<玉串ノ巫女・壊>神ならさっき殺してきた
●やさしい人類滅亡プラン
『いやあ、もう巫女たちは戦わなくていいですよ』
『戦うだけで命を落とすなんて恐ろしいですよねえ』
『お金は今までどおりあげますから』
『みんなには今まで無理を言ったぶん、ゆーっくりやすんでくださいね』
誰もが穏やかな顔をしている。
優しく笑いあい、慈悲深くささやきあっている。
神社本庁覚者機関『玉串の巫女』の第四席、十六代豊四季は困惑のままに頷いた。
「そ、それはありがたいのですが……愛知に現われたランク3妖は放置なさるんですか……?」
『だって戦ったら命数(いのち)を喪ってしまうのでしょう?』
『かわいそうじゃあないですか』
『それに妖だってきっと生きてるんですから』
『そっとしておきましょうよ』
『きっと話し合いで解決できますよ』
『パーティーの準備をしよう!』
『そうですね。ケーキとシャンパンを並べましょう!』
『誠意を示せばきっとわかってくれますよ』
『みんなで妖をお家に招待しましょう!』
誰もがニコニコと穏やかに笑いながら、狼の前に寝そべろうとしている。
怖気に震え、豊四季は通信を切った。
「なんですかそのキモい人たちは」
後ろで声がして振り返る。九美上 ココノ(nCL2000152)が嫌悪感を隠しもしない顔をして立っていた。
「私の知ってる人にも妖と話し合おうっていう奇特な美少女がいますけどね、あの子はちゃんと殴りながら呼びかけてましたよ。なんです、ケーキにシャンパンでお家に招待? 馬鹿なんじゃないですか?」
「思考が停止しています。まるで楽観的すぎるというか……」
「それ以前に、金儲けのために巫女を火炎瓶みたいに投げ込んでた人たちが『かわいそう』ってなんですか。非道なワンマン成り金マシーンでしょうに」
「……」
玉串の巫女に腐敗が蔓延した最大の原因は、スポンサーが非道な利益追求者であることにある。否、あった。
今の彼らはまるで抜け殻だ。金でしか動かない人間がみんなして手のひらを返すということは、彼ら全員を一斉にマウントできる超常的な存在が現われたことを示しているのだが……。
それが、何者か。
なにが目的か。
いかなる手段を用いたのか。
何一つ分からない。
「まあとにかく。それは今度調べるとして……」
椅子から立ち上がった、その瞬間。
屋内に赤いポトランプが回転し、耳障りなサイレンが鳴り響いた。
ノイズ混じりのアナウンスが流れる。
『敵襲! 敵襲! 妖が本庁に群れをなし――ア゛ッ! 嫌! 死にたくない死にたくなアアアア゛――!』
チェーンソーで人間の頭を切断する音が鳴り響いた。
顔を見合わせる豊四季とココノ。
通信機が起動し、スポンサーたちが異口同音に唱えた。
『『妖様をお招きしておきました。みなさん、ちゃあんと脳髄を捧げるんですよ』』
『いやあ、もう巫女たちは戦わなくていいですよ』
『戦うだけで命を落とすなんて恐ろしいですよねえ』
『お金は今までどおりあげますから』
『みんなには今まで無理を言ったぶん、ゆーっくりやすんでくださいね』
誰もが穏やかな顔をしている。
優しく笑いあい、慈悲深くささやきあっている。
神社本庁覚者機関『玉串の巫女』の第四席、十六代豊四季は困惑のままに頷いた。
「そ、それはありがたいのですが……愛知に現われたランク3妖は放置なさるんですか……?」
『だって戦ったら命数(いのち)を喪ってしまうのでしょう?』
『かわいそうじゃあないですか』
『それに妖だってきっと生きてるんですから』
『そっとしておきましょうよ』
『きっと話し合いで解決できますよ』
『パーティーの準備をしよう!』
『そうですね。ケーキとシャンパンを並べましょう!』
『誠意を示せばきっとわかってくれますよ』
『みんなで妖をお家に招待しましょう!』
誰もがニコニコと穏やかに笑いながら、狼の前に寝そべろうとしている。
怖気に震え、豊四季は通信を切った。
「なんですかそのキモい人たちは」
後ろで声がして振り返る。九美上 ココノ(nCL2000152)が嫌悪感を隠しもしない顔をして立っていた。
「私の知ってる人にも妖と話し合おうっていう奇特な美少女がいますけどね、あの子はちゃんと殴りながら呼びかけてましたよ。なんです、ケーキにシャンパンでお家に招待? 馬鹿なんじゃないですか?」
「思考が停止しています。まるで楽観的すぎるというか……」
「それ以前に、金儲けのために巫女を火炎瓶みたいに投げ込んでた人たちが『かわいそう』ってなんですか。非道なワンマン成り金マシーンでしょうに」
「……」
玉串の巫女に腐敗が蔓延した最大の原因は、スポンサーが非道な利益追求者であることにある。否、あった。
今の彼らはまるで抜け殻だ。金でしか動かない人間がみんなして手のひらを返すということは、彼ら全員を一斉にマウントできる超常的な存在が現われたことを示しているのだが……。
それが、何者か。
