ゴールデンウィークは遊園地で!
●ゴールデンウィークだから遊びに行きましょ!
妖の対処で忙しい日々を送る『F.i.V.E.』所属の覚者達。
この日も彼らは妖討伐に出向き、帰ってきたところだった。少々疲れていたメンバー達は、ぐったりとしていた。
中には元気な素振りを見せる者もいたようだが、それも空元気のようである。体力もそうだが、それ以上に精神的な疲れが大きいのだろう。
「皆様、お疲れ様ですわ」
覚者に労いの言葉をかけてきたのは、『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)だった。
そんな静音とて、暇ではない。この春から高校生になったこと、そして、先日の百鬼による被害からの五麟市の復興作業。依頼や『F.i.V.E.』の業務の手伝いと忙しい。滅入らずになんとかやっていこうと、日々頑張っている彼女である。
静音の状況を知る者も結構いたようで、お互い様だと返す覚者。皆目の前のことをこなし、忙しい毎日を過ごしているのだ。
「そんな皆さんに、朗報ですよ」
そこに通りがかったのは、久方 真由美(nCL2000003)だ。彼女はにこやかな顔で、すらりと何かのチケットを取り出す。
「実はですね。とあるテーマパークの1日フリーパスを頂いたのです」
先日、近場に妖が出現したテーマパークがあった。すでに妖は駆除されたものの、やはり不安は尽きない状況。それもあり、いっそ覚者を呼んで問題がないことをアピールしようというのがテーマパーク運営側の考えだ。
「そんなわけですから、皆さんこぞって行かれてみてはいかがですか?」
気づいてみれば、すでにゴールデンウィークである。それを聞いた覚者達はそのチケットを喜んで手にする。真由美は静音にも1枚手渡した。
「静音さんもどうぞ。このところ、復興作業に尽くしてくれたお礼です」
「はい、ありがとうございます」
静音は戸惑っていたが、他ならぬ真由美の言葉を無下にも出来ぬと考え、受け取ることにしていたようだ。
先にチケットを受け取っていた覚者達は、誰と何をしようかと考える。
ゴールデンウィークに素敵な一日を過ごす為に。疲れていた体に、力が漲ってくる気すらする覚者達なのだった。
妖の対処で忙しい日々を送る『F.i.V.E.』所属の覚者達。
この日も彼らは妖討伐に出向き、帰ってきたところだった。少々疲れていたメンバー達は、ぐったりとしていた。
中には元気な素振りを見せる者もいたようだが、それも空元気のようである。体力もそうだが、それ以上に精神的な疲れが大きいのだろう。
「皆様、お疲れ様ですわ」
覚者に労いの言葉をかけてきたのは、『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)だった。
そんな静音とて、暇ではない。この春から高校生になったこと、そして、先日の百鬼による被害からの五麟市の復興作業。依頼や『F.i.V.E.』の業務の手伝いと忙しい。滅入らずになんとかやっていこうと、日々頑張っている彼女である。
静音の状況を知る者も結構いたようで、お互い様だと返す覚者。皆目の前のことをこなし、忙しい毎日を過ごしているのだ。
「そんな皆さんに、朗報ですよ」
そこに通りがかったのは、久方 真由美(nCL2000003)だ。彼女はにこやかな顔で、すらりと何かのチケットを取り出す。
「実はですね。とあるテーマパークの1日フリーパスを頂いたのです」
先日、近場に妖が出現したテーマパークがあった。すでに妖は駆除されたものの、やはり不安は尽きない状況。それもあり、いっそ覚者を呼んで問題がないことをアピールしようというのがテーマパーク運営側の考えだ。
「そんなわけですから、皆さんこぞって行かれてみてはいかがですか?」
気づいてみれば、すでにゴールデンウィークである。それを聞いた覚者達はそのチケットを喜んで手にする。真由美は静音にも1枚手渡した。
「静音さんもどうぞ。このところ、復興作業に尽くしてくれたお礼です」
「はい、ありがとうございます」
静音は戸惑っていたが、他ならぬ真由美の言葉を無下にも出来ぬと考え、受け取ることにしていたようだ。
先にチケットを受け取っていた覚者達は、誰と何をしようかと考える。
ゴールデンウィークに素敵な一日を過ごす為に。疲れていた体に、力が漲ってくる気すらする覚者達なのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.遊園地でおもいっきり遊ぶ!
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
ゴールデンウィークなのですから、
どこかに遊びに行きたいですよね!
そんなわけで遊園地で目一杯遊びましょう!!
以下、詳細です。
●参加方法
遊園地で思いっきり遊びましょう!
基本的なアトラクションは一通りございます。
下記は一例です。
ティーカップ、ゴーカートなど、
他にもご要望あれば出来る限りお応えいたします。
・ジェットコースター
思いっきり絶叫しましょう。
誰かと一緒に乗って、恐怖体験なんていかがでしょうか。
130センチ以上という身長制限がありますので、ご注意ください。
・メリーゴーランド
お子様歓迎のアトラクションです。
親子で、兄弟で、のんびり乗ってみるのもよいでしょう。
・観覧車
こちらは恋人と一緒に乗るのがお勧めです。
遠くの街並み、水平線を見ながら、
一緒に乗っている相手といい雰囲気に……。
・食べ物
ポップコーンやチュロスなど、
食べ歩きはもちろんのこと、
遊園地内の喫茶店、レストランで歓談しながら
お腹を満たしつつ楽しいひと時をどうぞ。
あちらこちらを歩いてみるのもよいですが、
1つのアトラクションにプレイングを集中させると、
描写率は上がるかと思います。
●NPC
河澄・静音もテーマパークへと遊びに来ております。
お誘いがありましたら出来る限りご一緒します。
それでは、今回も楽しんでいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします!
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
6日
6日
参加費
50LP
50LP
参加人数
31/∞
31/∞
公開日
2016年05月14日
2016年05月14日
■メイン参加者 31人■

●楽しい楽しい遊園地!
