≪百・獣・進・撃≫憤怒のミカゲ
≪百・獣・進・撃≫憤怒のミカゲ



「ゴオオオオオガアアアアアギイイイイイ!!!!」
 三つ首の巨大な狼。
 ミカゲは、この日ひどく不機嫌だった。その巨体は痛々しい傷だらけであり、相当の深手を負っている。ランク4の生物系妖が、ここまで負傷する事態とは何か。
 これは王の座を賭け。
 彼の王に挑み戦い。
 そして、いつものように敗れ去った結果を物語っている。
 戦うこと。
 喰らうこと。
 それがミカゲにとっては、全てである。
 戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って……
 喰らって喰らって喰らって喰らって喰らって喰らって……
 そして、勝ってきた。
 勝ち続けてきた。
 自分より強い者など想像すらしなかった。
 あの王に出会うまでは。
 これまで、幾度覇を唱えて牙を剥いてきたことか。もはや、数え切れぬ。数える気にもなれぬ。そのたびに、今まで築き上げてきたプライドはずたずたに砕かれた。砕かれて尚、挑むことを止める気はない。
 いつか。
 いつか、あの王を超えてみせる。
 それまでは、甘んじて下につくしかない。強者が弱者を蹂躙するのは、至極当然の権利だ。
 何とか腹の虫をぎりぎりでおさめて、手下の妖達を呼び付ける。以前に王がため、殺戮を号令したのだが。襲撃を進める一方。どうやら、その一部が人間達に迎撃されているらしい。
 何匹かは、ほうほうの態で逃げ帰ってくる始末。
 そのことが、またひどく腹立たしい。
 人間ごときに、何をてこずっているのか。
 尋常ならざる殺気が漏れ出る。
 三つ首の巨獣の憤怒に、周囲の百獣の妖達はいつまでも震え続けた。


「あれは……何?」
 いつも通りの通学時間。
 いつも通りの電車に乗っていた女子学生は、見慣れぬ影に我が眼を疑った。
 凶暴なチーターの姿をした怪物が、群れを成して自分達の乗った車両と並走しているのだ。
「ガアアアア!」
 獣達は、唸りをあげ。
 電撃を轟かせて、鉄道へと襲いかかる。車両全体が激しく揺れた。
「きゃ!」
 電車が急停止し。
 乗客達が衝撃に耐え切れず、転倒する。
 だが、真の悪夢はこれからだった。
「ば、化け物達が!」
「入ってくるぞ!」
 扉を強引にこじあけ。
 停止した車内へと、妖達が進撃する。乗客達は成す術もなく逃げ惑い。次々とその鋭い牙の餌食となって。
 悲鳴が木霊し。
 流血に染まる。
 強者たる妖達は、弱者達をことごとく蹂躙していった。


「また、夢見が奈良県内で動物系妖の事件が起こる事を予知した」
 中 恭介(nCL2000002)は、覚者達に説明を開始する。
 最近、奈良県内で動物系妖の出現が急増している。その状況を重く見たAAAからも協力要請があり、F.i.V.E.としても放っておくわけにはいかない。
「妖達は、鉄道付近に現れて走行中の車両を襲い始める」
 今回行うのは、鉄道へ攻撃を仕掛ける妖への対応だ。
 もし、妖の侵攻が進めばライフラインが奪われ、かつ妖が人里へ攻撃するのが容易になってしまう。なんとしてでも止めなくてはいけない。
「標的となってしまった電車には、300人以上の一般人が乗っている。このままでは妖に襲われて、その車両は立ち往生してしまい。多くの犠牲が出る」
 そこで、覚者達には事前にその電車に乗り込み。
 電車が停止させられたところで、乗客達を守りながら襲いかかってくる妖達を撃退して欲しい、と恭介は述べる。
「乗客達に変に細工をすると、妖達に勘付かれて逆に危険だ。君達も敵が現れるまでは、ただの客として振る舞って欲しい」
 この件には、以前も予知されたミカゲというランク4の妖が関係しているようだ。
 恭介はゆっくりと頭を振った。
「こう事件が続くとなると、これらの妖がどこからどう出現しているのか調査する必要があるかもしれないな。もちろん、上手くいくとは限らないが……出来れば君達も心に留めておいてくれ。よろしく頼む」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:睦月師走
■成功条件
1.妖の撃退
2.一般人の死傷者を50人以内に抑える
3.なし
 今回は、≪百・獣・進・撃≫という話に関連するシナリオとなります。

