●明日のアークは君が担う! 「現代社会における戦略の最重要課題はなんだと思う?」 『戦略司令室長』時村 沙織(nBNE000500)はリベリスタ達にそんな風に仕事の始まりを切り出した。 「さぁね」 わざと試すように問い、分かり易いようには話さない――沙織の調子は何時もと全く同じである。全く彼の希望に従って相槌を打ったリベリスタは視線で先を続けろと彼に促した。 「情報と宣伝だ」 沙織の言葉は実に端的であった。 第二次世界大戦当時ミッドウェーで当時の連合艦隊が致命的とも言える大敗を喫したのは暗号を解読されていたからとも言われている。暗号と言えばドイツ軍の利用したロータ式暗号機つまる所の『エニグマ』は映画にもなった程有名でそんな事はどうでもいいんだけど、まぁ、アレだ。 「軍事戦略に限らず商戦略についても同じ事。現代は忙しい時代だから機を見るに敏なのは必要不可欠だし、何より。これだけ情報の氾濫する世の中だからより効果的なやり方に到達するには『そこに何があるか』を知って貰う事も大切だ。つまり情報を的確に収集し、確実に宣伝するのが大切な訳だ」 「まぁ、言われてみればその通りだな。情報についちゃうちの場合あの『万華鏡』がどれだけ猛威を発揮しているか考えれば……」 「そう。事態に対して完璧な備えをするには確実な情報が何よりだ。 そして同時に我々はアンテナを張り巡らせ、敏感にそれを察知する努力をしなければならない」 「……で、結局何が言いたいの」 リベリスタはこの時点で諦めて呆れたように溜息を吐いた。 沙織が最初に告げた分で分からせる心算があるようにはとても見えない。 「要するにね、CMを作ろうと思って」 「……は?」 「地上波オンエア。表向きは時村グループ系列のCMとして流すが、出演者はお前等。分かる人間には分かるように作るのがポイントだな」 「どういう意味だ」 「今、言っただろう。基本的に現代の人間は自分に関わる事に関してはアンテナをちゃんと伸ばすって。国内外のリベリスタはアークの事を知り始めているだろうが、いざ実際に関わってみないと細かい所は分からない。それに三高平やアークの事を知らない人間だって居る筈だ」 「……はぁ」 「アークの雰囲気が伝わるように―― 三高平でお世話になってみたいって思うようにイメージの良い映像を作る。 例えばお前等が派手に神秘を発揮したとしても、一般の視聴者はSFXの類だと思うだろうが、お前等は違う。この世界の神秘を知る人間はすぐに真実に気付くだろう。 時村グループが何故特撮めいたCMを流すのか彼等は若干疑問に思うかも知れないが、その辺りは編集の魔術だ。何とか帳尻を合わせてしまえば酔狂なCMで片がつく。問題ない」 「成る程」 確かに唸る程の資金力を持つ時村財閥とアークである。 些か俗物的なやり方ながらメディアを利用するのは効果的なのかも知れない。 「顔出て大丈夫なの?」 「細かい事は気にするな。これで不利になるという事は無い」 「おい……」 メタるな。 「……どんなの作るの?」 「取り敢えず、何でもいい」 「いい加減だな」 「お前等が思い思いにいいと思う方法でアピールすればいいんだよ。グループを作って寸劇をやるなり、一人で熱く語るなり。たっぷり見せる心算で模擬戦してみるなり、恋人といちゃいちゃしてみるなり。水着着てお色気路線でも、青年の主張的なのでも。 ……ほら、お前等だって見た事無い? 小中学生位の時、学習プログラムのダイレクトメールで、これ始めたら志望校合格した上彼女も出来て薔薇色ハッピー! みたいなやつ」 「ああああ……」 納得するリベリスタ。 「そういうノリでいいのかよ」 「何でもいいって言っただろ」 沙織は軽く頷いた。 「どうせ全部は使えないし、最終的には何パターンかに編集して繋ぎ合わせる方向だからな。 リハーサルみたいなもんだし、使える分しか使わないから何でもいいの」 「成る程。監督は……」 「俺」 「やっぱり」 合点の言ったリベリスタは小さな溜息を吐いた。 沙織の様子を見る限り確かに説明通りの意図もあるのだろうが、半分位は悪ふざけの産物に違いない。 「しかし、アークってそんなにいい所だったっけ……」 フェイトを持っていてもいなくても某ゼミの如き躍進は難しかろう。 「プロパガンダの鬼、かの宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルスは言いました――」 やれやれ、と肩を竦める沙織。 「――事実と宣伝は関係ない」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月06日(金)22:29 |
||
|
||||
|
||||
| ||||
| ||||
|
●メディアの世紀 情報を制する者は世界を制する――誰が言ったか言わないか、そんな言葉も真新しくも聞こえない昨今である。 社会の保有する情報が多い程にそれを発信する側にも強さが要求されるもの。受け手側の認識は氾濫する情報に目まぐるしく移り変わる以上、より強い印象を残した何某かこそが勝者と成り得るものなのだ。 故に現代社会の商業戦略の多くはその情報を制するべく広告に活路を見出した。 商品の宣伝は言うに及ばず、イメージ戦略から流行の仕掛けまで。企業のみならず、軍も組織も国家まで――時に些か下品であざといと揶揄されながらも広告は社会の構造に重要な存在感を発揮してきたのである。 その中でも赫々たる存在感を残してきたのがメディアの世紀の申し子とも言えるテレビである。 テレビメディアがインターネットの普及と躍進に押され、往年の力を失いつつあると言っても――そこはそれ。何十年と培われてきた公共の電波による発信力は未だ抜群の価値と評価を社会に示し続けているのであった。 故に今日のこの日は必然だった。その訪れは必然だった。 メディアを利用した情報戦略と言えばかの鬼才ヨーゼフ・ゲッベルスの仕事振りが特に有名ではあるが。 彼のみならず独裁者というのは大抵映画を作ったり映像をいじくり回したりするのが好きである事も結構多い。 「そんな訳でCM製作だ。本日、お日柄も良く――俺の暇潰し……もとい、お仕事も絶好調」 かのアーク戦略司令室長・時村沙織が面白半分で……じゃなかった。アークの更なる発展の為に用意した新しい手段はまさに先人の趣味半分の仕事に倣ったものであった。 「CMか。広報戦略は士気高揚のためにもいいことだと思う。まあ、ポンとお金を出せる辺り時村財閥の凄さがあるが」 「面白いしね」 「僕は何時も通り本部の食堂を手伝うけどな……」 「CM撮影で協力できるとしたら、スクーターでの街の中を移動している様子とか。 