某県のテーマパーク。
その日の客のほとんどが『F.i.V.E.』の覚者達。彼らは思いっきり羽根を伸ばして遊ぶことにする。
おさげにエプロンドレス姿のユスティーナは、園内の楽しそうな雰囲気に感化され、思わずはしゃいでしまう。
「キセキ! アレはなんですの? アレも気になるですわ!」
「ユスちゃん、そんなにきょろきょろしてると迷子になっちゃうよー!」
保護者に見立ててもらった格好いい服を着たきせきはユスティーナを呼び止め、目に留まったクマカステラの店に入る。
カステラを1袋買ったきせきはそれをユスティーナと分け合うのだが、彼女は大切そうに抱くクマのぬいぐるみとクマカステラを見比べてしまって。
「大変ですわ……。ヘリュの同族さんでしたのね……」
「……き、きっと、別物だから大丈夫だよ!」
食べ終えたきせきは、彼女の気を紛らせるべく周囲を見回す。
「ほら、一緒にゴーカート行こう?」
そこまでかけっこ勝負を持ちかけたきせきを、ユスティーナは慌てて追いかける。
「ユス、テレビゲームでつちかったレンドをお見せするんですのよ♪」
大好きな彼とのお出かけは、まだ始まったばかりだ。
その2人とすれ違ったのは、兄と妹の様な2人組。
「トージ、アイス……できれば、ちょことばにらがまきまきになってるのが食べたいです」
「あー、ソフトクリームな。へいへい」
刀嗣に買ってもらったソフトクリームを手に、嬉しそうにはしゃいでいた御羽だったが。すぐに転んでしまい、先端のクリームが地面へとべちゃり。
ゆっくりと立ち上がる彼女は負のオーラを醸し出しつつ、無言で刀嗣を見た。
「……言っとくけど、お前のミスでなくなったんだから、もう買ってやらねえからな?」
何でこんなガキを連れてくる羽目になったのかと、刀嗣は頭をかきつつ告げる。
「今のは、地球の重力が常に下を向いている事がいけないのです!! つまり、みうは悪くないんです!! なので、……むう」
御羽は必死に自身を正当化しようと言葉を並べ、しばらくちらちらと目線を飛ばすが、辛辣な刀嗣に対しては無駄だったようだ。
「トージのお金、無駄にしてごめんなさい。あとあと、消毒が必要かも」
御羽はふと、膝を擦りむいた彼女の姿を自身の妹と重ねて。
「……今日だけだからな」
要求通り、刀嗣は自身の背中に彼女をおんぶする。
「はい! 今日だけです。トージ! あっちからチュロスの香りがします!!」
「へいへい」
微笑む御羽が嬉しそうに右前方の屋台を指差すと、刀嗣は気のない返事でそれに従うのである。
その近場には、チーム『アイスタワー』3人の姿があった。
浅葱が手を繋いだ唯音と燐花を引っ張る。どこへ行くのかと首を傾げていた燐花は、いつの間にかあの絶叫アトラクションの前にいた。
「気分も爽快な……ジェットコースターなのですっ」
「ゆいね、ジェットコースターだーいすき」
「では、私はお見送りを。えっ。あの……?」
楽しそうに飛び回る2人を送り出そうとする燐花だが、強引に2人に座席へと着席させられて……。ジェットコースターはものすごい勢いで降下を始める。
「ふふふ、自分の足で風を切るのとはまた違った感覚で楽しいのですっ。あはははっ」
笑って叫ぶ浅葱。風を切る感覚に気持ちよさを感じる唯音も一緒に叫ぶ。
「燐花ちゃんは怖くない?」
唯音は燐花を気遣うが、彼女は完全に硬直してしまっていたようだ。
1周して、ジェットコースターを降りた3人はそのまま手を繋ぎ、近くのアイス店へと飛び込んでいく。
「欲張って三段重ねにしちゃうぞー……って、落っこちそう!?」
バランスをとる唯音の傍で、目をくらくらさせていた燐花は抹茶とバニラの二段重ねのアイスを頼む。
隣の浅葱はというと。
「いっそ全部乗せっ。どーんっとタワーですよっ。……はっ、高すぎて食べられませんっ」
そんなアイスタワーに手をつけることが出来ない浅葱の横から、唯音がぱくりと一口。そして、唯音は自身のアイスも差し出すと、燐花は「いただきます」と一言断ってからそのアイスを口にする。
「こっちのが色んな味ちょっとずつ楽しめて、お得だもんね」
「あっ、唯音さん天才ですねっ あーんですよっ」
こうして、女の子3人は互いのアイスを食べ合い、甘くて美味しい一時を堪能するのである。
彼女達の次にジェットコースターに乗るのは、笹雪、夏実ペアだ。
「ズット身長セーゲンで乗れなかったから、今日がハツタイケンよ!」
スピードごときのスリルでは物足りないと、夏実はドヤ顔で初体験に臨む。
「じゃ、一番前の席に座ろっかー」
久々の遊園地を遊び倒そうと堪能する笹雪。その隣に座る夏実もモノモノしい固定具に包まれ、カタカタと機体が走り出すのを感じる。
「な、何だかすごくユックリなのがその……。べ、別に不安とかじゃないわよ!?」
にこにこする笹雪は、高さに慌て出す夏実を見て。
「怖いと目を瞑っちゃうよね」
内心では、どうしてもというときは目を瞑ればと考えるが。やっぱり楽しみたいからと笹雪は全力で目を見開く。
「その、不安だったら、手とか握ってあげても……」
声を震わせる夏実。そして。
「あの」
カタカタカタ。
「ちょ」
カタ、カタ。
「待っ」
カタン。
「やっ」
……………………。