なにが目的か。
いかなる手段を用いたのか。
何一つ分からない。
「まあとにかく。それは今度調べるとして……」
椅子から立ち上がった、その瞬間。
屋内に赤いポトランプが回転し、耳障りなサイレンが鳴り響いた。
ノイズ混じりのアナウンスが流れる。
『敵襲! 敵襲! 妖が本庁に群れをなし――ア゛ッ! 嫌! 死にたくない死にたくなアアアア゛――!』
チェーンソーで人間の頭を切断する音が鳴り響いた。
顔を見合わせる豊四季とココノ。
通信機が起動し、スポンサーたちが異口同音に唱えた。
『『妖様をお招きしておきました。みなさん、ちゃあんと脳髄を捧げるんですよ』』

■シナリオ詳細
■成功条件
1.可能な限りの巫女(最低でも1人以上)の救出
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
現在玉串の巫女第四席(豊四季)と欠番員(九美上ココノ)、そして候補生の黒子衆100名前後が応戦していますが、放っておくと全員死亡します。
最強戦力の初富ひとこや他のレギュラー巫女たちは妖退治に出払っているのでこの場にいません。逆にいうと『だから今』なのかもしれません。
この現場に駆けつけ、巫女を救出することが依頼目的となります。
●救出作戦の概要
輸送ヘリで上空から降下。神社の境内に直接乗り込んで妖と戦闘を行ない巫女を逃がします。
巫女は移動用の車両(8人乗りミニバン)を10台所有しているので、これにぎゅうぎゅうづめにして送り出すことになるでしょう。問題は駐車場までの道に妖が群れを成しているということです。
巫女は神社を破棄してとにかく一人でも生き延びようという作戦に出ています。いわゆる『ここは任せて先に行け作戦』なので神社中枢に行けば行くほど死にそうな人が居る仕組みです。
急な作戦なのでファイヴから輸送機かっ飛ばして放り込める最速戦力である『6人チーム』を投入します。ちょっとメタな時間感覚の違いはありますが、ヘリの中で急いで会議しているつもりでご参加ください。
巫女の生存率は(プレイング次第なので)分かりませんが、おおまかに説明すると
1人だけ生存→だいたい可能
30人生存→がんばりが必要
60人生存→努力と工夫を凝らす必要がある
全員生存→奇跡
となっております
●妖の戦力
ある方角から群れを成して直接攻撃してきた妖の『軍団』です。
明らかに何者かによって統率がとられていますが、投入されている妖はR1~R2なので細かい判断ができず、大量の虫や獣をけしかけているような状態にあります。
心霊系が大半を占め、残りは物質系自然系生物系の混合です。
●巫女の戦力
救うといっても巫女も巫女で戦闘力があるのでしっかり抵抗することができます。
特に豊四季とココノに関してはそうそう死にません。
更に言えば過去のシナリオで集団戦闘を仕込んだ黒子衆『兎組・死組・花組・王子・抜組・亀組』は割と連携戦闘で抵抗できています。彼女たちをうまく使うことで戦況をよく出来るでしょう。
ちなみに黒子衆たちは命を大事にじりじり生きていたのでレベル10~15のあたりで頑張っています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年03月16日
2017年03月16日
■メイン参加者 6人■

●神殺しの近道
輸送ヘリの中は慌ただしさに満ちていた。
状況が飲み込めずに悩む『桜火舞』鐡之蔵 禊(CL2000029)。その辺のものをいたずらに触ろうとする『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)。それを殴り飛ばそうとする『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)。二人とも落ち着けとばかりに組み付く『狗吠』時任・千陽(CL2000014)。なんだかげっそりしている緒形 逝(CL2000156)。
そんな中、賀茂 たまき(CL2000994)だけが奇妙なまでに落ち着いていた。
「元山さん、栩山さん、鎌ケ谷さん、稔台さん、常盤平さん……」
自分が戦い方を仕込んだ五人の黒子衆。彼女たちの顔を思い出していた。
そう長い付き合いではないが、特別な思い入れがある。おそらく彼女たちも、たまきに特別な感情を抱いていたことだろう。
それが全員死ぬと言う。
「助け出しましょう」
「「……」」
たまきをきっかけに落ち着きを取り戻した六人のファイヴ覚者は、緊急の降下作戦の打ち合わせを始めた。
そのX分後。
高度数十メートルまで地面に寄せた輸送ヘリの中から千陽がぬっと身を乗り出した。
「着地前に落下制御装置を使います。高価なものなので無駄遣いはしないように……とはいえ、人命より高価なものはありませんが」
