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World is Mine!

●地元では超頑張っていたそうな。
 世界文化遺産という概念を聞いた事はあるだろう。
 人類の足跡、大自然の作り出した壮大な景観……
 人類にとっての顕著な普遍的価値を発揮する『特別なモノ』を未来に残し、確実に伝承していく為に世界遺産委員会に認じられ、ユネスコの登録するそれは厳しい審査基準を通過した『人間の遺産』を世界的な条約によって守り続けようという実に有意義で浪漫のある決め事なのだが――
「地元の象徴が有名になるのは……まぁ、色々あるが。
 少なくともこの辺りの地場にとっちゃ非常にめでたい事ではある」
 ――『戦略司令室長』時村 沙織 (nBNE000500) の顔は安堵とそれ以外の入り混じったやや複雑なものであった。
「……ま、こういうのはロビー活動が重要だからな」
「それだけじゃないけどね。仕事も恋愛もプレゼンテーションは重要だ」
 リベリスタの言葉に調子良く答えた沙織は肩を竦めた。
 世界遺産の登録は、勿論『それそのもの』が素晴らしくなくてはならないのは当然だが、周辺市町村を挙げての一大キャンペーンの結実でもあるという事だ。おらが町の至宝の受勲に町興しの観点が加われば『決定するまで気が気ではない』人間が多かったのも頷ける。大資本家として現在の静岡県に大きく関与する時村家もそれは当然同じであった。
「決定するなり、祝杯を挙げてた連中も多くてね」
「……まぁ、お前も色々仕事があるんだろうが。それで、今日はどうした?」
「そう、それだ。重要なのはこれからどうするかだよな」
 沙織は水を向けたリベリスタにしたり顔で頷いた。
「これから富士山は世界的に注目される……と、言われている。
 まぁ、元々有名な山だし。元々訪れる人間は多かったんだが。とある試算では『現状程度の人出を維持するには何倍もの入場料が必要』だとか。
 ……ま、それが実際どうかは知らないが、そうなる前に地元に雄大に聳える富士をこの機会に訪れてみるのもいいかとは思ってね」
「ははあ……」
「そういう、お誘い」
 富士登山は五合目辺りまでは車で向かう。
 残りのルートは安全に整備された登山道を行くのが一般的だが……
「その辺りは、お前等だからな。一般の登山道をのんびり行くのも良し。
 革醒者だけの別ルートで羽を伸ばすのも……」
「話は聞かせて貰った!!!」
 まさにそれは言わずもがな。
 突然横合いから出現したのは一声を上げた『清廉漆黒』桃子・エインズワース (nBNE000014) その人であった。
「じゃあ、一番を目指す競争という事で! 桃子杯!
 優勝者には! 祝福のキス! これは、漲る!!!」

 ――登山を舐めるのは辞めましょう――


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月16日(火)23:29
 YAMIDEITEIっす。
 六月三本目。お祭りで遊ぼうという話。
 プレイングのルールが設定されていますので確認して下さいね。

●任務達成条件
・適当に緩くお楽しみ下さい。

●シナリオの備考
 世界文化遺産登録を記念して富士山に登ります。
 出発は早朝、途中の山小屋で休憩をする事も可能です。
 のんびりハイキングや気晴らしにどうぞ。
 ……気が向くならば桃子にお付き合いするのも自由です。
 ちなみにリベリスタでも疲れるもんは疲れますし、時間もそれなりにかかります。

●プレイングの書式について
【のんびり登山】:のんびり登山するコースです。
【激しく登山】:桃子の提唱する競争に参加します。山頂以後の最高到達点、剣ヶ峰まで登ってゴール。飛ぶのは反則です。
【その他】:お弁当を食べてゆっくりしたり、色々雑多だったり。

 上記の三点からプレイング内容に近しいもの(【】部分)を選択し、プレイングの一行目にコピー&ペーストするようにして下さい。
 プレイングは下記の書式に従って記述をお願いします。
【】も含めて必須でお願いします(執筆上の都合です)

(書式)
一行目:ロケーション選択
二行目:絡みたいキャラクターの指定、グループタグ(プレイング内に【】でくくってグループを作成した場合、同様のタグのついたキャラクター同士は個別の記述を行わなくてOKです)の指定等
三行目以降:自由記入

(記入例)
【激しく登山】
Aさん(BNEXXXXXX)※NPCの場合はIDは不要です。
Aさんと一緒に駆け上がります!

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間と参加者制限数はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・イベントシナリオでは全員のキャラクター描写が行なわれない可能性があります。←重要!
・獲得リソースは難易度Very Easy相当(Normalの獲得ベース経験値・GPの25%)です。
・内容は絞った方が描写が良くなると思います。

●参加NPC
・時村沙織
・時村貴樹
・桃子・エインズワース
・真白智親
・真白イヴ
・将門伸暁
・天原和泉
・クラリス・ラ・ファイエット
・セバスチャン・アトキンス
・アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア
・エウリス・ファーレ


 おやつは500円まで。
 リベリスタは兎も角、一般人は山を舐めてはいけません!
 のんびりしたイベントシナリオです。恋人や友人との時間にもどうぞ。
 以上、宜しければご参加下さいませませ。
参加NPC
時村 沙織 (nBNE000500)
 
参加NPC
桃子・エインズワース (nBNE000014)
参加NPC
時村 貴樹 (nBNE000502)
参加NPC
アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア (nBNE001000)


