絵本妖『一匹しかいない三匹の子ブタ』
絵本妖『一匹しかいない三匹の子ブタ』




「みんな、この絵本は知ってるな?」
 久方 相馬(nCL2000004)が示したのは、『三匹の子ブタ』。三兄弟の子ブタが家を出て、それぞれの手で自分の家を作るお話である。
「今回はこれが妖になって、子ブタが家を作っては狼に壊されるって夢を見た」
 ここだけ聞けばさほど危険性もないように聞こえるが、そんな甘い話じゃないことが相馬の表情から察せられる。
「こいつ、町はずれの空き地に現れるから最初は問題ないんだけど、近くを通りすがった人を取り込んで、狼役にあてるんだ。すると、物語の強制力に当てられて、狼が家を吹き飛ばす。それが本人の意思とは関係なく続けられて、いつかは疲れ切って死んでしまうんだ」
 そんな話だっけ? と首を傾げる一同に、相馬が続ける。
「絵本が妖化した原因が、子どもにページを破られて、さっさと捨てられたからなんだ。そのせいで物語は中途半端になってて、長男がわらの家を作っては逃げて、作っては逃げてを繰り返す」
 地図を広げて、相馬は最初に妖が現れる場所を示した。
「皆にはここで、一般人が取り込まれる前に飛び込んで、物語の狼に成り代わってほしい。その後は手段は問わずに藁の家を壊して、逃げる子ブタを追って、撃破すればいい。ただ、さっき言った通り物語は中途半端だから、ある程度逃がしちゃうとまた藁の家を壊すところからやり直しだ」
 それじゃ頼むぜ? と言わんばかりに相馬は笑って見せるのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:残念矜持郎
■成功条件
1.三匹の子ブタ(長男)の撃破
2.一般人が取り込まれる前に決着をつける
3.なし
●現場状況

現在運用予定のない空き地

昼間ですが、人通りは少なく、依頼に支障はないでしょう

しかし、あまり長引かせると危険かもしれません

絵本の中は広い謎の空間で、絵本の背景のようなシンプルな空間です

●三匹の子ブタ(長男):物質系妖・ランク2

藁で叩く(物、近単)
藁の家を作る(何故かちょっと回復する)

●STより
皆さんには悪役になりきって家を壊す狼になってもらう必要があります。ただし、その方法は別に吐息でなくても構いません。お好きなように破壊して、逃げ出す子ブタを追いかけて、あとはやっつけるのです。なお、子ブタは何故か、割と頑張っておうちを建てています
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2016年06月14日

■メイン参加者 6人■

『見守り続ける者』
魂行 輪廻(CL2000534)
『田中と書いてシャイニングと読む』
ゆかり・シャイニング(CL2001288)
『赤ずきん』
坂上・御羽(CL2001318)

