私、ビギナー。戦い方わかりません
私、ビギナー。戦い方わかりません


●若葉マークの覚者
 井上 翔子(nCL2000185)は、研究所の一室で、過去に覚者たちが解決してきた依頼の報告書から顔を上げた。
 先輩覚者たちが成し遂げてきた成功の数々……。
「どうやったら、こんなことできるんだろう」
 中には突然発現し、訳も分からないまま戦いに身を投じた人もいるだろう。
 自分では望まぬ境遇に身を置くことになった人もいるかも知れない。
 覚悟を持ってF.I.V.E.の覚者になった人は、いったいどのくらいいるだろうか。
 我が身を省みれば。
 高校を卒業して一年近く経ってから発現して、その後五麟大学に入学した。
 発現のきっかけは祖母の死であったように思う。
 しかし発現しても、覚者としての覚悟は生まれなかった。

 先輩覚者たちは発現したことをどのように受け入れ、何を思いながら戦いに身を投じてきたのか。
 戦闘に対する恐れはなかったのか。
 戦い方をどんなふうに覚えてきたのか。
 訓練はしたの?投げ出したくならなかったの?
 このままずっと、覚者として戦い続けることに疑問は抱かない……?
 もし親しい先輩がいれば、自ら聞いて回ることもしただろう。
 けれど翔子は極度の人見知りで、一年生を終えようとしている今も、覚者の中に胸襟を開いて語り合えるような友はいなかった。
「F.I.V.E.に所属していても、私にできる事なんてないんだよなあ」
 うーんと伸びをしながら窓の外を見れば、この日の終わりを告げる夕焼けが空を染めていた。
 ゆっくりと沈んでいく日を見ながら、翔子は覚悟を決める。
 先輩たちが戦う姿を目の当たりにすることこそ、一番の勉強になるだろう。
「やってみなきゃ、始まんない……」

●戦闘デビュー
 それから数日して。
 翔子はある依頼に同行していた。
 内心(自分なんて無理だろ)と思いながらの依頼参加である。
 だが、何事も「やってみなきゃ、始まんない」のだ。
 それは、小学校の通学路に出没するようになった犬の妖を退治するという依頼だった。
 子どもたちの安全のためにも、一日も早く妖を退治しなければ。
 気持ちだけはやる気十分だったが、果たして本番になるとどうか……。
 犬たちの吠え声が聞こえた。
 飛びのいて小さくなる翔子とは対照的に、覚者たちはさっと身構える。
 迫りくる数体の犬。
「ひえー」
 絞り出すような翔子の声などおかまいなく、先輩覚者たちは妖を排除すべく行動を開始した。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:mokona*
■成功条件
1.初心者NPCに戦い方を教える
2.覚者とは何か。自分の思うところを語り、NPCを前向きにさせる
3.妖の討伐
 こんにちは。mokona*です。
 今回は、私が担当させていただくNPC井上 翔子(nCL2000185)の紹介も兼ねたシナリオです。


1.妖はランク1の犬(物近単)× 8
  噛みつき・爪によるひっかき
 
小学校の通学路:2m幅の歩行者専用の遊歩道のような所。平日の昼のため、人の往来はありません。

  
2.対 ネガティブな翔子……。
 戦闘中の戦う姿を見せてあげてください。
 みなさまが発現した時の心情を、力を使おうと思った時の覚悟などを語ってください。
 F.I.V.E.に所属したとはいえ、まだまだ覚悟の足りない翔子です。
 今後みなさまと共に依頼に出かけられるよう、翔子をポジティブ思考に!

 但しリプレイ内、翔子は戦闘中は隅っこで小さくなったまま、会話の時は聞き役に徹します。


 それでは、ご参加お待ちしております。


<NPC>
井上 翔子(nCL2000185)
怪の因子・黄泉。人見知りで、内気な性格。自分が発現したことに戸惑いを感じています。今回が初めての依頼参加であり、先輩たちから覚者としての心構えなどを学びたいと思っています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/7
公開日
2017年03月06日

■メイン参加者 7人■

『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『突撃爆走ガール』
葛城 舞子(CL2001275)
『デアデビル』
天城 聖(CL2001170)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)

