11枚目のタロットカード
11枚目のタロットカード


 おぞましいものが目覚めた。僕の、身体の中で。あるいは心の中で。
 それが僕の、皮膚の表面に醜く現れてくる。
 獣毛が、衣服を押し破りながら、ふさふさと盛り上がっている。
 縞模様を成す、虎の獣毛だった。
 僕は今、虎になりかけている。虎か人間か、判然としないものに成り果てているのだ。
「この化け物……裏切り者め!」
「お前も奴らと同じか! 人間の皮を被って、俺たちを騙していたのか!」
 仲間たちが……昨日まで仲間だった男たちが、僕を電磁警棒でめった打ちにしている。
 人間であれば、僕はとうの昔に死んでいるだろう。
 だが今の僕は化け物だ。あいつらと同じ、化け物なのだ。
 僕の体内で今、もう1つの心臓のように禍々しく脈動している、この忌まわしいものを、あいつらは『因子』と呼んでいるらしい。これが発現すると、化け物に変わる。
 あの男も、そうだった。
 僕の目の前で化け物になり、笑いながら僕の家族を殺した。
 僕の父を、叩き潰した。そして僕の母と妹を、とても表記出来ないやり方で惨殺した。
 僕は魂の抜け殻となり、この『XI』という組織に拾われた。そして新たな魂を得る事になった。
 化け物を、この世から一掃する。そのために僕は戦い続けてきたのだ。
 そして今、化け物に変わった。
 あの男は蛇だった。今の僕は、虎だ。共に、化け物である事に違いはない。
 僕は、あの男と同じ存在に成り下がってしまったのだ。
「死ね! おぞましい裏切り者の怪物め!」
 かつての仲間であるXI戦闘員の1人が、僕の顔面に思い切り電磁警棒を叩き付ける。
 このまま、殺されてしまうべきなのだろう。僕は化け物と化し、化け物の暴虐を憤る『憤怒者』たる資格を失ってしまったのだから。
 そう思いながらも、僕は逃げ出していた。
 結局は命が惜しいのだ。やはり僕は、浅ましい化け物だ。浅ましい言葉が、口から漏れてしまう。
「助けて……誰か、助けてくれよぅ……」


 新しい覚者が発見された。本来、喜ばしいニュースのはずである。
 だが、中恭介(nCL2000002)の口調は重い。
「名は吉江博文。男、21歳……XIの戦闘員だ。憤怒者が、因子を発現させてしまったという事になる。
 因子の種類は獣。彼は今、寅の獣憑になりかけた状態で逃げ回り、XIの戦闘員たちに追われている。正常な覚醒ではないから、怪物あるいは獣人としか言いようのない姿に変わっているだろうな。
 吉江は自分の家族を、同じく獣憑の覚者に殺されている。安心しろ、と言うべき事でもないがファイヴではなくAAA所属者だ。同じAAAの覚者による粛清に遭い、すでにこの世にはいない。
 吉江は今、自分が最も憎む相手と同じ存在に成り果てて絶望している。言葉による説得は、恐らく不可能だろうが……お前たちに頼むしかない。吉江博文の身柄を、確保して欲しい」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:小湊拓也
■成功条件
1.破綻者・吉江博文の打倒・捕縛
2.なし
3.なし
 お世話になっております。ST小湊拓也です。
 今回の相手は覚者になりかけの憤怒者……扱いとしては破綻者、でありましょうか。深度は2。限りなく3に近い状態ですが、辛うじて自我は保っており会話は可能です。が中恭介氏の言う通り言葉の説得は不可能、身柄の確保には戦闘で負かして体力を0にする必要があります(戦闘不能にはなりますが、死にはしません)。
 吉江博文は、五麟市郊外の廃屋に身を潜めています。周囲は空き地で、遮蔽物の類はありません。
