ピクシーダンスと無限樹の遺跡
【Pixie】ピクシーダンスと無限樹の遺跡


●ピクシー(名前多数)の主張
 『針の上で天使は何人踊れるか』という中世の天使論があり、それになぞらえて『針の上で妖精は何人踊れるか』という議論がある。
 かなり遊び要素の多いディベート論争ではあったものの、色々な考え方が存在したという。が、今現在はこう結論づけておこう。
「一人も踊れない。なぜなら御菓子さんが手のひらに乗せて譲らないからじゃ」
 テンションが上がりすぎてもう訳が分からなくなっている御菓子を眺めつつ、樹香はクッキーをせんべいみたく囓った。
 無事ピクシーとの邂逅(?)を果たした彼女たちは、一旦ピクシーの家まで戻ることになった。
 家と言っても森の奥にある無数の木のうろのなかのひとつという、宝探しレベルの分かりづらさで存在していた。更にこの家には『迷子になるおまじない』なるものがかけられていて、案内無しではたどり着けないともいう。
 そんなもんだから、人間を何人も連れてきた事態にじーちゃんは『ヒャアア人間じゃああ! 喰わないでぇー!』と言って慌てふためいた。
 話しかけようにも一言発した瞬間『ヒエー』と言うので会話にならず、仕方ないので高い木の枝に腰掛けてお話することにした。
 以上、これまでのおさらいである。
「この地図が確かだとするなら、『無限樹の遺跡』へたどり着くのは難しくなさそうですね」
「地形もさして変わっていませんし、なんなら空から確認すればすぐです」
 理央と澄香が隔者たちから手に入れた地図を覗き込んでいる。
 結唯は黙っていて何を考えているのかよくわからない。
 腕組みするゲイル。
「当時はそれでも充分隠したつもりだったんだろう。空を飛べる奴などいなかったからな」
「そういえば……よ、妖精さんは、お空を飛べるん、だよね?」
 ミュエルの問いかけに、御菓子の手のひらの上でエンドレスワルツしていたピクシーが振り向いた。
「お日様か月の光があれば雲より下まで浮かべるよ。でも遺跡の場所まで行くのは体力が持たないかなー」
「じゃあ、人と妖精が協力すればたどり着けますよね! コクリコちゃんの言ったとおり、『人と妖精が友達だった頃の遺跡』なんですねー! きゃー!」
 きゃーとまで言うか。
 まあそこまで分かっていれば不安は無い。
 彼女たちは早速『無限樹の遺跡』を目指すことにした。
 (ちなみに空からの確認は澄香に任せてピクシーは楽をした)

「ここが無限樹の遺跡……」
 印の付いた場所は、まさかの池だった。
 それも金持ちの庭についているくらいの小さな池である。
「無限樹っていうくらいですから木ですよね。この下に木が沈んでいるとか?」
「ちっちゃな木なんじゃな、むげんじゅ」
 そう呟く樹香たちに、ピクシーは真顔で言った。
「飛び込むよ」
「「……」」
 いや、それしか方法はないとは分かっていたが。
 仕方ない。理央たちは鼻をつまんでぴょんと池に飛び込んだ。
 ……。
 ……。
 途端、彼女たちは巨大な樹木の前にいた。
 高さが何メートルあるのか。測定すらできないくらいに聳え立つ大樹である。
「わ、ワープゲート!」
 ゲイルの目がカッと輝いた。
 なんかすごいからである。
「ちがうよーう。池の裏側にあるんだよー」
「うら……がわ……?」
 咄嗟にノートを取り出し、図解するゲイル。
 池の水面を境に、上下反転して自分たちが存在している図である。
「つまりこういうことか!」
「そういうことだ!」
「そうか!」
「素敵ですね!」
 御菓子がまたハアハアしはじめた。今日の御菓子はどうかしちゃっている。
「まずは……遺跡にはいろ? 何か分かるはずだから」
 そして彼女たちは……。

 中略。
 落とし穴だらけの床を天井に書かれた文字通りに進んだり、転がってくる岩をよけたり、松明を順番通りにつけたり、巨大石版に指定通りのポーズではまったり、そういう罠をミュエルや結唯たちは沢山突破した。
 指定の文字はピクシーの文字で書かれており、それを解読したりポーズに参加したりと、人とピクシーの協力が不可欠な仕掛けが満載だった。
「はあ、はあ、ここが最後の部屋ですね」
「ここまでの活躍、まさかカットされませんよね」
「はははまさか」
 顔を見合わせ、最後の扉を開く。
 そこにはなんと……!