■メイン参加者 51人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
マグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
デュランダル
梶・リュクターン・五月(BNE000267)
クリミナルスタア
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
ナイトクリーク
源兵島 こじり(BNE000630)
クロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
スターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
デュランダル
一条・永(BNE000821)
プロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
デュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
ソードミラージュ
天風・亘(BNE001105)
スターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
ホーリーメイガス
ニニギア・ドオレ(BNE001291)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
プロアデプト
如月・達哉(BNE001662)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
ソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
マグメイガス
ラヴィアン・リファール(BNE002787)
クリミナルスタア
タオ・シュエシア(BNE002791)
インヤンマスター
九曜 計都(BNE003026)
ナイトクリーク
七院 凍(BNE003030)
ソードミラージュ
津布理 瞑(BNE003104)
ナイトクリーク
緋塚・陽子(BNE003359)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ソードミラージュ
セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)
レイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)
ソードミラージュ
フラウ・リード(BNE003909)
クロスイージス
白崎・晃(BNE003937)
デュランダル
鳳 蘭月(BNE003990)
レイザータクト
神葬 陸駆(BNE004022)
クリミナルスタア
熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)
ナイトクリーク
纏向 瑞樹(BNE004308)
ホーリーメイガス
キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)
クロスイージス
リーツェ・F・ゲシュロート(BNE004461)
覇界闘士
コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)
ダークナイト
廿楽 恭弥(BNE004565)
レイザータクト
ロイ・ジャスティン・ジャレット(BNE004593)
   

