<雷獣結界>二人の雷獣と二体の竜
●
F.i.V.E.の覚者達が雷獣の元に訪れ、衝撃の事実が判明した。
四半世紀の間日本を覆っていた電波障害。それは全国に存在する雷獣という古妖の仕業だった。
彼らは妖を封じるために電磁波を出して自らの結界を生み出していた。それが結果として電波障害を生んでいたのだ。
そして二十年以上結界を維持していた雷獣も疲弊し、結界の維持は限界が近いという。
雷獣の結界がなくなれば、そこに封じられた妖が世に出てしまう。そうなれば混乱は必至だ。
電波障害を解決するため。
妖を滅し、平和を保つため。
何よりも、雷獣を助けるため。
F.i.V.E.は大々的に覚者を派遣し、雷獣結界内の妖を討つ作戦を発動させた。
●
「うー、だりー。超だりー」
雷獣の一人。
美雷は、ぼやき続ける。彼女は一見すると可愛らしい少女であるが、獅子の尻尾と耳とが生えていた。
「ちょっと、美雷。ちゃんとやってください」
もう一人の雷獣。
雷夢も、美雷と良く似た愛らしい容姿をしている。彼女たちは二人一緒に、結界によって妖を封じる役を担っていた。
「結界張るのも飽きてきたなー……いや、それは百歩譲って我慢してもいいんだけどー」
「百歩譲らなくても我慢しなさい。これが私達の役割なのですから」
電波障害の原因である雷獣が作った結界。それは妖を封じるために作られた物だった。
妖誕生の時期の妖を、美雷と雷夢は封じてきたのだ。
「だけどなー。結界が弱ってきたからなー」
「それは……そうですけど……」
土地全土を包み込む電磁の波。
それが日に日に弱まってきている。結界を張り続けた二人の疲弊も深刻だった。いつ封印が破れてしまうか。
心許ない状況は、予断を許さない。
『雷獣……結界……破る』
『雷獣……殺す……皆、殺す』
二人の雷獣の目の前には、二体の妖が蠢いていた。
その姿は、巨大な二体の竜。赤と青のドラゴンが、見えない壁……結界に何度も何度も体当たりをする。その度に、大地が大きく揺れた。
「あー、ダブルドラゴンのお二人さー。もう少し大人しくしてくれないかなー」
『雷獣……人間……殺す!』
『雷獣雷獣雷獣雷獣!』
結界を挟んでの対峙。
妖達の叫びに、美雷は口を尖らせた。
「……だからさー、私には美雷って名前があるんだってーの。曲がりなりにも、二十年以上一緒だったんだから、覚えてよー」
「妖と馴れ合おうとしても無駄です。二十年以上一緒だったのですから、そろそろ学びなさい」
パチンと雷夢は、指を鳴らす。
二体の竜に巨大な雷撃が走る。妖達は身体を硬直させて動きを止め、わずかばかりの静寂が訪れた。このような、やりとりを何度してきたことか。
そして、あと何度出来ることか。
限界は確実に近づいてきている。
「そう言えばさー、何か人間達が妖を退治しに来るみたいなことを言ってなかったけー?」
「その話は、私も聞きましたが……どこまで信用できるか分かりませんよ」
雷獣達は、基本的に人間と接触することはない。
雷夢は見たこともない人間という生物に懐疑的だった。対して美雷は楽天的に笑う。
「もし、この状況を何とかしてくれる王子様が現れてくれるならさー。もう、私は熱烈にハグしてチューとかしちゃうなー」
のほほんと微笑む美雷に。
雷夢はゆで上がったように顔を真っ赤にした。
「な、な、ななななな! 美雷!! なんて、破廉恥な!!!」
「えー? そうーかなー?」
「そうです! そういうのは、大切なときのためにとっておくものです!!」
「そうか、そうかー。大切なときかー」
でもね。
と、美雷は思う。このままだと大切なときとやら来るまでに、果たして結界はもつのか。暗い疑念を抱えつつも、二人はそれを口に出すことはできなかった。
●
「今回は、雷獣が結界で封印している妖の討伐を頼みたい」
中 恭介(nCL2000002)が、皆に説明を始める。
雷獣結界と呼ばれる能力で、強力な妖達を封じてきた雷獣達。この結界こそが電波障害の元になったものだった。
「雷獣達はその妖の脅威がなくなるなら、結界を解いてもいいとのことだ。電波障害の解決のため、雷獣を助けるため、皆にも力を貸して欲しい」
ここにいる面子が担当するのは、美雷と雷夢という雷獣が封印している妖二体だ。
赤と青の竜の姿をした、ランク3の強力な妖であり。結界から解き放ったら、すぐさま人を襲い出す獰猛な気性だという。
「どうも、少し変わり者の雷獣達らしいが……まず美雷と雷夢に結界を解いてもらい、然る後に二体の妖と戦闘という流れになるだろう」
美雷と雷夢自身は失敗した時に結界を閉じるため、戦闘には参加できない。
だが、妖達は二人の雷獣の結界により力をかなり削がれている。楽な戦いではないが、その点では有利だ。
「雷獣達は、今まで脅威となる妖を命懸けで封印してきてくれた。その意には敬意を示したい。それに電波障害の件を解決できれば、大勢の人々の助けにもなる。皆、よろしく頼んだぞ」
F.i.V.E.の覚者達が雷獣の元に訪れ、衝撃の事実が判明した。
四半世紀の間日本を覆っていた電波障害。それは全国に存在する雷獣という古妖の仕業だった。
彼らは妖を封じるために電磁波を出して自らの結界を生み出していた。それが結果として電波障害を生んでいたのだ。
そして二十年以上結界を維持していた雷獣も疲弊し、結界の維持は限界が近いという。
雷獣の結界がなくなれば、そこに封じられた妖が世に出てしまう。そうなれば混乱は必至だ。
電波障害を解決するため。
妖を滅し、平和を保つため。
何よりも、雷獣を助けるため。
F.i.V.E.は大々的に覚者を派遣し、雷獣結界内の妖を討つ作戦を発動させた。
●
「うー、だりー。超だりー」
雷獣の一人。
美雷は、ぼやき続ける。彼女は一見すると可愛らしい少女であるが、獅子の尻尾と耳とが生えていた。
「ちょっと、美雷。ちゃんとやってください」
もう一人の雷獣。
雷夢も、美雷と良く似た愛らしい容姿をしている。彼女たちは二人一緒に、結界によって妖を封じる役を担っていた。
「結界張るのも飽きてきたなー……いや、それは百歩譲って我慢してもいいんだけどー」
「百歩譲らなくても我慢しなさい。これが私達の役割なのですから」
