●キャドラデイズ 「面倒な事になったわ……」 その日、 集められたリベリスタらに向けて、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は深刻と言うか本当に辟易したという表情でそう言った。 VTS。仮想世界の体験装置。訓練用によく用いられるものだ。利用したことのある者もいれば、触れたことのない者も居るだろう。今日はいつものブリーフィングルームではなく、この場所に集められていた。いったい、どうして。 「猫が、増えたの……」 猫が? その意味が分からず首を傾げたところで、そこら中のモニターが映像を映しだした。どれも同じ顔が映っている。よくしった顔。だが、それ故に嫌な予感しかしない顔。『SchranzC』キャドラ・タドラ(nBNE000205)。それを見たリベリスタらの顔には、同じ感想がありありと浮かんでいた。嗚呼、そういうこと。 「にゃははははははは! VTSはあちしが占拠した! 返して欲しければ……えーっと、100京円だ! 100京円用意しろ!」 馬鹿だ。馬鹿がなんか馬鹿言ってやがる。 そこで映像のカメラが引いていく。顔面どアップだったそれから、全身へ。そして二匹目へ。二匹目? 視聴者の意識が追いつかないまま置いてけぼりで、モニター上のキャドラは増えていく。三人。四人。何十。何百。わらわらわらわらわら。 「こぉれぞキャドラ軍団、否、キャドラ帝国と言っても過言ではにゃい! にゃはははははは!」 全部のキャドラが笑う。反響しすぎたエコーのようで、ひどくやかましい。 「……というわけよ。VTS内に入ったキャドラが、どういう設定をしたのか仮想世界内で大量に増えたの。どういったシチュエーションを組み上げても必ず何十人と介入してくるから、これじゃあまともに訓練もできない」 モニターからリベリスタに視線を戻し、イヴは続ける。 「幸い、今以上の数には増えないみたい。それに、本物を捕まえれば設定は元に戻せるわ。だから、ちょっと行って首根っこ摘んできて欲しいの」 画面上ではプログラムが展開し、なんだか洋風の城下町みたいな風景が展開されていく。町人はキャドラ。騎士もキャドラ。泥棒もキャドラ。どれもこれも皆キャドラ。 「「「「「「「にゃはははははははは!!」」」」」」 思わず耳を塞いだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:yakigote | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月06日(火)00:10 |
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●キャドラデイズ 例によって接頭文はございません。 石造りの街並みだ。整然とされた区画。溢れる人。街並み。見あげれば西洋城。どこか夢に見た。どこか憧れた世界。なんというか、こういうところに行きたかったと思わせる場所だ。ただ一点を除けばだが。 右を見る。左を見る。前を見る。どこを向いても知った顔。どこを向いても知った顔。キャドラ。キャドラ。キャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラキャドラ。 にまにまがおで。ぎざぎざくちで。ものくろきゃっとで。おっぱいでかくて。はいてない。 いらんことしかしない猫。敵にいたら厄介で、味方にいたら迷惑な。褐色白毛のいたずらあにまる。そいつだらけのこの街で。そいつだらけのこの世界で。盛大で馬鹿馬鹿しいなんともお祭り騒ぎな、鬼ごっこが始まった。 ●キャドラデイズ VTSの電源を切ったら駄目だろうか。そう尋ねてみたアラストールではあったが、その意見はあえなく却下となった。理由として。 「電源系統も乗っ取られている」 だからだそうだが。じゃあどうしてこっちが中に入る分には占領してないんだろう。 まあいい。片端からぶっ飛ばしていこう。