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<福利厚生2013>箱舟シーサイドストーリー

●そういう訳で……
 海の青さは空の青さを映しているものだという。
 ならば、眼前に広がるエメラルド・グリーンは更に自然が一工夫して作り出した奇跡のような芸術品と言えるのだろうか?
 真っ青に晴れ渡る空には白いもくもくとした入道雲。
 何時もよりも大きく見える太陽の照らす世界は『暑い』。しかし、熱気に溢れた砂浜は――日本特有の湿気を含んだ不快さを殆ど感じさせないものだ。
「諸君、海だぞ。南の島だぞ」
「分かってるってば……」
 芝居っ気たっぷりに言う『戦略司令室長』時村 沙織 (nBNE000500) にリベリスタは苦笑を浮かべた。
 アークに降りかかる様々な『問題』は現在も山積したままだ。しかして沙織はそんな状況だからこそオンオフを特に重要だと考えているのか。
 嵐のような夜の後には、やはり嵐のような時間が待っていた。
 帰還したリベリスタ達は即座に一時の休息を命じられ――その間にも驚異的な組織力をフル回転させたアークはバカンスの計画を『強引に』実現させたという訳だ。
「……お前って、執念深いよな」
「可愛い子を口説くのも仕事を上手くやるのも粘り腰が重要だぞ」
「確かに途中で諦めてたら何度かアークは沈没してるな」
「褒めてるのに」
 呆れた調子のリベリスタにくすくすと笑う沙織は悪びれない。
 三高平のリベリスタはまことしやかに語るのだ。「司令代行はそう言いながら、俺達の為にしてくれている」。「否、単にあの人は水着の女の子を見たいだけだろう」。真実は読み難い彼の事、定かではないが。
 何れにせよ、『親衛隊』との長きに渡る戦いを一先ず制し、死線の夜を越えたリベリスタ達は――やけにテンションの高いに司令代行殿に半ば引きずられるようにこの『恒例の南の島のバカンス』に連れ出された格好だ。
「ここはウチの島だからお前等も気楽に過ごせるだろ。
 ビーチで遊ぶのもいいし、泳ぐのにもいい天気だ。
 暑いから客船で快適に過ごしてもいいし、興味があるならマリンスポーツ――スキューバに水上バイク、小型ヨットの準備もあるぜ。飯はレストランでも浜でバーベキューでも……海の家は桃子がぼったくるって息巻いてたけどね」
 日頃は暑苦しい格好(フォーマル)な沙織も今日は遊ぶ心算らしい。
「ま、いいけどさ――」
 肩を竦めたリベリスタは頬を撫でる心地良い潮風に小鼻を動かした。
 始まりは兎も角、この休日が『困難と困難の間にぽっかりと浮いた浮島』に過ぎないとしても――ここまで来たならば楽しまない方が損である。
 夏は暑い。
 逆を言えば暑いからこそ夏なのだから――それは一つの『正解』なのだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年09月10日(火)23:03
 YAMIDEITEIっす。
 八月ラスト。福利シナリオ。
 プレイングのルールが設定されていますので確認して下さいね。

●任務達成条件
・適当に緩くお楽しみ下さい。

●シナリオの備考
 福利厚生で南の島に行きました。
 南の島は適当な南のどっかに浮かんでいる素敵トロピカルアイランドで、時村家所有の無人島です。ここまでの移動は時村観光の所有する最新型の大型客船、それも貸切なので船内にはレストラン、シアター、カジノ、ジム等をはじめとする御馴染みのアミューズが揃っています。
 白い砂浜とエメラルドグリーンの海に抱かれる優雅(或いは馬鹿馬鹿しくても良いですが……)なバカンスを楽しみましょう。

●プレイングの書式について
【浜遊び】:浜辺で遊びます。軽く水遊びも。バーベキューも。諸々。
【海遊び】:積極的に海で遊びます。水泳やスキューバ、マリンスポーツも。
【海の家・デリシャスピーチ】:桃子主催の海の家で過ごします。或いは手伝わされたりします。
【船内】:船内で過ごします。色々雑多だったり、のんびりしたり。

 上記の四点からプレイング内容に近しいもの(【】部分)を選択し、プレイングの一行目にコピー&ペーストするようにして下さい。
 プレイングは下記の書式に従って記述をお願いします。
【】も含めて必須でお願いします(執筆上の都合です)

(書式)
一行目:ロケーション選択
二行目:絡みたいキャラクターの指定、グループタグ(プレイング内に【】でくくってグループを作成した場合、同様のタグのついたキャラクター同士は個別の記述を行わなくてOKです)の指定等
三行目以降:自由記入

(記入例)
【激しく登山】
Aさん(BNEXXXXXX)※NPCの場合はIDは不要です。
Aさんと一緒に島でポーン!

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間と参加者制限数はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・イベントシナリオでは全員のキャラクター描写が行なわれない可能性があります。←重要!
・獲得リソースは難易度Very Easy相当(Normalの獲得ベース経験値・GPの25%)です。
・内容は絞った方が描写が良くなると思います。

●参加NPC
・時村沙織
・時村貴樹
・桃子・エインズワース
・真白智親
・真白イヴ
・将門伸暁
・天原和泉
・クラリス・ラ・ファイエット
・セバスチャン・アトキンス
・アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア
・エウリス・ファーレ


 オーソドックスな島での時間を描くセントラル的シナリオです。
 のんびりと恋人や友人との時間にもどうぞ。
 以上、宜しければご参加下さいませませ。
参加NPC
時村 沙織 (nBNE000500)
 
参加NPC
桃子・エインズワース (nBNE000014)
参加NPC
真白・智親 (nBNE000501)
参加NPC
アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア (nBNE001000)


■メイン参加者 98人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
デュランダル
霧島・神那(BNE000009)
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
マグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
デュランダル
梶・リュクターン・五月(BNE000267)
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
クリミナルスタア
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
プロアデプト
氷雨・那雪(BNE000463)
ソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
マグメイガス
雲野 杏(BNE000582)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
プロアデプト
オーウェン・ロザイク(BNE000638)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
覇界闘士
鈴宮・慧架(BNE000666)
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
ソードミラージュ
上沢 翔太(BNE000943)
デュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
ナイトクリーク
五十嵐 真独楽(BNE000967)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
ソードミラージュ
天風・亘(BNE001105)
スターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
デュランダル
阿野 弐升(BNE001158)
プロアデプト
イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)
ナイトクリーク
神城・涼(BNE001343)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
デュランダル
蘭・羽音(BNE001477)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
ホーリーメイガス
アンナ・クロストン(BNE001816)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ナイトクリーク
黒部 幸成(BNE002032)
プロアデプト
銀咲 嶺(BNE002104)
ソードミラージュ
エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)
スターサジタリー
結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)
スターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
ソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
プロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
ソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
ホーリーメイガス
神代 楓(BNE002658)
覇界闘士
三島・五月(BNE002662)
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
クリミナルスタア
坂本 瀬恋(BNE002749)
マグメイガス
ラヴィアン・リファール(BNE002787)
クリミナルスタア
タオ・シュエシア(BNE002791)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
クリミナルスタア
宮代・久嶺(BNE002940)
ナイトクリーク
六・七(BNE003009)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
プロアデプト
阿久津 甚内(BNE003567)
ソードミラージュ
カルラ・シュトロゼック(BNE003655)
ホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
インヤンマスター
華娑原 甚之助(BNE003734)
ソードミラージュ
セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)
レイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)
覇界闘士
雑賀 真澄(BNE003818)
スターサジタリー
靖邦・Z・翔護(BNE003820)
ソードミラージュ
フラウ・リード(BNE003909)
ナイトクリーク
鳳 黎子(BNE003921)
クロスイージス
白崎・晃(BNE003937)
ナイトクリーク
ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)
プロアデプト
柊暮・日鍼(BNE004000)
レイザータクト
杜若・瑠桐恵(BNE004127)
ソードミラージュ
紅涙・いりす(BNE004136)
クリミナルスタア
熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)
ソードミラージュ
桃村 雪佳(BNE004233)
ホーリーメイガス
紗倉・ミサ(BNE004246)
クロスイージス
リコル・ツァーネ(BNE004260)
ホーリーメイガス
雛宮 ひより(BNE004270)
ナイトクリーク
浅葱 琥珀(BNE004276)
ナイトクリーク
纏向 瑞樹(BNE004308)
ソードミラージュ
蜂須賀 朔(BNE004313)
スターサジタリー
宵咲 灯璃(BNE004317)
ホーリーメイガス
キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)
マグメイガス
フィリス・エウレア・ドラクリア(BNE004456)
ミステラン
シィン・アーパーウィル(BNE004479)
覇界闘士
コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)
スターサジタリー
御経塚 しのぎ(BNE004600)
ソードミラージュ
桜庭 劫(BNE004636)
ナイトクリーク
プリムローズ・タイラー・大御堂(BNE004662)
マグメイガス
有沢 柚那(BNE004688)
マグメイガス
梅子・エインズワース(nBNE000013)
フォーチュナ
アイワ ナビ子(nBNE000228)

