高度破綻者鎮圧作戦
●
1対10。
暴風吹き荒れる三稜草原未確認遺跡、古代闘技場。その中央に立つ男が置かれている状況である。
見渡す限りに人人人。
全ての相手が人間を一分足らずで殺戮できる装備をもった戦闘員だ。
かのさなかにありながらにして。
中央の男は笑っていた。
「この闘技場はァ――!」
男は唱える。
戦闘員の一人が飛び出し、抜刀。大上段から斬りつけるが、男はそれを素手で掴んで粉砕し。破片を握り込んだ拳で相手を殴り飛ばした。
空圧を伴って飛んだ戦闘員は後ろの戦闘員を文字通りにまき散らしてバウンドしていく。
「戦人のために作られたァ――!」
ナイフを逆手に握り、数人の戦闘員が高速で接近。人体の急所という急所にナイフを突き立てにかかる。
だが繰り出されたナイフは空を穿つ。男は視界から消え、気づいた時には後ろに回り込んでいた。
肘、膝、額。踵に肩、そして拳。全ての相手の急所にそれらを叩き込み、意識を強制的に剥奪する。
「禁断神具の納め所なりィ――!」
周囲から大量の軽機関銃が向けられる。
誤射など知ったことは無いばかりに総員発砲。空気が鉛玉に入れ替わる。
男は地面を踏みしめ、エネルギーウェイブを生成。波紋のように広がった空圧が弾丸すらも吹き上げ、戦闘員たちもを跳ね上げていく。
死角から飛来する二発のロケット推進グレネード弾。男は振り向きもせずそれぞれの手で掴み取った。
爆発。爆発。更に爆発。
続けざまに撃ち込まれたグレネードが炸裂し、爆発を広げに広げていく。
やったか。誰かがそう述べた瞬間、煙の中から男が現われた。
接近は一瞬。
顔面を掴むまでもう一瞬。
顔面を握りつぶすまでさらに一瞬である。
血肉にまみれた手を掲げる。
はれた煙の中からは、息絶えた戦闘員たちが現われた。
「百人斬りの儀を経て、今こそ目覚め、我を飲み込め!」
闘技場の中央に光が集まる。
闇にすら見えるほど禍々しく黒々とした、それは光である。
「『荒覇吐(アラハバキ)』!」
光はねじれ、ゆがみ、ふくれてちぢみ、そして一つの刀となった。
地面へ斜めに突き刺さる刀。
男は迷わず刀を握り、そして抜いた。
闇が、光が、男を浸食する。
やがて男は闇そのものと一体化し、闇のなかから黒々とした光のごとく、両目がぎらりと光った。
言葉も、自我も、肉体構造すらも彼には残っていない。
封印されし闇の神具に飲み込まれた強力な破綻者へと、変貌したのである。
●
ファイヴ会議室。
久方相馬の表情は硬い。
「ある遺跡で、その凶悪さと危険さから封印したとされる神具が持ち出された。持ち出した男は破綻者となって、今人類の脅威へと変貌している」
破綻者とは、因子の力におぼれ、力に呑まれたバケモノである。
「現地に居合わせたAAAはカテゴリー2破綻者と断定。殲滅作戦を行なったがこれに失敗した。このままでは人里に飛び出し、無差別殺戮が始まってしまう。つまり、俺たちの力が必要だ」
破綻者は元五行能力者ではあるが、因子の力に呑まれたことによって大幅に戦闘力が増幅されている。反面自我を失い、最終段階まで行けばそれこそ生きた暴力そのものになってしまうという。
「素体は強力な武人だ。神具を目覚めさせるためだけに100人の敵を殺戮してきたほどのな。けど破綻者として再構築され、肉体との融合を進めている今だからこそ止めることはできる。カテゴリーアップが進んだら本当に取り返しが付かなくなるだろう」
むろん簡単にはいかないが。
相馬は言って、そしてかぶりを振った。
「俺たちは破綻者を襲撃。神具を破壊し、素体を救出する。破壊方法は破綻者を倒すことそれのみだ。頼んだぜ、覚者(トゥルーサー)」
1対10。
暴風吹き荒れる三稜草原未確認遺跡、古代闘技場。その中央に立つ男が置かれている状況である。
見渡す限りに人人人。
全ての相手が人間を一分足らずで殺戮できる装備をもった戦闘員だ。
かのさなかにありながらにして。
中央の男は笑っていた。
「この闘技場はァ――!」
男は唱える。
戦闘員の一人が飛び出し、抜刀。大上段から斬りつけるが、男はそれを素手で掴んで粉砕し。破片を握り込んだ拳で相手を殴り飛ばした。
空圧を伴って飛んだ戦闘員は後ろの戦闘員を文字通りにまき散らしてバウンドしていく。
「戦人のために作られたァ――!」
ナイフを逆手に握り、数人の戦闘員が高速で接近。人体の急所という急所にナイフを突き立てにかかる。
だが繰り出されたナイフは空を穿つ。男は視界から消え、気づいた時には後ろに回り込んでいた。
肘、膝、額。踵に肩、そして拳。全ての相手の急所にそれらを叩き込み、意識を強制的に剥奪する。
「禁断神具の納め所なりィ――!」
周囲から大量の軽機関銃が向けられる。
誤射など知ったことは無いばかりに総員発砲。空気が鉛玉に入れ替わる。
男は地面を踏みしめ、エネルギーウェイブを生成。波紋のように広がった空圧が弾丸すらも吹き上げ、戦闘員たちもを跳ね上げていく。
死角から飛来する二発のロケット推進グレネード弾。男は振り向きもせずそれぞれの手で掴み取った。
