≪初夢語≫大江戸百鬼夜行
●一夜限りの狂宴へのご招待
「やあやあ、覚者諸君。今、僕は君らの夢の中に直接語りかけているんだ。いや、危害を与えようって訳じゃあないから、まあ安心しておくれよ」
夜、眠っている覚者たちの脳内。いや、その夢の中に不思議で不気味で胡散臭い声が響く。その声の主は古妖である獏(バク)だ。
「まずはあけましておめでとう。……ああ、いや、もしかしたらこの夢は年が明ける前に見ているかもしれないし、去年はいい年じゃあなかったかもしれないね。それでも、まずは君が生きて新年を迎えられることを喜ぼうじゃないか」
獏はぐふぐふといやらしく悪う。これを邪悪な存在だと考えない方がおかしいが、とりあえずこいつは無害らしい。一応は。
「いやね、僕の能力は現在進行形で体感してくれている通り、ただ人におかしな夢を見せるだけさ。だから戦う力なんて欠片もない。だから僕に代わって妖や、調子に乗った人間たちを懲らしめてくれている君たちには感謝しているのさ、これでもね」
そして、獏は更に笑みを深める。ぐんにゃりと口も眼も歪んで、やはり胡散臭い。
「だからこれは恩返しだよ。君たちには最高の初夢を提供してあげよう。ふふっ、僕は君らが相談している様子もそれとなく聞いていてね。どうやら君たちは戦う力を持っているが、その使用には枷が多い……気力が切れたらどうしようとか、単体攻撃だから一体しか攻撃できないとか、敵にブロックされたり、逆に敵の攻撃をブロックしたり……いやんなっちゃうよねぇ、そういう戦略的なこと考えるのって。とにかく自由に戦って、敵をぶっ飛ばしたくはならないかい?」
獏はまた笑う。
「だから、僕が見せる夢の中で君たちは力を使い放題にしてあげよう。気力切れなんて考える必要はない。だから強力な列攻撃でも貫通攻撃でも好きなように使えばいいよ。ついでに、他の仲間のことを考えなくてもいいように、味方に一切のスキルが効かないようにもしてあげよう。これで巻き込むことなんかを考えなくていいし、ついでに味方の回復に苦心することもない。自分一人のことを考えて、とにかく無双しまくる。好きだろう? 君たちはそういうのがさ。とにかくそう……俺つえーーー!!! ってね」
それは確かに魅力的なことだった。ただ、それでは仲間と相談することの意義がなさそうなのだが、その辺りはいいのだろうか。そう思っていると、明確な回答が与えられた。
「ただ、君たちが自由に戦えるんだから、それと戦う敵もそれ相応のものを用意してあげないとね? だからさ、たっぷり用意してあげたよ。妖をたっぷり100体! 物質系、自然系、心霊系に生物系、よりどりみどり勢揃いだ。まあ、気力は使い放題でも、君たちの戦闘能力の基本は変わらないからね。心霊系に物理は効きづらいし、物質系には術式が効きづらい、そういうお約束はそのままさ。ま、僕のこの言葉を信じてくれるのなら、起きたらすぐに同じ夢を見た仲間と相談してみてはどうだい? 俺は物理が得意だから物質をやっつけるから、お前は心霊を頼む、みたいにさ。でもまあ、いつもの依頼よりはずっとやりやすいでしょう?」
大方の説明を終えた後、思い出したように獏は付け加える。
「そうそう、戦いの舞台は僕の趣味で深夜の街にしてみたよ。それも、今から三百年ぐらい前、江戸時代とかって呼ばれてた頃かな。いいじゃん、今時のビル街に妖が出るよりもそれらしくてさ。もちろん、君らの衣装もそれっぽくしてあげるよ。後ね、それから――」
獏は最後に妖しく笑う。
「君たちが見るのは夢で、君たちが戦うのは夢の中。でも、夢だからって適当な戦いをして、負けていいかって言ったら、そりゃあねぇ……わかるでしょ? まあ、面白い戦いを見せてくれたらそれなりのお礼はするからさ。がんばってみてよ」
「やあやあ、覚者諸君。今、僕は君らの夢の中に直接語りかけているんだ。いや、危害を与えようって訳じゃあないから、まあ安心しておくれよ」
夜、眠っている覚者たちの脳内。いや、その夢の中に不思議で不気味で胡散臭い声が響く。その声の主は古妖である獏(バク)だ。
「まずはあけましておめでとう。……ああ、いや、もしかしたらこの夢は年が明ける前に見ているかもしれないし、去年はいい年じゃあなかったかもしれないね。それでも、まずは君が生きて新年を迎えられることを喜ぼうじゃないか」
獏はぐふぐふといやらしく悪う。これを邪悪な存在だと考えない方がおかしいが、とりあえずこいつは無害らしい。一応は。
「いやね、僕の能力は現在進行形で体感してくれている通り、ただ人におかしな夢を見せるだけさ。だから戦う力なんて欠片もない。だから僕に代わって妖や、調子に乗った人間たちを懲らしめてくれている君たちには感謝しているのさ、これでもね」
そして、獏は更に笑みを深める。ぐんにゃりと口も眼も歪んで、やはり胡散臭い。
「だからこれは恩返しだよ。君たちには最高の初夢を提供してあげよう。ふふっ、僕は君らが相談している様子もそれとなく聞いていてね。どうやら君たちは戦う力を持っているが、その使用には枷が多い……気力が切れたらどうしようとか、単体攻撃だから一体しか攻撃できないとか、敵にブロックされたり、逆に敵の攻撃をブロックしたり……いやんなっちゃうよねぇ、そういう戦略的なこと考えるのって。とにかく自由に戦って、敵をぶっ飛ばしたくはならないかい?」
獏はまた笑う。
「だから、僕が見せる夢の中で君たちは力を使い放題にしてあげよう。気力切れなんて考える必要はない。だから強力な列攻撃でも貫通攻撃でも好きなように使えばいいよ。ついでに、他の仲間のことを考えなくてもいいように、味方に一切のスキルが効かないようにもしてあげよう。これで巻き込むことなんかを考えなくていいし、ついでに味方の回復に苦心することもない。自分一人のことを考えて、とにかく無双しまくる。好きだろう? 君たちはそういうのがさ。とにかくそう……俺つえーーー!!! ってね」
それは確かに魅力的なことだった。ただ、それでは仲間と相談することの意義がなさそうなのだが、その辺りはいいのだろうか。そう思っていると、明確な回答が与えられた。
