勾玉を求め善悪交差する 槍の妖魔と雷太鼓
勾玉を求め善悪交差する 槍の妖魔と雷太鼓


●階段を上る隔者
「へえ、逢魔ヶ時のやつ負けたんだ」
「ええ。血雨や多くの部下を失い、逃げ帰ったとか。予想以上に手ごわい相手だったようですぜ。FiVEは」
 話題の内容は、過日五麟市を攻めたという覚者事件のことだった。メディア等にはその首謀者は不明となっているが、二人はその首謀者の名を言い当てている。神社の階段をのぼりながら、一組の男女がそんな話をしていた。
 片方はまだ成人していない女性だ。背中に神具であろう雷太鼓を背負い、手には太鼓の撥を手にしている。階段を上る足取りも軽い。
 対して男性の方は黒いスーツに身を包んでおり、長い階段に疲弊気味だ。明らかに年下である女性の方に敬語を使い、息絶え絶えに説明を続けていた。
「八神さんが『紅蓮轟龍』をどう処分するかはわかりませんが、色々取引したみたいですよ。FiVEの情報を提出したとかで」
「かなり強そうな覚者がそろってるのか……で、具体的に五麟市のどこにあるんだい、FiVEは」
 女の問いに思案するように男は黙り、嫌な予感を感じたのか恐る恐る言葉を返す。
「八神さんは知ってると思いますが……まさか殴り込みに行くとか言わないですよね、『雷太鼓』の姐さん!?」
「? 行くに決まってるじゃないか。あたいの喧嘩好きを知らないわけじゃないだろう?」
 なに言ってるんだい、と言いたげな顔で男に聞き返す『雷太鼓』。
「駄目ですよ! いくら『雷太鼓』の姐さんが強いからって、今攻めれば殺されちまいます! それに――」
「わーってるよ。禍時の百鬼が五麟市を滅茶苦茶にしたから、七星剣の看板掲げて喧嘩しに行くムードじゃないってんだろ? 今は無理でもいずれは行ってみたいもんだね」
 手をひらひらさせて男の言葉に応える『雷太鼓』。ため息一つついて男も会話を打ち切った。
 七星剣。日本最大の隔者組織。二人はその団員だった。その二人が何故神社の階段を上っているかと言うと――
「ま、今日の所は妖で我慢しておくよ。情報は確かなんだろうね?」
「ばっちりです。妖になったのは戦国時代に隣国からこの地方の村を守った男の槍。槍には赤銅の勾玉が付いているとか」
「上等。いい手土産が出来そうだね。あんたは手を出すんじゃないよ」
 階段を昇れば、強い妖が待っている。心躍らせながら『雷太鼓』は階段を上っていくのであった。

●FiVE
「っていう状況なんだ」
 久方 相馬(nCL2000004)が説明したのはそんな状況だった。『雷太鼓』の恰好に若干顔を緩ませてはいたが、それぐらいはご愛敬だろう。
「場所はある山村の神社境内。相手は七星剣の武闘派『拳華』っていう所の隔者だ。で、そいつが物質系妖を狙っている。その槍には勾玉が付いているんだ」
「……七星剣の隔者が妖退治か」
 集まった覚者は眉をひそめ、状況を確認した。隔者が妖退治をすること自体は不思議ではない。妖は人の善悪など関係なく襲い掛かってくる。自分の利益の邪魔になるなら、七星剣とて妖は放置できないのだろう。
「ああ、これだけだと別に気にすることはないんだけど……そうもいかない事情が二つあるんだ。一つは槍と勾玉。これを七星剣に奪取されるのは好ましくない」
 勾玉。それは神秘の存在だ。神具に装着することにより、その機能を増すことができる。七星剣に神具や勾玉量産の施設があるかはわからないが、それがあるなら七星剣の隔者がその恩恵を受ける可能性がある。それはあまり好ましい事態ではない。
「二つ目。妖を七星剣の人間が倒すと、この神社と村は『七星剣に恩を受けた』と言う形になる。中さんが言ってたけど、そうなるとこの村は今後七星剣からいろいろな要求をされる可能性があるんだ」
 七星剣は日本を手中に収めるために様々な活動をしている。それは法的に見て好ましくない手法も含んでいる。そういった組織に恩を受ければ、それを切り口にどういった要求をされるか分かったものではない。
「……面倒だな。要するに妖はこちらが倒せってことか?」
「だな。向こうの目的も妖退治だ。妖がいなくなれば去ってくれるさ。
 今から向かえば隔者が妖と接触するより先に境内に到着できる。隔者に後ろを突かれる形になるから、それだけは忘れないでくれよ」
 妖と隔者。両方を相手にしろ、と言っているのだ。面倒だが、一番の解決策はそれなのだ。少なくとも、交渉が通じそうな相手ではない。
 頭を掻きながら、覚者は会議室を出た。



■シナリオ詳細
種別:通常(EX)
難易度:難
担当ST:どくどく
■成功条件
1.妖一体の打破
2.隔者に妖を倒させない
3.1と2、両方成立すれば成功です
 どくどくです。
 変な純戦シリーズ。組織ってメンドクサイ。