●バカンスのパスポート
 真夏の太陽は些か気の多過ぎる美人のようなものだ。
 多くの人間に何とも言えない魅力を伝えながらも――見下ろす皆に熱っぽい視線を投げかけてくる。
『合わない』誰かが居るのも、全く気の強いヒロインのようでは無いか――
「昔はそんなこと無かったのですがねぇ。日焼け、正直キツいですからね……」
 ――南国の自己主張の激しい太陽を外に涼しい船内のバーでそんな風に呟いたのは嶺だった。
 汗をかいたグラスに指先を触れさせ、その冷たさに口元を少し綻ばせた彼女が『革醒後、妙に暑さに弱くなった』のは或いは彼女がその身に有する神秘的因子によるものなのかも知れない。
(……しかし、これはこれで良いものかも知れません)
 テーブルの上の生ハムとブルーチーズ、オリーブの浅漬けは彼女がリクエストしたものだ。
 太陽の輝く南の島で昼間から飲酒というのはどうかとも思うのだが、これはこれで至極贅沢な時間に他なるまい。
 思えば『親衛隊』との決着のついたあの夜以降――リベリスタ達の時間は嵐のような忙しなさに満ちていた。
 戦いの結末は全く読めない状況だった。敗戦とは並び立たないこのバカンスという状況は成る程、紙一重の結果の末に訪れた『御褒美』ではあったのだが、その為の準備に怠りが無かったのは――強行したのはアーク上層部の意地と言えたのかも知れなかった。
「まぁ、結果良ければ全てよし。それはいいんですけど――」
 嶺は馬鹿馬鹿しい程の豪華客船を持ち出した馬鹿馬鹿しい程大袈裟なバカンスに少しだけ苦笑した。
 小市民的と言ってしまえばそれまでだが、やはり時村(かねもち)の考える事は良く分からない。
 尤もそこに必要なコストはさて置き、そうした理由は分からないでもない。大型客船そのものをリベリスタ数百名の為に貸し切った沙織の判断は心行くまで羽を伸ばして貰いたいという気持ちの表れと言えるのだろうが――
「……くそ、何が悲しくて、南の島に来てまで船内を逃げ回んねーといけねーんだよ!」
 バーに慌しい気配が近付いてきた。
 ドアを開けて逃げ場を探した一つ目の気配の持ち主は楓。
「フフッ、私とのセッションがそんなに嫌なのかしら?」
 それを追うように接近する二つ目の気配の持ち主の方は逃げる彼を追いかける瑠桐恵である。
 いい歳をした大人が『南の島の客船で追いかけっこ』なる事態は船内演奏でサックスを披露した楓を瑠桐恵が見つけた事から始まった。何度か依頼で一緒になった二人は専ら『瑠桐恵が楓を気に入る』という形で奇妙な人間関係を作り出している。
(……いや、別に綺麗な女教師に云々が嫌ってわけじゃねーけどさ。俺、別にお姉さん属性ねーし?
 綺麗系よりは可愛い系の方が……)
「見つけた!」
「……ってうわなんでこんなところに居るんすか!?」
 お騒がせしました、と視線を送る瑠桐恵にグラス片手の嶺がひらひらと手を振った。
 何事も情熱的なのは悪い話ではない。「止めろよ全年齢だよ生殺しかよ畜生っ!」捕食されそうな若者の運命がどういう結末を迎えるかは又別の問題として――
「そうですね。日が傾いたら私も島に行ってみましょうか」
 ――リベリスタ達の、リベリスタ達による、リベリスタ達の為の休日はきっといい時間になるだろうから。
「……よし、そろそろ行くか。今日のノルマは出番十箇所だ!」
 最初から『見切れ狙い』の携帯ゲーム女(アイワ ナビ子)は置いといて。