「ただ、君たちが自由に戦えるんだから、それと戦う敵もそれ相応のものを用意してあげないとね? だからさ、たっぷり用意してあげたよ。妖をたっぷり100体! 物質系、自然系、心霊系に生物系、よりどりみどり勢揃いだ。まあ、気力は使い放題でも、君たちの戦闘能力の基本は変わらないからね。心霊系に物理は効きづらいし、物質系には術式が効きづらい、そういうお約束はそのままさ。ま、僕のこの言葉を信じてくれるのなら、起きたらすぐに同じ夢を見た仲間と相談してみてはどうだい? 俺は物理が得意だから物質をやっつけるから、お前は心霊を頼む、みたいにさ。でもまあ、いつもの依頼よりはずっとやりやすいでしょう?」
大方の説明を終えた後、思い出したように獏は付け加える。
「そうそう、戦いの舞台は僕の趣味で深夜の街にしてみたよ。それも、今から三百年ぐらい前、江戸時代とかって呼ばれてた頃かな。いいじゃん、今時のビル街に妖が出るよりもそれらしくてさ。もちろん、君らの衣装もそれっぽくしてあげるよ。後ね、それから――」
獏は最後に妖しく笑う。
「君たちが見るのは夢で、君たちが戦うのは夢の中。でも、夢だからって適当な戦いをして、負けていいかって言ったら、そりゃあねぇ……わかるでしょ? まあ、面白い戦いを見せてくれたらそれなりのお礼はするからさ。がんばってみてよ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.全ての妖の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回の依頼は、夢の世界で百体の妖を討伐するというものです。
■初夢依頼について
この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性が
ありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいしょう。
またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。
※要約すると一夜限りの夢の出来事なので思いっきり楽しんじゃえ!です。
■この依頼の特殊ルール
・気力という概念がなくなり、好きなようにスキルを連発できます。
・味方を対象にしたスキルの効果がなくなります。味方に命中しても0ダメージ扱いで、追加効果も発生しません。フレーバー的にも攻撃の痛みや衝撃は感じません。(すり抜けるイメージです)
・敵は基本的にブロックや誰かを優先的に狙うという行動を取らず、とにかく攻撃してきた相手とだけ戦闘行動を行います。
・逆に味方をブロックすることもできません。なぜかといっても、夢なので仕方ありません。
つまり、俺つえー!上等、役割分担は戦う妖をどの種類にするかぐらいで、とにかく自分自身が活躍するようなプレイングをお待ちしております。
●討伐対象:百鬼夜行の鬼(ランク1。生物・物質・心霊・自然が各23体、合計で92体)
夢の中の江戸の街に現れた百体の妖の内の92体です。見た目は各系統らしい見た目の二足歩行の鬼のようで、各系統ごとにそれらしい特徴を持ちます。
・生物系:やや素早さが高く、物理攻撃に特化。耐久は低め
・物質系:やや素早さは低く、物理攻撃に特化。耐久は高めで術式は効きづらい
・心霊系:術式攻撃に特化、物理攻撃は効きづらいが、耐久は低め
・自然系:術式攻撃に特化、物理攻撃はそれなりで耐久は高め
数はものすごく多く、それなりにタフですが、つまりはただのやられ役のため、向かってくる相手以外に積極的に攻撃をしかけることはなく、とにかくいい感じにやられてくれます。割りとオーバーリアクションで。
●討伐対象:百鬼夜行の大鬼(ランク2。生物・物質・心霊・自然が各2体、合計で8体)
夢の中の江戸の街に現れた百体の妖の内の8体です。弱い方の鬼をそのまま大きくしたような見た目で、ランク2ではあるものの特に知性らしいものはなく、とにかく攻撃してきます。耐久力が高めで、一発のダメージも高めですので、この敵に限り、ある程度の協力戦闘が推奨されます。二人や三人がかりで立ち向かった方がいいでしょう。
なお、ランク1の妖を全て倒した後に出現します。それだと百鬼じゃなくて九十二鬼夜行な気もしますが、百というのはとにかくいっぱい、という意味なのでいい、そうです。
知性はありませんが、なぜかノリノリで「よくぞ我が下僕を倒してくれたな……」などと、ボスっぽいことを言って雰囲気を盛り上げてくれます。倒す時はなぜか爆発し、いい感じに強敵感を出しつつ倒れてくれます。たぶん戦闘中はボス戦の専用BGMも流れ、倒した時はボス戦の専用ファンファーレが流れて勝利を祝福してくれます。
●持ち込み品や事前準備、その他OPで出ていない情報など
これといって事前の準備は必要ありませんし、そもそも夢の中なのでできません。
戦う舞台が夜の街ではありますが、なぜか覚者がいる場所は明るいという夢補正がかかっています。町人が徘徊していたりすることもないため、ただ純粋に戦いだけに集中することができます。
また、フレーバー程度の設定であり、特に戦闘能力に補正がかかるなどはありませんが、夢の中では和服を着ることになるようです。ある程度、どういった衣装で戦いたいかを事前に決めておけば、獏がその希望を汲み取ってくれるかもしれません。和服といっても、一般的な着物だけではなく、鎧兜や巫女装束など、とりあえず和っぽい服装ならなんでもありでしょう。覚者自身の背格好や性別は変わりませんが、衣装は和ものであれば自由に設定できます。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
8日
8日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年01月16日
2017年01月16日
■メイン参加者 6人■

●茄子っぽい色の獏は茄子に含まれますか?
