五里霧中の捜索
●五里霧中の捜索
ここ数か月のうち、身内を失い絶望したものを唆し、凶行へと走らせた事件が二件発生した。
覚者達はその事件を無事解決し、裏で糸を引く者の情報を見事手に入れることに成功する。
エリス・レンバート。
ある宗教団体のトップである彼女が、二つの事件の黒幕であることが判明した。
だが、エリス・レンバートが行ったのは、あくまで『言葉による誘導』。
そんなつもりはなかったと白を切られてしまえば、そこで終わり。
つまり、積極的にF.i.V.E.が介入できるほどの根拠が存在しないのである。
「そこで、だ。今回、君達にはエリス・レンバートが居を構える屋敷に侵入。何らかの証拠を持ち出してきてほしい」
中 恭介(nCL2000002)はそう言う。
だが、証拠と言えども、何の証拠と言うのか。
「正直言えば、それすらも判然としないのが実情だ。エリス・レンバートが意図的に殺人ほう助を行っているという証拠か……あるいは、調査中のエージェントから、団体の信徒たちに怪しい動きがあるという報告も受けている。その根拠となるモノを見つけ出すか……どちらにしても、F.i.V.E.が介入できる根拠を入手してもらいたい」
ひどい話だな、と中は自嘲気味に言った。
「エリス・レンバートに関しては、此方から動けるだけの根拠が乏しい。だが、奴が事件を引き起こした事もまた事実だ。難しい……いや、無茶苦茶な依頼だとは思うが、頼む……最悪、エリス・レンバートと対話して帰ってくるだけでも構わない。もしかしたら、何か得られるかもしれないからな……」
とにかく、と中は言うと、
「こちらが欲しいのは、同団体における情報だ。どんなことでもいい。どうか、探ってきてほしい」
そう言って、頭を下げた。
ここ数か月のうち、身内を失い絶望したものを唆し、凶行へと走らせた事件が二件発生した。
覚者達はその事件を無事解決し、裏で糸を引く者の情報を見事手に入れることに成功する。
エリス・レンバート。
ある宗教団体のトップである彼女が、二つの事件の黒幕であることが判明した。
だが、エリス・レンバートが行ったのは、あくまで『言葉による誘導』。
そんなつもりはなかったと白を切られてしまえば、そこで終わり。
つまり、積極的にF.i.V.E.が介入できるほどの根拠が存在しないのである。
「そこで、だ。今回、君達にはエリス・レンバートが居を構える屋敷に侵入。何らかの証拠を持ち出してきてほしい」
中 恭介(nCL2000002)はそう言う。
だが、証拠と言えども、何の証拠と言うのか。
「正直言えば、それすらも判然としないのが実情だ。エリス・レンバートが意図的に殺人ほう助を行っているという証拠か……あるいは、調査中のエージェントから、団体の信徒たちに怪しい動きがあるという報告も受けている。その根拠となるモノを見つけ出すか……どちらにしても、F.i.V.E.が介入できる根拠を入手してもらいたい」
ひどい話だな、と中は自嘲気味に言った。
「エリス・レンバートに関しては、此方から動けるだけの根拠が乏しい。だが、奴が事件を引き起こした事もまた事実だ。難しい……いや、無茶苦茶な依頼だとは思うが、頼む……最悪、エリス・レンバートと対話して帰ってくるだけでも構わない。もしかしたら、何か得られるかもしれないからな……」
とにかく、と中は言うと、
「こちらが欲しいのは、同団体における情報だ。どんなことでもいい。どうか、探ってきてほしい」
そう言って、頭を下げた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『FiVEが介入するに値する根拠』を手に入れる
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●状況
皆さんには、エリス・レンバートが居を構える屋敷に赴き、情報を探ってもらいます。
屋敷にはエリス・レンバート以外存在せず、エリス・レンバートを足止めできれば、ある程度自由に屋敷内を探索することができます。
屋敷は売りに出されていた格安の物件を買い取ったものらしく、そこここにガタが来ている程度には古めかしい建物です。
間取りは省きますが、建物内には以下の部屋が存在します。
一階
礼拝堂
一階の中央に存在する部屋です。信徒たちなどがここでお祈りをささげたりします。
応接室
礼拝堂の左隣に存在します。
エリス・レンバートが信徒の悩み相談などを受ける時に使用する部屋です。
もし、エリス・レンバートに会話を持ちかけた場合、エリス・レンバートと会話を持ちかけたキャラは、この部屋で会話を行うことになります。会話は1キャラ当たり30分ほどで終了します。
エリス・レンバートは、どんな質問にも答えます。それが本当かどうかは
よほどのこと――突然襲い掛かったりとか――がない限り、この会話が原因で戦闘に発展することはありません。
休憩室
礼拝堂の右隣に存在します。
