● セリエバ。それは運命を食らうアザーバイド。 それを召喚すべく七派フィクサードの『六道』『黄泉ヶ辻』『剣林』の一部が手を組む。 『六道』のバーナード・シュリーゲンはアザーバイド召喚技術を求め。 『黄泉ヶ辻』のW00は運命を食らう異世界の猛毒に興味をもち。 『剣林』の十文字晶はその猛毒に侵された娘のために槍を持つ。 召喚場は『万華鏡』の届かない海の上。当てもなく探すには、海は広すぎる。 しかし手がかりはある。 召喚場に向かう船。その船が持つ情報。 それを集めれば、セリエバ召喚場への道を見つけることができるだろう。 ● 「今回は急ぎの仕事になるぞ。――ちと駆け足の説明になるが、よく聞いてくれ」 ブリーフィングルームにリベリスタ達が揃った直後、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は開口一番にそう言った。 「フィクサード主流七派のうち、『六道』『黄泉ヶ辻』『剣林』の一部が『セリエバ』召喚のために手を組んだ、という話は聞いたことがあるだろう」 黒髪黒翼のフォーチュナが口にしたのは、運命を食らうアザーバイドの名。 運命に愛された革醒者の天敵とも言える存在だが、様々な理由でこれの召喚を望んでいる者達が存在する。世界の守護者たるアークのリベリスタとしては、見過ごせない話だ。 「当然、セリエバの召喚は阻止しないといけないが……現状では、儀式の場所が分からない」 召喚儀式は『万華鏡』の“目”が届かない海上で行われる上、フィクサード達は主要なポイントの情報を分散している。末端のメンバーを捕まえて儀式の場所を吐かせたところで、得られる情報はごく一部に過ぎない。 「――だからって、黙って手をこまねいているわけにもいかないからな。 皆には、これから港に向かってもらいたい。 儀式のポイントに出発しようとしている小型船が停泊してるんで、出航前にこれを押さえる」 船の乗組員は全てE・アンデッドだが、戦闘力はリベリスタ達と比較すると無きに等しい。 彼らの大半を打ち倒せば船の出港を阻止し、船内にある海図を手に入れることが出来るだろう。 ただ、敵もアークが来ることは予想しているらしい。 港では、剣林派のフィクサードが船の守りについている――と、数史は告げる。 「敵は十人。この中で実力が高いのは『空閑拳壮(くが・けんそう)』、『エフィム・イーゴレヴィチ・レドネフ』の二人だ」 近接戦闘に強い拘りを持つ虎ビーストハーフの覇界闘士、空閑拳壮。 射撃戦闘に長けたメタルフレームの弓使い、エフィム・I・レドネフ。 この両名は、以前にもアークのリベリスタと交戦したことがある。いずれも、楽に勝てる相手ではない。 「残りは全員がフライエンジェで、ジョブ構成的には割と防御寄りな感じだが…… まあ、剣林の連中だからな」 フィクサードとしては出航までの時間を稼げればそれで良いということになるが、『攻撃は最大の防御』と考えて積極攻勢に出る可能性は否定できない。 ただ、彼らも『仕事』として動いているのは間違いないので、何らかの形で決着がつけば速やかに撤退するだろう。 「船の出港まで、時間はせいぜい二分。 それまでにフィクサードの数を減らし、これを突破して船に向かう必要がある。 当然、あっちも同じことを考えて攻撃を集中させてくるだろうな」 出航阻止だけなら船を狙うという手もあるが、その中にある海図が目的である以上、無茶はできない。 結局のところ、武闘派と名高い剣林派フィクサードと正面から打ち合うしかないということだ。 説明を終え、数史はリベリスタ達に頭を下げる。 「時間制限もあるし、楽な戦いじゃあない。 だが、この後の召喚儀式を止めるためには、一つでも多くの情報が欲しいんだ。 ――申し訳ないが、頼まれてくれるか」 ● 「来るんだろうなぁ、あいつら」 出港準備中の船を眺め、拳壮は虎の目を細める。 彼の表情を見てとったエフィムは、わざと眉を寄せてみせた。 「まるで、アークに来て欲しいような言い草だな」 「『仕事』としちゃ、来ない方が楽なのは分かってっけどよ。 でもまぁ、借りがあるからな」 ――なぁ、お前もそうだろ? そのような問いかけを放つ僚友の心情を、痛いほどに理解しているから。 エフィムはあえて溜息をつき、大きく首を横に振る。 「お前と一緒にするなよ」 理由は違えど、彼の胸中もまた複雑ではあった。 それでも、闘うことに迷いはない。 夜の港に立つ剣林の男たちを、ただ月が見下ろしていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月20日(木)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 月の光が、出航を控えた小型船を照らす。 港では、剣林の男たちがアークの襲撃に備えて船の守りを固めていた。 彼らの目的は、運命を食らうアザーバイド『セリエバ』の召喚。洋上で行われる儀式を阻止するには、そこに向かう船を抑え、情報を集めなければならない。 ただ一つ開かれた突入ルートを、リベリスタ達は武器を手に駆ける。 彼我の距離は、約二十メートル。この場の誰よりも速度に優れる『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)が、一息に間合いを詰めた。 「こんばんは☆ 毎度お馴染みアークでっす☆」 いつも通りの明るい口調で声をかけながら、敵の装備に視線を走らせる。鞭を装備した男がレイザータクトの一人だと当たりをつけ、彼はすかさず地を蹴った。 淀みなく振るわれた二丁のナイフが、音速の連撃でレイザータクトの動きを縛る。その手際を見た拳壮が、嬉しげに笑った。 「そう来なくっちゃな」 そこに、『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)が迫る。淡々とした呟きが、唇から漏れた。 「――世界がどうなろうと、小生は、知ったこっちゃない」 いりす個人は、儀式の阻止にはさほど興味はない。仮にセリエバが復活したとしても、それはそれで構わなかった。 ここに来た理由は、ただ一つ。 「小生は虎さんに逢いに来ただけだしな」 虚ろな双眸が、内なる『記憶』に刻まれた男の姿を捉える。いりすが両手に構えた得物――銘無き太刀と、赤きジャックナイフを認めた拳壮が、僅かに目を見張った。 虎の瞳が鋭さを増し、自らをブロックするいりすを睨む。拳壮は無言のまま、『気』を込めた掌打を繰り出した。二刀のリーチ差を活かして間合いを取り、いりすは直撃を避ける。 「これで何隻目だい? どんだけ大掛かりな儀式なんだか」 敵味方の中間地点まで歩を進めた『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)が、モノクル越しに洋上の船を一瞥した。ホーリーメイガスと思われる魔道書装備の敵に狙いを定め、鋭く蹴りを放つ。射線上にいたもう一人をも巻き込み、虚空を切り裂く一撃が炸裂した。 後衛に立ち、回復の要たる『紫苑の癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)の守りについた『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が、柳眉を微かに顰めた。 「セリエバの件……随分と小出しに動いているのですね」 召喚儀式の場所を『万華鏡』の効果が及ばぬ海上に定めるだけに留まらず、主要なポイントの情報を分散して隠蔽するとは。 