【緋色の羊】私の愛した悪魔
●追加報告
「必要なら命も賭けるモノではないのですか? 違うのですか?」
深緋 久作の言葉に、ルファは目を細め微笑む。
「『命も賭ける』――私はその言葉、別の方から聞いた事がありますよ」
AAAの救護班が到着し、宮下刹那と永久が別室へと移動すると、ルファが口を開いた。
「私が姿を消した時、聖羅は私に言ったんです。『女1人助ける為に、命を賭ける』と。その言葉が、大月さんの声を私に聞かせてくれました」
それを聞いて、恩田 縁が探るように言葉を発した。
「ルファ司祭、今一度問います。『声』は本当に、盞花さんの声でしたか?」
縁は交霊術を使う。ルファの傍にいる大月盞花の霊へと望みを尋ねた。
『護るの。ルファ司祭様を護るの』
その答えを、男に伝える。
「聖羅には、記憶や感情、認識を変質させる能力があるのではないですか? とすれば、貴方もその影響を受けているのでは?」
「……まだ、私を護ろうとしていますか」
男は嬉しいような、悲しいような、複雑な表情をする。
「真相を教えて下さい。今のままでは、貴方の力になれない」
工藤 奏空の言葉には、菊坂 結鹿が続いた。
「助けたいと思っています。けど、何かの事情があるとはいえ、説明もないのはいけないです」
結鹿の怒っている様子に、ルファは小さく両手をあげる。
「少女から怒られるのは苦手ですよ」
それは、盞花の姿が重なるから。
「……私の目的は、聖羅を護る事です。聖羅は、璃架を助ける為に命を賭けると言いました。俺の命をやるよ、仇をとりたいだろう? と私を煽ったのです。……ついて来なければ、このAAAの隊員達を殺す、とも言ってきました。幽霊男さんが来られたのは、その後ですよ」
少しの間を置いて、ルファは縁へと視線を向けた。
「私に聞こえたのは、大月さんの直接の声ではありません。けれども私のよく知る、大月さんらしい言葉でしたよ」
『彼を助けて。もう誰も死なないで』
「本当の彼女もきっとそう言う。……彼女はね、仇討ちなど望んでくれない」
それまで黙って聞いていた三島 椿が、「でも」と疑問を口にする。
「聖羅はリーダーでしょう? 何故永久さんを助ける為に命を賭ける必要があるの?」
「ええ、私もその疑問を持ちましたよ。そして私が導き出した答えは、『聖羅の後ろには黒幕が居る』でした」
あなた方の夢見は、見たでしょうか? とルファが問う。
「聖羅はあなた達の襲撃前、『俺は先に逃げるよう、言われている』と言ったんです。これは、璃架が伝えた言葉の事でしょうか? 私は『違う』と思いましたよ。璃架へと『用無しだ』と言った聖羅が、彼女の言葉を聞く筈がない。彼に命令を下せる者がいる――そう確信しました。彼はその相手から、璃架を助けようとしていると。そしてその相手は、聖羅が表立って反抗出来ぬ相手であるのだと。少なくとも、彼にとってはそういう相手であると」
「聖羅は、何故ルファ神父を連れ去ったの? それとも翼人を、かしら。その執着は何?」
エルフィリア・ハイランドの言葉に、癒雫が首を振った。
「いいえ。彼が執着したのはあなた方FiVE。最初、私を助けて下さった時の言葉が、聖羅に計画を立てさせた。あなたも仰っていたでしょう? 『例え犯罪者であっても可能な限り殺害は避け、司法の場にて裁きを下す。これが人権を重んじる法治国家日本でのやり方でしょ』と。それを彼は、離れた場所で聞いていたのでしょう。私は、あなた方を誘き出す為の只の駒。前回の事件も同様です。私が関係すれば、あなた方はきっと、来て下さいますから」
「なら、聖羅さんの能力はどういったものなんでしょうかっ」
AAAとH.S.達の傷を回復して回っていた月歌 浅葱が、部屋へと入ってきながら問う。
「聖羅は、相手の数年分の記憶の中から望む記憶を消す事が出来るのです。本来ならば消される本人が消える事を強く望んでいるものに限られる能力ですが、彼を信望している導師達は、聖羅が望む『消去の必要がある記憶』を、無条件で自らも強く望むんです。彼はこの能力、『浄化』と呼んでいますよ。ですが……消したいと強く望む記憶と共に、本人が『1番忘れたくないと願う記憶』も、消えてしまうのです」
覚者達を見回し、ルファは笑む。
「さて皆さん。私はどうなるのでしょうか? 願わくば、逃がして下さいますよう」
●追加任務
「追加報告書は、以上だ。そして篁からは、襲撃時に透視出来なかった部屋が多く残っているとの報告がある」
篁 三十三が透視した部屋には、怪しい物は見当たらなかった。だが気になる物や手掛かりとなる物が残っているかもしれないと、中 恭介に伝えていた。
「お前達には屋敷に赴き、中を調べてもらう。今はAAAが付き添っているルファ司祭にも、話を聞く事は可能だ。彼をどうするかも、任務に当たるお前達に任せる。そして宮下永久からも、今まで聞けなかった話を聞く事も可能だろう」
頼んだぞ、と恭介は覚者達を見回した。
「必要なら命も賭けるモノではないのですか? 違うのですか?」
深緋 久作の言葉に、ルファは目を細め微笑む。
「『命も賭ける』――私はその言葉、別の方から聞いた事がありますよ」
AAAの救護班が到着し、宮下刹那と永久が別室へと移動すると、ルファが口を開いた。
「私が姿を消した時、聖羅は私に言ったんです。『女1人助ける為に、命を賭ける』と。その言葉が、大月さんの声を私に聞かせてくれました」
それを聞いて、恩田 縁が探るように言葉を発した。
「ルファ司祭、今一度問います。『声』は本当に、盞花さんの声でしたか?」
縁は交霊術を使う。ルファの傍にいる大月盞花の霊へと望みを尋ねた。
『護るの。ルファ司祭様を護るの』
その答えを、男に伝える。
「聖羅には、記憶や感情、認識を変質させる能力があるのではないですか? とすれば、貴方もその影響を受けているのでは?」
「……まだ、私を護ろうとしていますか」
男は嬉しいような、悲しいような、複雑な表情をする。
「真相を教えて下さい。今のままでは、貴方の力になれない」
工藤 奏空の言葉には、菊坂 結鹿が続いた。
「助けたいと思っています。けど、何かの事情があるとはいえ、説明もないのはいけないです」
結鹿の怒っている様子に、ルファは小さく両手をあげる。
