クリスマスSS 2015

 クリスマスという祝祭が冬に設定されている以上、この季節は何時だって冷たい。
 だから、人々は温もりを求める。
 熱源に、或いは感情に。
 人気の疎らな水中は、従って冬のイメージではない。
 けれど、確かにその幻想性は際立っていた。
 ―――世界が揺れて、反射した。
 反転した地面をなぞると、直上に影。
 隙間なく染み出ているのは、際限の無い蒼。
 移り気な視線と視線はそんな世界で迷子になる。
 殆ど零距離の互いの掌は、接点にすら成らない。
 この世界に、二人。
 一とは程遠い、二。
 分散する光で、影を帯びる。二人の顔は、逆光で暗く。
「円くん……、アタシ、水槽トンネルって、
 初めてだけど……すごいね……!」
 美しい波長が鼓膜を撫ぜる。
 純粋な好奇心と、邪まな誘惑。
 「ああ、そうだな」と返しながら、独り、胸の中で反芻する。
 友達―――では無く。
 恋人―――でも無く。
 曖昧な境界線が、水面の様に波紋を広げる。
 海月が笑った様に漂うと、円は、ミュエルの白い頬を見た。
 真冬の水中に揺蕩うのは、少し紅みを帯びた、その頬。
(『今年はクリスマス、ちゃんと過ごしたいもんね』、か)
 面倒な事を考えるのは止める。これでいい。
 溜め息は白くも無く、その存在を隠して。
「見て……?
 魚、いっぱい、だね……」
 ミュエルが振り返り―――、
 ―――二人の視線は漸く、出会った。

●発注キャラクター●
明石 ミュエル(CL2000172)
円 善司(CL2000727)
担当ST:いかるが
イラスト:SY

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