信徒たちの憩いの場になっている、ちょっとした休憩スペースです。
地下一階
地下倉庫
地下に唯一存在する部屋です。頑丈な鍵がかかっています。
二階
エリス・レンバートの私室
エリスの私室です。入り口には鍵がかかっています。
日記やパソコン、私物などが置いてあるでしょう。
パソコンは海外から持ち込んだもので、インターフェイス等英語で記されているものとします。
機能としては存在するものの、インターネットには接続されていません。
書庫
膨大な数の本が納められた書庫です。主に宗教関連の書物が所蔵されています。
調査について
ある1部屋を1人で調査するためには、1時間かかります。
同じ部屋を複数人で調査する場合、人数×10分短縮できます。
もし、何らかの適切なスキル、道具を持ち込んだ場合、さらに10分短縮できるものとします。
なお、エリス・レンバートは覚者です。
現時点において戦闘能力は不明ですが、仮に戦闘になった場合、それ相応に難易度は引きあがります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年02月03日
2017年02月03日
■メイン参加者 8人■

●幽霊の問い
「ずうっと考えてても答えが出なくてね。是非ともお宅の言葉で教えておくれ」
七畳ほどの応接室でソファに浅く腰掛けながら、緒形 逝(CL2000156)は、目の前の女性――エリス・レンバートへと問いかけた。
曰く。皆が見ている自分は幽霊であると。
「9割は嘘で出来ていて、残りの1割は故人のものなのよ」
1割を構成する《故人》とは自分自身のことであり、どういう訳か、とうの昔に死んでいた、と語る。
冗談めかした口調ではあったが、逝は本心を告げている。
「じゃあ……故人でもなければ幽霊でもない、此処に居るのは誰なんだ? 如何すれば分かるだろうか?」
「まぁ。哲学的な問いですわね」
エリスは頬に人差し指を当て、首を傾げた。仕草こそ子供じみていたが、そこに嘲りや侮蔑がない事を、逝は感じ取っていた。エリスは、どう答えるべきかを、本気で悩んでいる。
「月並みなお答えになってしまうかもしれませんけれど――」
しばしの黙考の後、エリスが答えた。
「貴方は、貴方である。わたくしはこう考えますわ」
「確かに、月並みではあるわね」
「お力になれなかったのならごめんなさい。ですが、例えば、あなたを取り巻くすべてが幻だったとしても、悩む『あなた』は『あなた』として存在している」
「コギト・エルゴ・スムって奴かね?
「わたくしの言葉、では無くなってしまいましたわね」
エリスは苦笑して答えた。
●探索1
「彼女には毒気がないさね」
エリスとの面談後、地下室へと向かった逝が、合流した仲間たちへ言った。
地下室には『希望を照らす灯』七海 灯(CL2000579)と中田・D・エリスティア(CL2001512)が先行して調査を続けている。
「だから……なんというかね、逆に不気味ではある」
「罪悪感がない……それとも、緒方さんは標的にされなかったのでしょうか?」
灯の問いに、逝は「分からない」と首を振った。
「ところで、地下倉庫は何か見つかったかね?」
エリスティアは頷くと、地下倉庫の奥を指さした。
雑多に物の積まれた地下倉庫の奥。
そこにあるものを見て、逝は思わず呻いた。
「……なぁに考えてるんだろうねぇ、聖女様は」
そこには、数匹の生物系の妖が、頑丈な檻に押し込まれていた。
●狂気と狂気
『”狂気”に応ずる者』春野 桜(CL2000257)は自身の過去を簡単に語った。
隔者による事件。奪われたモノ。そして、それを取り返すための今の自分の生き方。
「私から全てを奪ったクズ。それと同じようなクズを狩り続けても彼が帰って来ないのよ」
敵を狩る度に、彼の声が近くなる。でも彼は帰ってこない。
「……やっぱり殺し足りないのかしらね。でも、最近は止められる事も多い……味方、のはずの人達から」
ねぇ、と桜は前置きしてから、
「邪魔をするって事は私から奪ったクズと同じ敵なのかしら? ねえ? どう思う? 私は為に、彼の為に――」
殺すべきかしら? そう問うた瞬間。
「素晴らしいですわ!」
ぱん、と手を叩き、エリスは嬉しそうに言った。
「素晴らしい……?」
「だってあなたは、こんなにも酷い絶望にまみれて、それでもなお試練に応えようとしている! あなたは――」
エリスは嬉しそうに――満面の笑みで、
「こんなにも神に愛されている!」
「何を言って――」
桜の言葉を遮りながら、エリスはソファから身を乗り出した。ローテーブル越しに桜の手を握り、
「そうしたいとあなたが思うのなら、そうするべきですわ! だって試練とは、己の意思で以て乗り越えるものですもの! 多くの人が、人が規定した常識や倫理で自分の意思を押し込めてしまう。それではダメ。ダメなのです。重要なのは自分がどうするべきか自分で決める事。あなたは、それを本当は分かっているのでしょう? あなたは――」