爆発。爆発。更に爆発。
続けざまに撃ち込まれたグレネードが炸裂し、爆発を広げに広げていく。
やったか。誰かがそう述べた瞬間、煙の中から男が現われた。
接近は一瞬。
顔面を掴むまでもう一瞬。
顔面を握りつぶすまでさらに一瞬である。
血肉にまみれた手を掲げる。
はれた煙の中からは、息絶えた戦闘員たちが現われた。
「百人斬りの儀を経て、今こそ目覚め、我を飲み込め!」
闘技場の中央に光が集まる。
闇にすら見えるほど禍々しく黒々とした、それは光である。
「『荒覇吐(アラハバキ)』!」
光はねじれ、ゆがみ、ふくれてちぢみ、そして一つの刀となった。
地面へ斜めに突き刺さる刀。
男は迷わず刀を握り、そして抜いた。
闇が、光が、男を浸食する。
やがて男は闇そのものと一体化し、闇のなかから黒々とした光のごとく、両目がぎらりと光った。
言葉も、自我も、肉体構造すらも彼には残っていない。
封印されし闇の神具に飲み込まれた強力な破綻者へと、変貌したのである。
●
ファイヴ会議室。
久方相馬の表情は硬い。
「ある遺跡で、その凶悪さと危険さから封印したとされる神具が持ち出された。持ち出した男は破綻者となって、今人類の脅威へと変貌している」
破綻者とは、因子の力におぼれ、力に呑まれたバケモノである。
「現地に居合わせたAAAはカテゴリー2破綻者と断定。殲滅作戦を行なったがこれに失敗した。このままでは人里に飛び出し、無差別殺戮が始まってしまう。つまり、俺たちの力が必要だ」
破綻者は元五行能力者ではあるが、因子の力に呑まれたことによって大幅に戦闘力が増幅されている。反面自我を失い、最終段階まで行けばそれこそ生きた暴力そのものになってしまうという。
「素体は強力な武人だ。神具を目覚めさせるためだけに100人の敵を殺戮してきたほどのな。けど破綻者として再構築され、肉体との融合を進めている今だからこそ止めることはできる。カテゴリーアップが進んだら本当に取り返しが付かなくなるだろう」
むろん簡単にはいかないが。
相馬は言って、そしてかぶりを振った。
「俺たちは破綻者を襲撃。神具を破壊し、素体を救出する。破壊方法は破綻者を倒すことそれのみだ。頼んだぜ、覚者(トゥルーサー)」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.破綻者の撃破
2.神具の破壊
3.なし
2.神具の破壊
3.なし
そろそろ激しくいきましょう
血を見る時間だ
●戦闘状況について
プレイングスマート化のために『敵への接触方法』『近隣住民の避難』『情報操作』の要素をオミット。プレイングに一切書かれていなかったとしても充分にその行動を果たしたものとして判定します。
皆さんは全員で遺跡の闘技場へと突入し、戦闘を開始します。
闘技場はいわゆるコロッセオ型ですが、本来あるはずのすり鉢状客席は存在しません。戦うためだけの場所です。
広さは充分にあり、天井はなし。壁は石と鉄でつくられ非常に頑丈にできています。
●戦闘力について
元は暦因子の火行使いですが、スキル構成は体術が多めです。いわゆるアタッカータイプ。
破綻者は闇の神具『荒覇吐』を装備しています。刀を使った格闘攻撃を主に使いますが、動きが縦横無尽すぎて予測がたてずらい状況です。強いて言うなら攻撃しているだけ体力を消耗するので、膨大な回復量でひたすら粘るという手もありますが、現在のスキル取得状況では難しいでしょう。
とはいえ戦闘能力は近接単体純粋ダメージ型のみというシンプルさなので対応は難しくないでしょう。
事前に殲滅作戦にあたったAAAが弱体化させてくれたので、9人の覚者が協力してかなり頑張れば倒せるだけの戦闘力に収まっています。
戦闘不能程度は覚悟して当たってください。
破綻者を戦闘不能にさせた時点で神具は自動的に破壊され、シナリオクリアとなります。
●救出の可能性について
カテゴリー2の破綻者は適切な処理を施せば元の状態へ戻すことが可能とされています。
ただしそれには本人の精神力が必要とされ、本人が人間でいることを望まない場合処理を施す以前に自己消滅をはかるでしょう。
今回に関しては、あなたの『戦いへの意志』を強く込めて戦うことで、彼の人間として闘争本能を呼び覚まし、救出へとつなげることができます。
意志の込め方は『プレイングに書き殴る』の一点張りです。あなたの意志と魂を因子に換え、叩き付けるのです。
●補足
ゲーム序盤なのでいくつか補足します
・重軽傷について
本件において重軽傷はペナルティ処理という扱いになっています。そのため、リプレイ内でとんでもない重傷をおったとしてもシステム上は無傷として扱うこととします。
・ブロックルールについて
本ゲームにおける『ブロック』は味方前衛が中後衛に近接攻撃を届かせないことのみをさします。敵の間に割り込んで味方ガードを妨害したり回り込んで逃走を阻止したりといったルール外利用はできません。(ので、味方ガードを阻まれたり逃走ができなくなったりすることはありません)
・武器破壊について