「まさか夢の中にこういう形でコンタクトを取ってくるとはねえ。まあ、縁起がいい……のかな?」
『行く先知らず』酒々井・千歳(CL2000407)は、奇妙な夢に巻き込まれていることに対し、そこまで動揺することもなく、周囲の状況を確認する。江戸の町並みなど、復元図でしか見たことないので、果たしてこれが正しいものなのかはわからないが、とりあえずかなり雰囲気は出ている。そこに立つ千歳も和装であり、中々様になっていた。
「わー、にーさま! にーさまと一緒の初夢なんて、最高!!」
「数多。まあ、家族だからね。向こうとしてもひとまとめにした方が面白いと思ったのかもしれない」
『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は兄を見つけると、ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。彼女もこの江戸の町並みによく合った新撰組の羽織を身にまとっている。果たして今が幕末なのかはわからないが、殺陣を演じる衣装としては最適だろう。
「どうやら、意図して親しい者が集められているようですね」
『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)は普段の覚醒時の装い。すなわち巫女装束で夢の中の江戸に立っている。その姿を認め、数多がバツの悪そうな顔を見せたのは内緒だ。
「そうそう、思えばみんな友達だわ。まっ、そういうことなら問題ないっしょ」
『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)は新年早々の戦いに意気込み十分なようで、これから始まる戦いに期待を膨らませている。
「ああ、新年から武の花を咲かせられるってなら、武人にとっての誉れ、こいつぁ縁起がいいってもんだ」
『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)も真っ当な武士然とした姿で現れ、刀を構えて決める。
「しかし、中々にリアルな夢ですね。きちんと感覚もあるようですが――これはどうでしょう?」
『水の祝福』神城 アニス(CL2000023)は現在の状況を分析するためにも、潤しの雨を発動する。しかし、本来であれば味方全員を癒やすはずの術式も味方を素通りしてしまい、アニス自身にだけ降り注いでいた。
「やはり、無駄ですか。今回は私も攻勢に出る必要がありますね」
アニスの行動で、全員にも今回の戦いの特異性が実感できた。味方に回復してもらうことは期待できないし、どういう訳か庇い合うことも無理らしい。ただ、目の前の敵を倒す。深く考える必要のないシンプルな勝利条件であり、新年の初めに行うウォーミングアップとしては丁度いい。それに気力も使い放題だと言うのだから、消費を気にせず戦うことで、予想外の技の組み合わせが見つかるかもしれない。
戦いが始まる以上、緊張は崩さないが、既知の仲間との戦いということもあり、覚者たちはいくらか軽い気持ちで敵を待つ。果たして百鬼夜行とは言っても、どのように現れるかだが――まもなく、鬼たちは現れた。それはもうぞろぞろと、百鬼夜行というよりは、大名行列のようなわかりやすい行列で。しかも演奏をしている鬼はいないというのに、なぜか和楽器によるやたらとノリのいい曲を流しながら、それはもうノリノリに。
――兎にも角にも、戦いは始まった。
●鷹は不在っぽいですが、たぶん鷹みたいに飛べはすると思います
「今宵は良い夜だ。そう思わないかい?」
鬼の大群を前に、千歳が刀を抜いて躍り出る。しかし、すぐに戦は始まらず、まずは涼やかな沈黙があった。
「櫻火真陰流、酒々井千歳──推して参る! ……なんてね」
そして、静から動への移り変わりは、一瞬だ。
千歳は刀を烈風のごとく唸らせ、気づいたにはもう鬼の体は斬られ、思い出したように血糊が溢れ出す。月光に照らされ、輝かんばかりだった江戸の街は、魔と人の戦場と化し、多くの戦場がそうであるように情けなどない血の園となる。
「首飛ばしの風──何て、とても現実じゃあ出来なさそうな物だけど」
振り抜いたその後に風切り音が聞こえるような、文字通りの音速の斬撃が凶風となり、鬼の体をズタズタに引き裂く。
出し惜しみする必要がないという好条件なのもあるが、夢の中ということもあって攻撃の演出面もかなり強化されているらしい。千歳の圧倒的な斬撃を受けて尚、鬼たちはやられ役に徹してくれるようで、怖気づくことなく向かってくるが、一体、また一体と斬り伏せていく。
「よーし、私も無双っちゃうんだから!」
兄が奮戦する一方で、数多も刀を手に鬼の軍勢へと向かっていく。
「櫻火真陰流! 酒々井数多、まとめて私とにーさまのために散華なさい!」
物理の通りがいい物質系の鬼の軍勢に向かい、一瞬の内に斬撃を重ね当てる疾風双斬を放ち、複数体をまとめてその体を斬り裂いて崩壊させる。鬼たちはそれぞれが各系統らしい特徴を持ち、物質型のものはからくり人形風の外見をしている。そのため、血潮が噴き出すということはないが、バラバラと体を崩壊させていく様を攻撃していて中々に爽快感がある。
「にーさまに恋人ができたなんて、信じないんだからー! スターライトサンライズミッドナイト斬りっ!」
夢の中ではあるが、受け入れがたい現実でのうっぷんを晴らすかのように、建物の壁を駆け上がり、鬼たちをざくざくと斬り刻んでいく。演出面が強化される夢の中での戦いなので、この程度の無茶は当たり前にできてしまう。