■妖7体
 生物系妖:ランク2
 チーターの姿をした妖。雷の技を使う。弱点は土行。
 今回は、鉄道を狙ってそこの一般人を襲い始めます。

(主な攻撃方法)
 雷牙 [攻撃] A:特近単 【痺れ】
 雷風 [攻撃] A:特遠列 【痺れ】
 雷嵐 [攻撃] A:特遠敵全

■現場
 五両の電車。乗客は各車両に散らばって約300人。
 走行中に、妖達に囲まれて停止し立ち往生してしまいます。
 覚者達はあらかじめ、この電車に客として乗り込んで停止したところで戦うことになります。電車が停止する場所の周囲には、他に人気はなく。ちょうど広い空地となります。

■ミカゲ
 ランク4:生物系妖。
 三つ首の狼の姿をした巨獣。
 詳細は不明。
 以前にも存在を予知されています。
 この事件の妖達はミカゲの命を受けて暴れている模様。

 よろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2016年06月17日

■メイン参加者 10人■

『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『天使の卵』
栗落花 渚(CL2001360)
『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)
『花屋の装甲擲弾兵』
田場 義高(CL2001151)
『スピード狂』
風祭・雷鳥(CL2000909)


(ムー……事前に教えると敵に勘付かれるトハイエ、これって何も知らない一般人の乗る電車を餌に使うって事デスヨネ? ……思う所はアリマスガ、とにかく、今は頑張って守らないとデスネ!)
 件の電車内。
 覚者達は、ばらけるように各車両で待機している。
 『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)は、出入口付近で即飛び出せるようにしていた。
(どっからどー見てもごくフツーのアゲアゲなギャルっしょ? これなら妖や一般人に怪しまれる心配一切ナシ!)
 国生 かりん(CL2001391)は右座席辺りで、一般人の客にまじっていた。
 色々と弄っている姿は、確かに違和感がない。
(んー、いい予感しない状況ってことはたしかっぽいね。そもそも何人も死なれちゃ寝覚めわるいっつーの、気合入れていきますか……というか私電車始めてかもしんないなぁ、すっとろいぜ)
 『史上最速』風祭・雷鳥(CL2000909)は、のんびり流れる風景を眺めていた。
 牧歌的な街並み……そこに、異分子が紛れ込む。
「ガアアアア!」
 凄まじい速度で近付く獣の影。
 一つ、二つ、三つ……妖達が次々と車両と並走してくる。
「鈴白さん……」
「ああ、桂木さん。こちらからも見えるよ」
 桂木・日那乃(CL2000941)と鈴白 秋人(CL2000565)は三両目で左右を見張っていた。見える範囲の妖の位置と数を確認。送受心・改で、ほかの者から教えてもらったのと合わせて。7体の妖の位置を皆に伝えて情報を共有する。
「あれは……何?」
 不審がる乗客の言葉に被さって、敵の雷撃が轟く。
 車両が大きく揺れて、急停止。
「来たか、はぁ……重い依頼だ。人の命ってのは、軽かねぇよ」
 急ブレーキがきて、『ギミックナイフ』切裂 ジャック(CL2001403)はため息を吐く。
 外にはチーターの姿をした妖達。パニックになる車内の、窓の隙間から身を躍りだす。
「大丈夫全員守るさ。俺らFiVEって言うん。生きとったら、覚えといて」
 降りたら窓を閉めるように指示して、敵へと向かう。
 それは、他の者も同じだ。
「F.i.V.E.だよ。今から妖と戦闘をするから安全になるまで外に出ず、戸締り、身を低くしながら待っててね」
 『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)は、乗客に注意を呼びかけて外へ。機化硬を使用してから、最寄りの敵のブロックにあたる。
「ちょっと帰宅の邪魔をするやつを退治してくるから、全員、電車から降りねぇで車内にいてくれ」