●夏、本番。I
 青い空。
 白い雲。
 鼻腔を擽るのは潮の香り。遠く鴎が飛んでいる。
「リコル! 海ですよ、海っ!」
 玲瓏とした少女の歳相応の姿を見るのは年長者としては嬉しいものだ。
「今年の夏はお祭りには行きましたが、二人で海に……何て、ありませんでしたからね。
 だから、リコル。今日は一日、思う存分楽しみましょう!」
 波打ち際に駆け出し、自分を振り返る『お嬢様』。
 良く通る美声で呼びかけてくるミリィにカナリーイエローのビキニを着たリコルは素晴らしい笑顔で応えるのだ。
「南の海は美しゅうございますね! お嬢様と遊びにくる事が出来て嬉しゅうございます――」
 繰り返す。
 真夏の太陽は些か気の多過ぎる美人のようなものだ。
 多くの人間に何とも言えない魅力を伝えながらも――見下ろす皆に熱っぽい視線を投げかけてくる。
 成る程、船内に居てもそれをそうと感じる位――『彼女』の誘惑が強いなら、夏のビーチはそれを一層引き立てるだろう。
「うーみー!」
 壱也が叫ぶ。
「うーみーッ!」
 力一杯に叫ぶ。青い海原に届けんと大きな声を搾り出す。
(折角南の島だもん海いきたいもんねっ)
 水着にパーカーを被って日焼けは防止――こんな時は誰かを捕まえるに限る、と壱也は周囲の様子を伺った。しかして、ふらりと予定外のバカンスに参加した彼女を待っていたのは……
「ひょわああああああっ!? 冷たっ!?」
「羽柴ちゃんも最近抵抗しなくなったよねぇ~☆
 という訳で阿久津ちゃん、夏、海、青空ときたら羽柴だよね☆」
「まー羽柴ちゃんもアイドル乙女だからねー……
 これも僕ちゃん達の地道なロビー活動の賜物だよねー★
 あーいーねそれー♪ 夏海青空イコール羽柴だねー★」
 良く分からない事を実に楽しそうに言う葬識と、凍ったなまこで壱也の背を撫でた甚内の二人だった。
 酷い予感しかしない三人組がやいのやいのと騒いでいた。
「さ、リンシード、楽しみましょう」
「おねーさま、行きますよー……!」
 特別なひらひらの水着を着て、水辺で飛沫と共に戯れる妖精達の姿はまるで一枚の絵画のようである。
 壱也達【羽柴】の皆さんが『漫画的』ならば糾華とリンシードの二人はまるで『絵画的』と呼べるだろう。
 ビーチボールが宙に舞う。強い日差しが透明のビニールと潮の香りの水滴に反射して輝きを放つ。
(……こうして海で遊ぶのは初めてだけれど……)
『肌を晒す事』に少なからぬ抵抗を覚える糾華が熱い砂の感触に、足元を濡らす波の冷たさに身を委ねる気になったのは偏に自分を慕い、純粋な好意をぶつけてくるリンシードの存在あっての事である。
「……わわ……!」
「ふふ、ちょっとどじなねーさま可愛いです……!」
 意地悪く捕球の難しい球を投げ、バランスを崩した糾華をからかうように笑うリンシード。
「もう、嬉しそうな顔しちゃって! そんな子には、こうよ!」
「きゃあ――!」
 子猫のじゃれ合いのような時間は何と緩やかで休日らしい時間だろうか!
「ぎゃー!?」←壱也の悲鳴
 三高平の日常とも、神経の張り詰める戦いの時とも全く違う!
 嗚呼、素晴らしきかな、南の島よ!
「白い砂浜って本当にあるんだね……」
 感嘆の声を漏らした瑞樹にイヴがこくこくと頷いた。
「こんな所なら」と貝殻を探し始めた瑞樹にイヴが習う。
「ここは無人島だから綺麗なのが沢山あるよ」
「ふぅん、そうなんだ。あ、大きいの見っけ……あちゃ、ヤドカリの先客入りか」
 少し大袈裟に言って舌を出した瑞樹にイヴが微かな笑みを見せた。
「大丈夫、私はフォーチュナ。運命は従え、捻じ伏せる」
「そうそう。その調子。それから巨大なうさたんも作るのだぁ!」
 大袈裟に気合を入れた御龍の言葉に万華の少女が微笑んだ。
「まずはこの島に俺が来たって証を残さないとな。
 何故って?そりゃ、ロマンだからさ! 天下一のラヴィアン城を築いてみせるぜ!」
 白い砂を手元に集め始めたのはこのラヴィアンも同じであった。
 アークの福利厚生としては三回目を数えた恒例のバカンスは、やはり何度味わっても格別だ。
 やれる事は数多いが、やはり人気のビーチである。
「折角の一年に一度の機会、島に降りなきゃ勿体無いわ」
「ふむ?」
「でもこんな時位しか海に来ないから……何していいか」
 少し罰の悪そうな未明はドレスめいた青いビキニを身につけていた。
「せっかくの浜辺である。水合戦でもしてみようか」
「水合戦ってあの、水辺できゃっきゃうふふするアレ?」
「然り。手加減はなしで、な?」」と頷いたオーウェンに肩を竦めた未明は言う。
「まさか自分がやる日が来るとはねぇ――」。
 南の島に降り立ったリベリスタ達はめいめいの自分が期待した時間を過ごし始めていた。
 それは友人同士の時間であり、オーウェン達のような恋人同士の為の時間にもなる。
 何かに追い立てられる事が多い現代人――特にリベリスタ――が心から自由を満喫出来るこの時間は、成る程『運命なるこの世界の意志がせめても用意した後駄賃であり、先駄賃のようなもの』であろうか。
「日差しは油断大敵デスからね!」
「何時もすまんな」
「いえいえ! 気にしなくていいのデスよ!」
 ビーチチェアとパラソルを準備良くしつらえておいたシュエシアに貴樹が軽く目で笑う。
「……日焼けはお肌の敵デスし」
 彼の体調のみならずもう一つの理由を有する年頃の彼女である。昨年の中華風のものに続き、今年は人魚をイメージする赤を基調にしたものである。小さな貝殻を指先で摘んだ彼女は貴樹の視線に頬を染める。
「……貴樹、こういうのキライじゃないデス?」
「非リアなう。水着、ダボシャツ、サンバイザーで砂浜に体育座りなう」
 SNSツールに触れているナビ子はこんがり焼いておきましょう。
 少し離れた砂浜を手を繋いだ二人が歩く。
 俊介と羽音の二人が一緒に居るのは珍しい事ではない。
「別れたのは大体俺のせい。
 俺我儘だから色々羽音に要求しちゃうし……
 まあ戻ってきてくれて良かった、元気で帰ってきてくれて良かった。
 ……ま、いつまでも待ってたけどな、戻ってくるのを」
「一度、別れたのは喧嘩の勢いもあるけど……ちゃんと理由もあったの。幸せになって欲しかったから。
 あたし達、もしかしたら……離れた方が貴方は幸せになれるんじゃないかな? って思ったから」
 しかし、二人が口を揃えて言う通り喧嘩をする事も珍しい事ではない。
 恋人同士は難しい。お互いを強く想うからこそ、噛み合わなくなる事もある。
 それでも彼女は戻り、彼は待っていた。再びの始まりを感じられるのがこの夏ならば――
「貴方は、あたしを待っていてくれた。それがしゅんの気持ちなら……
 今度は、あたしの番――貴方を、愛してる」
『熱い砂浜』から少し視線をずらしてみれば、
「南国とはいえ、やはり木陰は涼しゅうございますね、そよ風が気持ち良いです……」
「ええ、こんな風にしているのも……悪くはありませんよね」
 ビーチより奥まった辺りにシートを広げ寄り添うシエルと光介の姿もある。
「今年の水着、すごくすっごく素敵です。チューブトップがせくしーです!」
「はぅ……」
 まさに『目を輝かせ』熱っぽく言った光介にシエルの白い肌が赤くなる。
 頭上の葉を揺らす風は涼やかで日差しは随分と弱められていたから――それは単純な暑さによるものでは無い。
「あ、でも、けっこう大胆だから……誰にも見せたくなくなっちゃうな。ボクが独り占めしたいです」
「独り占めしたいとか、もう知りません……でも」
「でも?」
「……お気に入り頂けたのであれば何よりです」
 微笑ましい恋人同士のやり取りから一際賑やかな方に目をやれば、浜辺で全力の遊びに興じる【ビーチドッジ】の面々が居た。
「せんせー、石は詰めて良いんですかー?」
「言い訳無いだろ!」
「せんせー、じゃあ砂なら良いですかー?」
「駄目に決まってる!」
「駄目ですか。あれも駄目これも駄目、ちっちゃい男ですねえ」
「こら!!!」
 ――訂正しよう。賑やかではなく煩い、だ。(主にうさぎに応対する風斗の声が)
「説明しよう! ビーチドッジとは、ビーチボールを思う様ぶつけ合うだけの競技である!
 周りは全て敵だ! 手にしたボールを叩きつけ、相手をノックアウトせよ! 説明終わり!」
 風斗曰く「頭を一切使わずに遊びたかった。それだけなんだ」。
 彼の呼びかけに集まったのは独特の三白眼で彼を見つめる言わずと知れたうさぎと、
「ふ。たまには外で運動しろよという誰かさんのお節介に答えて今年は私もビーチドッジに参加……!
 実際、実戦で鍛え上げてる以上もやしもやしと言われる筋合いはそろそろないわ!」
 そこに譲れない主張のある委員長――アンナ・クロストン、
「ふ、ふふ。僕のCT(必中・回避)が光って唸る競技だね。特にボールを風斗君にぶつけられるってのが最高だ」
 些か不穏当な笑みを口元に浮かべるロアン。
 風斗を加えて合計で四人、暫定的にどっちかわかんねーうさぎを女の子扱いしておけば男二人、女二人で丁度いい感じである。
「異議があるッ!」
 風斗はうっさいからスルー。
「喰らえ前衛共私の渾身のアタック……!」
 やいのやいのとビーチボールが砂浜に唸りを上げる。
「同じように修羅場で汗かいてるのになにかしらこの差は!」
 アンナのボールが軽く止められ、絶望的な表情を見せた彼女のデコにロアンの一撃がクリティカルする。
「ふ、ボールに込めるは甘い毒。女の子には痺れるようなこの毒を!
 さあ、どんどん風斗君を攻撃しよう。皆で風斗君を攻撃しよう!」
「……って、えっ、何リミットオフなんて使ってんのこの馬鹿。いや卑怯じゃねそれ。ちょっ、おいこら、ちょっと待……」
「うおおおおおおおお! うさぎは男だあああああああああああ――!」
 実に楽しそうである。
【大海堂】の何時もの面々が『それなり』の時間を過ごしている風景もある。
「えー、コホン。ええーっと……」
 咳払いを一つ。
「今年もこうして皆さんと無事にバカンスを楽しめる事を嬉しく思います。今日は思い切り羽根を伸ばしていきましょうね」
 腰に手を当てる社長――彩花が挨拶らしいものを述べる一方で、
「皆でばーべきゅーですねー。しかしBBQって何で串にさしてやるんでしたっけ?」
「さもありなん、動き回れば腹が減ります。
 とりあえず浜辺で遊びながら肉食おうぜって集まりみたいですね」
 パラソルを立てる水着にパーカー姿の慧架と淡々とした表情を崩さないモニカが『メイドらしく』手際の良い準備を進めていた。
「折角なので、普段じゃできないようなものに挑戦だ。そう 豚の丸焼き……!」
「これは凄い」
 珍しく素直な感嘆を口にしたモニカに子豚を一匹何とか調達して持ち込んだカルラが得意気な顔を見せた。
「下処理してある仔豚丸一匹って普通に買えるんだよな。
 普段は稼いでも武装とかにしか使わないんだが、たまにはいいだろ。
 ええと、括り付けて回し焼きする設備は社内の部品を拝借して、と……
 丸ごとは臭みがあるだろうからスパイスやハーブ、香味野菜を多めに使って……
 焦がさないように強火の遠火でじっくりと……」
 豪快にして芸が細かい辺り、カルラも『なかなかやる』風である。
「なにやら装甲車が鉄板状態になってませんか? このまま焼けそうですね」
「何処かの一人焼肉じゃあるまいし――」
 本気か冗談か慧架が言う。
 ふ、と笑うモニカの視線の先には『これまでは余り見かけなかった顔』があった。
「う~んっ、こんなに素敵な場所ならダーリンと一緒に来たかったなぁ……♪」
 燦々と輝く太陽の下、『にへら~』っとばかりに相好を崩し、くねくねとして見せたのは何かと姦しい(……と言うと或いは彩花辺りには失礼なのかも知れないが、実際問題風紀的にかなりの問題がある)大御堂家の一員である所のプリムローズだった。日本語の堪能さは置いておいて、イングランド出身の彼女は大御堂家次男・大御堂計馬の妻。つまる所、彩花から見ての兄嫁、モニカから見ての義理の姪に当たる人物だ。
「想定通りに惚気やがりましたね」
「何? あらあらやだやだ、女の嫉妬は見苦しいんじゃない~?
 大体モニカちゃんもう四十手前でしょ。そろそろイイ人見つけるべきなんじゃない?」
 信じたくは無いが、アラウンドフォーティーのモニカさんにこの発言はイラっと来るものだったらしい。
「まあ貴女がどれだけ愛を語ったところでその旦那の筆……」
「……か、回数なら私の方が上ですもーんだ!」
 ……健康的な夏のビーチに不似合いな話題はこれから楽しいBBQに興じようという人々にも不似合いだ。
 またしも大御堂の社会的フェイトを喪失しそうな危険な話題に苦労人の彩花が深い溜息を吐いている。
 人は生まれを選べない。彼女も又選べていない。尤もそれも含めて『嫌いでは無い』のが本音なのだが。
「……あら、盛り上がってきているわね」
「ミュゼーヌさん……!」
 救いの女神は海の方から現れた。
 姦しい人々の多少爛れた人生談話を鮮やかに切り裂いたのは青地の水着と白い肌が眩しいミュゼーヌである。