●敵情報
・七星剣
『雷太鼓』林・茉莉
 天の付喪。一五歳女性。神具は背中に背負った和太鼓(楽器相当)。
 喧嘩好き。とにかく強い相手と戦いたい隔者です。七星剣武闘派『拳華』と呼ばれる組織で年齢不相応ながら『姉御』と呼ばれています。
 基本的に妖を狙いますが、攻撃されればその限りではありません。一応話は通じますが、交渉の難易度は高めです。
 倒しても倒さなくても成功条件には影響しません。ですが放置すれば、成功率は減少するでしょう。
『機化硬』『雷獣』『正鍛拳』『霞纏』『戦巫女之祝詞』『命力分配』『電人』『絶対音感』あたりを活性化しています。

黒服の男
 隔者。情報収集や後処理担当。さほど強くもなく、『雷太鼓』の命令に従い戦闘には参加しません。

・妖(×1)
 物質系妖。ランク3。物理に強く、特殊に弱い系統。
 全長二メートル半の古ぼけた槍です。それを扱うように、うっすらと人型の霊のようなものがいます。
 倒した人間を強者と認めるのか、槍と勾玉はトドメをさした人間の所に飛んでいきます。
 
 攻撃方法
回転して払う 物近列  槍を横に払い、敵を一掃します。〔出血〕
大きく突く  物近貫3 槍を一突きし、その後ろにいる者にもダメージを与えます[100%、50%、25%]
武器巻き上げ 特近単  相手の武器に穂先を絡め、弾き飛ばします。〔虚弱〕
土を跳ねる  特遠列  地面の土をはね上げ、細かい石で傷つけます。〔鈍化〕
柄を長く持つ 自付   特攻&速度UP。『中ほど持つ』『柄を短く持つ』を解除。
中ほどを持つ 自付   物防&特防UP。『柄を長く持つ』『柄を短く持つ』を解除。
柄を短く持つ 自付   物攻&命中UP。『柄を長く持つ』『中ほどを持つ』を解除。
   

●神秘物
・槍
 この村に安置されていた神具です。銘は『烏山椒』。
 隣国から攻めてくる五百近くの軍勢。それを一人で追い返した槍兵が持っていたと言われています。
 妖を倒した人間を持ち主と認めるように、その手元に飛んでいきます。

・勾玉
 赤銅色の勾玉です。速度を上げるという事が予測されています。
 妖を倒した人間を持ち主と認めるように、その手元に飛んでいきます。

●場所情報
 とある山村の神社境内。時刻は昼。広さや足場などは戦闘に影響しません。
 戦闘開始時は『妖』が一体いるだけです。覚者の配置はご自由に。
 戦闘開始から二ターン後に、後衛一〇メートルの距離に『黒服』『雷太鼓』が現れます。
 事前付与は可能ですが、その分時間は流れます。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
150LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2016年05月06日

■メイン参加者 10人■

『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『戦場を舞う猫』
鳴海 蕾花(CL2001006)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『研究所職員』
紅崎・誡女(CL2000750)
『偽弱者(はすらー)』
橡・槐(CL2000732)
『烏山椒』
榊原 時雨(CL2000418)


 境内に立つ覚者は、妖の姿を認識する。八尺二寸の長柄の槍。それを持つように、人型の霊のようなものが存在している。
『烏山椒』……五百の兵を返り討ちにしたという伝承を持つ槍。伝承故に多少の眉唾はあろうが、嘘八百と言うわけでもないのだろう。歴戦を示すように所々が痛み、修繕された跡が見える。
 妖は人を喰らうもの。故に討たねばならない。
 十人の覚者は一斉に展開する。

