●大晦日 十二月は兎にも角にもバタバタしがちなものである。 一年の総決算、年の最後、『今年』に積み残した何かの処理から、『来年』に向けての準備からやる事は山のように積み上がっているものだ。 「あら、奇遇ですね!」 三高平の街中ですれ違うのはアーク本部で出会うよりは珍しい。『あなた』がそんな師走の最後の最後――大晦日に『清廉漆黒』桃子・エインズワース (nBNE000014)に出会ったのは全く偶然の出来事だった。 「やー、もう今年も終わりなんですねぇ」 白い息を吐きながら吹き付けてきた冷たい風に目を細めた桃子は『あなた』の顔を見ながらしみじみと言葉を漏らした。黙っていれば――或いはきちんと猫を被っていれば楚々とした彼女のそんな姿に軽く苦笑いを浮かべた『あなた』は辺りを見回しふと過ぎ行く今年に想いを馳せた。 思えば色々な事があった。 思えば――実に色々な事があったのだ。 楽しい事も、辛い事も、そのどちらとも言えない事も。 「ももこさんは今日はですね、ゆっくりと過ごすのです」 「大掃除は?」 「計画的に終わらせたです」 「梅子の世話は?」 「何時も焼いているのです」 「……そうだな」 師走もクライマックスに差し掛かる年末頃は忙しいのも回りに回って落ち着いて、ゆっくり過ごす人間も多いかも知れない。日本のお茶の間の原風景はコタツに入って蜜柑を片手に年の瀬の『お化け番組』を見る事だ――等と言われて久しいのであるし。 「寒いですね」 「ああ」 「今年も、もう終わりですねぇ」 「……ああ」 何れにせよ今年は暮れ、また新たな来年がやって来る。 意味があるようで意味が無い、意味が無いようで確かに意味がある――暦の最後の一ページを『あなた』はどんな風に綴るのだろうか? 三高平の、ゆくとしくるとし。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月13日(日)22:46 |
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●昇る大晦日 「はぁ、はぁ、は――」 何時もと変わらない冬の朝の空気に白い息が飛び跳ねている。 「は、は、ハァ――」 優希の日課――朝のランニングは今日も何時も通りなのである。 自警団MGKの一員として、トラブルを見過ごさない為に――困っている誰かを助けるその為に。 律儀と言えば律儀過ぎる位に律儀な彼は今日も市内を走っている。 さて、誰が何と言おうと師走である。 師走の語源は様々ある。 僧の師が経を読む為に、東西馳せる月とする『師馳す(しはす)』とする話。『年が果てる』意味の『年果つ(としはつ)』、『四季の果てる月』を意味する『四極(しはつ)』から転じたというもの。『一年の最後になし終える』意味の『為果つ(しはつ)』からとする説等、簡単に結論が出ない程度には諸説入り乱れているのが実際の所であろう。 しかして、この師走――つまり十二月の呼び名の源には共通して『忙しない一区切り、終わり』を感じさせる意味合いが存在するのは見ての通りである。例えそこに長い時間が横たわっていたとしても人の営みというものは実際は大して変わらないものなのかも知れない。つまる所、この言葉を紐解いた時に簡単に知る事が出来るのは今も昔も今時分は忙しいという至極単純な事実ばかりなのである。 中でもその総決算とも言える最後の一日は――三十一日は。月が替わるだけではなく年が変わるという今日この一日は大抵の人間にとってちょっとした特別感を帯びる時間であろう。計画的な人間ならばとうの昔に『年越し』の準備を終え、逆に行き当たりばったりな誰かならば今頃焦っている頃である。勿論、逆に突き抜けて『大晦日』を何とも思わない――怠惰なのか大物なのか分からない――人物もこの街には多いかも知れない。 「初日の出を有難く受ける為にもね、今日は全力で磨き上げますよ!」 何もかもが新しい対神秘の要塞都市だからこそ――と意気込むロウがセンタービルの窓ガラスを磨いている。 「大きい窓がいっぱいありますからねえ、磨き甲斐があります♪」 ロウの努力の甲斐あってか――早朝の日差しを見事に跳ね返すガラス張りの摩天楼を遠く見上げて呼吸を落ち着けた優希は呟いた。 「2013年はどうなるのだろうな。まずは2012年最後の今日、良い一日になると良いが――」 この三高平を取り巻く多くの人々の『大晦日』を再び駆け出した彼と共に――少し駆け足で覗いてみる事にしようか。 ●朝の出来事 「よし、掃除だ!」 一声気合を入れたエルヴィンをじっと見たレイチェルは「ふぅ」と小さな溜息を吐き出した。 この兄の方は兎も角、どちらかと言えば真面目で、どちらかと言えば計画的なタイプである――恐らくはそう、少なくともねこたんはそう考えている――冷静でクールな彼女の目の前には年の瀬の大掃除を待つ『惨憺たる有様』が広がっていた。ガーネット家の名誉の為に言うならば勿論、その居住空間は他所と比べて必要以上に汚いという訳では無い。さりとて新年を迎えるにはやや雑然とし過ぎた姿も又事実なので、つまる所『後回し』にされ続けた現実が今牙を剥いたといった風情なのである。 「年末にかけて大きな戦いが立て続けに来たからな……ここまで全く手をつけてないのは始めてだぜ」 「……ちょっと気合入れて、今年最後のひとがんばりといきましょう」 エルヴィンの言葉に一瞬だけ眉をしかめたレイチェルはついこの間まであの六道派との戦争に駆り出されていた身である。 つまる所、傷の痛みもまだ残っているし、物理的な時間も余り無かった。 目の前のラスト・ミッションの残存も二人を責めるべきというよりは『致し方ない事情の上』に存在しているのだが…… 「ぼやいても仕方ない。これはやるしかない、というヤツだね」 「ああ」 レイチェルの言葉が普段他人に向ける調子よりも砕けているのは兄妹故だろう。 エルヴィンは何も言わないまでも幾らか辛そうな妹の代わりに力仕事を率先し、レイチェルも傷の痛みをかみ締めるように打ち負かすようにポイポイと手を動かす彼女はやはり機敏に目の前の難題を片付け始めていた。 (辞めよう――) 手に取りかけたアルバムをエルヴィンが開く前に棚に戻した理由は――敢えて言うまでもない事だ。 作業は兄妹の息遣いの中で静かに着々と進む。 「おいおいレイ、無理すんなよ」 そんな中、レイチェルが反射的に漏らした「痛っ」という小声にエルヴィンは分かり易い位の反応を見せていた。 「うん、大丈夫、無理はしてないから。心配かけてごめん」 「それならいいけどよ……」 自身の性格を知ってか幾らか懐疑的なままながらそう答えた兄にふとレイチェルは言葉を漏らす。 「……絶対に死なないでね、兄さんは」 「死なねぇし、死なせねぇ……て言うかお前も死ぬなよ?」 「うん、私も死なないよ。だって――」 レイチェルはそこまで言って複雑な兄の顔を覗き込み小さく舌を出して悪戯気に笑った。 「だって――死んだら兄さん、泣いちゃうでしょ?」 嗚呼、もう! ブラコン可愛いなぁ! ……じゃなくて、まぁ。お次はアーク本部の風景である。 年中忙しいアーク本部も仕事納めと言うか…… 仕事を納める暇も無いのだが、年次の切り替わりというものはある。 大抵人の出入りが絶えないその場所も年の瀬ともなれば特に忙しない空気を醸してはいるのだが―― 「行き先決めずに歩いたとはいえ……何でここ来ちゃうかな」 ――特に理由が無くとも辿り着いてしまった(白)レイチェルのような人間もここには居る。 「ま、何だかんだで一番お世話になってるのここだし。沙織や智親に挨拶でもしておこうか」 色々あった一年をふと思い返しながらふらりと本部の空気を泳ぐレイチェルは軽い調子で職員の一人に言う。 「これからだけど、よいお年をっ!」 本部に午前中の内に足を向けたのは零児も同じである。 「いよいよ今年も終わるんだな」 「そうなりますな」 本部の簡易トレーニングルームは広いスペースが用意されている。 私物の少ない部屋の大掃除より『日頃の感謝を込めて』機械の身体をメンテナンスしようと考えた彼は丁度、セバスチャンと鉢合わせたという訳だ。 「この緩やかな時間も一時のものだが、だからこそ大切にしたいものだ。 もし叶うなら――先達からのアドバイスの一つも頂ければ嬉しいのだが……」 「構いませんよ。とは言っても、どれ程伝えられる事があるかは分かりませんが……」 謙遜か本音かセバスチャンはそんな風に言ったが「宜しく頼む」と応じた零児にとっては渡りに船。 共にメタルフレームの戦士とあらば、話を共有出来る部分も少なくは無さそうである。 朝の時間に何人かが顔を出したのは予想外(?)にもアシュレイのアトリエも同じであった。 「はーいアシュレイさん今年も独り身ですか生きてますか孤独死してませんかよっしゃ生きてますねおはようございまーす! 年末のご挨拶に参りましたうさぎですワレワレハユウコウテキナチキュウジンデスお元気ですか最高ですかそうでもないですか汁粉飲みますか御餅食べますかー楽しいですねー楽しいですよーやったねアシュレイさん楽しいんですってーワオハッピー」 句点の一切無い非常に鬱陶しいテンションでドアをバターンとしたのは言うまでも無いうさぎである。 