●ももこさんのたんじょうび 慌しい夏。燃え上がった夏。 新しい出会いがあった夏。人生の中で確かに記憶に残った特別な夏だった。 ああ、しかしもう十月なのだ。十月は秋なのだ。 例年に倣ってしつこく残るかと思われた残暑(なつのかおり)も事の他足早に過ぎ去り、気付けば世界はすっかり紅葉の季節に色付いていた。 「そういう訳で」 ブリーフィングにやって来たリベリスタを出迎えたのは『清廉漆黒』桃子・エインズワース(nBNE000014)の満面の笑顔だった。 「もうすぐアークも一周年です。お祝いをする事にしました」 「突然だな、おい。しかし……そうか。もう一年も経ったのか」 濃密な時間と煌きも過ぎてしまえば刹那。 追憶の中に光景を思い起こす機会はあったとしても、人が生きる『現在』からは遠ざかり続けるばかりである。最初にリベリスタがこの地を踏んだのは去年の十月十八日――丁度一年までもう一週間も先の話では無い。 「はい。そこでももこさん、沙織さんに交渉しました。 前回は海だったので今回は山に行きます。山間の高級旅館で紅葉狩り、高級料理と地酒に舌鼓を打つ温泉満喫コースを決めました! どんどんぱふぱふ!」 「押し切られた訳だ」 「まぁね。相手が悪い」 リベリスタの視線を受けたこの場のもう一人――『戦略司令室長』時村沙織 (nBNE000500)は肩を竦めて苦笑いを浮かべた。 ニコニコ笑う桃子は相変わらず「私は純白の天使でござい」ってな顔をしていたが、リベリスタは迷わず「成る程」と頷いた。一説に拠ればアーク上層部の弱みを密かに握るという桃子の政治力はなかなかどうして侮れない。まぁ、例えば『ももこくじ』に書いてあった事が色々真実ならばそれはそれでアレなのだが。 「それにしても酷いんですよ、沙織さん」 「どうかしたのか?」 「俺はプレイボーイですよー、みたいな顔しておいて私の誕生日を外すなんて」 「……あ……」 リベリスタは言われて初めてその事実に思い当たった。 と言っても桃子が自分の誕生日――十月十三日を吹聴して回っていた訳ではない。それをしたのは彼女に天狗呼ばわりされている鴉な姉の方である。二人は双子であるから過日が桃子の誕生日であるのは当然である。 「やり取りを録音してたら、この場で再生したい位だぜ」 沙織はげんなりした顔で桃子に言葉を投げかけた。 「お前、今日誕生日だろ。お祝いしてやろうか」 「誰にでも言ってる癖に私にも言いますか。お安くないんですよ、ももこさんは!」 言った沙織に応えるように桃子が合いの手を入れた。実にアナクロな『再生』である。 「そう言わず。何なら梅子も誘って……」 「私の姉さんに指先でも触ったら、泣いたり笑ったり出来なくしてやる!」 「……じゃあ、お前だけでも」 「今日は一日中姉さんと一緒なんです。 姉さんと愛の誕生日。この時間だけは、例え神にさえ邪魔させない!」 沙織はリベリスタ達の顔を見た。 「――以上、十三日午前の出来事でした」 「お疲れ」 予想から外れない展開にリベリスタは素直にそう言った。 しかし、桃子のアレはさて置いて……確かに一周年には違いない。ついでに彼女のお祝いもしておけばアークに降りかかる災いが減りそうな気さえしてくる。 「……まぁ、そんな訳で取り敢えず温泉に行こうって事になったのは確かだ。 うちのグループ系列の旅館に何とか貸切をねじ込めたから、参加したいならしていいぞ」 沙織の言葉にリベリスタは一つ唸った。 さて、行くべきか。行かざるべきか――魔王の笑みにたゆたう、それが一つの問題である。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月01日(火)23:55 |
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■メイン参加者 0人■ |
●アーク御一行様 「おめでとうでござるーおめでとうでござるー」 底抜けに快活で明るい――祝辞の声が秋空の見下ろす山間に響いていた。 「いいでござるか? イヴはあんな悪魔になってはいけないでござるよ? あと智親も桃子の波動にイヴが毒されないように気をつけるでござるよ……!」 本日の集まりを些か不穏当なる『魔王聖誕祭』と言わしめた清廉なる漆黒、桃子・エインズワースの笑顔をその脳裏に思い浮かべながら。愛しい娘を持つ父親である虎鐵は何かと親近感の沸く事の多い真白親子に必死のアドバイスを送っていた。 「皆まで言うな。愛するイヴに修羅の道を歩ませまい」 「おお、智親……!」 父親二人が友情の固い契りを握手で示す一方で、少女は目の前をついと滑るトンボを視線で追っていた。 「よーし、イヴたん! 温泉だよ!混浴に行こうか!タオルとかより、安全な水着着たほうがいいよ! スクール水着(名札つき)用意したよ! もちろん、旧式な水着だよ! かわいい!」 「竜一、怖い……」 「ちゅっちゅ!」 怖いという割には『慣れている』という表現も出来そうだ。 彼女が出来てもちっともサッパリ変わらない放し飼いの竜一に引きながら――それでもそれはそれで楽しそうにやっている。 「やー、魔王の誕生日とはいえ、お陰で役得だねー。桃子さまさまってとこかな?」 抜群のスタイルを秋めいた――それでも相変わらずの軽装に包んだ斬乃が大きく伸びをするようにして言った。 彼女が背筋をうんと伸ばせばたわわに実った果実はぷるぷると良く揺れる。それがどれ程の注目効果を帯びているか、当の斬乃が自覚しているかどうかはさて置いて。 人が何かを為す程に解釈次第では特別な時間に成り得る機会は増えるものだ。 例えば二人以上の人間が集まった時、お互いの誕生を祝ったならば一年の内(概ね)二日は特別な日になるだろう。 一所に多くの仲間や友人が集まれば記念日の類はうず高く積み上がるものである。 より多くの幸福を共有し、より多くの機会に笑みが零れるとするならばそれは素晴らしい事だろう。しかして有り難味というものはどちらかと言えば機会を絞った方が強く感じるものでもある。知人と比べた時、恋人との記念日が優先されるのは当然である。 ……とは言え、今日の『記念日』はこの一年で出会った面々にとっては或いは特別な誰かのそれと同じ位に重要なものであったかも知れない。 今日誕生日を祝われる――桃子の方は兎も角として。 「ふむ、アークも一周年なのじゃなー。もう一周年なのか、まだ一周年なのか。 ……ヒヨッコである事に変わりは無いが、それでも一年前と比べれば随分と違うのだろう、のぅ」 ククッと鳩が鳴くような声を漏らす。 (欧州勢力の日本支部に過ぎぬようなら――叩き潰そうと考えてた頃が懐かしいのぅ) 人の悪い含み笑いを残し、その言外に何とも言えぬ感情を湛えた瑠琵の言う通り―― 誰あろう『もう一人』の主役は彼等が寄る辺にする『特務機関アーク』そのものである。 波乱の中を船出した箱舟の一周年記念である。今日集まったリベリスタ達にとって特別なのは言うまでもない。 「折角桃子ちゃんと沙織ちゃんのお誘いだものね。 別に無料でお酒が飲めるからついてきたんじゃないわよ」 見た目は少女、刻むのは年輪。 たかが一年、されど一年。エレオノーラはマイペースのままである。 「温泉、美容と疲労回復……疲れは寝ちゃえばスグ取れる方だケド。 美容は……こう、嫁の嗜みとして気になるなぁ……!」 相も変わらず恋に恋して尽くせよ乙女、といった風。 生来の可愛らしさを褐色の肌の上に存分に浮かべ、この後の時間を思い華やいだ空気を発するのはアナスタシア。 「あ……いつも旦那共々お世話になってます、だよぅ!」 「はいはい。こちらこそお世話様」 生真面目な顔をして『護衛』に張り付く恵梨香を連れた沙織に彼女はぺこりと頭を下げた。 「高級ただ飯あるところに私あり……! こんなイベントを開催してくれるなら、毎日が桃子さんの誕生日なら良いのにね」 はしゃいだ調子で目前に聳える立派な旅館を見上げたのはウェスティアだ。 一部に魔王と称される桃子の政治力は深淵である。 「姉さんと過ごすスイートなハッピーバースデー」を敢えて外した彼女は数日遅れの自身の誕生日とアークの一周年記念を合わせて開催する事を戦略司令室長・時村沙織に敢然と要求したのである。結局沙織の面白がりが作用したのか、桃子の威圧が強かったのかは知れないが――最終的に彼女は目的の温泉旅行を勝ち取り、アークのリベリスタに参加を募ったのである。 理由は幾つか推測が立つ所ではあるが…… 同じく過日十月十三日を誕生日に持つ双子の姉・梅子の姿が見えない辺り桃子の意地悪なのかも知れない。 「温泉も懐石も楽しみだけど、どこに行こうとやっぱり甘いものは外せないっ。 高級旅館なら中に上品な喫茶コーナーがあるはず。あんみつ、白玉、きなこもち、etc、etc……」 これから訪れるであろう休日の時間に――待ち構えるであろう様々な御馳走に思いを馳せるウェスティアの一方で。 (せっかくの機会ですので……思う存分、桃子さんを眺めて和もうかとも思いましたが……ふむ、今日は梅子さんが居ないのですねぇ~) 一方で奏音はちらりと遠目で人だかりを見やる。 「この度は十八歳の誕生日をお迎えとのこと、心よりお祝い申し上げます」 「ありがとうございます」 「わたくしめからのささやかな気持ちです。桃子嬢の美しい羽と比べると粗末なものですが――」 そこには見るからに傅くセリオの恭しい祝辞と純白の羽の首飾りを受け、 「へいへい。桃子お嬢さん、お誕生日おめでとう。 お祝いにちゅーしてやろうか。じんせいごぢゅーねんの重みを感じさせるすごいヤツ」 「りりすいらね!」 丁々発止とりりすとやり合う桃子が居た。 白い羽がしきりにぴこぴこと揺れるのは或いは彼女の機嫌を表しているのかも知れなかった。 「良ければ……これどうぞ。ええと、ユスラウメのジャムです」 「どうも、御丁寧に」 「ユスラウメは、梅桃と書きます。梅子さんと桃子さんの姉妹にはぴったりかなって思って」 「! いいですね、これ!」 三千、それに…… 「誕生日? ふむ。ではこの間開発したこの『むげんもるもる』をプレゼントしよう」 胡散臭いアイテムを取り出すエレアノール、 「実物そっくりのこの触感、そしてこう握りつぶすとほんものそっくりにぐちゃぐちゃになり…… しかし握るのをやめるとすぐに元通りへと……おや? どうした?」 「うきゅ? 桃子、生まれた日? ……お、オソナエモノ! コレ!」 恐る恐るといった風にウェヌスタが差し出したのは何やら一生懸命手製した様子の伺える梅子人形である。 半ば逃げ出しかけた彼女に如何にもな出来栄えであるが大方の予想を裏切り桃子は結構嬉しそうに「ありがとうございます」等と笑っている。 畏怖なのか信仰なのか友情なのかは微妙だが、何だかんだで人気者(?)な彼女の周りには案外多くの人が居る。 人の多い桃子を諦めた奏音はイヴを労ってやろうと気を取り直し、 「……うん、人が多いですね」 「プレゼントは自分が貰ってうれしいものと聞いたのでカレー粉と煎餅を用意した」香夏子はエア・プレゼントで今年は済ませる事にした。 何だかんだで桃子と縁のある『大御堂重工』の面々がにこにこ笑う桃子に歩み寄っていた。 「ハッピーバースデーうーぬー」 「おめでとうな、桃子」 魔王と言えば大魔王からすれば部下も当然。クラッカーの紐を引いたグランヘイトに続き、アキツヅが淡く微笑む。 「御誕生日御目出度う御座いますです、桃子先輩。此れからも宜しくお願い致しますですよ」 「エナーシアさんかわいい><」 「何か目が怖い気がするのですよ><」 梅子宛と合わせて、と。何とも言えない白黒のぬいぐるみを受け取った桃子。 やれハロウィンだ、やれ制服だとキャラクターの変遷の激しいエナーシアの腰が幾ばくか引けている。 先陣を切った彼女を心なしか庇うかのように、凛々しい美貌に微笑を浮かべたミュゼーヌが前に出た。 「桃子さん、先日の任務ではありがとう」 「あ、いえいえ。お仕事ですから!」 「……ええ、お仕事よね」 そのお仕事でいまいち機能しない桃子の発言を生温い笑みで受け流しながらミュゼーヌはそれ以上何も言わなかった。 「桃子さんという大事な生命線があったからこそ、無事にお祝いが出来るわ――」 代わりに今日位はと持ち上げたミュゼーヌは可愛くラッピングされた一包みのクッキーを桃子に渡す。 「――今日という貴女の生まれた日に感謝と祝辞を」 「……うーん。絶対、ミュゼーヌさんはモテモテだと思うんですよね」 「……は?」 何に、とは言わない。 ミュゼーヌが狐につままれたような顔をしたその時、ある意味でこの一行の主役とも言える――三高平の正統派ヒロイン()が割り込んだ。 親友が王子様なら彼女の方はお姫様。普通ならばモテそうなのだが、何ともはや本人の名誉の為にコメントは差し控えさせて頂きたい。 「わたくしからもプレゼントが……でも普通にプレゼントするのではつまらないですよね? 最近思うんです。わたくし完全にモニカの影に隠れて目立っていないと。 大御堂重工の令嬢はわたくしのはずなのに! 何故オマケのメイドの方が!」 「桃子様におかれましては、お誕生日おめでとうございます」 何だかたっぷりと私情を含んだ自己主張を展開した彩花、何時になくクールにメイドをするモニカに小首を傾げる桃子は何も言わない。 「そんな訳で目立つ企画を考案しました! ルーレットダーツ! どこかで聞いた事あるなんて言われても知りませんわ!」 