●日本一の山I
「世界文化遺産か、感無量であるな」
 優希の言葉はしみじみと――実感の篭ったものになった。
「『人類の遺産』として認められたのは素直にめでたいな。
 でも登山者が増えると維持も大変になるだろうな。日本人が一丸となって、富士を守っていく必要があるだろう」
「ああ。霊峰でもあるこの富士は、日本の宝であり世界の宝か。絶景にはそれだけの価値がある」
 蘭月の言葉に頷いた優希は自分の踏みしめる地面が特別な事を知っていた。
 霊峰富士。日本人の心を表すとも称され、世界中にその名を知られた列島随一の山が非常に重要な観光資源として『そこ』に座っているのは間違いの無い事実であった。
 さて、そんな富士山がユネスコの定める『世界遺産』なる決まり事に登録されるか否か――そんな話題が上がったのは実は今回が初めてでは無い。元々は『自然遺産』として申請されていた富士山が今回『文化遺産』として承認されたのは富士山に存在するゴミ等の問題が実にクリアの困難な難題であったと共に、関係者の何は何とも富士山を世界遺産にという悲願を感じさせるに十分であると言えるのである。
 正直、何とも地元民としては火花が散っているような気もしないのでは無いのだが――
 それが厳密に静岡県に存在するのか、それとも山梨県に存在するのかは多分大きな問題では無い。
「しかし、のんびりするのも悪くないな」
「俺は競争はともかく修練の意味も込めて別ルートを行かせて貰う」
 優希の言葉に蘭月が答える。
 さて、何はともあれ登山である。
 世界遺産登録の内定に沸く地元を記念して沙織が提案したのは『リベリスタ達のハイキング』であった。無論、世間やアークを取り巻く世情は中々厳しいものがあるのだが……
「富士山は龍脈の流れる霊場だとか。
 古代日本では風水を都市計画や一族の繁栄に利用したと聞きます。
 三高平やアークにその力が齎されれば……いえ。そんな力が実在すれば、そのうち三ツ池公園のように悪用しようとするフィクサードやエリューションとの争奪戦になるかもしれませんね……」
「夢のある話だぜ。ま、少なくとも火山活動と同じように今は眠っているだけなのかも知れないが」
 生真面目な恵梨香も冗談を言う余裕はあるし、答える沙織も然りである。
 そこはそれ、万華鏡を有するアークはある程度状況をコントロールする術に長けているのだから、張り詰め続けているリベリスタ達の気持ちを和らげるのも必要だと判断しての事になろう。
 そんな訳でここは五合目。富士登山では五合目までを車で移動し、登山に取り掛かるというコースが一般的で、要するにいよいよここからが本番という風情なのであった。
「考えてみりゃ――」
 山登りの準備を万全に整えたツァインは気持ちのいい朝の空気を胸一杯に吸い込んで言った。
「――毎日眺めてて登ってないってのもおかしな話だったな!」
 ご来光を拝むならば深夜の出発が妥当だが、本日は小鳥の囀りの響く早朝の開始である。
 ツァインの言葉では無いが沙織の呼びかけを『丁度良い機会』と捉えたリベリスタ達はめいめいに参加の予定を立ててこの辺りにやって来たという訳である。
「さてと……」
 ツァインが視線を向けたその先には妙なテンションで盛り上がる一団があった。
 それは蘭月が口にしたやや不穏な言葉――『競争』の源泉になる存在感である。
「貴様等! 山頂に行きたいか!」
「おー! 一番乗りはこのラヴィアン様に決まってるぜ!」
 拡声器を片手に笑顔でのたまう桃子に競争事とあらば全力を尽くさずには居られないラヴィアンが呼応した。
「祝福のキスが欲しいか!」
(敵味方関係なくクレイモアで吹っ飛ばす女性のキスは遠慮したい)
「何か言いましたか!」
「明らかに言っていないだろう!」
 自身を射抜いた眼光に思わず昇が返した一言はドがつく程の正論。
「だが、神秘に詳しくない元一般人でも『世界遺産の登山でアークで一番』ってのは興味あるな……」
 手製のおにぎり、たっぷり二リットルの水、酸素吸入用のスプレー、日差し避けの帽子、登山靴……
 必要と思われるものは自分なりに揃えた彼は専ら登山に真面目に興味があるようだ。
 一方で捨てる神あれば拾う神もあるのが人生である。
「登山とか全然ヤル気しんないけど……
 桃子ちゃんのちゅっちゅっが賞品として掛かってるのなら優勝せんわけにはいかんよね」
「つぶつぶ、相変わらず妙なところで、斜め上にテンション高いッスね……
 ニートを拗らせると、社会生活に不具合を来す好例ッス」
「つーか一位の人は桃子のキス? あらゆる意味で危険だろ。ただで済むわけが無い……」
 全身から危険なオーラを迸らせまくる桃子に相も変わらぬ懲りぬテンションで向かい合う瞑、そんな彼女を呆れ半分で眺めながら嘆息する計都、肌を突き刺すような確信めいた予感に微妙な顔をした凍といった【おっぱいマイスターズ】の連中はやいのやいのと面白おかしくやかましい。
「ドキドキ富士山おっぱい大好き大作戦ミッションスタートよ。
 今作戦中、富士山の事をおっぱいと呼称します」
「和泉ちゃんにセクハラはAUTOッス! ならば、あたしが身代わりでレッツ怪盗! 和泉ちゃんに超変身!」
 ……その酷い名称が何を意味しているのかは何故か同道させられた和泉や――瞑と計都のやり取り、和泉を「守る!」と息巻いてその姿を真似した和泉(パチモン)な計都の姿を見れば分かるかも知れない。
「微妙に似てないッスけど、エロ厨のつぶつぶは乳にしか目がいかないから、もーまんたいッスね!
 舐めるな、おっぱいの再現度は完璧ッス!」
「もう、何ですか! それ!」
 計都が文字通り胸を張り、和泉が抗議する。
 始まる前からやかましい一行にどんよりとした溜息を吐いた凍はカメラ目線で呟くのだ。
「登山イベントをクリアしたらきっと女の子の好感度アップだよな?
 和泉もつぶつぶもそれどこじゃなさそうだけど……参加したのは家に居るのが苦痛なわけじゃないぞ!」
 ……彼等は平たく言えば桃子の何時もの悪ふざけを真に受けた可哀想な人達である。
 沙織が提案した世界遺産記念の山登りも桃子にかかれば死屍累々のデスレースに姿を変える。
「一般人が来ない別ルートで勝負か。運が絡まない勝負はあんましないが、今回は面白そうじゃねーかよ!」
 不純な動機の者あり、ラヴィアンやこの陽子のように『勝負とあらば』と意気に感じる者あり。
「自己鍛錬の為、参加させてもらおう」
「そうですね。富士山。言わずと知れた日本一高い山。美しい山とも思います。
 ……何故か私まで妙なルートで向かう事になりましたけど。トレーニング目的ならば悪い話ではありませんね。
 桃子さんのキスは出来れば(お相手の身の安全の為に)阻止したい所ですし……」
「そんな訳でやって来ました。言わずと知れた日本一でかい山です。世界一でかいゴミ箱でもありますが。
 馬鹿正直に正規ルートなんて登ってられませんよね。世界遺産で客増えるのを良い事に途中から金取り始めるらしいですよ。
 ……トレーニング目的? あぁ、オマケへの説明にそんな話もあった気がしますね」
「モニカッ!」
 鍛錬目的にドリンクを満載したクーラーボックスを背に担いだリーツェ、装甲機動車の虫干しを兼ねた大御堂主従(運転手は主・彩花)、
「はい、やって参りました桃子'sブートキャンプ。
 お前卒業したんじゃなかったか、って? 彼女は社会人で忙しいんです。つまり、そういうことです!」
「いい目をしているな童貞!」
「言うのやめてよ!? 処女!」
 更に暇人の童貞(にったかい)を加えて……
 かくて『桃子杯』の名のもとに貴重な若い命を炎上させる人々は後を絶たないという訳である。
 しかし、それはそれとして皆桃子を信用し過ぎではないかと突っ込みを禁じ得ないのがツァインである。自身も『激しく登山』に参加していて何だが、これだけはどうしても言っておきたい事がある。今更ながら状況を整理するなら『桃子杯』なる登山競争は優勝者に『祝福のキス』があるそうだが……
「優勝者へのキス? いやいや、皆落ち着けよ……
 誰のキスって言ってなかったろ! 分かってんだよ! もう騙されねぇぞ!」
「富士山ですか。昔、訓練で五合目の和製グランドキャニオンまで登って以来ですね。
 あの絶壁も良い眺めでしたが、やはり山は登ってこそですよね。
 訓練では四十キロのリュックを背負わされて辛かったので、素手で行きます。
 リュックではない、リスクを背負うのです。
 いいですか。何より、十九歳天使女子と絡み合う濃厚なキッスが報酬とか!
 死力を尽くさずには居られませんね。楽しみで昨夜は寝ていないんですよ!」
「World is Mine……そう、世界は峰。人は誰も長い山道を往く旅人……
 天上から下界を見下ろすのに天使のキスも伴えば最高って奴だッ!
 やった、やったぞ! 最高にハイって奴だ! 漲ってきやがった!」
 ……ツァインの声は、どうも事前下見に本気の実施に気合の入り過ぎた影継、ちょっと多少いや多分に人生がガーター気味な『変態紳士-紳士=』平たく言えば恭弥等には届いていない。
「ええ、そりゃ。そりゃね。
 これが和泉さんとかクラリスとかイヴちゃんとかエウリスだったら死に物狂いで登りますよっ!
 どうせセバスチャンとかでしょハイハイ……だよね? 分かってるんだよ!」
 彼の挙げた名の中に当の桃子が入っていないのがいとおかし。
「あー? 男ならコレだろ! 正直、祝福のキスとか全然いらねェんだけど……
 山頂の番人(技:腹パンなど)と闘りあえる権とかの方が燃えねェ?
 色気より食い気より血の気!」
 更にはもう声を上げたコヨーテ辺りになると意味と趣旨が行方不明の線である!
「剣ヶ峰までの道は険しい。くれぐれも自然を舐めてはいけないぞ。
 山は友人でもあるが時に厳しい教師でもあるのだから」
 完全装備のウラジミール先生がある程度は中和してくれてはいても……
 ……酷い一団がどのように酷いかは概ねここまでのダイジェストで大体理解して頂けたものと思います。