「……いやああああああああ!?」
「やっほーい!」
しばしの間、ジェットコースターを良くも悪くも1周、堪能した2人。
降りた後、半べそかきながらも強がる夏実を、笹雪は笑顔でゴーカートへと誘っていた。
いのりはキョロキョロを乗り物に目移りさせていた最中に静音を発見し、ジェットコースターへと連れてきていた。
そうして、ちょこんと列に並ぶ2人。
「昔両親と来た時は、背が足りなくて乗れなかったんですの……」
その際、いのりは亡くなった両親のことを思い出し、一瞬、寂しげな表情を見せた。
「……楽しみですわね♪」
「ええ、そうですわね」
それでも、すぐに笑顔を見せたいのりへ、静音も微笑み返した。
2人は程無く座席に着き、カタカタとレールの上り坂を登っていく。緊張感が高まる中、わくわくドキドキしていたいのり。
そして……。頂点から一気に猛スピードで下り出すと。
「キャー!」
いのりは興奮し、絶叫してしまう。さらにぐるぐると機体が回転すれば、叫びも興奮も最高潮になる。
1周して発着場へと戻ってきたいのりは、ふうと息をつく。
「……はしたない所をお見せしましたわ」
顔を真っ赤にするいのりの横では、余りのスピードに静音はビクビクと怯えてしまっていたのだった。
次に列に並んでいたのは、紡と紡に連れられてきた千陽だ。
「……変じゃない、かな?」
「馬子にも……いえ、これはダメなやつですね」
ジャンパースカートを着た紡に対し、千陽は気の利いたコメントが出ず、落胆してしまう。
順番が来て、座席に座る2人。風を感じられるからと連れられてきた千陽だが、がっちりと固定された座席に恐怖を感じながら、カタカタと空高く登っていき……、宙に投げ出されるような感覚をしばらく味わう。
空は飛んでみたいとは言ったけれど、これは何か違う。彼は空を舞いながらそんなことを考えていた。
「俺は、正直空軍は向いてないと今、確信しました。間違いありません」
1周した後、げんなりとした千陽はベンチで横になっていた。不恰好な様をさらしてしまい、申し訳ないと紡に謝る。
一方、十分に絶叫マシンを堪能した紡は彼を気がけつつ、フードポットに入れていたスープを差し出す。
「この間のスープ、気に入ったみたいだったから……。あと、おにぎりも……」
徐々にもごもごと紡が言葉を濁したのは、おにぎりの形が不恰好だったから。面目ないと謝り返す紡から、それらを受け取った千陽はおにぎりを一口。
「食べる人のことを考えてつくったものが、美味しくない訳はないんですよ」
優しい言葉をかけてくれる千陽。紡はそっと取った彼の手を、ぎゅっと握るのだった。
●ブレイクタイム
園内では、コスプレを行う者もちらほらといる。
凜もその1人。彼女はプリーストの衣装を着て、ファンタジー要素満載のアトラクションを堪能した直後だった。
まだ興奮冷めやらぬ状態でノリノリになっている彼女は、アトラクションの出口付近で数人の子供に囲まれた。凜は彼らに対して、ニコニコと笑顔で応対する。
(凜もこんなかわいらしい子どもが早く欲しいんよ。来年は……)
そろそろお腹も空いてきた時間帯。ご飯を食べた後は、園内にいる男子を物色しようかなと凜は考えるのだった。
「やっぱり、ちょっと奮発してでも予約しておいてよかったね。眺めも最高!」
ちょっとだけ高級なレストランにやってきたのは御菓子と結鹿だ。成人女性の御菓子ではあるが、結鹿よりも背が低いこともあり、見た目は同年代の姉妹に見えてしまう。
だからこそ、大人の雰囲気溢れる店内ではやや浮いているようにも見える2人。周囲の客にカップル連れが多いことを見た御菓子は、ちょっとした悪戯を思いつく。
「はい、あーん」
チキンの刺さったフォークを、結鹿の口元に差し出したのだ。
「ええっ!?」
「大丈夫。誰も気にしてないって」
戸惑う結鹿に御菓子が微笑むと、結鹿は観念しておずおずと口を開く。御菓子は少し腕を伸ばし、チキンを彼女の口の中へ。
嬉しいけれど、恥ずかしくもある彼女の表情がとても可愛らしくて。御菓子は思わず叫びそうになってしまうのである。
同じ頃、とある喫茶店に食事を取る両慈と、彼に誘われてやってきていた悠乃の姿があった。2人はとある依頼で顔を合わせた程度の関係だ。
午前中は軽く園内を回り、腰を落ち着けようとの喫茶店に入り、窓際の席へと腰掛けた。
「……で、ここのお勧めはこれと、あ、こっちは今月一杯なんですけど、凄い美味しくて」
場慣れしている悠乃は、混雑回避の為のアトラクションの回り方や季節限定の食べ物についてあれこれと説明する。
「……華神、よく勘違いされるが、アイツと俺は違うからな……」
両慈の反応などお構いなし。運ばれてきた軽食を取り分けた悠乃は自身の分を口にする。
やれやれと頬杖をついて話を聞く両慈はその途中、あることに気づく。
「そういえば、今日は以前見掛けた時と雰囲気が……そうか、髪か」
悠乃は普段色つきのエクステを付けているのだが、今日は同じ黒髪の長さを足している。
「ほんとは、伸ばしたいのですよ」
「あぁ、良い黒髪だ。……髪を伸ばしたら、きっと似合うのだろうな」
両慈は何気なく悠乃の髪を触る。
(て、髪、触られ、やば、これ、勘違いしそうに……!)