僕のスクーターは50ccのミニバイクじゃなく、400ccの自動二輪の方ですね。法定速度を守りましょうとか、二輪部門とか」 感心半分、呆れ半分に達哉が頷き、貴志が言葉を添える。 「ああ。気が向いたら撮りに行くぜ」 二人に応える沙織に「はいはい」とそあらが手を挙げた。 「あたしはさおりんのお手伝い。お茶やお弁当はあたしにお任せ下さいです。愛情たっぷり手作りなのです」 「はい、笑顔。そうそう。笑顔、笑顔」 「恥ずかしいのです。でもさおりんが撮りたいなら……可愛く撮って欲しいのです」 今日の良き日に、カメラを片手に。監督を気取ってカメラを向ける沙織に対して、くねくねと身を捩るそあらが頬を染める。勿論、この上なく説明が不要な局面である。まるで落ち着きがなく激しく揺れる彼女の尻尾は何時もと全く変わらずに彼女の内心を示していた。 監督を務める沙織の手伝いを買って出たのはそあらだけでは無い。 「それで――お手伝いに来たのだけれど、具体的には何をすれば良いのかしら?」 手伝いに来たとは言いながら「まさか、私に重い荷物を運べなんて言わないわよね?」と先んじて釘を刺した氷璃に沙織は「勿論」と笑って答える。視線が絡めば面映く、思わず長い睫を伏せた彼女はなかなかどうして複雑な乙女である。 「予め言っておくけど――私を撮影するのはダメよ」 本来ならば頼まれても来たくなかった類の話である。 (私の時間は止まっているから、それに――) それに、万一にも見つかりたくない相手が居る。今も自分を探しているであろう『姉』は彼女にとっては珍しい恐怖の対象だった。 何処まで分かってか目前で肩を竦める自信家が好き。『今日だって何だかんだで単に一緒に居たかった』というこの上なく分かり易い動機は彼女自身が忌避する所の――『自身の撮影』のリスクを上回っているのだが。それを口に出来る程、彼女は素直では無い。 「どうせならカメラじゃなくて貴方のレンズで私を映して頂戴な」 「むぅ、さおりん。こっちを見るです」 ツンと唇を尖らせる氷璃と、沙織の袖をぐいぐいと引くそあらである。 全く毎度の事ながら微笑ましくもかしましい少女(?)達のやり取り小さく含んだ笑い声が漏れた。 「忙しいねぇ、沙織君も」 幾らか人の悪そうな――人を食ったような調子で肩を竦めた沙織をからかったのは烏である。 「撮影助手の心算で来たが、正解だったかねぇ? これ、見てるのが一番楽しいかも知れねぇし」 「面白がらせる心算で居る訳でもねぇけどな」 「まぁ、そう言わない。しかし、時村グループ系列のCMとは言うけれどバリエーション的に収集が付きそうにも無い気はするんだがねぇ」 「CMですか。欧米辺りはなんかやたらと凝って、意味が判らないCM……多いらしいですね」 珍しく文化的な発言をする騎士子さんことアラストールである。 「私的に何やら印象深いのが、スポーツで特定チームが優勝したり大活躍した時のCM。欧米産。 ホームラン打ったり、ハットトリックを決めたりするシーンを酒場で見ていた客が赤の他人と抱き合って喜ぶというもの。 その赤の他人がホッケーマスクの殺人鬼だったり、ゾンビだったりチャップリンだったり大統領だったりとフリーダムで面白く……」 「成る程、まとまらねぇな。間違いない」 烏の危惧は全くまともな想像力のある人間にとっては余りにも当然過ぎて耳が痛い。こんなもん出した過去の俺にナックルパートしてやりたい。 ◆企画書 0.00 俯瞰 都会の街並み(BGM On) 1.05 駆け抜ける幾筋もの光 合間合間に各リベリスタ撮影カット。無数に。 6.50 演者、直立不動にて背後全身。シルエット。 7.35 撮影カット挿入(BGMテンポup) 8.05 ナレ「この世界のありとあらゆる神秘へ」 9.05 演者足元から背中を。背中に「Attack Rise Knowledge」 9.45 撮影カット挿入 以下背景に 10.30 ナレ「挑戦し続ける」一枚絵 11.30 BGMクライマックス 12.30~ラスト ナレ「共に未来へ。時村グループ」 画面、ロゴ 「例えばコレ……」 鷲祐が提出した企画書に視線を落としながら理央が言った。 「……ま、今日はあっちこっち走り回る形になるからね。思ったより重労働になるかも知れないよ」 「長丁場になりそうですけど、皆さん楽しみにしているようですからね」 凛子が小さく笑う。沙織やイヴに対談形式を持ちかけるのはどうだろう、なんて思いながら。 「編集もありますし、一日がかり……いえ、一日じゃ済みませんね」 直接的な手伝い以外にも『補給』を確保する等――仕事は山とありそうである。尤も監督の世話はしないでも当人の周りをくるくると回る(´・ω・`*)が何とかしてくれるに違いないのだが。 「うーす。CM撮影なんて面白そうなことやっているんだな。ポーターだったら任せろ」 「バックアップはお任せ下さい。たまには裏方の大変さを味わっておくのも良いでしょう」 面白そうな事に顔を出すリベリスタは多い。援軍に腕をぶすのはディートリッヒにリーゼロット。 「果たしてどんなものが出来ますか楽しみですが、やはりこういったことには費用対効果というものを考えてやっていく必要が有ると思います。 経費は出来るだけ抑えられるところは抑えて、でも、出すべきところにはちゃんと出す。 お金の使い道というものはちゃんと経理担当者がチェックしてこそのものですからね」 「キサは顔を売りたいわけじゃないから直接の出演はしない。代わりにCGのショートムービーを作ってみるよ」 同じく、ベクトルは違うが茉莉が綺沙羅が一つ気合を入れた。 「前にも言った気がするけど超優良顧客とはいえ一社相手だけではこのせんせいきのこるのは難しいと思うのだわ」 微妙に乱れた日本語でエナーシアが言った。えなちゃんがかわいい! (故に目的は『アークのCMに便乗してのJaneDoeOfAllTradesの宣伝』よ。 具体的方法には『JDOATのロゴの入った上着を着てCMに見切れる』なのだわ。今日の私は切れる、見切れる、そう職人! 撮影後に編集があるといっても数が多ければ取り零しが発生する、詰りは飽和攻撃なのだわ。戦争は数なのですよ、兄様!) 変なノリのえなちゃんにインタビュー。 ――桃子対策は? 「逆に考えるのです、態々対策を書くから捕まってしまうのだと考えるのですよ」 ――もうそこに居るけど…… 「!」 ><。 「はぁ……」 簡単にスケジュールを纏めたメモをちらりちらりと確認した理央は重々承知している。 