背中と胸に挟むように設置したへんてこな装備で、覚者の強靱な肉体ならパラシュートより確実な降下襲撃が可能だという。余談だが一個二千万円する。しかも使い捨て。
「行動開始!」
千陽は思い切ってヘリからダイブ。
続いて禊が宙返りをかけながら回転ダイブ。
ジャックがプールへ飛び込むかのようにジャンプしたあとで、たまきと逝がマニュアル通りのダイブをかけた。
各員の装備に炸薬式の小型パラシュートが開いては抜け、段階的に落下速度を整えていく。ちょっと高いところから飛び降りた程度のエネルギーにとどめようとしているのだ。
そんな中。
「お先っ!」
落下制御装置を自らパージして、数多が妖の直上へと加速した。
●十秒あれば人は死ぬ
秘匿名称『玉串神社』境内、駐車場側通路。
安全圏だと思っていた本拠地で妖の群れに襲われた巫女たちは混乱の限りにあった。
死にものぐるいで戦う者。我先にと逃げ出す者。仲間のために死のうとする者。絶望の余りうずくまる者。
石につまづいて転倒した少女は絶望のタイプだった。目の前に立ち塞がる首の無い巨人に、今まさに生きる希望を失ったところである。
しかし。
「死ね!」
流星のごとく落下してきたピンク髪の禍ツ神が、妖を真っ二つに切断した。
血と泥と正体不明の粘液をまき散らして崩れる妖。
それら全てを浴びて尚美しさを保った数多が、巫女の前にゆっくりと立ち上がる。
「■■■■■と■■仲間■■が■■■■安■よ!」
言葉はまったく聞き取れなかったが、巫女は思わず彼女を拝んだ。
「まったく、無茶苦茶だあなたは!」
追って着地した千陽は周囲の妖を銃撃。
加速落下で軽く膝と左腕がへし折れていた数多に、思い切り顔をしかめた。
圧倒的な戦力の前に次々はじけ飛んでいく妖たち。
R1の中でも耐久力の低い個体は千陽が銃を乱射下だけではじけ飛んだりする。少数個体の投入によって情勢が著しく変化したことを、妖たちは本能的に察した。察し、驚きという形で表面化させる。
彼らの登場に驚いたのは妖だけではない。巫女たちは見ず知らずの闖入者が敵なのか味方なのか、はたまた火事場泥棒の一種なのか検討がつかずに硬直している。
そうこうしている間にジャックが着地。着地と同時に自らの内部から妖力を解き放ち、炎に変えて放射状の波を放った。
たちまち焼け死んでいく妖たちをにらみ付け、ジャックはさらなる妖力を解き放った。
「この中に天行の黒子衆はいるか! ついてきてくれ!」
「だ……誰だてめえ! ぶっ殺すぞ!」
巫女がわけもわからず火縄銃をジャックに向けた。
「元山さん、おちついて。私たちです!」
一足遅れて着地したたまきが、巫女の背後へ組み付こうとした心霊系妖をポスター状に丸めた大型護符で殴りつけた。
きりもみ回転して飛んでいく妖。
「……教官。あなた、覚者だったんですか?」
「黙っていてすみません。事情がありまして」
「いや、いいんだ。アタシらにはあんたの素性がなんだってこの際……」
鼻から上の無い巨人が五体ほどの群れを作り、四つん這いで駆け寄ってくる。
凄まじい速度と強度ゆえに、巫女たちが慌てて射撃で牽制するも雨粒ほどの効果もなさない。
対して。
「お待たせ!」
「ここの守備はおっさんたちに任せるさね」
割り込むように着地した逝と禊が同時に術式を発動。
流れるようなハイキックで二体同時に蹴り飛ばすと、咄嗟のことに判断が遅れた残り三体を膝蹴りと回し蹴りのコンボで次々に蹴り飛ばしていく。
「さあどいて。今から、困ってる人を助けるんだから」
足を高く蹴り上げた状態のまま、禊は細く息を吐く。
刀をすらりと抜く逝。
「おっさんと賀茂ちゃんはここで巫女をまとめて退路を確保するから、四人は中に居る人たちをお願いね。『送受心・改』はオンラインにしておくから」
「これだけの戦力があれば中で足止めしてる子たちも助けられるかも……私たちはどうしましょう、教官!」
たまきの元に元山と鎌ケ谷が駆け寄ってきた。
「チームのみんなは半数ほど中で戦ってます。他の隊もバラバラみたいで……そろえばちゃんと動けるんですけど」
「わかりました……」
たまきはリュックサックのポケットに手を突っ込むと、花札のように大量に重なった護符を派手にまき散らした。
「今ある戦力で、なんとか退路を確保しましょう!」
●死んだ者は生き返らない
『玉串の巫女』という組織が(上層部がただ働き要員として利用しないように)ファイヴをとるにたらない組織として伝えていたことや、人権ある隔者や憤怒者も攻撃することからあまり歓迎されていないことなどは、この緊急時には些細なことである。
その上で考えたとしても、見ず知らずの人間が急に入ってきて『このように行動せよ』と頼むのはなかなか難しいものがあった。
たまきやその他教官たちの名前を出したり現状や(タイミング良く駆けつけた理由として)ファイヴの夢見の存在などを説明するなどしてワンクッションおかねばならないのは、どうしても手間だった。
