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【はじおつ】エフィカさんと18歳の誕生日

●誕生日でした
 9月4日は『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005)さんの誕生日でした。
 去年は予想以上の盛況の末行われた誕生会。ですが、1年なんてあっという間です。
 去年がそうであった様に、エフィカさんは自分の誕生日などあっさりと忘れていました。
 センタービルの受付嬢と言う業務はこれでなかなか楽では有りません。
 日々忙しなく働いている内に自分事と言うのは気付けば二の次三の次。
 ふと気付けば年が巡っていると言う有り様です。
 けれどエフィカさんも今年で18歳。今が盛りと花開く乙女がこれではいけません。
 流石に心配になって好きな人とか居ないんですか? とお尋ねすると、
『え? あっ、わっ、いないですよそんなのっ!? それに今はアークも大変な時期ですし!』
 とのお言葉。流石に少し心配になって来る昨今です。
 
 とは言え、その件について相談する相手を、ちょっと間違えた気はしないでもありません。
                   ――『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)の日記より抜粋。

●おめーの席ねぇです?
「良く集まってくれた。いや、お前ら本当に馬鹿だよな」
 意地悪くもからりと笑った『戦略司令室長』時村 沙織(nBNE000500)がそのままの表情で暴言を吐く。
 場所はアーク本部内ブリーフィングルーム。御多聞に漏れずエフィカには秘密で集められたリベリスタ達。
 しかし今回は仕事では無い。仕事では無いのに沙織が出張る。その上で冒頭の発言である。
 嗚呼――既に嫌な予感しかしない。
「さて、今日はお前達に競い合って貰う」
 更に続く言葉に倍付けドン。胡散臭さもここに極まれり。
 既に入口へ視線を巡らせた者すら居るが、何故か其処には万華鏡のお姫様がしれっと立ち塞がる。
「名付けて、エフィカ・新藤18歳の誕生日おめでとう――バトルロイヤル」
 いや、何かおかしい。
 絶対に、何かがおかしい。
 その“溜め”の後にはパーティとかの単語が来る筈だ。皆でわいわい楽しくケーキ作りとかする筈なのだ。
「今度の日曜、ATSを拝借――徴収してのバトルロイヤルを開催する。
 制限時間は12時間。午前8時から午後8時まで。
 シミュレートする戦場は、三高平学園高等部内全域な。
 校内の人数が4人以下になるか、タイムアップまで生き残れば勝ち。シンプルだろ?」
 普通は誕生日のお祝いに、生き残る。等と言う血生臭い語句は使われない。

 だがしかし、それで終わらないのが辣腕、時村沙織である。
「勝者には都内某所の超高級三ツ星レストランのディナーチケットをペアで進呈する」
 ……ぴたりと、空気が変わる。
「因みに、生き残った後エフィカに誕生祝いをするかどうかは生存者の自由だ。
 但し、時間と尺の都合から脱落者には誕生日を祝う事が出来ない。勿論個人で祝う分は別だけどな」
 一応去年に比べればささやかながら誕生パーティの用意はしてあるらしい。
 が、しかし。だが、しかしだ。
「尚、チケットで誰を誘うも自由だ。が、基本バトルロイヤルに参加した時点で
 原則拒否権は無い物とする。敗者は勝者に従うのみ、だ。シンプルだろ?」
 それを、誰ならぬ沙織が口にする。その意味を察し、場を包んだのは色濃い沈黙である。
 あの、と沙織が推薦するレストランの上に修飾語が2つも付いている。
 どう考えても生半可な店ではないだろう。一般会社員のボーナスが一食で丸っと消えるレベルだ。
 美食家でなくとも気にはなる。おまけにペア。デートに使うにもこの上無い。
「ああ、ドレスコードの心配なんかはいらない。こちらで万端整えるからな、安心して死んで来い」
 リベリスタ達が探り合う様に視線を向ける。生き残るのは僅か、4名。
 この世は残酷な椅子取りゲームだ。
 
 ――戦え。戦わなければ、勝ち取れない。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年09月22日(土)23:20
 73度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 なんでこうなった系誕生日シナリオ。以下詳細となります。

●成功条件
 イベントを満喫する

●行動分岐
 原則として以下の4箇所のどこで行動するかを1行目に記述下さい。
 プレイング中に以下のタグが無い場合はプレイングを見て割り振ります。

【挑戦】…ATS内でバトルロイヤル。但し戦闘スキルは禁止。
 通常攻撃は可。ドラマ判定可、フェイト消費無し。戦闘不能時点で脱落。
 協力行動可。優秀な結果を出した方は大幅に描写量が増加します。
 くれぐれも以下の2点の記述を忘れないで下さい。

2行目.位置指定
 [教室][特別教室][廊下][玄関][屋上][体育館]の6箇所から3つまで選択可。
 記述順に移動して行きます。2つ以下の場合滞在時間が延長します。
 記述が無かった場合ずっと[玄関]に居続けます。
 