 時間帯は夕刻。XIの戦闘員9人が廃屋を取り囲んでおり、まずは彼らと戦う事になります。9人とも防刃・防弾装備をまとっており、武器としては電磁警棒(近・単)を使いますが、1人1人は妖のランク1よりも弱いので苦戦する事はないでしょう。
 ですが彼らを相手にある程度、有利に戦いを進めたところで、廃屋から獣人・吉江が仲間を救うべく飛び出して来ます。
 彼の攻撃手段は、素手による『猛の一撃』のみ。
 吉江の参戦後、XI戦闘員たちは呆気にとられて遠巻きに戦いを見守るようになります。以降、戦闘には参加しません。

 それでは、よろしくお願い申し上げます。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年02月22日

■メイン参加者 6人■

『静かに見つめる眼』
東雲 梛(CL2001410)
『ボーパルホワイトバニー』
飛騨・直斗(CL2001570)


 夕刻の暗がりに突然、火が灯った。
 炎の照明を浴びながら、楠瀬ことこ(CL2000498)がギターを掻き鳴らし、名乗りを上げる。
「いぇーい! みんなのあいどる、ことこちゃん参上☆」
 防弾装備に身を固めた9人の男たちが、一斉に振り向いた。全員、暗視ゴーグルの下で、驚愕に目を見開いている。
 XIの戦闘員たちである。9人で、小さな廃屋を取り囲もうとしているところだ。
 その廃屋に、標的が潜んでいる。
 XIにとっては殺処分の対象、ファイヴにとっては身柄確保の対象である、1人の青年が。
 憤怒者9名に向かって、『黒い太陽』切裂ジャック(CL2001403)は言い放った。
「退け……そっから先に行くのは、許さんで」
 前髪に隠れていた右目が開き、黄金色の眼光を発する。
 憤怒者たちが一斉に、電磁警棒を構えた。
「貴様ら……ファイヴの覚者どもか!」
「XIの人たちと、やり合いに来たんじゃないよ」
 言いつつ東雲梛(CL2001410)が、炎の照明の発生源である竜系の守護使役を片手で抱いている。
「その小屋に隠れてる人……あんたら、要らないんだろ? 俺らが引き取るからさ」
 梛の額で、第3の目が開いてゆく。
「……あんたたち、帰っていいよ」
「歩いて帰れるうちに帰っちまえ、な?」
 兎の耳をピンと立てて揺らしながら『ボーパルホワイトバニー』飛騨直斗(CL2001570)が脅しにかかる。
「それともXIのアジトによぉ、貴様らの首だけ送り返してやろうか? なあ、なあ、なあ」
「飛騨さん、落ち着いて下さい」
 勒一二三(CL2001559)が進み出て、憤怒者たちと向かい合った。
「貴方がたも、ですよ。それだけの人数で、1人の仲間に暴力を振るおうなどと」
「前からね、思ってたんです」
 左手の甲に第3の目を開きながら『ほむほむ』阿久津ほのか(CL2001276)が言う。
「憤怒者の人たちって……憤怒する相手、ちょっと間違えてませんか?」
「何をぬかす、化け物の群れが!」
 XIの戦闘員たちが激昂し、電磁警棒を振り立てる。
「貴様らも吉江も、まとめて始末してくれる! 人になりすました怪物どもが!」
「吉江の方は、すでに化けの皮が剥がれた。あとは殺すだけだ」
「その前に貴様らを!」
 殴りかかって来ようとする彼らの動きが、止まった。止められていた。
 霧が発生し、憤怒者9名を包み込んでいる。
「ぐっ、何だこの霧は……み、身動きが……」
「纏霧です」
 右手を軽く掲げながら、一二三が言う。その掌に、第3の目が開いている。
「言っておきますが、ここにいる覚者6人の中では僕が最も非力です。僕に動きを止められているようでは、この人たちに勝つ事など夢のまた夢」
 言葉と共に一二三が、ふわりと舞う。