本ゲームにおいて武器破壊および部位破壊ペナルティはありません。アイテムロストルールもないため、たとえプレイングへ集中的に書かれていても相手の武器の破壊や強奪、ホールドや部位破壊によるスタンは発生しません。
以上です。ご武運を。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
9/9
公開日
2015年09月13日
2015年09月13日
■メイン参加者 9人■

●略――これは戦いの記録である、ゆえに全ての前置きを省く
想像せよ。
●闇刀『荒覇吐』
「クソがあぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)の右腕と、破綻者の右腕。それぞれ同時に切断された。
目を見開き、歯を食いしばり、歯の間から血反吐を吐いて、返す刀で左腕も切断。と同時に刀嗣の左腕もまた切り捨てられた。
両腕を失ったが命はある。命があるなら斬りかかる。これは諏訪刀嗣という現象である。
「舐めんじゃねえぞ、天下無敵地上最強予定の俺様の前でインスタントな暴力ごときがよおおお!」
腕ごと回転して飛ぶ刀を歯でくわえ、相手の首へと斬りつける。歯でくわえて止められた。蹴りが来る。蹴り飛ばされる――のではない。腹を足が貫通した。
「おっとあぶない。交代じゃよ!」
白目をむいて気絶しかけた刀嗣を、斧の首で引っかけて後ろへ放り投げる『自称サラリーマン』高橋・姫路(CL2000026)。
身体ごと回転させ、斧のブレードを振り込む。
破綻者はそれを跳躍で回避。肩口の切断面から闇でできた腕をはやすと、落ちてきた刀をキャッチした。闇刀『荒覇吐』である。
「うっ……ん」
口を手で押さえつつ、刀嗣を受け取る『女子高生訓練中』神城 アニス(CL2000023)。
色々なものを飲み込んで、刀嗣に癒しの滴を注入。両腕がはえ、色白の肌が露出した。
「い、意地を張りすぎです。もう命数を削ってしまっているじゃないですか!」
「うるせえ」
身体を起こす刀嗣。本来なら寝ていてくださいとでも言うべきだが、それが許される相手でも状況でもなかった。
アニスはこんな状況など知らない。
地獄だって、ここよりずっとマシだろう。
死んでも死なない化け物同士のイクサバなど。
ゆえに、むしろ、彼女の頭は冷静になっていた。
「華神さん。報告ではあの破綻者は回復しないはずでは」
「んー、回復はしてないみたいだよ。ガワだけ。カタチだけ。体力が減ってるのは確かみたいだから」
華神 悠乃(CL2000231)は頭にぽんぽんと手を当てて唱えた。
そうしながらも刀嗣の回復を続けている。片手間でエネミースキャンをかけているのだ。
「『みたい』とは……曖昧な言い方なんですね」
「完全に見えないんだよね。テレビゲームでいうとステータス表に沢山ハテナが被さってる感じだよ。しばらくこれだけに集中してれば全部みえるかもだけど、そんな余裕はないよね」
悠乃の弁によれば、戦闘開始時点で既に破綻者の体力は半数を切っていたそうだ。様々な外傷によってスペックもだいぶ落ちているとも言われている。事前に殲滅作戦にあたったAAAがかなり遠慮無く攻撃したのだろう。想像しがたいなら、ガソリンを撒いて火をつけるさまや濃硫酸を大量に注ぎかけるさまをイメージしてもらえばよい。
「もうちょっと時間ほしいよ。そうすれば色々分かるから」
「お願いします……」
このように悠長に話しているが、彼らはチェス盤の駒ではない。常に慌ただしく駆け回っている。会話の余裕があるのは、前衛チームが破綻者を囲んでいてくれるからだ。
「こっちは老人じゃから、老獪な先方は得意なのじゃよっ!」
繰り出された刀をブレードで弾き、柄の部分で殴りつける姫路。
通常なら姫路はその場から両足を一ミリたりとも動かさずにいられるはずだが、生憎ながら相手が相手である。姫路は激しく吹き飛ばされ、地面をごろごろと転がるハメになった。
「ふう、死ぬところじゃった」
腕と足が曲がってはいけない方向に曲がっているが、姫路の表情はまだ明るい。
「おっと、かけなおしだ。こいつを切らしたら全滅もありうるからね」
アニスと悠乃が回復に走る中、『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)は二本指をびしりと立てた。途端に周囲の風が動き、姫路たちの身体を清浄化させていく。
「燐ちゃん、交代してあげて!」
「はい――それにしても新鮮ですね、おひげのない蘇我島さんは」
『イノセントドール』柳 燐花(CL2000695)は二本クナイを握って突撃。
追撃をはかろうとした破綻者に飛びかかると、強烈な回し蹴りを繰り出した。
刀の刃でうける破綻者。しかし脚の方が斬れるなどということはなく、接触点に激しい火花が散った。
「若返った蘇我島さんも素敵ですよ。帰ったらリクエストどうり、カレーライスにしましょうか」
「おいおいそんな話してる場合かよ!」