 ――愛する人に見立ててもらい、大勢の人に支持して頂けた。
 ならば堂々と胸を張って、海と空の青に負けない蒼を靡かせましょう――

 威風堂々と現れた水着コンテストのジャンヌ・ダルクは確かに中々どうして素晴らしい。
 濡れた肢体が、濡れた栗色の髪が動的な美となって暑いビーチに映えていた。
「……は! 意識が途切れていました!」
 香ばしいBBQの香りに釣られて、砂浜から顔を上げたのはキンバレイである。
「……淫乱ピンクさんに声をかけると何故か意識が途切れるのです……」
『その瞬間』に何があったかを居合わせた人々は頭を振って語らない。
「バーベキュー……大御堂のゴミ処理係と呼ばれた私がこんな高級なものを食べて良いのでしょうか?」
「……キンバレイさん……もっと幸せになってもいいんですよ?」
 切なそうな顔をした彩花は「バカンスと言えど好き嫌いは駄目です」とその辺りは案外厳しい。但し自身の皿からピーマンをプリムローズに投げまくっている辺りはアレである。ビーチで過ごすにドレスは要らぬ――パレオ付きのビキニを纏う彼女はここまで素晴らしいプロポーションを周りにサービスしている。
「ははーん? これが特別賞を授与されたお胸やな?」
 背後より『それ』を狙った神那が眼光鋭い彩花の笑顔に此方は乾いた笑顔を返す。
「あ、居た居た。スク水少女。ジュース要るか?」
「――一体、何の事かしらッ!?」
 今日も今日とて余計な一言を投げてきた沙織にお嬢様の『素』が漏れた。
 笑って缶を投げて寄越したその様にそっぽを向く彼女の姿はこの夏のハイライトの一つになろう。
「いやー、スク水は兎も角、水着はいいよな」
 真っ赤なサーフパンツで徳の低そうな事を呟いたのはフツであった。
 降り注ぐ太陽が彼の見事な坊主頭に反射する。至極堂々と舐めるような視線をビーチのお嬢様方に注ぐフツは一端のポリシーを持っていた。
(オレが見ていることがわかれば……
 そう、女子達はオレの視線から逃れることも、オレを殴ることも、沈めることもできるからな)
 考えている事は兎も角、何だか微妙にイケメンなのがいとおかし。
 フツだけではない男共――ビーチの見学者達は【水着ギャル鑑賞】の面々だ。
「皆、玉体を拝ませてくださるレディ達に失礼のないようにな。
 あくまで紳士的に。マナーを守って楽しいウォッチングだ」
 表情をキリリと引き締めた伊吹の言葉に一同が野太い返事を返した。
「海なんてガキの時分以来だゼ。カタギにモンモン晒すのもアホっぽいしな」
 頭をばりぼりとやりながら水着ならぬ『ふんどし』姿でターンオーバーを気取るのは甚之助。今日日銭湯やらプールやら……喫煙者と同じで随分生き難い世の中になったのは確かである。
「しかしそのプロポーションは目の保養というか、目の毒というか」
「んー? えへへ、見ても触っても構いませんよ!」
「……いや、良からぬ事考える輩もいるかも知れないから気をつけなさいね」
 甚之助の視線の先には何だか世話を焼いてくれる義衛郎を侍らせた(?)アシュレイがビーチチェアにその身を横たえてトロピカルジュースをずびずびとやっていた。
 致死率百パーセントのおっぱいをやんわり断った義衛郎が「御代わりは?」なんて聞いている。
 全く紐みたいな水着は不思議なる神秘パワーで何故かずれない、その辺りが流石に流石の『塔の魔女』。彼と入れ替わりになった晃が真剣な顔でだらけたままのアシュレイに歩み寄っていた。
「ちょっといいか? 魔神王について――」
「――シリアス厳禁!」
 彼女らしいと言えば彼女らしいと言えるだろうか?
「俺が興味あるのは戦艦大和級だけだぜ。やっぱ熟れた美人だろ常識的に考えて。な、ヤミー?」
 せやかて、やみロリコンですよ? いや、おっぱいも好きだけどさ。雑食?(エレオノーラ可)
「うん、みんな色々言うけどぶっちゃけおっぱいだよね」
 甚之助の言葉に大袈裟な程にうんうんと頷いたのは翔護であった。
 海パンに『TAX PAID』の書かれたシャツ、それから麦わら帽子。バイトでアイスの入ったクーラーボックスを提げながら、結局は浜辺のおっぱいちゃんの方に興味が勝るのが全く彼らしいと言えば彼らしい。
「いやらしい格好してるのにいやらしい目で見ないのも、それはそれで失礼じゃん」
『活動家』の人辺りが聞いたら軽く告訴されそうなその一言はせやかて男の本音であろう。
「アークは綺麗な人揃いやから眼福やわぁ。それにうぉっちんぐ仲間も増えてほくほくやわ♪」
 浜辺に座り視線をあちこちに投げる日鍼の兎耳はぴくぴくとその都度動いていた。
「さすがリベリスタ、引き締まった人が多いなぁ……
 これぞ健康美ってやつ? あっ、わいはナイスバディさんが好きかも、慎ましやかな人も素敵な女性やけれどね!
 ……みんなのタイプはどんな人?」
「オレのタイプ? もちろん彼女だ!
 だが、他の水着ギャルを見たくないと言えばウソになる。
 ああ、もちろん後で砂浜に埋められる覚悟はできているぜ!」
 爽やか坊主が宣言する。
「俺の好みか。胸も良いが、腰回りがふっくらして抱き心地の良さそうな……何を言わせるのだ」
「あっ、わいはナイスバディさんが好きかも、慎ましやかな人も素敵な女性やけれどね!」
 思わず乗ってから突っ込みを入れた伊吹にニコニコした日鍼が言う。
 和気藹々とした『ウォッチング』の人々に浜辺のマーメイド達は何とも微妙な顔である。
「此処に来て間もないけど、“記憶”が確かなら、アークのリベリスタのカップル率って確か凄かったよな」
 ふと難しい顔をした劫が呟いた。
「改まって好みのタイプを考えた事はなかったかもな。どういう相手を好きになるのか、って今一自分じゃ解らない。初恋はあったと思うんだけど、どうだったか……」
 ……何とも不真面目な集いに混ざっている割に、何とも真面目な少年であった。
「海だーっ♪」
 無邪気な歓声が白い波と戯れている。
 鈴が鳴るような少女の声に意識を向ければそこには濃紺のスク水に身を包んだ灯璃と、
「うおおおおおおおお! うおおおおおあああああああで御座る!!!」
 その彼女に奇声を上げてカメラを向ける三高平市通報したいリベリスタ第一位(※現在)幸成が居た。
(決して私利私欲ではなく、Pとしての責務として、うむ。
 輝く季節の一ページをここに綴るのは自分に与えられた使命で御座った。
 しかし、しかし――まさか、赦されるとは!)
 コケティッシュなスク水少女に撮影の直談判をする忍者。
 この時点で異常な状況と言えるのだが――本日の展開はまさかの肯定という予想外のものであった。
 灼熱の砂浜にズザザと滑り込み、総ゆるアングルで激写に走る忍者。
「そのポーズいいで御座るよー可愛いで御座るよーはい頂き!
 素たる灯璃殿の魅力あってこそで御座るが、我ながらとてつもないプロデュースをしてしまった……」
 いちいち口にする言葉の一つ一つがこう何とも言えず忍者。
「夏の日差しは刺激的に身も心も解き放つのさ!
 それじゃあ、黒部P。今度はちょっとオイル塗ってくれない?」
「ファッ!?」
 一夏の魔力とか何とかそういう所謂顕現に先程のウォッチャーの皆様も「おお」と息を呑んでいる。
「――司馬さん、元気無いねえ?」
「ん?」
 泳ぎに泳いで浜に上がり、ふぅと一息をついていた鷲祐にそんな声をかけたのは七だった。
「静かにしてたいなら邪魔はしないけど……」
「俺はさっき泳ぎ過ぎたし、見てる所だ。波打ち際ではしゃいでる姿はそれだけで……」
 鷲祐としては『元気が無い』心算は無く――まぁ、リベリスタに『色々ある』のは何時もの事なのだが。
「じゃ、せっかくだしもう少し近くで見ててよ、ね」
「……お、おい、そんな引っ張るな、行くから――」
 波打ち際まで七にその手を引かれれば珍しく焦った彼がそこに見れた。
「浅瀬にもお魚とか蟹とか色んな生き物がいて見てて楽しいなあ」
「まぁ、な……冷たくて気持ちいいし」
 蜥蜴足を水に浸して華やいだ雰囲気の七を見る。
 彼女曰く『少し黄昏ている』彼の顔に海水がかかったのはそれから少ししての事だった。
「ぬあ!? やってくれたな――!」
「やっちゃった」
 悪戯気に軽く舌を出した七は一度はそっとしておこうかとも思ったのだが――
「ふふふ、ごめんね。でも、冷たくて気持ち良いでしょ?」
 ――鷲祐の顔を見たらば、それで良かったようなそんな気がしていた。
 浜辺で時間を過ごすリベリスタ達の耳に海の家の呼び込みの声が聞こえてくる。
「安くて最高! 美味しくて満足! 海の家・デリシャスピーチ営業中ですよー!」
「当海の家・デリシャスピーチは誰でもWelcome!
 キンキンに冷えたビール、頭痛がしても止められないかき氷。
 海の家に来ると何故か食べたくなる雑な焼きそばなど豊富に取り揃えております
 非常にリーズナブル、良心的価格でございます。良心的価格でございます!」
 あれは桃子とエナーシアの声だろう。
 声を張りピンク色のエプロンをつけるえなちゃんがEMP……じゃなくてエナーシア曰く「ボッタクリ店は後ろ暗い分、外部の何でも屋とか使わないからこれでいいかは怪しいのだわ」。極自然に誰よりも先に特に言及もされていないのに仲良しの桃子がどういう店を営業しているのか自然に察している辺り、最早慣れきっていると言える彼女なのである。
「行き帰りの船は此方の手の内、逃げることなど出来ないのです。存分にボッタクってヤると致しませう」
「えなちゃんとの京都旅行代!!! 秋の! 京都!!!」
 聞いてはいけなさそうな情報が望む望まないにせよボロボロと零れている。
 リベリスタ達は顔を見合わせていた。
「このあたしが来たからには、海辺の視線はあたしに釘付けね!」
 無い胸を張る梅子をそんな超望遠レンズが狙っている。←えなちゃんのスコープ

●夏、本番II
 ――何故波に乗るか、ですって?
 理由なんて考えたこともないわ。

 そう、鳥が大空に舞い上がるように。
 私、そんな風に生まれちゃったのよ。
 ふふっ、おかしな話ね。

 今日は、いい波が来そうだわ……
 ええ、待っていたの。
 忘れもしないあの夏、カリフォルニアで出会ったビッグウェーブ。
 あの時と同じ、予感がする。いいえ、確信しているわ。今がその時なんだって!