兄である千歳が静かに、同時に激しく刀を振るうのに対し、数多の戦いぶりは荒々しく激しいもので、いい感じに破壊音も脚色されて夜の街に響き渡って、本当にここが人の住む街であれば近隣住民が飛び起きそうなものだが、本人のストレス発散にはちょうどいいようで、加速度的にヒートアップしていく。
「にーさまがああなっちゃったのも! 数多ちゃんこんなにかわいいのになんで彼氏できないのも! 全部お前らが悪いんだー!!」
もちろん濡れ衣であり、ただの八つ当たりである。しかし鬼気迫る表情で文字通りの無双を繰り広げるものだから、既に鬼の一団はかなりの被害を受けている。
「ずいぶんとやってるねぇ。オレの獲物も残しておいて欲しいんだけどな?」
酒々井兄妹が活躍する中、懐良も負けじと前衛に立って物理面の有効な鬼の相手をする。江戸の街が舞台となった夢だが、奇しくも集められた前衛担当の得物は全てが刀。武士装束も相まって、演出的にはばっちりだ。
「よし、来いよ。数が多いってなら、一心不乱に、ただ、刀の赴くままに斬るだけだ」
敵を足元から一気に斬り上げるような斬撃を放つ地烈で、複数をまとめて斬り飛ばし、更に迫る敵を一刀の元に斬り伏せる。
正に蹴散らす、という言葉が似合うその戦いぶりは、あっという間に軍勢を半壊させ、大集団は一気に瓦解していく。
「いいよなぁ、こういう感覚。正にオレつえええええ、ってな!」
斬り、絶ち、穿つ。ひとつひとつは単純な動作を積み重ねて、赤子の手をひねるように妖たちを殲滅する。その様は、出で立ちに違わない剣豪のそれであり、束の間の剣舞の後、鬼たちはぱたり、と糸を来られた操り人形のように地を舐める。
刀の達人たちの腕前を賞賛するかのように、強く吹いた風は桜花を巻き上げ、それは敵が散らす血の花と重なった。
……明らかに桜の季節ではないが、この夢の世界ではきっと春なのだろう。そういうことにしておくべきだ。
「はあ……こんなところで使うハメになるとはな。封解 裏コード『赤兎』――壊されたいやつから前においで、今日の俺は手加減が効かねえから全部壊すで」
血といえば、彼。ジャックを外すことはできない。古妖の力を解放し、全身を使って鬼たちの血をその体に取り込む。豪雨のような血の本流を体で受けて、瞬く間にジャックの体は血そのものと同化するかのように赤く染まった。
「ちぇっ、不味い血だなあ。夢の中のくせに味までするのはいいけど、どうせならもっと美味い血を味あわせてくれたらいいのに」
不満を漏らしながらも、開いた眼で鬼たちを一瞥。攻撃対象を決め、召炎波を発動させる。
「不味い血も、火を通せばちょっとはマシに……ならんか」
巻き起こった炎が津波と化し、鬼たちを焼き払う。ジャックが使用するためか、どことなく炎の津波の色は赤というよりは紅で、彼に沿ったアレンジが加えられている。そして、紅き炎に飲み込まれた敵はそれに溶かされるかのように、もはや血液を一滴も残すことなく消滅していた。
「ま、不味い血を飲むぐらいなら、友達の美味しい血をもらった方がええしね」
敵が火炎に攫われた後を見ながら、そう呟く。
「うっ……本当は慣れないといけないのですが……皆さん本当にすごい……ですが、自分の身は自分で守ります!」
文字通り、血みどろの戦いを繰り広げる仲間たちをちらりと見て、その凄まじさに目を逸らしながらも、アニスも羽ペンを走らせ、術式を描き上げる。まずは己の防御を河内の毒衣によって固め、物理攻撃の効きづらい心霊系に狙いを定めた。
「……本来はあんまりこういう手合いは得意ではないのですが……」
そして、B.O.T.によって多くの敵をまとめて撃ち抜く。心霊系の鬼は、いわゆる霊体っぽい姿をしているが、波動の一撃によって吹き飛ばされる。
「開発したてなのですが、新しい術式を試してみましょう」
高速で羽ペンを走らせ、自身が完成させたばかりの術式を作り出す。
「術式展開……癒しを破滅に反転いたします……穢れを含みし滴よ……舞え!」
B.O.T.によって蹴散らした相手への追撃として、本来は癒やしを司る滴を発射する。しかしそれはその属性を反転させ、傷口を広げ悪化させる破滅の雨となって敵へと殺到、既に与えられていたダメージを増幅させることで、完全にその息の根を止める。鬼は最後に苦悶の声を上げ、消えた。
「夢の中ですが……こちらで取れたデータは信頼してもよろしいのでしょうか」
他の仲間の攻撃もまた脚色されているが、それは演出だけであり、威力まで強化されているという訳ではなさそうだ。そう結論づけ、記録を残す。
「さすがですね、アニスさん。――さて、私も今年一年の邪気祓いも兼ねて、験を担ぐ幸先良い年の初めと致しましょう」
あまり攻撃を担当することがないアニスの援護のため、彼女を守るように冬佳もまた、彼女と共に心霊系の相手を務める。
「我が神水を以て、祓い浄め給う。『伊邪波』――鬼よ、散りなさい」
発生した荒波が鬼たちを斬り裂くように飲み込む。更に一撃では終わらず、荒れ狂う大海原をそこに作り出したかのように、強烈な大波が何度も繰り返し敵を喰らう。
「出し惜しむ必要が無いというのはいいですね。常に全力で討てるというもの。この程度、数が多い内に入りませんね」
二人の覚者の破滅的な水の連撃によって、ただでさえ存在が希薄な心霊系の鬼たちは次々と消滅していき、全ての波が行った後に残るものは存在していなかった。
●富士山要素は江戸が舞台ということもあり、用意できなかったようです