「七星剣に勾玉や神具をとられるのはあたしとしても本心じゃないんでね」
 真っ先に動いたのは『戦場を舞う猫』鳴海 蕾花(CL2001006)だ。両手に苦無を構え、槍に向かって突き進む。自分には倒さなければならない相手がいるのだ。こんな所で止まってはいられない。その思いを込めて、地を蹴った。
 蕾花は源素の炎を燃やし、体中の細胞を活性化させる。その熱が全身に回り切ったのを確認すると同時に両手の苦無を振るう。時に交差し、時に平行に振りかぶり。二連の刃が舞うように槍に向かって迫る。
「七星剣か……」
 日本最大の覚者組織の名を口にする『星狩り』一色・満月(CL2000044)。言葉にあるのは復讐の感情。かの組織に親を殺され、その復讐の為に強くなる満月。血塗られた青春だという自覚はある。だが、やめるわけにはいかない。その七星剣がもうすぐ来る。
 頭を振って思考を切り替える。目の前に立つ槍の妖。抜刀してそちらに切っ先を向ける満月。炎の源素で体を活性化させ、その炎を刃に乗せる。熱を持った無名の刃は槍の穂先と幾度かぶつかり合い、六度目の攻防の末に炎刃が槍を持つ霊体に届く。
「さあ、いっくよー!」
 狐の尻尾を振りながら『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)が妖を見る。手にしたナックルは前衛向きの神具。だが、小唄は後衛に陣取っていた。槍の妖とは戦いたいが、それよりも戦いたい相手がもうすぐやってくる。
 小唄は戦闘で高揚する心をそのままにしながら、荒れ狂う風を制するように心を律する。闘争心と平静な心。二律背反にして同じ自分の心。制御した心が静かな風を生む。高揚による力の増幅と、平静さを保った回避の増幅を生む風を。
(槍が勝手に動くのではなく人影が槍を扱う……というのなら動きの予測もある程度出来るはず)
『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)は事前に見聞きした槍術の動きを思い出しながら、戦闘に挑む。無論それで相手の攻撃全てが避けられるとは思わない。だが、何かしらの参考にはなるだろう。
 体内の源素を活性化させる誡女。それは呼吸をするように、意識することなくできる動作。練り上げた天の源素を手のひらに集め、戦場に散布する。放たれた源素は霧となって、妖の視界を覆った。
「目的は槍の回収……なんだけどね」
 FiVEからの任務を口にしながら華神 悠乃(CL2000231)は足を開いて構えを取る。これが単純な妖戦と言うのなら問題はない。だが数刻すれば乱入者が現れるのだ。それを意識しながら呼気を吐く。
 闇夜の漆黒を放つ籠手を振りかぶる。籠手に宿るのは熱い炎。槍の間合の外から相手を観察し、悠乃は一瞬のスキを見つけて妖に方に疾駆する。敵もさるもの。その動きに反応して石突が迫るが――それよりも一瞬早く炎の拳が妖を穿つ。
「こら爺ちゃんが見たら泣いて喜びそうやな」
 槍を見て感嘆の声をあげる『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。古流剣術の嗜みとして槍の動きは勉強したことがある。その目から見ても、見事な槍捌きだと唸るものがあった。剣術家としての血が熱く滾ってくる。
 滾る血の熱さをそのまま全身に駆け巡らせて、身体能力を強化する。槍を持つ霊体の挙動を見逃さぬように見る凛。そして機を逃さず滑るような足運びで妖に切りかかる。大上段から斬りかかり、そのまま走り抜けるように胴を薙ぐ。
「FiVE所属! 『十天』が一、鹿ノ島遥! 流儀は空手! いざ参る!」
 妖の動きを見て楽しそうに鹿ノ島・遥(CL2000227)が拳を振り上げる。握った右手の隙間から精霊顕現の紋様の光が漏れる。戦いによる高揚を押さえることなく、むしろ心の踊りに従うように真っ直ぐに妖に向かって走っていく。
 布状の神具『白溶裔』を握りしめる。天の源素が伝わり、遥の意のままに布は動き出す。布の動きは遥を守るような円を描いた形。槍が遥を貫こうと迫れば、布がそれに触れてバランスを崩すように引っ張った。その隙を逃さず拳を叩き込む遥。
「誕生日プレゼントに勾玉は欲しい処ですね。槍はともかく」
 赤銅色の勾玉を見ながら『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)は神具を構える。見た目は子供だが、御年二十一歳。この度年を重ねた景気づけとして、新たな勾玉が欲しいところである。
 土の壁を展開しながら、戦場を俯瞰するように観察する槐。覚者チームを一つの生命体と見て、どこに何が足りないかを思考する。その足りない部分を埋めるように槐は動いていた。火力による妖退治ではなく、仲間を守ることによる妖退治。それが槐と言う覚者だ。
「さぁさぁ、うちが一番槍やよー!」
 他の覚者と異なり、自らを強化することなく真っ直ぐに槍に向かっていった『柔剛自在』榊原 時雨(CL2000418)。同じ長柄の武器である薙刀を振るい、相手に構えを取らせる前に戦いを挑む。
 薙刀の中ほどの部分を持ち、距離を測る。槍の間合。薙刀の間合。目に見えない間合の取り合い。わずか数秒にも満たない硬直の後、動いたのは妖の方だった。動いた瞬間に生まれた隙を突くように、時雨は薙刀を振るう。確かな手ごたえた伝わってきた。
「妖も人に手を出さないのなら、そっとしておきたいんだけどな」
 ローテンションに呟く香月 凜音(CL2000495)。今は何もしていなくとも、妖はいずれ人を襲う。だが妖がもし人を襲わないのなら、もしかしたら共存できるのかもしれない。そんなことをふと思う。戦いは苦手だと思いながら、足は戦場に向かっていた。
 前世との絆を強く意識する。断片的に凜音の脳裏に浮かぶのは、戦人だったと思われる前世の記憶。それが意味することを考えながら、癒しの術を発動させる。戦人だった前世。戦いが苦手な今。相反しながらも、今は一つの目的の為に戦場で動く。
 迫る覚者達に槍の妖も応対する。柄を短く持ち、迫る覚者を振り払うように回転させていた。
 そんな戦場に響くのは、石段を上がってくる軽快な音。雷太鼓を背負った少女と、黒服の男。
「あれはまさか……FiVEの覚者!?」
「何だよ先客か? そんじゃ、混ぜてもらうとするか」
『雷太鼓』林・茉莉。夢見の情報で聞いた七星剣の武闘派。
 槍と勾玉を求めて、戦いは混迷化していく。