「一年の計は元旦に在り。まぁ、現在は前日の大晦日なのですが元旦に備えるとしましょう」 彼だか彼女だか犬だかうさぎだかたぬきだか分からないうさぎ(文的矛盾)に加え、異世界然とした時代錯誤は一体何処へ行ったのか――妙にキビキビとした騎士子さんことアラストールが『酷い有様』の店舗付き3LDKを前に腕をぶし始めていた。 「まぁ、昼過ぎ位にはまたお客さんも来そうですしねー」 「掃除をします。構いませんね? 塔の魔女」 うさぎにしろアラストールにしろ部屋の惨状は予想の内である。 「はいはい起きて下さいねー。後で寝こけてたり年末仕事が終わってなかったら困るでしょう?」 「うぃー」 「問おう。私が貴方の(ハウス)キーパーか」 「うぃー」 全力全開でコタツにド嵌りし、そこから出る事も無く片手を挙げて応えたアシュレイに二人は顔を見合わせ一つ大きく頷いた。 全く生活力の皆無を隠さないダメなニートの面倒を甲斐甲斐しく見る人々は中々絵になる感じである。何故かノソノソとコタツ怪獣状態で移動したアシュレイが『店の制服』を装着させた日にはうさぎはハーレムさんに「ぎゃー」と悲鳴を上げられる風情で、騎士子さんは騎士子ではなくメイドさんに違いなかった。 全力全開で働く気の無いダメ女の傍らで進む遠大なドラマがある。 ――2012年12月31日。 この日は全国的に斜堂影継の17歳の誕生日である。 「嵐が……来る……!!」 早朝の埠頭にバイクを走らせながら、斜堂影継は直感していた。 明日、2013年1月1日に何かが起きる。それは言うなれば旧き世界の終焉。一なる崩界。 世界を支配する飽きた概念は脆くも崩れ去り、新たな世界律がこの三高平を覆い尽くすのだ。 「ところでな……」 そのドラマの主人公・斜堂影継は自分でそれだけ力説した後、コタツ怪獣アシュレイに問い掛けた。 「そんな予感がしたんだが何か感じてないか魔女殿」 「何か感じるのも面倒臭いですー」 「ついでに来年の運勢でも占ってくれよ」 「塔を出すのも面倒臭いですー」 年の瀬忙しい時分に誕生日が祝われる暇も薄く。 斜堂の家の頃からこう、ある意味こう、アレだった『誕生日』。大晦日では無く『誕生日』。 影継が何だかんだで一日を過ごして深夜頃に帰宅して――知人から届いていたプレゼントに泣くのは先のお話。 ●昼の出来事 愛銃をバラして、調べて、労わって、組み直す。 繰り返したルーティーンは今日も同じ。 しかし、今日のルーティーンが持つ意味は喜平にとって何時もとはほんの少しだけ違う。 (人並み以上に依頼でドジを踏む事が多い俺が何とか生きて来られたのは、仲間と、コイツの御蔭だな――) 一年の終わりの日によくよく見つめた愛銃は傷だらけである。 初めは綺麗だった外装が見る影も無く。しかして、その傷の一つ一つが自分を救ってくれた証なのは間違いない。 そう思えばパーツの一つ一つを丹念に磨くその手にも自ずと力も想いも篭るのだ。 「来年も宜しくな。相棒よ」 ルーティーンと言えば日常を日常として過ごすのは雷慈慟も同じである。 「雪か……動物達を屋内へ移さないとな」 年の瀬と言っても元より平日休日祝日変わらず牧場の仕事は常に一定だという事だ。 白い息を吐き出し、今日ばかりは忙しそうな他のスタッフの事を思い浮かべた彼はしみじみと呟いた。 「アークに身を預けてからというもの……仲間や同志と過ごす時間は明らかに増えた。 素晴らしいが……今、この時間を誰とも共有していないのは侘しさを感じぬと言えば嘘になるか」 しかして、そんな彼の呟きに応えるように吠えた愛犬に雷慈慟は「そうか」と小さく苦笑した。 「失礼な事を言ったな。今日は馳走だ、楽しみにしておけよ」 崩界を食い止める。酒呑雷慈慟は確かにその為に存在している。しかし…… 「……来年こそ、誰ぞに子を宿して貰いたいモノだな……」 ……この男のキャラを大抵致命的にぶっ壊しているのは『コレ』ばかりである。 そして…… 「買出しだ!」 必要以上に気合たっぷりに声を上げたのは安さと鮮度に定評のあるスーパーときむらの年末特売チラシを握り締めたブリリアントであった。 「一人で出来るのかだと? 笑止!」 大仰なアクションでカメラ目線で誰に説明しているのか力一杯胸を張った彼女は力説している。 「私は二十五歳の成人であるぞ! ほーら、ちゃんと普通免許だって持ってるs――」 コケた彼女が顔から雪にダイブして。それでも『目から洗浄液』を出しながらも、『Team』の為に年越しそばを『頑張る』のはまさに彼女が彼女に与えた今日の重大ミッションなのだった。 「フッ……」 そしてミッションは軽く笑んだ美散にとっても同じ。彼の場合は三が日の御節のおまけつきである。 「流石に大晦日ともなると何処のスーパーも混むな。だが、鈍った身体には丁度いいか」 格好いいのだか悪いのだか微妙な台詞を吐き出して。禁戦令の身の上の代替戦場にスーパーときむらを選ぶ彼は宵咲家のおさんどん担当――女系家系のヒエラルキーの最下層に位置するまさに歴戦の主夫であった。 「ここで負ける訳にはいかん。狙うは伊勢海老と鯛、マグロの刺身も欲しい所だ」 実に厄介な女怪共のニーズは容赦なく、戦士は赤い魔槍の代わりに前掛けを備えて年の瀬に臨む。 可哀想とか言ってやるな。多分本人は気付いてないから―― 「ふふ、パパ喜んでくれるといいなぁ」 ――一方でハッピーな感じで御節をせっせと重箱に詰めるのは『少女よりも少女らしい』三高平名誉少女の一角たる真独楽である。 幸せなオーラ全開の彼――敢えて彼女と呼ぼう――彼女の場合、ピンクのエプロンを身に着けて父と共に立つ台所での時間は至福の一時なのであった。 「……えへへ、ホントの夫婦みたい! 料理はまだまだ勉強中だけど…今年一年でだいぶ上達したし! レパートリーもいっぱい増えたから…… うん、いつでもお嫁にいける! 苗字と住所は変わらないけど!」 『料理が上達した』としている割にはメイン作業が盛り付けになっているのは御愛嬌。 男の娘で父親に懸想するとゆーこの背徳禁断のフルコースみたいな状態にねこたんは敢えて何も言うまい。 買出しに走るパパが状況をどう考えているのかも知れないが―― 「隙間なくびっちり詰め込むのが縁起良いんだよね。 来年も一年、パパと一緒にいられますように。後できれば……ホントのお嫁さんにしてもらえますように! なんて、きゃーっ!」 じたばたと身悶える真独楽は取り敢えず幸せそうである。そあら系的意味で。 アーク本部は朝から相変わらず人の流れが絶えていない様子であった。 「時村室長、いつもカツカツの状況での作戦立案、御苦労さまです。これからもよろしく。でも女関係はきっちりしろよ」 「俺は誰にも手ぇ出してねぇよ」 風斗から年末の挨拶を受けた沙織は実に見事に切り返していた。 「いいか。俺は『怒られるような事』はしてない。 つまる所、基本的には『皆が楽しく過ごせるように努力しているだけ』だ。 いいか、楠神。もし仮に俺が『しっかりしていない』ならお前も全く同じなんだぞ? ん?」 「お、俺は断じて違う!」 「明奈とかアンナとかエリエリとか冬路とかうさぎとかたぬきとかいぬとか」 「何なんだ!? 特に後半!」 「専門用語でブラも外してねぇのに文句言われる筋合いねぇって言う」 『専門用語』で大人気ないとも言う沙織と風斗のやり取りは置いといて。 本部のラウンジには何人もの姿がある。 「あのエロ眼鏡も懲りませんからねー」 「あはは、そうだね。室長の場合わざとっぽいけどね!」 温かいミルクティーを啜る桃子の傍では何故か彼女に引き付けられてしまった夏栖斗がじゃれていた。 「今年のピーチ今年のうちに! っていうか重傷中なので近づきたくないのに! あの悪魔に近づきたくないのにビクンビクン! 回復しないといけないのに! シャドーボクシングやめてね!」 「チッ」 「チッ、じゃなくて。つーか、きいてよ、彼女に忙しいからやだって年末デート振られたから、桃子さん付き合ってよ! 突き合うじゃなくて付き合うね! 手刀とか要らないからね! 普通にお話! トーキング!」 「チッ……」 その二人の『何時もの』やり取りの向こうには真面目なの―― 「ボトムには慣れたかな? 困ったことはないかな……三高平は住みやすいかな?」 「大丈夫だよ、皆良くしてくれるしね」 ――おずおず「お久しぶりだな」と切り出した雷音とそれに応えるエウリスの姿もある。 (いや、違う。そんな事が言いたいのではない。ボクは、彼女に――) 致し方ない事であったとは言え、先の異世界騒乱での最終局面は『万人に幸せ』な結末とは言い難かった。 年が終わるその時を目の前に積み残した蟠りを彼女が晴らしたいと思ったのはある意味で当然の事だっただろう。 誰かを何かを嫌いになる事が極端に下手な雷音は――背負う荷物を分けられない不器用さを持つ少女である。 その不器用さは時に美徳で、時に大きな勇気を必要とする試練にもなる。 