たぶん最後に残った奴が本物だ。不殺にしといたらいけるだろう。手加減するからなくてもきっと大丈夫。 怖いこと言ってんぞこいつ。騎士道どこ行った。 ゆっくり歩きまわって、うさぎはこの国が一番良く見渡せる場所を探している。眺めていて一番楽しい風景の見えるところ、とでも言おうか。そうしていると、いつしかそこに辿り着いた。城の、てっぺんに。 既に先客がいたものだが、構わずその向かい席に腰掛ける。喧騒を眺めて、ほうっと一息。 「あり? 何しに来たの?」 「だって、貴女の事だ。多分、どうせ程なく飽きるでしょ」 「にゃはは、わかってんじゃにゃーの」 「あ、お茶飲みます?」 「気がきくねぃ」 エナーシアは、別の要件でここに来ていた。VTSの鎮座したルーム。運ばれる大量のケーキ。立てられるロウソク。 「人多いわねぇ、注文が多いわけだわ。何、VTSのトラブル解決のために集まっているの?」 大変ねー、とか何とか言いながら。モニターに映る主賓へと顔を向ける。 「ケーキ持ってきたわ。ゲームでなんて遊んでないですぐに来ないと、ケーキがリベリスタたちのお腹の中に消えてしまうわよ」 「うっわ、それすっげえ焦る」 どうしよう。 ブリリアントが暴れている。というかなんというか、幸せの絶頂にいた。なにせここはどいつもこいつもキャドラだ。キャドラだらけときたもんだ。片端から確認し、いずれは本物にぶち当たると信じながら突き進むしか無いだろう。揉みながら、そう揉みながら。 「ええい、偽物はどれもこれも感触が違うっ!」 違うらしい。流石に実物体験者は意見が違う。まさにマエストロ。流石は石川ブリリアント。正々堂々と爆進するのだ。財布の紐を緩めながら! 「いいわ、もっとやりなさい!」 なんて、杏は現実世界で眠るキャドラに群がる下卑た奴らを煽ったものだったが。ところがどっこい。そこをどうにかしていない筈がなく、厳重にしかけられた罠の数々は猫への到達を不可能とさせていた。 仕方ない。正攻法だ。仮想世界へと意識を潜らせ、溢れかえるモノクロキャッツへ向けて電撃波。焦げる。焦げる焦げる。 「倒した後でゆっくり本物探せば良いんじゃないのかしら」 鬼だ。鬼がいる。 「これは100京円の価値のある金の延べ棒! 本物のキャドラさんにあげちゃうぞ!」 そう言って静が用意したものは、でっかいチョコレートを金紙でコーティングしたものだった。きっと、売れ残ったんだろうな。時期的に。大量に。欲しくても貰えない。貰えないから売れ残る。 「やっべえこのサイズで100京かよゴールド! 高騰してんのは聴いてたけどそこまでか!」 釣れた。釣れてしまった。大漁だ。わらわらわらわら。やべえ、多い。逃げろ。 「ヒャッハー鬼ごっこだ!」 巷では。やれ鬼だ、やれフィクサードだ。ここのとこ急増する激務に、リベリスタは忙しい。だというのに、何をしてくれてんだこの猫は。馬鹿なの。死ぬの。お乳持ちなら許されると思ってるの。その思いを、喜平は仮想現実で表現する。身体で。 「唸れ! 散弾銃ドロップキィィィック!!」 とか。 「輝け!! 散弾銃シャイニングウィザードォォ!!」 とか。 「弾けろ! 散弾銃バックドロップゥゥゥ!!!」 とか。 散弾銃とプロレスを合わせた全くおニューな格闘技。 「かっけー……」 「猫さん、今まで黙ってたけど。僕、無理やりとか、力ずくでとか結構、好きなんだ」 「やっべえエロい! エロいよブルセラの人!」 「猫さんえろいもん。だから僕は悪くない」 「あ、でもそれは駄目。嫌、駄目だって。ムリムリムリ。尻尾はやめて大猿になれなくなっちゃう!」 嫌がる猫になんか無理やりしている。増えてるし。問題ない。きっと。二桁くらいまでは大丈夫。 だから、と。りりすはこの猫に無理やりぱんつはかせたり尻尾ひっぱりまわしたりしていた。 ><。 亘が空を飛んでいる。これだけの街並みだ。捜索というなら上からするに限るだろう。高いところとか、お金持ちっくなところとか。つまりは好きそうなとこだ。 