「やあやあ雷太鼓さん! 蝦蟇の油売り以来ですね!」
「ああ、いつかの少年か。幾つか見知った顔があるけど……そうか、アンタら全員FiVEの人間だったのかい」
『雷太鼓』が境内に上がって来ると同時、小唄が軽く手をあげてそちらの方に近づいていく。口調は気安いが、その距離は友人のそれではない。丁度殴り合える距離だ。
「そういえば前は名乗ってませんでしたっけ。今回は鹿ノ島先輩じゃなくて僕達と喧嘩して貰いますよ!」
「七星剣幹部級としては、これまでで一番楽しくやり合えそうな人ね」
 笑みを浮かべながら悠乃が『雷太鼓』に語り掛ける。両手の籠手をかつんとぶつけ、そのまま拳を真っ直ぐに突き出す。ここから先は通さないという意思表示だ。
「けど、慕われる人は厄介に巻き込まれやすいのも事実。おねーさんとして、いっちょ支えてみせますか」
「あたいは慕われてるのかね? ま、いいや。そういう事なら遠慮はしないよ」
「槍を倒したいってならあたしらを倒してからにしな」
 蕾花が『雷太鼓』の方に向かって近づいていく。ここは通さないという気迫と敵意を瞳に乗せて、苦無を構えて立ちふさがった。
「いいね、そのセリフ。あたい好みだよ」
「『妖が気になって本気を出せなかった』なんて言い訳するんじゃないよ!」
 言葉と共に放たれる蕾花の斬撃。それを受け止める音が開戦の合図となった。互いの神具ごしに睨みあう蕾花と『雷太鼓』。
「ちょっと、姐さん!?」
 黒服が静止に走るが、『雷太鼓』は聞く耳持たずと覚者達と交戦に入る。和太鼓を叩いて雷を生み、手にした撥で殴打する。
「タイコ、ちょっと待ってろ! こいつ片付けたら次オレと勝負だかんな! 逃げんなよ!」
 背後で始まった『雷太鼓』と覚者の戦いを感じながら、遥が叫ぶ。前にも一度戦ったことのある相手だ。彼女とはまた戦えるのを楽しみにしていた。今回は依頼達成を優先して譲ったが、諦めるつもりはない。
「タイコってあたいのことかい? そりゃこっちのセリフだよ。そっちも胴体が泣き別れにならないように注意しな!」
「隔者に心配されるというのは、色々と不愉快な気分になりますね」
 槐は『雷太鼓』のセリフを聞いて眉を寄せる。仲間の気力を回復させながら、念のためにと黒服の動向も観察する。戦火に巻き込まれないようにある程度の距離を取り、戦局を見守る黒服。どうやら本当に戦力外の案内人のようだ。
(まあそれはそれとして、あのサラシに包まれたのは殺意が湧きますね。揺れてるし)
 別の怒りが込み上げてくる槐であった。
「あたしも負けてへんで―!」
 何かに対抗意識を燃やした凛。真っ直ぐに槍の奇跡を見ながら、下段に刀を構える。相手はただ槍を振るうだけのパワーファイターではない。槍と言う武器を十全に扱う武術家の妖だ。だからこそ剣術家の血が滾る。刀に纏った炎がさらに燃え上がる。
「焔陰流二十一代目(予定)、焔陰凛。推して参る! ――逆波!」
 地を這い、そして跳ね上げるような刀の奇跡。ぶつかり合う金属の音が、凜の耳に響く。
「十天が一、一色満月、参る! 加減はせぬぞ! 厄介事がダブルブッキングでな!」
 同じく炎を刀に纏わせた満月が走る。槍の威力は身をもって感じている。気を抜けば深手を負い、足を止めれば死が待っている。恐怖に震える足を強い意志で留め、我武者羅に刃を振るう。決めたのだ。己の道を。
(可能なら今日でこの私事の心情に決着をつける。七星剣、FiVE、そして俺の!)
 戦闘のたびに摩耗するのは体か心か。満月はただ刀を振るう。負けぬために。進むために。
(七星剣は対応する方を信じて妖に集中しましょうか)
 誡女は妖の動きを目で追い、自分が知っている槍の動きと照らし合わせて対応していた。槍のもちかえに対応し、その立ち位置を変えて安全な場所を確保する。そのまま無知を振るい、妖の動きを拘束する
(封じれるのは数秒が限界。ですがその間に仲間が攻撃をしてくれる……!)
 相手の動きを制限し、攻めを弱らせる。それが誡女の戦い。
「火力も速度も防御力も、どれも秀でとるとは言えんけど――」
 薙刀を振るう時雨。こまめにに足を動かし立ち位置を変えながら、相手との距離を計算しつつ戦いに挑む。長柄の得物を扱う者の心理はよく理解している。その経験が相手の次の動きを予測させてくれる。
「長柄武器を使ってきた期間だけは、ここに居る誰にも負けへんいう自信があるからな!」
 物心ついたころから振るってきた長柄の武器。その経験値は確かにここに生きていた。
「『前門の虎後門の狼』か。両方を癒さないといけないっていうのは少し厄介かな」
 挟み撃ちの状況に凜音は頭を掻く。もっとも上手く連携を取るわけではないのが救いだろう。凜音は前後の戦場に目を配り、その疲弊具合を目視する。前門と後門の真ん中に位置して、その両方に対応する仲間を癒すように術を放つ。
「休む暇もないっていうのはこのことだな」
 絶え間なく癒し続ける凜音。それだけ戦場は激しくなっていた。術を止めれば、被害が一気に広がる。
「かぁ! 効いたぜ」
「なかなかやるなぁ。せやけどこうでないとな!」
「一人で五百の兵を相手にした、いうのは伊達やないね」
 妖の真正面で戦っている遥、凛、時雨が命数を削るほどの傷を負う。
「見た目からダメージ具合が分かりにくいって面倒だな」
「攻撃は重ねている。確実に効いているはずだ」
 変わらぬ槍の動きに疲弊する覚者達。だが確かにダメージは重ねている。
「辛いんなら、加勢してやってもいいんだぜ」
「はん。『喧嘩』の途中で逃げるつもりか?」
 妖の方に意識を向ける『雷太鼓』を挑発して押さえる。そう言われれば仕方ないなと、覚者の方を向く『雷太鼓』。
 妖、隔者、そして覚者。三者の戦いは絡み合いながら続く。


