朝起きてから玄関を出るまでのお話
●朝起きてから玄関を出るまでのお話
目覚まし時計のベルが鳴る。
壁掛け時計のハトが飛び出し、スマートホンから海○社長の名台詞が鳴り響きテレビがついてニュースが始まりついでにボクサーグローブが天井から降ってきた――ところで、やっとコイツは目を覚ました。
「はびゃん!?」
とかいう声を出し、ベッドから転げ落ちたのは誰あろうユアワ・ナビ子(nCL2000122)である。
ナビ子の朝はスマホのアラームを止め目覚まし時計を止めハトに敬礼しニュースをぼーっと眺めながらボクサーグローブを天井までリールで引き上げるところから始まるのだ。
「いやー変な夢みたなあ。みんな全裸のおっさんになってハッピーなシンセサイザー的な歌にあわせて踊り出すんだもんなあ。ハッハー、ないない」
とか言いながら夢の内容を日記につける。カードデュエルで負けたら一枚ずつ脱いでいき相手が言い声で『マインド脱衣!』とか言い始める夢とか、首から上がマグロの男がシリアスな空気を出す奴全員殺す夢とか、そういう荒唐無稽な夢ばかりが記されていた。
日記をつけ終えたら今日の占いをカウントダウンしていくさまにあわせてトースターのスイッチオン。
今日の朝ご飯は六枚切り食パンのを半分にしたやつである。
夕ご飯はその残り半分である。
今月の給料を全てガチャにつぎ込んだ結果である。おかげでたっくさんスパルタカスが採れたよ。
パンと白湯をうまうましているとそろそろ時間だ。
テキトーな服装に着替えて部屋を飛び出すナビ子。
「ひゅー、今日もファイヴの優秀な夢見ライフの始まりだぜぃ。まずは倉庫に隠れて昼寝しよーっと!」
今日もまた、仕事をサボる気満々の一日が始まろうとしていた。
これはアイワ ナビ子の朝を描いたワンシーン。
けれど皆こんな風じゃあありませんよね。
あなたはどんなベッドで目を覚ましますか?
お部屋はどんな風ですか?
朝食はとるタイプでしょうか。パン派? ご飯派? それともシリアル?
今回は、あなたの朝の風景をちょっぴり覗いてみましょう。
朝起きてから、玄関を出るまでを。
目覚まし時計のベルが鳴る。
壁掛け時計のハトが飛び出し、スマートホンから海○社長の名台詞が鳴り響きテレビがついてニュースが始まりついでにボクサーグローブが天井から降ってきた――ところで、やっとコイツは目を覚ました。
「はびゃん!?」
とかいう声を出し、ベッドから転げ落ちたのは誰あろうユアワ・ナビ子(nCL2000122)である。
ナビ子の朝はスマホのアラームを止め目覚まし時計を止めハトに敬礼しニュースをぼーっと眺めながらボクサーグローブを天井までリールで引き上げるところから始まるのだ。
「いやー変な夢みたなあ。みんな全裸のおっさんになってハッピーなシンセサイザー的な歌にあわせて踊り出すんだもんなあ。ハッハー、ないない」
とか言いながら夢の内容を日記につける。カードデュエルで負けたら一枚ずつ脱いでいき相手が言い声で『マインド脱衣!』とか言い始める夢とか、首から上がマグロの男がシリアスな空気を出す奴全員殺す夢とか、そういう荒唐無稽な夢ばかりが記されていた。
日記をつけ終えたら今日の占いをカウントダウンしていくさまにあわせてトースターのスイッチオン。
今日の朝ご飯は六枚切り食パンのを半分にしたやつである。
夕ご飯はその残り半分である。
今月の給料を全てガチャにつぎ込んだ結果である。おかげでたっくさんスパルタカスが採れたよ。
パンと白湯をうまうましているとそろそろ時間だ。
テキトーな服装に着替えて部屋を飛び出すナビ子。
「ひゅー、今日もファイヴの優秀な夢見ライフの始まりだぜぃ。まずは倉庫に隠れて昼寝しよーっと!」
今日もまた、仕事をサボる気満々の一日が始まろうとしていた。
これはアイワ ナビ子の朝を描いたワンシーン。
けれど皆こんな風じゃあありませんよね。
あなたはどんなベッドで目を覚ましますか?