 -------キリトリ線-------

 とある休日の平和な筈の富士登山は騒々しい内に幕を開けようとしていた。
「富士山!
 ……この間の時は、楽しかったといえば楽しかったのですけど
 大変過ぎて登ってる途中をゆっくり味わう余裕なんて無かったから……
 今回は、ゆっくり登ってみたいですね……」
「ま、今度は――ゆっくりと登るとしようか?」
 瞳を輝かせたリセリアに苦笑混じりでそう頷いた猛。
「しかし、桃子さんも、また妙な事をやりますね……」
「驚きは無いけどな……」
 二人が口にしたのは『半年程前に初日の出を見に行った時の出来事』である。
 同じく舞台は富士。冬の富士。桃色の悪魔が関わっていたのも同様だが……さて置いて。
「……という訳で、フラウ、取り敢えず手を繋ごう!」
「うち、走ったりするのは得意っすけど、山登りはあんまり経験した事ないんすよね。
 ……メイは登ったことあったりするっすか?」
 五月(メイ)の手が『何時も通り』フラウの手を取る。七月の気温は朝でも体温を伝えるには少し『暑い』が、手から伝う体温は不快感ではなく安心感そのものだ。
「何故山に登るかというとそこに山があったからだ。
 多分きっと、ゆっくり歩いていけばそれなりに楽しいのだ!」
 経験が然程多い訳では無いだろう。小首を傾げたメイにフラウは僅かに微笑んだ。
 成る程、『何時も通り』手を繋いだらば周囲の風景も特別に見えてくるものだ。のんびりとした時間の先にあるのはきっと『今だけの光景』になるだろう。
「……登って良かったって、思えるっすよね」
 届かない位に微かに吐き出したフラウが山道の一歩を踏み出した。
 二人の空気は確かにきっと華やいでいる――(※酷いアレ等はこれにて浄化されました)