とはえい、緊急時に自分より強いっぽい人の言うことを聞いておいた方が生き残りやすそうという理由から最終的には頼みを聞いてくれた
「みんなは退路を確保するために外で戦ってる人たちと合流して。体力が無くなったらすぐに撤退するんだよ。あと、ツーマンセルを組むこと、いい?」
「は、はい……あなた方は?」
傷ついた巫女に問いかけられ、禊はギラリと笑った。
「困ってる人のところに行ってくる」
巫女たちを外に逃がし、走り出す禊。
木床の渡り廊下を駆け抜け、半開きになった門へと跳び蹴りを仕掛ける。
門が吹き飛び、その向こうにいた妖をまるごと踏みつぶしながら宙返りし、空中で四方八方に手刀や足刀を振り込んでいく。
衝撃が手裏剣のごとく飛び、周囲の妖たちが一斉に崩れ落ちた。
壁際でうずくまっている巫女に『外へ逃げて』と伝え、更に走り出す。
「境内でバラバラになってる。どうやって助けたら……」
予期せぬ襲撃に見舞われた巫女たちは、境内でバラバラに戦っていた。
施設の性質上中枢にこそ危ない人が多かったので、そこを目指すことになるのだが……。
「死ぬな! 死んじゃだめだ! 目をあけろよ!」
ジャックは頭が半分無くなった巫女を抱えてがくがくと揺すっていた。
「あの、その人はもう……」
「う、うわあああああああああああああああ!」
血の涙を流し、爪の間から炎を吹き出すジャック。
「燃やしてやる! 全部燃やしてやる!」
怒り狂って炎をまき散らし、天井裏や床下、開いた扉からなだれ込んでくる妖たちに術を乱射する。
が、そうしているうちに明後日の方向から飛んできた鉄の矢が随伴の巫女を貫通した。
『かっ』とだけ言って倒れる巫女。
R2の中でも強度の高い妖に襲われたのだ。
「こいつ……!」
「落ち着いて! 回復に集中して下さい! 攻撃に手を回している暇なんてないでしょう!」
振り上げた手を掴んで止める千陽。
ジャックの頬を一度はたくと、正気を取り戻させた。
更に妖の頭と心臓部めがけて的確に射撃。のけぞらせる。
「心を乱している余裕はありませんよ。中枢はまだ先です。できれば放送室にも行きたいところですが……」
「そんな余裕もないでしょ。津波が押し寄せてるのにお家に居座るようなもんじゃないの」
妖の首を切り落とし、数多が部屋に入ってきた。禊も遅れて駆け込んでくる。
「九美上さんたちが残ってる部屋っていうのは、この先?」
「恐らく」
妖の勢いはまるで留まらない。
なにせ百人規模の覚者(内二名が強豪)が皆殺しにされる数と勢いである。四人がかりで攻勢に出たからと言って全滅させられる規模ではない。道中で助けた巫女たちは大体が瀕死だったので撤退させているし、少数はいた無事な巫女も外の退路確保に回している。彼女たちの力を借りて内部の敵を殲滅するプランはこのとき消えていた。
と言うことで、可能な限り巫女を救出して即座に撤退するというプランが自動的に選択されていた。
「ココノさんと、豊四季? さんよね。行くわよ!」
四人は頷きあい、中枢エリアへと走る。
●人をより早く殺すには剣を折るべし
駐車場周辺は激戦区になっていた。
現時点で生存が確認されている巫女の半数は撤退をはじめ、車にのって遠方へと走り去っている。
戦闘不能者やその危険がある者を担ぎ込む余裕を作るべく、たまきや逝たちは防衛線をはっていたからだ。
妖たちはそこに人間が沢山いるとみて、餌に群がる虫のごとくたかっている。
幸いなのは、彼らが回り込んで車を破壊すればいいという知恵をまったく働かせないとことだろうか。
向かってくる敵をひたすら攻撃し、突破を試みる敵は弾く。
これを繰り返すだけで暫くは戦線が維持できそうだった。
「兎さん組は遊撃、死番隊を守ってください。抜塞組と亀さんチームは守りを固めて……花組さんは私たちと一緒に攻撃を。王子さま組は穴を埋めてください!」
六つのチームを同時に指揮しながら戦うたまきは頭も身体もフル稼働である。
どっちかに集中するというわけにはいかないので、多くは隊員の自己判断に頼るほか無い。
一部は逝に指揮系統を分けているが、もとよりスタンドプレイの得意な逝にはちょっと難しい話である。
「怪我人は即退却。まだ戦えそうなら回復してやりな。おっさんはいらんよ、自分で喰える」
妖を次々に切り捨てながら飛び回る逝。飛び回りつつ、周囲の状況を分析していた。
体力の五割をきった仲間を撤退させる作戦だったが、体力の減少速度が早く戦闘不能になるか体力一割前後で残るかのどちらかのパターンが多かった。死んでないだけまだマシである。
しかし……。
「ここに人が集まってることが伝わって、大量に攻め込まれたら戦線がもたんぞう」
「そうなる前に皆さんを逃がします……!」
たまきは妖を護符だらけの手で殴りつけて言った。
●生存者
妖の集団に囲まれつつも、あっちこっちに飛び回りながら殴る蹴るの暴行を加えていく九美上ココノ。
