≪聖夜2016≫それぞれの聖夜に贈り物を
●
「聖夜……か」
遊園地内はイルミネーションで彩られ、クリスマスソングが絶え間なく流れ続ける。
この巨大テーマパークのオーナー。結城グループ会長、結城征十郎は一人ベンチに座っていた。
「会長、またこんな所でサボって」
「……おや、見つかったか」
第一秘書の姿を認めると、結城会長は小さく手を振った。
「大事な会議を抜け出して、何をしているんですか?」
「少し考え事をね――電波障害が解決した通信事業の展望とか」
あとは逃げ出した姪達の行方とか……今日の三時のティータイムは何にしようとか。
考えるべきことは色々ある。
「会長……真面目にやってください」
「ふむ」
「そんな調子だと、サンタさんからプレゼントがもらえなくなりますよ」
「……」
結城会長はまじまじと美人秘書の顔を見やった。
彼女の顔は純粋無垢そのもので、ふざけた様子は全くない。
「君は、その、あれだ……もしかして、まだ、サンタクロースを……」
「はい?」
「……いや、何でもない。是非、いつまでもそのままの君でいてくれたまえ」
秘書が不思議そうに首を傾げるが。
不覚にも少し感動してしまった結城会長だった。
「なるほど、世界にはまだまだサンタが必要なようだ……となれば、我々としても手助けしないわけにはいくまい」
●
「サンタクロースになっては、みませんか?」
久方 真由美(nCL2000003)が、説明を始める。
各企業、団体、AAAなどが声を掛け合ってプレゼントや人員を用意。妖や隔者から被害を受けた地域や、大勢の子供達、誰であろうと分け隔てなく、贈り物を届けるイベントが大々的に広がっているという。
私立五麟学園にも、イベント参加者募集のポスターが幾つも貼られている。
「併せて五麟学園を始め各地でクリスマスパーティが開かれます。一般の方も大勢来ますから、そこでプレゼントを配ってもいいですし。お知り合いやお友達に贈り物をするのもよいですね」
どこを訪問しても良い。
プレゼントも各企業が用意してくれたものもあるし、自分が用意したものでも良い。
「難しく考えず誰かに何か贈り物をしたいと思ったら、気軽に参加してみてください。それでは皆さん、それぞれのクリスマスを――」
●
「リゼ……その格好はどうしたのよ?」
「上からの命令よ。何でもサンタになれとか」
AAAのリゼ・レインハルトはサンタクロースのミニスカート姿をしていた。
「この格好でプレゼントを配るらしいわ。他の仕事を後回しにしても、まずこの任務を優先しろというお達しよ」
「……それはそれは、大変ね。じゃあ、頑張って」
「待ちなさい、イリヤ。あなたもやるのよ」
「……マジで?」
「雪ですよ、すねこすりさん」
「きゅ!」
夢見の少女。
ハヅキは、肩に乗せた小さな古妖を優しい手つきで撫でる。ここには古妖狩人の事件で、捕らわれていた古妖達も多くいた。空から粉雪が舞い散り、人里離れた山中は白く雪化粧されていく。
「ボスは相変わらずF.i.V.E.と、ちょくちょく関わっているし」
「黎明として取り入って以来、因縁が続くわね」
七星剣組織の百鬼であるアルカと鬼崎百江は、久々に会ってカフェでお茶していた。
「お父さん……クリスマスには帰ってくるかな?」
斉藤亜美は、引っ越した家で雪を眺めつつ。ふと呟く。
百鬼達が五麟市を襲った事件以来、彼女の父親は未だ行方不明だった。
「長谷川さん、リハビリの時間ですよ」
新人類教会に教化されていた長谷川美和子は、虚ろな目をしている。
病院の看護師の声にも反応が薄い。
「……園……香」
「まて! 怪盗フォックス!!」
狸川警部は、宿敵を必死になって追う。
世間を騒がせる怪盗は、高らかに笑って華麗に夜の闇へと消え去った。
「はっはっは! さらばだ狸川警部!」
「奈良も平和になってきましたね」
牙王、紫鼠、ミカゲといった妖と対し、多くの犠牲者を出した奈良。AAAの桜井小鹿は、牙王の事件が起こった場の復興に尽力していた。
「……クリスマスを祝う同僚も減っちゃったな」
「悟、今年のクリスマスはどうする?」
「そうだなー」
幼馴染の夏山悟と冬川緑は手を繋いで街を歩く。
それを遠く離れた場所から、雪女たる雪那は眺めていた。
「幸せそうね……二人とも」
吸血鬼のベルドとロゼッタは、チェスの盤に集中していた。
「ベルド、クリスマスも何かしましょうか」
「しかし、ロゼッタ。ハロウィンでF.i.V.E.に怒られたばかりだろう」
「雷夢、これが人間の街なんだねー」
「美雷、少し落ち着きなさい」
雷獣達がクリスマスムードの街を、物珍しさそうに眺めていた。
「ジングルベール!」
アリスはクリスマスツリーの用意をしていた。
元AAA、日向朔夜は浮かれた助手へと冷めた目を向け。バーの女主人が笑う
「ところで、凛ちゃんの様子はどう?」
「ずっと寝ている。色々とショックを受けたみたいでな」
「……そう。せっかくのクリスマスなのにね」
それぞれのクリスマス。
……それぞれの聖夜が訪れる。
「聖夜……か」
遊園地内はイルミネーションで彩られ、クリスマスソングが絶え間なく流れ続ける。
この巨大テーマパークのオーナー。結城グループ会長、結城征十郎は一人ベンチに座っていた。
「会長、またこんな所でサボって」
「……おや、見つかったか」
第一秘書の姿を認めると、結城会長は小さく手を振った。
「大事な会議を抜け出して、何をしているんですか?」
「少し考え事をね――電波障害が解決した通信事業の展望とか」
あとは逃げ出した姪達の行方とか……今日の三時のティータイムは何にしようとか。
考えるべきことは色々ある。
「会長……真面目にやってください」
「ふむ」
「そんな調子だと、サンタさんからプレゼントがもらえなくなりますよ」
「……」
結城会長はまじまじと美人秘書の顔を見やった。
彼女の顔は純粋無垢そのもので、ふざけた様子は全くない。
「君は、その、あれだ……もしかして、まだ、サンタクロースを……」
「はい?」
「……いや、何でもない。是非、いつまでもそのままの君でいてくれたまえ」
秘書が不思議そうに首を傾げるが。
不覚にも少し感動してしまった結城会長だった。
「なるほど、世界にはまだまだサンタが必要なようだ……となれば、我々としても手助けしないわけにはいくまい」