 その動きが、清かな空気を醸し出す。
「……それでも戦うとおっしゃるなら、お相手しましょう」
「あ、演舞・清風ですね。いい感じにリラックス出来ます」
 ほのかが気持ち良さげにしている。
 ことこが、何やら対抗心を燃やし始める。
「むむっ、アイドル顔負けのダンスパフォーマンス……負けてらんないっ」
 翼を広げ、ギターを鳴らしながら、ことこが身を翻した。
 何枚もの木の葉が、少女の小柄な細身を取り巻いて舞う。覚者の身を守る、木葉舞である。
 そこへ、梛が言葉を投げた。
「楠瀬さー、もっと便利なダンス技ないの? 敵みんなまとめて踊らせて倒しちゃうヤツとか」
「変なレトロゲームと一緒にしないでよねっ。そりゃまあ、あのゲームの主人公は……ことこにとって、神様みたいな人だけどぉ……」
 キラキラと涙を散らせながら、ことこは天に祈った。
「あの人はもう、天国へコンサート開きに行っちゃったの……ところで一二三ちゃん、一緒に何かユニット組まない?」
「え……ゆ、ユニットとは」
「俺らと一緒に、くそったれどもをブチのめそうぜって事ですよ一二三さん!」
 直斗が踏み込んだ。濃霧に押し包まれ、あがいている、憤怒者9名に向かってだ。
「邪魔だ有象無象! 首、狩られたくなけりゃそこを退けッ!」
 踏み込みと同時の抜刀。『妖刀ノ楔』が、9人のうち先頭の何名かを薙ぎ払う。
 薙ぎ払われた者たちが、防刃装備の上から痛撃と呪いを叩き込まれて痙攣し、硬直してしまう。
 そこへ梛が、面倒臭そうに攻撃を仕掛ける。
「ほい、仇華浸香っと」
 凶花の香りが、XI戦闘員たちを包み込み、蝕んだ。
「あー……戦うのってホント、めんどい」
「そんな事言ってると、また中さんに怒られちゃいますよ?」
 言葉と共に、ほのかが全身から気合を迸らせる。無頼漢。
 憤怒者の何名かが、その一撃で吹っ飛ばされた。
 梛が、感心するように口笛を吹く。
「妖なんかと戦うのは別にいいけど、憤怒者って連中マジめんどいじゃん? だから、ほのかさんに全部お任せ」
「駄目ですよ。ほら敵まだ来ますから」
 まだ動ける憤怒者たちが、霧を振り払うように電磁警棒を振りかざし、突進して来る。
「何だかなぁ」
 ことこが羽ばたき、ふわりと低空を舞いながらギターを鳴らす。
「確かに、めんどいよねぇ憤怒者って。ちょっと他の人と違うだけで敵だ味方だって」
 羽ばたきと共にエアブリットが放たれ、XI戦闘員の1人を直撃した。
 のけぞり、倒れかけたその1人に狙いを定め、ジャックは伊邪波を放った。
「俺は、お前らを恨まない。恨めんよ。お前らかて、重たい理由抱えて俺らと戦っとるわけやしな」
 左右の何名かもろとも、その戦闘員は荒波に打たれて倒れた。
 一二三が、ぽつりと言う。
「恨みのない相手と、戦わなければならない……そんな戦いの方が、多いのかも知れませんね」
「ぶち殺す! って思える敵ばっかなら、ええな」
 ジャックは微笑み、この場にいない相手に語りかけた。
(本気でぶつかって来る奴らとは、戦わなあかん……ばっちゃ、堪忍やで)



「痛い思いしたくないなら、適当に逃げてよねっ」
 天使の如く羽ばたきながら、ことこがエアブリットを連射している。
「ねぇねぇ。ことこちゃん、翼生えて飛べるんだけどさぁ。わたしもばけもの? こんなに可愛いのに」
 XI戦闘員たちが、ことごとく直撃を喰らい、吹っ飛んで倒れる。
「ほんのちょっと姿かたちが変わってるだけだよね。意思疎通もちゃんと出来る。無闇に人襲ったりしないし、悪い事もしないよ? なのに、ばけもの?」
(人襲ったり、悪い事したり……する奴がいるんだよ、ことこさん)