●日本一の山II
「一度は富士登山してみたいとは思ってたが、マジで登る機会が来るとは思わなかったな。
 世界文化遺産になったと思うと、厳粛な雰囲気を感じるぜ」
 山に登る僧侶はそれ自体が有り難いものに見える気がしないでもない。
 優希、瑞樹と共に――【富士行脚】で登るフツは手を合わせて拝むようにしながらそう言って額に浮いた汗を拭っていた。
「登山って初めてだから、何だか楽しいよ!
 ……あ、そういえば、皆は山登りしたことあるのかな?」
 瑞樹の目には仲間の何れもが登山をそつなくこなしているように映っていた。事前に面々に登り方をレクチャーしてくれた軍人――ウラジミールは言うまでもなく、器用なフツも、事前準備に抜かりの無かった優希もそれは同じという訳だ。
「経験は……そうだな、大昔に一度経験した限りだな」
 瑞樹の問いに過去を懐かしむような調子で優希が答えた。
 考えてみれば彼にとっての登山は家族が居た頃以来であった。
「……足を引っ張らないようにがんばろう」
「ウラジミールのおやっさんは、長距離を歩く経験が豊富そうだったしな。
 ペース配分とか、参考にすれば大丈夫だろ、きっと!」
 ぽつりと気合を入れ直した瑞樹にフツは気安く笑いかけている。
 七月の晴天のような坊主の爽やかさはまるで本日のお日柄の良さのようである。
 山の天気は変わりやすいと言う。
 何かの機会、晴天に恵まれた時「日頃の行いだ」と言う人も居る。
 成る程、ならば――今日、富士に挑むリベリスタ達の頭の上に抜けるような青空が広がっているのは余程『日頃の貯金』が多かったから、行いが良かったからと言えるのだろう。
 気を取り直した瑞樹と何やら動画を撮影し始めたフツを和んだ顔で見つめる優希。
「ラ・ルカーナには大きな山って無かったんだよね。大丈夫?」
「うん。私も鍛えてるからね、大丈夫!」
 山道にもめげず元気の良い返事を返したエウリスにセラフィーナが微笑んだ。
 何時もならば背中の羽で飛んでいってしまう所。しかし……
(……自分の足で歩くのもいいものだね。覚醒してから忘れていた感覚かも)
 そんな考えも浮かぶ程度にはセラフィーナの感じる疲労感は心地良いものだった。
「こう見えても我々は同級生だな」
「てんでバラバラだけどね。謂わば五十路同盟って所かな」
 山道の異色トリオ――【五十路】は伊吹、彩歌、そして……
「ぜえぜえ……はあはあ……ぜぇぜぇ……」
 ……青白い顔で息を切らせている真白智親を加えた三人である。
「ラボにこもってばかりでは運動不足であろう」
「……いきなり富士山はハードル高かった?」
「きつければ背負ってやるが……娘の手前、あまり情けない所は見せてくれるなよ?」
「い、いや。まだ余裕だし、伊達にキャバクラで鍛えてねぇし」
 研究者肌の智親は不健康を擬人化したような人物である。
 険しい顔で山道に青息吐息する智親の言は全く信頼のおけるものではないが……
「ふむ、年頃の時に家にいなかったし、これ以上娘に苦労かけたくないとは思ってたけど。
 単純に言えばカッコつけたいでいいのか。物事は単純な方が筋が通る、って智親の前だと釈迦に説法だけどね」
 そんな風に呟いた彩歌はと言えば、何処か楽しそうに伊吹と智親のやり取りを眺めている。
「……あんな危険人物に、イヴは、イヴは……」
 うわごとのように呟く智親の言及しているのが――
「知ってるぜ、桃子杯の罠を。
 祝福のキスが、誰からの、と明言されていなかった。
 ゆえにここはイヴたんを構い倒したほうが吉!
 俺はこのゲスい思考とクズい判断力をもって歴戦なのさ!
 ピーチ避けは、恥じゃない!
 さあ! イヴたん! 俺と一緒に! 登山しよう!
 大丈夫、いざとなったら途中は俺がおんぶとかしてあげるからね!
 いける所までは自分で行こう! 頂上の達成感を一緒に味わうんだ!
 ね、イヴたんえらい! えらいよ! かわいいよ! お兄ちゃんって呼んで!」
 ――この竜一を指しているのは言うまでも無い。
「ねぇ、竜一。一緒に登るのはいいんだけど……私、実は高校生なんだけど……」
「知ってるよ! でもイヴたんは永遠にイヴたんだから!」
(……ユーヌさんが困る訳だ……)
「あ、ん、な、き、け、ん、じ、ん、ぶ、つ、に……!」
 嘆息したイヴがうさぎの水筒を取り出した。
 感情表現が余り上手くないイヴはそれでも自分を構いたがる竜一に呆れながらも感謝している所もあった。万華鏡の姫君の感情を察するのは簡単では無いが、彼女の場合実の父親に対してもそれは変わらない。翌日の筋肉痛を約束されている父親に少女は小さな溜息を吐く。
 しかし、『そもそもが登山なる行動に適していない』智親の惨状は兎も角として。
「貴樹と登山なのデス! 有名な富士山なのデスよ!」
「はっは、はしゃぎ過ぎて疲れんようにな」
 周りの景色に視線をやりながら『はしゃいで』いるシュエシアを嗜める貴樹の様子を見れば分かる通りなのである。日差しこそ強いが吹き抜ける風は涼やかで登山をするにこれ以上いい日は中々無い。
「貴樹貴樹、ワタシたちの目標は六か七合目くらいにしませんか?
 楽しむのが目標デスけど、何か目標があれば倍楽しそうなのデス♪
 あとはワタシも貴樹も、途中で体調が悪くなったりしないよう注意するデスよ!」
「手加減はまだまだ要らんぞ。今日は幸いに体調もいい」
「そ、そうなのデスか。でも無理はしてはいけないのデスよ!」
 老いてかくしゃくたる貴樹は流石に傑物である。そんな彼に少しだけ残念そうな顔をした少女には『頑張った貴樹に御褒美をあげる』というちょっとした目論見があったりしたのだが……
 ともあれ、折角の日に賢明な時間を選んだ人々はそれなりに楽しい時間を過ごしているのであった。
「うん、いいカットだぜ」
 カメラを構えるロイが風景に、そこを行く人々をファインダー越しに覗き込んでいる。
「こういう時間もいいもんだな」
 山道を登り続ければ眼窩に広がる風景は高く、高くなってゆく。太陽はこれから段々と真上に近付いてくる。お昼には早いが頂上で食べるサンドイッチの事を考えたらロイのお腹は軽く鳴った。
「へー、あの時は登ってる最中に周りを眺める余裕も無かったが。絶景だな」
「綺麗……本当、前にゆっくり見れなかったのが悔やまれます」
「建物がちっせー……」
 相変わらず分かり易い反応を見せる猛をリセリアが微笑んで見つめている。
「おんぶ!」
「大分麓が小さくなってきたな……って、ニニ疲れたか? 大丈夫か?」
「うそよ、大丈夫よ!」
 顔は少し赤くなっているがランディに答えるニニギアの調子は元気一杯といった風である。
(一生懸命りべりすたやってると、どうしても……心に澱のようにたまっていくものがあるよね。
 割り切れない思い、無力感、苦い経験の記憶。それらをなくすことはできないけど――)
「……ん? どうした? やっぱり調子悪いのか?」
「ううん!」
 ニニギアはランディの両手を握る。
 彼女が彼と見たかった風景は果たして彼の心を軽くしてくれるものになるのだろうか?
「見て、雲海。飛び込みたくなるわね! 一面の綿菓子の海ってかんじ!」
「……ああ、そうだな」
 ランディの顔はニニギアと居る時、驚く程険が取れている。
 彼女の頭に手をぽんと置いた『墓堀』はこの時、自身がそうである事を忘れていた。
 一方でカップルも色々である。
「ふふ、山頂にその名を刻むならどこまでも貴方の手を引かせて頂きます!
 お疲れではありませんか、クラリス様!
 自分は元気が有り余っていますとも! 今の自分は富士山頂まで貴方をお姫様抱っこして飛べる位喜びに満ちてます!」
 無闇やたらに元気に宣言して「そ、それは遠慮しておきますわ」とクラリスを圧倒しているのは言わずと知れた亘である。
 彼のその前のめりさは少年らしく隙に満ちていて却って微笑ましい位であった。
 逢える機会はそう多くは無く、得難い機会をぼーっとしていれば逃してしまうのは明白だ。
 従って。
(今日は押すのみ! いつもと同じ結果じゃもう満足出来ないんです! クラリス様!)
 こうなるのだが。
 ぶっちゃけ大して恋愛経験も無い夢に夢見るチョロ系お嬢様は、
(……亘さんは嫌いじゃないですけど、む、ムードが……)
 噛み合わない夢を見ているのだからこれはまさにロンドのようである。
 初心な連中の一方で無駄にこなれた人々も居る。
「沙織、暑い」
「ああ」
「沙織、喉が渇いたわ」
「そうだな」
 成る程、名前の通りの冷たい美貌と『登山にはとても適さない貴族的なその装い』は夏の登山に彼女が――宵咲氷璃が如何に似つかわしく無いかをこれ以上ない位に力強くアピールしていると言える。
 それでもどうして彼女が似合わない登山に興じているかと言えば。
「たまにはこんなバカンスも良いけれど――飛ぶのも結構疲れるのよ?」
 それは沙織が誘ったからに他ならない。
 少し気難しいお姫様の唇を尖らせた我侭に沙織は涼しい顔をしている。
 自分をいなす彼は『意地悪』で、息子か孫程の年齢のそんな『王子様』が氷璃としては面映い。
「ねぇ――」
「――何ならお姫様抱っこでもしていってやろうか?」
 案の定だ、と氷璃は冷静に考えた。
 冷静に考えた彼女は考えた後で『陽気に』肌が火照っているのを自覚した。
 だから暑い日は嫌なのだ。暑い日はだから涼しい室内で過ごすに限る――
「さおりん、さおりん!」
 ――健気で可愛らしいとはまるで彼女の為にあるかのような言葉である。
 山ガールの扮装で決めたそあらがくすくすと笑う沙織の袖をしきりに引いている。
 彼の居る所に彼女が居るのは全く不思議ならぬ『何時もの風景』で、
「お弁当と暖かいお茶を……今日の為に気合を入れて作ってきたのです。
 冷めないように魔法瓶構造のお弁当箱なのです。一緒に食べるのです!」
「何が得意なんだっけ?」
「さおりんの好きなものなら何でも得意になるのです!」
 意気込むそあらは全く真剣で全く本気の様子である。
「自信作はあるの?」
「特製醤油ダレに漬込んだ唐揚なのです。あーんで食べさせてあげるのです。あ、さおりん」
「……?」
「あたしに食べさせてくれてもいいのですよ?」
 お日様の下でも幸せなカップルは幸せなままだ。まさに『ご馳走様』の風情である。
 だが――
「からあげと言えば……」
「ん? どうかしましたか? リリさん」
「私、お世話になっている楠神様の為にお弁当を作ってきました。
 その、少しでもお礼になれば、と。楠神様のお口に合えば良いのですが……」
 山に不慣れなリリを手を引いてリードする風斗さん。
「嬉しいな。でも……」
「でも……?」
「……楠神『様』はやめてください。せめて『さん』付けにしてもらえませんか?」
「――――」
 じっと彼女の目を見つめてはにかんだように言うふうとさん。
「で、では……楠神……さん、で」
 白い肌に赤みを乗せて細く漏らしたリリさんに微笑みかけるフートサン。
 オーディエンスの皆さん。
 この人、ぶっちゃけセーフですか?(カンペ:AUTO! AUTO!)