「いろいろ終わって慌ただしいが、ボクは……」 もう一度、言わないといけないと思っていた。 「ボクは、友達になって欲しい」 罵られるかも知れない――そう考えたのは彼女の自罰的な性質を示している。 そしてもう一つ、或る意味で少し天然な性質をも表していたのかも知れない。 こんな時、エウリスがどう応えるのかを恐らくは彼女以外は知っていた。 目を閉じて差し出した雷音の右手を温かい熱が包み込む。 「――最初から、トモダチじゃないの?」 フュリエとボトムチャンネルがどうあれ、エウリスと雷音とは――ずっと前から。 一方の陸駆と和泉はと言えば、事務処理の手伝いを軽く終え、ココアを片手にすっかり休憩の風。 「今年は、僕にとっては激動に過ぎる一年だった。貴様もお疲れ様だ、天原和泉」 「ええ。皆大変でしたけど、漸く今年も終わるんですねぇ」 開けては鬼道の跋扈から始まり、異世界動乱、ケイオスと『楽団』の来日、つい先日は六道紫杏との戦争と――考えてみれば最前線で戦い続けるリベリスタにとっては息を吐く暇も少ない一年だったのは確かである。 「大変には大変だったが……」 「ええ」 「来年も生きてお前に会いに来てやる。だから、おかえりなさいを言うのはお前の役目なのだ」 「……はい」 小さく頷いた声が微笑ましく「当然だ」と胸を張る少年の心をくすぐった。 男は往々にして誰かに期待されて大きくなる。天才も凡才も、老いも若きも。 『可愛い女の子』からの期待は大抵の場合、格別に感じられるものなのだ―― ●夕の出来事 「……はっ!?」 コタツの机の上には些かはしたなくちょっと涎が垂れていた。 「……いかん、うとうとしていたわい……」 見事なまでの熟睡を『うとうと』と表現するのは如何なものか――という野暮な突っ込みは兎も角として。 気付けば、気付いた時、気付いた今――彼女の、レイラインの大晦日は半分以上終わっていた。 「日本の科学力の恐ろしさを知ったのじゃ……」 抗い難いその魅了から何とか身体を引き剥がし、少し恨めしげな目でコタツを見る彼女である。 (はぁ……一年の締めくくりを引き篭もるとか昔と何ら変わらんじゃないかえ) その胸の中に一抹の寂しさが去来した事は言うまでもない。 (そう言えばこっちに来てから連絡一つ取っておらんのう。お父様にお母様、元気にしとるじゃろうか。 いずれテリーを連れていって『ねんがんの かれしを てにいれたぞ!』って報告しに行きたいもんじゃて……) レイラインの寝起きの頭に電撃が迸ったのはそこまでたっぷり考えてからである。 「……って! テリーの所行かずになにぼーっとしとるんじゃわらわは!? し、支度支度! この間服屋の店員からセットで買わされた『しょうぶしたぎ』とやらはどうしようかのう…… そもそも何を勝負するんじゃ……? 勝負って……」 ……これだから年季の入った非リア充は…… 「馬鹿にするでない!」 西日の差す殺風景な部屋の中に一人佇むのはマコトだった。 「……おはよう。まだ寝てなくても大丈夫?カウントダウンの時に寝てても起こさないよ」 彼は部屋の中に『一人』だ。但し、彼の頭の中には『二人』居る。 「あぁ、荷物ね。全部昼に送ったよ。年も変わるし、逃げるには良い日さ」 アークのリベリスタに突き立てられた『魔のクリスマス』の爪痕はマコトの中に大きな傷を残していた。 「笑ってくれよ……銃が、握れないんだ……今まで死地に身を置いていたのに、たった一回死にかけた位でさ」 六道紫杏との戦いで『本気で死に掛けた』彼は戦う事を辞めようとしていた。 彼の中に居る『恋人』の声を彼以外が聞く事はない。肩を小さく震わせた彼を恋人が優しく抱きしめる事はない。 しかし彼女はそこに居る。 「……何で話してると溢れてくるんだろ……さっきまで大丈夫だったのに……」 見下ろした――震えの止まらない両手が涙の雫を受け止めた。 「……なんで……」 ブレインインラヴァーとシリアスという最高の組み合わせを真面目に書いたらこうなりました。 「年越し蕎麦も買いましたし準備は完了ですね……料理出来ないからカップ蕎麦ですが」 木枯らしの吹く帰り道、マフラーをぎゅっと握った五月が行く。 (しかし雪降ってる中は寒いですね、やっぱり。 去年はどうでしたっけ……そういえばアークに来てから二度目の大晦日です。 三ツ池公園の騒動も一応一段落しましたし、落ち着いて年を越せそうで良かったですが……) 帰り道を急ぐのは五月だけでは無い。 時間を忘れていた訳では無いが、あれやこれやとしていたら少し遅くなってしまった感はあった。 「……あれ?」 「む……」 暮れなずむ三十一日の街角で偶然鉢合わせになったのはアリステアとウラジミール、外国人の二人であった。 「奇遇ですねぇ。おじさまもお買い物?」 「いや、自分は巡回をしていた所だが……」 アリステアは兎に角『男は三十過ぎから』と公言する程に筋金入りの年上好きである。 一方のウラジミールがロリコンである事は全く無いのだが――少女の方はと言えば、この年末の『ちょっとしたラッキー』に瞳を輝かせ、髪やらスカートやらをパパっと直してマセた所を見せていた。 話をすればウラジミールは巡回を終えた所、アリステアはもう帰るだけである。 「レディとこのような場所で立ち話もないだろう」 「お誘い頂けるなんて!」 「構わないか?」 「はい! ご一緒したいです」 手近にカフェがある事を思い出してウラジミールが切り出すとはにかんだアリステアは実に嬉しそうに頷いた。 微笑ましい光景を醸すのは軍人と少女の二人。 そして、何とも言えない混沌の鍋から紫色の煙を上げるのは―― 「――用意してきたのだわ、桃子さん! 港湾地区で絞りに絞った最高級本ズワイ、つまり予算に糸目つけぬ比肩する者無き――蟹しゃぶよ!」 「でかしたのです、えなちゃん! さあ、アシュレイさんを買収するのです!」 「本人の前で堂々と言う所がとっても桃子さんなのだわ!」 日本の正月に染まりまくったえなちゃんことエナーシア、そして桃子であった。 白いファーのイヤーマフを外して「ふぅ」と人心地ついたエナーシアの頭を桃子が『なでなで』とし始めた。 朝もはよから『JaneDoeOfAllTrades』に仕事を持ち込んだ人物こそ彼女である。 その任務は『アシュレイを懐柔する為の袖の下を用意して欲しい』というもので、要するに何処ぞまでダッシュで走って最高のカニを用意して来い、という非常にアバウトなものだったが――へっちな案件以外ならば何でも頑張るエナーシアはこれに見事に応えてみせたのである。 おい、新田てめぇえなちゃんをやらしい目で見るんじゃねぇ! 「それにしても……桃子さん、もう晴れ着なのです? 桃色に合わせて似合ってますけど……」 「富士山に登らなければいけないのですよ」 「……その格好でいくです?」 「晴れ着のバストアップが用意されたからこれで行かない訳にはいかないのでした」 「ああ、その為のアシュレイさんなのです……」 要約すれば桃子は「かにーかにー」と箸をチンチンするアシュレイに着物の防護魔法を依頼したいらしい。 「えなちゃんも来れば良かったのに!」 「残念なのだわ桃子さん。山を登りたかったのは山々なのだけど、膝に矢を受けてしまったのだわ」 「かにーかにー」 土鍋は既に用意されており卓上のコンロは青い火を燃やしている。 山盛りの野菜に加えてカニが届き、マジで鍋する五秒前……といった風なのは確実なのだが。 「かにーかにー」 ……良く言われる話として『カニは無口を呼び出すもの』らしいが魔女の場合ついでに『知能も下がる』らしい。 そんな時、この場に新たな来訪者がやって来た。 「ヘイ、アシュレイのネーサン。やっと見つけたよ」 「かにーかにー……かに?」 「かに? じゃねぇ。ずっと文句言ってやろうと思っててな」 瀬恋は靴を放り投げて上がりこみ、きょとんとした顔を向けたアシュレイにずずいと詰め寄った。 「何の文句だ? 何て言うなよな! この間のだよ! あっさり結界解かれて逃げやがった文句に決まってる!」 「あー……」 頬をポリポリと掻いたアシュレイが明後日の方向を眺めている。 「今です!」とこっそり合図を出した桃子にエナーシアが「今なのだわ!」と応じてカニの投入を始めている。←アイコンタクト カニは常に弱肉強食の世界なのである。 「お陰様でこっちは死ぬような喧嘩させられたんだからな! ま、あのお姫さん殴り倒して割りと溜飲は下がったけどそれはそれだ!」 「……えー、でもー……私が参戦したの自体サービスですしー…… 対バロックナイツの協定なんですから、基本的にぃ、蜘蛛は居ましたけどー。 攻めてきたの関係ない人達ですしぃ……蜘蛛も『教授』じゃないですしぃー……」 「言い訳すんな!」 「うぇあ! 不良さんにカツアゲされそうだ、私!」 瀬恋とアシュレイの言い分は正直な話どっちもどっちである。 「急げ急げ」と挙動を怪しくする桃子等はその不毛な論争が伸びる事を願っている。 「兎に角! よーするにだ。アンタはアタシに報いる義務がある。