●
「サンタクロースになっては、みませんか?」
久方 真由美(nCL2000003)が、説明を始める。
各企業、団体、AAAなどが声を掛け合ってプレゼントや人員を用意。妖や隔者から被害を受けた地域や、大勢の子供達、誰であろうと分け隔てなく、贈り物を届けるイベントが大々的に広がっているという。
私立五麟学園にも、イベント参加者募集のポスターが幾つも貼られている。
「併せて五麟学園を始め各地でクリスマスパーティが開かれます。一般の方も大勢来ますから、そこでプレゼントを配ってもいいですし。お知り合いやお友達に贈り物をするのもよいですね」
どこを訪問しても良い。
プレゼントも各企業が用意してくれたものもあるし、自分が用意したものでも良い。
「難しく考えず誰かに何か贈り物をしたいと思ったら、気軽に参加してみてください。それでは皆さん、それぞれのクリスマスを――」
●
「リゼ……その格好はどうしたのよ?」
「上からの命令よ。何でもサンタになれとか」
AAAのリゼ・レインハルトはサンタクロースのミニスカート姿をしていた。
「この格好でプレゼントを配るらしいわ。他の仕事を後回しにしても、まずこの任務を優先しろというお達しよ」
「……それはそれは、大変ね。じゃあ、頑張って」
「待ちなさい、イリヤ。あなたもやるのよ」
「……マジで?」
「雪ですよ、すねこすりさん」
「きゅ!」
夢見の少女。
ハヅキは、肩に乗せた小さな古妖を優しい手つきで撫でる。ここには古妖狩人の事件で、捕らわれていた古妖達も多くいた。空から粉雪が舞い散り、人里離れた山中は白く雪化粧されていく。
「ボスは相変わらずF.i.V.E.と、ちょくちょく関わっているし」
「黎明として取り入って以来、因縁が続くわね」
七星剣組織の百鬼であるアルカと鬼崎百江は、久々に会ってカフェでお茶していた。
「お父さん……クリスマスには帰ってくるかな?」
斉藤亜美は、引っ越した家で雪を眺めつつ。ふと呟く。
百鬼達が五麟市を襲った事件以来、彼女の父親は未だ行方不明だった。
「長谷川さん、リハビリの時間ですよ」
新人類教会に教化されていた長谷川美和子は、虚ろな目をしている。
病院の看護師の声にも反応が薄い。
「……園……香」
「まて! 怪盗フォックス!!」
狸川警部は、宿敵を必死になって追う。
世間を騒がせる怪盗は、高らかに笑って華麗に夜の闇へと消え去った。
「はっはっは! さらばだ狸川警部!」
「奈良も平和になってきましたね」
牙王、紫鼠、ミカゲといった妖と対し、多くの犠牲者を出した奈良。AAAの桜井小鹿は、牙王の事件が起こった場の復興に尽力していた。
「……クリスマスを祝う同僚も減っちゃったな」
「悟、今年のクリスマスはどうする?」
「そうだなー」
幼馴染の夏山悟と冬川緑は手を繋いで街を歩く。
それを遠く離れた場所から、雪女たる雪那は眺めていた。
「幸せそうね……二人とも」
吸血鬼のベルドとロゼッタは、チェスの盤に集中していた。
「ベルド、クリスマスも何かしましょうか」
「しかし、ロゼッタ。ハロウィンでF.i.V.E.に怒られたばかりだろう」
「雷夢、これが人間の街なんだねー」
「美雷、少し落ち着きなさい」
雷獣達がクリスマスムードの街を、物珍しさそうに眺めていた。
「ジングルベール!」
アリスはクリスマスツリーの用意をしていた。
元AAA、日向朔夜は浮かれた助手へと冷めた目を向け。バーの女主人が笑う
「ところで、凛ちゃんの様子はどう?」
「ずっと寝ている。色々とショックを受けたみたいでな」
「……そう。せっかくのクリスマスなのにね」
それぞれのクリスマス。
……それぞれの聖夜が訪れる。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.クリスマスのプレゼントを出来る限り多くの人に配る
2.戦闘が発生した場合、敗北しないこと
3.なし
2.戦闘が発生した場合、敗北しないこと
3.なし
結城グループ会長の結城征十郎が掛け声をかけ、五麟学園や各地でクリスマスパーティが開かれます。ご馳走が用意されており、舞台ではパフォーマンスをして盛り上げている者もいます。一般人も多く訪れます。
そこに参加して知り合いになどにプレゼントをしてパーティを楽しむのも良し。
妖の被害を受けた地域や思い出の地などでプレゼントを配っても良し。夜な夜な各家にプレゼントを置いていくのも良し。
ただし、出来る限り多くの人にプレゼントを配って下さい。
オープニングに出たF.i.V.E.に関わった人物達なども、それぞれのクリスマスを送ろうとしていますし、訪れた場所で出会うことがあるかもしれません。
ただし、訪れた場所や出会ったものによっては戦闘が発生する場合があります。
プレゼントは玩具、お菓子、嗜好品など各企業が提供しています。自分で用意したものでも構いません。
サンタとなりながら、クリスマスを楽しんでください。
●クリスマスケーキ(4号、6号、20号)について
クリスマス限定のアイテム、クリスマスケーキを装備していた場合。
名声と上昇と命数の減数が、通常より良くなる可能性があります。リプレイ中でも……ちょっとだけ良い事が起こるかもしれません。
●結城征十郎(【月夜の死神】のシリーズシナリオで登場)
大企業、結城グループの会長。相当な辣腕家。凛とは叔父と姪という関係。
今回、各企業やAAAを巻き込み、各地でクリスマスに関連するイベントを企画実行した発起人。人前では仮面をつけた、色々と謎多き人物。
●日向朔夜(【月夜の死神】のシリーズシナリオで登場)
月夜の死神の異名を持つ、元AAA隊員。F.i.V.E.と交戦、ときに協力したこともあり。
●結城凛(【月夜の死神】のシリーズシナリオで登場)
九歳の少女。夢見の才能を持つ。現在、朔夜の元にいるがショックを受け寝込んでいる。F.i.V.E.に命を助けられた過去があり、F.i.V.E.には好意的。
●アリス・プライム(【月夜の死神】のシリーズシナリオで登場)
日向朔夜の助手。火行の覚者。その天才的な才能は、朔夜も認めるところ。
●リゼ・レインハルト(【月夜の死神】のシリーズシナリオで登場)