3行目.誘いたい人
 勝者になった場合ペアチケットで誘いたい人。名前だけで構いません。NPC可。
 但し、このシナリオに参加しているPC、NPCしか誘う事は出来ません。

【支援】…挑戦者の支援。勝利報酬は有りませんが、
 支援者が多ければ多いほど支援されている参加者が有利になります。
 くれぐれも以下の2点の記述を忘れないで下さい。

2行目.位置指定
 [教室][特別教室][廊下][玄関][屋上][体育館]の6箇所から1つを選択可。
 その場所で応援したい人、が戦闘を開始した場合、支援を行います。

3行目.応援したい人
 支援者が応援したい人。名前、或いは特徴や属性(Lv5以下、女性等)
 合致した場合に支援行動を行います。
 支援効果は挑戦者の協力効果より勝敗に大きな影響力を持ちます。

【お祝い】…校内の家庭科室で普通にエフィカさんを個人的にお祝いします。
 準備等は整っていますので、立食パーティを愉しみつつ御歓談下さい。
 競技中は、NPCらは全員こちらで待機しています。

【その他】…その他、上記3種と全く関係の無い行動です。
 難易度高め。行殺・没有りです。

・また、グループ行動はタグを続けて記載して下さい。
 例:【挑戦】【告白し隊】 等

●超高級三ツ星レストランのディナーチケット
 優秀賞賞品。神秘的な効果は何も無い物の、
 ムーディーで大人っぽい高級レストランにてシェフ入魂のフルコースをどうぞ。
 尚、こちらは「現実」なのでご安心下さい。
 コースは和、伊、仏から選択出来ます。飲酒は20歳になってから。

●戦闘予定地点
 ATS内に再現された三高平学園高等部。
 光源不用、足場安定、屋上以外は主に屋内。所有アイテム等の持ち込みは可。
 但し装備していない物は一切持ち込めません。

●イベントシナリオのルール
 参加料金は50LPです。
 予約期間と参加者制限数はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
 イベントシナリオでは全員のキャラクター描写が行なわれない可能性があります。
 獲得リソースは難易度Very Easy相当(Normalの獲得ベース経験値・GPの25%)です。
●全員描写宣言
 【その他】タグを選んだ方以外は全員描写致します。
 但し描写量の多寡が生まれ得るという点については予め御了承下さい。
参加NPC
エフィカ・新藤 (nBNE000005)
 
参加NPC
真白 イヴ (nBNE000001)
参加NPC
天原 和泉 (nBNE000024)
参加NPC
時村 沙織 (nBNE000500)


■メイン参加者 24人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
マグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
スターサジタリー
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
ソードミラージュ
紅涙・りりす(BNE001018)
ソードミラージュ
天風・亘(BNE001105)
スターサジタリー
麗葉・ノア(BNE001116)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
覇界闘士
付喪 モノマ(BNE001658)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
デュランダル
蜂須賀 冴(BNE002536)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
スターサジタリー
白雪 陽菜(BNE002652)
インヤンマスター
風宮 紫月(BNE003411)
レイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)

●仮想:パイを取り合う人々
 アーク本部内、研究開発室。
 卵形の端末に身を沈め、明滅する視界と共に意識が現実と切り離される。
 気が付けば、その場所は既に見慣れた“三高平学園”その玄関口である。
 VTS。仮想空間に現実を投影するその機械が生み出した世界は質量すら錯覚させる程の現実感を伴う。
 故に、リベリスタ同士が力を競い合う。例えば現実でやれば大問題であろうそんなバトルロイヤルすらも、
 仮想空間内であれば問題なく実施可能である。それを解すればこその今回の企画。
 言うなれば実戦訓練を兼ねた賞品付きのデモンストレーションこそがこの催しの主旨だった筈だ。
 だが、何事にも必要過剰に本気になってしまう者と言うのは居る。特に、賞品が複数名用であった場合とか。
「チケットは4枚あるんだ。パイを奪い合って削るなんざ無意味にも程がある」
「同感だね。今回はあくまで誕生日祝い。この戦いはエフィカちゃんの為に行われるべきだ」
「確実にディナーを食べる為に! ずるい? 頭は使うためにあるんだよ!」
「「「な、新田!」」」
「ああ、俺達は『チームワーク』で勝つ。まさか卑怯とは言うまいね?」
 『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)、『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)
 『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)、そして『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)
 いずれも歴戦の勇士と言って遜色無い面々が此処に同盟を結び合う。
 全てはただ只管に勝利の為に。チーム『エフィカ拉致』結成の瞬間である。
 アークらしいと言うべきか、大人気ないにも程がある。が、この行動は最適解の1つである。
 数と言うのは時に半端な策や謀を暴力で以って引っ繰り返す。
 単体性能が1である人間が4人揃えばそれは単純に4とは言えないのだ。
 ……が、しかし。
 こと今回に限ったなら、それは1つのトラブルを引き寄せる直接的な原因となる。
 そう、世の中には――数が多いと言うだけで心を抉られる者も居るのである。