●やっぱただの本じゃないよね
「絵本が妖化、なるほど中々変わった相手ねん。無害そうに見えるけど被害が出るみたいだからしっかり倒さないとねん」
 いかにも仕事に対する使命感っぽい事を口にする『ドキドキお姉さん』魂行・輪廻(CL2000534) だが、フフッと意味深に微笑んだ。
「ちょーっと新技と新しい武器のテストもしてみたいし、ねん♪」
 明らかにこっちが本音である。そんな彼女とは逆に、使命感通り越して義務感背負ってそうな『スマイル押し売り中!』ゆかり・シャイニング(CL2001288) は燃えていた。
「長男だけの『三匹のこぶた』なんて、未完成のトリオ漫才みたいなもんじゃないですか! ゆかりたちが渾身の技でどつき倒して、みんなの笑顔を守ってみせます!」
「絵本の中に入れるってこと自体はすごく夢のあることだと思うんだ。でも、危ないのはいけないよね。やっぱ」
 うんうん、と頷いて自己確認する『天使の卵』栗落花・渚(CL2001360) の傍ら、うー……と唸る『赤ずきん』坂上・御羽(CL2001318) 。
「ダメです、動かないのです……」
 しばらく念力で動かそうとしていた御羽だが、相手はやはり既に妖化した存在。その場からビクともしないし、ページすらめくれず、彼女はぷくっと頬を膨らませた。
「子どものコロにチョッと読んだだけダケの本ガ妖にナルなんて驚きダネ、こう言ウ事なら大事にシナきゃ」
 動かせないのなら、とユディウ・オムニス(CL2001365) が一足先に本へ歩み寄ると、途中で消えてしまった。その様子を確認した『ギミックナイフ』切裂・ジャック(CL2001403) はただならぬ事態を前に、まるで遊園地を前にした子どものように笑う。
「田舎にこもりっぱなしだったが、こういう世界を期待していたんだ! さぁて続こうぜ!」
 そのまま走り出して彼も姿を消す。
「よーし、ゆかり、いっきまーす!!」
 かくして、続いていく一行が飛び込んだ世界はクレヨンで塗られたいかにも絵本という様相を……というわけでもなく、広大な草原の中だった。
「絵本の世界って、想像と全然違いますね~。もっと、コントの書き割りみたいなのが並んでるイメージでし……あだっ!?」
 周りを見回していたゆかりがフラフラと歩き始めると、すぐに見えない壁にぶつかってしまう。前髪を束ねて見せていたおでこをさすり、パントマイムのようにそこを撫でるゆかり。
「進めないダロウ? どうやら、ぼくたちは出番ガ来るまでここを離れられないミタイなんだ」
 ユディウが示したのは、せっせせっせと、藁の束を重ねてはまとめ、重ねてはまとめ、額の汗を拭う一匹の子豚だった。二足歩行だったり、前脚の先が蹄ではなく普通に手だったりするあたり、彼が長男子ブタだろう。
「これから壊すのは心が痛むな。けどそれでも、他の誰かが永遠に続く遊びに付き合わされるよりは、ここで終わらせないといけなんだぜ」
 自分に言い聞かせるジャックだが、心に効くもんは効く。頑張って作って、度々進捗状況を眺めては満面の笑顔でまた頑張る子ブタ。その努力の結晶を踏みにじった上で子ブタ本人も討伐するのが今回のお仕事である。
「絵本の悪役になりきって、子豚ちゃんを追い詰めれば良いのよねん? こうゆうノリって割と好きよん♪」
 自分たちの成すべきことを確認する輪廻。その表情は、実に楽しそうな笑顔だったという。

●狼の旦那たち!出番ですぜ!!
「見~つけた♪ 私の晩御飯ちゃん♪ さぁ、子豚ちゃんは出荷よ~♪」
 藁の家が完成して子ブタが中に入ると一行は解放され、家に近づくことができた。そして輪廻の第一声がこれである。絵本の中である故だろうか、家ごとビクゥ! と怯えたように跳ねた。
「変、身! とぉう!!」
 空中でクルクルと回転しながらカッ! と激しい光を放つゆかり。着地と同時に、ビシッとキメポーズ。
「ゆかりシャイニング! 見参!」
 ……特に外見は変わってないってツッコミはなしでいこうか。ほら、あれだよ、覚醒して第三の目が開いてるんだよ。
「貴女、ちょっと変わった名前ねぇ。流石に本名では無いでしょう?」
「え、あ、はい。芸名みたいなものと言いますか……」
「本当は一体何て名前なのかしらん?」
「田中ですが……」
「ということは、あなたは田中と書いてシャイニングと読んじゃう系女の子なのねん?」
「違いますよ!?」
 外でどんちゃかやってる間に子ブタは家の中で震えていた。布団代わりの藁からほんの少し顔を見せた瞬間、横顔を怪光線が掠めて微かに焼けた。彼の前に仁王立ちしていたそれは狼……
「豚。そのおうちを明け渡しなさい。この赤ずきんが、もらい受けるわ」
 じゃない!? いきなり風穴開けたドアを踏み倒して御羽が踏み込む。真っ赤なワンピースで両手に鉈持った虚ろ目な女の子が笑ってる……もはや赤ずきんですらないような気もするけど、多分気にしたら負けだ、そんな気がする。
「さあ!! ひれ伏すがいい。続きが欲しいのなら、共に世界を創りましょう!!」
 鉈を持った手を口元に添えて高笑いする魔王染みた赤ずきんに、子ブタは全力で逃走を図るべく窓へと走るが……にょきっと、緑の髪の少女が生えた。
「寝起きドッキリ早朝バズーカです!」
 かーらーの、第三の目からビーム! 至近距離で焼かれて頭がコンガリ仕上がった子ブタがのたうちまわり、その隙にジャックとユディウが壁代わりの藁を蹴り飛ばして家を潰してしまう。落ちて来た天井に潰された子ブタが藁から頭を出すと、輪廻が見下ろしていた。
「豚カツとステーキ、どちらが美味しいかしらねぇ♪」
 舌を艶めかしく唇に這わせて、見下ろす彼女に狼的な何かを感じた子ブタは慌てて飛び出す。その先に立ちはだかるのは、田中と書いてシャイニングとしちゃう系女子、ゆかり。
「どこへ行こうと言うのかね? あっ、関係ないけどゆかりの得意料理は豚のしょうが焼きです!」
 ボッと炎を纏った両手を広げてカバディしてるゆかりに、フライパンを手にした狼的な物を幻視した子ブタはまたも逃げる。その先にいたのは、鉈構えた赤ずきん。
「さぁ、選ぶがいい。我らが夕食となるか、夕餉となるか……」
 二人に合わせて食ってやるー的なノリの御羽。覚醒中とあって別人染みた彼女の姿をナイフとフォーク構えてナプキンつけた狼の姿と錯覚した子ブタは慌ててUターン。次に向き合ったのは中学の制服に赤十字の腕章を付けた、保健委員っぽい女の子。両手を丸めて、顔の横に挙げ、ちょっと前かがみに。
「が、がおー……」
 子ブタに縋りつかれ、複雑な表情の渚。
「うーん。私にはまだ狼力が足りてないみたい」
 足りてないっていうか、他の面子がすごいを通り越して酷いだけだと思うよ?
「おーい、すまんなあ。お前んちすげー頑張って作ったんだろうけど……」
 相手がようやく動きを止めたことで、ジャックが語りかけた。