電波障害の原因である雷獣が作った結界。それは妖を封じるために作られた物だった。
妖誕生の時期の妖を、美雷と雷夢は封じてきたのだ。
「だけどなー。結界が弱ってきたからなー」
「それは……そうですけど……」
土地全土を包み込む電磁の波。
それが日に日に弱まってきている。結界を張り続けた二人の疲弊も深刻だった。いつ封印が破れてしまうか。
心許ない状況は、予断を許さない。
『雷獣……結界……破る』
『雷獣……殺す……皆、殺す』
二人の雷獣の目の前には、二体の妖が蠢いていた。
その姿は、巨大な二体の竜。赤と青のドラゴンが、見えない壁……結界に何度も何度も体当たりをする。その度に、大地が大きく揺れた。
「あー、ダブルドラゴンのお二人さー。もう少し大人しくしてくれないかなー」
『雷獣……人間……殺す!』
『雷獣雷獣雷獣雷獣!』
結界を挟んでの対峙。
妖達の叫びに、美雷は口を尖らせた。
「……だからさー、私には美雷って名前があるんだってーの。曲がりなりにも、二十年以上一緒だったんだから、覚えてよー」
「妖と馴れ合おうとしても無駄です。二十年以上一緒だったのですから、そろそろ学びなさい」
パチンと雷夢は、指を鳴らす。
二体の竜に巨大な雷撃が走る。妖達は身体を硬直させて動きを止め、わずかばかりの静寂が訪れた。このような、やりとりを何度してきたことか。
そして、あと何度出来ることか。
限界は確実に近づいてきている。
「そう言えばさー、何か人間達が妖を退治しに来るみたいなことを言ってなかったけー?」
「その話は、私も聞きましたが……どこまで信用できるか分かりませんよ」
雷獣達は、基本的に人間と接触することはない。
雷夢は見たこともない人間という生物に懐疑的だった。対して美雷は楽天的に笑う。
「もし、この状況を何とかしてくれる王子様が現れてくれるならさー。もう、私は熱烈にハグしてチューとかしちゃうなー」
のほほんと微笑む美雷に。
雷夢はゆで上がったように顔を真っ赤にした。
「な、な、ななななな! 美雷!! なんて、破廉恥な!!!」
「えー? そうーかなー?」
「そうです! そういうのは、大切なときのためにとっておくものです!!」
「そうか、そうかー。大切なときかー」
でもね。
と、美雷は思う。このままだと大切なときとやら来るまでに、果たして結界はもつのか。暗い疑念を抱えつつも、二人はそれを口に出すことはできなかった。
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「今回は、雷獣が結界で封印している妖の討伐を頼みたい」
中 恭介(nCL2000002)が、皆に説明を始める。
雷獣結界と呼ばれる能力で、強力な妖達を封じてきた雷獣達。この結界こそが電波障害の元になったものだった。
「雷獣達はその妖の脅威がなくなるなら、結界を解いてもいいとのことだ。電波障害の解決のため、雷獣を助けるため、皆にも力を貸して欲しい」
ここにいる面子が担当するのは、美雷と雷夢という雷獣が封印している妖二体だ。
赤と青の竜の姿をした、ランク3の強力な妖であり。結界から解き放ったら、すぐさま人を襲い出す獰猛な気性だという。
「どうも、少し変わり者の雷獣達らしいが……まず美雷と雷夢に結界を解いてもらい、然る後に二体の妖と戦闘という流れになるだろう」
美雷と雷夢自身は失敗した時に結界を閉じるため、戦闘には参加できない。
だが、妖達は二人の雷獣の結界により力をかなり削がれている。楽な戦いではないが、その点では有利だ。
「雷獣達は、今まで脅威となる妖を命懸けで封印してきてくれた。その意には敬意を示したい。それに電波障害の件を解決できれば、大勢の人々の助けにもなる。皆、よろしく頼んだぞ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.40ターン以内に、妖二体を撃退、もしくはそれぞれの体力を20%以下にする
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●赤竜
ランク3の生物系妖。
雷獣達の結界のせいで力が削がれており、『麻痺』の効果が最初から付与されている。これは40ターン以内に解除されることはありません。
[攻撃1] A:特遠単 【炎傷】
[攻撃2] A:特近列 【火傷】
[強化] A:自 物攻:+ 特攻:+ 速度:+ 効果継続:12ターン
●青竜
ランク3の生物系妖。
雷獣達の結界のせいで力が削がれており、『麻痺』の効果が最初から付与されている。これは40ターン以内に解除されることはありません。
[攻撃1] A:特遠単 【凍傷】
[攻撃2] A:特近列 【氷結】
[強化] A:自 自然治癒:+ 効果継続:10ターン
●美雷
妖を封じる結界を張る雷獣。
人間の少女のような容姿をしている。獣のような姿になることも可。呑気な性格で、面倒くさがり。同じく雷獣である雷夢とは、親友同士。
●雷夢
妖を封じる結界を張る雷獣。
美雷と似た人間の少女のような容姿をしている。獣のような姿になることも可。真面目な性格で、人間には懐疑的。同じく雷獣である美雷とは、親友同士。
●このシナリオの特徴
雷獣二人は、妖への結界を解いたあとに力を溜め始めます。
40ターン経過したときに、その力を再び結界を張るのに使うのか、攻撃に使って妖にトドメを刺すのに使うのかを判断します。これは雷獣達が、妖に対して付与した麻痺が40ターンを経過すると解けてしまい、そうすると封印が困難になってしまうためです。
妖を封印されてしまうと、今回の討伐は失敗となります。
なので、40ターン以内に妖を倒すか、相手の体力を8割以上削る必要があります。
40ターン以内に、妖二体の体力がそれぞれ残り20%以下になっていれば、雷獣達の溜めた力でトドメを刺せます。ただし、この場合は40ターン以内にたとえ妖の一体を倒していても、残り一体が20%を越える体力を残しているのなら封印となり、討伐失敗となります。
ちなみに、参加者達が雷獣二人の信頼を勝ち得ることができれば、戦闘中に妖に対して麻痺以上の負荷を彼女達が与えてくれる可能性があります。