一息にそう言い切る。何らかの技術か、威圧感と妙な説得力を感じる。
「あなたの思うが儘に振舞って。わたくしは、心からそれを応援いたしますわ」
本当に。心底嬉しそうに。エリスはそう言った。
●探索2
「ある意味自白を引き出したようなものかしら。殺人ほう助よね」
休憩室。調査していた灯と『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261)、『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)と合流した桜は、エリスとの会話についてかいつまんで解説した後、そう言った。
「なんてことを聞いているんです。所で、実行しませんよね?」
玲の問いに、桜は、
「うふふ」
と、微笑を返した。
桜は退出するミュエルから、休憩室の観葉植物の記憶を読み取る作業を引き継いだ。
読み取れたのは、ここ一週間に行われた会話の羅列。一週間のみとは言え膨大な数である。その中から意味ありげなワードを掬い出した。
『何とか捕獲して地下へ持ち込みました。人々に救いの試練を』
●絶望の聖女と希望のガーベラ
「お話するのは……アタシの、パパのこと……」
ミュエルが口を開く。エリスとは、目を合わせなかった。
落ち込んでいる演技もあったが、目を合わせれば飲み込まれそうなプレッシャーがあった。やはり、エリスはなんらかのスキルを持っているのだろう。
手にしたお守りを強く握る。気をしっかり持て、と自分に言い聞かせる。
「アタシのパパ……外国人だから、地元では浮いた存在で……」
周囲から、孤立していた。そして、ミュエルが覚者となってからは、覚者を嫌う人間からも攻撃を受けたのだ、と語る。
もちろん、全て誇張しての発言だ。実際に国籍や覚者についてのトラブルがあった事は事実だが、精々1人や2人、突っかかってくる人間がいた、と言った所が事実である。
「……お父様もおつらい経験をされているようですが、明石様、あなたはどうですの?」
穏やかな口調で、エリスが尋ねる。
「アタシは……その、やっぱり……友達とか、出来なくて……」
「そうですのね……孤独は辛い物。お父様も、あなたも、よく耐えましたわね」
エリスは悲しそうな顔をしている。本心か、ポーズか、そこまではミュエルには分からなかった。
「あなたは、これからどうされたいのです?」
「どう、って……?」
ミュエルが思わず、顔をあげた。エリスがにっこりと笑う
「お父様の力になりたい。友達が欲しい……他には――」
そこで言葉を切る。エリスが、ミュエルの瞳を覗く。
「あなたの本心を。ありのままのあなたを、教えてくださいな」
すべてを見透かされそうな恐怖を覚えて、ミュエルは再び視線を落とした。
●探索3
東雲 梛(CL2001410)へと送受信で連絡を入れ終えたミュエルは、礼拝堂で一息ついていた。
まだ胸が早鐘を打っていた。エリスの言葉は、ひどく優しく、甘く、精神に絡みつく。もし自分が本当に悩み相談に来ていたのなら、そのまま取り込まれてしまったかもしれない。そう思うほどに。
――怖い、けど……。
胸中で呟いた。
面談中、ずっと握りしめていたお守りを見つめる。
――負けるわけには、いかない……よね。
ミュエルは頷くと、探索を再開した。
●逃避か、優しさか
「ええと……実は色々あって今、故郷から離れて暮らしている。俺のせいで大事な奴をまた傷つけてしまいそうで、それが怖くて」
梛は、自身の経歴を簡単に説明した。自身の境遇、現在の心境。すべてを曝け出すつもりはないので、断片的に。
「俺は逃げていると思う。俺はこれからどうすればいいかな」
あんただったらどうする? そう尋ねる。エリスは頷くと、
「わたくしでしたら、という問いにはあまり意味はないと思いますわ。重要なのは、あなたがどうしたいか、だとわたくしは考えておりますのよ」
「そうかな……参考になるかと思ったんだけど」
「余計な情報は、あなた自身の判断を鈍らせる要因になりますわ。あなたが試練を受け、それを乗り越えるために必要なのは、あなた自身の決断なのですから」
「試練、ね。それがあんたたちの神様の教え?」
梛が言った。彼はエリスの言葉に囚われないよう、一歩身を引いて今の状況を俯瞰しようと努めていた。
「ええ。ご興味がありましたら、詳しく説明いたしますが……今は、あなたの悩みを」
エリスが笑顔で答える。梛は少し、顔をしかめた。
●一つの考え
「俺は男が好きになれないんだ。仕事柄、ずっと模倣する対象だったからな」
エリスティアはエリスへの相談として、この話題を選んだ。
本心ではあるが、本気で悩んでいるわけではない。こういった質問をする事で、相手の考え方を引き出したいという狙いだ。
「それは、恋愛対象として男性を見ることができない、という事でしょうか」
小首をかしげつつエリスが尋ねる。
「そうだな……まぁ、そう思ってもらって構わないぜ」