 見えるかしら、あの水平線にけぶる白波が!
 いくわよ、オワル……、いえ、エディ!
 二人なら、どんな波にだって乗れるわね。

 わたしたちは、新たな海のレジェンドになる! 乗るしかない、このビッグウェーブに!

「エディってオレの事?
 もしかして、エディ・アイカウの事??
 何で初心者なのにエディ・アイカウ知ってんの!?」
 そもそも長いモノローグの舞姫が初心者って所に突っ込みを入れなさい終君。
「Yeah! Go!」
「Eddie would go! って舞りゅーんッ!?」
 砕ける大波に舞姫の姿が飲み込まれていく。
 殆ど風物詩と化した今日の熱海は【熱海ウェンズデー】。
 安心安定の出落ちでイベントシナリオを盛り上げる舞姫は黙っていれば美少女のロケ芸人。
「あれ、なんか既視感……?」
 そんな舞姫に巻き込まれる終は悲しい突っ込み芸人である。
「がばごべぐび!?」
 頑丈なリベリスタ二人(+ナビ子)が海の藻屑に消えたのはギャグキャラだからスルーして。
 南の島で浜辺に並ぶ大人気ロケーションと言えばやはり何はなくても海である。
 島の海は底の底まで見通せる、そんな錯覚を禁じ得ない程に澄んでいる。
「よし、水没するぞ! フラウ! 間違えた、泳ぐのだ!」
「確かにそう言ったのはうちっすけど激しく待つっすよ、メイ!?」
 五月(メイ)の何とも言えない物言いにフラウが軽く泡を食う。
 暑い外気の割に水温は低く、プライヴェート・ビーチ所か人間が殆ど居ない無人島故にそこを悠々と泳ぐ魚も人に怯えるような様子は無い。確かに二人が望む天然の水族館(アクアリウム)――海中散歩にもこれ以上似合いの場所は無いだろう。
「何時も通り手を繋いでくれるかな。そうすれば怖くないと思う、オレ、頑張って泳ぐぞ」
(上手く泳げないなら確りリードしないとっすね……)
 フラウに架せられた使命は重大だ。
「早く海に入って泳ぎましょ?」
 自身の手を引くミサに雷慈慟が小さな唸り声を上げていた。
 彼の灰色の脳細胞を掌の体温がかき乱す。
(海……アークの仕事以外では縁のない場所だ……
 ……なにやら水着を与えて頂いたがまさか、泳ぐのか。休暇中に訓練を……何故今?
 違うか……? そうかこれは海遊戯、所謂男女交際に良く見受けられる事なのでは!)
「酒呑さんは泳ぐのは得意かしら?
 私は泳げなくは無いのだけど、すぐに疲れちゃうのがね……
 海でおんぶして貰うのって気持ち良いわよねぇ!」
「!?」
 つまる所、このクリスタル・ブルーの楽園は非日常めいた幻想を湛える程に美しいという事だ。
 泳ぐにせよ、潜るにせよ、マリンスポーツに興じてみるにせよ……
 友人同士でも、恋人同士でも。流石の、抜群のロケーションである事は疑う余地も無い。
「海は! よいもの! 空も海も綺麗ですし気分もすっきり!
 いやー福利厚生日和ですねー。頑張った甲斐もあるというもの……
 じゃあ私はこのあたりでのんびりアイスでも食べて……って!」
「海! サイコー!」
「え、ちょっ、何で引っ張……」
「ウヒョー綺麗過ぎるこの海なんだようぉおい!
 よっしゃあっちに見える小島っぽいトコまで軽く流すべ!」
「島!? ま、待ってくださいよ! 私は……あわわわわわ!?」
 勿論、友達とも恋人とも言えない――テンションの高すぎる火車と『ハンマー』な黎子でも同じである。
「もー……宮部乃宮さんったら少年のように朗らかな顔をして……!」
 黎子の顔が赤いのは果たして熱の放射の所為なのか――
 カナヅチと言えばこの季節、このロケーションならば俄然克服に勤しむ人も居る。
「お水は怖くないんだよ? 一応。唯、勝手に身体が沈んじゃうの!」
 愛らしいその頬を少し紅潮させて力説したのは恋人の涼とバカンスに訪れたアリステアである。
「……そうだなあ。どれくらい泳げないかだけれども、水が怖くないなら大丈夫かな?」
 浅瀬よりもう少し先でアリステアをリードする涼は彼女専属のコーチを買って出た次第であった。
「それじゃ、ほら、手を握ってるから、まずは顔をつけて力を抜いて浮いて見て?
 大丈夫だよ。ちゃんと手は握っているし、足も着く所だからさ?
 基本的に力を抜けば身体は浮くようになってるからね?」
 泳げようと泳げまいと、結果的に克服出来てもそうでなくとも。微笑んで気張るアリステアを見つめる涼にとってはこの時間そのものが素晴らしいものになるだろう。
「が、頑張る。涼が教えてくれるもん……!」
 そしてそれはこのバカンスの機会に根気良く時間を割いてくれる涼と『一緒に練習する』アリステアにとっても同じと言えるだろうか。
(頑張ったら、撫でてくれるかな……?)
 上目遣いに彼を見やってアリステアは頬を染めた。
 御褒美の為に頑張る訳では無い。しかし御褒美を考えれば少女の顔には胸の高鳴りが弾んでしまう……
「えへへ、おっきな戦いがんばったご褒美なの。めいっぱい遊ぶの!」
「そう遠く離れてなさそうだし……少し足を伸ばしてみるか」
 はしゃぐひよりの笑顔に自然と雪佳の表情も和らいだ。
「おっ、凄いな……色とりどりの、何という魚だろうか。小島の辺りでも見れるかな?」
「ゆきよしさんは泳ぐ姿もきっと格好良いの!」
 小島までの距離を考えればこれはちょっとした遠泳だ。
 ひよりのストレートな言葉に頬を掻いた雪佳が一つ咳払いをする。
「つい無人島で二人っきりシチュに目がくらんで……」
「ん?」と問い返されれば「何でもないの!」。ひよりは大きく頭を振る。
「はぁー……今回もなんとか生き残れたわね……
 こうやって寛いでると、なんか生きてるーって感じしない? それってアタシだけかしら」
「あー、まーあぁいう鉄火場じゃなけりゃあ大体は……一昔前はいつだって生きた心地がしなかったからねぇ……」
 浮き輪に体を預けてぽっかりと海に浮かび、夏空の入道雲を眺めてしみじみと言う久嶺に瀬恋が答えた。
「それにしても、貴女って無茶してる割にはかなりしぶといわね。どんだけ頑丈なの? 何食べて生きてるの?」
「何だよそれ」
 久嶺の口にしたその台詞は皮肉なようで、それでいてそういう雰囲気では無かった。
「アタシも頑丈になりたいわ……そうすればお姉様にももっと頼られると思うのだけど」
「……頼られるなんてかったるい事言ってんじゃねえよ。
 頼られようが頼られなかろうが助けてやりゃ良いだろ。待ってるうちにネーチャンが死んじまったら間抜けだぜ?」
「――――」
 正論に息を呑んだ久嶺は、しかし何か悔しくて瀬恋の浮き輪をひっくり返した。
「――何しやがるっ!」
 一方で『強敵』との出会いを予感しているのはフィリスだった。
 白いビキニが抜群のプロポーションをより一層引き立てている。
「……これは、操縦が難しい様に見えるがどうなのだろうな?」
 少し難しい顔で水上バイクを眺めた彼女に此方は経験のある琥珀が胸を張る。
「任せとけ。唯、手は離さないようにな。吹っ飛ばされるぜ!」
 エンジンが轟音を立て青いフィールドを白く引き裂いていく。十分な加速感はリベリスタからしてもスリルたっぷりで、フィリスは『忠告』の通り琥珀の背中にぎゅっと抱き着いた。濡れた水着の感触は、温かな少女の体温は少年の鼓動を高鳴らせる『夏色』の一つだろう。
「じゃ、空飛んでみよっか? しっかり捕まってろよ――」
 心から彼女を楽しませたい――そう願った彼は手の中の感触を一気に強く引き絞る。
 宙を舞う。一瞬の落下感の直後に、水飛沫がキラキラと輝きを見せていた。
「こ、これがウェイクサーフィンというものですか……!」
 柔らかな緑色の髪を潮風に靡かせて――カルナの表情は心なしか引き攣っているようにも見えた。
 何時もと同じように悠里に誘われて――バカンスの一コマは珍しいものでは無かったが……