烏の言ったのは何処までも事実である。バイタリティ溢れるリベリスタの場合、何だつまりその。 「まったく……」 理央が冷静に視線を向けた先には、 「度重なる沙織ん襲撃の失敗! 忸怩たる、忸怩たるこれは! なんたる黒歴史か、敗北か!? しかし今、三高平にはアシュレイ姉さんという心強い女神がいるのです!」 「あははー。私、女神だったんですかー」 「そうですとも! 助けて、アシュレイも~ん! 一緒にヤツを倒しましょう!」 企画の趣旨もへったくれもなく、打倒・沙織に闘志を燃やし頼ってはいけないタイプの人間に縋るエーデルワイスの姿があった。 相も変わらずゆるゆるにジュースを片手にアークの始めたトンチキな騒ぎを眺めているアシュレイを必死でたきつけようと頑張る彼女の姿は痛々しい。先は桃子、今度はアシュレイ。明らかに頼る人間を間違えている、全く何とも、以前からだが。 「さて、何処から回るか……」 「これも仕事だろう。良いCMが出来ることを祈っているぞ」 「サンキュ」 声を掛けてきたウラミジールに沙織は片手を挙げて応えた。 自信家の彼は全くもってエーデルワイスを障害と看做していないらしい。全力で空回る彼女には一切構わず、今回の企画に参加したリベリスタ達が各々提出した手元の資料を眺めながら少し思案顔をしている。 歩き出した沙織の後をバタバタと一行が追いかけた。 「ああっ!? 姉さん、ターゲットが射程範囲外に!」 「頑張って下さいねー」 薄情にひらひら手を振るアシュレイに既に涙目のエーデルワイスがうろたえる。 実はこの時、珍しく普段は鉄壁のガードに余念の無い……謂わば天敵の恵梨香がこの場に居なかったのだから彼女にとっては幾らかやりやすい状況だったのだが、機を見て敏に動けないが故の三下である。 「あああああ……」 「少し、いいか?」 悲しげな声を漏らす彼女に構わず、くぴくぴとジュースを飲むアシュレイに声を掛けた影があった。 「……?」 アシュレイが振り返った先には苦笑いを浮かべた拓真が居た。 「アシュレイ、一度お前に占って貰いたいと思っていてな。あぁ、破滅願望だとか、そういうのではないんだが……」 「塔しか出ませんが」と彼女がお決まりの台詞を吐く前に彼は言った。 「……占いは、飽く迄もこれからどうなるか、の指針だろう? だったら、その結果を覆せる様に努力するさ」 きっと沙織も努力するのだろう。俺も努力するだろう。約束されたこの、余りにも濃密なgdgdに立ち向かうべく! ヘルマンが突っ立って納豆を食っている。 ●撮影開始! 「突撃アーク本部! 的な紹介CMだよ!」 陽気な夏栖斗が今日もアグレッシブに動き出す。 三高平一、じっとしていられない彼は今日も今日とていの一番に動き出す。 「アークには可愛い女子のオペレーターも沢山! ナンパしていい仲になるのもまた一興 ああ、でも僕の相棒アタックしててもなかなか彼女出来ていないけど、そういうのはかなり少ないほうだから!」 幾多の戦場を共に踏む相棒を後ろから斬りつけるような発言を並べ、楽しい秘密組織を解説する夏栖斗君。 「あ、桃子さんだ! アークにはこんな一見天使のような邪あ……」 ドゴォッ! ……と、嫌な音で一瞬暗転。 「……アークにはこんな天使なロリもいるんだよ! 時村グループ関連会社からの福利厚生もばっちり。就職するならアーク! 日本のリベリスタシェアナンバーワン。楽しいアーク、かっこいいアーク!」 蒼褪めた顔で口の端から涎と血を零しながらやり切った彼がカメラから視線を切って言った。 「あ、でも桃子さんっていい加減ロリッて言う年齢でもないよねぇ~。 意外と料理うまいんだからその性格さえなんとかすればいいのに残念だゲブウ!?」 ~しばらくお待ち下さい~ トップバッターが何時もの()を決めた見慣れた光景は置いといて。 監督沙織とその一行は三高平市全域で好き勝手する……じゃなかったCMを材料を企画するリベリスタ達の様子を捉えるべくその行動を開始していた。 「CM撮影ですか。私で宜しいのですか……」 特定の需要層へのアピールが物凄い真琴が少し困惑し、少しはにかんだように言う。 「撮影していただくといっても……別段、面白い姿もお見せ出来ませんが……」 境内を箒で掃き、社務所でお守りを買いに来たお客さんの対応をする……日常。だが、それが良い。 季節外れの――プールサイド。ビーチベッドに寝そべった美しい女が二人居る。 一人は黒いV字の水着を着たやたら色っぽい黒髪の女、もう一人は不似合いなスクール水着をはち切れんばかりに持ち上げる銀髪の女。 つまり、二人は杏と木蓮。共通項はどちらも世の男性方が視線の方向を持て余すほどにグラマーという、単純事実である。 「へへ~、なんと! このボールはモル柄なんだぜ!」 「そお?」 やや季節外れながらプールで楽しむ二人である。しかしこれはCMである。そういう大義名分がある。 杏が木蓮に抱きついた。脱がないから全年齢向け――そう言い張る杏と木蓮のオパオパがふにゃーん。 (これはCM、これはCM……) 耐える木蓮、トリックスター宜しく悪乗りして楽しそうな杏。 (しかし、こういう素材のCMで集まる人材って一体どういう……) 木蓮のもっともな疑問に答える者は無く…… 「……時村グループ」 肉感的な肢体を惜しげなく晒す杏の赤い唇がハスキーに吐息めいた声を漏らした。 一方、本部近くの駐車場―― 「頼むよぉイヴちゃん。あたしのクルマの運転席座ってワンカット撮るだけでいいからさぁ。あ、そこの一杯あるスイッチ全部押してぇ」 「む、こう……?」 少女であるイヴの場合、夜間の労働は制限されています。然るに後程、夜の映像を合成するという事で…… 何とか智親(守護神)に承諾を取り付けた御龍が自慢の11t――『龍虎丸』に乗せたイヴに何やらを頼み込んでいる。 強力な他人に協力を願ったのは三高平市のライヴハウスを訪れたヨハンも同じくである。 「あの……僕とコラボして貰えませんか? Black CatのライブをCMにしたら目立つし若者受けすると思うんです。 僕もバイオリンを皆に聴いてもらいたいし……僕一人じゃインパクト薄いから、できたら一緒に……」 「フッ」 何処か拙くしかし必死に頼み込むヨハンに伸暁は小さな笑みを漏らした。 「どう思う、SHO」 「答えは、決まってる。そこに音楽がある限り、俺達は止まらない。ねむいねこ」 キーボードの前で変なポーズを決めたSHOに微笑む伸暁。 「――いいだろう」 話は決まった。 「諸外国へも配給できる、のかな? ……年若いコの場合、日本に来るのはとても不安な部分もあるだろうから。