お部屋はどんな風ですか?
朝食はとるタイプでしょうか。パン派? ご飯派? それともシリアル?
今回は、あなたの朝の風景をちょっぴり覗いてみましょう。
朝起きてから、玄関を出るまでを。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.朝起きてから玄関を出るまでを過ごす
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
キャラクターを掘り下げる際に、これを想像しておくとより深くキャラクターに接することができるというものですね。
今回は実際に、皆さんのPCが朝起きてから玄関を出るまでの日常風景を描き出してみましょう。
そう。これは妖も出なければバトルもしないし考察もなければキャラクター同士が絡むことすらないような、日常キリトリ型シナリオです。
●ガイドライン
プレイングに困ったら、こちらのガイドラインで頭をほぐしてみましょう。
彼または彼女はどこで暮らしていますか?
寮暮らしや一軒家暮らし、その日暮らしでふらふら生きてる人もいるかもしれませんね。寮にしても、木造の古いアパートでしょうか、それともロビーをシェアする近代的なハウス? セキュリティの行き届いたワンルームマンションかもしれません。かけるお金によってピンキリですものね。
お部屋はどんな装飾がそろっているのでしょうか。
アニメのポスターが並んでいたりしますか? 可愛いお人形が飾られていたり? それとも簡素なコンクリート壁が取り囲んでいるのでしょうか。
多くの人はベッドで眠ると思いますけれど、それも和室に敷くお布団だったりフローリングの上に置かれたベッドだったりと様々ですよね。どんな枕がお好みですか? お布団の柄に拘りは? 寝相が悪いとお布団をどっかにやってしまうなんてことも、あるかもしれませんよね。
朝起きたら朝食というのはよく聞きますが、時間がギリギリだと慌てて飛び出すこともあるでしょう。
そもそもあなたは学生なのか、社会人なのか、それともナビ子のような社会不適合者なのか。それによって色々変わってきますよね。
ご飯の好みも分かれると思います。ガッツリ食べたい人や、むしろ食べたくない人もいるでしょう。
さて、頭も動いてきたところで制服やなにかに着替えて出かけましょう!
あ、相談掲示板ではお勧めの安眠方法とか語っていてください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年02月21日
2017年02月21日
■メイン参加者 6人■

●『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)の朝
鶏の声で起きる時代はとうの昔に過ぎさり、目覚まし時計ですら今の子供はピンと来ないというが、齢11の飛馬少年にとって鶏で起床する感覚はさほど珍しくなかった。
世で鶏がなくかなかぬかという時刻。布団をはいで畳を歩き、障子戸を開いて外をのぞく。
日も上がらぬ薄闇の中で『撥』の規則正しい発生と、東の空からうっすらのぼる光と、そして刀術の型をひたすらに反復する老人の姿。
飛馬にとっての目覚まし時計が、この三つであった。
「じーちゃん、おはよ」
獅子王家の目覚まし時計に止め方はない。
道着に着替えて庭に立ち、刀を持って同じ型の練習をする。飛馬にとって目覚ましとは目を覚まされるものではなく、混ざって目を覚まさせて貰うものだった。
小学校が休みになると喜ぶ年ごろに珍しい話だが、鍛錬をサボると腕が鈍ると言われるし、『やんごとなき事情』をもつ飛馬にとっては死活問題である。
一通り終えると、二言三言の会話が挟まるようになる。なにぶんジェネレーションギャップの激しい二人である。今日の天気や朝食のメニューくらいしか話すことはないのだが、最近は飛馬が戦った相手の話をすることもあった。
武力が活用できない時代に育った祖父にとって、飛馬はどこか恵まれた子供に見えたのやもしれない。聞き方に、どこか羨望の光があった。
羨望と言えば、父は反復練習や本からの学習をすることがとんとないようだ。
あくびを噛みながら起きてくる父が道場で寝転んでいるというのが、飛馬にとって当たり前の光景である。
父は祖父と並ぶかそれ以上に剣の腕がたち、幼い頃はずっと練習を重ねれば同じようになるだろうと思っていたものだが、11年も生きると分かってくるものだ。