 ――その、泳げないわけではないのですが、羽根が生えてからはどうにも苦手で……

 フライエンジェには『良くある』些細な問題を口にした事を彼女は少しだけ後悔していた。
 確かに泳ぐのは余り得意ではない。しかし、これは、なかなか、どうして。
「結構スピード出るらしいからしっかり捕まってね」
「はい!」
 心から素直な返事をした天使(エンジェル)が水着の悠里の背にぴったりとくっついた。
「悠里、ちょっとこれ早す……きゃっ……」
「カルナー! 大丈夫ー! えー! 何ー!? 聞こえなーい!」
(悠里は意地悪です……)
 何時かの遊園地の『逆の状況』に可愛らしい唇を尖らせるカルナであった。
「運転手! 何ちんたらしてんの? もっとスピード出しなさいよ!」
 スピードと言えば……自身等を牽引するボートに景気の良い発破をかけているのは杏である。
「きゃー! 気持ちいい~♪」
「ほら! まこにゃんも喜んでるでしょ! もっと速く! 男見せなさいよ!」
 バナナボートの前に跨るのは真独楽、後ろに乗っているのは杏。
「まこにゃん今年はなんだかセクシーね、涎が出ちゃうわ」
「杏の水着イイなー! まこもいつかそんなの着てみたいなぁ……」
 仲良しの二人が何だかんだと水着を褒めあっている。真独楽の性別とかその辺りはきっと些細な事で。ならばと加速した牽引のボートにバランスを崩した二人は海に落ちてしまったが、笑ってじゃれ合う姿はそれでも幸福感に満ちていた。
 まぁ、でも中には余り幸福そうでない少女も居る。
「……はーああ。あたしも十九よ? 青春真っ盛りの夏なのよ?」
 波間に浮かぶ浮き輪に潜るように海に落ちる。
 潮騒をお供に独りごちる梅子は幾度目か分からない不満をお日様に向けてぶちまけている。
「こーんなにとろぴかるーな海で、こーんな健康的な水着美少女、もっとちやほやされてしかるべきなのだわ!
 美男子が一個大隊組んで花束持ってあたしのことを称えあげて愛の言葉を囁くくらい許されるはずよ!」
 ざっぱんざっぱん。
 ざっぱんざっぱん。
 深い溜息を吐き出した梅子の願いが叶わない理由は――
「海の家、営業中でーす」
 拡声器で宣伝の声をばら撒いている彼女の妹にもあるのは言うまでも無いのだが……
 根本的にそういう所に余り気付かないのが梅子が梅子である所以で……
「プラム(笑)」
 そうそう。桃子さん、その通りです。

●うたた寝と海の家
 溜まった疲れにまどろむ休日も悪くは無い。
「う……」
 船内ラウンジのソファに丸まった人影が微かに動く。
「……ぅん……」
 悩ましい……とも呼べそうな寝息は少し鼻に掛かっている。
 その背に生えた純白の羽は此の世に神の造形が存在している事を教えてくれるかのようだ。
(天使だ……)
(えっ、女神……)
「う、ん……んっ……」
 快と竜一の視線の先にはエレオノーラが寝ていた。
 クッションに埋もれるようにして。船内でも着られる水着はガードの堅い彼女()にしては珍しくやや開放的で。すらりと伸びた白い手足が、アップにした髪が覗かせるほっそりとしたうなじは何とも言えない危うい色香を湛えている。
「……っ、ん、んん……!」
 美少女(仮)が見るのは少し寝苦しい夢なのだろうか。(※抗議とも言う)
 夢の中に入り込む事が出来ない二人にはエレオノーラが上げた声の意味は分からなかったが、美しく整ったかんばせの上に載るこれまた形の良い眉が顰められたのもこれは美貌のスパイスだ。
「ごくり……」
「ごくり……」
 肌の上を伝う汗の珠に童貞共が息を呑む。
 肌にぴたりと張り付いた『布』はその向こうにある幻想(ファンタジー)を煽るには十分で。無防備な姿で寝息を立てる少女めいたその姿は何だかええと、余程『ヤな夢』でも見ているのか、こめかみに漫画的な青筋が浮いてるけど気にしねー! うおおおおおおおお! いやっふうううううううう!!!
「イエス」
「イエスエンジェルノータッチ」
 サムズアップする快と竜一。
(結婚したい……)
(結婚しよ……)
 これを浮気と呼んでいいものか……
「何そんなに見てるのそんな女を見るぐらいなら私を見てってじいちゃんは男だし嫉妬するのもなんだかおかしいけどでも納得がいかないっていうか釈然としないって言うか悔しいからそうだ何故か手元にある桃印で出てきたお兄ちゃんを拉致しよう新田? 捨てとけばいいよ部屋でイチャイチャしようねお兄ちゃんウフフフフ早くこっちに来てお兄ちゃんハリー! ハリー! お兄ちゃんはよ!」
「ギャー!?」
 後は虎美に任せておこう。
 曰く「一逸般人としては長閑に過ごすことができればいい」。
「狂気の沙汰も……なんかこれ、一年前にやった記憶があるわ。大負けしてもいいんです。楽しめれば万々歳ってね」
 スロットにじゃらじゃらとコインを注ぐ弐升の目はすっかり据わった状態である。
「面白きなき世を面白く。至言だねぇ。あは、あははは……」←大分負けてる
「三度目か。もうすっかり常連だな……」
 そんな船内カジノに新たに顔を出したのは毎年一度はこれをやるツァイン率いる【MGK】の面々だった。
「熾烈な戦いが続いている中、今年もMGKの皆でカジノに来る事ができて何より。
 トランプゲームで遊ぶのも久しい。だが勝負事とは鍔迫り合いのようなもの。手を緩める訳にはいかん」
 何時も真面目に一本気に。こと勝負事となれば手を抜く等もっての他の優希が気合を入れた。
「二度ある事は三度ある、そして来年があれば四度目もだな。
 正にこのカジノでの勝負の事だ。まぁそれは俺達だけってとこだけどね――」
 この後のバーでの奢りがかかっている以上、『やる気の無い』翔太もここは譲る心算は無い。
「今回こそはツァイン達に勝ってみせるぜ、ポーカーの経験は豊富だからな! 某国民的RPGで!」
 最年少の影継がちらりとディーラー服を着たナビ子に視線を送る。
「いいか、カードをシャッフルして5枚ずつ裏向きに配ってくれ。
 大会が終わったら負けた奴が奢ってくれるからよ。まあ俺じゃないけどな!」
「それは分かりましたが、そろそろやみさんが見切れ十回とかふざけんなって怒ってる気がしますよ!?」
 十回はミリ。
「いやね、俺は海で水着の女の子見てキャッハウフフするのが普通だと思うんだけどねっ?
 なんかウチの子達みんなそういうのに反応薄いんだもん! お兄さん心配……」
 ツァインの『心配』を他所に何時もの面々は今回は勝つ、或いは今回も勝つと各々それぞれに腕をぶしている。
 勝負の種目は単純明快ポーカーだ。
 運に加え深い戦略性と閃き、駆け引きの要求されるこのゲームは『夏だ一番! MGK恒例カジノ大会!』(題字、斜堂影継)に相応しいものと言える。
(俺はひたすら高い手狙いだ。デッドオアアライヴ……盛り上がって来たぜ!)
(揃い易いツーペア、スリーカード狙いが一番だな。ストレート、フラッシュは揃った試しが無いし)
(大穴狙いは回転が重い。ここはストレート以上、フォーカード以下の中級クラスを狙う形で手堅く行くとしよう)
(スリーカードからフルハウス狙いかなぁ、最悪ワンペアでもいい。
 手堅くは俺や優希、他はドカンっぽいしなぁ。
 ……だが今回はそう見せて大勝負を一度は行くぜ、一枚残しの四枚交換。最高役が出来ればいいかなぁってとこさ!)
 影継、ツァイン、優希に翔太。作戦も思惑も顔に出る度合いも様々だ。
 勝負は果たして――一応厳正な抽選の結果、今回の勝ちは人生地道に積み上げたツァインでした!
 船内の出来事は兎も角、夏と言えば海。海と言えば海の家。
 日本人(外国人もきっちり居るのだが……)が海水浴と聞いて思い浮かべる原風景の一つである。
 何処からどうやって準備したのかは分からない。
 さりとてそれはそこにある。
 砂浜の奥のその場所に『海の家・デリシャスピーチ』の蛍光色の看板が全力で自己主張を展開していた。
 名前からして言うに及ばず『かの』桃子・エインズワースが経営する海の家は一筋縄でいかないものと認識されがちだ。そして多分その認識は間違っていないから性質が悪い。
 とは言え、こんな場所でも利用する強者はアークならでは、案外居るものである。
「南の島ひゃっほい! こういうバカンスは初めてですから、もうすっごい楽しいです!」
 フュリエのシィンにとってアーク恒例の『福利厚生』は初めての出来事である。
 たっぷりと赤いシロップのかけられたカキ氷と格闘する彼女は夏を満喫といった風で――時にこめかみを抑え、強烈な氷の冷たさに可愛らしく耐える仕草を見せていた。
 海の家の中には海で、浜で、疲れて乾いた――それなりの利用客達の姿があった。
「うむ、泳ぎ疲れたらこういう場所で休むのも悪くは無い。
 想定される苛烈な取り立ても、むしろ私にとっては好ましい展開だ」
 中でも筋金入りの朔は実に蜂須賀らしい論理展開をして涼しい顔でやきそばをもぐついていた。
「しかし、それにしても……」
「なんです?」
 そんな朔は目の前の席でかき氷の山をシャクシャクと崩すアシュレイをまじまじと見て呟いた。
「私の格好もそれなりに大胆な方だが……君のそれは格が違うな」
 アシュレイは体をくねらせて照れたような仕草を見せたが続いた朔の「齢七百にしてその美しさは恐れ入る」の一言には何とも複雑そうな顔をしていた。
「まぁ、君が何を考えているかは分からないが――」
 シャクシャク。
「――神を殺す際には私にも一枚噛ませたまえ」
 もぐもぐ。
 日陰には南国特有の爽やかな風が吹いてくる。
 剣呑で物騒な会話もそう聞こえなければその程度の意味しかない。
「時に、このやきそばは中々美味いな」
「灼熱の鉄板の上で踊るキャベツとソースのラプソティ、天使がサマーにフライハイ」
 何処から出てきたのか分からない伸暁がこれまた良く分からないコメントを添えれば厨房から顔を出したセラフィーナが少し気恥ずかしそうに「えへへ」と笑った。
「海の家と言えば、やっぱりヤキソバだもん。
 いつもと違って、豪快に力強く! 量は多目で味は濃い目に。だって、海の家のヤキソバだから!」
 成る程、力説するだけはある。全くもって至言である。
「私、ずっと入院したりしてたから海って初めてです。こんな海の家のお手伝いも初めてで……」
 少女少女した声に視線をやればそこには桃色のエプロンを纏ったマッチョマンが照れ照れな姿を見せている。思わず噴き出した客の一人を指差した桃子が「アウトー」と笑っていた。
「え、これ、脱いだ方がいいですか?
 あ、えっと、その、お父さんとお母さんからあんまり脱いだらダメだよって言われてるんですけど……」
 着ぐるみ(?)の中の柚那はちゃんと少女だから安心してくれてもいい。
「しかし、何だかちゃんぽんですねぇ」
 オーナーの桃子が客に混ざってだらけている。
「水着で接客でも良かったですのに」
「え、水着? ……そんなもの、着る筈ないだろう?」
 そんな桃子に律儀な返答を返したのは『ちゃんぽん』の一因。何故か海の家で執事風の衣装を纏った那雪であった。
(いやまだ、まだ諦めるには時期尚早だ。まだ早い。きっと早い)
 テーブルの一つでタレるアシュレイには極力視線をやらないようにして――自分に言い聞かせる彼女はそれはそれで可愛らしい。育ち具合はむしろ何事も適当が一番とも言うから、アレである。
「普通に楽しく遊ぶ……って、難しいものですよね……」
 ビールのケースを軽々と運んできた五月がそんな風に呟いた。
「そうですか?」
 桃子は小首を傾げて『お手伝い』を買って出た彼女を見つめる。
「うん、お手伝いのお礼に後で皆で遊びに行くのです。大丈夫、客共から毟り取った桃子さんの奢りですよ!」
「それは……ええ、はい。行きましょう」
 少し面食らった五月がそれでも頷く。
「さあ、その為にももっと客共から搾り取るのですよ!」
「流石、桃子さん。容赦も情けも無いのだわ」
「一応、今私は客としてこの店にいるのだが」
 無論、やや抗議めいた朔を気に留める桃子では無い。
「さあ、ナビ子さん! 有り金全部置いていくのです!」
 昼も過ぎ、太陽はこれからやがて傾いていくだろう。
 常夏の島の長い昼が終わって――燃えるような夕日の向こうに、静かな夜がやって来るのだ。
 まだ夏休みは始まったばかり。楽しむ時間はたっぷりと残されている。