AAAの精鋭。昔、朔夜と肩を並べていた実力者。上の命令で、今回部下達とサンタとして各地を巡る予定。
●ハヅキ(【儚語】夢見る少女は誰の手に?で登場)
夢見の少女。七星剣とイレブンに狙われていたところを、F.i.V.E.に救われた。
●アルカ(【日ノ丸事変】黎明たる選択などで登場)
七星剣組織、百鬼の隔者。黎明としてF.i.V.E.と接触した後、裏切り敵対した。
●鬼崎百江(《緊急依頼》禍時の百鬼が訪れるときで登場)
七星剣組織、百鬼の隔者。五麟市を襲撃した。
●斉藤亜美(残された紅蓮の爪痕で登場)
逢魔ヶ時紫雨が率いる百鬼の五麟市襲撃によって父親が行方不明。破綻者になったところをF.i.V.E.に助けられる。
●長谷川美和子(≪教化作戦≫教化された魂で登場)
新人類教会過激派に捕まり、洗脳されてしまった覚者。F.i.V.E.の戦闘に破れ、入院中。
●怪盗フォックス&ココ&狸川警部(怪盗フォックスからの予告状で登場)
予告状を出し、華麗に盗みを続ける隔者の怪盗と化け狐の古妖。F.i.V.E.に盗みを止められた過去あり。
●狸川警部(怪盗フォックスからの予告状で登場)
怪盗フォックスを追う警部。
●雪那(絶対零度の女で登場)
人間の振りをして、好みの男を大勢たぶらかし自らに貢がせていた雪女の古妖。F.i.V.E.によって撃退される。
●夏山悟&冬川緑(絶対零度の女で登場)
雪那に狙われていた男女。F.i.V.E.によって助けられる。
●桜井小鹿(≪百・獣・進・撃≫三つ首の巨獣が咆哮せし時で登場)
AAA隊員。F.i.V.E.と一緒に牙王の軍勢と戦った。多くの仲間をそのときに失う。
●ベルド&ロゼッタ(<南瓜夜行>吸血鬼のハロウィンで登場)
ハロウィンで暴れてF.i.V.E.にお灸をすえられた古妖の吸血鬼の美男美女。
●美雷&雷夢(<雷獣結界>二人の雷獣と二体の竜で登場)
妖を結界で封じていた雷獣達。見た目は、可愛らしい少女。結界に封印していた妖をF.i.V.E.に倒してもらった。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/10
6/10
公開日
2017年01月05日
2017年01月05日
■メイン参加者 6人■

●
聖夜。
街のあちこちで華やかなデコレーションが施され。それぞれが、それぞれのクリスマスを過ごすなか。プレゼントを貰う側ではなく、渡す側としてこれから一仕事をする者達もいる。
「私はまず、妖の被害を受けた地域の方々にプレゼントを配って回ろうと思います! うむむ、衣装はやっぱりサンタさんの格好がいいでしょ~か」
「あ、サンタの服装は……、スカートはロングでお願いします」
「私は、最初からこの格好です」
『ほむほむ』阿久津 ほのか(CL2001276)と、上月・里桜(CL2001274)はさっそく真っ赤なサンタ服に身を包んでいた。『幸運を告げるブラックサンタ』レナ・R・シュバルツベーゼ(CL2001547)などは、着替えるまでもなく元からブラックなサンタコスでキメちゃっている。
「それと、きっと外は寒いので、配って回る方々にカイロをお渡ししておきますね」
ごそごそとほのかは、皆に携帯カイロなど暖がとれるものを手渡した。
天気は良いが、この頃の気温は確かに冷え込むことが多々ある。ところによっては、雪が降っているそうだ。
「ありがとう、助かるわ」
「ふふ、サンタになるクリスマスというのも悪くないわね。楽しい一日にしましょうね」
「サンタのまねごとか……がらじゃねーがたまにゃボランティアもいいな。日頃ゴシップ追いかけてる罪滅ぼしだ。年末くれえいい事しねえと寿命が縮む」
受け取った『月々紅花』環 大和(CL2000477)が、礼を言い。『ファイヴ村管理人農林担当』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)と『ゴシップ探偵』風祭・誘輔(CL2001092)も貰ったカイロを手にしつつ、真っ白な息を吐いた。
そこかしこから、陽気なクリスマスソングが聞こえてくる。
行き交う人々もどこか浮き浮きしているようで。
「あ、サンタさんだ!」
母に手を引かれた子供が、こちらを見つけて興奮したように叫ぶ。
覚者達が抱えた袋の中には、たくさんのプレゼントが詰まっていた。
「さっそく、一人目の良い子にプレゼントですね」
「わあ! ありがとう、サンタさん!!」
レナがラッピングされた玩具入りの箱を一つ、その子供へと渡す。
無邪気にはしゃぐ幼い顔は、喜色満面。
「良い子にはプレゼントを。悪い子にはお仕置きを。けど最終的には皆に幸福を」
それこそが。
先祖代々密かに受け継がれてきた「ブラックサンタ」という役目に誇りを感じている、レナ・R・シュバルツベーゼのモットーだった。
●
「ごきげんよう、ハヅキ。メリークリスマス」
「ああ、エメレンツィアさん……お久しぶりですね」
エメレンツィアは、大きなケーキをもって山奥にいるハヅキを訪ねた。
過去にF.i.V.E.に助けられた夢見の少女は、覚者達に目を向けると僅かに微笑む。
「すねこすりちゃんもこんにちは。はい、クリスマスプレゼント。古妖の皆と一緒に食べて頂戴」
「きゅ!」
「ふふ、この子も人懐っこいわね」
大きなケーキを掲げてからエメレンツィアは、ハヅキの肩にいるすねこすりを優しい手つきで撫でた。小さな古妖は、気持ち良さそうに身を揺らして鳴く。
「FiVEに来て初めて出会った古妖はあなた達だったわね」
ここには、たくさんの小型の古妖達がいるようだった。
大和がクリスマスデコレーションクッキーやクリスマスケーキとツリー、ちょっとした料理とパーティセットを抱えてくると……すねこすり達がどんどんと近寄ってくる。
「ツリーはもう少し大きいものを用意できればよかったのだけれども、個人で運ぶには限界があったわね」
とそこで……足元にふわっと。
転びそうになりながら確認するとすねこすり達。
「あら? 運ぶのを手伝ってくれるのかしら? うれしいわ」
「「「きゅ、きゅ、きゅ、きゅっ!」」」
すねこすりが沢山いるので転ばないように気を付けて。
ハイバランサーでバランスをとって、それから皆が一緒に楽しめるように。古妖達にも手伝ってもらいながらパーティ会場を設置する。