ある場所では血潮を含んだ豪風が吹き荒れ、ある場所には血の雨が降る。またある場所では豪雨の降る海原が顕現し、江戸の街は一夜の内にとんでもない混沌の空間と化していた。演出の強化があるとはいえ、これらが全て覚者によって作られたものだというのだから、その戦いのスケールの大きさを改めて感じる。
何はともあれ、全ての鬼は討たれた。既に百鬼夜行の大半を倒しことになるが、戦力的には折り返し地点といったところだろう。なぜならば。
『クックックッ……覚者共よ、まずはよくぞ我が手下どもを全て倒した、と褒めてやろう。しかし、あやつらなどただの虫ケラも同然。羽虫をいくら殺したところで、武勇伝にはならぬ。真の勇者となりたければ、我ら八天王を倒してみせるがいい!!!!!!!!』
やたらとエクスクラメーションマークが付いたのは、現れた八体の大鬼が全員で言ったためだ。大きな鬼が話すのだから、一人でもかなりの大声なのに、それが八倍となってちょっとした音波攻撃とすらなっている。
「出ましたか、中々手強そうですね。大きい鬼……祓い甲斐があるという物」
当初は後衛にいた冬佳も前衛に出て、ここからは仲間同士で連携して鬼を討つ。
「雑兵との大立ち回りの後は、親玉との手に汗握る勝負。これも王道だよな」
懐良は、まずは物理攻撃の効きやすい相手に向かって斬り込んでいく。数が減り、狙う的が多くなった分、気分的には戦いやすいぐらいだ。
太い腕から繰り出される大ぶりな攻撃を捌き切り、反撃の太刀を叩き込む。
「見えてるんだよ、ってな。ほら、お返しするぜ!」
そして、強烈なカウンターに仰け反った相手に対して、千歳が飛び込む。
「悪いね、少しばかり失礼するよ」
不意を突く飛燕の連撃が、鬼の足を斬り裂いて、地に膝を突かせる。
「じゃあ、後は宜しく」
「はい。承りました」
千歳と冬佳が入れ替わり、轟音を立てながら崩れる鬼に向け、彼女に刀が閃く。
「――神楽は剣舞の如きものね。鬼よ。破邪の太刀を以て、厄として祓わせていただきます」
一息の間に放たれる、神速の斬撃。急所を的確に狙ったそれは、瞬間的に鬼の生命を消滅させた。
『生物系がやられたか……だが、やつは我らの中でも最も一番最弱……早々に倒れるとは、やはりその程度の三下よ』
セリフも色々とおかしいが、割りと物理担当の中では生物系は強めのポジションに思えるのは気のせいだろうか。実際、もう一体の生物系は焦っているようだし。
「ちぃーっす! 八人衆の何番目かさん。滅ぼされる準備はできたか?投降するのなら、今のうちやで? 一応聞くけど、話し合いは……でき……なさそうやんね!」
『八人衆ではなく、八天王だ。もっとも、既に七聖天へと変わったがな!!!!!!!』
「あっ、ツッコミどころはそこ。というか、鬼なのに聖とか名乗るんや……」
ところどころ作り込みが甘い夢なのだろう。意図的なギャグ演出かもしれないが。
ジャックは再び、封解 裏コード『赤兎』によってその血を奪う。
「うわっ、大味やなー」
見た目通り、微妙な味わいだったらしい。
「七バカでもなんでもきやがれー! 私さいきょーだもん!!」
自然系を体現している、鬼というよりは風神のような見た目の鬼に対し、数多が疾風双斬で斬り込んでいく。既にジャックが血を取り込んではいるが、更にその傷を広げさせるような斬撃に、血飛沫が舞う。
『七聖天だ! ……あっ、しかし今、六魔王に更新された!!!!!!』
仲間たちの活躍により、鬼たちの称号はリアルタイムに更新されていく。
「うぅ……目の前で見るのはやはり……しかし、私も……大切な物があるので……もっともっと強くなって皆さんをお助けしませんと……!」
目の前で繰り広げられる戦いに、やはりアニスは苦手意識はあるが、戦いが壮絶なものであるほど、戦いへの使命感を覚える。実際、ギャグのようなやりとりをしながらも、仲間たちも決して無傷とはいかず、本来であれば彼女が担当する補助も今回はできないのだ。仲間を助けるため、反転術式 穢れの滴によって敵の傷口を大きく開く。
「よし、もうすぐや……って、いてっ! コラァ、数多!! 踏み台にすんな!!」
「ごめんねー、ジャック君! でも、トドメはいただきー!!」
氷巖華により氷柱を作り出し、トドメを刺そうとしていたジャックを踏み台に、数多が飛び上がって空中で鬼の体を斬り刻み、打ち倒す。彼女の着地と共に轟音を立てて鬼は爆発、消滅をして、六魔王は五将軍に。更に戦いは進み、四邪神、三冥王、双鬼神となり、遂に唯一絶対至高終身名誉鬼王となった。
『なるほど……事実上、この戦いは引き分けということだな。フハハハハ! 人間にしてはよくやったものだ。しかし、貴様らの心に闇がある限り、我らは滅びぬ。次は十魔天となり、復活することだろう……また来年、会おう!』
最後の鬼も、遂に討たれて消滅する。
本当に次があるのかはわからないが、ボロボロにされて尚、口上を最後まで述べるまで仁王立ちで耐えていた鬼の姿に、覚者たちは胸打たれたという。
微妙な称号はあったが、個体名は与えられず、あまつさえ所持スキルさえ設定されることもなく、ただただ斬られ役を務めた鬼たちをきちんと黙祷して弔ってやり、それでもまだ夢が終わる気配はなかったので、束の間の江戸観光を覚者たちは楽しんだ。ちなみに戦いが終わると、自然と怪我も治ったらしい。
なお、この夢を見せた張本人である獏としては、大層愉快な夢だったらしく、報酬として参加した覚者たちには翌日、好きな夢を見させてもらえたそうだが、その内容は夢の外には持ち出し禁止ということで、目が覚める頃には全て忘れてしまっていた。
……本当にそんな夢を見させてもらえたのかは、定かではない。
「まさか夢の中にこういう形でコンタクトを取ってくるとはねえ。まあ、縁起がいい……のかな?」