その中央で炎を纏った破魔弓を使い、強そうな個体を狙ってスナイプしていく豊四季。
一見優性だが、傷ついた巫女たちを庇って戦っていたためにかなり消耗していた。
そこへ。
「ココノさん! たまきさんがあんたを助けたいらしいわよ!」
外側から割り込む形で数多が妖たちに斬りかかった。
「いっぱい心配されてるんだから、死なないでよね。そんで本人から話も聞いて!」
「わー」
血まみれの顔で振り返るココノ。
「とーっても嬉しいですー。私とーっても弱いので、ここで死んじゃうと思いましたー。やっぱり友情って素敵ですねー」
明らかに嘘とわかるトーンで雑な演技をするココノである。
このテンションに免疫のない数多はなにこの性格最悪女はと思ったが、今は非常時である。
千陽も似たようなテンションで咳払いをした。
「思うことはあるでしょうけど、ここはご協力ください」
「おもうところってなんですかー? 私はファイヴの仲間じゃないですかー。傷ついちゃいますー。すんすん」
仕草だけで泣き真似をして、妖の顔面を踵で踏みつぶすココノ。流れるように肘で妖の顔面を陥没させていた。
「馬鹿なやりとりはそのくらいにして。この子たちを逃がしてあげてください。私たちは別にいいので」
豊四季が会話に割り込んできた。
戦闘不能なまでに負傷した巫女たちを庇っている。
禊は頷いて、彼女たちを庇うように立ち上がらせた。
出入り口を塞ごうと回り込む馬の妖。
「みんなで帰るんだ。そこをどいて!」
強引に蹴りつけ、出入り口の扉ごと妖を吹き飛ばす。
「さあ、早く!」
巫女たちを引っ張って、禊は外へとかけだした。
同じく回復術式を連射しながらついていくジャック。
足下に互いを庇い合って死んだ巫女の死体が転がっている。
「う、ううう……!」
「取り乱すのは後にして! 今はやることやって!」
「わかってる!」
ジャックは歯を食いしばり、術式を組み直した。
生存が確認できた巫女を粗方撤退させた後、千陽は銃のマガジンを交換した。
「私は戦闘を継続します。放送室から呼びかけて、黒幕との会話を試みるつもりです」
「黒幕がこのへんにいるんですか?」
豊四季の問いかけに、千陽は『ん?』という顔をした。
いるかいないかでいえば、居ないのが当たり前である。
これだけの規模で妖を統率できるランクの存在である。もし居るなら、自分たちが突入した時点で首をこう豆電球を取り外すみたいにキュキュッとやられている筈である。
ワイングラスをくるくるやりながら外で見守っているとはちょっと想像しがたい。
「では、あなたがたのスポンサーたちと話していた装置で逆に問いかけることなどは……」
という話をしている最中に、岩と複数の死体を無理矢理接合したような巨人が部屋に飛び込んできた。壁を破壊しながら電柱を振り回すその様に、思わず身を固める。
むしろ固めて良かった。千陽たちは一斉に電柱で薙ぎ払われ、部屋の隅へと飛ばされた。
追って、続々と妖の集団が部屋に押し入ってくる。
「時間を使いすぎましたね……」
口元の血をぬぐって立ち上がる豊四季。
数多が刀を妖に突きつけた。
「いいじゃない。ぶっ飛ばしてあげ――」
「えいっ♪」
数多の脇腹に膝蹴りがめり込んだ。近くの壁をもろとも破壊して、野外に放り出される。
「ここは私が食い止めるんでー、先に行ってくださいねー」
似たような手段で千陽と豊四季を放り出すと、ココノがぐーぱーしながら笑った。
「大丈夫ですよー、すぐに追いつきますからー」
明らかに嘘と分かる、雑な演技だった。
●生きているだけで儲けもの
車が走る。
小石を蹴って粗い道をゆく。
運転席で、片腕に包帯を巻きながら千陽は前だけを見ていた。
後部座席ではジャックがうずくまって頭を抱え、数多と豊四季が窓の外だけを見ている。
窓の外。
これまで戦っていた神社から黒い煙があがり、やがて連続した爆発が起きた。
救出作戦は終了。
後の確認によれば、黒子衆の生存者数は59名。
巻き込まれたレギュラーの巫女のうち豊四季が生存。
九美上ココノの生存は、確認されていない。恐らく死亡したとみられている。
輸送ヘリの中は慌ただしさに満ちていた。
状況が飲み込めずに悩む『桜火舞』鐡之蔵 禊(CL2000029)。その辺のものをいたずらに触ろうとする『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)。それを殴り飛ばそうとする『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)。二人とも落ち着けとばかりに組み付く『狗吠』時任・千陽(CL2000014)。なんだかげっそりしている緒形 逝(CL2000156)。
そんな中、賀茂 たまき(CL2000994)だけが奇妙なまでに落ち着いていた。
「元山さん、栩山さん、鎌ケ谷さん、稔台さん、常盤平さん……」