破綻者の後ろに回り込んだ鹿ノ島・遥(CL2000227)が、拳を振り上げた。布が高速で腕に巻き付き、ばちばちと紫電を散らす。
「こんなワクワクしてる最中に!」
紫電混じりの拳を叩き付ける。後頭部を狙ったはずが空振りした。直後に背後から殺気。脇の下をくぐり抜けて逆に回り込まれたのだ。
「はははっ、すげえ! どんだけ修行してきたんだおっさん!」
反射的にかがんで回し蹴り。頭上数センチを破綻者の飛び回し蹴りが掠っていく。髪の一房がちりりと焼けた。
途端、破綻者の首に長いツルが巻き付いた。
「相手が何者か、知ったことじゃないの」
ツルの先には春野 桜(CL2000257)。
桜がツルを引くと、破綻者はまるでゴム仕掛けのように飛び、遺跡内の巨大な柱に激突した。
柱が砕け、へし折れていく。
「ただ殺すのみ、よ」
砕けて倒れる柱を見やり、桜は鞭をとりなおす。
目を細める遥。
「やったか」
と言った途端、弾丸の如く破綻者が飛来してきた。高速かつ強引に、遥の眼前までだ。
「やっ――」
「――れるわけないでしょう!」
少女、叢雲 牡丹(CL2001075)が横から割り込んだ。
腕を広げていやいやをしながら間に立った? まさか。
抜いた刀をまっすぐ突き出し、破綻者の眼球を貫いたのだ。
鍔までめり込む刀。しかし破綻者はとまらない。
どころか、にたりと笑って見せた。
「百人斬りもボクの反抗期も似たようなものです。命が軽すぎるんですよ!」
足でつっかえ、刀を引き抜く。
勢いで破綻者は空中を回転したが、その動きが途中でスローになり、破綻者は牡丹の顔面を鷲づかみにした。
「――!」
先以上の回転を持って投擲される牡丹。
闘技場の天井らしき場所に激突し、牡丹は数秒かけて落下した。人間ならば二度は死んでいる。いや、鷲づかみにされた時点で食い込んではいけない部分にまで食い込んだので、三度だ。
それでも牡丹は生きていた。当然である。覚者である。因子の力で死ににくい、人間以上化物未満である。
そして今相手にしているのが、本物の化物だ。
「破綻者ね……ほんと鬼畜な依頼を届けてくれるよファイヴさんは」
恭司は苦笑いと共に額の汗をぬぐった。
てんてんと後退してくる燐花。
「しかし、こなせないレベルではありません。ダメージを受けたそばから前中衛を交代していけば……」
いましがた計算した限りでは、一人のダメージをアニスと悠乃の二人がかりで完治させるには少々時間がかかる。なのでブロック担当を順番に交代させていけば理論上はそれなりの時間は持たせられる筈だ。問題はそれまでに相手を倒しきれるかだが。
ちらりと悠乃の方を見る。
「華神さん」
「うん。できたよ。いいニュースとわるいニュース、どっちから聞きたい?」
「……蘇我島さん」「じゃあいい方」
燐花は恭司に投げ、恭司は投げられるまえから即答した。
頷く悠乃。
「今の戦力と状況で倒しきれるよ。相手の体力が残り少ないから、一気に攻めれば押し切れる」
「じゃあ悪い方は?」
「あの破綻者、めちゃくちゃ強い技を温存してたよ」
「「…………」」
「これは推測だけど、たぶん次あたり使ってくるね」
「それって……」
遥は身構え、破綻者をにらんだ。
破綻者はと言えば。
手にした刀を。
地面に突き刺し。
空手の構えをとった。
「めっっっっっちゃくちゃワクワクすんな!」
遥は目を見開き、破綻者へと突撃した。
●加賀・三三(かが・さんぞう)
「戦争だ」
破綻者は唱えた。
「戦争ができる」
破綻者は浪々と唱えた。
意識無きものらしからず。
はっきりと吠えた。
「戦争ができるぞォ!」
闇から腕を、身体を、そして顔を解き放ち、生身の身体で飛び込んでくる。
「我こそは七星剣所属無差別戦争強行目的武装組織『ヒノマル陸軍』。中将、加賀三三なり!」
「オレは『十天』鹿ノ島遥だ! よっしゃこぉい!」
遥は防御も回避もまったくせずに、全力の拳を繰り出した。
拳と拳が激突。遥の拳が七つに折りたたまれ、骨という骨が外側に飛び出した。
「そっかおっさん! 戦争か! 戦争がしたかったか! ばっかみてえだな! まっすぐすぎて、めっちゃくちゃ痛ぇ!」
巻き付けた布で腕のテイを無理矢理整え、もう一発。
それは破綻者、いや加賀の顔面にめり込んだが、一拍遅れてやってきた衝撃によって遥の方が吹き飛んだ。
身体が、というより足首から上が吹き飛んだのだ。
地面を転がって呻く遥。
心配している暇も、回復している暇もない。
「畳みかけるよ」
「は――はい!」
悠乃に背中を叩かれ、アニスは衝撃塊を生成。加賀へと乱射。
「戦うこととは、ひとをお守りするということ。退きません、決して!」
アニスの一般的な、ないしは常識的な精神はこの現場にとってあまりに脆弱である。しかし脆弱であるからこそ、守らねばならない。既に空っぽの胃を片手で締め付け、ありったけのエネルギーを解き放つ。
一方、悠乃にとっては違う。
「私にとってはコミュニケーションなのよ。今みたいにエゴをぶつけあって、やっと初めて『戦い』なのよ!」
しっぽをうねらせ、体勢を低くしてダッシュ。