『行く先知らず』酒々井・千歳(CL2000407)は、奇妙な夢に巻き込まれていることに対し、そこまで動揺することもなく、周囲の状況を確認する。江戸の町並みなど、復元図でしか見たことないので、果たしてこれが正しいものなのかはわからないが、とりあえずかなり雰囲気は出ている。そこに立つ千歳も和装であり、中々様になっていた。
「わー、にーさま! にーさまと一緒の初夢なんて、最高!!」
「数多。まあ、家族だからね。向こうとしてもひとまとめにした方が面白いと思ったのかもしれない」
『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は兄を見つけると、ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。彼女もこの江戸の町並みによく合った新撰組の羽織を身にまとっている。果たして今が幕末なのかはわからないが、殺陣を演じる衣装としては最適だろう。
「どうやら、意図して親しい者が集められているようですね」
『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)は普段の覚醒時の装い。すなわち巫女装束で夢の中の江戸に立っている。その姿を認め、数多がバツの悪そうな顔を見せたのは内緒だ。
「そうそう、思えばみんな友達だわ。まっ、そういうことなら問題ないっしょ」
『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)は新年早々の戦いに意気込み十分なようで、これから始まる戦いに期待を膨らませている。
「ああ、新年から武の花を咲かせられるってなら、武人にとっての誉れ、こいつぁ縁起がいいってもんだ」
『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)も真っ当な武士然とした姿で現れ、刀を構えて決める。
「しかし、中々にリアルな夢ですね。きちんと感覚もあるようですが――これはどうでしょう?」
『水の祝福』神城 アニス(CL2000023)は現在の状況を分析するためにも、潤しの雨を発動する。しかし、本来であれば味方全員を癒やすはずの術式も味方を素通りしてしまい、アニス自身にだけ降り注いでいた。
「やはり、無駄ですか。今回は私も攻勢に出る必要がありますね」
アニスの行動で、全員にも今回の戦いの特異性が実感できた。味方に回復してもらうことは期待できないし、どういう訳か庇い合うことも無理らしい。ただ、目の前の敵を倒す。深く考える必要のないシンプルな勝利条件であり、新年の初めに行うウォーミングアップとしては丁度いい。それに気力も使い放題だと言うのだから、消費を気にせず戦うことで、予想外の技の組み合わせが見つかるかもしれない。
戦いが始まる以上、緊張は崩さないが、既知の仲間との戦いということもあり、覚者たちはいくらか軽い気持ちで敵を待つ。果たして百鬼夜行とは言っても、どのように現れるかだが――まもなく、鬼たちは現れた。それはもうぞろぞろと、百鬼夜行というよりは、大名行列のようなわかりやすい行列で。しかも演奏をしている鬼はいないというのに、なぜか和楽器によるやたらとノリのいい曲を流しながら、それはもうノリノリに。
――兎にも角にも、戦いは始まった。
●鷹は不在っぽいですが、たぶん鷹みたいに飛べはすると思います
「今宵は良い夜だ。そう思わないかい?」
鬼の大群を前に、千歳が刀を抜いて躍り出る。しかし、すぐに戦は始まらず、まずは涼やかな沈黙があった。
「櫻火真陰流、酒々井千歳──推して参る! ……なんてね」
そして、静から動への移り変わりは、一瞬だ。
千歳は刀を烈風のごとく唸らせ、気づいたにはもう鬼の体は斬られ、思い出したように血糊が溢れ出す。月光に照らされ、輝かんばかりだった江戸の街は、魔と人の戦場と化し、多くの戦場がそうであるように情けなどない血の園となる。
「首飛ばしの風──何て、とても現実じゃあ出来なさそうな物だけど」
振り抜いたその後に風切り音が聞こえるような、文字通りの音速の斬撃が凶風となり、鬼の体をズタズタに引き裂く。
出し惜しみする必要がないという好条件なのもあるが、夢の中ということもあって攻撃の演出面もかなり強化されているらしい。千歳の圧倒的な斬撃を受けて尚、鬼たちはやられ役に徹してくれるようで、怖気づくことなく向かってくるが、一体、また一体と斬り伏せていく。
「よーし、私も無双っちゃうんだから!」
兄が奮戦する一方で、数多も刀を手に鬼の軍勢へと向かっていく。
「櫻火真陰流! 酒々井数多、まとめて私とにーさまのために散華なさい!」
物理の通りがいい物質系の鬼の軍勢に向かい、一瞬の内に斬撃を重ね当てる疾風双斬を放ち、複数体をまとめてその体を斬り裂いて崩壊させる。鬼たちはそれぞれが各系統らしい特徴を持ち、物質型のものはからくり人形風の外見をしている。そのため、血潮が噴き出すということはないが、バラバラと体を崩壊させていく様を攻撃していて中々に爽快感がある。
「にーさまに恋人ができたなんて、信じないんだからー! スターライトサンライズミッドナイト斬りっ!」
夢の中ではあるが、受け入れがたい現実でのうっぷんを晴らすかのように、建物の壁を駆け上がり、鬼たちをざくざくと斬り刻んでいく。演出面が強化される夢の中での戦いなので、この程度の無茶は当たり前にできてしまう。