自分が戦い方を仕込んだ五人の黒子衆。彼女たちの顔を思い出していた。
そう長い付き合いではないが、特別な思い入れがある。おそらく彼女たちも、たまきに特別な感情を抱いていたことだろう。
それが全員死ぬと言う。
「助け出しましょう」
「「……」」
たまきをきっかけに落ち着きを取り戻した六人のファイヴ覚者は、緊急の降下作戦の打ち合わせを始めた。
そのX分後。
高度数十メートルまで地面に寄せた輸送ヘリの中から千陽がぬっと身を乗り出した。
「着地前に落下制御装置を使います。高価なものなので無駄遣いはしないように……とはいえ、人命より高価なものはありませんが」
背中と胸に挟むように設置したへんてこな装備で、覚者の強靱な肉体ならパラシュートより確実な降下襲撃が可能だという。余談だが一個二千万円する。しかも使い捨て。
「行動開始!」
千陽は思い切ってヘリからダイブ。
続いて禊が宙返りをかけながら回転ダイブ。
ジャックがプールへ飛び込むかのようにジャンプしたあとで、たまきと逝がマニュアル通りのダイブをかけた。
各員の装備に炸薬式の小型パラシュートが開いては抜け、段階的に落下速度を整えていく。ちょっと高いところから飛び降りた程度のエネルギーにとどめようとしているのだ。
そんな中。
「お先っ!」
落下制御装置を自らパージして、数多が妖の直上へと加速した。
●十秒あれば人は死ぬ
秘匿名称『玉串神社』境内、駐車場側通路。
安全圏だと思っていた本拠地で妖の群れに襲われた巫女たちは混乱の限りにあった。
死にものぐるいで戦う者。我先にと逃げ出す者。仲間のために死のうとする者。絶望の余りうずくまる者。
石につまづいて転倒した少女は絶望のタイプだった。目の前に立ち塞がる首の無い巨人に、今まさに生きる希望を失ったところである。
しかし。
「死ね!」
流星のごとく落下してきたピンク髪の禍ツ神が、妖を真っ二つに切断した。
血と泥と正体不明の粘液をまき散らして崩れる妖。
それら全てを浴びて尚美しさを保った数多が、巫女の前にゆっくりと立ち上がる。
「■■■■■と■■仲間■■が■■■■安■よ!」
言葉はまったく聞き取れなかったが、巫女は思わず彼女を拝んだ。
「まったく、無茶苦茶だあなたは!」
追って着地した千陽は周囲の妖を銃撃。
加速落下で軽く膝と左腕がへし折れていた数多に、思い切り顔をしかめた。
圧倒的な戦力の前に次々はじけ飛んでいく妖たち。
R1の中でも耐久力の低い個体は千陽が銃を乱射下だけではじけ飛んだりする。少数個体の投入によって情勢が著しく変化したことを、妖たちは本能的に察した。察し、驚きという形で表面化させる。
彼らの登場に驚いたのは妖だけではない。巫女たちは見ず知らずの闖入者が敵なのか味方なのか、はたまた火事場泥棒の一種なのか検討がつかずに硬直している。
そうこうしている間にジャックが着地。着地と同時に自らの内部から妖力を解き放ち、炎に変えて放射状の波を放った。
たちまち焼け死んでいく妖たちをにらみ付け、ジャックはさらなる妖力を解き放った。
「この中に天行の黒子衆はいるか! ついてきてくれ!」
「だ……誰だてめえ! ぶっ殺すぞ!」
巫女がわけもわからず火縄銃をジャックに向けた。
「元山さん、おちついて。私たちです!」
一足遅れて着地したたまきが、巫女の背後へ組み付こうとした心霊系妖をポスター状に丸めた大型護符で殴りつけた。
きりもみ回転して飛んでいく妖。
「……教官。あなた、覚者だったんですか?」
「黙っていてすみません。事情がありまして」
「いや、いいんだ。アタシらにはあんたの素性がなんだってこの際……」
鼻から上の無い巨人が五体ほどの群れを作り、四つん這いで駆け寄ってくる。
凄まじい速度と強度ゆえに、巫女たちが慌てて射撃で牽制するも雨粒ほどの効果もなさない。
対して。
「お待たせ!」
「ここの守備はおっさんたちに任せるさね」
割り込むように着地した逝と禊が同時に術式を発動。
流れるようなハイキックで二体同時に蹴り飛ばすと、咄嗟のことに判断が遅れた残り三体を膝蹴りと回し蹴りのコンボで次々に蹴り飛ばしていく。
「さあどいて。今から、困ってる人を助けるんだから」
足を高く蹴り上げた状態のまま、禊は細く息を吐く。
刀をすらりと抜く逝。
「おっさんと賀茂ちゃんはここで巫女をまとめて退路を確保するから、四人は中に居る人たちをお願いね。『送受心・改』はオンラインにしておくから」
「これだけの戦力があれば中で足止めしてる子たちも助けられるかも……私たちはどうしましょう、教官!」
たまきの元に元山と鎌ケ谷が駆け寄ってきた。
「チームのみんなは半数ほど中で戦ってます。他の隊もバラバラみたいで……そろえばちゃんと動けるんですけど」
「わかりました……」
たまきはリュックサックのポケットに手を突っ込むと、花札のように大量に重なった護符を派手にまき散らした。
「今ある戦力で、なんとか退路を確保しましょう!」