「メリークリスマス」
クリスマスの本来の意味を考えると古妖のみんなには縁が無いことかもしれないけれど時代に合わせた楽しむ日として良い思い出をつくってもらえたらうれしい。
大和は心地よい毛並に囲まれながら、古妖達を目一杯愛で。
エメレンツィアの方は、ハヅキと並んで世間話に花を咲かせた。
「私たちは夢見の力に助けられているの。だから、貴女が困っている事があったら何でも相談して頂戴。力になるわ」
「ありがとうございます。そういえば、F.i.V.E.が関わっている古妖達の村があるらしいですね」
「ああ、ファイヴ村のことね」
ついつい話し込んでしまう。
山中は雪に包まれ、古妖と覚者達は食べて飲んで遊びつくす。時間は、本当にあっという間。
「それじゃ私はいくわね。良いクリスマスを。そうだわ。一度ファイヴ村に遊びにいらっしゃいな。歓迎するわよ」
●
「多くの人達に配れるようにがんばりま~っす!」
ほのかは、張り切って贈り物を配っていく。
「わー! 綺麗なお菓子だ!!」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
子供達にはカラフルなお菓子の詰め合わせと玩具。
「お、可愛いサンタさんだな」
「クリスマスプレゼントも可愛いわね」
大人達には、シュトーレンとミニリースが入ったプレゼント。
「あら、あなたは……確かF.i.V.E.の」
「あ、リゼさん」
途中でミニスカートサンタ姿のAAAとも遭遇する。自分達と同じように、彼女達の部隊がプレゼントを皆に配っている姿には妙なシンパシーを感じる。
(真っ向からプレゼント渡すのは気恥ずかしい)
夜中に、誘輔は表札を見て子供のいそうな家の前や郵便受けにプレゼントを置いていった。
「ガキの頃はプレゼントなんか貰えなかったしな」
一人暮らしの老人宅には宝くじのプレゼントだ。
当たれば、ちょっとは華やぐだろう。
(サンタクロースになるのは、楽しいですね)
里桜は主にあちこちの病院にいる子供達に、プレゼントを配っていた。
プレゼントは各企業が用意してくれた物と、彼女自身が作ったお菓子。ジンジャーマンとジンジャーガール、ツリーの形にアイシングで飾り付けをしたクッキーなど。
(……結城グループも主催企業の中に入っているのですね。あの会長さん、そういうことをする人だったのかしら……? ……凛さんのことも、全然想っていない訳ではなさそうでしたけれど……でも、やり方は納得できませんけれど)
子供達の笑顔に微笑みを返しながらも、今回の主催者のことが頭をよぎる。
正直、気になりはするものの――それは、ともかく。
「そう言えば、長谷川美和子さんはまだ入院中ですよね……」
長谷川美和子は、新人類教会に洗脳されていた覚者だ。
里桜はその妹であり、姉と同じように教化された長谷川園香と交戦したことがあった。自然とその病院へと足が向く。
「長谷川さんに、ご面会ですね。どうぞ、こちらです」
看護師に案内された病室で、美和子は既に眠りに入っていた。
話によると、洗脳の影響で未だ日常生活を行うのは困難で一日の大半はベッドの中であるらしい。
「来年は園香さんと一緒に過ごせるように……」
「……んん……園香」
色違いのお揃いの手袋を、そっと枕元に置く。
幸せな夢でも見ているのか。美和子が妹の名前をそっと呟くのを、里桜は確かに耳にした。
●
「ごきげんようアルカ。メリークリスマス♪ それと鬼崎さんね?」
「F.i.V.E.!!」
エメレンツィアが、とあるカフェを訪れる。
七星剣の百鬼……アルカは、他の面子が臨戦態勢を取ろうとするのを制した。
「鬼崎っち、それに皆も、落ち着いて。今のところ彼女に、敵対の意思はないみたいだから」
「でも、アルカさん!」
「……うっせーな。落ち着けっていってんだよ、カス共っ。クリスマスケーキを持って戦争に来る奴がいるわけねーだろうがっ……殺すぞ?」
部下達が尚も抗弁しようとすると、突如アルカが口調を荒げる。鬼崎百江はというと「相変わらずね……アルカ」と諦めムードであった。
「……まあ、F.i.V.E.の方がここでやるっていうなら容赦しないけどね♪」
瞬時に、アルカの態度が切り替わる。
これこそエメレンツィアの覚えがある百鬼。敵対的な雰囲気を出さぬようせいぜい注意を払っておく。
「あっと、こんな日に戦闘はナシよ? それに、今は紫雨がうちの子と何かしようとしてるって話を耳にしてるから、変に揉め事は起こさない方がいいわよ」
悠然とした動きで。
百鬼達と一緒の席につく。
「もう一人の彼のためにね。背負っちゃうタイプじゃない、あの子」
「ああ、確かに。ウチのボスは色々と複雑な人だからねー」
アルカがメニューを渡すと、エメレンツィアは紅茶を一つ注文する。
ただし、他の百鬼達はあくまで探るような視線だ。
「ふふ、そんな睨まないで頂戴。私もお茶しに来ただけなのだから。たまたま居た知り合いに声をかけただけよ」
「それはそれは……ご丁寧にどうも」
紅茶を一杯飲むだけの時間が、ひたすらゆっくりに感じられる。
優雅に、しかし互いに鋭いプレッシャーのなかで。
ニコニコとアルカは同じペースでコーヒーを飲み。先にエメレンツィアが席を立つ。
「それじゃね。ごゆっくり♪」
「ええ。メリークリスマス……と一応百鬼の一員として言っておくわ」
会計の際に、プレゼント代わりに相手のお茶代も払っていく。
メリークリスマス&よいお年を。またどこかでお会いしましょ……そんな意味合いを込めて。
●
他の地域にうつった大和はというと。
妖や隔者、憤怒者によって被害にあった家族へ贈り物をしていた。ただし、次々と移動しているうちにアクシデントの方も寄ってくるようで。
「――!」
悲鳴と遠吠え。
妖に襲われた場所は、再び怪物が姿を現す可能性も高いということか。野犬の妖が、一人の男性を襲っているところに出くわす。
「今日はクリスマスよ。今日くらいはお互い争いは避けましょう?」
妖と人の間に、身を躍らせて一閃。
牽制する。すると、怯んだ野犬の妖はそのまま尻尾を巻いて逃げだした。
「た、助かったよ。どうも、ありがとう」
尻餅をついていた男は、大和と同じような活動をしていたのか。