兄である千歳が静かに、同時に激しく刀を振るうのに対し、数多の戦いぶりは荒々しく激しいもので、いい感じに破壊音も脚色されて夜の街に響き渡って、本当にここが人の住む街であれば近隣住民が飛び起きそうなものだが、本人のストレス発散にはちょうどいいようで、加速度的にヒートアップしていく。
「にーさまがああなっちゃったのも! 数多ちゃんこんなにかわいいのになんで彼氏できないのも! 全部お前らが悪いんだー!!」
もちろん濡れ衣であり、ただの八つ当たりである。しかし鬼気迫る表情で文字通りの無双を繰り広げるものだから、既に鬼の一団はかなりの被害を受けている。
「ずいぶんとやってるねぇ。オレの獲物も残しておいて欲しいんだけどな?」
酒々井兄妹が活躍する中、懐良も負けじと前衛に立って物理面の有効な鬼の相手をする。江戸の街が舞台となった夢だが、奇しくも集められた前衛担当の得物は全てが刀。武士装束も相まって、演出的にはばっちりだ。
「よし、来いよ。数が多いってなら、一心不乱に、ただ、刀の赴くままに斬るだけだ」
敵を足元から一気に斬り上げるような斬撃を放つ地烈で、複数をまとめて斬り飛ばし、更に迫る敵を一刀の元に斬り伏せる。
正に蹴散らす、という言葉が似合うその戦いぶりは、あっという間に軍勢を半壊させ、大集団は一気に瓦解していく。
「いいよなぁ、こういう感覚。正にオレつえええええ、ってな!」
斬り、絶ち、穿つ。ひとつひとつは単純な動作を積み重ねて、赤子の手をひねるように妖たちを殲滅する。その様は、出で立ちに違わない剣豪のそれであり、束の間の剣舞の後、鬼たちはぱたり、と糸を来られた操り人形のように地を舐める。
刀の達人たちの腕前を賞賛するかのように、強く吹いた風は桜花を巻き上げ、それは敵が散らす血の花と重なった。
……明らかに桜の季節ではないが、この夢の世界ではきっと春なのだろう。そういうことにしておくべきだ。
「はあ……こんなところで使うハメになるとはな。封解 裏コード『赤兎』――壊されたいやつから前においで、今日の俺は手加減が効かねえから全部壊すで」
血といえば、彼。ジャックを外すことはできない。古妖の力を解放し、全身を使って鬼たちの血をその体に取り込む。豪雨のような血の本流を体で受けて、瞬く間にジャックの体は血そのものと同化するかのように赤く染まった。
「ちぇっ、不味い血だなあ。夢の中のくせに味までするのはいいけど、どうせならもっと美味い血を味あわせてくれたらいいのに」
不満を漏らしながらも、開いた眼で鬼たちを一瞥。攻撃対象を決め、召炎波を発動させる。
「不味い血も、火を通せばちょっとはマシに……ならんか」
巻き起こった炎が津波と化し、鬼たちを焼き払う。ジャックが使用するためか、どことなく炎の津波の色は赤というよりは紅で、彼に沿ったアレンジが加えられている。そして、紅き炎に飲み込まれた敵はそれに溶かされるかのように、もはや血液を一滴も残すことなく消滅していた。
「ま、不味い血を飲むぐらいなら、友達の美味しい血をもらった方がええしね」
敵が火炎に攫われた後を見ながら、そう呟く。
「うっ……本当は慣れないといけないのですが……皆さん本当にすごい……ですが、自分の身は自分で守ります!」
文字通り、血みどろの戦いを繰り広げる仲間たちをちらりと見て、その凄まじさに目を逸らしながらも、アニスも羽ペンを走らせ、術式を描き上げる。まずは己の防御を河内の毒衣によって固め、物理攻撃の効きづらい心霊系に狙いを定めた。
「……本来はあんまりこういう手合いは得意ではないのですが……」
そして、B.O.T.によって多くの敵をまとめて撃ち抜く。心霊系の鬼は、いわゆる霊体っぽい姿をしているが、波動の一撃によって吹き飛ばされる。
「開発したてなのですが、新しい術式を試してみましょう」
高速で羽ペンを走らせ、自身が完成させたばかりの術式を作り出す。
「術式展開……癒しを破滅に反転いたします……穢れを含みし滴よ……舞え!」
B.O.T.によって蹴散らした相手への追撃として、本来は癒やしを司る滴を発射する。しかしそれはその属性を反転させ、傷口を広げ悪化させる破滅の雨となって敵へと殺到、既に与えられていたダメージを増幅させることで、完全にその息の根を止める。鬼は最後に苦悶の声を上げ、消えた。
「夢の中ですが……こちらで取れたデータは信頼してもよろしいのでしょうか」
他の仲間の攻撃もまた脚色されているが、それは演出だけであり、威力まで強化されているという訳ではなさそうだ。そう結論づけ、記録を残す。
「さすがですね、アニスさん。――さて、私も今年一年の邪気祓いも兼ねて、験を担ぐ幸先良い年の初めと致しましょう」
あまり攻撃を担当することがないアニスの援護のため、彼女を守るように冬佳もまた、彼女と共に心霊系の相手を務める。
「我が神水を以て、祓い浄め給う。『伊邪波』――鬼よ、散りなさい」
発生した荒波が鬼たちを斬り裂くように飲み込む。更に一撃では終わらず、荒れ狂う大海原をそこに作り出したかのように、強烈な大波が何度も繰り返し敵を喰らう。
「出し惜しむ必要が無いというのはいいですね。常に全力で討てるというもの。この程度、数が多い内に入りませんね」
二人の覚者の破滅的な水の連撃によって、ただでさえ存在が希薄な心霊系の鬼たちは次々と消滅していき、全ての波が行った後に残るものは存在していなかった。
●富士山要素は江戸が舞台ということもあり、用意できなかったようです
ある場所では血潮を含んだ豪風が吹き荒れ、ある場所には血の雨が降る。またある場所では豪雨の降る海原が顕現し、江戸の街は一夜の内にとんでもない混沌の空間と化していた。演出の強化があるとはいえ、これらが全て覚者によって作られたものだというのだから、その戦いのスケールの大きさを改めて感じる。