「機会があれば、いずれ見てみたいものだな」
「似合いそう、ですか? じゃー、頑張っちゃおっかな」
立ち上がった両慈が差し出す手を、はにかんだ悠乃がそっと取るのだった。
午前中はアトラクションを回っていたありす、ヤマトの2人もまた、喫茶店へとやってきていた。
(……派手ね。人間の娯楽ってこんな派手なのかしら)
ぼんやりと外を眺めていたありす。ヤマトはその間に、用意したものをそっと取り出す。
「ハッピーバースデー! 誕生日おめでと、ありす!」
「え……? たん、じょうび……?」
喫茶店で予め予約注文してあったアップルパイ。甘くて温かいデザートが好きそうだからというヤマトの気遣いだ。実際、ありすは育った環境もあり、冷たいものが苦手なのだ。
「いつも寒そうだからさ、マフラー用意してみた! どうかな?」
さらに、用意されたプレゼントに、ありすは言葉を失い、戸惑ってしまう。
「……その、ありがとう」
受け取った赤いマフラーを首に巻いた彼女はその中に顔を隠し。マフラーと同じ色に顔を染めていた。
ヤマトはそんなありすの姿にドキッとしてしまって。
「うん! 似合ってる。ありす可愛いな」
照れ隠しにアップルパイを口にした彼女は、その甘さで自然に頬を緩める。
「今日は本当にありがとう……ヤマト」
微笑むありすを見て、嬉しそうにするヤマトもまた、アップルパイを一口食べていた。
再びジェットコースターに視線を移せば、「Malt」に所属するメンバー4人が列に並ぶ。
ほのかは仲間と一緒に乗る絶叫マシンを前に、はしゃいでしまう。
「わ~い、ジェットコースター~♪」
「やっぱ、あのスピードがいいよな!」
身長も伸びたことで堂々とジェットコースターに乗れると、テンションの上がる翔の頭を、微笑ましく見つめていた柾がわしわしと撫でる。
さて、彼らの順番が回ってきて。
一旦頂上まで登った機体は急降下。上下左右、さらに回転する中、翔、ほのかが楽しく叫ぶ。
ほのかははしゃぎながら、ふと、この手の乗り物が苦手な兄のことを思い出していた。
行成は後ろで程よい緊張感を感じていたが、高い所に若干抵抗がある柾だけはなんとか平静さを保つよう努めていたようだ。
1周した彼らがアトラクションを出ようとすると。程よい放心感を感じていた行成が鈍い音を立て、ゲートに頭をぶつけてしまう。
「大丈夫ですか……!?」
頭を抑える行成に、ほのかはおろおろしてしまっていた。
4人はそのまま売店へと向かう。妹の椿共々世話になっているからと柾がその場の勘定を持つと主張する。
「流石シャチョーサンです、ありがとうございま~す。柾さん☆」
「オレ、すっげー腹減ったからマジでたくさん食うけど、いいか?」
ならばと遠慮なくチュロスをオーダーするほのか。そして、翔もポップコーンにコーラ、ハンバーガーにポテトも頼む。
思っていた以上に食べ物を注文する仲間に柾は冷や汗をかいてしまうが、引っ込みも付かないので、「あ、ああ」と顔を引きつらせて返事するのみだ。
「……冷たいお茶を頼む、できれば缶で……」
遠慮しなくていいと言う柾に、行成も出しかけていた財布を仕舞って相伴に預かり、その冷えた缶でぶつけた頭を冷やしていたようだ。
たくさん注文した食べ物を、4人は店先に出ているテーブルで食べることにする。
そういえば、妹も園内にいるはずだがと、柾はぼんやり考える。そのまま、彼は視線をわいわいする仲間達へと移し、ホットドッグを口にした。
爽やかな風を感じつつ、パクパクと買ったものを食べ終えた翔は思いっきり背伸びした。
「さあ、午後も目一杯遊ぶぞ!」
●思い思いの観覧車
椿は小さなくしゃみをしつつ、瑠璃と一緒に観覧車へと乗る。
「瑠璃さんは遊園地で特に好きな乗り物はある? 私は観覧車かしら」
「好きなアトラクションは、別にないかな。……というか、あんまり来た事ないからさ」
瑠璃はドラマを見ることが多いと、自身の私生活を語る。
「確かに予想がつかなかったわ」
くすりと微笑む椿。次に彼女が、普段、休日は外に出ることが多いと話す。誰かと一緒に出かけて、こうして話すのが好きだと。
「へぇ、結構アウトドア派なんだな。じゃあ、また遊びに誘うよ」
「嬉しいわ」
誘うという言葉に、椿は顔を綻ばせた。
そこで、瑠璃は改めて、椿が髪飾りをしていることに気づく。それは、椿の誕生日にあげたプレゼントだ。
「似合っているかしら?」
「うん……やっぱり似合ってる」
言った後で照れる瑠璃。椿も頬を赤らめ、互いに視線を逸らしてしまう。
そのまま、観覧車から降りた2人。瑠璃がコーヒーカップに乗ろうと誘うと、椿も同意して一緒に歩いていくのだった。
(やっぱりこれって……デート、になるんだよね?)
奏空は勢いよくたまきを誘い、このテーマパークへとやってきていた。男女カップルがこうして一緒に遊ぶ状況を、世間一般でデートと言うのは間違いない。それを自覚した彼は赤面してしまう。
「奏空さんが宜しかったなら 観覧車に御一緒して頂けませんか……?」
「観覧車? よーし、いこっか!」
ガッチガチに緊張する彼へ、たまきが誘いかけると、奏空が快く返事する。
初めてなので、たまきは本当に観覧車に乗ってはみたかった。ただ、実際乗ってみると……揺れる足元に彼女は少し怯えてしまう。
「たまきちゃん大丈夫? 怖い時は手、繋いでいよっか?」
そんな彼女へ、奏空がそっと手を差し出す。
(こういう時の奏空さんは少しだけ、私より大人っぽくて……ズルイ、です……)
自分の方が少しお姉さんのはずなのに。奏空のその気遣いが嬉しくもあり、申し訳なくもある。
「あ、ほら、頂上に来たよ! すっごい遠くまで見えるね」
外の景色へと夢中になっている彼へ、ちょっとだけ、悪戯を兼ねたお返し。
(少しの間 奏空さんの瞳を 見つめてみようかな……)
そっと近寄ったたまきは、奏空の顔をじっと見つめる。
(たまきちゃんが近い……)
それに気づいた奏空はすぐに、顔を真っ赤にしてしまう。
「ふふ……! 何でもないです……!」
たまきはそんな彼を見て、くすりと微笑んだ。
「そこを何とか頼めないだろうか」
テーマパークの係員に頭を下げていた凜音だったが。残念ながら、同伴していた椿花の身長が足らず、アトラクションに乗ることが出来ないでいた。
「椿花……乗れないの……?」
お化け屋敷の時には格好いいところが見せられなかった。来年は中学生になるのに。もう子供でないところを見せたかったのに。