「へーい、そこのナウいおにゃんこガールさん、ハッピーしてます?」 飛行する自分の隣で、後腰に腕を組みながら空飛ぶ柱に乗った彼女に声をかけた。 「死語の塊じゃん。やめとけって。歳ばれるって」 心配された。 それはそれとして、ちょっかいをかけてみるとしよう。輪ゴム鉄砲。またたび。エトセトラ。悩ましいところ。 異常に増えたモノクロキャット。しかしここは仮想現実。いわばなんでもありである。そうであるならば、ここで偽物に対し与えられたダメージが本体に帰っていくとも考えにくい。よって。 「逃げる猫はキャドラだ。逃げない猫は訓練されたキャドラだ! VTSは天国だぜフゥーハハハ!」 弐升は遠慮なく暴れていた。 「一発だけなら誤射かもしれないって言うじゃない」 言わねえよ。 「何ィ? 聞こえんなぁ!」 駄目だこいつ、早くなんとかしないと。 平和な街並み。日常を営むキャドラ。街を守るキャドラ。井戸端会議に花を咲かすキャドラ。冒険を終え帰還したキャドラ。そんなきゃどらんどに。火矢をぶっぱなした男がいた。七海である。 燃える。爆発する。泣き叫ぶ民衆キャドラ。阿鼻叫喚の地獄絵図。どうしてこうなった。 帝国の崩壊。陰謀、内乱。それもまたロマンス。でもここは仮想世界。だから燃えた先から元に戻っていった。 「セーブのバックアップってとっとくもんだよにゃー。よく暖炉作って泣きみたもんよ」 風斗は途方にくれていた。 「しかし……」 右を見ても。 「どうしたものか……」 左を見ても。 キャドラだらけなのだ。何を頼りに探せば良いというのか。じれったい。要はボーダーモヤシを探せみたいなものなのだろう。メガネと尻尾は流石に鬼畜だよな。 「こうなったらこの世界を片っ端から走り回ってしらみつぶしにしてやる! 多分、服装は変わってないだろうし!」 「相変わらず苦労人だニャ、芸能学校の人」 憐れむように、その肩を猫が叩いた。お前が言うな。 デミルがキャドラ(推定偽物)の首に触れ、吸血を行使した。 「にゃぁぁぁああああ」 みるみるうちに、キャドラの黒いところが白くなっていく。それ養分だったのか。と思ったら今度は黒くなっていく。 「あまり吸いすぎてお腹壊さないようにしなくっちゃ。だってボク子供だもん♪」 あざとい。なんというか、あざとい。 デミルは猫の一匹を麻痺糸で縛り上げると、それ目掛けて飛び込んだ。こう、斜め上から平泳ぎのようなポーズで。 この歳にしてルパンダイブである。 VTSが使えない。由々しき事態だ。しかしとアンナは考える。最初の最初以外にVTSがまじめに使われていないというのは気のせいだろうか。安心してくれ気のせいだ。こちとらしょっぱなからやらかしてVCに土下座したもんだ。心の中だけで。 仕事に邪念は挟むまい。相手はあの猫だ。どさくさに何をされるかわかったもんではない。目を開く。ようこそ仮想世界。 わらわらわらわらわらわら。 「「「あ、回復薬の人!」」」 「や か ま し い」 光源が猫ども吹き飛ばした。びばばーって。 クリスが声をかけた。 「なあキャドラ。私も増殖したいんだが、設定を教えてくれないか?」 「なんでニャ? なんか儲かんのかニャ?」 「もし私が増殖できたら、後でキャドラの好きなものを何でも奢ろう。約束だ」 「うわー嘘くせー……まあいっか。ほい」 増えた。クリスが増えた。やったわおじいさん。クリスが増えたのよ。 「やっべえ逃げろ!」 「アルファ、ブラボーは前衛として突撃。チャーリーとデルタはバッドムーン。エコーは天使の歌だ。総員、戦闘開始!」 姫乃からすれば、如何にコンピュータの中といえど人に手を出すのは遠慮願いたい。なんていい子なんだ。お前らこれ見習え。 「草むらを探すでござるです。見つけたら弱らせてボールを投げるでござるです」 前言撤回。 投げつけられた紅白のボールを、キャドラが銃弾を避ける泥棒フェイスのようなポーズで避ける。避けた。 「おみゃーいっつもそのネタだな俗世間の人!!」 「キャドラパーティー! キャドラパーティー作るです!」 