『よくぞここまでたどり着いた。最後の試練だ!
 中央の台座で妖精が踊り続ける間、この部屋は無限樹の頂上まで登っていくぞ!
 しかし妖精が踊るにはそのための音楽と手拍子が必要だ!
 更に、頂上に登るまでの間に遺跡に仕掛けたゴーレムが踊りを邪魔するべく襲いかかるだろう!
 試練を耐え抜き、頂上をめざせ!』


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.無限樹の頂上を目指す
2.なし
3.なし
●依頼目的
 無限樹遺跡の攻略

 最終試練です。ここまで沢山の試練に耐えてきた皆様には、ついにといった感じですね! ですね!
 ちなみにカットされた推定文字数は一万をゆうに超えております。
 さておき。

 最終試練の部屋。名付けて『無限樹エレベータールーム』には三つの要素があります。
 第一に、台座中央でピクシーが楽しく踊り続けること。そのためには楽しい音楽と楽しい手拍子が必要なこと。
 第二に、階層を登るたびに樹木でできたゴーレムが踊りを邪魔しにくること。
 第三に、頂上には多分だけど勾玉があるということです。
 順番におさらいしていきましょう。

・第一要素:ダンス
 部屋は半径30メートル程の円形で、ピクシーが中央の台座で踊り続けることでエレベーターが上昇していきます。踊りをやめると倍くらいの速度で落ちます。
 ピクシーが楽しい気持ちで踊るには相応の音楽と楽しい手拍子が必要です。つまり演奏係と手拍子係が要るということです。
 交代制にしてもいいし、専門に立ててもいいでしょう。
 特に手拍子係は戦闘に疲れた人が心身共に休憩するのにピッタリな役どころです。

・第二要素:ゴーレム
 遺跡の力で動いているゴーレムが襲いかかります。
 形状は様々ですが、球体に足だけはえたものから巨大なドラゴン型のものまで、弱い順に段階的に出てきます。一応古妖カテゴリですが、特に意志はなく『まほうでうごいてる機械』くらいの認識で大丈夫です。

・第三要素:まがたま
 たぶんあると思います。じーちゃんがそんなこと言ってたらしいです。
 ただこれの所有権が人間(というか皆さん)に渡るかどうかは付き合い次第になってくるでしょう。付き合い方によってはそれ以上の成果もえられるかもしれません。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
9日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年06月06日

■メイン参加者 8人■

『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)
『居待ち月』
天野 澄香(CL2000194)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)