「少女から怒られるのは苦手ですよ」
それは、盞花の姿が重なるから。
「……私の目的は、聖羅を護る事です。聖羅は、璃架を助ける為に命を賭けると言いました。俺の命をやるよ、仇をとりたいだろう? と私を煽ったのです。……ついて来なければ、このAAAの隊員達を殺す、とも言ってきました。幽霊男さんが来られたのは、その後ですよ」
少しの間を置いて、ルファは縁へと視線を向けた。
「私に聞こえたのは、大月さんの直接の声ではありません。けれども私のよく知る、大月さんらしい言葉でしたよ」
『彼を助けて。もう誰も死なないで』
「本当の彼女もきっとそう言う。……彼女はね、仇討ちなど望んでくれない」
それまで黙って聞いていた三島 椿が、「でも」と疑問を口にする。
「聖羅はリーダーでしょう? 何故永久さんを助ける為に命を賭ける必要があるの?」
「ええ、私もその疑問を持ちましたよ。そして私が導き出した答えは、『聖羅の後ろには黒幕が居る』でした」
あなた方の夢見は、見たでしょうか? とルファが問う。
「聖羅はあなた達の襲撃前、『俺は先に逃げるよう、言われている』と言ったんです。これは、璃架が伝えた言葉の事でしょうか? 私は『違う』と思いましたよ。璃架へと『用無しだ』と言った聖羅が、彼女の言葉を聞く筈がない。彼に命令を下せる者がいる――そう確信しました。彼はその相手から、璃架を助けようとしていると。そしてその相手は、聖羅が表立って反抗出来ぬ相手であるのだと。少なくとも、彼にとってはそういう相手であると」
「聖羅は、何故ルファ神父を連れ去ったの? それとも翼人を、かしら。その執着は何?」
エルフィリア・ハイランドの言葉に、癒雫が首を振った。
「いいえ。彼が執着したのはあなた方FiVE。最初、私を助けて下さった時の言葉が、聖羅に計画を立てさせた。あなたも仰っていたでしょう? 『例え犯罪者であっても可能な限り殺害は避け、司法の場にて裁きを下す。これが人権を重んじる法治国家日本でのやり方でしょ』と。それを彼は、離れた場所で聞いていたのでしょう。私は、あなた方を誘き出す為の只の駒。前回の事件も同様です。私が関係すれば、あなた方はきっと、来て下さいますから」
「なら、聖羅さんの能力はどういったものなんでしょうかっ」
AAAとH.S.達の傷を回復して回っていた月歌 浅葱が、部屋へと入ってきながら問う。
「聖羅は、相手の数年分の記憶の中から望む記憶を消す事が出来るのです。本来ならば消される本人が消える事を強く望んでいるものに限られる能力ですが、彼を信望している導師達は、聖羅が望む『消去の必要がある記憶』を、無条件で自らも強く望むんです。彼はこの能力、『浄化』と呼んでいますよ。ですが……消したいと強く望む記憶と共に、本人が『1番忘れたくないと願う記憶』も、消えてしまうのです」
覚者達を見回し、ルファは笑む。
「さて皆さん。私はどうなるのでしょうか? 願わくば、逃がして下さいますよう」
●追加任務
「追加報告書は、以上だ。そして篁からは、襲撃時に透視出来なかった部屋が多く残っているとの報告がある」
篁 三十三が透視した部屋には、怪しい物は見当たらなかった。だが気になる物や手掛かりとなる物が残っているかもしれないと、中 恭介に伝えていた。
「お前達には屋敷に赴き、中を調べてもらう。今はAAAが付き添っているルファ司祭にも、話を聞く事は可能だ。彼をどうするかも、任務に当たるお前達に任せる。そして宮下永久からも、今まで聞けなかった話を聞く事も可能だろう」
頼んだぞ、と恭介は覚者達を見回した。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.屋敷内の探索・調査。
2.ルファをどうするか決める。
3.宮下永久の無事確保。
2.ルファをどうするか決める。
3.宮下永久の無事確保。
『雨の夜に現れし悪魔』
『悪魔は2度嗤う』
『悪魔のナイト・ビショップ』
『悪魔の計画書』
に続く、【緋色の羊】シリーズの最終話となります。
現場保存がなされている今を逃さぬ為、急速な任務開始が必要となります。
そのため相談期間が短くなっております。
宜しくお願いします。
今回は敵の本拠地であった建物の探索等を行って頂きます。
1つの言葉や行動が、良い方向へと導く場合も、悪い方向へと繋がる場合も、在り得ます。
時間帯としては、前回任務当日の夕方、日暮れ前となっています。
夜には山も暗くなり危険が伴うと思われる為、迅速な行動をお願いします。
●今回出来る行動(行動範囲は塀の中のみ。庭に出る事も可)
1【屋敷内を探索する】
2【ルファと話す】
3【永久と話す・共に過ごす】
※3つのうちで、各自なるべく行動を絞って下さい。(多くとも2つまでとします)
どれをお選びになったとしても、具体的な行動、台詞、狙い等をお書き下さい。
特に【屋敷内を探索する】をお選びになった方は、どういった場所のどういう箇所を注意して調べる等、しっかりとご記入下さい。
●現場
山奥にある二階建ての屋敷。
廊下の幅は4人が並べる程度。中庭側には窓、もう片側には扉が並んでいます。
前回任務時に侵入出来ていない部屋にはカーテンと鍵が閉められており、外からは中の様子は窺えません。
北・東・南の3棟からなるコの字型の建物です。
現在確認出来ている部屋数は、各棟の各階に10~12帖程の部屋が4~6部屋。屋敷全体で33部屋です。
その他に調理場や浴場などがあります。
●現場に残っている他の者達
ルファの見張りにAAA隊員が5人、現場保存と見回りにAAA隊員2人と枢を含むH.S.が3人、宮下刹那・永久、が建物内に残っています。
他の者は逃げた隔者の追跡や建物周辺の探索を行っていますが、有益な情報はほとんど得られないものと思われます。
※前回に引き続き、主導権はFiVEにありますので、AAA、H.S.共に、基本的には皆様の指示に従います。
が、指示が無茶なものであったりした場合、協力は得られず、FiVEが信用を失う事にもなり兼ねません。
●H.S.(ハーエス)
『隔者や破綻者にしか攻撃しない』を掲げている憤怒者組織。
正式名称『Heiliges Schwert』(『神聖なる剣』の意)
代表者 吉野 枢(かなめ)29歳。