と、エリスティア。エリスはふむ、と唸ると、
「あなたが必要としないのであれば、それでよいと思いますわ。一般的な恋愛観から外れていることを異常ととらえてしまっているのであれば、それは間違いかと」
「間違いかい?」
「ええ、重要なのは、あなたがどうしたいか、だと思いますわ」
エリスが笑う。
「ところで、仕事柄、と言いましたが、どのようなお仕事を?」
「ん……あ、ああ。劇団でね。男役をやっているんだ」
「ふふ、なるほど。良ければ、お話を聞かせていただけます?」
●探索4
「見事に、普通に人生相談を受けた、という感じだったな」
エリスの私室にて。パソコンを起動しながら、エリスティアが言った。
「それでも、やっぱりこっちを探ろうとする感じはあったかな」
画面を見つめながら、梛が答える。
「さて、重要そうなファイルはあるかい? 起動と操作は問題なくできるけど、流石に中身はね」
エリスティアの問いに、
「この辺は経理資料かな……片っ端から写真にとっていこう」
と、梛。
「了解っ、と……そうそう、日記の方はどうだったんだ?」
「ああ、面白そうな内容があったよ。どうも聖女様、七星剣と接触してるらしい」
●喪失への忌避
「実は、親友がこの前大怪我して……今にも死んでしまいそうな重症でね」
玲はエリスの目を見ながら、そう言った。
「……その時に僕は言いようのない不安に襲われたんだ。このままじゃ親友が僕の前から消えてしまうんじゃないかって……親友も無茶する人だから」
言いながら、エリスの一挙手一投足を探る。この話題のどこに関心を示したか。どう感じているのか。可能な限り、全てを拾い取るつもりで、エリスを観察する。
「だから……一瞬思ってしまったんだ。いっその事、親友を監禁して無茶しない様にすればいいと」
一瞬、エリスの表情が変わったような気がした。
「……こんな僕はおかしいのかな? 一度力を暴走させて両親を殺しちゃってるから、身内を失うのが怖いんだ……」
両親にはネグレクトを受けていたのでどうでもいいけれど、と結ぶ。
「ふふ……ユニークなご意見ですわね。監禁してでも、とは」
くすくすと。エリスは笑った。
「ああ、ごめんなさい。否定しているわけでも、馬鹿にしているわけでもありませんの。今日はステキなお客さんが多くて、つい。ふふ、それも一つの手だと思いますわ」
「肯定してくれるんです?」
「わたくしは、あなたが本当にやりたいと思った事を応援するだけですわ。それこそが、試練を越えるための唯一の手段なのですから」
「……試練、ってなんなの?」
「神より与えられる試練ですわ。あなたが今受けているもの。そして、全ての人がやがて受け、救いを得るためのもの」
エリスは真面目に、そう言っている様子だった。
●正義と正義
――あはは、やっべえな顔つるわ。
『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)が内心ぼやいた。
不自然なほどの笑顔で、エリスに相対する。
「いやー、友達がな。天羽々矢っての使って、悪い人殺そうとしていたんだよ」
あくまで笑顔で。
「いやあ、あれは素晴らしい光景だったね。俺はいつの間にか気を失っていたけれど、彼女の姿は今でも覚えている」
相手の様子を探りつつ、嘘で塗り固めた言葉を吐き出す。
「俺も家族がいない分、家族を殺した奴等を憎んでいるさ。だから、あんな力あればいいなと。……あんたは、その力をくれる人?」
その言葉に、エリスは苦笑しつつ答える。
「わたくしは、何も武器商人ではありませんわよ」
「でも、彼女には武器を渡したんだろ?」
「わたくしが渡すのは≪お守り≫ですわ。それに、わたくしは試練に臨む人の手助けをするだけですのよ」
「俺は手助けするに値しない?」
「それを決めるには、あなたの事をもっとよく知る必要がありますわ。あなたの本当のことを。まだ時間はありますし、ゆっくりと、話していただけます?」
――見透かされたか。流石にわざとらしすぎたかね。
ジャックが内心で呟く。
――まぁ、いい。ギリギリまでこいつから情報を引き出してやる。
ジャックはエリスの目を見つめた。
●探索5
「試練、って言うのは、ここの人達独自の概念なんですかね」
書庫でそれらしい本にあたりをつけつつ調べながら、玲は言った。
「俺も言われたわー。その辺関係する本はあるのかな」
ジャックが答える。
調べた限り、エリスの教えの様なものをまとめた書物はない様だ。すべて彼女の頭の中に入っている、という事なのだろうか。
「一応、その他の宗教、神話関係でそれっぽい物は確認しておきます」
「よろしく、こっちも探しとく。……そろそろ七海ちゃんの番か。ラストスパート、しっかり探さんとね」
時計を眺めながら、ジャックが言った。
●光へ誘う、闇へ誘う
「はじめまして、七海 灯です。ある事件についての調査で、F.i.V.E.から来ました」
