≪友ヶ島騒乱≫池尻浜スーパークラゲ祭り
●
友ヶ島のおすすめスポット池尻浜。
名前だけ聞くと広くて澄んだ綺麗なビーチを想像するが、残念ながらそうではない。
流れ着いたゴミが積み重なり、お世辞にも綺麗とはいえない海岸線が広がっている。
そのせいだろうか。ここではクラゲ型の妖が出現し、近づく人間たちを次々に襲おうとしているのだ。
「くらげって……食べられないですよね……」
大体のものは食べられるかどうかで考える少女、文鳥 つらら(nCL2000051)は死んだ目で言った。
最近食べられそうだと思ったのは蝉の抜け殻だそうだが、今日は残念ながらものを食べる依頼ではない。妖とか死んだら消えるし、食えないし(正確には妖化前のクラゲの死体が残るし)。
夢見が哀れなものを見る目で頷いた。
「友ヶ島は昨今妖被害に悩まされていて、それをファイヴが解決するために複数チームで現地へ入ることになったんだよ。このチームの目的は池尻浜に出現したクラゲ妖の討伐だね」
敵となる妖は三体。
巨大なクラゲの姿をしており、海の水面上に身体の半分を露出した形で存在している。どうやらそれ以上下へ潜ることができないようだ。
その代わりに表面から強力な電撃を放つ能力を持っており、これが厄介な原因になっている。
戦闘フィールドは主に海上になるだろう。
飛行能力や水上歩行が活躍するポイントだ。
「これを解決すればきっと島で遊べるようになるだろうから。頑張ろうね」
「あっ……はい……」
つららは死んだ目で頷いた。
友ヶ島のおすすめスポット池尻浜。
名前だけ聞くと広くて澄んだ綺麗なビーチを想像するが、残念ながらそうではない。
流れ着いたゴミが積み重なり、お世辞にも綺麗とはいえない海岸線が広がっている。
そのせいだろうか。ここではクラゲ型の妖が出現し、近づく人間たちを次々に襲おうとしているのだ。
「くらげって……食べられないですよね……」
大体のものは食べられるかどうかで考える少女、文鳥 つらら(nCL2000051)は死んだ目で言った。
最近食べられそうだと思ったのは蝉の抜け殻だそうだが、今日は残念ながらものを食べる依頼ではない。妖とか死んだら消えるし、食えないし(正確には妖化前のクラゲの死体が残るし)。
夢見が哀れなものを見る目で頷いた。
「友ヶ島は昨今妖被害に悩まされていて、それをファイヴが解決するために複数チームで現地へ入ることになったんだよ。このチームの目的は池尻浜に出現したクラゲ妖の討伐だね」
敵となる妖は三体。
巨大なクラゲの姿をしており、海の水面上に身体の半分を露出した形で存在している。どうやらそれ以上下へ潜ることができないようだ。
その代わりに表面から強力な電撃を放つ能力を持っており、これが厄介な原因になっている。
戦闘フィールドは主に海上になるだろう。
飛行能力や水上歩行が活躍するポイントだ。
「これを解決すればきっと島で遊べるようになるだろうから。頑張ろうね」
「あっ……はい……」
つららは死んだ目で頷いた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の討伐
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
巨大なクラゲの妖です。
3体出現し、それぞれの電撃能力には微妙な違いがあります。倒す順番を考えましょう。
クラゲ甲:特近単大ダメージ【痺れ】
クラゲ乙:特近列中ダメージ【痺れ】
クラゲ丙:特全微ダメージ【痺れ】【弱体】【毒】(命中率大)
●水上での戦闘
特にそれらしい能力が無い場合はボートを使って戦います。
泳ぎながらでも戦闘は可能なので、落ちても心配はないでしょう。
ただしそれぞれ足場ペナルティとして『命中-5、回避-10』がかかります。
水上歩行か飛行があるとそれを無効化できます。
(※アテンド能力のふわふわは移動速度と集中リソース的に戦闘には適しません)
●NPC
文鳥 つらら(nCL2000051)が戦闘に参加します。
基本的に後衛回復係です。結構弱いので、集中攻撃に晒されるとソッコーで落ちます。