枢を含む3人が銃と盾で武装したまま現場に残っています。
●宮下刹那 20代前半。翼人・水行。武器はナイフ。
隔者組織『死の導師』の元一員。組織での呼び名は灰音(はいね)。聖羅に記憶を消され、組織での事は憶えていません。
基本、永久と共にいようとしますが、無茶でない皆様からの指示には従います。
●宮下永久(とわ)
刹那の妹。夢見。組織での呼び名は璃架(りか)。
夢見の他にも何かしらの能力があるようです。
前回の深緋 久作の魂使用により、衰弱していた体は全快しています。が、元々体が弱く、あまり無理は出来ません。
●癒雫(ゆだ) 27歳。翼人・水行。
ルファ・L・フェイクス。本来は兵庫県の南東部・西宮市郊外にある小さな教会の司祭。
灰音と聖羅に殺害された少女・大月盞花の死を引き摺っています。
現時点では、南棟2階の一室にAAA隊員に付き添われ待機している状態です。
彼をどうするかは、皆様に委ねられています。
本人はOPの言葉通り、逃がしてくれる事を望んでいます。
●聖羅(せいら)
緋色の瞳の青年。
他の隔者達に命令を下せる立場にあり、彼等のリーダーだと思われます。
前回の任務時、皆様が現場に到着した時点で、既に逃亡していました。
●前回の任務後、捕らえられた隔者の人数は5人です。
残りの戦闘不能者は、逃亡する隔者達が連れて逃げたようです。
以上です。謎は、まだ残っていますね。
全ては難しいですが、皆様のプレイングにより、更なる謎解明は可能です。
期待を抱きつつ、皆様とご縁があります事、楽しみにしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
4日
4日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
7/8
公開日
2016年10月03日
2016年10月03日
■メイン参加者 7人■

●
――制圧出来た館の後始末、ね。
エルフィリア・ハイランド(CL2000613)は、夕暮れの中に建つ2階建ての屋敷を見上げる。
(これは意外と、大きな仕事になりそうね)
東棟中央の扉を開け正面にある階段を上がって行きながら、深緋・久作(CL2001453)はこの屋敷で立てただろう聖羅の『計画』を思う。
(永久様を保護させるための計画でありましたか……)
ファイヴならば、特殊な覚者にも非道な手段に訴えず、ある程度の組織力もある。
璃架の代替には自身がなり、「用無し」として置き去りにする。黒幕や他の部下に対し疑心を抱かせないため、癒雫に「渡すくらいなら殺せ」と命じる。その実、ルファが彼女を殺さないと解った上で護衛、治療役に残した。
――賭けではありましょうが。夢見があれば、分はあるでしょうか。
「そういえば気になることがあるんですが……」
『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)が呟く。
「司祭様が『大月さんの声を私に聞かせてくれました』っていってましたが、『直接の声ではありません』ともいってましたよね……。じゃあ、誰の声で聴いたんでしょうか?」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の袖をそっと引く。訊いておいてもらえるよう頼んだ。
部屋の前にいるAAA隊員に頭を下げてから、三島 椿(CL2000061)が永久の居る部屋の扉をノックし、開けた。
「こんにちは永久さん、私は三島椿というの」
椿に続き一緒に部屋へと入った結鹿と久作が、永久に自己紹介をする。
「体調は大丈夫かしら? もう座っていて平気? 深緋さんが貴方の身体を癒してくれたけど、もしまた体調が悪くなったら教えてね。これから私達は貴方に質問したいのだけれど良いかしら?」
そう言われると予想していたのだろう。素直に頷いた永久に、彼女の前、丸いテーブルを挟み3人が座った。
「刹那も良いかしら? 大丈夫。無理はさせないわ」
チロリ、僅かに片眉を上げた刹那が永久に視線を戻す。少しの間を置いて、頷いた。
有難う、と刹那に伝え、椿は永久へと顔を戻す。
「これからの事なのだけれど、刹那も永久さんもファイヴに来ないかしら」
永久が、壁際に立つ刹那と顔を見合わせた。意図をはかり兼ねている少女に、椿が微笑む。
「いきなり言われてビックリしたと思うけど、良かったら考えてくれると嬉しいわ。2人を守る為にも保護という形で、ひとまずファイヴに来てほしいわ」
一方ルファが居る部屋では、彼を見張るAAA隊員達へと奏空が告げていた。
「これから恩田さんが交霊術を使います。少しの間、集中させてあげてもらえますか」
頷いた隊員達の前で、『誰が為に復讐を為す』恩田・縁(CL2001356)がルファの背後にいる大月盞花の霊へと尋ねる。
「貴女は、ルファ司祭に聖羅への助力を願いましたか? ルファ司祭が連れていかれた時の会話は、聞いていましたか?」
縁が狙ったのは、ルファが語った話の真偽を確かめる事。
しかし盞花は、質問には答えず胸の前で祈るように両手の指を組む。
『護るの。私がルファ司祭様の全てを……』
ああ、彼女は……と思う。
――司祭を護りたいという想いだけに、囚われてしまったのか。
何を、質問しても。答えぬだろう。彼女はただそれだけの為に、この世界に留まっているのだから。
縁が盞花と話している様子を見守っているふりで、奏空はルファへと『送受心・改』で語りかけていた。
(「周りにいるAAAやH.S.達に聞かれたくない話もあると思います。ルファ司祭……大月さんは聖羅と刹那に殺されたんですよね……。真相を話してくださいって言ったけど、ちっとも分かんないよ……。お願いです。俺に話してくださいっ」)
懸命に言葉を綴る奏空を見返したまま、ルファは微笑を崩さない。
(「どうして聖羅を護りたいのか……、そして貴方は何をしようとしているのかを。……大月さんはなんで殺されなきゃならなかったんですか? 俺……その答えを貰わないと、ルファ司祭を信じたいと思ってる心の糸が切れてしまいそうです……」)
泣きそうに、奏空は顔を歪める。結鹿の疑問も伝えた彼に、男が言葉を返した。