灯は素直にそう言った。エリスはその言葉に、まぁ、と感嘆の声を上げると、
「F.i.V.E.からのお客様なんて! 光栄ですわ。……あら、それじゃあ、今日のお客様はもしかして」
「いえ、私とは無関係ですよ」
「ふふ、ではそういう事にしておきますわね。所で、事件、とは?」
灯は、かつてF.i.V.E.が解決した二つの事件について、かいつまんで説明した。もちろん、自分達が解決したとは言わず、匿名の情報提供があった、と言うことにした。
「ええ、その2人がわたくしの元に訪れたのは事実ですわ。……まさか破綻者になってしまうとは」
「……破綻者にしたのは、意図的ではない、という事ですか?」
「わたくしが2人を援助したことは確かですわ。ですが、意図的に破綻者へ仕立てるなど」
どうやら、嘘はついてはいないようではある。つまり、2人が破綻者となってしまった事は、本当に偶然なのだろう。とは言え、2人を凶行へと走らせたことについては否定はしていないが。
「……次の質問なのですが、あなたはどうしてこのような事を?」
「それが神の試練だからですわ」
「あなたの説く教義、それに関連する事なのですね?」
エリスは頷いた。
「教えていただけませんか? あなたの説く教えと言う物を」
「そうですわね。ひどく単純な話ですわ。わたくし達は、神に与えられし絶望の試練を受けることによって、はじめて救いを得られると考えておりますの」
「……えっ?」
「つまり……この世が絶望と悲哀でまみれれば、遍くすべての人類は救済される。ああ、でも、その試練には、きちんと自らの意思で立ち向かわなければなりません。件のお2人も自身の気持ちを押し殺し、試練から逃げ、ただ耐える事で無為に時を過ごそうとしました。だからわたくしは手を差し伸べたのです」
「ちょっと……待ってください? じゃあ、あなたは」
灯は、つばを飲み込んだ。
「人を救っているつもりなのですか? 絶望した人を、さらに追い込むことによって?」
「つもり、ではなく、それこそが神の愛ですから」
不思議そうな顔で、エリスは言った。
「神は私達を愛しています。ですが、神は時に絶望の試練を与える。無意味で理不尽な絶望。いいえ、無意味なんて嘘。それには意味が必ずあるはずなのです。だって、神は私達を愛しているんですもの。無意味な試練などお与えになるはずがない。ならば、その試練を受ける事こそが神の愛への答えであり――ひいては救済の道へとつながる」
灯の背筋におぞけが走った。
あまりにも悍ましい、深淵の虚、その底の底を覗いたような感覚。
「し、七星剣に連絡を取ったという話が――」
「ええ。組織内で権力を持っているわけではありませんが、わたくしも一応一員として……認められているのかしら?」
「ど、どうしてですか!? 彼らは――」
「ええ、きっとひどい絶望をまき散らすのでしょうね。なんてすばらしい。多くの人々が、彼らの振りまく絶望により救われるのでしょう!」
エリスが首を傾げた。笑顔で。
「何か間違っていますか?」
「そんな。それは」
「何か間違っていますか?」
「それは、手段と目的が入れ替わっています!」
「お時間ですね」
エリスが言った。灯は、自身が汗をかいていた事に気が付いた。
「さようなら、F.i.V.E.の覚者さん。わたくし自身は、F.i.V.E.には悪感情を抱いてはいませんわ。だって同じ、人を救おうとするものですものね。できれば、共存していきたいとも思っています」
●帰路
最後の面談を終えた覚者達は、無事屋敷からの帰路へとついた。
様々な情報を得、様々な思いを抱いただろう。
今はひとまずすべてを持ち帰り、情報を突き合わせる時間が必要だった。
「ずうっと考えてても答えが出なくてね。是非ともお宅の言葉で教えておくれ」
七畳ほどの応接室でソファに浅く腰掛けながら、緒形 逝(CL2000156)は、目の前の女性――エリス・レンバートへと問いかけた。
曰く。皆が見ている自分は幽霊であると。
「9割は嘘で出来ていて、残りの1割は故人のものなのよ」
1割を構成する《故人》とは自分自身のことであり、どういう訳か、とうの昔に死んでいた、と語る。
冗談めかした口調ではあったが、逝は本心を告げている。
「じゃあ……故人でもなければ幽霊でもない、此処に居るのは誰なんだ? 如何すれば分かるだろうか?」
「まぁ。哲学的な問いですわね」
エリスは頬に人差し指を当て、首を傾げた。仕草こそ子供じみていたが、そこに嘲りや侮蔑がない事を、逝は感じ取っていた。エリスは、どう答えるべきかを、本気で悩んでいる。
「月並みなお答えになってしまうかもしれませんけれど――」
しばしの黙考の後、エリスが答えた。
「貴方は、貴方である。わたくしはこう考えますわ」
「確かに、月並みではあるわね」
「お力になれなかったのならごめんなさい。ですが、例えば、あなたを取り巻くすべてが幻だったとしても、悩む『あなた』は『あなた』として存在している」
「コギト・エルゴ・スムって奴かね?