●星の海
「月の光に照らされた暗く深い夜の海――
 足下を攫う波は火照る肌には気持ち良いけれど、アークの進む道まで鎖してしまいそう」
 氷璃は夜のビーチを供にする沙織を半身だけ振り返って幽かに笑った。
「おかしい? 感傷的かしら」
「詩人ではあるな。まぁ、そんなに可愛いタマだとは思ってねぇけどよ」
 デートめいた一時は彼女が望む『何時もの光景』だ。
 鼻を鳴らした自信家の不遜な態度が好き。ずっと年下なのに自分を見透かしたような目が大好きだ。
「そうね」
 氷璃はやや皮肉めいた沙織の言葉をあっさりと肯定した。
「道が鎖されているのなら新たな道を作るだけ。七夕の幻想に描いた願いを邪魔するモノなら尚更ね」
「勝気な女は結構好きだぜ」
「言うと思ったわ」
 真深い夜の中だから輝ける星もある。
 嵐の合間に訪れた静けさを楽しむ余裕は『この先』を乗り切る為にも必要な『不敵さ』だ。
「貴方好みの水着を着たわ」
「知ってるよ」
「今年も南の島のバカンスを楽しませて頂戴。私を――退屈をさせる心算はないのでしょう?」
 星の海に瞬くのは冷たい女の熱いロマンス。


「夜ともなると、人もまばらになるな」
 夜のビーチを散策する猛は表情を変えた島の姿に少し感嘆したように言った。
「元々俺達しか着てない訳だし、言う程人も居ないんだろうが。
 結構雰囲気も変わるもんだな……昼間はあんなに澄んでた海が、全然違う何かに見える」
 月明かりの下で緩やかな一時を過ごすのは全く恋人同士の特権だった。
 猛の傍らで砂浜に足跡を残すのは言うまでも無くリセリアだ。
「まあ、夜の海は泳ぐものじゃないですからね。基本的に。
 海の奥まで届かない月の光、昼とはまるで別物。夜の雰囲気、私は好き」
「好き」と呟いたリセリアの言葉に猛は「そっか」とだけ答えを返した。
 少し無口な少女と気恥ずかしい少年。僅かに降りた帳の沈黙は、しかし長いものにはならなかった。
「今日は――」
「……?」
「――今日は一段と綺麗に見えるな、リセリア」
 自分を抱き寄せたその腕にリセリアの頬は紅潮した。
 暗がりにそれをはっきりと認める事は出来なかったけれど――白磁の肌は確かにほんのり赤みがかっている。
「――きゃっ……!?」
 互いの体重が柔らかな砂浜に落ちた。
 リセリアの長い髪の毛がさっと広がる。少女の双眸が少年越しに見上げた――たゆたいの月が微笑めば。
(嗚呼――)
 殺し文句に、
「好きだぜ、リセリア。愛してる」
 夏目漱石の『I Love You』を思い出す。もう――何も言えないではないか。


「ロマンティックなお誘いをどうも」
 コケティッシュな笑みを浮かべ亘をからかうように言ったのは言わずと知れたクラリスだった。
 夜でもまだ蒸す外気に汗ばむ肌がべたついた。
 亘が小さく息を呑み少し『緊張』したのは彼女が浴衣を着ていたからだ。
「ふふ、今年は日本の夏らしくこれで楽しみませんか? 小さいけどこの輝きはとても魅力的ですよ」
 夜の砂浜は時間を切り取られたかのように静やかだ。
 亘が小首を傾げたクラリスに差し出したのは今夜の為に用意した線香花火であった。
「ワビ、サビと言うのでしたかしら?」
「何とでも。唯、美しいものは国も文化も問わず美しいと。そう思います」
 亘の言外に「だから貴方も」と敢えて告げない言葉が浮いた。
 今までも星空の下で逢う事はあった。しかし今までより、何時もより心臓が高鳴るのは何故なのか?
 亘はもう一度息を呑んだ。
 目を細めたクラリスの視線の先で花火がパチパチと小さな爆ぜ音を立てている。
(許されるならどんな形でも良い――もっと近くで彼女に触れたいです)
 下手に触れば壊れてしまいそうな関係だから、少年は尚更強くそう思うのだ。


「……いやー、楽しんだ楽しんだ。ちょっと疲れたけどな!」
 船内の一室で二人の時間をのんびりと。
 龍治は酒の準備を、この木蓮はツマミの準備を万端に整えて。
「……個室は良い、周りを気にせず寛げるからな」
「へへ、そうだな」
 自分に擦り寄る木蓮に龍治は『一応』咳払いをした。
 ベッドに腰掛けてゆっくりと語らう時間は昼間の観光にも負けず『いい時間』なのである。
「元々、こんな浮かれた場に来るつもりはなかったのだ。
 それでも来たのは、お前が行きたいと言うから、……なのだからな」
 少しだけ言い訳めいた龍治は居心地が悪そうにその体をもぞもぞとやっている。
「へへー、サンキュ! おかげでお前と一緒に色んな思い出を作ることが出来たぜ!」
「う、うむ。悪いものでは無かったが……」
 ぶっきらぼうな態度も、少し孤独癖がある所も、ぶっちゃけ『駄目』な所も。
 満面の笑顔で彼を受け止める木蓮にとっては『唯愛しい雑賀龍治の一部分に過ぎない』。
「龍治」
「む?」
「龍治、龍治」
「な、何だ……?」
「大好き」
「――――」
 それ以上何を伝える事があるだろう?