やけに手が込んでいるが、それは同時に敵が本気であることの証明だろうか――。 愛用の改造小銃を構えた『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が、極限の集中で自らの動体視力を強化する。 「また会えましたね、エフィム・イーゴレヴィチ」 彼女がそう呼びかけると、銀髪の射手は機械仕掛けの瞳でこちらを見た。 返答代わりに弓を引き、天から無数の火矢を落とす。エフィムの一射を皮切りに、剣林の男たちが反撃に出た。 ホーリーメイガスの閃光が視界を灼き、クリミナルスタア達のフィンガーバレットが立て続けに火を噴く。的確に急所を狙う弾丸が次々に発射される中、残る前衛達が敵陣に突入した。 「我こそは、アークがリベリスタ、奥州一条家永時流三十代目、一条永! 往くは阿修羅道、武を以って罷り通る!」 茎に家紋を刻んだ静型の薙刀“桜”を携え、『永御前』一条・永(BNE000821)が堂々を名乗りを上げる。彼女に続き、巨大なハンマーを手にした『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)が小さくお辞儀をした。 「日野宮ななせです、よろしくお願いします」 頭頂部から飛び出した二房の髪が、触覚のように揺れる。彼女は顔を上げた後、二つの大盾でホーリーメイガスを守るクロスイージスに視線を向けた。 「ったく、仕事なのが勿体ねぇな」 見知った面々に加え、名うてのリベリスタが揃った戦場を眺めて拳壮がぼやく。直後、鉄塊の如き大剣を構えた『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)が前線に走りこんだ。 「剣林の大将に斬られたばかりだってのに、ゆっくり休む暇もないな」 傷は未だ癒えていないが、退くつもりはない。 静かに燃える闘志を受けて、彼の右目に紅い炎が宿った。 ● 剣林の男たちは全員で壁を作り、船への進路を塞いでいる。 強行突破を試みるにしても、まず敵の数を減らさなければならない。拳壮の抑えを続行しつつ、いりすが暗黒の瘴気を撃ち出す。小柄な体を活かして敵陣に切り込んだ『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)が、“R・コラージュ(EX)”を自在に振るって急所狙いの連打を繰り出した。 「『騙し絵』の嬢ちゃんか」 「お久しぶり、ちょっと遊んでよ」 好敵手の再来を喜ぶ拳壮に、ぐるぐが軽く声をかける。狙いは勿論、彼の技を『盗む』ことだ。 「お前さんのそういうとこ、嫌いじゃねぇぜ。――だが、まだリクエストにゃ応えられねぇな」 笑って、拳壮はいりすに向き直る。雪崩の勢いで間合いを詰める彼をあえて懐に誘うと、いりすは“リッパーズエッジ”を下から跳ね上げ、組み付きに来た腕を防いだ。 僅かな驚きとともに、拳壮はいりすを見る。それは、明らかに『自分の戦い方を知る者』の動きだった。 「前は良いように懐に入られたし、対策くらいはするさ」 そう語るのは、初めて見る顔に違いない。だが、その言葉、身に纏う雰囲気はまるで――。 月の浮かぶ夜空に、ユウが“Missionary&Doggy”の銃口を向ける。 天を貫く魔力の弾丸が、燃え盛る炎の矢となって剣林の男たちに降り注いだ。 ユウの青い瞳は、この戦場でただ一人、エフィム・I・レドネフを映している。 お互い、スターサジタリーとして必中を求められる立場。ならば、どちらがより鮮烈な一射を打ち上げることができるのかを競ってみたい。 「たまには、私だって燃えたいんですよねー♪」 うふふ、と笑みを零す彼女に対し、エフィムはあくまでも沈黙を保ち続ける。