結局、2人はコーヒーカップやゴーカート、ファンタジー要素のアトラクションなど、子供向け(凜音主観、なお、口には出さない)のものを回った後、観覧車へと乗ることにする。
「椿花……、全然乗れるのに……」
凄いなって言って貰える乗り物に乗りたかった。そう考え、しゅんとする椿花。此処から見えているジェットコースターも、それ以外のだって、全然大丈夫なのに……。
そう考えていると、凜音が隣へと移動してきて優しく頭を撫でる。
「もうちょっと椿花の背が伸びたら、何回でも付き合ってやるから機嫌なおせ」
「……うん、凜音ちゃん、約束なんだぞ」
折角だからと、遠くを眺めるよう凜音が促す。彼の言葉に、塞ぎこんでいた気持ちが少しだけ晴れていく。
(身長制限は嫌だったけど、凜音ちゃんのおかげで楽しかったんだぞ)
一日中、テーマパークを楽しんだ結鹿は御菓子と観覧車にやってきていた。
「今日は楽しかったね」
「はい、とっても楽しかったです」
他愛ない会話の間に、観覧車の高度は徐々に上がって行き、遊園地の景色が小さくなっていく。
何かお礼をと考えた結鹿が、御菓子の体をぎゅっと抱きしめる。
「い、いつものお返しです」
あまりに恥ずかしくて、ちょっと視線を逸らしていると。
「来ないなら、私から」
御菓子はそっと、結鹿の頬にちゅっと口付けしたのだった。
同じく、色々とアトラクションを回った小唄とクーも、最後に乗るアトラクションとして、観覧車を選んでいた。
「今日は一日付き合ってもらって、有難うございます!」
「こちらこそ。楽しかったので」
ぺこりと礼をする小唄へ、少し考えたクーが問う。
「御白さん。少しは、気晴らしになりましたか?」
「えへへ……。空元気、ばれちゃってますね」
『F.i.V.E.』の依頼報告書を読んで、クーは最近、小唄が頑張りすぎて張り詰めている事に気づいていたのだ。
だから、少し考えたクーは彼に手招きをして。
きょとんとしながら近づいてきた小唄の首筋にクーは手を回し、そっとハグをして頭をぽんぽんと撫でる。
「え、えと……、クー、先輩……?」
「普段頑張っている、ご褒美です」
これは自身に対するものでもあるかもと考えるが、クーは敢えて目を瞑る。
小唄はというと。ご褒美と言われ、そのまま甘えることにする。
「……ありがとうございます、先輩」
「無理はしないでくださいね、……小唄さん」
寄り添う2人。降りたら顔が見られなくなりそうだけれど、観覧車が地上に降りるまでは、せめてこのままで。
覚者達の一日はゆっくりと暮れていく。大切な想い出を彼らの胸へと刻んで。
某県のテーマパーク。
その日の客のほとんどが『F.i.V.E.』の覚者達。彼らは思いっきり羽根を伸ばして遊ぶことにする。
おさげにエプロンドレス姿のユスティーナは、園内の楽しそうな雰囲気に感化され、思わずはしゃいでしまう。
「キセキ! アレはなんですの? アレも気になるですわ!」
「ユスちゃん、そんなにきょろきょろしてると迷子になっちゃうよー!」
保護者に見立ててもらった格好いい服を着たきせきはユスティーナを呼び止め、目に留まったクマカステラの店に入る。
カステラを1袋買ったきせきはそれをユスティーナと分け合うのだが、彼女は大切そうに抱くクマのぬいぐるみとクマカステラを見比べてしまって。
「大変ですわ……。ヘリュの同族さんでしたのね……」
「……き、きっと、別物だから大丈夫だよ!」
食べ終えたきせきは、彼女の気を紛らせるべく周囲を見回す。
「ほら、一緒にゴーカート行こう?」
そこまでかけっこ勝負を持ちかけたきせきを、ユスティーナは慌てて追いかける。
「ユス、テレビゲームでつちかったレンドをお見せするんですのよ♪」
大好きな彼とのお出かけは、まだ始まったばかりだ。
その2人とすれ違ったのは、兄と妹の様な2人組。
「トージ、アイス……できれば、ちょことばにらがまきまきになってるのが食べたいです」
「あー、ソフトクリームな。へいへい」
刀嗣に買ってもらったソフトクリームを手に、嬉しそうにはしゃいでいた御羽だったが。すぐに転んでしまい、先端のクリームが地面へとべちゃり。
ゆっくりと立ち上がる彼女は負のオーラを醸し出しつつ、無言で刀嗣を見た。
「……言っとくけど、お前のミスでなくなったんだから、もう買ってやらねえからな?」
何でこんなガキを連れてくる羽目になったのかと、刀嗣は頭をかきつつ告げる。
「今のは、地球の重力が常に下を向いている事がいけないのです!! つまり、みうは悪くないんです!! なので、……むう」
御羽は必死に自身を正当化しようと言葉を並べ、しばらくちらちらと目線を飛ばすが、辛辣な刀嗣に対しては無駄だったようだ。
「トージのお金、無駄にしてごめんなさい。あとあと、消毒が必要かも」
御羽はふと、膝を擦りむいた彼女の姿を自身の妹と重ねて。
「……今日だけだからな」
要求通り、刀嗣は自身の背中に彼女をおんぶする。
「はい! 今日だけです。トージ! あっちからチュロスの香りがします!!」
「へいへい」
微笑む御羽が嬉しそうに右前方の屋台を指差すと、刀嗣は気のない返事でそれに従うのである。
その近場には、チーム『アイスタワー』3人の姿があった。
浅葱が手を繋いだ唯音と燐花を引っ張る。どこへ行くのかと首を傾げていた燐花は、いつの間にかあの絶叫アトラクションの前にいた。
「気分も爽快な……ジェットコースターなのですっ」
「ゆいね、ジェットコースターだーいすき」
「では、私はお見送りを。えっ。あの……?」
楽しそうに飛び回る2人を送り出そうとする燐花だが、強引に2人に座席へと着席させられて……。ジェットコースターはものすごい勢いで降下を始める。
「ふふふ、自分の足で風を切るのとはまた違った感覚で楽しいのですっ。あはははっ」
笑って叫ぶ浅葱。風を切る感覚に気持ちよさを感じる唯音も一緒に叫ぶ。
「燐花ちゃんは怖くない?」
唯音は燐花を気遣うが、彼女は完全に硬直してしまっていたようだ。
1周して、ジェットコースターを降りた3人はそのまま手を繋ぎ、近くのアイス店へと飛び込んでいく。
「欲張って三段重ねにしちゃうぞー……って、落っこちそう!?」
バランスをとる唯音の傍で、目をくらくらさせていた燐花は抹茶とバニラの二段重ねのアイスを頼む。
隣の浅葱はというと。
「いっそ全部乗せっ。どーんっとタワーですよっ。……はっ、高すぎて食べられませんっ」
そんなアイスタワーに手をつけることが出来ない浅葱の横から、唯音がぱくりと一口。そして、唯音は自身のアイスも差し出すと、燐花は「いただきます」と一言断ってからそのアイスを口にする。