間違いない。アタシがそう決めた」 しかし、桃子の願い虚しく瀬恋はとっとと結論を押し付けてコタツの一角に陣取ってしまった。 「ああッ!」 「つーわけで晩飯奢れよ。それでチャラにしてやるからよ」 「フィクサードより無慈悲で理不尽じゃないですかぁ――!」 赤々と美味しそうなカニを自分とエナーシアに取り分ける桃子の姿を見てアシュレイが悲鳴を上げた。 「へへっ、貰い」 と、早速カニを取り分けた瀬恋に対抗して動き出す! 「いいでしょう、皆さんがその気ならば――バロックナイツ『厳かな歪夜十三使徒』アシュレイの力見せねばなりますまい!」 ――繰り返すがカニは弱肉強食である。 「とーしーのはーじめのーってこれは新年だからちょっと気が早いか~☆」 「また増えた!?」 「何の事かは分からないけど、新鮮な反応を有難うね!」 大鋏を手にジャキンジャキンとやりながら更に場をかき混ぜ始めたのは葬識である。 「……暇潰しにブラックモアちゃんと遊ぼうと思ったら、これは何? 鋏つながり?」 「やはりカニか――」 ――三度目だがカニは弱肉―― ●夜の出来事 「沙織さん……実はアタシどうしても言っておかないといけない事があって……」 駅のホーム、上目遣いで見上げる陽菜。 曖昧に困った笑顔を彼女に向け、肩についた雪をそっと払う沙織。 まるでトレンディドラマのような一幕。 少女が震える唇を開いて紡いだ『告白』は―― 「新年は実家で家族と過ごしたいので三日ほど休養を貰いま~す!」 「知ってるって。だから送ってやっただろ、こうして駅まで」 「えへへ! ありがとね!」 ――所詮こんなもんであった。 「電車来るまで暖め……なくていいから着てるコート貸してさおりん♪」 「はいはい」 肩を竦めてコートを手渡す沙織の心中がどうなのかは置いといて―― 「たっかっきっ! 今年は貴樹と年越しを迎えたくて来たデスよ! ワタシの故郷では大事な正月……春節はもう少し先デスけど、貴樹たちにとって大切な日なのなら、一緒に居たいのデス!」 「ふむ。では、後程初詣にでも行くか?」 「連れていってくれるデスか!?」 「構わんとも。どうせ正月に働く程酔狂な人間でも無い故な」 ――ええと、シュエシアと貴樹、時村家の人々はやっぱりこの際置いといて。 「やはり、全てを済ませるには無理があったか」 「は、はい……」 「雪待、おぬしがモタモタしておるからだ。これでは年越しまでにゆっくりできぬぞ」 「そ、そうですね。ぇと、流石に量が……一日でやるにはちょっと大変。でも、きちんと終わらせないと……」 「はようせい」 「はい!」 積み残された(シェリーの)家の大掃除に努める家主のシェリーと辜月が、 「ああ、それはそちらに。そうだ、その横だ。ぐびり。 えーっと、これは…こっちかなあ。こっち! ぐびぐび。 ふにゃにゃー、もーそれはそのへんでいいっすよー☆ ごっきゅごっきゅ!」 「I、私はベルカの要請および命令によりベルカの部屋の清掃をお手伝いしに参りました。 これはいわゆる『メイドロボ』という仕事だそうです。 私ことイドは知識として清掃の基本メソッドを理解しています。 必要・不必要に物を分け、処分し、埃等を集塵する行為です。 しかし、ベルカ? 指示が曖昧でこのままでは清掃率が上昇しません、ベルカ。 何れ年が明けてしまいます」 「うん、なんかもーこのままでいいわー♪ うりうりー、イドもこたつにはいれー。まったくお前は可愛いなー、こいつめっ! かがみもちー!」 「……このままでいい? Y、了解しました」 諦め切ったベルカや釈然としないまでも異論を唱えぬイドのように気を休められる(?)のはもう少し先のようである。 一年の最後の一日に特別な時間を過ごす人々は『夜』ともなれば結構多い。 「……もう少しで、今年も終わりか」 時期にはまだかなり早い中庭の桜の木にしんしんと雪が積もっている。 「祖父も、存命の時はこうしてよく此処でこの風景を眺めていた」 白い息と共に言葉を零し、傍らに座る少女に視線を向ける―― 「雪降り頻る大晦日……というのも、風流なものですね」 ――拓真の視界の中で静かに言った悠月は名の通り柔らかく光を跳ね返す月のような女だった。 恋人同士である二人が共に時間を過ごすのは珍しい事ではないが、今夜はやはり特別だった。 別に意味のある話題が多くあった訳では無いが、『何となく』の空気感は老成した所がある二人には問題ない。 (雪の積もった庭を見ていると――私も、少々昔の事を思い出します) 不意に目を閉じた悠月の中に遠い日の風景が蘇った。 (『あの事件(ナイトメアダウン)』後の数年間、御世話になった御祖母様の御家の庭…… 静かに降り積もる雪を眺めているのが好きでしたが……あれからもう十年以上も経ちましたか。 しかし、まだ……あの悪夢にはまるで届かない。でも、それでも何時か――必ず……) 身体を冷やす、しかし無駄な音さえ飲み込んでしまいそうな――優しくも拓真の声だけは鮮やかにそこに残していた。 「今夜も、月が綺麗だな」 「ん――」 触れる唇の温もりを鮮やかに際立たせていた。 手を繋いでぼーっとテレビの画面を見つめている―― そんな自由でいい加減で気楽な時間は日々戦いの中に身を投げるリベリスタにとって大切な休養の時間であった。 十二月三十一日。終わり行く『今年』とやって来る『来年』を間近にして穏やかに極上に時間を『浪費』するのは俊介と羽音の二人である。 「はのん、今年もありがとな」 「うん」 「こんな俺に着いてきてくれて、すごく感謝してるんだ。 羽音が俺の目の前で倒れたときもあったしその逆もあった。 辛いな、リベリスタってさ。でも折れた心をいつも羽音が癒してくれたから――俺、おまえがいないと駄目みたい」 ぼんやりと言葉が宙を舞う。 微笑んだ羽音は繋いだ指先から伝わる鼓動を解かずに、 「ううん……あたしこそ、ありがとうだよ。 こうして、俊介の隣で生きていられることが何よりも嬉しい。とっても、幸せ……♪」 そんな風に言葉を返した。 「例の笑うとデデーンでバシーンとなる番組! なあ、龍治も見ようぜ! 去年は一緒に見れな…… うおおー!? 間髪入れずにチャンネル変えた!?」 お茶の間で愉快なリアクションを放っているのは木蓮である。 彼女が抗議めいて視線を向けたその先には言わずと知れた龍治が居る。 「こんな番組の何処が面白いと言うのだ。大晦日といえば、歌合戦を見てからそのまま年越し、だろうに」 「うぅー……」 そこは年の差カップルのジェネレーションギャップと言うべきであろうか。 傭兵生活が長くどうも古めかしい龍治には『ばらえてぃ』なるものの良さがいまいち分からないのだ。 尤も、バラエティに爆笑しまくる雑賀衆末裔(多分)、職業スナイパーとなればそれ自体が冗談のようではあるが。 「うむ、演歌は良い……」 しみじみと言う龍治を木蓮はと言えばじーっと見つめている。 「何だ?」 「ううん、演歌好きなんだと思って」 「……うむ。嫌いではない」 いちいち好意の表現が遠回しな龍治である。しかして木蓮は慣れたもので『好きな人の好きな事を知る』のが嬉しい様子。 亭主関白なダメ男(仕事以外)と愛情炸裂な従順少女のバカップルはなかなかどうしてバランス良く幸福そうなのである。 (今年も後僅かか、あっという間だったな。来年はどうなるかなあ――) テレビはお化け番組の歌合戦、服装はどてら、コタツの上には籠の蜜柑。 お約束をお約束通りに過ごすのはそれはそれで乙なものである。 大掃除も早々に終え、三高平団地の一室で年越しを満喫するのは疾風である。 除夜の鐘が響いてくるにはもう少しといった所か。少しずつ積もってきた眠気の向こうに彼女の笑顔が覗いた。 「年が明けたら愛華ちゃんを誘って初詣いくかなあ。何処の神社がいいかなあ……」 家事を終わればやる事は無い。 娘や息子の世話を焼く機会もあれば別だが、今夜はそれも無い。 「色々とあったでござるが……今年一年は兎に角無事でよかったでござる」 虎鐵は日々に忙殺されて積読となっていた本達を初日の出を待つついでに片付ける事を決めていた。 課題が山積みの昨今は去年より良くなったとも言い難い。しかし、人間の歩みはあくまで一歩ずつ、なのである。 (拙者は死ぬ訳にはいかないのでござる。娘の為にも息子の為にも……) 郊外の森の家では―― 「蕎麦まだですかー年越しちゃいますよー」 夜行家の人々が大晦日の夜の一時を相変わらずマイペースに過ごしていた。 「きょーちゃんの棺の上で犀に催促。犀に催促ってなんかおもろいね。年越し蕎麦を犀に催促して来年は息災にってか、アーハー」 まくし立てた鵺に言わせれば戯言もあくまで慣らし運転である。 「今茹でてるからちょっと待てよ……しょうもない事言ってないで、手伝えってお前ら……」 そんな我慢の効かない鵺の一方的な催促に的になった犀は少しくたびれた調子で傍らの彊屍に水を向けた。 「彊ちゃんお手伝いしてくれるか? イイコイイコしたるから」 「皆揃って年越し嬉しいアルー。やっター イイコイイコして貰うから手伝うヨ!」 