「わたし達が外の怪異を解決します。みなさんも落ち着いて、動いてください。怪我しちゃいけないですよ」
 五両目にいた『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)と『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)は、パニックで騒然となっている間に覚醒。
 義高は一喝して客を制し。
 物質透過で車外に出て右側の敵に接敵。
「死ぬ覚悟が出来たんならはじめようや、こっちも早く乗客を送ってやんなきゃいけねぇンでな」
「グルルル!」
 ギュスターブを頭上で振り回して構え。
 チーターの一匹を威嚇した。
「危ないですから、車内にいてくださいね」
 結鹿の方はドアを手動で開けて、左側の敵に向かう。
 開けた扉は閉めておくのも忘れない。
「あなたが電車に何らかの恨みがあるようには思えませんが、あえて襲う理由はなんですか? あなたを倒したら答えてもらいますよ」
 蒼龍を抜いて、構える。
 こちらにも牙を剥く妖が一体。真正面から対峙する。
「もっとも、あなたが牙王、ミカゲにくみしてるだろうことくらいは承知してるんですけどね」
「ガァアア!」
 雷を宿した敵の牙が、襲いかかる。
 覚者達は、それぞれの相手を抑えた。
(桂木からの情報を頼りに、最短で接触できる敵へ向かう)
 襲ってきた妖へは、自分たちFiVEの覚者が対応する。
 自分たちが妖撃退の為に外に出たら、扉や窓は確実に閉めること。
 車両自体が盾となるので、決して外に出ないこと。
 それらを周囲に伝えて、葦原 赤貴(CL2001019)は、敵影へと隆神槍で速攻をかける。
「痺れは厄介なので、先にこちらが痺れさせるしかあるまい」
 敵の弱点は土行。
 巨大な岩槍が隆起する。雷を放とうとした妖は、機先を制されて四肢を硬直させた。
「しっかり助けたげるから、おとなしくしててね、なーに、心配はいらんよ、今対応してるのは確かなプロ、加えて私はあらゆる速さに定評のある女、怯える間もなく終わらせるつもりでいくから、皆さんはしっかり隠れててね、くれぐれも安全が確保できるまで外にでないよーにね」
 一声かけてから。
 雷鳥は韋駄天足で、手薄な場所へと駆けつける。
「先手はとらせてもらうよ」
「っ!」
 問答無用で飛燕を決め。
 その後は基本的に相手の死角に回りながらどんどん攻めていく。
「俺達ファイヴが外で敵から守るので、落ち着いて中で。姿勢を低くして、俺達以外は絶対に車外へは出ないようにしてください」
 秋人は車内に居る乗客達がパニックを起こして決して外へ出ない様に、車掌とも協力して、注意を呼び掛けてから物質透過で外へ出る。
 第六感をフル活用。
 まずは、超純水を自分自身に掛ける。
「フフ、チョット今回から守りのリーネになりマシタネ! さぁ、頑張って守ってみせマスネ!」
 新調した盾を掲げ。
 リーネも前衛として飛び出して、電車に近付く敵を抑える。明るく優しい直情タイプの外国人である彼女にとっては、仲間、乗客、共に大事だ。
「アタシは一般人のほう担当~。なーんか急がしそうでビンボークジっぽい役回りだけど……ま、緊急時だししゃーないか! やっちゃるよ」
 味方が出入口を封鎖して味方が敵を足止めしている間。
 かりんは妖ぶっ倒すまで大人しくしてろっ、と言い聞かせていた。マイナスイオンを使って、動転している者達の気を少しでも紛らわす。
「どいてくれ! 化け物どもがすぐそこに!」
「ま、どーしても逃げたいって聞かないヤツはせめてなるべく妖のいない車両に誘導すんよー」
 騒ぐ一般人をさばく。
 他にも。
 外の敵が、もし何かの間違いで入ってきたり。
 窓とか天井とか思わぬ場所から突っ込んできたりするかもしれない。
 用心は幾重にも重ねておく。
「わたしたちFiVEで、妖の対処するから。そのまま電車の中で小さくなって。妖に見つからないように隠れてて」
 送受信・改も使って乗客達に言ってから、日那乃は電車の外に出る。
 妖のいない側の扉をあけて出て、すぐに閉める。
 飛行で飛び上がると、三両目の辺りからスキルも使って戦況を把握し。回復が必要なところを見極めた。