ミサイルのようなスイングアタックを、加賀へと叩き込む。
打撃の反動で距離を取り、空いた隙間に牡丹が滑り込む。
「似たもの同士のよしみ。勝負をつけようじゃありませんか。ボクたちと!」
牡丹は柄まで炎で覆われた刀の柄頭で加賀の胸を打つと、コンパクトに刀を一閃。
胸を一文字に切り開く。
本来ならこれで相手は仰向けに倒れて動かなくなるところだが、加我は牡丹の顎を掴んでこらえていた。倒れるのをこらえる、のではない。自らの引き絞った拳の反動をこらえているのだ。
つまり次の瞬間。彼の拳は牡丹の顔面に直撃し、まるでミサイルを水平発射したかのように闘技場の壁まで吹き飛ばした。
「死ね」
が、休む暇など勿論ない。加賀の首にツルが巻き付き、ぎしりと固定される。
今度はバンジーゴムのように飛びはしない。逆にツルを掴んでいた桜の方が高速で引き寄せられた。だがそれでいい。桜は手にしたナイフを勢いのまま加賀に突き立てたのだ。
一度ではない。加賀へ組み付き二度三度四度幾度となく刺して刺して刺し続けた。
「おまえは沢山殺したから生きてるべきじゃないから殺してあげるから斉藤さんのためだから死ぬべきだから死ね死ね私たちの苦しみで死ね死ね死ね死ねうふふふふははははははははは――!」
首を握力によって潰され、桜は止まった。
そのまま胴体と首を千切って離そうとした加賀――の手首が切断された。
だれでもない刀嗣によってである。
「誇りがあんじゃねえかオイ! 俺様権限でテメェは生かしてやる。特例で名前も名乗ってやるぜ。諏訪刀嗣だ覚えろクソがァ!」
返す刀で目を狙う。
紙一重でかわす加賀。耳が斬れて血が噴き出すが、そのまま根元まで接近。手刀でもって刀嗣の肩を叩いた。
いや。切断した。
刀ごと片腕が飛んでいく。
今度はもう片方の腕……ではなく、首を切りにかかる。そうはさせぬが高橋姫路。
斧の首でもって加賀をひっかけると、一本釣りよろしく刀嗣から引っぺがした。
地面が砕けてえぐれるほどに叩き付ける。
「こういう戦い、いけるクチじゃな。わしもいけるクチじゃよ! ええもんじゃよ本当に!」
加賀の頭を足で踏み砕きにかかる姫路。
転がってよける加賀。
加賀は逆立ち姿勢から蹴りを繰り出し、姫路は斧をコンパクトに回してその足をぶった切った。
バランスを崩すかと思いきや、加賀は片足だけで立ち、一本背負いの勢いで姫路を掴んで地面へと叩き付けた。
地面が砕け、えぐれ、巨大なクレーターと化す。
誰もがひっくり返るような場面で、燐花が加賀の後頭部へ膝蹴りを叩き込んだ。
ぐらつく加賀に、流れるような肘打ち。
しかし倒れることなく、加賀は燐花の顔面を掴んでこらえた。
今度こそ倒れないようにこらえた。
「これが武人というものですか」
燐花は言って、拳を叩き込む。
加賀は笑って、拳を叩き込む。
互いに破壊。
しかし燐花は倒れなかった。
「蘇我島さん」
「おう」
すぐ背後まできた恭司が、燐花の背中を支えたからだ。
「よくもまあ意志のない力で人を、燐ちゃんを傷付けてくれたな。これで終わりだ加賀三三。戦争したきゃあさせてやるからキッチリやられて裁かれな。あとは偉い人がなんやかんやしてくれんだろ。それまで暫く気絶しな。つーわけで燐ちゃん」
「はい」
手のひらの暖かさから、エネルギーが伝わっていく。
エネルギーは燐花の力となり、力は炎となり、炎は大気を燃やして体表から吹き上がった。
「私は十天、柳燐花。おやすみなさい」
炎を伴った拳が、加賀を殴って倒した。
●新たなる戦いの幕開け
因子に呑まれた化物である破綻者は通常、倒されたことで死ぬことが多い。
しかし人間以上化物未満の状態まで自らの意志で戻ったのであれば、生き残ることもあるという。当然それまでには適切な施設で適切な処置を施さねばならないので、五行能力者用の拘束および輸送が必要になる。
悠乃たちはファイヴの処理班にそれをまかせる形で、現場をあとにした。
けが人は続出。生きている方がどうかしているという有様の者も少なくない。
しかしそれ以上に。
「七星剣所属無差別戦争強行目的武装組織『ヒノマル陸軍』、中将……」
布の切れ端をつまんで呟く恭司。
そこにはエンブレムが縫い付けられている。古い日本の国旗を複雑に歪めたような紋様だ。
「あの加賀ってやつが意識を取り戻せば、どえらい情報が手に入るかもしれんね」
「今回のような戦いがまたおこるのでなければ……」
アニスはミネラルウォーターを飲み込んで、青い顔で言った。
「『今回のような』で済めばいいけどね」
糸目を僅かに開いて、悠乃は遺跡を振り向く。
「あれより強いのが、いるんだよねえ」
想像せよ。
●闇刀『荒覇吐』
「クソがあぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)の右腕と、破綻者の右腕。それぞれ同時に切断された。
目を見開き、歯を食いしばり、歯の間から血反吐を吐いて、返す刀で左腕も切断。と同時に刀嗣の左腕もまた切り捨てられた。
両腕を失ったが命はある。命があるなら斬りかかる。これは諏訪刀嗣という現象である。