幸いに鵺よりは御し易い彊屍は「何でも刻むネ! ねぎトントン」と楽しそうに包丁を使い出した。 それはそれで何処と無く不安な雰囲気も無い訳では無いのだが…… 「おいちゃん天ぷら蕎麦ね。出来るまで暇だにょー!」 (天ぷらとか……うち貧乏だし……でも年末だしな……食費削って……たまには奮発してやらんこともないか) やっぱり鵺は犀にとって格別に手強い相手なのは確かなのだった。 「鵺は海老天でいいかァ? 彊ちゃんは何蕎麦がイイ? 好きなもん食わせてやるからなァ」 ちなみにこの犀はとうの昔に自分の分は完全無欠に諦めている。 『黒蝶館』の一室に少女の花が咲き乱れている。 「美味しい年越し蕎麦も食べたし、あとは新年を待つだけですね」 「せっかく……今回の年越しは一人ではないので……がんばって絶対に日が変わる、起きるとします……!」 セラフィーナの言葉に気合を見せたのはそろそろ本格的に眠気のやって来る――十二歳のリンシードであった。 一つ『おねえさん』であるセラフィーナはそんな彼女の様子を微笑ましく見守っている。 リンシードと糾華は館の住人、セラフィーナは招待を受けてやって来た。それぞれパジャマを着てお茶をして少しいけない夜更かしをして歓談する様は全くもって少女らしい甘い匂いを感じさせるものであった。 「……こんな賑やかな年越しは『いつか』振りかも知れないわね」 ふと呟いた糾華にセラフィーナが応えた。 「皆でこうやって触れ合って過ごすのって暖かいですね」 「ええ」 短く応え頷いた糾華は船を漕いでは「はっ!」と面を上げるリンシードの髪をくるくると指先で悪戯して言う。 「悪くないわね。こういうの」 暖かい室内でのんびりする面々の一方、肌寒い土手で焚き火をして過ごす酔狂な火車も居る。 「……また一人でフラフラと。ていうかその格好で寒かねぇの? オマエ」 言葉はラッピングをして返してもいい所かも知れないが。 それはそれとしてそんな火車の所に顔を出した―― 「女性の服装は見た目が七割機能性が二割です。まあ年内にやることも無くなって暇なのですよう」 ――黎子も隣に座っている。 「しかし、大晦日も焚き火しているのですか……」 「してて悪いか。ま、暇なら暖まってけば? ココから見る日の出はきっと悪かねぇぞ」 「ではではお言葉に甘えましてー……おや! それは甘酒ですか!」 お節介な新田酒店が差し入れた甘酒を「おう」と見せ、奇妙な関係の二人が痒い雰囲気のまま並んで空を眺めている。 「思えば色々あったもんだが……」 「そうですねぃ」 口下手に聞き下手の二人である。 言葉は切れ切れでやり取りは往々にして長く続かなかったが決して不快なものではなかった。 時間は何にせよ過ぎていく。望む望まないを構わず、新しい年はもうすぐやって来るのである。 「生憎と新年が来てもおめでとうは言えませんが、『長い付き合い』になると良いですね」 「……ああ」 言葉は特別な意味を持っていた。火車は頷いて火の中をかき混ぜた。 「懐かしいなあ。昔は、こんな感じのとこで遊んだりしたっけ」 雪の積もった公園に楽しそうに足を踏み入れたのは猛とリセリアの二人だった。 「これ……ああ、そうか。Schneemann、雪だるま」 「……誰か作って置いてったのかね」 『デートの帰り道』なんて纏わる事情が二人の『進展』を表している。 興味深そうにそれを見るリセリアの姿を猛は目を細めて見守っていた。 「昼間とかに作ったのかな、多分。子供とか……」 「かも知れね。まぁ、こうして俺達も立ち寄ったんだし――大人かも知れねぇけど」 悪戯気に言った猛にリセリアは小さく笑った。 「……ガキん頃は、今見てえに戦う何ざ思ってもみなかったんだが。 少しくれぇ、居なくなった人らに、顔向け出来る様な人間になれたのかね」 肺一杯に冷たく澄んだ空気を吸い込んで猛は言った。 「それは……」 「そういう事を気にしていたんですね」と内心だけで呟いたリセリアは代わりに違う言葉を向けた。 「――前を見て胸を張って行かなければ、それこそ顔向けできる姿勢ではないと…… そうしていれば……そうしている事こそが、って……」 やり取りはどちらも余り器用ではなかったが、だがだからこそ二人らしい。 「そうだな」と応えた猛は雪を拾い上げ暗い空に撒いた。外灯にキラキラと、綺麗だった。 アリアドネ教会の暖炉には赤々とした火が燃えていた。 「神父様……運命が燃えるのをみました。本当にギリギリまで命を焼き尽くして」 まるで懺悔のように響くのは、 「一緒に戦った仲間が、主の元へ召されました」 その場所の主たる杏樹の、 「たくさんの命の火が、消えました」 静かなる言葉ばかりである。 土を土に。灰を灰に。塵を塵に返し。魂は主の元へ。 記憶を思い返しながら一年に想いを馳せる事はまさに彼女なりの鎮魂であった。 全てを救えるかと問われれば否である。 全てを守りたいと言えばそれはおこがましい妄言である。 しかし、新しい年が来たならば――『また』悪あがきしようと彼女は――シスターらしくないシスターは呟くのだ。 「神様。どれくらい足掻いたら、貴方に手が届きますか」 安息も安寧もいらない――もう、誰もアンタに持って行かせない。 そう、思うのだ。 (某巨大掲示板の祭りに参加するのもいいし、ギャルゲをして過ごすのもいい。 アニメを見るのもいいし、ネトゲの仲間とチャットするのも悪くない――でもまあそういうのも今は億劫なわけで) 自宅の自室、ぼんやりと椅子のロッキングを傾けて――天井を眺めているのは凍だった。 式神のシノは母の焼いた餅を気に入って食べている。確かに美味しそうだと思った彼はそれに何となく手を伸ばして。 「……まぁ、家族と過ごすのも悪くないか。締めの言葉は……」 ――くぅ~疲れましたw 「これで、今年も完結です」 「相変わらずダレてんなぁ」 ダレていると言えば外せない。ダレる為にダレている。ダレねば話が進まない…… 彼女を見た時、コタツに蜜柑と共に生えていると思った――些か失礼な烏の感想はその実全く大した正解だった。 千客万来と言おうか何と言おうか、何だかんだで面白いからかはたまた変な魅力があるのか何なのか。 やって来た烏を出迎えたのはぐでーんとした視線を向けた言わずと知れたそのアシュレイと、 「あ、こんばんは……♪」 その彼女の世話を結局焼く事になったアリスであった。 「そういやアシュレイ君には年賀状だしてねぇな。ねこたんには出したけど」 「あはは。いいですよ、返すの面倒くさいですし」 「そう言うと思ってな。お年賀とお年玉代わりに餅を持ってきたからよ」 何故かアシュレイ=ひもじい子という印象を持っている烏である。 「餅キタコレ」 相変わらずやる気の無いアシュレイは自分では何もせんと(※終日)期待を込めたまなざしをアリスに送っている。 「お蕎麦もありますけど……まぁ、アシュレイちゃんですしね♪」 この女はさっきも散々カニを食っている燃費の悪いタイプである。 「あんまりお嬢様をいいように使うのは……」 アシュレイの所へ行きたいと言ったアリスに結局付き合わざるを得ない――忠実なる従者のミルフィはと言えば少しそれが不満そうではあったが――どうあれ、そこはそれ。悲しいかな忠勤の鏡たる彼女は頼られ喜ぶアリスに何も言えない。 「複雑だなぁ」 「複雑ですねぇ……」 コタツにちゃっかりと潜り込んだもう一人の客人である珍粘――なゆなゆがほう、と熱いお茶に溜息を吐き出した。 「折角ですから烏さんもごゆっくり」 勝手知ったる風で勝手にそう言ったなゆなゆはなゆなゆで蕎麦を持ち寄っている。 要するにアリスが持ってきた分、烏が持ってきた餅と足して食料の貯蔵は十分という訳だ。 「ところで、アシュレイちゃん」 「はぁい?」 「お正月の行事で、お聞きしたい事があるんですよ。 その、『姫はじめ』って……何ですか? 『姫』という言葉がついてますから、何かお姫様に関係してる、素敵な事だと思うんですけど……」 「お、お嬢様!?」 ミルフィが面白い声を上げている。 人気が未だに残っているのはアーク本部も然りである。 どうもこの二つのスポットは今日忙しなく混む場所だったらしい。 「ふぅ、疲れたな……」 達哉が帰省だ何だで手が足りなくなった本部食堂のヘルプに入ったのは日のまだある頃だった。 すっかり更けた大晦日の夜にコキコキと首を鳴らした彼は流石にくたびれた様子でコーヒーを啜り、漸く人心地をついていた。 「お疲れ」 あれやこれやとしていたのは此方も同じか戻ってきた沙織がそんな彼を軽く労う。 「本年は色々お世話になりました。その、ご迷惑もかけて……」 達哉の言葉に沙織はひょいと肩を竦めた。NOでは無いが今更といった風。そしてそれは彼以外も同じ事であるからだろう。 「お疲れ様、でした」 沙織とは色々と話す事もあったようだ。 彼と一緒にやって来てぺこりと頭を下げたのはエウリスである。 本部に残っていた面々も俄かに人気の増えた食堂に集まってきていた。 小さな会話の花が咲く。気を遣ってかどうなのかエウリスの周りには何人かのリベリスタが居た。 