●死んだ者は生き返らない
『玉串の巫女』という組織が(上層部がただ働き要員として利用しないように)ファイヴをとるにたらない組織として伝えていたことや、人権ある隔者や憤怒者も攻撃することからあまり歓迎されていないことなどは、この緊急時には些細なことである。
その上で考えたとしても、見ず知らずの人間が急に入ってきて『このように行動せよ』と頼むのはなかなか難しいものがあった。
たまきやその他教官たちの名前を出したり現状や(タイミング良く駆けつけた理由として)ファイヴの夢見の存在などを説明するなどしてワンクッションおかねばならないのは、どうしても手間だった。
とはえい、緊急時に自分より強いっぽい人の言うことを聞いておいた方が生き残りやすそうという理由から最終的には頼みを聞いてくれた
「みんなは退路を確保するために外で戦ってる人たちと合流して。体力が無くなったらすぐに撤退するんだよ。あと、ツーマンセルを組むこと、いい?」
「は、はい……あなた方は?」
傷ついた巫女に問いかけられ、禊はギラリと笑った。
「困ってる人のところに行ってくる」
巫女たちを外に逃がし、走り出す禊。
木床の渡り廊下を駆け抜け、半開きになった門へと跳び蹴りを仕掛ける。
門が吹き飛び、その向こうにいた妖をまるごと踏みつぶしながら宙返りし、空中で四方八方に手刀や足刀を振り込んでいく。
衝撃が手裏剣のごとく飛び、周囲の妖たちが一斉に崩れ落ちた。
壁際でうずくまっている巫女に『外へ逃げて』と伝え、更に走り出す。
「境内でバラバラになってる。どうやって助けたら……」
予期せぬ襲撃に見舞われた巫女たちは、境内でバラバラに戦っていた。
施設の性質上中枢にこそ危ない人が多かったので、そこを目指すことになるのだが……。
「死ぬな! 死んじゃだめだ! 目をあけろよ!」
ジャックは頭が半分無くなった巫女を抱えてがくがくと揺すっていた。
「あの、その人はもう……」
「う、うわあああああああああああああああ!」
血の涙を流し、爪の間から炎を吹き出すジャック。
「燃やしてやる! 全部燃やしてやる!」
怒り狂って炎をまき散らし、天井裏や床下、開いた扉からなだれ込んでくる妖たちに術を乱射する。
が、そうしているうちに明後日の方向から飛んできた鉄の矢が随伴の巫女を貫通した。
『かっ』とだけ言って倒れる巫女。
R2の中でも強度の高い妖に襲われたのだ。
「こいつ……!」
「落ち着いて! 回復に集中して下さい! 攻撃に手を回している暇なんてないでしょう!」
振り上げた手を掴んで止める千陽。
ジャックの頬を一度はたくと、正気を取り戻させた。
更に妖の頭と心臓部めがけて的確に射撃。のけぞらせる。
「心を乱している余裕はありませんよ。中枢はまだ先です。できれば放送室にも行きたいところですが……」
「そんな余裕もないでしょ。津波が押し寄せてるのにお家に居座るようなもんじゃないの」
妖の首を切り落とし、数多が部屋に入ってきた。禊も遅れて駆け込んでくる。
「九美上さんたちが残ってる部屋っていうのは、この先?」
「恐らく」
妖の勢いはまるで留まらない。
なにせ百人規模の覚者(内二名が強豪)が皆殺しにされる数と勢いである。四人がかりで攻勢に出たからと言って全滅させられる規模ではない。道中で助けた巫女たちは大体が瀕死だったので撤退させているし、少数はいた無事な巫女も外の退路確保に回している。彼女たちの力を借りて内部の敵を殲滅するプランはこのとき消えていた。
と言うことで、可能な限り巫女を救出して即座に撤退するというプランが自動的に選択されていた。
「ココノさんと、豊四季? さんよね。行くわよ!」
四人は頷きあい、中枢エリアへと走る。
●人をより早く殺すには剣を折るべし
駐車場周辺は激戦区になっていた。
現時点で生存が確認されている巫女の半数は撤退をはじめ、車にのって遠方へと走り去っている。
戦闘不能者やその危険がある者を担ぎ込む余裕を作るべく、たまきや逝たちは防衛線をはっていたからだ。
妖たちはそこに人間が沢山いるとみて、餌に群がる虫のごとくたかっている。
幸いなのは、彼らが回り込んで車を破壊すればいいという知恵をまったく働かせないとことだろうか。
向かってくる敵をひたすら攻撃し、突破を試みる敵は弾く。
これを繰り返すだけで暫くは戦線が維持できそうだった。
「兎さん組は遊撃、死番隊を守ってください。抜塞組と亀さんチームは守りを固めて……花組さんは私たちと一緒に攻撃を。王子さま組は穴を埋めてください!」
六つのチームを同時に指揮しながら戦うたまきは頭も身体もフル稼働である。
どっちかに集中するというわけにはいかないので、多くは隊員の自己判断に頼るほか無い。
一部は逝に指揮系統を分けているが、もとよりスタンドプレイの得意な逝にはちょっと難しい話である。
「怪我人は即退却。まだ戦えそうなら回復してやりな。おっさんはいらんよ、自分で喰える」