「わたくしの言葉、では無くなってしまいましたわね」
エリスは苦笑して答えた。
●探索1
「彼女には毒気がないさね」
エリスとの面談後、地下室へと向かった逝が、合流した仲間たちへ言った。
地下室には『希望を照らす灯』七海 灯(CL2000579)と中田・D・エリスティア(CL2001512)が先行して調査を続けている。
「だから……なんというかね、逆に不気味ではある」
「罪悪感がない……それとも、緒方さんは標的にされなかったのでしょうか?」
灯の問いに、逝は「分からない」と首を振った。
「ところで、地下倉庫は何か見つかったかね?」
エリスティアは頷くと、地下倉庫の奥を指さした。
雑多に物の積まれた地下倉庫の奥。
そこにあるものを見て、逝は思わず呻いた。
「……なぁに考えてるんだろうねぇ、聖女様は」
そこには、数匹の生物系の妖が、頑丈な檻に押し込まれていた。
●狂気と狂気
『”狂気”に応ずる者』春野 桜(CL2000257)は自身の過去を簡単に語った。
隔者による事件。奪われたモノ。そして、それを取り返すための今の自分の生き方。
「私から全てを奪ったクズ。それと同じようなクズを狩り続けても彼が帰って来ないのよ」
敵を狩る度に、彼の声が近くなる。でも彼は帰ってこない。
「……やっぱり殺し足りないのかしらね。でも、最近は止められる事も多い……味方、のはずの人達から」
ねぇ、と桜は前置きしてから、
「邪魔をするって事は私から奪ったクズと同じ敵なのかしら? ねえ? どう思う? 私は為に、彼の為に――」
殺すべきかしら? そう問うた瞬間。
「素晴らしいですわ!」
ぱん、と手を叩き、エリスは嬉しそうに言った。
「素晴らしい……?」
「だってあなたは、こんなにも酷い絶望にまみれて、それでもなお試練に応えようとしている! あなたは――」
エリスは嬉しそうに――満面の笑みで、
「こんなにも神に愛されている!」
「何を言って――」
桜の言葉を遮りながら、エリスはソファから身を乗り出した。ローテーブル越しに桜の手を握り、
「そうしたいとあなたが思うのなら、そうするべきですわ! だって試練とは、己の意思で以て乗り越えるものですもの! 多くの人が、人が規定した常識や倫理で自分の意思を押し込めてしまう。それではダメ。ダメなのです。重要なのは自分がどうするべきか自分で決める事。あなたは、それを本当は分かっているのでしょう? あなたは――」
一息にそう言い切る。何らかの技術か、威圧感と妙な説得力を感じる。
「あなたの思うが儘に振舞って。わたくしは、心からそれを応援いたしますわ」
本当に。心底嬉しそうに。エリスはそう言った。
●探索2
「ある意味自白を引き出したようなものかしら。殺人ほう助よね」
休憩室。調査していた灯と『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261)、『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)と合流した桜は、エリスとの会話についてかいつまんで解説した後、そう言った。
「なんてことを聞いているんです。所で、実行しませんよね?」
玲の問いに、桜は、
「うふふ」
と、微笑を返した。
桜は退出するミュエルから、休憩室の観葉植物の記憶を読み取る作業を引き継いだ。
読み取れたのは、ここ一週間に行われた会話の羅列。一週間のみとは言え膨大な数である。その中から意味ありげなワードを掬い出した。
『何とか捕獲して地下へ持ち込みました。人々に救いの試練を』
●絶望の聖女と希望のガーベラ
「お話するのは……アタシの、パパのこと……」
ミュエルが口を開く。エリスとは、目を合わせなかった。
落ち込んでいる演技もあったが、目を合わせれば飲み込まれそうなプレッシャーがあった。やはり、エリスはなんらかのスキルを持っているのだろう。
手にしたお守りを強く握る。気をしっかり持て、と自分に言い聞かせる。
「アタシのパパ……外国人だから、地元では浮いた存在で……」
周囲から、孤立していた。そして、ミュエルが覚者となってからは、覚者を嫌う人間からも攻撃を受けたのだ、と語る。
もちろん、全て誇張しての発言だ。実際に国籍や覚者についてのトラブルがあった事は事実だが、精々1人や2人、突っかかってくる人間がいた、と言った所が事実である。
「……お父様もおつらい経験をされているようですが、明石様、あなたはどうですの?」
穏やかな口調で、エリスが尋ねる。
「アタシは……その、やっぱり……友達とか、出来なくて……」
「そうですのね……孤独は辛い物。お父様も、あなたも、よく耐えましたわね」
エリスは悲しそうな顔をしている。本心か、ポーズか、そこまではミュエルには分からなかった。
「あなたは、これからどうされたいのです?」
「どう、って……?」
ミュエルが思わず、顔をあげた。エリスがにっこりと笑う
「お父様の力になりたい。友達が欲しい……他には――」
そこで言葉を切る。エリスが、ミュエルの瞳を覗く。
「あなたの本心を。ありのままのあなたを、教えてくださいな」
すべてを見透かされそうな恐怖を覚えて、ミュエルは再び視線を落とした。
●探索3
東雲 梛(CL2001410)へと送受信で連絡を入れ終えたミュエルは、礼拝堂で一息ついていた。