何はともあれ、全ての鬼は討たれた。既に百鬼夜行の大半を倒しことになるが、戦力的には折り返し地点といったところだろう。なぜならば。
『クックックッ……覚者共よ、まずはよくぞ我が手下どもを全て倒した、と褒めてやろう。しかし、あやつらなどただの虫ケラも同然。羽虫をいくら殺したところで、武勇伝にはならぬ。真の勇者となりたければ、我ら八天王を倒してみせるがいい!!!!!!!!』
やたらとエクスクラメーションマークが付いたのは、現れた八体の大鬼が全員で言ったためだ。大きな鬼が話すのだから、一人でもかなりの大声なのに、それが八倍となってちょっとした音波攻撃とすらなっている。
「出ましたか、中々手強そうですね。大きい鬼……祓い甲斐があるという物」
当初は後衛にいた冬佳も前衛に出て、ここからは仲間同士で連携して鬼を討つ。
「雑兵との大立ち回りの後は、親玉との手に汗握る勝負。これも王道だよな」
懐良は、まずは物理攻撃の効きやすい相手に向かって斬り込んでいく。数が減り、狙う的が多くなった分、気分的には戦いやすいぐらいだ。
太い腕から繰り出される大ぶりな攻撃を捌き切り、反撃の太刀を叩き込む。
「見えてるんだよ、ってな。ほら、お返しするぜ!」
そして、強烈なカウンターに仰け反った相手に対して、千歳が飛び込む。
「悪いね、少しばかり失礼するよ」
不意を突く飛燕の連撃が、鬼の足を斬り裂いて、地に膝を突かせる。
「じゃあ、後は宜しく」
「はい。承りました」
千歳と冬佳が入れ替わり、轟音を立てながら崩れる鬼に向け、彼女に刀が閃く。
「――神楽は剣舞の如きものね。鬼よ。破邪の太刀を以て、厄として祓わせていただきます」
一息の間に放たれる、神速の斬撃。急所を的確に狙ったそれは、瞬間的に鬼の生命を消滅させた。
『生物系がやられたか……だが、やつは我らの中でも最も一番最弱……早々に倒れるとは、やはりその程度の三下よ』
セリフも色々とおかしいが、割りと物理担当の中では生物系は強めのポジションに思えるのは気のせいだろうか。実際、もう一体の生物系は焦っているようだし。
「ちぃーっす! 八人衆の何番目かさん。滅ぼされる準備はできたか?投降するのなら、今のうちやで? 一応聞くけど、話し合いは……でき……なさそうやんね!」
『八人衆ではなく、八天王だ。もっとも、既に七聖天へと変わったがな!!!!!!!』
「あっ、ツッコミどころはそこ。というか、鬼なのに聖とか名乗るんや……」
ところどころ作り込みが甘い夢なのだろう。意図的なギャグ演出かもしれないが。
ジャックは再び、封解 裏コード『赤兎』によってその血を奪う。
「うわっ、大味やなー」
見た目通り、微妙な味わいだったらしい。
「七バカでもなんでもきやがれー! 私さいきょーだもん!!」
自然系を体現している、鬼というよりは風神のような見た目の鬼に対し、数多が疾風双斬で斬り込んでいく。既にジャックが血を取り込んではいるが、更にその傷を広げさせるような斬撃に、血飛沫が舞う。
『七聖天だ! ……あっ、しかし今、六魔王に更新された!!!!!!』
仲間たちの活躍により、鬼たちの称号はリアルタイムに更新されていく。
「うぅ……目の前で見るのはやはり……しかし、私も……大切な物があるので……もっともっと強くなって皆さんをお助けしませんと……!」
目の前で繰り広げられる戦いに、やはりアニスは苦手意識はあるが、戦いが壮絶なものであるほど、戦いへの使命感を覚える。実際、ギャグのようなやりとりをしながらも、仲間たちも決して無傷とはいかず、本来であれば彼女が担当する補助も今回はできないのだ。仲間を助けるため、反転術式 穢れの滴によって敵の傷口を大きく開く。
「よし、もうすぐや……って、いてっ! コラァ、数多!! 踏み台にすんな!!」
「ごめんねー、ジャック君! でも、トドメはいただきー!!」
氷巖華により氷柱を作り出し、トドメを刺そうとしていたジャックを踏み台に、数多が飛び上がって空中で鬼の体を斬り刻み、打ち倒す。彼女の着地と共に轟音を立てて鬼は爆発、消滅をして、六魔王は五将軍に。更に戦いは進み、四邪神、三冥王、双鬼神となり、遂に唯一絶対至高終身名誉鬼王となった。
『なるほど……事実上、この戦いは引き分けということだな。フハハハハ! 人間にしてはよくやったものだ。しかし、貴様らの心に闇がある限り、我らは滅びぬ。次は十魔天となり、復活することだろう……また来年、会おう!』
最後の鬼も、遂に討たれて消滅する。
本当に次があるのかはわからないが、ボロボロにされて尚、口上を最後まで述べるまで仁王立ちで耐えていた鬼の姿に、覚者たちは胸打たれたという。
微妙な称号はあったが、個体名は与えられず、あまつさえ所持スキルさえ設定されることもなく、ただただ斬られ役を務めた鬼たちをきちんと黙祷して弔ってやり、それでもまだ夢が終わる気配はなかったので、束の間の江戸観光を覚者たちは楽しんだ。ちなみに戦いが終わると、自然と怪我も治ったらしい。
なお、この夢を見せた張本人である獏としては、大層愉快な夢だったらしく、報酬として参加した覚者たちには翌日、好きな夢を見させてもらえたそうだが、その内容は夢の外には持ち出し禁止ということで、目が覚める頃には全て忘れてしまっていた。
……本当にそんな夢を見させてもらえたのかは、定かではない。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