「こえー! こいつこえー!」 ジズが菓子袋を開けると、その匂いに釣られて猫どもが集まってきた。わらわら。わらわらわらわら。多い。多すぎる。こんなに居ると分けられない。そう思う矢先、菓子袋を奪われた。あ、もう空だ。 「お願いだからちょっと数を減らしてよ、本物さん」 「それはできねー相談だにゃー」 はっとして、声のする方向に飛びついた。 「本物は、あなただー!」 残念でした。捕まえたはずのそれはハズレと書かれたアイスの棒に変わる。愕然とする彼女へと、猫の群れが殺到した。 これだけいる中で、ひとりひとり探すわけにいくものか。壱也は頭を使って考えた。 「じゃじゃーん! ねこじゃらしー! これで、ふりふりしてればやってく……る……もしかして、めっちゃいっぱい来たー!?」 わらわらわら。押しつぶされる。圧殺される。それが猫を集めるねこじゃらしぱわー。 「く、そ! 気を取り直して、次はこれだー!! またたびー!!!」 酔っ払う。圧殺的な量の猫が酔っぱらい。だって成人したんだもの。 「わー!!! 絡み付いてこないでええええ」 なんかエロい。 陽菜の装備は完璧だ。 毛玉。きっと猫ならじゃれるだろう。 またたび。猫を愛するなら当然の携帯品である。 みかんの皮。貴様どうしてこれを贈ってきた。 コショウ。その説明文は調味料として間違ってるよ! ビデオカメラ。思い出はプライスレス。思い出を収めるものはハイプライス。 完璧だ。さあ、いざゆかんキャドラ帝国。どっちを向いてもきゃどだらけ。 「きゃ~ど~ら~♪ あ~そ~ぼっ!」 猫たちは一目散に逃げ出した。 しかし回りこまれてしまった! 「もうこいつフィクサード認定でいいんじゃねーかな……?」 なんて。中の人も割と同意する冗談を述べつつ、エルヴィンの仕事は依頼されたそれとは別のところにあった。 適当の広さの会議室を借りて、そこを飾り立てていく。届けられていた大量のケーキを運び込みつつ、お菓子や軽食。飲み物などもしっかりと用意していた。 皆の仕事が終わったら、いたずら猫をここに呼んで。あとは盛大に。 これが男の甲斐性だろうか。やっぱ異界でもモテる奴は違うよな。 100京円。いっそ渡してしまえばどうかと茅根は提案する。ただしデータの中だけで。受け渡しと称して大量の1円玉にしてやれば綺麗に潰されてはくれまいか。そも、どうやって受け取るつもりだろう。 そういえば、無限増殖する敵が居たはずだ。VTSにあれを放置してはどうだろう。増え続ければいずれは圧倒してくれているかもしれない。そう思い、管理室へと足を向けるのだが、そこには先客がいた。どうにも、流石に手は打っていたようで。 「オイーッス」 村人。商人。泥棒。騎士。貴族。王様。魔王。どれもこれもが全部キャドラだが、そんな役柄などどうでもよかった。 ようは、全てキャドラなのだから。手当たり次第に堪能すればよいのである。どれが本物。いずれ本物。それは後回し。今はこの瞬間を楽しめれば良い。 さあ、見つけ次第イケナイことをしよう。おいたする猫にお仕置きといこう。ティアリアは笑う。 「うふふっ。さあ、宴の始まりよ♪」 「やっべえ、エロイよこの人!!」 現実のキャドラははいていないそうだ。本人もそう公言している。ならば仮想空間であれ本物のキャドラも下着をはいていない筈だ。ならばそれを確認しよう。スカートをしたキャドラを片っ端からまくったり覗き込んだりしてはいてないのか確認してまわろう。それでどうなろうとブレスには本望だ。現実でやれば犯罪者。ヴァーチャルならば、冷たい目で見られるだけで済む。 しかしここで誤算があった。思い返して欲しい。奴はスカートすらはいていない。 キャドラのおっぱいが揉み放題と聴いて、璃杏は仮想現実へとやってきた。減るもんじゃないし、いいはずだ。偽物ばっかりなんだし。本物も金次第だけどな。 昔の偉い人が言っていた。 「揉めばわかるさ」 「そりゃおめえ偉くなくてもちょくちょく垂れ流される妄想じゃにゃーか」 「『少年よ胸を揉みしだけ』とかしらない?」 