● かみさま、世界は何時だって優しかったです。 夏生はそれを知っていました。 だって、夏生に『友達になろう』と手を伸ばしてくれる人が居たんですから。 かみさま、世界は何時だって残酷だったのです。 夏生はそれを知っていました。 だって、夏生は『分かり合おう』としなかったんですから。 「かみさま、世界は何時だって――惨いです。 夏生は、それを、知ってました。だって、夏生は『ワルイコ』だもの」 少女は虚ろな瞳でぼんやりと前を見る。 友達(キマイラ)は居なくなった、仲間(ともだち)はアークが殺しに来た。 自分が愛される少女(にんげん)じゃないと知って居たのに、どうしても甘えてしまう。 愛されていたいのに、その手を振り払った自分。 愛すると言うのに、その手で『仲間』を殺す彼等。 どちらが『ワルイコ』で、どちらが『正義』で、判らなくて。 いいんだ。研究に没頭して、他は何も要らないとそう思い込む事も出来なくて。 「遊びに行こうよ、こもりちゃん。今度は上手くできるから」 ● 「時に、アークに来いという言葉は救いにならない事があるわ」 御機嫌ようと微笑んで『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は資料を捲くる。 「こちら、六道のフィクサードの逢川夏生。幾度かはアークとの接触も見られる少女ね。 一応今まで彼女が起こした事件ってのを紹介すると……アーティファクトの濫用二件とキマイラを連れての公園襲撃かしら。一度は共闘した事もあるわ。……嫌な話だけど楽団の時に、少しだけ」 紹介は以上ね、と端的にまとめる世恋の瞳は揺れ動く。資料を弄る指先は戸惑いを孕んだように見えた。 「夏生とその『趣味の悪いお友達』こと毒に魅入られた女、花籠がまた襲撃してくるみたい。 花籠は毒のアーティファクトを拵えて所持。夏生の方もアーティファクトを持っているみたいね」 お願いしたいのは、と何時も通りに紡ぎかけて世恋は小さくため息をつく。 「……『存在意義』。他人の存在意義を集めて一枚のページにしてしまうアーティファクト。勿論、それを抜かれた人は廃人となるわ。そのアーティファクトを使用して一般人を襲ってるみたい。 アーティファクトを停止させる事が出来ればその存在意義は返す事が出来る……元通りに返せる『可能性』があるという話しね」 可能性である以上、その真偽のほどは分からない。効果がどこまで及んでいるか判らないのだと世恋は告げた。 「そして、花籠は毒は孕むアーティファクトの効用を物云わなくなった『廃人』に飲まし確かめている。 前者のアーティファクトの名前は『eon』、後者は『花毒の夢』。両者のアーティファクトの確保又は破壊、それから六道を撤退させることをお願いしたいわ」 これ以上の被害を増やさない為に、と世恋はリベリスタ達へと頭を下げる。 視線を揺れ動かした後、それからと小さく囁いた。 「……夏生は六道が大好きで、友達も其方に勿論居るわ。でも、友達の為だと一度は見つけた存在理由(レゾンデートル)が友達(キマイラ)を喪った事でそれ以来、ハッキリと見出せない。 夢を、見てみたいのね。幸せな夢を。一人ぼっちと嘯く彼女と、アークにおいでと手を伸ばしながらフィクサードを倒していく私達。『嘘つき』は果たして誰なのかしら?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月31日(土)22:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ざぁ、と波の音がする。耳にしながら『デストロイヤー』双樹 沙羅(BNE004205)は直死の大鎌を握りしめてくつくつと笑っていた。淡くメイクされた赤い瞳、チャイナ服を纏った沙羅の瞳はぼんやりと佇む少女を捉えて笑いだす。 「存在意義? 世界が優しいのも惨いのも万人公平」 「けれど、価値すら見つけられないのが夏生なのだと小生は知っている。しかし、夏生。健気。可愛い。可愛い」 『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)の澱んだ瞳が映す少女の姿は何処か色鮮やかに見える。