 倒れ、だが弱々しくも起き上がって来る憤怒者たちに『香仇花』を嗅がせながら、直斗は思い出す。いや、わざわざ思い出す必要はない。
 あの男の事は生涯、忘れる事はないだろう。
「化け物ねぇ……大いに結構! 貴様らから見れば俺らの力、化け物に違いねえさ。許せねえだろ? 化け物は」
 香仇花の香気に侵され、苦悶しているXI戦闘員の1人に、直斗は妖刀を突きつけた。
「許せねえなら、もっと真剣に戦えって……じゃねえと首、狩るよ?」
「ひ……っ……」
 戦闘員が怯えている。
 まるで、あの時の自分のように。
 直斗のそんな思いが、突然の咆哮によって粉砕された。
 虎の咆哮、であった。
 廃屋の扉が、壁の一部もろとも砕け散る。
「よォ、同類……」
 語りかけながら、直斗は吹っ飛んだ。
 充分に用心はしていたが、かわす事は出来なかった。
「飛騨さん!」
 駆け寄って来た一二三に抱き起こされながら、直斗は血を吐いた。そして見た。
 虎か、人間か、判然としないものが、そこに立っている。
 毛むくじゃらの巨体は、傷だらけだった。
 その傷を負わせたのは、ここにいるXI戦闘員9名であろう。
 今や覚者6人によって蹂躙されるままの彼らを、背後に庇う格好で、傷だらけの巨体は立っている。
「あ、助けるんだ。自分を殺しに来た連中なのに」
 梛が感心した。
「うん。なら俺、あんたを助けるかな。吉江博文さん、だよね?」
「……助ける……だと……」
 辛うじて聞き取れる声を、吉江は発した。
「お前らバケモノが……同じバケモノに成り下がった、僕を……同病相憐れむ意識で、助けるか……御免だ。僕は、お前らを殺す……お前らも、僕を殺せ……」
「落ち着け、博文。馴れ馴れしいけどな、あえて下の名前で呼ばせてもらう」
 ジャックが言った。
「悪いけど助けるぞ博文。お前の、助けての声、ちゃんと聞こえたからな」
「僕は……命を惜しんだ……殺されるべきだったのに……」
「命は惜しんで当たり前!」
 ことこが叫んだ。
「だから、ゆっくり落ち着こ? ことこちゃんはアナタの敵じゃないよ。こわくない……アナタと、一緒だよ」
「そう……僕は、お前らと同じバケモノだ! あいつと……同じなんだ……ッッ!」
「違うだろ!」
 血を吐きながら、直斗は叫んだ。
「殺されかかったくせに、かつての仲間を守ろうとする! 化け物であろうがなかろうが、それが貴様って男だ吉江博文!」
「その名を呼ぶな! 人間の、名前で……僕を、呼ぶな……ッ!」
「いや呼ばせてもらう。貴様は吉江博文! ちなみに俺は飛騨直斗だ」
 血まみれの口元を、直斗はニヤリと歪めて見せた。
「なあ兄弟、覚醒した気分はどうだ? 聞くまでもなく最悪か。それは結構! 堕ちるとこまで堕ちたんだ、後は這い上がるだけだろうがよ」
「這い上がって……どこへ、行けと言うんだッ!」
 吉江が叫び、猛然と襲いかかって来る。
 その眼前に、ほのかがフワリと滑り込んだ。
「博文さん……傷だらけじゃないですか」
 言葉と共に、気合が迸る。無頼。それが吉江の突進を押しとどめた。
「傷ついたのは、身体だけじゃないですよね……」
「黙れッ……僕を……哀れむなぁーっ!」
 縞模様の獣毛をまとう剛腕が、ほのかを直撃した。凹凸のくっきりとした少女の肢体がへし曲がり、鮮血が散る。
「ほのかさん!」
「大丈夫……ッ!」
 直斗の叫びに応えながら、ほのかは倒れず踏みとどまり、血まみれの唇で微笑んだ。
「すごい一撃です、博文さん……貴方、いい覚者になれますよ」
「そうだ博文。生きろ、覚者として!」
 ジャックが、叫びながら右目を輝かせる。
「いいか博文。お前の恨みも悲しみも後で全部、受け止めるから今は……とりあえず、倒れてもらうで。俺の想い、力に乗せてブチ込んだる!」