●日本一の山III
「バナナはおやつにはいるんですか~とか聞きたくなるような牧歌的光景だよねぇ、コレ」
 のんびりと山歩きを楽しむアシュレイに声を掛けたのは何かと彼女に絡みたがる葬識だった。
「んー、まぁ、万華鏡持ちの特権みたいなものですけどね。私の占いも今日は大丈夫ですから、まぁ」
 夏場は涼しそうなアシュレイは念には念入れて『弱冷気魔法』の使用に余念が無いらしく汗もかいていない。尤もある意味リベリスタの悲願であったこの術はあのキース・ソロモンの来訪によってアークにもたらされる事となるのだが……
「エインズワーズちゃんも元気だしさー。あ、誰か力尽きた」
 葬識の千里眼が見つめる先で桃子の酷い気まぐれに付き合わされた人々が死闘を繰り広げている。
「ちくしょー! 十三日の宿がどこも空いてねえー!」←力尽きた快(理不尽な荷物搭載)
「うわあああああああああ!?」←全力全開のペースが禍してっつーかファンブル振って滑落した陽子さん
 ……特に今盛り上がりを見せているのは、
「ござあああああ! 拙者は登るでござるよ!!!」
 全開の雄叫びと共に急斜面を駆け上がる虎鐵であった。
「拙者は剣ヶ峰まで行って景色をみるのでござる……絶対にでござる!
 あ、別にキス欲しさにやってる訳じゃないでござるよ? そもそも桃子のキスは要らないでござるし!」
 心の雷音に弁明を展開する彼は彼で溜まっているものもあるのだろう。
 確かに鬱屈をスポーツで発散するのは古来から良いとされてきた方法の一つになろう。
「そう言えば」
「はい?」
「ブラックモアちゃんもアーネンエルベ出身なんだっけ。どんな研究してたの?」
「あはは、私は唯の腰掛ですからねぇ。それに魔術師は簡単に秘密を明かしませんよ」
「今後のアークは魔女の塔を攻略できるのかな? そういうの一番近くで見てたいよねぇ」
 妙に剣呑でのんびりとした談笑に悠里が近付いて来た。
「それは僕も興味あるけど。公園の時は助けてくれてありがとう。切り札を使わせたのに成果を上げれなくてごめんね」
「いやぁ、まぁ。私もお力になれませんで。
 使いきりのアーティファクトですから量産はちょっと難しくてですね……」
 罰が悪そうなアシュレイに悠里が続ける。
「仲間を守りたかった。その為に強くなった。でも出来なかった。
 アシュレイさんは、大切なものを失った事ってある?」
 彼の言葉にざんと風が吹き、アシュレイは酷く奇妙に顔を歪めた。喜怒哀楽の喜楽以外が欠落したような女が見せるその『微妙』さは際立って平和な休日をおかしなものに変えていた。当然のようにアシュレイの表情は次の瞬間には『何時も通り』に戻り、彼女は「えー? 当然ですよ! そんなの」と軽い肯定を見せていた。
 それ以上二人が何かを言うより早く。
 ある意味タイミング良く、ある意味タイミング悪く聞き慣れた声が彼等を呼んだ。
「あー、まだこんな所に居たんですか!」
 振り返ればそこにはエナーシアを連れた桃子が居る。
 競争を主催しておきながら管理する気も待ち受ける気も全く無い彼女はそれさえも忘れてしまったかのようにニコニコしている。
「まったく、益体もないのだわ……」
『一般的一般人』を自認するエナーシアは元々それに参加する心算は無かった。
 それでも早く山頂に行くであろう桃子と同道しようと考えていたエナーシアではあったのだが、彼女の同道はゆっくりとしたものになった。小首を傾げた桃子が「急いで登ったら疲れるし楽しくないじゃないですか」と当然の顔で言った時、『一般人』がやや戦慄したのは無理からぬ事であろうか。それより何より大方の予想通り桃子が「竜一か何かにキスさせればいいじゃないですか」と言い放ったのが酷過ぎる。
「……残念ながら一般人の私には力及ばず倒れていった人を助けることは出来ないのだわ
 ただただその在りし日の有志をファインダー越しに残すことしか……」
「えなちゃん、カメラ目線で何を言っているのですか?」
「一応、やっておかねばいけない事なのだわ」
 二人は何時も仲がいい。「ファーストキスはまだですし濫りにあげるわけにはいかないのだわ」と言ったエナーシアに何故か歓喜していた桃子の『のうまる』はかなり怪しげな気もするが。
 まぁ、一応ノーマルなんじゃねの。いい男居ればさ、ほら。←投げスピア
「お久しぶりです淫乱ピンクさん!
 おとーさんに淫乱ピンクさんはZ80に16Kメモリ的な高性能な方って聞きました!」
 俄かにコメディ感を増した場を何処からか現れたキンバレイがかき回しては空を飛ぶ。
「淫乱ピンクさんとお話しすると意識が途切れるのは何故でしょう……
 あ、胸のところ余裕がありますね……うらやましいです!」
 懲りずにドラマ復活した後、もう一度空を飛んで富士山のゴミになる。
「ふぅ、一仕事した所で何だかお腹もすいてきましたね!」
「桃子さん、お昼にでもしません? お弁当沢山こさえて来たのだわ」
 ニコニコと頷く桃子にエナーシアが指を指す。おあつらえ向きの休憩場はもう中々見晴らしもいい。
「山登りもいいけどーハイキングといえばお弁当とおやつ! おやつ!!!
 アシュレイさんも暇だったら一緒にどう?」
「あはは、いいんですか?」
「いいよ、でもちょっと知りたい事が……」
 壱也のトーンはこの辺りで少し落ちる。
「そういえばアシュレイさん料理できるの?
 まあいい女といわれるものは料理得意な人多いからねー。得意料理とかある?
 好きなものとかー……あ。あ、特にその……好きなものとか! よく食べてるものとか! さ!!!」
 後半は爆発している。壱也の視線はアシュレイの一部分に注がれている。
「この霊験あらたかな壷を買うと、育ちが……」
「買う!!!」
 一度尋ねてみたかった念願を果たした壱也の食らった霊感商法はアレとして。
「いやはや、人生どのようなご縁があるかわかりませんね。
 修験者の真似事をしてもよいのですが、今日はどうにも賑やかですので富士観光も良いものです」
「おや、永殿は初めての富士ですか」
 丁度、登って来た貴樹と永も同じく休憩場を一先ずの目標に定めていたようだ。
「ふ~じ~は に~っぽ~んい~ち~の~やま~♪ ――ふふっ、家族への土産話ができました」
 年齢(とし)よりは随分と可愛らしい調子で歌った永に場の空気が綻んだ。
 そして、有り得ざる斜面では――
(地道な作業に辛さは感じんし、個人的には嫌いな事でもねぇ。
 始めなければ終われねぇ。やれば終わるしやらなきゃ終われん――
 ――始めんのも、続けんのも、終わらせんのもオレだけだろ)
 ――歯を食いしばる火車があくまで過酷なルートを登っている。
「たまにはこういうん没頭すんのも――悪かぁない」
 思う所あり、シリアスな彼は一歩一歩地面を踏みしめる。
(とりあえず、トップ組にくっついていって最後にラストスパートかけて抜く作戦だな!)
 まだ頑張っているラヴィアンとかその辺も意気軒昂だ。
 勿論、(斜堂さんとか)桃子杯の死屍累々は無かった事になっている。