特に指示をしなくても自分で考えて動けるのでプレイングを割く必要はありませんが、特にやって欲しいことがあったらプレイングで声をかけてください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年08月26日
2016年08月26日
■メイン参加者 8人■

●池尻浜の怪物
浜にボートをつけ、エンジンをかけながら振り返る『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)。
海面から三つの笠が露出し、さながら小島のていを成していた。
「はあ、海上戦なんてホント嫌……」
「夏場でも海はつめたいもんな。大丈夫か?」
ボートに飛び乗ってくる『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)。
ありすは髪を指でくるくると巻きながらそっぽをむいた。
「別に、落ちないから平気よ」
「そっか! じゃあ今度島で遊ぼう! ビーチバレーとかキャンプとか、色々できるぞ!」
「……まあ、風が無くて晴れてたら、ね」
途中まで相乗りするためにありすのボートに乗り込む『月下の白』白枝 遥(CL2000500)と『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野 鈴鳴(CL2000222)。
見回すと、海岸線を黒く染めるかのように無数のゴミが落ちていた。
観光客の廃棄物もあるが、流れ着いたゴミも多いという。海にものを捨てる人がそれだけいるということだろう。
「これじゃあ、クラゲも怒るよね。観光マナーか……」
「ロケーションは素敵なのに、とても残念です。人の勝手でこうなっちゃったなら、放ってはおけませんね」
「どっちを?」
「どっちも、です」
今回用意したボートは二隻。あまり高速なものではないが、運転がしやすく足場として比較的安定しやすいものだ。ひどいものだと酔わない方がおかしいくらい振り回されるので、ボート選びは地味に重要だ。
走り出すボートの脇にて。
「変――身ッ!」
腕をぐるりと回し、輝きと共に変身する『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)。
「天が知る地が知る人知れずっ。環境美化にご協力ですっ! クラゲは夏の風物詩ですねっ」
ボートの端につかまって海面を見つめる水端 時雨(CL2000345)。
「そういえばクラゲ料理ってあるらしいっすね。あれは食べる気しないっすけど……」
「たべられないんですか」
文鳥 つらら(nCL2000051)が大気中の成分に溶ける寸前みたいな状態で漂っていた。
「オォウ……つららちゃんは食べ物をご所望デスカ?」
『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が考えるように指を唇に当てた。
「ンー、今度本国の料理をごちそうシマスカラ。それで元気出してくれマセンカ?」
「出ました!」
つららの目に光が戻った。
そんなつららの肩をぽんと叩く『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261)。
「つららさん、あなたは肝心なことを忘れています」
「なんと」
「あのクラゲが食べられないのは、食べていないからなんですよ。偉い人も言っていたでしょう」
「偉い人……」
玲の目がカッと光った。
「『諦めたらそこでご飯終了だよ』!」
「ご飯終了!」
「だから僕は今日、あのクラゲを食べます」
玲は、獣の目をして覚醒した。
●開幕クラゲ祭り
速度を上げるボート。
ハンドルを握るリーネ。
ワンピース式の軍服に岩の鎧を部分装着させると、エネルギーラインを循環。
向かうは巨大クラゲ。身体をぶわりと浮き上がらせたクラゲは触手から激しい放電をおこしながらリーネめがけて襲いかかった。
「狙いは私……望むところデス!」
両腕のロックシールドを展開しながら跳躍。
彼女に触手が無数に巻き付き、激しい電撃を流していく。
歯を食いしばり、反動に耐えるリーネ。
暫く耐えきった所で触手を無理矢理ねじ切り強制離脱。
海中に落下しそうになった所を、時雨が慌ててキャッチした。
「うおっと! ダイジョブっすか!?」