生まれついての才能というものが、努力を超越してしまうという世のことわりに。
一般のご家庭が掛け布団をはぐかどうかで必死に悩んでいる時にこんなセットをこなすのだから、朝食をとる頃には道着があせでぐっしょりしている。朝風呂を浴びてさっぱりし、タオルをぺいっと腰にひっかける。
別にひっかける必要はないのだが、祖父や父がこれをやるのをマネて、一人前になったつもりの彼である。
ここからは割とよくあるご家庭の一幕だった。
朝食のメニューに文句をつける父と冷ややかに怒る母。それを横目に牛乳をがぶ飲みする飛馬。
一日分のお弁当を鞄に入れ仏壇の祖母に挨拶をしら、飛馬は家を出るのだ。
まるで当たり前の、けれど家族の全てがいて初めて成り立つ、彼の一日の始まりである。
●斎 義弘(CL2001487)の朝
サラリーマンは朝が早い。タイマーでついたテレビから流れるニュースキャスターの声にむっくりと身体を起こすのだ。
斎 義弘。25歳。本来なら仕事が板に付いてきたサラリーマンとして今日やら明日やらの業務予定をぼんやり考えながらトーストでも囓る時間だが……。
「そうか、今日はやることないんだったな……」
布団から下りた瞬間に、そんなことを思う。
自分の足がある日突然金属スパイクのなんかになっていた日から、彼は早起きの必要がなくなったのだ。
頭から獣耳が生えたり指がマイナスドライバーになったりするこのご時世でも、ワンルームマンションはよくある構造のままである。国民の1パーセント以下にあわせることをバリアフリーと呼ぶのなら、なかなか不親切な物件なのやもしれぬ。
第一、フローリングの床を傷付けないように分厚いスリッパを常用せねばならぬのだ。
生活に困らないくらいお金が稼げている義弘といえど、引っ越しの際に金を取られる不安からは逃れたい。
ジャージ姿のままぐいぐいと身体をほぐしていく。座った姿勢でのラジオ体操めいた動きだ。アンドロイドみたいな足がどうやってほぐれているのか自分でもさっぱり分からないが、とりあえずアキレス腱運動くらいはしてみる。いざというときに固まっては困るのだ。
「さて、今日はなにをするかな……」
コーヒーなんか飲みつつ考える。よくいくカフェにでも顔を出してみるか。それとも一日家で過ごしてみるか。
「とりあえず、ファイヴに行って依頼でも探す、か」
元サラリーマン、義弘の朝は早い。
●『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)の朝
奈南にはナイショのおまじないがある。
「んー……」
目覚ましのアラームが鳴る。
キャラクターのプリントされた布団がもごもごと動いて、あじさいの花めいた頭がのぞく。
冷たい空気。
電灯から吊るされたマスコット人形。
窓際に飾ったクリスタルが光を反射して部屋に小さなプリズムを散らしている。
さあ朝の始まりだ。
……と見せかけて、奈南はもう一度布団に入った。
ひまわりコーヒーで身体を温めてぐっすり眠る健康的な奈南ではあるが、朝早くから飛び起きるのはむずかしい。
やがてアラームが再び鳴り始め、そろそろ目を覚まさねばと布団の中で伸びをした。
下手に身体をねじると足をつるので、手足を振る運動からである。
こう、両手両足を上に上げて起きるのやだやだーってダダをこねるみたく振るのだ。そのあとやーだーみたく腰を左右に捻ってついでに背伸びや首回しもしてやれば朝のナナン体操は終了だ。
朝の支度が待っている。
世の子供たちがどうかは知らないが、奈南は朝シャン派である。
熱いシャワーを浴びて身体をぽかぽかにしていけば、家から出ても身体が冷えることはない。
できればずーっと浴びていたいくらいなのだが、時間は奈南の都合で止まってはくれない。
六時と五時の間が三時間くらいあればいいのに、とか思う奈南である。
偉大なるは母である。
ドライヤーで髪をわしゃわしゃし終えた頃には、既に奈南のための白ご飯とお味噌汁がテーブルに置かれている。
焼き魚が遅れてやってきて、ほうれん草やらお漬け物やら生卵やらが雑多に並ぶお皿から適当にとりつつ、白ご飯をぱくぱくやっていく。
特に今日は、卵かけご飯の気分。
見れば、テーブルの向かいでお父さんも似たような食べ方をしていた。
支度を終えて、お父さんと一緒に玄関を出る。
一度右のつま先をとんとんとやる奈南に、お父さんが不思議そうに尋ねた。
なぜ毎日右足だけを?