(「大月さんが殺されたのは……私が恨みをかったからですよ。……私を監視していた聖羅が、私を破綻者とするには彼女を殺すのが最適と考えたから。――何故聖羅を護りたいのかは、お伝えした通りです。私にはちゃんと、大月さんの声で聞こえました。声が、甦る感じで」)
(こちらは顔見知りの方達の方がいいでしょう)
そう判断した篁・三十三(CL2001480)は、ルファを見張るAAA隊員達へH.S.の動きにも注意するようにだけ伝えて部屋を出る。
手袋をはめ、屋敷の探索と調査に集中した。
●
(「聖羅の上に黒幕がいるという事なんですね……。その黒幕から聖羅を救う為に戦いに行くのですか?」)
奏空の問いに、ルファは僅かに瞼を伏せる。
(「そうですね……。彼を護る事が戦いと言えるなら、そうかもしれません。……工藤さん。聖羅はこの計画の為に平気で導師達をあなた方に差し出すような男です。自分を信望する者達をも、何の躊躇いもなく駒として使う、悪魔のような男ですよ。けれども彼はちゃんと、導師達を殺さぬだろう敵を見極めた。あなた達にだからこそ、捨て駒とした。私はね、そんな男だから、彼は死んではいけないと思っているのですよ。それに――彼を愛する相手が、いるのだから。己の命を賭けても助けたい相手が、いるのだから。璃架の為にも、彼は死んではいけない」)
(「それなら尚更、俺達ファイヴにもお手伝いさせてください。俺も……気持ちは大月さんと一緒です」)
もう誰も死んで欲しくない。
強く、真っ直ぐに。ルファを見つめ意思を伝えた。
「ルファ司祭」
盞花から視線を男に向け、縁が口を開く。
「貴方にとって1番忘れたくないと願う記憶はなんですか?」
縁の瞳は、『超直観』を含む。洗脳されているのではないか――その疑いを捨てきれぬ縁は、きっちりと見極めようとしていた。
「この、ファントムクォーツのピアスを付けて、嬉しそうに笑った大月さんの笑顔ですよ」
男は、そっと己の耳に付けた3つのピアスに指先で触れる。
「私は聖羅を護りたいと願うけれど、彼を信望している訳ではありません。彼は、勝手に私の記憶を浄化する事は出来ません」
「聖羅を護る為には逃げる必要がある。――そうよね?」
それまで黙っていたエルフィリアが、口を開いた。
「逃がして欲しいって言うけど、そのまま逃がしてあげるのは互いの立ち位置的に無理でしょ。今後の予定は? まっ、十中八九、聖羅と合流するんでしょうけどね」
ルファの笑みが、深くなる。やっぱりね、と肩を竦めた。
「聖羅の上にまだ誰かが居るなら、そいつまで辿り着かないとアタシ達としては全てが終わった事にはならないのよね。それに永久ちゃんはアタシ達が保護出来たけど、聖羅の上に居る人間が何を考えてるかわからない以上、彼女が絶対安全になったとは言えないわ。だーかーら、逃がして欲しいなら取引といきましょ」
取引? と聞き返した男に、笑みと共に頷いた。
三十三は前回透視で見た部屋も含め、何か手がかりになるものがないかを調べる。鍵のかかっている部屋へは、『物質透過』を使い、侵入した。
扉を内側から開けて、共に行動する見回りのAAA隊員達も入れるようにする。
「もし融通が利くのなら、証拠品など持ち出せたら良いのですが」
三十三の言葉に、AAA隊員達は「申し訳ないですが」と首を横へと振った。
「物によりますね。我々AAAは兎も角、H.S.は許したくないでしょう。黒幕の手掛かりとなる重要な証拠なら、尚更に。FiVEにだけ証拠品を回収されるなど」
確かにそうですね、と三十三は、「無理ならば気づかれずに持ちだせるものは持ちだそう」と思っていた己の考えが危険なものであったと考え直す。
それが後々にでも、何かのキッカケで気付かれたならば。FiVEの信頼がH.S.だけではなく、AAAからも揺らぐ事となる。
「永久様は聖羅様と恋人なのですか?」
2人は非常に親しい間柄だったと推測した久作の言葉に永久は顔を赤らめ、けれども「いいえ」と否定する。
「私の、片想いなんです」
そうですか、と頷いて。2人の想い出や拘束時の何気ない会話、記念日等、何か2人にしか解らない事等がないか聞いていった。
『永久が生きて』おり、『此方が保護』した状況下においてのみ、手に入る対組織の情報が残されているのではないか。
そう睨む久作に、永久は微笑む。
「もし、聖羅様が何かを残しているとしたら、兄にです」
その言葉には、刹那も驚いたようだった。
「兄の親指の指輪、あれは聖羅様とお揃いなんです。兄の忠誠へのお返し。聖羅様は、私なんかではなく、兄を信頼していました。だから、残すとしたら兄にです」
寂しそうに言った永久に、久作は礼を伝える。静かに立ち上がると、部屋を出て行った。
「以前に夢見の方と知り合う機会があったんですけど、大事に思っている相手がでてくるものを見て苦しんでいる姿を見て、予知に近い能力の辛さを感じたんですよね……永久さんもそうなんでしょう……?」
案じる結鹿に、永久は返す笑顔に感謝を込める。
「ええ。気にかかる人の事は、夢でも見やすくなるんですよ。夢見が皆そうとは限らないですけれど、少なくとも私は、そうかな……」
「永久さん。貴方が持つ力は特殊だと聞いたわ。それはどんな力なのか教えてもらってもいいかしら?」
椿の言葉に、永久が身を正した。
「私は、水晶などに『強い恨みを持つ人』の顔を映し出す事が出来るんです。私達、『死の導師』のカラクリは、こう――」
永久は兄へと水晶を持ってきてくれるよう頼み、兄を含む3人の前で水晶へと両手を翳す。
「私が水晶に映せるのは、恨みを持つ人の顔だけ。けれども私は、夢見でその人の夢を見やすくなるんです。恨んでいる相手が、只の人であるなら用はありません。恨んでいる相手が覚者だと判った時に、聖羅様が動きます。恨みを持つ相手の殺害を望むかと、確かめて。望むなら、実行に移します。――恨まれている覚者が破綻者となるのが前提ですが、破綻者とならなければ、仲間に引き込みます。ですから『隔者や憤怒者以外は攻撃しない』と掲げているH.S.は都合がいいんです。仲間に引き込む時には、事件の真相を話します。そして今度は、こう言うんです。『大事な人を殺された、恨みを晴らしたくはないか』と。『あいつが望まなければ、お前の大事な人は死ななかったぞ』と。もし、殺害を望まなければ、彼の守護使役の『すいとる』で聖羅様と接触した間の記憶を消します」