●向日葵組曲第一番アルマンド
 ピクシーを台座の中央に立たせ、『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)はその縁に腰掛け、ヴィオラに弓を当てた。
「それじゃあ、はじめるよぉー! コクリコちゃん!」
 テンションは相変わらずおかしいが、奏でた音楽はきわめて落ち着いた、それでいて上品なものだった。
 『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)や『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)たちも手拍子で参加するが、音楽知識に詳しくない彼女たちでもこれが舞踏会か何かで演奏するものだと感じることが出来た。それも最初のゆったりとした動きでだ。
 ピクシーもそれにあわせてゆっくりと踊り始める。
 すると、円形フロアの壁が斜めに回転し始める。よく観察していた樹香はそれがねじ巻き構造による上昇装置だと分かったが、さらにはこれらが彫ったり継いだりしたのではなく自然に生成されたものだということにも気づいていた。
「妖精の遺跡ならではじゃな」
 『二兎の救い手』明石 ミュエル(CL2000172)や『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)も雰囲気だけは伝わったらしく、非現実的な臨場感に肩をふるわせている。
 手拍子はゆっくりと。ミュエルの雰囲気もあってか落ち着いた雰囲気のまま上昇は始まっていく。
 暫くすると穴のある壁が現われ始め、1メートルにも満たない一頭身のゴーレムが転がり出てきた。
「早速来ましたね」
 『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は覚醒状態になると、札を霧に変化させた。まるで生きた蛇のようにクナイに巻き付く霧。
 ゴーレムがたかたかと駆け寄ってくるそばからクナイを投げ放って破壊。ワイヤーで引き戻し、振り向きざまにもう一投。
 反対側の壁から現われたゴーレムを出現と同時に粉砕した。
 戦闘準備をキッチリ整えた天野 澄香(CL2000194)がタロットカードを手に取った。
「序盤のゴーレムは弱そうですね。ここは任せて貰っていいですか」
「そうですね。けど数が増えてきたらすぐに手を貸しますからね」
 こくんと頷く『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
 理央とラーラは填気のおかげで氣力切れの心配が無いコンビだ。全体を通してのメイン戦力になるだろう。
 と言うわけで、敵が弱い序盤は低レベル帯の澄香をサポートする形に落ち着くようだ。
 壁から早速ゴーレムが出現。
 ピクシーの踊る台座を背に守るようにして澄香はカードを投擲。空圧を纏ったカードがゴーレムを切り裂き、澄香は反動をつけてジャンプ。独りでに手元へ戻ってきたカードをキャッチ。
 翼を広げて対空。前後反転すると、反対側の壁から複数同時に飛び出してきたゴーレムに向けてカードを逆位置表示で翳した。
 光が放たれ、ゴーレムの体内に毒液が生成される。ゴーレムたちはその圧力だけで一斉にはじけ飛んだ。
 前後左右から続々現われるが、油断せず身体を軸回転させて照射。
 現われるゴーレムたちを次々に倒していく。
 気づくと御菓子の演奏が激しく力強いものに変わっていた。

●向日葵組曲第二番クーラント
 バロック時代を思わせるハイテンポな曲調だ。ピクシーもそれに併せて踊りのテンポや動きを早く大きくしていく。
 偶然か、ゴーレムの出現テンポもまた早くなっていた。
 先刻よりもやや貫禄を増したゴーレムが一斉に現われるようになる。
 澄香はピクシーの頭上でぐるぐると回転しながらタロットの光を連続照射。
 毒液注入だけでは破裂しなくなってきたゴーレムを二回三回と攻撃を重ねることで撃破していく。
「氣力が尽きますね。そろそろ交代ですっ」
 飛びかかってきたゴーレムを投擲したカードで迎撃すると、澄香はあえて台座へ着地。
「分かりました。理央さんは回復を。私は交代の時間を稼ぎますっ」
 ラーラは魔力を手元に集めて頭上に掲げ、一斉に飛び出してきたゴーレム群に炎の弾を浴びせかけた。
「安心してくださいね。ふわりんが楽しく踊れるように、私頑張りますから」
 一撃で全てのゴーレムをを灰に変えるラーラ。
 その間に理央は消耗した澄香に向けて氣力を込めた札を貼り付けて回復していく。
「次は、アタシの番……」
 身を屈めて手拍子をしていたミュエルはここで初めて覚醒状態にチェンジ。
 両足のホイールをスケート式に使って、円形フロアをぐるりと周回するように走り始める。
 ラーラによる火力支援を受けつつのローラーダッシュだ。前後を炎の弾が飛んでいく中、ミュエルは杖を右へ左へ軽やかに振り込み、ゴーレムを次々に転倒させていく。
 少し粘る個体もあったが、すれ違いざまに炸裂する種子を投げつけることでキッチリ撃破していく。
 その素早さとなめらかさはアイスホッケーのそれに近い。
「この調子なら……」
 ゴーレムの耐久力はそれほど高くない。氣力も豊富なので暫くもつか……と考えていた所、壁に大きな穴が現われた。