●日本一の山IV
「うわー……」
 感嘆の声を上げた陸駆は瞳を輝かせて息を呑んでいた。
 登山の最大の楽しみは何かと言われれば山頂への到達と答える者は多いだろう。
 日本一の山の日本一の頂から見下ろす風景は実に素晴らしいものだった。
 晴れの日に恵まれた今日は何処までも遠くが見えるようで、少年はすこぶる上機嫌に満足していた。
「世界遺産とは立派で天才的なのだ!」
「うむうむ、同志りっくん。
 物の歌にあるが、友達と富士山のてっぺんでお弁当を食べる……次はそんな願いに挑戦してみるぞ!
 レッツお弁当、ダヴァイッ!」
「それは天才的な提案なのだ! 異論無し!」
【わくわく】の名前は全く雰囲気を反映した通りである。
 陸駆とベルカの二人はコーポレーションを通じた友人である。
「ふじやーま! よーし、とりあえず……やっほー! ウラー!!!」
「やっほー、なのだ!」
 大声で山彦を呼んだベルカに倣い陸駆が声を上げた。
 富士は登るより見るもの、そう考えていたベルカもここまで来れば高揚感を抑えられていない。
 彼女が用意したお弁当はシンプルに塩むすびと沢庵、卵焼き。味付けが甘いのはなかなかどうして普段見られない彼女の女性らしさと言えるのかも知れない。
 リベリスタ達がやがて続々と山頂に到着してくる。
 酷いルートを進んだボロボロの連中も然りである。
「そう言えば……友達百人……作る……あの歌……
 何で……おにぎりを……食べる……時は……百一人……ではなく……百人……なのかな?」
 ちょっとぞっとするエリスの一言は考えさせられるものはある。
「司令、いいですか?」
「代行な。何?」
「親衛隊のごたごたの最中で申し訳ありませんが……僕はここで長期の休暇を申請させていただきます。
 実家の方でちょっとごたごたがありましてどうしても家を纏める長として行かなければならなくなりました」
「成る程、帰還を期待してる。こっちは勝つから――心配すんな」
「……ありがとうございます」
 達哉の沙織への報告はちょっとしたサプライズにはなったが。
 ともあれ、この時間は皆にとって大切なものになったのだろう。
 心地良い疲労感と解放感に上がった歓声はそれを強く印象付けていた。