●現場
高台にある大きな神社。
そこで美雷と雷夢が、二体の妖に対して結界を張って封じています。高台の下には街があり一般人達が住んでいますが、一般人達が神社を訪れることは基本的にはありません。現場では、二人に結界を解いてもらって妖を叩くことになります。美雷と雷夢自身は討伐に失敗した時に結界を閉じるため、戦闘には参加できません。
●雷獣
全国に存在する雷の妖怪です。その姿形は様々で、四つ足であったり直立していたりと地域によって多種多様です。落雷を示すように獰猛な性格と言われていますが、稲妻が豊潤を与えるという伝承から優しき獣という伝承もあります。
日本に妖が現れた時、人の世に出してはならぬ妖を雷で封じました。それが結果として日本に電波障害を生み出してしまいます。
雷獣自体は人間と接触していないため、自分たちの結界が人間社会に害を及ぼしていることは知りませんでした。
●雷獣結界
雷獣が形成する結界です。土地全土を包み込む電磁の波で、これにより妖を封じています。
雷獣は意図していないのですが、結果として電波を阻害することになっています。
人間や古妖など生物には全く影響しません。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/10
9/10
公開日
2016年12月10日
2016年12月10日
■メイン参加者 9人■

●
「おーっす雷獣さん! 妖退治の者でーす!」
鹿ノ島・遥(CL2000227)の元気の良い第一声。
人間とのファーストコンタクトに、雷獣達は思わず顔を見合わせた。
「へー、雷獣って色んな姿のやつがいるんだなー。イタチっぽかったり、人間そっくりだったり。まあ、強いなら姿なんてどうでもいいんだけどさ! あ、でも可愛いならそれにこしたことはないか。なんかやる気出るし!」
「可愛いだってー! なんか嬉しいねー、雷夢!」
「美雷……人間のお世辞に、舞い上がってどうするんですか」
はしゃぐ美雷を、たしなめる雷夢。
宮神 羽琉(CL2001381)の眼には、二人の少女がじゃれ合っているように見える。
(雷獣さんは……女の子? ちょっと、びっくり。かわいいし。見た目どおりってことはないのだろうけど、ずっと結界を張っていてくれたわけで。誰のためとかそういうことじゃないのだろうけど。それに報いられるように、頑張れたらって思うよ。竜に勝てればふたりは開放されるんだし、そしたら、今の人間社会とか見せてあげられるね。楽しんで、笑ってもらえるようなところを教えてあげたいな)
羽琉はビビりの気があるのだが、女の子の前だとちょっとかっこうつけたがるのだった。
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)が、具体的な説明に入る。
「身辺を騒がせることになってしまうけど、二体の竜を退治したいと思うの」
仲間である夢見などから情報を得たこと。
それから、長きにわたって封印してきたことで人もまた守られてきたことに感謝を伝えた。
(たぶん、二人とも人間を全面的に信用はしないと思うのね、だから誠実に対応しないとね)
労をねぎらうと同時に、電波を阻害することになってしまい、若干の不都合を受ける状況になっている旨も隠さずに伝える。
「それで二体の竜を退治できたら、すこしだけ電波を弱めてもらえないかな?」
「うん。それは問題ないよー。結界を完全に解いちゃえばいい話だからー」
「よかった……感謝することはあれ、害意を向けるなどもっての外なので、そういうものはこちらで排除させていただきます」
割合好意的に、美雷は話に頷く。
雷夢の方は『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)の視線を感じ取り向き直った。
「……そんなに、私達が物珍しいですか?」
「お前達が雷獣か。何、雷を扱う者として一度会ってみたいと思っていたが、想像していた外見と違ったのでな、まさかこの様な少女だとは思わなくてな。今まで奴等を封印してくれて感謝する、ここからは俺達に任せてくれ。あの二頭の竜は俺達が必ず止める。約束しよう」
「約束ですか……正直、私は美雷ほどあなた達を信じる気にはなりませんが」
警戒心を露わにする雷夢は、しかし、両慈の恋人である『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)と同じ年頃の女の子が人見知りをしているようでもあった。
「被害が出るなら消す、けど。……ずっと、結界張っておくのは、大変。妖、閉じ込めてくれてて、ありがとう」
「……どうも」
桂木・日那乃(CL2000941)の言葉にも、雷夢は戸惑った態。
そんな皆の様子を。遠目から二体の竜が見下ろしている。雷獣達の結界がなければ、すぐにでも襲いかかってくる。背筋が凍る威圧感。
(強い気配がする妖なの……こんなのが暴れてたら……多分大変な事になっていたの。人知れず誰からも感謝されずにこんな封印をしてくれてた事……大変なお勤めだったと思うの……だから何よりもまず感謝の気持ちを伝えなきゃ)
『愛求独眼鬼/パンツハンター』瀬織津・鈴鹿(CL2001285)は、マイナスイオンを放ち。
雷獣二人に笑いかけた
「今まで鈴鹿達がこの妖達と戦わずに済んだのは雷獣のお姉さん達が今まで結界を張ってくれてたお陰なの。ありがとうなの♪」
「あははー。照れちゃうねー、雷夢?」
「……そのだらしない顔を何とかなさい、美雷」
「だから……感謝の気持ちも込めてこの妖達は私達が倒すの……お姉さん達を役目から解放するの! 美雷お姉さんと雷夢お姉さん、王子様ではないけど……戦いが終わったらお友達になってほしいの」
「うん。いいよーいいよー。てか、今からもう友達だよー」
「……」
鈴鹿と握手して、ぶんぶん手を振り回す美雷。
雷夢は仏頂面を崩さないが。『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)も意気込みを伝える。