沈黙がかえって残酷である事はままあるのだが、テンション上げ上げで用意した特製回転版をびしっと指を差すお嬢様の方は気付いていない様子である。自身で言う通り何処かで見た事のある色とりどりの的は、高級スポーツカーから海外旅行、プラズマテレビにエアコン、合法ロリメイドもにかちゃん一日専属メイド券なる如何わしい(笑)賞品まで様々な用意がされていた。 そして何よりこのダーツのお約束とも言えるのは……勿論、『はずれ』のアレなのだが。 「わたし、わたし!」←嬉しそうな桃子 「流石、先の大御堂を背負って立つお嬢様。賞品に自分を提案するなんて、何という度胸でしょうか。このモニカ、感動しました」 「ちょ……っ!?」 「わたし、わたし!」←無表情なモニカ 「わたし、わたし」←お愛想で手を叩いているミュゼーヌさん(17) 「た、たわしですわ――! あと、ミュゼーヌさん!?」 訂正を聞かずに盛り上がる桃子とモニカ性悪コンビのイジメ芸にお嬢様がぎゃいぎゃいと悲鳴を上げている。 閑話休題。 桃子の誕生日とアークの一周年はさて置いても温泉は温泉である。 元々緩い集まりであるし、それ自体を楽しみにしている面々も少なくは無かった。 「紅葉舞う山間の温泉宿、しかもアークに貸切状態と来た。ゆったりと過ごせそうだな」 「精々、宿の人間には迷惑をかけねぇようにしねぇとな」と義弘が笑う。 「朝風呂の女湯でぇ一番風呂ぉ! ついでに一杯やりたいねぇ。あたしゃ一匹狼ぃ。誰もいない風呂っていいよねぃ」 御龍の夢想するのは朝靄に包まれた露天風呂。 「良いですね。でも、どうせなら月明かりの元、ゆっくりと湯に浸かりながら疲れを癒したいですね」 相槌を打つ孝平にも拘りがある様子である。 一方で案の定と言うべきかカップルの姿もちらほら見受けられる。 「温泉きたぁぁぁっ!」 「愛華ちゃん。景色もいいね。ここの温泉の効能は何だろう。宴会の料理も楽しみだ」 「この温泉美容にいいって聞いたけどぉ、もっともぉっと肌がきれいになったらぁ……」 寄り添い歩く疾風の横顔を見上げ、愛華はそこまで口にして顔を真っ赤に染めた。 (疾風さんにもっともぉっと好きになってもらえるかなぁ、えへへ……) 離れていても寂しいし、近過ぎても恥ずかしいし……実に微妙な距離感である。 「……?」 一瞬だけ首を傾げかけた疾風は、 「……色々な意味でのぼせないように気をつけないとね」 桃子のもたらした『御利益』に内心で手を合わせた所であった。 「後で紅葉狩りに行かねぇか?」 「うん。その……寒くなってきたし、手とか繋いで……」 フツとあひるは相変わらず仲睦まじく顔を寄せ、温泉の後を話し合っていた。 ちなみに温泉には混浴もあるのだが、これはフツ曰く「アレだ、オレ達まだ未成年だし、混浴は早い」。 あひる曰く「フツと一緒に入る、だなんて……入る前にのぼせちゃう……」との事である。 「ウヒヒ。ちょいとあったかい格好をしてった方がいいな」 あひるは持ち込んだカメラを首から下げて「撮ってやるからな」何て言う恋人を上目遣いで見つめていた。 (外は寒いから、フツに手袋をはめてあげるわね。 ちょっと早いけど……お誕生日プレゼント。桃子のお誕生日、フツも近いから……) 今日も今日とて何処までも甘く、幸せそうな二人である。 「温泉じゃー! お泊りじゃー! 海に……常夏の島に行けず過ごしたあの夏の日の雪辱を今ここで! 神はワシを見放してはおらなんだぞーッ!」 混浴の予感にいよいよテンションを上げているやかましいの――九兵衛の姿もあった。 「リベリスタは潔癖で臆病だ」 ウルザは涼やかな十月の風に青く澄む一面のキャンバスを見上げながらふと溜息を吐き出した。 世界は今日――この瞬間、少なくとも見えている範囲においては何処までも平和に感じられる。 しかし、その裏側に神秘が在る事を彼は知っている。平穏にしか見えない何処かにそうでないモノが混ざり込んでいる事を彼は知っていた。 (今のオレ達はまるで――火に怯える動物だよ) 頭を振る。それはそれとして、今は温泉旅行である―― ●館内 「既に戦いは始まっている……! 目標ポイント(おとこゆ)への最短ルートも事前に調査済み…… ハイスピードも使用……! 一番風呂は渡さない。オレは疾風、一気に男湯まで駆け抜ける……!」 廊下は走ってはいけません。 小中学校の標語が齢十七にして必要になった終が手拭いと桶、ここぞとばかりのあひるちゃんを手に館内を駆け抜けていく。 大人数での移動を終え、纏めてチェックインを済ませたアークの面々はめいめいそれぞれの時間を過ごす為に館内のあちこちへと散っていた。 旅館内には喫茶ラウンジ、個室料亭にアミューズメントスペース、宴会用の大広間、言わずと知れた温泉と慰安旅行をそれなりに楽しむ為の用意がされていた。 喫茶では甘味を求めるウェスティアが猛威を振るっている頃だろう。 少し時間が早いが大広間を覗けば酒を開けるエレオノーラのしどけない姿が見れるかも知れない。男にしどけないとか言うのもアレだけど。 温泉には部屋の確認もそこそこに駆け抜けていった流星――終をはじめ多くの面々が足を運ぶ事だろう。 そしてアミューズメントスペースにも同じように幾つもの人影があった。 「わーい! レトロゲーやるぞー!」 どうも全く二十四歳には見えない二十四歳――ブリリアントが景気の良い声を上げていた。 こういう場所に来たらまずはこれ、と決め打ちの人種が居るという事だ。 興味深そうに画面を覗き込む三千の視界の中でブリリアントが早速自機を失った。 「ああ、百円!」 彼女だけに非ず、ここは部活の本領発揮か。 「温泉旅館のレトロゲー! 素晴らしいね! レトロゲーファンとしては来ないわけには行かない!」 「旅館のゲームといえば、日進月歩のゲームセンターとは全く異なる…… いわば切り離された時空間! とうの昔に廃れたレトロゲーマイナーゲーが未だに現役を張っている、そんな世界だと兄貴に聞いた! うひひひ、楽しみだなー。一体どんなレアゲーが……」 旧式ゲームと言えば俄然瞳の輝く美月と明奈、ゲーム研究会『Just Luck』の二人の姿もある。 「ねえ白石部員、ただするのじゃ一緒に来た意味がない。折角だしここは一つ勝負をしないか? 月並みでお約束だが負けた方が言う事を何でも一つ聞くって言うお約束のルールで」 美月の唐突な提案に明奈は「んー?」と首を傾げる。 (……ふっふっふ、白石部員はレトロゲーには別に詳しくない。 つまり……普段からレトロゲー三昧でここのも全て一度はやった事のある僕が有利! 普段負けっぱなしだけど、ここで勝って何とか部長の威厳を取り戻……) 「え? 