●向日葵組曲第三番サラバンダ
 御菓子の演奏が再びテンポを落とし、重く踏みつけるような調子に変わっていく。
 手拍子もそれに併せてゆっくりに、そしてピクシーの動きも鈍重な、しかししかし壮大なものになった。
 手拍子にまるであわせたかのように床を踏みならすゴーレム。先程までタイプに巨大な足と腕をつけたようなフォルムだ。
 一方で同時に出現する個体数は減ってきた。
 その様子を観察して呟く樹香。
「防御も攻撃も強そうな個体じゃ」
「……だが動きはのろい」
 結唯がミュエルを支援するように蒼鋼壁を付与。
 ミュエルは殴りつけるようなゴーレムの動きをかわし、杖の先から伸ばしたツタをゴーレムに巻き付けていく。
 ぐるぐるとゴーレムの周りを回ってから、勢いよく引き倒した。
 その直後、横から別のゴーレムの蹴りが腕を叩き付けてくる。
 直撃はさけた。が、重い一撃だ。
 ラーラの放った炎がゴーレムをはじき飛ばし、ミュエルはかろうじて追撃を逃れる。
 壁に衝突しそうになった所で後方回転をかけて壁に着地。円形の壁を走るようにして出現したばかりのゴーレムをかわすと、杖の先端から毒液の弾を流し打ちした。
「そろそろ……」
「よし、出番だな!」
 ゲイルがここぞとばかりに立ち上がった。刀を抜き、霊力の糸を余裕をもたせて腕に巻く。
 着物をはだけさせると、鈍重そうなゴーレムへと殴りかかった。
 刀ではあるが斬撃ではなく打撃。刃に走った霊力が衝撃装置となっているのだ。
 重たいゴーレムがはねのけられ、壁に叩き付けられては砕けていく。
 横から殴りかかる個体には霊力糸を巻き付け、刀の柄で殴りつけて飛ばす。
 殴り合いなら防衛力のあるゲイルが上手なのだ。
 そこへ、新たなゴーレムが出現した。

●向日葵組曲第三番ジーグ
 ゲイルは二つのことに気がついた。
 新たなゴーレムは四つ足歩行のシカのようなフォルムをしていて、今まで引きずるように歩いていたものたちと違って非常に俊敏であること。
 そして御菓子の演奏がこれまでのものよりずっとテンポが早くせわしない調子に変わっていたことだ。
 ピクシーの踊りも野を跳ねるウサギのような躍動的なものに変わる。
「ジグか? それにしては……」
 ゲイルの記憶ではアイルランドの民族音楽にヒットしたが、その次にヒットしたのが見たバロック時代を描いた古いフランス映画である。
 見れば、澄香が手拍子をしながら跳ねるように踊っている。
 カラオケに連れて行ってもずっと壁だけ見ていそうな結唯でさえ、どこか楽しげに手拍子をしている。
 ゲイルもまた、心が躍っているのを感じていた。いや、踊っているのは心だけではない。
 俊敏に、そしてどこか狡猾に責め立ててくるゴーレムたちの中を右へ左へリズミカルに交わしていく。
 ゲイルの通った後には霊力糸が残り、意図は導火線のようにはじけて水龍へと変化。
 まるでゴーレムたちを綺麗になぞるように粉砕して進んでいく。
 跳躍と共に角で体当たりをしかけるゴーレム。しかしゲイルは地面を滑るように下をくぐり抜け、水の竜を引き連れた刀で打ち落とした。
「身体が軽い。どういうわけだ……」
 思ったように身体が動き、息もきれない。まるでここがピクシーの踊る台座の延長であるかのようにすら、ゲインは錯覚していた。
 いや、それは錯覚ではない。
 急に天井と床の幅が大きく膨らみ、円形フロアの床面積もまたひろがった。
 壁には大小さまざまな穴が開き、ゴーレムたちが勢いを増して飛び出してくる。