外国向けにどうかな。 例えば、学生くらいのリベリスタの人にスポットをあててその人の一日と日常を……とか」 真顔のルークが思案顔で企画を詰めている。 「親子で買い物をしている姿を撮影していただきましょうか。 やはり、親子で過ごす休日というものは良いものです。 家族サービスというものは父親の大切なお仕事ですからね――」 穏やかな笑顔の京一はまさに子煩悩な優しいパパの風情である。 「……でもその度にお財布の中身が薄くなるのは辛いですね。 それでもやはり家族の笑顔が見られるのは嬉しいことです。 どこかのCMでも有りましたが、家族の笑顔=プライスレス、でしょうか?」 実に微笑ましい京一の心が暖かくなる笑顔である。 「貴樹のオススメの日本料理を食べてみたいデスよ。 こっちに来てからちゃんとした日本料理ってあまり食べれてないデスしね!」 笑顔と言えば、シュエシアの表情がキラキラと輝いている。 「場所は和風の料亭が良いデスね、見てる人間が羨ましがるような豪華な場所にしましょう。 ……まあ、半分くらいは建前デスけど。半分くらいはっ」 言葉の後半は極々小声で―― 「成る程、では予約を取るか。行きつけの良い店があるぞ。少し遠いが構わんな?」 「はい。勿論デス」 ――CMの建前が何処かへ吹っ飛んだシュエシアと貴樹のやり取りを息子がレンズごしに複雑なそうな顔で眺めている。 そして、ジョニー含む優秀なるスタッフがセットを用意したセンタービルはすっかり撮影スタジオの様子を見せていた。 「舞台はどんなとこでもいいけど、普段の戦いみたいにドンパチしたいな」 得意気な顔でそう言ったのは嵐子である。 どんなVFXにも負けない本当の迫力を見せ付けられるのが神秘である。 「兎に角、音も見た目も派手な感じで!」 「ふむ……ではお付き合いしますかな」 三高平の楽しい面は他の誰かが伝えるだろうと見込んだ嵐子である。セバスチャンが相手ならば活劇は申し分無いだろう。 「うむ、わしは筋肉好きに人気があるらしい……そんな人達や肉体派系へPRするようなCMを作成じゃな」 トレーニングジムでは虎吾郎が思う存分自らの筋肉を誇示し、アピールし。 「力の有り余っているそこの君! うちに来てみないか?」 サムズアップ。 「アークは福利厚生も凄いよね。そういうところをアピると良いと思うんだよ。 夏のバカンス、温泉旅館に時村ランドとかあったよね。 沙織室長の誕生日も凄かったな……まああれは色んな意味でちょっとビックリさせられたけど」 ウェスティアがうんうんと思い出して頷いた。 要するに今日沙織が作りたいのは時村グループの名を借りて、その実アークに人を集める為のCMである。 「そんな雰囲気が伝わるようなパーティー会場的な絵面を用意すると良いんじゃないかな! 要するに…ケーキとか甘い物一杯作ってもらってそれを私が幸せそうに食べてるところを撮ってもらう! CMの為であって、けっして私が甘い物を食べまくる為じゃないんだよ!」 些か私欲めいたウェスティアはパティシエの作ったケーキの山の前に瞳を爛々と輝かせていたし、 「きゃー、芸能界からスカウトされたら、どうしよ!」 取らぬ狸の皮算用を今日も激しくキメる舞姫は今日もきっと舞姫だった。 「神秘的な何か撮る……正直ですね、神秘的って言っても私にはこの耳と尻尾しか無いのですよ! はっ!? これは全国に私がチーターであることを知らしめるチャンスなのでは!?」 朱に交われば赤くなり、舞姫病の重篤な症状を示す京子である。 二人揃って『熱海ニャンニャン』。どういう結論かは些か不明である。 どうしてかチーター耳メイドさんで神秘! なるトンチキな結論に到った二人は、 「チーター耳メイド喫茶で、ご奉仕するにゃんにゃかにゃーん♪ ご主人様たちの人生を、超ステキにサポート♪」 「だーかーらー、猫じゃないのです! チーターなのですってば! 三高平で私を見かけたら『チーター娘だ』って思って下さい! 『にゃんにゃかにゃーん』なんて言いません!」 事の他、楽しそうに漫才している。 いや、漫才していた。にゃんにゃかにゃーんな京子がそう言えば今日の監督は沙織だったっけ、と気付くまでは。 「ち、違うんです! 沙織さん! これは舞姫が!」 「呼び捨て!? 私、先輩なのに!?」 ……えーと(笑) 『これは時村グループ及び三高平市のPRコマーシャルです』 富士山を臨む展望ブースではスケッチブックを持った糾華が神妙な顔でぎこちない笑みでカメラを構えた沙織に一礼していた。 少女の傍らをひらひらと羽ばたくのはアクセス・ファンタズムの――幻想蝶。 『これは時村グループ及び三高平市のPRコマーシャルです』 リベリスタ達は役者ではないから――決してこういう事に慣れている……という訳では無いのだが。 やはり潜った修羅場がモノを言うのか、それとも生来から度胸がある人種が多いからなのか。意外と積極的に事に臨んでいる顔が多い様子。 「ほら、私達はいわゆるロリババアという奴じゃろ? 普通は『若い力を』と呼びかける所じゃけど、革醒者ならば年齢に関わらず肉体は若かったり戦闘力が十分あったりする訳じゃよ。 高齢化社会の進むこんな世の中じゃから……そう! 私達は、老人に呼びかけるのじゃー!」 「えっ、あたしらがロリヴァ……なんだって卜部? ともかくそうだね、アークは革醒してりゃ老若男女問わない『器のでかさ』が売りだ。国籍も前歴も関係ないからね! でも……ええっ老人にアピール!? あたしらがかい!? 説得力がログアウト!? 何!?」 積極的に気合十分に二人揃って怪気炎を上げるのは冬路の雷鳥の二人だった。 「ということでこんなの作ってきたんじゃよー」 大きな胸を張り、どーんとばかりに冬路が広げたのは自身と雷鳥が手を取って暁に立つどっかの軍隊募集を思わせるようなポスターだった。 「こ、これは……」 ごくりと息を飲む雷鳥。 「こんなあたしら二人が……カムチャツカ半島を越えてがっちり握手を!」 旧日本軍とソビエト軍を連想させる二人は何ていうか恩讐の彼方に何とやらに相応しい……のか。 「……え? 『リベリスタ』がアウト?」 「うん、アウト」 二人で(´・ω・`)(どりる)様はいとおかし。 「何度でも立ち上がりアタックする天風です。今日もクラリスさんに嫌われない程度にれっつごー」 私利私欲何だか分からないが、今日も今日とて行動が分かり易いのは亘も又同じであった。 「目の付け所が良いですわね! テレビに出る! 等という重大任務、このラ・ファイエット家の娘である私を置いて他には!」 