 船内のシックなバーは昼間とはその趣を変えていた。
 或る者は逢瀬の為に、或る者は眠れない夜の寝酒を求め――この場所にやって来た。
 昼間よりは人気の多いバーは、しかし互いの空間を干渉しない大人の時間を保っている。
「仕事だというから引き受けましたが、あの恰好はあんまりでしょう」
 拗ねて抗議めいた口調で――バーの沙織を捕まえたのは恵梨香だった。
 彼女の口にした『仕事』はアークが大々的に開催した『水着コンテスト』での一幕だ。
 日頃から真面目が過ぎる少女をからかった――沙織の命令はその実唯の冗談に過ぎなかったが、そこは一枚上手と言えるのだろうか。真顔でそれを遂行して見せた恵梨香には文句を言える筋があった。
「アイスコーヒー。室長の奢りで」
 沙織の隣のスツールに珍しく許可を取らずに腰掛けて、結論だけを告げてしまう。
「それぐらいの特別ボーナスはあっても良いでしょう?」
「はいはい。何ならケーキでも探そうか?」
 沙織は勝手に言うだけ言って機嫌を直した少女にくすくすと笑っていた。
 バーの中で過ごす人々の時間は様々だ。
「真澄は何飲んでンだ? やっぱ酒かァ……さすがオトナだなァ。真澄はいつもカッコイイぜッ!」
 リクエストの炭酸水をちびちびとやりながら快活に笑ったコヨーテに、こちらは柔らかくその言葉を受け止めて甘めの日本酒を口にした真澄が微笑んでいた。
「まぁ、買い被りだとは思うけど――カッコいい、かい?
 ふふ、素直に人を褒められるあんたもカッコいいさね。それに、益々格好悪い所は見せられないねぇ」
 夜が更ければ時間も深まる。
 緩やかな時間は日頃は激しい戦いに身を置く事を好むコヨーテにとっても格別なものだった。
「なんか真澄と一緒にいッと、安心すンなァ……」
 独白は心からのものだった。
「オレ ホントの母ちゃんって知ンねェけど。母ちゃんと一緒にいンのって、こんなカンジなンかなァ?
 何も心配しねェで、眠くなれるそんなカンジ……」
 少しだけ目を丸くした真澄がコヨーテの意外な言葉にくすりと笑う。
「ああ、いいさ。それにあんたの事は気に入ってるからさ、私にくらい未成年らしく甘えてきな」
 一人でブランデーを舐めていたアシュレイに近付いた人影はいりすだった。
「ちちまじょさん、小生だよ。乳もませろ」
「あはは、フェイト減っちゃいますよ!」
 戯言は何時もと同じ。緊張感の無いやり取りは知己ならではといった所か。
「隣いい?」と尋ねるまでもなく隣に座ったいりすは「何か?」と首を傾げたアシュレイに首を振る。
「んー、別に特別な用は無いけどね」
 いりすは少しだけ宙を眺めてそれから思いついたように言う。
「何か決戦の時も色々あったみたいだし。ちちまじょさん、凹んでるんでないかしらと思ってな。
 そういうの『耐える』けど、『平気』な人でなさそうな気がするし。ふれんどりーな小生を演出した。ついでに告白に来た」
「あっはっは」
 からからと笑うアシュレイはグラスの中の琥珀色を一気に喉の奥に送り込んだ。
 中々強い酒である。素面と全く変わらない魔女は何時もの朗らかさを失う気配は無い。
「あのお喋りな古本は、『人間のやる事じゃない』と評したが。
『人間』以外に、そんな事が出来るものか。ちちまじょさんは、狂おしい程に人間だよ。小生の大好きな」
「これは、面白い話をしておられる」
 アシュレイが静かな声に視線を送ればいりすの反対側にはイスカリオテの姿があった。
「良ければ、私にも少し御時間を頂けませんか」
 小首を傾げたアシュレイの仕草を肯定と受け止めたのかイスカリオテは目で笑う。
「私は詮索が嫌いです。するのもされるのも。ですが、お礼を言いたいと思いましてね。
 その節ははありがとうございました。あの崩落の最中ならば、『塔の魔女』に一人二人を消す仕事は然程難しい問題では無かったでしょう。『神の目』さえ謀って、ね」
「私、メンクイなんですよ」
「それは重畳。親に感謝でもしておく事にいたしましょう。
 五倍やそこらなら凌駕する自信が有ったのですが……いや、完敗です。
 その渇望は私にとっての未知。醸造し切った美酒に等しい。魔女殿の『望み』を叶えて差し上げたくなる位に」
 先の決戦の出来事を口にしたイスカリオテにいりすが「それ、小生も」と相槌を打った。
 フィクサードとリベリスタの奇妙な関係は実に穏やかなままである。
「貴女の辿り着く結末に私は心から期待している。『人の手で、真実世界は終わるのか』」
 アシュレイの行く末に惹かれると公言したイスカリオテは異端である。
「小生は『英雄』でも『主人公』でもない端役もいい処だが。舞台の端で眺めているだけで、満足できる程、達観もしていない。
 ――だからさぁ。きっと奪いに行くよ。その時に。牙を研いで」
 アシュレイの在り様を好ましいと言い切ったいりすもまた異端である。
「変な人達ですねぇ」
 魔女はころころと笑っていた。異端が三人。奇妙な時間が過ぎていく。


「また時村観光。大型客船、それも最新型を貸切とは。何時かのスキー場といい……」
「良くやるものです」と呟いた悠月が感心と呆れ半分に嘆息した。
 食後、散歩がてらに出た甲板に潮風が吹き付けた。
 九月も近くなれば夏も間もなく過ぎ去る頃――夜も更ければ随分と涼しくなっていた。
「――良い風。南方の島でも、夜風は気持ち良いですね」
「ああ。昼間の海……と言うのも良いが、やはり俺は夜の海が好きだな」
「私も。翠緑の海も良いですが……月を映す水面、夜の海の方が私も好きです」
 夜風に靡く黒髪を抑える悠月に拓真は頷いた。
 二人が醸す時間は特別なものである。お互いがお互いを良く理解している。
「こうして、夏の海を君と眺めるのも三度目になる……不思議な物だな」
「……三度目。そういえば、まだたったの三度目なのでしたね」
 三年の月日は永遠ではないけれど、決して短過ぎる時間では無かった。人間の、生の中では。
 傍らに居るのが『当たり前』になったのは何時の頃だったのだろう。
 黒扉の向こう側で初めて出会った日。こうなる事をお互い、知らなかったに違いないのに。
「悠月、君を愛しているよ」
「――はい。愛しています、拓真さん」
 交わされる唇の熱は嗚呼、魔法めいて――詮無い思考を酩酊させる。


「うっす、しのちゃん。話相手になってよ」
 甲板のチェアーに腰掛けて吸い込まれそうな星空を見上げていた。
 しのぎを呼び止めた夏栖斗の調子は軽かったが、話の調子はそう軽いものにはならなかった。
 夏栖斗がそれを口にしたのは弱さに過ぎない。
 他ならぬしのぎにそれを聞かせたのは恐らくは弱さに過ぎないだろう。
 でも、それでも。
「なんかさ、あいつの仇討ちは出来た。
 それでもやっぱさ、心にぽっかり穴があいた感じでさ。
 復讐なんて何も生まないことなんて判ってたのにな
 それでも出来ることはそれしかなくってさ……そのためなら犠牲もって思って、らしくないよな、これ」
 取り留めも無く、それも拙い言葉は『両者ならぬ誰にも分からない』事である。
「言われても困るよな」と頬を掻いた夏栖斗にしのぎは「そうね」と答えた。
「ちょっと、履き違えてるんじゃないかな」
 何時かの夏の夜、二人はこうして空を見ていた。
 己の全てとイコールしない『記憶』が空虚だ。
 だが、御経塚しのぎは――では無いから少年が何を間違えているかを分かっていた。
「穴が開いたようなのは、復讐を終えたからじゃなく、彼女がいないから。
 だから間違えてはいけないよ。その気持ちはとても切なくて、悲しくて、苦しくて、虚しくて、冷たいモノかも知れない。
 でも、それは君が彼女と道を歩んだ証だって言えるんじゃないかな。
 皮肉な副産物なんかじゃない。彼女を好きだったって言う存在証明だと、しのぎさんは思うよ」
 少年が「そっか」と呟けばデッキから音が消え失せた。
 時間は不可逆で運命は決して二度のチャンスは与えない。
 だが、それでも御厨夏栖斗は生きていた。
「ありがとう」


 砂浜に足音が連続する。
 やはり譲らず『今夜の最後』に沙織を待っていたのはワンピース姿のそあらだった。
「ちゃんと見てくれたです?」
 耳をぴくぴくと動かして、尻尾はぱたぱたと揺れていた。
「ゆっくり見たいのでしたらワンピースの下にほら?
水着だから脱いでも大丈夫なのです。ここでお披露目するです? それとも脱がせたいです?
 大丈夫です! 今はお星様しか見て無いですから――」
 少し照れて早口めいたそあらに沙織は「ばーか」と意地の悪い笑みを見せた。
 ビーチの近くの岩に何となく腰掛けて空を見る。
「夏、あっという間に終わってしまったですねぇ」
「終わってないよ。まだこれから」
「でも、もうすぐ九月なのです」
「延長戦だってあるかも知れないじゃん」
「何ですか、それ」
 そあらは軽く噴き出して
 楽しい時間は何時も駆け足で過ぎるから――きっとこの夏も同じだったと言えるのだろう。
 次の敵(キース)がやって来るまでの僅かな安らぎの時間。 時が止まったような――光の無い夜。そあらは沙織の肩に頭を預けた。
「夏の思い出を作りたいのです」
 その言葉は告白のようで。
 肩を竦めた沙織はそれに答える事は無かったけれど、唯頭の上に手を置いた。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIです。
 全員描写したと思いますので抜けあったらご連絡下さい。
 全員ちゃんとプレイング。激しい戦いを前に運命は貴方に微笑んだ。
 大成功でお届けしますのでご自愛下さい。

 無理かも知れません。

 シナリオ、お疲れ様でした。