「長い間、危険な存在を封印してくださり、本当にありがとうございました。ここで二体の竜を倒して、お二人の休息時間を作ってあげられればとおもっています。もちろん、二体の竜がお二人を狙ってくることは容易に想像ができますので、わたしたちを盾にしていただければと思いますので、しばし、後方で休憩していただければいいかなと思います」
「おおー! 覚者さん、すごいやる気!!」
「……あまり無理をしませんように。最悪、結界をまた張りますので」
少しずつではあるが、何かがほぐれてくる。
その横で葦原 赤貴(CL2001019)は、これから戦う相手をじっと見据えていた。
(この、封じられていた妖どもを殺し尽くせば、電波障害は消えるのか。良し悪しではあるが、まぁ便利ではあるな。友人と気軽に連絡を取り合って出かける……未来図としては、悪くない)
●
「……ここって神社? 近くに街があって。どうして、ここに妖、2体、も? ……神社のひとは、もう、いない、の、ね」
「この妖二体が昔に人里を破壊。それを無人になっていたここで私達が封印したら、また人が戻ってきて復興して街になった……というのが大まかな経緯ですね」
「一応、人除けしてここは立ち入り禁止にしているしねー」
雷獣達が日那乃の疑問に答えつつ、結界の前に立つ。
二体の竜が障壁を隔てて、覚者達と対する。遥が胸を叩いて笑った。
「えーと、美雷さんと雷夢さん、だっけ? オレは鹿ノ島遥! 今まで封印ありがとな! あとは任せてくれ! うっし、それじゃ張り切っていこうか! 竜退治!!」
美雷と雷夢が頷き。
何事か唱え――何か砕けるような音を立てて結界が解除される。
「さあ、見てもらおうか。練り上げた人間の力と技ってやつを!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
五織の彩の一撃が開幕の狼煙をあげる。
数十年封印されてきたフラストレーションを叩きつけんと。解き放たれた竜達は、獰猛な唸り声を響かせ襲いかかってくる。
「見ててね、雷獣さんたち。あなた達が待ち続けた、ヒトの力で開放してみせるから」
悠乃は赤竜の前について、まずは灼熱化。エネミースキャンで敵の状態を把握しつつ、行動方針を決める作戦だ。錬覇法を使った両慈も、恋人の指示を聞き逃すまいと耳を澄ませる。
「この剣のかつての持ち主は、己が命の全てをかけて、妖と戦っていた。オレが全く同じ道を進むことはないが……ヒトの敵を憎む怒りは、変わらん」
雷獣たちがどう思おうが、結果が全てだ。
と、赤貴は青竜の前に出た。英霊の力を引き出し、沙門叢雲の両刃剣を構える。
(美雷さんと雷夢さんが人間をどういう風に見ているかはわからないけれど、かならずしもいい感情だけではないと思うんです。それはしょうがないのですけど……ただ、わたしたちがお二人やほかの雷獣を尊敬していることは信じてもらいたいです)
そのためにも二体の竜は倒したい。
結鹿は纏霧と迷霧で敵の行動阻害を図りつつ、蔵王・戒と紫鋼塞で守備強化とカウンターに備える。同じ中衛の鈴鹿も、高密度の霧を発生させた。
妖達は巨大な身体を大胆にゆすって、それらを忌々しく嫌がる素振りを見せる。
「竜とか……妖ってなんでもありなの……もう怪獣じゃない……怖いのは怖いけど、ここまでくると逆に……なんだろうこれ。ま、まぁ、動いて対応するしかないわけだしね!」
羽琉は自分でもマイナスイオンを使って、緊張をおちつかせる。後衛からの術式攻撃と気力回復の二本柱が、自分の仕事だ。御菓子と日那乃は回復役へとまわる。
「人間、人間、人間、人間、人間、人間……!!」
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す……!!」
赤竜が紅蓮の炎を吐き。
青竜が凍える吹雪を放つ。
手ひどい炎傷と凍傷。その威力は気を抜けば、覚者達を一瞬で一掃しかねないものだ。
「二体同時に攻撃が来るよ。皆、気をつけてね」
悠乃はよく妖達を観察することを怠らない。状況把握と伝達は重要だし、はっきりとした指示が必要となる。敵が両方とも攻撃してくるようなら、防御と回復を優先だ。
「海衣や超純水が必要な人はいますか?」
「回復どれくらいいる? 手分け、必要」
「お手伝いするの」
送受心・改なども使って相談し。
御菓子や日那乃は仲間達に補助を懸命に行い。それに鈴鹿も癒しの霧や演舞・舞衣などで手を貸し。回復、バッドステータスの除去に努める。他の者も身を固め――
「今度は、青竜の動きが麻痺で硬直しているよ」
再び悠乃の指示が飛ぶ。
瞬時に赤貴は隆神槍で、突きまくった。
「殺さなければ、死ぬ。それだけだ。オレは、生きる」
狙いは大型獣の腹。
地面に近く攻撃受けることも少なく、自然と鱗等の防御も薄くなる部位だ。社会ほぼ全てを憎み、作り変えるために戦う。彼にとって妖戦も単に通過点に過ぎない。
「ほらほら竜さん、人間が目の前にいるぞ! 喜び勇んで殺しにこい!」
遥は練り上げた気を一点集中した念弾で標的を撃つ。
ホントは最初から前衛でバリバリ殴りあいたいとこだけど、戦術だから仕方ない。ただし、いつでも交代できる用意は万端だ。結鹿も氷巖華を合わせて放つ。
覚者達は、妖達の攻撃を耐え、かいくぐり。
「……二体とも攻撃が来ない。チャンスだよ」
「了解だ、悠乃」
好機が来れば逃さない。
両慈が激しい雷を呼び寄せて、二体の竜に鋭い稲妻を落とす。更に悠乃自身は炎柱を出現させて、全てを焼き払いにかかった。
(特徴的な大技とかがあれば、モーションの判別がしやすいはず。警戒できる情報を素早く見つけて共有できれば……)
羽琉も攻撃に参加しつつ。
一連の敵の動きを瞬間記憶で良く見ておく。少しでも役に立てる可能性を信じて。
●
「長丁場になりそうだしな、体力消費しすぎるわけにはいかねえ」
「宮神さん、気力の補充を頼む」
「分かったよ。手数を減らさないために耐えるのも重要だけど、攻撃しないと倒せないものね」
「わたしも、だれか、填気してくれたら嬉しい」
遥が時折、地烈を混ぜつつもその回数とタイミングには注意を払う。ひたすらに攻撃を続ける赤貴や回復を行う日那乃の要請には、羽琉が応じてすぐに大填気を施す。
