最後の勾玉……?
最後の勾玉……?


●内部に漂う黒いもや
 奈良県のとある山中。
 地滑りによって口を開いた遺跡の調査が、考古学者によって行われている。
 現在、内部から発見されているのは、勾玉2つ。崩れ落ちた入り口も発見され、そこに張られていた結界から、何かを封印した遺跡であることが判明してきている。
 この調査の最中、内部に妖が現れるなどして、『F.i.V.E.』へ依頼が過去3度あった。
 そのうち2度は、通路に現れた石人形の妖の討伐。
 そして、前回は盗掘などを行う隔者が遺跡内に忍び込んだ。だが、遺跡内に張られた強力な封印によって、1人が破綻者となり、相方を殺害という状況。破綻者対処の依頼があった。
 結果、石人形は覚者達によって撃破。破綻者も撃退したが、残念ながらその隔者は命を落としている。隔者達の遺体はその後、外に運び出されて手厚く埋葬されたそうだ。

 そこは、『F.i.V.E.』の会議室。
「すまぬが、例の遺跡に潜ってほしいのじゃ」
 『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)が会議室に集まった覚者達に対し、説明を始めていた。
 突入口を中心とすると、遺跡は現在、1度目は北西、2度目は南西、前回は南側の探索を行った状況だ。南が遺跡本来の入り口。そして、北西、南西には部屋があり、勾玉が収められていて、その回収に至っている。
「前回の遺跡荒らし……破綻者となった者の手で、南東付近にいた石人形は破壊されておったそうじゃ。それもあって、考古学者はそちらの調査も進めたようじゃのう」
 前回の破綻者撃破後、南東は考古学者達の手で調査を進められ、研究の為にと勾玉も回収されたとのことだ。ちなみに、南東の部屋もそれまで調べた部屋とほぼ状況は変わらないらしい。
 元々、依頼がなければ、2個の勾玉も入手できなかったことを考えれば、致し方ないとはいえ。そちらの探索が出来なかったことに、不満を募らせるメンバーの姿もある。
「気持ちは分かるがの。まあ、向こうも研究者じゃし、なんといっても、依頼者じゃからな」
 遺跡の探究心で依頼を受ける覚者がいるのと同じ。考古学者だって知的探究心を満たすべく遺跡へと潜っているのだから、今後もこういうことはあるだろう。
 話を戻す。さて、今回の依頼だが。
「妖……石人形の撃破と、もう1つの勾玉の回収じゃな」
 けいはプロジェクターに表示された、遺跡北東部分を指示棒で指す。そちらの方向の通路は、これまでは全く探索がなされていない道だ。
 考古学者達も北東に何かあると踏んだようで、崩れた道を開通させたらしい。ここにもやはり、妖がおり、その討伐を考古学者達から依頼されているのだが……。
「どうも、状況が最初2回とは違うようなのじゃ」
 そこには、すでに岩人形の妖が徘徊している。あの石人形だ。
 以前、この岩人形がどこに隠れているか分からないといったことがあったが、今回は確実に意思を持って動いている。危険な為、これを先に撃破したい。
「強個体が4体、2体1組となって遺跡北東側を徘徊しているらしいの。遺跡に薄く漏れ出した黒いもやの影響かも知れん」
 前回の遺跡荒らしの1件以降、かすかではあるが、遺跡内に黒いもやがかった何かが漂い始めている。この成分は現在分析中だが、人体に害がないことだけは確認されている。
 順調に討伐ができたならば、北東側の探索を続けたい。他3方向の状況を考えれば、奥の部屋に部屋、そして祭壇があるのは濃厚な為だ。その中にあると思われる勾玉を回収しておきたい。遺跡構造的には、これが最後の勾玉と思われるが……。
「説明は以上じゃの」
 部屋を明るくし、プロジェクターの電源を切ったけいがさらに覚者達に告げる。
「遺跡荒らしの一件以来、なにやら遺跡の様子がおかしいのじゃ」
 直接的な要因を考えれば、内部の封印を破ったことが可能性として高い。
 あるいは、破綻者となった男が、別の何かに手を出した可能性も拭い去ることが出来ない。これに関しては、けいがさらに情報を集めてみるつもりらしい。
「おぬし達は当面の障害を撃破してほしいのじゃ」
 よろしく頼むと頭を下げたけい、会議室を出て行ってしまったのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.現れる4体の妖の討伐。
2.勾玉の回収。
3.なし
初めましての方も、
どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
遺跡内に現れた妖の討伐、
及び、最後と推測される勾玉の回収を願います。