奈南は指を立てて、自分の唇に当てた。
「ナイショだよぉ」
●『介錯人』鳴神 零(CL2000669)
『女の子の部屋はもっと可愛いものだと思う』
そんな言葉を聞いたのはいつのことだったか。それとも自分の思い込みだったか。
去年に越してきたばかりのマンションは、段ボールと無印感のある家具で整ったシンプルな空間である。
ろくに模様もない布団から顔を出し、零はベッドサイドをまさぐった。
スマートホンと仮面。
女の子がベッドサイドに置くものではないが、零はスマートホンの方をとった。
時間は午前の九時前後。
「早起きしなきゃいけない日でも、ないか……」
同棲している子供は既に起きて南の島だかへ行ったらしい。それなら起こしていけばよかろうものを……と思ってベッドから起き上がり、起こさない理由を察した。
「あの野郎、私の刀持って行きやがった」
インスタントコーヒーをすすりつつ、南の島を妄想する。
あー、いいなあ。あそこはきっと冬でもぽかぽかしてんだろうなあ。
水着とか着ちゃうのかなあ。
水着。
水着。
うーん。
なんだか最近、肌やら顔やらをさらすのに抵抗がなくなってきている自分がいる。
いくらファイヴが奇人変人のサファリパークだからって、感覚が麻痺しているのだろうか。
それとも見せたい相手でもできただろうか……という所まで考えて思考を止めた。
電子レンジが呼んでいる。
同居人が作り置きしていったハムエッグを電子レンジから取り出して、テレビを見ながらぼんやりと過ごす。
テレビは毎日のように覚者や妖のニュースを流す。自分の関わった事件が報道されることも珍しくない。
なんだか電波放送も復活したようで、衛星放送同様にお飾りになっていたチューナーが元気に動いている。ケーブルテレビよりずっとチャンネル数が多いので良いのだが……しかし。
「ひとりごはんはさみしいなあ……」
さてと。
依頼でも探しにファイヴへ行こう。
「キッド、行こうか」
ぼわんと姿を現わした守護使役を連れ、玄関へと立った。
ふと振り返る。
特に何も無い部屋。
飾り気の無い玄関の、コーヒーの香りがする空気。
『女の子の部屋はもっと可愛いものだと思う』
……思い出した。あれは、同居人の台詞だった。
●『田中と書いてシャイニングと読む』ゆかり・シャイニング(CL2001288)の朝
シャイニング職人の朝は早い。
「笑いの神様、おっはようございまーっす!」
ぱちんと手を合わせ、宙に浮くひとだまを拝む少女こそゆかりシャイニング。シャイニング一族の末裔である。シャイニング一族ってなんだよ田中一族だよ。
同じくシャイニングの血をひきし者こといとこのにーちゃんが『めがねめがね』とか言いながら起きてくる筈なので、豆腐の味噌汁とかご飯とかベーコンエッグとか作らねばならぬのだ。
「おや、どうも……おはようございます」
涼しい顔して起きてきたいとこのにーちゃんがインスタントコーヒーをすすりはじめる。お砂糖めっちゃ入れて飲むが、そのままご飯や味噌汁にシフトできる精神がちょっとわからないゆかりである。あとめがねめがねって言え。
テーブルについていただきますをする。
「おや、いいですね。主食と汁物とタンパク質、そして野菜がそろうと栄養バランスがとれるそうです」
涼しい顔で言っているが、このにーちゃんは朝をチョコクッキーとコーヒーで済ませるイギリス人みたいなやつだ。あとめがねめがねって言え。
「お兄ちゃん、食器洗いくらいしといてくださいね! 私そろそろ学校行きますか……」
立ち上がって、なんだかくらっとした。
「どうしました」
「立ちくらみが……」
「風邪でも? いえ、疲れているんでしょう。学校、休みますか?」
既にスマートホンを取り出しているにーちゃんに、手を振って対応した。
「学校は行きます!」
むん、といって立ち上がる。元気が取り柄、田中家の娘である。あっシャイニング一族の末裔である。
「大丈夫ですか? 無理をしないほうがいいですよ」
なんだか、この前魂使ってカラオケオールしたことがにーちゃんの中でひっかかっているらしい。15の学生にオールは早いというのだろうか。
ナメてくれるな。15歳と言えば自宅で踊ってみた動画をあげて大炎上するくらい平気なお年頃。無茶をやっても身体がついてくるのである。