覚者達と妖の一進一退の攻防が繰り広げられる。
(……これだけガチガチにやりあってると、また両慈さん心配しちゃうかな。でも、大丈夫ですよ。華神の祖は竜なんだそうです。で、私の中には黒竜がいるんだって、ばっちゃが言ってたんです)
(雷獣達はこの二頭の竜を命懸けで封印してきた……とあったな。やれやれ……ならば俺も少し気合を入れて応えなくてはならないな。二頭の竜か……面倒な相手だが悪くない敵だ……)
生き生きとした悠乃。思わず苦笑する両慈。
二人はどちらともなく視線を合わせ、同時に頷き。赤竜へと総攻撃をかける。
「麻痺した竜と、仲間と一緒に全力を振るえる竜。勝つのはどっちかって、ね?」
黒い炎を放出し、近代的な格闘技の技に乗せる。
それが悠乃の豪炎撃。渾身のインファイトによる拳が、竜の鱗を砕き。
「……やれやれ、悠乃に感化されて少しバトルマニアな思考になってしまったのか、俺は」
そこを狙いすましたように、両慈が続く。
赤竜の右胸の一点が、鱗の色よりも鮮やかな深紅に染まった。他のメンバーの指標になり得る、格好の的ができあがる。
「ただの子供と甘く見ないで下さいね」
結鹿の蒼龍……小烏造の太刀による斬撃が更に竜の傷を広げる。戦場に夥しい流血が舞い散り。鈴鹿は伊邪波や破眼光を駆使して後押しした。
「ダアアアアアアアアアアアアアアァアア!!!」
無論、妖も黙ってはいない。
赤竜は全身から炎を放出して自身を強化。激しさを増した煉獄の火炎が、容赦なく覚者達に浴びせられる。御菓子は懸命に、潤しの滴や深想水で戦列を支えた。相手が常時麻痺状態でなければ、より被害は広がっていただろう。
「雷夢ー……どう思う?」
「微妙なところですね」
雷獣達は後方で、戦闘の様子を眺めていた。
彼女達の頭上には少しずつ明るい光が集約し、それは次第に大きく強くなっていく。覚者達の戦闘の如何によっては、この溜めた力をどう使うかを判断しなくてはいけない。
--だが。
その強大な力の光芒は、敵の眼を引く結果にもなった。
「雷獣……雷獣ウウウウウウウウウウウウウウ!!!」
「……こっちに!」
青竜と雷獣達の視線が合う。
氷の息吹が渦を巻いて、少女の姿をした二人の古妖へと牙を剥き……刹那、二つの人影がカバーリングに入った。
「二体の竜は長い間、動きを押さえこんでいた二人を絶対恨んでると思っていましたから」
「絶対に二人を戦闘に巻き込むわけにはいかないの」
結鹿が自らの身体を差し込み、妖の脅威から雷夢を守る。
美雷の方は、いざというときにかばえる位置を保持していた御菓子がフォローする。
「あ、あなた達……な、何を?」
「場合によっては、こっちそっちのけで二人を狙う可能性もあるんじゃないかと身構えていた甲斐がありました」
呆然とする雷夢に、結鹿が力強く笑いかける。
その身体は手ひどい凍傷を負ってしまっていた。
●
「一旦、下がるね。皆は青竜の方に攻撃を集中して」
「出番だな、オレが前に出るぜ」
「鈴鹿も交代するの」
消耗した悠乃に代わり、遥と鈴鹿が前に躍り出る。
残り時間や敵の状態を鑑み。飛燕を中心とした物理攻撃を青竜へと集中砲火した。
「体力の多い方を削らないとな……判断は悠乃に任せるが、な」
時間に余裕があり、ダメージが早期に蓄積しているようなら先に一頭を潰して被害を抑えたいところだが。そう上手くもいかない。両慈は下がってきた恋人に填気を使った後に、潤しの雨で味方を癒す。激しい戦闘に、体力と気力の補給も満足にはおぼつかない。
「……っ」
古妖を庇った時に負った傷が疼く。
結鹿は身体に力が入らず、太刀を取り落とさないようにするので精一杯だった。妖はそんな彼女の様子を見逃さず。赤竜による炎の爪と、青竜による氷の爪が容赦なく迫り。
「「オオオオオオオオオオ!!」」
妖達の身体を巨大な雷が縛りあげる。
麻痺を越えた、大きな負荷。雷獣達が叫ぶ。
「……何をしているんですか、この隙に早く立て直しなさい!」
「結鹿ちゃん、御菓子ちゃん、さっきはありがとうねー。皆、頑張ってー!」
雷夢は精一杯素っ気ない態を装っていたが、顔は真っ赤だった。美雷がバタバタと大げさな身振り手振りで応援する。覚者達は顔を見合わせて、この機を生かす。
(雷獣さん、ありがとう)
羽琉がエアブリットを放つ。
御菓子もここは水龍牙で攻撃に移る。日那乃は最後まで回復を行って皆を支えた。覚者達の意気のあがった攻勢に対し、妖達は雷獣達の力によって反応が著しく精彩を欠くようになって対応できずにいる。
「どうだー、このくらいダメージ与えりゃいけそうかー?」
「あと少し……あと少しよ」
「ダメージを与えればいいって話だけどさ……別に、倒してしまっても構わないんだろう?」
雷獣の答えを受け、ドヤ顔した遥は正鍛拳を解禁する。
鍛え抜かれた拳が赤竜へと突き刺さり。一気に追い込む。連打につぐ連打。右胸の傷が罅割れて全体へと広がる。
「汝、悲しき存在よ。我が双刀の力を持って祓い清めん……さすれば、穏やかに黄泉の旅路へ行かん事を」
超直観が、敵の限界を告げている。
鈴鹿は祓刀・大蓮小蓮を両手に携え。出血と痺れを強いる夫婦刀が、その切れ味を如何なく発揮する。覚者の影と、赤竜の影とがすれ違い。
次の瞬間、両断された巨獣が力なく倒れた。
「死ぬまで、殺す」
残りは青竜のみ。
何もせずに止まる気なぞない。
赤貴は術が使えなければ殴る、拳が砕ければ蹴る、足が利かなければ這いずってでも噛み付いてでも。自身に探知手段はないため、要求がない限り、敵が倒れるまで攻撃が必要だ。
さすがに悠乃が下がるように促そうとしたのと。
羽琉が注意を発したのはほぼ同時だった。
「あのモーション……氷の爪が来る」
瞬間記憶で観察した結果の結論。
仲間の声に反応した赤貴は、剣で敵の爪を受け流し……雷獣達はここで決断を下した。
「全員離れて! もう充分です!!」
全てを飲み込む光の塊。
それが青竜を飲み込み。覚者達の視界を覆った。
●
「何とか約束は果たせたな……。礼は他の奴にくれてやってくれ、俺には悠乃が居るのでな」
「おつかれ」
「お疲れさまでした」
「お騒がせしました」