「貴女がこれからアークの仲間として戦う事になるとしたらば―― 貴女には戦う理由を『アークの手伝い』に留まらぬ、自分の理由を見つけて欲しいと思っています」 踏み込み難い所にも怯まないのは冴が故。 「この世界はどんどん滅茶苦茶になっていってる。正直もうダメかと思う時もあるけど。でも俺もお前みたいに諦めないで頑張るぜ」 『諦めない』エウリスがここに居る意味とかけて、ユーニアは言った。 持ってきたミサンガを不思議そうな顔をするエウリスの細い手首に巻きながら「俺からのお年玉」と少し恥ずかしそうにそう言った。 フュリエとリベリスタ達に横たわる『問題』はまだ解決してはいないのだが――エウリスとユーニアにとっての話は別である。 「そうだな、初詣にでも行こうぜ」 「何だか賑やかだね」 「私達も仲間に入れて貰えます?」 『或る意味でこれからが忙しい』沙織は時計を気にし始めたが、周りはもう少し……といった所か。ちょっとした談笑のその輪に残念ながら彼女とは予定が合わず――大晦日を本部のバイトで過ごした快と、相変わらず忙しく忙殺されていたらしい和泉が連れ立ってやって来た。 「折角だからもうちょっと本部ビルでゆっくりしていこうか。その内、除夜の鐘も聞こえてくるだろうしね」 「そうですね。センタービルから三高平を眺めるのもいいかも知れません。皆さんもどうですか?」 「ええね。『年越す時にしてる事は、次の年にずっと行う事になる』ってのを聞いた事があるんよ。 そこを逆に考えて、いい感じの事は年越しながらやるとええんとちゃうかな?」 快の提案に和泉が頷き、ひょいと新たに顔を出した珠緒が乗った。 「うちの場合、折角だから歌って年越ししよっかな」 「年越し……シンネンってすごいの?」 年を祝う風習の有無か小首を傾げたエウリスに珠緒が「せやな。すごいで!」と答えた。 何れにせよ『もうすぐ分かる』新年の風景は彼女にとっては見慣れないものになるに違いあるまい。 ユーニアの誘った初詣等は彼女に少なからぬ衝撃を与える事だろう。 「……新年、カウントダウンライブ」 「イヴたんアレ見たいの? いいよ!」 気付けば食堂にはイヴと御龍の姿も増えていた。 「何それ?」 「エウリスさんも御龍さんも、一緒に見る。皆で」 「見るよぉ!」 エウリスにこくりと頷いたイヴに大喜びの御龍は喜び勇んで食堂の大型テレビの電源を入れた。 イヴの求めた『カウントダウンライブ』なるものは――NOBUのそれですらない。もっと酷い。 ――デストローイ! 画面一杯にカメラにくっつかんばかりの距離でテンションを上げた誰かさんの顔が映し出されている。 「舞姫」 テレビカメラを無理矢理ジャックし、三高平内限定のローカル放送ながらこれを発信するのはイヴが指差した舞姫と愉快な仲間達(笑)――つまりは皆の僕等の『熱海プラス』御一行様である。 ――なんでわたしたちが紅白に呼ばれてないんですか!? むきー、対抗して年越しライブやりますよ! 毎度の事ながらシュールの塊である彼女の主張は悪ふざけが大好きな沙織の二つ返事によって実現したのである。 三高平の各御家庭の郵便ポストに傍迷惑なダイレクトメールが入ったのもその範疇。 何故かこれに興味を示したイヴは「わくわく」とか声に出してその時を見守っていた。 ――ふふん、今日はただのライブじゃありませんよ! 和の伝統とのコラボレーション! the 餅つきライブ!! ソイヤ! ソイヤ! ソイヤッ!! 画面の中の舞姫は止め処なく自由で、 ――……ってこれ、ただの餅つきじゃん>< 杵音をドラム代わりってどう考えても無茶ぶり><。 もう、やるっきゃないか……てやてやてやっ! ――私はギターを弾く代わりに手水をしましょう。 去年の終くんみたいに怪我しない様に気をつけないといけませんね。 何しろ戦場ヶ原先輩は興奮しているみたいですしね。 ……っていうか片手で杵を振りまわすのも怖いので集中して欲しいですね。 全く、素直に一緒に年越ししたいって言えばいいのに……困った先輩です。 毎度の事ながら付き合わされた終や何かを達観し始めた京子といったお馴染みの面子も揃っている。 「お餅でデストローイって洒落になりませんね……」とは京子の言であり、 ――あぁ、さっきからお持ちのいい匂いが…… はぁ、そういえば今日はごたごたでお昼ご飯あまり食べられなかったのでおなかがすきましたね…… あぁ、臼にひきつけられて…… はやく! はやく! お餅はやく! お餅いいぃぃぃぃ! んぐむぅ!? 成る程、案の定餅に釣られたらしい洋子が速攻で喉にそれを詰まらせて目を白黒させている。 ――ああ、響き渡る臼と杵のビートが、わたしのハートをヒート! 原初の律動が魂を揺さぶるわ! これが、ロックンロール with わびさび!! いえぁああああ! ロックの神様が降りてくる! NO! 否! 断じて! わたしが、神だ! 叫べ……デストローイ! ――落ち着いて、しっかり! 大丈夫!? 死なないで! 叫ぶ舞姫、動揺する終。 ロックよりデストロイしそうなのは痙攣している洋子であるし、原初の律動より止まりそうなのは彼女の鼓動の方である。 「……救急車……もしもし、病院ですか……」 イヴが携帯を片手に病院に連絡をし始めた。 「イヴちゃん! そろそろ紅白見よっか!」 「うん。熱海プラス終わっちゃったしね」 何だか夜中に騒ぐ集会を不法行為と誤解されたのか画面の中の舞姫一行が急行したポリスメンに職質を受けている。 ――沙織さん! これは違うんです! 何かの間違いです、舞姫が! ――先輩を呼び捨て!? 京子と舞姫がお約束のヤツをアレでそれ。気付けば夜も随分と深まり始めていた。 「この街着て大体一年弱ってトコかー」 愛用のバイクに跨って遠く三高平の町並みを見下ろして甚内は何となく一人で呟いた。 「仲良くなった殺人鬼ちゃんととっても愉快な羽柴ちゃん。 ユーヌちゃんも面白いしクルトちゃんも中々渋い。すげー興味の尽きないおっぱ…いやさアシュレイちゃんといい…… この街はおっぱい……違った、羽柴ちゃん胸皆無だしなー……きっと来年も楽しみ溢れちゃってるねー★」 ●暮れる大晦日 年末年始を祝う風習には興味が無い。 『趣味と実益』を大いに兼ねたお仕事の方には気まぐれに『ワーカーホリック』の気もあって。 (まぁ、こうなるわよね――) 間近に熱い熱を感じたモンマルトルの白猫は『必死な男の子』の様子に薄い唇を僅かに歪めていた。 活躍にも恋人にも恵まれぬ可哀想な『モブリスタ』を慰めてやる事はセシル・クロード・カミュにとって当たり前の日常である。たまたま今夜が大晦日だったからといって特別やる事は変わらない。 「そんなに震えちゃって」 吐息混じりに耳を噛むセシルの言葉に触れる少年の身体がびくっとする。 「焦らなくても私は逃げないから、ゆっくり……ね?」 好みを言うならばもう少ししっかりしている方がいいと言えばいいのだが―― 彼女の場合は得である。『経験些少に不慣れな場合』も精神的には楽しめるのだから万々歳。 遠く、ゴォーンと重い鐘の音が響いてきた。 (そう言えば……この国の風習はあの鐘で『煩悩』を落とすのだっけ?) 百と八つ打たれるというその音色はまぁ――彼女にとっては一番縁遠い『どうでもいい』事に違いない。 刹那的なそんなのも、案外悪くないと思うねこたんですが―― そんな個人的意見は取り敢えず銀河の彼方にシュートして、年越しで純愛(?)を育んでいるのはユーヌと竜一である。 「年末年始は一番大事な人と過ごすもの! なので二人で自宅で一緒に年越し! ちゅっちゅする! ちゅっちゅ! 全力で可愛がる!」 「分かったから少し落ち着け。時に落ち着け、竜一」 膝の上にちょこんと座ったユーヌがそう言って竜一の頭に手を伸ばす。 なでなでと彼女がやる様は二人の見た目の年齢の乖離もあって中々犯罪――ではなくて微妙な絵にも見えるのだが。 まぁ、この二人の場合は『見た目程には』問題のある組み合わせでは無い。 (ごつごつして固いが、悪くはない。あまりもぞもぞされては気になるが……) 『生理現象』の方には大らかなユーヌは何となく竜一に寄りかかって目を閉じていた。 時折蜜柑を剥いては口に含みキスと一緒に渡してやる。 今日ばかりは余程の事と何度したか知れない口付けは全く性懲りもなく心拍数を上げるのだから性質が悪い。 「あとは、ちゅーして年を越すよ! 年末からずっと離さず、ちゅーし続けるよ! 年が明けても、ちゅー!」 子供のようにはしゃぐ竜一を半眼で見上げ、ユーヌの白い頬にほんの僅かだけ朱色が差した。 「二年参りならぬ二年キスか? あけましておめでとうも言わせない心算とは……」 「飽きるまで付き合うのも良いか」そう嘯いた彼女本音は果たして何処に? 除夜の鐘がゆっくりと今年の終わりを奏でている。 「初詣も興味あったけど、お参りの作法知らんしな…… 一人で行って失敗しても困るし、そもそも寒いし。今日はいいや」 自室で一人その音色に耳を傾けているのはプレインフェザーだった。 (こっちに来てそろそろ一年。