●たとえ、意味なんてなくっても
「豚さんが、もしかしたら続きがほしい本能で人を巻き込むのかもしれん。それとは別に、寂しいからとか、兄弟が帰ってきてほしいとか、そういうところでこんなことになったかもしれへんけど、やっぱり豚さん。あんた、人間の脅威になったらあかん」
 できれば戦いたくない。その本音が込められた故か、口調が少し違うジャックの語りに子ブタは言葉は理解できても、自分が何を言われているのかが理解できていないようだった。
「……そっか、そうなるよな」
 彼はあくまでも、『登場人物』でしかなく、所詮は低級の妖。会話など、できないのだ。本来の筋書きに沿って、輪のようにつながったレールの上をただ走り続けるだけの、列車のようなモノ。何を語ろうと、意味などない。それを悟ったジャックは、空を見上げる。外側の、『本体』に届くように。
「絵本てのはさ、楽しいもんやん? 俺等がまた、続きをつづるから、全て元通りにするから」
 救えぬのなら、仕留める他ない。覚悟を決めたジャックの第三の目が淡い光を放ち始める。
「さぁ、さっさとケリをつけようぜ!」
 自らを奮い立たせるように、元の言葉遣いで光条を放つ。その力は滅するためでなく、子どもたちに笑顔を届けさせるために、絵本の本来の役割へと還ってもらうために。怪光線に焼かれ、子ブタが転がった隙に渚は自身の体内の因子の力を引き出し、肉体にその力を顕現させることで一時的に硬化。自らの体をより強固な物へと作り変えて子ブタの反撃に備えた。
「逃がさず一回で仕留めますよ! 戦いに天丼はいらないんです!」
「そうダネ。長引かせると、外の方に誰カ来てシマウかもしれないし」
 ゆかりとユディウが子ブタを挟むように立ち、それぞれの第三の目を構えて……ビーム!
「何度も繰り返シをやってたんジャ、わたしたちも限界ニ達してシマウよね。このまま押し切ってシマオウ」
「そうね! 子ブタ一匹にこれ以上割くような時間はないわ!!」
 こうしている間にも、誰か来てしまうかもしれない。この子ブタを救うには、早急に決着をつけるべきかもしれない。様々な想いが渦巻き、御羽の小さな胸は締め付けられるように痛むが、今は悪役を演じ切る。絵本の世界という小さな舞台の中、皆が笑って終われるハッピーエンド目指して、彼女は踊り続ける。演目は、悪の狼……もはや狼っていうより、魔王っぽいのはツッコんじゃだめだゾ!
「ほらほらもっと踊りなさい!?」
 御羽も加わり、第三の目から新たな光が放たれる。計三本の光に焼かれてプスプスと煙を上げる子ブタ……何人第三の目からビーム撃ってんだ!? 軽くチャーシューになりかけている子ブタは手近にあった藁を掴むと、思いっ切り殴りかかってくる。それをジャックは防御もせずに、受け止めるように直撃させた。
「駄目だ、傷つける絵本になっては。あんたは笑顔を運ぶために、生まれてきたんやろ?」
 語りかけても、何も変わらない。それでもいい、これはワガママだ。頭では何の意味もないと分かっている。それでも、信じてみたくなるのだ。もしかしたら、分かってくれるのではないかと。
「さぁて、どうなるかしらねぇ……」
 輪廻がスラリと構えたそれは、より速く、より鋭い一撃を求めて研ぎ澄まされた得物。抜き身の刃を構えて、スッと流れるように子ブタの懐へ踏み込む。
「バラ、肩、モモにロース……しっかり解体してあげるわねん」
 冗談めかした微笑みと共に、翻った光は一つ。駆けた斬痕は三つ。一瞬の間に、三度斬られた子ブタは倒れ伏し、塵と化して風に吹かれて消えていった。
「だいっしょーりっ!!」
 ビシッと一人でキメポーズするゆかりの背後で五色の爆炎が上がる!
「……あり?」
 きょろきょろと左右を見て、ボッチポーズと気づいたゆかり。
「み、皆さん!?」
「ははっ、突然だったからネ。一人でもショウガないさ。カッコよかったよ?」
 ユディウが慰めるように微笑み、彼女の肩をポンと叩く輪廻。
「輝いてたわよん。シャイニングだけにねん」
「それは私に言わせてくださいよぉおおお!?」
 名前という、ある意味持ちネタとも言えるものを輪廻に奪われた? ゆかりの叫びが響き、一同の姿は少しずつ色を失っていった。