 戦局は隔者戦の方でも動きが見えた。
「流石に強烈……! でも、その位じゃ僕達は簡単に負けないよ!」
「お前なんかに負けてられるか」
『雷太鼓』を相手していた小唄と蕾花が深手を負う。命数を燃やして何とか意識を保つ。
「おー……やるねぇ。噂通りの強さじゃないか」
 その闘志に敬意を示す『雷太鼓』。ダメージと疲労で息が上がっているのか、肩が上下している。
「何が『喧嘩』だ、大層な名前つけてやがって。暴力坂や紫雨と変わらないだろ、賊風情が。武闘派気取って一般人も巻き込む腐れ外道がよぉ」
 起き上がり様に苦無を振るう蕾花。回転するように振るわれる二つの刃。横回転に目を慣れさせて、次は下から振り上げるように縦回転で切りかかる。繰り返される回転に血飛沫が舞う。
「そいつを言われると言葉が出ないね。一応言い訳すると『拳華』は一般人巻き込むような真似はしてないつもりだぜ」
 七星剣に対する蕾花の非難を否定せず受け止める『雷太鼓』。七星剣がそういう組織であることは理解している。その件で非難をするのなら、それは否定しない。
「太鼓さんはどうして闘うのが好きなの?」
 戦いの最中、小唄は『雷太鼓』に問いかける。言ってから小唄は自分の心の中にある獣の本能に気づく。もっと戦いたいという闘争本能。それが疼いていることに。
「そりゃあれだよな。喧嘩してるとスカッとするからだよ」
「スカッと?」
「拳握ってしまえば男も女も王様も平民も関係ない。強さだけが価値観の世界だ。戦いたく無きゃ、降りればいい。あたいは喧嘩したくない相手と喧嘩する気はないんでね。そういうアンタはどうなんだい?」
「……僕は、弱いままじゃ皆を守れないから強くなりたい。
 だから強い人と戦って強くなりたい!」
 小唄は傷つくのは好きじゃないし、傷つけるのはもっと好きじゃない。
「だから、僕は絶対に負けませんよ!」
「おう。加減しないぜ!」
「分かりやすい喧嘩好きね。嫌いじゃないけど、こっちも遊びじゃないのよ」
 槍と『雷太鼓』の状況を覚者の力で調べながら、隔者に拳を振るう悠乃。
『そろそろ前衛がピンチだから後退準備』
(ん……? これってあいつらの『送心』の声? なんであたいにも聞こえるんだ?)
『雷太鼓』に聞こえる『送心』の声。それは悠乃がわざと伝えた誤情報。それに乗ってくれれば、相手は無駄に動くことになる。が、
「……乗ってこないわね」
「そりゃまあ、仲間以外の情報は信用できねぇからな」
 残念そうにため息をつく悠乃。『雷太鼓』は戦闘狂だが、愚者ではない。
「姑息だって軽蔑したかしら?」
「まさか。策は勝つための努力だろう? 勝つために身体鍛えるのと変わりやしないよ。それも含めての『喧嘩』さ。あたいは真正面から殴り合う方が好きだけどね」
 そして対妖サイドでも動きが見える。
「交代だ!」
「承った」
 ダメージを受けた遥と、中衛の満月が後退する。凜音の回復を受けながら、覚者達は振るわれる槍に挑む。
「烏山椒よ、俺は人殺しでな。復讐のために手を血で染めている」
 槍の妖と相対しながら、満月は口を開く。妖は何も答えない。ただ苛烈に槍を返すのみ。答えるのは妖ではない。『雷太鼓』でもない。仲間の覚者でもない。
「だが実際、俺は失うのが怖いだけの弱い人間だ」
 槍の恐怖を前に、満月は刀を強く握りしめる。その感情の正体を素直に吐露した。
「本当は争いなんぞ嫌いだ。しかし守るべき姉がいる。守るべき仲間がいる。
 だからこそ、戦うことを決めた」
 言葉に答えるのは満月自身。おのれの心の葛藤に、自分自身で答えを出す。
「お前は通過点だ、烏山椒。俺は強くならなければならぬ」
 答えと共に払われた刃が、槍を持つ霊体を裂いた。
「目まぐるしい構えの変化やなぁ」
 時雨は柄の持つ場所を変えることで動きを変化させる妖の動きを注視していた。気が付けば変化していく間合と攻撃手段。同じ長柄の武器を持つ者として参考にはなる。だからこそわかる。あれは一朝一夕で身につくとは思えない。戦禍に身を置き、泥臭い戦争の中で生き残るために生まれた生存術なのだ。
(基本に忠実に……。うちはまだ薙刀を握って十年程度なんや。あれにかなわへんのはしょうがない)
 実力差を素直に認め、そして自分にできることをする。染みついた構えを崩すことなく、しっかりと足を踏みしめて、薙刀を突き出す。自分自身を回転軸として、踏み込む力を利用して妖を打つ。
「っ……! 俺、か弱いんだからそんなに喰らったら倒れちゃうじゃん?」