「一回クラーク先生に謝ったほうがいいニャ」 まあ何が言いたいのかと言えば。 「私に! 胸を! 揉ませなさい!」 「正直でイイネ! 積めよ、肘の高さまで!」 きゃどらさんをせっとくするぞー。 これがいやらしい文字に空目した君はきっと心が汚れている。 「本当に良いものは数が少ないほど価値が保たれるんです。こんなに増えてはキャドラさんの魅力を損なってしまいますよ?」 魅力。っていうか乳。あれは素晴らしいものだ。嗚呼、そうだ。目視との誤差も修正しておこう。こういうものはこそこそやるから行けないのだ。正面から堂々と行けば良い。直球で揉みたい。 シオメンが、背筋を張って風俗にいく男の姿に見えた。 「いいわね、これでもこれは、仕事よ。多分。真面目に取り組むのよ。いいわね。まかり間違っても猥褻行為の真似事なんかするんじゃないわよ、いいわね」 ティセラの言葉は、決して押すなよ、絶対押すなよ。押すなって言ってるだろ。の類ではない。事実、彼女は罠があれど外界で眠りこけるキャドラに襲撃しようとするリベリスタを見つけては腹パンをかましていた。嘆かわしい。実に嘆かわしい。正しく紳士な人はいないものか。 いるけど、少数派。 アルトゥルがきゃどらんどを走りまわる。凄い。目に映る全てが感動的だ。あれもこれも皆キャドラ。面白い。非常に面白い。 それでも、困っている人がいるのだ。だから、やめさせなければならない。 「キャドラさんキャドラさん分裂してない本体キャドラさん! いたら出てきてくださいますか!」 はてさて。出てきてくれるだろうか。ねこじゃらしをとりだして、振る。振った途端に猫が大漁。その勢いに押しつぶされそうになるが、またたびを放り出してみた。余計に勢いが増した。 「キャドラさん。いや、姐御! 姐御と呼ばせてくだせいっ!」 「姉御となっ!?」 タヱは感動していた。100京円という強請に対してである。なんというスケール。なんという金額。ならばその手伝いをしよう。させてもらうとしよう。よって彼女は味方を攻撃する。 落とし穴にバナナの皮に足引っ掛け罠にバナナの皮。絶対突っ込まないぞ。いや、古典か。 「百京円ゲットの暁には、ぜひとも分け前をお願いしやすよ……にひひひ」 将来が心配である。 「そのパーカーの下穿いてるの! どうなの?」 安心しろ、はいてねえよ。そうやってはしゃぐ夏栖斗の後ろから、声がした。 「おい、そこの褐色のオマエ! こっち向いて顔見せやがれ!!」 「ん? どうしたの?」 その声に振り向くと、俺達にはできないことをやってのける男がキスしたような音が聴こえたような気がした。 「ま、まさっまさかっアバッアバババ……今まで探していたお兄ちゃんがこんな」 「え? 妹なの? かわいい! うん、似てるし。ああ、親父知らない間に作ってたんだろうなあ。最低だな」 その場にへたり込む忌避。差し出される手。それが王子様のように見えて。 「お兄様、結婚してくださーい! 愛羅武勇!!」 「ぶほぉ! 結婚?! 落ち着こう! 異母兄妹における(中略)婚姻は禁じられてるよ!」 それはショック。何故に二親等。しかし考えろ。 「禁断の恋! 忌避のモテ期キタコレ!?」 きゃーとかぎゃーとか叫ぶと、少女はキャドラを張っ倒し、走り去っていった。 「…………ポジティブはいいことだけどニャー」 「ヒャッハー! キャドラは消毒だぜェー! 俺たちキャドラ狩り隊が、キャドラ帝国を荒らし回りに来たんだぜェー!」 モヒカンで、筋肉質で、大男。そこまで改変すればもう親でも誰かわかるまいが、そこに竜一と快は居た。彼らには秘策がある。良いキャドラははいているキャドラだけだ。故に、はいているのは偽物で、はいていない奴こそが本物なのである。だから全てを確認しよう。 しかしそこには問題がある。なにせ、確認したそれらがはいていなければR指定に引っかかるからだ。守らなければならない秩序はある。書いている私もSTをクビになりたくはない。