●遺跡
山中にばっくりと口を開けた裂け目から、遺跡の通路に入ることができますが、
そこは正規の入口ではなく、ロープを伝って降りる形です。
突入後、考古学者達によって開通した、
遺跡北東方面の探索、妖の討伐を願います。
遺跡内部は現在、うっすらとですが、
黒いもやがかった何かに覆われています。
成分は不明ですが、現状、害はありません。

準備に当たっては、スキル活性、装飾品などの確認を願います。
基本的には、それ以外は採用できませんが、
これは有用と判断したもののみ、採用する場合があります。

また、通路最奥に小さな祭壇があり、
勾玉が納められていますので、この回収を願います。


●妖……自然系、石人形。ランク2×2体が2組。
周囲の土と岩が3メートルほどの人型に固まり、動き出したものです。
2体1組で行動をしておりますが、
移動しているので、どこで出くわすかは状況次第です。

パンチ(物近単・弱体)、踏み潰し(物近単・溜め2)、
石つぶて(特全・出血)を行使して来ます。

●補足
これまでのあらすじは全てOPに記載しておりますので、
読まなくとも、今シナリオには全く影響ございませんが、
拙作『封印の解けた遺跡』、『遺跡の内部に現れた通路』、
『遺跡に忍び込んだ隔者の末路』
こちらもお手隙であらばご参照ください。

それでは、今回も楽しんでいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします!
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年06月21日

■メイン参加者 8人■

『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『マジシャンガール』
茨田・凜(CL2000438)
『静かに見つめる眼』
東雲 梛(CL2001410)
『天使の卵』
栗落花 渚(CL2001360)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)
『桜火舞』
鐡之蔵 禊(CL2000029)

●最後の探索?
 奈良県の山中にある遺跡入り口。
 ここへ初めて訪れる『裏切者』鳴神 零(CL2000669)は、遺跡に目を輝かせる。……といっても、仮面で隠れて外からでは彼女の目は見えないのだが。
「おっ! 探検冒険みたいだね!! 楽しそう!!」
「遺跡探索かぁ。考古学の実習みたいで、ちょっとどきどきするね」
 『罪なき人々の盾』鐡之蔵 禊(CL2000029)も、山の中に口を開く何かの遺跡に興味を示す。ここに眠る勾玉は、『F.i.V.E.』の今後の活動を楽にしてくれるかもしれないと、禊は考える。
「遺跡調査、ですか。新しい発見により歴史が紐解かれる……等は、知識欲を満たすにはいいものかもしれませんね」
 『スピードスター』柳 燐花(CL2000695)はそう考える反面、「何かを封印している遺跡」なのであれば、このままそっとしておいた方がよかったかもしれないとすら考える。
 もっとも、すでに考古学者がかなりの部分を調べているし、『F.i.V.E.』としても4度目の突入というなら、今更ではあるのだが……。
「ふーん、『F.i.V.E.』で何度も行ってる遺跡? こんなに勾玉があるなんて、何かの儀式の場所だったの?」
 今回参加の覚者の中で唯一の男性、東雲 梛(CL2001410)。彼はこの遺跡に対して嫌な予感を感じていた。儀式で封印……気のせいだとよいのだが。
「黒いもやか、さっさと終わらせた方が良さそう」
 梛のように感じる者が出ているということは、それだけ遺跡の状況が変わっていることに他ならない。
「遺跡調査も4回目だけれど、気になるね」
 唯一、その全てに立ち会っている『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)。果たして、遺跡に何が起こっているのか……。
「またここに来れて、凜は超嬉しいんよ。今回もノリノリで探検がんばるんよ♪」
「いよいよ最後の探索……になるのかしらね?」
 茨田・凜(CL2000438)、『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)はそれぞれ3度目の参加だ。
「前回は調べ切れなかったのもあるし、今回は奥まできっちり行かないといけないわね」
 研究者冥利につきると、エメレンツィアは微笑む。
「私も途中からの参加だけど、これだけ新しい領域が見つかったりするとやっぱりちょっと感動だよね」
 中学女子制服姿に、左腕へ腕章を巻いた『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)は、前回に続いて2度目の参加だ。
「これで、最後……なのかな?」
 聞いたところによれば、これが最後の勾玉になるとではと推論が出ているが、薄く内部に広がる黒いもやからも遺跡の異変は明らかだ。もしかしたら、このまま終わらないのではないかと渚は考える。
 悪い予感はあるが、とりあえずは、内部に出るという石人形の対処だ。
「できることをちゃんとやって、皆の力にならないとね。よーし、がんばるぞー!」
 禊が掛け声を上げるのに合わせ、覚者達は遺跡内へと突入していくのである。