だが、彼もまた剣林の男であることを、ユウは知っていた。 リベリスタとフィクサードの間で、激しい撃ち合いが展開される。 多対多の戦いでは、まず回復役から落としていくのが定石。自然と、両陣営の火力はホーリーメイガスに集中する。それを守るのは、防御に優れたクロスイージスだ。 シエルの前に立つユーディスが、次々に襲い来る弾丸を大盾で防ぐ。敵が挑発で陣形を崩しにきたところで、心を揺さぶる状態異常は彼女に通用しない。 その背に庇われながら、シエルが“楽園乃小枝”を胸の前で構えた。 「無理しないでとは言いません。代わりに只管癒してみせましょう」 詠唱により具現化した聖なる神の息吹が、リベリスタ達の傷を瞬く間に塞いでいく。レガースに似た魔力鉄甲を脚に装着したクルトが、敵のホーリーメイガスを庇うクロスイージスへと駆けた。 「問答して退く相手じゃないだろ? 剣林の流儀に合わせてやるさ」 迷い無く言い切り、破壊の気を帯びた掌打で『盾』の動きを止める。 それを聞いた拳壮が、「は、分かってんじゃねぇか」と口の端を持ち上げた時、ななせが叫んだ。 「いくよ、『軍曹』っ!」 両腕で構えた大鎚――“Feldwebel des Stahles(鋼の軍曹)”に全身の力を込め、一気に解き放つ。激しく荒れ狂う超重の打撃が、麻痺に陥ったクロスイージスを真っ直ぐ吹き飛ばした。 すかさず、永が薙刀を振るって真空の刃を生み出す。敵陣の隙を縫うように放たれた不可視の斬撃がホーリーメイガスの脇腹を抉った瞬間、零児が大きく前に踏み込んだ。 「時間制限のある突破任務なら、俺の出番だ」 深緋のライダースコートをはためかせ、裂帛の気合とともに闘気を爆発させる。序盤から手の内を明かすことになったとしても、今は回復役を落とすことが先決だ。 “生死を分かつ一撃(デッドオアアライブ)”が炸裂し、ホーリーメイガスの一人を地に沈める。意志の力で麻痺から逃れたレイザータクトを、終が再び音速の刃で封じた。 小さく息を吐き、小型船に視線を向ける。 セリエバ召喚儀式のポイントを記した海図が、あの中に収められている筈だ。 (最近動きが活発だから、決行日が近いんだろうけど……) 儀式場の全容は、未だに掴めていない。 現時点で、アークは既に幾つかの情報を入手してはいるものの、それでもピースが足りないのだ。 もどかしいが、だからこそ、この戦いを落とすわけにはいかない。 癒し手の盾に徹するユーディスもまた、終と同じ思いだった。 一つ一つを確実に押さえていけば、いずれは『本命』に辿り着く。 (それに届く為にも――この場で勝利を収めなければなりません) 矢に貫かれ、弾丸に穿たれようと、倒れるわけにはいかなかった。 この世界に住まう人々を『護る』べく、騎士の末裔は決意を抱いて戦場に立つ。 ● リベリスタは勢いに乗り、残るホーリーメイガスを潰しにかかる。 巨大な鉄塊にも見紛う零児の大剣が唸りを上げ、回復役を庇おうとするクロスイージスを弾き飛ばした。 壁に穴が開いた隙を見逃すことなく、ユーディスが十字の輝きでホーリーメイガスを貫く。すかさず追撃を加えんとするクルトが、一瞬、拳壮に視線を走らせた。 同じ覇界闘士として手を合わせてみたくはあるが、この戦いにおいては個人の興よりも優先されるべき任がある。 「――今回は、下っ端で我慢しとくさ」 “Hagalaz(ハガラズ)”の名を冠する魔力鉄甲に覆われた脚が、目にも留まらぬ速さで動く。 第九のルーンが示すものは、破壊、雹、避けられぬ障害。 それらを全て踏み越えんと放たれた蹴撃が、虚空を裂いてホーリーメイガスを喰らい尽くした。 二人の回復役を相次いで倒され、エフィムが舌打ちする。 「随分と後手に回ったな」 彼は素早く配下に指示を飛ばすと、ユウを狙って矢を放った。