リーネを回復しながらくらげの追撃からガンガン逃げ始める。アイススケートの要領で激しく蛇行する時雨の後ろで次々と打撃による水柱が上がった。
吹き上がる海水がシャワーをかぶりつつ、すれ違うボートにリーネを投げる。
時雨は身を低くしてターン。リーネは空中でバランスをとって器用にボートへ復帰すると、ハンドルを握り込んだ。後部の手すりを掴んで加速に乗る時雨。
「まずはあのデカいのからっすね! どうやって近づくんすか!?」
「そんなの、『走って』に決まってますよっ!」
ボートの横を走る浅葱が、ビッと二本指を立てた。
「殴ってへこむならぶち抜くことも出来るはずっ! リーネさん!」
バーを離して離脱した時雨の代わりにバーへつかまる浅葱。
ボートの加速を自分に乗せると、そのまま両足を激しくジタバタさせてダッシュ。
激しい水しぶきをあげながらジグザグ走行をしかけ、クラゲの繰り出す触手を右へ左へ回避する。
「そこですっ!」
至近距離まで潜り込み、渾身の二段ブローを叩き込む。
ぶよぶよのクラゲとて実態を持つ妖である。熟練の覚者が放つ拳は適切な物理衝撃となりクラゲの核を脅かし、全身を僅かながらに傾かせた。
「追撃チャンスだ! 行こうぜありす!」
ボートの床を蹴って飛翔するヤマト。
ありすは運転レバーを握ったままフィンガースナップ。
「いいわ――燃え上がっていくわよ。ゆる、開眼!」
ありすとヤマトは同時に灼熱化を発動。自らの炎を大きくふくれあがらせると、クラゲたちを狙って放出した。
「熱いメロディを聴かせてやろうぜ、レイジングブル!」
「直火焼きにしてあげるわ! 燃え尽きなさい!」
一瞬とはいえ海面を覆い尽くすほどの炎が走り、クラゲたちを激しく炙っていく。
激しい電撃が宙を走るが、左右に分かれたヤマトとありすは電撃を回避。
そのすぐ後ろから、予め飛行状態になっていた鈴鳴と遥が並んで突撃した。
戦旗を出現させ、風を切るように回転させ始める鈴鳴。
虚空で印を結び、空気の渦を生み出す遥。
二人の生み出した大気の歪みが空圧のマシンガンとなり、焼け焦げてもろくなったクラゲの身体にばすばすと穴を開けていった。
体勢を崩し、なんとか立て直そうとするクラゲ。
対して遥は海面ギリギリを飛行。激しい水しぶきを上げると、術式を流し込んで巨大な波へと変換した。
反対側へと回り込んだ鈴鳴も海面を旗ですくいあげ、巨大な水のボールを形成。術式を流し込んで氷のマシンガンへと変えた。
遥と鈴鳴の十字砲火を受け、洗濯機に放り込まれたぬいぐるみのようにぐるぐると回転するクラゲ。
乱流がはれた時には全身が砕け、巨大クラゲは消滅していた。
「やりました!」
グッと小さくガッツポーズをとる鈴鳴。
その瞬間、海面が突如としてきらめいた。
第三のクラゲ、丙クラゲが海中に粒子を放ち、放電の準備を整えていたのだ。
「危ないっ」
遥が呼びかけるのと、玲が動いたのはほぼ同時だった。
覚醒によって二十代の身体となった玲は広げた護符をサーフボードのようにして海面を滑りつつ、胸元から取り出した無数の護符を宙に放った。
「つららさん」
「はいっ、こうしてこうして、こう!」
放たれた護符へ次々に術式を流し込んでいくつらら。
放電と発光がほぼ同時に広がり、海上をまばゆく照らした。
光が晴れる。リーネが覆っていた目を開けると、予想していた痺れや毒は感じなかった。
「カウンターヒール……」
ヒーラーのスキル選択と行動が噛み合ったときに起きる、大技への適切な対抗処理である。
クラゲたちの間を抜けて滑っていく玲と、その手を引いて飛ぶつらら。
そんな彼女たちを追いかけるように、クラゲたちがぐるりと方向転換を始めた。
「させマセン!」
ボートのハンドルをきるリーネ。
前をこする程度では済まさない。直接叩き付ける勢いで加速し、第二の乙クラゲへと突撃する。
クラゲは迫る脅威を払うべく、笠を広げて放電。
リーネは構わずボートから飛び、シールド展開した両腕をクロスしてクラゲへと体当たりを仕掛けた。
どむんという音をたてて笠をへこませるクラゲ。
しかしその放電がジグザグ走行していた浅葱とすぐ上を飛んでいたヤマトに直撃。ヤマトはバランスを崩して海へと突っ込んだ。
「――ッ」
思わず振り返るありす。
が、心配は無用だ。