●ラストステージ
「まだまだ行くよぉー!」
 御菓子は急激に曲調を変化させると、どこか荘厳で特徴的な演奏を始めた。
 巨大なゴーレムがゲイルを蹴りつける。
 刀でガードしたが宙に飛ばされ、身を翻して着地。
「下がって回復して、援護するよ!」
 理央がラーラと共に前へ出て、札を眼前に翳した。
 頷いて下がるゲイル。
「これを使うのは初めてなんだけど……」
 理央が札を空中に放ると、たちまち札が水の竜へと変化した。
 それも巨大な竜だ。殴りかかろうとする巨大なゴーレムに食らいつき、勢いで周辺から飛び出してきた小型のゴーレムたちを蹴散らしていく。
 そこへラーラが鍵を取り出し、本の封印を解除。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を。イオ・ブルチャーレ!」
 約束の言葉を合図に大量の炎弾を放出した。
 あまりの勢いに転倒する巨大ゴーレム。
 が、反対側からも巨大ゴーレムが出現。
「出番じゃな。四人がかりといくかの」
「……」
 樹香が立ち上がり、結唯もまた立ち上がる。
 御菓子の演奏が再び曲調を変化。
 ミュエルが『うんどうかい?』と呟いた。
 思わず走り出したくなるようなテンポだ。樹香は衝動に任せてダッシュ。
「ワシらがぴくしーを守り抜くのじゃ。お前様方、今一度気合いをいれようぞ!」
 雰囲気からしてもうじき終盤だ。出し惜しみはすまい。
 樹香は薙刀のこじりで地面を突いてハイジャンプ。
 殴りつけようとした巨大ゴーレムの肘に飛び乗ると、その調子で肩まで駆け上がっていった。結唯が自分に蒼鋼壁をかけてくれているようだ。ますます遠慮はいらないだろう。
 掴み取ろうと腕を振るゴーレム。だが樹香はジャンプで腕を回避。宙返りをかけながら長刀を振り込んだ。
 顔面を切りつけられたゴーレムは仰向けに転倒。後ろでばたばたしていたゴーレムたちを巻き込んで崩壊した。
 援護がいるかと振り返ったが、結唯は結唯で適当に戦っているようだ。任せて置いていいだろう。
 樹香は手の中に無数の種子を握り込み、側面から出てくるシカ型のゴーレムに投げつけた。
 空中で一斉炸裂。
 突撃モーションにはいる直前からはねのける。
 炸裂音の直後から御菓子の演奏テンポが急速に落ちた。もしや疲れたのかと振り向けばそんなことはない。御菓子は優雅な調子でヴィオラを奏で、ピクシーもまた優雅な踊りにシフトしている。演奏にはゲイルも加わり、ミュエルも自然と身体を揺らしながらきわめてゆったりとしたテンポで手拍子を加えていた。
 不思議とその間、追加のゴーレムは現われなかった。
 まるで何かの前兆のように床と天井が少しずつ広がっていく。
 台座もまた広がり、自然とピクシーを中心としたストリートダンスのていをなしていく。
 御菓子の演奏も陽気さを帯び始め、やがて黄昏時のような演奏を挟んで、最後には貴族の陽気なパーティーを思わせる空気に移っていく。
 御菓子はここまで全く手を止めずにひたすら演奏し続けているが、冷静に考えてみれば恐ろしく長い時間を演奏し続けているのだ。
 樹香は別に一人でカラオケに行くようなタイプではないが、三曲ほど通しで歌えば休憩を必要とするだろう。まして楽器演奏は体力を使う。一見腕くらいしか使っていないようにめいるが実は全身運動なのだ。呼吸も制限されるため、消耗も激しい。
 だというのにまるで疲れ知らずだ。
 演奏ができなくなったら交代しようと、一応は取り決めていたものの、まるでその必要性を感じさせない。
 舞台は拡大に拡大を続け、御菓子とピクシーを中心とした舞踏会は続いていく。
「お前様方、おそらくこれが最後のステージじゃ。『総力戦』といこうかの」
「いわずもがな。一気にいくよぉ!」
 御菓子の演奏が波のように徐々に勢いを増していく。
 連動するかのように壁の一側面が大きく開き始める。
 回転上昇するステージなので、正確には巨大な通路があるだけなのだろうが、なぜだか『道が開かれた』という感覚に包まれていた。
 大型トラックが二台は並んで通れるような通路が完全に露わになった所で、ステージの上昇は止まった。だが演奏は止まらない。やめてしまっては降下するからか。
 否、戦いが終わっていないからだ。
 通路の先を塞ぐように、大樹が聳え立っている。
 大樹には大きな顔がついていて、ひときわ太い枝と頑丈そうな根を手足にして立ち上がると、大気を振るわせて吠えたのだった。