同様の底の浅さを見事に露呈し、見るからに出たがりのクラリスもそれは同じであった。 「キャッチフレーズは『~高貴なる漆黒のオーラを纏う乙女クラリスによるアーク紹介~』とかで!」 「成る程、グッドな企画ですわあ!」 オルクス・パラスト所属である自覚がまるで無いクラリスがぐっと拳を握る。 CM何だかドキュメンタリーなんだか趣味のイメージビデオなのだか良く分からない撮影は沙織の手に拠らず、亘自身の手で行われる事になった。ロケーションは空を衝く摩天楼の上層階、落ち着いたラウンジである。 「では、台本なしで偽りの無いクラリスさんのそのお姿を!」 「望む所ですわあ!」 「なーなー、くろリスお嬢さん。おんなごころって、如何すれば、胸きゅんかしら?ろまんてっくかしら? おしえてーおしえてー」 「出たな、天敵ですわあ!」 亘とですわあの野望はりりすの出現で一瞬で頓挫した。 「教えてくれたら、だきゅむにしてあげるからー。教えてくれなくてもだきゅむにりたいけどー」 へらへらと笑うりりすは思い切り身構えるクラリスにしかし余り頓着していない。 「一寸、かめらこいこい。かもんかもん」 付き合いのいい亘がりりすにカメラをフォーカスする。 「櫻のお姫様、見てるかしら?まぁ、見てなくても良いんだけど。 そんじゃ言っちゃうけどさ。僕は、君の事が好きになったぞ。必ず会いにいくからね」 りりすがカメラに向けて放った『告白』はやがて事実になる少し先の物語である―― 「結成してから一日ぐらいしか経っていませんが……バンドをする事になりました」 のっけから不安な一言を吐き、ドラムを叩き始めたのはへクスである。 『一石二鳥』の面々――石役(?)のへクス、鳥役(?)の紅葉、久嶺の三人はどういう数奇な運命か今日この場での運命のセッションを迎えていた。 (だ、大丈夫、アタシはできる……) 久嶺は緊張にごくりと息を呑み、肩から下げたベースをしっかりと持ち直す。 ドラムのへクスにベース&ボーカルを担当する久嶺、お姉さまこと紅葉はギター&ボーカルである。 「石役は鎧でも着てた方が分かり易いですかね?」 何故だか楽器は結構出来てしまうへクスに比べて久嶺の気負い方は半端では無い。 それもその筈、久嶺にとってはこれは決して遊びでは無いのだ。 ――CM! TVに出られるのよね!? お姉さまの素晴らしさを存分にアピールするチャンスじゃない! お姉さまが輝くと場所といえば、もちろんライブ! さぁ、お姉さま、存分に歌ってくださいませ! 喜び勇んで提案したはいいものの、手伝わされる事になったのは彼女にとっての大いなる誤算であったからだ。 「結成からそんなに経っていませんけど、大丈夫ですよね。普段から仲良しですし」 邪気無く紅葉にそう言われてしまえば失敗出来る筈も無い、逃げ場も無い。こくこくと頷く久嶺は却って此方が石である。 「じゃあ、始めましょう――!」 極上の笑顔を浮かべた紅葉が大きな羽を開き、弾ける笑顔で演奏を開始する。 嗚呼、しっかりとしたレッスンを受けた彼女のレベルは高い…… 無軌道極まりない、まさにやりたい放題の光景の中で実に堅実にCMの何たるやを追求する人物も居た。 「ときむら~♪ ときむらぐる~ぷ~♪」 何処か調子外れに、しかしこの上なく分かり易くテーマソングを口ずさむその男こそ、犬吠埼守その人である。 『仔犬が危ない!』 新幹線だって止めれるぞ! 『お婆さん、お持ちしますよ』 露骨に100t超えてそうな荷物を軽々と! 『お嬢ちゃん、迷子かな?』 ダンジョンめいた新宿・梅田の駅でも迷わず見事なナビゲーション! 「ときむら~♪ ときむらぐる~ぷ~♪」 「貴方の安心、任されて!」 エキストラのセンタービル従業員が一斉に敬礼する。 「世界の少女を守り育てる、時村警備保障(株)がお送りしました!」 「お前、言う事無い」 普通死ぬだろな困難を跳ね返して神秘をアピールしながらも、CMの体裁を外さない守の奮闘に沙織が大笑いで拍手していた。 「塔の魔女さんはああいうCM出たかったぁ?」 「うーん。私の場合は顔が変に売れているので、あんまりこう目立ちたくは無いですねぇ」 当人曰く「大道具の影に隠れていれば仕事をしているように見えるでしょ」。働く気は余り無い、お手伝いという名のサボり――葬識はあれこれの撮影を何となくぼーっと眺めながら同じく辺りをうろちょろとするアシュレイを捕まえて歓談に興じていた。 「それにしてもなんとも御祭り好きだよねぇ~」 「あはは。皆さん賑やかで楽しいなぁ」 朗らかに笑ってみせたアシュレイを少し面白そうに眺めて葬識は言った。 「あ、そうだ、俺様ちゃんここで昼寝するから。おもしろい寝物語でもステキな子守唄でもきかせてほしいなぁ~」 「えー? それナンパですか? 死んじゃいますよ、私に絡むと」 「あはは。どうだろ。あ、言っとくけど殺人鬼ちゃんも不吉なのは一緒だからねぇ」 閑話休題。 「三高平のCMか! 剣姫たるもの、ここは気合をいれねばな!」 バイクに跨り、颯爽と登場したイセリアがセンタービルを見上げて「フ……」と何故か勝ち誇った。 「ようこそ! 諸君! みろ! 三高平にはコンビニとかそういうのがあるんだ!! あれだあれ!! あそこのスイーツがうまいんだ! わたしはな! 一週間に1回ぐらいはかうぞ! しかも全国チェーンだ! おおきいだろう! あとあそこ! あの自販機のコーラも美味い! 本当に美味い! ドイツ人もびっくり! インド人とかも、居ればたぶんびっくりするんじゃないか? カレーもうまいな! これも全国チェーンだ! でかいだろう! ずっとあっちにいくと、私の家もある! 愚妹も住んでいるぞ、これは関係ないか! あ、そうだ、CMだなこれは、ときむーらぐるーぷー♪」 騒がしいイセリア。見るからに役に立たないイセリア。←暴言 通りがかった少女が彼女を指差して母に問う。 「ねぇ、ママ。あのおねえちゃんどうして一人でさわいでるの?」←沙織は速攻で撮るのを辞めたらしい 「……さあ、ママにも分からないわ」 「ねぇ、ママ。あのおにいちゃんどうして泣きながら納豆食べてるの?」 「……………美紀ちゃん、もう帰ろうか」←目を合わせちゃいけません ●撮影中! 「あら……ここは何処かしら?」 空色のエプロンドレスを身に纏う、可愛らしい金髪のアリスがきょろきょろと町並みを見回した。 1865年にイギリスの数学者にして作家であるチャールズ・ラトウィッジ・ドジソンがルイス・キャロルの署名で世に送り出した児童文学は誰もが一度は見聞きした事がある素晴らしく有名な作品の一つであろう。