●石人形を探して新たな通路へ
 探索に臨むべく、突入経験を重ねたメンバーの準備は手馴れたもの。
 理央が用意してきたのは、方眼紙に筆記用具。別にチョーク、方位方眼用紙と筆記用具に方位磁針。これらはマッピング用だ。それに、前回までにマッピングした地図を重ねる。
 さらに、ランタン用の油に灯心。機能していない壁の明かりを利用する為のものだ。
 凜はというと、懐中電灯に目印用と小腹対策にお菓子。この準備がなんとも彼女らしい。
「あんまり食べ過ぎないように、気をつけるつもりなんよ」
 とはいえ、しっかりと敵の発見の為にと感情探査もセットして、凜なりに準備は整えていたようだ。
 さて、遺跡へと先立って降りるのは燐花。遺跡荒らしめいたこの行為にやや抵抗を覚える彼女だが、仕事と割り切って前に立つ。舵取り、マッピングは仲間に任せ、その分戦いで役目を果たそうという心積もりだ。
「よぉし、じゃあ張り切っていきますかーッ!」
 ……と、意気込みを見せていた零だったが。思った以上に暗い遺跡内部、そして、不気味な黒いもやに少し怯えてしまう。
「お、おおお、お化けとか、出ない、よね……??」
 零は守護使役のキッドに、怪しげな物がでないかと周囲を照らすよう頼んでいたようだ。
 その零と凜、渚が後ろから行く。特にどこから敵が出てくるか分からない。同じく、ともしびを守護使役きららに頼む渚は危険予知を行いつつ、仲間についていく。
「しっかりブロックするよ。予防も大事だもん」
 また、マメに自身へと強化を施しつつ、渚は探索に当たっていた。
 その手前を、理央、エメレンツィア、梛が行く。
 梛も守護使役まもりに照明を頼んでいた。その上で、彼は超直感も駆使して目に付くもの気になるものを注意深く観察する。
 遺跡の異変を探ることができればと、梛は様々な所に気を回す。
 例えば、通路に生えているコケに梛は木の心を使用し、ここ1週間ほどの記憶を探ってみる。ただ、すでに1週間前には黒いもやが発生していたこと。そして、この近辺も石人形が徘徊していたことくらいしか分からなかった。
 エメレンツィアも懐中電灯で小道が無いか照らしながら、超視力も合わせてかすかな物の動きも見逃さないようにする。
 理央はランタンの明かりを頼りに、方位磁針で方角を確認し、マッピングを行う。分岐点には、理央のチョークの跡に凜のお菓子が添えられる。仲間の照明だけでは暗いことも多々あるので、壁に時折設置された灯りを機能させていく。
「それにしても、このもやは何なのかしら」
 エメレンツィアが改めて、遺跡の宙に漂う黒いもやを気がける。現状はやや視界を遮る程度という状況ではあるが……。
「けいの話では、『今は』害はないって話だけど、裏を返せばいつ害になるかわからないってことよね」
「でも、ちょっと気になるんよ」
 凜は理央のマッピングの手伝いをしつつ、そんな感想を漏らす。後で病気になったら嫌だと、帰ったら病院で検査をしてもらおうと考えていた。
「この黒いもや、人体に影響はなくて、石人形には何らかの作用がある……とかなのでしょうか」
 そこで、燐花が別の推論を立てる。例えば遺跡荒らしに対する防衛用の呪いの類なのではないかと。
「例えば、遺跡荒らしに対する防衛用の呪いの類とか」
 この遺跡を作った者からすれば、理由はどうあれ、勾玉を持ち出す盗人でしかないだろうと燐花は自身の考えを語る。
「石人形は大事なものを守る為に配置されている……というのは、考えとしては浅いでしょうか」
「一理あるけど、それなら、3度目までこのもやが出なかった説明がつかないかな」
 理央がそう反論する。遺跡を作った理由が分からないこともあり、燐花は唸りこむ。
 その燐花と禊が、一行の先頭を行く。
「動いている以上、そこには熱の痕跡が残るかも、だしね」
 仲間達の推論を聞きながら、禊は熱感知しつつ敵を探す。奇襲を狙えればよりいいのだが……。
 安定しない足場に、念の為ハイバランサーで体勢を安定させる零は、背後で壁をつんつんと刀で突きながら歩いていた。
 そこで、他のメンバーが身構えているのに気づいた彼女は、前方から何かが迫っていることに気づく。
「で、でたあああああ!! ひゃっほおおおおお、おっきいい!!」
 目の前から現れた、全長3メートルもの大きさをした石人形。物質系の妖に他ならない。零ははしゃぐように声を上げた。エメレンツィアもそれを察し、自身の攻撃力を高め、仲間に海のベールを纏わせていく。
「逆の方からは敵の気配とかないの?」
 梛が後方のメンバーに問うと、渚が首を振る。それなら、現状は前方から現れた2体のみ。
「石人形はこの遺跡を守る護衛か。この石人形も誰かに作られた奴なんじゃ」
 梛はその対処をすべく覚醒して身構える。近づいてくる敵に奇襲もへったくれもない。禊も戦線を作り敵の攻撃に備えるのである。