一旦潜水した時雨がイルカよろしく海上へ飛び出し、ヤマトを引っ張り上げた。水上歩行にのる時雨と、打ち出されるように空へ舞い上がるヤマト。具体的には時雨がヤマトのはばたきに引っ張り上げられたのだが、それはさておきだ。
「あと二匹っす! しっかり――ってうわ!?」
リーネをはねのけ、傘を広げて飛び上がる乙クラゲ。
着水と共に激しい波が起こり、時雨たちが呑まれていく。
一方で高波に乗るようにして滑っていく玲が護符を展開。ヤマトや浅葱たちに回復を施していく。
荒々しく靡く髪を押さえ波の範囲から離脱する玲。
彼女とは入れ替わりに遥が波の輪を抜けるようにして飛行。乙クラゲに狙いを定めて無数の氷を作り出した。
っぽうで乙クラゲの真上に陣取る鈴鳴。
戦旗を垂直に握ると、自分の周囲に無数の氷塊を生み出した。ピッケル状の氷塊が横から上から大量に突き刺さる。
蜂の巣のようになったクラゲをパンチでぶち抜き、ジタバタターンをかける浅葱。
海面すれすれを飛行するヤマトの手を掴んでくるりと方向転換すると、丙クラゲめがけて走り出した。
電撃がほとばしり、海面全体を埋めていく。
「ラストスパートっすね、気合いっすよつららちゃん」
「はい! こうですか!?」
時雨とつららは一緒に氷柱御柱を握ると、空めがけて術式性のシャワーを発射。
海面を埋め尽くすような放電攻撃に対し、降り注ぐ癒やしの雨。
「……」
そんな中で、ありすは小さくため息をついた。
「ヤマト、無茶して。空元気も元気の内っていうけど……全く、しょうがないわね!」
ボートのかじをきってクラゲに狙いをつける。ぶれる狙いを気合いで押さえ、火焔連弾を乱射。
攻撃を避けようと触手を振り回すクラゲだが、ありすにとって本当の狙いはそこではない。
ありすに気を取られて逆側がお留守になっていたのだ。
「ヤマト!」
「よし――いくぜ浅葱!」
逆側に回り込んだヤマトは水上ダッシュをかける浅葱を一旦掴んで放り投げ、浅葱は浅葱でぐるぐる回した拳を重力込みで叩き込んだ。
あまりの衝撃に水面が激しくうねり、クラゲの身体が宙に浮く。
「母なる海がセメントなのですよっ!」
ヤマトの空中スライディングによって上下反転したクラゲ。そこへ二人がかりで飛びつき、エネルギーを噴射した。
「「ダブル四方投げ!」」
激しくあがる水柱。
水がシャワーへ変わる頃、そこには巨大クラゲの影など無くなっていた。
パシンとハイタッチする二人。
●綺麗な島が見たいから
髪を絞るありす。
「まったく、結局濡れちゃったじゃないの……」
「いや、ごめんな? ついテンション上がっちゃってさ」
照れ笑いするヤマトに、ありすは暖かいため息をついた。
「もういいわよ。それより、文鳥サンを放って置いていいの?」
「おっ?」
振り返ると、つららが砂浜に漂着していた。
なんか砂に半分埋まっていた。
「ぉなか……すきました……」
「ご苦労さん。おにぎり弁当あるぜ」
「おべんとう!」
お弁当を出してやると、つららは一瞬で復活しておにぎりをうまうましはじめた。
「ありすの分もあるぜ?」
「アタシは食欲ないから……あげるわ」
「う、うめえっ……うめえっ……いただきまふ!」
つららは泣きながら食べていた。
何があったら人からもらったお弁当で泣けるのか、ありすにはちょっと分からなかった。
そこへ。
「ハァ、コレを乗り越えてもデートは無いのデスヨネ……」
リーネが漂着した。
なんか砂に半分埋まっていた。
なんかダムに行くとか言って出て行った想い人が恋人作って帰ってきたという事実を受け入れきれずにいるリーネである。なあにあの絶妙な距離感を保ったカップル。物理的にも割り込めないんですけど。
「……」
ヤマトたちが色んな意味でどう触れようか迷っていると、勝手にむくりと起き上がる。
「イエ! 結婚してないなら、まだセーフ! ギブミー、ワンモアチャンス!」
リーネは勝手に何かを納得し、勝手に気合いを入れて走り出した。
そこへ。
「イッツ、クッキングタイム」
ずぶ濡れの玲が漂着した。
漂着しすぎだろこの浜。
覚醒状態を解いて、両手にクラゲを一匹ずつ握っていた。
「それ……」
「倒した妖から残ったクラゲの死体です。さあ、ここからが僕のメインパートですよ」