顔を見つめる椿と結鹿を、永久は見返す。
「これは、聖羅様へも教えた能力です。だから、聖羅様を追うには、必要な能力。映し出すには、恨みを受け留める覚悟が必要です――」
●
三十三と合流した久作は、永久の話を元に何か残されているものがないかを探す。
書物などの手掛かりを探しながら、ユリ子の『かぎわける』も併用した。
本が並ぶ大きな書棚。そこで感じ取った、『本』とは別の匂い。
匂いを頼りに異質な物を探し出せば、大きなハードカバーの分厚い本。しかし、すぐに違和感に気がついた。
背表紙から見れば、何の変哲もない本。しかしページは捲れない。そして本を貫くように、穴が開いていた。
それは本に似せた、箱。
開いてみれば、右側には銀色のガンナイフが収められている。左の見開きには、同じガンナイフが入っていたと思われる空間があった。
「本に見せかけた、ガンケースですか……」
「武器が見つかっただと?」
聞きつけた吉野枢が、部屋へと駆け込んで来る。
「はい。恐らく2丁あったもの。ですが、1つは誰かが持ち出したようです。恐らくは、聖羅様かと。それに――」
開いた時に中から落ちた紙を拾い、皆に見せる。
『FiVEの諸君
会えずで残念だ。ささやかながら、これは餞別』
タイプされた文字が、記されていた。
「このガンナイフ。弾で撃ち抜かれています。この状態では――」
「使えぬ武器を残し、小馬鹿にしているつもりか?」
「いずれにしても、『FiVEの諸君』と書かれています。持ち帰っても宜しいですか?」
聖羅が永久を想い残したのなら、永久を護る為の武器としたかったに違いない。わざわざこちらの名を記したという事は、他の組織へは渡したくなかったのだろう。
「何か判ればお伝え致します」
言えば、枢は「そうしてくれ」と鋭い視線でガンナイフを見つめた。
「パソコンはありませんし、ゴミ箱も空。シュレッダーにも紙の破片すら残っていませんね」
部屋を捜索して回っていた三十三は、小さく息を吐く。そうして、固定電話に目を留めた。
「H.S.が此処を特定したのは、電話の逆探知でしたね……」
呟いて、AAAの隊員を振り返る。
「この電話の履歴を調べてもらえますか。もしかしたら、黒幕に繋がるものが見つかるかもしれません」
ダメ元であるかもしれないが、何かしらの手掛かりとなるかもしれなかった。
「……貴女は聖羅をどうしたいですか? 助けたいですか? ……それとも復讐したいですか?」
聖羅の事は何も知らないと答えた永久に、縁は超直観を使い尋ねる。些細な違和感さえも、見逃す気はなかった。
「……私は、助けたいです」
小さく震えながら答える永久は、それでも縁の視線を受け留める。
「助けられるとしたら、あなた達だけです。どうか、聖羅様を……」
ポタポタと、男の身を案じる涙を落とした。
永久の背を撫でた結鹿は、おしゃべりで慰めようとする。
「永久さん、お兄さん……刹那さんってどんな方なんですか? 妹想いの優しい方なのはとても分かりましたが……組織でや今回の作戦での顔は普段の、永久さんに見せる顔とは違うのでしょう? でっかい気になります」
興味津々、といった様子で、友人のように話しかける。
「わたしには姉がいるんですけど、とってもわたしに甘々で、優しいんですよ。今度、紹介しますね」
背に触れる暖かい手に、優しい声音に、永久が涙を拭いた。
「そういえば……組織での呼び名が気になっていて……『はいね』『りか』『ゆだ』ってなんだかバンドグループのメンバー名みたいでかっこいいですよね。誰が考えて、どんな顔で告げたんでしょうか」
わくわくとした結鹿の様子に、永久がふふっと笑う。
「私達の呼び名は……聖羅様が付けて下さいました。真面目な顔で告げて、ニヤリとお笑いになるんです。お兄ちゃんも、時折笑います。笑うと顔が、少し優しくなるんですよ」
へぇー、と答えた結鹿の後ろで、刹那が咳払いをする。少女達は顔を見合わせ、笑った。
「アタシ達は聖羅や彼の上に居る存在のこれからの行動を知りたい。神父様には、その情報源の1つになって貰うわ。――無論、アタシ達に流す情報を限定して聖羅だけは守るよう立ち回っても良いわよ? それ込みの取引だもの、必要なら宮下兄妹以外の隔者も回収してく?」
エルフィリアの言葉にルファはクスクスと笑い、見張りのAAA隊員達は鋭い視線を向ける。
「回収、可能と思われますか?」
難しいかもね、とエルフィリアも肩を竦めた。
「彼等の事はお任せします。それこそ、あなた方を信じていますのでね。『限定して流す』という事で、同意致しますよ」
「正直ね。全てを話すと言って限定されても、こちらには判らないのに」
「では決まりですね」
背を向けようとした癒雫に、奏空が心で声をかける。
(「俺の電話の番号を教えます。何かあったら連絡ください。通話は難しいと思うので、司祭からの着信があったら指定の場所で落ち合う、という合図にしましょう」)
緑色の瞳を見上げ、感情探査で感じた事を伝えた。
(「どこか、心を閉ざしてますよね……。でも微かに感じるんです。助けを求める声が。……どうか俺達の事、信用してください」)
吐息を洩らすように笑み落とし、ルファが穏やかに返す。
(「あなた1人で来られるおつもりですか? ならば同意出来ません。信用しているかどうかではありません。あなたにも、愛してくれる方がおられるでしょう。愛する方を、悲しませてはいけませんよ」)
電話して来ぬだろうと思わせる男に、それでも番号と落ち合う場所を伝えた。
窓を開けた男には「待って!」と声がかかる。
「貴方が持っている聖羅と聖羅の背後に居る人の情報について、もっと話せる事があったら教えてほしいわ」
部屋へと入ってきた椿の言葉に、男は申し訳なさそうな表情をする。
「まだ、私には何も判らぬのですよ。判れば何とか、お伝えするように致します」
開いた窓から風が吹き込み、カーテンを揺らす。コートを靡かせた司祭に、椿は風にまぎらせ言葉を伝えた。
「無理はしないで、信じているわ」
男が残したのは微笑みと、小さな祈り。
「皆様に、神のご加護があらん事を」
●