部長、勝負するって? いやまあ、古いゲームはあんまりやった事ないけど、うん。 そうだなあ、じゃあ……ここは定番のエアホッケーで勝負だ!」 「……」←運動神経の悪い美月さん 「シュッシュッ!」←運動神経抜群で悪気の無い明奈さん 部長オワタは置いといて、アミューズの向こうのスペースには温泉宿らしい卓球台も設置されている。 「さすがは桐ぽん……なかなかやるな!」 「まだまだですよ?」 台の上で唸りを上げるピンポンはリベリスタ同士の超人的な身体能力と反射神経を生かした格闘戦と化していた。 何処からどう見てもギャグにしか見えない老け顔スポーツ漫画も真っ青に七色の魔球が飛び交っている。 「終わりませんよ! サンダーブレイク!」 「何の桐ぽん! ラビットファントム!!!」 技名まで繰り出され始めた異界卓球はスルーして。隣の台では一組の男女がのんびりとラリーを楽しんでいた。 「黒猫さん、桜ちゃんと卓球しませんかー♪」――積極的なモーションをかけた桜と二つ返事でそれをオーケーした伸暁である。 「黒猫さん、桜ちゃんと賭けをしませんか?」 「どんな?」 相変わらずノリの良い桜がぽーんとピンポン玉を打ち返し、伸暁が山なりにそれを返す。 「このゲーム取れたら、伸暁さんって呼ばせて下さいっ」 桜からすればそれは思い切った一言である。清水の舞台から……とは言わないが、乙女にとってはソレ相応に気合の入ったお願いであった。 上目遣いで見るようにして心拍数を押さえ込む彼女にふ、と笑った伸暁は答えを返す。 「そうだな。条件がある」 「条件?」 ラリーは続く。ゆっくりと。 「お前が負けても、俺は伸暁って呼んでくれよな」←俺のTrickが 「……ぁ……」←お前をTreatにした所。 不意打ち気味の一言だ。桜のラケットが見事な位に空を切る。 ゆっくりとした時間を楽しむのは早速遊んでいる連中ばかりでは無い。 「あ、いい所に。折角山に来たんだし、バーベキューとかしてみない?」 廊下の一角を丁度良く通りがかった真白親子にそんな風に声を掛けたのは悠里である。 「その、その、そう。よ、良ければ……」 悠里の後ろから焦れるような様子で言うのは英美。 男やもめの真白智親、年頃の女子に『こういう反応』をされるのはいよいよ珍しい機会なのだが――当然、英美の態度の原因は色っぽい理由では無い。「智親、自惚れないで」と辛辣なイヴと慌てる智親の様子を見る彼女の目は何処か遠い。 「……賑やかで楽しいですよ、きっと」 そんな英美の様子を鋭敏に察したアウラールがそんな風に言葉を並べた。 英美が智親に見るのは今は亡き父親の影である。彼女が彼と言葉を交わす機会を求めている事を彼女の周りの面々は知っていた。 誰からともなしにこの旅行に段取りをつけてやろうと考えたのは彼等の優しさの現われである。 「おー。イヴも何か乗り気だし……まぁ、どうせ暇だしな。構わんぞ」 智親の承諾に少しはにかんだ英美の表情が輝いていた。 「わらわも一緒に行くのじゃ!」 「うん。一緒に楽しもうね。ちゃんと好き嫌いせずに食べるんだよー?」 「す、好き嫌いなんて無いわい……子供扱いするでないわー!」 何処と無くいい雰囲気の二人は――レイラインと悠里の二人である。 「えーと、道具とかはあるのか?」 「大丈夫、大丈夫。準備は出来てるから……後は旅館の人にスペースを借りれば……」 智親の問いに悠里は二つ返事で頷いた。 話が纏まれば行動は早い。元々その心算で来た面々だから準備はすぐに出来ていた。 ●紅葉狩り 「紅葉狩り。日本にはなんとも風情がある言葉あるものですね。 わたくしも折角ですから、『紅葉狩り』をしてみましょうか――」 時に外国人は日本人以上に趣を理解するものなのだろうか。 「夏が過ぎ、秋も深まり、葉の色が赤く燃えるような色合いになる季節。 今日を楽しむとしたら、朝日が山の稜線から少しずつ出て来て辺りが段々と明るくなる時間、もしくは逆に夕日が山の稜線に沈みつつ辺りを赤く染めていく時間でしょうか。それも、もう暫く後の楽しみですね――」 なかなかどうして――ジョンは長年を日本で過ごした人物のような『分かっている』台詞を吐いた。 この時期に山の温泉旅館と言えば色付く景色を楽しむのは定番である。 「写真…撮られるのは、照れるけど…… フツだから、あひるの笑顔、プレゼント! ……なんちゃって!」 華やぐフツとあひるの組み合わせ。 秋の深山の散策で澄んだ空気を胸一杯に吸い込めば、日々の疲れさえ解けていくようであった。 「エイミちゃん、ほら! こっちこっち!」 ルアの元気の良い声が響く。 「こっちのお肉をお願いね。あ、イヴちゃんのパパも手伝ってあげてね」 「おう。任せとけ! あ、手伝ってくれな。英美」 「は、はい!」 集まって賑やかな時間を過ごすルアや智親達の横、 「温泉宿の高級料理も良いが、外で食べる食事も良いもんだぜ?」 「ああ……こんなのも悪くないな」 「要るか?」 「ああ。後でな。戻ってきた頃には焼けてるだろ?」 「じゃ、とっとくぜ」 名案である。枯葉を集めて焼き芋を焼き出したディートリッヒの横を頷いた拓真と悠月の組み合わせが通り過ぎる。 まずは食い気より色気を優先した形。 「綺麗な物だな、これ程の物はここ数年……見た覚えがない」 「……本当に綺麗」 拓真の言葉に傍らを歩く悠月は淡く微笑んだ。 何処にもその光景が無かったのか――それとも光景を見やる余裕が無かったと言うべきなのか。 いざ目を向けて見ればそこにある光景は確かに圧倒的なものだった。 拓真がそれを『類を見ない美しさ』と称したのは、或いは傍らに悠月が居るからなのかも知れなかったが―― 「来れて、良かったです」 悠月の言葉が山の静寂に飲み込まれる。 「ああ、良かった」 戦いを忘れる事など出来ない、それでも……この景色は、世界を守るという意味を教えてくれるのだった。 悠月はせめて一時拓真の気が休まる事を望み、拓真は共にある悠月がこの時を楽しんでくれる事ばかりを願っている。 「……また、二人で何時か此処に来よう」 「はい。何時か落ち着いて、そうしたら……」 そうしたら、その先は言わず。自然に絡んだ五指の熱を仄かに感じ二人は舞い散った紅葉に目を細めていた。 そんな時、クラクションが鳴る。山道の後ろを振り返れば運転席の窓を下げ、半身を乗り出すようにした沙織が居る。 「御熱いね、お二人さん」 『二人がそういうタイプではない事を良く知っているからこそ』沙織はからかう言葉を投げる。 人の悪い笑みを浮かべた室長に拓真は小さな苦笑いを浮かべて言葉を返した。 「室長こそ、人の事を言える所ではないのでは」 車の助手席には珍しく――行儀良くちょこんと座るそあらの姿があった。 