0.75インチの硬貨すら逃さぬ正確な射撃が彼女を捉えた直後、二人のクリミナルスタアが弾丸を叩き込む。 遠のきかけた意識を、ユウは己の運命で繋ぎ止めた。 「体力が足りない分はフェイトで燃やす、ってね」 もしもの時は、翼を持つ者として小型船の追撃に回らねばならない。最後まで立ち続ける覚悟を胸に、彼女は“Missionary&Doggy”のトリガーを絞った。 前から後ろから、いつにも増して激しく火矢を降らせていくユウに、シエルが癒しを届ける。聖神の息吹の連発は錬気法を併用しても消耗が激しいが、戦いが二分前後に限られるなら充分に持ち堪えられる筈だ。 双刃に音速を纏わせた終が、流れるような連続攻撃で傷ついたレイザータクトに止めを刺す。しかし、剣林の男たちはそれでも攻めの姿勢を崩さない。 大胆に繰り出された刃を脇腹に受けつつ、永がさらに一歩踏み出した。 リベリスタとして役目を果たさんという思いは、勿論ある。世に仇なすアザーバイドの召喚、フィクサードの跳梁跋扈、いずれも許すつもりは無い。 されど――。 薙刀を両腕で旋回させ、烈風を呼び起こす。敵の頭数が減った分、味方を攻撃に巻き込まない位置取りは先よりも容易だ。戦鬼の一撃に呑まれ、もう一人のレイザータクトが地に崩れ落ちる。 敵手を前に昂ぶる己の心を、彼女は戦いの中で自覚していた。 これで、残る敵は六人。 本来ならば船に取り付くことを考えるべきタイミングだが、屈強なる剣林の男たちはなおも陣を敷いてリベリスタの進路を阻む。遠距離火力の軸を担うエフィムとクリミナルスタア二人が健在である以上、迂闊にユーディスを前線に上げるわけにもいかない。 吹き飛ばして道を切り開くにしても――あと一人、ここで倒しておくべきか。 突入に備えて距離を詰めつつ、ユウがインドラの矢で敵を狙い撃つ。両手に盾を構えたクロスイージスが、破邪の一撃でななせを打った。 優れた自己再生力で傷を塞ぎつつ、ななせは“鋼の軍曹”を構え直す。小柄な体格と可愛らしい容貌に見合わぬ破壊のオーラが、彼女の全身から立ち上った。 「これが、わたしの全力全開です――!」 圧倒的な連撃を怒涛の勢いで繰り出し、強靭な『盾』を打ち砕く。 クロスイージスが力尽きた瞬間、終とクルトが動いた。 「セリエバは枝だけでも十分驚異だ。その船、行かせるわけにはいかないよ」 出航まで、残り五十秒。クルトの言葉に、終が「絶対に止めなきゃね」と頷く。 その場に留まったリベリスタ達が、追撃に移ろうとする剣林の男たちを一斉に阻んだ。 船に向かって駆ける二人の背を狙うクリミナルスタアに、ぐるぐが魔弾を叩き込む。セーラー服のスカートを靡かせた永が、烈しい風を孕んだ戦鬼の一撃で敵の足を止めた。 「船のほうを気にする余裕は、ありませんよっ」 巨大なハンマーを間断なく振るい続けるななせが、もう一人のクロスイージスを釘付けにする。 最前線に回復を届けようと前進するシエルに合わせて、彼女を護衛するユーディスも距離を詰めた。 敵の主力は、まだ二人ともこの場に立っている。味方が船に取り付いて海図を入手するまで、気を抜くことはできない。 弓に矢をつがえるエフィムに、零児が肉迫した。 銀髪の射手が身構えるより先に渾身の一撃を叩き込み、船から引き離す。 無限機関を宿す右目が、主の気迫に応えるように紅き炎を燃やした。 「――こないだ、船の戦いでは悔しい思いをしたからな」 今度こそ情報を手に入れ、連中に一矢報いてみせる。必ず。 フィクサード達を振り切り、終とクルトが相次いで船に乗り込む。 ここまで拳壮を抑えながら暗黒の瘴気で支援に徹していたいりすが、改めて彼に向き直った。 「どうだ。浮気されると腹立つだろう」 虎の因子を宿した男を、灰の瞳で睨む。 「小生は嫉妬深いんだ。