●妖犬との戦闘
 初対面で翔子に気さくに話しかけてくれたのは、『白き光のヒーロー』成瀬 翔(CL2000063)だった。
「翔子さんて、オレと名前の漢字、おんなじだな! なんだかちょっと親近感あるなって」
 にかっと笑った年下の少年に、翔子の気持ちも和んだ。
「初めてなんだし、翔子さん、無理すんなよ! 木行なら後ろから撃つ術式使えるだろ。後衛から援護してくれたらいいからさ。小学校の通学路、絶対に守ろうぜ!」
「アタシも……最初の頃は、妖とか戦闘とか怖かったなぁ……。だから、井上さんの気持ち……すごく、分かるよ……」
 『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)はそう言って同情を表した。
 すると『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)が自分の隣を指し示しながら、
「距離感を掴むためにも、ボクの近くにいるといい。後衛のこと、教えてあげられるしね。前衛の人たちはがんばって。5分を目安に片付けようね」
と暗にお説教もあることを匂わせる。
「そうッス。私と四条さんの間にいれば、いざという時に庇えるッス。あ、もし、翔子さんが戦いたくなったら、いつでも言ってくださいッス。破眼光の使い方も教えるッスよ!」
 『餓えた狼』葛城 舞子(CL2001275)は同じ怪の因子であるだけに、何かと気にかけてくれているようだ。
 こうして隅っこで小さくなっているはずだった翔子は、理央と舞子が誘ってくれたおかげで、二人の間から戦闘の様子を勉強することになった。
「翔子おねーさんは見てて! 心が原動力で、心があれば体は自ずと動くんだ。あなたがしたいと思うことをしてみて!」
 『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)には励ましてもらい。
「覚者だから。そんな理由で戦わなきゃならないなら、それはそれで悲しいことだけど……。翔子さんもそんな思いつめなくていいよ。やりたいようにやればいいと思うー! とにかく、あいつらパパッと片付けちゃお!」
 『異世界からの轟雷』天城 聖(CL2001170)にはやる気を分けてもらい。
 最後に『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)が『妖薙・濡烏』をひと振り、ぶんと回して前衛に立った。
「さあ、始めようかの。お前様方。通学路を守ろうぞ」
 そうして七人の覚者たちは迫り来る妖犬に対峙した。
 幅2mという狭い通学路だ。
 こちらも動きづらいが、四つの足で稼ぐ犬の方がもっと動きは取りづらいだろう。
 だが、今回は翔子というウィークポイントを抱えている。彼女を守りながら、さらに戦い方を教えながら、どう戦闘を進めていくか。
 後衛でびくびくと小さくなっている翔子を一瞥してから、奏空は二連撃を繰り出した。その攻撃を受けて一体は地面に倒れたものの、弱くても回避だけは高い妖なのか。二体が奏空の斬撃をひらりとかわした。 
 その二体へ、青年の姿になった翔が雷獣の激しい雷を落とし、さらに樹香がもう一体に『妖薙・濡烏』で踊るように薙ぎ払って前衛を殲滅した。
「ちょこまかと動きよる。前衛を突破されぬよう、気を引き締め直すぞ」
 薙刀を持ち直しながら樹香が周りを鼓舞した。
「分かってる!」
 一刀目を外した悔しさをバネに変えて、奏空は二刀流を構え直した。
 これだけの流れで翔子はすでに卒倒寸前だったが、ミュエルがマイナスイオンでびくびくしている翔子を静めてくれた。
「これで大丈夫。少し落ち着いて来たでしょう?」
「ほ、ほんとだ……。こんなこともできるなんて……」
「大丈夫……妖の攻撃、前衛までしか届かないはず……。落ち着いて、見ててね」
 そう言うと、ミュエルは前に向き直った。
 と同時に、妖犬がミュエルに飛びかかって来た。