「こっちのが色んな味ちょっとずつ楽しめて、お得だもんね」
「あっ、唯音さん天才ですねっ あーんですよっ」
こうして、女の子3人は互いのアイスを食べ合い、甘くて美味しい一時を堪能するのである。
彼女達の次にジェットコースターに乗るのは、笹雪、夏実ペアだ。
「ズット身長セーゲンで乗れなかったから、今日がハツタイケンよ!」
スピードごときのスリルでは物足りないと、夏実はドヤ顔で初体験に臨む。
「じゃ、一番前の席に座ろっかー」
久々の遊園地を遊び倒そうと堪能する笹雪。その隣に座る夏実もモノモノしい固定具に包まれ、カタカタと機体が走り出すのを感じる。
「な、何だかすごくユックリなのがその……。べ、別に不安とかじゃないわよ!?」
にこにこする笹雪は、高さに慌て出す夏実を見て。
「怖いと目を瞑っちゃうよね」
内心では、どうしてもというときは目を瞑ればと考えるが。やっぱり楽しみたいからと笹雪は全力で目を見開く。
「その、不安だったら、手とか握ってあげても……」
声を震わせる夏実。そして。
「あの」
カタカタカタ。
「ちょ」
カタ、カタ。
「待っ」
カタン。
「やっ」
……………………。
「……いやああああああああ!?」
「やっほーい!」
しばしの間、ジェットコースターを良くも悪くも1周、堪能した2人。
降りた後、半べそかきながらも強がる夏実を、笹雪は笑顔でゴーカートへと誘っていた。
いのりはキョロキョロを乗り物に目移りさせていた最中に静音を発見し、ジェットコースターへと連れてきていた。
そうして、ちょこんと列に並ぶ2人。
「昔両親と来た時は、背が足りなくて乗れなかったんですの……」
その際、いのりは亡くなった両親のことを思い出し、一瞬、寂しげな表情を見せた。
「……楽しみですわね♪」
「ええ、そうですわね」
それでも、すぐに笑顔を見せたいのりへ、静音も微笑み返した。
2人は程無く座席に着き、カタカタとレールの上り坂を登っていく。緊張感が高まる中、わくわくドキドキしていたいのり。
そして……。頂点から一気に猛スピードで下り出すと。
「キャー!」
いのりは興奮し、絶叫してしまう。さらにぐるぐると機体が回転すれば、叫びも興奮も最高潮になる。
1周して発着場へと戻ってきたいのりは、ふうと息をつく。
「……はしたない所をお見せしましたわ」
顔を真っ赤にするいのりの横では、余りのスピードに静音はビクビクと怯えてしまっていたのだった。
次に列に並んでいたのは、紡と紡に連れられてきた千陽だ。
「……変じゃない、かな?」
「馬子にも……いえ、これはダメなやつですね」
ジャンパースカートを着た紡に対し、千陽は気の利いたコメントが出ず、落胆してしまう。
順番が来て、座席に座る2人。風を感じられるからと連れられてきた千陽だが、がっちりと固定された座席に恐怖を感じながら、カタカタと空高く登っていき……、宙に投げ出されるような感覚をしばらく味わう。
空は飛んでみたいとは言ったけれど、これは何か違う。彼は空を舞いながらそんなことを考えていた。
「俺は、正直空軍は向いてないと今、確信しました。間違いありません」
1周した後、げんなりとした千陽はベンチで横になっていた。不恰好な様をさらしてしまい、申し訳ないと紡に謝る。
一方、十分に絶叫マシンを堪能した紡は彼を気がけつつ、フードポットに入れていたスープを差し出す。
「この間のスープ、気に入ったみたいだったから……。あと、おにぎりも……」
徐々にもごもごと紡が言葉を濁したのは、おにぎりの形が不恰好だったから。面目ないと謝り返す紡から、それらを受け取った千陽はおにぎりを一口。
「食べる人のことを考えてつくったものが、美味しくない訳はないんですよ」
優しい言葉をかけてくれる千陽。紡はそっと取った彼の手を、ぎゅっと握るのだった。
●ブレイクタイム
園内では、コスプレを行う者もちらほらといる。
凜もその1人。彼女はプリーストの衣装を着て、ファンタジー要素満載のアトラクションを堪能した直後だった。
まだ興奮冷めやらぬ状態でノリノリになっている彼女は、アトラクションの出口付近で数人の子供に囲まれた。凜は彼らに対して、ニコニコと笑顔で応対する。
(凜もこんなかわいらしい子どもが早く欲しいんよ。来年は……)
そろそろお腹も空いてきた時間帯。ご飯を食べた後は、園内にいる男子を物色しようかなと凜は考えるのだった。
「やっぱり、ちょっと奮発してでも予約しておいてよかったね。眺めも最高!」
ちょっとだけ高級なレストランにやってきたのは御菓子と結鹿だ。成人女性の御菓子ではあるが、結鹿よりも背が低いこともあり、見た目は同年代の姉妹に見えてしまう。
だからこそ、大人の雰囲気溢れる店内ではやや浮いているようにも見える2人。周囲の客にカップル連れが多いことを見た御菓子は、ちょっとした悪戯を思いつく。
「はい、あーん」
チキンの刺さったフォークを、結鹿の口元に差し出したのだ。
「ええっ!?」
「大丈夫。誰も気にしてないって」
戸惑う結鹿に御菓子が微笑むと、結鹿は観念しておずおずと口を開く。御菓子は少し腕を伸ばし、チキンを彼女の口の中へ。
嬉しいけれど、恥ずかしくもある彼女の表情がとても可愛らしくて。御菓子は思わず叫びそうになってしまうのである。
同じ頃、とある喫茶店に食事を取る両慈と、彼に誘われてやってきていた悠乃の姿があった。2人はとある依頼で顔を合わせた程度の関係だ。
午前中は軽く園内を回り、腰を落ち着けようとの喫茶店に入り、窓際の席へと腰掛けた。
「……で、ここのお勧めはこれと、あ、こっちは今月一杯なんですけど、凄い美味しくて」
場慣れしている悠乃は、混雑回避の為のアトラクションの回り方や季節限定の食べ物についてあれこれと説明する。
「……華神、よく勘違いされるが、アイツと俺は違うからな……」
両慈の反応などお構いなし。運ばれてきた軽食を取り分けた悠乃は自身の分を口にする。
やれやれと頬杖をついて話を聞く両慈はその途中、あることに気づく。
「そういえば、今日は以前見掛けた時と雰囲気が……そうか、髪か」
悠乃は普段色つきのエクステを付けているのだが、今日は同じ黒髪の長さを足している。
「ほんとは、伸ばしたいのですよ」
「あぁ、良い黒髪だ。……髪を伸ばしたら、きっと似合うのだろうな」
両慈は何気なく悠乃の髪を触る。
(て、髪、触られ、やば、これ、勘違いしそうに……!)