「え? ニニ居ねぇの? そうか……」
 意気揚々とVTSに乗り込もうとした『墓堀』ランディ・益母(BNE001403)のテンションが大幅に下がる。
 それはそうだろう。彼にも果たしたい目的があったのだ。だが、それは空の彼方へ消えてしまった。
 夢や目標を抱けばこそそれを失った時の落差もまた深い。それは遍く人の持つ業であると言えよう。
 希望と絶望はコインの表裏。どちらか片方だけを得る事は出来ないのである。
 然るに、テンションの落ちたランディはそれでも戦場から逃げる事だけはしなかった。
 彼の美学が、生き様が、魂が戦わずして脱落する事を許さない。結果として、玄関口に闇が舞い降りた。
 それは得られる筈の未来を失った亡骸でありながら、無差別に憤怒を振り撒く赤き鬼である。
 より分かり易く表現すれば“憂さ晴らしにどいつもこいつもぶっ飛ばすか!”となる。
 さて、そんなランディからして玄関で力を合わせるべく集う如何にもリア充じみた4名が果たしてどう映ったか。
 それは彼の第一声から類推して頂きたい。
「死ねぇ――――っ!」
 VTSでスキルが反映されなかったのは幸か不幸か。
 別に何もしてない筈なのに目に付いたというだけで斧を振り回す鬼に突然襲われたと言う状況は幸か不幸か。
 そんな物不幸に決まっている訳であるが。
「げぇ! ランディさん!? いや、相手は1人だ! 囲め囲めーっ!」
「平面っちーじゃなくていっちー、そっちに行ったぜ!」
「はーい、任せて★」
 快の指揮に夏栖斗が声を掛け、壱也の視線が殺気混じりにその声の主へと向けられる。
 丸っきり躊躇無く振り下ろされる斧を悠里が受け止め、引き攣ったような笑みと共に悲鳴まじりの声が上がる。
「ていうかなんでこうなったの!? 趣旨がわかんないよ!」
 何を今更。
「上等だ、エフィカ誕生日おめでとう! そしてくたばれ!!」
 4対1と言う状況ではさしものランディも不利は否めない。
 が、それにしても彼は独り奮戦し、チーム『エフィカ拉致』は早々に多大な被害を被る羽目になる。
 
 一方その頃。玄関を上がってすぐの廊下では異なる戦いが勃発していた。
「ふふ、エフィカさんをお祝いしてお話したいと思ったらなんというチャンス」
 アークに於いて有数の速度を持つフライエンジェ、『黒天使の御付』天風・亘(BNE001105)
「全てはイヴたんとのでぇとの為に……!」
 対するは同様に、アーク有数の火力を有する『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)
 奇しくも対峙した異なる求道者2人の戦いは、追いかけっこから幕を開ける。
「近接型――なら!」
 一気に距離を詰めてきた御龍に対し、亘はその類稀なる敏捷さで距離を取る。
 両者の戦いは自らの誇る1点を通した方が勝つ、と言う至極単純な物である。
 本来であれば、手数で攻める亘に対し一撃の重さで圧倒する御龍。五分の勝負になるだろう両者の会合は、
 けれど亘の策によって根っこから崩壊する。彼は戦いの気配がする方への逃走を選択したのだ。
 そして、この時この瞬間発生していた戦闘は僅かに2箇所。その内1つは室内で有った為に――
「死ねえええっ!!」
 何かそんな声がする方へ。即ち玄関方面へと亘は飛翔し、
「徹底的に戦場を搔き回しチャンスを掴みます!」
「させるか! イヴたんの、引いては我の為にこの刃の錆にしてくれるっ!」
 そして御龍もまたそれを追ってしまったりした訳である。やんぬるかな。現実はかくて小説より奇なり。
 【残り15名】