それは一人の少女が白兎を追って穴の中に転がり落ちてしまう物語――奇しくも同じ名前である『アリス・ショコラ・ヴィクトリカ』が時計を持った兎である『ミルフィ・リア・ラヴィット』を追いかけるというシチュエーションに妙がある。 「やあ、アリス……この街は初めてかい? ぼくはこれから女王様のお茶会に行くところさ、君も行きたいのなら、ついておいでよ」 チャーミングな笑顔をその美貌に浮かべたミルフィは内心の…… (ああああああ、お嬢様ッ! 何てお可愛らしいッ!) ……な、素の反応は極力配役の演技の中に封じ込め、台本通りに『アリスを案内する白兎』を気取っていた。 神秘に満ちた街。三高平は確かに不思議な異世界のようである―― 季節も少し柔らかさを増してきた昨今である。アリスをエスコートし、街中を案内するミルフィはやがて目的地へと到達した。 光溢れるオープンテラスのカフェである。『ハートの女王様』である所の桃子と、彼女をあれやこれやと飾り付けるティアリアがひらひらと手を振った。 「可憐な少女枠って必要だと思わない? そんなイメージに合うキャラクターといったら、やっぱり桃子とわたくしよね」 くすくすと笑うティアリアは普段の嗜虐的な笑みを慈しむようなそれに変えて桃子の髪を弄り回している。CMの撮影という事で可愛らしい衣装は山程要求したのだ。 「春らしいイメージも出したいわよね。ふふ、たまにはお人形さんになりなさい?」 「むー……」 どちらかと言えば圧倒的に誰かを弄ぶ方を好く桃子は複雑そうな顔をしながらもされるがままに任せていた。 ある程度、某JAM少女で遊んだ後だから落ち着いているのかも知れないが。(いいえ、今回は逃げ切ったのです><。) (ハートのクイーンは女王様と言うより魔王様ですわね……) と、それはさて置いて。 「ようこそ、女王様のお茶会へ、そして、三高平へ……!」 「三高平って、とっても素敵な街です……♪ 是非いらして下さいね♪」 ミルフィとアリスがカメラに向かってウィンクする。実にメルヘンテイストの溢れる素晴らしい絵に沙織がグッドの合図を出した。 Before 「今日の撮影テーマは愛!」 鋭く叫ぶ影継(漂白済み)。 「アークに溢れる『愛』をテーマとしてPVを作成する。セバスチャンの主従愛とか。 アークが誇る美天使桃子様にも是非、『姉妹愛』という題材で一席お願いしよう。 他にも恋人同士が集まる光景や三高平のデートスポットを撮影して紹介を……」 After 「何故だ……心が痛い」 「……俺の魂は、浄化されたのじゃなかったのか!」 「そうか……やはり拭い去れぬ漆黒の憎悪こそが我が本性、俺其の物という訳か」 態々死地へ飛び込んだ影継が再び暗黒に染まり、桃子の腹パン動画を起用して…… 「や、やめて俺これから岡山で鬼退治にヘブンッ」 胃をひっくり返されたのは些細な余談として。 三高平中を舞台にしたCM(?)撮影は相変わらずマイペースに続いていた。 CMであるかどうか正直自信が無くなって来るような絵図も少なくは無いのだが……元よりそれら全ての業は映像の魔術師ジョニーが何とかしてくれるという触れ込みである。編集の鬼才ジョニーに任せておけば問題ない。(……という事にしておこう) 「さおりん、いいお天気だから公園に行くのです。ピクニックデートなのです」 お弁当は用意した。概ね趣旨すらも忘れた発言を飛ばすそあら。 「忘れてないのです。個性的な人々が住む素敵な街。最新設備、充実した仕事環境。そして最後は素敵な上司と永久就職♪」 「あら。いいの? そあら。そんな条件ぶら下げたら、沙織なんて引く手数多よ」 「ふかくだったのです(´;ω;`)」 軽口で苛めてみせる位の余裕はたっぷりの氷璃である。 とことん人生の墓場から逃げ回る沙織はその辺のやり取りは兎も角として「公園か」と頷いた。 「そうね。公園も撮影予定に入っているし……」 「丁度いいかもね」 氷璃と理央が頷き、ディートリッヒがリーゼロットが機材を運び出す。 三高平公園を訪れた撮影一行は、各所で各々の学芸会……じゃなくてCMプランを披露する面々の撮影に乗り出した。 「あ、はいはい。順番ね、まずはえーと……」 こちらもやはりディレクターを請け負った烏が資料と現場を見比べながら仕切っていく。 「貴女の可憐さをお借りしたいの。良かったら協力をお願いしてもいいかしら」 今日も今日とて、半端な男より余程全く王子様である。「!」と反応した桃子を公園でエスコートするのはミュゼーヌである。 「花が綺麗だから、貴女とここで撮りたかったのよ」 穏やかな日差しのもと、春の花と触れ合いながら公園を歩く。 遊歩道で梅桃と書くユスラウメを見かけて立ち止まり、二本並んだそれに手を伸ばしながら、傍らの桃子に微笑みかける。 「寄り添い合う二本の木……ふふ、桃子さん達姉妹みたいね」 テーマは『革醒者が穏やかに過ごせる街』。そんな演出である。 クールビューティーの彼女はこれもそつなくこなしているようには見えたのだが…… 「……でも、カメラを前にするとやっぱり緊張しちゃうわね」 「かわいい!」 照れ顔ではにかむミュゼーヌに桃子はテンションを上げている。 いい雰囲気で撮影を楽しむのはルアとスケキヨも同じだった。 (テレビに映るのは恥ずかしいの。いつもしてるみたいに手を握る事も出来なくて……) ポカポカと暖かい陽気の中を二人並んで歩く。 ルアがそっと見上げた傍らには愛しいスケキヨの横顔がある。 ドキドキが止まらない。緊張でぐるぐるだ。それはテレビを意識しての事であり、それ以上に彼を意識しての事であり…… 「ぁ……」 無意識にスケキヨの袖をきゅって握っていたルアは自分の方を向いたスケキヨに小さな声を漏らした。 桜色の唇が小さく戦慄く「これは、えっと、その、えーと」。纏まらない言葉が切れ切れに宙を舞い、形にならないで彷徨っている。 「フフ、分かってるよ」 顔を少し寄せて小柄な彼女の耳元に唇を寄せ、スケキヨはルアの手を取った。 元より彼女が緊張しているのは分かっていた。すぐにそうしてやらずに少しだけその可愛らしい様を眺めていたのは謂わば八文字スケキヨだけに許された役得の堪能といった部分であろうか―― 「大丈夫、今日のルアくんもとても素敵だよ。こんな恋人を皆に自慢できるなんて嬉しいな。ルアくんとの出会いをくれたアークに感謝だね――」 言葉はカメラの拾わない極々小さな囁きである。勿論ルアの顔はぼっと赤くなり、頭は煙を吹くようだ―― ――暗闇の中でもがいていた俺を救い出したのはあの一条の光だった―― リア充撲滅委員会で二代目会長を任じられた俺はもう居ない。 