「機会があれば、いずれ見てみたいものだな」
「似合いそう、ですか? じゃー、頑張っちゃおっかな」
立ち上がった両慈が差し出す手を、はにかんだ悠乃がそっと取るのだった。
午前中はアトラクションを回っていたありす、ヤマトの2人もまた、喫茶店へとやってきていた。
(……派手ね。人間の娯楽ってこんな派手なのかしら)
ぼんやりと外を眺めていたありす。ヤマトはその間に、用意したものをそっと取り出す。
「ハッピーバースデー! 誕生日おめでと、ありす!」
「え……? たん、じょうび……?」
喫茶店で予め予約注文してあったアップルパイ。甘くて温かいデザートが好きそうだからというヤマトの気遣いだ。実際、ありすは育った環境もあり、冷たいものが苦手なのだ。
「いつも寒そうだからさ、マフラー用意してみた! どうかな?」
さらに、用意されたプレゼントに、ありすは言葉を失い、戸惑ってしまう。
「……その、ありがとう」
受け取った赤いマフラーを首に巻いた彼女はその中に顔を隠し。マフラーと同じ色に顔を染めていた。
ヤマトはそんなありすの姿にドキッとしてしまって。
「うん! 似合ってる。ありす可愛いな」
照れ隠しにアップルパイを口にした彼女は、その甘さで自然に頬を緩める。
「今日は本当にありがとう……ヤマト」
微笑むありすを見て、嬉しそうにするヤマトもまた、アップルパイを一口食べていた。
再びジェットコースターに視線を移せば、「Malt」に所属するメンバー4人が列に並ぶ。
ほのかは仲間と一緒に乗る絶叫マシンを前に、はしゃいでしまう。
「わ~い、ジェットコースター~♪」
「やっぱ、あのスピードがいいよな!」
身長も伸びたことで堂々とジェットコースターに乗れると、テンションの上がる翔の頭を、微笑ましく見つめていた柾がわしわしと撫でる。
さて、彼らの順番が回ってきて。
一旦頂上まで登った機体は急降下。上下左右、さらに回転する中、翔、ほのかが楽しく叫ぶ。
ほのかははしゃぎながら、ふと、この手の乗り物が苦手な兄のことを思い出していた。
行成は後ろで程よい緊張感を感じていたが、高い所に若干抵抗がある柾だけはなんとか平静さを保つよう努めていたようだ。
1周した彼らがアトラクションを出ようとすると。程よい放心感を感じていた行成が鈍い音を立て、ゲートに頭をぶつけてしまう。
「大丈夫ですか……!?」
頭を抑える行成に、ほのかはおろおろしてしまっていた。
4人はそのまま売店へと向かう。妹の椿共々世話になっているからと柾がその場の勘定を持つと主張する。
「流石シャチョーサンです、ありがとうございま~す。柾さん☆」
「オレ、すっげー腹減ったからマジでたくさん食うけど、いいか?」
ならばと遠慮なくチュロスをオーダーするほのか。そして、翔もポップコーンにコーラ、ハンバーガーにポテトも頼む。
思っていた以上に食べ物を注文する仲間に柾は冷や汗をかいてしまうが、引っ込みも付かないので、「あ、ああ」と顔を引きつらせて返事するのみだ。
「……冷たいお茶を頼む、できれば缶で……」
遠慮しなくていいと言う柾に、行成も出しかけていた財布を仕舞って相伴に預かり、その冷えた缶でぶつけた頭を冷やしていたようだ。
たくさん注文した食べ物を、4人は店先に出ているテーブルで食べることにする。
そういえば、妹も園内にいるはずだがと、柾はぼんやり考える。そのまま、彼は視線をわいわいする仲間達へと移し、ホットドッグを口にした。
爽やかな風を感じつつ、パクパクと買ったものを食べ終えた翔は思いっきり背伸びした。
「さあ、午後も目一杯遊ぶぞ!」
●思い思いの観覧車
椿は小さなくしゃみをしつつ、瑠璃と一緒に観覧車へと乗る。
「瑠璃さんは遊園地で特に好きな乗り物はある? 私は観覧車かしら」
「好きなアトラクションは、別にないかな。……というか、あんまり来た事ないからさ」
瑠璃はドラマを見ることが多いと、自身の私生活を語る。
「確かに予想がつかなかったわ」
くすりと微笑む椿。次に彼女が、普段、休日は外に出ることが多いと話す。誰かと一緒に出かけて、こうして話すのが好きだと。
「へぇ、結構アウトドア派なんだな。じゃあ、また遊びに誘うよ」
「嬉しいわ」
誘うという言葉に、椿は顔を綻ばせた。
そこで、瑠璃は改めて、椿が髪飾りをしていることに気づく。それは、椿の誕生日にあげたプレゼントだ。
「似合っているかしら?」
「うん……やっぱり似合ってる」
言った後で照れる瑠璃。椿も頬を赤らめ、互いに視線を逸らしてしまう。
そのまま、観覧車から降りた2人。瑠璃がコーヒーカップに乗ろうと誘うと、椿も同意して一緒に歩いていくのだった。
(やっぱりこれって……デート、になるんだよね?)