玲はカッと目線カットインを挟むと、放り投げたキュウリとクラゲを細かくスライスしたりゴマ油とポン酢の瓶をジャグリングしたりお皿になんか綺麗にストトトッと落としたりした。今日一番の動きをしていた。
最後に高く掲げたすりごまを振りかける玲。
「妖化したところを退治したという経緯はさておき、殺したからには食べる……この世の鉄則です」
「そんな話してたっけ?」
「いただきますっ」
玲はここぞとばかりに輝いた。メシパートで輝いた。
クラゲやお弁当が完食され、皆が手を合わせた頃。
「一件落着のようですねっ」
浅葱が砂埃を引き連れてやってきた。踵でブレーキアンドターン。手にはゴミ袋が握られている。
「みなさんっ、バカンス前にゴミ拾うしちゃいましょうかっ!」
海岸には色々なゴミが落ちている。
空き缶、木材、お菓子の袋。破損した何かのパーツ。外れたブイ。ペットボトル、割れた瓶。ビニール袋とそれに詰め込まれたゴミ。
それらをトングでゴミ袋に詰め込み、鈴鳴は額の汗をぬぐった。
「さすがに、この島にやってきた人がぽいぽい捨てていったとは考えづらい量ですよね……」
「波にのっていろんなゴミが漂着したんだろうね。そこへ割れ窓理論でゴミを捨てる人が出てくるんだ」
ゴミいっぱいの袋を縛って、遥は小さくため息をついた。
「割れ窓、ですか?」
「学校の窓を割られたまま放置すると、他の窓も割られていく。身近な例だと、ゴミの入った自転車の籠にはさらなるゴミが詰め込まれる現象かな」
「じゃあ、永遠になくならないんじゃ……」
「そんなことないよ。よほどの荒波でない限り、毎日拾って歩けば綺麗な状態が保てるんだ。けどこの島には住人がいないから、そういう活動もしづらいんだろうね」
この土地に常駐するサイクルができればいいが、島全体をカバーするにはかなりの人数を要するし、なにより人が住むのに不適切すぎる。
「難しい話、なのかな」
「そんなことないっすよ!」
両手にいっぱいのゴミ袋を抱えて仁王立ちする時雨。
「海が綺麗な方がいい。そう考える人は大勢いるっす。現に、皆も……」
振り返ると、ヤマトやありすたちがゴミ袋片手にゴミ拾いに加わり始めていた。
新しいゴミ袋を手に取る時雨。
「綺麗になったら、遊ぶっすよ!」
浜にボートをつけ、エンジンをかけながら振り返る『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)。
海面から三つの笠が露出し、さながら小島のていを成していた。
「はあ、海上戦なんてホント嫌……」
「夏場でも海はつめたいもんな。大丈夫か?」
ボートに飛び乗ってくる『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)。
ありすは髪を指でくるくると巻きながらそっぽをむいた。
「別に、落ちないから平気よ」
「そっか! じゃあ今度島で遊ぼう! ビーチバレーとかキャンプとか、色々できるぞ!」
「……まあ、風が無くて晴れてたら、ね」
途中まで相乗りするためにありすのボートに乗り込む『月下の白』白枝 遥(CL2000500)と『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野 鈴鳴(CL2000222)。
見回すと、海岸線を黒く染めるかのように無数のゴミが落ちていた。
観光客の廃棄物もあるが、流れ着いたゴミも多いという。海にものを捨てる人がそれだけいるということだろう。
「これじゃあ、クラゲも怒るよね。観光マナーか……」
「ロケーションは素敵なのに、とても残念です。人の勝手でこうなっちゃったなら、放ってはおけませんね」
「どっちを?」
「どっちも、です」
今回用意したボートは二隻。あまり高速なものではないが、運転がしやすく足場として比較的安定しやすいものだ。ひどいものだと酔わない方がおかしいくらい振り回されるので、ボート選びは地味に重要だ。
走り出すボートの脇にて。
「変――身ッ!」
腕をぐるりと回し、輝きと共に変身する『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)。
「天が知る地が知る人知れずっ。環境美化にご協力ですっ! クラゲは夏の風物詩ですねっ」