「一番素敵な景色が見える所まで連れて行ってもらうのです」 頬を紅潮させたそあらは何が何でもようやく訪れた機会を自慢したいのか今日のデートを誇らしげに語り出す。 「……ま、そういう事だ」 拓真の言葉、そあらの言葉に軽く肩を竦めた沙織は何とも言わない、応えない。 (疲れてるさおりんを癒してあげるのです。あたし、意外と料理とかも得意なのですよ……?) 持参したバスケットにはサンドイッチ。デザートは言うに及ばぬいちごである。 拓真とやり取りをする沙織の横顔をそあらは幸せそうに見つめている。 そあらを良く知る者ならば――何時もは『幼い』彼女を見違えたかも知れない。彼女はその大輪の花を満開に開かせるように華やぎ、その可愛らしさを十分に発揮していた。具体的には(´・ω・`*)な感じで。 「じゃあな。行ってくるぜ」 「さおりんとドライブデートなのです。それ以上のプライベートな時間は皆さんには内緒なのですよ?」 ●宴席 穏やかな休日の時間はゆっくりと進む。 何となく、二人で。夕涼みに出たのは杏樹と幸成の二人だった。 つい先日、想いを告白した方と二人きり。浴衣を着た杏樹と並んで行けば幸成の心拍は否が応にも早鐘を打つ。 口数の多くない杏樹と、やはりこの間の今日では幾らかやり難い幸成。静けさを増す山の中ではノイズも無いから、二人の間には音が無い。 しかして、この時間は決して二人にとって悪い時間では無かった。」 (何だか、もやもやする……) 結果的に『断る』形になったとは言え、杏樹は幸成が嫌いでは無い。 結果的に『断られる』形になっているとは言え、幸成は彼女の事を良く理解している。 何とも難しい二人だが、互いに想う所が無い訳ではない……というのが実情だ。 (恋愛とか、分からないし……) 暗がりの中ちらりと見上げた幸成の横顔に杏樹は僅かに頬を染めた。 何処か言い訳めいた感情は彼を嫌いでは無いからなのだろう。 想いを告げられ、断って尚。二人で居るというのは――つまり、そういう事なのかも知れない。 しかし考える程に分からなくなる感情を、何処か青い彼女は持て余している。 「やはり自分、杏樹殿の事が好きで御座るよ……」 少し、勇気を出した。静寂を破る幸成の言葉は繰り返しながらも――今日も特別な意味を持っていた。 「……ごめん」 傍らの少女は短く呟く。 その言葉は幸成を締め付けかけ、身を翻すそれ。 「まだ答えは見つからないけど、待ってくれるなら、もう少しだけ甘えさせてほしい」 伸び上がるシルエットが重なった。柔らかな唇を幸成の額に押し当てた杏樹は最早言葉も無く駆け出した。 茫然と、それを見送る幸成の方にも言葉は、無い。 秋の日が落ちる頃――既に大広間には沢山の人が居た。 「ハッピーバースデーうーぬー」 (俺が)気に入ったのか、宴会場では相変わらず大魔王の調子外れな美声が響いている。 「ケーキも切り分けてやろう。今日だけだからな。 飲み物も注いでやる。今日だけだからな。 白い方だけでなく全員に注いでやる。ありがたく思うが良い」 モニカが用意したホールのケーキを切り分ける彼はなかなかどうして器用で気の利いた男である。 そんな気の利いた男が…… 「真の魔王あんらばあんな小娘魔王を恐れる事ありませんよね? 偉大なる大魔王の力で格の違いを見せてやってください。期待しています」 等というモニカの煽りを真に受けて「ようし」と桃子にリーディングを敢行し腹にパンチを受けて芋虫みたいに転げまわったのは余談として。 宴は早々に素晴らしい盛り上がりを見せていた。 何せ、日頃から激務に身を置くアークの面々である。 騒ぎに騒ぎ、気の抜いて――命の洗濯を出来る機会はそんなには多くないのだ。 「あ、ももさん、チーッス! おめーッス! そこに水あるんで、勝手にやっててくださいーッス! げふ!」 この竜一も腹にパンチを受けたのは見なかった事にして! 気を取り直した桃子は見知った少女に視線を投げる。 「慧架さん、それは?」 「ああ、これは……茶館ならではの紅茶とシフォンケーキをご提供したいと思いまして……」 謂わばそれが誕生日プレゼントになる……という所だろうか。 フィーリングベルの紅茶は桃子自身も店に足を運んだから知っている。表情が輝くのも当然か。 「桃子、これこれ。透明耐熱ガラスのポットに、工芸茶の蕾を入れて熱湯を注ぐと…… 湯で戻って『花』が開く。視覚にも嬉しいお茶ってシロモノさ」 用意した工芸茶を実演して見せ、ウィンクを一つ。 興味深そうに覗き込む桃子に気取って言う。 「茶は、紫馬簾菊(エキナケア)。 味も香りもクセが無く薄味、淡いシロップの香りが特徴さ。 加えてこいつは10/13の誕生花、花言葉は優しさ。帰ったら梅子に淹れてやりなよ」 「ううん、アークにもたまにはいい男が居るんだなぁ!」 辛口の桃子さんも納得の評価である。アキツヅは全くもって『金が無い』伊達男。 「! これ、美味しい!」 食欲の大分発達召されたニニギアはここを外さず素晴らしい料理に目を丸くし、 「一番、斜堂影継、芸をします!」 やんやとはやし立てられる視線の雨の中、くねくねと身を躍らせた影継が幻想をぶち殺している。 あんまり細かく書くと色々問題が発生しそうな彼である。何時もと何ら変わらぬ――中二病を斜めに見上げ見下ろす彼である。 「んー、いい酒だ」 大きな窓の臨む雄大な山を眺望、赤く色付く紅葉を肴にりりすがなみなみと日本酒を湛えた杯をぐいと傾けた。 マイペースに酒を舐めるのはりりすだけでは無い。殆ど確信めいた予感はやはり今日も事実であった。 「お酌してよう。いーじゃないの貴方のお父様より年上なんだし、ほらおじいちゃんにお酌すると思って!」 「いや、お前が親父より年上ってのが……俺の中ではいよいよ微妙なんだが」 三高平の酒場の多くでマークを受ける飲兵衛の――エレオノーラが美少女然とした白い頬を僅かに赤らめて、同じく中々良いペースで呑む沙織に絡んで(?)いる。 「いろいろ大変だけどさぁ、いつもありがとぉ。イヴちゃん小さいのに頑張ってるよねぃ」 「……ん」 御龍にジュースを勧められ、くぴくぴと飲み干すイヴの一方で。 「ふと気が付けば、成行きで集ったが、未だ知らぬ事の多い事。 此度の機会を用いて理解の深みと成そう。嗚呼、我が十三代目。 我の様な無頼が足を運び問題の無い場が在る事は喜ばしい。願わくば永い栄華を期待しよう」 口上を述べたのは源一郎。 「ま、呑め呑めってな。杯を交わすのも親分の務めだぜ」 「誰が親分やっ!」 ソウルが豪放に酒を飲み干し、何時の間にか組の姐さんに祭り上げられかけている椿が突っ込みを入れている。 十三代目のあだ名を持つ椿は成る程、童顔ながら何処か『姐さん』の貫禄を持っていた。 