●石人形を対処して……
 前方から襲ってくる妖。後ろにいた零が前へと出ていた。
「さしずめ、あなた達はここの守り神ってところかしら?」
 石人形は返答代わりにとパンチを繰り出し、もう1体は石つぶてをばら撒いてくる。それに耐えた零は体から血を流しつつ、さらに叫ぶ。
「貴方達妖に、恨みは無いけど、この先に進む為に、『F.i.V.E.』が前へ進む為に、ここで倒させてもらうわよ!!」
 零は横に並ぶ岩人形へと、気の弾丸を掃射していく。
 同じく禊。彼女も仲間の盾となるべく素早く身を張り、体内の炎を灼熱化させ、石すらも裂いてしまいそうな鋭い蹴りを繰り出した。
「私は速度強化型だからね!」
 言葉通りに彼女はさらに動き、目の前の石人形へと火力を拳へと込めて叩き付けて炸裂させた。
 ランク2の妖が2体。覚者も力をつけてきてはいるとはいえ、その攻撃は脅威。凜は石つぶてに気をつけながらも、前に立つ仲間の強化へと当たる。

 比較的、単調に攻撃を仕掛けてくる石人形。
 だが、時に大きく足を振り上げて力を溜める動作を行うことがある。そこでその仕草をしたのは、右手側の敵だ。
 エメレンツィアがそれを冷静に対処し、空気中の水分を集めて荒波を巻き起こし、石人形達へと浴びせかけていく。
 なんとかそいつを倒せればと、梛は開眼させた第三の目から怪光線を放つ。
 その石人形に呪いを与えはするが、敵の動きは残念ながら止まらない。振り下ろしてきた足を、燐花が全力で防御して受け止める。
 だが、その体力の減少は大きい。すかさず、凜や梛が回復にと癒しの滴や樹の雫を彼女へと落とし、燐花の体力を持ち直させる。
 敵の溜め攻撃を阻止こそできなかったが。すでにそいつの体はぼろぼろになってきている。それを見定めた渚が隣の石人形もまとめて狙い、気の弾丸を飛ばしていく。
 すると、一体の石人形の体に大きな亀裂が入り、ガラガラと崩れ始める。
 数が減れば、それだけ覚者達の負担も楽になる。攻守を合わせながらも、一行は攻め続け……。
 理央は仲間の攻撃に続いて、神秘の力によって創り出した水竜を解き放って岩人形へとぶつける。いくら術式に強い物質系とはいえ。仲間達の攻撃が重なっており、その体はきしんでいる。
「私の動きに、ついて来れるでしょうか?」
 燐花は敵を挑発しながらも、両手の苦無を振るって人形の胸へと斜め、そして袈裟懸けに切りつけて。
「やはり、ついて来れなかったようですね」
 彼女がそう言い放つと敵は地響きを立てて、遺跡の床に崩れ落ちていった。
 一息つこうとするメンバー達。しかし……。
「皆、こっちだよ!」
 危機を感知した渚が仲間に呼びかける。ゆらりと背後からまたも岩人形が2体現れたのだ。