●現実:エフィカさんとお誕生日
 絶対絶命もかくやと言う戦況。周囲には死屍累々たる同胞達の姿。
 『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)が愕然とした表情で退路を探る。
 こんな筈では無かった。こんな筈ではなかったのだ。彼女はありとあらゆる可能性を想定し、
 最善の準備を整え事に当たった筈だった。で、ある筈なのに何故こんな事になったのか。
 悪意に満ちた存在感が視界の彼方から迫り来る。無形の威圧感。世界を蝕むそれこそが――
「馬鹿な! 私は、絶対生き延びて……!」
 全てを灼き尽くす闇の帳が彼女を呑み込み、そして世界は理不尽なほどに何気なく、地獄と化した。
「はっ」
 ――と言う夢を見たんじゃ。
 場所は“現実の”三高平学園。見回せばこじんまりとしている物の立食パーティの真っ最中。
 歓談しあう人々に混じって緑色の髪の少女が淡く微笑んでいる。
「エフィカ先任にはお役所でちょこちょこお世話になっとるのであります! 敬礼!」
 『ギャロップスピナー』麗葉・ノア(BNE001116)は小市民である。
 アークのリベリスタにしては、と言う前置きはあれとりあえず彼女は自分をそう定義付ける。
 誕生日のお祝いと聞いていたのにVTSでドンパチやっている、
 トリガーでハッピーなアークの面々の思考は、ノアにはちょーっとばかりハードルが高過ぎる。
 悪貨は良貨を駆逐するという格言の通り、「びた一文 誕生日と バトルロイヤル 関係ねえ!?」
 と言う様な到って良心的かつ常識的な意見はことアーク内では駆逐される対象なのだ。やんぬるかな。
 必然、同様に比較常識人サイドに位置するエフィカと彼女は相性が良い。
「実際どうですかな仕事は。アークもそこそこ所帯が大きくなってきたような」
「そうですね、最近はお仕事の規模も大きくなりがちですから……麗葉さんも気をつけて下さいね」
「はっ、エフィカ先任もお身体に気を付けて頑張ってもらいたいものであります。うむ」
 揚々と頷きながらふと指折り数え、おやっと首をかしげるノア。それに返るはエフィカの困った様な笑顔である。
「その、確かに私はアーク所属と言う意味では先任だと思うんですが……」
「えっ年下!? ごっふう……こいつぁ失敬を!」
 ノア渾身のジャンピング土下座である。まあ、実際問題リベリスタの外見年齢程当てにならない物は、無い。

「みゃっ!?」
 それは、エフィカの背後に忍び寄るや頬を引っ張った白い娘。
 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)にしても正しく同じ事が言える。
「Joyeux anniversaire.」
 10代前半程の子供の様な体躯ながら、その実戦前よりの時を生きる魔女が伸びたエフィカの頬を離し仄かに笑む。
 祝福と共に行われた戯れは、そも無価値と断じた物にはまるで意を見出さない彼女にしては一級のお祝いである。
「うぅ、な、何で私今頬を引っ張られたんでしょう……」
 赤くなった頬を抑えた受付の天使にはその意図は今一つ伝わっていない様子ながら、
 意地悪に、けれど嫣然と微笑めば氷璃は何時か投げた問いを質す。
「アレから少しは頭を冷やせたかしら?」
 それは異世界での戦いの最中。迷える緑の天使に対し氷の魔女が告げた言葉に端を発する。
 外見と年齢がイコールな上、特に大きな苦労も負わず生きて来たエフィカは、
 精神面では大半のリベリスタより未成熟である。それ故に、彼女は自己犠牲を善と認識して憚る所が無い。
 実際は戦いとは、チームプレイとはそれ程単純な物では無い。だが、少なくとも彼女はそう思っていた。
 それに否を投げ掛けたのが氷璃である。運命に抗う事を是とする彼女は自己犠牲を否定する。
 誰かを救う為我が身を捨てれば、捨てた者を救う為他の誰かが犠牲になる。それを必要以上に解すればこそ。
「強くなりたければ地道に努力なさい」
「あぅ……はい」
 ぺち、と跳ねた指先はエフィカの額にうっすらと跡を残し、白い少女は颯爽と去る。
「お久しぶりです。元気にしてらっしゃったでしょうか?」
 額を擦るエフィカに、続けて声を掛けたのは『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)
 その姿を見てほんのり落ち込みそうになった表情にぱっと喜色の花が咲く。
 あたかも懐いた小動物が尻尾を振る様を連想させるその変化に、紫月の瞳が笑みを描いたか。
「18歳のお誕生日、おめでとうございます……エフィカさん」
「はいっ、お祝いありがとうございます、紫月さんっ」

 はたはたと、尻尾ならぬ揺れる羽。元より人懐っこい気質を持つからこその公称マスコット。
 一度心を許せば目に見えて分かるのも彼女らしさ、である。
「これ、何が良いかな、と思ったのですが……」
 紫月が差し出したのは水色のストール。
 きょとんと瞬いてそれを受け取るれば、まだ時期外れかも知れませんけれど、と紫月が口にする暇もあればこそ。
 満面の笑みと共に羽織って見せるとどうでしょう、とばかりにきらきらした眼差しを向けるエフィカ。
「良くお似合いですよ」
「えへへっ、ありがとうございます、大事にしますねっ!」
 ほのぼのとした空気が流れる最中、それでは他のアークの面々は何処へか。
 給仕をする和泉や、立食パーティをそれなりに愉しんでいるイヴはまだ良い。
 問題はその会場の奥。外部モニターらしき物で戦況を眺めなにやら満足気な我らが戦略司令室長である。
「エフィカさんも災難ですね……折角のお誕生日でしたのに。その、こういう事態になって」
「あはは……いえ、私としては皆さんが楽しんで下さるならそれで……」
 親しい間柄ならではの気安さで慰め混じりに撫でる紫月と撫でられるエフィカ。
 けれどそんな本来の主役の事情は置き去りに、
 モニターの中では正にリベリスタ達の潰し愛が今も続いていたりするのである。 
 