よって、なんかそういう時だけ格好つけて背中を見せている竜一の横を、快は『みせられないよ!』と書かれたプラカード片手に走っていた。 いざ、スカート捲り。しかし彼らにも他同行為者と同じ問題が立ちはだかることとなる。そう、奴は。このモノクロ猫は、捲るスカートすらはいていないのである。いつだってパーカー一丁なのだ。ないものは捲れまい。 「解析、始めます」 わらわらと。わらわらわらと。山ほどのキャドラ。溢れんばかりのキャドラ。それらを捕縛しようとするリベリスタを見て、マリアは頷いた。なるほど、本物以外を消してしまえばいいというわけか。 「術式、開始します」 「いや、こええよおみゃー」 「え? 違う? あ、駄目……そうですか」 残念だ。非常に残念だ。色々千切れるものだと楽しみにしていたのだが。途端に悲しみが押し寄せて、マリアは視線を味方に向ける。 「観察、開始します」 そこには、知った顔。 「ウッヒョー! 触りたい放題もふりたい放題!」 この男、甚内も心中ではきっと立派なことを言っているのだろう。単に本音と出す場所を間違えただけだ。よって全てが台無しだが。 しかし、それも仕方が無いのかも知れない。彼とて健全な男。やはり欲求には逆らえぬものなのだ。だが。 「おっちゃん、これある?」 指でわっかを作る猫。それの意味するところが説法であるはずもなく、つまりは金銭である。 「こんだけ? 残念、またおいで」 猫は走り去っていく。仮想の世界も金次第。 白衣を着せてもらい、その上からナースキャップを被って。お揃いの姿でリルは隣に話しかけた。 「なんかドキドキするッスね。えーっと、凛子先生?」 「ナース服の方が良かったですか?」 リルの頭に乗ったそれを見て、凛子はくすりと微笑んだ。 さて、行動を取る前にまず必要なものがある。それは行動故に、倫理的故に必要なものなのだ。例えば残虐性であったり、卑猥性であったりするからだ。ぶっちゃけR指定。そんな彼らにかかっているものは。 「一部のリベリスタさんはモザイクになっていますが、気にしてはいけないんですよ」 「モザイク……」 その条件を、リルは聴かないことにした。何故だか、その笑顔に恐怖を感じたからだ。 それでは、作戦を開始しよう。街のあちこちに炬燵を設置していくのだ。電源はついていないけど。普段はすげえ重いけど。大丈夫。だって仮想世界だし。 「猫に炬燵……リベリスタも引っかかってるみたいですが……」 「猫はこたつで丸くなるッスけど、これはリルでも丸くなるッスねぇ」 のんびりで、まったり。そういうの書けるようになりてぇなー。 VTSが使用できない。それは由々しき事態だ。よって、早々に解決せねばと思う気持ちは拓真も皆と同じである…………否、その皆があんまり早期解決狙ってねえな。 それはそれとして、打ち合わせた作戦を開始する。彼の役目は誘導だ。 「こちら、新城。これからそちらにキャドラを追い立てる、後は色々と頼むぞ」 猫を釣るのは簡単だった。だって目があったら追いかけてきたし。ちと数が多い気もするが問題はあるまい。目標地点が見えた。『ツナ缶食べ放題→』の看板。それとは反対に曲がり、身を潜める。 「食べ放題とかマジかよ!? いかねばにゃるまい!」 猫の群れが進路を変える。その先には、まおが仕掛けた罠の山が存在した。 水の入った落とし穴に落ちるキャドラ。トゲトゲが敷き詰められた落とし穴の中でアクロバティックに針を回避するキャドラ。トラバサミに引っかかってすっ転ぶキャドラ。振り子運動で襲い掛かるトゲトゲを流水の動きで避けるキャドラ。見事に引っかかっている。だが、それも束の間。 「うわわぁぁぁぁぁぁ」 数が多すぎた。個人で仕掛けるトラップには限界がある。物量で押し流され、それらは突破されていく。 「やべぇ罠だ、逃げろ!!」 更に方向転換。しかしそれすらも作戦通り。 「お菓子だ、お菓子があったぞ!!」 さっきはめられたことなど三歩で忘れ、お菓子へ向かう。 「にふふ~♪ ぉょ~ほんとにたくさんいるっ」 無論それも罠だ。