(どこまでやれるか知らん。だがやらなんだ人が死ぬ。なら選択肢は俺らには無い)
 ジャックは右目の眼帯を外し。
 開眼、覚醒する。
(戦いたくねぇし。痛いのいやだし。だが人が死ぬのはもっといやだ)
 破眼光を放ち。
 懸命に声を張り上げた。
「戦えないやつは俺らに敵がどこにいるか、どこが手薄か教えてほしい。
 ぶっちゃけ俺らFiVE10人だけじゃ全員は守れない。
 なら、ここにいる全員で、戦おうじゃねえか!!
 泣いてもいい、怖がってもいい。
 だが、死ぬな!!
 生きることに全力になれ!
 もっと躍起に、自分を守れ!
 動けないやつがいたら、手を差し伸べてやれ!
 全員で戦うんだ。
 全員で生き延びるんだ」
 容赦なく、妖は飛び込んでくる。
 覚者は直撃を受けながらも、退かずに叫ぶ。
「そのためには、協力が必要だ――頼む!」
 その一声は。
 かりんがちょうどマイナスイオンを使っていたこともあり。多くの耳にとまる。秩序を失っていた者達も、思わず騒ぐのを止めた。
 この異常な状況において、車内は冷静さを取り戻しつつあった。
 蒙を拓かれたように、余裕のある者は動けない者に手を貸し始める。急行した日那乃から回復を受けつつ、ジャックはその光景をしかと目にする。
「少しはハンデくださいね」
「オオオオ!」
 結鹿は蔵王・戒、紫鋼塞で守備を固め。
 纏霧や迷霧で、敵の弱体化を図っていた。敵との距離が離れると――
「そこはわたしの領域ですよ」
 氷巖華で攻撃。
 貫通力のある鋭利な氷柱が、妖へと突き刺さる。
「やるからには、犠牲者0人を目指す」
 秋人はB.O.T.の弾幕を張る。
 何も知らない、関係の無い人達が犠牲になるのは阻止したいから。それに、回復役が少なそうに感じたから、自分の力で役に立つなら……とも思って。
 そんな思いで、彼はここに立っている。
 目の前の敵と戦いながら、メンバーの疲労具合を見て誰も倒れないよう気を配る。
「フフン、しかしチーターね、しかも雷のおまけつきとはコリャ中々はやそうね」
「ゴオオオ!」
 妖の雷を纏った風が迫る。 
 雷鳥は俊敏な動きで、集中しながらそれを躱し。
「でーもー、この史上最速の女風祭雷鳥さんとどっちがはやいかな?」
 距離と一気に詰め。
 目にも止まらぬ二連撃を叩きこむ。超スピードの応酬。その中で先手先手を打ち。覚者の中で、このランク2に速度で完勝しているのは彼女だけだ。
「ランク2の妖がこんなに……絶対乗客のところには行かせないよ!」
 中学女子制服の渚は、赤十字の腕章を揺らし。
 烈波で注意をひきつつ、仲間との合流を目指す……ただ、軽傷を負ったままの身体がまだ重い。
(いつもより無理が利かないけど、それでも!)
 自分にやるべきことを。
 癒力活性で気の流れを活性化させ、傷付いた味方へと回復とリカバーを行う。
(能力上、自分は前衛でも最も負荷が低いひとりであると言える)
 赤貴は、土行の技で敵を押し続け。
 激化する戦況を分析する。
 ランク2を1人で引き受けるのは全員厳しいはず、極力援護は要請しない。
(つまり、オレはひとりでコイツを殺して、他の助けにまわらなければならない)
 再三にわたる隆神槍の攻撃。
 その度に敵は、大打撃を受けてダメージを蓄積する。
「ゴオオ……オオオ!」
 最後のあがきである雷の嵐を強引に潜り抜け、赤貴は大剣を一閃。妖の身体は見事に両断され、一番最初の勝ち星をあげてのける。
「そう、殺して、走って、また殺して、殺して、殺す」
 送受心だけに頼らず、鋭聴力も使用し、より早く次に向かうべき場所を判断。
 合流を急ぎ、接触ぎりぎりまで韋駄天足。
 一撃受けるくらいは許容だ。
「おらっ、喰らいやがれ」
 醒の炎、蔵王、蒼鋼壁で守備固めをした義高は。
 土行を苦手にしている敵に、そのまま渾身の隆槍を見舞う。
「オオ!」
 敵が怯んだところは見逃さず。
 ギュスターブで追い討ちをかける。
「喰らいつけギュスターブ、おまえの牙は何者をも打ち砕く」
 鰐の歯の如き刃。
 それが力一杯に、重量と速度をもって威力を発揮する。覚者が一撃を加えると、敵も負けじと雷の牙で反撃してくる。そんな決死の攻防が続き――そこに駆け付けた赤貴による隆神槍での援護が入る。
「!?」
 予想していなかった方向からの土行の技に、妖は完全に意表を突かれ。
 義高は手にした斧を振り降ろす。文字通り、敵の肉体は打ち砕かれて大地へ倒れた。
「おまえは強かった、だが俺はそれより強かったってことさ。おまえらが誰に義理立てしてるかわかんねぇが、そいつもいずれこいつの手にかかるだろうさ」
 多くの傷を負った身体で、ギュスターブを掲げ。
 勝利を宣言した義高は、向こうのリアクションを見る。
「ミ……カゲ……」
 それだけ呟き。
 妖は力尽きる。義高だけでなく、赤貴もしかと今際の言葉を聞く。
「ミカゲ……そいつも牙王の配下か? よくも群れたものだ」
 頭を振り。
 二人の覚者は、次なる標的を目指した。
「誰一人トシテ、傷付けさせマセン! 私の後ろには行かせマセンネ!!」