好きになった人は全員が死んでしまう、そんな事を知りつつも恋情と違う思いを胸に抱いたいりすは彼女を救いに来たのだと一人、決めていた。 龍の濁った瞳が愛しげに夏生を見詰める中、揺らめく気配を其の侭に 葬刀魔喰を握りしめた『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)が地面を踏みしめる。砂浜に食い込む足を其の侭に身体を捻り前線へと飛び込んだ。 「前回は仕留め損なったが、そう何度も獲物を逃がす趣味は無い。さぁ、始めようか」 朔の声に反応して、フィクサードが動きだす。しかし、朔の動きは早い。砂を蹴散らせながら電鞘抜刀がジジとコイルを鳴らす。長い髪を靡かせて踏み込んだ先は六道のフィクサード。何れも敵がどの技を使うかは判らない。前線に飛び出そうと構えたフィクサードに近寄り、刃を振るう。 すん、鼻を鳴らしいりすが続く。身体を滑らせるように夏生へと近づこうとするが、それを防いだのは花籠に従う六道のフィクサードだ。 「……また、逢ったね」 「夏生。小生は君を迎えに来た。己に価値がないならば、持ってくればいい。価値ある物を」 言葉は、鼓膜をなぞる様にじっとりとしている。ふるふると首を振る夏生がeonを手に待ち構える様にリベリスタを見詰めている。黒を手に『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は未だ年若いフィクサードのかんばせをじ、と見詰めていた。 「アークに来いという言葉は救いにならない、か。ま、そりゃ当然だな、アークは理想郷って訳じゃない」 「友達を殺すアークに来いと言われて……」 ――行けるわけがない。 当たり前の様に吐き出す言葉に水無瀬・佳恋(BNE003740)は小さく頷いた。自身だって、偶然フェイトを得た時に世界の為に戦うという使命を自分に与えた。ソレが自身が体内に何らかの力を芽生えさせた『きっかけ』なのだと自身を納得させる為に必要な言葉だった。 「……それでも、救いたいのです」 「そう。存在意義を奪われるって言うのは、とても――怖い」 私だったら何かしらね、とくすくす笑った梶原 セレナ(BNE004215)が魔弓を握りしめた。流れる様な銀の髪、チャイナ服を纏ったセレナは友人である佳恋の横顔を見詰めている。 エルヴィンが前線へと飛び出し、フィクサードを抑えれば、間を縫うように佳恋が滑り込む。アウトドア専用の靴を履いた佳恋の爪先が砂へとめり込む。だが、それを勢いに代えて前線のフィクサードへと長剣「白鳥乃羽々・改」を真っ直ぐに振るった。 『境界のイミテーション』コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)は後衛位置でゆっくりと浮かびあがりながら目を凝らす。持ち前の観察眼を使用して、仲間の支援を行うコーディに続き、『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)も六道のフィクサード達のデータを読み解いていく。 「いっその事、これで存在意義も読みとれれば良いのだわ」 「存在意義か。興味深くはあるが、私には……どうであろうか」 コーディの言葉にエナーシアが小さく笑う。その言葉を聞きながらも無邪気に笑った沙羅が鎌を振り翳し、敵を薙ぎ払わんとする。 「概念全て素っ飛ばしてさぁ、自分がこの世界でどれだけ楽しめるかって重要だと思うんだ。楽しいよ、この世界」 ね、と笑う沙羅の言葉にも六道のフィクサード逢坂夏生は首を傾げただけだった。 ● 毒を何よりも愛していると言う花籠は『花毒の夢』を手にへらりと笑う。六道の女らしい探究心にはコーディは成程と頷くしかない。 「また性懲りもなく、毒を試すか……」 彼女が止めた花籠の凶行。その程度で止まってしまうならば六道は務まらないのであろう。コーディとて理解したくはないがそうしてまでも追い求める気持ちは理解できる気がする。 彼女が視線を送ったデュランダル。防御力が低い事を確認し、タクティカルブーツを履いたエナーシアも同様に六道のフィクサードの分析を続けている。 沙羅が吹き飛ばさんと力を込めて振るう大鎌を受け止めて、開いたいりすがまっすぐに夏生へと飛び込んでいく。