奏空は勢いよくたまきを誘い、このテーマパークへとやってきていた。男女カップルがこうして一緒に遊ぶ状況を、世間一般でデートと言うのは間違いない。それを自覚した彼は赤面してしまう。
「奏空さんが宜しかったなら 観覧車に御一緒して頂けませんか……?」
「観覧車? よーし、いこっか!」
ガッチガチに緊張する彼へ、たまきが誘いかけると、奏空が快く返事する。
初めてなので、たまきは本当に観覧車に乗ってはみたかった。ただ、実際乗ってみると……揺れる足元に彼女は少し怯えてしまう。
「たまきちゃん大丈夫? 怖い時は手、繋いでいよっか?」
そんな彼女へ、奏空がそっと手を差し出す。
(こういう時の奏空さんは少しだけ、私より大人っぽくて……ズルイ、です……)
自分の方が少しお姉さんのはずなのに。奏空のその気遣いが嬉しくもあり、申し訳なくもある。
「あ、ほら、頂上に来たよ! すっごい遠くまで見えるね」
外の景色へと夢中になっている彼へ、ちょっとだけ、悪戯を兼ねたお返し。
(少しの間 奏空さんの瞳を 見つめてみようかな……)
そっと近寄ったたまきは、奏空の顔をじっと見つめる。
(たまきちゃんが近い……)
それに気づいた奏空はすぐに、顔を真っ赤にしてしまう。
「ふふ……! 何でもないです……!」
たまきはそんな彼を見て、くすりと微笑んだ。
「そこを何とか頼めないだろうか」
テーマパークの係員に頭を下げていた凜音だったが。残念ながら、同伴していた椿花の身長が足らず、アトラクションに乗ることが出来ないでいた。
「椿花……乗れないの……?」
お化け屋敷の時には格好いいところが見せられなかった。来年は中学生になるのに。もう子供でないところを見せたかったのに。
結局、2人はコーヒーカップやゴーカート、ファンタジー要素のアトラクションなど、子供向け(凜音主観、なお、口には出さない)のものを回った後、観覧車へと乗ることにする。
「椿花……、全然乗れるのに……」
凄いなって言って貰える乗り物に乗りたかった。そう考え、しゅんとする椿花。此処から見えているジェットコースターも、それ以外のだって、全然大丈夫なのに……。
そう考えていると、凜音が隣へと移動してきて優しく頭を撫でる。
「もうちょっと椿花の背が伸びたら、何回でも付き合ってやるから機嫌なおせ」
「……うん、凜音ちゃん、約束なんだぞ」
折角だからと、遠くを眺めるよう凜音が促す。彼の言葉に、塞ぎこんでいた気持ちが少しだけ晴れていく。
(身長制限は嫌だったけど、凜音ちゃんのおかげで楽しかったんだぞ)
一日中、テーマパークを楽しんだ結鹿は御菓子と観覧車にやってきていた。
「今日は楽しかったね」
「はい、とっても楽しかったです」
他愛ない会話の間に、観覧車の高度は徐々に上がって行き、遊園地の景色が小さくなっていく。
何かお礼をと考えた結鹿が、御菓子の体をぎゅっと抱きしめる。
「い、いつものお返しです」
あまりに恥ずかしくて、ちょっと視線を逸らしていると。
「来ないなら、私から」
御菓子はそっと、結鹿の頬にちゅっと口付けしたのだった。
同じく、色々とアトラクションを回った小唄とクーも、最後に乗るアトラクションとして、観覧車を選んでいた。
「今日は一日付き合ってもらって、有難うございます!」
「こちらこそ。楽しかったので」
ぺこりと礼をする小唄へ、少し考えたクーが問う。
「御白さん。少しは、気晴らしになりましたか?」
「えへへ……。空元気、ばれちゃってますね」
『F.i.V.E.』の依頼報告書を読んで、クーは最近、小唄が頑張りすぎて張り詰めている事に気づいていたのだ。
だから、少し考えたクーは彼に手招きをして。
きょとんとしながら近づいてきた小唄の首筋にクーは手を回し、そっとハグをして頭をぽんぽんと撫でる。
「え、えと……、クー、先輩……?」
「普段頑張っている、ご褒美です」
これは自身に対するものでもあるかもと考えるが、クーは敢えて目を瞑る。
小唄はというと。ご褒美と言われ、そのまま甘えることにする。
「……ありがとうございます、先輩」
「無理はしないでくださいね、……小唄さん」
寄り添う2人。降りたら顔が見られなくなりそうだけれど、観覧車が地上に降りるまでは、せめてこのままで。
覚者達の一日はゆっくりと暮れていく。大切な想い出を彼らの胸へと刻んで。

■あとがき■
リプレイ、公開です。
MVPは今回2人。
ソフトクリームを台無しにしてしまったあなたと、
身長制限がある中でも楽しみを見出したあなたへ。
皆様、存分にテーマパークの1日を
ご堪能頂いたかと思います。
今回は本当にありがとうございました!
MVPは今回2人。
ソフトクリームを台無しにしてしまったあなたと、
身長制限がある中でも楽しみを見出したあなたへ。
皆様、存分にテーマパークの1日を
ご堪能頂いたかと思います。
今回は本当にありがとうございました!