「死の導師を2度と再建出来ないレベルで叩き潰す為の布石って事よ。聖羅の上に居る存在が隔者かどうかは分からないけど、隔者を作るように手駒を動かす奴なら、HSにとっては敵じゃないかしら? 敵なら殺しは避けるけど、今後も協力してその存在を追うのはどうかしら?」
「ルファ司祭からの情報は、共有する形で」
癒雫の解放を、エルフィリアと縁はそう伝える。
不満の色を濃く滲ませていたH.S.は、意外にも2人の言葉にあっさりと頷いた。
「まさかあなた達と、協力関係になるとはね」
窓の前で呟いた枢の影を、夕陽が長く伸ばしていた。
――制圧出来た館の後始末、ね。
エルフィリア・ハイランド(CL2000613)は、夕暮れの中に建つ2階建ての屋敷を見上げる。
(これは意外と、大きな仕事になりそうね)
東棟中央の扉を開け正面にある階段を上がって行きながら、深緋・久作(CL2001453)はこの屋敷で立てただろう聖羅の『計画』を思う。
(永久様を保護させるための計画でありましたか……)
ファイヴならば、特殊な覚者にも非道な手段に訴えず、ある程度の組織力もある。
璃架の代替には自身がなり、「用無し」として置き去りにする。黒幕や他の部下に対し疑心を抱かせないため、癒雫に「渡すくらいなら殺せ」と命じる。その実、ルファが彼女を殺さないと解った上で護衛、治療役に残した。
――賭けではありましょうが。夢見があれば、分はあるでしょうか。
「そういえば気になることがあるんですが……」
『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)が呟く。
「司祭様が『大月さんの声を私に聞かせてくれました』っていってましたが、『直接の声ではありません』ともいってましたよね……。じゃあ、誰の声で聴いたんでしょうか?」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の袖をそっと引く。訊いておいてもらえるよう頼んだ。
部屋の前にいるAAA隊員に頭を下げてから、三島 椿(CL2000061)が永久の居る部屋の扉をノックし、開けた。
「こんにちは永久さん、私は三島椿というの」
椿に続き一緒に部屋へと入った結鹿と久作が、永久に自己紹介をする。
「体調は大丈夫かしら? もう座っていて平気? 深緋さんが貴方の身体を癒してくれたけど、もしまた体調が悪くなったら教えてね。これから私達は貴方に質問したいのだけれど良いかしら?」
そう言われると予想していたのだろう。素直に頷いた永久に、彼女の前、丸いテーブルを挟み3人が座った。
「刹那も良いかしら? 大丈夫。無理はさせないわ」
チロリ、僅かに片眉を上げた刹那が永久に視線を戻す。少しの間を置いて、頷いた。
有難う、と刹那に伝え、椿は永久へと顔を戻す。
「これからの事なのだけれど、刹那も永久さんもファイヴに来ないかしら」
永久が、壁際に立つ刹那と顔を見合わせた。意図をはかり兼ねている少女に、椿が微笑む。
「いきなり言われてビックリしたと思うけど、良かったら考えてくれると嬉しいわ。2人を守る為にも保護という形で、ひとまずファイヴに来てほしいわ」
一方ルファが居る部屋では、彼を見張るAAA隊員達へと奏空が告げていた。
「これから恩田さんが交霊術を使います。少しの間、集中させてあげてもらえますか」
頷いた隊員達の前で、『誰が為に復讐を為す』恩田・縁(CL2001356)がルファの背後にいる大月盞花の霊へと尋ねる。
「貴女は、ルファ司祭に聖羅への助力を願いましたか? ルファ司祭が連れていかれた時の会話は、聞いていましたか?」
縁が狙ったのは、ルファが語った話の真偽を確かめる事。
しかし盞花は、質問には答えず胸の前で祈るように両手の指を組む。
『護るの。私がルファ司祭様の全てを……』
ああ、彼女は……と思う。
――司祭を護りたいという想いだけに、囚われてしまったのか。
何を、質問しても。答えぬだろう。彼女はただそれだけの為に、この世界に留まっているのだから。
縁が盞花と話している様子を見守っているふりで、奏空はルファへと『送受心・改』で語りかけていた。
(「周りにいるAAAやH.S.達に聞かれたくない話もあると思います。ルファ司祭……大月さんは聖羅と刹那に殺されたんですよね……。真相を話してくださいって言ったけど、ちっとも分かんないよ……。お願いです。俺に話してくださいっ」)
懸命に言葉を綴る奏空を見返したまま、ルファは微笑を崩さない。
(「どうして聖羅を護りたいのか……、そして貴方は何をしようとしているのかを。……大月さんはなんで殺されなきゃならなかったんですか? 俺……その答えを貰わないと、ルファ司祭を信じたいと思ってる心の糸が切れてしまいそうです……」)
泣きそうに、奏空は顔を歪める。結鹿の疑問も伝えた彼に、男が言葉を返した。
(「大月さんが殺されたのは……私が恨みをかったからですよ。……私を監視していた聖羅が、私を破綻者とするには彼女を殺すのが最適と考えたから。――何故聖羅を護りたいのかは、お伝えした通りです。私にはちゃんと、大月さんの声で聞こえました。声が、甦る感じで」)
(こちらは顔見知りの方達の方がいいでしょう)
そう判断した篁・三十三(CL2001480)は、ルファを見張るAAA隊員達へH.S.の動きにも注意するようにだけ伝えて部屋を出る。
手袋をはめ、屋敷の探索と調査に集中した。
●
(「聖羅の上に黒幕がいるという事なんですね……。その黒幕から聖羅を救う為に戦いに行くのですか?」)
奏空の問いに、ルファは僅かに瞼を伏せる。
(「そうですね……。彼を護る事が戦いと言えるなら、そうかもしれません。……工藤さん。聖羅はこの計画の為に平気で導師達をあなた方に差し出すような男です。自分を信望する者達をも、何の躊躇いもなく駒として使う、悪魔のような男ですよ。けれども彼はちゃんと、導師達を殺さぬだろう敵を見極めた。あなた達にだからこそ、捨て駒とした。私はね、そんな男だから、彼は死んではいけないと思っているのですよ。それに――彼を愛する相手が、いるのだから。己の命を賭けても助けたい相手が、いるのだから。璃架の為にも、彼は死んではいけない」)