少女の瞳と克ち合って、唇が吊りあがった。 「夏生。0に1を足した処で、0の価値は0のままだ。そして、モノの価値は概ね時と共に劣化する。ならば求めるしかない。求め続けるしかない。己は無価値だと思い知らされたくないならば」 「だから、求めてる」 鮫の因子を宿した少女の言葉に唇を吊り上げていりすはいい子だと囁いた。接近しながら鼻を鳴らし無銘の太刀を振るえば夏生はナイフで受け止める。手首で揺れた海喰い水晶を見たいりすの瞳が細められる。 「存在意義存在意義。ボクはこの世界が楽しくて仕方がない。なんたって人が殺せるからね。 正義も開くも悪い子も良い子も超どうでもいい。だってそんなもの図れないもん。人の物差しで正義って変わるんだよ」 へらりと笑って、沙羅が告げる。彼へ向けて振るわれるソードミラージュの切っ先を受け止めて沙羅が視線を送れば、地面を蹴り、彼の上を飛び越えた朔が葬刀魔喰をホーリーメイガスへと振るう。 「『閃刃斬魔』、推して参る。申し訳ないが私は君の情動にも君の研究にも興味がないのでね」 踏み込み、光りの飛沫を上げる刃。煌めくソレを受けながら、ホーリーメイガスを庇うクロスイージスに朔の瞳が細められる。 切り裂く切っ先を支援するのは佳恋だ。吹き飛ばす様に力を込めて握りしめた長剣。白鳥の羽を想わせる白い切っ先がクロスイージスの体へと食い込んでいく。無力な自分には戦士の名は不要だ。戦うためには、無力なままでは居られないのだから。 「――敵を討つことよりも、人を守るための剣でありたいので、私は、止まらない」 踏み込んで、回復手を撃つ事を第一に考えた佳恋が頭を下げる。避けたその場を通り過ぎるホーリーメイガスの矢。見詰めながら、魔弓を引いたセレナがくすくすと笑い続けた。 「水無瀬さんの存在意義が誰かを守る事なら、私は何でしょうね。エンジニアの仕事やその実績とか、あとはリベリスタのお仕事とかでしょうか? ……仕事ばかりというのも哀しい物ではありますがそれはそれとして」 呟きながら仲間達を支援する二種類のドクトリン。支援係として戦線の継続維持を望むセレナを狙う様にスターサジタリーの弾丸が彼女を襲う。弾丸を遮る様にエナーシアは立ち回り小さく笑った。 「夏生さん、未だにウジウジ悩んでるのね? 存在意義ねぇ、全ての生命の存在意義は生きることそのものだわ」 「……生きる、こと?」 eonを握りしめる夏生の指先がぴくり、と動く。唯生きるのではなく良く生きる――そんな素晴らしい事が言えるのは何も知らない文明人だけだとエナーシアは告げた。彼女が全てを知っている訳ではない、だが『良く生きる』難しさを彼女はその身を持って知っているのだから。 「良い悪いなんてまず生きてないと悩みも出来ないじゃない。悩めるなんて贅沢見たいよ?」 「……何が、わかるの?」 「何も。私はそう言う事を気にできた事がないので伝聞だけどね。焦らず自分で考えときなさいよ」 囁く様に呟いて、弾丸をばら撒くエナーシアや前線で戦う朔の傷を癒す様にエルヴィンは前線で敵の往く手を遮りながら抑え続ける。 彼女が迷っている事は分かる。友達(キマイラ)も仲間(ともだち)も皆、奪うアークの面々は何時だって彼女を殺さなかった。殺すと振り翳された切っ先を意地でも庇うと立った女性がいた。君が大切だと楽団の蔓延る地まで追ってきた人がいた。そこまでされても彼女は『六道』という居場所を捨てられない――そこが彼女の居場所だったのだから。 「……だからといって、俺が手を差し伸べる事を辞める理由にはならないけどな」 その声を耳にしながら、浮かび上がったコーディが雷撃をばら撒き続ける。毒への知的探究心を知り過ぎた故に、理解してしまうが許せない。雷が全てを貫く中で花籠の顔を見詰めたコーディが溜め息交じりに女の名前を呼んだ。 「花籠……探究を続けた先に何を見る。探究そのものを目的としているならば……先は無いぞ」 その声に花籠と呼ばれた女が幸せそうに笑う。毒を手にした彼女の胸元で揺れる『花毒の夢』は矢張り彼女が作り上げたものだろう。その声を耳にしながらフィクサードを薙ぎ払い、前線へと突入する沙羅の瞳がゆっくりと笑う。 