 リーネの基本戦術は、とにかく守りを固めること。
 敵の攻撃を盾で止め、紫鋼塞で反射をさせる。蔵王・戒で守りを更に上げた鉄壁具合は、さすがの妖も攻めあぐねた。
「グ……グルル!」
「絶対に、守るのデース!」
 まさに皆を守る盾。
 電車を狙う妖を、決して通さず。敵は攻撃するたびに、自身もダメージを負い。更に隆槍で攻め立てる。この我慢比べに、ついにリーネは勝利した。
 妖の身体が消滅し、周囲の安全を確かめる。
「援護に向かいマスネ!」
 味方の情報や指示を聞いて、彼女もすぐに動き出す。
 土行を使って弱点を突いた面子が、順調に勝ち進み味方に合流する一方。覚者側の消耗も激しい。
「被害者が出るなら消す」
 そこを日那乃は適宜、回復のスキルを使って戦線を支えた。
 守りが薄い箇所、そして痺れを受けた者のところに赴いてそれを癒す。
(こんどは鉄道壊すのと、ひとを襲うの両方? 鉄道、襲わせるのは、牙王っていう妖?)
 戦闘の間も疑問が頭に浮かぶ。
 実は彼女は、今回一つ試したいことがあった。が、今は目の前のことだ。
「妖が来たっしょ! 下から!」
 車内で避難を行っていた、かりんの声が響く。
 長く伸びきった戦列の隙を突き。混戦を上手く抜けた一匹の妖が、車体の下へと辿り着き。床を破壊して侵入してきたのだ。
「ブオオオオ!」
「ガンガン攻撃してくよー」
 かりんの火炎弾が、チーターへと飛ぶ。
 ブロックして乗客を他の車両に移しながら、とにかく時間を稼いだ。
「この妖どもなんつーかヤケに禍々しいやる気に満ちてね? たまに電車で見かける残業帰りの社畜リーマンと同じような目してっしさー」
 近付いて何度も炎撃を浴びせる。
 火傷だらけになっても、妖の殺気は衰えず。雷撃が唸りをあげる。
「ふざけんなよ、妖風情が。あんま人間様舐めてんじゃねえ。例え力がなくとも。例え死にそうでも――生きたい願いは必ず勝つんだっつーの!」
 一般人の中に覚者がいれば、協力を要請。
 ジャックが車内に戻って、破眼光を全力で放つ。それでも、敵の勢いはまだまだ落ちないが――
「――絶対に、犠牲者は出しちゃいけないから」
 間一髪。
 飛び込んできた秋人が、身を呈して一般人と味方を守る。癒しの滴と潤しの雨で回復を施し、誰も倒れさせない意志を示す。
「いま、加勢する」
「行きマスネ!」
 行く手を阻まれた妖は、狭い車内で上手く動き回ることができず。
 その隙に、義高、リーネ、赤貴が合流を果たし。挟み撃ちをする形を作った。三人の土行の技が、炸裂して一気に形勢は覚者側へと傾く。
「――」
 無言のまま。
 赤貴の放った、隆神槍が敵を真っ直ぐに貫く。それが致命打となり。車内に潜りこんだ敵は、声をあげる暇もなく絶命した。
 覚者達も、一般人達も、息をつく。
 ……それからの車外での戦闘は、次第に総力戦の態を成していった。残りの敵は三体。それらと、覚者達全員が一か所に集まってぶつかり合う。
「牽制しますね」
 結鹿が蒼龍の斬撃を閃かせ。
 合間合間に岩砕で、粉砕された岩を降り注がせる。妖達はそれを嫌がるように、毛を逆立てて動きを固くした。
「ダアアアア!」
 破れかぶれ気味に。
 獣の妖達が、雷の雨嵐を降らせる。その威力は決して、油断できるものではない。
「痺れになったら――」
「すぐに回復させるよ」
「早めに治す、ね」
 雷鳥が演舞・舞衣で浄化物質を周囲に集める。渚は命力翼賛によっ生命力の光の鳥を飛ばした。日那乃も仲間が受けたバッドステータスをカバーする。
「大詰めだね」
 秋人が薄氷で鋭角な氷の塊を飛ばし。
 水龍牙により水の竜を形作り、列ごと敵を薙ぎ倒す。
「敵が遠けりゃこれで!」
 手に火球を浮かせ。
 そのまま、かりんの火炎弾が火を吹く。火の粉が舞い、戦場はますます熱さを増す。
「連携して体力少ないやつから倒す」
 未だに炎に包まれた妖へ狙いを定め。
 第三の眼からジャックは光を放つ。呪いをもたらす光線が、敵の動きの自由を奪う。
「ウ、ウオオオ!」
「来マシタネ!」
 手負いの妖の一撃を、リーネの固い盾が防ぎ。
 逆に反射してダメージを与える。更にシールドの陰から隆槍を発動。大地の槍が隆起し、チーターを串刺しにして――また一体が倒れる。
「あと二体」
「このまま片付ける」
 土行を使って攻め、赤貴が大剣を振るう。
 義高は大きくギュスターブを振りかざして、怒涛の勢いの刃で相手を削りとる。
「ッツ!!」
「隙あり、だね」
 味方の攻撃に気を取られた個体の死角に、素早く回り込み。
 鋭い二連撃を雷鳥が絶妙なタイミングで叩きこむ。そのスピードに、妖もついていくことができず。ランスの餌食となった。
「これで終わりだよ!」
 最後の一体に、渚の巨大注射器が打突する。
 大きく身体を揺らす妖に、結鹿の蒼龍が突き付けられた。
「さて、わたしたちが勝ちましたから答えてもらいますよ。牙王、ミカゲはいずこにいるのですか? 敗者たるあなたに黙秘権はないですよ」
 もう既に、敵に戦う余力はない。
 妖は残りの力を振り絞って――踵を返して逃亡した。 