まだ胸が早鐘を打っていた。エリスの言葉は、ひどく優しく、甘く、精神に絡みつく。もし自分が本当に悩み相談に来ていたのなら、そのまま取り込まれてしまったかもしれない。そう思うほどに。
――怖い、けど……。
胸中で呟いた。
面談中、ずっと握りしめていたお守りを見つめる。
――負けるわけには、いかない……よね。
ミュエルは頷くと、探索を再開した。
●逃避か、優しさか
「ええと……実は色々あって今、故郷から離れて暮らしている。俺のせいで大事な奴をまた傷つけてしまいそうで、それが怖くて」
梛は、自身の経歴を簡単に説明した。自身の境遇、現在の心境。すべてを曝け出すつもりはないので、断片的に。
「俺は逃げていると思う。俺はこれからどうすればいいかな」
あんただったらどうする? そう尋ねる。エリスは頷くと、
「わたくしでしたら、という問いにはあまり意味はないと思いますわ。重要なのは、あなたがどうしたいか、だとわたくしは考えておりますのよ」
「そうかな……参考になるかと思ったんだけど」
「余計な情報は、あなた自身の判断を鈍らせる要因になりますわ。あなたが試練を受け、それを乗り越えるために必要なのは、あなた自身の決断なのですから」
「試練、ね。それがあんたたちの神様の教え?」
梛が言った。彼はエリスの言葉に囚われないよう、一歩身を引いて今の状況を俯瞰しようと努めていた。
「ええ。ご興味がありましたら、詳しく説明いたしますが……今は、あなたの悩みを」
エリスが笑顔で答える。梛は少し、顔をしかめた。
●一つの考え
「俺は男が好きになれないんだ。仕事柄、ずっと模倣する対象だったからな」
エリスティアはエリスへの相談として、この話題を選んだ。
本心ではあるが、本気で悩んでいるわけではない。こういった質問をする事で、相手の考え方を引き出したいという狙いだ。
「それは、恋愛対象として男性を見ることができない、という事でしょうか」
小首をかしげつつエリスが尋ねる。
「そうだな……まぁ、そう思ってもらって構わないぜ」
と、エリスティア。エリスはふむ、と唸ると、
「あなたが必要としないのであれば、それでよいと思いますわ。一般的な恋愛観から外れていることを異常ととらえてしまっているのであれば、それは間違いかと」
「間違いかい?」
「ええ、重要なのは、あなたがどうしたいか、だと思いますわ」
エリスが笑う。
「ところで、仕事柄、と言いましたが、どのようなお仕事を?」
「ん……あ、ああ。劇団でね。男役をやっているんだ」
「ふふ、なるほど。良ければ、お話を聞かせていただけます?」
●探索4
「見事に、普通に人生相談を受けた、という感じだったな」
エリスの私室にて。パソコンを起動しながら、エリスティアが言った。
「それでも、やっぱりこっちを探ろうとする感じはあったかな」
画面を見つめながら、梛が答える。
「さて、重要そうなファイルはあるかい? 起動と操作は問題なくできるけど、流石に中身はね」
エリスティアの問いに、
「この辺は経理資料かな……片っ端から写真にとっていこう」
と、梛。
「了解っ、と……そうそう、日記の方はどうだったんだ?」
「ああ、面白そうな内容があったよ。どうも聖女様、七星剣と接触してるらしい」
●喪失への忌避
「実は、親友がこの前大怪我して……今にも死んでしまいそうな重症でね」
玲はエリスの目を見ながら、そう言った。
「……その時に僕は言いようのない不安に襲われたんだ。このままじゃ親友が僕の前から消えてしまうんじゃないかって……親友も無茶する人だから」
言いながら、エリスの一挙手一投足を探る。この話題のどこに関心を示したか。どう感じているのか。可能な限り、全てを拾い取るつもりで、エリスを観察する。
「だから……一瞬思ってしまったんだ。いっその事、親友を監禁して無茶しない様にすればいいと」
一瞬、エリスの表情が変わったような気がした。
「……こんな僕はおかしいのかな? 一度力を暴走させて両親を殺しちゃってるから、身内を失うのが怖いんだ……」
両親にはネグレクトを受けていたのでどうでもいいけれど、と結ぶ。
「ふふ……ユニークなご意見ですわね。監禁してでも、とは」
くすくすと。エリスは笑った。
「ああ、ごめんなさい。否定しているわけでも、馬鹿にしているわけでもありませんの。今日はステキなお客さんが多くて、つい。ふふ、それも一つの手だと思いますわ」
「肯定してくれるんです?」
「わたくしは、あなたが本当にやりたいと思った事を応援するだけですわ。それこそが、試練を越えるための唯一の手段なのですから」
「……試練、ってなんなの?」
「神より与えられる試練ですわ。あなたが今受けているもの。そして、全ての人がやがて受け、救いを得るためのもの」
エリスは真面目に、そう言っている様子だった。
●正義と正義
――あはは、やっべえな顔つるわ。
『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)が内心ぼやいた。
不自然なほどの笑顔で、エリスに相対する。
「いやー、友達がな。天羽々矢っての使って、悪い人殺そうとしていたんだよ」
あくまで笑顔で。
「いやあ、あれは素晴らしい光景だったね。俺はいつの間にか気を失っていたけれど、彼女の姿は今でも覚えている」
相手の様子を探りつつ、嘘で塗り固めた言葉を吐き出す。