 破眼光が迸り、吉江を直撃した。
 虎になりかけた巨体が、吹っ飛んで地面に激突し、だが即座に起き上がる。
「化け物ども……化け物、どもがぁ……そもそも、お前らさえ居なければあああああッ!」
「そうだなあ。確かに、覚者なんて生き物が最初っからこの世にいなけりゃね」
 呑気な声を発しながら梛が、右手の親指で何かを弾き飛ばす。
 植物の種、であった。
 銃弾の如く飛んだそれが、吉江の肉体に撃ち込まれ、芽吹く。
 発芽そして急成長した荊が、吉江の巨大な全身をズタズタに穿ちながら縛り上げる。棘散舞である。
「けど覚者だって皆、なりたくてなったわけじゃないんだよ。今あんたも身体で実感してると思うけど、なりたくない奴に限って発現したり覚醒したりしちゃうんだよね。俺もそうだし……俺だって、覚者になんかならなけりゃ、あんな事もなかった」
 語りつつ梛が、軽く頭を掻く。
「ま、要するにさ……良い覚者も悪い覚者もいる、って事でしかないわけよ。あんたの家族の仇も、ただの悪い方の1人でさ。で、吉江さん個人はどうかって言うと」
「僕は……あの男と、同じ……」
「それが違うんだよ。今、この子が言ってたろ?」
 言いながら梛が、直斗の頭を撫で、兎の耳を弄る。
「覚醒しちゃったせいで、あんたの根幹は崩れそうだと思うけど。こうなっちゃったらさ、ぶちあげた話『良い覚者』ってのを目指すしかないと思うんだよね。俺たちと一緒に」
「あの、梛さん……俺の頭、撫でねえでくれませんか」
「いいじゃん。ウサギ可愛いよー」
「……おい見たか吉江。貴様、俺より恵まれてんだぞ? 俺は兎で貴様は虎だ。なあ交換しようぜ」
「ふざけるなぁああああああ!」
 荊に引き裂かれ、だが荊を引きちぎりながら、吉江が襲いかかって来る。
 その時には直斗は、梛の手から逃げるように踏み込んでいた。
「猛の一撃を乱用するなよ。後でキツい……筋肉痛じゃ済まねえぞ」
 忠告と共に、妖刀ノ楔を叩き込む。
 吉江の巨体が、呪いで硬直・痙攣する。そこへ、
「ごめんね。1度……痛い思い、させちゃうけどっ」
 ことこが、エアブリットを撃ち込んだ。
 ほぼ同時に、ほのかが鉄甲掌を直撃させる。
「がんばです博文さん。ファイヴの戦闘訓練、こんな感じですからっ」
 虎か人間か判然としない異形が、少女2人による痛撃を左右から受けて歪み、揺らぎ、血飛沫をまいた。
 そこへ、直斗は狙いを定めた。
「猛の一撃はな、こんなふうに……ここぞって時になあ!」
 獣の力を宿した妖刀を、吉江に叩きつける。
 虎になりかけた巨体が、へし曲がりながら倒れ、だがすぐに起き上がり直斗を襲う。
「ばけもの……どもがぁ……ぁあああああ!」
「こいつ! まだ動けるってのか……」
 直斗が息を飲んだ、その時。
 一瞬の光が、吉江を貫いた。
 ジャックの破眼光だった。
「そう化け物だ。お前も、俺たちも」
 倒れゆく吉江に向かって、ジャックが言い放つ。
「化け物の力がなあ、今の日本で……沢山、不幸を作っている。でもな、使う奴がきちんと使えば」
「化け物が……人間の言葉を、話すな……ッ!」
 もはや立ち上がれないまま、吉江が呻き、叫ぶ。
「化け物が人間の世界にいるな! お前らにも僕にも、人間と一緒に生きる資格なんてないんだよ! 早く殺せええっ!」
「いいぞ、喚け。溜まりまくった罵詈雑言、全部受け止めたる」
 ジャックは言った。
「お前の何もかも、受け止めて……希望に、変えてみせる」
「やめて下さい!」
 突然、一二三が叫んだ。ジャックに対して、ではない。
 XI戦闘員の何人かが、もはや動けぬ吉江に電磁警棒を打ち込もうとしている。
 彼らの眼前に立ちはだかって一二三は両腕を広げ、吉江を背後に庇った。