全てはアークに来て、アークに来たから始まった。イヴたんに誘われ、入ったアークで俺は成長出来たんだ―― 最終的な予定では絶望に打ちひしがれ闇の中で膝をつく竜一が、微笑む少女の声に面を上げ、泣き笑いの表情を返すシーンである。 「季節柄花見というのも良いか――桜を写すのも乙なものだろう?」 クールな美貌を少しのはにかみに染めたユーヌはポツリと一言を付け足した。 「……竜一と、花見をしたかったし」 四月に差し掛かれば桜の蕾も花開く。品の良い薄桃色にも負けない程に可憐なユーヌ。 「ここ! さおりんに教わった口説き方だ! ここは、NOBUに教わったトゥギャザーだ!」 「何だそれは。竜一は今日も変だな?」 恋人の奇行さえも平然と飲み干し、なでなでと頭を撫でる少女は今日も超然としていた。 「そうして、出会う恋人達!」 「わ……」 ひし、と抱きしめられればユーヌは幾らか泡を食う。 撮影は恋人達の風景なのだ。誰しもがここに来たくなるようなそんな映像を作らねば、大義名分は十分だった。 「こんな僕でも可愛い彼女ができました! 集え、アーク!」 テロップ予定のシーンである。後はジョニーに丸投げだ! 「……『花は桜木、人は武士』というが、リベリスタも似た感じだな? まぁ、潔く散る気はないけれど……最近妙に傷だらけだから気をつけろよ?」 カットの声と共に白い頬を微かに染めたユーヌが言った。 冗談のような戦いの日々の隙間の冗談のようなワンシーン。運命と呼ぶのならば、それは確かに運命だったのだろう―― 「ギリギリギリ……」 遠い木の影から不審で不穏な歯軋りの音が響いていた。 「ギリギリギリギリ」 言わずと知れたお兄ちゃんラヴvな虎美である。 「また私をほったらかしにしてやっぱり……ぐぎぎ この手にした武器が思わず使いたくなるけど、ここは我慢我慢。全国放送でそれはちょっとまずいしね……」 すうはあと深呼吸を繰り返す虎美は携帯の履歴に残る『ライバル!』(ユーヌ・プロメース)の着信履歴に目を向けて、取り敢えず桃印のスタンガンから意識を遠ざける事に成功した。 (……あっちから誘われると却って悔しい気がするんだよ) 勘良く沙織が向けたカメラにダブルピースする妹。お兄ちゃんの女からの施しは受けないもん、と強がってはみるものの花見はしたい。どうするか。 (そうだ。撮影が終わったら我慢しなくて良いよね…… お兄ちゃんを問い詰めに行こう。その時こそ虎美の二刀流が火を噴くんだよ。 私を捨てようとするお兄ちゃんが悪いんだよ…… そんなお兄ちゃんにはお仕置きしなきゃ。お兄ちゃんにはお仕置きしなきゃ。お兄ちゃんにはお仕置きしなきゃ。 そしたらきっと帰ってきてくれるよね。ね! お兄ちゃん) 取り敢えず思い詰めてみたらしい。 「平和ですねぇ……」 そんなちっとも平和ではない光景を傍目に眺めながらしみじみと呟いたのは孝平である。 「どこかで聞いた覚えがありますが、テレビのワイドショーでネタの無い時に視聴率を稼ぐのに有効なのは三つ。 子供、動物、とある高貴な方々だそうですが――動物なら特に子猫や子犬のような無邪気な姿を見せるものが良いそうです」 動物達と彼が戯れる光景は確かに言葉通りの平和である。 一方で、翔太、ツァイン、優希等が企画したのは活劇風の企画である。 「きゃあ!」 「ぐふふ、この少女は私がいただきましたぞ」 「やめろっ! 悪執事、セバスチャーン!」 棒読みの悲鳴に台詞、熱く魂が燃える優希が吠える。 「闇に染まりし者を灰へと変える、正義の炎! トキムレッド!」←ノリノリ優希 「どこにも飛んで行く正義の味方! トキムブルー……って、なんだこれ?」←微妙に覚悟の足りない翔太 「悪を消し去る正義の閃光! トキムイエローッ!」←自重しないツァイン 三人揃って…… 「トキムライダー!」 地面がどかんと爆発しもうもうと煙が立つ。 ヒロインに真白イヴ、悪の怪人役に珍しく不本意そうな顔をしたセバスチャン・アトキンスを起用した彼等の『トキムライダー』は所謂一つの戦隊ヒーローめいた……特撮を思わせる映像であった。 何十回のNGだってへこたれない――硬い信念を持つツァイン以下三名が『日本の明日を守る、時村グループです』。 〆の一言に到達出来るのは何時の事か…… CMの撮影スポットとして人気を集めているのは三高平学園とキャンパスも同じだった。 「アークに何が足りないかって、そりゃ清楚な乙女よ……っていうか、変態が多すぎる……」 絶望的な面持ちで正鵠を射抜いてしまったのはレイチェルである。 「制服を着て、校門前から校舎まで歩いていく映像を撮ろう!」 一念発起した彼女が想起するナレーションは、有るべき姿そのCMは―― ――三高平に集う乙女が、今日も天使の笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。 汚れを知らない心身を包むのは、赤い色の制服。 胸のリボンは乱さないように、チェックのスカートは翻さないように。 ゆっくりと歩くのが、ここでのたしなみ。 私立三高平学園中等部。ここは乙女の園―― 「よしいける! あたしを中心にゆっくりと周るようなカメラワークで。最後はカメラを空に向けつつフェードアウト!」 ……微妙に自分押しの私欲入ってませんか? 校門での撮影は続く。 というのもこの学園でのCM作成チームは他所に比べて実に連携が良かったのだ。 予め大勢でグループを作った彼等は広いキャンパスを余す事無く利用して広範囲に渡る『学園紹介』を意識した映像造りを企画していた。 「三高平学園には付属小中高等学校が存在し、学生リベリスタも安心して仕事ができるのだ!」 最高にネアカに最高に活発に生命力の弾ける笑顔でMCするのは(ちょっとだけ芸能人的知名度のある)我等がミサイル・明奈であった。 「学生アイドル(候補生)としては外せない任務なのだ、これは!」 本当に実際に居そうな気さくなクラスメイトのような彼女は――アイドルでありながら気取った所がまるでない。学園のCMに起用するならば業界的に見ても抜擢の理由がある程度には相応しいと言えるだろう。 「時村財閥の支援もあって学習環境は充実。 豊かな人間形成と確かな就学は進路は様々に開く事でしょう。将来を見越した人生設計の一助になると思います。 寮施設も完備していますので、遠方からの学生さんも歓迎です」 きらんと眼鏡とデコが光る。デコが光るのはCG加工(※綺沙羅起用)の予定である。 本来がどうかはさて置いて、如何にも委員長然としたアンナは自分に求められる役割を良く理解していた。 「皆さんの入学をお待ちしています」 完璧である。 