お弁当をひっつかみ、学生鞄に放り込む。
「それじゃあ、いってきます!」
「あっ」
にーちゃんが椅子に蹴躓いて、かけていた眼鏡が勢いよく飛んだ。
「おっと、めがねめがね」
「……」
さすがはシャイニングの血をひきしもの。ゆかりはビッと親指を立ててから、玄関を飛び出した。
●納屋 タヱ子(CL2000019)の朝
『遠慮するなに甘えるな』。
16歳の女子高生、納屋タヱ子の人生哲学である。
なにもない部屋で置き、具のないおにぎりを食べてから鉄板を服の下に仕込む女子高生を人々はどう思うだろうか。
少なくともタヱ子は必要性があると思ってやっていた。
自分を引き取ってくれた義理の父母に気遣いを『消費』させないために離れ家で暮らし、将来的に返済するべき金額を『蓄積』させないために家具や雑貨をろくに持たず、それでも必要なものを手に入れるべく新聞配達のバイトに出るのだ。
非常に理にかなった、きわめて誇らしい生き様である。
制御出来ないものといえば、伸びすぎた後ろ髪だろうか。
義母が亡くした実子がそのように伸ばしていたからと言うので、言われるままに伸ばしているのだが、もはや自分で手入れができなくなっている。
人間の髪というのはなぜこうも際限なく伸びるのだろうか。毛皮の一種なら生え替わればよいものを。
世の大概がそうであるように、養父たちは一緒の家で寝ていいよと言い、毎年の誕生日には欲しいものはないかと言い、そうでなくても買ってあげるよと言うのだが、甘えてはならないと思う。
言われたとおりによりかかれば、足場が崩れ転げ落ちていく未来が見えるのだ。
保護や擁護は絶対ではない。それを、タヱ子は野生の知恵として知っていた。
「おはようございます」
今日も、誰も居ない虚空に挨拶をする。
腰ベルト。肩ベルト。膝ベルト。それぞれに筒状の鉄棒を差し込んだものを装着する。
軽く衝撃を逃がしやすく尚且つ咄嗟の打撃に強いからだ。
最悪猛スピードのトラックにはねられても内蔵を守れたりするからだ。
覚者だからとタカをくくればすぐに死ぬ。そういう人間を山ほど見たタヱ子なりの自己防衛である。
しかし重量はかなりあるようで、自転車に乗るとぎしりと軋む。もっと硬い自転車が欲しい。ないしは原付か。
ともあれ。なにをするにも金がいる。奨学金制度つきの新聞配達バイトは、女子高生にはいい稼ぎなのだ。
「いってきます」
タヱ子は朝靄も見えぬ町へ、自転車をこぎ出した。
鶏の声で起きる時代はとうの昔に過ぎさり、目覚まし時計ですら今の子供はピンと来ないというが、齢11の飛馬少年にとって鶏で起床する感覚はさほど珍しくなかった。
世で鶏がなくかなかぬかという時刻。布団をはいで畳を歩き、障子戸を開いて外をのぞく。
日も上がらぬ薄闇の中で『撥』の規則正しい発生と、東の空からうっすらのぼる光と、そして刀術の型をひたすらに反復する老人の姿。
飛馬にとっての目覚まし時計が、この三つであった。
「じーちゃん、おはよ」
獅子王家の目覚まし時計に止め方はない。
道着に着替えて庭に立ち、刀を持って同じ型の練習をする。飛馬にとって目覚ましとは目を覚まされるものではなく、混ざって目を覚まさせて貰うものだった。
小学校が休みになると喜ぶ年ごろに珍しい話だが、鍛錬をサボると腕が鈍ると言われるし、『やんごとなき事情』をもつ飛馬にとっては死活問題である。
一通り終えると、二言三言の会話が挟まるようになる。なにぶんジェネレーションギャップの激しい二人である。今日の天気や朝食のメニューくらいしか話すことはないのだが、最近は飛馬が戦った相手の話をすることもあった。
武力が活用できない時代に育った祖父にとって、飛馬はどこか恵まれた子供に見えたのやもしれない。聞き方に、どこか羨望の光があった。
羨望と言えば、父は反復練習や本からの学習をすることがとんとないようだ。
あくびを噛みながら起きてくる父が道場で寝転んでいるというのが、飛馬にとって当たり前の光景である。
父は祖父と並ぶかそれ以上に剣の腕がたち、幼い頃はずっと練習を重ねれば同じようになるだろうと思っていたものだが、11年も生きると分かってくるものだ。
生まれついての才能というものが、努力を超越してしまうという世のことわりに。