●仮想:続・パイを取り合う人々
「OK、それじゃお互い専守防衛に務めるって事で構わないわね」
「まぁ、良いよ。僕も不毛な争いがしたい訳じゃないから」
 特別教室で対した『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)の
 粘り強い交渉に、『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)が頷き返す。
 互いに単独参加である2人は、けれど何れも敵を減らすより生き抜く事を重視していた。
 隠れていた所を鋭敏な嗅覚で以って見つけられた時は覚悟を決めた物であるが、
 エナーシアにとって言葉の通じる相手は脅威たり得ない。
 それは極力状況を戦闘に持ち込みたくないりりすもまた同様である。
 狙わずして両者は協調する事が出来た。偶然であろうとこれは両者にとって大きなプラスである。
 だが、話はそれで終わらない。
「待った、また誰か近付いて来てるみたいだよ」
 教室棟から近付いて来る人の気配。人の香り。
 それは徐々に、真っ直ぐに彼女らの潜む特別教室へ向かっており。
「――(この部屋は、駄目ね)」
 そして、そのまま通り過ぎる。否、交戦を回避する。
 ちらりと見えた人影は『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)
 こと、逃走と避難と言う意味でこの場で彼女ほど長けている者は居ない。
 千里眼を有する彼女は一切の予断無く、中途無く、丸きり完全に勝つ事を優先して来ていた。
 だが、だからこそと言うべきか。戦いを回避するが故に発生する戦いもある。
 死角で――即ち校舎の“外壁の外”で壁に張り付き寝転がっていた
 『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ)』星川・天乃(BNE000016)その射程圏を恵梨香が通過する。
「……逃がさない」
 遮断された気配。そして窓の外に人が張り付いていると言う丸きり想定外の配置。
 潜伏を優先し、視線を校外へ向ける事が無かった恵梨香にとっては丸きり寝耳に水の奇襲である。
 窓から跳び出して来た天乃に掴まるや、振り下ろされる鉄甲が視界を裂く。
 願う程に、求める程に、けれど運命は其を嘲笑うかの様に――

「笑うなよ、バカだ何て事は自分が一番分かってんだから」
 体育館。ステージ上の1人と、中央に陣取る2人が対峙する。
「笑いませんよ。手合わせをして頂くまたとない機会だと思っていた所です」
 前者、ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が剣を抜けば。
 後者、『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)が刃を携え、その背で黒尽くめの男。
 『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)が剣閃(ブレイドライン)と名付けた拳銃を抜く。
「リベリスタ、新城拓真。お相手願おうか」
「ツァイン・ウォーレス、受けて立つ」
「――蜂須賀示現流、蜂須賀冴。参ります!」
 銃声、盾の表面を削る異音が響く。剣と刃が交差し合い、体育館と言う舞台の上互いの己を凌ぎ合う。
 それを目の当たりにし、苦笑いを浮かべる影一つ。
(終盤までに如何にして自身の消耗を抑えるか……それが鍵だ)
 堂々と、雄々しく競い合う者は確かに華々しいのだろう。けれど、それが全てでは無い。
 勝利とは綺麗事では無いのだ。音も無く、気配も無く、その影は体育倉庫から姿を消す。
 ――他方。巻き込まれ体質も此処に極まったチーム『エフィカ拉致』はと言えば……
「ああ、すっげー酷い目に合った」
「本当、良く生き残ったよ。もう何も怖くない」
「背中を預けられるっていいね……本当もう何回駄目かと思ったか……」
 廊下に撒かれた瞬間接着剤に足を取られたランディを打破し、
「たとえ首だけになっても敵の喉笛をかみちぎってやる!」
 と吼える御龍に叩かれた亘を囲んでフルボッコにし、更に暴徒と化した御龍を快が命懸けで抑え込み。
 そうして何とか残された3人がとぼとぼと体育館への道を歩む。
 何故か、選りに選って。彼らは不味い感じの選択ばかりを繰り返す。これが運命の残酷さと言う奴か。
 かくして開かれる体育館の扉。その先では当然ツァインと刃を打ち合わせる冴と拓真の姿。
「「「――げ」」」
 声が見事に被ったのは言うまでも無く――――そして。
「いいや、最後まで立ってりゃいいんだろう? さぁ続けようぜ――ッ!」
 見事に内体育館に集った6名中5名までもが共倒れになった事も、言うまでも無い必然であった。
 【残り6名】
 