●アンコールステージ
 大量の小型ゴーレムが弾丸として放たれる。
「迎撃!」
「あわせて!」
 ゲイルと理央が同時に術式を組んだ。霊力の糸と札が空中で合わさり、驚くほど巨大な水竜となって飛翔。小型ゴーレムの群れをたちどころに粉砕すると、大樹ゴーレムへと食らいついた。
 根の間から無数のシカ型ゴーレムが沸きだして突撃をかけてくる。
「この数でも、勝てますよね!」
「うん……!」
 澄香が飛翔してカードを掲げ、ミュエルが杖を水平に構えた。
 光の輪がミュエルの眼前に現われ、杖から金色の霧を拡散発射。
 霧が光の輪によって急速に拡大され、シカ型ゴーレムへと浴びせかけられる。たちどころに溶けて消えていくゴーレムたち。
 樹木ゴーレムの両腕からはえいずる二体の巨大ゴーレム。
「そこじゃ!」
 結唯と樹香が飛びかかり、それぞれ胸部に斬撃。胸部と壁と天井を順に蹴ってもう一方のゴーレムをも斬りつけ、その背後へ着地。
 待ってましたとばかりにラーラは無数の魔方陣を重複させ、自らの前に集めた。
「さすが無限樹というだけあって、ずいぶんな高さにきましたね。けど、これで終わりです!」
 大量の火炎弾が凝縮され、倒れる巨大ゴーレムの更に向こう。樹木ゴーレムへと殺到する。
 直撃をくらった樹木ゴーレムは無数の小爆発を起こして炎上、べきりと真ん中で避けると、灰となって散っていった。
 ステージが突きだした杭によって固定される。踊りと演奏をやめても降下することは無いだろう。
「……ふう」
 御菓子は細く深く息をつき、膝から崩れ落ちて気絶した。

●ピクシーダンス
 へろへろになったピクシーと気絶した御菓子を抱え、一同は通路の奥へと進んだ。
 だが通路の奥は行き止まりだった。
「まさかここまできて行き止まりなんて」
「いえ、見てください」
 はるか頭上を指さす。
 そこには巨大な顔が存在していた。
 樹木ゴーレムと比べものにならないほどの大きさだ。
 しかもよく見れば、通路を埋めてもまだ余りあるほどの巨大な樹木が聳え立っているではないか。
「なんと、壁ではなく樹木じゃったか」
「だが顔があるってことは……これもゴーレムなのか?」
『そうだよ。だけど、きみをいじめたりはしないさ』
 大樹の目がうっすらと開き、そして語り始めた。
「……しゃべれる、の?」
「そのようだが」
「うーん、わたしはいったい……ピャッ!?」
「御菓子さんしっかり!」
 驚く一同を眺め、大樹はおかしそうに笑った。
『はじめまして。ぼくは無限樹。永久に成長し続ける木にして、遺跡の守護者、さ』
「おい、聞いていないぞ」
「だって知らないし」
 ピクシーも目をしょぼしょぼさせてゴーレムもとい無限樹を見上げている。
『みんな、よく頑張ったね。ここへは、お互いちゃんと仲良くしていた妖精と人間だけがたどり着けるんだ。ご褒美といってはなんだけれど、これをあげようね』
 無限樹はウィンクをして、涙のような勾玉を放出した。
 つやのある木製の勾玉だ。
 これについては、一旦ピクシーの家に持ち帰って所有権について話さなくてはならないだろう。
『それと、ステージ演奏を聴かせて貰ったよ。ずっと一人で演奏して、えらいね。これは僕からのプレゼントだよ』
 そう言うと、無限樹は身体の一部を切り離して御菓子の手元へ落とした。
 マラカスのようだが、継ぎ目が一切無い。
『ここは妖精と人間が友達だった頃にできた遺跡さ。遺跡はここを含めて五つあるよ。ここまでこられたきみたちになら、もう一つの遺跡へ送ってあげてもいいけれど……どうするかな?』
 問いかけは、答えを必要としないものだった。
 決まっている。
 頷く一同に、無限樹は言った。
『きみたちを、水鏡の遺跡へ、招待しようね』

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

お疲れ様でした。演奏を一手に引き受け、プレイングにも工夫を凝らした御菓子さんにはMVP……の代わりにアイテムを進呈します。
また、みなさんで楽しく踊る工夫をたくさんこらしたので『ピクシーダンス』の技能スキルがもたらされました。通常手運で取得できるようになります。

レアドロップ!
取得者:向日葵 御菓子(CL2000429)
武具:無限樹のマラカス




 
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