「がはは」とばかりにそんな彼女の抗議を笑い飛ばし、次の一杯を注いで渡す客分――ソウルの方は怯んでいない。 「……ま、私達、組にお世話になっているのは事実よね」 ちびちびと酒を舐める彩歌はマイペースのまま。 黒いサングラスの奥から顔を赤くしたり青くしたり忙しい椿を眺め、それはそれで楽しそうにしている。 「へえ、貴女も桃子って言うんだ」 桃のジュースに口を付ける桃子にそんな風に話しかけたのはステイシィである。 「……ステイシィさんのMがももこである事に、たった今気付いたぜ……だそうですよ」 「お互い様か」 「……いやぁ、奇遇ですねぇ」 苦節一年、イベントの度に言おうとしては機会を逃し続けたステイシィである。 忘れてただけとは言え――願い叶って万感なのかしきりに「うんうん」と頷いている。 「作戦目標、他人の誕生日にかこつけてイチャつくバカップルの殲滅です」 「今日も今日とて、私の誕生日にかこつけて破壊工作か。おめでてぇな!」 ある意味で悪酔いの類を見せるレイに桃子がけたけた笑い出す。 「リア充とかになればいいじゃないですか」 「なんか彼氏探しとか合コンとかしたら負けた気になりませんか? 私はなる。だから私は修羅道を征くのです」 おお、かっこいい。 宴席とは元より無軌道なものである。 増してや無礼講の類で、目的が無いならば尚の事。 一応アークの一周年と桃子の誕生日を祝うという建前はあったものの、それも今更である。 誰かが高らかに歌い出せば空の酒瓶の転がるペースは見る間に上がる。 「Bonsoir、沙織。少しは気晴らしになったかしら?」 やれやれ、と席を立ち。煙草を片手に渡り廊下に出た沙織に声を掛ける『少女』が一人…… 艶やかな声が流暢な仏語を紡げば、振り返らずとも誰かは分かる。 お互いに中々執心して化かし合いに余念の無い氷璃である。 「桃子に押し切られたとは言っていたけれど――本当は都合の良い提案だったのでしょう?」 「まぁね」 沙織は短い言葉で二つの問いに答えた。 「折角だからバカンスの続きを楽しませて貰おうと思って」 真意の見えない調子だが氷璃にとってそれは重要な事では無かったらしい。 婉曲に言葉を投げ、薄い唇の端をやけに蟲惑的に持ち上げた彼女は沙織の言葉を待たずに先を続けた。 「――勝負の続きも、ね。私、結構負けず嫌いなのよ?」 「成る程。中々魅力的な提案だ。で、どうする?」 「……デートをすっぽかされた事を慰める心算は無いわ。……でも、一緒に入らない?」 温泉旅館の主役が何処にあるかは言うまでも無い。 「温泉で水着は邪道って瑠琵が煩いの。……ほくろが見える水着の方が貴方好みだったかしら?」 少しだけ皮肉に冗句めいた氷璃に沙織は笑った。 「ほくろは別の機会に数えさせて貰おうかな」 「……冗談よ。でも、私にも羞恥心はあるし、ヤキモチを妬く事だってある。口を滑らせたお仕置きは必要だわ」 全く沙織は基本的に一言多い。それも確信犯的な『わざと』である。 逡巡し、視線を僅かに明後日に向け――拗ねたように言った氷璃に沙織はもう一度同じ言葉を繰り返した。 「それも魅力的な提案だ」 ●女湯 かぽーん、と。 浴場に木の桶の音が奏でる心地の良い音が響いている。 流石に一流の旅館の自慢の湯である。素晴らしい湯量を湛えた温泉は全て源泉の掛け流し。 男湯、女湯、露天の混浴温泉まで含めた三つの大浴場は疲れを溜めたリベリスタ達を優しく癒してくれていた。 「みんなで一緒に温泉♪ 女湯だよー眼福眼福ー♪」 もうもうと立ち込める湯煙はウーニャのややこしい辺りを見事に隠し、ざっぷんと湯船に飛び込んだ彼女をフォローする。 些か不穏に眼福を口にするウーニャと共に女湯を訪れたのはルカルカとテテロの二人だった。 「うにゃー、おんせんだー!」 肌をびりびりとさせる乳白色の熱に総毛立ち、ジュースの置かれた盆を浮かべたルカルカが声を上げる。 「にふふ~ミーノの水着(おとなよう)がきらりと光るの~」 色々な所が余り気味の水着はまさに『摘める状態』だが、そんな事はお構いなく。 「どうして拝むの!?」 自己満足に浸るテテロは湯に浸かる斬乃(の一部分)を見てなむなむと願いを捧げている。 男湯や混浴も人気があるようだったが、美容効果があるというこの温泉の場合――落ち着ける女湯は女子に人気の場所になった。 「子供だから女湯でもいいよね!」とばかりに突撃を敢行したじーさん――九兵衛が撃沈されたのは暫く前。 「んー、極楽ですねぇ」 桃子が手足を伸ばす女湯の入り口では神にさえ覗かせはせん、と命を張るセリオが眼光鋭く警備に当たっている。 どうも彼はとことんまで彼女に利用されるのが嬉しくて仕方ないらしい。それはぐうたらな姉を持ち、使役される宿命を骨身にまで染み付かせた一人の青年の悲劇なのかも知れない。酷いな、姉。聖職者!←決め付け 素晴らしい戦力を備えるアークの女性陣が相手では不埒者の数もたかが知れている。女湯は平穏そのものであった。 「う~ん……良い湯加減ね」 しみじみと呟くのはココメロである。 成長期で水着のサイズが合わず、混浴を逃した彼女ではあるが――温泉自体は楽しんでいるようである。 「貸切に出来るなんて本当に凄いなぁ……」 こういう機会は中々無い。増してや革醒を果たしたリベリスタがゆっくりと気を抜ける機会は多くないのである。 「うん。ここの所、働きづくめだったし……こういう風にゆったり出来るのはいいなぁ……♪」 生き返る、とばかりにレイチェルがほうと溜息を吐く。 「うんうん、ここ一、二ヶ月実戦で忙しかったら効くわー」 全く同意と相槌を打つのは肩まで湯に浸かるジルだった。 思い切り羽を伸ばす外国人のジルは日本人が有り難がる温泉という文化を思い切り満喫している、と言えるだろう。 「お盆を浮かべて酒を飲む……なんてのもあるんだっけ。クッソ、羨ましいわ」 年齢が一つ足りていない。 「ホントは、混浴もいきたかったんだけどねー。 水着とか、やっぱ無いほうが風情があるじゃない?」 レイチェルの言葉に今度答えたのは茉莉だった。 「そうですねぇ。水着着用でも男性に見せるつもりは無いですし、逆に水着姿とは言え、男性の姿を見るつもりはありません。 お湯に浸かりながら楽しむなら……ねぇ」 茉莉は先立って最も苛烈に不埒者を撃滅した一人である。 (んー、『スキンシップ』は当然期待する事としまして……素敵な方はいらっしゃいますかね?) 眼福なる光景は目の前に広がっている。 どうも『女の敵を許さない』この少女場合……微妙にその気を感じるのは気のせいか。 がらりと戸が開き、エーデルワイスが恵梨香に連れられてやって来た。 「釈放を要求するー。