真赤な衣装に白髭で、大きな袋を背負った格好をしていた。
「この辺りも物騒になったねえ。最近は下を向いた人が多くなっている気もするよ」
「……心の傷はすぐに消えるものではないけれど、小さな幸せから少しずつでも心に安らぎが増えていくことを願っているわ」
大和の言葉に。
小太りの男はキョトンとしてから、笑って頷いた。
●
「結城凛さん達の所にも行けるといいのですけれど」
「場所が……分からないですね」
会いたい相手がいても、居場所不明。
里桜とほのかはどうしたものかと、途方に暮れていると……装身具としていたクリスマスケーキが箱ごとこぼれる。あわや地面に落ちるところで、別のところから手が伸びてきた。
「……また、面白い格好をしているな」
「日向さん!」
月夜の死神と呼ばれた男。
日向朔夜がキャッチしたケーキを覚者達に返す。その後ろには何故か誘輔もいる。
「俺もクリスマスケーキを落としたところを、朔夜に拾われてな」
こんな偶然もあるものなのか。
朔夜は黙って、そのまま歩き出した。覚者達は頷いてその後についていく。迷宮のように入り組んだ裏路地を巡り、辿り着いた先は一軒のバーだ。
「初めまして、F.i.V.E.の阿久津 ほのかです」
「あらあら、いらっしゃい。この頃は、色々な人が来るわね」
ほのかの挨拶に、バーの女主人が微笑む。
クリスマスに浮かれたアリスなどは、既にかなり出来上がっていた。
「ありゃ、朔夜先輩。また、F.i.V.E.の人を連れてきたんすか」
「場所が分からないように歩いてきた。問題はない」
朔夜はにべもない。
覚者達は、それぞれ彼らにも贈り物を出してみせた。
「アリスさん達にもクリスマスプレゼントを持ってきたんですよ」
「仲間と一緒に食え、凛のこと頼んだぜ」
「おお! 朔夜さん、ウチにもサンタが来たっすよ!!」
「……アリス、お前ははしゃぎ過ぎだ」
ケーキやお菓子などをもらって、子供のように喜んだのはアリスで、朔夜は助手を残念なものを見るような眼で眺めていた。そんな彼らに、ほのかはもう一歩踏み込む。
「凛ちゃんの元へお邪魔して良いですか?」
「……」
「あんな事があった後ですし……立場上、お互いに悩ましい状況ではありますが。凛ちゃんの事がとても心配なので、せめてプレゼントだけでも置いていきたいです」
「……好きにしろ」
朔夜は上階を指し示す。
三人はギシギシと鳴る階段を上がり、固く閉ざされた扉を叩く。
「凛、入るぞ」
ゆっくりと誘輔がドアを開ける。
真っ暗な部屋。そのベッドの上で、結城凛は膝を抱えて座っていた。
「……ほのかさん、里桜さん、誘輔さん?」
少女が、徐に頭を上げる。
真っ青なその小さな顔は。
戸惑い混乱したように「何故ここに?」と問うていた。
「クリスマプレゼントというかヘクセンハウスを作ったので届けようかしらと……」
「クリスマス……?」
まず、里桜が苦心した自作品を差し出す。
凛は今日が聖夜だと、初めて気づいた様子で目を丸くする。今まで色々なことがあり、大きなショックも受け……夢見の才能を持つ少女は疲弊しきっていた。
「私はちょっとクッキーを急いで手作りしたので、形が悪いかもですけど。少しでも気に入ってもらえるといいな」
ほのかのクッキーは色んな動物な形をしていた。
他には雪の結晶の形をした花の香りがするアロマキャンドルを取りだし、さっそく火を点ける。室内に柔らかい光が灯り、次第に心落ち着く匂いが漂う。
次いで誘輔は、凛にぬいぐるみとある手紙を渡す。
「この手紙には俺が知り得た事実が書いてある」
敵と目していた結城征十郎の事。
凛の両親を殺したと吹聴し凛を狙ったのは、生きる目的を与える為だった事。
読心術で見た心の中は凛との思い出で一杯だった事。
「読む読まねーは自由だ 破り捨ててもいい」
「……」
黙ったまま、凛はじっと封がされた手紙を見つめ。
そのまま、プレゼントのぬいぐるみや動物型のクッキーなどに視線を変じ。最後に里桜作のヘクセンハウスへと……そこにはお菓子の家。そしてサンタや凛や朔夜やアリス、F.i.V.E.の皆に似せたマジパンが並んでいた。
「凛さんは一人じゃないですから……」
「皆さん……素敵なプレゼント、ありがとうございます」
●
クリスマスのイベントで賑わう遊園地。
そこに、結城征十郎はいた。自身の園内に設置された巨大なクリスマスツリーを前にして、仮面の男は変わらずベンチに腰掛けている。
「おや? 君達は確かF.i.V.E.の」
「依頼の報告と少しお話を……」
「ああ、そう言えば君達も手伝ってくれていたらしいね。寒い所、大変なことだね」
手品のように結城会長は、ホットの缶コーヒーを手にし。
ほのかと誘輔に、半ば押し付ける。
「アンタ……凛の父親の影武者だったんだろ。その火傷も……ガキの頃から苦労したんだろうな。煙草は喫うか? 俺でよけりゃ話を聞くぜ」
「ふふ。残念ながら今は願掛けで、禁煙中でね」
差し出した誘輔の煙草を、結城会長は手を振って遠慮してみせる。
だが、本命は次の品だ。
「はいよ アンタにもプレゼントだ」
「これは、また。凝っているね」
誘輔が取り出したのは一枚の写真。
それには……念写で作った凛と素顔の結城征十郎が写っていた。
「勿論こりゃ偽物、捏造だ。けどアンタと凛次第で将来起こり得る事。そして俺の望みだ」
「……」
「アンタは凛の養父と頻繁にすりかわってた。実質アンタのが凛といた時間が長ェなら、アンタこそ凛の親父じゃねーか。なんで争い合ってんのか疑問だね」
「……」
「ガキはあっというまに大きくなる。今の凛に耐えられねーって決め付けるのは早計じゃねえか」
「……」
結城会長が写真に視線を注ぐ姿は、どことなくだが凛に似通っている。
だからこそ、ほのかも自分の意志を真っ直ぐにぶつける。
「どんな事情があっても、嘘をついて自分を恨ませるようにするのは良くないです。この事実をこの先、凛に伝えるか否かは自由だとあなたは言いましたが……本当にあの子の事を思うなら、あなたから伝えるべきだと思います」
「……なるほど。どうやら君達は、私を買い被ってくれているらしい」
仮面を左右に揺らし。
結城征十郎は、覚者達に傷一つない真っ白な掌を向けた。