「次、ゆめのん!」 「はい!?」 一方で風雲急を告げる明奈のテンションに引っ張られるのは夢乃である。 「白石さんに引っ張られてきました。制服で来いとのことでした。 あたし、地味に、その、卒業したばかりなのですが……いいよね? まだ、なんちゃって高校生じゃない、ですよね!」 もじもじと何処か恥ずかしそうに身をくねらせる夢乃は大丈夫。体型は中学生にしか見えないから。←暴言 「カメラ? CM!?」 この期に及んで慌て出した彼女が不意に目を奪われたのは舞い散る桜の花びらだった。 そうして見ればいい素材。音声はつかえなくても、体型がドラム缶でも、彼女も十分見栄えはするのだが―― 「見よ、この充実した学園生活・施設達を!」 テンション上がる我等が明奈さんは巻き込んだ対象の事に余り頓着していなかった。 カメラの視点を変えましょう。 「……もぐ、もぐ……」 広くガラス張りから多くの光を取り入れる明るい食堂でゆったりと昼食を取るのはエリスであった。 「むぐ、むぐ……値段は手頃で豪華……お得…… 昼時には……学園の……生徒の……お腹を……満たし…… 外部の……人の……利用が……可能なせいか……生徒以外も……ちらほらと。美味しくて人気……」 もぐもぐと。 同じ昼食コマーシャルでも静と動。 購買に群がる男子生徒(リベリスタ)を千切っては投げ千切っては投げを繰り返しながらパンの元へ向かう勇姿(シーン)を見せつけるのは此方は活発そのものといった風の陽菜であった。フルーツサンドをゲットしてカメラに向かって決める勝利のVサイン。 「三高平学園は日々活気に満ち溢れてます! こんな学園に通ってみたいと思う人歓迎~。素晴らしい学園ライフを私達と一緒にどうですか?」 大量の蔵書を誇る学園図書館をアピールするのは落ち着いた姿が何処か司書を思わせるジョンだった。 「通常の公立図書館では見かけられない珍書・奇書・秘蔵書も。 利用者が限定され、禁帯出の指定を受けている書物を陳列された書庫には国会図書館クラスでも見かけないものも。 ビブリオマニアとっての楽園というべき場所ですね」 撮影は続く。最終的にどう組み合わせるかはジョニーの腕の見せ所なのだろうが、材料は(多分)多いに越した事は無い。 「待ったぁ~、ジンちゃぁん>< 一緒にかえろぉ~」 「ふっ、気にするな。では征くとするか!」 廊下に停めた(?)馬にまたがり、鷹揚に頷き―― 「くくく……寄り道も青春の一ページよ、蹴散らしてくれるわ!」 「そうね、おもしろいわ、帰り道だもの。いいわ、かかってらっしゃい、ぶっ殺してあげるから」 ――青春の一ページで不良共を蹴散らす露骨におかしい刃紅郎とルカルカの小芝居…… 「こんな波乱万丈な学園生活、送らぬか? 三高平学園」 「こんな不条理な学園生活、送りませんか? 三高平学園」 本当の台本は『こんな素敵な学園生活、送りませんか? 三高平学園』。 最後まで揃わない二人のアレが役に立つかどうかはアレだけど! 「よしよし、これでいいかい? 室長さん」 レフ板を自分で構えて発光で照明係の手伝いを買って出たフツに思わず沙織が突っ込んだ。 人も照らす、豚も照らす、光量調整も思いのまま。機械が苦手な人でも安心だ―― 戯れにカメラを向けられたフツは爽やかな笑顔でこれに応える。 「あなたも三高平学園で、学業と共に、徳を積みましょう……ってな」 「お前、それ以上何処に積むんだよ」 「いやぁ、まだ修行中の身だからなぁ……」 シーンは移って今度は教室での撮影である。 学園生活を彩る重要な青春のファクターと言えば部活。部活は重要なポイントなのだ。 机は端に積み、黒板には卒業式の日よろしくカラフルなチョークで落書きを。その中にはさりげなく『音楽愛好会 部員募集中!』とある。 教室を即席のライブ会場にするのはギター&ヴォーカルの珠緒とショルダーキーボード&コーラスを担当する恵梨香、学生コンビの二人。 「音楽プロモーションビデオクリップの様な仕上がりを目指したい所ですね」 何事にも完璧主義を発揮する恵梨香は持ち前の絶対音感を研ぎ澄まし……まぁ、必ずしも演奏に絶対音感は寄与しないのだが。 持っている事は重要だ。何より気分が出来る気になるのだし。 「負けないようにしないとあかんな……」 珠緒も一つ気合を入れ直す。 想いと歌を届けたいのは画面の向こうばかりでなし。 (横にいる、可愛くて頼れる相棒にも、な――) 声帯変化を生かした幅の広いヴォーカルは珠緒の確かな武器だった。 (……って!?) 彼女は大きく目を見開く。教室の外、廊下の窓から見た人物が悪戯気に手を振っている。 (NOBU――!?) 兎にも角にも三高平学園が賑やかであるという事は伝わるだろうか―― 「えー、そういう訳でこの学園はー」 「何か楽しくなってきましたわあ!」 「えー、あーコホン。そうですね。 ここ三高平大学では、国際色豊かな学生達と、幅広い分野で活躍する教授陣達による、刺激に満ちた学生生活が待っています。出来ない事は、もう何も無い!」 本来の予定ではインターナショナル担当に呼びつけたクラリスがカメラにダブルピースをしている。もう何て言うか大分駄目なお嬢様の様子にキャンパス担当の快はヤケクソ気味にそう言った。生来真面目な彼はどんな事にも全力で取り組むタイプである。 しかして現代では中々見かけない程の好青年である彼は兎も角として、今時の若者のアベレージはもう少し枯れているものらしい。 「せめて画面の中だけはリア充ぽくお願いします、レナーテさん」 「えー。だって、嫌じゃない。真ん中に映るのとか」 些か覇気の足りないレナーテはヘッドフォンをつけたまま温い笑みで快を見ていた。 「ところで、『何でも出来る』みたいなこと言うけど、快さん彼女出来てないよね」 「シュゴシンッ!?」 放送事故レベルの惨状に沙織が大笑いでカメラを下ろす――嗚呼、カット。 ヘルマンは納豆を食べていた。 「わたくし!」 食べていた。 ●CMは……? 3、2、1…… カウントダウンの先、暗い画面にアークのログが浮かび上がる。 ロゴに寄りかかり、乗っかるようにしたぐるぐがきょろきょろと辺りを見回し頭を抑えてぴょんと離れた。 「さてさて、どんなものが出来上がったか楽しみですね……」 沙織曰くの所、「お前等無茶苦茶やり過ぎだ」と笑っていた仕上がりである。 果たして星龍の見る『完成品』は使い物になるのかどうか―― ――答えはオンエアが教えてくれる……のかなぁ? |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|