●失くしたものは、作ればいい
「ほら、もうこんなこと繰り返さなくていいんだよ。子ブタさんも疲れたよね。ゆっくり休んで」
 絵本の世界から帰還した渚は、近くに落ちていた絵本をそっと撫でた。中盤辺りから先が引き千切られてなくなっている本を開き、その最後の、藁の家が吹き飛ばされるページを開いた。
「結構なくなってる……そっか、続きがなくて、ここでループしてたんだね」
「ないんだったら、描くしかないよな!」
「続きを描くのです!」
 ニカッと笑うジャックに、御羽が画用紙とクレヨンを取り出した。
「無ければほら、作ってしまえばいいのです!」
 ぐりぐりーっと太陽を描いて、草原を描いて、壊れた藁の家を描いて……御羽が物語の続きを描く傍らで、ジャックもクレヨンを握った時だ。
「あら、皆でお絵かきするのねん?」
 ふにょん。
「あ、あの、輪廻サン……?」
「あら、なにかしらん?」
 背中で形を変える柔らかな感触に、ジャックの口調もぎこちなくなる。その様子が面白いのか、輪廻が抱き着く腕に力をいれてその柔らかみが、ていうかぶっちゃけ胸が更に押し当てられた。
「えと、あの、そのデスネ?」
 まさか「当たってます」とは言えなくて、ユディウのような話し方になってしまうジャックを眺めて、輪廻はクスクスと微笑むのだった。
「できたのですよ!」
「こんな感じかな?」
 ジャックが悶々としている間に御羽と渚により絵本の続きが完成。それをユディウが覗き込む。
「うん、いいンじゃないカナ? 昔読んだモノとはずいぶん違うケド、これはこれで味がアッていいと思ウヨ」
 ユディウが微笑みながらそっと閉じたのは、子どもの描いたような可愛らしい絵と、プロが描いたようなクオリティだが家具などの細かい所にやたらディテールがあったり、服装が一々ハイクオリティだったりして無駄にファンシーなイラストで綴られた、『三匹の子ブタ』だった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『田中と書いてシャイニングと読む』
取得者:ゆかり・シャイニング(CL2001288)
特殊成果
なし




 
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