ごめんなさいって、ちゃんと言ったら許してやる」 その言葉を聞き、拳壮は呵々と笑った。 「やはりお前か、『人間失格』」 自分に大きな借りを残して逝った待ち人の二つ名を、万感の思いを込めて呼ぶ。 もはや再戦叶わぬと思っていた好敵手。その魂を宿す者が、目の前に立っていた。 「そんじゃ、こっから本番な」 「ああ」 二頭の獣が、再び相対する。激しく打ち合う音を背に聞きながら、終とクルトは船内に滑り込んだ。 「海図は操舵室かな?」 高速の残像でE・アンデッドを切り伏せながら、終が問う。おそらくね、とクルトが応じた。 「万が一外れても、そこを抑えれば船を出すことはできないさ」 ここまで温存してきた疾風の武舞をもって、道を塞ぐE・アンデッドらに打ちかかる。 閃いた紫電が、船内を鮮烈に照らした。 ● 船に乗り込んだ二人を追うべく、剣林の男たちは全力をもって前衛に穴を開けんとする。 業火を孕んだ矢が、的確に急所を狙う弾丸が、永の全身を穿った。 「……ご先祖様、貴方は酷い人です」 運命を代償にして立ち上がり、永が呟きを漏らす。 「老いた細腕の女にすら、熱く煮え滾り、燃え盛る血と魂を遺すなんて――」 祖先が愛用した静型の薙刀を手に、彼女は再び刃閃く戦場へと舞い戻った。 時を同じくして、拳壮の右手が獣爪の構えを取る。 強靭な握力から繰り出される虎の掌打――“獣牙爪印”。 皮膚を裂き、肉を千切り、運命を削るその一撃を、ぐるぐは己の目に焼き付けた。いつか技を自分のものにする、その時のために。 「勝つさ。勝つよ。負けられねぇ」 胸元に深々と穿たれた傷から血を流し、いりすが二刀を構え直した。 刺突で間合いを離した直後、暗黒を宿す刃で鋭く斬撃を浴びせる。肩口から脇腹まで袈裟懸けに裂かれた拳壮が、獣の笑みを浮かべた。 「面白ぇな、やっぱ」 運命(フェイト)は、既に捧げている。気紛れな運命(ドラマ)で身を支える彼の瞳は、好敵手を映して爛々と輝いていた。 「おい、拳壮――」 眼前の戦いに没入する僚友をエフィムが諌めようとした、その時。 甲板に姿を見せたクルトと終が、船の制圧完了を全員に告げた。 「乗組員は、殆ど潰した。もう出航は出来ないよ」 「海図も、アークが手に入れちゃいました☆」 それを聞き、ユーディスが問う。 「――大勢は決しました。まだ続けますか、剣林」 「いや、引き上げよう」 首を横に振るエフィムに続き、拳壮も口を開いた。 「ジタバタしても仕方ねぇな。達磨の旦那にゃ、ちと顔向けできねぇが」 剣林の男たちが武器を収めたのを見て、ななせも両腕に構えていた“鋼の軍曹”を下ろす。 今回の任務は、船の出航阻止と海図の入手。どちらも果たされた今、戦い続ける理由はない。 「我慢比べはこちらの勝ち、でしょうか?」 嫣然と微笑むユウに、エフィムが「ふん」と声を返す。 しばらく沈黙を貫いていたいりすが、拳壮に語りかけた。 「死んだ事は謝らんが。勝ち逃げしたのは悪かった」 亡き待ち人からの『伝言』を聞き、彼は意地の悪い笑みを浮かべる。 「ごめんなさいって言ったら許してやるよ」 そう告げて、拳壮はエフィムと共に踵を返した。その背に向けて、零児が声をかける。 「制限時間のあるこんな場面じゃなく、いずれきっちり対決してみたいな」 作戦上、今回は直接対決を避けざるを得なかったが、近接戦闘、それも単体攻撃に特化した身として拳壮のスタイルには興味があった。 そりゃお互い様だ、と、拳壮が振り向く。 「――今度は『仕事』抜きで、派手に喧嘩といこうぜ」 その言葉を最後に、剣林の男たちは港を去った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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