 体勢を整える間もなく、メンバー達は連戦を強いられる事となる。

●背後からのエンカウント
 挟み撃ちも警戒していた覚者一行ではあったが、期せず連戦となると、これはこれでやや滅入ってしまう。
 息つく間もなく、覚者達は戦いに臨む。前衛後衛が完全に入れ替わってしまった為、メンバー達はしばし布陣の為の対応に追われる羽目になる。
 岩人形の1体が投げつけてくる石つぶてに、凜、渚が顔をしかめてしまう。
 しかしながら、中衛に立つメンバーが冷静に判断し、エメレンツィアが癒しの霧を振り撒いて彼女達の傷を癒していく。
「リン、後ろへ下がるのよ」
「……今は、大ケガするわけにはいかないんよ」
 凜はそれに素直に従い、後ろへと下がろうとする。
 だが、もう1体は足を振り上げている。それを危険と判断した零が身を滑らせた。
「なに! 鳴神は固いし体力あるから、平気なのよ!!」
 ぐしゃり。何かが潰れる嫌な音。だが、零は命を砕いて立ち上がる。こんなところで倒れてもいられないのだ。凜はすまなさそうに謝り、後ろへ下がって零の傷を癒していく。
 梛は治癒力を高める香りを振り撒いた後、またも目から光を放ち、敵の体に呪いをかける。
 態勢を整えた燐花も先ほど同様、苦無で連撃を繰り出していった。連戦で疲労の色は強くなってはいるが、同じ敵だ。対処方法さえ心得ていれば、ダメージこそ重なるが、倒せない敵ではない。
 素早さを生かし、幾度も攻撃を行っていた禊。爆発力を高めた拳を叩き付け、石人形のバランスが崩れたところへ、彼女はさらに、敵の胸部へと鋭い蹴りを繰り出した。
「それー!」
 ぴきりと音を立て、3体目の石人形が崩れ落ちる。
 だが、もう1体が攻撃を溜めていた。後ろのメンバーに攻撃がいかないようにと、彼女は無理な体勢で庇いへと移る。
 ぐしゃり……。
 何かが潰れる音。禊はその石人形の足の下敷きになってしまう。
「うー……」
 彼女はしばらく、起き上がることが出来なかった。
 それに苦い顔をするエメレンツィア。別々に敵が登場したことで、回復は間に合っているはずだが、ここぞと放つ一撃は強すぎる。
 しかし、先ほど同様、1体になれば。後は丁寧に対処するのみだ。
 理央は神秘の力を持った水の雫を敵へと飛ばしていき、渚は巨大注射器を鈍器として2連撃を叩き付けていく。
 そのとき、石人形の体からぴしりと亀裂が走る音が聞こえた。その間に、梛が種を投げ込むと、それは急成長し、鋭い棘で石の体すらも裂傷を負わせる。
「私達は、誰かの希望になる為に……!! 闇を駆け抜け、その先の勾玉はいただくわ!!」
 零が躍りこみ、大太刀鬼桜で岩人形を切り伏せる。またも砕ける石人形。4度目の地響きが遺跡内にこだましたのだった。