 時折妖が飛ばしてくる土砂や突きにより、命数を失うほどの怪我を負う凜音。だが倒れてやる気はない。自分が倒れれば回復を行う者はいなくなる。そうなれば覚者側の瓦解は速まるだろう。
 凜音に強い正義感はない。凜音に崇高な大義はない。それでも凜音は戦場に赴く。それは前世に引っ張られているからか、それとも凜音自身の意志か。彼自身答えは出ない。ただいえることは、仲間を癒すという事をやめるつもりはないという事だ。立っている限り。声が出る限り、意識が残る限り。凜音は癒しの術を行使し続ける。
「それ以上はさせませんよ」
 そんな状況を見て槐が凜音を守るために動く。ナイフと盾を防御の構えにして、妖の視線を塞ぐように凜音の前に立つ。護っている間は槐自身は何もできないが、回復役が回復するまでの間だ。十分に回復したらまた援護に回るつもりでいた。
 貫通して迫る槍の一撃をナイフで弾き、跳ね上げられた土砂を盾で塞ぐ。ランク3の妖ともなれば多少は知恵が回るのか、それとも元々集団戦を生き延びた槍故か。こちらの戦術の肝をつぶすように妖は攻めてくる。
「だからこそ、守るのも容易いのですよ。どこを狙うかが分かっていれば、そこを守ればいいのですから」
 槐が効率よく守るからこそ、前に立つ覚者は攻めに集中できる。
(ある程度予想していた通りの動きです。穂先だけではない。穂先、柄、石突……槍の全てを使った槍術)
 誡女は妖の動きと調べてきた槍術の基礎を見比べる。多少の差はあるが、それは安土桃山から江戸時代初期にかけて生まれた槍術と似ていた。読み上げアプリにある程度の文章を前もって用意し、仲間に忠告を飛ばす。
『後手を突き出すことによる突きにも注意ですね。距離が開いていても十分な警戒を』
 だが言語による忠告が必ずしも有効とも限らない。気が付けば状況は変化し、その度に忠告を変えていては間に合わないのだ。何よりもその言葉は、誡女の経験に基づくものではない。とっさの状況の場合、、誡女自身が忠告できないことも生まれる。
(付け焼刃の知識では対応しきれませんか。逆に混乱を生みかねません……!)
 やむなく誡女は読み上げアプリを停止する。仲間とうまく連携出来ればあるいは上手くいったかもしれないが、誡女単体では限界だ。
「問題は巻き上げやな」
 凛は止まることのない槍の真正面に立ち、『朱焔』を妖に向ける。通り燃え盛る焔のような刃紋を持つこの刀は、凛の流派である焔陰流が持つ刀の影打。真打は継承者である祖父が有している。今は『まだ』影打だが、いずれ――
 巻き上げるように迫る槍の穂先。凛の持つ刀の鍔を狙い、梃子の原理で弾きあげようと迫る。避ければ攻めの機会を失うだろう。ならば受け流して進むのみ。力の流れをイメージする。槍の回転、突き進む速度。そして自分自身。
「ここや!」
 槍の回転に合わせて身体を回転させる凛。槍を弾くように受け流し、踏み込んで刃を振るう。炎の朱が袈裟懸けに走り抜ける。
「やっぱチマチマ雷撃つの性に合わねえ!」
 物質系妖の硬い体に対して雷を放っていた遥だが、飽きたとばかりに拳を握りなおした。
「物理が効き難い? そんなもん、気合と魂でブチ抜く! 燃えろよ魂! 拳に篭れ! 鍛え続けた拳に、貫けないもんなんかねえ!」
 裂帛の気合と共に突撃する遥。叩きつけられるような槍の振り下ろしを布の神具で受け流し、拳の迫る間合に入る。足をしっかり踏みしめ、腰を落とす。全身の筋肉を引き絞り、力の流れを拳に向かわせる。弓が弦を引くように、ぎりぎりと力を込める。
「正――!」
 膝を曲げ、腰の重心を落とす。力が腰に収縮していく。
「鍛――!」
 バン! 足を踏み込む音。同時に反対の足を回転させ、回転の威力を腰に伝える。
「拳――!」
 真っ直ぐに拳を突き出す。足、膝、腰、背骨、肩、肘、そして拳。力が伝達していく。
「――魂!」
 最速で力を伝達させ、その威力を妖に叩きつける。ただ真っ直ぐに。理屈や理論など必要ない。
 大きな物が落ちたような大きな音が轟き、よろめく妖。魂を乗せた一撃は、その防御力を無視するように強く響いた。
「おいおい、マジかよ。大した奴らだなぁ」
 これには『雷太鼓』も驚きを声を上げていた。驚きの中に、どこか楽しそうな声を乗せて。
 よろめくも、妖はまだ止まらない。その槍が風を切って覚者に迫る
(まだです……っ!)
「お前は通過点だ、烏山椒。打ち勝ってみせる!」
「これはなかなかきついのですよ」
 誡女と満月と槐が妖の攻撃を受けて膝をつく。戦意を強く抱いて何とか立ち尽くし、命数を燃やして戦場に留まった。
 槍の動きは止まらない。だがそれを持つ霊体は、目に見えて欠け始めていた。


