたんでしょ? 少しくらいご褒美くれてもいいでしょ」
「察しの通り、『七星剣』の幹部よ。わたし達の上司……うぅん、関係の深い幹部っていう方が正しいわね」
『七星剣』は基本的に横に広い組織で、決して統制のとれた組織ではない。その中で『結界王』は、ほぼトップに位置する隔者の1人らしい。位としては暴力坂とは同格に当たる。隠密を得意とする隔者で、この2人も直接会ったことはないらしい。
この2人はその『結界王』からの依頼で、新しい神具のテストを行った。ちょうど、彼ら自身の仕事である地上げに古妖が関わっていたので、ちょうどよかったとのことだ。
今回の地上げは『結界王』自体が行っていた仕事ではないので、仕切っていた隔者達が動けなくなった以上、この土地の無事は約束されることだろう。ただ、灯が効きだしたところ、今までも『結界王』からの依頼はあった。それを追っていけば、何か明らかになることがあるかもしれない。
「『結界王』ですか。また面倒な事が起きるのでしょうか……? 『七星剣』という組織とFIVEという組織。両方がある以上どうにもならないのでしょうか」
「少なくとも、『結界王』はそのつもりだぜ。前々からFIVEには警戒していたみたいだからな」
「『結界王』、また『七星剣』。まだまだあれそうかな」
「たはは! また面倒事だ。ま、いいか。世界を守るって決めたさね」
燐花に対する隔者の答えが確かなら、『結界王』はFIVEと戦うための準備を進めているということになる。そのために武装の強化を図っているわけだ。もちろん、梛が懸念する通りそれだけで終わるはずもない。
「なるほど、少し気になったな」
頼蔵は剣呑な笑みを浮かべる。
山の中を走り回る羽目になり、難儀な仕事だった。だが、これなら十分に来た甲斐はあるというものだ。
そんな中、刹那は酒瓶片手に怪我の癒えた古妖へと話しかける。
「あずきあらい、難儀であったことよの」
「なんか、難しそうな話してるけどいいのけ?」
「知らぬ」
おずおず杯を受け取る古妖に、刹那はぴしゃりと言う。
ゴロツキとその親玉風情が格好つけたところで、刹那にとってはどうでもいいこと。
「When you lose interest in anything you also lose the memory for it……であるよ」
「?」
腑に落ちない顔の古妖に対して、刹那の興味はすでにの杯の中身にあった。
何かが暗躍していようが関係ない。邪魔するのなら切って捨てるまでの話。
今はこの一杯と平穏に勝るものは、ない。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