「ミュエルさん!」
 一体の牙は身をよじって避けたが、もう一体その後ろから飛び出してきた妖の爪がミュエルの腿に小さな切り傷を付けた。
 小さく声を上げて腿を押さえるミュエル。
「大丈夫か?」
 同じ前衛の樹香が咄嗟にミュエルを支えると、「平気……このくらい」と体勢を立て直した。
 ほっと胸を撫で下ろすと、「ついでに回復の様子も見せてあげよう」
 そう言って理央が『填気水』を使った。溢れ出た水を宙に解き放つと、今まで術を使った者たちの気力が回復していった。
 さらに舞子が「私は『潤しの雨』ッス!」と、恵み雨を周囲に降らせ、多少なりとも体力を削がれたものを癒した。
「じゃあ、ついでに私が『迷霧』を使ってやろう」
 聖の使った『迷霧』で、残っている四体のうち三体に『虚弱』のバッドステータスを与えることができた。
 翔子からは「すごい……」という言葉しか出てこない。
「こうして回復してあげることで、皆また戦えるようになる。バッドステータスが付与できれば、幾分かこちらが有利になる。実際に刀を振るう以外にもできることはたくさんあるんだよ」
「そうそう。その時自分がしようって思うことしてたら問題ない!」
 理央と聖が補足する。 
 妖の数が減り、ある程度弱ったところで、
「前衛さん、そろそろ巻いて行きましょうか」
と理央の鋭い言葉が飛び、ぴりっと緊張の前衛陣。
「うし。今度は本気の十六夜だ!」
 奏空が再び踊るような動作で刀を振るった。眉間を打ちすえて一体を、返す刀で二体目を切り落とした。ついで翔の起こした雷雲が雷撃を一体に落とす。
 最後の一体は、これまでの戦闘で唯一無傷の妖。じりじりと後ずさりしているのは、本能的に身の危険を感じているからか。
「さあ、最後だ。どうする?」
 樹香の問いかけに、奏空が後衛に目をやった。
「翔子おねーさん、破眼光使おう!」
「は、破眼光……」
 翔子はいまだ開いたことのない第三の目のことを思った。それが開いたら自分はどうなるのか、想像すらできない。
「大丈夫ッス、翔子さん。私と一緒にしましょうッス! 私が最初にお手本見せるッス!」
 翔子は今ここにいる意味を考える。
 何より数ある依頼の中でこの案件を選んだのも、『小学校の通学路』というのが目に入ったからだ。
 『誰かを助けたい気持ち』
 今ある力をその為に使わずしてどうする?
 戦闘前に掛けられた皆の言葉が甦る。と共に、翔子の第三の目が開いた。その初めての感覚に内心慄きながらも、舞子に頷く。翔子の準備が整ったのを見て、舞子が一体だけ残った妖犬を見据えた。
「ようっし。行くッス!」
 舞子の第三の目から破眼光が放たれた。
「翔子さん、今ッス!」
 舞子の破眼光は妖の逆立った毛をそぎ落としたものの、翔子の破眼光は右にそれて地面ではじけた。
「グルルルッ……!」
 妖が最後の力を振り絞るかのように全身を使って前に飛んだ。
 それに合わせるように、樹香が『妖薙・濡烏』を横に薙ぐ。
 切り裂かれる妖犬の体。
 パタリと地面に落ちて動かなくなった妖の体は、シュルシュルと元の犬の姿へと戻って行った。
 皆がほっと一息ついたところで、理央の冷静な声が飛んだ。
「ここまでの時間が4分強。井上さんへのレクチャーも合わせていたことを考えると、まずまずと言ったところかな」
 5分過ぎればお説教だと言っていた理央の言葉に、皆胸を撫で下ろした。
「どうだった? 井上さん」
 自身が放った破眼光のあと腰を抜かしていた翔子に理央が尋ねた。
「まあまあ。少し落ち着いて話すとしよう。皆でお茶でもいただきながらな」
「おー。いいッスね! まだ翔子さんに話したいこともあるし、皆で反省会も兼ねてお茶しましょうッス!」
「私、飲み物とお菓子持参してます!」
 手を上げた翔子に用意のいいことだと先輩たちは笑顔になった。
 こうして無事八体の妖犬を討伐した7人(プラス翔子)は近くの公園に向かったのである。