「数え切れぬほど己が手を汚してきた。そして、これからも汚し続ける。私の手は血だらけで……呪われている」
得体のしれぬ言葉。
そのまま結城会長は立ち上がり、聖夜の空の一点を指した。
「だが、まあ今日は面白いものが見られた……その点は君達に感謝せねばな」
仮面の男が示した先。
そこには――
●
「あれは……」
同時刻。
別々の場所にいた里桜も、レナも、エメレンツィアも。
同じ空を見上げていた。
同じものを見ていた。
それは、ある意味見慣れた光景。雪降る夜に流れる、一筋の光の軌跡。
「サンタクロース?」
大和が呟く。
トナカイが引くソリに乗った赤服の老人。
眩しくて。幻想的で。イメージそのものの存在が頭上の空を駆ける。一番に現実的に考えれば古妖の類か。あるいは……だけれども、一つだけは間違いない。それは今日、大和が妖から助けた男だった。
『メリークリスマス!』
どこからか。
そんな優しい声が聞こえてくる。
聖夜。
街のあちこちで華やかなデコレーションが施され。それぞれが、それぞれのクリスマスを過ごすなか。プレゼントを貰う側ではなく、渡す側としてこれから一仕事をする者達もいる。
「私はまず、妖の被害を受けた地域の方々にプレゼントを配って回ろうと思います! うむむ、衣装はやっぱりサンタさんの格好がいいでしょ~か」
「あ、サンタの服装は……、スカートはロングでお願いします」
「私は、最初からこの格好です」
『ほむほむ』阿久津 ほのか(CL2001276)と、上月・里桜(CL2001274)はさっそく真っ赤なサンタ服に身を包んでいた。『幸運を告げるブラックサンタ』レナ・R・シュバルツベーゼ(CL2001547)などは、着替えるまでもなく元からブラックなサンタコスでキメちゃっている。
「それと、きっと外は寒いので、配って回る方々にカイロをお渡ししておきますね」
ごそごそとほのかは、皆に携帯カイロなど暖がとれるものを手渡した。
天気は良いが、この頃の気温は確かに冷え込むことが多々ある。ところによっては、雪が降っているそうだ。
「ありがとう、助かるわ」
「ふふ、サンタになるクリスマスというのも悪くないわね。楽しい一日にしましょうね」
「サンタのまねごとか……がらじゃねーがたまにゃボランティアもいいな。日頃ゴシップ追いかけてる罪滅ぼしだ。年末くれえいい事しねえと寿命が縮む」
受け取った『月々紅花』環 大和(CL2000477)が、礼を言い。『ファイヴ村管理人農林担当』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)と『ゴシップ探偵』風祭・誘輔(CL2001092)も貰ったカイロを手にしつつ、真っ白な息を吐いた。
そこかしこから、陽気なクリスマスソングが聞こえてくる。
行き交う人々もどこか浮き浮きしているようで。
「あ、サンタさんだ!」
母に手を引かれた子供が、こちらを見つけて興奮したように叫ぶ。
覚者達が抱えた袋の中には、たくさんのプレゼントが詰まっていた。
「さっそく、一人目の良い子にプレゼントですね」
「わあ! ありがとう、サンタさん!!」
レナがラッピングされた玩具入りの箱を一つ、その子供へと渡す。
無邪気にはしゃぐ幼い顔は、喜色満面。
「良い子にはプレゼントを。悪い子にはお仕置きを。けど最終的には皆に幸福を」
それこそが。
先祖代々密かに受け継がれてきた「ブラックサンタ」という役目に誇りを感じている、レナ・R・シュバルツベーゼのモットーだった。
●
「ごきげんよう、ハヅキ。メリークリスマス」
「ああ、エメレンツィアさん……お久しぶりですね」
エメレンツィアは、大きなケーキをもって山奥にいるハヅキを訪ねた。
過去にF.i.V.E.に助けられた夢見の少女は、覚者達に目を向けると僅かに微笑む。
「すねこすりちゃんもこんにちは。はい、クリスマスプレゼント。古妖の皆と一緒に食べて頂戴」
「きゅ!」
「ふふ、この子も人懐っこいわね」
大きなケーキを掲げてからエメレンツィアは、ハヅキの肩にいるすねこすりを優しい手つきで撫でた。小さな古妖は、気持ち良さそうに身を揺らして鳴く。
「FiVEに来て初めて出会った古妖はあなた達だったわね」
ここには、たくさんの小型の古妖達がいるようだった。
大和がクリスマスデコレーションクッキーやクリスマスケーキとツリー、ちょっとした料理とパーティセットを抱えてくると……すねこすり達がどんどんと近寄ってくる。
「ツリーはもう少し大きいものを用意できればよかったのだけれども、個人で運ぶには限界があったわね」
とそこで……足元にふわっと。
転びそうになりながら確認するとすねこすり達。
「あら? 運ぶのを手伝ってくれるのかしら? うれしいわ」
「「「きゅ、きゅ、きゅ、きゅっ!」」」
すねこすりが沢山いるので転ばないように気を付けて。
ハイバランサーでバランスをとって、それから皆が一緒に楽しめるように。古妖達にも手伝ってもらいながらパーティ会場を設置する。
「メリークリスマス」
クリスマスの本来の意味を考えると古妖のみんなには縁が無いことかもしれないけれど時代に合わせた楽しむ日として良い思い出をつくってもらえたらうれしい。
大和は心地よい毛並に囲まれながら、古妖達を目一杯愛で。
エメレンツィアの方は、ハヅキと並んで世間話に花を咲かせた。
「私たちは夢見の力に助けられているの。だから、貴女が困っている事があったら何でも相談して頂戴。力になるわ」
「ありがとうございます。そういえば、F.i.V.E.が関わっている古妖達の村があるらしいですね」
「ああ、ファイヴ村のことね」
ついつい話し込んでしまう。
山中は雪に包まれ、古妖と覚者達は食べて飲んで遊びつくす。時間は、本当にあっという間。
「それじゃ私はいくわね。良いクリスマスを。そうだわ。一度ファイヴ村に遊びにいらっしゃいな。歓迎するわよ」
●
「多くの人達に配れるようにがんばりま~っす!」
ほのかは、張り切って贈り物を配っていく。
「わー! 綺麗なお菓子だ!!」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
子供達にはカラフルなお菓子の詰め合わせと玩具。
「お、可愛いサンタさんだな」
「クリスマスプレゼントも可愛いわね」