両慈は恋人を抱き寄せ、悠乃も身体を預けた。
労いくらいはなという感じの赤貴。御菓子は笑いかけ。結鹿が詫びる。
「ん! これで美雷お姉さんと雷夢お姉さんは自由なの! 私達頑張ったの! だから……褒めて欲しいの……」
「いーよー。ほらほら雷夢もー」
「え、ちょっと!」
雷獣達は鈴鹿をハグして。
その頬にチューをする。
「えへへ♪ これからも仲良くなりたいから……鈴鹿とお友達になってほしいの」
雷夢の顔は真っ赤にくしゃくしゃで。
美雷は嬉しそうに微笑んだ。
「おーっす雷獣さん! 妖退治の者でーす!」
鹿ノ島・遥(CL2000227)の元気の良い第一声。
人間とのファーストコンタクトに、雷獣達は思わず顔を見合わせた。
「へー、雷獣って色んな姿のやつがいるんだなー。イタチっぽかったり、人間そっくりだったり。まあ、強いなら姿なんてどうでもいいんだけどさ! あ、でも可愛いならそれにこしたことはないか。なんかやる気出るし!」
「可愛いだってー! なんか嬉しいねー、雷夢!」
「美雷……人間のお世辞に、舞い上がってどうするんですか」
はしゃぐ美雷を、たしなめる雷夢。
宮神 羽琉(CL2001381)の眼には、二人の少女がじゃれ合っているように見える。
(雷獣さんは……女の子? ちょっと、びっくり。かわいいし。見た目どおりってことはないのだろうけど、ずっと結界を張っていてくれたわけで。誰のためとかそういうことじゃないのだろうけど。それに報いられるように、頑張れたらって思うよ。竜に勝てればふたりは開放されるんだし、そしたら、今の人間社会とか見せてあげられるね。楽しんで、笑ってもらえるようなところを教えてあげたいな)
羽琉はビビりの気があるのだが、女の子の前だとちょっとかっこうつけたがるのだった。
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)が、具体的な説明に入る。
「身辺を騒がせることになってしまうけど、二体の竜を退治したいと思うの」
仲間である夢見などから情報を得たこと。
それから、長きにわたって封印してきたことで人もまた守られてきたことに感謝を伝えた。
(たぶん、二人とも人間を全面的に信用はしないと思うのね、だから誠実に対応しないとね)
労をねぎらうと同時に、電波を阻害することになってしまい、若干の不都合を受ける状況になっている旨も隠さずに伝える。
「それで二体の竜を退治できたら、すこしだけ電波を弱めてもらえないかな?」
「うん。それは問題ないよー。結界を完全に解いちゃえばいい話だからー」
「よかった……感謝することはあれ、害意を向けるなどもっての外なので、そういうものはこちらで排除させていただきます」
割合好意的に、美雷は話に頷く。
雷夢の方は『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)の視線を感じ取り向き直った。
「……そんなに、私達が物珍しいですか?」
「お前達が雷獣か。何、雷を扱う者として一度会ってみたいと思っていたが、想像していた外見と違ったのでな、まさかこの様な少女だとは思わなくてな。今まで奴等を封印してくれて感謝する、ここからは俺達に任せてくれ。あの二頭の竜は俺達が必ず止める。約束しよう」
「約束ですか……正直、私は美雷ほどあなた達を信じる気にはなりませんが」
警戒心を露わにする雷夢は、しかし、両慈の恋人である『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)と同じ年頃の女の子が人見知りをしているようでもあった。
「被害が出るなら消す、けど。……ずっと、結界張っておくのは、大変。妖、閉じ込めてくれてて、ありがとう」
「……どうも」
桂木・日那乃(CL2000941)の言葉にも、雷夢は戸惑った態。
そんな皆の様子を。遠目から二体の竜が見下ろしている。雷獣達の結界がなければ、すぐにでも襲いかかってくる。背筋が凍る威圧感。
(強い気配がする妖なの……こんなのが暴れてたら……多分大変な事になっていたの。人知れず誰からも感謝されずにこんな封印をしてくれてた事……大変なお勤めだったと思うの……だから何よりもまず感謝の気持ちを伝えなきゃ)
『愛求独眼鬼/パンツハンター』瀬織津・鈴鹿(CL2001285)は、マイナスイオンを放ち。
雷獣二人に笑いかけた
「今まで鈴鹿達がこの妖達と戦わずに済んだのは雷獣のお姉さん達が今まで結界を張ってくれてたお陰なの。ありがとうなの♪」
「あははー。照れちゃうねー、雷夢?」
「……そのだらしない顔を何とかなさい、美雷」
「だから……感謝の気持ちも込めてこの妖達は私達が倒すの……お姉さん達を役目から解放するの! 美雷お姉さんと雷夢お姉さん、王子様ではないけど……戦いが終わったらお友達になってほしいの」
「うん。いいよーいいよー。てか、今からもう友達だよー」
「……」
鈴鹿と握手して、ぶんぶん手を振り回す美雷。
雷夢は仏頂面を崩さないが。『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)も意気込みを伝える。
「長い間、危険な存在を封印してくださり、本当にありがとうございました。ここで二体の竜を倒して、お二人の休息時間を作ってあげられればとおもっています。もちろん、二体の竜がお二人を狙ってくることは容易に想像ができますので、わたしたちを盾にしていただければと思いますので、しばし、後方で休憩していただければいいかなと思います」
「おおー! 覚者さん、すごいやる気!!」
「……あまり無理をしませんように。最悪、結界をまた張りますので」
少しずつではあるが、何かがほぐれてくる。
その横で葦原 赤貴(CL2001019)は、これから戦う相手をじっと見据えていた。
(この、封じられていた妖どもを殺し尽くせば、電波障害は消えるのか。良し悪しではあるが、まぁ便利ではあるな。友人と気軽に連絡を取り合って出かける……未来図としては、悪くない)
●
「……ここって神社? 近くに街があって。どうして、ここに妖、2体、も? ……神社のひとは、もう、いない、の、ね」