●ビギナーへ。先輩から贈る言葉
 公園の東屋。それぞれが、テーブルに並ぶ飲み物やお菓子を思い思いに手元に置いて落ち着いたところで。
「ふむ。これからは皆で話し合う時間じゃな。先ほどの戦闘もふまえて、新人覚者の翔子さんに自分の思いの丈を話してあげようかの」
 樹香の言葉に、まず翔が切り出した。
「オレが初めて覚醒したのは4年生の時。2年とちょっと前、になるかな。オレは元々ヒーローが好きだったから、同じ覚者のじーちゃんやおじさんが妖と戦ってるのを見て、ああいうのを本当のヒーローって言うんだなって。オレもああなりたいって思ってた。だから乗ってたバス妖に襲われて事故った時もさ。見ているだけは嫌だ。子どもじゃなくて、大人だったらって。悔しいって……。そう強く思ったら覚醒してたんだよ」
「強く思ったら……ですか」
「もちろん実際に妖と向き合った時は、そりゃ震えたよー。戦ったことなんてなかったからさ。でもね。自分を信じてみたんだ。きっとオレは皆を守れるはずだって! 悔しかったことも泣きそうになったこともあるし、心が折れそうになったこともある。でも止まったら誰も護れねーしな。それにオレには仲間がいる! 翔子さんも一人じゃないんだからな!」
 すると翔は自分の傍にいる鳥型の守護使役を見た。
「この空丸も一緒にいてくれるしさ。それで勇気を振り絞ってみたら、自分もヒーローに近付けた気がしたんだよ」
 翔子は翔につられるように自分の守護使役に目をやった。「すっちゃん」と名付けた猫系守護使役。撫でて可愛がるペットのように扱っていたけれど。そうだ。この子が見えるのも自分が覚者だからだ。
 今まで見過ごし受け入れてこなかったことのなんと多いことかと、翔子はすごく勿体なく思った。
「では次はワシが話そうかな」
 樹香はおっとり微笑んだ。
「ワシは子どもの頃に覚醒して、同じく覚者であった祖母の元で育てられてのぅ。そこで覚者としての力の使い方、心の持ち方など多くのことを教わった。力の使い方を知らずに暴走をせずに済んだのは幸いと言えるかの。が、本当の意味で覚者となることができたのは、F.I.V.E.に来てからだと思っておる」
「F.I.V.E.に来ても覚悟ができない場合は……」
「そうじゃのぅ。F.I.V.E.の覚者として妖と戦うことは、護られるだけの存在ではないということ。仲間同士互いに支え合い、競い合い、供に多くのことを学ぶ。その上で自分なりの覚者というものが見えてくるとワシは思う。そして何よりも、横に並ぶ仲間が、背中を預ける友人ができたからこそ、覚者としての覚悟も決まって行ったように思えるの。じゃから、翔子さんもそう言った存在を作っていくと良いのではないかの?」
「……」
 田舎から出て来て、右も左もわからない場所でいきなり覚者として活動することになった時。翔子はただ(なぜこんなことになったのか……)と田舎に帰ることばかりを思っていた。心を閉ざし、友も作らず……。
「わたしって、ほんとにこの一年無駄に過ごしてきたんですね」
「無駄ではない。この一年で翔子さんが悩み考えてきたこともまた、翔子さんの糧であろうよ」
「アタシはじゃあ、F.I.V.E.に来てすぐの頃の話、するよ……」
 樹香の言葉に頷きながら、ミュエルが口を開いた。
「アタシも最初の頃は、臆病で何もできなくて……。覚醒しても車輪で立つことも精一杯だった、よ……。学校の中庭やスポーツジムのグラウンドで、ローラースケートで練習して……。それでやっと自分の脚、車輪だけど……で動けるように、なった。そんな感じ……」
 翔子は先ほどの戦闘の光景を思い出した。ミュエルの脚先が車輪であることに気付かなかったのは緊張のせいだけではないだろう。ミュエルはそれだけ、スムーズに立ち回っていたのだ。
 彼女がしてきた努力を、翔子は一つもしていない。
「翔子さんと同じで、最初の頃はアタシも妖が怖かったよ……。今日の翔子さんみたいに後ろの方で縮こまってた。回復してるだけだったし……」
「回復役の人がいなきゃ、戦闘は成り立たないよ」
 翔の言葉に、ミュエルは微笑む。
「今なら、そう、思える……。でも、始めの頃は、戦えない自分を、情けなく思ってた……。心霊系の妖と戦う時も」
「ああ、あの時か」
 奏空が相槌を打ったのに頷き返し、
「小学生の子と一緒に悲鳴あげちゃったり、してたし……。でも……信頼できる仲間と一緒に、少しずつ成功体験を重ねたりとか……。実戦で学んだことをひとつずつ復習して、ちゃんと向き合って戦えば怖くないって、勝てるんだって学んだ……。そんな感じで少しずつ戦えるようになったんだよ……。だからね。井上さんも、自分のペースでゆっくり前進していけば、きっと大丈夫、だよ……」
 『自分のペース』。
 ミュエルの言葉は、恐怖と焦りで進むべき方向を見失っていた翔子に大切なことを気付かせてくれた。そして次に語られた聖と理央の話にさらに考えさせられる。