一般のご家庭が掛け布団をはぐかどうかで必死に悩んでいる時にこんなセットをこなすのだから、朝食をとる頃には道着があせでぐっしょりしている。朝風呂を浴びてさっぱりし、タオルをぺいっと腰にひっかける。
別にひっかける必要はないのだが、祖父や父がこれをやるのをマネて、一人前になったつもりの彼である。
ここからは割とよくあるご家庭の一幕だった。
朝食のメニューに文句をつける父と冷ややかに怒る母。それを横目に牛乳をがぶ飲みする飛馬。
一日分のお弁当を鞄に入れ仏壇の祖母に挨拶をしら、飛馬は家を出るのだ。
まるで当たり前の、けれど家族の全てがいて初めて成り立つ、彼の一日の始まりである。
●斎 義弘(CL2001487)の朝
サラリーマンは朝が早い。タイマーでついたテレビから流れるニュースキャスターの声にむっくりと身体を起こすのだ。
斎 義弘。25歳。本来なら仕事が板に付いてきたサラリーマンとして今日やら明日やらの業務予定をぼんやり考えながらトーストでも囓る時間だが……。
「そうか、今日はやることないんだったな……」
布団から下りた瞬間に、そんなことを思う。
自分の足がある日突然金属スパイクのなんかになっていた日から、彼は早起きの必要がなくなったのだ。
頭から獣耳が生えたり指がマイナスドライバーになったりするこのご時世でも、ワンルームマンションはよくある構造のままである。国民の1パーセント以下にあわせることをバリアフリーと呼ぶのなら、なかなか不親切な物件なのやもしれぬ。
第一、フローリングの床を傷付けないように分厚いスリッパを常用せねばならぬのだ。
生活に困らないくらいお金が稼げている義弘といえど、引っ越しの際に金を取られる不安からは逃れたい。
ジャージ姿のままぐいぐいと身体をほぐしていく。座った姿勢でのラジオ体操めいた動きだ。アンドロイドみたいな足がどうやってほぐれているのか自分でもさっぱり分からないが、とりあえずアキレス腱運動くらいはしてみる。いざというときに固まっては困るのだ。
「さて、今日はなにをするかな……」
コーヒーなんか飲みつつ考える。よくいくカフェにでも顔を出してみるか。それとも一日家で過ごしてみるか。
「とりあえず、ファイヴに行って依頼でも探す、か」
元サラリーマン、義弘の朝は早い。
●『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)の朝
奈南にはナイショのおまじないがある。
「んー……」
目覚ましのアラームが鳴る。
キャラクターのプリントされた布団がもごもごと動いて、あじさいの花めいた頭がのぞく。
冷たい空気。
電灯から吊るされたマスコット人形。
窓際に飾ったクリスタルが光を反射して部屋に小さなプリズムを散らしている。
さあ朝の始まりだ。
……と見せかけて、奈南はもう一度布団に入った。
ひまわりコーヒーで身体を温めてぐっすり眠る健康的な奈南ではあるが、朝早くから飛び起きるのはむずかしい。
やがてアラームが再び鳴り始め、そろそろ目を覚まさねばと布団の中で伸びをした。
下手に身体をねじると足をつるので、手足を振る運動からである。
こう、両手両足を上に上げて起きるのやだやだーってダダをこねるみたく振るのだ。そのあとやーだーみたく腰を左右に捻ってついでに背伸びや首回しもしてやれば朝のナナン体操は終了だ。
朝の支度が待っている。
世の子供たちがどうかは知らないが、奈南は朝シャン派である。
熱いシャワーを浴びて身体をぽかぽかにしていけば、家から出ても身体が冷えることはない。
できればずーっと浴びていたいくらいなのだが、時間は奈南の都合で止まってはくれない。
六時と五時の間が三時間くらいあればいいのに、とか思う奈南である。
偉大なるは母である。
ドライヤーで髪をわしゃわしゃし終えた頃には、既に奈南のための白ご飯とお味噌汁がテーブルに置かれている。
焼き魚が遅れてやってきて、ほうれん草やらお漬け物やら生卵やらが雑多に並ぶお皿から適当にとりつつ、白ご飯をぱくぱくやっていく。
特に今日は、卵かけご飯の気分。
見れば、テーブルの向かいでお父さんも似たような食べ方をしていた。
支度を終えて、お父さんと一緒に玄関を出る。
一度右のつま先をとんとんとやる奈南に、お父さんが不思議そうに尋ねた。
なぜ毎日右足だけを?