「……以心を試してみるよ、何か掴めりゃいいね」
 雷鳥は手近に倒れた一体へと触れる。
 すると――
(逃げ……ミカゲ……の……元へ……報せ……)
 そこで妖の意識は途切れた。
 覚者達は、決着がついた戦場を見渡し。一般人の無事を確かめ、何か情報がないか見て回る。 
(喝采も好意も評価もないのは知っている)
 赤貴はミカゲの存在を警戒し。
 人が捌けていくなか、微量でも何かないかとストイックに調査を行う。
「あれを追いかけられたら。妖、どこから来るかわかる?」
 翼を羽ばたかせて。
 逃げた敵を、空から日那乃は追う。
 懸命に獣の影を追尾し――やがて小さくなった敵影を見失う。その方角を、翼人の覚者はじっと見やった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 今回は、一般人の怪我人が20人(パニックの中での負傷含む)、死者はゼロ。妖は一体が逃亡、他は討伐という結果になりました。

 色々あって、ミカゲは機嫌が悪いようです。多分、今回の結果を知ったら、更に機嫌の悪さが加速することでしょう。もし、ミカゲと覚者が相対することがあったとしたら。そのときは、怒りにまかせて今までの鬱憤をぶつけてくるかもしれません。いや、まだ分かりませんが。

 ご参加ありがとうございました。




 
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