「吉江さんが一体、誰を守って戦ったのか! 本当はわかっているんでしょう!?」
「どけ……覚者……」
 憤怒者たちにも、無傷の者はいない。辛うじて動ける1人が、一二三に警棒を突きつける。
「我々は、吉江博文を……殺さなければ、ならん」
「ばけもの、だから?」
 ことこが問いかける。
「ばけものと人間、どう違うの? アナタたちの言う人間って、なぁに?」
「お前たちの力は、化け物の力だ!」
 倒れている憤怒者の1人が、叫んだ。
「お前たちは我々を、思うさま蹂躙出来る! 違うか!」
「……違わねえ、な」
 直斗は思う。まさしく蹂躙されたのだ。自分も、両親も、姉も。
 一二三は反論せず、倒れたままの憤怒者に肩を貸した。
「……何の真似だ……」
「……吉江さんは、僕たちと一緒に一からやり直します。化け物にはなりませんから、殺す必要ありませんよ」
 助け起こしたXI戦闘員を、比較的軽傷の1人に預けながら、一二三は言った。
「彼がとても優しい人なんだという事は、証明するまでもないでしょう。貴方たちは守ってもらったのですからね……因子が発現しようがしまいが、吉江さんは貴方たちの仲間です。何も変わりません。変わらないんですよ」
「……吉江、貴様の粛清はXIの、組織としての決定だ」
 互いに肩を貸し合いながら、憤怒者9名は弱々しく歩み去って行く。言葉を残してだ。
「我々は貴様を見つけ次第、始末しなければならん。見つけ次第だ……見つからんよう、ひっそりと隠れて生きろ」
「おい待てよ。傷、治してやるから」
 癒しの霧を放とうとするジャックに、去り行く憤怒者の1人が怒声を返す。
「貴様たちから何かを受け取る事は出来ん!」
「アレだよ、ジャックさん。警察がさ、ヤクザとかから物もらっちゃいけないのと同じ」
 梛が言う。ジャックが肩をすくめる。
「ヤッちゃん扱いかよ、俺ら……ま、それはともかく博文よ。お前これからどうする? このまんま化け物で終わるか? 俺は嫌だな。お前には、人として生きて欲しい」
 吉江は何も言わず、ただジャックを睨む。
 癒しの霧が、覚者6名を包み込んだ。ジャックではなく、一二三が放ったものだ。
 直斗と同じく特に負傷の重かったほのかが、回復と共にスマートフォンを掲げ、声を上げる。
「連絡つきました。治療スタッフの人たちが、もうすぐ来てくれまーす」
「というわけだよ吉江さん。あんたには、これからファイヴの治療を受けてもらう。痛いよー」
 守護使役の頭を撫でながら、梛が言う。
「……今はさ、俺たちと一緒に来てよ。その後の事は、のんびり考えればいいさ」
「……僕を殺しておかないと……いつか、お前たちに牙を剥くぞ……」
「まずは俺を殺しに来い」
 ジャックが微笑みかけた。
「いつでもええ……待っとるで?」
 吉江は、何も言わなくなった。
 ほのかが、憤怒者たちの去った方向を、じっと見つめている。
「あの人たち1人1人は、きっと吉江さんを本当は助けたかったんでしょうね。そういう人たちを、集団リンチみたいな行動に走らせる……XIって、妖よりも恐いです」
「恐がってるのは、あの人たちの方だと思う」
 ことこが、ギターを爪弾いた。
「覚者なんて得体の知れないもの、恐いに決まってるもん。恐れも、不安も、不満もあるに決まってるもん。そういうの全部、ことこちゃんはいつか……歌で、昇華出来たらいいな。天国でコンサート開いてる、あの人の背中も足元もまだ見えないけど」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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