「アークってさ良い所だと思う? あと、先に掃除しても良いかな」 一般人を風圧で押しのけようとする沙羅ではあるが一般人の体は革醒者のソレとは違い余りに丈夫ではない。転がっていく身体を見詰めエルヴィンは咄嗟に回復を掛けた。続く様にセレナが回復を施していく。 花籠の視線は沙羅へと興味を持って降り注いだ。 「なっちゃんは『友達を殺す』所って言ってるけどねぇ。よくわかんない」 「壊されたくない平穏を望む死に物狂いの集団だとボクは想う。ボクらは駒だ、時村の。そういう考え方も出来るだろ?」 極論ねえと笑う花籠が「じゃあ六道なら羅刹さんの『駒』?」と楽しげに笑い始める。攻撃を繰り出す沙羅を受け止める様に花籠は身体を引く。 切り裂くソレに痛みを覚えて叫びだしそうになるフィクサードの顔を見てぞわり、と沙羅の背筋に走るのは紛れもない快感だ。 「オネーサン、良い趣味してるね、ボクにも毒頂戴よ。ま、効かない身体なんだけどね」 くす、と笑う沙羅に花籠が四色の光を打ち出した。避けず、身体に受け続ける痛みにも沙羅は楽しげに笑い続ける。 花籠を相手にする傍らで敵を見据えたセレナが星を落とし続ける。「困ったものですね」と間延びした声を聞き、佳恋は踏み込んだ。 流れる黒髪がふわりと揺れて、切っ先がフィクサードに突き刺さる。貫かれる其れに血を吐くフィクサードが花籠と名を呼べば背後で彼女は幸せそうに笑っていた。被検体が一つ増えたと言わんばかりの顔にエナーシアが溜め息を混じらせ弾丸を降らせる。 「自分で盛っといて結果も待てないとか本当に六道なのかしら?」 「何よう」 ブーイングを発する彼女の足を撃ち抜く弾丸に花籠の体が傾けば、そこに抑え掛かる様にコーディの雷撃が降り注ぐ。 前進し、いりすは夏生へと手を伸ばす。抱き締める様に傷つける。勝敗は常に必要なのだから。 「破界器は手っ取り早く、その価値を与えてくれる。君もそうだろう? ならば賭けよう。小生の『存在意義』を」 言葉を捧げる様に告げるいりすに夏生がぼんやりとした侭に切っ先を振るう。光りの飛沫を上げ、輝く切っ先をいりすの腕に突き刺せば、濁った瞳は楽しそうに笑う。 「君が勝ったら、小生の破界器をやろう。小生が勝ったら、君の人生をくれ」 「人生を……? アークに来て、一緒に来いってこと……?」 いりすは説得が苦手だ。『腐れ魚類』――自身を焦がす記憶は約束を破っていた。何故だろう、『僕』は彼女をとても愛しく思っている。可愛くて仕方がなくて、攫って帰ってしまいたいとも思える少女。 だからこそ、救いを求めたいと思ったのだろう。倒してしまえばいい。 真っ向から斬って斬って立ち向かって、勝って手を伸ばす、唯、ソレだけだから。 ● フィクサードを打ち破り朔の手が真っ直ぐに花籠のネックレスへと伸ばされる。見開いた目を其の侭に雷撃を降らせる花籠を黙らせるように首筋に添えられた沙羅の大鎌。 「友達殺した奴等の寝どこに潜り込むなんて無理だよね? そういう事。正義って誰にでもあるしさ。 ボクにだってあるよ。ボクの正義はボクより強い奴を倒す事。強者は何時でも正しいんだ」 「……それで、殺すのぉ? 強いって思ってくれるなんて嬉しい事だわあ」 じ、と見る花籠に笑いを浮かべる沙羅。癒し手が手招けば、彼へと癒しが与えられる。正義と正義がぶつかる。お互いの正義が許せないなら潰し合うだけだ。 正義が許せないならば死ねば良い――世界って何時だって残酷だから。 「……こもりちゃん! 友達を、いじめないで」 「夏生、余所見なんてせずに小生を見れば良い。小生だって六道ずを全員殺したいわけではない」 いりすの声に夏生が睨みつける様にナイフを真っ直ぐに振るう。感情を顕す姿にもいりすは楽しげに微笑んだ。 倒れ込んだ花籠がその姿勢のままに四色の光を打ち出せば沙羅の体が仰け反った。だが、その腹を突き刺す朔の剣が抉る様に地面へと縫いつける。 手にし、其の侭踏みつぶした『花毒の夢』。続き、いりすが夏生の握りしめるeonを狙えばエナーシアの弾丸が夏生の腕を撃ち抜く。離れるeonが宙を舞う。踏み込んだ佳恋はその勢いのまま剣を振るった。 助けるのみ――! 渾身の力を込めて佳恋は救うと言う意思を強く持って振り被る。