ボートの端につかまって海面を見つめる水端 時雨(CL2000345)。
「そういえばクラゲ料理ってあるらしいっすね。あれは食べる気しないっすけど……」
「たべられないんですか」
文鳥 つらら(nCL2000051)が大気中の成分に溶ける寸前みたいな状態で漂っていた。
「オォウ……つららちゃんは食べ物をご所望デスカ?」
『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が考えるように指を唇に当てた。
「ンー、今度本国の料理をごちそうシマスカラ。それで元気出してくれマセンカ?」
「出ました!」
つららの目に光が戻った。
そんなつららの肩をぽんと叩く『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261)。
「つららさん、あなたは肝心なことを忘れています」
「なんと」
「あのクラゲが食べられないのは、食べていないからなんですよ。偉い人も言っていたでしょう」
「偉い人……」
玲の目がカッと光った。
「『諦めたらそこでご飯終了だよ』!」
「ご飯終了!」
「だから僕は今日、あのクラゲを食べます」
玲は、獣の目をして覚醒した。
●開幕クラゲ祭り
速度を上げるボート。
ハンドルを握るリーネ。
ワンピース式の軍服に岩の鎧を部分装着させると、エネルギーラインを循環。
向かうは巨大クラゲ。身体をぶわりと浮き上がらせたクラゲは触手から激しい放電をおこしながらリーネめがけて襲いかかった。
「狙いは私……望むところデス!」
両腕のロックシールドを展開しながら跳躍。
彼女に触手が無数に巻き付き、激しい電撃を流していく。
歯を食いしばり、反動に耐えるリーネ。
暫く耐えきった所で触手を無理矢理ねじ切り強制離脱。
海中に落下しそうになった所を、時雨が慌ててキャッチした。
「うおっと! ダイジョブっすか!?」
リーネを回復しながらくらげの追撃からガンガン逃げ始める。アイススケートの要領で激しく蛇行する時雨の後ろで次々と打撃による水柱が上がった。
吹き上がる海水がシャワーをかぶりつつ、すれ違うボートにリーネを投げる。
時雨は身を低くしてターン。リーネは空中でバランスをとって器用にボートへ復帰すると、ハンドルを握り込んだ。後部の手すりを掴んで加速に乗る時雨。
「まずはあのデカいのからっすね! どうやって近づくんすか!?」
「そんなの、『走って』に決まってますよっ!」
ボートの横を走る浅葱が、ビッと二本指を立てた。
「殴ってへこむならぶち抜くことも出来るはずっ! リーネさん!」
バーを離して離脱した時雨の代わりにバーへつかまる浅葱。
ボートの加速を自分に乗せると、そのまま両足を激しくジタバタさせてダッシュ。
激しい水しぶきをあげながらジグザグ走行をしかけ、クラゲの繰り出す触手を右へ左へ回避する。
「そこですっ!」
至近距離まで潜り込み、渾身の二段ブローを叩き込む。
ぶよぶよのクラゲとて実態を持つ妖である。熟練の覚者が放つ拳は適切な物理衝撃となりクラゲの核を脅かし、全身を僅かながらに傾かせた。
「追撃チャンスだ! 行こうぜありす!」
ボートの床を蹴って飛翔するヤマト。
ありすは運転レバーを握ったままフィンガースナップ。
「いいわ――燃え上がっていくわよ。ゆる、開眼!」
ありすとヤマトは同時に灼熱化を発動。自らの炎を大きくふくれあがらせると、クラゲたちを狙って放出した。
「熱いメロディを聴かせてやろうぜ、レイジングブル!」
「直火焼きにしてあげるわ! 燃え尽きなさい!」
一瞬とはいえ海面を覆い尽くすほどの炎が走り、クラゲたちを激しく炙っていく。
激しい電撃が宙を走るが、左右に分かれたヤマトとありすは電撃を回避。
そのすぐ後ろから、予め飛行状態になっていた鈴鳴と遥が並んで突撃した。
戦旗を出現させ、風を切るように回転させ始める鈴鳴。
虚空で印を結び、空気の渦を生み出す遥。
二人の生み出した大気の歪みが空圧のマシンガンとなり、焼け焦げてもろくなったクラゲの身体にばすばすと穴を開けていった。
体勢を崩し、なんとか立て直そうとするクラゲ。
対して遥は海面ギリギリを飛行。激しい水しぶきを上げると、術式を流し込んで巨大な波へと変換した。