●仮想/現実:それぞれのやり方
 三高平学園、家庭科室。
「いつも……お世話になっているから……お祝いを……する」
 すっかり撮影役が板についているエリス・トワイニング(BNE002382)の視界には、
 仲良しな人々に囲まれて幸せそうなエフィカの姿が映っている。
 けれど、同時にこうも思う。彼女はきっと、自分の幸せな表情より、誰かが幸せで居る事を喜ぶタイプだ。
 良く死んだ魚の様な眼差しになっても、懲りずに仕事に出て行く辺り間違いない。と、思う。
 だから少し気を利かせてみる。普段から無表情であるからと言って、エリスとて人形では無いのだ。
(せめて今日だけは……1日……楽しく過ごせる……ように)
 いつか、思い出した時に。この映像が彼女の力になる様に。エリスは静かに方々の笑顔を写し撮る。
「やはり立食パーティなのだから、立って食わねばなるまいな!」
 他方、もぐもぐ、はふはふ、とテーブルに並べられた軽食類を嬉々として食すベルカの傍ら。
 どうにも喰えない笑みを浮かべながらモニターを眺めている沙織。
 一見して変わらぬその光景に、けれど例え誕生日のお祝いが主旨であれ。
 彼が仕事から解放されている場面と言うのはこれで余り多くは無い。
 戦略司令室長と言うのは肩書きだけでは無いのだ。日々課せられている雑務は尋常の量とは言い難い。
 であればこそ、息を抜くべき場所では全力で抜くのが時村沙織と言う男である。
 事実、彼は現在実に楽しげに自らが組み立てた泥沼で足掻く哀れな犠牲者達を観察していた。
「ねぇ、沙織」
 其処に。どこか含みのある笑顔で声を掛けたのは誰ならぬ、氷璃である。
 ふと視線が合うや、逃がさないとばかりに真っ直ぐに見つめる彼女の内面は実に複雑であり、単純でもある。

 長い時間を生きる事と精神が老いる事は切っても切れない。其れは事実である。
 が、しかし同時に人の思考は自らの見た目に引っ張られる部分も多分にある。
 氷璃は確かに長き時間を生きる魔女である。が、それが彼女の全てでは決して無い。
 そして、沙織はそれを実に良く。とても良く知っていた。
「ん、どうしたんだ。随分機嫌が良さそうじゃないか」
「そうかしら、でも当たり前ではない?」
 勿論何故かと問う様な愚を、時村沙織が侵す筈も無い。但しそれは、物分りが良いと同義ではなく――
「そうだな、でも俺としてはそれは何でかって所を聞きたいね」
 全てを分かった上で、意地悪な笑みと共に敢えてそう尋ねるのが彼らしさ。
 氷璃もまたそれを承知している割に、いざそう尋ねられると紡がれるのは空白。
「――、私をディナーに誘うのは沙織の役目でしょう」
 至極当然と、本来は完全に演じられる筈だった台詞に極々僅か混ざった拗ねる様な色。
 それを汲み取り沙織が笑う。氷璃が機嫌を損ねるだろうそのタイミングを計らう様に。
「時間は空けておいてくれるんだろ?」
「そんなのは、沙織次第よ」
 2人で紡ぐバースデイは、けれどもう少し、先のお話。

 その頃、仮想の三高平学園。その一室。
「えーっとここで最後かなーっと」
 両手にバケツを持った少女が闊歩する。この時点で何時誰に狙われてもおかしくないと言うのに。
 その少し前には癇癪玉を撒いており、そのもっと前には瞬間接着剤を廊下に塗りたくっていた。
 『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)からすれば、このバトルロイヤルは、
 普段中々出来ない校舎で遊ぶチャンスでしかなかったらしい。
 見事に戦場を間一髪すり抜けて、彼女はほぼ全ての教室にローションを流し込むと言う作業に取り掛かっていた。
 別に被害者を観察出来る訳でも無いのに何故こんな事に注力するのか。
 その辺は誰にも分からないが、ただ1つ言える事は――彼女は純然たる愉快犯だった。
「いってぇ!?」
 流し込まれたローションに足を取られて誰かが転んだ音。上がった声は、隣の教室。
 誰かが彼女の悪戯に引っ掛かったのだと理解して、陽菜の胸中に好奇心がむくむくと沸き上がる。
 好奇心は猫を殺すと言う言葉もあるが、彼女にそんな言葉は意味を持たない。
 どきどきか、わくわくか、隣の教室を覗き込もうとした瞬間――
「おいこら白雪、お前だろあれ」
 『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)に首根っこを、掴まれる。
「も、モノマ先輩ー!?」
「先輩!? じゃねぇよいきなり部屋汚しやがって」
 それが誰であれ、普通潜んでいる部屋をローション塗れにされたら嫌な物である。出ようとして転んだら尚更だ。
 そして相手が特に何の意図も無く楽しむ為にそれをしているのだと知っていれば更に尚更だ。
「掃除な」
「えっ! でもここは仮想空間だから別に掃除とかしなくても」
「窓の外に放り出されたいか?」
「酷いっ!?」
 悪戯を笑う者は悪戯に泣く。
 参加者達の戦いの最中、幕間は偲ばれ悪戯姫は退場を余儀なくされる。
 が、まあ概ね自業自得である。
 