eonと名付けられたアーティファクトが割れると同時、沙羅が吹き飛ばした一般人の手がぴくり、と動く。 「世界は掛け値無しに素晴らしい、故に押付ける必要すら無いのだわ。自分で見つけなさい」 「……でもっ!」 エナーシアの告げる世界は創造主が作り出す『楽園』だ。故に創造主の敵は全てを許さないが、創造主が其処に居る限りは大体は寛容に受け入れ続ける。 それでも、受け入れがたいのは『おいで』と誘う声と仲間を殺す手が両方差し伸べられるからだろう。 「それなら小生と生きれば良い」 「そんなこと……」 できるわけが、ないじゃないと囁く様に言う夏生に手を伸ばす。落ちるナイフに傷を得た腕を抑えてすすりなく夏生を見詰めていりすは彼女の傍に寄り添った。 誰かが殺そうとするならば、全てを庇うと決めていた。花籠が戦うと力を込めて技を繰り出せばそれを抑えにかかる朔と沙羅が居た。 攻撃を繰り返す朔が腹を抉る様に剣を突き刺せば女が小さく唸る。見詰めながら、俯いてすすりなく『嘘吐き』にいりすはじ、と見詰めて囁いた。 「……約束はやぶってしまったけれど、何時だって君を大切に想っている」 それは、恋情では無い。『好き』になってしまったら殺さなくてはいけないから。恋をすれば何時だって不幸な結末が其処にあるから。 夏生は友人でもあり、娘みたいなものだ。子を愛さない親などいない。だからこそ、存在意義を求めるならば己があげれば良い。 けれど『嘘吐き』はキチンとその目で見た。アークが自身達を問答無用で殺そうとするその現実が痛いほど判るから。それに、来いと言われて揺らぐ気持ちが無かったとは彼女にも云い切れない。 沙羅の云う通り『正義』を以って、使われるだけなのかもしれない、それでも――自分の居場所である『六道』に居たいから。 「これは勧誘でも説得でも無いんだが、女たらしが女の子をナンパしようとしてるそれだけの話しなんだけどさ」 エルヴィンが唇を歪めて笑えば夏生が顔を上げる。傷だらけ、『友達を裏切って此方へ来い』という言葉では無いという前置きを聞いて少女は何処か不安そうな笑みを浮かべている。痛みに抑えつけた右腕から流れる血が夏生の不安を誘うのだろう。 「六道とかアークとかそんなの無視して、俺個人と友達になるのはどうだい? 君は六道のままで、俺はアークのままで。個人的にメールしたり遊びに行ったりご飯食べに行ったり、さ」 その言葉に、瞬いたのは夏生だけではない。殺す事を目的とする死刑人(デストロイヤー)の沙羅もだ。夏生の傍を離れずに庇ういりすもそうだが、夏生へと個人的な友人関係を取りつけんとするエルヴィンの行動と言うのもやはり並外れた物ではある。 「……悪党(フィクサード)だよ、知ってるでしょ」 「知ってる。ねえ、どうかな? 唯のナンパだよ。ほら、それ、俺のアドレス、気が向いたら連絡してきてよ」 可愛いお嬢さんと押し付けられた名刺に瞬いてじ、と見詰める夏生。帰りましょうとエナーシアが促せばリベリスタ達は一般人の保護を優先する様に動き出す。 腹から剣を抜けば、花籠は生死分からぬままにぐったりと倒れ込んでいる。彼女の元へとゆっくりと近づきながら夏生は花籠の頬にゆっくりと触れる。その姿を見詰めつつ朔は一歩引き下がる。 「こもりちゃん、返して」 立ち竦む夏生が血まみれになって気を喪った花籠を背負いあげ、のんびりと歩きだす。 「その女は生きてるのか?」 「長く、持たないんじゃないかな。もうすぐ、しんじゃうんじゃ、ない? 足撃たれちゃって、歩けないし」 ね、とぼんやりとした瞳で朔に告げる夏生がゆっくりと歩いていく。その背を見詰めながらPDWを下ろしたエナーシアは小さく溜め息をついた。 「死ぬってのはね、自分自身の責任だわ。此方もそちらも死なない様頑張りませうか」 生きるも死ぬも、世界は素晴らしいのだから。自分の存在意義を態々と『言葉』にすることもない。 ザザァと波の音が緩く鼓膜を擽った。夏の終わりが近い事に気付き、エナーシアは目を伏せる。 波は、何かを攫う様に、引いて行った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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