●勾玉と黒いもや
 妖を討伐完了したメンバー達は、そのまま通路を先へと進んでいく。
 やがて、小部屋が見え、その中へと入っていった。
 何かが祀られているのかと思わせる飾りが部屋中に散見されたが、ほぼほぼ風化の跡が見えるのは、他の部屋と同様と言えた。
「さすがに、海外の物ではないと思うけれどね」
 なんとか体を引きずってこの場にやってきていた禊は、その装飾や文様を目にして唸る禊。現状、考古学者が解析を進めてはいるが、この文字の解読が進まないのがいつ、どこの文化なのか判明ができない一因ともなっている。
 小部屋の奥にはやはり祭壇があり、水色の勾玉が納められていた。それには特殊の力が込められていたようだ。
 気にはかける者も多かったが、とりわけ自分がという者もいなかった為、燐花がそれを回収する。
「何のためのものなのか、分かった方がいいのかこのままの方がいいのか……」
 勾玉に何か力があったのか。はたまた……。
(「これが最後なら、もうここに来れなくなるんかな。ちょっと残念な気もするんよ」)
 凜はちょっとだけしんみりしてしまうが、渚は勾玉をとったことで異変が起きないかどうかと周囲を見回す。それを見た凜も、懐中電灯で床の隅や天井を照らし、何かないかと確認していた。
「強力な封印に守護者、それにこのもや……一筋縄ではいかないわね」
 一息つくエメレンツィアだが、やはり気になるのはこのもや。このまま終わるには、あまりに気になりすぎる状況だ。
「この黒いもや、遺跡に封じられた何かが発してるのかな?」
 理央もそう考えるが、根拠が現状ないのだ。彼女の提案もあり、一度引き返して遺跡の中央でこのもやを小瓶へと採取する。
 空気と同じ容量で採取は用意に出来はしたが、何か他に影響を及ぼすと怖いと判断し、理央はきつく蓋をし、その部分に術符を貼り付けて研究素材として本部に提出することとする。
「どこから出ているのかな、これ」
 零はその最中、空気の流れでそれがどこから出ているかを探ろうとする。どうやら北の方から流れているように感じるのだが……。
「よーし、みんな元気に変えるよう、頑張っていくぞー!」
 禊もそう意気込むのだが、彼女が一番の重傷、絶対安静の状態である。さすがに仲間達は彼女を押し留めた。連戦もあって覚者達の疲弊は大きい。入り口まで戻ってきていたこともあり、そのまま一度覚者達は外へと出た。
「疲れた……。家帰ったら風呂入ろう」
 ようやく遺跡から出られたと、梛が深い溜息を吐く。
 目的は果たしている。日も暮れてきたこともあり、覚者達はこの日の探索をここで打ち切ることにしたのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

石人形の討伐、お疲れ様でした。
無事に勾玉の回収もできて何よりです。
MVPは初参加にもかかわらず、
率先して意見を出し、
さらに戦闘でも活躍を見せたあなたへ。

北側に何かありそうですが……。
次の探索のきっかけをお待ちくださいませ。

参加していただきまして、
ありがとうございました!




 
ここはミラーサイトです