 戦いは終局に向かう。
 速度で相手を翻弄する蕾花の刃と、獣の力で強い一撃で迫る小唄。そしてその後ろから回復を施す悠乃。迫る稲妻を右に左に避けながら、三人の覚者は三者三様に攻め立てる。相手は七星剣の強者と知りながら、しかしその瞳には三者三様の想いがあった。
 小唄は強者に対する尊敬が。誰かを守りたいという強い思い。その為に強くなる。強き者との戦いを通じて。
 蕾花は敵対者への憎悪が。自分のやるべきことの為に邪魔するものは全て打ち砕く。七星剣如きに負けはせぬと。
 悠乃は先達者としての慈悲が。『戦争』でもなく『出世』でもなく。自分と同じ闘争を求める少女に対して。
 相対する『雷太鼓』が神具に乗せるのは純粋な闘争心。太鼓が鳴り、雷鳴が戦場に響く。
 そして槍の妖に挑むは古流剣術を学んだ凛。長柄術を学んだ時雨。復讐から戦う術を学んだ満月。空手の拳を振るう遥。その後ろから妖の動きを阻害しようと誡女が霧を放ち、皆を癒す凜音を守るように槐が立ちふさがる。
 槍を地面に突き刺し、高跳び棒の要領で宙を舞う妖。長柄の武器の利点である距離を放棄する虚を突く行為。覚者が硬直する隙を逃さず至近距離で放たれた蹴りが、凛を飛ばす――はずだった。
 いち早く対応できたのは長柄の扱いに長けた時雨と、前もって槍術の事を調べていた誡女がいたからだ。妖の高跳びの所作に反応して時雨が皆に忠告し、誡女が鞭を振るって妖の動きを阻害する。刹那の妨害だが、それだけで十分だった。
 その一瞬を逃すことなく動いたのは狙われていた凛だ。時雨の忠告に反応するように体が動く。強く足を踏み、至近距離から刀の柄で顎を上方向に打つように打撃を加えた。
 衝撃でよろめく妖に向かい、遥が走る。その遥に迫る凶刃。それを満月が庇った。躊躇はない。大事なのは復讐ではなく仲間を護ると決めたのだから。
 崩れ落ちる満月に礼を言う時間はない。遥は槍が戻るよりも速く妖の懐に潜り込む。走る速度を殺さない強い蹴り。衝撃で揺らぐ妖だが、それでもまだ倒れない。
 そこに響く落雷の音。見れば息絶え絶えの『雷太鼓』が小唄と蕾花を伏していた。その視線の先には、指で挑発する悠乃の姿。構えを取る悠乃に『上等』と言いたげに視線を向ける『雷太鼓』。
 倒れ逝く仲間に歯軋みする凜音。もっと力があれば救えたかもしれない。せめてもの救いは生命の危機がない事か。だが戦局が瓦解すればその限りではない。焦燥を胸に癒し続ける。ここが自分の戦場。それを放棄はしない。
 凜音の体力が十分に戻ったのを確認し、槐が動く。仲間の気力を回復し、継戦能力を高めていく。槐自身疲弊しているが、優先すべきは己の身ではない。
 悠乃と『雷太鼓』互いの足を止めての殴り合いは、先に『雷太鼓』が意識を飛ばす。だが彼女も覚者。命数を削って意識を戻し、悠乃に殴り掛かる。悠乃もまた、命数を燃やしてこれに応じた。
 無念を口に体術を使い続けた凛と遥が息切れを起こし、槍の一撃で意識を失う。だが二人が与えた斬撃と打撃は、妖に深く刻まれていた。事、遥の一撃は物理的な防護を貫き勝利に大きく貢献したと言えよう。
 妖の前に一人立つ時雨。その時雨に向かい妖は槍を振るう。疲弊による足のもつれでそれを避けそこなった時雨に迫る穂先は、しかしそれを庇った槐により防がれる。その一撃で意識を失う槐だが、その目は確かに勝利の道筋を見ていた。
 時雨の薙刀が振るわれる。倒れ行く槐を巻き込まないように体を回転させ、旋風のように下段から上段へ。そして妖を逆袈裟に切り裂く。その衝撃に耐え、妖は槍を構え――
「これで終いや!」
 旋風は二度巻き起こる。
 全身の筋肉を無理やり動かし、時雨の薙刀が再度奮われた。
 絶叫の悲鳴はない。薙刀に切り裂かれた霊体は、音もなく消失した。