奈南は指を立てて、自分の唇に当てた。
「ナイショだよぉ」
●『介錯人』鳴神 零(CL2000669)
『女の子の部屋はもっと可愛いものだと思う』
そんな言葉を聞いたのはいつのことだったか。それとも自分の思い込みだったか。
去年に越してきたばかりのマンションは、段ボールと無印感のある家具で整ったシンプルな空間である。
ろくに模様もない布団から顔を出し、零はベッドサイドをまさぐった。
スマートホンと仮面。
女の子がベッドサイドに置くものではないが、零はスマートホンの方をとった。
時間は午前の九時前後。
「早起きしなきゃいけない日でも、ないか……」
同棲している子供は既に起きて南の島だかへ行ったらしい。それなら起こしていけばよかろうものを……と思ってベッドから起き上がり、起こさない理由を察した。
「あの野郎、私の刀持って行きやがった」
インスタントコーヒーをすすりつつ、南の島を妄想する。
あー、いいなあ。あそこはきっと冬でもぽかぽかしてんだろうなあ。
水着とか着ちゃうのかなあ。
水着。
水着。
うーん。
なんだか最近、肌やら顔やらをさらすのに抵抗がなくなってきている自分がいる。
いくらファイヴが奇人変人のサファリパークだからって、感覚が麻痺しているのだろうか。
それとも見せたい相手でもできただろうか……という所まで考えて思考を止めた。
電子レンジが呼んでいる。
同居人が作り置きしていったハムエッグを電子レンジから取り出して、テレビを見ながらぼんやりと過ごす。
テレビは毎日のように覚者や妖のニュースを流す。自分の関わった事件が報道されることも珍しくない。
なんだか電波放送も復活したようで、衛星放送同様にお飾りになっていたチューナーが元気に動いている。ケーブルテレビよりずっとチャンネル数が多いので良いのだが……しかし。
「ひとりごはんはさみしいなあ……」
さてと。
依頼でも探しにファイヴへ行こう。
「キッド、行こうか」
ぼわんと姿を現わした守護使役を連れ、玄関へと立った。
ふと振り返る。
特に何も無い部屋。
飾り気の無い玄関の、コーヒーの香りがする空気。
『女の子の部屋はもっと可愛いものだと思う』
……思い出した。あれは、同居人の台詞だった。
●『田中と書いてシャイニングと読む』ゆかり・シャイニング(CL2001288)の朝
シャイニング職人の朝は早い。
「笑いの神様、おっはようございまーっす!」
ぱちんと手を合わせ、宙に浮くひとだまを拝む少女こそゆかりシャイニング。シャイニング一族の末裔である。シャイニング一族ってなんだよ田中一族だよ。
同じくシャイニングの血をひきし者こといとこのにーちゃんが『めがねめがね』とか言いながら起きてくる筈なので、豆腐の味噌汁とかご飯とかベーコンエッグとか作らねばならぬのだ。
「おや、どうも……おはようございます」
涼しい顔して起きてきたいとこのにーちゃんがインスタントコーヒーをすすりはじめる。お砂糖めっちゃ入れて飲むが、そのままご飯や味噌汁にシフトできる精神がちょっとわからないゆかりである。あとめがねめがねって言え。
テーブルについていただきますをする。
「おや、いいですね。主食と汁物とタンパク質、そして野菜がそろうと栄養バランスがとれるそうです」
涼しい顔で言っているが、このにーちゃんは朝をチョコクッキーとコーヒーで済ませるイギリス人みたいなやつだ。あとめがねめがねって言え。
「お兄ちゃん、食器洗いくらいしといてくださいね! 私そろそろ学校行きますか……」
立ち上がって、なんだかくらっとした。
「どうしました」
「立ちくらみが……」
「風邪でも? いえ、疲れているんでしょう。学校、休みますか?」
既にスマートホンを取り出しているにーちゃんに、手を振って対応した。