大人達には、シュトーレンとミニリースが入ったプレゼント。
「あら、あなたは……確かF.i.V.E.の」
「あ、リゼさん」
途中でミニスカートサンタ姿のAAAとも遭遇する。自分達と同じように、彼女達の部隊がプレゼントを皆に配っている姿には妙なシンパシーを感じる。
(真っ向からプレゼント渡すのは気恥ずかしい)
夜中に、誘輔は表札を見て子供のいそうな家の前や郵便受けにプレゼントを置いていった。
「ガキの頃はプレゼントなんか貰えなかったしな」
一人暮らしの老人宅には宝くじのプレゼントだ。
当たれば、ちょっとは華やぐだろう。
(サンタクロースになるのは、楽しいですね)
里桜は主にあちこちの病院にいる子供達に、プレゼントを配っていた。
プレゼントは各企業が用意してくれた物と、彼女自身が作ったお菓子。ジンジャーマンとジンジャーガール、ツリーの形にアイシングで飾り付けをしたクッキーなど。
(……結城グループも主催企業の中に入っているのですね。あの会長さん、そういうことをする人だったのかしら……? ……凛さんのことも、全然想っていない訳ではなさそうでしたけれど……でも、やり方は納得できませんけれど)
子供達の笑顔に微笑みを返しながらも、今回の主催者のことが頭をよぎる。
正直、気になりはするものの――それは、ともかく。
「そう言えば、長谷川美和子さんはまだ入院中ですよね……」
長谷川美和子は、新人類教会に洗脳されていた覚者だ。
里桜はその妹であり、姉と同じように教化された長谷川園香と交戦したことがあった。自然とその病院へと足が向く。
「長谷川さんに、ご面会ですね。どうぞ、こちらです」
看護師に案内された病室で、美和子は既に眠りに入っていた。
話によると、洗脳の影響で未だ日常生活を行うのは困難で一日の大半はベッドの中であるらしい。
「来年は園香さんと一緒に過ごせるように……」
「……んん……園香」
色違いのお揃いの手袋を、そっと枕元に置く。
幸せな夢でも見ているのか。美和子が妹の名前をそっと呟くのを、里桜は確かに耳にした。
●
「ごきげんようアルカ。メリークリスマス♪ それと鬼崎さんね?」
「F.i.V.E.!!」
エメレンツィアが、とあるカフェを訪れる。
七星剣の百鬼……アルカは、他の面子が臨戦態勢を取ろうとするのを制した。
「鬼崎っち、それに皆も、落ち着いて。今のところ彼女に、敵対の意思はないみたいだから」
「でも、アルカさん!」
「……うっせーな。落ち着けっていってんだよ、カス共っ。クリスマスケーキを持って戦争に来る奴がいるわけねーだろうがっ……殺すぞ?」
部下達が尚も抗弁しようとすると、突如アルカが口調を荒げる。鬼崎百江はというと「相変わらずね……アルカ」と諦めムードであった。
「……まあ、F.i.V.E.の方がここでやるっていうなら容赦しないけどね♪」
瞬時に、アルカの態度が切り替わる。
これこそエメレンツィアの覚えがある百鬼。敵対的な雰囲気を出さぬようせいぜい注意を払っておく。
「あっと、こんな日に戦闘はナシよ? それに、今は紫雨がうちの子と何かしようとしてるって話を耳にしてるから、変に揉め事は起こさない方がいいわよ」
悠然とした動きで。
百鬼達と一緒の席につく。
「もう一人の彼のためにね。背負っちゃうタイプじゃない、あの子」
「ああ、確かに。ウチのボスは色々と複雑な人だからねー」
アルカがメニューを渡すと、エメレンツィアは紅茶を一つ注文する。
ただし、他の百鬼達はあくまで探るような視線だ。
「ふふ、そんな睨まないで頂戴。私もお茶しに来ただけなのだから。たまたま居た知り合いに声をかけただけよ」
「それはそれは……ご丁寧にどうも」
紅茶を一杯飲むだけの時間が、ひたすらゆっくりに感じられる。
優雅に、しかし互いに鋭いプレッシャーのなかで。
ニコニコとアルカは同じペースでコーヒーを飲み。先にエメレンツィアが席を立つ。
「それじゃね。ごゆっくり♪」
「ええ。メリークリスマス……と一応百鬼の一員として言っておくわ」
会計の際に、プレゼント代わりに相手のお茶代も払っていく。
メリークリスマス&よいお年を。またどこかでお会いしましょ……そんな意味合いを込めて。
●
他の地域にうつった大和はというと。
妖や隔者、憤怒者によって被害にあった家族へ贈り物をしていた。ただし、次々と移動しているうちにアクシデントの方も寄ってくるようで。
「――!」
悲鳴と遠吠え。
妖に襲われた場所は、再び怪物が姿を現す可能性も高いということか。野犬の妖が、一人の男性を襲っているところに出くわす。
「今日はクリスマスよ。今日くらいはお互い争いは避けましょう?」
妖と人の間に、身を躍らせて一閃。
牽制する。すると、怯んだ野犬の妖はそのまま尻尾を巻いて逃げだした。
「た、助かったよ。どうも、ありがとう」
尻餅をついていた男は、大和と同じような活動をしていたのか。
真赤な衣装に白髭で、大きな袋を背負った格好をしていた。
「この辺りも物騒になったねえ。最近は下を向いた人が多くなっている気もするよ」
「……心の傷はすぐに消えるものではないけれど、小さな幸せから少しずつでも心に安らぎが増えていくことを願っているわ」
大和の言葉に。
小太りの男はキョトンとしてから、笑って頷いた。
●
「結城凛さん達の所にも行けるといいのですけれど」
「場所が……分からないですね」
会いたい相手がいても、居場所不明。
里桜とほのかはどうしたものかと、途方に暮れていると……装身具としていたクリスマスケーキが箱ごとこぼれる。あわや地面に落ちるところで、別のところから手が伸びてきた。
「……また、面白い格好をしているな」
「日向さん!」
月夜の死神と呼ばれた男。
日向朔夜がキャッチしたケーキを覚者達に返す。その後ろには何故か誘輔もいる。
「俺もクリスマスケーキを落としたところを、朔夜に拾われてな」
こんな偶然もあるものなのか。
朔夜は黙って、そのまま歩き出した。覚者達は頷いてその後についていく。迷宮のように入り組んだ裏路地を巡り、辿り着いた先は一軒のバーだ。
「初めまして、F.i.V.E.の阿久津 ほのかです」
「あらあら、いらっしゃい。この頃は、色々な人が来るわね」
ほのかの挨拶に、バーの女主人が微笑む。