「俺も家族がいない分、家族を殺した奴等を憎んでいるさ。だから、あんな力あればいいなと。……あんたは、その力をくれる人?」
その言葉に、エリスは苦笑しつつ答える。
「わたくしは、何も武器商人ではありませんわよ」
「でも、彼女には武器を渡したんだろ?」
「わたくしが渡すのは≪お守り≫ですわ。それに、わたくしは試練に臨む人の手助けをするだけですのよ」
「俺は手助けするに値しない?」
「それを決めるには、あなたの事をもっとよく知る必要がありますわ。あなたの本当のことを。まだ時間はありますし、ゆっくりと、話していただけます?」
――見透かされたか。流石にわざとらしすぎたかね。
ジャックが内心で呟く。
――まぁ、いい。ギリギリまでこいつから情報を引き出してやる。
ジャックはエリスの目を見つめた。
●探索5
「試練、って言うのは、ここの人達独自の概念なんですかね」
書庫でそれらしい本にあたりをつけつつ調べながら、玲は言った。
「俺も言われたわー。その辺関係する本はあるのかな」
ジャックが答える。
調べた限り、エリスの教えの様なものをまとめた書物はない様だ。すべて彼女の頭の中に入っている、という事なのだろうか。
「一応、その他の宗教、神話関係でそれっぽい物は確認しておきます」
「よろしく、こっちも探しとく。……そろそろ七海ちゃんの番か。ラストスパート、しっかり探さんとね」
時計を眺めながら、ジャックが言った。
●光へ誘う、闇へ誘う
「はじめまして、七海 灯です。ある事件についての調査で、F.i.V.E.から来ました」
灯は素直にそう言った。エリスはその言葉に、まぁ、と感嘆の声を上げると、
「F.i.V.E.からのお客様なんて! 光栄ですわ。……あら、それじゃあ、今日のお客様はもしかして」
「いえ、私とは無関係ですよ」
「ふふ、ではそういう事にしておきますわね。所で、事件、とは?」
灯は、かつてF.i.V.E.が解決した二つの事件について、かいつまんで説明した。もちろん、自分達が解決したとは言わず、匿名の情報提供があった、と言うことにした。
「ええ、その2人がわたくしの元に訪れたのは事実ですわ。……まさか破綻者になってしまうとは」
「……破綻者にしたのは、意図的ではない、という事ですか?」
「わたくしが2人を援助したことは確かですわ。ですが、意図的に破綻者へ仕立てるなど」
どうやら、嘘はついてはいないようではある。つまり、2人が破綻者となってしまった事は、本当に偶然なのだろう。とは言え、2人を凶行へと走らせたことについては否定はしていないが。
「……次の質問なのですが、あなたはどうしてこのような事を?」
「それが神の試練だからですわ」
「あなたの説く教義、それに関連する事なのですね?」
エリスは頷いた。
「教えていただけませんか? あなたの説く教えと言う物を」
「そうですわね。ひどく単純な話ですわ。わたくし達は、神に与えられし絶望の試練を受けることによって、はじめて救いを得られると考えておりますの」
「……えっ?」
「つまり……この世が絶望と悲哀でまみれれば、遍くすべての人類は救済される。ああ、でも、その試練には、きちんと自らの意思で立ち向かわなければなりません。件のお2人も自身の気持ちを押し殺し、試練から逃げ、ただ耐える事で無為に時を過ごそうとしました。だからわたくしは手を差し伸べたのです」
「ちょっと……待ってください? じゃあ、あなたは」
灯は、つばを飲み込んだ。
「人を救っているつもりなのですか? 絶望した人を、さらに追い込むことによって?」
「つもり、ではなく、それこそが神の愛ですから」
不思議そうな顔で、エリスは言った。
「神は私達を愛しています。ですが、神は時に絶望の試練を与える。無意味で理不尽な絶望。いいえ、無意味なんて嘘。それには意味が必ずあるはずなのです。だって、神は私達を愛しているんですもの。無意味な試練などお与えになるはずがない。ならば、その試練を受ける事こそが神の愛への答えであり――ひいては救済の道へとつながる」
灯の背筋におぞけが走った。
あまりにも悍ましい、深淵の虚、その底の底を覗いたような感覚。
「し、七星剣に連絡を取ったという話が――」
「ええ。組織内で権力を持っているわけではありませんが、わたくしも一応一員として……認められているのかしら?」
「ど、どうしてですか!? 彼らは――」
「ええ、きっとひどい絶望をまき散らすのでしょうね。なんてすばらしい。多くの人々が、彼らの振りまく絶望により救われるのでしょう!」
エリスが首を傾げた。笑顔で。
「何か間違っていますか?」
「そんな。それは」
「何か間違っていますか?」
「それは、手段と目的が入れ替わっています!」
「お時間ですね」
エリスが言った。灯は、自身が汗をかいていた事に気が付いた。
「さようなら、F.i.V.E.の覚者さん。わたくし自身は、F.i.V.E.には悪感情を抱いてはいませんわ。だって同じ、人を救おうとするものですものね。できれば、共存していきたいとも思っています」
●帰路
最後の面談を終えた覚者達は、無事屋敷からの帰路へとついた。
様々な情報を得、様々な思いを抱いただろう。
今はひとまずすべてを持ち帰り、情報を突き合わせる時間が必要だった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