弁護士を呼んで下さいー」 「些か不本意なのですが……男湯に覗きが出ました。取り敢えず、正道に従ってここの湯船に沈めておいて下さい」 沙織のあられもない姿(笑)の撮影を狙い、張り付いていた恵梨香にここぞを拿捕されたエーデルワイスである。 温泉旅館に護衛というのもナンセンスだが、結果的には奏功した……という所だろうか。 「旅行けばぁ、とくらぁ。面倒見るから恵梨香ちゃんは行きたい所へ行ってきなぁ」 すっかり気持ち良く出来上がる御龍の声が辺りに響く。 変に気の利く彼女の一言に顔を少し紅潮させた恵梨香はこほんと一つ咳払い。可愛くも無い事を言う。 「ありがとうございます。では任務に戻りますね――」 ――室長。やはり、女性の胸は大きい方が宜しいですか? 可愛気たっぷりの問いを、その『小さな胸』に秘めたまま。 ●混浴 「お風呂に……入るのに……何故……水着?」 エリスが何もつけずに混浴に突撃しかかって――良識あるチョコ倫に止められたのは余談である。 かぽーん、と。 浴場に木の桶の音が奏でる心地の良い音が響いている。 「ギャ―――――――ッ!」 浴場に騙されて混浴に足を踏み入れた風斗の絶叫が響いている。 人に尋ねる時は相手を選びましょう。少なくとも何処が男湯か尋ねるのに、 「ふー。実に気持ちいいですね……」 何かをやり遂げたような顔をして温泉に首まで浸かる性別不肖――うさぎだけは不適当ですよ。 特に誰も要望しないであろう男湯は男湯で癒しの時間を展開していたが、誰も期待していないので割愛する。 不埒者と警備員。女二人が乱入し、ちょっとした阿鼻叫喚になったのは割愛する。 「へー、ここ、美容に良いんですか。 これ以上キレイになったら、わたし、マジエンジェルになっちゃうね!」 「ねぇ、戦場ヶ原先輩、私思うんですよ! アークは一周年になります! でも度重なる戦いの疲れは溜まってきていると思うんです。 そこで皆さんには『癒し』、つまり少しばかりのサービスが必要だと思うんです!」 熱く語るのは舞姫の背後を取った京子である。 「ここは戦場ヶ原先輩、文字通り一肌脱いでみましょうよ! あ、やっぱり私より大きい、くそぅ!」 「ちょっ! ダメ、京子さん! 大人の事情とか、アークの倫理委員会とかに抹消されちゃうから! らめぇ!」 ……タオルの落ちた舞姫が「こんな事もあろうかと」水着を着込んでいた事、この後京子が熾烈な反撃に晒される羽目になった事。 この混浴は先の風斗の叫びにその辺りも含め「貸切にしておいて良かった」と誰かが心から思う至上の賑やかさ、騒がしさを展開していた。 読者の皆さんに展開される見事なまでのドラム缶! 「……あ、あれ。不思議ですね、湯煙が目に染みて……」 自爆と心無いナレーションに夢乃の大きな瞳がうるうると潤む。 「大丈夫です。見事な直線を描く体型が好みだというマニアックな方もきっと居ますよ」 「そ、そうですよね!」←騙されやすい 混浴に彼女を誘ったうさぎのフォローは当然ながら全くフォロー足り得ていない。 (夏に買った水着、少し胸がきつくなったような気がします……) 酒を楽しみながら時折身を捩る真琴の胸元は何と残酷な事だろう。 (疲れを癒し、湯上りに楽しみ。ああ、早く琥珀色をした生命の水を飲むのが待ち遠しいです――) 目を閉じた星龍が湯上りのウィスキー、ロックの一杯を夢想する。 「僕、酒はのめないけど気分だけでも味わいたいじゃん?」 一方でへらりと笑ってそう言うのは混浴で酒を頂こうと提案した快の呼びかけに乗った面々――『湯浴み酒』組の一人、夏栖斗である。 とは言え、彼の場合は自身の言う通り高校生。酒は呑めないから獰猛な彼女ことこじりにああだこうだと弄ばれる方に忙しい様子であった。 「わ、いろんなお酒が揃ってるのね。 飲みやすい、すっきりしたお味の日本酒をいただこうかな」 食べるのも好き、お酒も好き。瞳を輝かせたニニギアに快があれこれと酒の薀蓄を語り出す。 「呑み過ぎんなよ」 だらりと両手足を伸ばして珍しくリラックスした調子で混ぜっ返したのはランディだった。 「……ま、一年か。たまにはこういうのもいいかもな」 「全く色々ありすぎて、まだ一年ってことに驚きだよ。じゃあ、乾杯」 快の音頭に合わせて仲間達が浮かべた盆の上の冷酒をかっ喰らう。 「あー、こじりさん。それ、一応俺の相棒でもあるから、死なない程度によろしくね」 砂糖何だか豆板醤なんだか分からない名物カップルの猟奇的な愛情表現に快が軽く口を挟む。 「日本酒、徳利、御猪口で一杯。完璧だね。 入浴中の飲酒は身体に悪い? ……知らんがな。 人間生きてりゃ諸々度外視して快楽を追求したい時もあるんだよ」 辛口の酒をくいっと飲み干した喜平が笑う。 「こんな楽しいとさ、明日も何とか生きてたい、とか。思っちゃうよ」 「うんうん、風情があっていいぜ。こういう場を設けてくれた快の兄さんや一緒に楽しんでる仲間に感謝だな」 慣れたものでにやりと笑う義弘はがぼがぼと騒がしい夏栖斗の様を肴にしみじみと言う。 「この機会にイケメンの彼氏(16~20歳限定)ゲットのはずが……」 どうも、上手い具合に目当ては叶いそうも無い陽菜である。 「快さん、義弘さん、神夜さん、喜平さんは尽く歳がアレだし。夏栖斗・こじりカップルはラブラブっぽいし……」 乳白色の闇にがぼがぶと顔を押し付けられ、今にも死にそうな手足が痙攣する様をらぶらぶと云うならばきっとそうに違いなかろう。 どうあれ、理想が高いようなそうでもないような複雑な陽菜のニーズを満たす人間は同じグループには居なかったらしい。 「これが呑まずにいられるかー!」 大声を上げジュースを呷る少女の姿を半眼で眺め、神夜は小さく苦笑い。 「まぁ、いいじゃねぇか。街中じゃ、気軽に羽根を伸ばせないからなぁ……」 嗜めるように言う彼は中々いいピッチで呑んでいる。 「あー、そうそう。思いっきり飲むつもりだから、治療は他を当たるようにな?」 楽しんでいるのは湯浴み酒を気取る彼等ばかりでは無い。 「……良いかい。ワニごっこは遊びじゃあないんだ。 ワニごっこの『おはし』を守って楽しいwani lifeを送るのが俺達の使命。謂わば宿命なんだ」 ……混浴場の中でも一際の異彩を放つのはこのミカサ率いる(?)『ワニごっこ』一同であった。 「準備体操はしっかり~。でないと、生死をさまようことになるのですぅ。WANI IS DEAD OR ALIVE!」 何時も訳の分からないテンション――ロッテの場合はデフォルトである。 「うん、いい心がけだね。『おはし』が解からないワニっ子の為に説明させて頂くと…… 『おはし』って言うのは、およがない。スィーってするのは可。はしゃがない。しずまないの略ね。 