餌を仕掛けたテテロが建造物の上からそれを眺めていた。 嗚呼、キャドラ漁の朝は早い。仮想世界では真昼間だがそこは気分の問題だ。 「まぁ好きではじめた仕事ですから」 「むしろ嫌いならあちし傷つくぜオイ」 「おっぱい大漁だー!!」 日常的にはけっして叫んではいけない台詞をあげながら、ウーニャが網を投げる。 「し、しまった! 逃げ……らんねえ!!」 一箇所に集められた無数のキャドラ。全体で言えば一部に過ぎないのかも知れないが、その数は個人で捕獲できるそれを遥かに上回っていた。チームワークの勝利である。 大漁大漁。 「京子さん、猫ビスハ同士の魂の絆的なアレでキャドラさんを探してくださいです!」 「わかりませんよ! 私は猫じゃなくてチーターなんですから!!」 「えー……こんな時まで、チーターのフリしなくてもー」 自分の要求をつっぱねた京子に向けて、舞姫はぶーたれた。仕方ない、別の作戦を考えよう。 二人は手近な酒場を占拠すると、看板を『熱海プラス』と書かかれたものへ変えてしまう。どんな意味が込められているんだろう。熱海限定画面向こうの恋人だろうか。 ふたりとも未成年。酒を出すことはできないが、それなりに数を用意することは可能だ。その匂いに釣られ、猫も店内に姿を見せた。もしも本物ならラッキーだ。見分けはつかないが、そこは愛でカバーできる。きっと、たぶん。 飲み物を差し出した。何のとは告げず、それがマタタビサワーだとは告げず。すぐにもぐでんぐでんになったキャドラに向けて、プレゼントをひとつ。それは毛糸のパンツ。お腹が冷えないように。 まさに外道。 「揉まれる方じゃない、うちは揉む方だ!」 「揉んでいいのは、揉まれる覚悟のあるヤツだけだッ!!」 そんなん聴いたこともねえ。 「っつーわけで、計都!!」 相方の胸を掴もうとする瞑だが、その手は空を切る。リーチの差。サイズの差かと言いたいところだが、計都は既に瞑のそれを解析し、全く同じスリーサイズの姿へと変貌していた。 「あたしはおっぱいが好きだ! 大好きだ!! 思う存分に揉もうじゃないか。三千世界の鴉を縊り殺し尽くすその時まで。おっぱいフォーエバー!!」 指揮官殿。陰陽師。代行。おっぱい指揮官殿。 「べ、べべべつに計都の乳を揉みに来たんちゃうんよ! ただ、キャドラちゃんの貞操を守るために……」 ツンデレにしたところでその発言は変態を誤魔化せない。 そこからは揉みあいだ。乳繰り合いだ。まさに文字通り。これ以外の表現をなんとしよう。彼女らはモノクロキャットの一切介入しないその場所で、事態が収束するまで戦争と戦争と戦争を繰り返していた。 うん、なんだこれ。 ●キャドラデイズ 「やー、ほら。ねー……反省したからさー。ちょっちこう、室長は勘弁して欲しいニャー、なんて……」 首根っこを掴まれながら。引きずられながら。キャドラが運ばれていく。あの中から、よくこの悪戯者を一匹捕まえられたものだ。 「うん、だめだよねー……わかってるのよー……ですよねー……」 哀愁をさっぱり感じさせないまま、運ばれていく。そして辿りついたその場所。その部屋に押し込められた。暗い。照明は。 かちり。 急に明るくなったことに驚いて、猫目を細めた。段々と、光に慣れてくる。そこには皆がいた。 「おめでとう!!」 「え、まさかの最終回!? 甲斐なく人類滅亡第三衝撃!?」 違うって。 「え、誕生日? 誰の?」 お前の。 皆、祝福の言葉と共にプレゼントを渡してくれる。紙コップにジュースを入れて、お菓子を盛って。乾杯。仮想世界の波乱が終わったなら、現実世界ではパーティを始めよう。 宴に花を咲かせる中、ただひとり主賓だけが呆然と立ち尽くしていた。 「あちしの誕生日……………………マジで!?」 知らなかったのかよ。 了。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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