●無題
「ここまで来た甲斐はあったな、さすが世界遺産」
 少年の言葉に屈託は無い。何時も素直な彼の事を少女は大好きだった。
「ねえ、――くん」
「なあに?」
 少年は自分を呼ぶ少女の声に振り返った。
 眼窩に広がる素晴らしい景色より、そこに大切なものがある事を知っていたから。
「私は今、幸せよ」
 汗ばんだ少女の手が同じように汗をかいた少年の手をぎゅっと握った。
 恋人同士が語らうに相応しい二人きりの場はそんな少し気恥ずかしいシーンも肯定したままだ。
「僕も、幸せだよ。――がいるからさ」
「最初は大嫌いだった」
「ははっ、同じだ。ツンツンしてたし、怖かったしさ」
 チャラかったもの。それでも少女のモノクロの世界を変えたのは少年だった。
「その次は弟みたい、と思った」
 犬みたいだと思ったの。
「……その次は、恋してた、好きだって思った」
「勝ったわね」
「恋愛は惚れた方が負けってヤツ?」
「嘘よ」
「何さ」
「きっと私は――負けていたのだわ」
 臆面も無い一言が少年は何とも面映い。
 年上の彼女は何時もそうなのだ。兎に角、操縦がし難くて――それが愛しい。
「気付いたら、私は貴方の物だった」
 きっと、恋だった。少女は言う。
 貴方が私の生きる理由。少女は口にしない。
 唯、握り締めたその手の熱に溶け合いたいとそう願っていた。

 ――これまでも、これからも。
 これからも私は変わっていくでしょう。
 それでも、一つだけ変わらない事がある――

「ダイスキだよ、御厨くん」
 照れくさくて言えないお礼の言葉を恋の囁きに変えていた。
 世界は不条理で理不尽でも――貴方と一緒ならそれさえ、きっと。
「僕もこじりが好きだ。愛してる」
 笑顔を見せたこじりに夏栖斗はそっとキスをした。
 富士山の天辺で二人きり。触れ合う唇は温くこじりの味がした。
「御厨君」
 少女の瞳の中には視線を逸らした少年。
 少年の瞳の中には、はにかみながら微笑む少女。
「ねぇ、御厨君」

 ――ずっと一緒に居たい。時間が、止まってしまえばいいのに――

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIっす。

 全員描写。抜けあったらお知らせ下さい。
 今回は大分サービスしてる筈……だと思うです。
 お気に召して頂ければ幸いです。
 あと、アウト。

 シナリオお疲れ様でした。