(「それなら尚更、俺達ファイヴにもお手伝いさせてください。俺も……気持ちは大月さんと一緒です」)
もう誰も死んで欲しくない。
強く、真っ直ぐに。ルファを見つめ意思を伝えた。
「ルファ司祭」
盞花から視線を男に向け、縁が口を開く。
「貴方にとって1番忘れたくないと願う記憶はなんですか?」
縁の瞳は、『超直観』を含む。洗脳されているのではないか――その疑いを捨てきれぬ縁は、きっちりと見極めようとしていた。
「この、ファントムクォーツのピアスを付けて、嬉しそうに笑った大月さんの笑顔ですよ」
男は、そっと己の耳に付けた3つのピアスに指先で触れる。
「私は聖羅を護りたいと願うけれど、彼を信望している訳ではありません。彼は、勝手に私の記憶を浄化する事は出来ません」
「聖羅を護る為には逃げる必要がある。――そうよね?」
それまで黙っていたエルフィリアが、口を開いた。
「逃がして欲しいって言うけど、そのまま逃がしてあげるのは互いの立ち位置的に無理でしょ。今後の予定は? まっ、十中八九、聖羅と合流するんでしょうけどね」
ルファの笑みが、深くなる。やっぱりね、と肩を竦めた。
「聖羅の上にまだ誰かが居るなら、そいつまで辿り着かないとアタシ達としては全てが終わった事にはならないのよね。それに永久ちゃんはアタシ達が保護出来たけど、聖羅の上に居る人間が何を考えてるかわからない以上、彼女が絶対安全になったとは言えないわ。だーかーら、逃がして欲しいなら取引といきましょ」
取引? と聞き返した男に、笑みと共に頷いた。
三十三は前回透視で見た部屋も含め、何か手がかりになるものがないかを調べる。鍵のかかっている部屋へは、『物質透過』を使い、侵入した。
扉を内側から開けて、共に行動する見回りのAAA隊員達も入れるようにする。
「もし融通が利くのなら、証拠品など持ち出せたら良いのですが」
三十三の言葉に、AAA隊員達は「申し訳ないですが」と首を横へと振った。
「物によりますね。我々AAAは兎も角、H.S.は許したくないでしょう。黒幕の手掛かりとなる重要な証拠なら、尚更に。FiVEにだけ証拠品を回収されるなど」
確かにそうですね、と三十三は、「無理ならば気づかれずに持ちだせるものは持ちだそう」と思っていた己の考えが危険なものであったと考え直す。
それが後々にでも、何かのキッカケで気付かれたならば。FiVEの信頼がH.S.だけではなく、AAAからも揺らぐ事となる。
「永久様は聖羅様と恋人なのですか?」
2人は非常に親しい間柄だったと推測した久作の言葉に永久は顔を赤らめ、けれども「いいえ」と否定する。
「私の、片想いなんです」
そうですか、と頷いて。2人の想い出や拘束時の何気ない会話、記念日等、何か2人にしか解らない事等がないか聞いていった。
『永久が生きて』おり、『此方が保護』した状況下においてのみ、手に入る対組織の情報が残されているのではないか。
そう睨む久作に、永久は微笑む。
「もし、聖羅様が何かを残しているとしたら、兄にです」
その言葉には、刹那も驚いたようだった。
「兄の親指の指輪、あれは聖羅様とお揃いなんです。兄の忠誠へのお返し。聖羅様は、私なんかではなく、兄を信頼していました。だから、残すとしたら兄にです」
寂しそうに言った永久に、久作は礼を伝える。静かに立ち上がると、部屋を出て行った。
「以前に夢見の方と知り合う機会があったんですけど、大事に思っている相手がでてくるものを見て苦しんでいる姿を見て、予知に近い能力の辛さを感じたんですよね……永久さんもそうなんでしょう……?」
案じる結鹿に、永久は返す笑顔に感謝を込める。
「ええ。気にかかる人の事は、夢でも見やすくなるんですよ。夢見が皆そうとは限らないですけれど、少なくとも私は、そうかな……」
「永久さん。貴方が持つ力は特殊だと聞いたわ。それはどんな力なのか教えてもらってもいいかしら?」
椿の言葉に、永久が身を正した。
「私は、水晶などに『強い恨みを持つ人』の顔を映し出す事が出来るんです。私達、『死の導師』のカラクリは、こう――」
永久は兄へと水晶を持ってきてくれるよう頼み、兄を含む3人の前で水晶へと両手を翳す。
「私が水晶に映せるのは、恨みを持つ人の顔だけ。けれども私は、夢見でその人の夢を見やすくなるんです。恨んでいる相手が、只の人であるなら用はありません。恨んでいる相手が覚者だと判った時に、聖羅様が動きます。恨みを持つ相手の殺害を望むかと、確かめて。望むなら、実行に移します。――恨まれている覚者が破綻者となるのが前提ですが、破綻者とならなければ、仲間に引き込みます。ですから『隔者や憤怒者以外は攻撃しない』と掲げているH.S.は都合がいいんです。仲間に引き込む時には、事件の真相を話します。そして今度は、こう言うんです。『大事な人を殺された、恨みを晴らしたくはないか』と。『あいつが望まなければ、お前の大事な人は死ななかったぞ』と。もし、殺害を望まなければ、彼の守護使役の『すいとる』で聖羅様と接触した間の記憶を消します」
顔を見つめる椿と結鹿を、永久は見返す。
「これは、聖羅様へも教えた能力です。だから、聖羅様を追うには、必要な能力。映し出すには、恨みを受け留める覚悟が必要です――」
●
三十三と合流した久作は、永久の話を元に何か残されているものがないかを探す。
書物などの手掛かりを探しながら、ユリ子の『かぎわける』も併用した。
本が並ぶ大きな書棚。そこで感じ取った、『本』とは別の匂い。
匂いを頼りに異質な物を探し出せば、大きなハードカバーの分厚い本。しかし、すぐに違和感に気がついた。
背表紙から見れば、何の変哲もない本。しかしページは捲れない。そして本を貫くように、穴が開いていた。
それは本に似せた、箱。
開いてみれば、右側には銀色のガンナイフが収められている。左の見開きには、同じガンナイフが入っていたと思われる空間があった。
「本に見せかけた、ガンケースですか……」
「武器が見つかっただと?」
聞きつけた吉野枢が、部屋へと駆け込んで来る。
「はい。恐らく2丁あったもの。ですが、1つは誰かが持ち出したようです。恐らくは、聖羅様かと。それに――」
開いた時に中から落ちた紙を拾い、皆に見せる。
『FiVEの諸君