「この妖二体が昔に人里を破壊。それを無人になっていたここで私達が封印したら、また人が戻ってきて復興して街になった……というのが大まかな経緯ですね」
「一応、人除けしてここは立ち入り禁止にしているしねー」
雷獣達が日那乃の疑問に答えつつ、結界の前に立つ。
二体の竜が障壁を隔てて、覚者達と対する。遥が胸を叩いて笑った。
「えーと、美雷さんと雷夢さん、だっけ? オレは鹿ノ島遥! 今まで封印ありがとな! あとは任せてくれ! うっし、それじゃ張り切っていこうか! 竜退治!!」
美雷と雷夢が頷き。
何事か唱え――何か砕けるような音を立てて結界が解除される。
「さあ、見てもらおうか。練り上げた人間の力と技ってやつを!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
五織の彩の一撃が開幕の狼煙をあげる。
数十年封印されてきたフラストレーションを叩きつけんと。解き放たれた竜達は、獰猛な唸り声を響かせ襲いかかってくる。
「見ててね、雷獣さんたち。あなた達が待ち続けた、ヒトの力で開放してみせるから」
悠乃は赤竜の前について、まずは灼熱化。エネミースキャンで敵の状態を把握しつつ、行動方針を決める作戦だ。錬覇法を使った両慈も、恋人の指示を聞き逃すまいと耳を澄ませる。
「この剣のかつての持ち主は、己が命の全てをかけて、妖と戦っていた。オレが全く同じ道を進むことはないが……ヒトの敵を憎む怒りは、変わらん」
雷獣たちがどう思おうが、結果が全てだ。
と、赤貴は青竜の前に出た。英霊の力を引き出し、沙門叢雲の両刃剣を構える。
(美雷さんと雷夢さんが人間をどういう風に見ているかはわからないけれど、かならずしもいい感情だけではないと思うんです。それはしょうがないのですけど……ただ、わたしたちがお二人やほかの雷獣を尊敬していることは信じてもらいたいです)
そのためにも二体の竜は倒したい。
結鹿は纏霧と迷霧で敵の行動阻害を図りつつ、蔵王・戒と紫鋼塞で守備強化とカウンターに備える。同じ中衛の鈴鹿も、高密度の霧を発生させた。
妖達は巨大な身体を大胆にゆすって、それらを忌々しく嫌がる素振りを見せる。
「竜とか……妖ってなんでもありなの……もう怪獣じゃない……怖いのは怖いけど、ここまでくると逆に……なんだろうこれ。ま、まぁ、動いて対応するしかないわけだしね!」
羽琉は自分でもマイナスイオンを使って、緊張をおちつかせる。後衛からの術式攻撃と気力回復の二本柱が、自分の仕事だ。御菓子と日那乃は回復役へとまわる。
「人間、人間、人間、人間、人間、人間……!!」
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す……!!」
赤竜が紅蓮の炎を吐き。
青竜が凍える吹雪を放つ。
手ひどい炎傷と凍傷。その威力は気を抜けば、覚者達を一瞬で一掃しかねないものだ。
「二体同時に攻撃が来るよ。皆、気をつけてね」
悠乃はよく妖達を観察することを怠らない。状況把握と伝達は重要だし、はっきりとした指示が必要となる。敵が両方とも攻撃してくるようなら、防御と回復を優先だ。
「海衣や超純水が必要な人はいますか?」
「回復どれくらいいる? 手分け、必要」
「お手伝いするの」
送受心・改なども使って相談し。
御菓子や日那乃は仲間達に補助を懸命に行い。それに鈴鹿も癒しの霧や演舞・舞衣などで手を貸し。回復、バッドステータスの除去に努める。他の者も身を固め――
「今度は、青竜の動きが麻痺で硬直しているよ」
再び悠乃の指示が飛ぶ。
瞬時に赤貴は隆神槍で、突きまくった。
「殺さなければ、死ぬ。それだけだ。オレは、生きる」
狙いは大型獣の腹。
地面に近く攻撃受けることも少なく、自然と鱗等の防御も薄くなる部位だ。社会ほぼ全てを憎み、作り変えるために戦う。彼にとって妖戦も単に通過点に過ぎない。
「ほらほら竜さん、人間が目の前にいるぞ! 喜び勇んで殺しにこい!」
遥は練り上げた気を一点集中した念弾で標的を撃つ。
ホントは最初から前衛でバリバリ殴りあいたいとこだけど、戦術だから仕方ない。ただし、いつでも交代できる用意は万端だ。結鹿も氷巖華を合わせて放つ。
覚者達は、妖達の攻撃を耐え、かいくぐり。
「……二体とも攻撃が来ない。チャンスだよ」
「了解だ、悠乃」
好機が来れば逃さない。
両慈が激しい雷を呼び寄せて、二体の竜に鋭い稲妻を落とす。更に悠乃自身は炎柱を出現させて、全てを焼き払いにかかった。
(特徴的な大技とかがあれば、モーションの判別がしやすいはず。警戒できる情報を素早く見つけて共有できれば……)
羽琉も攻撃に参加しつつ。
一連の敵の動きを瞬間記憶で良く見ておく。少しでも役に立てる可能性を信じて。
●
「長丁場になりそうだしな、体力消費しすぎるわけにはいかねえ」
「宮神さん、気力の補充を頼む」
「分かったよ。手数を減らさないために耐えるのも重要だけど、攻撃しないと倒せないものね」
「わたしも、だれか、填気してくれたら嬉しい」
遥が時折、地烈を混ぜつつもその回数とタイミングには注意を払う。ひたすらに攻撃を続ける赤貴や回復を行う日那乃の要請には、羽琉が応じてすぐに大填気を施す。
覚者達と妖の一進一退の攻防が繰り広げられる。
(……これだけガチガチにやりあってると、また両慈さん心配しちゃうかな。でも、大丈夫ですよ。華神の祖は竜なんだそうです。で、私の中には黒竜がいるんだって、ばっちゃが言ってたんです)
(雷獣達はこの二頭の竜を命懸けで封印してきた……とあったな。やれやれ……ならば俺も少し気合を入れて応えなくてはならないな。二頭の竜か……面倒な相手だが悪くない敵だ……)
生き生きとした悠乃。思わず苦笑する両慈。
二人はどちらともなく視線を合わせ、同時に頷き。赤竜へと総攻撃をかける。
「麻痺した竜と、仲間と一緒に全力を振るえる竜。勝つのはどっちかって、ね?」
黒い炎を放出し、近代的な格闘技の技に乗せる。
それが悠乃の豪炎撃。渾身のインファイトによる拳が、竜の鱗を砕き。
「……やれやれ、悠乃に感化されて少しバトルマニアな思考になってしまったのか、俺は」