「ぶっちゃけ、初めて覚醒した時のことは私も分からないんだー。F.I.V.E.に来たのにも特に理由はないし。覚者だっていうことや戦うことに意味は見いだせないなー。ま、私に分からないことは他の誰にも分からないってことでー」
「ボクは今でも荒事より遺跡調査とかの方が好みだし、そちらに積極的に参加するよ」
 『覚者であること』や『戦うこと』に対する意識は人それぞれだ。皆が皆『F.I.V.E.の覚者として戦うこと』を最優先にしているのではないのか。
「けどね。こうやって妖を討つことで救われる命があるなら、(討伐任務も悪くないかな?)なんて、思えるようになって来てるんだよね。自分の好きなことも大事にするよ、もちろん。けれど誰かを救うこと、救える命に手を差し伸べることが同時にできるなら、それはとても素晴らしいことだと思うんだ」
 理央の言葉に確かにその通りだと、一同が揃えたように首を縦に振った。
「発現した時は死ぬほど怖かったッスよ。ぶっちゃけ今でも怖いッスよ! だって自分の体に目が増えるんスよ!? それに加えて人魂ッスよ?! どっちにしてもホラーじゃないッスか! どうせなら耳が生えたり、翼が生えたりしてほしかったッス!」
 翔子は先ほど初めて第三の目が開いた時、吸い込まれた人魂のことを思い出した。ふわふわと自分の周りを漂っている人魂が、目の中に入るなんて!
「でも、なっちゃったものは仕方ないッスし、覚者としてできることがあるなら何かしたいって思ったッス。怖いこともあるけど、仲間がいるから大丈夫ッス! 戦い方も最初は諸先輩方を真似してみたり、時には敵にも教えられたりして、自分に合った方法を探してみるのがいいと思うッス。私もまだまだ勉強中ッス! 依頼もいろいろあるッスから、まずはやってみたいと思うことをやってみたらいいと思うッスよ!」
 ぐっと拳を握る舞子の仕草に、翔子は自然と笑顔になった。
「俺の戦闘デビューは」
 最後は奏空。
「そりゃもう、ドッキドキだったよ。夢見の予言を聞いて、頭に血が上って……。だから、最初の戦闘の動機は『怒り』だったよ。でも、依頼に飛び込んではみたものの、よく考えたら全くの素人でしょ。俺はちょっと前まで普通の中学生してたんだから。そんな俺が戦闘に赴いたって、皆の足を引っ張ってしまうに決まってる。上手くいかなかったらどうしようっていう不安もあったし、もちろん戦うこと自体も怖かったよ。でも、やっぱり救いたいって言う気持ちが強かったんだなあ。その依頼で一緒になった人たちとしっかり相談できたのも良かったと思うよ。話せば話すだけ、その人たちへの信頼感て増していくものだからさ」
 そこで奏空は一旦言葉を切り、両手を添えた紙コップに視線を落とした。
「戦うことは今でも怖いし、好きじゃないよ。でもそれ以上に、誰かの盾に、力になれる事が嬉しいんだ。その為に俺はここにいるんだって思うよ。覚者だからじゃない。『誰かを救いたいから』ここにいるんだ」
 それから奏空は真っ直ぐ翔子を見た。
「そうだね……。覚者とは『救いたい』という願いを叶える力がある者。俺はそう思うよ」
 長く戦って来た奏空の言葉は翔子の心に深く沈み、彼女を前へ押し出す力となっていく。
 彼女にその自覚はまだなくても、これから、きっと……。
「少なくともワシ等は既に同じ戦場に立った仲間じゃからの。今後ともよろしく、じゃよ」
 お菓子を摘まみながら、樹香はそう言って微笑んだ。 
「発現しても戦わない覚者はいっぱいいるッス。こうして依頼を受けてみようと思った翔子さんはすごいッスよ。だから一緒にがんばりましょうッス!」
 舞子に合わせて、ミュエルや聖とも一緒にサムズアップ。
「動き、技、そして仲間との絆も、日々の積み重ねの賜物だよ!」
「もし訓練したいなら、いつでも付き合うぜ!」
 そうして奏空と翔に勇気づけられた。
「あなたも考古学部だったのね。今度見かけたらよろしくね」
 最初の顔合わせでちらりと漏らしたことを覚えてくれていたのか。
「は、はい! よろしくです!」
 一人じゃない。
 そう思えた時、人は前へ進む力を得る。
 歩み寄らなかった今までを反省しつつ、これから自分がF.I.V.E.の覚者としてできることを少しずつ見付けていきたいと思う翔子だった。

 最後に舞子の声掛けで希望者が集まり、『初依頼記念』と言う名目の記念写真を撮影した。
 とにもかくにも、翔子には思い出深い覚者デビューとなったのである。

「先輩覚者の皆さま、本当にありがとうございました!」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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