反対側へと回り込んだ鈴鳴も海面を旗ですくいあげ、巨大な水のボールを形成。術式を流し込んで氷のマシンガンへと変えた。
遥と鈴鳴の十字砲火を受け、洗濯機に放り込まれたぬいぐるみのようにぐるぐると回転するクラゲ。
乱流がはれた時には全身が砕け、巨大クラゲは消滅していた。
「やりました!」
グッと小さくガッツポーズをとる鈴鳴。
その瞬間、海面が突如としてきらめいた。
第三のクラゲ、丙クラゲが海中に粒子を放ち、放電の準備を整えていたのだ。
「危ないっ」
遥が呼びかけるのと、玲が動いたのはほぼ同時だった。
覚醒によって二十代の身体となった玲は広げた護符をサーフボードのようにして海面を滑りつつ、胸元から取り出した無数の護符を宙に放った。
「つららさん」
「はいっ、こうしてこうして、こう!」
放たれた護符へ次々に術式を流し込んでいくつらら。
放電と発光がほぼ同時に広がり、海上をまばゆく照らした。
光が晴れる。リーネが覆っていた目を開けると、予想していた痺れや毒は感じなかった。
「カウンターヒール……」
ヒーラーのスキル選択と行動が噛み合ったときに起きる、大技への適切な対抗処理である。
クラゲたちの間を抜けて滑っていく玲と、その手を引いて飛ぶつらら。
そんな彼女たちを追いかけるように、クラゲたちがぐるりと方向転換を始めた。
「させマセン!」
ボートのハンドルをきるリーネ。
前をこする程度では済まさない。直接叩き付ける勢いで加速し、第二の乙クラゲへと突撃する。
クラゲは迫る脅威を払うべく、笠を広げて放電。
リーネは構わずボートから飛び、シールド展開した両腕をクロスしてクラゲへと体当たりを仕掛けた。
どむんという音をたてて笠をへこませるクラゲ。
しかしその放電がジグザグ走行していた浅葱とすぐ上を飛んでいたヤマトに直撃。ヤマトはバランスを崩して海へと突っ込んだ。
「――ッ」
思わず振り返るありす。
が、心配は無用だ。
一旦潜水した時雨がイルカよろしく海上へ飛び出し、ヤマトを引っ張り上げた。水上歩行にのる時雨と、打ち出されるように空へ舞い上がるヤマト。具体的には時雨がヤマトのはばたきに引っ張り上げられたのだが、それはさておきだ。
「あと二匹っす! しっかり――ってうわ!?」
リーネをはねのけ、傘を広げて飛び上がる乙クラゲ。
着水と共に激しい波が起こり、時雨たちが呑まれていく。
一方で高波に乗るようにして滑っていく玲が護符を展開。ヤマトや浅葱たちに回復を施していく。
荒々しく靡く髪を押さえ波の範囲から離脱する玲。
彼女とは入れ替わりに遥が波の輪を抜けるようにして飛行。乙クラゲに狙いを定めて無数の氷を作り出した。
っぽうで乙クラゲの真上に陣取る鈴鳴。
戦旗を垂直に握ると、自分の周囲に無数の氷塊を生み出した。ピッケル状の氷塊が横から上から大量に突き刺さる。
蜂の巣のようになったクラゲをパンチでぶち抜き、ジタバタターンをかける浅葱。
海面すれすれを飛行するヤマトの手を掴んでくるりと方向転換すると、丙クラゲめがけて走り出した。
電撃がほとばしり、海面全体を埋めていく。
「ラストスパートっすね、気合いっすよつららちゃん」
「はい! こうですか!?」
時雨とつららは一緒に氷柱御柱を握ると、空めがけて術式性のシャワーを発射。
海面を埋め尽くすような放電攻撃に対し、降り注ぐ癒やしの雨。
「……」
そんな中で、ありすは小さくため息をついた。
「ヤマト、無茶して。空元気も元気の内っていうけど……全く、しょうがないわね!」
ボートのかじをきってクラゲに狙いをつける。ぶれる狙いを気合いで押さえ、火焔連弾を乱射。
攻撃を避けようと触手を振り回すクラゲだが、ありすにとって本当の狙いはそこではない。
ありすに気を取られて逆側がお留守になっていたのだ。
「ヤマト!」
「よし――いくぜ浅葱!」
逆側に回り込んだヤマトは水上ダッシュをかける浅葱を一旦掴んで放り投げ、浅葱は浅葱でぐるぐる回した拳を重力込みで叩き込んだ。
あまりの衝撃に水面が激しくうねり、クラゲの身体が宙に浮く。
「母なる海がセメントなのですよっ!」
ヤマトの空中スライディングによって上下反転したクラゲ。そこへ二人がかりで飛びつき、エネルギーを噴射した。
「「ダブル四方投げ!」」
激しくあがる水柱。