クリスマスに浮かれたアリスなどは、既にかなり出来上がっていた。
「ありゃ、朔夜先輩。また、F.i.V.E.の人を連れてきたんすか」
「場所が分からないように歩いてきた。問題はない」
朔夜はにべもない。
覚者達は、それぞれ彼らにも贈り物を出してみせた。
「アリスさん達にもクリスマスプレゼントを持ってきたんですよ」
「仲間と一緒に食え、凛のこと頼んだぜ」
「おお! 朔夜さん、ウチにもサンタが来たっすよ!!」
「……アリス、お前ははしゃぎ過ぎだ」
ケーキやお菓子などをもらって、子供のように喜んだのはアリスで、朔夜は助手を残念なものを見るような眼で眺めていた。そんな彼らに、ほのかはもう一歩踏み込む。
「凛ちゃんの元へお邪魔して良いですか?」
「……」
「あんな事があった後ですし……立場上、お互いに悩ましい状況ではありますが。凛ちゃんの事がとても心配なので、せめてプレゼントだけでも置いていきたいです」
「……好きにしろ」
朔夜は上階を指し示す。
三人はギシギシと鳴る階段を上がり、固く閉ざされた扉を叩く。
「凛、入るぞ」
ゆっくりと誘輔がドアを開ける。
真っ暗な部屋。そのベッドの上で、結城凛は膝を抱えて座っていた。
「……ほのかさん、里桜さん、誘輔さん?」
少女が、徐に頭を上げる。
真っ青なその小さな顔は。
戸惑い混乱したように「何故ここに?」と問うていた。
「クリスマプレゼントというかヘクセンハウスを作ったので届けようかしらと……」
「クリスマス……?」
まず、里桜が苦心した自作品を差し出す。
凛は今日が聖夜だと、初めて気づいた様子で目を丸くする。今まで色々なことがあり、大きなショックも受け……夢見の才能を持つ少女は疲弊しきっていた。
「私はちょっとクッキーを急いで手作りしたので、形が悪いかもですけど。少しでも気に入ってもらえるといいな」
ほのかのクッキーは色んな動物な形をしていた。
他には雪の結晶の形をした花の香りがするアロマキャンドルを取りだし、さっそく火を点ける。室内に柔らかい光が灯り、次第に心落ち着く匂いが漂う。
次いで誘輔は、凛にぬいぐるみとある手紙を渡す。
「この手紙には俺が知り得た事実が書いてある」
敵と目していた結城征十郎の事。
凛の両親を殺したと吹聴し凛を狙ったのは、生きる目的を与える為だった事。
読心術で見た心の中は凛との思い出で一杯だった事。
「読む読まねーは自由だ 破り捨ててもいい」
「……」
黙ったまま、凛はじっと封がされた手紙を見つめ。
そのまま、プレゼントのぬいぐるみや動物型のクッキーなどに視線を変じ。最後に里桜作のヘクセンハウスへと……そこにはお菓子の家。そしてサンタや凛や朔夜やアリス、F.i.V.E.の皆に似せたマジパンが並んでいた。
「凛さんは一人じゃないですから……」
「皆さん……素敵なプレゼント、ありがとうございます」
●
クリスマスのイベントで賑わう遊園地。
そこに、結城征十郎はいた。自身の園内に設置された巨大なクリスマスツリーを前にして、仮面の男は変わらずベンチに腰掛けている。
「おや? 君達は確かF.i.V.E.の」
「依頼の報告と少しお話を……」
「ああ、そう言えば君達も手伝ってくれていたらしいね。寒い所、大変なことだね」
手品のように結城会長は、ホットの缶コーヒーを手にし。
ほのかと誘輔に、半ば押し付ける。
「アンタ……凛の父親の影武者だったんだろ。その火傷も……ガキの頃から苦労したんだろうな。煙草は喫うか? 俺でよけりゃ話を聞くぜ」
「ふふ。残念ながら今は願掛けで、禁煙中でね」
差し出した誘輔の煙草を、結城会長は手を振って遠慮してみせる。
だが、本命は次の品だ。
「はいよ アンタにもプレゼントだ」
「これは、また。凝っているね」
誘輔が取り出したのは一枚の写真。
それには……念写で作った凛と素顔の結城征十郎が写っていた。
「勿論こりゃ偽物、捏造だ。けどアンタと凛次第で将来起こり得る事。そして俺の望みだ」
「……」
「アンタは凛の養父と頻繁にすりかわってた。実質アンタのが凛といた時間が長ェなら、アンタこそ凛の親父じゃねーか。なんで争い合ってんのか疑問だね」
「……」
「ガキはあっというまに大きくなる。今の凛に耐えられねーって決め付けるのは早計じゃねえか」
「……」
結城会長が写真に視線を注ぐ姿は、どことなくだが凛に似通っている。
だからこそ、ほのかも自分の意志を真っ直ぐにぶつける。
「どんな事情があっても、嘘をついて自分を恨ませるようにするのは良くないです。この事実をこの先、凛に伝えるか否かは自由だとあなたは言いましたが……本当にあの子の事を思うなら、あなたから伝えるべきだと思います」
「……なるほど。どうやら君達は、私を買い被ってくれているらしい」
仮面を左右に揺らし。
結城征十郎は、覚者達に傷一つない真っ白な掌を向けた。
「数え切れぬほど己が手を汚してきた。そして、これからも汚し続ける。私の手は血だらけで……呪われている」
得体のしれぬ言葉。
そのまま結城会長は立ち上がり、聖夜の空の一点を指した。
「だが、まあ今日は面白いものが見られた……その点は君達に感謝せねばな」
仮面の男が示した先。
そこには――
●
「あれは……」
同時刻。
別々の場所にいた里桜も、レナも、エメレンツィアも。
同じ空を見上げていた。
同じものを見ていた。
それは、ある意味見慣れた光景。雪降る夜に流れる、一筋の光の軌跡。
「サンタクロース?」
大和が呟く。
トナカイが引くソリに乗った赤服の老人。
眩しくて。幻想的で。イメージそのものの存在が頭上の空を駆ける。一番に現実的に考えれば古妖の類か。あるいは……だけれども、一つだけは間違いない。それは今日、大和が妖から助けた男だった。
『メリークリスマス!』
どこからか。
そんな優しい声が聞こえてくる。

■あとがき■
クリスマスシナリオに、ご参加ありがとうございました。
そして今年も、よろしくお願いします。
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そして今年も、よろしくお願いします。
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