そこを狙いすましたように、両慈が続く。
赤竜の右胸の一点が、鱗の色よりも鮮やかな深紅に染まった。他のメンバーの指標になり得る、格好の的ができあがる。
「ただの子供と甘く見ないで下さいね」
結鹿の蒼龍……小烏造の太刀による斬撃が更に竜の傷を広げる。戦場に夥しい流血が舞い散り。鈴鹿は伊邪波や破眼光を駆使して後押しした。
「ダアアアアアアアアアアアアアアァアア!!!」
無論、妖も黙ってはいない。
赤竜は全身から炎を放出して自身を強化。激しさを増した煉獄の火炎が、容赦なく覚者達に浴びせられる。御菓子は懸命に、潤しの滴や深想水で戦列を支えた。相手が常時麻痺状態でなければ、より被害は広がっていただろう。
「雷夢ー……どう思う?」
「微妙なところですね」
雷獣達は後方で、戦闘の様子を眺めていた。
彼女達の頭上には少しずつ明るい光が集約し、それは次第に大きく強くなっていく。覚者達の戦闘の如何によっては、この溜めた力をどう使うかを判断しなくてはいけない。
--だが。
その強大な力の光芒は、敵の眼を引く結果にもなった。
「雷獣……雷獣ウウウウウウウウウウウウウウ!!!」
「……こっちに!」
青竜と雷獣達の視線が合う。
氷の息吹が渦を巻いて、少女の姿をした二人の古妖へと牙を剥き……刹那、二つの人影がカバーリングに入った。
「二体の竜は長い間、動きを押さえこんでいた二人を絶対恨んでると思っていましたから」
「絶対に二人を戦闘に巻き込むわけにはいかないの」
結鹿が自らの身体を差し込み、妖の脅威から雷夢を守る。
美雷の方は、いざというときにかばえる位置を保持していた御菓子がフォローする。
「あ、あなた達……な、何を?」
「場合によっては、こっちそっちのけで二人を狙う可能性もあるんじゃないかと身構えていた甲斐がありました」
呆然とする雷夢に、結鹿が力強く笑いかける。
その身体は手ひどい凍傷を負ってしまっていた。
●
「一旦、下がるね。皆は青竜の方に攻撃を集中して」
「出番だな、オレが前に出るぜ」
「鈴鹿も交代するの」
消耗した悠乃に代わり、遥と鈴鹿が前に躍り出る。
残り時間や敵の状態を鑑み。飛燕を中心とした物理攻撃を青竜へと集中砲火した。
「体力の多い方を削らないとな……判断は悠乃に任せるが、な」
時間に余裕があり、ダメージが早期に蓄積しているようなら先に一頭を潰して被害を抑えたいところだが。そう上手くもいかない。両慈は下がってきた恋人に填気を使った後に、潤しの雨で味方を癒す。激しい戦闘に、体力と気力の補給も満足にはおぼつかない。
「……っ」
古妖を庇った時に負った傷が疼く。
結鹿は身体に力が入らず、太刀を取り落とさないようにするので精一杯だった。妖はそんな彼女の様子を見逃さず。赤竜による炎の爪と、青竜による氷の爪が容赦なく迫り。
「「オオオオオオオオオオ!!」」
妖達の身体を巨大な雷が縛りあげる。
麻痺を越えた、大きな負荷。雷獣達が叫ぶ。
「……何をしているんですか、この隙に早く立て直しなさい!」
「結鹿ちゃん、御菓子ちゃん、さっきはありがとうねー。皆、頑張ってー!」
雷夢は精一杯素っ気ない態を装っていたが、顔は真っ赤だった。美雷がバタバタと大げさな身振り手振りで応援する。覚者達は顔を見合わせて、この機を生かす。
(雷獣さん、ありがとう)
羽琉がエアブリットを放つ。
御菓子もここは水龍牙で攻撃に移る。日那乃は最後まで回復を行って皆を支えた。覚者達の意気のあがった攻勢に対し、妖達は雷獣達の力によって反応が著しく精彩を欠くようになって対応できずにいる。
「どうだー、このくらいダメージ与えりゃいけそうかー?」
「あと少し……あと少しよ」
「ダメージを与えればいいって話だけどさ……別に、倒してしまっても構わないんだろう?」
雷獣の答えを受け、ドヤ顔した遥は正鍛拳を解禁する。
鍛え抜かれた拳が赤竜へと突き刺さり。一気に追い込む。連打につぐ連打。右胸の傷が罅割れて全体へと広がる。
「汝、悲しき存在よ。我が双刀の力を持って祓い清めん……さすれば、穏やかに黄泉の旅路へ行かん事を」
超直観が、敵の限界を告げている。
鈴鹿は祓刀・大蓮小蓮を両手に携え。出血と痺れを強いる夫婦刀が、その切れ味を如何なく発揮する。覚者の影と、赤竜の影とがすれ違い。
次の瞬間、両断された巨獣が力なく倒れた。
「死ぬまで、殺す」
残りは青竜のみ。
何もせずに止まる気なぞない。
赤貴は術が使えなければ殴る、拳が砕ければ蹴る、足が利かなければ這いずってでも噛み付いてでも。自身に探知手段はないため、要求がない限り、敵が倒れるまで攻撃が必要だ。
さすがに悠乃が下がるように促そうとしたのと。
羽琉が注意を発したのはほぼ同時だった。
「あのモーション……氷の爪が来る」
瞬間記憶で観察した結果の結論。
仲間の声に反応した赤貴は、剣で敵の爪を受け流し……雷獣達はここで決断を下した。
「全員離れて! もう充分です!!」
全てを飲み込む光の塊。
それが青竜を飲み込み。覚者達の視界を覆った。
●
「何とか約束は果たせたな……。礼は他の奴にくれてやってくれ、俺には悠乃が居るのでな」
「おつかれ」
「お疲れさまでした」
「お騒がせしました」
両慈は恋人を抱き寄せ、悠乃も身体を預けた。
労いくらいはなという感じの赤貴。御菓子は笑いかけ。結鹿が詫びる。
「ん! これで美雷お姉さんと雷夢お姉さんは自由なの! 私達頑張ったの! だから……褒めて欲しいの……」
「いーよー。ほらほら雷夢もー」
「え、ちょっと!」
雷獣達は鈴鹿をハグして。
その頬にチューをする。
「えへへ♪ これからも仲良くなりたいから……鈴鹿とお友達になってほしいの」
雷夢の顔は真っ赤にくしゃくしゃで。
美雷は嬉しそうに微笑んだ。

■あとがき■
ご参加ありがとうございました。
美雷、雷夢とも人間を見るのは初めてでしたが、参加者の皆さんと触れあったことで人への見方が少し変わったことと思います。
それでは、お疲れさまでした。
美雷、雷夢とも人間を見るのは初めてでしたが、参加者の皆さんと触れあったことで人への見方が少し変わったことと思います。
それでは、お疲れさまでした。
