バレンタイン&ホワイトデーSS 2016

 果たして、どうしてこうなったのか。
 リハーサル中の休憩時間。
 役者の控室、和室の畳に押し倒されて。天光とエヌは見つめ合っていた。
「ちょっ」
「これで動けませんね」
 エヌは役者衣装。青い袴の巫女服、蒼い長髪ウィッグを着用して女装している。蠱惑的な奇怪な笑顔は浮かべ、相手で遊ぶ様に迫る。
「今日はこれをあげましょう」
 天光の口に、ギモーヴが無理矢理に突っ込まれた。
 口を塞がれたも同然。身動き一つ、身じろぎ一つできはしない。
(いや、そもそも……)
 天光は上京してエヌに拾われ、就職先の面倒まで見て貰ったのだ。勝てる相手ではない。エヌにとっても天光は便利な遊び道具らしく、今回もただのお遊びだろう。
「ふふ、どうです? お味の方は?」
 触れてしまいそうなほど近いエヌの顔に、天光の因子が疼く。自分で制御できない様々な感情が沸き上がり止まらない。
 前世よりの深い何かが渦巻き、心身を絡め取る。
 顔を真っ赤にして、天光はされるがままだった。エヌの方も完全にふざけた様子。心臓が早鐘を打つ。息が苦しい。
 何とか、口の中のお菓子を咀嚼して一言。
「……美味でござる」
 そう答えるのが精一杯。
 これが、彼らのいつも通り。


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