「あ」
 と『雷太鼓』が言ったときには、槍は時雨の元に飛び、首を垂れるように柄を時雨に傾けて地面に突き刺さっていた。闘う理由を失ったとばかりに『雷太鼓』は戦意を納める。
「よ、よっしゃー……!」
 突き刺さった槍を引き抜き、勝利の声をあげる時雨。体力の限界か。そこで足が崩れて尻餅をついた。
 それを機に凜音が倒れた仲間たちを癒す為に動き出す。凜音自身もかなりぼろぼろだが、それを気にすることはない。
「おめっとさん!」
 倒れたままの状態で凛が槍を得た時雨に祝福の声をあげる。凜音の癒しが効いたのか、何とか半身だけ起き上がる。
 誡女はその間にFiVEに連絡し、救護班を要請する。赤銅色の勾玉を拾い上げ、満足げに頷く。これでまた神秘探求に近づいた。
「誕生日プレゼントにはなったみたいですね」
 槐は体を起こすことなく勾玉を見る。自分の誕生日祝いにしては傷つきすぎだが、何とかアイテムGETできたようだ。あと誰か起こしてくれないかなぁ。
「やれやれ、帰るよ」
「ええっ!? 今アイツらを襲えば勾玉と槍は奪えるんじゃ……はぁ……」
『雷太鼓』は喜び合う覚者を見ながらそう告げる。黒服の男は不平を口にするが、結局逆らうことなくため息をついた。
「僕の名前は御白小唄! 覚えておいてくださいね、茉莉さん!」
「覚えておくよ、小唄。そのキツい一撃と一緒にな」
 小唄の言葉に拳を突き出す『雷太鼓』。小唄に打たれた場所を押さえながら笑みを浮かべた。
「茉莉。七星剣は俺は嫌いだ。だが、お前個人は友人と思ってもいいか?」
「そいつはあたいが決めることじゃないね。だが友情ってのは、相手の組織とかそんなもので変わるものなのかい?」
 満月の言葉にそんな返しをする『雷太鼓』。敵だろうが好きな奴は好きで、味方だろうが嫌いな奴は嫌い。好きな相手でも嫌いな相手でも戦いになれば殴り合う。彼女のそんなさばさばした性格を示していた。
(敵と慣れあうんじゃない。全く、FiVEは仲良しグループじゃないんだ)
 そんな仲間の様子を見ながら、蕾花は憤りを感じていた。口には出さないが、拳をを強く握りしめていた。
「待てタイコ! やんぞ! 怪我してんのはお互い様、条件は同じだな!」
「そんな状態で吠えるなよ。やるってんなら場を改めようや」
 足に力が入らない状態で挑発する遥に、縦に割れた将棋の駒を投げつける。もう片方を『雷太鼓』が持っていた。割符。彼女なりの再戦の約束だろうか。
「そうね。次は仕事と絡まない状況で『分かり合い』たいわね」
「面倒だね、お互い。ま、上手くいかぬのも世の中さ」
 七星剣の中では楽しくやりあえそう。戦う前に抱いた感想を思い出す悠乃。報告書だけではなく実際に拳を交わし、その思いはさらに深くなった。
「待ちや! 肉弾戦は無理でもほかの勝負はできるやろ! 乳の大きさとか!」
「ばっ、ば、ばば馬鹿じゃねーのアンタ!? そんなの恥ずかしいだろうが!」
 胸を張る凛の言葉に、腕を抱くように法被で胸を隠して勝負を拒否する『雷太鼓』。顔を赤くしてぶつぶつと何かを言っているあたり、本気で恥ずかしがっているようだ。
 あっけにとられる覚者を尻目に、七星剣の隔者二人は境内を降りて行った。

 かくして戦いは終わりを告げる。
 赤銅色の勾玉はFiVEに回され、神具庫での量産体制に入る。
 そして『烏山椒』は時雨の手に収まることになった。荒れ地に真っ先に伸び出す先駆植物。その名を持つ槍とその持ち主は、今も戦場と言う荒れ地に進むのだろうか。それはわからない。
 確実に言えることは、槍の妖はもう現れないという事実。
 村を守った槍兵の名誉は守られ、村は七星剣の影響を受けることなく平和に今日を過ごしていた。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『烏山椒』
取得者:榊原 時雨(CL2000418)
特殊成果
『割れた『飛車』』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:鹿ノ島・遥(CL2000227)




 
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