水がシャワーへ変わる頃、そこには巨大クラゲの影など無くなっていた。
パシンとハイタッチする二人。
●綺麗な島が見たいから
髪を絞るありす。
「まったく、結局濡れちゃったじゃないの……」
「いや、ごめんな? ついテンション上がっちゃってさ」
照れ笑いするヤマトに、ありすは暖かいため息をついた。
「もういいわよ。それより、文鳥サンを放って置いていいの?」
「おっ?」
振り返ると、つららが砂浜に漂着していた。
なんか砂に半分埋まっていた。
「ぉなか……すきました……」
「ご苦労さん。おにぎり弁当あるぜ」
「おべんとう!」
お弁当を出してやると、つららは一瞬で復活しておにぎりをうまうましはじめた。
「ありすの分もあるぜ?」
「アタシは食欲ないから……あげるわ」
「う、うめえっ……うめえっ……いただきまふ!」
つららは泣きながら食べていた。
何があったら人からもらったお弁当で泣けるのか、ありすにはちょっと分からなかった。
そこへ。
「ハァ、コレを乗り越えてもデートは無いのデスヨネ……」
リーネが漂着した。
なんか砂に半分埋まっていた。
なんかダムに行くとか言って出て行った想い人が恋人作って帰ってきたという事実を受け入れきれずにいるリーネである。なあにあの絶妙な距離感を保ったカップル。物理的にも割り込めないんですけど。
「……」
ヤマトたちが色んな意味でどう触れようか迷っていると、勝手にむくりと起き上がる。
「イエ! 結婚してないなら、まだセーフ! ギブミー、ワンモアチャンス!」
リーネは勝手に何かを納得し、勝手に気合いを入れて走り出した。
そこへ。
「イッツ、クッキングタイム」
ずぶ濡れの玲が漂着した。
漂着しすぎだろこの浜。
覚醒状態を解いて、両手にクラゲを一匹ずつ握っていた。
「それ……」
「倒した妖から残ったクラゲの死体です。さあ、ここからが僕のメインパートですよ」
玲はカッと目線カットインを挟むと、放り投げたキュウリとクラゲを細かくスライスしたりゴマ油とポン酢の瓶をジャグリングしたりお皿になんか綺麗にストトトッと落としたりした。今日一番の動きをしていた。
最後に高く掲げたすりごまを振りかける玲。
「妖化したところを退治したという経緯はさておき、殺したからには食べる……この世の鉄則です」
「そんな話してたっけ?」
「いただきますっ」
玲はここぞとばかりに輝いた。メシパートで輝いた。
クラゲやお弁当が完食され、皆が手を合わせた頃。
「一件落着のようですねっ」
浅葱が砂埃を引き連れてやってきた。踵でブレーキアンドターン。手にはゴミ袋が握られている。
「みなさんっ、バカンス前にゴミ拾うしちゃいましょうかっ!」
海岸には色々なゴミが落ちている。
空き缶、木材、お菓子の袋。破損した何かのパーツ。外れたブイ。ペットボトル、割れた瓶。ビニール袋とそれに詰め込まれたゴミ。
それらをトングでゴミ袋に詰め込み、鈴鳴は額の汗をぬぐった。
「さすがに、この島にやってきた人がぽいぽい捨てていったとは考えづらい量ですよね……」
「波にのっていろんなゴミが漂着したんだろうね。そこへ割れ窓理論でゴミを捨てる人が出てくるんだ」
ゴミいっぱいの袋を縛って、遥は小さくため息をついた。
「割れ窓、ですか?」
「学校の窓を割られたまま放置すると、他の窓も割られていく。身近な例だと、ゴミの入った自転車の籠にはさらなるゴミが詰め込まれる現象かな」
「じゃあ、永遠になくならないんじゃ……」
「そんなことないよ。よほどの荒波でない限り、毎日拾って歩けば綺麗な状態が保てるんだ。けどこの島には住人がいないから、そういう活動もしづらいんだろうね」
この土地に常駐するサイクルができればいいが、島全体をカバーするにはかなりの人数を要するし、なにより人が住むのに不適切すぎる。
「難しい話、なのかな」
「そんなことないっすよ!」
両手にいっぱいのゴミ袋を抱えて仁王立ちする時雨。
「海が綺麗な方がいい。そう考える人は大勢いるっす。現に、皆も……」
振り返ると、ヤマトやありすたちがゴミ袋片手にゴミ拾いに加わり始めていた。
新しいゴミ袋を手に取る時雨。
「綺麗になったら、遊ぶっすよ!」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