「舐めんじゃねえぞ、天下無敵地上最強予定の俺様の前でインスタントな暴力ごときがよおおお!」
腕ごと回転して飛ぶ刀を歯でくわえ、相手の首へと斬りつける。歯でくわえて止められた。蹴りが来る。蹴り飛ばされる――のではない。腹を足が貫通した。
「おっとあぶない。交代じゃよ!」
白目をむいて気絶しかけた刀嗣を、斧の首で引っかけて後ろへ放り投げる『自称サラリーマン』高橋・姫路(CL2000026)。
身体ごと回転させ、斧のブレードを振り込む。
破綻者はそれを跳躍で回避。肩口の切断面から闇でできた腕をはやすと、落ちてきた刀をキャッチした。闇刀『荒覇吐』である。
「うっ……ん」
口を手で押さえつつ、刀嗣を受け取る『女子高生訓練中』神城 アニス(CL2000023)。
色々なものを飲み込んで、刀嗣に癒しの滴を注入。両腕がはえ、色白の肌が露出した。
「い、意地を張りすぎです。もう命数を削ってしまっているじゃないですか!」
「うるせえ」
身体を起こす刀嗣。本来なら寝ていてくださいとでも言うべきだが、それが許される相手でも状況でもなかった。
アニスはこんな状況など知らない。
地獄だって、ここよりずっとマシだろう。
死んでも死なない化け物同士のイクサバなど。
ゆえに、むしろ、彼女の頭は冷静になっていた。
「華神さん。報告ではあの破綻者は回復しないはずでは」
「んー、回復はしてないみたいだよ。ガワだけ。カタチだけ。体力が減ってるのは確かみたいだから」
華神 悠乃(CL2000231)は頭にぽんぽんと手を当てて唱えた。
そうしながらも刀嗣の回復を続けている。片手間でエネミースキャンをかけているのだ。
「『みたい』とは……曖昧な言い方なんですね」
「完全に見えないんだよね。テレビゲームでいうとステータス表に沢山ハテナが被さってる感じだよ。しばらくこれだけに集中してれば全部みえるかもだけど、そんな余裕はないよね」
悠乃の弁によれば、戦闘開始時点で既に破綻者の体力は半数を切っていたそうだ。様々な外傷によってスペックもだいぶ落ちているとも言われている。事前に殲滅作戦にあたったAAAがかなり遠慮無く攻撃したのだろう。想像しがたいなら、ガソリンを撒いて火をつけるさまや濃硫酸を大量に注ぎかけるさまをイメージしてもらえばよい。
「もうちょっと時間ほしいよ。そうすれば色々分かるから」
「お願いします……」
このように悠長に話しているが、彼らはチェス盤の駒ではない。常に慌ただしく駆け回っている。会話の余裕があるのは、前衛チームが破綻者を囲んでいてくれるからだ。
「こっちは老人じゃから、老獪な先方は得意なのじゃよっ!」
繰り出された刀をブレードで弾き、柄の部分で殴りつける姫路。
通常なら姫路はその場から両足を一ミリたりとも動かさずにいられるはずだが、生憎ながら相手が相手である。姫路は激しく吹き飛ばされ、地面をごろごろと転がるハメになった。
「ふう、死ぬところじゃった」
腕と足が曲がってはいけない方向に曲がっているが、姫路の表情はまだ明るい。
「おっと、かけなおしだ。こいつを切らしたら全滅もありうるからね」
アニスと悠乃が回復に走る中、『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)は二本指をびしりと立てた。途端に周囲の風が動き、姫路たちの身体を清浄化させていく。
「燐ちゃん、交代してあげて!」
「はい――それにしても新鮮ですね、おひげのない蘇我島さんは」
『イノセントドール』柳 燐花(CL2000695)は二本クナイを握って突撃。
追撃をはかろうとした破綻者に飛びかかると、強烈な回し蹴りを繰り出した。
刀の刃でうける破綻者。しかし脚の方が斬れるなどということはなく、接触点に激しい火花が散った。
「若返った蘇我島さんも素敵ですよ。帰ったらリクエストどうり、カレーライスにしましょうか」
「おいおいそんな話してる場合かよ!」
破綻者の後ろに回り込んだ鹿ノ島・遥(CL2000227)が、拳を振り上げた。布が高速で腕に巻き付き、ばちばちと紫電を散らす。
「こんなワクワクしてる最中に!」
紫電混じりの拳を叩き付ける。後頭部を狙ったはずが空振りした。直後に背後から殺気。脇の下をくぐり抜けて逆に回り込まれたのだ。
「はははっ、すげえ! どんだけ修行してきたんだおっさん!」
反射的にかがんで回し蹴り。頭上数センチを破綻者の飛び回し蹴りが掠っていく。髪の一房がちりりと焼けた。
途端、破綻者の首に長いツルが巻き付いた。
「相手が何者か、知ったことじゃないの」
ツルの先には春野 桜(CL2000257)。
桜がツルを引くと、破綻者はまるでゴム仕掛けのように飛び、遺跡内の巨大な柱に激突した。
柱が砕け、へし折れていく。
「ただ殺すのみ、よ」
砕けて倒れる柱を見やり、桜は鞭をとりなおす。
目を細める遥。
「やったか」
と言った途端、弾丸の如く破綻者が飛来してきた。高速かつ強引に、遥の眼前までだ。
「やっ――」
「――れるわけないでしょう!」