妖を次々に切り捨てながら飛び回る逝。飛び回りつつ、周囲の状況を分析していた。
体力の五割をきった仲間を撤退させる作戦だったが、体力の減少速度が早く戦闘不能になるか体力一割前後で残るかのどちらかのパターンが多かった。死んでないだけまだマシである。
しかし……。
「ここに人が集まってることが伝わって、大量に攻め込まれたら戦線がもたんぞう」
「そうなる前に皆さんを逃がします……!」
たまきは妖を護符だらけの手で殴りつけて言った。
●生存者
妖の集団に囲まれつつも、あっちこっちに飛び回りながら殴る蹴るの暴行を加えていく九美上ココノ。
その中央で炎を纏った破魔弓を使い、強そうな個体を狙ってスナイプしていく豊四季。
一見優性だが、傷ついた巫女たちを庇って戦っていたためにかなり消耗していた。
そこへ。
「ココノさん! たまきさんがあんたを助けたいらしいわよ!」
外側から割り込む形で数多が妖たちに斬りかかった。
「いっぱい心配されてるんだから、死なないでよね。そんで本人から話も聞いて!」
「わー」
血まみれの顔で振り返るココノ。
「とーっても嬉しいですー。私とーっても弱いので、ここで死んじゃうと思いましたー。やっぱり友情って素敵ですねー」
明らかに嘘とわかるトーンで雑な演技をするココノである。
このテンションに免疫のない数多はなにこの性格最悪女はと思ったが、今は非常時である。
千陽も似たようなテンションで咳払いをした。
「思うことはあるでしょうけど、ここはご協力ください」
「おもうところってなんですかー? 私はファイヴの仲間じゃないですかー。傷ついちゃいますー。すんすん」
仕草だけで泣き真似をして、妖の顔面を踵で踏みつぶすココノ。流れるように肘で妖の顔面を陥没させていた。
「馬鹿なやりとりはそのくらいにして。この子たちを逃がしてあげてください。私たちは別にいいので」
豊四季が会話に割り込んできた。
戦闘不能なまでに負傷した巫女たちを庇っている。
禊は頷いて、彼女たちを庇うように立ち上がらせた。
出入り口を塞ごうと回り込む馬の妖。
「みんなで帰るんだ。そこをどいて!」
強引に蹴りつけ、出入り口の扉ごと妖を吹き飛ばす。
「さあ、早く!」
巫女たちを引っ張って、禊は外へとかけだした。
同じく回復術式を連射しながらついていくジャック。
足下に互いを庇い合って死んだ巫女の死体が転がっている。
「う、ううう……!」
「取り乱すのは後にして! 今はやることやって!」
「わかってる!」
ジャックは歯を食いしばり、術式を組み直した。
生存が確認できた巫女を粗方撤退させた後、千陽は銃のマガジンを交換した。
「私は戦闘を継続します。放送室から呼びかけて、黒幕との会話を試みるつもりです」
「黒幕がこのへんにいるんですか?」
豊四季の問いかけに、千陽は『ん?』という顔をした。
いるかいないかでいえば、居ないのが当たり前である。
これだけの規模で妖を統率できるランクの存在である。もし居るなら、自分たちが突入した時点で首をこう豆電球を取り外すみたいにキュキュッとやられている筈である。
ワイングラスをくるくるやりながら外で見守っているとはちょっと想像しがたい。
「では、あなたがたのスポンサーたちと話していた装置で逆に問いかけることなどは……」
という話をしている最中に、岩と複数の死体を無理矢理接合したような巨人が部屋に飛び込んできた。壁を破壊しながら電柱を振り回すその様に、思わず身を固める。
むしろ固めて良かった。千陽たちは一斉に電柱で薙ぎ払われ、部屋の隅へと飛ばされた。
追って、続々と妖の集団が部屋に押し入ってくる。
「時間を使いすぎましたね……」
口元の血をぬぐって立ち上がる豊四季。
数多が刀を妖に突きつけた。
「いいじゃない。ぶっ飛ばしてあげ――」
「えいっ♪」
数多の脇腹に膝蹴りがめり込んだ。近くの壁をもろとも破壊して、野外に放り出される。
「ここは私が食い止めるんでー、先に行ってくださいねー」
似たような手段で千陽と豊四季を放り出すと、ココノがぐーぱーしながら笑った。
「大丈夫ですよー、すぐに追いつきますからー」
明らかに嘘と分かる、雑な演技だった。
●生きているだけで儲けもの
車が走る。
小石を蹴って粗い道をゆく。
運転席で、片腕に包帯を巻きながら千陽は前だけを見ていた。
後部座席ではジャックがうずくまって頭を抱え、数多と豊四季が窓の外だけを見ている。
窓の外。
これまで戦っていた神社から黒い煙があがり、やがて連続した爆発が起きた。
救出作戦は終了。
後の確認によれば、黒子衆の生存者数は59名。
巻き込まれたレギュラーの巫女のうち豊四季が生存。
九美上ココノの生存は、確認されていない。恐らく死亡したとみられている。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