「学校は行きます!」
むん、といって立ち上がる。元気が取り柄、田中家の娘である。あっシャイニング一族の末裔である。
「大丈夫ですか? 無理をしないほうがいいですよ」
なんだか、この前魂使ってカラオケオールしたことがにーちゃんの中でひっかかっているらしい。15の学生にオールは早いというのだろうか。
ナメてくれるな。15歳と言えば自宅で踊ってみた動画をあげて大炎上するくらい平気なお年頃。無茶をやっても身体がついてくるのである。
お弁当をひっつかみ、学生鞄に放り込む。
「それじゃあ、いってきます!」
「あっ」
にーちゃんが椅子に蹴躓いて、かけていた眼鏡が勢いよく飛んだ。
「おっと、めがねめがね」
「……」
さすがはシャイニングの血をひきしもの。ゆかりはビッと親指を立ててから、玄関を飛び出した。
●納屋 タヱ子(CL2000019)の朝
『遠慮するなに甘えるな』。
16歳の女子高生、納屋タヱ子の人生哲学である。
なにもない部屋で置き、具のないおにぎりを食べてから鉄板を服の下に仕込む女子高生を人々はどう思うだろうか。
少なくともタヱ子は必要性があると思ってやっていた。
自分を引き取ってくれた義理の父母に気遣いを『消費』させないために離れ家で暮らし、将来的に返済するべき金額を『蓄積』させないために家具や雑貨をろくに持たず、それでも必要なものを手に入れるべく新聞配達のバイトに出るのだ。
非常に理にかなった、きわめて誇らしい生き様である。
制御出来ないものといえば、伸びすぎた後ろ髪だろうか。
義母が亡くした実子がそのように伸ばしていたからと言うので、言われるままに伸ばしているのだが、もはや自分で手入れができなくなっている。
人間の髪というのはなぜこうも際限なく伸びるのだろうか。毛皮の一種なら生え替わればよいものを。
世の大概がそうであるように、養父たちは一緒の家で寝ていいよと言い、毎年の誕生日には欲しいものはないかと言い、そうでなくても買ってあげるよと言うのだが、甘えてはならないと思う。
言われたとおりによりかかれば、足場が崩れ転げ落ちていく未来が見えるのだ。
保護や擁護は絶対ではない。それを、タヱ子は野生の知恵として知っていた。
「おはようございます」
今日も、誰も居ない虚空に挨拶をする。
腰ベルト。肩ベルト。膝ベルト。それぞれに筒状の鉄棒を差し込んだものを装着する。
軽く衝撃を逃がしやすく尚且つ咄嗟の打撃に強いからだ。
最悪猛スピードのトラックにはねられても内蔵を守れたりするからだ。
覚者だからとタカをくくればすぐに死ぬ。そういう人間を山ほど見たタヱ子なりの自己防衛である。
しかし重量はかなりあるようで、自転車に乗るとぎしりと軋む。もっと硬い自転車が欲しい。ないしは原付か。
ともあれ。なにをするにも金がいる。奨学金制度つきの新聞配達バイトは、女子高生にはいい稼ぎなのだ。
「いってきます」
タヱ子は朝靄も見えぬ町へ、自転車をこぎ出した。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
おはようございます。
日常というのはいいものですね。
やはり皆さんは日頃から悪いひとたちと戦っていますから、鍛錬は大事になるのでしょうか。
ごく一般的な暮らしの中に混じる戦士のような朝は、守られた日常とそれを守る人々を思わせますね。
それでは、またのお越しをお待ちしております。
日常というのはいいものですね。
やはり皆さんは日頃から悪いひとたちと戦っていますから、鍛錬は大事になるのでしょうか。
ごく一般的な暮らしの中に混じる戦士のような朝は、守られた日常とそれを守る人々を思わせますね。
それでは、またのお越しをお待ちしております。