色んな敵相手にして、勝ちも負けも、嬉しいも悔しいも味わったし……大切な人、も、出来たし) ぼんやりと思考を宙に浮かべ、疲れた身体をお気に入りのレコードの調べに浸している。 丁寧に淹れたカフェ・デ・オジャ――のシナモンの香りは彼女の疲労をまるで溶かしていくようだった。 「日本の年越しって良く知らないんだけど、これが一般的なんだよね?」 「わたくしも確信は無いけれど、大体こんな風でしょう」 屋敷の和室に向かい合って座り、除夜の鐘をテレビ越しにも聞いている。 ティアリアとフランシスカは全くマイペースのまま暮れ行く今年の最後の時間を共有していた。 「思えば今年も色々あったわね。大切な人が増えて、大切な人を亡くして。 ふふ……フランも私の大切な人の一人よ。貴女はこの一年どうだった?」 「わたしは……うーん、ここにきていっぱい友達が出来て。あと憎らしい奴もいて。向こうにいたときとはだいぶ変わったかな」 「そう」と微笑んだティアリアは何処か悪戯気な猫の表情を残したままだった。 (年が変わっても、今ある問題は何一つ解決しない。 気持ちを切り替えて何かを頑張ろうなんて殊勝な人間でもない。 でも、過ぎ行く時を思って、来たる未来に思いを馳せるくらいは自由よね――) 刹那主義的な彼女さえ少しの感傷に浸らせるのが鐘の魔力という訳か。 「そろそろ年が明けるね」 「ええ」 「来年もこうして一緒にいられるといいよね」 「一人気ままもいいけれど、こういうのも悪くはないわ」 フランシスカの言葉に応えるティアリアのその顔はまるで白い薔薇が咲いたかのようだった―― 「フゥ、寒いなぁ!」 暖かい室内から踏み出して――目的の神社の前に集合。 白い息を頻りに吐き出して、それでも外の寒さも楽しんでいるかのような明るい声を発したのはフツだった。 彼と他の面々、親しい八人が『大御堂重工』主催の忘年会に興じていたのはつい先程までの事である。 酒は飲めない未成年が多いながら、御馳走の方は十分に楽しめたのである。 流石と言うべきかソツない手配を見せたモニカのメイドさんスキルの甲斐もあってか、中々盛り上がった会であった。 楽しい時間は飛ぶように過ぎ、もう除夜の鐘が鳴っている頃である。 「日付が変わるだけなのに、新たな年を迎える瞬間ってそわそわしちゃうわ」 「年末年始で何度も似た集まりをやったって不毛ですからね。纏めていきましょう。ハニーコム大御堂です」 ミュゼーヌに合理性を追求した返答をしたモニカではないが…… 新年の計は元旦にあり。ならば折角だから初詣を……と思う面々はやはり多かった。 かくて忘年会を終えた面々は初詣を済ませ、然る後にのんびり新年会でも……という具合のプランを立てたのだった。 「神社で初参り……よく思い出せねぇ。ドイツにいた頃でさえ、ミサもよく分からんかったしな――」 何となく呟いたカルラが何処となく頼るように自分を見ている事に気付いたフツは人好きのする笑顔のまま『語り』出した。 「ン? いいんだよ、細かい事は気にしなくて。坊主が神社に来たって。 日本の神様は、そういうのもちゃんと受け入れてくれるからさ」 安請け合いした彼にカルラは「そういうものか」と答えた。 ここに口を挟んだのはミュゼーヌである。 「そういうものよ。だって、私だって実際の所一応クリスチャンだしね」 日本人の宗教的な大らかさは非常に有名な話である。 海を隔てた遠い外国でああだこうだと揉めている――そんな『常識』を尻目にこの国は実にそういった方面に寛容なのである。 「どっちみち、余り興味が無いと言えば無いしね。どうもいけないわ、神秘界隈に居ると神様の『実態』が分かってしまうから」 冗句めいて肩を竦めたミュゼーヌの言葉に誰かがクスリと笑みを漏らした。 薄桜で彩られたミュゼーヌの晴れ着は最高に彼女の魅力を引き出している。元々目鼻立ちのハッキリしたかなりの美人なのだが――背負う武装は重要である。フランス人の血が抜群に生きたスレンダー・スタイルの良さは『着物の似合う外国人』めいた威力を作り出していた。 「そうですねぇ。人間の世は人間ばかりが事を為す……という事で。尤もそれとお参りは別腹ですが」 此方も珍しく振袖を纏ったベルベットがこれに合わせた。 「実は私、おみくじは好きなんですよね。 神秘の界隈にいれば、逆に説得力も感じられる気がして。ご利益あるかも知れませんし」 「今年一年の始まりに、どんなのが出るやろなぁ?」 ベルベットの言葉に椿が相槌を打ち、モニカが続く。 「ならば、願い事を託すのも同じなのかも知れません」 普段鉄板のように揺らがず頑なにメイド服以外の着用をしないメイドも、流石にそこはそれ、TPOを求めた彩花お嬢様により振袖を着せられている。このモニカと言えば、 「うん、流石にお似合いですね。皆さん。大御堂のオマケの方とは大違いです」 ……要らない毒舌に余念の無いモニカと言えばそれが案外満更では無かったらしく、鏡の前でくるくると回っては口元を緩めていた辺り、珍しく『女の子然』とした微笑ましいと言える光景だったのかも知れない。 「普通に気に入って浮かれてんのが憎たらしいですね。怒るに怒れなくて……」 彩花は声を張る代わりに苦笑いでこれを受け止め何とも複雑な調子で呟いていた。 その彼女は……と言えばやはり何時でも良く似合う赤を貴重とした振袖をほぼ完璧に着こなしている。例えば沙織等に言わせりゃあ、恐らくは天地がひっくり返っても『オマケの方』なんて言われる筋合いは無い板についた格好なのだが、その辺りはさて置いて。 「そんでな――」 フツが続きを話し出した。 「例えば煩悩の数。あれは108つあると言われてるが、あれの本来の意味は、108つあるから消しましょう、じゃなくて。 108つもあるんだから、人と言うのは煩悩からは逃れられないんだ。 だから、鐘の音と共に一つ一つを確認して受け入れていこう……って意味なんだぜ」 坊主が有り難い話をすれば一同は「ほう」と頷いた。 そんな彼等を様子を一頻り確認した後、 「……なんつってな、今のはオレがでっちあげた理由だ。ちょっとそれっぽかったかい? ウヒヒ」 フツはしてやったという風に破顔して見せた。 ゴォーン、ゴォーンと鐘が鳴る。 「離れ離れにならないように手を繋いだりしましょう。迷子になりそうで大変ですよ」 間もなく訪れる新年にケチをつけるのも勿体無い。 「椿さんとモニカさんは特に……目立つけど小さいですからねえ」 「うちかい!? む、甘酒やお神酒も配られてんのかな?」 慧架の言葉に見事な突っ込みを入れたのは確かに年齢よりは随分小さい椿であった。 お酒も飲める比較的年長の彼女が『迷子』の心配をされるのは大分業である。 「願い事と言えば……そうですねぇ、恋愛祈願なんて?」 実にスタンダードな言葉を発した慧架に彩花が応えた。 「大御堂重工の更なる発展。 アークへの必要とされる限りの貢献。 自分自身の限界を超え更なる成長を目指すこと。 そして大切な仲間達の無事――まぁ、残りは胸に秘めておきましょう」 彼女の口にしたのは実際には自分への目標立てのようなものだったが…… 「金持ちは業突く張りなので願い事も欲張りです」 スマートなジョークで結んだ彼女の言葉に輪からは小さな笑いが零れていた。 「寒いわね……ココア、どうぞ?」 「……ありがとう」 ココアのカップを受け取って唇をつけ、ついでに冷え切った手に暖を取る。 レンの視線の先には――初詣の約束をした那雪が居た。 「私もレンさんも……甘いの好きだから。少し甘めに作ったけど、大丈夫かしら?」 「甘くておいしい。寒い日に甘いものはすごく温まる。 ……心も温まるな。暖かいな。何だかとっても暖かい」 那雪とレンが出会ってそろそろ一年である。何気なく彼女が口にした『彼の好み』も最初は知らなかった事だ。 積み重ねた距離はそれ相応に人間と人間の距離を縮めている。 「良かった……」 その名の通り――淡雪のように微笑んだ那雪にレンは少しの気恥ずかしさを覚えた。 「あっというまに……一年が、終わった……わね」 「そうだな、あっと言う間だった」 レンは言った。 「また遊びに行こう。美味しいものも沢山、食べに行こうな」 那雪は答えた。 「また……一緒に行きましょう?」 鐘の音色が鼓膜を揺らした。 二人きりで雪の道路を歩く。 かけがえの無い時間はまさに隣を歩く『その人』が作り出している。 「貴方と出会えて、本当に幸せな年でした。 ……今日まで生きて、ご一緒できて本当に良かったです」 リリにとっては腕鍛が。 「にはは、拙者も幸せでござるよ? なに、今年が終わっても来年が終わっても干支が何周しても一緒でござるからさびしい事はないでござる!」 腕鍛にとってはリリが。 『その人』なのは言うまでも無く、二人で向かうお参りは寒ささえも感じさせない程に心温かな意味を持っていた。 「拙者たちがつきあい始めておおよそ半年でもあるでござるし、プレゼントを色々考えていたら遅れてしまって…… そう言えばリリ殿は漢字とか読めるでござるか? いや、プレゼントが少し難しい漢字が沢山使ってあってでござるな……」 「誕生日……覚えていて下さったのですね。