少女、叢雲 牡丹(CL2001075)が横から割り込んだ。
腕を広げていやいやをしながら間に立った? まさか。
抜いた刀をまっすぐ突き出し、破綻者の眼球を貫いたのだ。
鍔までめり込む刀。しかし破綻者はとまらない。
どころか、にたりと笑って見せた。
「百人斬りもボクの反抗期も似たようなものです。命が軽すぎるんですよ!」
足でつっかえ、刀を引き抜く。
勢いで破綻者は空中を回転したが、その動きが途中でスローになり、破綻者は牡丹の顔面を鷲づかみにした。
「――!」
先以上の回転を持って投擲される牡丹。
闘技場の天井らしき場所に激突し、牡丹は数秒かけて落下した。人間ならば二度は死んでいる。いや、鷲づかみにされた時点で食い込んではいけない部分にまで食い込んだので、三度だ。
それでも牡丹は生きていた。当然である。覚者である。因子の力で死ににくい、人間以上化物未満である。
そして今相手にしているのが、本物の化物だ。
「破綻者ね……ほんと鬼畜な依頼を届けてくれるよファイヴさんは」
恭司は苦笑いと共に額の汗をぬぐった。
てんてんと後退してくる燐花。
「しかし、こなせないレベルではありません。ダメージを受けたそばから前中衛を交代していけば……」
いましがた計算した限りでは、一人のダメージをアニスと悠乃の二人がかりで完治させるには少々時間がかかる。なのでブロック担当を順番に交代させていけば理論上はそれなりの時間は持たせられる筈だ。問題はそれまでに相手を倒しきれるかだが。
ちらりと悠乃の方を見る。
「華神さん」
「うん。できたよ。いいニュースとわるいニュース、どっちから聞きたい?」
「……蘇我島さん」「じゃあいい方」
燐花は恭司に投げ、恭司は投げられるまえから即答した。
頷く悠乃。
「今の戦力と状況で倒しきれるよ。相手の体力が残り少ないから、一気に攻めれば押し切れる」
「じゃあ悪い方は?」
「あの破綻者、めちゃくちゃ強い技を温存してたよ」
「「…………」」
「これは推測だけど、たぶん次あたり使ってくるね」
「それって……」
遥は身構え、破綻者をにらんだ。
破綻者はと言えば。
手にした刀を。
地面に突き刺し。
空手の構えをとった。
「めっっっっっちゃくちゃワクワクすんな!」
遥は目を見開き、破綻者へと突撃した。
●加賀・三三(かが・さんぞう)
「戦争だ」
破綻者は唱えた。
「戦争ができる」
破綻者は浪々と唱えた。
意識無きものらしからず。
はっきりと吠えた。
「戦争ができるぞォ!」
闇から腕を、身体を、そして顔を解き放ち、生身の身体で飛び込んでくる。
「我こそは七星剣所属無差別戦争強行目的武装組織『ヒノマル陸軍』。中将、加賀三三なり!」
「オレは『十天』鹿ノ島遥だ! よっしゃこぉい!」
遥は防御も回避もまったくせずに、全力の拳を繰り出した。
拳と拳が激突。遥の拳が七つに折りたたまれ、骨という骨が外側に飛び出した。
「そっかおっさん! 戦争か! 戦争がしたかったか! ばっかみてえだな! まっすぐすぎて、めっちゃくちゃ痛ぇ!」
巻き付けた布で腕のテイを無理矢理整え、もう一発。
それは破綻者、いや加賀の顔面にめり込んだが、一拍遅れてやってきた衝撃によって遥の方が吹き飛んだ。
身体が、というより足首から上が吹き飛んだのだ。
地面を転がって呻く遥。
心配している暇も、回復している暇もない。
「畳みかけるよ」
「は――はい!」
悠乃に背中を叩かれ、アニスは衝撃塊を生成。加賀へと乱射。
「戦うこととは、ひとをお守りするということ。退きません、決して!」
アニスの一般的な、ないしは常識的な精神はこの現場にとってあまりに脆弱である。しかし脆弱であるからこそ、守らねばならない。既に空っぽの胃を片手で締め付け、ありったけのエネルギーを解き放つ。
一方、悠乃にとっては違う。
「私にとってはコミュニケーションなのよ。今みたいにエゴをぶつけあって、やっと初めて『戦い』なのよ!」
しっぽをうねらせ、体勢を低くしてダッシュ。
ミサイルのようなスイングアタックを、加賀へと叩き込む。
打撃の反動で距離を取り、空いた隙間に牡丹が滑り込む。
「似たもの同士のよしみ。勝負をつけようじゃありませんか。ボクたちと!」
牡丹は柄まで炎で覆われた刀の柄頭で加賀の胸を打つと、コンパクトに刀を一閃。
胸を一文字に切り開く。
本来ならこれで相手は仰向けに倒れて動かなくなるところだが、加我は牡丹の顎を掴んでこらえていた。倒れるのをこらえる、のではない。自らの引き絞った拳の反動をこらえているのだ。
つまり次の瞬間。彼の拳は牡丹の顔面に直撃し、まるでミサイルを水平発射したかのように闘技場の壁まで吹き飛ばした。
「死ね」
が、休む暇など勿論ない。加賀の首にツルが巻き付き、ぎしりと固定される。
今度はバンジーゴムのように飛びはしない。逆にツルを掴んでいた桜の方が高速で引き寄せられた。だがそれでいい。桜は手にしたナイフを勢いのまま加賀に突き立てたのだ。
一度ではない。加賀へ組み付き二度三度四度幾度となく刺して刺して刺し続けた。