これがワニごっこの『おはし』であり、今適当に思いついた指標です。 しっかり守って立派な温泉ワニになりましょう」 何が何だか分からない。淡々と説明するミカサの微妙な情熱が何か変。←ひどい ……とは言え何故か引率の先生じみた彼の言葉に「はぁい」と素直に頷いたワニ連中は温泉の縁に手をかけてわさわさと移動を開始していた。 「……えーっと、この人たちは一体……」 困惑する孝平に構わずワニライフに興じている。 「下半身はピンと伸ばして動かさないのがコツな。俺は温泉の鰐……鰐なのだ!」 「がお~! ボスのお通りじゃ~い!」 テクニカルにワニに興じるモノマに吠えるロッテ。 ボス(?)らしきミカサはマイペースにわさわさとワニっている。 「ギャー ギャギャ ギャーギャ」 ワニと言えばちょっと洒落にならないビジュアルでワニなのは三高平のリ ザードマンである。 「ギャギャギャ ギャギャー」 訳:最近すっかり寒くなってきちゃったじゃないですかぁ? ですから温泉とか素敵だな……って! 思ったりなんかしちゃったりなんかして! 「ギャギャ ギャーギャギャギャー」 訳:おやおや?どうやら温泉で楽しく遊ぼうって言うことらしいですし? 我輩も『ワニごっこ』それとなく参加させて貰っちゃおうかしら? 頭と尻尾だけ出して、こう、スゥーっと動けば本物のワニっぽいかも知れないですねえ! 何処と無くビジュアルが洒落になっていない彼は周囲に「うお!?」とか「マジか!」とか割と衝撃を与えている。 「むしろ今回は目の保養だなっ。 ふふふふ、あっちもこっちも良いケツが並んでやがるぜ……」 ワニごっこも悲喜こもごもで狄龍のような些か不純な者も居るようだ。 兎に角、微妙な盛り上がりを見せる一団である。外から見るといまいち分からないが参加している面々は幸せなのだからそれで良い。 「温泉で飲む冷酒ってのも良いモンだな」 「うん、中々風情があってええなあ」 宴会場の呑み直し、とばかりに酒を楽しむのは吾郎と椿の二人である。 「ところで、引き上げた不審者……どうする?」 人気者というのは苦労が多いという事か。三千世界統べるグレ様は吾郎が引き上げた潜水撮影隊――裸ネクタイの成銀と壱也の二人を眺めて小さな溜息を吐いた。 「うん。吊るしとこか、取り敢えず」 「一緒に吊るしあげるんだべぇ。とりあえず溺れさせようそうしよう。ってあぁ……成銀ェ……」 椿といい樹奈子といい何と言うか実に思い切りが良い。 余りにドラスティックな即断が椿を十三代目足らしめているのかも知れないが――その辺は置いておく。 「ご、ごめんなさい。あまりにも部長がかわいかったのでつい……」 「……あ、やっぱ無理? のぼせて酸欠であれ、ちょっと気持ちいい……」 (……あ、先輩のワニ、かわいい) 壱也は反省もそこそこに縁でワニに興じるモノマをちらちらと眺めていた。 壱也と成銀の二人は全くもってアレである。 「本来なら温泉に入ってる女を撮影するなんて真似は止めるんだけどねぇ」 瀬恋は全く悪びれずに頬を掻いた。 (――貰っちゃったしねぇ、賄賂) しかし、事この期に及べば知らん顔。後はまぁ頑張れ、もしくは死ね――彼女は他人事で温泉に浸かっている。 「まったく……」 何故だかスクール水着を着込んだ彩歌が大仰な溜息を吐いて頭痛を堪えるような顔をしていた。 「あっちは何やってんだか……」 ワニだのヤクザもどきだのしょうもない光景を横目に呟いたのは俊介である。 何時もはやかましいタイプだが今日は少しだけ恥ずかしそうに身を縮めた羽音と一緒に静かに温泉を楽しんでいる。 「んんー……温かくて、気持ちいいね……♪ はい、俊介の好きな、烏龍茶だよー……」 「……烏龍茶うめえし」 冷たい梅酒に目を細める年上の彼女の様を見て俊介は僅かな無念を噛み殺す。 お酒は二十歳になってから――しかし、酔った彼女を目にすれば。 「こっからはずっと俺のターン!」 「ふぇ?」 何してやろうか、まずはキスか。 バカップルにはTPOなぞという難しい単語は分かりはしない。 ある意味で分かり易く『青い』少年のブレーキは最初からオイルが抜けている。 (ふわふわ、ゆらゆら。もう、何されても……わかんないや……) 肝心の羽音が温泉とお酒にくてくてならば、どうして止まるものだろう。 「温泉もいいですが、出た後も格別です。 火照った体を冷やすには気持ちが良いですよね。 それと、マッサージ機。あれは癖になるものです。 白牛乳でもコーヒー牛乳でもフルーツ牛乳でも美味しいものですし」 ざばざばとお湯を掻き分けて貴志が脱衣場の方へ向かう。 多くの運命が重なるアーク。笑い合えるようで居て、それだけでは済まない場所だった。 数奇な宿命に導かれ、この場所を訪ねた人間は決して少なくは無い。 周囲の喧騒にさえ構わず、由利子は傍らの娘に静かに語り掛けていた。 「母さん……何で混浴なんだよ。恥ずかしいったらありゃしない。立ち上がらないでよ、見えるって……」 唇を尖らせた娘――円は奇妙に無防備で世話の焼ける母親からついと視線を逸らしてやり難そうにそう言った。 「あらあら、ごめんなさいね」と。のほほんとした笑顔を浮かべる母が自分を育てる為に戦っている事を円は知っている。 背中に走った痛ましい傷がどれ程のモノかを知っていた。 ナイトメアダウンで受けたという傷は――由利子が敢然と運命に立ち向かった証明である。 円を守ると誓い、円の生きる世界を守ると誓った証である。 何時か由利子がその傷以上に深い傷を受けないとも限らない、そう思うだけで胸が締め付けられるのである。 (私が居る限り、貴方は戦う必要なんて無いの) そして由利子も又、娘の想いを知りながら――凛とした決意を揺らがせる事は無い。 互いが互いを想うが故に何も言わない時間である。何も言えない時間であった。 唯今は…… 「出たら一緒に甘いものを食べて……今日は一緒に寝ましょうか」 「や、やだよ。そんなの」 由利子の言葉に咄嗟に円はそう答えた。 答えた後に少しだけ後悔して――それでもとても「うん」何て言えないと思い直す。 二人の荷物の中にはお互いに向けたプレゼント。何時渡すのか、どう渡すのか……少しだけドキドキするプレゼントである。 ――全ては望みの侭に無く、全てが望まぬ訳でも無く。 箱舟の一年目は緩く、緩く過ぎていく。先に待つ数奇なる運命はまだ見えず。 宵闇の先に、何が待つかも教えぬまま。 「一周年、おめでとう――!」 誰かが、云った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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