漢字は……はい、ひと通り読めますが」 小首を傾げたリリの『誕生日』は僅か数分後にやって来る。 新年と誕生日という記念日が重なるならばこれはもう大変な破壊力であった。 そんな日に、大事過ぎる日に腕鍛が用意した特別なプレゼントは―― (き、緊張するでござるよ!) ――まさにズバリ『婚姻届』である。 二人は並んで歩く。『二年参り』をしようと一度詣でてもう一度出て、これから新しい年に新しい一歩を刻む。 リリのその美貌――美しい花の蕾が余りに綺麗に綻ぶのはこれから僅か数分後の出来事である―― 「あー、すっごく寒いね……」 「確かに寒いですが……こうやって寒いのを耐えながら待つのも一つの醍醐味らしいですよ」 悠里とカルナの二人も揃ってお参りに行こうと決め、まさにその時を待っていた。 「それに、鐘の音を聴きながらこの一年を思い返すのにも良い機会でしょうし……」 「今年も色々ありましたからね」と呟いたカルナに悠里は苦笑交じりに頷いた。 澄んだ冬の空気を振るわせる除夜の鐘は全く心の――身体の底に染み入るかのようだった。 確かに寒いのを我慢しても雪のちらつく空の下に居る意味は確かだった。 「でも……」 悠里の目は何処と無く寒そうにするカルナの細い肩を見つめていた。 「僕はいいけど、カルナは駄目」 「ひゃ――っ!?」 コートのボタンを外し、その中に包むように自身を抱きしめた悠里にカルナは少し珍しく焦った声を上げていた。 「も、もう、いきなり――」 見上げるようにして後ろの悠里を軽く睨むカルナの頬は僅かに紅潮している。 抗議と言うには余りにか細く、まるで子猫の甘噛みのような彼女の態度に悠里は軽く笑って応えた。 「どうしても嫌って言うならやめるけど?」 自身の腕の中には確かにカルナの体温がある。 「悠里は――」 白い息を弾ませたカルナはそこで一旦言葉を切ってから続ける。 「――悠里は、少し煩悩を取り除いて貰うと良いのではないでしょうか?」 「いやいや。これは愛だよ愛。だから仕方ないね」 「……もう」 少し怒ったようなそんなようで居て、抵抗する事は無い。じっと静かにそうされたままなのである。 少しずつ鐘の音が積み重なる。数えた数が正しければその瞬間はもうそろそろになるのだろう。 「もう……」 外灯に照らされたシルエットはまだ、重なったまま。 「こっちに来てから、色々な事があったけど……」 白い息を夜の闇に吹き付けてロアンは何とも言えない表情で呟いた。 「……まさか僕が家族以外の人を好きになるなんて。今年一番のニュースはこれだね」 「……♪」 ロアンは自身の腕にぎゅっと抱きつく旭の幸せそうな顔を見て、思わず胸が詰まりそうになった自分に気が付いた。 自身が言うだけあって本来、今までの、ロアン・シュヴァイヤーは『こういう人物』でない事だけは確かだった。 さりとて、それが嫌かと言えば全然そんな事は無く、逆にだからこそ彼は…… 「わたしもね、自分が恋できるなんて思ってなかった。 ずっと遠いめるへんな物語みたいだったから……神様にでも運命にでも感謝したいけど、やっぱり一番はロアンさんに、なの。 ありがと、だいすき……♪」 ハートマークだって飛びそうな位甘い空間である。 さりとて、それが嫌かと言えば全然そんな事は無く、逆にだからこそ彼は……(二回目) 「君に出会えてすごく嬉しかったよ。こればっかりは、神様がいるなら感謝したい……かも。うん、僕も……大好き」 屈託無く、心からの本音で素直に愛を告げられるのであった。 これだけの奇跡が起きたならお互い神様を詣でるのは吝かではないという事だ。 二年参りは抱き合って年を越す――バの付くカップルならではの特権である。 「……♪」 「……何時もの神様は信じて無いけど……」 ロアンは少し気恥ずかしく余計くっついてくる旭の姿に呟いた。 「……三高平の神様はやっぱりちょっとだけ信じておこうかな……」 遂に百回目の鐘がなる。 「よーし、これでもかって位寝たからな。準備は万端、ばっちりお参りしとくぜ」 目は冴えに冴えている――翔太が遂にやって来たこの時に一つ気合を入れ直した。 彼が願うのは決意である。『やる気が無い』なんて言いながら『絶対に崩界なんてさせない』とリベリスタの決意に満ちている。 「この時間、少しは休めたのかしら?」 見晴らしの良いセンタービルのラウンジでソファに座った沙織の膝の上から氷璃が彼を見上げている。 何処か試すような、何処か不安そうな、何処かからかうような――万華鏡のような複雑な色合いと輝きを見せる氷璃の問い掛けに黙って膝を貸していた沙織は「まぁね」と軽く微笑んだ。 年末に立て続けに起きた大事件には流石の彼もくたびれているようだった。さりとて、休めと言っても自分のペース以上には休もうとしない彼を「ではどう休ませるか」と思案した彼女は、 ――それじゃあ、私が休むから膝を貸して頂戴―― そんな『我侭を言う事で特等席を確保する』という『強攻策』にうって出た……という訳である。 「書類が気になる?」 「いいや」 「お邪魔したかしら?」 「いや、お前が気になる。いや――」 沙織はそこまで言ってから言葉を翻した。 「――厳密には、お前達が気になる」 ラウンジに居るのは氷璃と沙織だけでは無い。 「いい晴れ着だな。可愛いし、良く似合う」 「……何だかちょっとだけ複雑ですけど……ありがとうなのです」 沙織の視線の先には三ツ池公園の戦いで負った怪我にもめげず、振袖を着たそあらの姿があった。 彼女の右手の薬指にはこの沙織がクリスマスに贈った――念願叶っての――ピンクサファイヤが輝いている。 「左手のは、大事な日の為にあけておくですよ」 「……あら、妬けるわね」 笑顔のそあらと沙織が掛け合いをする一方で膝の上に頭を預けたままの氷璃が何処か楽しそうに茶々を入れた。 一年が終わろうとする時間である。鐘の音に耳を澄ませば『細かい事』は気にもならない。 「本来は戦いに年末年始も関係ありませんから。室長も色々気を付けるようにして下さいね。 気を抜けば、いつ敵に寝首を掻かれるか分かりませんし、特に塔の魔女のような輩には――」 「――はいはい、了解」 クスクスと笑う沙織である。 何だかんだと『少女らしさ』を発揮した恵梨香が実に複雑な表情――難しい顔をして咳払いをした。 「もう、十二時になりますね」 「ああ」 「さおりん、あたし初詣に行きたいのです」 「人混みは避けたい所だわ」 そあらの提案に氷璃が続けた。 「いいよ。じゃあ暫くゆっくりしてからカミサマの顔を見に行こう」 沙織は勿論、『言わなければ梃子でも来なさそうな』恵梨香にも水を向けた。 「勿論、お前も。『護衛』してね」 神社の前には多くの人が集まっていた。 そして最後の鐘が鳴る。 「フラウがぎゅーってしてくれると温かいのだ」 「反対の手は大丈夫っすか?」 かじかんだ五月(メイ)の手をフラウの両手がぎゅっと包み込む。 吹き抜ける風は冷たいが、恐らくは――二人にとってはもうそれも関係ない事。 長いマフラーを二人で巻いて手を繋いでその時を待つ。 ある種のデ・ジャ・ビュさえ感じさせる風情で寄り添うフラウとメイは間違いなく『その時』を待っている。 「メイ、そろそろカウントダウンっすよ!」 「うん、いよいよなのだな!」 「メイ、そろそろカウントダウンっすよ!」 時計を確認したフラウの言葉に頷いたメイ。二人の声が「3、2、1」と時を刻む。 数字がゼロになった時―― 「あけましておめでとう!」 ――二人の、それ以外の声も周囲で次々と重なって響いていた。 「あれ――」 最初に声を発したのは誰だったか。 鳴り終わった除夜の鐘の代わりに『ドーン』と遠く爆音が響いた。 三高平センタービル(のっぽ)の頭よりも高く、色とりどりの花が咲いているではないか。 「綺麗、ですわあ……」 「ええ、とても……」 一念、岩をも通すとはこの事か。 結局何とかクラリスを捕まえて、何とか新年を共に過ごす事に成功した亘は浮かんだ一つの言葉をここでは胸に仕舞い込んだ。 ――でも、お嬢様の方が綺麗です―― 有史以来幾度と無く繰り返されたその殺し文句は無邪気に光の花を喜ぶ彼女に今伝えるには無粋過ぎる。 「お嬢様、来年も宜しくお願いします」 「うふふ、こちらこそ!」 除夜の鐘でも打ち消せないその煩悩を愛と呼ぶ。 ――花火を仕掛けたのは屋上の使用許可を取ったクルトであった。 「Drei、Zwei、Eins――Frohes Neues Jahr!」 その瞬間、彼は過ぎ去った一年に感謝し、新たに迎えた一年に感謝した筈だ。 願わくば祖国を思い出すような、そして賑やかな『瞬間』を。 2013年、リベリスタ達はどんな思い出を作るか知れないけれど――新たな年は小さなサプライズと共にやって来たのだ。 ――A Happy New Year! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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