「おまえは沢山殺したから生きてるべきじゃないから殺してあげるから斉藤さんのためだから死ぬべきだから死ね死ね私たちの苦しみで死ね死ね死ね死ねうふふふふははははははははは――!」
首を握力によって潰され、桜は止まった。
そのまま胴体と首を千切って離そうとした加賀――の手首が切断された。
だれでもない刀嗣によってである。
「誇りがあんじゃねえかオイ! 俺様権限でテメェは生かしてやる。特例で名前も名乗ってやるぜ。諏訪刀嗣だ覚えろクソがァ!」
返す刀で目を狙う。
紙一重でかわす加賀。耳が斬れて血が噴き出すが、そのまま根元まで接近。手刀でもって刀嗣の肩を叩いた。
いや。切断した。
刀ごと片腕が飛んでいく。
今度はもう片方の腕……ではなく、首を切りにかかる。そうはさせぬが高橋姫路。
斧の首でもって加賀をひっかけると、一本釣りよろしく刀嗣から引っぺがした。
地面が砕けてえぐれるほどに叩き付ける。
「こういう戦い、いけるクチじゃな。わしもいけるクチじゃよ! ええもんじゃよ本当に!」
加賀の頭を足で踏み砕きにかかる姫路。
転がってよける加賀。
加賀は逆立ち姿勢から蹴りを繰り出し、姫路は斧をコンパクトに回してその足をぶった切った。
バランスを崩すかと思いきや、加賀は片足だけで立ち、一本背負いの勢いで姫路を掴んで地面へと叩き付けた。
地面が砕け、えぐれ、巨大なクレーターと化す。
誰もがひっくり返るような場面で、燐花が加賀の後頭部へ膝蹴りを叩き込んだ。
ぐらつく加賀に、流れるような肘打ち。
しかし倒れることなく、加賀は燐花の顔面を掴んでこらえた。
今度こそ倒れないようにこらえた。
「これが武人というものですか」
燐花は言って、拳を叩き込む。
加賀は笑って、拳を叩き込む。
互いに破壊。
しかし燐花は倒れなかった。
「蘇我島さん」
「おう」
すぐ背後まできた恭司が、燐花の背中を支えたからだ。
「よくもまあ意志のない力で人を、燐ちゃんを傷付けてくれたな。これで終わりだ加賀三三。戦争したきゃあさせてやるからキッチリやられて裁かれな。あとは偉い人がなんやかんやしてくれんだろ。それまで暫く気絶しな。つーわけで燐ちゃん」
「はい」
手のひらの暖かさから、エネルギーが伝わっていく。
エネルギーは燐花の力となり、力は炎となり、炎は大気を燃やして体表から吹き上がった。
「私は十天、柳燐花。おやすみなさい」
炎を伴った拳が、加賀を殴って倒した。
●新たなる戦いの幕開け
因子に呑まれた化物である破綻者は通常、倒されたことで死ぬことが多い。
しかし人間以上化物未満の状態まで自らの意志で戻ったのであれば、生き残ることもあるという。当然それまでには適切な施設で適切な処置を施さねばならないので、五行能力者用の拘束および輸送が必要になる。
悠乃たちはファイヴの処理班にそれをまかせる形で、現場をあとにした。
けが人は続出。生きている方がどうかしているという有様の者も少なくない。
しかしそれ以上に。
「七星剣所属無差別戦争強行目的武装組織『ヒノマル陸軍』、中将……」
布の切れ端をつまんで呟く恭司。
そこにはエンブレムが縫い付けられている。古い日本の国旗を複雑に歪めたような紋様だ。
「あの加賀ってやつが意識を取り戻せば、どえらい情報が手に入るかもしれんね」
「今回のような戦いがまたおこるのでなければ……」
アニスはミネラルウォーターを飲み込んで、青い顔で言った。
「『今回のような』で済めばいいけどね」
糸目を僅かに開いて、悠乃は遺跡を振り向く。
「あれより強いのが、いるんだよねえ」
■シナリオ結果■
大成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
美しく潔いプレイングの嵐に応え、大成功判定とします。そのぶん命数被害は相当なものでしたが、相応のものを獲得しました。
獲得したものは以下の通りです。
・事後情報1
加賀三三は隔者として一命をとりとめ、収容施設において加重傷状態になっています。
・事後情報2
ファイブの覚者たちに心身共に完敗を認めた加賀は自らの所属する『ヒノマル陸軍』についての情報を知りうる限りファイヴに提供する約束をしました。
これにより加賀はファイヴ側の捕虜として機能します。
同時に七星剣『ヒノマル陸軍』へのカウンタープランを実行。被害が出る前に殲滅依頼を発動できます。
これらのシナリオは近日公開される予定です。
以上。お見事でございました。
獲得したものは以下の通りです。
・事後情報1
加賀三三は隔者として一命をとりとめ、収容施設において加重傷状態になっています。
・事後情報2
ファイブの覚者たちに心身共に完敗を認めた加賀は自らの所属する『ヒノマル陸軍』についての情報を知りうる限りファイヴに提供する約束をしました。
これにより加賀はファイヴ側の捕虜として機能します。
同時に七星剣『ヒノマル陸軍』へのカウンタープランを実行。被害が出る前に殲滅依頼を発動できます。
これらのシナリオは近日公開される予定です。
以上。お見事でございました。