●仮想:決着
 仮想の三高平学園、屋上。
「この日の為に調整してきたです」
 階段を上がり開け放つ。時は既に夕暮れ。佇む影は2つ。
 その内片方の声と其処に込められた殺気にも等しい覇気に、逃げ続けた男は息を吐く。
「絶対負ける訳には行かないです」
 『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)の言葉に、冷たい感情が交錯する。
 生き残るのはどちらか片方。そんな事は分かっていた事だ。
「かみの国への引導を渡してやるよ」
 校舎内からはまるで物音がしない。だから何と無く分かっていた。これが最終戦だ。
 『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)が刃を抜く。
 女に武器を向ける趣味は無くとも、事ここに到ったならば、待った無しだ。
「邪魔する奴は全員ころすです!」
 開かれた魔術書の一節が力を生み、神秘の衝撃となって竜一の体躯を抉る。
 だが、痛みには慣れている。常に前衛で戦う竜一と後衛のエキスパートであるそあら。
 一騎打ちで分が有るのは明らかに前者だ。カウンターで打ち込んだ剣戟はそあらの体力を大幅に奪う。
「傷が……!」
 その上、竜一の傷は自動的に再生するのだ。これが素の体力の差を更に広げる。
 回復を封じられたそあらからすれば理不尽にも程がある。
「そんな、ずるいです!」
「卑怯? ほめ言葉だね!」
 相容れぬが故に。互いの主張は平行線だ。だが厳然と彼我の格差は広がるばかり。
 意地で、執念で、そあらは立つ。けれどまるで勝ち目が見えない。

「戦いは! バランスなんだよ!」
(さおりん……!)
 ぎゅっと目を瞑ったそあらに、けれど打ち込まれる筈の追撃は無い。
 否、追撃はあった。だが、彼女には届かなかった。
「……そあらは、大事に! なのだぞ! めっ! だ!」
「らいよんちゃん……!」
 立ち塞がる、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)。その身は決して頑丈とは言い難い。
 だが。誰かをかばうのであれば、話は別だ。彼女が盾になり、竜一の刃を阻む。
「なん……だと……!?」
 そして、そあらと雷音。2人が力を合わせればその耐久力は竜一を凌駕する。
 1人であるが故に戦いを免れ続けた男が、一人であるが故に追い詰められていく。
「2対1とか! 卑怯だろ!」
「卑怯じゃないです! これが友情の力です!」
「そあらをいじめるやつは許さない! ボクだって負けないのだ――っ!」
 2人の魔術書、2重の神秘が竜一の体躯を吹き飛ばす。
 王手に手を掛け、あとほんの少しの所まで到るも。竜は昇らず。地へと、降る。
「やったのです……これで――」
 ふらりと揺れるそあらに肩を貸しながら、けれど何処か怪訝そうに雷音が俯く。
 確かに、もう人の気配はしない。けれど、これで本当に終わりなのだろうか?
 彼女が最も警戒していた義理の兄は――果たして、今――――

「皆……生き急ぎ過ぎだって……」
 呆然と、ただ呆然と。死屍累々の体育館に夏栖斗が佇む。
 居なくなってしまった。誰も彼も。冴と壱也が潰し合い、拓真が悠里を追い詰め、
 そして倒し難い――即ち護りに長けるツァインに組み付いていた彼だけが、結局最後まで生き残った。
 チームワークで勝つと。互いの背を預け合えると思った仲間達は彼だけを置き去りに。
 敵も、味方も、全てを失くして尚、少年は未だ生きている。
 がらがらと、体育館の扉が開く。其処には人影。一人の少女。
 満身創痍の夏栖斗の視線が其方へ向く。見知った顔。けれど、勝ちは譲れない。
 それは生き残った者の義務だ。彼は唯独りで此処まで来た訳ではないのだから。
「……御厨……やるの?」
「当たり前だ。人は……僕はそんなに、弱くない」
 対する天乃も多少の傷を残している。けれど、夏栖斗の比ではあるまい。
 結果など分かっている。けれど分かっていても、退けない戦いと言う物はあるのだ。
「分かった……やろう」
 交差は一瞬と、一手。一つの影が翳んで――消えた。
【残り4名 GAME OVER】