会えずで残念だ。ささやかながら、これは餞別』
タイプされた文字が、記されていた。
「このガンナイフ。弾で撃ち抜かれています。この状態では――」
「使えぬ武器を残し、小馬鹿にしているつもりか?」
「いずれにしても、『FiVEの諸君』と書かれています。持ち帰っても宜しいですか?」
聖羅が永久を想い残したのなら、永久を護る為の武器としたかったに違いない。わざわざこちらの名を記したという事は、他の組織へは渡したくなかったのだろう。
「何か判ればお伝え致します」
言えば、枢は「そうしてくれ」と鋭い視線でガンナイフを見つめた。
「パソコンはありませんし、ゴミ箱も空。シュレッダーにも紙の破片すら残っていませんね」
部屋を捜索して回っていた三十三は、小さく息を吐く。そうして、固定電話に目を留めた。
「H.S.が此処を特定したのは、電話の逆探知でしたね……」
呟いて、AAAの隊員を振り返る。
「この電話の履歴を調べてもらえますか。もしかしたら、黒幕に繋がるものが見つかるかもしれません」
ダメ元であるかもしれないが、何かしらの手掛かりとなるかもしれなかった。
「……貴女は聖羅をどうしたいですか? 助けたいですか? ……それとも復讐したいですか?」
聖羅の事は何も知らないと答えた永久に、縁は超直観を使い尋ねる。些細な違和感さえも、見逃す気はなかった。
「……私は、助けたいです」
小さく震えながら答える永久は、それでも縁の視線を受け留める。
「助けられるとしたら、あなた達だけです。どうか、聖羅様を……」
ポタポタと、男の身を案じる涙を落とした。
永久の背を撫でた結鹿は、おしゃべりで慰めようとする。
「永久さん、お兄さん……刹那さんってどんな方なんですか? 妹想いの優しい方なのはとても分かりましたが……組織でや今回の作戦での顔は普段の、永久さんに見せる顔とは違うのでしょう? でっかい気になります」
興味津々、といった様子で、友人のように話しかける。
「わたしには姉がいるんですけど、とってもわたしに甘々で、優しいんですよ。今度、紹介しますね」
背に触れる暖かい手に、優しい声音に、永久が涙を拭いた。
「そういえば……組織での呼び名が気になっていて……『はいね』『りか』『ゆだ』ってなんだかバンドグループのメンバー名みたいでかっこいいですよね。誰が考えて、どんな顔で告げたんでしょうか」
わくわくとした結鹿の様子に、永久がふふっと笑う。
「私達の呼び名は……聖羅様が付けて下さいました。真面目な顔で告げて、ニヤリとお笑いになるんです。お兄ちゃんも、時折笑います。笑うと顔が、少し優しくなるんですよ」
へぇー、と答えた結鹿の後ろで、刹那が咳払いをする。少女達は顔を見合わせ、笑った。
「アタシ達は聖羅や彼の上に居る存在のこれからの行動を知りたい。神父様には、その情報源の1つになって貰うわ。――無論、アタシ達に流す情報を限定して聖羅だけは守るよう立ち回っても良いわよ? それ込みの取引だもの、必要なら宮下兄妹以外の隔者も回収してく?」
エルフィリアの言葉にルファはクスクスと笑い、見張りのAAA隊員達は鋭い視線を向ける。
「回収、可能と思われますか?」
難しいかもね、とエルフィリアも肩を竦めた。
「彼等の事はお任せします。それこそ、あなた方を信じていますのでね。『限定して流す』という事で、同意致しますよ」
「正直ね。全てを話すと言って限定されても、こちらには判らないのに」
「では決まりですね」
背を向けようとした癒雫に、奏空が心で声をかける。
(「俺の電話の番号を教えます。何かあったら連絡ください。通話は難しいと思うので、司祭からの着信があったら指定の場所で落ち合う、という合図にしましょう」)
緑色の瞳を見上げ、感情探査で感じた事を伝えた。
(「どこか、心を閉ざしてますよね……。でも微かに感じるんです。助けを求める声が。……どうか俺達の事、信用してください」)
吐息を洩らすように笑み落とし、ルファが穏やかに返す。
(「あなた1人で来られるおつもりですか? ならば同意出来ません。信用しているかどうかではありません。あなたにも、愛してくれる方がおられるでしょう。愛する方を、悲しませてはいけませんよ」)
電話して来ぬだろうと思わせる男に、それでも番号と落ち合う場所を伝えた。
窓を開けた男には「待って!」と声がかかる。
「貴方が持っている聖羅と聖羅の背後に居る人の情報について、もっと話せる事があったら教えてほしいわ」
部屋へと入ってきた椿の言葉に、男は申し訳なさそうな表情をする。
「まだ、私には何も判らぬのですよ。判れば何とか、お伝えするように致します」
開いた窓から風が吹き込み、カーテンを揺らす。コートを靡かせた司祭に、椿は風にまぎらせ言葉を伝えた。
「無理はしないで、信じているわ」
男が残したのは微笑みと、小さな祈り。
「皆様に、神のご加護があらん事を」
●
「死の導師を2度と再建出来ないレベルで叩き潰す為の布石って事よ。聖羅の上に居る存在が隔者かどうかは分からないけど、隔者を作るように手駒を動かす奴なら、HSにとっては敵じゃないかしら? 敵なら殺しは避けるけど、今後も協力してその存在を追うのはどうかしら?」
「ルファ司祭からの情報は、共有する形で」
癒雫の解放を、エルフィリアと縁はそう伝える。
不満の色を濃く滲ませていたH.S.は、意外にも2人の言葉にあっさりと頷いた。
「まさかあなた達と、協力関係になるとはね」
窓の前で呟いた枢の影を、夕陽が長く伸ばしていた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
ご参加、誠に有難うございました。
これにてしばらくは聖羅も癒雫も、姿を消す事になると思います。
ですがルファを信じて下さった皆様のお陰もあり、また登場する事と思います。
このシリーズ、今までご参加下さった全ての皆様に、愛をめいっぱい込めまして。
有難うございました。 巳上倖愛襟
これにてしばらくは聖羅も癒雫も、姿を消す事になると思います。
ですがルファを信じて下さった皆様のお陰もあり、また登場する事と思います。
このシリーズ、今までご参加下さった全ての皆様に、愛をめいっぱい込めまして。
有難うございました。 巳上倖愛襟