●現実:勝者の特権
「何にせよ、御疲れ様だな」
 凡そ1時間後。三高平学園家庭科室。立食パーティは終わり、場は片付けの真っ最中。
 けれどその場に集められた4名には余り関係の無い話である。
「エナーシア、りりす、天乃、で、そあらと。また偏ったなぁ」
「何でも屋は戦うばかりが能ではないのです」
「エフィカお嬢さん、これにあげるね。誰かといくとイイよ」
 えへん、と胸を張るエナーシアに、マイペースにエフィカに話し掛けるりりす。
 結局特殊教室に籠る。極力戦わない。と言う2点を抑えた両名は最終4名が決まるまで傍観を決め込み、
「エフィカ……一緒に、行く?」
「わ、えっと。はい、喜んで」
 体育館を制した天乃がエフィカを誘う事に成功する。
「さおりん! エフィカちゃんとらいよんちゃんも一緒じゃ駄目です?」
「りりすがエフィカにチケットを譲渡するなら、それで雷音も誘えるんじゃないか?」
「え、いやでも、ボクは良いのだ! そあらは室長と素敵なディナーを……」
 おかしな話の流れになって来たと雷音が慌てるも、それを見ていたそあらとエフィカが顔を見合わす。
「でも、お誕生日ですからね」
「そうですね、お誕生日ですから」
 こうなってしまえば断れる雷音ではない。何とは無し押し負ける形で渋々了承したか。
 全て終わった後で愛用の携帯からメールを送る事になる事は想像に難くない。
 さて、しかし約一名、動機の不明なエナーシアであるが。
 誰か誘いたい男でも、と言う沙織の問いかけに、笑顔でこう答えたと言う。
「ペアチケットでディナー2人分食べたって良い、それが自由だわ!」
 見事に肩透かしを食らった沙織が、だったら俺とでもと何時ものやり取りを繰り返すも
 何者にもエナーシアの自由を妨げる事など出来はしないのだった。
 ……後日、桃とかピーチとか呼ばれる姉妹天使の片割れが凸ったかどうかは、定かでは無い。

「……何か……凄いね」
 それは静かな場所だった。揺らめくキャンドルに、高層ビルの夜景が映っては消える。
 響くのはクラシックだろうか。芸術関連にはまるで精通していない天乃には分からない。
 ただ、彼女に設えられたワインレッドのドレスの質感がどうにも心許なく、
 一方で緑の天使が着ているスカイブルーのドレスも見慣れない。
 何処か非現実的な空気にほんの少し、彼女らしからぬ困惑を浮かべるのみ。
 けれどお祝いにと持って来た髪留めを差し出せば、喜ぶエフィカの微笑は何時もと変わらぬ明るさを帯びて。
「本当は、ちょっとこういう場所って憧れてたんですけど」
 味わう所ではなかった料理に漸く意識が向く様になった頃、
 ぽろりと溢したエフィカの言葉を視線で促せば、交わった眼差しは鏡映しの様に困った色を滲ませて。
「やっぱり緊張しちゃうと、料理の味って分からなくなっちゃいますよね」
 どうやら考えていた事は同じらしいと。顔を見合わせる。
 エフィカは瞳を細めて笑い、天乃は口元に楽の残滓を滲ませる。
 それはきっと、2人それぞれの親愛の表現なのだろう。違うからこそ、通じる物もあるのだと。
「エフィカ。誕生日……おめでとう」
「ありがとうございます。今度は、私が天乃さんのお祝いしますね!」
 時は静かに、言葉は古い旋律に載って奏でられる様に響き合う。

「さおりんっ! どうですか? 似合ってますか?」
「馬子にも衣装……って、冗談だろ、膨れるなって」
「その、やっぱりボクは場違いでは無いのだろうか?」
「大丈夫です、雷音さんも良くお似合いですよ?」
 異なる日、異なる場所。チケットが共通でなかったのはダブルブッキング避ける為との沙織の談である。
 ペアである筈の席は何かしらの根回しの結果家族用のテーブル席になっている。
「……本格的に緊張して来たのだ」
「らいよんちゃん、そういう時は深呼吸です!」
「あとは手に人って字を書いて飲み込むとかですねっ」
「お前ら……何でこれだけ綺麗所が集まってて子供の引率をさせられてるみたいな状況になるんだ……」
 少し額を押さえた沙織の言葉を耳聡く聞きつけ、そあらが1人だけ聞こえる声でそっと囁く。
(それって、あたしが綺麗って意味で間違って無いですよね?)
「――そうだな」
 単刀直入な返答に、逆に驚いて瞬いたか。
 見返したそあらの瞳に映るのは、けれど何時もと変わらぬ戯れめいた笑みで。
「見た目は、な」
 そんな答えにすら、双眸を崩してしまうのは。きっと、とても幸せだから。
 光陰は矢の如く、時は瞬く間に過ぎ行く。けれどそれは大切な一区切り。

 全ての想いに、ハッピーバースデイ。 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
イベントシナリオ『『【はじおつ】エフィカさんと18歳の誕生日』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

沢山の御祝い有難う御座いました。エフィカさんは幸せ者です。
これからも未熟ながら、甘えたながら、壁にぶつかり段差に躓きながら、
けれど彼女なりに頑張って行くのだと思われます。応援頂けましたらば幸い至極。
尚、勝者である4名の方々には名声に色を付けさせて頂いております。

この度は御参加ありがとうございました。またの機会にお逢い致しましょう。